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81
1 シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造 2004 年 2 月

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Page 1: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

1

シリカガラスのバルク表面及び融着界面の構造

2004 年 2 月

2

目次

第一章 序論

11 研究の背景 111 シリカガラスの性質と用途 112 シリカガラスの構造

1121 欠陥構造

113 シリカガラスの体積の温度依存性 114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 115 光散乱の温度依存性 116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

12 シリカガラスの計算機シミュレーション 13 本研究の目的

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

22 数値積分

221 Verlet 法

222 速度 Verlet 法

23 周期境界条件

24 静電相互作用

25 電荷平衡法

26 温度及び圧力の制御

261 スケーリング法

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

311 Kawamura ポテンシャル

312 Demiralp ポテンシャル

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合 322 仮想温度の依存性を求める場合

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

341 表面融着界面の作成

342 サンプル作成

343 表面融着界面の解析方法

3

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

41 圧縮率及び体積の温度依存性

42 構造解析

421 動径分布関数の温度依存性

422 結合角の温度依存性

423 配位数の温度依存性

424 平均二乗変位および拡散係数 425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

第五章 密度の仮想温度依存性

51 密度の温度依存性および仮想温度依存性

52 構造解析

521 動径分布関数の仮想温度依存性

522 配位数の仮想温度依存性

523 結合角の仮想温度依存性

524 密度の仮想温度依存性の原因

第六章 表面

61 表面付近の密度分布

62 表面付近の電荷分布

63 構造解析

631 動径分布関数

632 配位数分布

633 結合角分布

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

第七章 融着界面

71 融着界面付近の密度分布

72 融着界面付近の電荷分布

73 構造解析

731 動径分布関数

732 配位数分布

733 結合角分布

74 融着界面のまとめ

4

第八章 まとめ

81 体積及び圧縮率の温度依存性 82 密度の仮想温度依存性 83 表面について 84 融着界面について 85 今後の課題

謝辞

参考文献

付録 1 分子動力学シミュレーションプログラム

Kawamura ポテンシャルを用いたプログラム

Demiralp ポテンシャルを用いたプログラム

付録 2 解析プログラム

バルク解析プログラム

Sublayer 解析プログラム

5

第一章 序論

11 研究の背景

シリカガラスは組成式が SiO2である非晶質物質であるシリカ結晶の種類は

実験室で作られたものも含めると 20種類以上計算機シミュレーションでその存在が予想されているものを含めると 40種類にもなるこの多様性はシリカが非晶質になりやすいこととの一つの要因である工業分野でシリカガラスを応

用する上でその性質は原料製造方法製造条件に強く依存することが知ら

れているこのような性質もシリカの多様性と関係しているものと考えられる シリカガラス製品の製造工程でブロックでの熱処理やシリカガラス管など

の製品が高温で使用されるなど長時間高温にさらされることが多いこれら

の高温での熱処理により表面付近で構造が内部と異なってくるまた天然の

石英粉を高温で溶融することにより製造した溶融石英ガラスでは粒子が融

着した界面の欠陥構造が光学的背質に影響するこれらの性質を研究するため

にシリカガラス表面の構造および融着界面の構造を調べた 本研究の目的はシリカガラスのバルク構造の熱履歴依存性および表面融

着界面の構造を計算機シミュレーションにより研究することである表面構造

の研究のためバルクのシリカガラスを一度切断して熱処理した表面付近の構

造を調べその後表面面を再度繋げ欠陥構造がどのように変化しているかを調

べた バルクの性質としてシリカガラスはつぎに示すような特異な性質を示す

シリカガラスは温度が上昇するにつれて体積が膨張しある温度 Tgを過ぎると

体積は収縮しはじめるさらに温度が上昇すると温度 Tmin で体積が再び膨張し

始めるこのようなシリカガラス特有の体積の温度依存性は実験的に知られて

いるが本研究でその原因を明らかにすることができたまたシリカガラスの

等温圧縮率を計算しTgを境として不連続に変化することを示した またシリカガラスは温度履歴によって構造が大きく変化することが知られて

いる例えば 400 Kに保っていたシリカガラスを常温 (300 K) に急冷したときの構造と 7000 Kに保っていたシリカガラスを 300 Kに急冷したときの構造では大きく違ってくるこれは「仮想温度」と言う概念を用いて説明することがで

きるシリカガラス構造の仮想温度依存性についても調べた さらにシリカガラスの表面融着界面の構造についても構造の解析を行った

6

111 シリカガラスの性質と用途

シリカは地殻の約 60 を占めるケイ素の酸化物(SiO2=二酸化ケイ素)で

ある人体にとっても 05 を占めている必要不可欠な物質であるシリカガラスは天然の石英の粉末を高温で溶融することにより製造することから溶融石

英ガラスとも呼ばれるシリカガラスは非晶質であるため結晶のような周期

的構造は存在しない シリカガラスは他の材料に見られない次のような優れた性質を持っている

(1) 金属などの不純物量が極めて少ない (2) 遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通す (3) 熱に強い (4) 薬品に対する耐久性に優れている 1) 2) これらの性質を利用して工業材料としてさまざまな製品に利用されている

製品の例としては半導体製造装置用の炉心管やポート類フォトマスクエキ

シマレーザーステッパー用光学材料多結晶 TFT用基板液晶用フォトマスク通信用光ファイバー母材などがあげられるこれらの用途の大部分は情報通信

関係の部品またはその製造に関するものである 1) 2)このようにシリカガラスは

情報通信技術 (IT) を陰で支える縁の下の力持ちといえる

7

112 シリカガラスの構造

一般にシリカガラスは Si原子を中心としO原子を頂点とする SiO4正四面体を

基本構造単位としている(図 11)この基本構造が頂点の O 原子を共有して 3次元的に結合している(図 12)これら Si-O-Si結合角はSiO4正四面体構造内

の O-Si-O結合角に比べて自由度が大きいそのため多くの結晶形態が存在可能となる実際20種類を超える結晶形態が存在する 3)シリカガラス中では

このような SiO4正四面体が無秩序に結合したランダムネットワークが形成され

ているものと考えられる(図 13)ただし完全にランダムな構造ではなくある程度の秩序があるとも考えられるランダムネットワークモデルの他に

図 14 のように X 線回折でも観測されない程度の微結晶が連なったとするモデルも提案されている 1)いずれにしても結晶とは異なり規則的な構造の描像が

実験的研究のみでは浮かび上がってこない

図11 SiO4正四面体構造 図 12 基本構造の結合状態

図 13 ランダムネットワーク 4) 図 14 微結晶モデル 4)

8

1121 欠陥構造

(a)点欠陥 シリカガラスは遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通すという性質

がある 2) しかしながら先にも述べたように光透過可能な範囲の両端付近では欠陥構造や不純物が存在すると光吸収が生じることがある不純物として

Alや OHなどがある今回の研究は純粋の SiO2を計算機シミュレーションによ

り扱うものであるしたがって不純物の効果は考慮していない ここでは

光吸収の原因となる欠陥構造(点欠陥)についてまとめておく 5 6) 欠陥構造は常磁性欠陥と反磁性欠陥にとよばれるものがある常磁性は不

対電子を含むものであるこれの存在は電子スピン共鳴(ESR [Electron Spin Resonance]または EPR [Electron Pramagnetic Resonance]という)によって検出される 5)不対電子スピンの共鳴吸収が周囲の原子核や軌道電子の影響をうけるため

モデルをつくり量子力学計算をおこなうことにより実験結果と合わせるこ

とにより構造を決めることができる もう一つは反磁性欠陥とよばれものであるこれは不対電子をもってない

いためESRによる観測にかからない (b)常磁性欠陥 常磁性欠陥で最も良く知られているものはEacuteセンターと呼ばれるものである 5 6)これはequivSiで表すことができるここでequivは3個の酸素分子と共有結合していることを示すldquordquoは不対電子を表すEacuteセンターは SiO4正四面

体から一つの酸素が抜けた状態である残り 3 つの酸素は正四面体の頂点にある その他の常磁性欠陥として NBOHC (非架橋酸素欠乏欠陥Non-briging oxygen

hole cener)とよばれるequivSi-O構造のものがある 5 6)NBOHCとは SiO4正四面体

構造の 4 つの酸素のうち一つの酸素は結合していないものであるまたパーオキシラジカル(equivSi-O-O)が知られている 5 6)Eacuteセンターは58 eV(波長 215 nm)にピークをもつ吸収帯をNBOHCおよびパーオキシラジカルは 48 eV(255 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となる (c)反磁性欠陥 反磁性欠陥としては酸素欠乏欠陥パーオキシリンケージなどがあげられ

る酸素欠乏欠陥にはODC(I)ODC(II)とよばれるものがある 5 6)ODC(II)は酸素空孔ともよばれるものでequivSiSiequivで表すことができるこれは Si-O-Si

9

から酸素が抜けた構造であるODC(I)は SiSi 結合(equivSi-Siequiv)ともよばれるもので Siと Siが直接化学結合したものであるそれぞれ502 eV(247 nm)および 76 eV(163 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となるパーオキシリンケージは過酸化結合ともよばれequivSi-O-O-Siequiv構造をしているこれも吸収帯の原因になると言われているが確証はない

10

113 シリカガラスの体積の温度依存性

多成分ガラスや高分子物質の体積の温度依存性模式図 7)を図 15に示すシリ

カガラスの体積の温度依存性模式図 7)を図 16に示す体積は温度の下降とともに減少し極小値をとったのち増大し極大値をとる 吉江は計算機シミュレーションによって体積の温度依存性が特異な性質を

表す原因を明らかにした 8)シリカガラスが負の線膨張係数を示すのはSi-O-Si結合の横振動が激しくなり Si-O-Si結合の全体長が短くなることに起因しているまた体積が極小になる温度より高温の状態ではSi-O-Si 結合の一部が切れて疎な構造になるためである

図 15 一般的なガラスの体積の温度依存性 7)

図 16 シリカガラスの体積の温度依存性 7)

11

114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性

高温のガラスを急冷したことによりガラス構造が凍結されたと考えられる

温度を仮想温度と呼ぶ構造緩和を伴わないで急冷したシリカガラスの構造は

仮想温度に相当する温度でのシリカガラスの構造を反映したものになると考え

られるBruumlcknerにより報告されたシリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)を図

17に示す 密度は仮想温度の上昇とともに増大し1450~1500付近で極大値をとる

図 17で複数の曲線が存在するのは製造方法により異なるためである屈折率は密度の関数であるからこのような仮想温度依存性を把握することは均質な光

学材料を作る上で重要であるしかしながら実際のミクロな構造とどのよう

に対応しているかについては正確には把握されていない

図 17 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)

12

115 光散乱の温度依存性

Saitou-Ikushimaは高温におけるシリカガラスの光散乱(Rayleigh散乱)強度の

温度依存性を測定している 9)(図 18)光散乱強度は温度の上昇に伴い直線的に上昇しているがOH含有量の少ないシリカガラスでは1400 K付近に折れ曲がりが見られるこれがガラス転移点に対応している 図 18 光散乱強度の温度依存性 9)

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 2: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

2

目次

第一章 序論

11 研究の背景 111 シリカガラスの性質と用途 112 シリカガラスの構造

1121 欠陥構造

113 シリカガラスの体積の温度依存性 114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 115 光散乱の温度依存性 116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

12 シリカガラスの計算機シミュレーション 13 本研究の目的

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

22 数値積分

221 Verlet 法

222 速度 Verlet 法

23 周期境界条件

24 静電相互作用

25 電荷平衡法

26 温度及び圧力の制御

261 スケーリング法

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

311 Kawamura ポテンシャル

312 Demiralp ポテンシャル

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合 322 仮想温度の依存性を求める場合

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

341 表面融着界面の作成

342 サンプル作成

343 表面融着界面の解析方法

3

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

41 圧縮率及び体積の温度依存性

42 構造解析

421 動径分布関数の温度依存性

422 結合角の温度依存性

423 配位数の温度依存性

424 平均二乗変位および拡散係数 425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

第五章 密度の仮想温度依存性

51 密度の温度依存性および仮想温度依存性

52 構造解析

521 動径分布関数の仮想温度依存性

522 配位数の仮想温度依存性

523 結合角の仮想温度依存性

524 密度の仮想温度依存性の原因

第六章 表面

61 表面付近の密度分布

62 表面付近の電荷分布

63 構造解析

631 動径分布関数

632 配位数分布

633 結合角分布

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

第七章 融着界面

71 融着界面付近の密度分布

72 融着界面付近の電荷分布

73 構造解析

731 動径分布関数

732 配位数分布

733 結合角分布

74 融着界面のまとめ

4

第八章 まとめ

81 体積及び圧縮率の温度依存性 82 密度の仮想温度依存性 83 表面について 84 融着界面について 85 今後の課題

謝辞

参考文献

付録 1 分子動力学シミュレーションプログラム

Kawamura ポテンシャルを用いたプログラム

Demiralp ポテンシャルを用いたプログラム

付録 2 解析プログラム

バルク解析プログラム

Sublayer 解析プログラム

5

第一章 序論

11 研究の背景

シリカガラスは組成式が SiO2である非晶質物質であるシリカ結晶の種類は

実験室で作られたものも含めると 20種類以上計算機シミュレーションでその存在が予想されているものを含めると 40種類にもなるこの多様性はシリカが非晶質になりやすいこととの一つの要因である工業分野でシリカガラスを応

用する上でその性質は原料製造方法製造条件に強く依存することが知ら

れているこのような性質もシリカの多様性と関係しているものと考えられる シリカガラス製品の製造工程でブロックでの熱処理やシリカガラス管など

の製品が高温で使用されるなど長時間高温にさらされることが多いこれら

の高温での熱処理により表面付近で構造が内部と異なってくるまた天然の

石英粉を高温で溶融することにより製造した溶融石英ガラスでは粒子が融

着した界面の欠陥構造が光学的背質に影響するこれらの性質を研究するため

にシリカガラス表面の構造および融着界面の構造を調べた 本研究の目的はシリカガラスのバルク構造の熱履歴依存性および表面融

着界面の構造を計算機シミュレーションにより研究することである表面構造

の研究のためバルクのシリカガラスを一度切断して熱処理した表面付近の構

造を調べその後表面面を再度繋げ欠陥構造がどのように変化しているかを調

べた バルクの性質としてシリカガラスはつぎに示すような特異な性質を示す

シリカガラスは温度が上昇するにつれて体積が膨張しある温度 Tgを過ぎると

体積は収縮しはじめるさらに温度が上昇すると温度 Tmin で体積が再び膨張し

始めるこのようなシリカガラス特有の体積の温度依存性は実験的に知られて

いるが本研究でその原因を明らかにすることができたまたシリカガラスの

等温圧縮率を計算しTgを境として不連続に変化することを示した またシリカガラスは温度履歴によって構造が大きく変化することが知られて

いる例えば 400 Kに保っていたシリカガラスを常温 (300 K) に急冷したときの構造と 7000 Kに保っていたシリカガラスを 300 Kに急冷したときの構造では大きく違ってくるこれは「仮想温度」と言う概念を用いて説明することがで

きるシリカガラス構造の仮想温度依存性についても調べた さらにシリカガラスの表面融着界面の構造についても構造の解析を行った

6

111 シリカガラスの性質と用途

シリカは地殻の約 60 を占めるケイ素の酸化物(SiO2=二酸化ケイ素)で

ある人体にとっても 05 を占めている必要不可欠な物質であるシリカガラスは天然の石英の粉末を高温で溶融することにより製造することから溶融石

英ガラスとも呼ばれるシリカガラスは非晶質であるため結晶のような周期

的構造は存在しない シリカガラスは他の材料に見られない次のような優れた性質を持っている

(1) 金属などの不純物量が極めて少ない (2) 遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通す (3) 熱に強い (4) 薬品に対する耐久性に優れている 1) 2) これらの性質を利用して工業材料としてさまざまな製品に利用されている

製品の例としては半導体製造装置用の炉心管やポート類フォトマスクエキ

シマレーザーステッパー用光学材料多結晶 TFT用基板液晶用フォトマスク通信用光ファイバー母材などがあげられるこれらの用途の大部分は情報通信

関係の部品またはその製造に関するものである 1) 2)このようにシリカガラスは

情報通信技術 (IT) を陰で支える縁の下の力持ちといえる

7

112 シリカガラスの構造

一般にシリカガラスは Si原子を中心としO原子を頂点とする SiO4正四面体を

基本構造単位としている(図 11)この基本構造が頂点の O 原子を共有して 3次元的に結合している(図 12)これら Si-O-Si結合角はSiO4正四面体構造内

の O-Si-O結合角に比べて自由度が大きいそのため多くの結晶形態が存在可能となる実際20種類を超える結晶形態が存在する 3)シリカガラス中では

このような SiO4正四面体が無秩序に結合したランダムネットワークが形成され

ているものと考えられる(図 13)ただし完全にランダムな構造ではなくある程度の秩序があるとも考えられるランダムネットワークモデルの他に

図 14 のように X 線回折でも観測されない程度の微結晶が連なったとするモデルも提案されている 1)いずれにしても結晶とは異なり規則的な構造の描像が

実験的研究のみでは浮かび上がってこない

図11 SiO4正四面体構造 図 12 基本構造の結合状態

図 13 ランダムネットワーク 4) 図 14 微結晶モデル 4)

8

1121 欠陥構造

(a)点欠陥 シリカガラスは遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通すという性質

がある 2) しかしながら先にも述べたように光透過可能な範囲の両端付近では欠陥構造や不純物が存在すると光吸収が生じることがある不純物として

Alや OHなどがある今回の研究は純粋の SiO2を計算機シミュレーションによ

り扱うものであるしたがって不純物の効果は考慮していない ここでは

光吸収の原因となる欠陥構造(点欠陥)についてまとめておく 5 6) 欠陥構造は常磁性欠陥と反磁性欠陥にとよばれるものがある常磁性は不

対電子を含むものであるこれの存在は電子スピン共鳴(ESR [Electron Spin Resonance]または EPR [Electron Pramagnetic Resonance]という)によって検出される 5)不対電子スピンの共鳴吸収が周囲の原子核や軌道電子の影響をうけるため

モデルをつくり量子力学計算をおこなうことにより実験結果と合わせるこ

とにより構造を決めることができる もう一つは反磁性欠陥とよばれものであるこれは不対電子をもってない

いためESRによる観測にかからない (b)常磁性欠陥 常磁性欠陥で最も良く知られているものはEacuteセンターと呼ばれるものである 5 6)これはequivSiで表すことができるここでequivは3個の酸素分子と共有結合していることを示すldquordquoは不対電子を表すEacuteセンターは SiO4正四面

体から一つの酸素が抜けた状態である残り 3 つの酸素は正四面体の頂点にある その他の常磁性欠陥として NBOHC (非架橋酸素欠乏欠陥Non-briging oxygen

hole cener)とよばれるequivSi-O構造のものがある 5 6)NBOHCとは SiO4正四面体

構造の 4 つの酸素のうち一つの酸素は結合していないものであるまたパーオキシラジカル(equivSi-O-O)が知られている 5 6)Eacuteセンターは58 eV(波長 215 nm)にピークをもつ吸収帯をNBOHCおよびパーオキシラジカルは 48 eV(255 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となる (c)反磁性欠陥 反磁性欠陥としては酸素欠乏欠陥パーオキシリンケージなどがあげられ

る酸素欠乏欠陥にはODC(I)ODC(II)とよばれるものがある 5 6)ODC(II)は酸素空孔ともよばれるものでequivSiSiequivで表すことができるこれは Si-O-Si

9

から酸素が抜けた構造であるODC(I)は SiSi 結合(equivSi-Siequiv)ともよばれるもので Siと Siが直接化学結合したものであるそれぞれ502 eV(247 nm)および 76 eV(163 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となるパーオキシリンケージは過酸化結合ともよばれequivSi-O-O-Siequiv構造をしているこれも吸収帯の原因になると言われているが確証はない

10

113 シリカガラスの体積の温度依存性

多成分ガラスや高分子物質の体積の温度依存性模式図 7)を図 15に示すシリ

カガラスの体積の温度依存性模式図 7)を図 16に示す体積は温度の下降とともに減少し極小値をとったのち増大し極大値をとる 吉江は計算機シミュレーションによって体積の温度依存性が特異な性質を

表す原因を明らかにした 8)シリカガラスが負の線膨張係数を示すのはSi-O-Si結合の横振動が激しくなり Si-O-Si結合の全体長が短くなることに起因しているまた体積が極小になる温度より高温の状態ではSi-O-Si 結合の一部が切れて疎な構造になるためである

図 15 一般的なガラスの体積の温度依存性 7)

図 16 シリカガラスの体積の温度依存性 7)

11

114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性

高温のガラスを急冷したことによりガラス構造が凍結されたと考えられる

温度を仮想温度と呼ぶ構造緩和を伴わないで急冷したシリカガラスの構造は

仮想温度に相当する温度でのシリカガラスの構造を反映したものになると考え

られるBruumlcknerにより報告されたシリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)を図

17に示す 密度は仮想温度の上昇とともに増大し1450~1500付近で極大値をとる

図 17で複数の曲線が存在するのは製造方法により異なるためである屈折率は密度の関数であるからこのような仮想温度依存性を把握することは均質な光

学材料を作る上で重要であるしかしながら実際のミクロな構造とどのよう

に対応しているかについては正確には把握されていない

図 17 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)

12

115 光散乱の温度依存性

Saitou-Ikushimaは高温におけるシリカガラスの光散乱(Rayleigh散乱)強度の

温度依存性を測定している 9)(図 18)光散乱強度は温度の上昇に伴い直線的に上昇しているがOH含有量の少ないシリカガラスでは1400 K付近に折れ曲がりが見られるこれがガラス転移点に対応している 図 18 光散乱強度の温度依存性 9)

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 3: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

3

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

41 圧縮率及び体積の温度依存性

42 構造解析

421 動径分布関数の温度依存性

422 結合角の温度依存性

423 配位数の温度依存性

424 平均二乗変位および拡散係数 425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

第五章 密度の仮想温度依存性

51 密度の温度依存性および仮想温度依存性

52 構造解析

521 動径分布関数の仮想温度依存性

522 配位数の仮想温度依存性

523 結合角の仮想温度依存性

524 密度の仮想温度依存性の原因

第六章 表面

61 表面付近の密度分布

62 表面付近の電荷分布

63 構造解析

631 動径分布関数

632 配位数分布

633 結合角分布

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

第七章 融着界面

71 融着界面付近の密度分布

72 融着界面付近の電荷分布

73 構造解析

731 動径分布関数

732 配位数分布

733 結合角分布

74 融着界面のまとめ

4

第八章 まとめ

81 体積及び圧縮率の温度依存性 82 密度の仮想温度依存性 83 表面について 84 融着界面について 85 今後の課題

謝辞

参考文献

付録 1 分子動力学シミュレーションプログラム

Kawamura ポテンシャルを用いたプログラム

Demiralp ポテンシャルを用いたプログラム

付録 2 解析プログラム

バルク解析プログラム

Sublayer 解析プログラム

5

第一章 序論

11 研究の背景

シリカガラスは組成式が SiO2である非晶質物質であるシリカ結晶の種類は

実験室で作られたものも含めると 20種類以上計算機シミュレーションでその存在が予想されているものを含めると 40種類にもなるこの多様性はシリカが非晶質になりやすいこととの一つの要因である工業分野でシリカガラスを応

用する上でその性質は原料製造方法製造条件に強く依存することが知ら

れているこのような性質もシリカの多様性と関係しているものと考えられる シリカガラス製品の製造工程でブロックでの熱処理やシリカガラス管など

の製品が高温で使用されるなど長時間高温にさらされることが多いこれら

の高温での熱処理により表面付近で構造が内部と異なってくるまた天然の

石英粉を高温で溶融することにより製造した溶融石英ガラスでは粒子が融

着した界面の欠陥構造が光学的背質に影響するこれらの性質を研究するため

にシリカガラス表面の構造および融着界面の構造を調べた 本研究の目的はシリカガラスのバルク構造の熱履歴依存性および表面融

着界面の構造を計算機シミュレーションにより研究することである表面構造

の研究のためバルクのシリカガラスを一度切断して熱処理した表面付近の構

造を調べその後表面面を再度繋げ欠陥構造がどのように変化しているかを調

べた バルクの性質としてシリカガラスはつぎに示すような特異な性質を示す

シリカガラスは温度が上昇するにつれて体積が膨張しある温度 Tgを過ぎると

体積は収縮しはじめるさらに温度が上昇すると温度 Tmin で体積が再び膨張し

始めるこのようなシリカガラス特有の体積の温度依存性は実験的に知られて

いるが本研究でその原因を明らかにすることができたまたシリカガラスの

等温圧縮率を計算しTgを境として不連続に変化することを示した またシリカガラスは温度履歴によって構造が大きく変化することが知られて

いる例えば 400 Kに保っていたシリカガラスを常温 (300 K) に急冷したときの構造と 7000 Kに保っていたシリカガラスを 300 Kに急冷したときの構造では大きく違ってくるこれは「仮想温度」と言う概念を用いて説明することがで

きるシリカガラス構造の仮想温度依存性についても調べた さらにシリカガラスの表面融着界面の構造についても構造の解析を行った

6

111 シリカガラスの性質と用途

シリカは地殻の約 60 を占めるケイ素の酸化物(SiO2=二酸化ケイ素)で

ある人体にとっても 05 を占めている必要不可欠な物質であるシリカガラスは天然の石英の粉末を高温で溶融することにより製造することから溶融石

英ガラスとも呼ばれるシリカガラスは非晶質であるため結晶のような周期

的構造は存在しない シリカガラスは他の材料に見られない次のような優れた性質を持っている

(1) 金属などの不純物量が極めて少ない (2) 遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通す (3) 熱に強い (4) 薬品に対する耐久性に優れている 1) 2) これらの性質を利用して工業材料としてさまざまな製品に利用されている

製品の例としては半導体製造装置用の炉心管やポート類フォトマスクエキ

シマレーザーステッパー用光学材料多結晶 TFT用基板液晶用フォトマスク通信用光ファイバー母材などがあげられるこれらの用途の大部分は情報通信

関係の部品またはその製造に関するものである 1) 2)このようにシリカガラスは

情報通信技術 (IT) を陰で支える縁の下の力持ちといえる

7

112 シリカガラスの構造

一般にシリカガラスは Si原子を中心としO原子を頂点とする SiO4正四面体を

基本構造単位としている(図 11)この基本構造が頂点の O 原子を共有して 3次元的に結合している(図 12)これら Si-O-Si結合角はSiO4正四面体構造内

の O-Si-O結合角に比べて自由度が大きいそのため多くの結晶形態が存在可能となる実際20種類を超える結晶形態が存在する 3)シリカガラス中では

このような SiO4正四面体が無秩序に結合したランダムネットワークが形成され

ているものと考えられる(図 13)ただし完全にランダムな構造ではなくある程度の秩序があるとも考えられるランダムネットワークモデルの他に

図 14 のように X 線回折でも観測されない程度の微結晶が連なったとするモデルも提案されている 1)いずれにしても結晶とは異なり規則的な構造の描像が

実験的研究のみでは浮かび上がってこない

図11 SiO4正四面体構造 図 12 基本構造の結合状態

図 13 ランダムネットワーク 4) 図 14 微結晶モデル 4)

8

1121 欠陥構造

(a)点欠陥 シリカガラスは遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通すという性質

がある 2) しかしながら先にも述べたように光透過可能な範囲の両端付近では欠陥構造や不純物が存在すると光吸収が生じることがある不純物として

Alや OHなどがある今回の研究は純粋の SiO2を計算機シミュレーションによ

り扱うものであるしたがって不純物の効果は考慮していない ここでは

光吸収の原因となる欠陥構造(点欠陥)についてまとめておく 5 6) 欠陥構造は常磁性欠陥と反磁性欠陥にとよばれるものがある常磁性は不

対電子を含むものであるこれの存在は電子スピン共鳴(ESR [Electron Spin Resonance]または EPR [Electron Pramagnetic Resonance]という)によって検出される 5)不対電子スピンの共鳴吸収が周囲の原子核や軌道電子の影響をうけるため

モデルをつくり量子力学計算をおこなうことにより実験結果と合わせるこ

とにより構造を決めることができる もう一つは反磁性欠陥とよばれものであるこれは不対電子をもってない

いためESRによる観測にかからない (b)常磁性欠陥 常磁性欠陥で最も良く知られているものはEacuteセンターと呼ばれるものである 5 6)これはequivSiで表すことができるここでequivは3個の酸素分子と共有結合していることを示すldquordquoは不対電子を表すEacuteセンターは SiO4正四面

体から一つの酸素が抜けた状態である残り 3 つの酸素は正四面体の頂点にある その他の常磁性欠陥として NBOHC (非架橋酸素欠乏欠陥Non-briging oxygen

hole cener)とよばれるequivSi-O構造のものがある 5 6)NBOHCとは SiO4正四面体

構造の 4 つの酸素のうち一つの酸素は結合していないものであるまたパーオキシラジカル(equivSi-O-O)が知られている 5 6)Eacuteセンターは58 eV(波長 215 nm)にピークをもつ吸収帯をNBOHCおよびパーオキシラジカルは 48 eV(255 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となる (c)反磁性欠陥 反磁性欠陥としては酸素欠乏欠陥パーオキシリンケージなどがあげられ

る酸素欠乏欠陥にはODC(I)ODC(II)とよばれるものがある 5 6)ODC(II)は酸素空孔ともよばれるものでequivSiSiequivで表すことができるこれは Si-O-Si

9

から酸素が抜けた構造であるODC(I)は SiSi 結合(equivSi-Siequiv)ともよばれるもので Siと Siが直接化学結合したものであるそれぞれ502 eV(247 nm)および 76 eV(163 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となるパーオキシリンケージは過酸化結合ともよばれequivSi-O-O-Siequiv構造をしているこれも吸収帯の原因になると言われているが確証はない

10

113 シリカガラスの体積の温度依存性

多成分ガラスや高分子物質の体積の温度依存性模式図 7)を図 15に示すシリ

カガラスの体積の温度依存性模式図 7)を図 16に示す体積は温度の下降とともに減少し極小値をとったのち増大し極大値をとる 吉江は計算機シミュレーションによって体積の温度依存性が特異な性質を

表す原因を明らかにした 8)シリカガラスが負の線膨張係数を示すのはSi-O-Si結合の横振動が激しくなり Si-O-Si結合の全体長が短くなることに起因しているまた体積が極小になる温度より高温の状態ではSi-O-Si 結合の一部が切れて疎な構造になるためである

図 15 一般的なガラスの体積の温度依存性 7)

図 16 シリカガラスの体積の温度依存性 7)

11

114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性

高温のガラスを急冷したことによりガラス構造が凍結されたと考えられる

温度を仮想温度と呼ぶ構造緩和を伴わないで急冷したシリカガラスの構造は

仮想温度に相当する温度でのシリカガラスの構造を反映したものになると考え

られるBruumlcknerにより報告されたシリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)を図

17に示す 密度は仮想温度の上昇とともに増大し1450~1500付近で極大値をとる

図 17で複数の曲線が存在するのは製造方法により異なるためである屈折率は密度の関数であるからこのような仮想温度依存性を把握することは均質な光

学材料を作る上で重要であるしかしながら実際のミクロな構造とどのよう

に対応しているかについては正確には把握されていない

図 17 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)

12

115 光散乱の温度依存性

Saitou-Ikushimaは高温におけるシリカガラスの光散乱(Rayleigh散乱)強度の

温度依存性を測定している 9)(図 18)光散乱強度は温度の上昇に伴い直線的に上昇しているがOH含有量の少ないシリカガラスでは1400 K付近に折れ曲がりが見られるこれがガラス転移点に対応している 図 18 光散乱強度の温度依存性 9)

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 4: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

4

第八章 まとめ

81 体積及び圧縮率の温度依存性 82 密度の仮想温度依存性 83 表面について 84 融着界面について 85 今後の課題

謝辞

参考文献

付録 1 分子動力学シミュレーションプログラム

Kawamura ポテンシャルを用いたプログラム

Demiralp ポテンシャルを用いたプログラム

付録 2 解析プログラム

バルク解析プログラム

Sublayer 解析プログラム

5

第一章 序論

11 研究の背景

シリカガラスは組成式が SiO2である非晶質物質であるシリカ結晶の種類は

実験室で作られたものも含めると 20種類以上計算機シミュレーションでその存在が予想されているものを含めると 40種類にもなるこの多様性はシリカが非晶質になりやすいこととの一つの要因である工業分野でシリカガラスを応

用する上でその性質は原料製造方法製造条件に強く依存することが知ら

れているこのような性質もシリカの多様性と関係しているものと考えられる シリカガラス製品の製造工程でブロックでの熱処理やシリカガラス管など

の製品が高温で使用されるなど長時間高温にさらされることが多いこれら

の高温での熱処理により表面付近で構造が内部と異なってくるまた天然の

石英粉を高温で溶融することにより製造した溶融石英ガラスでは粒子が融

着した界面の欠陥構造が光学的背質に影響するこれらの性質を研究するため

にシリカガラス表面の構造および融着界面の構造を調べた 本研究の目的はシリカガラスのバルク構造の熱履歴依存性および表面融

着界面の構造を計算機シミュレーションにより研究することである表面構造

の研究のためバルクのシリカガラスを一度切断して熱処理した表面付近の構

造を調べその後表面面を再度繋げ欠陥構造がどのように変化しているかを調

べた バルクの性質としてシリカガラスはつぎに示すような特異な性質を示す

シリカガラスは温度が上昇するにつれて体積が膨張しある温度 Tgを過ぎると

体積は収縮しはじめるさらに温度が上昇すると温度 Tmin で体積が再び膨張し

始めるこのようなシリカガラス特有の体積の温度依存性は実験的に知られて

いるが本研究でその原因を明らかにすることができたまたシリカガラスの

等温圧縮率を計算しTgを境として不連続に変化することを示した またシリカガラスは温度履歴によって構造が大きく変化することが知られて

いる例えば 400 Kに保っていたシリカガラスを常温 (300 K) に急冷したときの構造と 7000 Kに保っていたシリカガラスを 300 Kに急冷したときの構造では大きく違ってくるこれは「仮想温度」と言う概念を用いて説明することがで

きるシリカガラス構造の仮想温度依存性についても調べた さらにシリカガラスの表面融着界面の構造についても構造の解析を行った

6

111 シリカガラスの性質と用途

シリカは地殻の約 60 を占めるケイ素の酸化物(SiO2=二酸化ケイ素)で

ある人体にとっても 05 を占めている必要不可欠な物質であるシリカガラスは天然の石英の粉末を高温で溶融することにより製造することから溶融石

英ガラスとも呼ばれるシリカガラスは非晶質であるため結晶のような周期

的構造は存在しない シリカガラスは他の材料に見られない次のような優れた性質を持っている

(1) 金属などの不純物量が極めて少ない (2) 遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通す (3) 熱に強い (4) 薬品に対する耐久性に優れている 1) 2) これらの性質を利用して工業材料としてさまざまな製品に利用されている

製品の例としては半導体製造装置用の炉心管やポート類フォトマスクエキ

シマレーザーステッパー用光学材料多結晶 TFT用基板液晶用フォトマスク通信用光ファイバー母材などがあげられるこれらの用途の大部分は情報通信

関係の部品またはその製造に関するものである 1) 2)このようにシリカガラスは

情報通信技術 (IT) を陰で支える縁の下の力持ちといえる

7

112 シリカガラスの構造

一般にシリカガラスは Si原子を中心としO原子を頂点とする SiO4正四面体を

基本構造単位としている(図 11)この基本構造が頂点の O 原子を共有して 3次元的に結合している(図 12)これら Si-O-Si結合角はSiO4正四面体構造内

の O-Si-O結合角に比べて自由度が大きいそのため多くの結晶形態が存在可能となる実際20種類を超える結晶形態が存在する 3)シリカガラス中では

このような SiO4正四面体が無秩序に結合したランダムネットワークが形成され

ているものと考えられる(図 13)ただし完全にランダムな構造ではなくある程度の秩序があるとも考えられるランダムネットワークモデルの他に

図 14 のように X 線回折でも観測されない程度の微結晶が連なったとするモデルも提案されている 1)いずれにしても結晶とは異なり規則的な構造の描像が

実験的研究のみでは浮かび上がってこない

図11 SiO4正四面体構造 図 12 基本構造の結合状態

図 13 ランダムネットワーク 4) 図 14 微結晶モデル 4)

8

1121 欠陥構造

(a)点欠陥 シリカガラスは遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通すという性質

がある 2) しかしながら先にも述べたように光透過可能な範囲の両端付近では欠陥構造や不純物が存在すると光吸収が生じることがある不純物として

Alや OHなどがある今回の研究は純粋の SiO2を計算機シミュレーションによ

り扱うものであるしたがって不純物の効果は考慮していない ここでは

光吸収の原因となる欠陥構造(点欠陥)についてまとめておく 5 6) 欠陥構造は常磁性欠陥と反磁性欠陥にとよばれるものがある常磁性は不

対電子を含むものであるこれの存在は電子スピン共鳴(ESR [Electron Spin Resonance]または EPR [Electron Pramagnetic Resonance]という)によって検出される 5)不対電子スピンの共鳴吸収が周囲の原子核や軌道電子の影響をうけるため

モデルをつくり量子力学計算をおこなうことにより実験結果と合わせるこ

とにより構造を決めることができる もう一つは反磁性欠陥とよばれものであるこれは不対電子をもってない

いためESRによる観測にかからない (b)常磁性欠陥 常磁性欠陥で最も良く知られているものはEacuteセンターと呼ばれるものである 5 6)これはequivSiで表すことができるここでequivは3個の酸素分子と共有結合していることを示すldquordquoは不対電子を表すEacuteセンターは SiO4正四面

体から一つの酸素が抜けた状態である残り 3 つの酸素は正四面体の頂点にある その他の常磁性欠陥として NBOHC (非架橋酸素欠乏欠陥Non-briging oxygen

hole cener)とよばれるequivSi-O構造のものがある 5 6)NBOHCとは SiO4正四面体

構造の 4 つの酸素のうち一つの酸素は結合していないものであるまたパーオキシラジカル(equivSi-O-O)が知られている 5 6)Eacuteセンターは58 eV(波長 215 nm)にピークをもつ吸収帯をNBOHCおよびパーオキシラジカルは 48 eV(255 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となる (c)反磁性欠陥 反磁性欠陥としては酸素欠乏欠陥パーオキシリンケージなどがあげられ

る酸素欠乏欠陥にはODC(I)ODC(II)とよばれるものがある 5 6)ODC(II)は酸素空孔ともよばれるものでequivSiSiequivで表すことができるこれは Si-O-Si

9

から酸素が抜けた構造であるODC(I)は SiSi 結合(equivSi-Siequiv)ともよばれるもので Siと Siが直接化学結合したものであるそれぞれ502 eV(247 nm)および 76 eV(163 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となるパーオキシリンケージは過酸化結合ともよばれequivSi-O-O-Siequiv構造をしているこれも吸収帯の原因になると言われているが確証はない

10

113 シリカガラスの体積の温度依存性

多成分ガラスや高分子物質の体積の温度依存性模式図 7)を図 15に示すシリ

カガラスの体積の温度依存性模式図 7)を図 16に示す体積は温度の下降とともに減少し極小値をとったのち増大し極大値をとる 吉江は計算機シミュレーションによって体積の温度依存性が特異な性質を

表す原因を明らかにした 8)シリカガラスが負の線膨張係数を示すのはSi-O-Si結合の横振動が激しくなり Si-O-Si結合の全体長が短くなることに起因しているまた体積が極小になる温度より高温の状態ではSi-O-Si 結合の一部が切れて疎な構造になるためである

図 15 一般的なガラスの体積の温度依存性 7)

図 16 シリカガラスの体積の温度依存性 7)

11

114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性

高温のガラスを急冷したことによりガラス構造が凍結されたと考えられる

温度を仮想温度と呼ぶ構造緩和を伴わないで急冷したシリカガラスの構造は

仮想温度に相当する温度でのシリカガラスの構造を反映したものになると考え

られるBruumlcknerにより報告されたシリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)を図

17に示す 密度は仮想温度の上昇とともに増大し1450~1500付近で極大値をとる

図 17で複数の曲線が存在するのは製造方法により異なるためである屈折率は密度の関数であるからこのような仮想温度依存性を把握することは均質な光

学材料を作る上で重要であるしかしながら実際のミクロな構造とどのよう

に対応しているかについては正確には把握されていない

図 17 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)

12

115 光散乱の温度依存性

Saitou-Ikushimaは高温におけるシリカガラスの光散乱(Rayleigh散乱)強度の

温度依存性を測定している 9)(図 18)光散乱強度は温度の上昇に伴い直線的に上昇しているがOH含有量の少ないシリカガラスでは1400 K付近に折れ曲がりが見られるこれがガラス転移点に対応している 図 18 光散乱強度の温度依存性 9)

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 5: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

5

第一章 序論

11 研究の背景

シリカガラスは組成式が SiO2である非晶質物質であるシリカ結晶の種類は

実験室で作られたものも含めると 20種類以上計算機シミュレーションでその存在が予想されているものを含めると 40種類にもなるこの多様性はシリカが非晶質になりやすいこととの一つの要因である工業分野でシリカガラスを応

用する上でその性質は原料製造方法製造条件に強く依存することが知ら

れているこのような性質もシリカの多様性と関係しているものと考えられる シリカガラス製品の製造工程でブロックでの熱処理やシリカガラス管など

の製品が高温で使用されるなど長時間高温にさらされることが多いこれら

の高温での熱処理により表面付近で構造が内部と異なってくるまた天然の

石英粉を高温で溶融することにより製造した溶融石英ガラスでは粒子が融

着した界面の欠陥構造が光学的背質に影響するこれらの性質を研究するため

にシリカガラス表面の構造および融着界面の構造を調べた 本研究の目的はシリカガラスのバルク構造の熱履歴依存性および表面融

着界面の構造を計算機シミュレーションにより研究することである表面構造

の研究のためバルクのシリカガラスを一度切断して熱処理した表面付近の構

造を調べその後表面面を再度繋げ欠陥構造がどのように変化しているかを調

べた バルクの性質としてシリカガラスはつぎに示すような特異な性質を示す

シリカガラスは温度が上昇するにつれて体積が膨張しある温度 Tgを過ぎると

体積は収縮しはじめるさらに温度が上昇すると温度 Tmin で体積が再び膨張し

始めるこのようなシリカガラス特有の体積の温度依存性は実験的に知られて

いるが本研究でその原因を明らかにすることができたまたシリカガラスの

等温圧縮率を計算しTgを境として不連続に変化することを示した またシリカガラスは温度履歴によって構造が大きく変化することが知られて

いる例えば 400 Kに保っていたシリカガラスを常温 (300 K) に急冷したときの構造と 7000 Kに保っていたシリカガラスを 300 Kに急冷したときの構造では大きく違ってくるこれは「仮想温度」と言う概念を用いて説明することがで

きるシリカガラス構造の仮想温度依存性についても調べた さらにシリカガラスの表面融着界面の構造についても構造の解析を行った

6

111 シリカガラスの性質と用途

シリカは地殻の約 60 を占めるケイ素の酸化物(SiO2=二酸化ケイ素)で

ある人体にとっても 05 を占めている必要不可欠な物質であるシリカガラスは天然の石英の粉末を高温で溶融することにより製造することから溶融石

英ガラスとも呼ばれるシリカガラスは非晶質であるため結晶のような周期

的構造は存在しない シリカガラスは他の材料に見られない次のような優れた性質を持っている

(1) 金属などの不純物量が極めて少ない (2) 遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通す (3) 熱に強い (4) 薬品に対する耐久性に優れている 1) 2) これらの性質を利用して工業材料としてさまざまな製品に利用されている

製品の例としては半導体製造装置用の炉心管やポート類フォトマスクエキ

シマレーザーステッパー用光学材料多結晶 TFT用基板液晶用フォトマスク通信用光ファイバー母材などがあげられるこれらの用途の大部分は情報通信

関係の部品またはその製造に関するものである 1) 2)このようにシリカガラスは

情報通信技術 (IT) を陰で支える縁の下の力持ちといえる

7

112 シリカガラスの構造

一般にシリカガラスは Si原子を中心としO原子を頂点とする SiO4正四面体を

基本構造単位としている(図 11)この基本構造が頂点の O 原子を共有して 3次元的に結合している(図 12)これら Si-O-Si結合角はSiO4正四面体構造内

の O-Si-O結合角に比べて自由度が大きいそのため多くの結晶形態が存在可能となる実際20種類を超える結晶形態が存在する 3)シリカガラス中では

このような SiO4正四面体が無秩序に結合したランダムネットワークが形成され

ているものと考えられる(図 13)ただし完全にランダムな構造ではなくある程度の秩序があるとも考えられるランダムネットワークモデルの他に

図 14 のように X 線回折でも観測されない程度の微結晶が連なったとするモデルも提案されている 1)いずれにしても結晶とは異なり規則的な構造の描像が

実験的研究のみでは浮かび上がってこない

図11 SiO4正四面体構造 図 12 基本構造の結合状態

図 13 ランダムネットワーク 4) 図 14 微結晶モデル 4)

8

1121 欠陥構造

(a)点欠陥 シリカガラスは遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通すという性質

がある 2) しかしながら先にも述べたように光透過可能な範囲の両端付近では欠陥構造や不純物が存在すると光吸収が生じることがある不純物として

Alや OHなどがある今回の研究は純粋の SiO2を計算機シミュレーションによ

り扱うものであるしたがって不純物の効果は考慮していない ここでは

光吸収の原因となる欠陥構造(点欠陥)についてまとめておく 5 6) 欠陥構造は常磁性欠陥と反磁性欠陥にとよばれるものがある常磁性は不

対電子を含むものであるこれの存在は電子スピン共鳴(ESR [Electron Spin Resonance]または EPR [Electron Pramagnetic Resonance]という)によって検出される 5)不対電子スピンの共鳴吸収が周囲の原子核や軌道電子の影響をうけるため

モデルをつくり量子力学計算をおこなうことにより実験結果と合わせるこ

とにより構造を決めることができる もう一つは反磁性欠陥とよばれものであるこれは不対電子をもってない

いためESRによる観測にかからない (b)常磁性欠陥 常磁性欠陥で最も良く知られているものはEacuteセンターと呼ばれるものである 5 6)これはequivSiで表すことができるここでequivは3個の酸素分子と共有結合していることを示すldquordquoは不対電子を表すEacuteセンターは SiO4正四面

体から一つの酸素が抜けた状態である残り 3 つの酸素は正四面体の頂点にある その他の常磁性欠陥として NBOHC (非架橋酸素欠乏欠陥Non-briging oxygen

hole cener)とよばれるequivSi-O構造のものがある 5 6)NBOHCとは SiO4正四面体

構造の 4 つの酸素のうち一つの酸素は結合していないものであるまたパーオキシラジカル(equivSi-O-O)が知られている 5 6)Eacuteセンターは58 eV(波長 215 nm)にピークをもつ吸収帯をNBOHCおよびパーオキシラジカルは 48 eV(255 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となる (c)反磁性欠陥 反磁性欠陥としては酸素欠乏欠陥パーオキシリンケージなどがあげられ

る酸素欠乏欠陥にはODC(I)ODC(II)とよばれるものがある 5 6)ODC(II)は酸素空孔ともよばれるものでequivSiSiequivで表すことができるこれは Si-O-Si

9

から酸素が抜けた構造であるODC(I)は SiSi 結合(equivSi-Siequiv)ともよばれるもので Siと Siが直接化学結合したものであるそれぞれ502 eV(247 nm)および 76 eV(163 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となるパーオキシリンケージは過酸化結合ともよばれequivSi-O-O-Siequiv構造をしているこれも吸収帯の原因になると言われているが確証はない

10

113 シリカガラスの体積の温度依存性

多成分ガラスや高分子物質の体積の温度依存性模式図 7)を図 15に示すシリ

カガラスの体積の温度依存性模式図 7)を図 16に示す体積は温度の下降とともに減少し極小値をとったのち増大し極大値をとる 吉江は計算機シミュレーションによって体積の温度依存性が特異な性質を

表す原因を明らかにした 8)シリカガラスが負の線膨張係数を示すのはSi-O-Si結合の横振動が激しくなり Si-O-Si結合の全体長が短くなることに起因しているまた体積が極小になる温度より高温の状態ではSi-O-Si 結合の一部が切れて疎な構造になるためである

図 15 一般的なガラスの体積の温度依存性 7)

図 16 シリカガラスの体積の温度依存性 7)

11

114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性

高温のガラスを急冷したことによりガラス構造が凍結されたと考えられる

温度を仮想温度と呼ぶ構造緩和を伴わないで急冷したシリカガラスの構造は

仮想温度に相当する温度でのシリカガラスの構造を反映したものになると考え

られるBruumlcknerにより報告されたシリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)を図

17に示す 密度は仮想温度の上昇とともに増大し1450~1500付近で極大値をとる

図 17で複数の曲線が存在するのは製造方法により異なるためである屈折率は密度の関数であるからこのような仮想温度依存性を把握することは均質な光

学材料を作る上で重要であるしかしながら実際のミクロな構造とどのよう

に対応しているかについては正確には把握されていない

図 17 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)

12

115 光散乱の温度依存性

Saitou-Ikushimaは高温におけるシリカガラスの光散乱(Rayleigh散乱)強度の

温度依存性を測定している 9)(図 18)光散乱強度は温度の上昇に伴い直線的に上昇しているがOH含有量の少ないシリカガラスでは1400 K付近に折れ曲がりが見られるこれがガラス転移点に対応している 図 18 光散乱強度の温度依存性 9)

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 6: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

6

111 シリカガラスの性質と用途

シリカは地殻の約 60 を占めるケイ素の酸化物(SiO2=二酸化ケイ素)で

ある人体にとっても 05 を占めている必要不可欠な物質であるシリカガラスは天然の石英の粉末を高温で溶融することにより製造することから溶融石

英ガラスとも呼ばれるシリカガラスは非晶質であるため結晶のような周期

的構造は存在しない シリカガラスは他の材料に見られない次のような優れた性質を持っている

(1) 金属などの不純物量が極めて少ない (2) 遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通す (3) 熱に強い (4) 薬品に対する耐久性に優れている 1) 2) これらの性質を利用して工業材料としてさまざまな製品に利用されている

製品の例としては半導体製造装置用の炉心管やポート類フォトマスクエキ

シマレーザーステッパー用光学材料多結晶 TFT用基板液晶用フォトマスク通信用光ファイバー母材などがあげられるこれらの用途の大部分は情報通信

関係の部品またはその製造に関するものである 1) 2)このようにシリカガラスは

情報通信技術 (IT) を陰で支える縁の下の力持ちといえる

7

112 シリカガラスの構造

一般にシリカガラスは Si原子を中心としO原子を頂点とする SiO4正四面体を

基本構造単位としている(図 11)この基本構造が頂点の O 原子を共有して 3次元的に結合している(図 12)これら Si-O-Si結合角はSiO4正四面体構造内

の O-Si-O結合角に比べて自由度が大きいそのため多くの結晶形態が存在可能となる実際20種類を超える結晶形態が存在する 3)シリカガラス中では

このような SiO4正四面体が無秩序に結合したランダムネットワークが形成され

ているものと考えられる(図 13)ただし完全にランダムな構造ではなくある程度の秩序があるとも考えられるランダムネットワークモデルの他に

図 14 のように X 線回折でも観測されない程度の微結晶が連なったとするモデルも提案されている 1)いずれにしても結晶とは異なり規則的な構造の描像が

実験的研究のみでは浮かび上がってこない

図11 SiO4正四面体構造 図 12 基本構造の結合状態

図 13 ランダムネットワーク 4) 図 14 微結晶モデル 4)

8

1121 欠陥構造

(a)点欠陥 シリカガラスは遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通すという性質

がある 2) しかしながら先にも述べたように光透過可能な範囲の両端付近では欠陥構造や不純物が存在すると光吸収が生じることがある不純物として

Alや OHなどがある今回の研究は純粋の SiO2を計算機シミュレーションによ

り扱うものであるしたがって不純物の効果は考慮していない ここでは

光吸収の原因となる欠陥構造(点欠陥)についてまとめておく 5 6) 欠陥構造は常磁性欠陥と反磁性欠陥にとよばれるものがある常磁性は不

対電子を含むものであるこれの存在は電子スピン共鳴(ESR [Electron Spin Resonance]または EPR [Electron Pramagnetic Resonance]という)によって検出される 5)不対電子スピンの共鳴吸収が周囲の原子核や軌道電子の影響をうけるため

モデルをつくり量子力学計算をおこなうことにより実験結果と合わせるこ

とにより構造を決めることができる もう一つは反磁性欠陥とよばれものであるこれは不対電子をもってない

いためESRによる観測にかからない (b)常磁性欠陥 常磁性欠陥で最も良く知られているものはEacuteセンターと呼ばれるものである 5 6)これはequivSiで表すことができるここでequivは3個の酸素分子と共有結合していることを示すldquordquoは不対電子を表すEacuteセンターは SiO4正四面

体から一つの酸素が抜けた状態である残り 3 つの酸素は正四面体の頂点にある その他の常磁性欠陥として NBOHC (非架橋酸素欠乏欠陥Non-briging oxygen

hole cener)とよばれるequivSi-O構造のものがある 5 6)NBOHCとは SiO4正四面体

構造の 4 つの酸素のうち一つの酸素は結合していないものであるまたパーオキシラジカル(equivSi-O-O)が知られている 5 6)Eacuteセンターは58 eV(波長 215 nm)にピークをもつ吸収帯をNBOHCおよびパーオキシラジカルは 48 eV(255 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となる (c)反磁性欠陥 反磁性欠陥としては酸素欠乏欠陥パーオキシリンケージなどがあげられ

る酸素欠乏欠陥にはODC(I)ODC(II)とよばれるものがある 5 6)ODC(II)は酸素空孔ともよばれるものでequivSiSiequivで表すことができるこれは Si-O-Si

9

から酸素が抜けた構造であるODC(I)は SiSi 結合(equivSi-Siequiv)ともよばれるもので Siと Siが直接化学結合したものであるそれぞれ502 eV(247 nm)および 76 eV(163 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となるパーオキシリンケージは過酸化結合ともよばれequivSi-O-O-Siequiv構造をしているこれも吸収帯の原因になると言われているが確証はない

10

113 シリカガラスの体積の温度依存性

多成分ガラスや高分子物質の体積の温度依存性模式図 7)を図 15に示すシリ

カガラスの体積の温度依存性模式図 7)を図 16に示す体積は温度の下降とともに減少し極小値をとったのち増大し極大値をとる 吉江は計算機シミュレーションによって体積の温度依存性が特異な性質を

表す原因を明らかにした 8)シリカガラスが負の線膨張係数を示すのはSi-O-Si結合の横振動が激しくなり Si-O-Si結合の全体長が短くなることに起因しているまた体積が極小になる温度より高温の状態ではSi-O-Si 結合の一部が切れて疎な構造になるためである

図 15 一般的なガラスの体積の温度依存性 7)

図 16 シリカガラスの体積の温度依存性 7)

11

114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性

高温のガラスを急冷したことによりガラス構造が凍結されたと考えられる

温度を仮想温度と呼ぶ構造緩和を伴わないで急冷したシリカガラスの構造は

仮想温度に相当する温度でのシリカガラスの構造を反映したものになると考え

られるBruumlcknerにより報告されたシリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)を図

17に示す 密度は仮想温度の上昇とともに増大し1450~1500付近で極大値をとる

図 17で複数の曲線が存在するのは製造方法により異なるためである屈折率は密度の関数であるからこのような仮想温度依存性を把握することは均質な光

学材料を作る上で重要であるしかしながら実際のミクロな構造とどのよう

に対応しているかについては正確には把握されていない

図 17 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)

12

115 光散乱の温度依存性

Saitou-Ikushimaは高温におけるシリカガラスの光散乱(Rayleigh散乱)強度の

温度依存性を測定している 9)(図 18)光散乱強度は温度の上昇に伴い直線的に上昇しているがOH含有量の少ないシリカガラスでは1400 K付近に折れ曲がりが見られるこれがガラス転移点に対応している 図 18 光散乱強度の温度依存性 9)

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 7: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

7

112 シリカガラスの構造

一般にシリカガラスは Si原子を中心としO原子を頂点とする SiO4正四面体を

基本構造単位としている(図 11)この基本構造が頂点の O 原子を共有して 3次元的に結合している(図 12)これら Si-O-Si結合角はSiO4正四面体構造内

の O-Si-O結合角に比べて自由度が大きいそのため多くの結晶形態が存在可能となる実際20種類を超える結晶形態が存在する 3)シリカガラス中では

このような SiO4正四面体が無秩序に結合したランダムネットワークが形成され

ているものと考えられる(図 13)ただし完全にランダムな構造ではなくある程度の秩序があるとも考えられるランダムネットワークモデルの他に

図 14 のように X 線回折でも観測されない程度の微結晶が連なったとするモデルも提案されている 1)いずれにしても結晶とは異なり規則的な構造の描像が

実験的研究のみでは浮かび上がってこない

図11 SiO4正四面体構造 図 12 基本構造の結合状態

図 13 ランダムネットワーク 4) 図 14 微結晶モデル 4)

8

1121 欠陥構造

(a)点欠陥 シリカガラスは遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通すという性質

がある 2) しかしながら先にも述べたように光透過可能な範囲の両端付近では欠陥構造や不純物が存在すると光吸収が生じることがある不純物として

Alや OHなどがある今回の研究は純粋の SiO2を計算機シミュレーションによ

り扱うものであるしたがって不純物の効果は考慮していない ここでは

光吸収の原因となる欠陥構造(点欠陥)についてまとめておく 5 6) 欠陥構造は常磁性欠陥と反磁性欠陥にとよばれるものがある常磁性は不

対電子を含むものであるこれの存在は電子スピン共鳴(ESR [Electron Spin Resonance]または EPR [Electron Pramagnetic Resonance]という)によって検出される 5)不対電子スピンの共鳴吸収が周囲の原子核や軌道電子の影響をうけるため

モデルをつくり量子力学計算をおこなうことにより実験結果と合わせるこ

とにより構造を決めることができる もう一つは反磁性欠陥とよばれものであるこれは不対電子をもってない

いためESRによる観測にかからない (b)常磁性欠陥 常磁性欠陥で最も良く知られているものはEacuteセンターと呼ばれるものである 5 6)これはequivSiで表すことができるここでequivは3個の酸素分子と共有結合していることを示すldquordquoは不対電子を表すEacuteセンターは SiO4正四面

体から一つの酸素が抜けた状態である残り 3 つの酸素は正四面体の頂点にある その他の常磁性欠陥として NBOHC (非架橋酸素欠乏欠陥Non-briging oxygen

hole cener)とよばれるequivSi-O構造のものがある 5 6)NBOHCとは SiO4正四面体

構造の 4 つの酸素のうち一つの酸素は結合していないものであるまたパーオキシラジカル(equivSi-O-O)が知られている 5 6)Eacuteセンターは58 eV(波長 215 nm)にピークをもつ吸収帯をNBOHCおよびパーオキシラジカルは 48 eV(255 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となる (c)反磁性欠陥 反磁性欠陥としては酸素欠乏欠陥パーオキシリンケージなどがあげられ

る酸素欠乏欠陥にはODC(I)ODC(II)とよばれるものがある 5 6)ODC(II)は酸素空孔ともよばれるものでequivSiSiequivで表すことができるこれは Si-O-Si

9

から酸素が抜けた構造であるODC(I)は SiSi 結合(equivSi-Siequiv)ともよばれるもので Siと Siが直接化学結合したものであるそれぞれ502 eV(247 nm)および 76 eV(163 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となるパーオキシリンケージは過酸化結合ともよばれequivSi-O-O-Siequiv構造をしているこれも吸収帯の原因になると言われているが確証はない

10

113 シリカガラスの体積の温度依存性

多成分ガラスや高分子物質の体積の温度依存性模式図 7)を図 15に示すシリ

カガラスの体積の温度依存性模式図 7)を図 16に示す体積は温度の下降とともに減少し極小値をとったのち増大し極大値をとる 吉江は計算機シミュレーションによって体積の温度依存性が特異な性質を

表す原因を明らかにした 8)シリカガラスが負の線膨張係数を示すのはSi-O-Si結合の横振動が激しくなり Si-O-Si結合の全体長が短くなることに起因しているまた体積が極小になる温度より高温の状態ではSi-O-Si 結合の一部が切れて疎な構造になるためである

図 15 一般的なガラスの体積の温度依存性 7)

図 16 シリカガラスの体積の温度依存性 7)

11

114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性

高温のガラスを急冷したことによりガラス構造が凍結されたと考えられる

温度を仮想温度と呼ぶ構造緩和を伴わないで急冷したシリカガラスの構造は

仮想温度に相当する温度でのシリカガラスの構造を反映したものになると考え

られるBruumlcknerにより報告されたシリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)を図

17に示す 密度は仮想温度の上昇とともに増大し1450~1500付近で極大値をとる

図 17で複数の曲線が存在するのは製造方法により異なるためである屈折率は密度の関数であるからこのような仮想温度依存性を把握することは均質な光

学材料を作る上で重要であるしかしながら実際のミクロな構造とどのよう

に対応しているかについては正確には把握されていない

図 17 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)

12

115 光散乱の温度依存性

Saitou-Ikushimaは高温におけるシリカガラスの光散乱(Rayleigh散乱)強度の

温度依存性を測定している 9)(図 18)光散乱強度は温度の上昇に伴い直線的に上昇しているがOH含有量の少ないシリカガラスでは1400 K付近に折れ曲がりが見られるこれがガラス転移点に対応している 図 18 光散乱強度の温度依存性 9)

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 8: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

8

1121 欠陥構造

(a)点欠陥 シリカガラスは遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通すという性質

がある 2) しかしながら先にも述べたように光透過可能な範囲の両端付近では欠陥構造や不純物が存在すると光吸収が生じることがある不純物として

Alや OHなどがある今回の研究は純粋の SiO2を計算機シミュレーションによ

り扱うものであるしたがって不純物の効果は考慮していない ここでは

光吸収の原因となる欠陥構造(点欠陥)についてまとめておく 5 6) 欠陥構造は常磁性欠陥と反磁性欠陥にとよばれるものがある常磁性は不

対電子を含むものであるこれの存在は電子スピン共鳴(ESR [Electron Spin Resonance]または EPR [Electron Pramagnetic Resonance]という)によって検出される 5)不対電子スピンの共鳴吸収が周囲の原子核や軌道電子の影響をうけるため

モデルをつくり量子力学計算をおこなうことにより実験結果と合わせるこ

とにより構造を決めることができる もう一つは反磁性欠陥とよばれものであるこれは不対電子をもってない

いためESRによる観測にかからない (b)常磁性欠陥 常磁性欠陥で最も良く知られているものはEacuteセンターと呼ばれるものである 5 6)これはequivSiで表すことができるここでequivは3個の酸素分子と共有結合していることを示すldquordquoは不対電子を表すEacuteセンターは SiO4正四面

体から一つの酸素が抜けた状態である残り 3 つの酸素は正四面体の頂点にある その他の常磁性欠陥として NBOHC (非架橋酸素欠乏欠陥Non-briging oxygen

hole cener)とよばれるequivSi-O構造のものがある 5 6)NBOHCとは SiO4正四面体

構造の 4 つの酸素のうち一つの酸素は結合していないものであるまたパーオキシラジカル(equivSi-O-O)が知られている 5 6)Eacuteセンターは58 eV(波長 215 nm)にピークをもつ吸収帯をNBOHCおよびパーオキシラジカルは 48 eV(255 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となる (c)反磁性欠陥 反磁性欠陥としては酸素欠乏欠陥パーオキシリンケージなどがあげられ

る酸素欠乏欠陥にはODC(I)ODC(II)とよばれるものがある 5 6)ODC(II)は酸素空孔ともよばれるものでequivSiSiequivで表すことができるこれは Si-O-Si

9

から酸素が抜けた構造であるODC(I)は SiSi 結合(equivSi-Siequiv)ともよばれるもので Siと Siが直接化学結合したものであるそれぞれ502 eV(247 nm)および 76 eV(163 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となるパーオキシリンケージは過酸化結合ともよばれequivSi-O-O-Siequiv構造をしているこれも吸収帯の原因になると言われているが確証はない

10

113 シリカガラスの体積の温度依存性

多成分ガラスや高分子物質の体積の温度依存性模式図 7)を図 15に示すシリ

カガラスの体積の温度依存性模式図 7)を図 16に示す体積は温度の下降とともに減少し極小値をとったのち増大し極大値をとる 吉江は計算機シミュレーションによって体積の温度依存性が特異な性質を

表す原因を明らかにした 8)シリカガラスが負の線膨張係数を示すのはSi-O-Si結合の横振動が激しくなり Si-O-Si結合の全体長が短くなることに起因しているまた体積が極小になる温度より高温の状態ではSi-O-Si 結合の一部が切れて疎な構造になるためである

図 15 一般的なガラスの体積の温度依存性 7)

図 16 シリカガラスの体積の温度依存性 7)

11

114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性

高温のガラスを急冷したことによりガラス構造が凍結されたと考えられる

温度を仮想温度と呼ぶ構造緩和を伴わないで急冷したシリカガラスの構造は

仮想温度に相当する温度でのシリカガラスの構造を反映したものになると考え

られるBruumlcknerにより報告されたシリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)を図

17に示す 密度は仮想温度の上昇とともに増大し1450~1500付近で極大値をとる

図 17で複数の曲線が存在するのは製造方法により異なるためである屈折率は密度の関数であるからこのような仮想温度依存性を把握することは均質な光

学材料を作る上で重要であるしかしながら実際のミクロな構造とどのよう

に対応しているかについては正確には把握されていない

図 17 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)

12

115 光散乱の温度依存性

Saitou-Ikushimaは高温におけるシリカガラスの光散乱(Rayleigh散乱)強度の

温度依存性を測定している 9)(図 18)光散乱強度は温度の上昇に伴い直線的に上昇しているがOH含有量の少ないシリカガラスでは1400 K付近に折れ曲がりが見られるこれがガラス転移点に対応している 図 18 光散乱強度の温度依存性 9)

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 9: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

9

から酸素が抜けた構造であるODC(I)は SiSi 結合(equivSi-Siequiv)ともよばれるもので Siと Siが直接化学結合したものであるそれぞれ502 eV(247 nm)および 76 eV(163 nm)にピークを持つ吸収帯の原因となるパーオキシリンケージは過酸化結合ともよばれequivSi-O-O-Siequiv構造をしているこれも吸収帯の原因になると言われているが確証はない

10

113 シリカガラスの体積の温度依存性

多成分ガラスや高分子物質の体積の温度依存性模式図 7)を図 15に示すシリ

カガラスの体積の温度依存性模式図 7)を図 16に示す体積は温度の下降とともに減少し極小値をとったのち増大し極大値をとる 吉江は計算機シミュレーションによって体積の温度依存性が特異な性質を

表す原因を明らかにした 8)シリカガラスが負の線膨張係数を示すのはSi-O-Si結合の横振動が激しくなり Si-O-Si結合の全体長が短くなることに起因しているまた体積が極小になる温度より高温の状態ではSi-O-Si 結合の一部が切れて疎な構造になるためである

図 15 一般的なガラスの体積の温度依存性 7)

図 16 シリカガラスの体積の温度依存性 7)

11

114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性

高温のガラスを急冷したことによりガラス構造が凍結されたと考えられる

温度を仮想温度と呼ぶ構造緩和を伴わないで急冷したシリカガラスの構造は

仮想温度に相当する温度でのシリカガラスの構造を反映したものになると考え

られるBruumlcknerにより報告されたシリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)を図

17に示す 密度は仮想温度の上昇とともに増大し1450~1500付近で極大値をとる

図 17で複数の曲線が存在するのは製造方法により異なるためである屈折率は密度の関数であるからこのような仮想温度依存性を把握することは均質な光

学材料を作る上で重要であるしかしながら実際のミクロな構造とどのよう

に対応しているかについては正確には把握されていない

図 17 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)

12

115 光散乱の温度依存性

Saitou-Ikushimaは高温におけるシリカガラスの光散乱(Rayleigh散乱)強度の

温度依存性を測定している 9)(図 18)光散乱強度は温度の上昇に伴い直線的に上昇しているがOH含有量の少ないシリカガラスでは1400 K付近に折れ曲がりが見られるこれがガラス転移点に対応している 図 18 光散乱強度の温度依存性 9)

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 10: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

10

113 シリカガラスの体積の温度依存性

多成分ガラスや高分子物質の体積の温度依存性模式図 7)を図 15に示すシリ

カガラスの体積の温度依存性模式図 7)を図 16に示す体積は温度の下降とともに減少し極小値をとったのち増大し極大値をとる 吉江は計算機シミュレーションによって体積の温度依存性が特異な性質を

表す原因を明らかにした 8)シリカガラスが負の線膨張係数を示すのはSi-O-Si結合の横振動が激しくなり Si-O-Si結合の全体長が短くなることに起因しているまた体積が極小になる温度より高温の状態ではSi-O-Si 結合の一部が切れて疎な構造になるためである

図 15 一般的なガラスの体積の温度依存性 7)

図 16 シリカガラスの体積の温度依存性 7)

11

114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性

高温のガラスを急冷したことによりガラス構造が凍結されたと考えられる

温度を仮想温度と呼ぶ構造緩和を伴わないで急冷したシリカガラスの構造は

仮想温度に相当する温度でのシリカガラスの構造を反映したものになると考え

られるBruumlcknerにより報告されたシリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)を図

17に示す 密度は仮想温度の上昇とともに増大し1450~1500付近で極大値をとる

図 17で複数の曲線が存在するのは製造方法により異なるためである屈折率は密度の関数であるからこのような仮想温度依存性を把握することは均質な光

学材料を作る上で重要であるしかしながら実際のミクロな構造とどのよう

に対応しているかについては正確には把握されていない

図 17 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)

12

115 光散乱の温度依存性

Saitou-Ikushimaは高温におけるシリカガラスの光散乱(Rayleigh散乱)強度の

温度依存性を測定している 9)(図 18)光散乱強度は温度の上昇に伴い直線的に上昇しているがOH含有量の少ないシリカガラスでは1400 K付近に折れ曲がりが見られるこれがガラス転移点に対応している 図 18 光散乱強度の温度依存性 9)

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 11: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

11

114 シリカガラスの密度の仮想温度依存性

高温のガラスを急冷したことによりガラス構造が凍結されたと考えられる

温度を仮想温度と呼ぶ構造緩和を伴わないで急冷したシリカガラスの構造は

仮想温度に相当する温度でのシリカガラスの構造を反映したものになると考え

られるBruumlcknerにより報告されたシリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)を図

17に示す 密度は仮想温度の上昇とともに増大し1450~1500付近で極大値をとる

図 17で複数の曲線が存在するのは製造方法により異なるためである屈折率は密度の関数であるからこのような仮想温度依存性を把握することは均質な光

学材料を作る上で重要であるしかしながら実際のミクロな構造とどのよう

に対応しているかについては正確には把握されていない

図 17 シリカガラスの密度の仮想温度依存性 7)

12

115 光散乱の温度依存性

Saitou-Ikushimaは高温におけるシリカガラスの光散乱(Rayleigh散乱)強度の

温度依存性を測定している 9)(図 18)光散乱強度は温度の上昇に伴い直線的に上昇しているがOH含有量の少ないシリカガラスでは1400 K付近に折れ曲がりが見られるこれがガラス転移点に対応している 図 18 光散乱強度の温度依存性 9)

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 12: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

12

115 光散乱の温度依存性

Saitou-Ikushimaは高温におけるシリカガラスの光散乱(Rayleigh散乱)強度の

温度依存性を測定している 9)(図 18)光散乱強度は温度の上昇に伴い直線的に上昇しているがOH含有量の少ないシリカガラスでは1400 K付近に折れ曲がりが見られるこれがガラス転移点に対応している 図 18 光散乱強度の温度依存性 9)

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 13: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

13

(1) 圧縮率の温度依存性 光散乱強度と圧縮率の間には

( ) ( )

( ) ( )[ ] ( )( )11

3838

38

28

4

3

284

3

22

28

4

3

⎪⎪⎩

⎪⎪⎨

lt+

gt=

∆=

infin gBgSBgrelT

gBT

T

TTTkTTkTpn

TTTkTpn

Vpn

ββλπ

βλπ

ρρλ

πα

の関係が成り立つ 9)Saitouらは図 18の測定結果を元にシリカガラスの圧縮率の温度依存性 9)を(11)式から求めた(図 19)圧縮率は 1400 K付近でジャンプしこの温度を境に外力に対する系の応答が変化していることを示してい

図 19 圧縮率の温度依存性 9)

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 14: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

14

116 溶融石英ガラスの構造と融着界面

シリカガラスには天然の石英粉を高温で溶融した溶融石英ガラスと液体原

料から合成した合成シリカガラスがある溶融石英ガラスは天然の石英粉を

溶融しているがその構造は完全に均一にならず原料粉の融着界面の痕跡が残

るすなわち溶融石英ガラスのブロックの両面を研磨して点光源からの光

を透過させると図 110 のような粒状構造が観測される 2)これは粒子の融

着界面の屈折率が粒子内部と異なっていることを示している また図 111のように溶融石英ガラスは紫外線領域の 240 nm付近の光吸収

が見られる一方合成シリカガラスではこのような吸収帯は見られないKuzuuおよびMuraharaら 10 11) はこれらの吸収の原因は溶融石英ガラス生成過程で

融着界面に生じた欠陥構造が原因であるするモデルを提案した詳しいことは

参考文献 [11] にゆずるが融着界面で非結合電子対=Siおよび酸素空孔(equivSiSiequiv)ができておりこれらが吸収帯の原因であるというものである

図 110 溶融石英ガラスの粒状構造 2)

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 15: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

15

200 300 400 5000

50

100Tr

ansm

ittan

ce (

)

Wavelength (nm)

Synthetic Fused Silica OX (OH-containing fuses quartz) HR (OH-free fused quartz)

t = 1 cm

図 111 溶融石英ガラスの吸収スペクトル

OX HR-溶融石英ガラス

その他-合成シリカガラス

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 16: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

16

12 シリカガラスの計算機シミュレーション

シリカガラスの構造を解析する実験手段として回折法や分光法が挙げられ

るしかしながらシリカガラスは非晶質であるため構造に関する個々の実験

結果は部分的な構造に関する知見を与えるにすぎないシリカガラスの構造に

関する大局的な知見を得る有効な手段のひとつとして計算機シミュレーション

があげられる 1976 年に Woodcok12)らがシリカガラスの分子動力学シミュレーションを報告

して以来結晶非晶質ともにシリカに関する多くの研究が報告されている

その研究の多くは地球科学的な興味から実験困難な高温高圧下での構造に関

するものである 計算機シミュレーションのうち分子の構造を考慮したものを分子シミュレー

ションという 13)分子シミュレーションにもさまざまな手法がある主なもの

に分子の量子力学計算を行う分子軌道法(MO 法)分子の構造から Newton力学を用いて分子の立体構造や振動モードを求める分子力学法(MM法)物質のミクロな状態を統計力学的な実現確率にしたがって発生させることにより

統計熱力学的な量を求めるモンテカルロ法(MC 法)構成粒子間の相互作用をもとに分子の Newtonの運動方程式を解くことによる分子動力学法(MD法)13-15)

などがあげられるこれらのうちシリカガラスの大局的な構造を再現すると

いう点からはMD法が重要である

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 17: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

17

13 本研究の目的

シリカガラスはその優れた性質により半導体製造に用いる超高純度の耐熱

材料や紫外線用の光学材料として広く応用されているしかしながらその構

造の形成過程や熱履歴依存性について充分に理解されているとは言いがたい

また高温物性についてはその測定の困難さゆえに研究は少ないもとより非

晶質であるシリカガラスは実験的手段のみによってその構造と物性の関係を

把握するのは困難であるそのため計算機シミュレーションが有力な研究手段

のひとつになる本研究ではシリカガラスの高温物性及び構造形成過程ま

たシリカガラス表面を対象とした分子動力学シミュレーションを行い密度の

温度依存性や仮想温度依存性における特異性圧縮率の温度依存性の再現を試

みた またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なるため光学的に粒

状構造が観測される界面の欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じるこ

のようなシリカ粒子の融着界面の構造を調べるため分子動力学法による計算

を行った

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 18: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

18

第二章 分子動力学法

21 分子動力学法

分子動力学法は構成原子間の相互作用を与えてNewtonの運動方程式を解

くことにより構造や物性を研究する方法である実際に扱うことのできる構

成粒子の数はせいぜい 104から 105個程度であるそこでシミュレーションセ

ルの中に構成粒子を配置させ周期的に配置した周期境界条件を用いることに

よりバルクの性質を再現する計算の良否は使用する原子間の相互作用が

適当であるかどうかにかかっている

N個の粒子からなる系の相互作用のポテンシャルエネルギーは一般に

)()()()( 213221 NNkjiji

jiN uuuU rrrrrrrrrrr LLL +++= sumsumlt

(21)

の形に書ける原子間の相互作用は2個または数個の配置に対して距離を変化させて量子力学計算を行い相互作用ポテンシャルを求めるという方法が用い

られるこのような方法は非経験的方法と呼ばれる 14 15)一方適当な関数型

を仮定して動径分布関数や構造因子などの実験結果が再現できるようにパラ

メタを決める方法もあるこのよう方法により求めたポテンシャルを経験的ポ

テンシャルという 14 15)

Newtonの運動方程式は差分近似を用いて数値的に解く数値解析の方法によって解の安定性が異なるまた計算効率は計算方式(アルゴリズム)が単純

かどうか計算のためのタイムステップを大きくとれるか(すなわちタイム

ステップを大きくしても解が安定がどうか)によってきまる

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 19: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

19

22 数値積分

ここでは分子動力学シミュレーションで用いられている主な数値積分法に

ついて簡単にまとめる 13-15)

221 Verlet 法

Verlet法は時間刻みを hとして n + 1ステップ目の位置ベクトルを nステッ

プ目の位置ベクトルから

ni

ni

ni

ni m

h frrr2

11 2 +minus= minus+ (221)

により計算するこの方法では初期状態以外ではまったく速度を用いないで粒

子の位置を計算することができる速度は

)(21 11 minus+ minus= n

in

ini h

rrv (222)

から計算するこの方法はhの値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っている但しこの式では微小時間間隔での位

置の差分から計算するので桁落ちに注意しなければならない

222 速度 Verlet 法

速度 Verlet法は前節で述べた Verlet法を粒子の速度と位置を同時に求める

ことができるように改良したものである粒子の位置および速度は

ni

ni

ni

ni m

hh fvrr2

21 ++=minus (223)

および

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 20: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

20

)(2

11 ni

ni

ni

ni m

h ffvv ++= ++ (224)

から計算する

位置座標に関してはVerlet 法と全く同じ値を得るしたがってVerlet 法と同様 h の値を比較的大きくとっても安定な解が精度よく求められるという特長を持っているこの方法では粒子の運動を速度とともに追跡するので速

度に関して Verlet法のような速度に対して桁落ちの問題が生じることはない

23 周期境界条件

MDシミュレーションでは有限の個数の系を用いて計算をするそこで

非晶質のシミュレーションにおいても無限に大きい系を扱うためには基本セ

ルと呼ばれる立方体または斜方体の領域に粒子を配置させ図 21に示すように基本セルが 3次元的に周期的に並んだ周期境界条件 13-15)を用いる

図 21 周期境界条件

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 21: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

21

24 静電相互作用

帯電粒子の集合は粒子間にクーロン力がはたらくクーロン力はアルゴン

の分子間力などのような短距離力とは異なり長距離まで強い力を及ぼすので

力を一定の距離 rcで打ち切る方法は精度が悪くて使えないそこでクーロン力

を精度よく計算する方法にエワルド(P P Ewald)の方法 15)がある以下この方法

を Ewald 法と呼ぶこれはイオン結晶のクーロンポテンシャルによる凝集を計算するために考案されたものであるイオン結晶では正負の電荷のイオン

を配置した単位セルが周期的に並んでいるシミュレーションでは基本セル

およびイメージセルがこの基本セルに当たりこの方法によって基本セル内

のイオン間はもちろん基本セルのイオンと他のイメージセルのイオンの相

互作用もとりいれることができる

体系は体積 V = L3の基本セル内の N個の正負イオンからなりその電荷の総和はゼロとするイオン iの電荷を Zieとおくと

01

=sum=

N

iieZ (241)

である体系のクーロンエネルギーU は体系内のイオン同士およびそれとイメージセル中のイオンとの間のクーロンエネルギーの和として

( )

( ) ( )

sum

sum sumsum

sumsum sum

=

gt ==

minus

= +=

minus

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡sdot+sdot+

+

+=

N

ii

k

N

iii

N

iii

k

n

N

i

N

ij ij

ijji

q

rkqrkqekV

nrnr

qqU

1

2

23

0

2

1

2

1

42

0

1 10

4

sincos11

erfc4

1

2

2

επ

α

ε

απε

α (242)

で与えられるNは粒子の総和をαは基本セルとイメージセルとの境界パラメータを示している 電荷 iがうける力 fiは

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 22: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

22

( )

( ) ( ) ( ) ( )sum sumsum

sum sum

gt ==

minus

+minus

ne=

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡sdotsdotminussdotsdot+

+

+

⎥⎥

⎢⎢

⎡+

+

+=

minusnabla=

0 11

42

0

221

10

sincoscossin2

2erfc4

2

2

22

k

N

jjji

N

jiji

k

i

ij

ij

ij

ijN

jijj

i

ri

qqek

qV

en

qq

U

ij

i

rkrkrkrkk

nr

nrnr

r

f

n

nr

α

α

ε

π

ααπε

(243)

となるここでベクトルnkは基本セルとすべてのイメージセルの位置を表す

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 23: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

23

25 電荷平衡法

シリカガラスを構成している原子同士は共有結合により結合している共

有結合といっても電荷には偏りが生じイオン結合性も併せもっている実際

には原子の結合状態によって原子間の電荷移動が生じる特に表面や融着

界面ではバルクと電荷の違いがみられるそのために原子間の電荷移動を考

慮する必要がある電荷の移動は正確には量子力学を適用して計算する必要が

あるが古典的な分子動力学法の枠組みの中で電荷移動の効果を考慮する方法

に Rappe と Goddard によって提案された電化平衡法(Charge equilibration methods以下 QEq 法と呼ぶ)16)があるこれによって原子間の電荷移動を

求めることができるQEq 法の原理はすべての原子の電子に対する化学ポテンシャル 1χ が

1χ = 2χ =hellip= Aχ (251) となるA原子の化学ポテンシャル Aχ は(252)式より求めることができる

sum+=B

BABABAA QRJ )(0χχ (252)

ここで 0

Aχ は初期電化 ABJ は基礎単位電化 eでの A 原子と B 原子間のクーロン積分である シリカガラスは不均一物質であとともに原子は絶えず動いている一方

化学ポテンシャルが等しくなるのは平衡状態に対してであるしかしながら原

子の運動に必要な時間は電荷の動きに比べてより十分に遅いそのため原子

間の相互作用は平衡モデルで計算することができるこのような近似を断熱近

似という (252)にすべての電荷が保存される条件

sum = totQQi (253)

を適用すると次式のような NtimesNの行列を用いた一次方程式

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 24: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

24

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minus

minus=

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜

minusminus

minusminus

001

02

012

1

1111

121121

11

N

tot

NNNNN

NN

Q

Q

QQ

JJJJ

JJJJ

χχ

χχMM

L

MMM

L

L

(254)

を得るこの式を QEq 方程式と呼ぶこの方程式を解くことにより与えられた構造の瞬時の電荷の分布を求めることが出来る QEq 方程式を解くためにはクーロン積分 Jijを正確に求めておく必要がある

Rappeら 16)は i原子と j原子に働くクーロン相互作用 Jijは Slater軌道 Ф(r)を用いて

int minusminus=

22 )(1)()( jji

inijiij rrrr

rdrdrrJ φφ (255)

から求めたここでSlater軌道式は

rnin

ii

ierAr ξφ minusminus= 1)( (256)

で与えられるここで iA は正規化係数ni は最も重要な量子数でである指

数パラメータで ABξ は

1minus

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛+=

B

B

A

AAB n

RnR

ξ (257)

で与えられるSi-Si Si-O O-Oのクーロン相互作用は

( )( ) ba ar

rJ 1

414+

= (258)

で近似することが出来るまたその結果を図 251 に(258)中のパラメタの値を表 251に示す

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 25: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

25

図 251 クーロン相互作用

a b JOO 693501 307951 JSiSi 381721 322006 JSiO 204747 326564

表 251 クーロン相互作用のパラメタ 17)

0 2 4 6 8 100

5

10 144R Joo Jso Jss

JeV

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 26: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

26

26 温度および圧力の制御

シミュレーションでは温度はエネルギー等分配則に基づき

⎟⎠

⎞⎜⎝

⎛= sum

=

N

iiim

NkT

1

2

B 21

32 v (261)

により求める 15)また圧力はビリアルの定理から

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛sdot+= sum

lt jiijijVV

TNkP Fr31B (262)

により求める 15)

温度圧力の制御方法としては能勢-Andersenの方法 14)スケーリング法 15)

などが知られている本研究では温度圧力はスケーリング法によって制御

した

261 スケーリング法

温度スケーリングはここの粒子の速度を

( )⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+timesminus=+ 111

TT

aGni

ni

Targetvvv (263)

に従って操作し段階的に目標の温度TTargetに近づけていく方法である(ここ

で vinは i番目の粒子における nステップ目の速度vGは重心の速度を表す) ま

た圧力スケーリングは系の圧力が所期の値に近づくようにセルサイズ及

び全粒子の位置を

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

TargetCell

1Cell P

PLLn

nn β (264)

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 27: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

27

⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

⎡⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minustimes+=+ 11

Target

1

PPrr

nn

in

i β (265)

に従って逐次変換していく(ここで rinは i番目の粒子における nステップ目の位

置ベクトルを表す)さらに上記のスケーリング係数の中のパラメタα β によってスケーリングの程度を調節するこれは急激なスケーリングによっ

て系が不安定になることをさけるためである

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 28: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

28

第三章 シミュレーション方法

31 ポテンシャル

計算機シミュレーション結果の善し悪しは原子間に働くポテンシャルをどの

ように選ぶかに大きく依存する本研究ではシミュレーションの内容に応じて

二種類のポテンシャルを用いた本来は同一ポテンシャルを使用すべきであ

るが過去の経緯をふまえて異なるポテンシャルを用いた

シリカガラスを研究する上で数多くあるポテンシャルの中で吉江は圧縮率

の温度依存性密度の仮想温度依存性を計算するには Kawamuraポテンシャル 18)

と呼ばれるポテンシャルが最適であることを報告した 8)そこでバルクの性質の

計算に対しては Kawamuraポテンシャルを用いた表面融着界面を研究する上では Demiralpポテンシャル 19)と呼ばれるものを用いたこれは電荷平衡法を

適用するためにパラメタが最適化されていることとKawamuraポテンシャルと本質的に同じタイプであるからである本来はKawamuraポテンシャルのパラメタで電荷平衡法を適用するのに最適化すべきであろうがとりあえず今まで

の研究の延長線上で計算をすすめることにした

一般に相互作用ポテンシャルは(21)式の形で表される多くの系に対する

現象は2体項の和でよく再現することができるイオン結合に対しては2体の相互作用が Born-Mayer-Huggins(BMH)のポテンシャル

86

2

22 exp)()(ij

ij

ij

ij

ij

ijij

ij

jiijji r

ErDr

Ar

eZZruu minusminus⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛minus+⎟

⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛==

ρrr (311)

が用いられる

シリカに対してもこのポテンシャルを改良したさまざまなポテンシャルが用

いられている

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 29: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

29

Kawamura ポテンシャル

SiO4はイオン結合性と共有結合性を併せ持っているそこでKawamura はクーロン相互作用の項の電荷の絶対値を小さくするとともにMorse項と呼ばれる引力項を加え共有結合の効果を取り入れた

Kawamuraポテンシャルは 2体項のみのポテンシャルで

( ) ( ) ( )( )

( )[ ] ( )[ ]

600

2

2

exp22exp

exp4

ijijijijijijij

ij

ji

ji

ijjiji

ij

jiji

rrrrD

r

ccbb

raabbf

reZZ

u

minusminusminusminusminus+

minus⎥⎥⎦

⎢⎢⎣

+

minus+++=

ββ

πεrr

(321)

で表されるこの式の第一項はクーロン力第二項は反発力第三項は分散力

第四項は共有結合の効果をあらわす Morse 項であるここで用いられるパラメタの値は表 331 にSi-OSi-SiO-O 距離に依存性を図 331 に示すBMHタイプのポテンシャルに近接反発力とファンデルワールス力共有結合性を考

慮した Morse項を加えたポテンシャルであるMorse項は Si-Oの組み合わせのみに適用される

Z a (Å) b (Å) c (kJ12Å3mol-12)

Si 24 0945 0090 00

O -12 1926 0160 409

D (J) β(Å-1) r (Å)

Si-O 514times10-19 20 151

表 321 Kawamura ポテンシャルのパラメタ 18)

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 30: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

30

図 321 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャル

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

2 4 6 8 10-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy (e

rg)

Si-Si

Si-O

O-O

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 31: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

31

311 Demiralp ポテンシャル

我々はシリカガラスの表面解析のためにはDemiralp らにより提案されたポテンシャルを用いたこのポテンシャルは Morse 項にクーロン項を加えたものであり

( ) ( )[ ] ( )[ ] lowastlowast minusminusminusminusminus+= ijijijijijijij

jiji rrrrD

reZZ

rru ββπε

exp22exp4

0

2

2 (331)

で表されるクーロン項の ZiZjは電化平衡法により正確に計算さるここで用

いられるパラメタの値は表 331に Si-OO-OSi-Si距離依存性を図 331に示す

D (J) β(Å-1) r (Å) Si-O 31958times10-19 27254 16148 Si-Si 20538times10-21 171743 34103 O-O 37261times10-21 137583 37835

表 331 Demiralp ポテンシャルのパラメタ 19)

図 331 Si-OSi-Si および O-O のポテンシャルエネルギー

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

1 2 3 4 5-1

0

1

2[acute10-10]

Distance(Å)

Ener

gy(e

rg)

Si-O

O-O

Si-Si

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 32: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

32

32 シミュレーション条件

321 等温圧縮率を計算する場合

初期配位としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のからなるβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した(223)式の時間刻み hは 05 fsにとったこれは2000 stepが 1 psに対応する図 321のように常圧下で 500~7000 K間を各温度で 100 ps保持しながら500 Kずつを逐次温度上昇させていった以後このような階段状の昇温を以下 500 K 100 psのように表すことにする

7000 Kで融解した系を初期配置としたこの状態から図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように各温度に 100 ps保持しながら200 K間隔で冷却していったすなわち冷却条件は 200 K 100 psであるこのときの平均冷却速度は 05 psKである 圧縮率を求めるために各温度に保ちながらで常圧 (1 MPa)~10 GPaの間で圧力を逐次加えていったそれぞれの圧力には 100 psずつ保持したこれから求めた体積の圧力依存性の傾きから等温圧縮率を求めた

0 1 2 30

2000

4000

6000冷却速度 05psK

Time(ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 322 冷却過程

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 321 初期配置作成時の温度履歴

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 33: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

33

322 仮想温度の依存性を求める場合

初期条件としてSi 原子 216 個及び O原子 432 個のから成るβ-cristobalite

結晶を用いた速度は設定温度に合わせてマックスウェルボルツマン分布に

合うように初期速度を発生させたその系に 3 次元周期境界条件を適用し速度 Verlet法を用いて数値積分した前節ど同様(223)式の時間刻み hは 05 fsにとった 図 321のように常圧で500~7000 Kの範囲で 500 K 100 psで階段的に温度

を逐次上昇させていった7000 Kで融解した系を初期配置としたシリカこれを図 322のように 7000 Krarr6800 Krarr6600 Krarrrarr400 Kというように 200 K 100 psの冷却速度で階段状に冷却した 各温度で 100 ps保持した状態から常温 300Kまで急冷した急冷後 300 Kに 100

ps保持してから解析をおこなった

0 1 2 30

2000

4000

600005 psK

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

05 fsK

図 332 温度履歴

0 05 10

2000

4000

6000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

図 331 初期配置作成時の温度履歴

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 34: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

34

33 表面および融着界面のシミュレーション方法

331 表面融着界面の作成

図 331のような通常の立方体セルに周期境界条件を適用したバルクのシリカ

ガラスを作ったさらに図 332に示すようにシミュレーションセルの間に空間を作成したこのときの表面を解析対象とした さらに図 332に示す表面状態から空間をなくしていき融着界面を作成し

た空間は基本セル一遍の長さの半分の長さである

図 341 バルク状態のシリカ 図 342 表面状態のシリカ

基本セル

レブリカ

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 35: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

35

332 サンプル作成

図 341 のようなバルクの状態で図 343 に示すようにβ-cristobalite を初期

配置とし 100 K間隔で 100 K1psの速さで順次 8000 Kまで加熱した各温度で50 ps保持した8000 Kで十分に平衡化させた後 100 K100psの速さで 100 K間隔で 2000 Kまで冷却した2000 Kで十分に平衡化したサンプルを図 342のように表面を作成し図 344に示すように 1000 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却し十分に平衡化した後常温 300 Kまで 100 K 間隔で 100 K100psの速さで冷却したこのようにして作成したサンプルを解析したまた表面を

繋げてからすなわち融着界面では 300 K~3000 Kの間で 500 K間隔で温度を上昇させ計算を行った

図 343 バルクでの温度履歴

図 344 表面作成後の

温度履歴

0 01 020

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

larrβ-cristobalite

bulk silica

0 005 010

2000

4000

6000

8000

Time (ns)

Tem

pera

ture

(K)

Surface-silica

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 36: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

36

343 表面融着界面の解析方法

解析は図 345に示すように表面から順番に第 1 Sublayer 第 2 Sublayer 第 3

Sublayer というように層ごとに分割して行ったSublayerの幅は 15Åとしたそれぞれの層に対して密度電荷動径分布関数結合角分布配位数

を求めた

図 345 解析の方法

1st Sublayer2nd Sublayer 3rd Sublayer

1st Sublayer 2nd Sublayer 3rd Sublayer

15Å

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 37: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

37

第四章 体積および等温圧縮率の温度依存性

この章ではシリカガラスのバルクの性質に関する計算結果を示す 液体を十分時間かけて冷却すると融点で結晶化する急冷すると融点を過ぎ

ても結晶にならず準安定な過冷却液体になる(図 15)過冷却液体状態を保ったままさらに温度を下げると流動性を失って固体化するこの固体化する温度

はガラス転移点と呼ばれ熱膨張率折れ曲がりをもつガラス転移は動的な

現象でありガラス転移点は冷却速度に依存する ガラス転移点付近では多くの動的性質が変化するその一つが一章で示した

光散乱強度の実験(図 18)であるレーリー散乱強度は等温圧縮率に関係しているそこで本章では分子動力学法を用いて等温圧縮率の温度依存性を計算

する 圧縮率は物質の柔らかさの指標で外から圧力を加えられたときにその物

質がどのくらい縮むかを表す物性パラメタで

TT P

VV

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

partpart

minus=0

1β (411)

で定義される

(411)式より求めることができる圧縮率の一例として 6300 Kでの体積の圧力依存性を図 41に示すこの傾きは(411)式の (partV partP )T に相当する 図 41 体積の圧力依存性(6300 K)

0 02 04 06 08 1[times109]

042

043

044

045

046

pressure (Pa)

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 )

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 38: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

38

41 圧縮率及び体積の温度依存性

図 411に圧縮率及び体積の温度依存性を示す圧縮率は 2800 K (TD)を境とし

て階段状に増加する3200 K (T)で最大値をとるが減少してほぼ一定値となる温度が Tmin を超えると等温圧縮率は温度とともに増大しはじめる実験値で

は転移温度を境に 18times10-12 cm2dynから 85times10-12 cm2dynに階段状に変化している一方計算結果では 20times10-12cm2dynから 60 times10-12 cm2dynに変化している転移温度の値の違いはあるが等温圧縮率の値は互いによく一致して

いる 圧縮率が階段的に上昇する温度は体積が極小値をとり増大に転じた後減

少する温度に対応しているこの場合ガラス転移点は 3000~4000 Kの間に存在すると考えられる体積の温度依存性からは 4800 K (Tmin)で極小値であることがわかる6000 K以上の圧縮率は温度の上昇とともに増大している 図 411 圧縮率(上)及び体積(下)の温度依存

0

2

4

6

8[times10-12]

Temperature (K)

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]

0 2000 4000 6000

04

042

044

046

048

Spec

ific

Vol

ume

(cm

3 g)

冷却 昇温

TD T T

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 39: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

39

42 構造解析

等温圧縮率の不連続な温度依存性および体積の特異な温度依存性がどのよう

な構造変化に対応しているかを解明するため動径分布関数配位数結合角

分布を求めた

421 動径分布関数の温度依存性

固体構造の解析手段としてX 線回折や中性子回折が用いられている非晶質の構造に対しても動径分布関数は結晶ほど明確ではないが構造に関する

知見を得ることができる通常分子動力学法で用いられる経験的相互作用ポ

テンシャルのパラメタは動径分布関数を再現するように決定されたものである 図 421に動径分布関数の温度依存性及び TDTTminを境に動径分布関数が

どのように変化しているかを示す温度の上昇とともに Tmin をこえたあたりか

らピークが崩れ始めたこれは欠陥構造が増え始めたことを示唆している 図 421 動径分布関数の温度依存性

0 2 4 6 8 100

5

10

15

Radius [Å]

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

RD

F

T

Tmin

TD

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 40: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

40

422 結合角の温度依存性

結合角分布はX 線回折NMR などで実験的に求めることができる但し通常これらの測定は常温での測定にかぎられる高温での結合角分布がわかれ

ば構造をより詳しく把握することができる

MD 計算では各瞬間におけるすべての粒子の座標が明らかになっているそのため構造全体の原子間角度に対して結合角分布を求めることができるシ

リカガラスの構造はSi 原子を中心として4 個の O 原子を頂点とする SiO4

の正四面体を基本単位構造として結合しているそのとき O-Si-O結合角は正四面体角の 1095degになる一方 Si-O-Si 結合角は自由度があるそのため SiO4

四面体の結合状態にはかなりの自由度が考えられる

図 4221に O-Si-O結合角を図 4222に Si-O-Si結合角の温度依存性を示す O-Si-O結合角分布に対しては温度が下がるにつれてピークがはっきりと現れ始めたSi-O-Si 結合角については温度が上がるにつれて Tを過ぎると結合角が小さい方に分布が拡がりし始めることが分かるこのとき結合に関して柔

軟性が増しているが欠陥構造が増大していることによるものと考えられる

このことは図 421 の動径分布関数の第一ピークの強度が Tよりも高温になると低くなることからも裏付けられる動径分布関数の第一ピークの強度

は配位数に対応しているこのことは次節で詳しく述べるSi-O-Si結合角が小さくなるということは最近接の Si-Si間距離が縮まることを示しているこれが体積収縮や圧縮率が高くなる原因であると考えられる

図 4221 O-Si-O 結合角分

布の温度依存性

図 4222 Si-O-Si 結合角分布

の温度依存性

50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

O-Si-O

50 100 150

Si-O-Si

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Tmin

T

TD

Angleθ (deg)

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 41: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

41

423 配位数の温度依存性

配位数はある粒子 iの周りにどの種の粒子が何個どれだけの割合で分布しているかを表す量である

Si原子の周りに分布するO原子の配位数の温度依存性及びO原子の周りに分布する Si原子の配位数の温度依存性を求めたSiO4正四面体構造が完全に保た

れていれば O原子が 4配位した Si原子(以下4配位 Si原子と呼ぶ)の割合が 1になりSi原子が 2配位した O原子(2配位 O原子)の割合が 1になるはずである

図 4231 に Si周りの配位数図 4232に O周りの配位数の温度依存性を示す尚SiO4の割合は動径分布関数の第一ピークの面積に比例する 図 4231 4232に示すように TD (2800 K) 以下の温度ではSi原子のほとんどが Oを 4個配位しているしたがってこの温度領域では SiO4正四面体構

造が保たれていることが分かるT(3200 K) よりも高温になる SiO4正四面体構

造がくずれる 化学結合が解裂して欠陥がふえたために構造が柔軟になり圧縮率が TD~Tの間の温度で増大するものと考えられる

欠陥構造が現れ始めるTmin(4800 K)では正四面体構造の割合が 80 になり 3配位 Si原子や 1配位 O原子の割合が増えているこれはシリカガラスが固体から液体また気体と状態変化していることが考えられる液体または気体にな

ったかどうかは平均二乗変位をみればわかるそこでつぎに平均二乗変位

を計算した

図 4231 Si周りの配位数の割合の温度依存性

図 4232 O周りの配位数の割合の温度依存性

TD T Tmin TD T Tmin

0 2000 4000 60000

05

1

SiO4 SiO3 SiO5Fr

actio

n

Temperature(K)0 2000 4000 6000

0

05

1

Frac

tion

Temperature(K)

OSi2 OSi1 OSi3

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 42: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

42

424 平均二乗変位及び拡散係数

原子の動きを知るには平均二乗変位(Mean square Displacement)を求めればよい平均二乗変位は

( ) ( ) ( ) 2trtrG ii minus+= ττ (45)

で定義される結晶及びガラス状態では粒子は一定の範囲で振動運動している

そのため平均二乗変位が十分時間が経つと一定値となる一方液体状態で

は粒子が拡散運動するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと

直線的に増大するこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液

体に転移したことを確認することができる 図 4241に各温度での平均二乗変位を示す 温度が Tよりも高くなると拡散し始めていることが分かるTminよりも温度

が高くなると拡散速度は急に大きくなるTを超えると液体的な挙動をすることがわかるTminを超えると原子の動きは大きくなるこのとき気体になっ

ている可能性があるシミュレーション時間は短いので気体でも一定の体積

でとどまっている可能性があるそこで体積の時間依存性を調べた

図 4241 各温度の平均二乗変位

0 1 2 3 4[times10-12]

0

1

2[times10-16]

3000 K

4000 K

T

2000 K

Time (s)

MSD

(cm

2 )

3600 K

Tmin

TD

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 43: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

43

図 4242に体積の時間依存性を示す 体積の変化速度を図 4243に示すT le 7000 Kの範囲で0の周りでゆらいで

いるしたがってこの範囲では体積は膨張しないことがわかるしたがって

気体にはなっていないことが分かる 拡散係数は

( ) ( ) 2021lim iit

ttd

D RR minus=infinrarr

(422)

0 002 004 006 008 010

01

02

03

04

05 7000 K5000 K3000 K

Time (ns)

Spec

ific

volu

me

(cm

3 g-1

)

図 4242 体積の時間依存性

4000 5000 6000 7000

-4

-2

0

2

4[times107]

Temperature (K)

Vol

ume

expa

nsio

n ra

te (c

m3 g-1s-1

)

図 4243 体積の変化速度

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 44: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

44

から求められるここでt は時間d は空間の次元今回のシミュレーションは 3次元系をあつかっているので d = 3となるRiは位置ベクトルである平均

二乗変位の直線部分の傾きは(422)式に示すように拡散係数 Dの 6倍となる 拡散係数の温度依存性(アレニウスプロット)を図 4244に示す 図 4241を見ると温度がおおよそ TD以上の温度で拡散し始めるしたがっ

てTDは拡散を始める目安の温度である

図 4244 アレニウスプロット

1 2 3 4 5 610-8

10-7

10-6

10-5

10-4

10-3

10-2500010000 200030004000

Temperature (K)

10000Temperature (K-1)

Diff

usio

n C

oeff

icie

nt (c

m2 s-1

)

TD T Tmin

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 45: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

45

425 体積および等温圧縮率の温度依存性の原因

圧縮率と体積の温度依存性が変化する特性温度 TDTTmin を境に構造がど

のように変化しているかについて考察する

圧縮率の温度依存性の値が低温で一定値となる最高温度 TDの意味について考

察する図 4244 に示すようにTDを境に自己拡散係数の温度に対する傾き

が変化しているTD よりも温度が高くなると温度上昇とともにより拡散しや

すくなっていくことがわかる拡散はしているが体積は一定値の周りをゆら

いでいるので液体状態であることが分かる

動径分布関数について最初のピークは最近接の Si-O対に対応し約 16 Åである次のピークは最近接の O-Oに対応し約 26 Åであることが確認できるTmin付近より温度上昇とともに Si-O のピークの高さが低くなっているこれは Si-O結合が切れ構造が崩れていることを示しているこのことからも体積が減少から増加に転じる理由は欠陥構造の増大によるものと考えられる 次に体積が温度に対して極大値をとり圧縮率が小さい値から大きい値に転

移する Tの意味について考察するT以下の温度では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合はともに 1であるTを境として温度の上昇とともに Si原子の周りに分布する 4配位 Si原子の割合の減少とともに 3配位 Si原子の割合が増大しているまた2 配位 O 原子の割合の減少とともに非架橋酸素の割合が増大するこのようにTは配位数の割合が変化しはじめる温度である 結晶およびガラス状態では粒子は一定の範囲で振動しているそのため平均

二乗変位は時間がたつと一定値となる一方液体状態では粒子が拡散運動

するようになるそのため平均二乗変位は十分時間がたつと直線的に増大す

るこのような挙動の違いから着目している材料が固体から液体に転移したこ

とを確認することができる各温度の平均二乗変位から T以下の温度では粒子

の移動距離はほぼ一定の範囲内に収まっている一方Tを越える温度では粒子

が大きく移動するようになるつまり圧縮率の温度依存性で値が大きく変化す

る温度はガラス転移点と考えられることができる Tをすぎると体積が減少し始めるこれは Si-O-Si結合角分布の温度依存性よ

り説明できるSi-O-Si 結合角分布の温度依存性は高温になるほどピークが低角側に移動しているそれに伴う分布の幅も広がっている分布の広がりが急に

大きくなりはじめる温度は体積が減少し始める温度 Tに対応しているこの

ことは T gt Tで Si-O-Siの横振動が激しくなり最近接 Si-Si間距離が近づくことを示しているその結果体積が温度の上昇とともに縮むものと考えられる 最後に体積の温度依存性で極小値を取る温度である Tmin の意味を考察する

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 46: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

46

O-Si-O 結合角分布はTmin 未満の温度では温度によらず正四面体角である

1095deg付近にピークを持っているTmin以上の温度になると結合角の分布が広が

る分布が広がるということは正四面体構造が崩れ始めていることを示してい

るそのためTで結合が切れはじめるがTmin 以下の温度ではO-Si-O 結合角に対して正四面体角が保たれているそれに対してTminよりも高温になる

とO-Si-O結合角分布の幅か広がることからO-Si-O結合角が大きくゆらぎだすTmin以下ではSiO4正四面体構造のうち一つの結合が切れてもさらに先

の結合があまり壊れていないために正四面体角が保たれるところがTmin

よりも高温になるとさらに先の方の結合も切れ出すことからO-Si-O 結合も大きくゆらぐようになるこのため物質内に隙間ができ体積が膨張する

そのため Tminを境にして体積が減少から増加に転じるものと考えられる この章のテーマである圧縮率の温度依存性について Saitoらの実験結果と比較したものを図 431 に示す横軸はそれぞれ Tおよび Tgで規格化した温度で

ある本研究で求めた等温圧縮率は Saitoらの実験結果と良く一致している 本研究では昇温過程冷却過程で圧縮率を求めた冷却過程に比べて昇温過

程では値が増加する温度が少し高くなっているこの原因は氷に圧力をかける

と水になりやすい特性と同じようにシリカガラスも同様に圧縮すると液体にな

りやすいという特性によるものと考えられる等温圧縮率の計算のため加圧し

たため固体から液体に転移したためであると考えられる

図 431 圧縮率の温度依存性と 齋藤らの実験結果 9)との比較

0 1 20

05

1

[times10-11]

TTTTg

Com

pres

sibi

lity

[cm

2 dyn

]  冷却過程 昇温過程 齋藤ら

9)

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 47: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

47

第五章 密度の仮想温度依存性 シリカガラスのガラス転移点は 1000 以上であるそのような高い温度での物性測定は一般的には困難であるしかしながら構造を理解する上で高温

物性を詳しく測定することが必要になってくる最近Saito Ikushimaらは高温での光散乱や真空紫外光透過スペクトルを測定できる装置を開発して研究

をおこなっているが 9)まだまだ高温での物性の測定は困難であるそこで多

くの場合は高温での状態が凍結されたサンプルを用いて常温で測定を行う ガラスの熱履歴は仮想温度という概念で整理できる仮想温度とは十分高

い温度 TFで安定状態にあったガラスを無限大の速度で常温に急冷したとき温

度TFにおける構造が凍結されたと考えられる温度のことである仮想温度TFは

ガラスの状態を示す指標として用いられるこれ自身の物理的意味については

はっきりしないこともあるが最近赤外吸収スペクトルによって仮想温度を決

める方法が提案されたこれにともない仮想温度によりいろいろな構造や物性

が整理されることが行われるようになってきた 本研究では温度 TFから 300 Kに急冷したときそのサンプルの仮想温度が TF

であるものとしてシリカガラスの構造を計算機シミュレーションにより研究

した

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 48: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

48

51 密度の温度依存性及び仮想温度依存性

第四章で示したようにシリカガラスの構造は特性温度 TDTTminを境に

変化しているそれに対応して仮想温度が TDTTminを境にして同じよう

に構造が変化することが予想される 図 521に密度の仮想温度依存性を示す比較のため同じ図内に密度の温度

依存性を示した密度の仮想温度依存性は温度依存性と同様Tで極小値をとりTminで極大値をとっている図 17 に示す Bruumlckner による実験結果の密度の仮想温度依存性も同様に極大値をもっている Bruumlcknerら測定した密度は仮想温度依存性が約 1400 Kのところで極大値をとるが本研究の結果は極大値が約 4800 K近辺となったこの差は実験とシミュレーションの違いによるものであるガラス転移点は動的な現象であり冷

却速度などに強く依存する現状ではシミュレーションで現実の系の動きを同

じ速度で再現することは計算機の能力上不可能である実際に 10時間計算機を動かしても 100 psしか動いていないことになる現実の系での 1秒間をシミュレーションで再現するには約 1000万年もの時間がかかるこのような大きな時間の差から実験とシミュレーションの間の差が生じるものと考えられる

TD T Tmin

図 521 密度の仮想温度依存性()温度依存性()

0 2000 4000 60002

22

24

26

28 仮想温度依存性 温度依存性

Fictive Temperature (K)

Den

sity

(gc

m3 )

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 49: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

49

52 構造解析

TDTTminを境に構造がどのように変化しているか調べるために動径分布

関数配位数結合角分布を求めたいずれも急冷前の初期配置が違う 10サンプルを室温まで冷却した計算結果を平均したものである

521 動径分布関数の仮想温度依存性

図 531に動径分布関数の仮想温度依存性を示す各仮想温度で Si-Oのピークが 16ÅO-Oのピークが 26Åに存在しているTDTTminを境とした顕

著な変化はなかった

Tmin

T

TD

図 531 動径分布関数の仮想温度依存性

0 2 4 6 8 10Radius (Å)

RD

F

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 50: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

50

522 配位数の仮想温度依存性

図 541に Siに対する O配位数図 542に Oに対する Siの配位数の仮想温度依存性を示す温度の上昇とともに TDまではほぼ完全な正四面体構造を保

っていることが分かるしかしながらTよりも仮想温度が高くなると正四

面体構造がくずれはじめることがわかるこれは欠陥構造の量が仮想温度と

ともに増加していることによる4章で述べた高温の配位数分布に比べると変化が小さいそこで変化を強調するために縦軸の範囲を狭めてプロットし

ているそのため一件データのバラツキが大きく見える5200 K以上でバラツキが大きいのは高温では結合の解劣と再結合を繰り返しているためだと考

えられるまた急冷時にも一部分再結合をするがこれも高温での状態によ

ってバラツキがあるためだと考えられる

図541 Si周りのO配位数の仮想温度依存性

TD T

Tmin

TD

T

Tmin

図542 O周りのSi配位数の仮想温度依存性

0 2000 4000 600009

095

1

0

005

01

SiO4 SiO3 SiO5

Fictive Temperature (K)

SiO

4 Fra

ctio

n

SiO

3SiO

5 Fra

ctio

n

0 2000 4000 600009

092

094

096

098

1

0

002

004

006

008

01

OSi2 OSi1 OSi3

Fictive Temperature (K)

OSi

2 Fra

ctio

n

OSi

1OSi

3 Fra

ctio

n

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 51: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

51

523 結合角の仮想温度依存性

図 551にそれぞれ O-Si-Oおよび Si-O-Si結合角分布を示すO-Si-O結合角分布に関しては Tmin以上の仮想温度ではピーク位置はほぼ Tmin以下の仮想温

度と同じ正四面体角付近であるが分布の幅が広がっている Si-O-Si 結合角に関しては仮想温度が Tよりも大きくなると仮想温度の増

大とともに低結合角値に分布が広がっていくこれは第四章で述べた結合角

の温度依存性と同様仮想温度の増大とともに最近接 Si-Si距離が縮まっていることを示しているこれが仮想温度の上昇にとともに体積が減少する原因であ

ると考えられる

TD

T

Tmin

TD

T

Tmin

図 551 O-Si-O及び Si-O-Si結合角の仮想温度依存性

0 50 100 150Angleθ (deg)

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

O-Si-O

0 50 100 150

P (θ

)

7000 K

6000 K

5000 K

4000 K

3000 K

2000 K

1000 K

Angleθ (deg)

Si-O-Si

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 52: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

52

524 密度の仮想温度依存性の原因

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持った密度が極大値を持つ温度 asymp Tmin の仮想温度で

極大値をとった 仮想温度が TDよりも高くなると配位数が減少した但し高温での配位数

に比べ変化量は少なかったこれは冷却に際して多くの欠陥は再結合す

ることによる第四章で述べたように温度 TDあたりよりも高温になると正

四面体構造が崩れだしていた冷却によって再結合は生じるものの一部は

結合が切れたままになることになるファイバー線引きしたシリカガラスでErsquoセンター(equivSi)や NBOHC(equivSi-O)が観測されることがあるが 5)再結

合しきれない結合が残るためであるファィバー線引きでは2000近い温度から急激に室温まで冷却されるそれに対してガラス生成過程などは長時間

かけて冷却するために通常は Ersquoセンターなどは観測されない欠陥構造の例を図 56に示すで囲んだ部分は 3配位の Si(SiO3) 構造であるがSiO3が三角

柱構造をしておりErsquoセンター(equivSi)に似た構造をとっているただしこの構造の O-Si-O結合角は約 115degで正四面体角 1095degよりは大きな値をとっている このように結合が切れた場合は欠陥構造が残るときがあるが近傍に原子

がある場合には急冷したときに再結合されるものも多いそのため図 541に示すように 90 以上 SiO4正四面体構造になる 図 551 に示すように Si-O-Si の結合角分布は仮想温度の値が TTminを境に

顕著に変化しているこれは両端の原子が結合している原子の影響をうけるた

めにより緩和しにくいからである仮想温度の上昇とともに TD 付近から

Si-O-Si結合角分布が低角側に拡がり始めるそのため最近接 Si-Si間距離が小さくなり体積が減少するのであるさらに仮想温度が高くなると結合角分

布の広がりがより顕著になるそのため欠陥構造の密度が高くなり密度が減

少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこのようなことからで

ある

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 53: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

53

図 56 欠陥構造の例

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 54: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

54

第六章 表面 表面付近の構造は材料の耐久性や製品の性質に大きな影響を与える例えば

結晶は表面から生成されるシリカガラスは高温で使用される場合が多いこ

のとき表面付近から構造変化が進行して様々な性質に影響を及ぼすしか

しながらシリカガラスの表面付近の構造に関する研究は少ないのが現状であ

る表面付近の研究として Tmozawa20)らは熱処理に伴う構造変化を赤外分光に

より調べた西村 21)らKuzuu22)らは酸水素火炎で溶融石英ガラス管を成型加工

したとき断面の構造変化を調べた シリカガラスの表面付近の構造を研究する上でいろいろな困難がある例

えば粒子間の相互作用のうち静電相互作用の影響が無視できないことである

バルクに対しては静電相互作用はエワルド法によって正確に計算することが

できる一方表面がある系に対しては Ewald 法をそのまま適用することはできないそこでGarofalini23)らは遮蔽クーロンポテンシャルを用いてシリカガ

ラス表面の構造の研究をおこなった遮蔽クーロンポテンシャルというのは

物質中でのある点電荷の影響が物質中の正負の電荷により減衰する状態を表

しているこのポテンシャルはシミュレーションセルに比べて短い範囲で減

少するのでEwald法を適用する必要がないバルクに対してはこの近似はかならずしも悪い近似とはいえないが表面付近では他の粒子による遮蔽効果

が働かないので不適当な近似である この問題を解決するために Bakaev24)は巧妙な方法を提案した一辺の長さが L

である立方体のシミュレーションセルの一辺の方向を z軸とする基本セル両側の領域に真空領域を挟みz方向の辺の長さを二倍にするこのときの表面近くの状態を解析するこのような LtimesLtimes2Lサイズの基本セルを並べて周期境界条件を適用するこの系に対しては通常のエワルド法を適用できる薄い層が

無限に並ぶことになるが周期的に全電荷が 0 となるようにならんでいるために他の表面からの影響は無視できる

Wang6 25 26)らはこのような系を用い原子間の電荷移動の効果を電荷平衡法に

より適用し表面付近の構造解析をおこなった本章ではつぎのステップに

つなげるためにWangらの計算の追試をおこなったシミュレーションの条件はWangらと同様でL = 214 Åのシミュレーションセルを用いたこの長さはシリカガラスの密度 22 gcm3に対応しているさらにWangらが求めなかったSi-O-Si結合角分布も求めた

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 55: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

55

61 表面付近の密度分布

図 611に表面付近の密度分布を示す破線で示したのはバルクの密度である 表面の層の密度は約 10 gcm3であり設定密度 22 gcm3の約 12になっている一方表面から二層目以降はほぼバルクの値 22 gcm3に近くなっている

図 611 表面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

Distance from Surface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

uarrBulk silica

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 56: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

56

62 表面付近の電荷分布

図 612に表面付近での各原子種の電荷の分布を示す バルクでのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eとであ

るここでeは素電荷である表面付近では図 612に示すように Siの電荷が10 eOの電荷-05 eと内部の値よりも若干絶対値が小さい表面から遠くなるにしたがって電荷の値はバルクの値に近づいている 図 612 表面付近の電荷分布

0 02 04 06 08 1

0

1

Si Charge O Charge bulk silica

Distance from Surface (nm)

Cha

rge

(e)

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 57: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

57

63 構造解析

表面付近で密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関数配

位数結合角分布を求めた

631 動径分布関数

図 613に動径分布関数の表面からの距離依存性を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピークを持つ(図 421)それぞれのピークは最近接の Si-OO-OSi-Si 対に対応しているシリカガラス内部に行くほどSi-O のピークがよりシャープになっている今後一番内部の層をバルクと呼ぶ表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあるさらに表面では Si-Siのピークがほとんど消滅しているこれは表面では Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が多く 近くにある Si原子の割合が極端に少なくなったためあるいは表面付近の Si の電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる 図 613 表面付近の動径分布関数

1 2 3 4r (Å)

RD

F

z = 90Å

z = 75Å

z = 60Å

z = 45Å

z = 30Å

z = 15Å

z = 00Å

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 58: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

58

632 配位数分布

図 6141に Si周りのOの配位数図 6242にO周りの Siの配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が 1となっているしかしながら表面に近づくにつれて 4配位 Si原子や 2配位O原子の割合が減少し 3配位Si原子や 1配位 O原子が現れ始めているこれは表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増加していくことを示している

図 6141 Si の O 配位数分布

図 6142 O の Si 配位数分布

0 2 4 6 80

05

1

z (Å)

Frac

tion SiO4

SiO3 SiO5

0 2 4 6 80

05

1

Frac

tion

z (Å)

OSi2 OSi1 OSi3

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 59: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

59

633 結合角分布

図 6151に O-Si-O結合角分布を示す シリカガラスはSiO4正四面体構造を基本単位としてOを共有した三次元ネッ

トワークで構成される正四面体構造を保っていれば O-Si-O 結合角は約

1095degにピークを持つはずである実際バルクでは 109deg付近にピークをもっていることが分かる表面に近づくにつれてピークは崩れ始めさらに 80deg付近にも小さなピークが現れるSi-Oボンド長を 16ÅO-Si-O結合角が 80degとしたとき O-Oの距離を計算をすると約 203Åとなる比較のためO原子だけの動径分布関数図 6152に示す確かに 203Å付近に小さなピークが現れていることがわかるO-Si-O 結合角が 80degになる一つの可能性として6 配位 Si原子が考えられるしかしながら配位数が 6になる Si原子は存在しないそこでO-Si-O 結合角が約 80degとなる結合付近の構造を調べたその結果図6154(a)に示すような構造が存在することがわかったこれは2つの Siが 2つの酸素で結合された

O

=Si Si= (6331)

O

のような構造であるこれらの 4つの原子が同一平面上にあるとするとSi-O-Si結合角は 100゜になるこの構造はLinineおよび Garofaliniによっても報告されている 23)彼らはEdge Sharing Stricture と名付けたこれは2つのSiO4正四面体が一つの稜を共有しているからであるここではこれを Si(O)

2Si菱形構造と呼ぶことにする

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 60: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

60

図 6151 O-Si-O 結合角分布の表面からの距離依存性

図 6152 O-O 動径分布関数

203Å

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

O-Si-O

1 2 3 4 5

RD

F z = 90Å

z = 00Å

r (Å)

O-O

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 61: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

61

Si-O-Si 結合角は O-Si-O 結合角に比べて自由度があるそのため熱履歴や構造に強く依存することになるそのため構造を解析する上で大変重要となっ

てくるしかしながらWangはこれを示していないそこでSi-O-Si結合角分布についても計算した図 6153 に Si-O-Si 結合角分布を示す表面付近では100deg付近に小さなピークがみられるこれは先に述べたように(631)に示すSi(O) 2Si菱形構造によるものである実際Si-O-Si結合角が 100゜付近のスナップショットを描いて調べたところ図 6154(b)に示すように Si(O)2Si 菱形構造が存在することが確認された

図 6153 Si-O-Si 結合角分布

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00Å

z = 15Å

z = 30Å

z = 45Å

z = 60Å

z = 75Å

z = 90Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 62: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

62

図 6154(b) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

約 100deg

O原子

Si原子

約 80deg

O原子

Si原子

図 6154(a) Si(O)2Si菱形構造のスナップショット

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 63: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

63

64 表面付近の欠陥構造のまとめ

本章では Wang らの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べたさらに彼らが求めなかった Si-O-Si結合角分布を計算した表面層の密度は約 10 gcm3となりバルクの密度 22gcm3の約 12となった二層目以降はほぼバルクの値に近くなった電荷の絶対値も表面付近ではバルクに比べて

少し小さくなったこのことから表面近くでは粒子の移動が大きく表面から

バルクにかけて構造が違っていることが考えられるそのため表面付近の構造

解析を行った 配位数分布から表面に近づくにつれて欠陥構造が増加したこれに対応して

動径分布関数は表面に近づくにつれてピークが崩れていったこれらのことか

ら表面に近づくにつれてダングリングボンドなどの欠陥構造が増えていく

ことがわかった 以上の結果はWang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布

を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 64: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

64

第七章 融着界面 第六章でWangらが行った計算を追試しシリカガラスの表面についての特性や欠陥構造などについて確認したこの章では Wang らの研究をさらに発展させて表面と表面をつなげ融着界面を作成した作成した融着界面についての

欠陥構造および特性を調べた 表面を常温 (300 K)~3000 Kの間の温度で接合させた後第四章で示したバ

ルクに対するシミュレーション結果から予想されるバルクのシリカガラスの

平衡化時間 100 psの 10倍の 1 ns計算を実行してから密度動径分布関数配位数結合角分布を求めたさらに 1 ns計算を行った系をそれぞれの温度から常温(300 K)まで急冷したこのように接合してから急冷した界面を「融着界面」と呼びそれに対して接合して高温に保ったままの界面を「接合界面」と

呼ぶことにする 最高温度が 3000 Kというのは第四章で述べたように T (3200 K)より温度

が高くなると欠陥構造が増えてくるためである融着界面でも欠陥構造が存在

すると仮定するとその欠陥構造が高温のために生成された欠陥構造化か融着界

面での欠陥構造が分からなくなると考えたため融着界面での最高温度を 3000 Kまでとした

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 65: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

65

71 融着界面付近の密度分布

最初に表面同様接合および融着界面付近の密度分布を調べた接合界面付

近の密度分布を図 711に融着界面付近の密度を図 712に示す 接合温度を 300 Kから 3000 Kまで 500 Kずつ温度を変えて接合および融着界面付近の密度分布を求めたいずれも大きな違いは見られなかった界面

付近の密度は第六章で求めた表面付近の密度と同様バルクに比べて小さい値

をとった

0 02 04 06 08 10

1

2

3

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (Å)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

図 711 接合界面付近の密度分布

図 712 融着界面付近の密度分布

0 02 04 06 08 10

1

2

3

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Den

sity

(gc

m3 )

Bulk darr

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 66: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

66

72 融着界面付近の電荷分布

接合および融着界面付近の電荷分布をそれぞれ図 721および図 722示す バルクのシリカガラスでは Siの電荷は 124 eOの電荷は -062 eである

ここでeは素電荷である Siの電荷については界面付近では値が小さくなる一方 Oの電荷は界面付

近では全体としてほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りがおもに Si原子の間で生じていることを表している

図 721 電荷分布 図 722 電荷分布(冷却)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

0 02 04 06 08 108

09

1

11

12

13

-07

-06

-05

-04

-03

-02

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K Bulk

Distance from Interface (nm)

Si C

harg

e (e

)

O C

harg

e (e

)

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 67: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

67

73 構造解析

融着界面付近での密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために動径分布関

数配位数結合角分布を求めた

731 動径分布関数

図 731~733に接合温度がそれぞれ 300 Kの 1000 K3000 Kでの動径分布関数を図 734735に接合温度が 1000 K3000 K融着界面付近の動径分布関数を示す バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は 16Å26Å32Åにピ

ークを持ち各ピークはそれぞれ最近接 Si-OO-OSi-Si 対に対応している表面での RDFは Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Siのピークがほとんど消滅していたまた第3ピークは29Å付近に見られるこれは表面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなるためだと考えられるそれに比べて融着界面付近での RDF は融着界面からバルクまで Si-O のピークがはっきりと現れているしかしながら Si-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていたこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造(ダングリングボンド)が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる

図 731 融着界面付近の動径分布関数(300 K)

1 2 3 4

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

RD

F

300 K

z = 60 Å

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 68: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

68

接合温度を上げるごとに動径分布関数のピークの幅が大きくなったしかし

ながら界面とバルクでの違いはほとんどなくなった1000 K3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れさらに融着界面で

のピークが 300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた

図 734 動径分布関数

(1000 K rarr300 K)

図 732 動径分布関数

(1000 K)

図 733 動径分布関数

(3000 K)

図 735 動径分布関数

(3000 K rarr300 K)

1 2 3 4

RD

F1000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

RD

F

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

1 2 3 4

1000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)1 2 3 4

3000 K rarr 300 K

RD

F

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

r (Å)

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 69: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

69

732 配位数分布

図 73217322に接合界面および融着界面付近のそれぞれ Si周りの O配位数を示す図 73237324接合界面および融着界面付近のそれぞれに各温度での O周りの Si配位数を示す バルクでは 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合は 1となっている界面

では 4配位 Si原子や 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこのことは界面付近ではダングリングボンド(切れた結合)な

どの欠陥構造が生じていることを示している但しダングリングボンドの割

合は接合前の表面(図 641)に比べて小さいこのことは図 732~735に示す動径分布関数でSi-O ピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している 界面の SiO4SiO3の配位数および OSi2OSi1の配位数の割合は接合界面

を常温に冷却する前後でほとんど変化がなかった両図とも 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かるしかし 2500 Kでは欠陥構造がほぼ 0になっている3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっているつまりダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造がほぼ消滅したことを示

している表面を繫げる場合は T付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残

ることがわかった但し図 711に示すように密度は接合温度が 3000 Kになっても界面で低下していることがわかる

70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

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70

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

OSi2 Structure

OSi1 Structure

図 7323 接合界面付近の O

に対する Si 配位数分布

図 7324 融着界面付近の O

に対する Si 配位数分布

0 02 04 06 08 1

0

05

1

300 K 500 K 1000 K 1500 K 2000 K 2500 K 3000 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

0 02 04 06 08 1

0

05

1

500 Krarr 300 K 1000 Krarr 300 K 1500 Krarr 300 K 2000 Krarr 300 K 2500 Krarr 300 K 3000 Krarr 300 K

Distance from Interface (nm)

Frac

tion

SiO4 Structure

SiO3 Structure

図7321 接合界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

図7322 融着界面付近のSi

に対する Oの配位数分布

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 71: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

71

733 結合角分布

図 7331に常温での接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示す 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約 109degにピークを持つはずで

ある表面ではピークは崩れ始めさらに 80deg付近に小さなピークをもっているそれに比べて融着界面でも 80deg付近に小さなピークがみられる第六章でも述べたようにO-Si-O結合角が 80degであるのは菱形構造が存在することを示しているこのことは図 7332に示スナップショットからも裏付けられる

図 7331 O-Si-O 結合角分布(300 K)

図 7332 菱形構造のスナップショット

約 80deg

O原子

Si原子

0 50 100 150Angleθ(deg)

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 KO-Si-O

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 72: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

72

図 73337334に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の O-Si-O結合角分布を示すまた図 73357336に融着界面付近の O-Si-O結合角分布を示す1000 K では多少のぶれはあるがピークがきれいに現れていることが分かる3000 K に関しては界面からバルクまできれいにピークが現れている1000 Kを常温に冷却したときはピークがいくつかにわかれた3000 Kから常温に冷却したときは比較的なめらかな分布であった 1000 Kでの接合融着界面では80゜付近のピークが見られたしかしながら300 Kで接合直後より強度が弱くなっているさらに3000 Kで接合したものでは 80゜のピークは消滅した菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和したものと考えられる融着界面では 120゜付近のピークあるいはショルダーが見られるこれは平面 SiO3 構造が存在していることを示している

また接合温度が 1000 Kの融着界面では内部まで3000 Kの融着界面では外側(第一層および第二層)で 104゜付近のピークが見られた この原因の一つの可能性としてEacuteセンター (equivSi)または NBOHC (equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる正四面体角であれば 109゜付近にピークをもつが何らかの原因で縮まっていることが考えられる一つ

の可能性としてバルクでは最近接 Si-Siに対応するピークは 32Å(第3ピーク)であるが表面および界面でも 29Å位に見られるこれは図 721に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが何らかの形で O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 73: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

73

図 7333 O-Si-O 結合角分布

(1000 K)

図 7334 O-Si-O 結合角分布

(3000 K)

図 7335 O-Si-O 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 7336 O-Si-O 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150P

(θ)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

O-Si-O

Angleθ(deg)

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

O-Si-O

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 74: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

74

常温での接合界面付近の Si-O-Si結合角分布を図 7337に示す第六章でも述べたとおり Si-O-Si結合角は O-Si-O結合角に比べて自由度が大きい表面付近では 100deg付近に小さなピークがみられた融着界面付近についても 100deg付近に小さなピークがみられたこれは図 7338に示すような=Si(O)2Si=菱形構造に対応している

図 733973310に 1000 K3000 Kでの接合界面付近の Si-O-Si結合角分布

を示すまた図 7331173312に融着界面の Si-O-Si結合角分布を示す1000 Kでは常温よりはピークが安定しているが常温まで冷却するとピークが荒れた接合時の分布がよりなめらかなのは分子が振動しているとともに解裂と再

約 100deg

O原子 Si原子

図 7337 接合界面付近の Si-O-Si 結合角(300 K)

図 7338 菱形構造のスナップショット

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

300 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

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75

結合が進んでいることを示す融着界面で複数のピークがみられるのは界面

で近くにあった分子の結合するものの不自然な形で進むためと考えられる

図 7339 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K)

図 73310 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K)

図 73311 Si-O-Si 結合角分布

(1000 K rarr 300 K)

図 73312 Si-O-Si 結合角分布

(3000 K rarr 300 K)

0 50 100 150

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

1000 K

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

P (θ

)

3000 K

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

1000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

0 50 100 150

3000 K rarr 300 K

P (θ

)

z = 00 Å

z = 15 Å

z = 30 Å

z = 45 Å

z = 60 Å

z = 75 Å

z = 90 Å

Angleθ(deg)

Si-O-Si

76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

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76

74 融着界面のまとめ

バルクのシリカガラスの密度は通常では 22 gcm3であるそれに比べて表面

付近では約 12の値であったまた接合界面融着界面でもバルクに比べて密度は小さくなった電荷に関してはバルクでは Si が 124eOが-062e であるが接合界面融着界面では表面同様に Si の電荷は値が若干小さくなるそれに比べて O の電荷は表面では絶対値が小さくなったものの接合界面融着界面では全体を通してほぼ一定の値を保っているこれは電荷の偏りが主に Si 原子間で生じていることを表している これらの原因をさらに詳しく説明するために構造解析を行った最初に動径

分布関数についてだがバルクでは 16Å26Å32Åにピークが現れそれぞれ Si-OO-OSi-Siに対応している接合界面に関しては表面と同様に Si-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にありSi-Si のピークがほとんど消滅していたこれは接合界面付近で Si の電荷の値が低くなり反発力が弱くなったためだと考えられるしかし融着界面に関しては界面からバルクまで Si-Oのピークがはっきりと現れているこの違いは融着することによって Si-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり近くにある Si 原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる 次に配位数に関してバルクでは SiO4OSi2の割合が 1 となるが表面付近では 4配位 Si原子および 2配位 O原子の割合が減少し 3配位 Si原子や 1配位 O原子が現れるこれはダングリングボンド(切れた結合)などの欠陥構造が生

じていることを示している一方融着界面では表面に比べ欠陥構造が少なく

なっているこのことは動径分布関数では Si-Oピークの高さが界面とバルクの間であまり変化しないことに対応している温度を 3000 Kまで上げて冷却すると完全に欠陥構造はなくなったつまり融着させる場合は T付近まで温度を上

昇させないと欠陥構造が残ることになる 次に結合角分布に関してバルクでは O-Si-O結合角は 109degにピークSi-O-Si結合角は自由度は大きいが約 150deg付近にピークが現れる表面接合界面に関しては O-Si-O結合角は 80degに小さなピークをもちそれに対応して Si-O-Si結合角は 100deg付近に小さなピークをもつこれは=Si(O2)Si=菱形構造が存在していることを示している一方融着界面に関しては 1000 K3000 Kでの接合界面付近では O-Si-OSi-O-Si結合角共にほぼきれいにピークが表れている1000 Kでの接合融着界面ではO-Si-O結合角は 80deg付近にピークがみられたが表面より強度が弱くなっているさらに 3000 Kで接合したものでは 80degのピークが消滅した=Si(O2)Si=菱形構造は本来不安定であるため熱処理によって緩和した

77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

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77

ものと考えられる接合温度が 1000 Kの融着界面では内部で 104゜付近のピークが見られたこの原因の一つの可能性としてEacuteセンター(equivSi)またはNBOHC(equivSi-O)類似の構造ができていることが考えられる実際図 74に示すようにEacuteセンターや NBOHC類似の構造が確認された 動径分布関数ではバルクは最近接 Si-Si に対応するピークは 32Å(第3ピ

ーク)であるが表面および界面では 29Å位に見られたこれは図 721 に示すように界面付近での電荷の値が小さくなりSi-Si 間の反発力が小さくなることが原因と考えられるこれが O-Si-O結合角に影響しているものと考えられるすなわちSi-Si 間距離が縮むことによって結合角が小さくなることが考えられる融着界面が 3000 K では第一層付近のみこのようなピークがみられたがほぼ安定したバルク同様のピークが得られた このように表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間を

かけることが大事になってくる常温で融着させると欠陥構造が生まれること

が分かった一方温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいま

まであった天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子

内部と異なるため図 110 のような粒状構造が観測されるしたがって温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられ

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

Page 78: シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造polymer.apphy.u-fukui.ac.jp/~kuzuu/GroupInside/Thesis/MT... · 2012-03-19 · 2 目次 第一章 序論 1.1 研究の背景

78

図 74 常温における融着界面付近の欠陥構造のスナップショット

O原子

Si原子

Eacuteセンター

NBOHC

菱形構造

79

第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

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第八章 まとめ 本研究ではシリカガラスの高温物性および構造形成過程また表面及び融着

界面を対象とした分子動力学シミュレーションを行った項目ごとにまとめた

結果を以下に示す

81 体積及び圧縮率の温度依存性

圧縮率と体積の温度依存性は温度 TDTTmin を境に変化していたそれに

伴って構造も変化していることが分かった

TDは拡散し始める温度 Tは Si-O-Si結合角の減少にともなう最近接 Si間の距離の縮みにより体積が減少し始める温度 Tminは欠陥構造の増大に伴う体積が減

少から増加に転じる温度であるという結果を得られた

82 密度の仮想温度依存性

密度の仮想温度依存性を計算したところBruumlckner が示したように仮想温度に対して密度は極大値を持つ結果が得られた 仮想温度の上昇とともに TD付近から Si-O-Si 結合角分布が低角側に拡がり始

め最近接 Si-Si間距離が小さくなり密度が増加しTminを超えると欠陥構造が

増加し密度が減少に転じる密度が仮想温度に対して極大値をとるのはこれら

の原因であることが分かった

83 表面について

Wangらの研究結果との比較のためシリカガラスの表面構造を調べ彼らが求めなかった Si-O-Si 結合角分布を計算した結果は Wang らの結果と基本的に同じであるがO-Si-O 結合角分布を計算したところ 80deg付近にに弱いピークが現れたそれに対応してSi-O-Si結合角分布では 100degに弱いピークが現れたスナップショットを描いて確認したところ2つの Siと2つの O原子が菱形を形成しているものであることが分かった

80

84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

81

参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

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84 融着界面について

表面を融着させるときは温度を T付近まで上げてから十分時間をかけること

が大事であり常温で融着させると欠陥構造が生まれることが分かった一方

温度を Tまで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままであることも分か

ったシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料とな

ることはないものと考えられるという結論に至った

85 今後の課題

今後の課題としては融着界面のシミュレーションについて温度を T付近まで

上げても密度は小さいままであったためさらに温度を上げて計算を行い密

度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられるまた融

着させてからの計算時間を増やすことなどが挙げられる具体的には本研究で

は融着させてから 1 nsの計算を行ったが約 10 nsもの計算を行うと結果が違ってくるのではないだろうか

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参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)

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参考文献 1) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」 リアライズ社 (1999) 2) 葛生伸「石英ガラスの世界」 工業調査会 (1995) 3) 貫井昭彦耐化物44497533596728 (1992) 4) 作花済夫「ガラスの辞典」 朝倉書店 (1985) 5) D L Griscom J Ceram Soc Jpm 99923 (1991) 6) L Skuja J Non-Cryst Solides 23916 (1998) 7) R Bruumlckner JNon-CrystSolids 5 123 (1970) 8) 吉江央樹福井大学大学院工学研究科修士論文 (2003) 9) K Saito and A J Ikushima JAppl Phys 84 3107 (1998) 10) NKuzuu and MMurahara Phys Rev B 47 3083 (1993) 11) N Kuzuu H Horikoshi T Nishimura and Y Kokubo J Appl Phys 93 9062

(2003) 12) L V Woodcock C A Angell and P Cheeseman J Chem Phys 65 p1565 (1976) 13) 岡田勲大澤映二編「分子シミュレーション入門」 海文堂 (1989) 14) 上田顯「コンピューターシミュレーション」 朝倉書店 (1990) 15) 河村雄行「パソコン分子シミュレーション-分子動力学実験入門-」海文堂

(1990) 16) AK Rappe WA Goddard J Phys Chem 95(1991) 3358 17) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Appl Phys 92 (2002) 18) K Yamahara K Okazaki and K Kawamura JNon-CrystSolids 291 (2001) 32-42 19) E Demiralp T Cagin and W A Goddard Ⅲ J Phys Chem 95 (1991) 3358 20) A Agarwal and M Tomozawa J Non-Cryst Solids 209 264 (1997) 21) 西村 強芹澤和泉葛生 伸 J Ceram Soc Jpn 108 1034mdash1036 (2000) 22) N Kuzuu Y Kokubo I Serizawa L-H Zeng K Fujii M Yamaguchi K Saito A

J Ikushima J Non-Cryst 333 115-123 (2004) 23) S M Levine and S H Garofalini J Chemical Physics 85 2997 (1987) 24) B P Feuston S H Garofalini J Chem Phys 91 (1989) 564 25) C Wang N Kuzuu and Y Tamai J Non-Cryst Solids (In press) 26) C Wang N Kuzuu and Y Tamai (to be appear on J Non-Cryst Solids)