パルボウイルス感染症による lupus mimickers との …...44 柏 戸 桃 子,他...
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緒 言
全身性エリテマトーデス(SLE)は,自己抗体により種々の免疫学的異常が認められ,皮膚,関節,腎臓,肺,神経系など,多臓器を障害する炎症性疾患であり,寛解と再燃を繰り返す慢性経過を特徴とした疾患である。診断のために,「American College of Rheumatology
(ACR)の分類基準」や厚生省研究班による「小児 SLE診断の手引き」といった分類基準
が広く用いられている。SLEに類似した臨床症状や検査所見を認めるものとしていわゆるLupus mimickersが注目されている 1)。Lupus
mimickersは感染症や悪性・良性新生物,薬剤,ワクチン関連等を含む広範囲の病因に関連して認められ,これらの中で最も頻度が高い病因は,幼児・学童に好発するヒトパルボウイルス B19
(PVB19)感染症である。PVB19感染症は皮疹,関節痛等の多彩な臨床症状や,血球減少,補体低下,抗核抗体や抗 DNA抗体等の種々の自己抗体も陽性化を認めることがあり,SLEを含めた膠原病及びその類縁疾患とも鑑別を要する疾患である。通常感染は一過性であり基本的には臨床所見,検査所見ともに自然治癒する。そ
山梨医科学誌 33(1),43~ 50,2018
パルボウイルス感染症による Lupus mimickersとの鑑別を要した全身性エリテマトーデスの小児例
柏 戸 桃 子 1),2),須 長 祐 人 1),2),廣 瀬 衣 子 1),2),花 井 俊一朗 3),小 鹿 学 1),2)
1)富士吉田市立病院小児科,2)山梨大学医学部小児科3)山梨大学医学部第三内科
要 旨:症例は 11歳,女児。両股関節痛,下肢痛を主訴に整形外科を受診し,皮疹と血小板減少を認めたため,精査加療目的に当科に紹介された。入院時に頬部紅斑,光線過敏,関節炎,血小板減少,抗核抗体陽性,補体低下と全身性エリテマトーデス(SLE)の American College of
Rheumatology(ACR)の分類基準を満たし,SLEによる自己免疫性血小板減少性紫斑病(ATP)が疑われた。同時にヒトパルボウイルス B19(PVB19) IgM抗体価の上昇を認め PVB19感染によるループス様病態,いわゆる Lupus mimickersに合併した特発性血小板減少性紫斑病(ITP)との鑑別を要した。血小板減少が進行するためステロイドパルス療法を 2クール施行し,諸症状は改善した。SLEによる ATP,または PVB19感染症による ITPの鑑別のため免疫抑制剤の併用を留保し,ステロイド単独で経過観察をしていたが,PCR検査は陰性で PVB19 IgM抗体の陰性化後も IgG
抗体が陽性化しないため,最終的に 8ヶ月後に SLEと診断した。PVB19感染の好発年齢である小児患者において,SLEと PVB19感染症による Lupus mimickersとの鑑別には,抗体価や PCR法も合わせて注意深く臨床経過を見ることが重要である。
キーワード 全身性エリテマトーデス,Lupus mimickers,パルボウイルス B19感染症
症例報告
1) 〒 403-0005 山梨県富士吉田市上吉田 6530番地2,3) 〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110番地 受付:2018年 4月 26日 受理:2018年 5月 16日
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のため,SLEの分類基準を満たした小児患者の場合に,免疫抑制剤等の不必要な治療を行うことを避けるために鑑別が重要となる。また,PVB19抗体価は SLE患者で偽陽性を示すことがあるため,IgM抗体,IgG抗体だけでなく,PCR検査を合わせて確認をする必要がある。今回我々は,PVB19 IgM抗体陽性で抗 dsDNA
抗体低値の小児 SLE症例を経験した。PVB19
感染症による Lupus mimickersの可能性を考え診断確定まで免疫抑制剤の併用を留保し,ステロイド治療のみで経過観察としていたが,初診から約 8ヶ月経過後に PVB19感染症を否定し,SLEの最終診断に至ったので報告する。
【患児】11歳,女児。【主訴】皮疹,両股関節痛,下肢痛,血小板減少【家族歴】特記すべき家族歴なし。【既往歴】先天性両側股関節脱臼に対して,生後 5~ 11ヶ月時に装具治療。【内服歴】特記すべき事項なし。【流行】周囲に伝染性紅斑の流行なし。【現病歴】2016年 8月,顔面,手背,前腕,下腿など日光露光部の軽度角化を伴う紅斑を認めたため当院皮膚科を受診した。手指,膝のGottron徴候を疑われたが,皮膚筋炎,その他の膠原病の診断基準を満たさず,経過観察されていたところ,11月には皮疹の改善を認めた。2017年 2月上旬,運動時に特に受傷機転なく両側股関節痛が出現し,歩行困難が持続するようになった。また 3月頃から鼻出血が多く,間欠的に下肢痛と腫脹を認めた。他院整形外科を受診し,両側単純性股関節炎と診断され経過観察されていたが,症状が持続するため当院整形外科に紹介となった。下肢の皮下出血斑と血小板減少を認めたため,4月 26日当科に紹介され精査加療目的に入院した。【入院時身体所見】身長 129 cm(–2.0SD),体重 28.0 kg(–1.1SD)。意識清明,体温 36.7℃,心拍数 109 回 / 分,呼吸数 32 回 / 分,血圧104/59 mmHg,SpO2 99% (room air)。両頬部紅斑あり。肺音清。心音正常,雑音なし,腹部
平坦・軟,肝脾腫なし。皮膚腹部,両下腿に紫斑散在。両股関節に自発痛あり,圧痛なし,強制屈曲により両側疼痛あり,可動域制限あり。大腿,下腿ともに腫脹あり。【入院時検査結果】 血液検査(表 1)では,血小板数 1.8万 /µ l
と著明な減少を認めた。白血球数は 4,150/µ lであったが,リンパ球数は 1,210/µ lとリンパ球減少を認めた。凝固能検査では D-dimerとトロンビン -アンチトロンビン複合体(TAT)の上昇を認めた。生化学では TPの上昇を認め,免疫検査では,免疫グロブリン値上昇,補体低値,抗核抗体は >2,560倍(Specled型)と高値であった。抗 DNA抗体は 14 IU/ml(正常≦6)と上昇していたが,抗 dsDNA抗体は 9.2 IU/
ml(正常≦ 12)と低値で,抗 ssDNA抗体のみ211 AU/ml(正常≦ 25)と上昇していた。抗血小板抗体陽性を認めたが,抗 Sm抗体,抗リン脂質抗体,抗 SS-A抗体,抗 SS-B抗体,抗Jo-1抗体は陰性であった。ウイルス検査では,EBウイルス,サイトメガロウイルス(CMV)IgM抗体は陰性であったが,PVB19 IgMは 2.36(カットオフインデックス <0.8)と上昇していた。尿検査では異常所見を認めなかった。骨髄検査では,有核細胞数 61,250/mm3,巨核球数 31/mm3,幼若な巨核球の増加を認め,異型細胞や貪食像を認めなかった。頭部MRI検査では,Neuropsychiatric SLEを示唆する明らかな病変や脳血管障害は認めなかった。股関節MRI(図 1)では,骨,股関節内には明らかな異常所見はなく,T2強調画像で両側臀部から大腿にかけて筋肉内に淡い高信号域と,筋膜に沿って少量の液体貯留と浮腫を認め,筋炎の所見であった。ガム試験は,2.4 ml/10分。シルマーテストは右眼 5 mm/5分,左眼 10 mm/5分と陽性であった。口唇生検では,4 mm2あたり1focus(導管周囲に 50個以上のリンパ球浸潤あり)を認め,Chronic sialadenitisの所見であった。【入院後経過】(図 2) SLEに伴う自己免疫性血小板減少性紫斑病
45PVB19感染と鑑別を要した小児 SLE
(Autoimmune thrombocytopenic purpura:ATP)または,PVB19感染症に伴う Lupus
mimickersによる特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)
の可能性が考えられた。入院時,SLEの ACR
の分類基準のうち,頬部皮疹,日光過敏,血小板減少,両股関節痛と 4項目を満たしたが,その他,腎障害,神経症状,消化器症状は認めな
図 1. 股関節MRI検査:骨,股関節内には明らかな異常所見はなく,T2強調画像で両側臀部から大腿にかけて筋肉内に淡い高信号域(→)と,筋膜に沿って少量の液体貯留と浮腫(➢)を認めた.
図 2.経過
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かった。SLEの活動性の指標となる SLEDAI
スコアでは,関節炎,皮疹,低補体血症,抗DNA抗体上昇,血小板減少と 11点で 4点以上を示し重症と判定した。またガム試験,シルマーテスト,口唇生検の結果から,Sjogren症候群(SjS)が併発している可能性を考えた。出血症状の増悪を認めなかったが,入院 5日目に,血小板数 1.3万 /µ lと低下が進行したため,SLE,Lupus mimickersによる ITPいずれにも有効と考えられるステロイドによる治療を第一選択とした。小児難治性腎疾患治療研究会のプロトコール(小児 SLE JSRD10(ミゾリビン))
に準じて,メチルプレドニゾロン 1 g/日 3日間に続けてプレドニゾロン(PSL)40 mg/m2/
日 4日間内服を 1クールとしたステロイドパルス療法を 2クール行い,その後 PSL 40 mg/m2/
日を継続した。しかし Lupus mimickersによる ITPの可能性を考慮し,診断確定まで免疫抑制剤の併用を留保し,PSL単独で観察する方針とした。ステロイドパルス療法 1クール終了時,皮膚症状,股関節痛,下腿疼痛は消退傾向であった。パルス療法終了後には血小板数は
2.1~ 2.7万 /µ lを推移し,皮膚症状,関節症状の再燃なく,入院 29日目のシルマーテストで
表 1.検査結果
47PVB19感染と鑑別を要した小児 SLE
は右眼 24 mm/5分,左眼 21 mm/5分と改善を認めた。入院 45日目から PSLの漸減を開始したが,入院 48日目には血小板数 6.9万 /µ lと安定した。その後関節症状の再燃なく,6月 14
日(入院 50日目)に退院した。【退院後経過】 2週間毎に 5 mgずつ PSLを減量し,6月 29
日(治療開始から 61日目)には血小板数 6.4
万 /µ lで安定し,SLEDAIスコアも 1点(血小板減少のみ)と活動性の改善を認めた。7月 21
日には PSLを 20 mg/日まで減量し,その後さらに 2週間毎に 2.5 mgずつ漸減した。この間,臨床症状,検査所見も安定していたが,11月11日に PSLを 5 mg/日まで減量したところ,12月 11日に感冒症状に伴って白血球数 2,930/
µ l,リンパ球数 1,320/µ l,血小板数 2.6万 /µ lと急激な血球減少を認め,顔面,両手,両下肢に発疹の出現を認めた。またシルマーテストで右眼 7 mm/5分,左眼 9 mm/5分と再増悪を認め,SLEDAIスコアは 4点(皮疹,血小板減少,白血球減少)と上昇した。原病の再燃と考え,PSLを 10 mg/日に再度増量したところ,血小板数は 10~ 12万 /µ lに回復した。PVB19感染に関して,2~ 3ヶ月毎に PVB19 IgM,IgG
抗体価の測定を行ったが,2017年 5月(治療開始 23日)までは IgM抗体価の陽性を認めたが,8月以降は陰性化した。IgG抗体価は経過中に陽性化せず,また PVB19 PCR検査は,2017年 5月 12日,2018年 1月 17日ともに陰性であった。IgM,IgG抗体価,PCR検査の結果から PVB19感染症は否定的と考え,一連の臨床症状,検査所見から SLEに伴う ATPと続発性 SjSと最終診断した。2018年 2月頃から顔面と両手の紅斑と血小板数 7~ 8万 /µ lと再度症状の悪化を認め,ステロイド減量が困難なため今後免疫調整剤の導入を検討している。また,経過中に胸膜炎や心膜炎,蛋白尿や血尿,膿尿,尿円柱,神経障害,眼症状を認めていない。
考 察
本症例は,初診時に「ACR基準」で頬部皮疹,日光過敏,血小板減少,両側股関節痛,抗核抗体上昇と 11項目中 5項目を満たし,「Systemic
Lupus International Collaborating Clinics
(SLICC)基準」では,臨床項目で急性皮膚ループス,2カ所以上の関節炎,血小板低下の 11
項目中 3項目と,さらに免疫項目で抗核抗体陽性,補体低値,直接クームス試験陽性と 6項目中 3項目を満たした。「小児 SLE診断の手引き」では,頬部紅斑,光線過敏,関節炎,血小板減少,抗核抗体陽性,補体低下と 12項目中 6項目を満たし,いずれの分類基準でも SLEの基準を満たしていた。しかし抗 dsDNA抗体は低値であり,典型例とは言い難かった。 SLEの鑑別診断として,SLEと類似した臨床症状や検査所見を呈する,いわゆる Lupus
mimickersと呼ばれる疾患群が重要である。Lupus mimickers はまれではなく,Calixto
OJ 1)によると 1973~ 2013年の間に報告された Lupus mimickers 124症例では,44%がSLEの ACR基準を 4つ以上満たしていた。病因としては,ウイルス感染症(PVB19,CMV,EBウイルス,ヒト免疫不全ウイルス(HIV),A型肝炎ウイルス等),真菌感染(トリコフィン属),寄生虫感染(リーシュマニア属,トキソプラズマ属),細菌感染(梅毒トレポネーマ,ボレリア,黄色ブドウ球菌),悪性新生物(バーキットリンパ腫,大細胞型 B細胞性リンパ腫等),良性新生物(キャッスルマン病,菊池病等),薬剤やワクチンの副反応,移植片対宿主病,等が挙げられている。PVB19感染症は,全体の53.2%(66/124症例)を占め最多であり,病因をウイルス感染症に限定すると 88%を占めていた。 PVB19感染症は小児における伝染性紅斑の原因ウイルスであり,ありふれた感染症である。しかしその症状や検査所見は多彩で,SLEの分類基準を一時的に満たし鑑別が困難な例がある。また PVB19感染症の関節リウマチ発症へ
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の関与を指摘する報告 2–4)もある。このように小児に膠原病類似の症状を認めた場合,PVB19
感染との鑑別は重要であると考える。病因がPVB19感染症であった Lupus mimickersの報告 1)では,身体所見としては,皮膚症状が一般的であり,蝶形紅斑は多く認められ,関節炎に伴う関節痛は 75%の症例で報告されている。また発熱,倦怠感,筋肉痛も認められている。一方 SLEと異なる点として,脱毛症,円盤状病変,レイノー現象は認められないと報告されている。検査所見では,血球減少を 29%に,非溶血性貧血を 26%に,低補体血症を 42%に,尿蛋白を 5.3%に認め,抗核抗体は 70%に認められたが,抗 dsDNA抗体は 29%と低頻度であったと報告されている。また,永井ら 5)
の成人 PVB19感染症 15症例の統計によると,皮疹は 15例中 9例(60%)に認め,出現期間は 1~ 5日と短かった。関節痛は 15例中 8例(53.3%),筋肉痛は 5例(33.3%)に認め,どちらか一方,あるいは両方を認めた症例を合わせると 12例(80%)と多く認めた。血清補体価は 15例中 6例(40%)で CH50 30 U/ml未満に低下し,リウマチ因子は14例中7例(50%),抗核抗体も 15例中 7例(46.7%)で 40~ 160
倍と低いが陽性であったと報告されている。本症例でも初期に PVB19 IgM抗体価が陽性であり,身体所見として,顔面紅斑,関節痛,筋肉痛を認め,検査所見で血小板減少,低補体血症,抗核抗体陽性を認めたが抗 dsDNA抗体は低値で,脱毛,レイノー現象もなく,PVB19
感染による Lupus mimickersとしても矛盾しない所見であった。さらに永井ら 5)の報告では,補体低下は 1週~数週間で改善し,抗核抗体は月単位で長く持続し,陰性化まで約 6ヶ月を要した。症状の出現から消失までは 1週未満が4/15(26.7%),1~ 3週が 8/15(53.3%),それ以上は 4週前後持続したものが 2例であったと報告されている。これらの症例から PVB19
感染症による Lupus mimickersであった場合,症状出現から半年程度で臨床症状,検査所見ともに自然消退,改善すると考えられる。本症例
では,症状出現から半年以上経過しても,皮疹の再燃と血小板減少が残存した点が Lupus
mimickersより SLEを示唆する。 SLEと PVB19感染の関連に関しては,SLE
の発症に寄与するという報告 6)や,症状を修飾するという報告 7–9),さらに PVB19 IgM抗体価が偽陽性になるという報告 10)等があり,結論が得られていない。また SjSに関しても,PVB19感染症との関連を示す報告 11,12)と否定的な報告 13)があり,一定の見解が得られていない。本症例は,抗 SS-A抗体,抗 SS-B抗体ともに陰性であり,自覚症状も乏しいことから厳密には SjSの分類基準は満たさず原発性SjSは否定的であったが,唾液腺生検結果からsubclinical SjSが考えられ,当初,SLEに続発した SjSあるいは PVB19感染症によるものの両方の可能性を考えた。 PVB19感染症の診断には,酵素免疫測定法(enzyme immunoassay:EIA)による PVB19
IgMおよび IgG抗体価と PCR法による DNA
検査の 3つが一般的である。一般的に初感染では感染後約 2週間程度で PVB19 IgM抗体の上昇を認め,13日頃から IgG抗体が出現する。IgM抗体は感染後 1ヶ月頃には減衰し,数ヶ月から 8ヶ月間検出され陰性化する。IgG抗体は一度感染すると生涯に渡り陽性となる。伝染性紅斑の出現時期には IgM,IgG抗体ともに陽性となることが多い。本来潜伏感染のないウイルスのため,PCR検査陽性は最近の感染を表し,DNA量は経過とともに急速に減少するが,発症から半年程度は PCR検査陽性を認めることがあるとされている 14)。PCR法は感度が高く,非特異反応も少ないため診断に有用であるが,本症例での検査は single PCR法で,近年主流である nested PCR法に比べると検出感度が低い 15,16)ため,偽陰性の可能性を考慮し,複数回の PCR法と抗体価の推移の併用により感染の有無の判断とした。本症例の抗体価の推移は,IgM抗体が陰性化した後も,IgG抗体が検出されず,初感染として合致しない。また,Moore TL 17)らの PVB19 感染症による Lupus
49PVB19感染と鑑別を要した小児 SLE
mimickers症例 6~ 15歳の 7人の報告によると,臨床症状の持続は 2~ 4ヶ月と様々であるが,全例で PVB19 IgMと IgG抗体価の陽性を認め,いずれも対症療法のみで自然軽快しており,本症例が IgG抗体価の陽性化を認めず,半年以上症状が持続している点で,PVB19感染症による Lupus mimickersの経過とは異なる。ステロイド使用により IgG抗体価の上昇が抑制されている可能性も考えられるが,複数回の PCR検査が陰性であること,さらに SLE
では PVB19抗体が偽陽性になることも知られている 10)ため,本症例は SLEによる PVB19
IgM抗体偽陽性例と考えた。 PVB19感染症による Lupus mimickersは,臨床症状は一過性で改善すると考えられるため,免疫抑制剤の併用を留保し PSLのみで観察し,症状,各種検査とともに,PVB19抗体価の推移を注意深く観察した。最終的に SLE
に合併した ATP,続発性 SjSと診断したが,伝染性紅斑の好発年齢である小児に SLE様の病態を認める場合,Lupus mimickersの可能性を念頭におき鑑別をすすめることはステロイドや免疫抑制剤を長期間使用する弊害を避けるために重要である。本症例は確定診断に至るまで,約 8ヶ月と長期間を要したが,今後症例を蓄積して,より早期に鑑別が可能となるよう検査方法等を確立していく必要があると思われる。
結 語
本症例は SLEの診断確定に長期間を要した。伝染性紅斑の好発年齢である小児に SLE様の病態を呈する場合,PVB19感染による Lupus
mimickersの可能性を考慮して鑑別をすすめることはステロイドや免疫抑制剤を長期に使用する弊害を避けるために重要である。今後症例を蓄積して,より早期に鑑別が可能となるよう検査方法等を確立していく必要があると思われる。
本論文発表にあたり,ご家族に説明を行いインフォームドコンセントを書面で得た。
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