デジタル化への認識と デジタルマーケティングの実...

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デジタル化への認識と デジタルマーケティングの実態調査 - デジタルマーケティングで成果を挙げている企業は37.0%に留まり、今後に期待 - 株式会社富⼠通総研

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デジタル化への認識とデジタルマーケティングの実態調査- デジタルマーケティングで成果を挙げている企業は37.0%に留まり、今後に期待 -

株式会社富⼠通総研

1

目的と調査概要

インターネットやスマートフォンの普及により、ビジネスのデジタル化が進み、産業構造を激変

させる「デジタル・ディスラプション(デジタル化による破壊的変革)」が起き始めた。クラウドの利用

が広がっている ICT 業界や、デジタルコンテンツが普及し始めたメディア業界では、すでにビジ

ネス変革が始まっている。今後 5 年間で、あらゆる産業のトップ 10 企業の 4 割がランク外に追い

やられるとの指摘もあり、時期の差はあるにせよデジタル化の影響は全ての業種に及びそうだ。

そこで、企業におけるデジタル化に対する認識や取組み状況を把握し、業種別の違いや課題

を明らかにすることを目的として、デジタル化が進み始めたマーケティング担当者にアンケート調

査を行った。調査結果からは、業種によるデジタル化の認識の差や、デジタルマーケティン

グへの取り組みの違いが明らかになった。

調査内容

・デジタル化の認識

・デジタルマーケティングの取り組み状況

・ビッグデータと人工知能(AI)技術の導入状況

・デジタルマーケティングで成果を挙げている企業の特徴

・デジタルマーケティングに取り組んでいない企業の特徴

調査方法

・調査対象:年商上位 1 万社のマーケティング担当

・調査手法:郵送告知、ネット回答

・回収数:842 社

・調査実施時期:2016 年 9 月

担当者

・株式会社富士通総研 第二コンサルティング本部デジタルサービス開発室 兼 経済研究所

シニアマネジングコンサルタント 田中 秀樹

・株式会社富士通総研 経済研究所

シニアリサーチアナリスト 柴田 香代子

問い合わせ先 E-mail: [email protected]

本調査結果を読む上での留意点

・100 分率の計算において、四捨五入の影響で、結果数値が 100%にならない場合もある

・複数回答の質問では、結果数値が低い等で全ての選択肢を表示していない場合がある

・業種別グラフにおいて、その他を表示していない場合がある

2

結果要旨

・デジタル化の影響は販売や営業の現場に現れている

インターネットやスマートフォンの普及で、例えば、顧客の商品情報収集や問い合わせはカタログ

や対面といったアナログから、Web 検索や電子メール経由などのデジタルへと変化している。この

ような現場の変化認識をマーケティング担当に聞いたところ、「お客様が商品情報などをインター

ネットで調べるようになった」と答えたのは全体平均で 61.5%となり、「電子メールや Web サイト経由

の問い合わせが増えた」は 31.6%だった。当然、変化は業種によって異なり、「お客様が商品情報

などをインターネットで調べるようになった」と答えた比率は、消費者向け(BtoC)のビジネスを行っ

ている業種で高く、小売・外食業は 71.7%、消費者向けのサービス業は 70.2%に達した。

・デジタル化で企業やビジネスが「既に変化」は 8.6%と少ないが、「変化がありそう」は半数を超える

デジタル化によって企業やビジネスが「すでに大きく変化している」のは全体平均で 8.6%となった。

業種別では、最終顧客と直接取引している業種の比率が高く、BtoB サービス業は 20.2%だった。

デジタル化による変化はまだ一部にしか現れてないが、1~2 年から 5 年位までを合わせた「変化

がありそう」は 52.8%に達し、今後のデジタル変革を半数以上が予想している。

・小売や BtoC サービス業に加えて、BtoB サービス業や製造業もデジタルマーケティングを実践

デジタルマーケティングの取り組み状況は、「既に取組んでいる」が全体平均で 35.3%だった。業

種別に見ると、取り組み比率が高いのは、BtoC 小売・外食業(57.6%)、BtoC サービス業(52.9%)、

BtoB サービス業(38.1%)という順番だ。デジタルマーケティングへの取り組みが先行している BtoC

企業だけでなく、デジタル化によるビジネスの変化認識が高い BtoB サービス業や製造業でも実践

が始まっている。

・デジタルマーケティングで成果を挙げている企業は 37.0%に留まり、今後に期待

ただ、デジタルマーケティングに取り組んでいる企業のうち「成果を挙げている」と答えたのは

37.0%で、残りは「成果はまだ見えていない」、これからに期待がかかる状況だ。特に、BtoC 製造

業(79.3%)、BtoB 製造業(77.4%)で成果は見えていない比率が高くなっている。

・デジタルマーケティングで成果を挙げるために

デジタルマーケティングは、ツールや手法を導入しただけでは成果は得られない。成果を挙げて

いる企業は、社内の協力を得ながら、顧客の獲得・販売といった成果が見えやすい目標を設定し

て PDCA を回している企業が多い。本調査から読み解けたデジタルマーケティングで成果を挙げ

る方法は、デジタル変革の価値を社内で共有した上で、自社に最適な適用領域と展開計画を定

め、経営層や他部門の協力を得ながら、成果が目に見える目標を設定して試行錯誤と PDCA を繰

り返してノウハウを蓄積していくことだ。

回答企業概概要

図 1 回答

図 2 回

3

答企業の業種

回答者の所属部

種構成・売上構

部署・役職構成

構成

4

デジタル化の影響は販売や営業の現場で認識されている

インターネットやスマートフォンが普及し、商品情報やレビューを簡単に入手できるようになった。

また、電話ではなく電子メールや Web サイト経由で、問い合わせや資料請求することも一般的に

なった。では、このようなデジタル化による顧客の変化は販売や営業活動の現場ではどのように

体感されているのだろうか。マーケティング担当者に現場の変化認識を聞いたところ、「お客様が

商品情報などをインターネットで調べるようになった」と答えたのは全体平均で 61.5%となり、「電

子メールや Web サイト経由の問い合わせが増えた」は 31.6%だった(図 3)。

当然、このような変化は業種によって異なる。「お客様が商品情報などをインターネットで調べ

るようになった」と答えた比率は、消費者向け(BtoC)のビジネスを行っている業種で高く、小売・外

食業は 71.7%、消費者向けのサービス業は 70.2%に達した。変化の具体例として、「新製品の

情報や競合他社の価格などを調べてから来店する」や「店頭でスマートフォンを使って調べるお

客様が増えた」、「来店前に調べているので価格のみを知りたがる」といったコメントが挙げられて

おり、BtoC の現場ではインターネットによる影響は大きいようだ。

では、企業向け(BtoB)には影響が無いのだろうか。BtoB の製造業では、「お客様が商品情報

などをインターネットで調べるようになった」と答えたのは 56.6%で、小売・外食業などより少ないも

のの影響は出ている。一方、「電子メールや Web サイト経由の問い合わせが増えた」は、BtoB サ

ービス業で 45.2%、BtoB 製造業で 42.2%と BtoC よりも多い。BtoB では、ある程度の商品情報

は企業サイト上に掲載されるようになったが、詳細情報や価格は掲載しないケースが多い。このよ

うな情報に関しては、これまでは営業担当に問い合わせていたが、今は電子メールや Web サイト

経由にシフトしつつあるようだ。

図 3 販売や営業におけるインターネットによるビジネス変化

61.5 

64.7 

71.7 

70.2 

56.6 

53.2 

54.8 

31.6 

34.1 

20.2 

23.1 

42.2 

24.3 

45.2 

0 10 20 30 40 50 60 70 80

全体

BtoC製造業

BtoC小売・外食業

BtoCサービス業

BtoB製造業

BtoB商社・卸業

BtoBサービス業

お客様が商品情報などをインターネットで調べるようになった

電子メールやWebサイト経由の問い合わせが増えた

N=842

化に

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な変

あり

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もデ

15.2

と直

サー

るか

てい

かり

との

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卸も

可能

このようなデジ

による企業や

は全体平均で

変化がありそう

そう」が 22.7

の変化の予兆

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20.2%となっ

挙げ始めてお

デジタル化の影

2%となってい

直接取引してい

ービス業も本調

からだろう。

一方、変化が

いるため」、「グ

りしている、系

の取引では、デ

り組んでいない

もある。今後デ

能性がありそう

ジタル化による

ビジネスの変

で 8.6%となり

う」が 9.9%、

7%となってお

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種別に見ると

っている。BtoB

おり、これに対

影響が大きく

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なさそうと答え

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デジタル化が

うだ。

る顧客行動の

変化に関する認

り、まだ変化は

「3 年位で大

おり、これらを合

るようだ(図 4

と、「既に大き

B サービス業

応する形で、

く、「既に大き

サービス業や小

げられる。消

営業による販

えた比率が高

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ーケティングが

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が進むと、デジ

図 4 業種別デ

5

の変化は、ビジ

認識を聞いた

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きな変化があ

合わせると 5

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きく変化してい

業は、企業サイ

営業スタイル

きく変化してい

小売・外食業

消費者と直に接

販売比率が 9

高かったのは

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ジタルに取り組

デジタル化に

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たところ、「既

現れていない

ありそう」が 20

2.8%となって

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いる」は 11.1%

業の変化認識

接する小売・外

0.5%と高く、

BtoB の商社

ったコメントが

の企業が多い

スピードアップ

別化を図るた

組まないリスク

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な影響を与え

に大きく変化

いようだ。ただ

0.2%、「5 年

ているので、半

多かったのは、

広告が商談獲

化しているよう

%、「1~2 年

が大きい理由

外食は言うま

顧客の変化

社や卸だ。「取

があったように

ようだ。しかし

プが見込める」

めに重要」と

クが企業に大

認識

えている。デジ

化している」と答

だ、「1~2 年で

年位で大きな変

半数以上の人

、BtoB サービ

獲得手段として

うだ。小売・外

年で大きな変

由として、最終

までもないが、

化を直接体感し

取引相手が固

に、取引関係

し、「新規のお

」、「業界の他

考えている商

大きな影響を与

ジタル

答えた

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変化が

人が今

ビス業

て効果

外食業

化」は

終顧客

、BtoB

してい

固定し

がしっ

お客様

他社が

商社や

与える

6

小売や BtoC サービス業に加えて、BtoB もデジタルマーケティングを実践

では、デジタル化によって、顧客の行動やビジネスに変化が起きたことで、企業におけるデジ

タルマーケティングの取り組みはどのようになっているのだろうか。取り組み状況や目的、ツール

の導入状況等を調査した。なお、本調査を実施する際にデジタルマーケティングの定義は記載

せず、何がデジタルマーケティングの対象になるかは回答したマーケティング担当に任せた。

デジタルマーケティングの取り組み状況は、「既に取組んでいる」が全体平均で35.3%だった。

業種別に見ると、「既に取組んでいる」のが高いのは、BtoC 小売・外食業の 57.6%、BtoC サービ

ス業の 52.9%、BtoB サービス業の 38.1%という順番になった(図 5)。やはり、デジタル化によって

業界が変化している業種は、デジタルマーケティグを積極的に推進している。デジタルマーケテ

ィングに取り組んでいる企業は、「折込チラシの効果が薄れているのに対し、デジタルマーケティ

ングは目に見えて効果がある」、「スマホ時代なので販促ツールとしてあたりまえ」と理由を説明し

ている。

図 5 業種別デジタルマーケティングの取り組み状況

ここからは、デジタルマーケティング実施企業297社を対象として、その実態の分析を進めてい

く。デジタルマーケティングに取り組んでいる企業は、何を目的として取り組んでいるのだろうか。

一番多かったのは「新規見込み客(リード)獲得(47.1%)」だ。デジタルマーケティングのテーマとし

て、リード獲得やリードジェネレーション(育成)がよく取り上げられるが、実際にこのテーマで取り

組んでいる企業が一番多い。

ただ、全ての企業が新規見込み客獲得を目的として取り組んでいる訳ではない。比率は低くな

るものの、「顧客とのコミュニケーション強化や顧客からの情報収集(22.2%)」、「既存顧客へのリピ

ートセル・クロスセル(17.8%)」、「ブランディング(10.1%)」と答えた企業もある。業種別では、BtoB

35.3 

34.1 

57.6 

52.9 

30.6 

16.2 

38.1 

12.1 

17.6 

12.1 

13.2 

9.8 

9.0 

14.3 

26.0 

28.2 

16.2 

19.0 

26.0 

36.9 

22.6 

26.6 

20.0 

14.1 

14.9 

33.5 

37.8 

25.0 

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全体

BtoC製造業

BtoC小売・外食業

BtoCサービス業

BtoB製造業

BtoB商社・卸業

BtoBサービス業

既に取り組んでいる 今後取り組む予定 取り組むかどうか検討中 取り組む予定はない

N=842

7

サービス業が「新規見込み客(リード)獲得(62.5%)」、BtoB の商社・卸業は「顧客とのコミュニケー

ション強化や顧客からの情報収集(44.4%)」、小売・外食業は「既存顧客へのリピートセル・クロス

セル(28.1%)」が平均より高い。企業により取引関係や商品特性など事情が異なり、新規顧客獲

得と既存顧客の継続取引のどちらを重視するのか、の違いがこの結果に現れているようだ(図

6)。

このように、デジタルマーケティングに取り組む目的は企業によって異なる。他社が行っている

から新規見込み客獲得を行うのではなく、自社にとって何が重要かを考え、目的を設定すること

が重要になる。

図 6 業種別デジタルマーケティングの目的

次に、デジタルマーケティングの具体的な手法・ツールとして、ソーシャルメディアマーケティン

グ、コンテンツマーケティング、マーケティングオートメーション(MA)、DMP(Data Management

Platform)の 4 つの実施・導入状況を紹介する。

ソーシャルメディアマーケティングを実施しているのは全体平均で 29.6%と 4 つの中では一番

多かった(図 7)。業種別では、小売・外食業が 45.6%と一番多く、BtoC 製造業 31.0%、BtoC サ

ービス業 29.7%と BtoC が続いた。スマートフォンの普及と共に、消費者にソーシャルメディアの

利用が浸透し、これに対応する形で BtoC 企業のソーシャルメディアマーケティングが盛んになっ

ているようだ。

Web サイトのコンテンツを使ってユーザーに企業の収益に結びつく行動を促す、コンテンツマ

ーケティングを実施しているのは 18.5%と、ソーシャルマーケティングに次いで多かった。業種別

では、BtoB サービス業が 25.0%で一番多く、デジタルマーケティングの目的として「新規見込み

47.1 

37.9 

45.6 

50.0 

52.8 

27.8 

62.5 

17.8 

13.8 

28.1 

17.2 

11.3 

27.8 

12.5 

22.2 

31.0 

19.3 

21.9 

18.9 

44.4 

15.6 

10.1 

17.2 

5.3 

7.8 

13.2 

6.3 

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

デジタルマーケティング実施

BtoC製造業

BtoC小売・外食業

BtoCサービス業

BtoB製造業

BtoB商社・卸業

BtoBサービス業

新規見込み客(リード)獲得 既存顧客へのリピートセル・クロスセル コミュニケーション・情報収集 ブランディング その他

N=297

8

客(リード)獲得」を挙げた業種の実施率が高く、リード獲得・育成でコンテンツマーケティングが実

践されていることが、この結果に表れている。

マーケティング活動における手間のかかるルーティン作業を自動化する、マーケティングオート

メーションの導入比率は 10.8%だった。業種別では、BtoB サービス業が 25.0%、BtoB 製造業が

22.6%と、BtoB 企業の導入が多いのが特徴だ。

自社と外部の様々なデータを一元管理・分析する基盤、DMP(Data Management Platform: デ

ータ・マネジメント・プラットフォーム)を導入しているのは、この4つの中では一番少ない 5.1%だ

った。調査結果では顧客データが社内で統合されていない企業も多いことから、データ分析基盤

の構築はもう少し先の話、という企業が多いようだ。

図 7 業種別既に導入しているマーケティング手法・ツール

29.6 

31.0 

45.6 

29.7 

15.1 

11.1 

15.6 

18.5 

10.3 

15.8 

18.8 

20.8 

11.1 

25.0 

10.8 

3.4 

3.5 

3.1 

22.6 

16.7 

25.0 

5.1 

0.0 

5.3 

7.8 

3.8 

5.6 

3.1 

0 10 20 30 40 50

デジタルマーケティング実施

BtoC製造業

BtoC小売・外食業

BtoCサービス業

BtoB製造業

BtoB商社・卸業

BtoBサービス業

ソーシャルメディアマーケティング コンテンツマーケティング マーケティングオートメーション DMP

N=297

9

参考:ビッグデータと人工知能(AI)技術の導入状況

ここで参考として、昨今話題となっている「ビッグデータ」と「AI(Artificial Intelligence:人工知能)」

技術の導入状況を紹介する。本調査対象の 842 社では、「ビッグデータ」を既に導入している割

合が 6.2%、「AI」が 2.0%で、先に話題となっていたビッグデータの導入の方がやや多いが、まだ

導入は進んでいないようだ(図 8)。

ただ、業種別で見ると、「ビッグデータ」、「AI」ともに、BtoB サービス業、BtoC サービス業、

BtoC 小売・外食業の導入比率が高い。なお、デジタルマーケティングに取り組んでいる企業 297

社の「ビッグデータ」導入率は 12.5%、AI の導入率は 3.7%と全体平均の約 2 倍で、このような先

進的な技術の導入にも積極的な様子が伺える。

図 8 業種別マーケティングツール以外で既に導入している技術

6.2 

2.4 

9.1 

10.7 

3.5 

0.9 

19.0 

2.0 

2.4 

3.0 

3.3 

1.2 

0.0 

6.0 

0 5 10 15 20

全体

BtoC製造業

BtoC小売・外食業

BtoCサービス業

BtoB製造業

BtoB商社・卸業

BtoBサービス業

ビッグデータ

AI

N=842

10

デジタルマーケティングで成果を挙げている企業の特徴

デジタルマーケティングを実践している現場からは、「マーケティングオートメーション・ツールを

導入したが、メール配信にしか使えていない」といった声も聞かれる。デジタルマーケティングに

取り組んでいるものの、成果を挙げられていない企業が多そうだ。

デジタルマーケティングの成果の状況を聞いたところ、取り組んでいる企業のうち「成果を挙げ

ている」と答えたのは 37.0%で、残りは「成果はまだ見えていない」状況だった。業種別では、

BtoC 製造業の 79.3%、BtoB 製造業の 77.4%が「成果はまだ見えていない」と回答しており、製

造業が成果を挙げられていない状況が目に付く(図 9)。BtoB 製造業は、マーケティングオートメ

ーション・ツールを積極的に導入しているが、効果的な活用が出来ていない企業が多い。デジタ

ルマーケティングはツールを導入すれば直ぐに成果が挙がる訳ではない。

図 9 業種別デジタルマーケティングにおける成果の有無

では、このデジタルマーケティングにおける成果の有無の違いはどこから来ているのだろうか。

まず、デジタルマーケティングの目的を比較すると、成果を挙げている企業の目的は「新規見込

み客(リード)獲得」が 55.5%と高い。さらに、「既存顧客へのリピートセル・クロスセル」が 20.9%で

あり、この 2 つを合わせると、8 割弱が顧客獲得・販売を目的としている。これに対し、成果はまだ

見えていない企業は、この 2 つの合計が 6 割弱に留まり、「顧客とのコミュニケーション強化や顧

客からの情報収集」が 25.1%、「ブランディング」が 12.8%と高くなっていた(図 10)。成果を挙げ

ている企業は、目に見える目標を設定している比率が高い。

37.0

20.7

29.8

53.1

22.6

38.9

50.0

63.0

79.3

70.2

46.9

77.4

61.1

50.0

0% 20% 40% 60% 80% 100%

デジタルマーケティング実施

BtoC製造業

BtoC小売・外食業

BtoCサービス業

BtoB製造業

BtoB商社・卸業

BtoBサービス業

成果を挙げている 成果はまだ見えていない

N=297

11

図 10 成果の有無別デジタルマーケティングの目的の違い

当然、この目標設定の傾向はデジタルマーケティングの KPI にも表れている。成果を挙げてい

る企業は、顧客獲得・販売に関連する「受注件数(44.5%)」、「受注金額(39.1%)」、「獲得リード数

(38.2%)」を設定している比率が高い(図 11)。マーケティングの目的として顧客獲得・販売はハー

ドルが高いが、成果を挙げられれば、結果は目に見えるため他部門からも評価されやすい。これ

に対し、「顧客とのコミュニケーション強化や顧客からの情報収集」や「ブランディング」は実際に

成果が挙がっていても客観的な評価は難しく、他部門に価値を理解してもらうのは難しいのかも

しれない。この違いが社内での取り組みに影響を与えているのかもしれない。

図 11 成果の有無別 KPI の違い

さらに、成果を挙げている企業は、体制や仕組みに関しても違いが見られた(図 12)。成果を挙

げている企業では、「データが統合されている」の割合が 40.9%、「多くの部署が分析できるよう

データが整備」が 30.0%、「マーケティング(PDCA)分析を行っている」も 30.0%と、いずれも成果

はまだ見えていない企業よりも高い。このようなデータ統合や整備、PDCA への取り組みも成果を

挙げる一因となっていると言えそうだ。

55.5 

42.2 

20.9 

16.0 

17.3 

25.1 

5.5 

12.8 

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

成果を挙げている

成果はまだ見えていない

新規見込み客(リード)獲得 既存顧客へのリピートセル・クロスセル コミュニケーション・情報収集 ブランディング その他

N=297

44.5 

39.1 

38.2 

18.2 

30.9 

14.5 

32.1 

24.6 

29.9 

16.6 

17.6 

4.3 

0 10 20 30 40 50

受注件数

受注金額

獲得したリード数

(見込み客数)

獲得したリードのうち

商談発生率

獲得したリードのうち

成約した数(CV数)

CPL

(リード獲得単価)

成果を挙げている

成果はまだ見えていない

%

N=297

12

図 12 成果の有無別体制や仕組みの違い

本調査では、デジタルマーケティングに対する「重要性の認識」に関しても調査した。すると、

成果を挙げている企業の 67.3%が、デジタルマーケティングを「とても重要である」と認識している

のに対し、成果はまだ見えていない企業では 44.9%にとどまり「どちらかと言えば重要」の方が

48.7%と多くなっているという結果だった(図 13)。成果を挙げている企業は、成果を実感すること

で、より強く、デジタルマーケティングの重要性を認識して取り組んでいるようだ。

図 13 成果の有無別デジタルマーケティングの重要性認識

デジタルマーケティングの課題に関しても調査したところ、成果の有無に関わらず、「ノウハウが

不足している」、「担当者が不足している」、「予算が不足している」が多かった(図 14)。ただ、成

果を挙げている企業は、「ノウハウが不足している」、「投資効果が見えにくい」、「マーケティング

と営業など組織間に壁がある」、「経営層の理解がない」といった項目の比率が、成果はまだ見え

ていない企業より少なかった。このことから、成果を挙げている企業は、デジタルマーケティングの

40.9 

30.0 

30.0 

36.9 

19.8 

16.0 

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

社内で顧客データが

統合されている

社内の多くの部署が

分析できるように

データが整備されている

売上実績にもとづいて

マーケティング分析

(PDCA)を行っている

成果を挙げている 成果はまだ見えていない

%

N=297

67.3 

44.9 

30.0 

48.7 

2.7 

6.4 

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

成果を挙げている

成果はまだ見えていない

とても重要である どちらかといえば重要である どちらかといえば重要ではない

N=297

13

ノウハウを蓄積し、効果を目に見える形で挙げているため、営業部門などや経営層の協力や理

解が得られていると考えられる。

図 14 成果の有無別デジタルマーケティングの課題

なお、ノウハウに関しては担当者の違いを調査した。デジタルマーケティングは新しい手法で

あり、試行錯誤の中からノウハウを蓄積していく必要がある。この蓄積方法として、担当者の違い

を見たところ、「デジタルマーケティングの専門部署もしくは専任担当者がいる」のは、成果を挙げ

ている企業で 80.9%、成果はまだ見えていない企業は 51.3%となった(図 15)。

図 15 成果の有無別デジタルマーケティング専任担当者

47.3 

45.5 

34.5 

26.4 

23.6 

17.3 

10.0 

6.4 

4.5 

70.1 

50.3 

32.6 

44.4 

33.7 

19.3 

17.6 

17.6 

13.9 

0 10 20 30 40 50 60 70 80

ノウハウが不足している

担当者が不足している

予算が不足している

投資対効果が見えにくい

マーケティングと営業など

組織間に壁がある

他部署の理解や協力がない

必要なツールが導入されていない

経営層の理解がない

デジタルマーケティングの

成果が出ていない

成果を挙げている

成果はまだ見えていない

N=297

%

80.9 

51.3 

17.3 

45.5 

1.8 

3.2 

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

成果を挙げている

成果はまだ見えていない

デジタルマーケティングの専門部署もしくは専任担当者がいる デジタルマーケティングの専門部署・専任担当者はいない

わからない

N=297

14

デジタルマーケティングに取組んでいない企業の特徴

では、デジタルマーケティングに取り組んでいない企業は、どのような特徴があるのだろうか。

回答企業全体 842 社を対象としたデジタルマーケティングへの取り組み状況に関する質問にお

いて、「今後取り組む予定または検討中(38.1%、321 社)」と「取り組む予定はない(26.6%、224

社)」と回答した、デジタルマーケティングに取組んでいない企業は 64.7%に達する(図 16)。

今後取り組む予定または検討中と取り組む予定はないについて、デジタル化によるビジネス変

化の認識を比較すると、「すでに大きく変化している」と認識している割合は、既に取り組んでいる

企業が 15.5%に対して、今後取り組む予定または検討中は 5.0%、取り組む予定はないは 4.5%

と低く、変化の違いがはっきりとしている。また、「1~5 年くらいで大きな変化がありそう」を合わせ

ると、今後取り組む予定または検討中は 57.3%で、取り組む予定はないは 33.0%しかない。この

変化の認識の差がデジタルマーケティングへの取り組みの差に繋がっているようだ。

図 16 デジタルマーケティングの取り組み状況別デジタルによる変化の認識

ただ、現時点でデジタルマーケティングに取り組んでいないと言っても、今後取り組む予定また

は検討中の企業と、取り組む予定はない企業では大きな違いがある。取り組んでいない理由を比

較すると、検討中の企業は「効果が分からず様子見」の割合が 43.8%と高く、取り組む予定はな

い企業は「デジタルマーケティングは自社に必要ない」の割合が 59.8%と高い(図 17)。このこと

から、検討中の企業は、デジタル化による変化は先と認識しており、現在はデジタルマーケティン

グの「効果が分からず様子見」の状況である。効果が認識されれば、取り組みが始まるのかもしれ

ない。一方、取り組む予定はない企業は、そもそも、変化を認識していないために「デジタルマー

ケティングは自社に必要ない」と思っているのだと読み取れる。

26.6 

38.1 

35.3 

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

15.5

5.0

4.5

13.1

10.3

4.9

25.9

19.6

13.4

23.6

27.4

14.7

10.1

23.1

37.9

11.8

14.6

24.6

0% 20% 40% 60% 80% 100%

既に取組んでいる

企業

(297社)

今後取り組む予定

または検討中

(321社)

取り組む予定はない

(224社)

すでに大きく変化している 1~2年で大きな変化がありそう3年くらいで大きな変化がありそう 5年くらいで大きな変化がありそう当面、変化はなさそう わからない

N=842

デジタルによる変化の認識デジタルマーケティング

取り組み状況

15

図 17 デジタルマーケティングに取り組んでいない理由

43.8 

29.2 

22.4 

21.0 

19.2 

13.4 

7.6 

8.0 

59.8 

4.0 

0 10 20 30 40 50 60 70

デジタルマーケティングの効果が

分からず様子見のため

人材や予算が不足しているため

どこから手を付ければいいのか

分からないため

デジタルマーケティングは

自社にそれほど必要ないため

日々の業務が忙しくて取り組む

余裕がないため取り組むかどうか検討中

取り組む予定はない

N=443

16

本調査結果のまとめ

顧客が商品情報などをインターネットで調べ、電子メールで問い合わせが来るなど、販売や営

業活動の現場ではデジタル化による影響が出始め、半数以上のマーケティング担当は、企業や

ビジネスが 5 年以内に大きな変化がありそうと体感している。この変化の認識は、最終顧客と直接

接することが多い、BtoB サービス業や小売・外食業で高くなっているが、固定的な取引関係が多

い BtoB 商社・卸業の一部でも認識されている。

このデジタル化による変化に対応する形で、デジタルマーケティングへの取り組みが進んでい

る。デジタルマーケティングに取り組んでいるのは全体の 35.3%で、BtoC 小売り・外食業と BtoC

サービス業では 50%を超えている。デジタルマーケティングに取り組んでいる企業では、コンテン

ツマーケティング、マーケティングオートメーション、DMP などといった手法・ツールが導入されて

いた。ただ、ツールを導入したものの、成果を挙げられていない企業が多い。デジタルマーケティ

ングを実施している企業のうち、成果を挙げているのは 37.0%に留まり、残りの企業は成果がま

だ見えていない、今後に期待がかかる状況だ。

成果有無の差は、どこにあるのだろうか。成果を挙げている企業は、顧客の獲得・販売といった

成果が見えやすい目標と KPI を設定し、PDCA を実践している。デジタルマーケティングは新た

な手法でノウハウは確立されてなく、また、業種や個社の事情によって適用方法が異なる。他社

の成功事例を真似ても成果は保証されない。このため、試行錯誤を重ねて自社でノウハウを蓄積

する必要がある。

本調査から読み解けたデジタルマーケティングで成果を挙げる方法は、デジタル変革の価値

を社内で共有した上で、自社に最適な適用領域と展開計画を定め、経営層や他部門の協力を

得ながら、成果が目に見える目標を設定して、最適な手法・ツールで試行錯誤と PDCA を繰り返

してノウハウを蓄積していくことだ。

図 18 デジタルマーケティングで成果を挙げるポイント

⾃社に最適なデジタルマーケティング適⽤計画(全体像)

成果が⾒えやすい⽬的設定

適切な⼿法選択

PDCA・試⾏錯誤

ノウハウの蓄積と社内の巻き込み

デジタル変⾰の価値の社内共有

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