中東のガス・lng事業環境と、外資の天然ガス開発 …...図1...

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更新日:2011/11/25 石油調査部:坂本茂樹 中東のガス・LNG 事業環境と、外資の天然ガス開発への取り組み (BP 統計, Energu Intelligence, IEA, コンサルタント資料) 中東産油国(特に湾岸産油国)は豊富な石油収入を基に、国内市場向けに安価なエネルギーを供給 するなど収入の一部を国民に配分ことで、既存の君主制維持を図ってきた。中東は、生活水準の向上と ともに今後電力などエネルギー消費が世界で最も増加する地域の一つと見なされている。しかし域内ガ ス供給はカタールを除くと不足気味であり、クウェート、ドバイは既に LNG を輸入している。現状では 2020 年までにサウジアラビアの LNG 輸入開始も予測され、同年には中東全体の LNG 輸入規模が 1,000 万トン程度に達すると想定される(現在の台湾、中国と同程度の規模)。 湾岸産油国のガス供給価格は$1/MMBtu 程度であって補助金も投入されており、ガス生産者の開発投 資意欲を削ぐ一方でエネルギー浪費に繋がっている。サウジアラビア等の政府は将来のエネルギー供 給源の多様化、ガス価格の順次引上げを検討していたが、2011 年「アラブの春」の社会混乱の自国への 波及を恐れて、実施に踏み切れていない。「アラブの春」では、北アフリカのエジプト、チュニジア、リビ アで権威主義的政治体制が崩壊したが、湾岸産油国(王制)は豊富な石油収入を用いて国民に経済的 便宜を図ることで、体制維持が可能であった。 湾岸産油国など中東の石油ガス資源開発の多くが国営石油会社に委ねられており、IOC が参入できる 事業機会はサワーガスなど条件が悪いガス田開発が中心である。中東には複数のガス開発案件はある が、ガス購入価格が低いために事業採算が悪く、開発推進が難しい。こうした中、中東でガス事業に取り 組む Shell は、非公式ながら「将来のコンデンセート収入を前提にガス購入価格引き上げ」などを提案し て、ガス事業モデルを模索している。 本項では、中東のガス市場・需給の現況を概観して、その課題とガス開発事業の可能性を検討する。 1. 中東のガス需給構造 (1) ガス埋蔵量、生産量 世界の天然ガス埋蔵量分布で、中東は全体の 41%を占め、ロシアを含む欧州ユーラシアの 34%を凌 いで最大である(2010 年、BP 統計)。石油埋蔵量分布に占める 54%に比べて天然ガスの寡占度は低 いものの(BP 統計)、石油ガス埋蔵量における存在感は圧倒的である。 – 1 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に 含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一 切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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Page 1: 中東のガス・LNG事業環境と、外資の天然ガス開発 …...図1 世界の天然ガス埋蔵量分布の推移 (出所)BP 統計 しかし、中東は域内ガス市場が発達しておらず相対的にガス資源商業化が遅れているため、世界のガ

更新日:2011/11/25

石油調査部:坂本茂樹

中東のガス・LNG 事業環境と、外資の天然ガス開発への取り組み

(BP 統計, Energu Intelligence, IEA, コンサルタント資料)

中東産油国(特に湾岸産油国)は豊富な石油収入を基に、国内市場向けに安価なエネルギーを供給

するなど収入の一部を国民に配分ことで、既存の君主制維持を図ってきた。中東は、生活水準の向上と

ともに今後電力などエネルギー消費が世界で も増加する地域の一つと見なされている。しかし域内ガ

ス供給はカタールを除くと不足気味であり、クウェート、ドバイは既に LNG を輸入している。現状では

2020年までにサウジアラビアのLNG輸入開始も予測され、同年には中東全体のLNG輸入規模が1,000

万トン程度に達すると想定される(現在の台湾、中国と同程度の規模)。

湾岸産油国のガス供給価格は$1/MMBtu程度であって補助金も投入されており、ガス生産者の開発投

資意欲を削ぐ一方でエネルギー浪費に繋がっている。サウジアラビア等の政府は将来のエネルギー供

給源の多様化、ガス価格の順次引上げを検討していたが、2011 年「アラブの春」の社会混乱の自国への

波及を恐れて、実施に踏み切れていない。「アラブの春」では、北アフリカのエジプト、チュニジア、リビ

アで権威主義的政治体制が崩壊したが、湾岸産油国(王制)は豊富な石油収入を用いて国民に経済的

便宜を図ることで、体制維持が可能であった。

湾岸産油国など中東の石油ガス資源開発の多くが国営石油会社に委ねられており、IOCが参入できる

事業機会はサワーガスなど条件が悪いガス田開発が中心である。中東には複数のガス開発案件はある

が、ガス購入価格が低いために事業採算が悪く、開発推進が難しい。こうした中、中東でガス事業に取り

組む Shell は、非公式ながら「将来のコンデンセート収入を前提にガス購入価格引き上げ」などを提案し

て、ガス事業モデルを模索している。

本項では、中東のガス市場・需給の現況を概観して、その課題とガス開発事業の可能性を検討する。

1. 中東のガス需給構造

(1) ガス埋蔵量、生産量

世界の天然ガス埋蔵量分布で、中東は全体の 41%を占め、ロシアを含む欧州ユーラシアの 34%を凌

いで 大である(2010 年、BP 統計)。石油埋蔵量分布に占める 54%に比べて天然ガスの寡占度は低

いものの(BP 統計)、石油ガス埋蔵量における存在感は圧倒的である。

– 1 – Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に

含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら

かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一

切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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図 1 世界の天然ガス埋蔵量分布の推移 (出所)BP 統計

しかし、中東は域内ガス市場が発達しておらず相対的にガス資源商業化が遅れているため、世界のガ

ス生産に占める比率(14%、BP 統計)は埋蔵量に比べて小さい。

国際エネルギー機関(IEA)は 2011 年 6 月に発表した「ガス・シナリオ」(WEO, Golden age of gas

rport)で、中東は今後のガス生産の伸びが も高いと想定している。

図 2 世界の天然ガス生産量見通し (出所)IEA“Gas Golden Scenario” 2011 年 6 月

さらに、シナリオ 終年度2035年において主要な中東ガス生産国はイラン、カタール、サウジアラビア

の 3 国であり、豊富な既存ガス埋蔵量を反映して、すべて在来型ガス生産と想定している。

– 2 – Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に

含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら

かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一

切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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図 3 2035 年の主要な天然ガス生産国 (出所)IEA“Gas Golden Scenario” 2011 年 6 月

(2) 中東のガス需給

中東の主要なガス生産国は、イラン、カタール、サウジアラビア、UAEである。カタールを除くといずれ

も主要産油国で、随伴ガス比率が高い。サウジアラビア、イラン、UAE の主要産油国では再圧入される

ガス比率が高く、またイラン、イラクの旧式の油田設備ではガスがフレアされる比率が高い。

20 

40 

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bcm 中東:ガス生産・消費・輸出(2010年,BP)

生産

消費

輸出

図 4 中東のガス生産・消費・輸出数量(2010 年) (出所)BP 統計

– 3 – Global Disclaimer(免責事項)

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図 5 中東主要産ガス国のガス事業構造:国内市場向けと輸出

中東主要産ガス国のガス需給構造は次のタイプに分類される。

① 随伴ガス生産 → 国内市場、(輸出用 LNG): イラン、サウジアラビア、クウェート、UAE

多くが上位の産油国で、随伴ガスの生産量も多い。サウジアラビア、クウェート、UAE は発電用を中心

に、国内でガスを消費する。こうした石油収入の豊富な湾岸産油国は、石油化学など産業化、生活水準

の向上によって電力消費伸び率が高く、発電用ガス供給が不足する状態に陥っている。UAE は発電燃

料の 98%をガスで賄っているが、サウジアラビア、クウェートは発電燃料の 60~70%に高価な石油を宛

てる不合理な構造となっている。クウェート、ドバイ(UAE)は 2009 年、2010 年に LNG 輸入を開始し

た。

イランはロシアに次ぐ世界第 2 位のガス埋蔵量を持ち、South Pars ガス田を含む構造性ガス田開発・

生産も行われている。イランのガス生産量は、米国、ロシア、カナダに次ぐ世界第 4 位で、国内エネルギ

ー源として広くガスが供給されている。イランの主要都市は標高1000m以上の高地に位置して冬の寒さ

が厳しく暖房需要が発生するため、ガス需要構造は中東では例外的に暖房比率の高いロシア・韓国型と

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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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見られる。

0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%

100%

中東の発電燃料比率(2009年)

水力

ガス

石油

図 6 中東の発電燃料比率(2009 年) (出所)各種情報

② 随伴ガス・非随伴ガス→ LNG 向け供給 → 輸出: カタール、オマーン、イエメン

カタール、オマーン、イエメンは、中東では中規模以下の産油国の範疇に入る。

カタールでは、国内市場向けの随伴ガス商業化が実施されている。1971 年に発見された巨大ガス田

North Field 商業化の一環で 1980 年代に Qatargas が設立されて LNG 事業化が検討された。1996

年に Qatargas 第 1 トレインが生産開始された。2000 年代前半に LNG 大型プロジェクトが計画されて

2000 年代後半に順次液化設備が建設され、2010 年末に 7,700 万トン体制が完成した。

オマーン、イエメンでは1990年代に既存油田の随伴ガスを使ったLNGプロジェクトが外国石油企業

から提案され(Shell、Total)、2000年代半ばに輸出向けのLNGが操業開始された。オマーンは近年、

国内向けガス供給が不足気味で、新たなガス供給源を求めている。イエメンは国内ガス市場が未発達で

あり、イエメン LNG 以外のガス商業化は実施されていない。

なお 1880 年以降の長期の戦乱で経済が疲弊したイラクでは設備投資が行われなかったために石油

生産設備の疲弊が著しく、随伴ガス回収施設が整っていない。一部が回収されるのみで多くはフレアさ

れているため、ガス生産量はわずかな数量に止まっている。

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(3) ガス需要構造

石油ガス資源に富む中東の主要産油国は、エネルギー消費のほとんどを石油および天然ガスで賄っ

ている。ガス埋蔵量・生産量が多いカタール、イランは国内エネルギー消費に占めるガス比率が 60-~

70%に達するが、サウジアラビア、クウェートは約 40%に止まっている。両国の発電用燃料に占める石

油比率は 60~70%に達し、効率的なエネルギー消費の観点から改善余地が大きい。

0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%

中東1次エネルギー消費比率(2010年,BP統計)

再生可能

水力

原子力

石炭

ガス

石油

図 7 中東主要国の 1 次エネルギー消費比率 (出所)BP 統計

中東の今後のエネルギー需要伸び率は、中国・インドを擁するアジアに次ぎ、世界でも高い部類に位

置すると想定される(IEA「ガス・シナリオ」 2011 年6 月)。ガス需要の増加量(2010→2035 年)も中国、

OECD 加盟国合計に次いで多い。

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図 8 地域別ガス需要増加量(2010→2035 年) (出所)IEA“Gas Golden Scenario” 2011 年 6 月

(4) 増加する LNG 輸入

中東は世界で有数の石油ガス生産地域であり、特に石油収入に恵まれた湾岸産油国では石油化学

などの産業開発が計画され、また生活水準の向上とともに安価に設定された電力などのエネルギー需

要が増加し易い環境にある。また産業化、生活水準の向上は水消費の増加に繋がり、海水淡水化用電

力消費が増える構造にある。一方、域内ガス開発の事業環境は条件が悪いために現状では大幅なガス

生産増加が期待しにくく、将来は LNG 輸入量が増加して一定の市場規模を構成すると見られる。現在

の LNG 輸入国はクウェート・UAE(ドバイ)の 2 カ国であるが、やがてサウジアラビアも LNG 輸入を余

儀なくされ、2020 年の域内 LNG 輸入量が 1,000 万トンに達すると見込まれる(=現在の中国、台湾と同

程度)。

国営クウェート石油(KPC)は2011年11月、火力発電燃料の石油代替の 善策として、2016-17年に

恒久的なLNG受け入れ設備設置を提案した。クウェートは現在、VitolとShellから季節需要用に短期・

中期契約で LNG を購入している。継続的な LNG 消費を見込んで中期・長期契約による LNG 輸入を

提案したものである。クウェートは発電燃料に占める石油比率が約 70%と高い。このまま石油を発電用

に消費し続けるのは、輸出用の貴重な石油資源の浪費である。輸入 LNG は高額だが、石油を発電用

に消費するよりは、はるかに安い発電用燃料である。

– 7 – Global Disclaimer(免責事項)

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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

オマーンでは2011年電力需要は16%の大幅な伸びが見込まれており、将来のLNG輸入の可能性

が指摘される。同国は既にカタールから Dolphin PL で 200MMcf/d のガスを輸入しているがさらに大

口輸入が必要と見られている。オマーン LNG 生産は設備能力に達しておらず、長期契約を履行するた

めにこれ以上 LNG 生産量の削減はできない状況にある。

中東がある程度大きな規模の LNG 市場に成長する見通しが高くなったため、LNG 事業者も有望な

成長市場の一つとして中東ガス市場動向を注視する必要性が高まる。

2. 安い国内市場向けエネルギー価格と高い補助金額

(1) ガス価格

中東(産油国)市場向けガス供給価格は$1/MMBtu 以下に設定されているケースが多く、世界で も

安い水準にある。随伴ガスの供給比率が高いためにもともと生産コストは安く、イラン・湾岸産油国では

社会の安定を維持する政治的な意図から、国民向けエネルギー価格を極めて安く設定している。

イランの近隣向けガス・パイプライン輸出を除くと、中東のガス輸出はカタール、UAE(アブダビ)、オマ

ーン、イエメンによるLNG輸出、およびカタールのUAE・オマーン向けパイプラインガス輸出(Dolphin

PL)である。中東 LNG の東アジア向け輸出価格$ 12-14/MMBtu(2011 年 1-8 月)に比較して(カター

ルは市場価格制を採る英国向け比率が高いために平均売価が低い)、国内市場向け価格は

$1/MMBtu以下と極端に安い。尤も他のガス輸出国も国内向け価格が低いのは同様であって、2010年

のロシアの欧州向けパイプラインガス価格は国内市場向け価格の 4.5 倍、豪州でも LNG 輸出価格は国

内市場向け価格の約 3 倍であった。

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$/MMBtu 各国ガス価格(国内市場VS.輸出)

国内市場

LNG輸出

図 9 中東他各国のガス価格(国内市場向け、輸出)

(出所)Gas Matters, Platts, コンサルタント資料

(期間)LNG 価格=2011/1-8 月、ロシア・ガス価格=2010 年

(注) LNG は購入価格であって、液化コスト・輸送費を含む

(2) 国内市場向けエネルギー価格への補助金投入

IEA は健全なエネルギー市場の育成を目的に、世界のエネルギー補助金の状況を調査して、警告を

行っている。IEA は 2011 年に発表した補助金分析報告において、サウジアラビアとイランを世界で も

エネルギー補助金額が多い国と指摘した(図 10 参照)。同報告によると、イラン、次いでサウジアラビア

が石油・ガスを併せた補助金額で世界の 上位に位置する。両国は GNP に占める補助金額の比率に

おいても、世界で第 1 位と 2 位であった。ガスに対する補助金額は、イランとロシアが 上位にある。両

国ともにガス埋蔵量で世界1、2位を占めるガス資源国であり、国内市場向けに安価なガスを豊富に供給

している。

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図 10 中東など各国の 2010 年補助金額比較 (出所)IEA 推定

エネルギー補助金の形態は、国営石油会社が負担するケースもあり、一概に国家予算に計上される補

助金額の多寡がエネルギー市場価格の実態を正確に反映しているわけではない。東南アジアで も安

い水準にあるとされるマレーシアの国内市場向けガス価格は、ガス事業を独占する国営石油 Petronas

が補助金相当額を負担する形で実施されている。しかし、中東は世界で も多い補助金を投じてエネル

ギー価格を低く抑えている地域である。

3. ガス価格:

(1) エネルギー供給方式改革の動き

湾岸産油国は、高額の原油価格によって豊富な石油収入を得ており、体制維持のためにその一部を

国民福祉に使い、また安価な公定価格で国内市場にエネルギー(石油製品、電力、ガス)を供給するこ

とが可能である。しかし、長期的観点から見ると、エネルギー供給価格が安いために需要の伸び率が極

めて高く、やがては原油輸出余力を圧迫して財政破綻に繋がる可能性がしばしば指摘される。実際に、

1980 年代後半に原油価格が暴落した際には湾岸産油国は軒並み財政逼迫を経験した。湾岸産油国側

もこのシナリオの懸念を十分に理解しており、その対策がしばしば議論されている。2010 年 4 月にサウ

ジアラビア国王によって設立された King Abdullah Centre for Atomic & Renewable Energy は

2011 年に長期エネルギー供給調査を発表して、原子力・再生可能エネルギーの促進、化石燃料消費

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削減を提唱した。しかし現在は豊富な化石燃料に恵まれてその供給に困らない湾岸産油国に取って、

巨額の資金と労働力、時間を割いてエネルギー供給構造を転換するのは生やさしいことではない。

図 11 サウジアラビア Ka-care による同国エネルギー供給見通し

(2) エネルギー価格値上げの動きと挫折

サウジアラムコは、安く設定された国内向けエネルギー公定価格を徐々に引き上げ、原油輸出力の維

持を図る計画であり、その方針は政府・王族にも了承されている。特に、$0.75/MMBtu のガス価格引き

上げを計画してきた。しかし 2011 年の「アラブの春」の反政府運動は湾岸産油国にも及び、社会混乱を

避けるためにガス価格引き上げは見送られる結果になった。王族から成るサウジアラビア政府は、政治

的問題(社会混乱の回避)は経済問題に優先するとして、エネルギー価格引き上げは長期視野から徐々

に実施する事を選択した。

中東の他国にも産業用ガス価格値上げの動きがある。バーレーンでは 2011 年9 月、2012 年1 月か

ら産業用ガス価格を50%値上げして$2.25/MMBtuにする旨が表明された。インド紙は2011年11月、

オマーン Oman India Fertilizer Co.向けガス価格値上げを報道した($0.77/MMBtu →

$3.00/MMBtu)。

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4. 中東のガス開発事業環境:

(1) 石油ガス資源開発権への参入

サウジアラビア、クウェートを含む有力湾岸産油国、イラン、イラクなど有力産油国での石油ガス資源開

発事業は主に各国国営石油会社によって操業されており、外国企業の事業参入は限られている。石油

開発への参加は可能なケースであっても短期・厳しい経済条件のサービス契約に基づいている。サウジ

アラビアなど有力湾岸産油国の参入機会は、サワーガス(硫化水素を含む)、タイトガスなどの開発が難

しいガス田案件に限定されているのが実態である。

中東の主な国内市場向け非随伴ガス田開発事業を下表に記す。

表 1 中東の主要な国内市場向けガス田開発案件 (出所)各種情報・報道 該当国 事業・案件名 事業者 事業段階 備考

サウジアラビア Kidanサワーガス田 Shell     50% 2011/11 ガス田評価計画承認(Rub' al Khali 砂漠) Saudi Aramco 50% ~2013  評価作業実施Karanガス田 Saudi Aramco 100% 2011/7  生産開始 サウジ初の非随伴ガス田

アブダビ Shahサワーガス田 ADNOC     60% 2007   落札、契約締結 2010、ConocoPhillips撤退Occidental   40% 2014   生産開始予定 2011、Occidental 参入

オマーン Khazzan-Makarem BP 2007 落札、試験生産中 価格条件改善を要求か (Block 61、タイトガス) 2013   FIDを計画 (US$2-2.90/mcf)

イラク Basrah Gas Co South Gas Co 51% 2011/11 政府が計画承認・ Rumaila, Zubair, Majnoon(随伴ガス処理事業) Shell 44%       契約締結 West Qurna 1随伴ガス処理

三菱商事 5% →発電用等国内市場向けAkkasガス田 Kogas 2011   契約

2013   生産開始Kormor/Chemchemal Pearl Petroleum 2007   サービス契約締結 ナブッコ進展待ち

(Dana Gas, Crescent 2020   生産開始予定 MOL , OMV)

Al Khaleej Gas(RasGas) ExxonMobil  100% 2005   生産開始 国内市場向けカタール Barzan (RasGas) QPC       93% 2011   開発作業開始 モラトリウム前、最後のガス開発

ExxonMobil    7% 2014/Q1 生産開始予定 国内市場向け供給

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に

含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら

かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一

切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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図 12 中東の主要な国内市場向けガス田開発案件 (出所)各種情報・報道

サウジアラビア、アブダビ、オマーン等の既存ガス生産は随伴ガスがほとんどであり、非随伴ガス田開

発事業は少ない。Saudi Aramco が 2011 年 7 月に生産開始したサウジアラビア Karan ガス田は同国

で初めての非随伴ガス田事業である。外資が参加する案件は、いずれもサワーガス、タイトガスなど開

発が難しい案件である。有力な湾岸産油国には外資の事業参入機会が少ないため、歴史的経緯から該

当地域の石油ガス開発に知見を持つ有力IOC (BP、Shell、ExxonMobil等)はプレゼンス拡大を求め

て課題の大きいガス田開発にも参入を図っていると考えられる。しかし条件の悪い事業環境下で明確な

事業計画が組めない局面もあり、アブダビの Shah サワーガス田開発事業ではオペレーターの

ConocoPhillips が撤退する経緯があった。

イラクの原油生産量(246 万 b/d、2010 年、BP 統計)は中東で 5 位と中位にある。同国は有望な産油

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国であるが 1980 年のイランイラク戦争開始から湾岸戦争に至るまでの戦乱で石油生産設備は大きな被

害を受けた。ほぼ 30 年間にわたって石油開発投資が実施されていないために、生産設備の疲弊が甚

だしい。随伴ガス処理設備が不備のためにフレアされるガス量が多く、世界で 4 番目のガス・フレア大国

と言われる。従って既存のガス生産量はわずかである。しかし現政治体制の下、2009 年から数時に渡っ

て実施された油ガス田開発国際入札によって油ガス田開発を回復させる途上にあり、今後の石油ガスの

増産ポテンシャルは高い。

Shell が主導する南部主要油田随伴ガス処理事業 Basrah Gas Co は、3 年以上の審査期間を経て

2011 年 11 月にようやく政府承認を得た。同事業は、第 1-2 次入札で落札された南部主要油田

(Rumaila(オペレーター=BP), Zubair(Eni), West Qurna 1(ExxonMobil))において現在は多くが

フレアされている随伴ガスを処理して 1~2 Bcf/d のガスを供給する計画である。本事業が進展すれば

有力な国内市場向けガス供給源になり、将来はガス輸出の可能性もある(欧州向けパイプラインガス、ま

たは LNG 輸出)。

イラクの非随伴ガス田事業は少なく、既存計画は Dana Gas, Crescent 等が参加する Pearl

Petroleum 程度である(Kormor/ Chemchemal ガス田開発→ナブッコ等パイプラインで欧州向け輸出

を計画)。イラク政府が2010年に実施した第3次入札によって、Akkasガス田(オペレーター=Kogas)、

Mansuriyahガス田(TPAO)、Sibaガス田(クウェートKEC)開発の落札が決まった。2013~15年に生

産を開始する計画とみられる。しかしイラクは行政組織が脆弱であるため石油ガス開発、特にガス開発

は不透明要素が大きく、速やかな進展は期待し難しい。

カタールは大ガス田 North Field に恵まれて LNG 輸出事業から高収益を享受しており、North

Field ガス田の段階的開発により国内市場向けガス供給も実施し、ガス利用が進んでいる。しかし 2005

年のモラトリウム政策によって、新たなガス田開発は実施されていない。それ以前の主要なガス事業は

Dolphin(UAE、オマーン向けパイプラインガス輸出、2007年から25年間、Occidental/アブダビ政府)、

Al Khaleej Gas(国内市場向け、2007 年~、)等である。モラトリウム政策前の 後のガス事業 Barzan

が計画中である(国内市場向け、Rasgas)。

(2) 低いガス売価で厳しいガス事業環境

中東は豊富な石油資源に恵まれているが、政策的にガス価格を低く抑えているために、ガス開発事

業者は事業採算を確保するのが難しい。公営ガス部門がガス生産者から購入するガス価格は$0.5~

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1.5/MMBtu 程度に抑えられている。先端技術を使ってサワーガス、タイトガス開発など困難な事業に取

り組まざるを得ない外国企業にとって、この安く設定された価格条件はガス開発へのインセンチブを大き

く削いでいる。

(3) Shell の中東ガス事業取り組みと国際会議での提言

Shell はカタールのメガ LNG 事業を含めて、中東ガス事業に広く関与している。しかしガス価格が極

端に低い中東ガス事業環境は Shell にとっても同様に厳しい。Shell が推進するイラクの随伴ガス処理

事業(Basrah Gas Co)は、3年もの審議期間を経て2011 年11月にイラク政府の承認を取得、これから

事業が開始される。Shell は事業コストをカバーできる実質的な収入確保の方策を検討中である。同社

は 2011 年 10 月にドバイでの国際エネルギー会議である提言を表明した。政府系ガス公社が国内市場

向けガス販売価格を低く維持する一方で($1/MMBtu 程度)、ガスプロジェクトが将来得られるコンデン

セート販売収入を原資として、政府系公社に国内市場向けガス販売価格を上回る価格($2/MMBtu 以

上)でガス生産者からの購入を求める、というものである。

Shell はサウジアラビア Saudi Aramco との共同事業(Srak)Kidan サワーガス田開発で評価作業中

である。特殊な開発技術を要するサワーガス田開発はサウジアラビアが設定するガス購入価格

($0.75/MMBtu)では全く採算水準に達しない。Shell は 2013 年に予定する 終投資決定に向けて、

サウジアラビア当局に必要なガス購入価格引き上げを求める意向である。Shellの論拠は、「高額で売れ

る石油系燃料、高い輸入 LNG を発電燃料として使うよりは、適切なコストを負担して国内ガス開発を実

施し国産ガスを使う方がはるかに経済的」ということだ。その通りである。サウジアラビア政府もその論拠

を理解してガス購入価格見直しを検討する可能性があるが、明言していない。

Shell にとっての弱みは、こうしたガス田開発参入は入札によって決定されることである。先述のアブ

ダビ Shah サワーガス田開発入札に際して(2008)、Shell は UAE の通常ガス買い取り価格($1.0~

1.5/MMBtu)を大きく上回る$4.0/MMBtuの条件で応札したが、UAEの期待額に近い条件で応札した

ConocoPhillips に敗退した。やはり中東のガス田開発事業環境は厳しく、事業実施は難しい。なお先述

したように、UAEのShahサワーガス田開発では、オペレーターConocoPhillipsがその後撤退し、パー

トナーADNOC は Occidental を後継に据えた。

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(4) 中東でのガス事業環境の見通し

将来にわたって(原油価格が強含みで推移するとの前提にて)豊富な石油収入も持つ中東産油国市

場はガス事業者にとっても魅力的な市場である。一定の石油収入を前提にした上で、石化事業などの産

業化推進・生活水準向上により、産業用・海水淡水化・民生用にて世界でも高い電力需要増加が見込ま

れている。主要な発電燃料であるガス需要も高い伸びが想定されている。しかし中東のガス供給は、脆

弱な社会体制維持の必要性、未整備のガス事業環境によって、難しい課題を抱えている。ここでは、特

殊な政体にあって経済の国際社会復帰の見通しを立て難いイランを除外する。イラクはガス増産ポテン

シャルが高いものの、行政の脆弱性・不安定性から、ガス事業進展見通しは不透明で速やかな進展を期

待できない。

湾岸産油国のガス事業の課題は次のように考えられる:

① エネルギー補助金問題

湾岸君主国は体制維持のために、国民に安価な輸送用・発電用エネルギー供給が必要と認識して

いる。北アフリカの権威主義体制が次々に崩壊するのを見た後に(チュニジア、エジプト、リビア)、自

国のエネルギー補助金削減を決断することは考え難い。従って、ガス購入価格の速やかな引き上げ

は難しい。

② 国内・域内のガス増産

ガス購入価格の速やかな引き上げが難しいとの前提で、ガス生産事業環境の速やかで大胆な改善

は考え難い。ガス開発環境改善は遅々とした動きになると懸念される。また非随伴ガス開発はカター

ルを除くとめぼしい案件が限られる。カタールは人口が少なく既に LNG 事業に伴う外貨収入で潤っ

ているため、モラトリアム(~2015 年)を撤廃して新たな設備投資を行い(売価の安い中東市場向け)

ガス田開発を進める動機が乏しい。既存の Dolphin ガス輸出事業による UAE、オマーンへの売価

は$1.5/Mcf で、LNG 輸出価格と比べると格段に安い。UAE・オマーン等はガス増産可能性がある

が、全体として、ガス需要増加に見合うガス増産の可能性は小さい。

③ 原子力・石炭等の発電用エネルギー多様化

UAE 等原子力発電導入計画が進展していた国は実現性が高い。サウジアラビアでも原発導入が考

えられる。クウェートは原発導入を検討してきたが福島原発事故を鑑み、2011 年 7 月に計画を中止

した。それ以外の国で具体的な原発導入計画はない。またほとんど消費実績の無い石炭導入は考

え難い。

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に

含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら

かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一

切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

④ ガス輸入

既に LNG を輸入しているクウェート、UAE(ドバイ)に加えて、長期的には国内ガス供給に不安のあ

るオマーン、サウジアラビアの LNG 輸入が考えられる。LNG 輸入が増加する可能性が高い。域内

で唯一ガス供給余力があるのはカタールであるが、2005 年のモラトリアム政策を見直す可能性は低

い。

中東の主要な発電用燃料は天然ガスおよび石油である。域内でガス需要増加に見合うガス増産が難

しい場合、次の選択はガス輸入または石油の消費である。現在の石油・ガス価格体系では、高価格で輸

出可能な原油を発電用に消費するよりは、輸入LNGを投入するほうが経済的である。従って、現況では

中東 LNG 市場はある程度の規模に拡大する可能性が高い。また併せて、健全な地域エネルギー市場

を育成するために、域内ガス生産を増やすためのガス田開発事業環境の改善努力が望まれる。