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Gn-RH製剤の前投与による連続過剰排卵誘起処理 誌名 誌名 群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin of the Gunma Animal Husbandry Experiment Station ISSN ISSN 13409514 著者 著者 加藤, 聡 宮崎, 美伯 小渕, 裕子 青柳, 久仁子 黒沢, 功 巻/号 巻/号 12号 掲載ページ 掲載ページ p. 21-25 発行年月 発行年月 2005年9月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: Gn-RH製剤の前投与による連続過剰排卵誘起処理 · Gn-RH製剤の前投与による連続過剰排卵誘起処理 誌名 群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin

Gn-RH製剤の前投与による連続過剰排卵誘起処理

誌名誌名群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin of the Gunma Animal HusbandryExperiment Station

ISSNISSN 13409514

著者著者

加藤, 聡宮崎, 美伯小渕, 裕子青柳, 久仁子黒沢, 功

巻/号巻/号 12号

掲載ページ掲載ページ p. 21-25

発行年月発行年月 2005年9月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: Gn-RH製剤の前投与による連続過剰排卵誘起処理 · Gn-RH製剤の前投与による連続過剰排卵誘起処理 誌名 群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin

群馬県畜試研報 第 12号 (2005・2)

群馬畜試研報 第12号 (2005-2): 21-25

キーワード:連続過剰排卵・ Gn-RH製剤Ij.主席卵胞

Gn-RH製剤の前投与による連続過剰排卵誘起処理

加藤 聡・宮崎美伯・小淵裕子事・青柳久仁子・黒沢 功

Repeated Superovulation Processing by Pre-administration of Gn-RH

Satoru KATOH, Yosinori MIYAZAKI, Yuko OBUCHI, Kuniko AOYAGI and Isao KUROSAWA

*現中部県民局農業部

要 旨

連続的に過剰排卵誘起処理(以下 SOV) を行ったときの採卵成績の向上を目

的に、 SOV開始前の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(以下Gn -R H)製剤投

与の有効性を検討した。平均回収卵数は無投与区で6.4個、 25μg区6.0個、 50μg

区4.3個であり、各区に有意差は認められなかった。しかし、平均正常匹数と平

均正常駐率は無投与区でそれぞれ2.8個・ 43.7%、25μg区4.6個・ 75.6%、50μg

区2.7個・ 61.5%と各区間に有意差は認められなかったが、 25μg区が他の区より

高い傾向にあった。回次別の採卵成績では、回収卵数が無投与区で 1回目 6.1個、

2回目 7.3個、 3回目 5.9個と Gn-RH投与区より多かったが、正常陸数は25μ

g区が各々 5.1個、 4.1個、 4.4個といずれの回次も他の試験区より高い成績を示し

た。 これらのことから、連続 SOV開始前の Gn-RH製剤投与により採卵成績

が向上することが示唆された。

緒 言

匹移植技術 (ET)を推進するためには、

過剰排卵誘起処理 (S0 V) における正常

匪率の改善と、受胎率向上のための技術開

発が必要である。特に高い能力を有する雌

牛は改良の基幹牛となるため、供腔牛とし

て集中利用されることが多い。より多くの

有効匪を得るためには、連続 SOVによる

採卵成績を向上させる必要がある。

雌牛の発情周期中には小型の卵胞が周期

的に発育する卵胞発育波が2"-'3回みられ、そ

れぞれの発育波で 1つだけが急速に発育し、

主席卵胞 (OominantFollicle) となること

が知られている 1)。この主席卵胞の存在下で

SOVを開始すると採卵成績は低下 2)し、

主席卵胞を吸引除去することで採卵成績が

向上することが確認されている 3)。しかし、

主席卵胞の吸引除去には費用と労力がかか

り採卵現場での利用には適していない。そ

のため、主席卵胞を排除する目的で Gn-

RH製剤や卵胞ホルモンを SOV開始前に

投与する方法が考案い 6)された。

そこで、本試験では臆内留置型黄体ホル

モン製剤(以下 C1 D R controlled inte

rnal drug release 商品名イージープリ

ード, InterAG社)を利用した連続 SOVに

おける Gn-RH製剤前投与の有効性につ

一 21-

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群馬県畜試研報 第 12号 (2005・2)

いて検討した。

材料および方法

1 供試牛

群馬県畜産試験場で飼養している黒毛和

種経産牛 3頭(1産、 48""'-'52ヶ月齢)、未

経産牛 4頭 (36""'-'84ヶ月齢)合計 7頭を用

いた。 これらの牛は採卵専用牛として利用

しており、これまでに年間6""'-'7回の SOV

を行った。

2 試験区の設定

試験区は Gn-RH製剤の酢酸フェルチ

レリン(商品名コンセラール武田薬品)の

投与量により、対照の無投与区、 25μg区お

よび50μg区の 3区を設けた。

供試牛は表 1のとおり、最初の I期では

無投与で供試した後、 A群は25μg区・ 50μ

g区とし、 B群は逆に50μE区・ 25μg区のl頓

で実施した。

また、各試験期の後は60日以上の休養期

間を設けて次の試験区を実施した

3 連続 SOV処理法

概要を図 1に示した。連続 SOVは当場

の常法により、発情周期の任意の時期に C

IDRを留置し、留置後 7日目から卵胞刺

激ホルモン(以下 FSH:商品名アントリ

ン川崎三鷹製薬)の投与を開始した。 SO

Vは35日間隔で実施し連続 3回行った。

FSHの総投与量は未経産牛10AU(表 2)、

経産牛13AU (表 3) とした。 また、 .P G F20

は合成類縁体のクロプロステノール(商品

名エストラメイト住友製薬)を用いた。

表 1 試験区の設定

群 供試牛 I期 E期 E期

I群未経産牛 2

無投与区 2 5μg区 5 0 μg区経産牛 2

H群未経産牛 2

無投与区 5 0 μg区 2 5μg区経産牛 1

備 考3回採卵 休養 3回採卵 休養 3回採卵

88日 60日以上 88日 60日以上 88日

発情・人工授精

42 日 46 日2nd SOV

トー-----一一-~発情・人工授精

CIDR挿入

35 日

60 h 前

G n -RH投与

SOV開始60 h 前

G n -RH 投与

|一一一一一

CIDR挿入

70 日斗目

H

|

D

U

hEI--

問問

n

v

v

n

u

h

3

0

6

1

pb

CIDR挿入

採卵

l

53 日採卵

77 日 81 日3rd SOV

投与 発情・人工授精

88 日採 卵

図 1 連続 SOVの概要

-22 -

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群馬県畜試研報 第 12号 (2005・2)

表 2 過剰排卵誘起処理 (SOV) 方法(未経産牛)

投与時間 1 2 3 4 5日目 合計

FSH (AU) 2.0 1.5 1.0 1.0 5. 5

AM 8:30 PGF2α (ml) 2. 0 2. 0

処置 crDR除去 発情

FSH(AU)

PM 5:00 PGF2o(ml)

処置

2.0 1.5 1.0

1.5

5.5

2.0

人工授精

表 3 過剰排卵誘起処理 (S0 V) 方法(経産牛)

投与時間 1 2 3 4 5日目 合計

FSH(AU) 3.0 2.0 1.0 1.0 7.0

AM 8:30 PGF 20 (ml) 2.0 2.0

処置 CIDR除去 発情ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・ーー・ーーーーーーーー由ーーーーーーーー---ーー畳ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー------喧・

FSH (AU)

PM 5:00 PGF2o(ml)

処置

3.0 2.0 1.0

1.5

6.0

1.5

人工授精

4 匪の回収・統計処理

匪の回収は、発情後 7日目(発情日 =0日)

に各子宮角をそれぞれ500mlのイーグノレMEM

液(日水製薬)で洗浄還流させる方法で実

施した。回収した匪の品質は、可視域の細

胞変性率が10%以内のものをAランク、 10"-'

20%以内のものを Bランク、 20"-'50%以内

をCランク、 50%以上は変性卵とした。

なお、統計処理については、薬剤投与量

を要因として分散分析を行った。

結果

1 採卵成績

採卵成績を表 4に示した。各試験区の平

均回収卵数は無投与区6.4::t 3.9個、 25μg区

6. 0::!::4. 4個、 50μg区4.3::t3. 3個であり、各

区に有意差は認められなかった。

また、平均正常匹数と平均正常匹率は25μ

g区でそれぞれ4.6::t 4. 1個、 75.6%であり、

有意差は見られなかったが、 50μg区の2.7

::t 2. 4個、 61.5%、無投与区の2.8::t2. 7個、

43.7%を上回った。

2 回次別の採卵成績

回次別の採卵成績を図 2に示した。平均

回収卵数は、無投与区が 1回目 6.1個、 2回

頭数 回収卵数

表 4 3回連続採卵の 1回当たりの平均採卵成績

試験区

無投与区

正常匪数 正常匪率* ABランク数 ABランク率車掌

2. 6::t 2. 5 ro-

rO

一/O

o-

-o-r-o一

qAM-qd-phu

-

E

・E

nJ-qu

t

nv-DO-oo

7 6. 4::!::3. 9 2. 8::t2. 7 43.7%

3. 8::t 3. 7 25μg区 7 6. O::t 4. 4 4. 6::t 4. 1 75. 6%

2. 3::!::2. 0 50μg区 7 4. 3::t3. 3 2. 7::t2. 4 61. 5%

事正常陸数/回収卵数 事*ABランク数/正常匹数

qJ

nL

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群馬県畜試研報 第 12号 (2005・2)

(個)8

6

4

2

。1回目 2回目 3回目

回収卵数

ロ無投与

・25μg投与・50μE投与

1回目 2回目 、 3回目

正 常 脹 数

図 2 回次別採卵成績

目7.3個、 3回目 5.9個と Gn-RH投与区

より多かったが、正常匹数では25μg区がそ

れぞれ5.1個、 4.1個、 4.4個といずれの回次

も他の試験区より高い傾向を示した。

考察

連続 sovは短期間に多くの受精卵を生

産するために有効な方法である。 さらに 1

回当たりの正常座数を増加することができ

れば、改良 ・増産に極めて有効である。近

年、主席卵胞からは他の卵胞の発育を抑え

るインヒビンが分泌されることが解明され

7)、主席卵胞を吸引除去後に sovを開始

すると採卵成績が向上することが確認され

ている 3) しかし、主席卵胞を除去するに

は超音波画像診断装置を用い3'""4日間の卵

胞の観察が必要であり、費用と労力を考え

ると畜産現場での実用化は難しく簡易に卵

胞を排除する方法が検討されている。そこ

で主席卵胞を排除するため、 Gn-RH製

剤使う報告 5.6)が見られるが、投与量と投

与後の sovまでの時間により効果にばら

つきが見られる。

吉羽ら 5)は、 Gn-RH製剤 100μEを投

与し48時間後から sovを開始すると採卵

成績は低下し、 96時間後から開始すると正

常匹が多い傾向があると報告している。 ま

た、投与48時間後の採卵成績が低下する原

因については Gn-RH製剤の体内残留の

可能性を指摘している。佐藤ら 6)も発情 6

日目に25μgのGn-RH製剤を投与し60時

間後から sovを開始すると有意に正常陸

数が向上することを認めている。また、こ

の要因については主席卵胞が確実に存在す

る時期に、少量の Gn-RHを投与したこ

とにあるのではないかと報告している。

本試験では、佐藤ら引の報告を参考に試

験を設定し、 Gn-RH製剤の投与量を25

μgまたは50μg、投与時間を sov前60時

間として当場常法の連続sovに適用した。

その結果、回収卵数は各区に有意差は認

められなかった o しかし、平均正常任数と平

均正常脹率は各区に有意差は認められなか

ったが、 25μg区が他の区より高い傾向にあ

った。同様に回次別の成績においても25μg

投与は他に比べ 3回とも正常匹数が多い傾

向が見られた。

1発情周期中の卵胞発育波が 2回あるい

は 3回かに関わらず、発情後5'""6日には直

径 10皿以上の主席卵胞が存在している 8)。

本試験では CIDRを利用した連続 sovのため、発情周期に関係なく任意の時期に

CIDRを挿入し sovを開始するので、

確実に Gn-RH製剤投与時に主席卵胞が

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群馬県畜試研報 第 12号 (2005・2)

存在しているかは不明である。しかし、 G

n-RH製剤に反応する主席卵胞が存在し

ていない場合の SOVへの負の影響はない

との考えのもと試験を実施した。その結果

25μg投与で正常卵数の増加が見られ、連続

SOVにおいても佐藤ら 6)の報告と同様の

結果となった。 Gn-RH作動薬(アゴニ

スト)である酢酸フェルチレリンは作用が

強く、投与量が多い場合には体内に残留し、

脱感作 (Downregu1ation) 9)を引き起こし

採卵成績に悪影響を及ぼすことが考えられ

る。通常、排卵誘起には酢酸フェルチレリ

ンとして 100""200μgが使用されるが、今回

は通常使用量の1/2""1/ 4と少量の投与であ

ったため、 Downregu1ationを回避できたた

めではないだろうかと考えられた。本試験

ではホルモンや主席卵胞の動態を調査して

いないので、 Gn-RH製剤の25μg前投与

がなぜ正常任数が多い傾向となったのか、

その機序は不明であるが連続 SOVにおい

てGn-RH製剤を前投与することにより、

佐の生産性を向上させることが示唆された。

しかし、本試験で供試した黒毛和種牛は採

卵専用牛として、過去に頻繁に SOVを繰

り返してきた牛であり、また、採卵間隔を

短縮するため低単位の FSHを投与した S

ovでの結果であった。今後は通常に分娩

を繰り返している経産牛での検討が必要と

考える。

引用文献

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8)J.R.Purs1ey,M,0.Mee and M.C.Wi1tbank.

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genology.44:915-923.

9)田中知己.2002.性腺刺激ホルモン放出ホルモンに

よる繁殖機能の調節.新しい家畜繁殖学.2

9-35.

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