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班 長 松 h 益 Y 山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学 班 員 相 澤 義 房 新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器分野 麻野井 英 次 射水市民病院 和 泉   徹 北里大学内科学 今 泉   勉 久留米大学内科学第三講座 奥 村   謙 弘前大学第二内科 許   俊 鋭 埼玉医科大学外科学第一講座 齋 藤 能 彦 奈良県立医科大学第一内科 佐 野 俊 二 岡山大学大学院医歯学総合研究科心臓血管外科 島 本 和 明 札幌医科大学内科学第二講座 班 員 蔦 本 尚 慶 滋賀医科大学第一内科 筒 井 裕 之 北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学 中 澤   誠 東京女子医科大学循環器小児科 中 谷 武 嗣 国立循環器病センター臓器移植部 堀   正 二 大阪大学大学院医学研究科循環器内科 松 森   昭 京都大学大学院医学研究科循環器内科 百 村 伸 一 自治医科大学附属大宮医療センター循環器科 協力員 大 草 知 子 山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学 矢 野 雅 文 山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学 1 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本心臓病学会,日本心不全学会,日本胸部外科学会,日本小児循環器学会, 日本心電学会,日本高血圧学会 ガイドライン改訂版の作成にあたって Ⅰ 慢性心不全病態と診断 1 総 論 1-1 慢性心不全の定義 2 心機能不全診断の実際 2-1 病態評価にあたり 2-2 自覚症状,身体・検査所見 2-3 心機能評価 1)収縮機能不全の診断 ¡)病態と基礎疾患 )収縮機能評価の実際 ①心エコ-・ドプラ法 CTMRI ③核医学 ④心臓カテ-テル法 2)拡張機能不全の診断 ¡)病態と基礎疾患 ①心室スティフネスの増大 ②不完全弛緩 ③心外膜肥厚による左室拡張障害 ④右室負荷による左室拡張障害 )拡張機能評価の実際 ①心エコ-・ドプラ法 ②核医学 ③心臓カテ-テル法 ④原因疾患の検索 3)総合的心機能不全の診断 3 神経体液因子 3-1 慢性心不全と神経体液因子 1)交感神経系 2)レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告) 慢性心不全治療ガイドライン(2005年改訂版) Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所 北 畠   顕 カレス・サッポロ 北 村 惣一郎 国立循環器病センター 篠 山 重 威 浜松労災病院

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Page 1: Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS … for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 目次 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

班 長 松 h 益 Y 山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学

班 員 相 澤 義 房 新潟大学大学院医歯学総合研究科循環器分野

麻野井 英 次 射水市民病院

和 泉   徹 北里大学内科学

今 泉   勉 久留米大学内科学第三講座

奥 村   謙 弘前大学第二内科

許   俊 鋭 埼玉医科大学外科学第一講座

齋 藤 能 彦 奈良県立医科大学第一内科

佐 野 俊 二 岡山大学大学院医歯学総合研究科心臓血管外科

島 本 和 明 札幌医科大学内科学第二講座

班 員 蔦 本 尚 慶 滋賀医科大学第一内科

筒 井 裕 之 北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学

中 澤   誠 東京女子医科大学循環器小児科

中 谷 武 嗣 国立循環器病センター臓器移植部

堀   正 二 大阪大学大学院医学研究科循環器内科

松 森   昭 京都大学大学院医学研究科循環器内科

百 村 伸 一 自治医科大学附属大宮医療センター循環器科

協力員 大 草 知 子 山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学

矢 野 雅 文 山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学

1

合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本心臓病学会,日本心不全学会,日本胸部外科学会,日本小児循環器学会,

日本心電学会,日本高血圧学会

ガイドライン改訂版の作成にあたって

Ⅰ 慢性心不全病態と診断1 総 論

1-1 慢性心不全の定義2 心機能不全診断の実際

2-1 病態評価にあたり2-2 自覚症状,身体・検査所見2-3 心機能評価

1)収縮機能不全の診断¡)病態と基礎疾患™)収縮機能評価の実際①心エコ-・ドプラ法② CT,MRI

③核医学④心臓カテ-テル法

2)拡張機能不全の診断¡)病態と基礎疾患①心室スティフネスの増大②不完全弛緩③心外膜肥厚による左室拡張障害④右室負荷による左室拡張障害

™)拡張機能評価の実際①心エコ-・ドプラ法②核医学③心臓カテ-テル法④原因疾患の検索

3)総合的心機能不全の診断3 神経体液因子

3-1 慢性心不全と神経体液因子1)交感神経系2)レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

慢性心不全治療ガイドライン(2005年改訂版)Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005)

目 次

外部評価委員

加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

北 畠   顕 カレス・サッポロ

北 村 惣一郎 国立循環器病センター

篠 山 重 威 浜松労災病院

Page 2: Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS … for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 目次 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

3)ナトリウム利尿ペプチド4)エンドセリン5)アドレノメデュリン6)その他の循環ペプチド7)サイトカイン,酸化ストレス

4 末梢循環障害4-1 末梢循環障害の臨床的意義4-2 末梢循環障害の成因

1)過剰な血管収縮2)血管拡張能の低下3)運動耐容能低下と骨格筋の循環障害

5 活動能力の評価5-1 運動能力

1)運動能力の評価法¡)動的運動負荷試験™)6分間歩行試験£)身体活動能力質問表

Ⅱ 慢性心不全の治療1 一般管理

1-1 カウンセリング1-2 社会的活動性と仕事1-3 食 事1-4 旅 行1-5 ワクチン接種1-6 喫 煙1-7 アルコ-ル1-8 安静と運動1-9 入 浴1-10 避 妊1-11 性生活1-12 精神症状1-13 薬物療法

2 薬物療法2-1 収縮機能障害に対する治療

1)ジギタリス2)利尿薬3)アンジオテンシン変換酵素阻害薬4)アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬5)β遮断薬6)抗アルドステロン薬7)アミオダロン8)末梢血管拡張薬9)経口強心薬

2-2 拡張機能障害に対する治療1)治療アルゴリズム2)左室心筋が原因である拡張不全の治療¡)急性増悪期の治療™)慢性期の治療

3)左室外からの機械的圧迫による拡張不全の治療¡)収縮性心外膜炎™)肺血栓塞栓症

2-3 不整脈の治療1)頻脈性不整脈¡)心房細動™)心房粗動

£)発作性上室頻拍¢)心室性不整脈・心室頻拍・心室細動

2)徐脈3)非薬物療法¡)ペ-スメ-カ-による治療™)埋込型除細動器の適応£)カテ-テル・アブレ-ション治療

2-4 合併症を有する患者での心不全治療1)高血圧合併例の治療¡)病 態™)治 療

2)狭心症合併例の治療¡)病 態™)治 療

3)腎不全合併例の治療¡)病 態™)治 療

4)糖尿病合併例の治療¡)病 態™)治 療

2-5 その他の治療1)抗凝固療法¡)心房細動™)心機能高度低下例

2)抗血小板療法2-6 薬物療法の将来展望

1)エンドセリン拮抗薬2)オマパトリラート薬3)バゾプレッシン受容体拮抗薬4)抗サイトカイン療法

3 高齢者の慢性心不全治療3-1 高齢者慢性心不全の基礎心疾患3-2 増悪因子3-3 基本的な対応

1)診 断2)治 療3)介 助

3-4 薬物療法1)アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

2)利尿薬/抗アルドステロン薬3)ジギタリス4)β遮断薬5)カルシウム拮抗薬6)経口強心薬

3-5 非薬物療法4 胎児,乳幼児,小児の慢性心不全の治療

4-1 先天性心疾患による心不全治療の基本的事項4-2 治療へ向けての原則4-3 心不全の症状と治療実施の基本事項4-4 病態別の治療

1)容量負荷群2)動脈管依存性心疾患群3)圧負荷群4)肺静脈閉塞群5)低酸素群

2

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

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6)心筋収縮機能低下群および冠状動脈異常7)特異な疾患8)特異な手術と術後の心不全9)不整脈群10)胎児心不全

4-5 まとめ Rapid Access Guide(表)5 非薬物療法

5-1 治療アルゴリズム1)酸素療法¡)睡眠時無呼吸症候群の診断™)睡眠時無呼吸症候群の病態£)夜間酸素療法

2)補助循環¡)適応患者の選択,施設時期™)施行時における管理上の問題点

3)手術療法5-2 補助循環装置

1)EECP(Enhanced External Counterpulsation)

2)IABP(Intra-aortic Balloon Pumping)3)ECUM(Extracorporeal Ultrafiltration Method)4)PCPS(Percutaneous Cardiopulmonary Support)5)対外設置型補助人工心臓6)体内設置型補助人工心臓7)全置換型人工心臓

5-3 手術療法1)冠血行再建術¡)冠動脈バイパス術™)心筋内レ-ザ-血行再建術

2)左室容積縮小術¡)Dor 手術™)左室部分切除術£)僧帽弁形成術¢)新しい左室形成術

3)心臓移植4)心筋再生療法の現状と展望

(無断転載を禁ずる)

3

慢性心不全治療ガイドライン

2000 年の秋,日本循環器学会学術委員会の指定研究

班“慢性心不全治療ガイドライン作成研究班”(松崎益

徳班長)から本邦では初めての「慢性心不全治療ガイド

ライン」が出版されて早くも 5年が経過した.初版の作

成にあたっては,日本循環器学会,日本心臓病学会,日

本心不全学会,日本胸部外科学会,日本小児循環器学会,

日本心電学会,日本高血圧学会から推薦された班員によ

り研究班は組織され,1998 年 4 月からその準備に着手

した.当時,その目的を達すべく,各班員は可能な限り

新しいデータを収集しガイドライン作成に務めたが,そ

の過程においていくつかの重要な問題点が浮かび上がっ

てきた.その 1つは,ガイドライン作成の基盤となる日

本人を対象とした慢性心不全患者の治療に関する信頼で

きる EBM が皆無に近いことであった.また,過去 20

年間,欧米から溢れる程に報告された EBM の中で

ClassⅠ(usually indicated, always acceptable)ないし

ClassⅡ(acceptable, but of uncertain efficacy and may be

controversial)とされている薬物でもそのほとんどが本

邦では心不全治療薬として保険適用されていなかった

り,使用禁忌剤に指定されていたことであった.

5 年間が経過した現在でもその傾向はあまり変化して

いないが,大きな違いはβ遮断薬とアンジオテンシンⅡ

受容体拮抗薬の一部が心不全治療薬として承認され,慢

性心不全患者の重要な治療薬の 1つとして広く用いられ

ていることである.5 年間で日本人の慢性心不全患者を

対象とした 3つの薬物を用いた多施設臨床試験の結果が

報告され,それらの有効性が示され,その結果は前述の

2 薬剤の承認へ大きく貢献した.アンジオテンシンⅡ受

容体拮抗薬(カンデサルタン)を用いた ARCH-J 試験,

β受容体遮断薬(カルベジロール)を用いた MUCHA

試験,そして経口強心薬(ピモベンダン)を用いた

EPOCH 試験である.詳細は後述するが,いずれも欧米

で用いられている投与量よりも低用量で,報告されてい

る結果と同様か,さらに優れた結果が得られた.

初版を出版して 5年が経過した今回,班員の一部を刷

新し,その改訂版を出版することとした.本来,治療ガ

イドラインの作成は,治療対象となる患者群が得られた

エビデンスを基に作成されるのが通常であるが,前述し

た本邦での臨床研究はあるものの,その数は極く少なく,

初版と同様に今回も欧米から報告されているエビデンス

を基本としてまとめざるを得なかった.その中でも可能

な限り本邦で得られたデータを用い,また日本人を対象

としたエビデンスは無くとも日常診療で多くの医師の了

解の下で用いられている治療法,治療薬,また投与量を

まとめ,現在,本邦ではまだ慢性心不全治療としては承

認されていない薬物でも明確なエビデンスが報告されて

いるものについては,未承認であることを示し記載した.

本ガイドラインでは前述した既存のガイドラインに並

って,病態の評価法,診断検査法,および治療法,治療

薬の適応基準のクラス分けを行った.

すなわち,

ガイドライン改訂版の作成にあたって

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

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このガイドラインはあくまでも現時点までの情報に基

づき作成されたものであり,今後,病態の新しい評価法

や治療薬,治療法の開発により,将来改定される可能性

があることを予め述べておきたい.その意味も含め,治

療の項では,「薬物療法の将来展望」についても記述した.

このガイドラインでは,一般成人に対する治療ガイド

ラインとは別に,高齢者と幼児・小児の慢性心不全に対

する治療ガイドラインとを分けて記述した.内容的には

臨床の場での実践的な面を重視し,一般臨床医師だけで

なく循環器専門医にも役立つ内容とした.記載した治療

法や治療薬の中には,まだ本邦では保険適応となってい

ないものが含まれているが,日常の臨床現場で診療に従

事する医師への最近の医療情報の提供,学習教材として

の利用も本ガイドライン作成の趣旨として,世界的にコ

ンセンサスの得られている治療法,治療薬については保

険適応外であっても記述した.また,治療法の項では,

非薬物療法として心臓外科領域の専門家にも補助循環,

人工心臓,左室容積減少術および心臓移植についてその

適応ガイドラインを示してもらった.

本ガイドラインの作成にあたり,前述した循環器関連

学会から,学術的にもまた臨床的にも,慢性心不全治療

分野において指導的立場で活躍されている 16 名の専門

家を推薦頂いた.日本人に関する情報の少ない領域での

ガイドライン作成は,各執筆者に大きなストレスとなっ

たが,限られた予算と時間の中で可能な限りデータを収

集し,日本人を対象としたガイドライン作成に務めた.

この 20 年間における慢性心不全の病態解析の進歩は

著しく,慢性心不全を単に心疾患とする概念から神経体

液因子を含む広範な異常により生じる症候群であるとす

る考えが確立してきた.また,近年報告されてきた膨大

な大規模臨床試験の結果は,単に経験からの知識に頼り

行われた治療法を大きく変えてきたが,この Evidence

Based Medicine に基づき治療法を選択する傾向は今後さ

らに強くなると思われる.その意味からも今回作成した

ガイドライン改訂版は,現時点でも Evidence Based

Medicine に基づき作成したものであり,当然将来は再

び改変される部分もある事を念頭におき日常診療の場で

参考にして頂ければ幸甚である.

慢性心不全とは狭義の意味からは,“慢性の心筋障害

により心臓のポンプ機能が低下し,末梢主要臓器の酸素

需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍

出できない状態であり,肺または体静脈系にうっ血をき

たし生活機能に障害を生じた病態”と言える.労作時呼

吸困難,息切れ,尿量減少,四肢の浮腫,肝腫大などの

症状の出現により生活の質的低下(QOL 低下)が生じ,

日常生活が極しく障害される.また致死的不整脈の出現

も高頻度にみられ,突然死の頻度も高い.すべての心疾

患の終末的な病態でその生命予後は極めて悪い.従来は

急性心不全と同様に血行動態的諸指標や肺体うっ血の有

無より診断,評価されていた.しかし,近年の病態解析

の進歩により,慢性心不全では交感神経系やレニン・ア

ンジオテンシン・アルドステロン系に代表される神経内

分泌系因子が著しく亢進し,その病態を悪化させている

ことが判明した.また心内圧の上昇はナトリウム利尿ホ

ルモンやアドレノメデュリンなどの血管拡張因子の分泌

を促進させ,慢性心不全は種々の神経内分泌因子が複雑

に関連し合った一つの症候群と考えられるようになっ

た.1980 年代中頃より報告されているアンジオテンシ

ン変換酵素阻害薬による慢性心不全患者の生命予後の改

善効果や,従来は絶対禁忌と思われていたβ遮断薬の長

期投与効果は,“神経内分泌疾患”としての慢性心不全

を裏づけるものであろう.

また,最近,心筋収縮性は比較的保たれているにもか

かわらず,心筋拡張性の低下により心不全症状が出現す

る,いわゆる“diastolic heart failure”の概念が生まれて

きた.慢性圧負荷や前述した神経体液因子の亢進により

生じる心室リモデリング(心肥大,心拡大),心筋線維

化,心内膜下虚血などが拡張障害の大きな要因であると

言われているが,まだその病態の詳細は不明な点が多い.

以上のごとく,慢性心不全の概念は医学の進歩とともに

変遷してきており,今後 21 世紀にも概念がどのように

変化していくのか見守る必要があろう.

Class Ⅰ:通常適応され,常に容認される

Class Ⅱ:容認されるが有用性はまだ不確実で異論

もありえる

Class Ⅲ:一般に適応とならない,あるいは禁忌で

ある

慢性心不全の病態と診断Ⅰ

総 論11

慢性心不全の定義1-1

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慢性心不全治療ガイドライン

5

従来,心疾患患者の心機能評価を行う際には,左室収

縮機能評価に重点が置かれていた.実際,慢性心不全の

大規模臨床試験である V-HeFTⅠ試験においても,左室

駆出率が 28 % より低い症例はそれ以上の症例に比較し

て予後は悪い1).しかし,1980 年代半ばから,心不全症

例の 30~40 % では左室駆出率で評価する左室収縮機能

は保持されていることが報告され(表 1)2-9),このよ

うな症例では左室流入動態異常が認められることから,

心不全症状の出現に左室収縮機能障害とならび,左室拡

張機能障害が大きく寄与していることが明らかとなっ

た.従って機能障害の主因が収縮機能障害か,拡張機能

障害かによって治療戦略は大きく異なるため,これを的

確に診断することは重要である.

しかし,収縮不全であっても拡張不全であっても,心

不全診断へのアプローチ,つまり,詳細な問診・他覚的

所見の把握,胸部レントゲン写真,心電図,生化学的検

査などによる侵襲度の低い検査による基礎疾患の検索と

心原性以外の疾患の除外,必要に応じた特殊検査の施行

の必要性は変わらない.

心機能不全の診断は次のプロセスを経て行われる(図

1).

①心疾患に基づく症状・所見の存在を診断,原因疾患の

検索

②心機能評価(収縮機能,拡張機能)

心機能不全の主病態は,左房圧上昇・低心拍出量に基

づく左心不全症状と,右心負荷による浮腫,肝腫大など

の右心不全症状であり,それに伴う症状・所見を診断す

る必要がある.

左房圧上昇の自覚症状としては,肺うっ血を原因とし

た呼吸困難感が主体となる.初期は安静時には無症状,

労作時に軽度の息切れを自覚するのみであることも多

い.従って,その症状が心原性のものであることを確か

めるために,詳細な問診をとるとともに,肺機能検査に

て呼吸器疾患を否定する必要がある.また,呼気ガス分

析を用いた運動負荷試験は,左房圧上昇に基づく運動耐

容能低下の客観的指標として有用である(注 1).病態

の進行につれて夜間の発作性呼吸困難,起坐呼吸が出現

する.身体所見として,Ⅲ音,Ⅳ音,肺野湿性ラ音,胸

部 X 線検査にて肺うっ血・肺水腫所見を確認する.心

心機能不全診断の実際22

表1 収縮機能正常の患者が心不全にしめる割合

(文献 2,3,9)FHS:Framingham Heart Study の心不全基準(文献 8),UCG:心エコー検査,RNV:RI 心プールシンチグラム検査

FHS:Framingham Heart Study の心不全基準

大基準夜間発作性呼吸困難,頸静脈怒張,ラ音,心拡大,急性肺水腫,Ⅲ音奔馬調律,静脈圧増大(>16 cm H2O),循環時間延長(≧25 sec),肝・頸静脈逆流

小基準足首の浮腫,夜間咳嗽,労作性呼吸困難,胸水,肺活量の低下(最大の 1/3 以下),頻脈(≧120 bpm)

大または小基準治療に反応して,5 日間で 4.5 kg 以上の体重減少

(文献 4)

心不全診断基準 正常収縮機能(診断手法) 心不全患者にしめる割合

Ghali FHS FS>24 %(UCG) 28 %

Taffet FHS EF>45 %(RNV) 43 %

Takarada(日本) FHS FS>30 %(UCG) 24 %

Vasan FHS EF>50 %(UCG) 51 %

Tsutsui(日本) FHS EF>50 %(UCG) 35 %

病態評価にあたり2-1

自覚症状,身体・検査所見2-2

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

6

不全時にみられる胸水貯留は右心不全(右房圧,右室拡

張期圧の上昇)により生じることが多い.

低心拍出量の自覚症状は,全身倦怠感,頭痛などの神

経症状,食思不振など,非特異的なものも多く見逃さな

いように注意が必要である.身体所見としては,四肢冷

感,夜間尿,乏尿を認める.脈圧の低下も参考になる.

心臓性浮腫は呼吸困難などの左心不全症状を伴うこと

が多い.浮腫に伴う体重増加は通常 2~3 kg に達する.

心不全により惹起される浮腫は,肝性浮腫,貧血,腎性

浮腫などと鑑別する必要がある.

心機能,特に収縮機能の評価は,収縮不全・拡張不全

の診断に不可欠である.しかし,「正常な収縮機能」の

診断には,1)どのような指標を用いて収縮機能を評価

するか,2)どの値から正常と考えるかを決定する必要

がある.一般的には,その簡便性より左室駆出率(LV

ejection fraction;LVEF)が用いられ,収縮不全と拡張

不全の鑑別には,40~50 % 以上が基準値として用いら

れることが多い.ただし,LVEF は前負荷・後負荷の影

響を受けやすい指標であること,また僧帽弁閉鎖不全症

が存在する場合,過大評価されることに十分注意するこ

とが必要である.

1)収縮機能不全の診断

⁄)病態と基礎疾患

左室収縮不全が存在する場合には拡張機能の低下もす

でに存在し,拡張不全を来す場合と共通の基礎疾患を有

することが多い.左室収縮機能障害の基礎病態は収縮力

低下であり収縮単位の相対的あるいは絶対的減少や心筋

虚血によるエネルギー代謝障害が原因となる.基礎疾患

としては高血圧症,虚血性心疾患,拡張型心筋症,心臓

弁膜症,心筋炎,先天性心疾患などが存在し,虚血と心

不全の合併により患者の予後が不良になる.心機能の評

価とともに心筋 viability を評価し,左室機能不全患者で

梗塞後の冬眠心筋の存在が認められる場合や,狭心症を

心機能評価2-3

呼吸困難感を主体とした自覚症状1)

収縮能は保たれているか? →左室駆出率の測定4) 心エコー法 RI 心プールシンチグラム法,心電図同期 SPECT 法 心臓カテーテル法(左室造影法)

症状は心不全に起因しているか? 左房圧上昇を示唆する所見 詳細な問診,身体的検査,胸部 X 線検査,血漿 BNP2) 他の疾患を除外3)

正常または軽度低下 低  下

拡張不全 ←拡張能評価を加える 心エコー法:E/A 比,DT,IRTRI RI 心プールシンチグラム法:PFR,TPFR 心臓カテーテル法:peak negative dP/dt,          Tau,stiffness(constant)

収縮不全

図 1 左心不全の診断

1)自覚症状は,呼吸困難感の他に,低心拍出量を反映した倦怠感,食思不振,四肢冷感なども考えられる.

2)運動耐容能低下の診断に,呼気ガス分析を用いた運動負荷試験が有用.3)心疾患以外に呼吸困難感をきたす疾患呼吸器疾患,貧血,甲状腺機能亢進症,過換気症候群,神経筋疾患

4)収縮不全と拡張不全の鑑別に左室駆出率は 40~50 % が基準値として用いられることが多い.

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7

慢性心不全治療ガイドライン

合併している場合には血行再建術により左室機能や臨床

症状,あるいは生存率が改善することが報告されてい

る10,11).特発性拡張型心筋症については他の疾患を除外

した後に診断を行うことが通常であるが,今後病因に対

する特異的治療法を開発する点からも病因の解明に努力

する必要がある.心筋炎についての診断手法については

RI 法,血清抗体価測定,心筋生検,ウイルスゲノム解

析などがある.

¤)収縮機能評価の実際

慢性心不全患者における心機能不全の状態把握,原因

疾患の診断,予後の評価,および治療方針の確立を目的

として種々の臨床検査が実施される(図 1).心収縮能

を比較的客観的かつ簡単に評価しうるものは経胸壁心エ

コー・ドプラ法であり,収縮能のみならず,拡張能,心

室径,左室重量あるいは局所壁運動などの評価が可能で,

心不全の原因疾患の診断にも有用である.また,心機能

の経時的観察にも適している.これに比して経食道心エ

コー・ドプラ法はルーチン検査としては患者負担がやや

大きい.コンピューター断層像(CT),磁気共鳴イメー

ジング(MRI)は非侵襲的に形態診断や心室機能や心室

重量の評価が可能で,核医学的検査も心室機能評価や形

態診断,心筋 viability の診断に有用であるが心エコー法

などに比し簡便さやコスト効果比の問題がある.心臓カ

テーテル検査は大変に有用な検査で,虚血性心疾患の治

療も可能であるが侵襲的検査であり,慢性心不全患者の

検査としてはその適応は,症例ごとに考慮すべきである.

①心エコー・ドプラ法12)

M モード法あるいは断層法による左室容積計測から 1

回拍出量(SV),心拍出量(CO),左室駆出率(LVEF)

を算出するか,パルスドプラ法から SV を算出する.僧

帽弁逆流が存在する場合には LVEF を過大評価する可能

性があり注意が必要である.その場合,連続波ドプラ波

形から左室 peak positive dP/dt を推定することができる.

その他,心収縮時間,左室内径短縮率(% FS),平均左

室円周方向心筋線維短縮速度(meanVcf),収縮期壁厚

増加率(% WT)などが収縮能の評価に用いられるが,

局所壁運動異常が存在する虚血性心疾患などにおいては

これらの指標の適用に限界がある.表 2に収縮機能指

標の正常値を示した.その一方で,虚血に基づくと考え

られる局所壁運動異常の検出が可能であることも重要で

あり,その他の原因疾患の診断についても心不全患者の

スクリーニングとして有用である.さらにドブタミン負

荷心エコーは虚血の検出や心筋 viability(気絶心筋,冬

眠心筋)の評価にも有用である.

②CT,MRI

形態診断に有用であると同時に心拍出量,左室駆出率,

局所壁運動評価も可能であるが,心エコー・ドプラ法の

ように容易に実施できる検査法と比較して,ルーチン検

査としての適用には限界がある.心不全治療に関する大

規模臨床試験においても,本法を用いた左室駆出率の評

価は見られない.

③核医学

形態診断や左室機能評価が可能であり,諸外国におけ

る心不全治療に関する大規模臨床試験の多くは本法を用

いて左室駆出率を評価している〔SOLVD16),V-HeFT Ⅱ17),

FACET18),PRECISE19),MOCHA20)等〕.また,本法の特

徴として心筋虚血の検出(SPECT)や心筋代謝の評価,

心筋 viability の評価(PET),心筋交感神経障害の評価

が可能である.しかし先に述べたようにコスト効果比や

設備上の問題,心機能のルーチン検査としての意義に関

して十分に評価されていないことなど,その適用には限

界がある.

④心臓カテーテル法

心内圧,心拍出量,心室容積,駆出率などの測定によ

り心機能を評価できる.心エコー・ドプラ法やその他の

非侵襲的検査によって得られる指標の基準となる測定値

が得られる.大規模臨床試験においても核医学的手法ほ

どの頻度ではないが,本法が左室駆出率の評価に用いら

れている〔PRIME Ⅱ21),V-HeFT Ⅲ22)〕.肺動脈楔入圧と

心係数から Forrester subset を判定したり,肺血管抵抗,

末梢血管抵抗を算出することにより治療方針の決定に役

立つ.現在カテーテル検査自体の絶対的禁忌は患者の同

意がえられない場合を除きほとんどなく,相対的禁忌も

出血傾向,重篤な臓器障害,腎不全,造影剤アレルギー,

高齢者あるいは非協力的な患者の場合などである23).

2)拡張機能不全の診断

⁄)病態と基礎疾患

拡張機能不全の基礎病態は,①心室スティフネスの増

大,②不完全弛緩,③心外膜肥厚による心室拡張障害,

④右室負荷による左室拡張障害が考えられる.

①心室スティフネスの増大

心室スティフネスは受動的な心室の硬さを示し,能動

的拡張過程である左室弛緩の後における左室拡張機能を

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

規定する.心室スティフネスが上昇すると,左房ー左室

圧較差が急速に低下し左室流入の driving pressure の低下

をきたすため,左室流入障害を招く.これは,心拍出量

の低下をもたらすため,心拍出量を維持するために流入

血液の driving pressure を上げて流入量を維持する必要が

あり,二次的に左房圧が上昇する.さらに,肺うっ血に

より心拍数の上昇,それに伴う冠血流量の低下を招き,

心機能障害を助長するものと考えられる.その原因とし

て,心筋虚血,肥大,線維化が挙げられ,原因疾患とし

て虚血性心疾患,高血圧性心疾患,弁膜疾患(大動脈弁

狭窄症,大動脈弁閉鎖不全症),肥大型心筋症,拘束型

心筋症,アミロイドーシス,サルコイドーシス,さらに

糖尿病などの内分泌代謝異常,全身疾患による心筋疾患

などが考えられる.また,正常の加齢過程の一部として

心室スティフネス増大も寄与する.

②不完全弛緩

虚血や心筋細胞内カルシウム過負荷により,心筋の弛

緩が遅延することによって拡張末期に至っても左室圧が

十分下降せず高値にとどまっている状態を不完全弛緩

(incomplete relaxation)という.しかし,現在,弛緩の

遅延のみで拡張不全が生じることはまれと考えられてい

る.したがって,弛緩の遅延に伴って拡張期圧が上昇す

るのは高度の頻拍により拡張期時間が著しく短縮してい

る場合か,左室スティフネスの増大を合併する場合であ

る.原因疾患は①と同様である.

③心外膜肥厚による心室拡張障害

心膜の炎症・肥厚・癒着により,心室への血液充満が

障害され,前方への血液駆出の減少と後方への静脈圧上

昇がもたらされる.原因疾患として収縮性心膜炎が多い.

表2 心機能指標正常値

心内圧正常値:収縮期/拡張期(平均)¡右 房 圧:(1-5)mmHg¡右 室 圧:15-30/1-7 mmHg¡肺 動 脈 圧:15-30/4-12(9-19)mmHg¡肺動脈楔入圧:(4-12)mmHg¡左室拡張末期圧:5-12 mmHg

収縮機能指標正常値¡1 回拍出量 (SV):40~97 ml(Teichholz),40~115 ml(Pombo)¡心 係 数 (CI):2.6~4.2 l/min/m2

¡左室駆出率(LVEF):60~75 %(modified Simpson's rule)53~85 %(Teichholz)62~88 %(Pombo)

¡左室内径短縮率(%FS):25~43 %¡平均左室円周方向心筋線維短縮速度(meanVcf):0.97~1.21 circ/sec¡peak positive dP/dt:>1200 mmHg/sec

拡張機能指標正常値¡パルス・ドップラー左室流入血流指標の解釈

左室弛緩障害波形 正常波形 拘束型波形IRT >100 msec 60~100 msec <60 msecE/A <1.0 1.0~2.0 >2.0DT >250 msec 150~250 msec <150 msec

IRT:等容性弛緩時間,E/A:拡張早期ピーク血流速(E)/心房収縮期ピーク血流速(A)比,DT:拡張早期波の減速時間注:50 歳前後における診断の目安である.それより若年者では,E/A 比の基準を高値に設定し,IRT・DT の基準を若干低めに設定しなければならない.高齢者では,逆に E/A 比の基準を低値に,また DT の基準を高値に設定するのが望ましい.

¡最大充満速度(peak filling rate:PFR)3.13±0.85/sec(文献 13)¡左室圧下降脚の一次微分の最大値(peak negative dP/dt)1864±390 mmHg/sec(文献 14)¡左室圧下降脚の時定数(time constant:Tau, t)33±8 msec:対数法(文献 13),47±10 sec:微分法(文献 15)(正常参考値は mean±SD)

総合的心機能指標正常値¡Tei-Index:左室 0.39±0.05,右室 0.28±0.04

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9

慢性心不全治療ガイドライン

④右室負荷による左室拡張障害

右室負荷により右室からの拍出量低下,心室間相互作

用による左室スティフネス上昇の 2つの機序が合併して

左室充満を低下させ,低心拍出量徴候を示す.原因疾患

として,右室梗塞,肺血栓塞栓症などがあげられる.

¤)拡張機能評価の実際

現在,拡張機能を簡便にしかも低侵襲で明確に評価す

る方法は確立されていない.従って,実際の臨床では,

①臨床症状が心不全によるものか,②収縮機能が正常か,

を確実に診断し,③拡張機能障害の存在を,現在使用で

きる方法を用いて補助的に診断することになる.

左室拡張機能は複数のプロセスの総称であり,また,

各プロセスは完全に独立しているのではなく,お互いに

何らかの関連を有している.さらに,評価法の技術的限

界を考慮すると,拡張機能の評価には複数の指標を用い

て多面的に評価するのが妥当であろう.

現在,拡張機能評価には心エコー・ドプラ法,RI 心

プールシンチグラム法,心臓カテーテル法が用いられる.

これらは,収縮機能評価にも用いられる方法であり,収

縮機能を観察する際に同時に評価することが可能である.

①心エコー・ドプラ法

心エコー・ドプラ法を用いた左室流入血流速波形によ

る左室流入障害の診断は,その低侵襲性・簡便性より広

く用いられている.拡張早期波形のピーク血流速(E)

と心房収縮期波形のピーク血流速(A)の比(E/A)と,

そのパターン変化より拡張不全の進行過程を観察するこ

とができる(図 2)(注 2).また,Ⅱ音開始から拡張早

期波形開始までの時間(isovolumetric relaxation time:

IRT)は,能動的弛緩能を表し,拡張早期波形のピーク

から血流速がゼロになるまでの時間(deceleration time:

DT)は,左室スティフネスと相関するとされている.

ただしこれらの指標は正常値が加齢の変化を受ける上

に,左室収縮機能が保持されている症例では,これらの

関係は症例間でばらつきが大きい.この解決策として,

前述の安静時左室流入血流速波形に加え,急性前負荷軽

減試験による左室流入血流速波形の変化,肺静脈血流速

波形,組織ドプラ法を用いて記録する僧帽弁弁輪部運動

を組み合わせた左室拡張機能評価があげられる.これら

を組み合わせて拡張機能障害の重症度を評価すると,予

後評価に結びつくことが示されている24).

②核医学

RI 心プールシンチグラム法により,弛緩能の指標で

ある左室急速流入期の最大流入速度を示す最大充満速度

(peak filling rate:PFR),弛緩持続時間を表す最大充満

速度到達時間(time to peak filling rate:TPFR)を求める

ことができる.ただし,施設によってばらつきが大きく,

前負荷の影響も受けるため解釈には注意を要する.

③心臓カテーテル法

心臓カテーテル法は,侵襲的な指標であるが,より詳

細に拡張機能障害を診断しうる.定性的に拡張機能障害

の有無を判断する場合は,左室拡張末期圧( l e f t

venticular end-diastolic pressure:LVEDP),あるいは肺動

脈楔入圧(左房圧の代用として)をみる.拡張機能障害

が起こると心拍出量を維持するために,二次的に左室充

満圧が上昇することから,左室拡張末期圧や肺動脈楔入

圧の上昇は,間接的に拡張機能障害の存在を示す.弛緩

能の指標として,左室圧下降脚の一次微分の最大値

(peak negative dP/dt),左室圧の下降脚の時定数(time

constant:Tau, t)が用いられる.また,現在のところ,

左室スティフネスとその構成要素である心筋のスティフ

ネスは,左室圧に加え左室容積や左室壁厚を同時に記録

して求めることができる.左室スティフネスは拡張期

圧・容積関係の一次微分(dP/dV)として求められる

(注 3).

④原因疾患の検索

拡張不全においても収縮不全と同様,原因疾患の検索

は重要である.とくに,虚血の有無は,非侵襲的に(運

動負荷心電図,RI 心筋血流シンチグラム,ドブタミン

負荷心エコー法),必要なら侵襲的手法(冠動脈造影,

心筋生検)を用いて検索すべきである.心膜疾患の有無

は胸部 CT 検査が有用である.

(注 1)V-HeFT study における運動耐容能低下の指標;

peak VO2<25 ml/kg/min

(注 2)restrictive pattern での予後判定

拡張型心筋症や虚血性心疾患などの収縮不全を

有した心不全例においても,restrictive pattern を

呈する例ではそうでない例に比し,予後は不良

である25).

(注 3)カテーテル指標について

左室圧下降脚の一次微分の最大値(peak negative

dP/dt)は,左室収縮期圧や左房圧の影響を受け

る.左室圧下降脚の時定数(time constant:Tau, t)

の測定法は,どの方法がより正確かは確立され

ていない.スティフネスは瞬時瞬時で変化する

ため,拡張期左室圧-容積関係を指数関数に近

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異なること,大動脈弁狭窄症では過小評価されることに

注意が必要である.

Class Ⅰ

¡末梢血,尿検査

¡血液生化学検査

肝機能,腎機能,糖,脂質,尿酸,電解質(Na, K,

Cl, P, Ca, Mg)

¡内分泌学的検査

甲状腺刺激ホルモン:心房細動を有する原因不明の

10

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

似することにより左室特性としてのスティフネ

ス定数を求め,症例間の比較に用いていたが,

この近似も誤差が大きい.

3)総合的心機能不全の診断

収縮能,拡張能ともに心機能低下例の臨床像にかかわ

っているため,総合的にかつ簡便に心機能評価する方法

として,心エコー・ドプラ法から得られる Tei-index が

用いられる(図 3).左室 Tei-index は正常値 0.39±0.05

であり,予後評価26),治療効果の判定27)に有用である.

また,Tei-index は右心系の総合的心機能評価にも有用

である28).ただし,Tei-index 値の持つ意義は,疾患にて

図2 心エコー,ドプラ法による左室拡張機能評価

(A)

左室流入波形における計測拡張早期ピーク血流速(E),心房収縮期ピーク血流速(A),それらの比(E/A),拡張早期波のdeceleration time(DT)のほかに心音図波形との関係で等容性弛緩時間(IRT)が計測可能である.ECG:心電図,PCG:心音図

(B)

拡張不全の進行に伴う左室流入波形の変化のシェーマ図正常波形 nomal pattern より拡張障害の進行に伴い,左室弛緩障害波形 relaxation abnomal pattern,偽正常化波形 pseudonormalized pattern,拘束型波形 restrictive pattern と変化していくと考えられている.血行動態の変化や治療によりこれらの波形はいずれの方向にも変化し得ることを両方向の矢印により示している.AC:大動脈弁閉鎖,MO:僧房弁解放

基礎疾患の診断のための一般検査

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11

慢性心不全治療ガイドライン

Class Ⅰ

¡経胸壁心エコー・ドプラ法:広く応用される

¡ドブタミン負荷心エコー法:心筋の viability 評価が必要

な患者,冠動脈疾患を疑うが運動負荷のできない患者

¡経食道心エコー法:心房細動を伴い左房内血栓評価が

必要な患者

¡心臓核医学検査

心プールシンチグラム

負荷心筋シンチグラム:心筋の viability 評価が必要な

患者,冠動脈疾患の診断

¡心臓カテーテル検査(左室造影検査を含む)

冠動脈造影検査:虚血性疾患の診断ならびに治療の目

的として

Class Ⅱ

¡経食道心エコー法:慢性心不全患者全体にルーチン検

査として用いる場合

¡ドブタミン負荷心エコー法:慢性心不全患者全体にル

ーチン検査として用いる場合

¡負荷心筋シンチグラム:慢性心不全患者全体にルーチ

ン検査として用いる場合

¡超高速コンピューター断層法(超高速 CT 法)

¡核磁気共鳴イメージング(MRI)

¡心内膜心筋生検:心筋炎,心臓障害性薬剤による化学

心不全患者,心房性(A 型)ナトリウム利尿ペプチ

ド(ANP),脳性(B 型)ナトリウム利尿ペプチド

(BNP)

¡心電図

安静時心電図

運動負荷心電図:心筋虚血が疑われる患者

Holter 心電図:心筋虚血あるいは不整脈が疑われる

患者

¡胸部 X 線写真

Class Ⅱ

¡神経内分泌学的検査(神経体液性因子)

甲状腺刺激ホルモン:洞調律で原因不明の心不全患

者の場合

ノルエピネフリン,レニン,アルドステロン,エン

ドセリン,アドレノメデュリン,サイトカイン

Class Ⅲ

¡該当なし

(経過観察目的の検査はこの分類と区別するべきである)

a

僧帽弁流入血流速ドプラシグナル

駆出時間

等容収縮時間 等容拡張時間

大動脈駆出血流速ドプラシグナル

Tei index=(a-b)/b

b

図 3 Tei Index の測定方法

心疾患診断のための検査

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療法を受けている患者,全身性疾患による心臓障害の

可能性のある患者

Class Ⅲ

¡心臓カテーテル検査(左室造影検査を含む):血行再

建術,弁置換術,心移植の対象にならない患者

¡冠動脈造影検査:血行再建術,弁置換術,心移植の対

象にならない患者

¡心内膜心筋生検:慢性心不全患者全体に対して

心筋は虚血,高血圧,炎症などの種々の負荷がかかる

と,心機能を保持するために種々の代償機序が働く.こ

の代償機序には神経体液因子の亢進と心肥大がある.神

経体液因子は心筋のみならず全身の血管,臓器に作用し

て,運動耐容能低下,不整脈,突然死等のいわゆる心不

全が原因となる症候群の形成に関与する.

循環器系に限らず,生体は様々な神経体液性因子によ

って巧妙かつ複雑に制御されホメオスターシスを保って

いる.これらの神経体液性因子は大きく分けて,陽性変

力作用,陽性変時作用とともに,血管収縮作用を有し,

心筋細胞にとっては肥大を惹起する方向に働く「心臓刺

激因子」と,変力作用,変時作用はほとんど認められず,

血管拡張作用と心筋細胞肥大抑制作用や線維化抑制作用

を有している,いわゆる「心保護因子」の 2つに大別で

きる.正常状態ではこれらの相反する作用の神経体液性

因子のバランスが保たれているが,心不全に陥ると,そ

の初期には心拍出量を増加させ重要臓器への灌流圧を維

持する為に,心臓刺激因子が活性化され,心不全は代償

される.しかし液性因子の活性化が長期に,また過度に

続くと,悪循環が始まり顕性心不全に陥る29,30).

また,近年の慢性心不全を対象にした大規模臨床試験

の結果,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系

(RAAS)や交感神経系の経路を遮断することによって,

心保護作用を増強させる薬剤のみが慢性心不全の予後を

改善することが証明されるに至り,慢性心不全の発症進

展には,神経体液性因子のバランスの破綻が最も重要な

因子であることが証明された.

表 3 には,代表的な神経体液因子とその正常値を示

しているが,その中で心臓刺激因子は,ノルエピネフリ

ン,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン,バソ

プレシン,エンドセリン,種々のサイトカインであり,

心保護因子の代表は心房性(A 型)ナトリウム利尿ペプ

チド(ANP),脳性(B 型)ナトリウム利尿ペプチド

12

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

(BNP)がある.アドレノメデュリン,内皮由来弛緩因

子(NO),アデノシン,オピオイドーエンケファリンも

心保護因子に属する可能性が高いが29,30),その是非には

今後の検討が必要である.

1)交感神経系

心不全においては血行動態変化によって動脈および心

肺圧受容器を介する求心性の交感神経抑制信号が低下す

る.一方,心房や肺静脈壁からの交感神経求心路を介し

て交感神経が亢進する.さらに心臓交感神経求心路を介

する反射も正常より亢進している.肺や腎のうっ血が生

じるとノルエピネフリンのクリアランスが低下し,結果

的に血漿ノルエピネフリンが増加してくる.心不全にお

いては筋交感神経活動も亢進するが,これは血管運動中

枢自体の亢進を反映している.慢性心不全患者にしばし

ばみられる Cheyne-Stokes 呼吸時には,無呼吸時に一致

して交感神経活動の亢進がみられる.このような交感神

経の亢進は急性心不全時には重要な代償機転として働く

が,慢性に亢進すると心臓の負荷を増大し,不整脈を誘

発したり,心筋を直接的に障害して心機能を悪化させる.

慢性心不全患者では心不全の重症度に比例して血漿ノ

ルエピネフリン濃度が増加する.血漿ノルエピネフリン

濃度は生命予後の指標になること31),さらにノルエピネ

フリンを阻害すると長期予後が改善する可能性が報告さ

れている32).その後,実際にβ遮断薬が心不全患者の予

後を改善することを実証した大規模臨床試験が数多く報

告されるようになった.

大規模臨床試験の結果,β遮断薬はその選択性,非選

択性,虚血性,非虚血性心不全症例にかかわらず有効で

あることから,β遮断薬のクラス効果と考えられる.

神経体液因子33

慢性心不全と神経体液因子3-1

表 3 心不全と関係する神経体液因子(基準値)

ノルエピネフリン(100-400 pg/ml)レニン活性値(0.5-3.0 ng/ml/hr)アンジオテンシンⅡ(10 pg/ml 以下)アルドステロン(30-200 pg/ml)バソプレシン(0.5-2.0 pg/ml)心房性(A 型)ナトリウム利尿ペプチド(ANP:43 pg/ml以下)脳性(B 型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP:18.4 pg/ml以下)エンドセリンー1(2.3 pg/ml 以下)アドレノメデュリン(10 fmol/ml 以下)TNF-α(3.0 pg/ml 以下)IL-6(2.0 pg/ml 以下)

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セリン,K,ANP,BNP などによっても制御されている

ことなどから,従来の心不全治療薬にアルドステロンの

分泌を抑制する薬剤やミネラロコルチコイド受容体阻害

薬の併用が有用である.今後は,抗アルドステロン薬の

作用機序の解明と,拡張不全による心不全治療における

抗アルドステロン薬の有用性についての解明が期待され

る.ヒト心不全における非アンジオテンシン変換酵素を

介するアンジオテンシンⅡ産生の臨床的な意義に関して

は今後の検討を要する44-46).

3)ナトリウム利尿ペプチド

1)ナトリウム利尿ペプチドの概要

ナトリウム利尿ペプチドには ANP,BNP,CNP(C

型ナトリウム利尿ペプチド)がある.ANP は主として

心房で,BNP は主として心室で合成され,心臓から全

身へ分泌される心臓ホルモンであり,血中を循環してい

る ANP,BNP はほぼ 100 % 心臓由来である47).ANP は

心房の伸展刺激により,BNP は主として心室の負荷に

より分泌が亢進し,血中濃度が上昇する.つまり,ANP

や BNP,特に BNP は心室への負荷の程度に鋭敏に反映

する生化学マーカーである.CNP は神経ペプチドとし

て中枢神経系にも存在するほか,血管内皮細胞や単球・

マクロファージでもその発現が確認され,血管壁ナトリ

ウム利尿ペプチド系の主たるリガンドである.

血中の ANP・BNP 濃度が上昇している一つの原因と

して,ANP,BNP の代謝(クリアランス)が遅延して

いることがある.ANP,BNP は受容体に結合した後に

内部化によって分解される場合と,中性エンドペプチダ

ーゼによって分解される場合が知られている48)が,代謝

と病態との関係はまだエビデンスに乏しい.他の重要な

原因としては,心臓での BNP 産生が亢進していること

である.BNP の遺伝子発現は,心室へのあらゆる負荷

で増加する.従って,左室負荷,右室負荷,前負荷,後

負荷,収縮障害,拡張障害の如何に問わず,負荷のかか

っている心室で BNP 産生が亢進し,その結果,血中

BNP 濃度が上昇する49-51).

ANP,BNP は,利尿,ナトリウム利尿,血管拡張,

アルドステロン分泌抑制作用,さらに心臓局所では心筋

肥大抑制,心筋線維化抑制作用を有しており,これらの

働きは特にアンジオテンシンⅡのタイプ 1受容体を介す

るいわゆる古典的なアンジオテンシンの作用とあらゆる

部位で機能的に拮抗しており,ANP/BNP の心保護作用

が期待されている.実際に,我が国では急性心不全治療

薬として ANP(hANP),米国では,BNP が臨床応用さ

れている.ANP,BNP 治療による心筋保護作用は,ニ

13

慢性心不全治療ガイドライン

2)レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系

心不全ではレニン・アンジオテンシン・アルドステロ

ン系(RAAS)が賦活され,アンジオテンシンⅡが過剰

に産生される.軽度の心機能障害でも血漿レニン活性値

が上昇している例があり,また重症心不全症例のすべて

に血漿レニン活性値が上昇しているとは限らない.

SAVE 試験においても血漿レニン活性値,ノルエピネフ

リン(NE),バソプレシン,心房性(A 型)ナトリウム

利尿ペプチド(ANP)は正常から高値まで広い範囲にわ

たり,各神経体液因子間には相関は認められなかった33).

それにも関わらず,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬が心不全患者の症状,

心機能,生存率を改善する.このことは循環レニン・ア

ンジオテンシン系(RAS)とは独立に組織 RAS が賦活

化され,心筋のリモデリングに深く関与していることを

示唆している34,35).一方,アンジオテンシン変換酵素阻

害薬投与にも関らず,投与初期には低下していたアルド

ステロンの血中濃度が再び増加してくるエスケープ現象

が指摘されている36).

アルドステロン自体も腎臓でのナトリウム貯留,マグ

ネシウムやカリウム喪失を惹起する古典的な作用の他,

交感神経亢進,副交感神経抑制,圧受容器の機能異常な

どを引き起こすことが指摘されるとともに,心臓や血管

に働いて,心筋の線維化,血管障害に直接関与している

との臨床的実験的知見が集積されてきている37-39).また,

不全心ではレニンやアンジオテンシンⅡのみならずアル

ドステロンも直接産生されているという報告37)と,心臓

局所で産生されているよりも循環血中のアルドステロン

が心臓に摂取されて機能している38)との報告がある.近

年,RALES 試験においてアルドステロン拮抗薬のスピロ

ノラクトンは重症心不全で,死亡率を 30 % 減少させ40),

さらに EPHESUS 試験41)では,アンジオテンシン変換酵

素阻害薬やβ遮断薬などの標準治療を受けた急性心筋梗

塞患者において,アルドステロン受容体特異的拮抗薬で

あるエプレレノンが死亡率を 15 % 減少させたことが報

告された.RALES 試験40)や EPHESUS 試験41)の結果,

慢性心不全や急性心筋梗塞患者においてアンジオテンシ

ン変換酵素阻害薬やβ遮断薬などの標準治療薬に抗アル

ドステロン薬を併用することが生命予後の改善につなが

ることが証明された.抗アルドステロン薬が予後改善効

果を示した理由の一つに,左室リモデリング改善効果が

考えられる42,43).アンジオテンシン変換酵素阻害薬や

ARB 投与下においてもアルドステロン-ブレイクスルー

が認められること36),アルドステロンは ACTH, エンド

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トログリセンとの比較で急性心筋梗塞の左室リモデリン

グ抑制効果52),カテコラミンとの比較で短期予後改善効

果53)が認められている.

2)BNP を利用した慢性心不全の診断

心不全の適切な治療の為には,迅速かつ正確な診断が

不可避であるが,慢性心不全,特に代償期の心不全や,

プライマリーケアにおける心不全の診断は必ずしも容易

でない.心不全には 2分の 1法則があるといわれる.す

なわち,現在心不全治療を受けている患者の半数は心機

能障害がなく,心機能障害を有している患者の半数は収

縮機能障害であり,その半数のみが適切な心不全治療を

受けているのが現状である54).さらに収縮機能障害を有

する患者の半数のみが心不全症状を有している.心不全

患者の半数は拡張機能障害が主病態であることも心不全

診断を困難にしている.さらに呼吸器疾患,関節疾患,

肥満,静脈瘤患者も心不全患者と誤診されることがある.

近年,慢性心不全の補助診断法としてのナトリウム利

尿ペプチド,特に BNP の有用性を示す論文が多く報告

されている.血中 ANP 濃度や BNP 濃度は血行動態とよ

く相関するが,BNP は左室拡張末期圧をよく反映し,

心不全の補助診断法として感受性,特異性の双方で

ANP より優位であるという報告が多い55,56).BNP が心

不全の補助診断法として特に優れているのは,①心不全

の存在診断,②心不全の重症度診断,③心不全の予後診

断である.

血中 BNP 濃度は NYHA の身体機能分類に平行して上

昇し,BNP 値が高いほど心不全が存在し,重症である.

また,BNP 濃度と生命予後の関係については,重症心

不全患者を対象とした研究で報告され57),海外の大規模

臨床試験のサブ解析においても確認された58,59).重症慢

性心不全を対象にアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の有

用性を検討した Val-HEFT 研究のサブ解析では,全ての

症例を BNP 値の低い順に4分割すると,BNP の高い群

ほど心事故の発生率の高いことが示された.この研究で

の中央値は 97 pg/ml であり,BNP 値が 10 pg/ml 上昇する

ごとに死亡率が 1.2 % 上昇することが報告されている58).

また,慢性心不全患者を 2 年間追跡した臨床研究では,

ANP,BNP,ノルエピネフリン,臨床症状,血行動態所

見を比較して,予後との関連を調べ,BNP 濃度と肺動

脈楔入圧のみがそれぞれ単独で予後規定因子であること

が報告されている57).慢性心不全で入院した症例を対象

に,退院時の BNP 値で退院後の心事故(死亡,心不全

の悪化による再入院)の発生率を前向きに比較検討する

と,BNP 値が低いほど有意に低率であり,およそ 200~

250 pg/ml が退院時のメルクマールになると報告されて

いる60,61).

一般集団を対象にした健診における BNP の有用性に

関しては未だ結論が出ていない.ただ,Framingham

Study では集団の 80 パーセンタイル値(約 20 pg/ml:

シオノリア BNP で測定)以上の群では以下の群より有

意に心事故の発生率が高いことが示されている62).従っ

て,BNP 値の心不全あるいは心疾患一般に対するカッ

トオフ値は未だ決定されていないが,低いほど心不全を

含め心疾患を有している可能性が低くなることは確かで

あり,特に心不全では陰性正診率が高い.

4)エンドセリン

エンドセリン(ET)は 1988 年に血管内皮細胞培養上

清中から発見された,強力かつ持続的な血管平滑筋収縮

性ペプチドである.エンドセリンは構造と薬理活性の異

なる3種類のアイソペプチド,ET-1,ET-2,ET-3 からな

る ET ファミリーである.ET 受容体には ET-1 選択性の

ET-A 受容体および ET アイソペプチド非選択性 ET-B 受

容体がある.血管平滑筋には ET-A 受容体が発現し,血

管収縮に働く.

心不全の重症度が増すにつれて血漿 ET-1 濃度は高値

を示すが,特に身体機能分類(NYHA)、度で上昇する.

血漿 ET-1 濃度は左室駆出率とは逆相関して,予後の規

定因子の 1 つである63).さらに血中の ET-1 は肺循環か

ら,また末梢循環からも産生され,肺血管床では ET-1

の産生量と肺血管抵抗とは正の相関を示すことから肺高

血圧に関係している64).

末梢循環では軽症の心不全で,ET-1 は末梢血管床で

産生されているが,重症の心不全ではむしろ取り込まれ

る65).このことは重症心不全ではエンドセリン受容体

(ET-A)がアップレギュレーションされ,ET-1 が末梢

血管床で取り込まれるものと思われる.

心不全は運動耐容能の低下を特徴とするが,運動時の

血中 ET-1 濃度が運動耐容能を規定するとの報告もあ

る66).アンジオテンシン変換酵素阻害薬が運動耐容能を

改善する機序にアップレギュレーションした ET-A 受容

体をアンジオテンシン変換酵素阻害薬が抑制して ET-1

による末梢血管収縮を減少することも考えられる62).原

発性肺高血圧症における ETA/B 受容体拮抗薬,ボセン

タンの有効性が証明され,臨床使用が可能となったが,

心不全治療薬としては今後の検討を要する.

5)アドレノメデュリン

アドレノメデュリン(AM)は,心不全の重症度が増

14

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

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すにつれて血中濃度は増加を示すが,ANP,BNP に比

較して心不全重症度間の重なりがあり67),心不全の重症

度評価,治療効果判定の指標にはなりにくい.AM は

IL-1,TNF-αなどのサイトカインにより分泌が亢進し,

心臓のみならず全身の血管床から産生され,オートクリ

ン,パラクリンに細胞保護的に働いている.AM は細胞

内 cAMP を増加することで,血管拡張作用,心機能改

善作用があるので抗心不全薬として有用である可能性が

ある68).

6)その他の循環ペプチド

内因性オピオイドであるβエンドルフィン,メト・エ

ンケファリン,ジノルフィンも心不全で増加している.

これらのオピオイドは交感神経を抑制して心不全の代償

機構の一部として働く.ブラジキニンは血管拡張作用が

あり,心不全で上昇する収縮因子に拮抗する.アンジオ

テンシン変換酵素阻害薬の血管拡張作用,心保護作用に

寄与している.しかしまた逆に心筋の交感神経終末から

のノルエピネフリンの分泌を促進して不整脈の原因にも

なる.血管作動性腸ポリペプチド(VIP)は局所因子と

して心収縮性の維持の役目を行っている.ニューロペプ

チド Y はカテコラミンとともに心臓交感神経終末から

分泌される.心不全ではこのニューロペプチド Y の受

容体の遺伝子発現は低下しており,未治療の心不全患者

のニューロペプチド Y 濃度は上昇していない.インス

リン様成長因子-1(IGF-1)は成長ホルモン(GH)のメ

ディエーターとして働く.

7)サイトカイン,酸化ストレス

心不全の発症に免疫細胞,およびそれらが産生するサ

イトカインの関与が指摘されている64).実際,心不全患

者において tumor necrosis factor-α( TNF-α),

Interleukin-6(IL-6)が血中に増加し,予後とも関係す

る60,70).これらのサイトカインは直接的な陰性変力作用,

β受容体に対する反応抑制,一酸化窒素の産生を介する

心筋細胞障害によって心機能を抑制する.さらに筋肉の

疲弊をきたし心臓悪液質にも関与する.また血管の透過

性,末梢血管抵抗,心不全症状に特徴的な運動耐容能に

も関与する.TNF-α,IL-6 などのサイトカイン以外に

も可溶性サイトカイン受容体ならびに可溶性接着分子も

増加している.これらのサイトカインを抑制することは

心機能の改善,悪液質の改善,運動耐容能の改善,予後

の改善につながる可能性がある.最近循環器疾患の心臓

血管系事故の指標として,高感度 CRP 濃度は有用と報

告されているが,IL-6 などのサイトカインにより肝臓

などより産生される.最近,心不全の発症に酸化ストレ

スの関与が指摘されているが71),今後さらなる臨床的検

討が必要である.

ClassⅠ

¡心不全の診断,重症度,予後評価に血漿BNP測定

ClassⅡ

¡心不全の治療効果判定に BNP,N 端-ProBNP 測定

¡予後評価に N 末端-proBNP 測定

¡心不全の重症度,予後評価に血漿エンドセリン濃度測定

¡心不全の重症度,予後評価に血漿ノルエピネフリン濃

度測定

¡左房負荷もしくは体液量の評価に血漿心房性(A 型)

ナトリウム利尿ペプチド濃度の測定

¡循環レニン・アンジオテンシン系の賦活の評価に血漿

レニン活性値もしくは濃度測定

¡循環アルドステロン系の賦活の評価に血漿アルドステ

ロン濃度測定

ClassⅢ

¡なし

心不全では左室ポンプ機能の低下により,交感神経系,

レニン・アンジオテンシン系,バソプレシン,エンドセ

リンなどの神経体液因子の賦活化による末梢血管収縮を

きたす(3.「神経体液因子」参照).これらの機構は,

初期には代償的に血圧維持に働くが,心不全が長期にわ

たると,過剰な血管収縮は後負荷増大による左室収縮障

害を助長する一方で,血流低下による多彩な臓器機能障

害を惹起する.また,近年心不全において末梢血管の拡

張能とくに内皮依存性血管拡張反応の低下が生じること

が明らかとなり,運動耐容能の低下に関連する重要な因

子として注目されている.したがって,慢性心不全患者

の治療にあたっては,心機能低下によってもたらされる

末梢循環障害の機序についての理解とそれに基づく臓器

障害を評価することが重要である.

本章では,慢性心不全における末梢循環障害の成立機

序とその臨床的意義ならびに運動耐容能と骨格筋血流調

節との関連等について述べる.

15

慢性心不全治療ガイドライン

慢性心不全患者での神経体液因子の評価

末梢循環障害44

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心不全は,心臓のポンプ機能不全により,組織および

各臓器に十分な血液の供給ができない病態である.軽症

から中等症の慢性心不全においては,神経体液因子の賦

活化が代償的に働き,安静時には臓器血流は維持されて

いるが,心不全の進行により運動時の骨格筋血流の増加

は制限される.また,重症の慢性心不全になると,各臓

器の低潅流状態と血流のうっ滞に基づく種々の心不全徴

候が顕在化する.表 4 に慢性心不全における末梢循環

障害の主な臨床的側面を示す.

慢性心不全における末梢循環障害を客観的に評価する

ことは病態を理解する上では極めて重要であるが,その

評価法が観血的であったり,特殊な装置や設備が必要で

あることが多く,実際には臨床において簡便に施行可能

な方法は少ない.したがって,末梢循環障害によって生

じる各臓器機能障害として評価することが中心となる.

慢性心不全における末梢循環障害の成因は,神経体液

因子とくに交感神経系の賦活化による過剰な血管収縮

と,血管拡張能の低下に大別される77,78).

1)過剰な血管収縮

心不全における過度の血管収縮は,ある程度はレニ

ン・アンジオテンシン系やバソプレシン系の活性化が関

与するが,主に交感神経緊張の亢進によると考えられて

おり,血圧上昇に対する動脈圧受容器反射機能の低下,

中心静脈圧や左室拡張末期圧の上昇に対する心肺圧受容

器反射機能の低下,筋肉内化学受容器を介した神経反射

性交感神経活動の亢進などの主な神経反射機能異常がそ

の主因とされている.それ以外に中枢神経系の何らかの

異常が関与する可能性も考えられる.

2)血管拡張能の低下

従来より,心不全患者では前腕の反応性充血時に血流

増加反応,運動時の血流増加,血管拡張薬による血流増

加反応が低下することが報告されていたが74,75),近年,

心不全患者の血管拡張能低下の機序の 1つとして,種々

の刺激に対する内皮由来血管拡張因子である一酸化窒素

(NO)の産生低下が注目されている76,77).前腕血管を用

いて,反応性充血時の前腕血管径の増加度(% FMD:

血流依存性血管拡張による血管径の増加度)を血管超音

波検査を用いて測定する方法や,静脈閉塞プレチスモグ

ラフィを用いた様々な刺激に対する血流変化を測定する

方法により慢性心不全患者では内皮機能障害の存在が示

されている78,79).また,心不全患者において低下した反

応性充血による末梢血管拡張反応や,運動時の前腕血流

増加反応が,NO の基質である L-アルジニン投与により

改善することが報告されている80).以上のことから,慢

性心不全患者の末梢血管においては,血管内皮による

NO 産生・放出障害および L-アルジニンの利用障害が存

在し,内皮機能異常および運動時の骨格筋血流増加反応

の低下に関与することが示唆される.

3)運動耐容能低下と骨格筋の循環障害

慢性心不全患者の運動耐容能が必ずしも心機能低下

の程度と相関しないという事実からも理解されるよう

に81,82),とりわけ慢性心不全患者の主症状である易疲労

性や運動耐容能の低下と,骨格筋循環障害との関係は極

めて密接である.

健常者では運動により運動骨格筋の血流は安静時の数

倍から十数倍に著増する.これは,運動による心拍出量

の増加と,血流の再分布による.すなわち,運動により

皮膚,腎,腹部臓器および非運動筋では血管収縮がおこ

り,血流の再分配による運動骨格筋血流の増加が生じる.

これに対し,慢性心不全患者では運動による心拍出量の

増加は著明に制限されるため,運動時は皮膚,腎,腹部

臓器および非運動筋の血管収縮により運動筋に血流を配

分する機構が働くが,健常者に比し運動筋血流の増加は

制限される74,75).これが慢性心不全患者における易疲労

性・運動耐容能低下の一因であり,これには上述のよう

な血管内皮機能低下が大きな役割を果たすと考えられて

16

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

末梢循環障害の臨床的意義4-1

末梢循環障害の成因4-2

表 4 末梢循環障害の臨床的側面

1.全身臓器の低灌流による症状腎血流低下:乏尿,糸球体濾過率の低下,高窒素血症骨格筋血流低下:嫌気的代謝の亢進,乳酸産生の亢進,

易疲労感の増加,運動耐容能の低下冠血流低下:心筋虚血,心機能低下脳血流低下:記銘力,集中力減退,睡眠障害,

意識障害(とくに高齢者)皮膚血流低下:末梢性チアノーゼ,冷感

2.全身臓器血流のうっ滞または体液貯留による症状労作時息切れ,呼吸困難浮腫,肝腫大,胸水消化器症状(食思不振,悪心,腹部膨満感)

3.薬効動態,薬効への影響腎血流低下:腎排泄性薬物の排泄障害(例・ジゴキシ

ン),利尿薬の作用減弱肝血流の低下:うっ血肝・薬物代謝遅延(例・リドカ

イン),消化管からの吸収障害

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いる.実際,慢性心不全患者において NYHA 心機能分

類の重症度にしたがい,末梢血管でのアセチルコリンに

よる血流増加反応が低下するとの報告がある83).運動療

法が心不全患者の運動耐容能を増大し,心不全に好まし

い効果をもたらすことは,最近の研究で繰り返し実証さ

れた.運動療法が心不全の病態を改善させる機序として,

左室拡張能の改善,呼吸機能の改善,冠血流の増加,運

動骨格筋の代謝機能の改善および交感神経抑制作用のほ

か,内皮機能異常の改善が重要と考えられる.事実,慢

性心不全患者において 6カ月間の運動療法を行った群で

は,大腿動脈のアセチルコリンに対する血管拡張反応が

運動療法を行わなかった群と比較して有意に大であるこ

とが報告されている84).さらに実験的心不全モデルにお

いて運動により血管壁 EcNOS 発現が増加することが報

告されている85,86).また,慢性心不全患者における運動

耐容能の低下は,骨格筋血流量の低下による酸素供給の

不足によるところが大きいが,慢性の末梢循環障害によ

る骨格筋自体の病的変化の関与も重要である.慢性心不

全患者の骨格筋においては type I 線維の減少,萎縮,ミ

トコンドリアの容積密度の減少,ミトコンドリアの酸化

系酵素の減少など,構造的,生化学的変化により解糖系

に転じやすくなり,そのため骨格筋の易疲労性が生じる

可能性がある.最近,31-P 磁気共鳴スペクトロスコピ

ー(MRS)を用いた慢性心不全患者の骨格筋代謝機能

を非侵襲的に評価する試みがなされている87).

本章では,臓器血流の定量的評価法と,臓器血流障害

によって生じる種々の機能障害の評価法とに分け,クラ

ス分けを示す.さらに心不全研究の分野で行われている

主な評価法については(参考)として挙げる.

ClassⅠ

¡冠血流

負荷心筋血流シンチグラフィ:心筋虚血が疑われる

場合

冠動脈造影:冠動脈疾患の診断ならびに治療の目的

として

ClassⅡ

¡冠血流

負荷心筋血流シンチグラフィ:慢性心不全患者全体

に対するルーチン検査として

心筋 PET による非侵襲的定量的評価

¡脳血流

脳血流イメージング(脳 SPECT,MRI)

¡腎血流

パラアミノ馬尿酸(PAH)クリアランス法(有効腎

血漿流量の測定)

腎動態レノグラフィ

腎血管超音波ドプラ法

¡骨格筋血流

超音波ドプラ法

静脈閉塞プレチスモグラフィ

温度希釈法

¡皮膚血流

サーモグラフィ

指尖脈波

ClassⅢ

¡冠動脈造影:冠動脈疾患の存在が否定的な患者,血行

再建,弁置換術,心移植の対象とならない患者および

慢性心不全患者全体に対するルーチン検査として

(参考)

冠血流:冠動脈内ドプラ法および経胸壁ドプラ法を用

いた定量的評価(冠予備能,内皮機能評価)

骨格筋血流:血管内皮機能検査(反応性充血時の血管

径増加度(% FMD)計測,血管作動性物質動脈内注入

による骨格筋血流評価など)

慢性心不全による活動能力の低下は患者の生活の質と

充実度を直接に低下させるため,活動能力の改善は慢性

心不全患者治療の主要目標である.活動能力は運動能力

のみならず,心理的状態,認識能力,社会的環境などに

依存する.これらの評価は初期の病態把握および管理を

する上で極めて重要である88).

患者の活動能力を規定する最も重要な因子は運動能力

である.日常生活における労作時の息切れなどの自覚症

状の出現は運動能力の低下に基づき,活動を制限して生

活の質に直接に関連する.慢性心不全患者は運動能力に

応じた活動性を維持することが原則であるが,日常活動

の許容範囲,職種や業務内容の選択,手術に際してのリ

17

慢性心不全治療ガイドライン

末梢循環障害の主な評価法

臓器血流の評価法

活動能力の評価55

運動能力5-1

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スクの評価などに運動能力の評価は必須である.また運

動能力は独立した予後予測因子でもあり1),このことか

ら運動能力の指標である最大酸素摂取量の低下は心臓移

植の適応基準の一つとなっている89).

心理的要因,認識能力および社会的要因は回復意欲,

疾病と治療の理解に基づく服薬および生活指導の遵守,

家族を含む周囲からの支援を通じて治療効果に影響を与

える.これらの因子,特に反応性うつ状態,病識,家庭

および社会環境については定期的に評価しておかなけれ

ばならない.

1)運動能力の評価法

⁄)動的運動負荷試験

運動能力を定量的に評価する標準的方法はトレッドミ

ルや自転車エルゴメーターを用いた症候限界性多段階漸

増法による動的運動負荷試験である.標準化したプロト

コールによる運動時間,最大運動時の仕事量あるいは最

大酸素摂取量により評価される.最大酸素摂取量は最大

心拍出量の第一次近似であり,心血管系の最大予備能を

反映する90).

慢性心不全患者の症候限界性運動負荷試験は少ないな

がらもリスクを伴うため心電図,血圧のモニターは必須

である.ガス交換比を含む呼気ガス解析指標の実時間モ

ニターは患者の相対的運動強度を知り得ることから安全

に運動負荷試験を行うために有用である.呼気ガスモニ

ターにより検出し得る指標に,嫌気性代謝閾値がある.

嫌気性代謝閾値は,運動筋への酸素供給が不充分となり

血中乳酸濃度が上昇し始める運動強度であり,乳酸が重

炭酸イオンによって緩衡されて生ずる炭酸ガスにより酸

素摂取量増加に対する炭酸ガス排泄量の増加率が増えは

じめる点として捕らえられる91).嫌気性代謝閾値に至れ

ば,最大運動能力のおよそ 50~60 % の運動強度にある

と考えて良い.呼気ガス解析は代謝測定装置が高価であ

ること,またある程度習熟する必要があることから総て

の施設で行い得るわけではないが,運動能力を定量的に

評価するためには呼気ガス解析により最大酸素摂取量を

測定する必要がある.日本人の最大酸素摂取量と嫌気性

代謝閾値の標準値92)を表 5 に,最大酸素摂取量と嫌気

性代謝閾値による慢性心不全の機能分類93)を表 6示す.

¤)6分間歩行試験

トレッドミル負荷試験では,自らの体重を運ぶため標

準化したステージにより,およその酸素摂取量の推定が

可能である.また特殊な設備が不要な簡便法として 6分

18

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

表 5 日本人の嫌気性代謝閾値,最大酸素摂取量の標準値(ml/Kg/分)

年齢(歳)/性 20~29 30~39 40~49 50~59 60~69

嫌気性代謝閾値 男性 18.4±3.6 16.1±3.1 15.1±3.0 15.3±2.9 17.5±2.9

女性 15.6±2.5 16.6±3.6 16.2±2.2 16.0±2.6 15.5±1.8

最大酸素摂取量 男性 33.5±6.7 29.7±6.8 27.4±5.4 25.9±4.7 29.5±4.4

女性 25.7±5.9 27.3±6.1 23.6±4.7 23.8±4.3 22.7±4.5

自転車エルゴメーター

(文献 97)*嫌気性代謝閾値は V-slope 法により求めたものを示す.60歳以上の群では日常活動度の高いボランティアが多かった.

表6 トレッドミルを用いた多段階漸増負荷試験から求めた嫌気性代謝閾値と最大酸素摂取量による慢性心不全の機能分類

運動能への低下度 最大酸素摂取量(ml/kg/分) 嫌気性代謝閾値(ml/kg/分)

正 常~軽 度 >20 >14

軽 度~中等度 16~20 11~14

中等度~高 度 10~16 8~11

高      度 6~10 5~8

著 し く 低 下 <6 <5

(文献 98)

年齢(歳)/性 20~29 30~39 40~49 50~59 60~69

嫌気性代謝閾値 男性 20.1±3.6 18.2±4.1 17.3±3.0 17.8±3.2 20.2±3.2

女性 17.6±3.0 17.9±2.8 16.8±2.6 16.6±3.0 17.3±2.1

最大酸素摂取量 男性 40.1±7.5 37.7±8.1 33.2±6.5 32.2±6.6 37.6±5.1

女性 33.1±5.1 34.5±4.5 29.0±5.7 27.0±4.0 30.7±3.8

トレッドミル

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間歩行テストがある.最大努力による 6分間の歩行距離

を測定するものであり,およその運動能力94)を推定し得

る.6 分間歩行距離は身長と体重および年齢に関連して

おり,日本人の正常域(m)は[454-0.87×年齢(歳)-

0.66×体重(Kg)]±82(2 標準偏差)に身長(m)を乗

じたものとされる95).

‹)身体活動能力質問表

従来,運動能力による心血管系予備能の評価は New

York Heart Association(NYHA)の身体機能分類に見ら

れるごとく労作時の自覚症状に基づいてなされてきた.

このような問診による評価は客観性に乏しいという問題

があるが簡便であり,何よりも患者の自覚である点で重

要である.患者は自覚症状の発生を避けるために徐々に

活動を制限していることがあり,また老人では日常生活

の活動性の低下から症状が顕在化していないことがある

ため,明確な個々の活動に対する耐容性を問診する必要

がある.基本的な日常活動と酸素摂取量を対応させた問

診表に身体活動能力質問表(specific activity scale,表 7)

があり,特に日常生活で自覚症状が出現する中等症から

重症の慢性心不全の運動能力評価に有用である96).

[(88)より改変]

ClassⅠ

¡来診時における問診(運動能力,心理的状態,認識能

力,社会的環境など)

¡心移植の適応を検討するための運動負荷試験・通常呼

気ガス分析を行う

ClassⅡ

¡運動負荷試験:自覚症状と臨床評価が一致しない患者

において活動能力と症候を生じる限界の運動レベルを

さらに明確に評価するため

¡運動負荷試験:特殊な臨床的疑問,問題を検討するた

め.たとえば心房細動時またはペースメーカー装着後

における心拍数の変化と調節,高血圧歴をもつ心不全

患者における血圧のコントロール,運動誘発性の不整

脈,身体障害の程度の評価,活動能力の変化と治療に

対する反応の評価など

ClassⅢ

¡運動負荷試験:心移植の適応を評価する場合を除き,

臨床的に安定した慢性心不全の経過を評価するための

ルーチン検査として

欧米では 1990 年代半ばから心不全患者を対象として

患者管理の予後に対する有効性を検証する介入試験が行

われてきた.その結果,患者教育,治療コンプライアン

スの向上,訪問や電話などによる患者モニタリング,治

療薬の調節,看護師による管理などの患者管理が慢性心

不全患者の予後の改善に有効であることが報告されてい

る.それによれば,高齢心不全患者を対象に,多職種に

よる退院前患者教育の強化,退院後の社会資源の積極的

活用,退院後の訪問看護や電話によるフォローアップを

19

慢性心不全治療ガイドライン

心不全における活動能力の評価

表 7 身体活動能力質問表

1.夜,楽に眠れますか (1MET以下)2.横になっていると楽ですか (1MET以下)3.一人で食事や洗面ができますか (1.6METs)4.トイレは一人で楽にできますか (2METs)5.着替えが一人で楽にできますか (2METs)6.炊事や掃除ができますか (2~3METs)7.自分でフトンを敷けますか (2~3METs)8.ぞうきんがけはできますか (3~4METs)9.シャワーをあびても平気ですか (3~4METs)

10.ラジオ体操をしても平気ですか (3~4METs)11.健康な人と同じ速度で平地を100~200 m 歩いても平気ですか (3~4METs)

12.庭いじり(軽い草むしりなど)をしても平気ですか(4METs)

13.一人で風呂に入れますか (4~5METs)14.健康な人と同じ速度で 2 階まで昇っても平気ですか

(5~6METs)15.軽い農作業(庭掘りなど)はできますか(5~7METs)16.平地を急いで 200 m 歩いても平気ですか(6~7METs)17.雪かきはできますか (6~7METs)18.テニス(又は卓球)をしても平気ですか(6~7METs)19.ジョギング(時速 8 km 程度)を 300~400 m しても平気ですか (7~8METs)

20.水泳をしても平気ですか (7~8METs)21.なわとびをしても平気ですか (8METs以上)

MET:metabolic equivalent,代謝当量;安静時の酸素摂取量(3.5 ml/kg 体重/分)を 1 MET として活動時の酸素摂取量が安静時の何倍かを示し,活動強度の指標として用いる。NYHA 心機能分類;Ⅰ度,7 METs 以上;Ⅱ度,5~6METs;Ⅲ度,2~4 METs;Ⅳ度,1 MET 以下

(文献 101)

慢性心不全の治療Ⅱ

一般管理11

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行った介入群と,通常の治療を受けた対照群に分け,退

院後 90 日の再入院率,生存率,QOL,医療コストへの

効果を検討した.その結果,介入群は対照群に比較し再

入院率が50%減少し,QOL スコアが改善し,医療費も

低かった97).また,循環器専門看護師による退院後の定

期的な在宅訪問によって症状のモニタリングや,服薬・

食事に関する患者教育を行う Home-Based Intervention

(HBI)により再入院率が 50 % 減少し,医療機関に通院

する日数が 1/2に抑えられたとの報告がある98).さらに,

平均 4.2 年追跡した結果,HBI により死亡または再入院

が減少することも報告されている99).また,DIAL 試験

では,1518 名の安定した在宅心不全患者を対象に,電

話を用いて症状,体重コントロールの監視,服薬,食事

療法,運動に関するコンプライアンスの評価を行った介

入群と,通常の治療の対照群とを比較し,電話モニタリ

ングにより全死亡あるいは心不全増悪による再入院のリ

スクが 20 % 減少することが示された100).このような患

者管理プログラムの予後に対する効果を検討したメタア

ナリシスでは,在宅訪問による患者教育やモニタリング,

外来でのフォローアップの強化または電話による指導,

退院後の社会資源の積極的活用,あるいはこれらの組み

合わせにより再入院が減少し,QOL も向上することが

明らかにされている101).薬物療法による心不全増悪によ

る再入院に対する減少効果は,アンジオテンシン変換酵

素阻害薬で 22 %(SAVE)102),β遮断薬で 32 %(CIBIS

II)103),ジギタリスで 23 %(DIG)104),スピロノラクトン

で 35 %(RALES)40)にとどまっており,患者管理の効果

は薬物治療の効果と同等あるいはそれ以上と考えられ

る.患者管理は単独で効果を有するものではなく,患者

管理によって最適な薬物治療が行なわれ,治療コンプラ

イアンスが向上し,薬物治療の効果を最大限に引き出せ

ることが期待できる.

わが国の慢性心不全患者も心不全増悪による再入院率

が高く,その誘因を検討すると,塩分・水分制限の不徹

底が 33 % と最も多く,過労,治療薬服用の不徹底,精

神的または身体的ストレスなどの予防可能な因子が上位

を占め,感染症・不整脈・心筋虚血・高血圧などの医学

的要因よりむしろ多かった.さらに,心不全増悪による

再入院の規定因子として退院後受診頻度が月 0~1 回の

患者は,それ以上の患者より再入院のリスクが約5倍高

かった105,106).このような慢性心不全患者の実態は,患

者管理が,わが国の慢性心不全患者の再入院予防におい

てきわめて重要であることを示唆していると考えられる.

慢性心不全患者の患者管理の要点は,多職種(医師・

看護師・薬剤師・栄養士など)によるチーム医療,退院

時指導,フォローアップ計画(病診連携),ガイドライ

ンに沿った薬物治療,十分な患者教育・カウンセリング,

患者モニタリングによる心不全増悪の早期発見などがあ

げられる(表 8)107).中でも患者教育は極めて重要であ

る.患者,家族およびその他の介護者に慢性心不全の特

徴,心不全増悪時の症候とその対処方法,薬物治療に関

しての充分な説明を行うとともに食塩・水分制限,活動

制限や禁煙の指導を行う.毎日の体重測定,規則的な服

薬など自己管理の重要性と責任を明確にすることは重要

である(表 9)108).

20

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

表 8 慢性心不全患者に対する患者管理プログラムの要点

1.包括的アプローチ2.教育および支援

(患者や家族あるいは介護者に対して)3.薬物治療の適正化4.退院後の十分かつ頻回なフォローアップ(外来・在宅・電話)

5.医療専門職との密接な連絡6.ケアの連携・統合7.心不全症状・徴候の早期発見8.運動療法

(文献 109)

表 9 慢性心不全患者および家族・介護者に対する教育・カウンセリングの内容   ■

一般的事項心不全の病態の説明身体的変化(症状・徴候)精神的変化予後症状のモニタリングと管理心不全増悪時の症状体重の自己測定(毎日)症状増悪時の対処方法精神症状の対処方法食事療法塩分・水分制限アルコール制限遵守するための方法薬物療法薬の性質、量、副作用併用薬剤複雑な薬物治療への対処費用遵守するための方法活動・運動仕事および余暇運動療法性生活遵守するための方法危険因子の是正禁煙肥満患者に対する体重コントロール高脂血症、糖尿病、高血圧の管理

(文献 110)

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患者,家族あるいは介護者に,心不全の病態をわかり

やすく説明する必要がある.患者にとって,心不全の病

態はきわめて複雑であるが,治療内容を理解し,コンプ

ライアンスを向上させるために欠かせない知識である.

息切れやむくみなど心不全の主要症候,特に急性増悪時

の症状とその対処方法については充分な説明が必要であ

る.労作時息切れおよび易疲労感の増強や安静時呼吸困

難,下腿浮腫の出現のみならず食思不振や悪心,腹部膨

満感,体重増加などが心不全増悪の症候であり得ること

について患者の充分な理解が必要である.すべての慢性

心不全患者は毎日の体重測定(毎朝,排尿後)による自

己モニタリングが必要であり,短期間での体重増加は体

液貯留の指標として重要である.日の単位で体重が 2 kg

以上増加するような場合は慢性心不全急性増悪を強く示

唆する.これらの症候により慢性心不全の増悪が疑われ

た場合には自ら活動制限,食塩制限を厳しくするととも

に速やかに受診すべきであることを指導する.高齢患者

では,浮腫などの症状に気づきにくいため,家族あるい

は介護者によるモニタリングが重要である.

慢性心不全の生活に及ぼす影響は身体機能の低下のみ

ならず心理的適応にも依存しており,患者が社会的ある

いは精神的に隔離されないように注意しなければならな

い.活動能力に応じた社会的活動は勧めるべきであり,

可能であれば運動能力に応じた仕事を続けるべきである.

全細胞外液量は体内ナトリウム量により規定されてお

り慢性心不全においては減塩によるナトリウム制限が最

も重要である.重症心不全では一日の食塩量 3 g 以下の

厳格な塩分制限が必要である.米国のガイドラインでは

さらに厳しい 1~2 g 以下の塩分制限が勧められている

が109)日本人の食生活では困難である.食事指導により

パンやうどんなどの加工食品自体にも相当量の食塩が含

有されていることを教育する.軽症心不全では厳格な塩

分制限は不要であり一日およそ 7 g 以下程度の減塩食と

する.高齢者においては過度の食塩制限が食欲を低下さ

せ栄養不良となり得るため味付けには適宜調節が必要で

ある.

軽症の慢性心不全では自由水の排泄は損なわれておら

ず水分制限は不要であるが,口渇により過剰な水分摂取

をしていることがあるので注意を要する.重症心不全で

希釈性低ナトリウム血症をきたした場合には水分制限が

必要となる.

肥満を合併している場合には減量のためのカロリー制

限が必要である.その他の食事制限は明らかな適応(高

脂血症,糖尿病など)がない限り勧めない.

飛行機旅行,高地あるいは高温多湿な地域への旅行で

は注意が必要である.一般的には短時間の飛行機旅行は

他の交通機関による旅行よりも好ましい.しかし長時間

の飛行機旅行は NYHAⅢ度およびⅣ度の重症心不全患

者では脱水,下肢の浮腫,静脈血栓などの問題が生ずる

ため勧められない.どうしても飛行機旅行が必要な場合

には,飲水量の調節,利尿剤の適宜使用,機内での軽い

体操が必要である.また総ての心不全患者が旅行時の食

事内容や食事時間の変化,これに伴う消化不良,高温多

湿な気候が水バランスを変化させることを認識しておか

なければならない.

すべての心不全患者,特に重症患者では,病因によら

ずインフルエンザに対するワクチンを受けることが望ま

しい.慢性心不全患者におけるワクチンの真の利益に関

しては充分な臨床データがないが,少なくともインフル

エンザの重症合併症を防ぐ効果が期待できる.

喫煙はすべての患者で禁止すべきである.

アルコール性心筋症が疑われる場合,禁酒が不可欠で

ある.他の総ての慢性心不全患者においても原則として

飲酒は禁止すべきである.

浮腫を有する非代償性心不全,慢性心不全急性増悪時

には運動は禁忌であり活動制限と安静が必要である.し

かし薬物治療あるいは外科的治療がなされて状態の安定

した慢性心不全においては安静によるデコンディショニ

ングは運動耐容能の低下を助長し,労作時の症状を悪化

させる要因となる.逆に適度な運動あるいは運動トレー

ニングは運動耐容能を増して日常生活中の症状を改善し

生活の質を高めることが明らかとなっている110-112).適

切な運動療法を行った場合には心筋収縮性の改善は明ら

かではないものの少なくとも左室のリモデリングを増悪

21

慢性心不全治療ガイドライン

社会的活動性と仕事1-2

食 事1-3

旅 行1-4

ワクチン接種1-5

喫 煙1-6

アルコール1-7

安静と運動1-8

カウンセリング:一般的知識と症状のモニタリング1-1

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せず,呼吸筋・骨格筋機能,および血管拡張反応を改善

し,運動耐容能を増す.また圧受容体反射感受性の低下

や交感神経系優位の自律神経の不均衡を是正する.さら

に予後を改善するとする報告も認められる113).しかし運動

強度,運動量が過度となれば心不全の増悪をきたし得る

のでその実践にあたっては個々の症例の病態と運動負荷

試験から得られた情報に基づいた運動処方が必要である.

運動療法の適応となるのは一般に最大酸素摂取量 10

ml/kg/分以上の運動耐容能を有する患者である114).嫌

気性代謝閾値以下の運動強度では呼吸・循環動態は速や

かに定常状態に至り長時間運動を継続することが可能で

あり91),およそ嫌気性代謝閾値近傍の運動強度が処方さ

れる.運動の種類としては歩行やサイクリングのような

低強度の律動的好気的運動が勧められる.強い等尺性運

動は避けるべきである.通常歩行速度の酸素摂取量がお

よそ 10 ml/Kg/分であることから歩行運動では速度を変

えることにより運動強度を調節し,重症度の異なる患者

に対応することが可能である.具体的には 30 分程度の

持続的運動を週 3回から 5回行う.嫌気性代謝閾値近傍

の運動強度を設定し,軽い強度からはじめて経過を観察

しつつ徐々に運動強度を上げていく.一回の運動には準

備体操,整理体操が必須である.特別な運動トレーニン

グを行う場合には患者の運動能力に応じて計画し,監視

下に行うべきである115).

入浴は慢性心不全患者において禁忌ではなく,適切な

入浴法を用いればむしろ負荷軽減効果により臨床症状の

改善をもたらすことが示されている116).熱いお湯は交感

神経緊張をもたらすこと,深く湯につかると静水圧によ

り静脈環流量が増して心内圧を上昇させることから温度

は 41℃,鎖骨下までの深さの半座位浴で時間は 10分程

度が良いとされる.また,低温サウナも重症慢性心不全

患者の治療に有効であるとする報告116)があるが,生命

予後の改善効果があるかどうかについてはまだ明らかで

ない.

NYHAⅡ度からⅣ度の慢性心不全を有する妊婦では死

亡率,罹病率が高く,正常の妊娠,分娩は困難である.

従ってこれらの患者では妊娠を避けるべきである.より

軽症の慢性心不全でも妊娠が予後を悪化させることを説

明する.

慢性心不全患者において性交渉時の血行動態を測定し

た報告は皆無であるが,健常人および陳旧性心筋梗塞患

者における検討では絶頂期の心拍数,血圧は両群で差が

無く,心臓二重積(心拍数×血圧)は,安静時のおよそ

3 倍に達するとされる 117).運動強度でいうとおよそ

single の Master 二階段試験に相当することから,single

Master が不整脈の誘発,負荷後の過度の息切れ,疲労

感なしに行い得れば性交渉は可能と考えられる.しかし

心拍数,血圧の反応は年齢や重症度よりもむしろ個体差

や性行為時の状況によるところが大きいとされ,特に婚

外交渉では過大な反応をきたし得ることに注意が必要で

ある.

抑うつや不安などの精神症状の出現にも注意を要す

る.最近,抑うつ症状が心不全患者の QOL ばかりでな

く予後にも影響を及ぼすことが報告されている.したが

って,心不全患者に対する支援には精神的支援も含む必

要がある.さらに,症状によっては,心療内科医による

診断・治療や臨床心理士によるカウンセリングも考慮す

べきである.

薬物療法の中断は心不全増悪の誘因のひとつであり,

服薬のコンプライアンスを向上させることが治療成功の

鍵となる.薬剤名,投与量,投与回数,副作用について

の知識を指導するとともに,薬剤師と連携し投薬量のチ

ェック,コンプライアンスのチェック,副作用のモニタ

リングなどを行うことが必要である.

[(88)より改変]

慢性心不全患者で以下の所見のいずれかが認められる

場合には入院の適応がある.

ClassⅠ

¡外来治療に抵抗性の慢性心不全増悪(NYHAⅢ,Ⅳ

度)

¡最近発症した心筋虚血あるいは梗塞,急性肺水腫ある

いは高度の呼吸困難,症候性低血圧あるいは失神,肺

塞栓症,末梢塞栓症,症候性不整脈(高度の徐脈およ

び頻脈性不整脈),その他肺炎や腎不全の合併など,

22

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

性生活1-11

慢性心不全患者における入院の基準

避 妊1-10

入 浴1-9

精神症状1-12

薬物療法1-13

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生命に危険の迫った状態や基礎疾患を合併する場合

・β遮断薬開始時

ClassⅡ

¡軽度~中等度の臨床症状を有する慢性心不全

¡初めて軽度心不全が発生した患者

¡一人暮らしなど安全な外来管理が不可能と考えられる

社会的要因がある場合

心不全の大半は左室収縮機能不全に基づく心不全であ

る.とくにその原因としては非虚血性の拡張型心筋症と,

いわゆる虚血性心筋症に大別できる.これらの疾患にお

いては交感神経系,レニン・アンジオテンシン系が賦活

され左室の進行性の拡大と収縮の低下すなわちリモデリ

ングが生じ,死亡,心不全の悪化などのイベントにつな

がると考えられている.従ってこのような神経内分泌系

を阻害することにより左室リモデリングを抑制し心不全

の予後を改善することが最近の慢性心不全治療の中心と

なっている.ここではこのような世界的傾向を踏まえた

うえで,わが国独自の事情に即した薬物治療のガイドラ

インを提供することを目標とした.抗凝固薬,アミオダ

ロン以外の抗不整脈薬については他の項を,また収縮機

能障害による慢性心不全の急性増悪時の治療は“急性重

症心不全治療ガイドライン”を参照されたい.

1)ジギタリス

洞調律の左室収縮機能不全患者においてジギタリス中

止によって心不全の増悪をきたすことは報告されていた

が生命予後を改善するかどうかは長年議論の対象となっ

ていた.1995 年に DIG の結果が発表され,ジゴキシン

が調律の心不全患者の心不全入院を減らすことが明らか

となったが心不全患者の予後は改善し得なかった104).

DIG におけるジゴキシン血中濃度は約 0.8 ng/ml と比較

的低濃度であったが,最近の DIG のサブスタディーで

はジゴキシン血中濃度に比例して死亡率が増加すること

が明らかにされており,左室駆出率 45 % 以下の洞調率

の心不全患者の至適血中濃度として 0.5~0.8 ng/ml が提

案されている118).

DIG104)ではジゴキシンが不整脈に関連した死亡をむ

しろ増加させる傾向にあり,また DIG の別のサブスタ

ディーではジゴキシンは女性の心不全患者においてむし

ろ予後を悪化させるというエビデンスも得られている119)

のでこれらの患者群における使用は注意を要する.なお

ジゴキシン以外のジギタリス製剤の大規模試験のエビデ

ンスは得られていない.

一方,心房細動を伴う心不全患者においては心室レー

トをコントロールし十分な左室充満時間を得るためにジ

ギタリスが用いられる.これは臨床症状の改善を目的と

するものであって,心房細動を伴う左室収縮機能不全患

者においてジギタリスが予後を改善するかどうかに関す

るエビデンスはない.また左室収縮機能低下に基づく心

不全患者の心房細動のレートコントロールにジギタリス

が最適であるかどうかについてもエビデンスは得られて

いない.

ジゴキシン以外のジギタリス製剤が心不全のコントロ

ールにおいてジゴキシンよりも優れているという明らか

なエビデンスは得られていない.

2)利尿薬

心不全患者のうっ血に基づく労作時呼吸困難,浮腫な

どの症状を軽減するために最も有効な薬剤である.ルー

プ利尿薬を基本に,わが国ではフロセミド,トラセミド,

エタクリン酸,ブメタニド,ピレタニド,アゾセミドが

用いられる.それぞれの利尿薬間の予後に対する効果に

関しては大規模試験によるエビデンスは得られていな

い.軽症例ではサイアザイド系利尿薬も用いられ,また

ループ利尿薬で十分な利尿が得られない場合にはサイア

ザイド系利尿薬との併用を試みても良い.ただしこれら

の利尿薬は低カリウム血症,低マグネシウム血症をきた

しやすく,ジギタリス中毒を誘発しやすいばかりでなく,

重症心室性不整脈を誘発することもある.従ってこれら

の利尿薬の使用時には血清カリウムおよびマグネシウム

の保持を心がける必要がある.高血圧患者においてサイ

アザイド系利尿薬と突然死の関係を調べた case control

study ではカリウム保持性利尿薬の併用により心停止の

発生頻度が抑制されることが明らかとなっている120).

3)アンジオテンシン変換酵素阻害薬

このクラスの薬剤の左心機能不全に基づく心不全患

者,あるいは心筋梗塞後の患者の生命予後および種々の

臨床事故に対する効果は CONSENSUS121),SOLVD122,123)

などの大規模臨床試験により確立されている.無症候の

左室収縮機能不全についても総死亡は減少しないもの

の,心不全の入院を抑制できることが SOLVD

prevention 試験で明らかになっているのですべての左室

収縮機能低下患者に用いられるべきである.また高用量

23

慢性心不全治療ガイドライン

薬物療法22

収縮機能障害に対する治療2-1

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と低用量を比較した場合,死亡率には差がないものの死

亡または入院についてみると高用量でより効果がえられ

るとの ATLAS124)の結果もあるので,薬剤の認容性があ

る限り(咳嗽の有無,血圧,血清クレアチニン値,血清

カリウム値のチェック),欧米の大規模臨床試験で用い

られた用量に近づけることを心がけるべきである.

4)アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

ヒトではアンジオテンシンⅠからⅡへの変換のかなり

の部分はアンジオテンシン変換酵素系ではなくキマーゼ

であると考えられている.したがってアンジオテンシン

Ⅱの作用をより確実にブロックする薬剤としてアンジオ

テンシンⅡ受容体拮抗薬が心不全治療に試みられるよう

になった.まずアンジオテンシン変換酵素阻害薬の投与

されていない心不全患者に対する効果においてはわが国

の臨床試験 ARCH-J においてカンデサルタンがプラセボ

と比較して心不全の進行(66.7 % 減少)および心血管

イベントを抑制することが報告された125).アンジオテン

シン変換酵素阻害薬に忍容性のない患者を対象とした

CHARM alternative 試験においてもカンデサルタンは心血

管死亡または心不全悪化による入院を有意に減少した126).

アンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシンⅡ

受容体拮抗薬との比較では,高齢者の心不全患者を対象

に,ロサルタンの死亡率に対する有効性をカプトプリル

と比較した臨床試験 ELITE II127)の結果,認容性におい

てアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬はアンジオテンシン

変換酵素阻害薬より優れていたものの,死亡率改善効果

には有意差は得られなかった.心不全および左室収縮機

能不全を伴う急性心筋梗塞患者を対象とした大規模試験

VALIANT においても,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗

薬のアンジオテンシン変換酵素阻害薬対する心血管イベ

ント抑制効果の非劣性が確認されている128).一方,アン

ジオテンシン変換酵素阻害薬の左室リモデリング抑制効

果は副次的に増加するブラジキニンに負うところが大き

いとする考え方もあり,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗

薬とアンジオテンシン変換酵素阻害薬との併用の効果を

検証する大規模臨床試験が行われた.Val-HeFT におい

ては利尿薬,ジギタリス,アンジオテンシン変換酵素阻

害薬などの標準的治療薬がすでに投与されている慢性心

不全患者へのアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬バルサル

タンの追加投与は総死亡率は改善しなかったが心不全の

悪化による入院を減少させ,症状を軽減し QOL も改善

した129).さらに最近おこなわれた CHARM Added 試験

でも既にアンジオテンシン変換酵素阻害薬の投与されて

いる患者においてカンデサルタンは心血管死亡または心

不全入院を減少し心不全入院の回数も減少した130).

以上よりアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は左室収縮

機能低下に基づく慢性心不全患者においてアンジオテン

シン変換酵素阻害薬と同等の心血管イベント抑制効果を

有し,さらにアンジオテンシン変換酵素阻害薬に追加す

ることによっても更なるイベント抑制効果が得られる.

したがってアンジオテンシン変換酵素阻害薬が忍容性な

どの点で投与できない場合にはアンジオテンシンⅡ受容

体拮抗薬を用いるべきである.ただし腎機能に及ぼす影

響や高カリウム血症,低血圧などについてはアンジオテ

ンシン変換酵素阻害薬と同様の注意が必要である.また

アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシンⅡ

受容体拮抗薬,β遮断薬の三者併用については Val-

HeFT では negative な結果であったが,その後の

CHARM では肯定的な結果となり,いまだ一定の見解が

得られていない.

5)β遮断薬

ここ数年の間にβ遮断薬の心不全予後改善効果を指示

する大規模試験の結果が相次いで発表された.US

Carvedilol study131)においてはカルベジロール,CIBIS

II103)においてはビソプロロール,MERIT-HF132)ではメト

プロロールの有意な生命予後および心不全悪化防止効果

が明らかにされた.わが国においては低用量(1 日 5

mg および 20 mg)とプラセボの比較試験,MUCHA に

おいては一年弱という比較的短期間の観察であはあるが

両投与量ともにプラセボと比較し用量依存性に心血管お

よび心不全入院(71 % 減少),あるいは死亡または心血

管入院(91 % 減少)を著明に減少した133).

以上の臨床試験の対象の殆どは NYHA 機能分類Ⅱ度

およびⅢ度の患者であり,最も重症のⅣ度患者は少数で

あった.COPERNICUS では euvolemic だが左室駆出率

が 25 % 以下の NYHAⅣ度の重症心不全患者においても

カルベジロール従来の大規模試験に匹敵する 35 % の死

亡率低下が得られた134).個々のβ遮断薬の効果を比較し

た試験は少ないが COMET ではカルベジロールとメトプ

ロロールの効果が比較され,カルベジロール群で死亡率

が有意に低かった135).

一方心不全症状のない 左室機能不全患者に対するβ

遮断薬のエビデンスも得られている.CAPRICORN では

左室駆出率の低下した心筋梗塞患者にカルベジロールを

投与することにより死亡率が低下した136).したがって有

症状の心不全患者のみならず無症状の左室収縮機能低下

患者についてもβ遮断薬導入を試みることが勧められる.

β遮断薬の投与の実際については NYHAⅢ度以上の

24

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

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7)アミオダロン

心臓突然死は心不全の増悪による死亡とならんで心不

全の二大死因であり,その基礎となっているのは心室頻

拍および心室細動の重症心室性不整脈であると考えられ

ている.アミオダロンはこれらの重症心室性不整脈を抑

え心不全患者における突然死を予防することが期待され

る.いくつかの臨床試験では139,140)は必ずしも一貫した

結果がえられてはいないが,過去の臨床試験のメタアナ

リシス141)では全死亡率および不整脈死を減少させるこ

とが報告されている.ただし植え込み型除細動器との比

較を行った最近の大規模試験SCD-HeFTではプラセボと

比較してベネフィットが得られておらず(unpublished

data),評価は確定していない.使用に際しては特異的

な副作用の早期検出のため定期的な甲状腺機能,肺機能,

胸部 X 線撮影,血中 KL-6測定,眼科受診などが必要で

ある.

8)末梢血管拡張薬

欧米のガイドラインでは種々の原因によりアンジオテ

ンシン変換酵素阻害薬を用いることのできない患者にお

いて生命予後の改善を目的として硝酸イソソルビドとヒ

ドララジンの併用142)が推奨されているが,わが国では

積極的には使用されていない.硝酸薬単独の使用では血

行動態の改善は期待できるが,予後改善効果については

不明である.

一般にカルシウム拮抗薬は長期に用いると心不全を悪

化させる危険性があり勧められない.唯一長時間作用型

のカルシウム拮抗薬であるアムロジピンは〔PRAISE 試

験143)〕非虚血性の拡張型心筋症患者の長期予後を改善す

ることが示されたが,PRAISE II(学会発表のみ)では

プラセボ群との間に予後改善効果の差がみられなかっ

た.現在のところ心不全の予後を悪化させないことが大

規模試験によって支持されているカルシウム拮抗薬とし

てはアムロジピンおよびフェロジピンがある22).

9)経口強心薬

1980 年代から行われた予後を一次エンドポイントと

した種々の経口強心薬の大規模臨床試験はことごとく否

定的な結果に終わり144,145),米国では経口強心薬につい

て否定的な見方が成されている.しかしながら生命予後

の改善効果のみが慢性心不全治療の最終目的ではないと

の見解にたてば,経口強心薬の臨床的有用性についても

再考慮すべきであろう.とくに生活の質の改善146,147),

非経口強心薬からの離脱,β遮断薬導入などについては

25

慢性心不全治療ガイドライン

心不全患者については原則として入院とし,体液貯留の

兆候がなく患者の状態が安定していることを確認したう

えでごく少量より時間をかけて数日~2 週間ごとに段階

的に増量して行くことが望ましい.増量に際しては自覚

症状,脈拍,血圧,心胸比,および心エコー図による心

内腔の大きさ等を参考にし,心不全の増悪,過度の低血

圧や徐脈の出現に注意する.アンジオテンシン変換酵素

阻害薬と同様,欧米の臨床試験での目標用量とわが国の

常用量との間にかなりの開きがあり,薬剤認容性をみな

がらできるだけ増量すべきとの意見もあるが,至適用量

についての明確な結論は出ていない.現在,わが国にお

けるβ遮断薬の大規模試験 J-CHF が進行中である.

β遮断薬の効果を予測する指標として,血漿 BNP が

有用である.また,核医学的検査,とくに MIBG シン

チグラフィーでの H/M 比,washout rate が有用と考えら

れている137)がその値に関してコンセンサスは得られて

いない.

β遮断薬の投与量にはわが国と欧米では大きな開きが

ある.これには忍容性も大きく影響していると考えられ

るが,MUCHA 試験から判断する限り,日本人において

は比較的低用量のβ遮断薬で有効性が得られることが示

されている.現在さらにわが国ではβ遮断薬の臨床試験

J-CHF が進行中である.なお慢性心不全における大規模

試験のエビデンスのあるβ遮断薬はカルベジロール,ビ

ソプロロール,メトプロロールであるが,このうちカル

ベジロールのみがわが国では保険承認がなされている.

6)抗アルドステロン薬

NYHAⅢ度以上の左室収縮機能不全に基づく重症心不

全患者を対象とした大規模試験(RALES)ではスピロ

ノラクトンの併用が全死亡率,心不全死亡率,突然死の

いずれをも減少させることが明らかとなっている40).ま

た,最近,EPHESUS 試験においても,急性心筋梗塞後

に左心機能不全および心不全を合併した患者では,エプ

レレノンを併用すると,死亡および心血管イベントの発

生リスクが抑制されることが報告された41).抗アルドス

テロン薬以外のカリウム保持性利尿薬によっても同様の

効果が得られるかどうかは不明である.また抗アルドス

テロン薬を軽症心不全患者に用いることのベネフィット

を明らかにした大規模臨床試験はない.むしろとくにア

ンジオテンシン変換酵素阻害薬とのスピロノラクトンの

積極的併用により血清カリウムの上昇に伴う死亡,心不

全入院などが増加するとの報告があり138),スピロノラク

トンの心不全早期からの使用には注意を要する.

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強心薬の有用性がさらに検討される必要がある.わが国

における身体機能分類 NYHAⅡm またはⅢ度の心不全

患者を対象としたピモベンダンの臨床所見,EPOCH148)

では 52 週間の試験期間中,ピモベンダン群ではプラセ

ボ群に比較して複合エンドポイントは大きく減少し

Specific Activity Scale で評価した身体活動能力は改善した.

経口強心薬として現在わが国ではピモベンダン,デノパ

ミン,ドカルパミン,ベスナリノンが認可されている.

NYHAⅠ度(無症状の左室収縮機能不全):まずアンジ

オテンシン変換酵素阻害薬が適応となる.アンジオテン

シン変換酵素阻害薬の投与が副作用等で不可能な症例で

は,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬を投与する.心筋

梗塞後の左室収縮機能不全であればβ遮断薬の導入も考

慮する.心房細動による頻脈を伴う症例ではジギタリス

を用いる.

NYHAⅡ度:アンジオテンシン変換酵素阻害薬に加えて

β遮断薬導入を行う.肺うっ血所見や全身浮腫など体液

貯留による症状が明らかである場合にはループ利尿薬,

サイアザイド系利尿薬を用いる.洞調律で重症心室性不

整脈を伴わない非虚血性心筋症には低用量ジゴキシンを

追加する.Ⅱ m 以上の心不全については他の薬剤で症

状の改善が得られない場合,ピモベンダンを追加しても

よい.

NYHAⅢ度:NYHAⅡ度と同様,アンジオテンシン変換

酵素阻害薬,β遮断薬,ループ利尿薬,サイアザイド系

利尿薬,ジゴキシンを用いる.スピロノラクトンを併用

する.QOL 改善,さらなる心血管イベントを目的とし

たピモベンダンの追加を行ってもよい.

NYHAⅣ度:入院とする.カテコラミン,フォスフォジ

エステラーゼ阻害薬,利尿薬,カルペリチドなどの非経

口投与を行い状態の安定化を図る.状態の安定化が得ら

れたならアンジオテンシン変換酵素阻害薬,スピロノラ

クトンを含む利尿薬,ジギタリスなどの経口心不全治療

薬への切り替えを行い,さらにβ遮断薬導入を試みる.

(表 10に主な心不全治療薬の用量を示す)

ClassⅠ

¡禁忌を除きすべての患者に対するアンジオテンシン変

換酵素阻害薬(無症状の患者も含む).

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬に認容性のない患者

に対するアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の投与.

¡頻脈性心房細動を有する患者にレートコントロールを

目的としたジゴキシン投与.

¡有症状の患者に対し予後の改善を目的としたβ遮断薬

の導入.

¡うっ血に基づく症状を有する患者に対するループ利尿

薬,サイアザイド系利尿薬.

¡ループ利尿薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬が既

に投与されている NYHAⅢ度以上の重症患者に対す

26

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

重症度からみた薬物治療(図 4)

I

無症候性

II

軽  症

III

中等症~重症

IV

難 治 性

NYHA クラス

アンジオテンシン変換酵素阻害薬

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

β遮断薬

抗アルドステロン薬

利尿薬

ジギタリス

経口強心薬

静注強心薬,h-ANP

図 4 心不全の重症度からみた薬物治療指針

経口心不全治療薬の選択

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27

慢性心不全治療ガイドライン

メトプロロール* MERIT-HF初期量:12.5 or 25 mg/day目 標:200 mg/day実際使用量:159 mg/day

高血圧:60~120 mg/day、最大 240 mg/day狭心症,頻脈性不整脈:60~120 mg/day

表 10 主な経口心不全治療薬の用量

大規模試験における用量 国内で承認された適応症・用量

アンジオテンシン変換酵素阻害薬

エナラプリル SOLVD初期量:5 mg/day,目標:20 mg/day実際使用量:

Prevention trial 16.7 mg/dayTreatment trial 16.6 mg/day

CONSENSUS初期量:10 mg/day目 標:20 mg/day,最大 40 mg/day実際使用量:18.4 mg/day

5~10 mg/day2.5 mg/day より開始

リシノプリル ATLAS初期量:2.5-5 mg/day目 標:低用量:2.5-5 mg/day

高用量:32.5-35 mg/day

5~10 mg/day,腎障害・高齢者では 2.5 mg/day より

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

β遮断薬

カルベジロール US Carvedilol初期量:12.5 mg/day目 標:100 mg/day実際使用量:45±27 mg/day

MUCHA実際使用量:5 or 20 mg/day

1回 1.25 mg,1日 2回食後経口投与から開始,維持量:1回 2.5~10 mg を 1日 2回食後経口投与.

ビソプロロール* CIBIS II初期量:1.25 mg/day,目標:10 mg/day実際使用量:――

本態性高血圧(軽症~中等症),狭心症,心室性期外収縮:5 mg/day抗不整脈薬

アミオダロン* GESICA初期量:600 mg/day×14 days維持量:300 mg/day

CHF-STAT初期量:800 mg/day×14 days維持量:400 mg/day

導入期 400 mg/day維持期 200 mg/day

抗不整脈薬

カプトプリル ELITE II目 標:150 mg/day

高血圧症:37.5~75 mg/day(最大 150 mg/day)

ロサルタン* ELITE II初期量:12.5 mg/day目 標:50 mg/day実際使用量:42.6 mg/day

高血圧症:25~100 mg/day

バルサルタン* Val-HeFT目 標:320 mg/day 実際使用量:254 mg/day

高血圧症:40~80 mg/day(最大 160 mg/day)

カンデサルタン CHARM初期量:4 or 8 mg/day目 標:32 mg/day実際使用量:24 mg/day

ARCH-J初期量:4 mg/day目 標:8 mg/day実際使用量: 8 mg/day

4 mg/day(重症例では 2 mg/day)より開始維持量:8 mg/day高血圧症:4~8 mg/day(最大 12 mg/day)腎障害では 2 mg/day より開始

アムロジピン* PRAISE初期量: 5 mg/day目 標:10 mg/day実際使用量:8.8±0.6 mg/day

高血圧:2.5~5 mg/day狭心症:5 mg/day

血管拡張薬

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る抗アルドステロン薬.

ClassⅡ

¡洞調律の患者に対するジギタリス投与(血中濃度 0.8

ng/l 以下で維持).

¡アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬:アンジオテンシン

変換酵素阻害薬との併用投与.

¡生活の質の改善,経静脈的強心薬からの離脱を目的と

した経口強心薬短期投与.

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬,あるいはアンジオ

テンシンⅡ受容体拮抗薬の代用としての硝酸イソソル

ビドとヒドララジンの両者の投与.

¡無症状の左室収縮機能不全患者におけるβ遮断薬の導

入.

¡重症心室性不整脈とそれに基づく心停止の既往のある

患者におけるアミオダロン投与.

¡β遮断薬導入の際の経口強心薬併用.

¡ループ利尿薬,サイアザイド系利尿薬,抗アルドステ

ロン薬以外の利尿薬.

ClassⅢ

¡無症状の患者に対する経口強心薬の長期投与.

¡狭心症,高血圧を合併していない患者に対するカルシ

ウム拮抗薬

¡ClassⅠ抗不整脈薬長期経口投与.

1)治療アルゴリズム(図 5)

拡張機能障害による心不全(拡張不全)は,①自覚症

状が強く,時に治療抵抗性であること,②利尿剤投与に

より,低心拍出量症状をおこしやすいこと,③拡張機能

障害の原因が様々であり,治療方針も一定でないこと149),

などより収縮機能障害による心不全(収縮不全)とは異

なった治療方針が必要であるが,拡張不全の治療戦略は,

未だ確立されていない.その理由の一つとして,心不全

治療に関する大規模臨床試験はほとんど収縮不全症例を

対象にしている.従って現段階においては一般的に考え

られている治療法を記載することとする.なお,本邦で

も拡張不全に対するβ遮断薬,アンジオテンシン変換酵

28

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

拡張機能障害に対する治療2-2

*  わが国で慢性心不全に対する保険適応が認められていないもの.** Jelliffe RW, Brooker GA. A nomogram for digoxin therapy. Am J Med 1974; 57: 63-68† 心不全におけるスピロノラクトンの投与量は 25~50 mg/day が妥当である.‡ 心不全におけるジゴキシンの投与量は 0.125~0.25 mg/day が実際的である.国内で承認された適応症・用量は心不全の保険適応が認められている薬剤ではその投与量を,認められていない薬剤では承認されている他の疾患に対する投与量を記載した.

硝酸イソソルビド* V-HeFT初期量:80 mg/day目 標:160 mg/day実際使用量:136 mg/day

狭心症:40 mg/day

ヒドララジン* V-HeFT初期量:150 mg/day目 標:300 mg/day実際使用量:270 mg/day

初期量 30~40 mg/day維持量 30~200 mg/day

利尿薬

スピロノラクトン RALES初期量:25 mg/day目 標:50 mg/day実際使用量:26 mg/day50-100 mg/day†

50~100 mg/day

フロセミド 40~80 mg/day

エプレレノン* EPHESUS初期量:25 mg/day目 標:50 mg/day実際使用量:43 mg/day

ジギタリス製剤

ジゴキシン 年齢,性別,体重,腎機能を考慮したアルゴリズム**を用い初期量を決定

維持量 0.25~0.50 mg/day‡

経口強心薬

ピモベンダン EPOCH実際使用量:2.5 or 5.0 mg/day

2.5~5.0 mg/day,1日 2回に分け投与.

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素阻害薬の有効性を検討する大規模試験である J-DHF

Study が進行中である.

2)左室心筋が原因である拡張不全の治療

⁄)急性増悪期の治療

急性増悪期の主症状は,左房圧上昇による肺うっ血と,

低心拍出症状である.どちらの症状がより優位かを的確

に把握する.

肺うっ血症状が強く,心拍出量が保たれている場合は,

利尿薬,硝酸薬が有効である.しかし,拡張不全ではこ

れらの前負荷軽減薬は容易に心拍出量の低下をきたすた

め,投与量には十分注意が必要である.

肺うっ血が強く,かつ低心拍出量を呈する場合は,後

負荷を軽減し,有効心拍出量を増やす必要があり,アン

ジオテンシン変換酵素阻害薬,カルシウム拮抗薬による

後負荷軽減とともに,カテコラミン,PDE 阻害薬を併

用する.カテコラミン,PDE 阻害薬は軽度低下してい

る収縮機能を改善するだけでなく,弛緩能をも改善する

と考えられている150).ただし,脈拍・不整脈の増加には

注意すべきである.

同時に,増悪因子が明らかであり,かつ除去可能な場

合,それを取り除くことが有効である.冠動脈狭窄・閉

塞による心筋虚血が関与している場合は,血行再建を行

う.発作性心房粗細動による頻脈が原因のときは,速や

かに洞調律に戻すことが重要であり,抗不整脈薬の静脈

内投与,直流除細動器の使用を考慮する.頻脈コントロ

ール目的での少量のβ遮断薬使用は,症例によって肺う

っ血が存在していても有効である場合がある.(詳細は

“急性重症心不全治療ガイドライン”を参照)

¤)慢性期の治療

慢性期は,原因疾患の除去,心不全症状のコントロー

ル,左室肥大・線維化の抑制,脈拍数のコントロールが

求められる.

まず,急性増悪を予防するため,原因疾患を除去する.

虚血の所見が明らかである冠動脈狭窄に対して血行再

建,大動脈弁狭窄・閉鎖不全には適切な時期に手術を考

慮する.貧血があれば補正する.

自覚症状の軽減には,心拍出量を過度に減少させるこ

となく上昇した左房圧を低下させる必要がある.従って,

利尿薬,硝酸薬は有効であるが,急性増悪期の治療同様,

低用量から開始し,低血圧・低心拍出量症状を慎重に監

視すべきである.

心筋が原因である拡張不全の主病態は,左室肥大・線

維化であり,それらを抑制・退縮させる薬剤が有効と考

えられている(注 1).近年レニン・アンジオテンシン

系が左室肥大・線維化に重要な役割を果たしているとい

う知見が蓄積され,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬への拡張不全予防・治

療効果が期待されている(注 2).

β遮断薬は,降圧効果,肥大退縮効果とともに心拍数

抑制効果にて拡張期充満を改善する可能性があり,心筋

が原因である拡張不全には有効と考えられる.

収縮機能は正常または,軽度低下にとどまるため,強

29

慢性心不全治療ガイドライン

拡張不全

原因疾患の検索

左室心筋が原因

重 症 度 判 定

増悪因子の速やかな除去

左室への物理的圧迫が原因

右室負荷,心膜炎症癒着, 心嚢液貯留などによる拡張障害  →原疾患の治療

急性増悪 慢 性 期

〈原因疾患の除去〉 〈心不全症状のコントロール〉   利尿薬,硝酸薬 〈血圧,心拍数のコントロール〉 〈左室肥大・線維化の抑制〉 β遮断薬 ACE 阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬 カルシウムチャネル拮抗薬

血 行 動 態 の 把 握

心拍出量→

利 尿 薬 硝 酸 薬 血管拡張薬

心拍出量↓

血管拡張薬 カテコラミン PDE 阻 害 薬

図 5 左室拡張機能不全の治療アルゴリズム

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心薬はあまり有用ではない.しかし,病状の進行に伴い

収縮機能不全の起こることがあり,この時は適切な治療

法を考慮する必要がある.

3)左室外からの機械的圧迫による拡張不全の治療

機械的圧迫による拡張不全は臨床的に低心拍出量症状

と右心不全症状を呈し,心筋が原因である拡張不全とは

症状が異なる.治療の基本は,原因疾患の速やかな除去

である.以下に早期診断治療が有効な疾患について治療

手順を略記する.

⁄)収縮性心膜炎

心膜剥離術が治療の基本である.症状の軽減にある程

度利尿薬は有効であるが,β遮断薬・カルシウム拮抗薬

は無効である.内科的治療を漫然と継続することは手術

のタイミングをも逸してしまう.内科的治療に少しでも

抵抗する時点が手術時期と考えられる.

¤)肺血栓塞栓症

高度な肺高血圧のため拡大した右室腔により左室が圧

迫され,左室の拡張不全が生じる.利尿薬,硝酸薬は前

負荷をとり,容易に心拍出量や血圧を低下させるので注

意が必要である.むしろ前負荷は高めに保つよう心掛け

る必要がある.β遮断薬・カルシウム拮抗薬は無効であ

る.急性期には t-PA を用いた血栓溶解療法,慢性期に

は抗凝固療法とともに,外科的肺動脈内塞栓除去術を考

慮する.

(注 1)しかし,現在のところ,左室肥大を退縮し,拡

張機能を改善し,自覚症状や運動耐容能の改善

をもたらしたという報告はなく,今後の検討が

待たれる.

(注 2)高血圧に対する降圧治療にて,左室肥大の退縮

がアンジオテンシン変換酵素阻害薬,利尿薬,

β遮断薬,カルシウム拮抗薬によってもたらさ

れ,その中でもアンジオテンシン変換酵素阻害

薬が最も有効であった151).また,V-HeFT 試験で

は左室既出率 35 % 以上の心不全症例でも,エナ

ラプリル群の方が,硝酸薬とヒドララジンの併

用療法より有意に予後を改善した152).左室収縮

機能を保持した慢性心不全患者を対象にした最

初の大規模無作為試験である CHARM-

PRESERVED Study では,心血管死・心不全の悪

化による入院についてアンジオテンシン受容体

阻害薬(カンデサルタン)治療群に改善傾向が

みられた153).

心不全治療に関する大規模臨床試験はすべて収縮不全

症例を対象にしており,拡張不全の治療に対する評価が

欧米においてもなされていない.従って現段階において

は適応をクラス分けすることは極めて困難であるが,一

般的に考えられている治療方針をもとに構成した.また,

治療薬は臨床症状により大きく異なるため,NYHA 別

に分けて記載した.

〈NYHAⅠ-Ⅱ度〉

ClassⅠ

¡なし

ClassⅡ

¡利尿薬

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬

¡アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

¡カルシウム拮抗薬

¡β遮断薬

¡硝酸薬

ClassⅢ

¡陽性変力作用を持つ薬剤

〈NYHAⅢ-Ⅳ度〉

ClassⅠ

¡利尿薬

¡硝酸薬

ClassⅡ

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬

¡アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

¡カルシウム拮抗薬

¡陽性変力作用をもつ薬剤

¡β遮断薬

ClassⅢ

¡なし

心不全では心筋細胞内のカルシウム過負荷や間質の線

維化を生じており,いずれも不整脈の発生と維持をきた

30

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

拡張不全治療指針案

不整脈の治療2-3

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す基盤を形成する.駆出率が 40 % 以下の多数例での臨

床試験では,ホルター心電図での期外収縮(>10/時間)

または 3 連発以上の心室性不整脈の発現は 40~70 % の

頻度にみられ139,154-156),心不全の重症度とともに増加す

る157,158).徐脈や頻脈は心不全の誘因や悪化の原因とな

る157).また多くの抗不整脈薬は陰性変力作用を有してい

る159,160).

頻発する心室性期外収縮や非持続性心室頻拍は心臓突

然死の危険因子になるが161),抗不整脈薬でこれらの不整

脈を抑制しても予後はむしろ悪化することが知られてい

る162).大規模臨床試験によりこの様な非致死的な不整脈

の治療で抗不整脈薬が予後を改善することが証明されて

いるのはβ遮断薬103,132,154)とアミオダロン139,141,163)である.

心不全では突然死を 9~22 % に認め 122,139,157,164),

NYHA クラスⅠ-Ⅱの方が NYHA クラスⅡ-Ⅳよりも

突然死の割合が高い103).心不全における突然死の回避に

もβ遮断薬が有用とされ103,132,154),アミオダロンも有望

である141).

1)頻脈性不整脈

不整脈の治療では,不整脈の有無だけでなく,不整脈

の種類と症状との関係が重要である.診断には,ホルタ

ー心電図以外に電気生理学的検査も有用である165).治療

の根拠として特に心不全例では,(1)症状を伴う,(2)

心不全を悪化させる,(3)致死的である,(4)より重篤

な不整脈を誘発する,などが挙げられる.

実際に心不全で問題となる頻脈は,心房細動(まれに

心房粗動)と心室性不整脈である.稀に発作性上室頻拍

もみられる.心臓突然死の原因としては心室細動や持続

性心室頻拍が推測される.

頻脈の長期間の持続は高度の左室収縮不全をきたすこ

とがあり“頻脈誘発性心筋症(Tachycardia-induced

Cardiomyopathy)”と呼ばれる病態がみられる166).治療

手段には抗不整脈薬と非薬物治療がある.薬物療法では

抗不整脈薬の持つ陰性変力作用による心不全の悪化と催

不整脈作用の出現に注意し,原則として入院して行う.

表 11 に Sicilian Gambit に基づく抗不整脈薬の特徴を示

す167).

31

慢性心不全治療ガイドライン

表 11 抗不整脈薬の標的と特徴

リドカイン 不 変 不 変 短 縮メキシレチン 不 変 不 変 短 縮プロカインアミド 低 下 不 変 延 長 延 長 延 長ジソピラミド 低 下 不 変 延長・短縮 延 長 延 長キニジン 不 変 増 加 延長・短縮 延 長 延 長プロパフェノン 低 下 減 少 延 長 延 長アプリンジン 不 変 不 変 延 長 延 長 不 変シベンゾリン 低 下 不 変 延 長 延 長 不 変ピルメノール 低 下 増 加 延 長 延 長 延長・不変フレカイニド 低 下 不 変 延 長 延 長ピルジカイニド 低下・不変 不 変 延 長 延 長

抗不整脈薬 心機能 洞レート P R QRS J T

主に Na チャンネルの抑制

主に Ca チャンネルの抑制

主に K チャンネルの抑制

β遮断薬

M2 受容体刺激

M2 受容体ブロック

A1 受容体刺激アデノシン ? 減 少 延 長

アトロピン 不 変 増 加 短 縮

ジゴキシン 増 大 減 少 延 長 短 縮

プロプラノロール 低 下 減 少 延 長

ソタロール 低 下 減 少 延 長 延 長アミオダロン 不 変 減 少 延 長 延 長

ベプリジール ? 減 少 延 長ベラパミル 低 下 減 少 延 長ジルチアゼム 低 下 減 少 延 長

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⁄)心房細動

心房細動は主として肺静脈を起源とする期外収縮やそ

の連発がトリガーとなり,心房内の複数興奮波のランダ

ムリエントリーにより維持される.心不全患者では心房

の拡大,線維化などにより不整脈発生・維持のための基

質が形成され,心房細動が成立しやすい.心房細動では

心房収縮による心室充満効果が消失するため心拍出量が

減少し,とくに心室レートが速くなると血圧低下や心不

全をきたす.

血行動態が悪化したり(血圧が 80 mmHg 以下),肺

うっ血をきたした心房細動では,直流通電により洞調律

化を図る.レートが早い場合はジギタリスが第一選択に

なる168).しかしジギタリスによる洞調律化は期待できな

い.WPW 症候群を合併した心房細動では,ジギタリス

は禁忌である.β遮断薬では心室レートのコントロール

は期待できるが,心不全例の心房細動での第一選択薬に

はならない.カルシウム拮抗薬(ジルチアゼム,ベラパ

ミル)も避ける168).

心房細動の停止にはナトリウムチャネル遮断薬が有効

であるが,心不全では解離速度の中等,ないしやや遅い

ものを用い,ナトリウムチャネルとの解離が遅いため心

不全を悪化させる可能性の高い Ic 群抗不整脈は避け

る167).

再発予防に関して,キニジンの洞調律維持率はコント

ロールに比べ有意に高いが,死亡率を高め予後を悪化さ

せる169).アミオダロンが最も洞調律維持に優れているが,

本邦では肥大型心筋症に合併した心房細動でない限り保

険適応とならない.心房細動の予防法(根治術)として

カテーテル・アブレーションによる左房と肺静脈の電気

的隔離法もあるが,主として器質的心疾患のない発作性

心房細動が対象となり,心不全例での試みはない.

慢性心房細動による心房リモデリングに対し,アンジ

オテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体

拮抗薬の抑制効果が示されているが,大規模臨床試験で

の成績はない.

¤)心房粗動

治療は心房細動に準じる.心機能低下例ではジゴキシ

ンを用いる.カテーテル・アブレーションによる根治を

考慮する.

‹)発作性上室頻拍

洞結節リエントリー,心房内リエントリー,房室結節

性リエントリーおよび潜在性WPW 症候群による房室回

帰頻拍がある.機序はリエントリーで,これらの不整脈

の基質は心不全発症とは関係ない.

停止はジゴキシン,ベラパミル,ジルチアゼムまたは

ATP 剤で房室伝導を抑制することで可能であるが,血

行動態の増悪に注意する.副伝導路が関与する房室回帰

頻拍では,Ic 群以外の I 群抗不整脈薬を用いる.WPW

症候群で心房細動・粗動合併例においては,ジギタリス,

ベラパミル,ジルチアゼムは禁忌である.頻拍の再発予

防にはカテーテル・アブレーションが有効で,心不全を

きたす例では積極的に考慮する.

›)心室性不整脈・心室頻拍・心室細動

無症候性の期外収縮や非持続性心室頻拍は積極的には

治療しない167).

症候性の非持続性心室頻拍で,数拍の洞調律を挟んで

頻発し(インセサント型),心不全を悪化させる例では

治療を要する166).心機能の悪化をきたしにくい Ib 薬(メ

キシレチン)やアミオダロン(本邦では保険適応外)が

適応になる.しかしこれらの抗不整脈薬治療の予後改善

効果はまだ確定されていない.症例によってはカテーテ

ル・アブレーションにより治療することが望ましい164).

持続性心室頻拍は専門医による有効な治療法の検討が

必要である170).心室性期外収縮が頻発(>480個/48時間)

している例ではホルター心電図でその抑制(75 % 以上)

をみる.ホルター心電図での評価は電気生理学的検査の

誘発阻止効果をみた場合と同等に抗不整脈薬の有効性を

知るのに有用である.dl-ソタロールはⅠ群薬に比べて

有効率は高いが非薬物療法も考慮する171).カテーテル・

アブレーションで根治できる症例もあるが,基礎疾患の

ある患者で生じる心室頻拍での有効性は乏しい165).心室

細動からの蘇生例や持続性心室頻拍例の再発予防には,

埋込型除細動器の長期成績が最も良い172,173).心不全例

でこれが困難な場合,アミオダロンの適応とする141).心

機能低下を伴う心筋梗塞後の患者では,突然死の 1次予

防に埋込型除細動器が有用であるが174,175),わが国では

まだコンセンサスが得られていない.心不全例における

β遮断薬(プロプラノロール,メトプロロール,ビソプ

ロロール)は突然死を減少させる103,132,154).アミオダロ

ンは不整脈死や心臓死を減少させる可能性がある103,141).

2)徐 脈

一過性の脳虚血症状や著しい徐脈(40/分以下)のた

めに心不全の悪化を伴う洞不全症候群や房室ブロックで

はペースメーカー治療が適応となる176).心不全例では心

房細動がない限り心房心室の同期ペーシング(DDD ペ

ーシング)を行う.

32

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

Page 33: Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS … for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 目次 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

心不全ではしばしば心室内伝導障害を合併し,左室は

非同期性収縮をきたす.この様な例では,収縮の遅延し

た部位(左脚ブロック波形では左室後側壁など)からの

ペーシングを右室ペーシングに加えて行う両室ペーシン

グが左室収縮の再同期化に有効である(両室ペーシング

または心臓再同期療法).この結果,僧帽弁逆流の減少,

肺うっ血の改善,拍出量増加と血圧の上昇などが認めら

れ,自覚症状の改善ももたらされる177,178).最近行われ

た心臓同期療法の長期予後の検討でも,心機能,運動能,

QOL の改善とともに179),予後の改善も判明している180).

ClassⅠ

¡レートが早く血圧低下または肺うっ血を伴う心房細

動・粗動

¡発作性上室頻拍・WPW 症候群

¡頻発し心不全を増悪する非持続性心室頻拍

¡持続性心室頻拍

¡心室細動

¡高度(<40/分以下)の徐脈または心停止でペーシン

グ実施前

(洞停止,洞徐脈または房室ブロック)

ClassⅡ

¡症候性の上室性期外収縮

¡症候性の心室性期外収縮

(血行動態の悪化しない非持続性心室頻拍を含む)

ClassⅢ

¡無症候性の期外収縮

¡無症候性の徐脈

3)非薬物療法

⁄)ペースメーカーによる治療

著しい徐脈は心不全を悪化させ,致死的ともなる.洞

不全症候群と房室ブロックが主に適応となるが,適応基

準に関しては本邦と欧米との間に差はない173).

心不全との関わりでは心筋症におけるペーシング治療

がある.内科的治療に抵抗性を示す症候性肥大型心筋症

で,安静時または誘発性の左室流出路閉塞のある場合に

閉塞の軽減を目的にペーシングを行うことがある

(ClassⅡの適応).この場合,心房と心室から順時ペー

シングを行うが,心房と心室のペーシングのタイミング

は血行動態をみながら最適な間隔に調節する.

PR 時間延長のある症候性かつ薬剤抵抗性の拡張型心

筋症で,一時ペーシングにより血行動態が改善する場合,

ペーシングの適応(ClassⅡ)になり得る.

¤)埋込型除細動器(ICD)の適応(表 12)

重症心室性不整脈(持続性心室頻拍および心室細動)

による突然死の 2 次予防には ICD が最も有効である171).

ICD により心機能抑制作用を有する抗不整脈薬の使用が

回避される(β遮断薬やアミオダロンを除く).ICD の

1 次予防効果として,心機能が低下した陳旧性心筋梗塞

例で,非持続性心室頻拍を認め,しかも電気生理検査で

持続性心室頻拍が誘発されプロカインアミドが無効な場

合,ICD の生命予後改善効果が抗不整脈薬治療より優れ

ていたことが示され174),米国ではこの様な症例も ICD

の適応に加えられている.さらに最近,左室駆出率が

30 % 以下の陳旧性心筋梗塞例では心室性不整脈の有無

に関わらず ICD の予防的埋め込みが生命予後を改善す

ることも示されている175).しかし ICD 療法は対症療法

にすぎず,作動時の不快感も強く,また常時不安につき

まとわれる欠点がある.高価であることも考慮すべき点

である.表 12は本邦における ICD の(保険)適応基準

であるが実際の植え込みには施設規準が加わる.米国の

ACC/AHA の適応基準はより拡大されている173).

‹)カテーテル・アブレーション治療

頻脈性不整脈が対象となる.高周波を用いたカテーテ

ル・アブレーションが主流で,最も良い適応として発作

性上室頻拍,WPW 症候群,心房粗動および一部の心室

頻拍がある164).いずれも頻拍維持に必須な起源または回

路を熱凝固に至らしめ,破壊することで不整脈を除くも

のである(表 13).

発作性上室頻拍とWPW 症候群および心房粗動の一部

33

慢性心不全治療ガイドライン

不整脈の薬物治療の適応

表 12 我が国における埋込型除細動器植え込み術の適応

診療報酬点数表等の改正(平成 8年 3月厚生省告示第21号)平成 8年 4月 1日から適用

ア.血行動態が破綻する心室頻拍又は心室細動の自然発作が一回以上確認されている患者であって,埋込型除細動器の植え込み術以外の治療法の有効性が心臓電気生理学的検査及びホルター心電図検査によって予測できないものイ.血行動態が破綻する心室頻拍又は心室細動の自然発作が一回以上確認されている患者であって,有効薬が見つからないもの又は有効薬があっても認容性が悪いために服用が制限されるものウ.既に十分な薬物療法や心筋焼却術等の手術が行われているにもかかわらず,心臓電気生理学的検査によって血行動態が破綻する心室頻拍又は心室細動が繰り返し誘発される患者

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は心不全とは関係なく偶然合併したものであるが,ほと

んどの症例で頻脈発作の出現を治癒させることができ

る.心室頻拍は心筋の壊死・脱落および線維化など器質

的心疾患を基礎とすることが多く,心不全をともなうこ

とが多い.そのような症例でも心室頻拍の発現がカテー

テル・アブレーションで 50~70 % の例で治癒する.ま

た植え込まれた ICD の作動頻度を減少させる目的でも

用いられることもある.Tachycardia-induced cardiomy-

opathy では,頻拍を消失させることで心機能の改善をみ

る165,175).電気生理学的検査はこれらの治療を選択する

上で必須である164).

〈洞結節機能不全〉

ClassⅠ

¡徐脈による症状または心不全症状が証明された洞結節

機能不全

¡不可欠の心不全治療で生じた高度の徐脈(40 bpm 未満)

¡症候性の心拍数増加機能不全

ClassⅡ

¡原因不明あるいは,不可欠な薬物療法の結果生じる洞

結節機能不全で,心拍数が 40 bpm 未満であり,徐脈

と心不全症状との明確な関連が証明されていない場合

¡ほとんど症状のない患者で覚醒時の通常の心拍数が

30 bpm 未満

〈成人の後天性房室ブロック〉

ClassⅠ

¡ブロック部位にかかわらず,以下のいずれかの状態を

伴う高度または第 3度房室ブロック

a.房室ブロックによる症状を伴う徐脈

b.不可欠の薬剤投与による症候性徐脈

c.無症候患者で心停止が 3 秒以上または補充心拍

数が 40 bpm 未満

d.房室接合部のカテーテル・アブレーション後

e.消退が予測されない術後房室ブロック

f.房室ブロックを伴う神経筋疾患

¡ブロックの型および部位にかかわりなく,症候性徐脈

を伴う第 2度,高度または第 3度房室ブロック

ClassⅡ

¡症状のない第 2度,高度または第 3度房室ブロックで,

以下の場合

a.ブロック部位がHis 束内またはHis 束以下のもの

b.徐脈による進行性の心拡大を伴うもの.

c.運動または硫酸アトロピン負荷で伝導が不変ま

たは悪化するもの.

¡徐脈によると思われる症状があり,他に原因のない第

1 度房室ブロックで,ブロック部位が His 束内または

His 束以下のもの.

¡無症候性の高度または第 3度房室ブロックで,覚醒時

に著明な徐脈や長時間の心停止がない場合

¡至適房室間隔の設定により血行動態の改善が期待でき

る心不全を伴う第 1度房室ブロック

¡中等度または重症の心不全で,NYHA クラスⅢ

¡心室内伝導障害を認める(QRS 幅が 130 msec 以上)

¡左室駆出率が 35 % 以下

¡標準的薬物治療に対して抵抗性

1)高血圧合併例の治療

⁄)病 態

高血圧を合併する心不全患者では,心機能改善,進展

抑制のために,心不全に対する一般的な治療法に加えて

高血圧治療が重要になる.心不全の左室収縮機能は後負

荷に強く影響される181).それ故,高血圧は後負荷増大を

介して左室収縮機能を抑制し,心不全を増悪させる要因

として働く.さらに,高血圧性心肥大に起因する拡張不

全も心機能低下に関与する.一方で,高血圧は左室リモ

デリングを促進し,壁ストレス増大による酸素消費量増

加,微小循環障害による心筋虚血により心筋障害を進展

させる.そのため長期予後を改善するにも高血圧治療が

重要である.欧米の疫学研究では,高血圧は心不全の基

礎疾患として冠動脈疾患と共に頻度が高いことが示され

ている.また,大規模臨床試験の成績では,降圧治療に

34

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

合併症を有する患者での心不全治療2-4

心不全患者における両室ペーシング(心臓再同期療法)の適応心不全患者における恒久的ペーシングの適応

表 13 カテーテル・アブレーションの適応となる不整脈と成績

発作性上室頻拍 ほぼ 100 %WPW 症候群 ほぼ 100 %心房粗動 ~70 %心室頻拍特発性 ほぼ 100 %器質的心疾患あり 50~70 %

不  整  脈 成績(治癒率)

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より,高血圧患者における心不全発症率が減少すること

が明らかにされている182-185).

¤)治 療

薬剤選択に関しては,降圧をはかりつつ心不全の治

療を行うことが原則となる.わが国を含む多くの大規

模臨床試験で,アンジオテンシン変換酵素阻害薬・ア

ンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬とβ遮断薬は心不全患

者の長期予後を改善することが明らかにされてい

る121,123,126-130,153,186,187).従って,心不全を合併する高血

圧には,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテ

ンシンⅡ受容体拮抗薬,β遮断薬の単独ないし併用が良

い適応になる.一方,臓器うっ血を伴う心不全では利尿

薬が使用され,十分な降圧が得られる場合心不全発症を

有意に抑制する184).また,スピロノラクトンの成績40)も

示されている.長時間作用型のジヒドロピリジン系カル

シウム拮抗薬は,高血圧がない心不全患者の予後を増悪

させないことが明らかにされている143).従って,心不全

と高血圧が合併している患者で,高血圧治療に必要であ

れば,長時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗

薬を使用することができる.これら降圧作用を有する薬

剤に加えて,他の強心薬は必要に応じて併用する.

2)狭心症合併例の治療

⁄)病 態

心不全の原因疾患として虚血性心臓病は高血圧と共に

頻度が高い疾患である.一方,狭心症では,心筋虚血に

より左心機能が低下するため,心不全に狭心症を合併す

ると心筋虚血が心不全をさらに増悪させる.また心不全

自体が心筋虚血を増大させて悪循環に陥り,予後にも深

く関わることになり,狭心発作の管理は心不全患者にお

いて重要である.

¤)治 療

心不全治療に関わる狭心症治療・血行再建の効果につ

いて多施設検討はなされていない.しかし,PTCA や冠

動脈バイパス術による心機能の回復効果は十分に期待さ

れ10,11),虚血が心機能低下の原因と考えられる症例では

第一に考慮,選択されるべき対策である.狭心症での薬

剤選択に関しては,心筋虚血改善効果と心不全への影響

に加えて,冠危険因子を含めた二次予防への効果が考慮

される.β遮断薬は投与初期の心不全増悪を考え少量よ

り開始されるため,短期的な狭心症治療効果は不十分で,

他の抗狭心症薬を併用せざるを得ない.また,冠攣縮性

狭心症合併例では増悪もあり得るため,β遮断薬の単剤

使用には十分な注意が必要となる188).硝酸薬については

急性心不全改善効果189)が示され,心不全の長期効果に

ついては明らかではないが狭心症治療薬としては第一に

選択される薬剤である.長時間作用型のジヒドロピリジ

ン系カルシウム拮抗薬は,欧米では顕性心不全患者の長

期予後改善の効果は示されていないが16,121),短時間作用

型の薬剤で指摘190,191)された心不全患者予後への悪影響

はないと考えられ,硝酸薬と共に狭心症治療薬として用

いられる.また,わが国では長期の心不全予防に効果が

期待される188,192).これら薬剤で効果不十分な場合には,

ニコランジルの併用も行われる.一方,抗狭心症薬以外

の心不全治療薬に関しては,アンジオテンシン変換酵素

阻害薬・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は心不全治療

薬としての効果に加えて冠危険因子合併例での内皮機能

改善効果が示されており,長期投与で虚血改善効果も期

待され193,194),狭心症を伴う心不全患者での基礎薬とし

ての使用が推奨される.強心薬については心拍数の増加

に伴う狭心症増悪や不整脈の誘発が危惧され狭心症合併

心不全例では使用上注意を要する.

3)腎不全合併例の治療

⁄)病 態

心不全は末期腎不全および透析治療下の腎不全患者の

最も重要な予後規定因子である.その要因は心筋・心膜

障害,腎性高血圧ならびに高血圧性心肥大,腎性貧血,

冠動脈疾患の合併,シャント血流,体液の過剰(不適切

な除水・体液管理),Ca-P およびビタミン D 代謝異常な

ど多彩である.また,腎機能の悪化は体液管理を困難と

し心不全患者での生命ならびに機能予後を悪化させる.

¤)治 療

心不全の薬剤治療としては,初期腎不全で自己尿が維

持される例では利尿剤が有用である.しかし,末期腎不

全では利尿効果が不十分であり,透析例では至適体重の

管理には飲水の制限と透析時の除水に頼らざるを得な

い.一方,アンジオテンシン変換酵素阻害薬・アンジオ

テンシンⅡ受容体拮抗薬は,短期的な腎機能悪化・高カ

リウム血症に留意する必要があるが,腎機能障害の発症

予防,タンパク尿改善,長期的な腎機能悪化の防止,腎

性高血圧の血圧管理,心臓血管合併症の予防などに有益

である195-198).しかし,一部の透析膜(デキストラン硫

酸セルロース,トリプトファン固定化ポリビニールアル

コール,ポリエチレンテレフタレートを用いた吸着器に

よるアフェレーシスや AN 69 膜を使用した血液透析)

は,アンジオテンシン変換酵素阻害薬によるアナフィラ

35

慢性心不全治療ガイドライン

Page 36: Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS … for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 目次 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

キシー様ショックを惹起するため,その使用は禁忌であ

る.腎排泄型のβ遮断薬では過剰となる場合がある.ま

た,長時間作動型 Ca 拮抗薬・ヒドララジンは薬剤抵抗

性の高血圧合併例,ことに降圧困難例での血圧管理に有

用である.

4)糖尿病合併例の治療

⁄)病 態

わが国では糖尿病およびその合併症の増加により,糖

尿病を有する心不全患者が増加している.また,糖尿病

性微小血管合併症および心筋障害,糖尿病性腎症および

高血圧の合併は心不全の原因ともなる.

¤)治 療

糖尿病合併心不全では,一般療法および生活習慣の修

正による体重管理,より厳格な血圧管理に加えて,糖尿

病治療薬による糖尿病の管理がまず重要である.心不全

治療薬では,アンジオテンシン変換酵素阻害薬・アンジ

オテンシンⅡ受容体拮抗薬は,インスリン抵抗性・耐糖

能を改善し,糖尿病の発症予防,改善,合併症発現を予

防効果が示され選択される184,195,196,199,200).一方,利尿薬

単独では糖尿病を明確に悪化させ184),末期腎不全の合併,

体液過剰時に限定的に使用されるが,降圧をはかるため

には,第二・第三選択薬として用いられる.β遮断薬は

末梢循環不全合併例では禁忌である.加えて,耐糖能・

脂質代謝への悪影響および SU 薬との併用での遷延性の

低血糖には留意する必要がある.しかし,心不全患者で

β遮断薬単独で糖尿病の悪化ないし新規発症を惹起する

かは不明であり,その優れた予後改善効果とあわせると

使用可能である.また,長時間作動型 Ca 拮抗薬・ヒド

ララジンは薬剤抵抗性の高血圧合併例,より厳格な血圧

管理に有用である.

ClassⅠ

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬

¡アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

¡β遮断薬,利尿薬

ClassⅡ

¡カルシウム拮抗薬

¡ヒドララジン

¡ジギタリス(注 1)

ClassⅢ

¡カテコラミン製剤

ClassⅠ

¡硝酸薬

¡β遮断薬(冠攣縮のない場合)

ClassⅡ

¡カルシウム拮抗薬

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬

¡アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

¡ジギタリス(注 1)

ClassⅢ

¡β遮断薬(冠攣縮性狭心症の場合)

¡カテコラミン製剤

ClassⅠ

¡利尿薬

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬

¡アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

¡β遮断薬

ClassⅡ

¡カルシウム拮抗薬

¡ヒドララジン

¡ジギタリス(注 1)

ClassⅢ

¡なし

ClassⅠ

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬

¡アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

ClassⅡ

¡利尿薬

¡β遮断薬

¡カルシウム拮抗薬

36

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

高血圧を伴う心不全

狭心症を伴う心不全

腎不全を伴う心不全

糖尿病を伴う心不全

Page 37: Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS … for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 目次 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

¡ヒドララジン

¡ジギタリス(注 1)

ClassⅢ

¡なし

(注 1)心不全症状を改善させ,心不全による入院治療

を減らすことが確認されている.殊に心室応答

頻度が高い心房細動がある場合には有効である.

しかし,生命予後の改善効果は認められていな

い.また,腎不全例では中毒の発現に留意する.

1)抗凝固療法

血栓塞栓症は,心不全患者における重篤な合併症の一

つである.心不全に血栓塞栓症を合併する頻度は,心不

全患者を対象とした大規模臨床試験において,年間約 2

% 程度と考えられている.心不全患者に対する抗凝固

療法の適応に関しては,リスクのある群とリスクのない

群で異なると考えられる.リスクのある群とは,1)心

房細動のある患者,2)心室あるいは心房内に血栓のあ

る患者,3)血栓塞栓症の既往のある患者であり,これ

らは抗凝固療法の対象になると考えられる.

⁄)心房細動

心房細動のある患者に関しては,1980 年代の中頃よ

り欧米において,抗血小板薬,抗凝固薬による脳梗塞を

中心とした血栓塞栓症の一次予防効果の検討が行われて

きた.4 つの大規模臨床試験を総合的に分析した Atrial

Fibrillation Investigators の報告201)では,対照群の脳卒中

発症率が 4.4 %/年であったのに対し,ワルファリン投

与群では 1.3 %/年と 69 % のリスクの低下が認められ

た.一方,アスピリン投与群におけるリスク低下率は

36 % とワルファリン投与群に比べて低かったとされて

いる.1 年間に大出血をきたした頻度は,コントロール

群 1.0 %,ワルファリン投与群 1.2 %,アスピリン投与

群 1.0 % と有意な差は認めなかった.また,この報告で

は,脳卒中発症の危険因子として,加齢,高血圧,一過

性脳虚血発作,脳梗塞の既往,糖尿病が認められた.65

歳以下では,危険因子のない場合,ワルファリン投与群

とコントロール群で脳卒中発症率に差はなかったが,ひ

とつでも危険因子があれば,両群間で有意差がみられた.

65 歳以上では,危険因子の有無に関わらず,ワルファ

リン投与群で脳卒中発症率の有意な低下が証明された.

一方,持続性心房細動患者において抗不整脈薬による

リズムコントロールとβ遮断薬等によるレートコントロ

ールの生命予後に対する効果を比較した臨床試験の結果

では202,203),死亡率や主要心血管イベント,QOL に差は

認められず,レートコントロールが第一選択の治療法と

なりうること,むしろリズムコントロール群において薬

剤の副作用が多く,さらに有意ではないものの脳梗塞の

発症も多いことが示された.脳梗塞発症はワルファリン

の効果が不十分であった例や洞調律のためにワルファリ

ンが中止された例に認められた.

ワルファリンの用量設定:抗凝固薬投与中に脳卒中を

生じた心房細動患者の発症時の INR( international

normalized ratio)を検討した報告では,INR 2.0 以下で

は INR が低いほど脳梗塞の危険率が増加し,逆に INR

4.0 以上では出血の危険性が高く,至適 INR は 2.0~3.0

であるとしている204).また,ワルファリンにより INR

を 2.0~3.0 に調整された患者群と低用量ワルファリン

(INR:1.2~1.5)+アスピリン 325 mg/day を投与され

た患者群の比較試験では,至適 INR 群が,低用量ワル

ファリン+アスピリン群に比べ,有意に血栓塞栓症の発

生率が低く(1.9 % vs 7.9 %/年),また,重大な出血性

合併症の発生率に差はなかった205).以上の結果から,心

房細動のある患者では,65 歳以上の患者,及び,65 歳

以下でも高血圧,糖尿病を合併したり,一過性脳虚血発

作または脳梗塞の既往のある場合は,ワルファリンによ

り INR を 2.0~3.0 にコントロールすることが望ましい

と考えられる.

以上は米国の患者を対象とした検討結果であるが,わ

が国の脳梗塞または一過性脳虚血発作の既往のある非弁

膜症性心房細動患者を対象とし,通常 INR 群(2.2~3.5)

と低 INR 群(1.5~2.1)に振り分け比較検討した多施設

臨床試験の結果では,脳梗塞 2次予防効果に 2群間で差

はなく,通常 INR 群では出血性合併症が有意に多く

(6.6 % vs 0 %/年),とくに高齢者(平均 74 歳)にて顕

著であった206).以上より,わが国の高齢の脳梗塞既往例

における 2次予防としては,INR が 1.5~2.1となる設定

がより安全と考えられる.

¤)心機能高度低下例

心不全例を対象とした多施設臨床試験の結果では,脳

卒中発生率は 1.3~3.5 % と比較的に少ない207).これは

各臨床試験の多くの症例でワルファリンやアスピリンが

投与されていたためと考えられる.心機能(左室駆出率)

の低下が心房細動と独立した脳卒中の危険因子となるか

否かについては,SAVE 試験のサブ解析では左室駆出率

37

慢性心不全治療ガイドライン

その他の治療2-5

Page 38: Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS … for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 目次 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

が 5 % 減少すると脳卒中が 18 % 増加し,独立した危険

因子としている102).SAVE 試験のほとんどは男性患者が

対象であったが,SOLVD 試験の結果ではとくに女性にお

いて左室駆出率が 10 % 減少すると脳卒中が 58 % 有意に

増加し,一方,男性では有意な増加を認めなかった208).

脳梗塞予防のための抗凝固療法の有用性は未だ確立さ

れていないが,心筋梗塞例を対象とした無作為比較試験

の結果では,抗凝固療法により脳血管イベントが 40~

55 % 減少している209,210).また SAVE 試験のサブ解析で

は,左室駆出率とともに年齢,抗凝固療法,抗血小板療

法の有無も脳卒中発症と関連し,抗凝固療法により 81

%,抗血小板療法により 56 % だけ脳卒中が減少した.

一方,V-HeFT 試験のサブ解析によると,抗凝固療法は

血栓塞栓症の発生率に変化をきたさなかった211).現在,

心不全例の脳卒中発症および生命予後に対するワルファ

リンとアスピリンの効果が欧米で検討されている

(WATCH 試験および WARCEF 試験)207).なお,2001年

の American College of Cardiology/American Heart

Association(ACC/AHA)による慢性心不全の評価と管

理に関するガイドラインでは212),抗凝固療法のクラスⅠ

適応は発作性または慢性心房細動の合併と血栓塞栓症の

既往のある心不全患者で,これらが認められない心不全

患者はクラスⅡb とされている.

2)抗血小板療法

心不全患者に対する抗血小板療法の適応に関しては,

統一された見解がない.各種大規模臨床試験の後ろ向き

の検討では,SAVE 試験においてアスピリン投与は脳卒

中の発症を減少させると報告されている 102).一方,

SOLVD 試験では,抗血小板療法は血栓塞栓症の予防に効

果がないとしている82).抗血小板療法の有用性に関して

も,現在進行中の臨床試験の結果を待たねばならない.

2001年 ACC/AHA のガイドライン212)では,冠動脈疾患を

基礎疾患として有する心不全患者の心筋梗塞および死亡

の予防を目的とする抗血小板療法はクラスⅡa にランク

されている.なお,アスピリンに関しては,SOLVD 試験,

CONSENSUS II 試験において,心不全治療において有用

性が証明されているアンジオテンシン変換酵素阻害薬

(エナラプリル)の生命予後改善効果を減少させるとの報

告があり213,214),使用には時に注意を要する.

1)エンドセリン拮抗薬

エンドセリン(ET)は,血管内皮由来の強力な血管

収縮ペプチドとして 1988年に同定され,その後の研究に

より,血管内皮細胞だけでなく心筋細胞や腎糸球体メサ

ンギウム細胞など様々な細胞で産生され,血管収縮のみ

ならず,種々の臓器で広範な生理活性を発揮することが

明らかとなった.心臓においては,心筋細胞の肥大をき

たすことも知られている.急性心筋梗塞による心不全215)

あるいは慢性心不全患者216)において ET-1 の血中濃度が

上昇していることが報告され,血中の ET-1 濃度が高い

心不全ほど,予後が不良であるとされている.また,心

不全のモデル動物においても血中及び心臓内で ET-1 の

上昇が認められている217-219).

ET 受容体拮抗薬であるボセンタン(bosentan)は,

非ペプチド性競合的拮抗薬である.ボセンタンは ET 系

に特異的な拮抗薬であり,ETA,ETB 両方の受容体を

ブロックする.

Reach-1(Research on Endothelin Antagonism in Chronic

Heart Failure)trial は,NYHA classⅢあるいは classⅣの

慢性心不全患者 370人を対象に行われたが,ボセンタン

の有用性は認められなかった220).

より大規模な trial である ENABLE(Endothelin

Antagonism with Bosentan and Lowering of Events)trial221)

は,左室駆出率 35 % 未満で,NYHA classⅢあるいは class

Ⅳの慢性心不全患者 1,613人を対象に平均観察期間 1.5年

で行われたが,ボセンタン群とプラセボ群で,総死亡,

心不全による入院に有意差は認められなかった.また,

ボセンタン群ではプラセボ群に比べて高率に肝酵素の上

昇が認められた.今後はどのような患者でボセンタン投

与が有効かを見極めることが重要であると考えられる.

2)オマパトリラート

オマパトリラート(omapatrilat)は,Na 利尿ペプチド

ファミリーなどの分解に携わる neutral endopeptidase

(NEP)とアンジオテンシン変換酵素双方の阻害薬

(vasopeptidase inhibitor)である.RAAS 系の抑制作用と

ANP,BNP 増強作用による,血管拡張作用や臓器保護

作用を相加的もしくは相乗的に持ち合わせる特徴的な薬

剤として期待されている.

IMPRESS 試験は 573 例の慢性心不全を対象に,リシ

ノプリル 20 mg/日,オマパトリラート 40 mg/日の 2 群

に無作為に割付け,観察期間は 24 週であったが,

NYHAⅢ~Ⅳ度の症例においてオマパトリラート群で有

意に NYHA クラスの改善を認め,死亡率,心不全によ

る再入院率,心不全悪化による投薬中止率においてもオ

マパトリラート群はリシノプリル群に比し,低値の傾向

を示した222).

38

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

薬物療法の将来展望2-6

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さらに,Omapatrilat heart failure program223)では心不全

1,242 症例を対象とし,観察期間 52 週で,オマパトリラ

ート(40 mg)群のほうがリシノプリル(20 mg)群に比し,

死亡や心不全悪化に伴う入院率が有意に低値を示した.

OVERTURE224)では慢性心不全 5,770 例を対象に,エ

ナラプリル 10 mg 投与群,オマパトリラート 40 mg 投

与群に分け,平均 14.5 ヶ月観察した.全死亡,心不全

による入院率は両郡間で有意差はなく死亡率もほぼ同様

であった.全体として,オマパトリラートにエナラプリ

ルを上回る効果は認められなかったが,層別解析により,

収縮期血圧が>-140 mmHg の症例では,心血管死亡と心

血管入院率ともにオマパトリラート群のほうが有意に低

値であることが明らかにされた.しかし,血管性浮腫の

出現率がオマパトリラート投与群で有意に高いことが示

された.OVERTURE では,オマパトリラートの心不全

に対する有効性はエナラプリルと同等であったが,血管

性浮腫の出現率が高く,期待されたようなアンジオテン

シン変換酵素阻害薬をしのぐ有用性を証明することはで

きなかった.

3)バソプレッシン受容体拮抗薬

バソプレッシン V2 受容体拮抗薬は,腎集合尿細管細

胞の V2 受容体に対する AVP 結合を特異的に阻害して,

AVP の水透過性亢進作用を拮抗する.この水利尿は純

粋な自由水クリアランスの増加によるもので,溶質クリ

アランスの増加により利尿を引き起こすループ利尿薬と

は本質的に異なる.

バソプレッシン V2 受容体拮抗薬 VPA-985の単回投与

で尿量は対照群の 4~5倍,自由水クリアランスは 2.5~

3.5 倍に増加した.また VPA-985 は尿中 AQP-2 排泄を

著しく抑えることが示された225).また,142 例の心不全

患者に V1/V2受容体拮抗薬 YM-087を投与により尿量が

有意に増加し,肺動脈楔入圧の減少がみられた.しかし,

心拍出量,肺血管抵抗,心拍数や血圧の変化は認められ

なかった226).

4)抗サイトカイン療法

近年,心不全薬として使用されているホスホジエステ

ラーゼ(PDE)阻害薬の長期予後改善効果について薬剤

による差が示され,サイトカイン産生抑制作用との関連

が示唆されている.最近,Ca 感受性を高める PDE 阻害

薬ピモベンダンは慢性心不全の複合心事故発生を減少さ

せることが明らかとなった148).

近年,抗不整脈薬アミオダロンが心不全の長期予後を

改善することが報告されているが,アミオダロンは in

vivo および in vitro で IL-6の産生を抑制することが明ら

かとなった227).また,ウイルス性心筋炎から心不全に至

るマウスモデルにおいて抗 TNF-(抗体を投与するとマ

ウスの生存率が改善し,心筋障害を軽減した.抗 TNF-

(抗体療法はヒトとマウスのキメラ型モノクローナル抗

体が開発されており,慢性関節リウマチに対する臨床試

験が行われ有効性が示されている.最近,この抗 TNF-

(抗体 Infliximab の心不全に対する臨床試験が行われた

が,結果は死亡および心不全のための入院が増加し,本

剤による心筋細胞障害が疑われている.

一方,可溶性 TNF レセプター(etanercept)の臨床試

験が行われ,初期の試験では生活の質のスコア(QOL)

および駆出率の改善がみられ,心不全の治療薬としての

有効性が示唆されていたが,その後の RENAISSANCE,

RECOVER,RENEWAL などの臨床試験では QOL,死

亡率,心不全による入院などに対する有効性は示されな

かった228).

慢性心不全は老年期に急増する.米国 Framingham 研

究によると 50 歳代での慢性心不全の発症率はせいぜい

1 % であるに比して,80 歳以上になると急増し 10 % に

も達する229).我が国は 1980 年以降,先進国の先陣を切

って高齢化社会,すなわち本格的な長寿社会を迎えた230).

従って,今日,高齢者の慢性心不全診療は我が国におけ

る主要な社会問題である.特に,80 歳以上の超高齢者で

は,医学的な観点に加え,患者のみならず家族や社会へ

の負担を視野においた極めて人間科学的な対応が求めら

れている.すなわち,実施診療では,加齢による心血管

系の構造や機能,代謝などの生理的変化への理解のみな

らず,心不全の病態や基礎疾患の重症度,心・血管系以

外の他臓器障害の病理変化をも考慮し,その上で高齢心

不全患者への人間科学的な対応に心掛けねばならない231).

慢性心不全での基礎心疾患としては,有病者率の高い

順に,冠動脈硬化症,弁膜症,高血圧症,心筋症などが

挙げられる232).最近では,弁膜症や高血圧症の占める相

対的割合が減少し,冠動脈硬化症による心不全患者の増

加傾向が指摘されている.これは冠動脈硬化症患者の増

加のみならず,冠動脈硬化症に対する急性期治療成績の

進歩を反映している結果であろう.高齢者では,多枝病

変や無症候性心筋虚血,心内膜下虚血患者が症状の如何

を問わず多いので注意を要する.心筋症については冠動

39

慢性心不全治療ガイドライン

基礎心疾患3-1

高齢者の慢性心不全診療33

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脈硬化症や老人心との鑑別が困難な場合が少なくない233).

弁膜症では,近年,リウマチ性弁膜症が減少している.

それに代わって,高齢者では大動脈弁狭窄症を代表とす

る弁変性や石灰化,動脈硬化性といった非炎症性変化に

よるものが多い234).その他には,心房細動などの頻脈に

よる心不全,洞不全症候群や心ブロックによる徐脈性心

不全,肺性心,収縮性心膜炎,二次性心筋症(例 アミ

ロイドーシス),先天性心疾患などが挙げられる.また,

これらの疾患が複数同時に併存して病像をつくりあげて

いる場合もある.

注意を要するのは,たとえ冠動脈硬化症や高血圧症が

軽症であっても加齢に伴い心肥大や心筋線維化が進行

し,心室コンプライアンス低下が拡張障害を惹起し,拡

張性心不全を発症することである235).最近の見解では,

症候性心不全患者の約 30~40 % は拡張性心不全に属す

るものと理解されている236).特に,高齢者ではこの拡張

不全による心不全症例の頻度が高い.

高齢者では,様々な要因により容易に心不全が増悪す

る.心不全の増悪因子には,感染症,貧血,腎不全,甲

状腺疾患などの全身要因,心筋虚血,不整脈などの心臓

要因,β遮断薬,抗不整脈薬,非ステロイド系解熱鎮痛

薬などの薬物要因,過剰輸液や輸血など医療要因,およ

び減塩や水分制限の不徹底,肥満,服薬コンプライアン

ス不良,運動過多,ストレス,うつ状態などの生活要因

に大別される.高齢者慢性心不全の急性増悪に際しては

これらの要因を丹念に洗い出し,適切に指導・介入・対

応せねばならない.

(表 14:文献 231からの引用)

1)診 断

高齢者では記銘力低下,見当識障害,難聴,構語・発

音障害,痴呆,意識障害,それに独り暮しなどのために

正確な病状・病歴を聞き取ることが容易でないことが多

い.また,身体活動が低下しているために,労作時呼吸

困難などの心不全症状が現れにくい.時には,食思不振

や悪心などの消化器症状,見当識障害や意識障害,錯乱,

せん妄などの精神・神経症状などの非特異的症状が前景

にでる.これらが診断や治療の遅れを誘い易い.一方,

慢性閉塞性肺疾患による呼吸困難や腎不全,低アルブミ

ン血症による浮腫など他臓器障害による症状や徴候を心

不全と見誤ることもある.高齢者心不全の診断に際して

は,フラミンガムのうっ血心不全診断基準を基本に,聞

き取り検索と身体所見確認をきちんと行う.その上で,

血漿 B 型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値の上昇237),

胸部 X 線や心電図,心エコー図所見などを参照して,

慢性心不全と確診する.特に,心房細動合併例のみなら

ず,洞調律例でも甲状腺機能亢進症や低下症が紛れてい

ることがある.必要チェック項目のひとつである.また,

先に強調したとおり高齢者では拡張性心不全診断も欠か

せない.心エコー・ドプラ法による左室流入波形からの

拡張早期急速流入(E)と心房収縮期流入(A)との比

E/A 計測や,E 波の減速時間計測,あるいは心プールシ

ンチグラフィによって拡張能を評価する.冠動脈硬化症

が疑われた場合には,運動負荷心電図検査を行う.高齢

者の場合には膝関節症などで予測最大心拍数の 85~90

% に到達する労作が困難なことが多く,ドブタミン負

荷心エコー図やジピリダモール負荷心筋シンチグラフィ

への代替が必要となる.さらに,高齢者では心臓カテー

テル検査などの侵襲的診断の是非について判断に迷うこ

とが少なくない.しかしながら,高齢者においては生物

的加齢と肉体的並びに精神年齢が決して一律ではないこ

とを心得るべきである.80 歳以上の超高齢者といえど

も,常日頃,片足立ちが出来,買い物や情報交換,それ

に排泄行動などが円滑に行えている人は,壮年者同様,

侵襲的検査法の良い適応である.特に,冠動脈硬化症に

よる心筋虚血が原因疾患と疑われている高齢者では,根

治的な介入によって劇的な改善が期待できる.

2)治 療

高齢者では心血管系以外の他臓器障害,あるいは機能

低下がみられる.従って,心不全への治療介入時には有

害事象を生じ易い背景がある.例えば,アンジオテンシ

ン変換酵素阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬,

40

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

基本的な対応3-3

表 14 高齢者の心不全治療の問題点

1.病歴の聴取がむずかしい2.心不全徴候が非典型的である3.他疾患の症状と紛らわしい4.複数の疾患が関与していることが多い5.多臓器不全を生じやすい6.拡張障害による心不全が多い7.種々の増悪因子の関与が大きい8.侵襲的検査が行いづらい9.deconditioning や ADL の低下がおこりやすい

10.治療に不従順な例が多い(服薬,塩分制限など)11.治療薬の安全域が狭い12.心不全増悪による再入院例が多い13.高齢者を対象とした心不全治療のエビデンスが乏しい

増悪因子3-2

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利尿薬,ジギタリスなどの薬物投与によりしばしば腎機

能悪化が現れる.また,高齢者では心不全が増悪すると,

すぐに多臓器不全になり易い.治療に際しては,心不全

にのみ傾注するのではなく,全身を隈なく診て,合併症

対策にも抜かりなく対応せねばならない.しかも,一旦

心不全から軽快できても,短期間のうちに入退院を繰り

返すことも多い238).また高齢者では食塩や水分,カロリ

ーの摂取管理が不徹底になりがちである.しかも服薬コ

ンプライアンスもよくない.患者本人に留まらず,介助

者である家族や同居者も含めて,生活要因からの心事故

予防をめざして,生活習慣や服薬習慣,それに通院習慣

を常々指導する必要がある239).

慢性心不全患者での減塩指導について,欧米の治療ガ

イドラインでは,1 日の食塩摂取量を重症度に応じて 2

~4 g 以下としている240),我が国では食習慣の違いによ

り同様の減塩指導を実施することは極めて困難である.

特に,高齢者では,長年慣れ親しんだ食習慣から乖離し

た過度の減塩指導により食思不振を招くことが稀ならず

発生する.今日,わが国においても高血圧患者をはじめ

として食塩摂取 6 g/日が推奨され始めた241).慢性心不全

にもこの流れはやがて波及するであろう.しかし高齢者

心不全では一度低ナトリウム血症を招来すると極めて難

治状態になることも留意すべきである.

過度の安静臥床は禁物である.筋力の衰えは不活発化

を招き,うつ状態や痴呆,ひいては寝たきり生活を加速

する.可能な限り早期離床をすすめ,家族や看護者・介

護者を含めて積極的に会話交流を促し,それによって自

立生活を助長する.たとえ緩慢な動作や作業であっても

手助けを最小限に留める.特に,下肢筋力の保持・増進

は重要である.片足下肢筋力が自己体重比 55 % 以上に匹

敵すれば,数分間の片足立ちの可能性を裏打ちする.こ

れは心臓リハビリテーションへの参加を容易にし,患者

のみならず,家族や社会への負担の軽減を示唆する242).

3)介 助

高齢者の心不全管理において,包括的な介入を支える

介助者の果たす役割は極めて大きい243).まず,独り暮ら

しか,同居者は誰か,介助者は誰かを見極める244).特に,

同居している介助者の存在は大きい.食事や運動,それ

に睡眠などの生活習慣の指導,服薬の確認,理想体重の

保持,通院指導の優劣が予後を左右する.いまなお,多

疾患有病者である高齢者心不全患者の疾病管理の在り方

について解決すべき課題が山のように蓄積している245,246).

要介助状態の高齢者に対しては原則的に侵襲が大きい

診断法,並びに治療法の採用を差し控える.ケアを主体

とした姑息的な診療に終始するのが一般的である.基本

的には,静脈怒張(内頸静脈や下行大静脈)や肺うっ血

の改善状態がよく管理され,かつ手足が暖かで末梢循環

がよく保持された体液管理を求め,その理想体重を維持

するよう努める.一般に,2 kg 以上の体重増加は体液の

過負荷,うっ血状態の加速とみなされる.

すでに数多くの大規模臨床試験が実施されてきたにも

拘らず,日本人データは極めて少ない.しかも,海外の

トライアルについても高齢者のみを対象にした研究はほ

とんどない.ただし,高齢者といえども慢性心不全治療

戦略の基本は変わらない.原則的な留意点は,(1)治療

薬の副作用が生じ易い,(2)合併症や臓器障害が画一で

なく,患者特性に基づいた対応が必要である,(3)80

歳以上の超高齢者エビデンスが極めて不足している,な

どである.

1)アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

高齢心不全患者においても,禁忌事項がない限りすべ

ての患者に対して,アンジオテンシン変換酵素阻害薬投

与が効果的である123).CONSENSUS 試験では,平均年

齢 70 歳の高齢重症心不全患者におけるエナラプリル追

加療法の生存率改善効果が示された121).その後の一連の

大規模臨床試験は,難治性患者(ステージ D),症候性

患者(C),無症候性患者(B),心不全リスク患者(A)

を問わずアンジオテンシン変換酵素阻害薬の治療・予防

効果が示されている247,248).またアンジオテンシン変換

酵素阻害薬には脳卒中予防効果249)や嚥下性肺炎防止効

果250)など高齢者に好ましい副次的効果も報告されてい

る.多疾患有病者の代表例である高齢者心不全患者には

多岐に渡って効能をもつ薬剤が求められる.アンジオテ

ンシン変換酵素阻害薬はその一例に列せられるであろ

う.ただし,高齢者に投与する際には,腎機能障害,高

カリウム血症,症候性低血圧など有害事象の出現に留意

する.従って,まず少量から開始し,漸次増量していく

態度が求められる.投与開始初期より,血清クレアチニ

ン値,血清カリウム値および血圧の動向には注意する.

高齢者は通常血清クレアチニン値が健常にみえても糸球

体濾過率は低下している.特に,血清クレアチニン値が

2.0 mg/dl 以上の腎機能障害例に対しては,アンジオテ

ンシン変換酵素阻害薬を慎重に投与する.両側腎動脈狭

窄症は投与禁忌である.特に,高齢者では動脈硬化性腎

動脈狭窄を,しかも両側に合併することがある.腹部血

41

慢性心不全治療ガイドライン

薬物療法3-4

Page 42: Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS … for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 目次 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

管性雑音や血漿レニン活性値(PRA:plasma rennin

activity)の検索のみならず,時には腹部エコーやアイソ

トープレノグラム,腎血管造影検査をも必要となる.

具体的には,エナラプリル換算で 2.5 mg/日程度から

開始し,注意深く増量を試み,可能な限り高用量での維

持管理をめざす.副作用として低血圧症状を訴える場合

には,一旦アンジオテンシン変換酵素阻害薬を半減ある

いは中止し,脱水状態を疑えば利尿薬の減量・中止を行

う.その後に再開する.対象患者がアンジオテンシン変

換酵素阻害薬に不耐性と判断された場合には,次のアン

ジオテンシンⅡ受容体拮抗薬投与に切り替える.

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は,レニン・アンジ

オテンシン系を受容体レベルでブロックする抗心不全治

療薬である.慢性心不全患者の血行動態や運動耐容能お

よび予後改善効果が確認された251,252).しかし,アンジ

オテンシン変換酵素阻害薬の効果を代替できることが確

認出来ても,それを凌駕する治療成績は得られていな

い127,128,253).アンジオテンシン変換酵素阻害薬による夜

も眠れないほど強い空咳などの副作用が発生した場合の

代替治療薬としては最もよい選択薬となる.なお,投与

にあたっては腎機能障害の発生,高カリウム血症や過度

の降圧効果など副作用への留意を要する.

2)利尿薬/抗アルドステロン薬

利尿薬はうっ血性心不全の自他覚症状を顕著に改善す

る.体液貯留の管理にはフロセミドなどのループ利尿薬

が汎用されている.ループ利尿薬にサイアザイドを少量

加味すると利尿がより増幅される.ループ利尿薬は強力

である.高齢者では利尿の負担が過剰にならぬよう注意

を要する.一般に高齢者は昼夜を含めて頻尿や尿失禁に

悩む人が多い.投与時にはこのような加齢生理に加えて

利尿を促すことになるとの認識が求められる.低用量で

はじめ,様子をみながらゆっくり増量する.具体的には,

フロセミド換算で 10~20 mg/日より開始し,うっ血症

状に応じて緩徐に増減する.身体所見での内頸静脈怒張

や心エコー図での下大静脈怒張,それに胸部 X 線によ

る肺うっ血像などが改善し,そのうえ手足が暖かく末梢

循環が保たれていれば,よい管理が得られたと判断され

る.その体重をまず維持するように努める.また血清ナ

トリウムを参考に計算上から総体液量は 140 mmol/×体

重(kg)×0.45/血清 Na(mmol/L)の公式から求められ

る231).これを目安に,1 L 以内の脱水は 48 時間以内の

経口摂取,それ以上は経静脈投与によって補って対応す

る.利尿薬により過度の利尿が生じると,血液濃縮から

血液粘稠度の増加を来たし,脳血栓症の誘因となりうる.

ヘマトクリット 45 % 以上の血液濃縮は脳血栓の重要な

危険因子であることが知られている254).これらの試行錯

誤の結果もとめられた目標体重値の維持・管理が容易で

あると思われる時点から,禁忌事項のない限り,抗アル

ドステロン作用を有するトラセミドやスピロノラクトン

などの緩徐な利尿薬に切り替える40,255,256).以後,早朝

時の排尿後体重と通院時の血漿 BNP 値を参照しながら

体液管理・維持に努める.抗アルドステロン薬のスピロ

ノラクトンを追加投与した大規模臨床試験 RALES で

は,心不全患者の生命予後改善効果がみられた40).また

入退院を繰り返す患者の心事故軽減にも貢献する.しか

しながら高齢者に抗アルドステロン薬を投与する際には

高カリウム血症が生じ易い.定期的あるいは時宣に血清

カリウム値や心電図チェックが必要である.

慢性心不全の急性増悪の治療に際しては,フロセミド

の経静脈的投与がまず必要となる.起座呼吸や胸部 X

線での蝶型像がない限り,まず 5~10 mg 単回静脈内投

与を行い,利尿効果をみて用量を調節する.高齢者では

利尿薬の副作用が出現しやすいので,サイアザイド系利

尿薬,ループ利尿薬投与による腎機能障害,低ナトリウ

ム血症,低カリウム血症および低マグネシウム血症に留

意する.低カリウム血症および低マグネシウム血症は心

室性不整脈の誘因となる.果物や野菜の摂取を勧めると

同時に,心電図による経過観察を行い,必要に応じて経

口カリウム製剤あるいは抗アルドステロン薬を併用す

る.ジギタリス使用時はとくにジギタリス中毒に陥りや

すいため,低カリウム血症の是正が重要である.

3)ジギタリス

高齢者では特に半減期の短い腎排泄型のジゴキシン半

量投与が推奨される257,258).飽和投与は頻脈性心房細動

を合併する慢性心不全の壮年患者への適応と心得るべき

である.高齢者では左室拡張能障害に心房細動を合併す

ることが多い.頻脈性心房細動は左室充満を阻害し,心

不全を増悪する.この高齢者での病態にはジギタリス半

量投与による心室のレートコントロールは効果的であ

る.大規模臨床試験 DIG104)では心不全による入院回数

の減少がみられた.洞調律であっても左室駆出率 25 %

以下の収縮不全患者に対するジゴキシン投与には妥当性

がある.しかし,拡張性心不全では心房細動を合併して

いる症例に限るべきであろう.

高齢者は筋肉など脂肪以外の組織成分の含有が減少し

ており,しかも腎機能が低下している.ジギタリス中毒

が生じ易い条件が調っている.従って少ない投与量から

開始し,ゆっくりとジゴキシン半投与量 0.125 mg/日程

42

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

Page 43: Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS … for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 目次 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

度で維持量とするよう心掛ける.ジゴキシン至適血中濃

度は 0.8~2.0 ng/ml となっているが,高齢者では治療下

限域で十分である.ジギタリス中毒の初期症状は,食思

不振,悪心,嘔吐などの消化器症状,それに視力障害が

前景となることが多い.このような愁訴には十分留意す

る.また,ジギタリス中毒の症状は必ずしも血中濃度に

依存していないことも心得るべきである.

4)β遮断薬

慢性心不全患者に対するβ遮断薬,特にアンジオテン

シン変換酵素阻害薬に追加されたβ遮断薬療法の有用性

は既に確立された259,260,261).心事故軽減に加えて,他の薬

剤にはみられない逆心筋リモデリング効果が強調されて

いる256).但し,80 歳以上の超高齢者患者に対するエビデ

ンスはない.大規模臨床試験の対象患者から常に除外さ

れてきた経緯による.また,拡張不全患者における有効

性も確認されていない.薬理学的には,β遮断薬投与に

よって陰性変力作用と陰性変時作用が現れる.従って,

患者は一時的にあるにせよ,血行動態の増悪や心拍数の

徐脈化を免れえない.さらに呼吸器疾患,末梢循環障害,

あるいは糖尿病,高脂血症などの代謝性疾患も交絡して

不都合に働くことがある.従って,高齢者慢性心不全患

者に対するβ遮断薬療法はこれらの特性をよく理解して,

負の効果を十分に折り込んで適応を決めねばならない.

導入に際しては入院管理が原則である.まず,アンジオ

テンシン変換酵素阻害薬やジギタリス,利尿薬と生活指

導で体液管理をしっかり行い,静脈怒張や血漿 BNP 値か

らうっ血が十分改善したことを確認する.そしてβ遮断

薬を少量から投与し,5~7 日おきに倍量ずつ漸増してい

くのが一般的である.安静時や運動時の心拍数や血圧を

モニターし,β遮断効果が確認できたら,一旦そこで増

量を中断する.その後,悪化徴候のないことを確認した

後で出来るだけ増量し,心エコー図にて逆リモデリング

が確認できるか,あるいは大規模臨床試験で確認された

投与量を最終維持量として継続する.よい適応患者とし

ては,安静時で心拍数や血圧が高目の患者,あるいはわ

ずかなストレス応答ですぐに心拍数や血圧が上昇する患

者が挙げられる.また一度はβ遮断薬療法を試みるべき

対象として入退院を繰り返す慢性心不全患者がある.

β遮断薬投与を行うにあたってはしばしば他の治療薬

との交絡作用が問題となる.特に,冠動脈硬化症におけ

るカルシウム拮抗薬や硝酸薬である.患者特性にもよる

が,基本的には予後改善効果のエビデンスが優るものを

選択し,また徐脈や血圧降下によってβ遮断薬使用の妨

げになる薬剤を中止する.特に,ステージ D に至った

難治性心不全患者は,基礎疾患への介入よりも心不全治

療をまず優先し,うっ血症状の苦痛軽減や心事故からの

負担軽減を図る.

5)カルシウム拮抗薬

カルシウム拮抗薬は,末梢血管を拡張させ後負荷を軽

減するが,長期投与は心不全を悪化させる190,191).しか

し,長時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬

については,アムロジピンが虚血性心疾患に伴う慢性心

不全患者の予後には悪影響を与えず,非虚血性心疾患に

伴う心不全患者の予後を改善させた143).高齢者心不全で

降圧効果が不十分な場合には追加使用できることを意味

する.近頃行われた心不全リスクが高い高血圧患者や冠

動脈硬化症患者でも優れた二次予防効果が再確認されて

いる262,263).

6)経口強心薬

左室収縮不全患者に対するジギタリス以外の経口強心

薬:フォスフォジエステラーゼ(PDE)阻害薬やカテコ

ラミン製剤などは慢性心不全患者の生命予後を改善する

ものではない.しかし,カルシウム感受性増強作用を有

するピモベンダンは身体活動能力の改善効果が示されて

いる148).したがって,生活の質の改善を目指した高齢者

診療では収縮不全患者を対象として経口強心薬投与が許

容される.特に,低血圧や低心拍出状態でβ遮断薬導入

が困難な症例や,カテコラミン薬の持続静脈注射から解

放されない患者などが良い適応となる.

ClassⅠ

¡ステージ A,B,C,D 心不全患者に対するアンジオ

テンシン変換酵素阻害薬

¡NYHA 心機能分類Ⅰ~Ⅳ収縮不全患者に対するβ遮

断薬

¡うっ血症状やうっ血徴候のある患者への利尿薬

¡頻脈性心房細動をもつ収縮不全患者へのジゴキシン

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬とループ利尿薬投与

によっても治療効果が不十分な左室収縮不全患者に対

するスピロノラクトン追加投与

¡高血圧症の心不全予防に対する利尿薬,カルシウム拮

抗薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬の代替薬としてのア

ンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

¡心房細動症あるいは血栓・塞栓症の既往患者への抗凝

43

慢性心不全治療ガイドライン

高齢者慢性心不全患者に対する薬物療法

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固療法

ClassⅡ

¡拡張不全患者に対する利尿薬,アンジオテンシン変換

酵素阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬と利尿薬投与によっ

ても治療効果が不十分な洞調律左室収縮不全患者に対

するジゴキシン

¡自覚症状の改善を目的とした短期の経口強心薬(ピモ

ベンダンなど)

¡収縮不全患者に対するアムロジピン*

¡上室性頻拍による心不全患者に対するβ遮断薬および

房室伝導抑制性カルシウム拮抗薬*

¡高度収縮不全があり,心室内血栓患者に対する抗凝固薬

¡脳梗塞リスクの高い患者に対する抗凝固薬または抗血

小板薬

ClassⅢ

¡アンジオテンシン変換酵素阻害薬投与禁忌例(注 3)

に対するアンジオテンシン変換酵素阻害薬

¡β遮断薬投与禁忌例(注 4)に対するβ遮断薬

¡拡張不全患者に対するジギタリスおよび他の経口強心薬

¡徐脈性不整脈を呈する心不全患者に対する房室伝導抑

制性薬物(ジゴキシン,カルシウム拮抗薬*)

¡半減期の長いジギタリス製剤

¡無症候性心室性不整脈に対する抗不整脈薬*

¡短時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬*

(注 1)高齢者のみに対象を限定するとエビデンスが乏

しいため,高齢者を多く含む大規模臨床試験の

結果を用いた.

(注 2)保険適応外の薬物については(*)を付した.

(注 3)血清クレアチニン値 2.0 mg/dl 以上(原則として

避ける),両側腎動脈狭窄症例,症候性低血圧,

コントロール困難な高カリウム血症,アンジオ

テンシン変換酵素阻害薬不耐例をアンジオテン

シン変換酵素阻害薬禁忌とした.

(注 4)気管支喘息,ケトアチドーシス,高度の徐脈,

慢性閉塞性肺疾患および重症閉塞性動脈硬化症

患者をβ遮断薬禁忌とした.

高齢者であっても,冠動脈硬化症を原因として心筋虚

血により入退院を繰り返す慢性心不全患者はインターベ

ンション治療やバイパス術のよい適応例である.また,

弁膜症や先天性心疾患についても,開心術にて劇的に心

不全症状が改善される.すでに述べたように,リスクを

勘案してもなお効果が期待できる患者に侵襲的な介入を

躊躇すべきではない.高齢者に侵襲的な介入を加えるか

否かを判断する際の重要な視点は,通常の医学的留意点

に加えて,候補患者の日常生活活動の評価である.一般

に,身体能力としては片足立ちが,また日常生活能力と

しては自主的な買い物行動,電話による情報交換活動,

排泄の円滑処理が評価項目としてとりあげられる.一項

目でも抵触する候補患者では特性に応じた慎重な個別判

断が求められる.

また,①洞不全症候群や高度房室ブロックによる徐脈

心不全にはペースメーカー植え込み術,②左脚ブロック

などの刺激伝達遅延による同調不全には両室ペーシング

による心臓再同期療法264),③低酸素血症を頻発する睡眠

時無呼吸には在宅酸素療法なども有力な治療法であ

る265,266).さらに運動療法267,268)や温熱療法269)も適応と処

方によって,慢性心不全患者の生活度が高められる.

慢性心不全は集学的・集約的医療の代表疾患である.

特に,高齢者では多疾患有病者の包括的疾病管理を必要

とする.このような性格上,どうしても治療法は多岐に

わたり,治療スタッフも多業種,判断や理解,指導も多

様で,アウトカムも一様でない.このことは,患者負担

や家族負担,ひいては社会負担が膨大になりやすいこと

を示唆している.その中で,非薬物療法は,一旦これが

患者特性に適合し,劇的に奏功すれば,これらの負担を

顕著に軽減できる特徴をもっている.

最後に,薬物療法も含めて慢性心不全に対する血漿

BNP 濃度のガイド下診療が標準仕様となっている.高

齢慢性心不全患者の特性に合わせて,最も妥当な包括的

な診療法の選択こそが疾病管理を担う医師に課せられた

主要業務である.そして,その選択には患者・家族・社

会負担が最も少ない方策であることも併せ求められてい

ることを自覚せねばならない.

¡心不全の病因,病態

¡症状と徴候

¡心不全増悪時の症状と対処方法

¡毎日の体重の自己モニタリング

¡治療計画の説明

¡患者の自己管理責任の明確化

¡禁煙の重要性

44

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

非薬物療法3-5

一般的なカウンセリング

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¡治療・ケア計画における家族やその他の介助者の役割

¡インフルエンザの予防接種の重要性

¡予後

¡余命

¡予想される事態の告知

¡突然死の場合の家族への指導

活動指導

¡レクリエーション,余暇,作業活動

¡運動

¡性生活上の問題と対処法

食事指導

¡バランスのとれた食事内容

¡食塩制限

¡水分制限(特に必要な場合)

¡アルコール制限

薬 剤

¡生活の質と生存率に及ぼす薬剤の効果

¡投与量調節

¡出現しうる副作用と出現時の対処法

¡コンプライアンスの維持

¡財政負担を考慮した廉価な処方

小児の心不全の基礎病態は成人と比べ多くの点で異な

る.小児は先天性心疾患が多く,形態異常による容量負

荷ないし狭窄,低酸素などが主病態で,心筋収縮性低下

による心不全は比較的まれである.従って,ここで言う

心不全は広く循環不全を含む.

先天性心疾患による心不全は発症の時期が,新生児期

乳児早期と,成人期とに略々二つに大別される.前者は,

胎内循環から胎外循環への移行の過程で発症する.すな

わち,卵円孔閉鎖,動脈管閉鎖,静脈管閉鎖,肺血管抵

抗低下などの変化に対して循環の適応がうまくできない

病態である.例えば,動脈管依存性心疾患では動脈管の

閉鎖により体または肺血流が途絶えると同時に心肺への

過負荷から強度の心不全に陥る.また大きな心室中隔欠

損では出生後の肺血管抵抗低下により左右短絡そして肺

血流量が増え,心肺容量負荷から心不全が出現する.一

方,成人期の発症は,先天異常では病態が軽微であって

も生涯にわたって循環系への負荷が存続し,ある時期に

なると適応破綻を来たして心不全となる.この場合には

心筋収縮性の低下による.

また,発達過程の心筋・心室は,細胞内器官が未熟で,

心筋も筋原線維が少なく,配列も不整であり,収縮性拡

張性ともに低い274).また,受容体機能,細胞内情報伝達

機構も機能的に不十分なため,各種カテコラミンに対す

る反応性も悪い275).これらの機能は,幼児期(1歳以上)

に達すると成人の心臓と同様と考えられる.以後の身体

発達に伴う心臓循環系のサイズの増大は生理的に起る276).

小児心不全の内科的治療の原則は大きく二つの大別で

きる.第一は,構造(形態)異常修復の外科治療へ向け

ての病態の改善・安定化である.第二は,小児ゆえの長

い生存(余命)期間を見込んだ治療戦略である.手術適

応とならない程度の異常,術後の CRS(C=合併症,

R=遺残症,S=続発症)による病態,無症状の心機能

低下などに対する“進行悪化予防”的な対策としての考

え方である.後者には,薬物療法のほかに,運動制限や

生活習慣病予防のための食事指導なども含まれる.

急性と慢性を峻別出来ないことが多い.形態異常を基

礎に,上述した出生に伴う変化が急速に起れば,急性心

不全の様相を呈し,出生に伴う変化に適応すればその後

に慢性心不全の様相を呈する.この基本病態を把握する

ことが,治療効果を最大にする重要な条件である.

4-3-1 急性心不全ないし急に進行する心不全症状は,

呼吸困難,蒼白,ぐったりなどが乳幼児・小児

に特有である.

新生児では,動脈管依存性心疾患の動脈管閉鎖による

循環虚脱,短絡性疾患や肺静脈閉塞性疾患における肺血

管抵抗低下による肺循環過負荷が主なものである.

治療は,救命と循環の立て直しが急務で,カテコラミン

などの強心薬,利尿薬投与,人工換気が主となる.動脈

管依存性ではプロスタグランディン E1 を用い,酸素投

与を控える.

4-3-2 慢性心不全

症状は,乳児では,多呼吸(1 分間 50 回以上),哺乳

困難(20 分以上の哺乳),体重増加不良,発汗過多(特

に頭部)などがある.乳児小児では静脈や肝臓などの弾

性が高いため静脈圧があまり上昇しないので浮腫を見る

ことは少ないが,重症の心不全や未熟児では極め大事な

45

慢性心不全治療ガイドライン

心不全の症状と治療実施の基本事項4-3

胎児,乳幼児,小児の慢性心不全の治療

44

先天性心疾患による心不全治療の基本的事項

270-273)4-1

治療へ向けての原則4-2

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兆候である.

治療は次項に述べる病態別に行う.日本小児循環器学

会でもガイドラインを纏めている277).原則的に,手術可

能なものは術前の循環の改善・安定化が目的である.手

術非適応例では,成人心不全と同様,生命予後の改善と

生活の質の向上に目標をおき,負荷軽減,心筋保護が主

となる.ジギタリスは小児では多くの場合ジゴキシンを

用いるが,その有用性については未だ議論がある.

一般的管理も重要である278).最重症の乳児では,水分

(ミルク)を制限することがあるが,そのような例では早

期の手術の適応を考慮する.哺乳困難があり十分な摂取

ができない場合には,一回哺乳量を少なくし,哺乳回数

を増やす.乳児に低ナトリウムミルクを使用した歴史も

あるが低ナトリウム血症が問題となる.感染による悪化

を避けるため,一般的な感染防止と積極的な予防接種を

要する.貧血防止は重要で,栄養のバランスに配慮する.

小児心不全の内科的治療に関しての無作為抽出プラセ

ボ対照試験のデータは皆無に等しい.多くは非対照試験

に基づいたものである.したがって,それぞれをエビデ

ンスの Class に当てはめることはできないが,現時点で

多くの専門家が有用または不適と考えている治療法をこ

こに採用した.今後,Evidence Based Medicine に基づく

治療が推進されることを期待する.

1)容量負荷群

心室中隔欠損などの心室大動脈位の左右短絡性疾患で

は,出生後肺血管抵抗の低下とともに心不全が出現する.

心内膜床欠損(房室中隔欠損)で共通房室弁の逆流が強い

例,大動脈縮窄・離断合併では心不全が早期に出現する.

フロセミドでうっ血を軽減させる.ジゴキシンについ

ては,負荷非依存性指標による評価で心機能低下が認め,

ジゴキシンでそれが改善したとの報告がある279).フロセ

ミドとの併用で収縮性増大を認めたが,心不全症状や所

見は改善しなかったとする報告がある280).また,大きい

心室中隔欠損の重症例では,肺血流増加と左房圧上昇が

みられてとの報告もある281).したがってジゴキシンは,

ある程度の効果は期待できる場合とそうでない例がある

ことに注意すべきである.

心不全を呈するような大きい心室中隔欠損では短絡量

は肺血管抵抗と体血管抵抗のバランスに依存する.酸素

は肺血管拡張作用と体血管収縮作用があるため,強い低

酸素血症に対する一時的な治療以外には控える.血管拡

張薬は,肺血管と体血管への作用の程度により効果が異

なる.ニトロプルシッドでは肺体血流比の増大が見られ

ている282).また 体血管抵抗が 20 U・m2 以上あるいは肺

血管抵抗の著明な上昇のない例ではヒドララジンが有効

であったとする報告がある283).カプトプリルやエナラプ

リルも有用と考えられているが,これらの血管拡張薬を

使用するにあたっては低血圧と心不全の増悪を注意深く

モニターしなければならない.

左心系の弁逆流性疾患では血管拡張薬284,285)および利

尿薬が基本となる.

2)動脈管依存性心疾患群

新生児期の問題である.左心低形成症候群,大動脈縮

窄・離断では体血流が動脈管に依存している.生後,動

脈管の閉鎖に伴いショック症状(ductal shock)となる.

しばしば低血糖,急性肝不全を引き起こす.

肺血流が動脈管に依存している疾患(肺動脈閉鎖,重

症肺動脈狭窄,重症ファロー四徴症など)では動脈管閉

塞により肺血流が遮断され重篤な低酸素血症と代謝性ア

シドーシスに陥る.

これらの疾患では診断後,すぐに動脈管を拡張させる

ためにプロスタグランディン E1 を用いる.酸素は動脈

管を収縮させるため蘇生時以外は禁忌となる.

3)圧負荷群

新生児で心不全を呈する危急肺動脈弁または大動脈弁

狭窄(critical PS または critical AS)では,診断が付き次

第プロスタグランディン(PG)E1 を投与し,バルーン

弁形成術をおこなう.しばしば夫々の心室の低形成を伴

うが,それらでは手術を考慮する.大動脈縮窄・離断は

前項で述べた.乳児期の肺動脈弁または大動脈弁狭窄に

はバルーン弁形成術を試みる.

小児期以降の肺動脈弁狭窄,大動脈弁狭窄,大動脈縮

窄は多く無症状である.左室高血圧の進行とともに心筋

障害が進行するが,初期の頃はやはり無症状である.心

不全進行が遅い理由の一つは,先天性圧負荷による心肥

大では,肥大が生理的な hyperplasia の形をとること170),

肥大に見合った冠状動脈分布があることによる286).運動

中は急性心不全から突然死のリスクがある.

4)肺静脈閉塞群

新生児乳児で問題となる.肺静脈閉塞のある総肺静脈

還流異常,重症僧帽弁狭窄,重症三心房心などでは高度

の肺うっ血から呼吸不全,チアノーゼをきたし,症状や

レントゲン写真上,肺炎や呼吸器疾患と間違われること

もある.

46

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

病態別の治療4-4

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フロセミドでうっ血を改善させる.血圧が低い場合に

はβ受容体刺激薬を用いる.酸素およびβ受容体刺激薬

は防御的収縮をしている肺血管を弛緩させ肺うっ血を悪

化させるため禁忌である.呼吸困難が強い場合には積極

的に PEEP をかけて人工換気とする.これらの重症例で

は内科的治療を行いつつ緊急の外科的治療の適応であ

る.通常,バルーンカテーテルによる心房中隔切開術

(BAS=balloon atrioseptostomy)は適応がない.

5)低酸素群

新生児期に問題となる場合と,手術不能例で成人期に

問題となる場合がある.

5-1)新生児期

完全大血管転位では高度の低酸素症とアシドーシスの

ため循環障害をきたす.チアノーゼが高度な場合,まず

PGE1 を用いて肺血流を増加させ,心房レベルでの有効

左右短絡を増やして動脈血酸素濃度の上昇を図る.卵円

孔の小さい例では BAS をおこなう.

動脈管依存性肺動脈閉鎖では,動脈管の閉鎖とともに

低酸素血症と代謝性アシドーシスが進行し,循環不全と

なる.PGE1 で動脈管開存を確保し,利尿剤でうっ血改

善を狙う.心室中隔欠損のない例で卵円孔が小さいと体

静脈うっ血が起こるため,BAS をおこなう.

5-2)成人期

チアノーゼ性心疾患で心内修復を受けないまま成人に

達し心不全を呈する例がある.心筋障害による収縮性低

下・拡張性低下,心室収縮非同期が問題である.これら

を基礎に,房室弁や半月弁の閉鎖不全,心房細動などの

頻拍性不整脈や洞機能不全または房室ブロックの徐脈が

心不全を助長する.

治療は対症的である.肺動脈減少性疾患では,低酸素

血症の改善のためカテーテル治療による肺動脈狭窄拡大

も試みられる.弁の逆流に対して血管拡張薬は効果が期

待できるが,同時に体血管抵抗を低下させ心内右左短絡

を増し,チアノーゼを増悪させる可能性もある.低酸素

への代償としての赤血球増多による高ヘマトクリットを

みるが,瀉血は相対的貧血をもたらし心不全の増悪要因

となる可能性があるばかりでなく287),血栓症のリスクを

増やす288).

心不全を伴う Eisenmenger 症候群は,やはり対症療法

である.肺血管抵抗が固定化しているため血管拡張薬は

疑問である.特発性肺高血圧には,PGI2,Bosentan

(ET 受容体遮断薬),Sildenafil が使用ないし試用される

が,この群を含め長期効果は未定である.

6)心筋収縮能低下群および冠状動脈異常

心筋症,術後の心機能障害例がある.この群の治療は

成人のものと同様で,血管拡張薬ないし心筋保護薬と利

尿薬が主体であるが,ジギタリスの有用性も否定されて

はいない289-294).また,小児におけるβ遮断薬の有用性

も徐々に明らかになってきている295).

左冠状動脈肺動脈起始症などの冠状動脈奇形,川崎病

後冠状動脈閉塞では,心筋虚血そのものおよび僧帽弁閉

鎖不全による心不全がある.内科的には,血管拡張薬,

利尿薬を用い,β遮断薬も考慮される.基本的には手術

であるが,川崎病後冠状動脈閉塞ではカテーテルによる

血行再建術が試みられている296).

7)特異な疾患

7-1)Ebstein 病

三尖弁奇形による病態が主であるが,左室機能も低下

する297).心房間交通孔があれば右左短絡からチアノーゼ

が出現し,心機能低下に拍車を掛け予後を悪くする298).

更に高頻度に合併するWPW 症候群による頻拍発作は突

然死のリスクがある.

内科的には疾患特異な治療は無い.手術適応もコンセ

サスが得られておらず,最重症例は心臓移植も行われる.

7-2)修正大血管転位

大動脈へ拍出する右室が経年的に機能不全になること

が知られ,体循環側の房室弁である三尖弁閉鎖不全(し

ばしば Ebstein 様奇形を伴う),さらに本症特有の進行性

の房室ブロックも,心不全の増悪因子である299,300).

これまでに本症ではいかなる薬物の有効性も証明され

ていない.三尖弁閉鎖不全からの心不全を防ぐために,

左室圧が低い例では肺動脈絞扼を勧める意見がある300).

また,左室を大動脈につなぐ目的で心房位血流転換

(Mustard 手術または Senning 手術)と Rateslli 手術また

は Jatene 手術を組み合わせる Double Switch 手術が行わ

れる301).しかし未だその評価は固定していない302).他の

外科適応が無ければ心臓移植を考慮する.

8)特異な手術と術後の心不全

ここでは,先天性心疾患特有の手術の術後に見られる

心不全の基礎病態と特異的な治療法のみを述べる.無論,

一般の心不全治療はこれらの病態にも適応される.

47

慢性心不全治療ガイドライン

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8-1)ラステリ手術

肺動脈閉鎖性心疾患で,人工血管などの心外導管によ

って肺動脈と静脈側(通常右室)を繋ぐ手術である.導

管縫着のための比較的大きい心室術創,死腔としての導

管,弁閉鎖不全,進行性の導管狭窄などが心不全の基礎

病態である.

特異的治療は導管狭窄解除である.カテーテルによる

解除が試みられるが,石灰化が強い例が多く,長期の効

果は期待できない303).再手術を要する.

8-2)完全大血管転位,心房内血流転換術後

完全大血管転位では右室から大動脈が起始するが,心

房内血流転換術(Mustard 手術,Senning 手術)後では

それが残存する.右室は経年的に機能が低下し心不全と

なる299).動脈側房室弁(三尖弁)閉鎖不全は心不全の強

力な増悪因子である.また,心房内手術操作が大きいこ

とによる心房性不整脈とくに洞機能不全症候群も心不全

増悪因子であると同時に,突然死のリスク要因でもある.

右室不全進行予防の点で修正大血管転位と同様に考え

る(前項参照).洞機能不全による著しい徐脈に対して

はペースメーカー植え込みの適応がある.右室不全が進

行した例では,心房内手術を take-down して,動脈位転換

術(Jatene 型手術)へやりかえる方法がある.これは手

技が困難でリスクが高い上に,未だ評価が定まっていな

い.最終的には心臓移植を考慮せざるを得ない例がある.

8-3)フォンタン型手術後

体静脈ないし右房を直接肺動脈に吻合する手術で,機

能的な単心室に行われる.右室がないので,中心静脈圧

が高く,心拍出量は少ない.この高い静脈圧が左室の前

負荷となる.うっ血性心不全は,心機能低下,房室弁逆

流,心房の著しい拡張,心房性頻脈,体肺側副血行路の

出現発達,などによる.急性心不全は静脈系血栓の肺動

脈塞栓を考える.

うっ血性心不全に対しては,通常のように利尿薬,血

管拡張薬を使用するが,前負荷依存性が強く循環予備力

が低いので注意を要する.心房性頻拍発作は心不全のみ

ならず突然死のリスクとなるので,アミオダロンを含む

積極的な薬物治療やカテーテル焼灼治療を行う.進行す

る心不全例は,TCPC 型への変換あるいは心臓移植を考

慮する.

9)不整脈群

9-1)頻拍性不整脈

乳児期の発作性上室性頻拍が心不全症状で発症するこ

とが多い.氷水に浸したタオルを,鼻根部を中心に顔面

にあてるか,アデノシンの急速静脈内投与が,診断と治

療を兼ねて第一選択である.再発は多く,難治性のもの

も多い.持続性上室性頻脈( inappropriate sinus

tachycardia を含む)では,いわゆる頻拍誘発性心筋症

(tachycardia induced cardiomyopathy)による心不全があ

る.薬剤の有効性は低く,カテーテル焼灼治療が有効な

例もある.

9-2)徐 脈

先天性完全房室ブロックは新生児期乳児期早期に心不

全を呈する例がある.ペースメーカー植え込み適応であ

る.その他,心臓術後の完全房室ブロックでは,突然死

のリスクとともに心不全増強因子でもあるため,積極的

なペースメーカー植え込みの適応となる.

10)胎児心不全

胎児エコーで胸水,腹水,心嚢液貯留,皮下浮腫など

で診断する.基礎病態に,不整脈と形態・機能異常があ

る.前者は,胎児エコーで心房収縮と心室収縮を同時に

記録することにより診断できる304).

不整脈のうち,持続性頻拍症は治療の可能生が高い.

母親へのジゴキシン投与(経胎盤治療)が多くの例で有

効である.β遮断薬,プロカインアミド,フレカナイド,

アミオダロンなどの有効例も報告されている305).

房室ブロックや洞機能不全による心不全は治療が困難

で,しばしば重症心奇形に合併して,胎児死亡に至る.

妊娠 32週頃に肺の成熟が確認されたら早期に分娩させ,

ペースメーカー植え込みを行うことを考慮する.母親の

抗 SSA 抗体陽性が先天性完全房室ブロックの原因で,

その場合妊娠中期に母親にステロイドを投与するが,有

効性は全く未定である.サルブタモールの母体投与で胎

児心拍数の増加を見たという報告もある306).

心奇形による胎児心不全は,重症の房室弁閉鎖不全に

よることが大多数で,治療法が無く,出生しても予後は

極めて悪い.

48

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

まとめ Rapid Access Guide(表 15)4-5

Page 49: Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS … for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 目次 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

49

慢性心不全治療ガイドライン

表15Rapid Access Guide:小児心不全の内科的治療

1.容量負荷群

左右短絡(

VSD

など)

未熟児動脈管開存

左心系弁逆流(

MR,

AR)

2.動脈管依存性心疾患群

左室流室路閉塞群(

HLH

S, C

oAo,大動

脈離断)

右室流室路閉塞群(

PAIV

S, P

S)

3.圧負荷群(

AS,

PS)

4.肺静脈閉塞群(

TAPV

R)

5.心不全を伴う

Eise

nmen

ger 症候群

6.低酸素群

大血管転位

7.心筋収縮能低下群

DC

M, C

HD

術後

急性心筋炎

8.不整脈群

頻脈性不整脈

徐脈性不整脈

9.冠状動脈異常群

左冠動脈起始異常

川崎病急性心筋梗塞

10.胎児心不全

持続性頻拍症

先天性完全房室ブロック

11.心疾患のない新生児の心不全

多血症,低血糖,低

Ca 血症

病     態

Cla

ssⅠ

Cla

ssⅡ

Cla

ssⅢ

フロセミド

インドメサシン静注,フロセミド

フロセミド,血管拡張薬

PGE1

PGE1

バルーン拡大術,

PGE1,フロセミド

フロセミド,亜硝酸薬

フロセミド

BAS,

PG

E1,利尿薬

血管拡張薬,変力作用薬,利尿薬

血管拡張薬,利尿薬,ペースメーカー

種々の抗不整脈薬,顔面冷水

ペースメーカー

変力作用薬,利尿薬

血栓溶解療法,カテーテル血行再建術

ジゴキシン母体投与

肺成熟後,早期出産させペースメーカー植込み

原因の除去

ジゴキシン,血管拡張薬

酸素投与

ジゴキシン

バルーン拡大術

バルーン拡大術

ジゴキシン

ジゴキシン,

PGE1

(増悪することもある)

ジゴキシン,瀉血,プロスタサイクリン持続静注

ジゴキシン

ジゴキシン,アムリノン,β遮断薬

ステロイド

変力作用薬,利尿薬,抗不整脈薬

β遮断薬,プロカインアミド,フレカナイド,

アミオダロン

サルブタモール

抗SS

-A 抗体陽性母親にステロイド投与

ジゴキシン

酸素投与

酸素投与

酸素投与

全身血管拡張薬

ジゴキシン

VSD

: ve

ntric

ular

sep

tal d

efec

t, M

R : m

itral

reg

urgi

tatio

n, A

R : a

ortic

reg

urgi

tatio

n, H

LHS

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e, C

oAo

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orta

, PA

IVS

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S : p

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S : a

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CM

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y, C

HD

: co

ngen

ital h

eart

dise

ase,

PG

E1 : プロスタグランジン

E1, B

AS

: bal

loon

atri

alse

ptos

tom

yアンジオテンシン変換酵素阻害薬,

PDEI

II,抗不整脈薬は保険適応であるが,すべて小児での安全性が確立されてないという注釈付き.

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非薬物療法としては,酸素療法から補助循環装置,心

臓移植まであるが,心不全患者の 1/3が突然死している

ことからも埋込型除細動器(ICD)などの適応がすすめ

られている(ICD については 2-3 不整脈の治療を参照の

こと).慢性心不全で薬物療法が無効な症例に対しては,

心臓移植がもっとも確実な治療手段であるが,心臓移植

は,善意による臓器提供に基づいているため,その施行

数には限界があり,また施行時期も不定である.このた

め,心臓移植へのブリッジあるいは代替手段を目指して,

種々の手段が行われている.また,本項で述べる治療手

段については,装置・機器の使用の可能性や治療手段の

経験度なども適応を考える際に考慮する必要がある.

1)酸素療法

心不全治療の効率を高めるためには,個々の患者にお

いて悪循環を形成している個別病態を明らかにし,これ

に対して特異的な治療手段を講ずる必要がある.夜間酸

素療法は睡眠時無呼吸症候群という個別病態を標的と

し,これに特異的かつ直接的に介入する点で,これまで

の心不全治療とは際だった特徴を持つ.

⁄)睡眠時無呼吸症候群の診断

睡眠時無呼吸症候群は,気流の振動が 10 秒以上停止

した状態を無呼吸,通常の 50 % 以下に低下し酸素飽和

度が 3 % 以上低下した場合を低呼吸と定義し,1時間あ

たりの無呼吸と低呼吸の合計回数(無呼吸低呼吸指数,

apnea hypopnea index:AHI)から診断する.AHI が 5 未

満なら正常,15 以上なら明らかに異常である.携帯用

パルスオキシメータを用いて,無呼吸や低呼吸による 4

%(あるいは 3 %)以上の脱酸素化が 1 時間に起こった

回数(酸素飽和度低下指数,oxygen desaturation index:

ODI)も有用である.睡眠時無呼吸は慢性心不全患者の

30~50 % に認められ,多くは(50~80 %)中枢型無呼

吸であるが閉塞型や混合型も含まれる307).

¤)睡眠時無呼吸症候群の病態

中枢型無呼吸による低酸素血症は中枢性二酸化炭素

(CO2)感受性を亢進させ,過換気を介して睡眠時無呼

吸を悪化させる.また,低酸素血症が交感神経を賦活し

これがCO2 感受性を亢進させる悪循環も形成されてい

る.CO2 化学感受性の亢進は夜間の中枢型無呼吸だけで

なく昼の労作時過換気の原因となる.さらに無呼吸によ

る睡眠の分断は睡眠不足を招き翌朝の倦怠感の原因とな

る.心不全患者において無呼吸低呼吸指数が 30(回/時

間)以上は心臓死の独立した危険因子であることが報告

されている.閉塞型睡眠時無呼吸では,低酸素血症が

IL-6 や CRP を増加させ内皮依存性血管拡張能を低下さ

せることから,本疾患と種々の心血管合併症との関連が

注目されている.

‹)夜間酸素療法

夜間酸素療法により吸入酸素濃度を上げ肺胞内酸素予

備力を増すことにより,中枢型睡眠時無呼吸による低酸

素血症を防止することができる.この結果,1)末梢組

織への酸素供給能を回復させ,2)交感神経活動を抑制

し,3)心室への負荷を軽減し,さらに4)中枢性 CO2

感受性の亢進を是正することにより,5)睡眠時無呼吸

を改善し,6)睡眠の質を高め,7)患者の quality of life

(QOL)を改善することが期待できる.本治療法は主と

して中枢型無呼吸を有する心不全患者に有効であり,閉

塞型無呼吸には効果がない.慢性心不全に対する夜間酸

素療法の関する臨床成績は未だ十分でない.これまでの

報告では酸素投与により,夜間の低酸素血症と AHI が

有意に改善する点が共通している.睡眠構造に対しては

途中覚醒の頻度が減少するが,深い睡眠ステージの改善

については必ずしも一致していない.神経体液性因子に

関する検討は少ないが,酸素療法により睡眠中の尿中ノ

ルエピネフリンが有意に減少するが,血漿ノルエピネフ

リン濃度や脳性利尿ペプチド濃度には変化が見られてい

ない308).酸素療法により運動耐容能や運動時の過換気が

改善するが,認知能力の改善については必ずしも一致し

た成績が得られていない.これらの成績は,いずれも観

察期間が短く症例数も少ないため確定的ではなく,今後

の検討が必要である.本邦において,中枢型睡眠時無呼

吸を有する慢性心不全患者に対して,夜間酸素療法を 3

ヶ月間行った成績がある309).この試験では,動脈血の脱

酸素化が 5(回/時間)以上,左室駆出分画が 45 % 以下

の心不全患者に対し,夜間睡眠中に酸素(3 L/分)が投

与された.その結果,対照群に比し酸素投与群では

AHI が有意に減少した.本試験では身体活動能指数で

評価した自覚症状が酸素療法により有意に改善した点が

注目される.現在,NYHAⅢ度以上の慢性心不全患者で,

睡眠中に Cheyne-Stokes 呼吸が認められ,無呼吸低呼吸

指数が 20 以上あることが睡眠ポリグラフィー上確認さ

れた症例に対して,在宅夜間酸素療法が適用されている.

50

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

非薬物療法55

治療アルゴリズム5-1

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慢性心不全における睡眠時無呼吸は,患者の QOL を

損ねる睡眠不足や活動時の息切れと直接関連し,心機能

とは独立して心不全を増悪させる個別病態の一つとして

注目されている.夜間酸素療法は,中枢性 CO2 化学反

射や交感神経活動の亢進を是正し,睡眠時無呼吸の頻度

を減少させ睡眠構造や自覚症状を改善する点で優れてい

る.本治療法は,中枢型睡眠時無呼吸を頻回に起こす心

不全患者にのみ奏功する極めて病態特異的な治療法の一

つと言える.

2)補助循環

⁄)適応患者選択,施行時期

慢性心不全における補助循環は,心臓移植が適応と考

えられる症例や,急速に心不全が増悪し,循環補助を行

うことにより状態の改善が期待できる症例が対象とな

る.なお,慢性心不全例に補助循環を適応する場合には,

患者および家族へのインフォームドコンセントおよび同

意を得ることが重要である.

大動脈内バルーンパンピング(IABP)は簡便な補助

手段だが,その補助能力は小さく,不整脈例では有効で

ない例もある.常に補助人工心臓への移行を考慮して管

理する.

経皮的心肺補助法(PCPS)は,急激に循環不全が進

行する症例において,補助人工心臓装着までのつなぎと

して,あるいは一時的補助により状態の改善を期待する

場合が適応となる.

補助人工心臓は,心臓移植待機中に心不全が悪化し,

最大限の内科的治療を行っても改善がみられなくなった

時点で施行する(表 16).血行動態的指標は,心係数≦

2.0 L/min/m2,収縮期血圧≦80 mmHg,左房ないし右房

圧≧20 mmHg で,重要臓器の機能障害が進行する場合

も適応を考慮する.不可逆性の腎・肝障害,敗血症,中

枢神経疾患,あるいは高度出血傾向がある場合は補助循

環の適応から除外される.

システムの選択は,体格の大きな患者(体表面積 1.5

m2以上)で,高度右心不全を伴わない場合は植込み型

左心補助人工心臓を考慮する.小さな体格の患者には体

外設置型を選択する.また,高度右心不全を伴い両心補

助を必要とする場合,体外設置型による両心補助を行う.

なお,NO ガスは薬物的右心補助として有用であり,両

心不全例において左心補助人工心臓と NO ガスの併用が

有効である場合が多い.また,高度の三尖弁逆流を伴う

症例においては,三尖弁形成術が有効である.

¤)施行時における管理上の問題点310)

適用後早期には,手術に基づく出血,心不全(特に右

心不全),臓器障害,感染に注意する.特に出血に対す

る大量輸血は肺血管抵抗上昇に関与し,右心不全を増強

させるため注意が必要である.出血傾向を伴う際には,

装着術時に aprotinin を考慮する.臓器障害については,

適用前の障害が問題であり,適用時期の適切な判断が重

要である.

長期施行の問題点として,感染症,血栓塞栓症,リハ

ビリテーションがある.感染予防には,カテーテルなど

を可能な限り早期に抜去し,送脱血管や駆動ラインなど

体壁貫通部を常に清潔に保持する.抜歯など外科的処置

を行う場合には,十分な予防的抗生剤投与を行う.血栓

塞栓症に対する抗凝固療法は各システムの項参照.全身

状態改善に伴い,歩行,自転車こぎなどリハビリテーシ

ョンを積極的に行い,ADL 向上を図る.

補助人工心臓の長期補助により,心機能の改善する心

筋症症例が報告されており,自己心機能を経時的に評価

し,離脱可能と判断されれば,離脱を試みる.

3)手術療法

難治性不整脈には,ペースメーカー,ICD,アブレー

ションを考慮する.

虚血性心疾患において,心機能低下を伴っている場合

には以下を考慮する.

冠動脈閉塞/狭窄による心筋虚血(+)で,残存心筋

(+)と考えられる症例

血行再建可能な血管(+):冠動脈バイパス術

血行再建可能な血管(-):TMLR

左室拡大(+):Dor 手術

拡張型心筋症で,心室拡大と僧帽弁逆流を伴っている

場合には以下を考慮する.

左室後壁に著明な菲薄化/壁運動低下を認める症例:左

室壁部分切除+僧帽弁置換/形成術

後壁の壁運動が良好で壁厚が維持されている症例:僧帽

弁形成術

1)EECP(Enhanced External Counterpulsation)311)

EECP は非侵襲的な補助循環装置で,患者の臀部~両

側下腿にマンシェット様のエアカフを巻き,心電図同期

にて拡張期に約 300 mmHg の空気圧を加え,拡張期圧

上昇と収縮期の心負荷軽減を得ることにより IABP とほ

51

慢性心不全治療ガイドライン

補助循環装置5-2

Page 52: Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS … for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 目次 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

ぼ同様の補助効果が得られる.心不全症例に対する効果

は十分には検討されていない.

2)IABP(Intra-aortic Balloon Pumping)88)

IABP の効果はカウンターパルセーションの原理に基

づき,圧補助としての補助循環作用を発揮する.急性あ

るいは慢性心不全患者において血行動態の安定化を得る

のに用いられるが,圧補助手段であり,補助効果は自己

心機能に依存しており,限界がある.また,不整脈発生

時には補助効果は減弱する.内科的治療に抵抗する心原

性ショック(カテコラミン使用下でも肺動脈楔入圧 18

mmHg 以上,収縮期血圧 90 mmHg 以下,心拍出係数 2.2

L/min/m2 以下)に適用が考慮される.禁忌として,高度

の大動脈弁逆流を有する患者,大動脈解離などがある.

バルーンの挿入法は外科的挿入法と経皮的挿入法があ

り,最近は主として経皮的挿入法が用いられる.合併症

として,特にバルーン挿入側の下肢の虚血に注意する.

その他,動脈損傷,神経障害,バルーンの損傷がある.

IABP からの離脱は,十分な心機能の回復を確認してバ

ルーンの補助回数を下げてゆき,血行動態に特に変化が

なければ抜去する.

3)ECUM(Extracorporeal Ultrafiltration Method)

血液濾過による除水は,肺水腫に陥った,重症の薬物

治療抵抗性のうっ血性心不全患者に用いられている.肺

水腫の軽減,最大限の薬物治療にても改善しない容量負

荷を改善しうるが,多くの患者においてその効果は一時

的なものである.

4)PCPS(Percutaneous Cardiopulmonary Support)312)

PCPS は簡易人工心肺システムとして開発された装置

で,経皮的カニュレーションと遠心ポンプおよび膜型人

工肺からなり,簡便に使用可能で呼吸補助効果もあり,

通常 1~2 週間の短期間の流量補助を目的に使用する.

ヘパリンコーティングシステムの普及により,出血傾向

のコントロールも容易になってきた.PCPS は大腿動静

脈に送・脱血管を挿入するが,大腿動脈からのカニュレ

ーションができない症例や両側の大腿静脈が閉塞してい

る症例には適応できない.呼吸補助を目的とした場合で

は,自己心の拍出が十分にある症例では冠動脈や頚動脈

に大腿動脈からの酸素化血液ではなく自己肺からの酸素

化が十分でない血液が流れることがある.このような場

合には腋窩動脈や鎖骨下動脈を送血部位として考慮す

る.17 Fr. の送血管,21 Fr. の脱血管を使用した平均的

流量は 2~3 L/min であるが,流量は送血管・脱血管の

サイズ,位置に規定される.高流量が必要な場合は太い

カニューレを用いるか,脱血管を両側の大腿静脈に2本

挿入する.ヘパリンを用いて ACT を 250~300秒に維持

するが,ヘパリンコーティング回路を用いる場合には,

ACT を 150~200秒に維持する.

5)体外設置型補助人工心臓313-316)

一時的使用を目的として開発された補助人工心臓

(ventricular assist system:VAS)で,我が国で開発され

た東洋紡製および日本ゼオン/アイシン精機製が施設限

定で保険適応となった.現在は東洋紡製が用いられる.

送・脱血管は左心補助では右側左房あるいは左室心尖お

よび上行大動脈に,また右心補助では右房および肺動脈

に装着し,他端を肋骨弓下から体外へ導き,腹壁上に設

置した血液ポンプに接続する.血液ポンプは駆動チュー

ブにより駆動装置につながれるため,VAS 装着患者の

活動は制限されるが,体外に設置した血液ポンプの固定

に留意すれば歩行や自転車こぎなどのリハビリも施行で

き,長期の施行が可能である.特に左室心尖脱血方式が

導入されてからは,補助期間が延長し,3 年以上の補助

例もみられる.抗凝固療法は,初期には外科的な出血の

コントロール後,ヘパリンで行い,経口摂取可能となっ

てからは,ワーファリン(目標 PT-INR:3-4)に抗血小

板薬を併用した抗凝固療法を行う.

また,近年保険採用された Abiomed 社製 BVS-5000は,

血液ポンプを体から離れて設置するタイプで,ベッド上

での管理が必要であり,2週間程度の補助に用いられる.

長期補助が必要な場合には東洋紡製などへの移行が必要

となる.

6)体内設置型補助人工心臓316-320)

長期(数カ月以上)の使用を想定して開発が進められ

たシステムで,ポンプを体内(腹腔内/腹壁下)に設置

する.現在 Thoratec 社製 Heart Mate LVAS(空気圧駆動

型,モーター駆動型)と WorldHeart 社製 Novacor LVAS

(電磁力駆動型)があり,ともに左心室心尖より血液を

脱血し,ポンプを介して上行大動脈へ送血する.また,

体重 70 kg 前後の患者を対象として開発されており十分

な補助流量(6-10 L/min)を得るためにポンプが大きい.

Thoratec 社製 HeartMate LVAS には,軽量小型の外部

駆動装置により駆動する空気駆動型(IP-LVAS)と,携

帯型であるモータ駆動型(VE-LVAS)がある.抗凝固

療法は,原則として抗血小板薬のみである.WorldHeart

社製 Novacor LVAS は,電磁力駆動型携帯型で,抗凝固

療法は,体外設置型と同様に行われる.HeartMate-VE

52

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

Page 53: Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS … for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 目次 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

は,治験が終了した段階である.Novacor は,2004 年 4

月より高度先進医療としての心臓移植を複数例実施して

いる医療機関で,日本臓器移植ネットワークに登録され

た拡張型心筋症あるいは拡張相肥大型心筋症による心臓

移植待機患者に対するブリッジユースが,健康保険で認

められるようになった.

また,完全植込み型 VAS として,Arrow 社製

LionHeart の臨床応用が,ヨーロッパおよび米国で開始

されている.

最近では,各種の無拍動流ポンプの臨床応用が開始さ

れている.これは,無拍動流ポンプでは,拍動流で必要

とされる人工弁が不要,耐久性が向上する可能性がある,

ポンプが小型で体格の小さな患者への応用も容易などに

よる.軸流ポンプとして,左室心尖部に血液ポンプを留

置する Jarvik 2000や,左室心尖脱血方式の Micromed 社

製 DeBakey VAD,ベルリンハート社製 Incor,Thoratec

社製 HeartMate-II などの臨床応用が開始され,1 年以上

の補助例もみられている.また,長期使用に優れている

とされる遠心ポンプとして,我が国で開発が進められた

テルモ社 DuraHeart が,ドイツで昨年から臨床応用が開

始されている.また,サンメディカル社製 EVAHEART

は,わが国での治験が開始されたところである.

7)全置換型人工心臓(total artificial heart:TAH)321,322)

TAH は,自然心臓を切除して埋め込まれる.1980 年

代後半欧米において,空気圧駆動ダイアフラム型の

Symbion 社製 Jarvik 7-70が多く用いられたが,血栓塞栓

症や移植術後の感染症が問題であり,1991 年に臨床応

用が中止された.最近 CardioWest 社で改良したタイプ

の臨床応用が米国において再開されている.また,最近

完全植込み型 TAH として,Abiomed 社製の AvioCor の

臨床応用が開始されている.我が国においては,現在臨

床使用できる TAH システムはない.

1)冠血行再建術

⁄)冠動脈バイパス術(Coronary artery bypass grafting:CABG)323-326)

冠動脈の狭窄あるいは閉塞による心筋虚血と左室機能

不全が同時に存在する場合には血行再建術が積極的に考

慮されるべきである.一般に左室駆出率(以下

LVEF)≧40 % の症例では,冠動脈バイパス術(CABG)に

より心機能は改善する.しかし LVEF<40 % の低左室

機能例では治療を内科的に行うか外科的に行うか,特に

虚血性心筋症と呼ばれる LVEF<20 % 例に対し CABG

か心移植か,治療方針は一定していない.心筋虚血によ

る低左室機能例(LVEF<40 %)では,内科的治療より

も外科的に冠血行を再建した方が予後は良好である.虚

血部位が viable myocardium である場合,すなわち心筋

の収縮能が myocardial stunning あるいは hibernation によ

り低下している場合には,冠血行再建により心機能は改

善し得る.したがって術前に負荷心筋シンチグラム,

Positron Emission Tomography,ドブタミン負荷心エコー

法等で心筋の viability の評価を行うことが重要である.

一方,心筋の viability が証明されない場合でも狭心症が

ある例では心機能の改善が期待できる.CABG は一般

に人工心肺を用い心停止下に行われてきたが,人工心肺

による侵襲,大動脈遮断および心筋虚血を回避するため,

近年人工心肺を用いて心拍動下に,あるいは人工心肺を

全く用いずに血行再建する Off-pump CABG が積極的に

行われている.多くの症例が心移植の適応となる虚血性

心筋症に対する CABG の効果は明らかでない.しかし

狭心痛を伴う例では,たとえ LVEF<20 % でも心機能

が改善する可能性がある.心臓移植は正常な心機能を回

復できるという利点があるが,CABG の術後 5 年生存

率は 60~70 % であり両者に差はない.

¤)心筋内レーザー血行再建術

(Transmyocardial laser revascularization, TMR)327-330)

1999 年に,相次いで TMR と内科的治療を比較する

prospective randomized study の結果が発表され,TMR の

臨床的評価は一応の結論を見た.種々の臨床試験の結果

から,TMR の適応は,以下のようなコンセンサスが得

られており,(1)CCS3 度以上の狭心症状を有する.(2)

冠動脈病変が CABG や PCI の行えない,びまん性の病変

である.(3)対象となる領域の心筋の viability が証明され

ている.(4)左室機能が保たれている(LVEF>30 % )の

4 項目である.TMR と内科的治療を比較する prospective

randomized study の結果にほぼ共通することは,TMR に

より,狭心症状の改善(CCS クラスにして,2 クラス以

上の改善が 25~76 %),Quality of life の改善,狭心発作

による入院回数の減少,運動耐用能の改善が見られたこ

とである.しかし心筋シンチなどによる myocardial

perfusion の評価および心エコーなどで評価した左室機能

に関しては改善がみられていない.1998 年に米国 FDA

は,CABG や PCI の行えない狭心症の症例に対する治療

として TMR を認可し,保険適用も得られた.しかし,

先に述べた臨床試験の結果から,TMR は狭心症に対す

る治療であるという点を再認識する必要がある.

TMR は,炭酸ガスレーザーまたはホルミウム:YAG

53

慢性心不全治療ガイドライン

手術療法5-3

Page 54: Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS … for Treatment of Chronic Heart Failure (JCS 2005) 目次 外部評価委員 加 藤 裕 久 久留米大学循環器病研究所

レーザーを用いて,単独で行われる場合と,CABG な

どの開心術に adjunct therapy として行われる場合とがあ

る.ホルミウム:YAG レーザーは,カテーテルを用い

てエネルギーの伝達が可能であるため,経皮的にレーザ

ーチャンネルを作製する試みがなされ, P M R

(percutaneous myocardial revascularization)と呼ばれる.

臨床試験において,内科的治療群と比べて有用性が証明

されなかったことなどから,米国 FDA は PMR を狭心

症の治療法として認可していない.

2)左室容積縮小術

⁄)Dor 手術331)

主として陳旧性心筋梗塞による広範な hypokinesis,

akinesis,dyskinesis に陥った左室壁部分が存在する高度

の虚血性心疾患や虚血性心筋症が対象となる.Dor 手術

は,パッチを用いて心室中隔を exclusion し左室縮小形

成するものである.必要に応じて冠動脈バイパス手術を

同時施行し可及的に viability のある虚血心筋の血行再建

を行う.更に,高度の僧帽弁逆流(MR)を伴っている

症例では僧帽弁形成術を同時に行う.

適応は,NYHAⅢ度-Ⅳ度の症例であり,NYHAⅡ度

でも心室頻拍を合併している場合は適応となる.心胸比

50 % 以上,左室拡張末期径 60 mm 以上,左室拡張末期

容量係数 180 ml/m2 以上,左室拡張末期圧 15 mmHg 以

上,心係数 2/5 L/min/m2 以下,限局した左室壁運動異

常症例(左室の 40 % 以上),右心機能がコントロール

可能なことなどが適応条件となる.

Dor 手術は冠動脈バイパスや僧帽弁形成術と同時施行

されることがほとんどであり,それら合併術式の効果と

左室容量縮小の効果を分離して評価することは困難であ

るが,冠動脈バイパス手術単独施行症例よりは手術成績

並びに遠隔成績は良好であるとする報告が多い.

¤)左室部分切除術(Partial left ventriculectomy)332-335)

末期的心不全に対する外科的治療法として,ブラジル

の Batista が始めたもので,拡張した左室心筋の一部を

切除し,拡張した心臓のサイズを小さくすることにより,

心機能の回復を図る手術である.

適応は,著明な左室拡張(左室拡張末期径;LVDd≧

70 mm)と僧帽弁逆流(Ⅲ/Ⅳ度以上)を伴う拡張型心

筋症で,左室後壁に著明な菲薄化/壁運動低下を認める

症例.僧帽弁に対しては,僧帽弁置換術あるいは形成術

を行う.手術時期であるが,緊急手術例の成績は不良で

あり,カテコラミン使用症例においても循環動態が安定

している段階での手術施行が成績向上に重要である.

手術は,人工心肺下,僧帽弁形成術を行う場合には,

まず右側左房を切開し,リングを用いて弁輪形成術を行

う.その後,左房閉鎖し,左室心尖部に切開を加え,乳

頭筋を損傷しないように注意しながら,両側乳頭筋の間

を心尖側から tear drop 型に左室壁を切除する.残余心

筋壁をフェルトストリップを用いて縫合する.僧帽弁置

換が必要な場合には,左室側から行う.術直後は,血管

拡張薬を用い,血圧を低値に維持する.

‹)僧帽弁形成術336)

適応は,著明な左室拡張(左室拡張末期径;LVDd≧

70 mm)と僧帽弁逆流(Ⅲ/Ⅳ度以上)を伴う拡張型心

筋症で,後壁の壁運動が良好で壁厚が維持されている症

例で,右側左房からリングを用いて弁形成を行う.

なお,著明な心拡大を伴わなくとも,著明な僧帽弁逆

流を伴う症例では,僧帽弁形成術を考慮する.

›)新しい左室形成術337)

さらに最近では,前壁中隔形成術(septal-anterior

ventricular exclusion:SAVE 手術)や,overlapping 法と

いった,新しい左室形成術が考案されており,臨床的評

価が行われている.

3)心臓移植61,338-340)

対象となる基礎疾患は,拡張型および拡張相肥大型心

筋症,虚血性心筋疾患,先天性心疾患などが含まれる.

適応基準は,心臓移植以外に有効な治療手段がなく,患

者・家族が移植治療を理解し,免疫抑制療法など移植後

一生涯治療を継続することが出来ることである(表 16).

さらに適応条件として,長期間あるいはくり返し入院治

療を必要とする,β遮断薬およびアンジオテンシン変換

酵素阻害薬を含む従来の治療法では NYHAⅢ-Ⅳ度から

改善しない心不全あるいは現存する治療法に無効な致死

的重症不整脈を有する症例で,年齢は 60 歳以下が望ま

しい.絶対的除外条件は,重症不可逆性臓器障害,活動

性感染,重症肺高血圧症,薬物依存症,悪性腫瘍および

HIV 抗体陽性である.また相対的除外条件は,腎・肝

機能障害,活動性消化性潰瘍,インスリン依存性糖尿病,

精神神経症,肺梗塞症の既往あるいは肺血管閉塞病変お

よび膠原病などの全身性疾患である.特に,臓器障害や

感染症は,術後管理を困難とするため,注意が必要であ

る.また,高度肺高血圧のある症例では術後に移植心の

右心不全が遷延することがあり,NO,PDEⅢ阻害剤,

RVAD などによる管理が必要となることがある.非可逆

性の肺高血圧に対しては,心肺移植を考慮すべきである.

54

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

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心臓移植待機中においても,内科的治療を続け,6 ヶ

月ごとに心臓移植の適応について再検討を行う.また,

待機中に心不全が進行する場合には,他臓器機能不全を

引き起こす前に,補助人工心臓によるブリッジを行う必

要がある.

4)心筋再生療法の現状と展望341,342)

心不全に対する治療法としては,内科的治療および左

室形成術などの外科的治療が不能の場合,心臓移植や補

助人工心臓などの置換型治療がこれまでの最終選択肢で

あった.これに対して,最近,心筋再生型の治療法が登

場し注目されている.心筋再生治療の細胞源としては,

心筋細胞,筋芽細胞,embryonic stem cell(ES 細胞),

骨髄幹細胞などが考えられている.また,コロニー刺激

因子(G-CFS,M-CFS など),エリスロポエチンなどの

サイトカインを用いた心臓再生の試みもあり,いまだ確

立された治療法ではないが,今後の基礎的臨床的発展が

期待される領域である.

a)補助循環および手術療法

i)補助循環

EECP ClassⅡ

IABP ClassⅡ

ECUM(血液浄化) ClassⅡ

PCPS(ECMO) ClassⅡ

VAS(体外設置型) ClassⅠ

VAS(体内設置型) ClassⅠ

TAH ClassⅢ

i)手術療法

冠血行再建術

冠動脈バイパス術 ClassⅡ

TMLR ClassⅡ

左室リモデリング手術

Dor 手術 ClassⅡ

Batista 手術 ClassⅡ

55

慢性心不全治療ガイドライン

非薬物療法の適用基準

表 16 慢性難治性重症心不全患者に対する補助人工心臓の適応基準

1.左心補助人工心臓内科的治療および/あるいは IABP に反応しない心不全

1)血行動態PCWP≧20 mmHgおよび収縮期血圧≦80 mmHg あるいは心係数≦2.0 L/min/m2

2)副   徴1 時間排尿≦0.5 mL/kgSvO2≦60%臨床経過急激な血行動態の変化進行する腎機能障害*進行する肝機能障害**

2.右心補助人工心臓左心補助人工心臓駆動下において内科的治療および NO(一酸化窒素)

吸入に反応しない右心不全(中等度以上の三尖弁逆流を伴う場合には三尖弁形成術を併用)

CVP<18 mmHg では,収縮期血圧≦80 mmHg あるいは心係数≦2.0 L/min/m2

3.適用除外1)回復不能な腎機能障害2)回復不能な肝機能障害3)呼吸不全(循環不全に伴うものは除く)4)高度な血液障害(出血傾向など)5)重症感染症

*:進行する腎機能障害の指標BUN≧40 mg/dL および/あるいはクレアチニン≧2mg/dL1時間排尿≦0.5 mL/kg(利尿剤の使用下)

**:進行する肝機能障害の指標総ビリルビン≧2.0 mg/dL および/あるいは AST≧200 U/L

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僧帽弁形成手術 ClassⅡ

b)心臓移植 ClassⅠ

56

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)

注・本項での Class 分けは,

ClassⅠ:その治療手段を選択すれば,治療効果

を期待できるもの.

ClassⅡ:一定の治療効果が期待できるが一時的

なもの,あるいは治療効果が検討中のも

の.

ClassⅢ:現在我が国で施行できないもの,ある

いは治療効果が不明なもの.

表 17 心臓移植

1.適応となる疾患心臓移植の適応となる疾患は従来の治療法では救命ないし延命の期待がもてない以下の重症心疾患とする.

1) 拡張型心筋症,および拡張相の肥大型心筋症2) 虚血性心筋疾患3) その他(日本循環器学会および日本小児循環器学会の心臓移植適応検討会で承認する心臓疾患)

2.適応条件1) 不治の末期的状態にあり,以下のいずれかの条件を満たす場合

a) 長期間またはくり返し入院治療を必要とする心不全b) β遮断薬及び ACE 阻害薬を含む従来の治療法では NYHA Ⅲ度ないしⅣ度から改善しない心不全c) 現存するいかなる治療法でも無効な致死的重症不整脈を有する症例

2) 年齢は 60 歳未満が望ましい3) 本人および家族の心臓移植に対する十分な理解と協力が得られること

3.除外条件A) 絶対的除外条件

1) 肝臓,腎臓の不可逆的機能障害2) 活動性感染症(サイトメガロウイルス感染症を含む)3) 肺高血圧症(肺血管抵抗が血管拡張薬を使用しても 6 wood 単位以上)4) 薬物依存症(アルコール性心筋疾患を含む)5) 悪性腫瘍6) HIV(Human Immunodefciency Virus)抗体陽性

B) 相対的除外条件1) 腎機能障害,肝機能障害2) 活動性消化性潰瘍3) インスリン依存性糖尿病4) 精神神経症(自分の病気,病態に対する不安を取り除く努力をしても,何ら改善がみられない場合に除外条件

となることがある)5) 肺梗塞症の既往,肺血管閉塞病変6) 膠原病などの全身性疾患

4.適応の決定当面は,各施設内検討会および日本循環器学会心臓移植適応検討会の 2 段階審査を経て公式に適応を決定する.心臓移植は適応決定後,本人および家族のインフォームドコンセントを経て,移植患者待機リストに載った者を対象とする.上記適応疾患および適応条件は,内科的および外科的治療の進歩によって改訂されるものとする.医学的緊急性については,合併する臓器障害を十分に考慮する.

レシピエント適応基準[日本循環器学会・心臓移植委員会のホームページ(http://www.u-net.ne.jp/jcsct/jcsct05.html)]より転載.

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慢性心不全治療ガイドライン

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