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GxP QA コンサルティング GxP とは? GxP というのは、医薬品の開発段階から、工場管理、副作用情報管理までの、薬事規制をすべて、 Good *** Practice という言葉で纏めているため、このような呼び方になっています。薬事規制というけど、工場管理、ISO 等に詳し い人には、品質管理の規制といったほうが分かりやすい人もいるでしょう。 GxP では、主に次のようなものがあります。 GLP Good Laboratory Practice この代表が「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」 GCP Good Clinical Practice 「医薬品の臨床試験の実施の基準」 GMP Good Manufacturing Practice 「医薬品の製造管理、品質管理の基準」 GVP Good Vigilance Practice 「医薬品の製造販売後安全管理基準」 GxP は、他にもありますが、上記がよく知られています。これらの薬事規制の中で登場する役割として、共通する のが QA(Quality Assurance)という役割で、別名 Auditor とか、自己点検担当者とかいう言葉になります。 これらの基準に沿って、手順書(procedural document)を揃え、その通りに業務が行われているかどうかを監視す る仕事、もしくは監査する仕事、これが GxP QA という仕事です。 GxP QA コンサルティング 薬事法(1) 医薬品の承認申請資料の作成に関して、 薬事法施工規則第 43 条に承認申請資料の信頼性の基準というものがあります。これは、 GxP QA という業務のベ ースになる法律です。医薬品の承認申請に関すること、副作用情報に対する取り扱いについては、ICH (International Conference on Harmonization)という国際会議で、統一化が進んでいるところですが、日本国内 では、この信頼性の基準をベースに、さまざまな法的対応がとられています。 医薬品の承認申請資料については、CTD(Common Technical Document)として、国際的にもハーモナイズが進 んでおり、ここで、下記のように構成が示されています。 このうち、QA(Quality Assurance 品質保証)が求められているのは第 4 部の非臨床試験のところと、第 5 部の臨 床試験のパート。他にも社内的な対応で QA を設定しているところもありますが、基本は、この2つのモジュール で、QA が求められています。

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Page 1: GxP QAコンサルティングE3...GxP QAコンサルティング GxPとは? GxPというのは、医薬品の開発段階から、工場管理、副作用情報管理までの、薬規制をすべて、Good

GxP QAコンサルティング

GxPとは?

GxPというのは、医薬品の開発段階から、工場管理、副作用情報管理までの、薬事規制をすべて、Good *** Practice

という言葉で纏めているため、このような呼び方になっています。薬事規制というけど、工場管理、ISO等に詳し

い人には、品質管理の規制といったほうが分かりやすい人もいるでしょう。

GxPでは、主に次のようなものがあります。

GLP Good Laboratory Practice

この代表が「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」

GCP Good Clinical Practice

「医薬品の臨床試験の実施の基準」

GMP Good Manufacturing Practice

「医薬品の製造管理、品質管理の基準」

GVP Good Vigilance Practice

「医薬品の製造販売後安全管理基準」

GxPは、他にもありますが、上記がよく知られています。これらの薬事規制の中で登場する役割として、共通する

のが QA(Quality Assurance)という役割で、別名 Auditorとか、自己点検担当者とかいう言葉になります。

これらの基準に沿って、手順書(procedural document)を揃え、その通りに業務が行われているかどうかを監視す

る仕事、もしくは監査する仕事、これが GxP QA という仕事です。

GxP QA コンサルティング 薬事法(1)

医薬品の承認申請資料の作成に関して、

薬事法施工規則第 43条に”承認申請資料の信頼性の基準”というものがあります。これは、GxP QAという業務のベ

ースになる法律です。医薬品の承認申請に関すること、副作用情報に対する取り扱いについては、ICH

(International Conference on Harmonization)という国際会議で、統一化が進んでいるところですが、日本国内

では、この信頼性の基準をベースに、さまざまな法的対応がとられています。

医薬品の承認申請資料については、CTD(Common Technical Document)として、国際的にもハーモナイズが進

んでおり、ここで、下記のように構成が示されています。

このうち、QA(Quality Assurance 品質保証)が求められているのは第 4部の非臨床試験のところと、第 5部の臨

床試験のパート。他にも社内的な対応で QAを設定しているところもありますが、基本は、この2つのモジュール

で、QAが求められています。

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第1部(モジュール1) 申請書等行政情報及び添付文書に関する情報

この部(モジュール)には、例えば、当該地域における申請書又は添付文書(案)といった各地域に特異的な文書

が含まれる。この部(モジュール)の内容及び様式については、当該規制当局が定めることができる。

第2部(モジュール2) CTDの概要(サマリー)

第2部(モジュール2)は、薬理学的分類、作用機序(メカニズム)及び申請する効能又は効果等の当該医薬品の全般

的な概略から始めること。原則として、この緒言は 1ページ以内にまとめること。ン

第2部(モジュール2)は、品質に関する概括資料、非臨床及び臨床に関する概括評価で構成すること。それに引

き続き、非臨床試験に関する概要文及び概要表、並びに臨床概要を提出すること。

これら概要の個々の構成については、CTD-品質に関する文書の作成要領に関するガイドライン(M4Q)、CTD-

非臨床に関する文書の作成要領に関するガイドライン(M4S)、及び CTD-臨床に関する文書の作成要領に関する

ガイドライン(M4E)のそれぞれのガイドライン中に規定するものである。

第3部(モジュール3) 品質に関する文書

品質に関する資料を、CTD-品質に関する文書の作成要領に関するガイドライン(M4Q)に記載された様式で添付

すること。

第4部(モジュール4) 非臨床試験報告書

非臨床試験報告書を、CTD-非臨床に関する文書の作成要領に関するガイドライン(M4S)に記載された順序で添

付すること。

第5部(モジュール5) 臨床試験報告書

臨床試験報告書及び関連資料を、CTD-臨床に関する文書の作成要領に関するガイドライン(M4E)に記載された

順序で添付すること。

具体的には、次の3つのことを順守するよう、この法律では求めています。

第 1号 正確性

当該資料は、これを作成することを目的として行われた調査、または試験において得られた結果に基づき正確に作

成されたものであること。(第 1号)

第 2号 網羅性、完全性

前号の調査または試験において、申請に係る医薬品または医療機器についてその申請に係る品質、有好性または安

全性を有することを疑わせる調査結果、試験成績等が得られた場合は、当該調査結果、試験成績等についても検討

及び評価が行われ、その結果は当該資料に記録されていること。(第 2号)

第 3号 保存

当該資料の根拠となった 資料は、法第 14条の規定による承認を与えるまたは与えない旨の処分の日まで保存され

ていること。ただし、資料の性質上その保存が著しく困難であると認められるものにあっては、この限りではない。

(第 3号)

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また、この中で、特に具体的に、承認申請資料の品質を求めている部分が、非臨床試験の安全性試験(毒性試験等)

であり、臨床試験です。

この 2つについては、別に、それぞれ省令を定め、品質管理の徹底を促しています。

GLP基準

医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施に関する省令(平成 9年厚生省令第 21号)

GCP基準

医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成 9年厚生省令第 28号)

この 2つの省令で出てきている、信頼性保証部門(GLP)、監査部門(GCP)が、当社 P.A.C.の QAに当たる部分

になります。

GxP QA コンサルティングという仕事 薬事法(2)

CTDの施行以来、使わなくなった申請資料の項目の分類ですが、イ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・ト というものがあり

ます。

このイ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・トは、もともと薬事法施工規則の条文の番号によるものだと思われますが、内容的

には下記のようなもので、これが、当時(CTD前)の医薬品の承認申請資料の章建てのようなものになります。

当時も承認申請資料の信頼性の基準はあり、

①確実性、 ②網羅性、完全性、③保存の原則はありましたが、特に②の完全性の部分については、薬理を中心に

あまり守られていなかったようです。

これが、一昔の医薬品の承認申請資料の章建てになりますが、内容が試験の種類毎で、サマリーが細かく分かれて

いないので日本人の現場でのやるべき仕事を考えるとき、分かりやすい構成になっています。

CTDで言うと、

ロ、ハ、:モジュール3の品質

ニ、ホ、ヘ、:非臨床試験

ト: 臨床試験

になりますが、前日の書き方だと、への「急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性、催奇形性その他の毒性に関する資料」、

いわゆる”毒性試験データ”と「臨床試験」には、信頼性保証、という保証が求められています。

人の実験(臨床試験)では、”信頼性保証”ではなく、”監査”という言葉を使っています。

また、GMPではあくまでも信頼性というより品質保証(100%)を求めてきます・

一方、へとトでは、P.A.Cで担当する業務”監査部門”や、”信頼性保証部門”の仕事についてある程度プロセスを監視

するようになっています。しかし 100%保証ではなく、GMPで元求めるところの品質保証とは少しニュアンスも異

なっているような気がします。

以下、条文を示します。

イ 起源又は発見の経緯及び外国における使用状況等に関する資料、

ロ 製造方法並びに規格及び試験方法等に関する資料、

Page 4: GxP QAコンサルティングE3...GxP QAコンサルティング GxPとは? GxPというのは、医薬品の開発段階から、工場管理、副作用情報管理までの、薬規制をすべて、Good

ハ 安定性に関する資料、

ニ 薬理作用に関する資料、

ホ 吸収、分布、代謝、排泄に関する資料、

へ 急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性、催奇形性その他の毒性に関する資料、

ト 臨床試験の成績に関する資料、

下記のような対応で各分野とも別れてしまいますが、監査ニーズに関しては、安全性、臨床分野だけでなくこの領

域すべてに拡がってきていることを感じています。

3.第3部(モジュール3):品質に関する文書(薬事法施行規則(昭和36年厚生省令第1号。以下「規則」と

いう。)第40条第1項ロ及びハに相当する。)

(1)第3部(モジュール3)目次

(2)データ又は報告書

(3)参考文献

4.第4部(モジュール4):非臨床試験報告書(規則第40条第1項ニ、ホ及びヘの一部に相当する。)

(1)第4部(モジュール4)目次

(2)試験報告書

(3)参考文献

5.第5部(モジュール5):臨床試験報告書(規則第40条第1項への一部及びトに相当する。)

(1)第5部(モジュール5)目次

(2)全臨床試験一覧表

(3)臨床試験報告書

(4)参考文献

詳しくは、こちらから確認を⇒http://www.pmda.go.jp/ich/m/m4_ctd_sankou_09_7_7.pdf

GxP QAコンサルティングという仕事 薬事法(3) 医薬品のライフサイクル

医薬品のライフサイクルとは?

人が生まれ、幼稚園、小中高と学校で勉強し、大学に進学し、社会に出る、そして社会のルールにもまれ、最後は

人知れず姿を消していくことになります。これが、ライフサイクルであり、”人”を”薬”に置き換えて、考えてみるこ

とを、医薬品のライフサイクルとして説明します。

GxP QAの仕事の中で、CSV(コンピュータ システム バリデーション)というエリアがありますが、ここでも

ライフサイクルという概念はとても大事です。

上記で説明した医薬品の承認申請資料の作成ステップについても、このライフサイクルに充てて考えることができ

ます。

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医薬品が生まれて世にでるまでの間を、医薬品として習得していかなければならない機能・能力を、データという

根拠で説明していくステップとなります。

簡単に、承認申請資料の中身を見ていくと、次のような引用があります。

イ 起源又は発見の経緯及び外国における使用状況等に関する資料、

ロ 製造方法並びに規格及び試験方法等に関する資料、

ハ 安定性に関する資料、

ニ 薬理作用に関する資料、

ホ 吸収、分布、代謝、排泄に関する資料、

へ 急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性、催奇形性その他の毒性に関する資料、

ト 臨床試験の成績に関する資料、

これが、まさに医薬品のライフサイクルの中で、世にでるまでの学校成績を示す段階の説明です。

実際にこの医薬品を育てた親(工場)の評価を GMPという形で行い、社会にでてから初めてわかってくる副作用の

情報(社会にもまれ)などに対する薬事規制(GVP/GPSP)を加え、医薬品の一生にかかわる GxP規制が出来上が

っています。

このイトハニホヘトをもっとざっくりと、まとめると、次のようになります。

1. 医薬品の発生起源があり、

2. 医薬品の暫定規格・安定性等を確認しながら

3. 非臨床試験(主に動物実験で、薬理試験、薬物動態試験、毒性試験)

4. 臨床試験(人でも実験)

5. 製造販売後(医薬品の出荷管理・工場管理、副作用情報管理)

この中で、具体的な GxP規制が効いているのは、3.の非臨床試験の中の毒性試験、薬理試験の中の安全性薬理に関

する部分に”GLP(Good Laboratory Practice)”が関わり、4の臨床試験の部分に GCP(Good Laboratory Practice)

そして、5.の製造販売後のところで、医薬品工場・会社に対して、GMP(Good Manufacturing Practice)、GQP

(Good Quality Practice)、また、会社の副作用管理機能に対し、GVP(Good Vigilance Practice)、GPSP(Good

Post marketing Study Practice)などの規制がかかっています。

臨床試験では、治験薬製造の部分に対しても GMPと同様の規制が”治験薬 GMP”という形で、かかっています。

それぞれの日本語の正式な名称は下記の通り:

GLP:医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施に関する基準(省令)

GCP:医薬品の臨床試験の実施に関する基準(省令)治験薬 GMP:治験薬の製造管理,品質管理等に関する基準

GMP:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理に関する基準(省令)

GQP:医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質管理の基準(省令)

GVP:医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準(省令)

GPSP:医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準(省令)

これらは言いかえると、医薬品の開発段階の”品質管理”の基準であり、全て信頼性の基準(薬事法施工規則第 43条)

で求めている、正確性と完全性・網羅性、保存の要件を含めて、申請者に対して、保証および根拠(Evidence)に

基づいた証明を求めています。

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この中で重要な役割を果たすのが QA(Quality Assurance)という役割であり、P.A.Cの業務 GxP QA の”QA”で

す。

具体的な仕事としては、例えば、作成される承認申請資料の試験データが、「正確で、うそのない、倫理的にも問

題ない方法や根拠データでできているかどうか」を第 3者的な立場で検証する役割。

仕事の行為としては、監査、自己点検という言葉で表されますが、上記を検証し、検証結果を報告するのが、QAの

役割であり、各医薬品規制で、QA機能の内容(手順)、結果(検証結果)についても報告が義務付けられています。

この”QA”という言葉の意味をたどっていくといくつも考え方があり、深い意味があったり、期待が込められていま

す。

GxP QA コンサルティングという仕事 監査と自己点検

監査、自己点検、信頼性保証とは?

別の言葉では、Auditor という仕事になります。

日本語にすると”監査実施者”、”監査担当者”ということになるのですが、前回までで説明した、各薬事規制のなかで、

それぞれ呼び方が違っています。 例えば、GLPでは、「信頼性保証」ということばが使われており、これを担当

する部門の責任者を信頼性保証責任者、実施者を信頼性保証担当者などと呼んでいます。

英語で説明すると、信頼性保証は、Reliability Assuranceという言葉になるのかもしれませんが、担当者について

は GLP Auditorもしくは Quality Assurance (QA)と呼ばれています。

臨床試験では、同様の信頼性保証という仕事にハなるのですが、”監査”という言葉が使われており、部門に対しては

監査部門、その役職が、監査責任者、監査担当者と言われています。

また、製造(GMP)および製造販売後(GQP、GVP、GPSP)の規制では、自己点検という言葉が使われており、

それぞれ自己点検部門、その役職を自己点検責任者、自己点検担当者と呼んでいます。

しかし、これらの信頼性保証担当者、監査担当者、自己点検担当者はいずれも、英語で説明しようとすると Auditor

となります。

GMPでは QAというと、少し意味が違ってくるので、GMPにおいては、QAと Auditorを使い分ける必要がありま

す。

しかし、P.A.C.の仕事はあくまでも上記の担当者の業務の代行ということになるので、Auditor ということばで説

明できます。

もともと、これらの薬事規制の中では、GxPという薬事規制そのものが、品質管理の基準であり、その品質管理の

基準にそって、医薬品の開発研究、製造管理・品質管理、安全管理が行われたかどうかを、実施した当事者が保証

しなさい、という意味で、品質保証(Quality Assurance:QA)という役割が設定されています。

ここで言う”保証”は、行ったことや行った実験に対し、間違いやうそがないことについて 100%責任を持ちなさい

と言うことなのですが、各規制の対象となる試験(動物試験や臨床試験)では、その規模やかかわっている人の違

いなどにより、すべてを保証することができません。

と言うことで、「信頼性を保証しなさい」≒「うそをついていないことを保証しなさい」というニュアンスに変わ

っています。

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それでも、GLPの場合、実施する試験そのものが、臨床試験と比較すると小規模なものなので、比較的、”保証”と

いう言葉が使いやすく”信頼性保証”という言葉が使用されています。

一方、臨床試験(GCP)になると、実験そのものが、製薬会社だけでできるものではなく、医療機関や医師、試験

検査機関等、さまざまな組織がその試験の中に組み込まれ、試験の実施方法も、治験薬管理、モニタリング、デー

タマネージメント、統計解析、メディカルライティングなど、複雑になっています。

また、PhaseⅡ以降の臨床試験になると、ほとんどが多施設共同試験となり、複数の実施医療機関で試験が実施さ

れることになります。

こうなると、監査して試験全体の信頼性、品質を保証しなさい、という規制はひきづらく、また、特に医療機関の

先生方に、細かい品質管理指導を行い難い状況もあり、保証はできないけれど監査してその実施状況だけは、確認

してください、と言うことになっています。こういう状況なので、臨床試験では、”保証”ということばは使用されて

いません。

GCPという規制がひかれるとき、最も参考にされたのが、ISOというヨーロッパの品質管理基準です。この中で監

査という言葉が、業務プロセスを監視する方法として用いられており、これが GCPでも採用されたようです。

(この”監査”という言葉ですが、もともとこの言葉の語源であるラテン語では、単に、”人のはなしを聞く”という意

味のようですので、私たちが感じる”監査”という言葉の重さからは、少し軽い感じでもともと使われていたようです。)

さて、GMPや GVPなどでつかわれる自己点検についてですが、内容は Auditという仕事なのに、なぜか自己点検

ということばが使われています。

なぜか?これは、製薬会社の状況(医薬品産業の状況)を映しているといってもよいように思います。

米国においては、大企業とベンチャー企業およびゾロメーカー等の小規模企業の2極化が進んでおり、小規模のメ

ーカーは一定の規模になってくると大企業のM&Aの対象となり、消滅していきます。(薬は残りますが)

一方、欧州および日本では、昔ながらの小規模な製薬会社が多く存在し、家内制的に医薬品の製造・販売が行われ

ているところも少なくありませんでした。

そこで、GMPという製造管理・品質管理の概念が導入されるということになるのですが、小規模の企業の場合、社

内のスタッフ数にも制限がありますし、監査部門やら他の薬事規制上必要な部門を社内に設置し、教育等実施して

いくことに対し、かなり難しい状況がありました。なので、第三者的な対応を求める”監査”部門という組織を要求せ

ず、あらかじめ決められたものが自己点検(Audit)をするよう求める規制となりました。

しかし、GMPの場合、製造方法間違った医薬品、または欠陥のある薬を世に出すと、患者へ大きな影響を与えるこ

とになり、薬によっては生命の危機にも直面することになります。

ですので、会社として、責任をもってください、ということで、Auditorという役割とは別に、QA(Quality Assurance)

という役割を設定し、全体の品質、医薬品の品質を保証してください、という薬事規制がひかれています。

製造販売後の安全管理の基準で使用されている自己点検も、状況的には GMPと同様で、会社の体力があまりない製

薬会社に配慮した結果のような形になっています。

しかし、製造販売後の安全管理については、最近欧州発で、新たな規制の体制が普及しつつあり、今後、EMAの

GVP規制を中心に、規制の世界標準作成(Harmonization)は進んでいくでしょう。

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信頼性保証、監査、自己点検、いずれの言葉も、英語では、Auditorとして説明できるもので、いずれも”第三者的

な対応”、”改善提案”を求める業務となっています。

薬事規制や企業でのこれらの実施状況をある程度理解できれば、仕事になりますし、企業に対してや、医薬品開発

の段階で社会の役に立つことができる仕事です。また、一つの企業に所属していた時より、より幅広く、医薬品に

かかわることができているので、やりがいも感じられるでしょう。

GxP QA コンサルタントという仕事 プロセス管理

プロセス管理とは?

まず、プロセス=工程 という言葉で考えます。

品質管理でなぜ工程管理(プロセス管理)ということかというと、理由は、最終製品の検査だけでは、問題が起こ

った時に、何が欠陥でその問題・クレームが起きたのかまでは、分かりますが、なぜ、その欠陥原因が起こったの

か?までは分からないからプロセスを管理するとは、その工程の中で「誰が」「何を」「どうする」ということを

決めて実施する、ということになります。

こうすることで、欠陥の発生原因を特定することができ、問題点の解決につなげやすいということになります。

また、この工程を正確に動かしていこうとすると、さまざまなものが必要になってきます。それが、工場生産の場

合だと生産計画、手順、教育訓練ということになり、これらをきちんとやっているかどうかを監視(モニタリング)

していく、というような役割も発生してきます。

例えば、製造工程を簡単な図で示すと

原料 → 一次加工品 → 二次加工品 → 三次加工品 → 包装 → 最終製品

このそれぞれのステップに対し、

1)納期、生産量等を計画(決める)のが、”生産計画”であり、

2)「誰が」「何を」「どうする」という風に決めるのが”手順”であり、

3)これらを徹底させ、スピード向上させ、間違いをなくすために”教育(トレーニング)”を実施します。

これらの品質管理の基本を示しているのが ISOですが、その中でも、プロセスという言葉をしつこく説明していま

す。なかなか分かりにくい言葉ですが、要は、いまからやることをきちんと計画してから実施しましょう、勧めて

いきましょう、ということで、これによって、(Plan)、実施し(Do)、検証して(Check)、改善策(Action)

を実施していくという PDCAを回すことができ、品質を恒常的に改善していくことができる、という考え方に基づ

いています。

QAですが、”検証”の checkのところに当たる場合もありますが、この PDCAサイクル全体が、回っているかどう

かも、QAの対象となります。

GxP QA コンサルティングという仕事 GCPについて(1)

GCPの説明の項目は下記のとおりです。

1.臨床試験

2.GCPの歴史、ICH-GCP

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3.プロトコール

4.臨床試験を構成する各担当者の役割

5.GCPの国内の動き

6.その他

1.臨床試験

Phase1,2,3の臨床試験のステップについて、その中で働く人の各役割について、第 3者機関である IRB

(Institutional Review Board)について、そして最近の臨床試験の傾向など。

2.GCPの歴史、ICH-GCP

GCPという基準が施行された背景、そして ICH-GCPの現状(ほぼ世界じゅうに普及)、そして微妙な各国の違い

など。

3.プロトコール

閑話休題的に、我々の仕事で重要な役割を閉めるプロトコール。俗に計画書といいますが、実は違う解釈の仕方。

4.臨床試験を構成する各担当者の役割

プロジェクトマネージャ、モニタリング、データマネージメント、統計解析担当者、Medical Writing、安全性情報

(AE)などの各役割、必要性について。

5.GCPの国内の動き

最近の国内 GCPの動き、活発化しているところなど。

6.その他

アジアの GCPの状況など。

GxP QA コンサルティングという仕事 GCPについて(2)

「臨床試験」とは?

人を使った薬の実験のことですが、その仕組みや、関わっている人たちはかなり多く、組織的にもかなり複雑です。

Phase1,2,3という臨床試験のステップについて、また、その臨床試験の運営に携わる人たちの職務についてもそれ

ぞれ説明します。

治験依頼者(Sponsor)、医療機関(Medical Institution)、IRB(Institutional Review Board)などの、それ

ぞれの中の組織で働く人の役割について、そして、一番面白い、最近の臨床試験の傾向などについて、説明します。

臨床試験の Phaseとは?

臨床試験は、第Ⅰ相試験(フェーズ1)から第Ⅳ相試験(フェーズ4)まであります。

第Ⅲ相試験(フェーズ3)の終了後、国(厚生労働省)に承認申請を行い、審査を経て承認されると「新薬」とし

て製造・販売されます。

第Ⅳ相試験(フェーズ4)では、副作用などについての製造販売後臨床試験が行われます。(新薬の場合)

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第Ⅰ相試験から順に、臨床試験の Phaseを説明すると

◆第Ⅰ相試験(フェーズ1)・・・臨床薬理試験

この Phaseの目的は、次の2項目。

・人での安全性確認

・人体における薬の代謝(Pharmacokinetics)

被験者は、比較的少人数の患者さんや健康な成人が対象です。「薬(くすり)の候補」が体内でどのように吸収さ

れ、排泄されるかなどの基本的な調査をします。動物実験の結果をもとにはじめて人間に投与する試験になります。

すべての薬で、動物実験をクリアできると、この Phaseに入ってきますので、試験としてはかなりの数が行われて

います。しかし、この段階で、副作用が顕著になり、医薬品化を断念する薬も多く、約半数?はこの段階で、消え

ていきます。

このステップで行う治験の目的は、何と言っても人間に対する安全性です。どこまで量を増やしたら、どんな副作

用が起こるかを試す試験も行います。この試験で、PhaseⅡ-Ⅲで投与実験する、安全性から考慮した最大の容量を

決める試験も行います。

今は GCPが施行され、Phase1試験もすべて病院で行うようになっていますが、GCP施工前は、各製薬会社内で、

職員を対象にボランティア試験が行われていました。

その他、安全性の情報の他に、体内でどのように治験薬が代謝され、排泄されるかを調査も行います。その目的で、

定間隔での採血、採尿、場合によっては糞も採取されます。ここで、薬物のみでなく、活性のある代謝物なども同

定されます。

多くは、動物実験段階で発見されているので、その物質との同一性および血中濃度の変遷等を行ったりすることも

あります。

またその他として、最大投与量だけでなく、健常成人を対象に連続投与試験をするのも、この Phaseです。

◆Phaseを要約すると、

1.短回投与試験(容量は、動物実験からの推測)

2.連続投与試験

3.高容量試験

いずれの試験でも血液の採取を行い、PKデータの採取を行い、この Phaseの評価を行います。

◆第Ⅱ相試験(フェーズ2)探索的臨床試験

この相(Phase)の目的は

・初めて患者さんに使用して、その有効性を探る

ということになります。

また、この Phaseでは、前期第Ⅱ相と後期第Ⅱ相の二つに区別した試験を実施しますが、

それぞれ、下記のような内容になります。

前期第二相:用量の効果確認試験 (用量を増やせば効果はどこまで触れるのか)

後期第二相:再適用量の決定(効果、安全性から)

投与量に応じて、どのような薬効の変化があるのか、投与量に応じて薬効がでてくるか、などについて、検討しま

す。

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臨床試験で使用する被験者は、比較的軽度な少数例の患者さんが対象となります。

(比較的軽度な少数例の患者さんが対象ということ)

◆前期第二相試験について

有効性・安全性の確認と投与方法・投与量などについて調査・確認をします。

PhaseⅠと違い、この Phaseからは、実際の患者さんに投与して、薬の効果を確かめます。

なお、 使われる薬の用量範囲は前の第1相で安全性が確認された範囲になります。

また、薬が効いている一つの証しとして、用量と効果(反応)が直線的に比例している、というのが根拠になるの

で、そのあたりも中心に確認することがあります。

Phase2がなかなかうまくいかない場合は、第 1相試験の用量を変えて再実験することもあります。

ここで、本当に薬の効果があるかどうかを探すので「探索的試験」とも呼ばれることもあります。

この Phaseでも、比較的少数の患者さんを対象として、どんな病気に効果が有るかを確かめることになります。薬

の効果によっては少人数とは言えない数(200人とか)の被験者が参加することもあります。

もちろん、製薬会社もある程度、こんな病気には効くはずだ、というあたりをつけて、新薬を開発しているのです

が、本当に効果があるかどうかを、ここにきて、初めて確かめることになります。おおよそ、製薬会社の予想が裏

切られることが多いようです。

ほかには、既に海外での治験結果が知られているとか、販売済みで効果があることが証明できている場合はスキッ

プできることもあります。

いずれにしても、このステップの関門をクリアできるかどうかが、多くの場合が運命の別れ道となっています。

<後期第2相の主な目的>

このステップの大きな目的は、「最も効果が出て、副作用が出にくい」治験薬の量を設定することにあります。

例えばここに高血圧の治験薬「A]が有ったとしましょう。この場合、次のように治験薬の成分量を振り分けます。

プラセボ:有効成分無し

治験薬A1:有効成分が10mg

治験薬A2:有効成分が20mg

治験薬A3:有効成分が30mg

ここに何故、プラセボ(有効成分無し)を入れるのかというと、人は薬を飲んだという気分だけでも、結構、そ

の気になって効果らしきものが出てくるものだからです。(Placebo効果)

血圧のように気分に影響されやすいものや痛みというような自覚症状は、この点を注意しないと本当に薬が効い

ているのかそれとも気分的なものなのかが、判断できないことになります。

一方で抗ガン剤のように「癌の縮小」というように気分で大きく左右されずに、しかも客観的に(自覚症状ではな

く、他覚症状として)計測できるものは、この影響は比較的に少ないようです。

だから、この後期第2相臨床試験は非常に重要な治験なのですが、問題も多い Phaseということもできます。理由

は、まず、プラセボの存在です。

患者さんに治験に参加してもらう場合、当然、そのプラセボがあなたに当る確率(上記の場合4分の1)を事前に

説明する。

ここで、患者さんの中には、プラセボが有るのなら、参加しないという答えがあることが多い。

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また、治験の結果、効果が最も出るのは有効成分が30mgのものだったとしても、副作用が多数出る場合は、そ

の有効性という恩恵と副作用という辛さをバランスにかけて、最終的には効果もほどほどに出て副作用の発生が少

ない治験薬A2が選ばれる場合もあります。

下手をすると、私も経験したことがありますが、ここでプラセボとの間で有効性が統計学的に差が無いという場合

もあります。当然、この場合、ここで開発は中止となります。

◆第Ⅲ相試験(フェーズ3)検証的臨床試験

第Ⅱ相試験の結果を踏まえて、

多数の患者さんの治験ボランティアによって最終的な有効性・安全性や投与方法・投与量などを確認します。

目的として

・多数の患者さんに使用してもらう (病気によって、参考例数も示されています)

・現在有る標準的な薬との差を見る

と言うことで、「検証的試験」とも呼ばれます。

いよいよ、治験の最終ステップと言うことで、承認申請に向けて効能・効果、用法・用量、使用上の注意等を最終

的に決めるステップということになります。

用量については、前のステップで推奨された用量(例えば上記の「治験薬A2」)が使用されます。

例えば高血圧の治験薬だった場合、既に承認され使用実績がある標準的な高血圧の薬(ここではBとしよう)を

相手にして、それに劣っていないことを証明する場合も有ります。

このような場合、治験参加者さんに使われるのは次の2種類のどちらかです。

(1)治験薬A2(有効成分有り)+標準薬Bのプラセボ(有効成分無し)

(2)治験薬A2のプラセボ(有効成分無し)+標準薬B(有効成分有り)

つまり、(1)を使われる治験参加者さんは、治験薬A2が使われており、(2)の治験参加者さんは、標準薬B

を使われていることになる。

プラセボを含んだ試験を行う場合、医師も治験参加者さんも、治験依頼者もどの治験参加者さんにどちらが使われ

ているかは、治験中には分からないようになっている。

また、最近では、この第3相臨床試験と平行して「長期投与試験」も実施されるようになりました。

これは、半年以上の使用例として300例以上、1年以上の使用例として150例以上等というようにして、主に

「長期使用した場合の副作用の発現(安全性の情報)」を見るために作られたガイドラインに従って実施されるこ

とになります。この長期試験は、その治験薬が新薬として承認されるまで(つまり申請後、審査中も)、治験薬を

治験参加者さんに使ってもらえる手段としても、使われています。

今は、もし治験参加者が希望し、長期投与試験に基準に合致さえすれば、承認され処方薬として使われるまで治験

薬を使えるという道が残された形になっています。

しかし、ここにも実は落とし穴が潜んでいて、有効性や安全性に問題が無かったとしても、その治験で重大にGC

P違反が発見されると、その申請データは却下される、ということになります。こうなった場合、決断を迫られる

のは、製薬会社である。もう一度、治験をやり直すのか、もう開発を中止するのか、その場合、長期投与試験に参

加中の治験参加者さんはどうなるのかなど、複雑な難しい問題への対応が迫られることになります。

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この最後の第3相臨床試験が無事に終り、標準薬よりも有効性も安全性も劣っていないことが証明できたら、承認

申請を当局に提出することになります。

第Ⅰ相~第Ⅲ相試験で得られたデータや臨床成績をまとめ、 国(厚生労働省)に承認申請を行い、厳しい審査を経

て承認されれば「新薬」として製造・販売することになります。

しかし、治験は終わりますが、薬の有効性や安全性の情報収集は、実はここからが本番になります。 治験という特

殊な状況で使用されていた時と違い、通常の診療下において、どのような副作用が出るか分かりません。

また、多くのデータが集まってくると、いろんな問題が分かります。例えば、ある種の薬と併用すると思わぬ副作

用が出たり、長期に使うと別の病気を誘発するとか、さまざまな問題もこの段階では含んでいます。

◆PhaseⅣについて

新薬は世の中に出てからが、本番です。

◆第Ⅳ相試験(フェーズ4)製造販売後臨床試験

第Ⅲ相試験よりもさらに多人数の患者が対象です。

新たな成分・用法・用量・効能などに加えて、第Ⅲ相臨床試験までの結果では得られなかった副作用などについて

も追跡調査をします。

実際の病院の現場で、効果と安全性が、当初の目的通りであるかどうか、副作用や使用時の不都合などがないか等、

製造販売後の商品についてさらに綿密に効果の確認をすることになります。

以上が、臨床試験を実施するひとの役割の除いた、簡単な臨床試験のステップになります。

上記のほか、各製薬会社では、マーケティングを目的とした臨床試験(併用試験、使用試験、切り替え試験)も実

施されます。このあたりは、品質保証に関しては今までそれほど厳しくはありませんでしたが、N社の抗がん剤の

データのねつ造等の問題もあり、この手の承認申請、再申請を目的としない臨床試験も最近増えてきています。

以上、ここまでは臨床試験の Phaseの説明です。

GxP QA コンサルティングという仕事 GCPについて(3)(4)(5)(6)(7)(8)

製薬会社や医療機関で臨床試験を担当する各職務についての解説です。

製薬会社のことを臨床試験では、多くの場合「治験依頼者」と呼びます。

多くの場合というのは、最近は(平成 18年から?)医師主導治験という臨床試験も GCPの適用範囲に加わってき

たので、治験依頼者=製薬会社という構図以外の臨床試験も実施されるようになったからです。

そのなかで、治験の流れとしては

1.治験実施計画書を作成し、

2.治験薬概要書を作成し、

3.臨床試験の実施医療機関を選定し、

4.臨床試験を実施(治験薬の投与)、

5.臨床試験データを収集、評価し、

6.治験総括報告書にまとめる。

というような流れになります。

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この流れの全体を統括する役割が、プロジェクトリーダー/マネージャーと呼ばれる存在で多くの場合、実施医療機

関のモニタリングを担当する部署から、リーダーが選出され、その中で、治験ごとの役割がアサインされます。プ

ロジェクトリーダーは、治験全体を統括し、治験依頼者側の総責任者となります。

このプロジェクトリーダーが統括するのが、下記のような業務になります。

製薬会社によって多少の違いはあるかもしれませんが、多くは次のようなものになります。

1. モニターまたは CRA(Clinical Research Associate)

2. QC担当者

3. データマネージメント

4. 統計解析

5.メディカルライティング

6.治験薬管理

このほか、資料保存、SOP管理、教育訓練などを担当する部署があり、それぞれの役割があり、治験依頼者として

の全体の臨床試験の実施体制ができます。

また、これらとは別に「監査」という部門が、上記の部署とは独立して組織され、治験全体の妥当性を評価します。

上記 1~6の業務について簡単に説明します。

1. モニターまたは CRA(Clinical Research Associate)

業務的としては、”モニタリング”つまり、”監視”が仕事になります。

しかし、ただ監視するだけでは、治験が適切に行われなかったとしても是正することができませんので、監視に加

え、治験を適切に実施してもらうために”誘導”していくことが大きな仕事になります。

具体的には、臨床試験を委託する実施医療機関で実施される臨床試験が試験実施計画書(プロトコール)に記載さ

れた内容できちんと行われることを誘導するのが仕事になりますが、下記のような手順でモニタリング活動は行わ

れます。

1) 実施医療機関の要件確認

2) 実施医療機関へのプロトコールの説明

3) IRBへの対応誘導

4) 必須文書管理に関する誘導(SMFのフォーマットの提示等)

5) 患者(被験者)の登録状況の確認

6) 治験の進捗状況の確認(定期訪問)

7) SDV(症例報告書への記載内容の確認、カルテとの整合性確認)

8) 症例報告書への記載内容および AEに関するクエリー対応

9) 治験実施計画書からの逸脱事項への対応

10) 治験終了手続き

モニタリングの業務を行う担当者のことをモニター、もしくは CRA(Clinical Research Associate)と呼びますが、

治験を実施していく中で、もっとも重要な業務になります。モニタリング活動が不十分であると、治験データその

ものが使えないものになってしまいます。

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使えないと、申請データが十分に収集できないことになりますし、被験者(患者)に対して倫理的にも問題のある

行為となる可能性があります。ですので、モニターを担当する人はそれなりの責任感が必要になります。

2. QC担当者

海外にはこの業務が、そもそも存在しないことも多く、日本特有の仕組みのようです。しかし、最近はいろんなス

テージで品質管理・チェックを行い、データの信頼性を確保する努力が行われるため、海外でもこの機能がちらほ

ら見えるようにはなりました。

この業務、特に決まった業務内容があるわけではありませんが、主にモニターの業務の監視、サポートといったと

ころが業務になります。

チェックするものとして、

1.モニタリング報告書(施設および治験責任医師の選定から、治験実施中のMVR(Monitoring Visit Report)に

ついて、内容をチェック。

2.モニタリングのスケジュール管理、

3.必須文書の準備(施設へ渡すファイルの管理)

4.IRB申請資料の準備

5.CRF(症例報告書:Case Report Form)の一次チェック

6.手順の管理、

7.資料の一時保管

などなど多岐にわたります。「モニタリングの業務全般のサポートを細かくサポートする役割」とでもいえるよう

な気がします。

CRF(症例報告書:Case Report Form)については、モニターが治験施設から回収し、データマネージメント部門

へ送りますが、その前に簡単なチェックをします。最近は、EDC(Electric Data Capture)が、主流になってきて

おり、電子データのプロセスの中に、QCチェックが入っていることもあります。

そのほか、直接モニタリングに関連しないところで、資料の一時保管や、モニタリグ手順の管理をする業務もこの

担当者が担うことがあります。

なお、委託や共同開発では方法を統一するために、手順書またはモニタリングプランを作成し、自社の SOPと違う

手順を履行することもありますので、その場合にその手順書履行の管理をこの担当者が担うことがあります。

いずれにしても、企業また治験依頼者により、作業する内容は異なりますが、上記のような作業を QC担当者は行

っています。

3. データマネージメント

データマネージメントという業務は、簡単にいうと、

治験及び臨床試験で回収された症例報告書(CRF)の データを入力し、チェックし、修正し、データに問題があれ

ば、モニターに調べなおさせる といった、症例データを管理する業務のこと。

この業務をもう少し分解すると、

治験実施計画書を作成する際(治験を計画する際)、症例報告書(Case Report Form:CRF)についても設計します

が、この業務も主にデータマネージメント(DM)の仕事。

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当然、CRFの作成にはモニターや他の専門家もかかわっています。

臨床試験の手順に合わせて CRFも作成されていくのですが、設計図の基本は DMの担当といったところです。

次にモニターが治験データを CRFに記入させていき(ちょっと語弊はありますが)、回収されてきた CRFをデー

タベースに入力し、データの内容を細かくチェックする仕事です。

データから臨床試験の結論を得るためには、この後の「統計解析」という業務が重要ですが、DMは解析前の正確な

データを統計解析に提供するということが重要だと言えるかもしれません。

その正確なデータを得るために行う業務手順が、

1.ダブルエントリー

2.クエリー

まず、1.のダブルエントリーですが、薬事規制上、必須というわけではありませんが、データの正確性を確保する

ために、一般的に必須の手順となっています。CRFで回収してきたデータを一つ一つ、データベースに入力し、ロ

ジカルチェックを行います。ロジカルチェックとは、2つの入力したデータが同じかどうかをチェックする業務で

す。これにより、データベースに入力されるデータの正確性を確保します。

次に、2.のクエリーですが、これは CRFの記載内容に関することになります。

記載内容については、

1)”CRF作成の手引き”というものも、治験開始前に作成することになっていますので、この内容に沿ってきちん

と CRFが作成されているか、

2)治験計画書から逸脱した記載内容になっていないか、

例えば、

「データ入力のタイミングが計画されて日時からずれている。許容範囲を超えている。」

「臨床検査データの測定ミス、採血忘れ」などがないかなど。

3)副作用(Adverse Event:AE、Serious Adverse Event:SAE)について、疑いのある事象が CRFのデータ

から発生していないか(臨床検査データの変動などから)

などから、CRFに記入された内容について疑義があれば、クエリーを発行し、モニターを経由して治験責任医師の

回答を入手し、データの内容を解析に用いやすい状態にしていきます。

AEについては、モニターが行う SDV(Sours Data Verification)の際にも、疑いのある事象が発見されることが

ありますが、

この際も CRFのデータとして、疑義内容をクエリーで発行し、責任医師のコメントをもらいます。

モニターはその場で責任医師に確認できた場合など、あえてクエリーを発行することもない場合もありますが、入

手・回収したデータが正確なものであるかどうか、それを検証し、正確なデータを作成することが DMの仕事とな

ります。

これらのほか、製薬会社、CROによっては、DM計画書、DM報告書を作成し、DMのやった業務内容をまとめる

ところもあります。

これらの一連の活動が終了し、データ固定(Data Lock)をかけ、データを簡単に修正できない状態にします。(当

然、別に修正する場合の手順は作成します。)

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追加の情報として、上記のダブルエントリー(ロジカルチェック)を行う場合、SASという統計解析のプログラム

を使うことも多いのですが、これで解析前のデータを作り、そのまま、統計解析チームへデータを贈ることもあり

ます。当然のことですが、こうすることで最も間違いとして発生しやすい”転記ミス”をなくすことができます。

4.統計解析

生物統計学の手法を用いて、治験の結果を分析し、治験薬の効果があるのか、既存の市販薬よりも効果があるのか

を、統計学的に証明(説明)する作業です。

データマネジメントによって、電子化され、きれいに整合化された症例データに対して、統計解析の手法を駆使し

て、解析します。

治験に関わる業務の中で、最も学問的(アカデミック)な分野で、製薬メーカーや CROの統計解析部門は研究職的

な雰囲気さえあります。

「検定」「有意差」「棄却」といった統計用語がでてきますが、監査担当者はこれらの言葉にアレルギーをなくす

必要があります。

また、SASという統計解析ソフトによるプログラミングが必須なので、プログラミングスキルが要求されます。

なお、どんなに高度な解析手法を用いても、解析するデータが不正確であれば、解析結果は、全く意味を成しませ

ん。

全ては、データマネジメント作業の出来次第なのです。具体的な統計解析の内容については、

ICHのガイドライン E9(臨床試験の統計的原則 平成10年11月30日)

http://www.pmda.go.jp/ich/e/e9_98_11_30.pdf

を確認してください。

監査担当者(GxP QAコンサルタント)としては、この原則および製薬会社、CROで設定した統計解析の手順およ

びプロトコール(治験実施計画書)に記載された方法で統計解析が実施されているかどうかを確認します。非常に

難しいところですが、時間的な制約がない場合、実際のデータを手計算で確認したり、SASのプログラムの内容を

検証することもあります。

しかし、前述の通り、多くの場合、データマネージメントで作成するデータセットが正確であることが大前提にな

っているので、そのあとは、プログラム(解析の方法)が間違っていなければ、データが狂うことはありません。

また、最近では、統計解析に用いる SASというプログラムに対し、計画したデータが出るかどうか、事前にバリデ

ーションという手順を実施することが必須要件になってきていますので、我々はこの部分の実施状況及び記録を確

認することで、臨床試験データの正確性と確認します。

解析には、解析計画、解析の実施、解析報告書という、通常のプロセスに応じた手順も用意されていることが多い

ので、その手順を確認していけば、上記の内容を確認することができます。

それでも、統計解析については、言葉としてきちんとイメージしておかないと、監査の現場でも頓珍漢になってし

まうので、しっかりと前述の「臨床試験の統計的原則」を学習しておく必要があります。

5.メディカルライティング

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メディカルライティングの仕事とは、

治験実施に関わる各種申請書類や薬事承認取得に必要な各種申請書類、報告書、論文を薬事法や各種ガイドライン

を遵守し、効率的な方法により作成する業務です。

具体的には、治験の実施に必要な下記のような文書の作成を担当します。

•治験ならびに製造販売後臨床試験等に関する資料作成支援

(治験計画届、試験実施計画書、同意説明文書、症例報告書、治験薬概要書等)

•臨床試験に於ける様々な報告書作成支援 (副作用報告書、総括報告書)

•承認申請、再審査申請のための資料作成支援

(CTDに対応した申請資料、再審査申請資料)

•論文作成支援

•オーファンドラッグ指定申請書作成支援

会社によっては、上記の文書を違う部署で対応しているかもしれませんが、治験の実施において最も重要な「治験

実施計画書」「治験総括報告書」および治験薬の詳細な情報を記載する「治験薬概要書」の作成が主な業務となり

ます。

治験実施計画書および治験薬概要書につては、ICH GCPのガイドラインで規定されています。

ICH-GCP E6 (臨床試験の実施の基準)

http://www.pmda.go.jp/ich/e/e6r1_97_3_27e.pdf

http://www.pmda.go.jp/ich/e/e6_97_3_27.htm

治験総括報告書については、

ICH E3 (治験総括報告書の構成と内容に関するガイドライン)

http://www.pmda.go.jp/ich/e/e3_96_5_1.pdf

として出されているので、QAコンサル(監査等)を実施する場合には、これらの内容を把握しておく必要がありま

す。

しかし、もっとも大事なのは、すべては治験実施計画書から始まるので、この内容の把握が、治験の監査を実施す

る場合には最も大事なポイントとなります。

ここで規定された手順や進め方にそって、きちんと治験が実施されたかどうかを見ることになるので、内容につい

ては、ICHに沿っているかどうか(簡単な内容)を確認します。

基本的にメディカルライティングの善し悪しを評価することはあまりありません。CROさんの監査をするときには、

この手順が出来上がっているかを確認することになりますが、実際に治験がはじまってしまうと、この業務に対し

てはあまり突っ込んだ確認は行いません。しかしながら、治験を構成する重要な業務であることには間違いはなく、

この業務の上に治験が成り立っていることは十分に認識しておく必要があります。

6.治験薬管理

GCPにおけるスポンサー(治験依頼者)の最後の業務、”治験薬管理”

治験薬に関しては、

1.治験薬の製造・出荷(治験薬 GMP)

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2.治験薬の保管・供給(保存、ラベリング、出荷体制、使用済み治験薬の管理)

3.治験薬取り扱いに関する治験実施施設への指導(取り扱い手順書の作成、盲検性の維持)

等が業務になってきます。

1.の治験薬 GMPについては、日本では GCPの範疇として処理されていますが、欧米では、ほぼ GMPの範疇とし

て規制されています。

実際、GCP査察の時には、治験薬 GMPについての調査はほとんど行われず、PMDAのチェックリストの中にも、

具体的な内容は含まれていません。しかし、当局より基準として示されており、最近では欧米でも治験薬段階の GMP

については、指示内容が示されていますので、順守していなければ、バイオレーション(GCP違反)ということに

なります。

しかし、EMAの査察では、治験薬 GMPについても GCP査察の現場で確認する準備があるようです。

今までは、あまり確認されることのなかった治験薬 GMPですが、今後は徐々に高いレベルでの管理が必要とされる

ようになるようです。

2.の治験薬の保管、供給についてですが、ICH GCPでも、下記の 5.12~5.14にルール内容が比較的詳しく記

載されています。

5.12 Information on Investigational Product(s)

5.13 Manufacturing, Packaging, Labelling, and Coding Investigational

5.14 Supplying and Handling Investigational Product(s)

また、日本の GCP基準では、第 16条(治験薬の管理)、17条(治験薬の交付)として、こちらも詳しく、ルール

の内容が記載されています。

内容を大まかに紹介すると、

1)治験を開始する前に、治験薬の非臨床、化学特性関連の情報については、十分収集し必要なデータがそろって

いることを確認すること

2)治験薬の保存を適切に行うこと(場所、セキュリティ)

3)医療機関との契約前に治験薬を交付しないこと

4)治験薬の出荷、受領、処分、返却及び廃棄の記録を確実に残すこと

5)盲検性の維持に関すること

6)医療機関で使用する治験薬管理の手順を準備すること(医療機関と協議のうえ)

などの内容になっています。

簡単に説明すると監査の時には、

・治験薬の保存場所の確認(セキュリティ)、

・冷蔵庫等を使用している場合は、冷蔵庫の維持・管理記録

・出荷・回収状況の確認

・回収した使用済み治験薬の保存場所の確認等

を行います。

また、盲検性が重要な場合は、盲検性を維持するために決められたルールにのっとり、治験薬の管理者が動いてい

るかなど、インタビューおよび記録類の閲覧により確認していくのが、このエリアの業務になります。

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治験薬については、臨床試験の実施医療機関での管理が重要な確認事項となりますので、その部分と関連付けて、

一連の治験薬管理の流れを確認してください。

治験薬の管理で確保しておかなければならない大事な点は、1.セキュリティ 2.品質の維持の2つです。

これを治験薬の場合、製造所、治験依頼者、医療機関の中を移動していきますので、この間の流れを上記の2つの

重要事項の維持が適切に行われているかどうかを確認して行くことになります。

規制を読むといろいろ書いてありますが、実際の監査の現場では、まずは、上記の点の確認を行っている感じです。

そうすることで、おかしいと思ったところについて、条文を読むとそれに関する記述がある、といった感じです。

GxP QA コンサルティングという仕事 GCPについて(9) 実施医療機関

実施医療機関の立場について:

臨床試験は、多くは製薬会社が企画・計画し、医療機関で実施する、という流れになります。臨床試験を実施する

前に、毒性試験、薬理試験、薬物動態試験など、非臨床試験と呼ばれる一連の試験を実施しますが、これらは、一

つの場所、研究所で実施されるので、比較的コントロールは容易です。と言うものの、非臨床試験の中でも細かい

ルールがあり一概にそう言うこともできないではあります。

臨床試験と非臨床試験の一番の違いは、

1.試験を計画した人と実施者が違うこと

2.多くの場合、試験の実施現場が多施設にわたること

他にもありますが、上記の2つの要因が、臨床試験の難しさを感じるところです。自分以外、自社以外の人たちの

協力を得て、試験を実施することになるので、「暗黙の了解」は禁物で、参加するさまざまな人たちを統制できる

ルールを整備しないと試験が成立しません。

臨床試験を実施するためには、治験依頼者の中の役割も相当量がありますが、医療機関に役割もまた大変で、もし、

一人で全部をやろうとすると、気が遠くなりそうな作業量があります。

臨床試験を実施するうえでの、実施医療機関の中の役割としては、以下のような関係者、関連機関があります。

1.実施医療機関(Institution)

2.治験責任医師(Principal Investigator)

3.治験分担医師(Sub-Investigator)

4.治験コーディネータ(Clinical Research Cordinatorまたは Study Nurse)

5.治験薬管理者(Pharmacist)

6.治験事務局(日本のみ)

7.治験審査委員会(Institutional Review Board)または治験倫理委員会(Ethics Committee)

海外では、極端な話ではありますが、治験責任医師と治験審査委員会があれば治験の実施は可能ですが、日本では

100%ではありませんが、上記のスタッフがそろっていないと治験の実施はできません。

まず、1の実施医療機関

海外では、臨床試験を製薬会社と治験責任医師の直接契約で実施するので、この規定はありません。しかし、日本

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では臨床試験を実施する場合、まず医療機関と契約することになるので、ICHでも実施医療機関の言葉もでてきま

す。

最近は、治験を請け負う医者(MD)の方も、特定の医療機関に所属せず、専門医としてさまざまな医療機関と契約

して活動される医師も多いので、治験の現場では日本でもかなり欧米化が進んでいるようにも思えます。しかし、

医師は、医療機関に属する(雇用されている)というイメージがあるのか、日本では、この規定があります。その

中で、その役割として、治験責任医師、分担医師の指名、治験薬管理者の指名などの役割があります。

治験を請け負う医療機関では、手順書・規定も整備しておかないといけないので、これらの役割については、病院

長の名前が、治験契約、治験の依頼、治験の審査などの場面で、出てくる程度になります。無視することはできま

せんが、臨床試験の現場ではほとんど名目上の必要になっているように感じることもあるので、おそらく、10年後?

くらいには、日本での臨床試験でも GCP上のこの役割はなくなっているのではないかと思います。しかし、この項

目については、日本では無視できないのが現状です。その件に関しては、後程 GCP適合性調査の場面を想定した内

容説明の中でお話しします。

次に、

2.治験責任医師、治験分担医師

臨床試験を実施する最も重要な役割になります。臨床試験で計画されている内容をカルテ中に、被験者を評価した

内容および結果、試験の実施内容を記載し、その結果現れる症状を記載していきます。つまり、このデータが「生

データ」、治験では「原資料」といい、臨床試験の大元のデータとなります。このデータが、医薬品の開発の中で

必要とされているデータであり、このデータを得るために、また、正確なデータを得るために、

組織体制および試験のプロセス管理が GCP(Good Clinical Practice)として要求されています。

カルテへの記載内容が、医師の最大の役割ですが、被験者の数が多くなり、タイミングも一様ではないので、これ

らの医師の役割を補完する役割として、

3.治験コーディネータの役割があります。

もともと、臨床検査技師や看護師、薬剤師といった資格をもった人が、その資格でできる医療行為(投与、採血、

カルテへの実施内容の記入等)を治験責任医師に変わって代行します。

治験でカルテが原資料になりますが、このデータを計画した試験通りに整理して、収集するために被験者ごとに、

「症例報告書」という書式が用意されます。ここに治験で計画したデータを収集していくことになりますが、ここ

で原資料から症例報告書への転記という作業が行われます。

この作業を主に CRCが実施し、その記載内容を治験責任医師が確認し、治験依頼者へ報告していくという流れで、

治験が実施されていくことになります。

4.治験薬管理者

治験薬の管理手順書という文書が、治験依頼者から作成され、治験実施医療機関の薬剤部、もしくは治験事務局の

中に設置された薬剤師が、治験薬の保存、払い出しおよびその記録を担当します。

また、役割の手順にもよりますが、盲検試験を実施している時はその盲検性がきちんと保たれているかどうかにつ

いては、治験薬管理者の作業内容も重要になってきますので、その手順に従った、適切な管理が必要になってきま

す。

Page 22: GxP QAコンサルティングE3...GxP QAコンサルティング GxPとは? GxPというのは、医薬品の開発段階から、工場管理、副作用情報管理までの、薬規制をすべて、Good

5、IRB(治験審査委員会)

治験が実施されるにあたり、被験者、患者の人権および安全を守るために、利害関係のない第三者である専門家に

その判断をゆだねたものであり、日本では、主に各実施医療機関に設置されており、海外では、地域および中央に

それぞれ治験審査委員会または治験倫理委員会という名称で、設置されています。例えばヨーロッパでは、臨床試

験を計画するに当たり、治験の計画を規制当局に申請して、治験を実施することになりますが、規制当局への申請

とともに、Ethics Committee(倫理委員会)にも、同様に必要な資料を提出し、所定の期間内にコメントが返って

こないことを確認してから、治験を開始するようになっていますので、その役割の重要性は理解できるものと思い

ます。

GxP QA コンサルタントという仕事 GCPについて(10) GCP適合性調査-1

QAの仕事は、GCP適合性調査を意識して行いますが、この調査の行為の内容がそのまま、私たちの仕事といって

もよいようなものです。ですので、どういう視点で、データ調査が実施されるのか、何を確認されるのか、といっ

たことを研究することが我々の仕事の質を上げていきます。

日本では、PMDA(Pharmaceutical and Medical Device Agency 独立行政法人医薬品医療機器総合機構)が査

察当局として、GCP適合性調査を実施します。

PMDAのような組織のことを、英語ではMonitoring Authorityといいます。

英国では、MHRA(Medicines and Healthcare products Regulatory Agency)、米国では、FDA Food and Drug

Administrationがそれに当たります。しかし、英国、米国とも厳密には、医薬品・医療機器の国内の管理体制の内

容が異なるため、まったく同じ機能の組織ではありませんが、これらの組織を査察当局、規制当局ということばで

表現します。

GCP適合性調査に関しては、実際に PMDAが調査実施場所で使用する GCP適合性調査チェックリストというもの

があるので、この内容にそって解説をしていきます。日本では、このチェックリストと運用通知がそのマニュアル

的なものになりますが、米国では、Compliance Guidance Manual、英国では、日本と似たような調査に際してそ

ろえておくべき文書についての案内通知がありますので、項目によっては、それらに対比しながら、日本の適合性

調査を説明していきたいと思います。