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  • はじめに  なぜ『心訳 般若心経』か?

    1

    はじめに︱なぜ『心訳 

    般若心経』か?

    いま、『般はん

    にや若

    心しん経ぎよう』に注目が集まっています。多くの人がこのわずか二六二文字の短い

    お経に心惹ひかれるのはなぜでしょうか? 

    時代の動きが速く、仕事の環境もめまぐるしく

    変化し、人間関係が複雑になるなかで、人びとはストレスにさらされ、心が渇き、疲れ切

    っています。

    なんとかそこから抜け出したい。悩みや迷い、苦しみから離れて、安らかな心を取り戻

    したい。現代人の誰もが切実にそう感じているのではないでしょうか。そのための手がか

    りを『般若心経』に求めているのだと思います。

    また、ものが豊かになり、利便性が向上して、わたしたちの生活は快適になったかに見

    えます。しかし、心はどうでしょうか? 

    欲しいものを手に入れても、便利さを謳おう歌かして

  • 2

    はじめに  なぜ『心訳 般若心経』か?

    3

    禅は実践を重んじます。その教えは哲学といってもいいものだと思いますが、頭で理解

    することにとどまるのではなく、「行」というかたちで実践を繰り返すことによって、身

    体で教えを理解することにつとめる、という点が哲学とは決定的に違っています。すなわ

    ち、体得こそが禅の本分なのです。

    『般若心経』のなかでもっとも重要なキーワードとなっているのが「空」です。この世の

    あらゆるものは、つねに移り変わっており、また、かかわりによって存在している、とい

    うのが「空」ですが、この“理論”的説明だけでは、なかなか実感としては受けとめにく

    いのではないでしょうか。

    そこで、本書では解説・枡野流を加え、みなさんが日々、送っている暮らしのなかで

    「空」がこんなふうにあらわれている、「空」によってこんなことが起きている……といっ

    た身近な例をできるかぎりあげることにつとめました。

    「空」だけではありません。『般若心経』のその他の文言についても、同様の展開をした

    つもりです。

    “難解”な『般若心経』を日常に引き寄せるという、この試みはこれまでにない新たなも

    のになっているのではないか、とひそかに自負しております。

    いても、そのそばから「もっと、もっと」という思いが膨れ上がってきて、けっして満足

    感を得られない。心は騒ぐばかりです。「なにか違う!」。そのことに多くの人が気づき始

    めています。ここにも『般若心経』に目が向けられる理由があるのではないでしょうか。

    『般若心経』が説いているのは、この世の中がどのようにして成り立っているかというこ

    と。そして、その成り立ちを知ることで、人は悩みや迷い、苦しみを乗り越えて生きてい

    けるということです。

    ただし、お釈しや迦か様の智ち

    え慧と実践が究極まで凝縮されていますから、その内容はさまざま

    に解釈できます。これまでも『般若心経』に関する書籍がたくさん出版され、いまも次々

    に刊行されていることが、それを物語ってもいます。

    わたしは禅僧ですから、本書では禅の立場から解釈を試みました。禅は心にまとってい

    るものをそぎ落としなさい、捨てなさいと教えます。そうすることで、心は裸になる、ま

    っさらな心になるのです。

    タイトルを「心訳」としたのは、そのまっさらな心をもって『般若心経』を読むと、そ

    こにどんな世界が広がっているのかを、わたし自身があらためてたしかめたかったからで

    もあります。

  • 45

    心訳 

    般若心経

    目次

    はじめに

    ︱なぜ『心訳 

    般若心経』か?

    ……

    1

    心訳 般若心経 全訳

    ……

    12

    1章

    「苦しみ」や「つらさ」で心をつぶされない

    1 

    彼岸とは、この世で「悟る境地」に行くこと

    ︱「摩訶般若波羅蜜多心経」

    ……

    22

    ・無心になるということ

    ・「ひとつになる」ことのむずかしさ

    2 

    あなたのなかにも「観音様」がいる

    ︱「観自在菩薩」

    ……

    28

    ・高みから教え諭さない

    ・菩薩行を積み重ねる

    3 「空」を深くとらえる生き方

    ︱「行深般若波羅蜜多時」

    ……

    34

    ・マイナスをプラスに「転じる」

    『般若心経』はその誕生以来、長大な年月を貫いて人びとの心の支えになり、心を救って

    きました。いわば、時を超えた“心の処方箋せん”なのです。もちろん、いまを生きているみ

    なさんの心にも必ず響き、渇いた心、疲れた心に働きかけ、そこから抜け出して、安らか

    な心、穏やかな心を取り戻すための道を示してくれるはずです。

    さあ、まず一歩を踏み出してください。急がなくていいのです。焦る必要はありません。

    わからなくなったらもとに戻ればいい。ゆっくりと、たしかな、一歩ずつを進めてまいり

    ましょう。

    その歩みが生きるのを少しだけラクにするもの、そして、自分らしく生きることにつな

    がるものであることを心から願ってやみません。

    本書では、わかりやすいように『般若心経』を31に分け心 訳、解説・枡野流とい

    う順で構成しています。少しでもみなさんの理解の助けになればうれしいかぎりです。

                          二〇一四年一〇月吉日 

    建功寺方丈にて

    枡野俊明

  • 67

    ・恋人同士でも、いつしか気持ちのすれ違いが起こる

    ・わき上がる感情は抑えない

    9 

    森羅万象、すべてのものが「空」である

    ︱「舎利子 

    是諸法空相」

    ……

    73

    ・できることから始めよう

    ・損得計算は目を曇らせる

    10 「不」とはこだわらないこと、とらわれないこと

    ︱「不生不滅 

    不垢不浄 

    不増不減」

    ……

    79

    ・選り好みをするから苦痛が起こる

    ・勝ちに驕らず、負けに腐らず

    3章

    自分のものなんてなにひとつない

    11 「無」とは「ない」ではなく、「超えていく」ということ

    ︱「是故空中無色 

    無受想行識」

    ……

    86

    ・なにもかも執着しない

    ・「捨てる気持ち」を忘れない

    12 

    五感も六感も超えたところに、「悟り」がある

    ︱「無眼耳鼻舌身意」

    ……

    93

    ・あるがままに見て聞く

    ・結果を出そうとするから余計なことを考えてしまう

    ・老いたる人の存在感

    4 「無常無我」の視点が苦しみをプラスに変える

    ︱「照見五蘊皆空」

    ……

    40

    ・「無常無我」こそ「空」を理解するキーワード

    ・「自我」をひとつ捨て、「無我」に近づく

    5 

    苦しみを安らかな心に、橋渡しする

    ︱「度一切苦厄」

    ……

    47

    ・四苦八苦とはなにか

    ・苦しみやつらさから目をそむけない

    2章

    「ものさし」はひとつだけではない

    6 「色」と「空」は水と氷の関係 ︱「舎利子 

    色不異空 

    空不異色」

    ……

    54

    ・たしかな自分などない

    ・人はかかわりのなかで存在する

    7 

    目に見えるものはつねに変化し、あらゆるものとかかわっている

    ︱「色即是空 

    空即是色」

    ……

    60

    ・移ろいでいる瞬間を生きる

    ・一息を怠らない

    8 

    考えたり、感じたりする心の働きも「空」である ︱「受想行識 

    亦復如是」

    ……

    66

  • 89

    ・「喜捨の心」で執着を取り除く

    4章

    もう迷わなくても、大丈夫!

    19 

    菩薩のような慈悲心で、人と接しよ

    ︱「菩提薩埵 

    依般若波羅蜜多故」

    ……

    138

    ・声かけは天地をひっくり返す力がある

    ・人のためにおこなえば、相手からも返ってくる

    20 

    心に引っかかるものがなにもない

    ︱「心無罣礙 

    無罣礙故 

    無有恐怖」

    ……

    145

    ・未来予測が恐れをもたらす

    ・掃除に心を尽くす

    21 

    夢想の世界から、遠く離れる

    ︱「遠離一切顚倒夢想 

    究竟涅槃」

    ……

    152

    ・先入観で判断しない

    ・ただの夢想か、現実感のある発想か

    22 

    過去は未来に通じる

    ︱「三世諸仏 

    依般若波羅蜜多故」

    ……

    158

    ・永遠の真理にそむかない生き方

    ・自分を拠り所にする

    23 

    究まることのない「無上の悟り」を得る

    ︱「得阿耨多羅三藐三菩提」

    ……

    165

    13 

    なぜ、超然と生きるのか

    ︱「無色声香味触法」

    ……

    99

    ・感じとるものすべてが人の心を乱す

    ・思い込みが「心のメタボ」を生む

    14 「いい、悪い」「好き、嫌い」で判断しない

    ︱「無眼界 

    乃至無意識界」

    ……

    105

    ・自分の価値観だけを優先しない

    ・「好き、嫌い」を超えたところで人を見る

    15 

    迷いは「無明」から起こる

    ︱「無無明 

    亦無無明尽」

    ……

    111

    ・思っていることに振りまわされない

    ・目の前のことに丁寧に取り組む

    16 

    老いと死を「前向き」に生きる

    ︱「乃至無老死 

    亦無老死尽」

    ……

    117

    ・なぜ、死ぬことは怖いのか

    ・心のなかに生き続ける仏様

    17 

    苦しみから自由になる八つの道とは? ︱「無苦集滅道 

    無智亦無得」

    ……

    124

    ・そぎ落として捨ててつくる「禅の庭」、枯山水

    ・最高点に達しても、なおその先に進め

    18 「あの世」に持っていけるものは、なにもない ︱「以無所得故」

    ……

    130

    ・身体は自分のものではない

  • 1011

    ・人としての器の大きさは秘めてこそ価値がある

    ・偉くなっていばることほど醜いものはない

    5章

    頭のなかを空っぽにする

    24 

    さまざまなことは、「おかげさま」で成り立つ

    ︱「故知般若波羅蜜多」

    ……

    172

    ・おかげさまの心で生きる

    ・「いただきます」は大自然への感謝

    25 

    心の闇を破る悟りへ至るための「呪」とは?

    ︱「是大神呪 

    是大明呪」

    ……

    179

    ・大きな声を出す

    ・「唱える」ことでひと呼吸置く

    26 『般若心経』は悟り続けるための無上の「呪文」

    ︱「是無上呪 

    是無等等呪」

    ……

    185

    ・均斉を超える

    ・勝ち負けに一喜一憂しない

    27 

    すべての苦を取り除く

    ︱「能除一切苦 

    真実不虚」

    ……

    191

    ・自分が思い通りできることはなにひとつない

    ・立派な死も情けない死もない

    28 

    人々を救う『般若心経』の呪文

    ︱「故説般若波羅蜜多呪 

    即説呪曰」

    ……

    197

    ・耳なし芳一を守った『般若心経』の力

    ・疫病がおさまり国が安定した写経

    29 

    わたしもみなも、ともに、行こう!

    ︱「羯諦 

    羯諦 

    波羅羯諦」

    ……

    203

    ・大乗仏教と上座部(小乗)仏教の違い

    ・なにごとにも見返りを求めない

    30 

    みなで悟りを円満成就しよう!

    ︱「波羅僧羯諦 

    菩提娑婆訶」

    ……

    209

    ・「自利利他」でこそ人は生きる

    ・取り戻したい「共生」の考え方

    31 

    最高の智慧の真髄を説くお経

    ︱「般若心経」

    ……

    215

    ・お守りで意識を変える

    ・『般若心経』を多くの人に広めるための『絵心経』

    おわりに

    ……

    222

    装  

    幀 

    轡田昭彦・坪井朋子

    構  

    成 

    吉村 

    編集協力 

    岩下賢作

         

    増山雅人

    イラスト 

    本橋靖昭

    本文組版 

    山中 

  • 1213

    心訳 般若心経 全訳

    心訳 般若心経 全訳 

    まず始めに、『心訳 

    般若心経』の対訳を記しておきます。『般若心経』は観音様が舎しや利り

    子しに仏教の教えを伝えるというかたちをとっています。「舎利子」と名前を呼びかける箇

    所が何か所かありますが、お釈しや迦か様の弟子である舎利子は実在の人物であり、観音様は悟

    りの境地に至った者をあらわす架空の存在です。

    123

    摩ま訶か般はん

    にや若

    波はら羅

    蜜みつ多た心しん経ぎよう 

    観かん自じー在ざい菩ぼー薩さつ

     行ぎよう深じん般はん若にやー波はー羅らー蜜みー多た時じー

    偉大なる仏様の智ち

    え慧を完成させて、悟りの境

    地に至るための教えを説くお経 (タイトル)。

    観音様は人びとの声を聞いて、その声に潜む

    悩みや苦しみを観察しその人に適した教えを

    説いてくれます。

    観音様がかつて『深般若』を実践するために

    456

     照しよう見けん五ごー蘊おん

    かいくう

    皆空

    度どー一いつ

    さいくーやく

    切苦厄

     舎しやー利りー子しー 色しき不ふー異いー空くう 空くう

    ふーいーしき

    不異色

    「空」の思想を修行しようとしていました。そ

    して、お釈迦様の弟子である舎利子に伝えま

    した。

    人間の身体は五蘊と呼ばれる五つの肉体的、

    精神的な要素「色」「受」「想」「行」「識」が

    集まってできており、すべてが相対的にかか

    わって、変化していきます。ですから本来実

    体のない「空」であり無我なのです。

    そのことがわかれば我々はあらゆる「とらわ

    れ」から自由になり、悟りの世界に渡ること

    ができるのです。

    舎利子よ、我々の身体を含め目に見える存在

    (色)は相互のかかわりによって存在してい

    るのであり実体のない「空」でもあります。

    たしかな存在というものはないのです。

  • 1415

    心訳 般若心経 全訳

    78910

    色しきそくぜーくう

    即是空 空くう即そく是ぜー色しき

     受じゆー想そう行ぎよう識しき 亦やく復ぶー如によう是ぜー

     舎しやー利りー子しー 是ぜー諸しよー法ほう空くう相そう

    不ふー生しよう不ふー滅めつ 不ふー垢くー不ふー浄じよう 不ふー増ぞう不ふー減げん

    私たちの身体や存在するもの「色」はじつは

    実体のないもの「空」であって、つねに移り

    変わることによって、そして、さまざまなも

    のとかかわっているおかげで、存在していま

    す。また、実体のないもの「空」が、移り変

    わること、かかわり合うことで、存在(色)

    となってそこに現じているのです。

    そして「色」以外の四つの精神的要素、感じ

    ることである「受」、思うことである「想」、

    おこなうことである「行」、わかることであ

    る「識」も移ろい変化する、実体のない「空」

    なのです。

    舎利子よ、全宇宙は、すべて移ろい、おたが

    いに関係しながら存在する空なのです。

    生ずることも滅することもなく、「汚い」「き

    1112

    是ぜー故こー空くう中ちゆう無むー色しき 無むー受じゆー想そう行ぎよう識しき

    無むー眼げん耳にー鼻びー舌ぜつ身しん意にー

    れい」ということもありません。増えもしな

    ければ、減りもしません。

    このように「空」という真理に照らしてみれ

    ば、身体や存在である「色」は実体のないも

    のです。ですから、それにとらわれることな

    く、超えていくべきものです。「受」「想」

    「行」「識」という、感じたり、考えたり、意

    思を持ってしようと思ったり、認識したりす

    る働きも、同じように実体がなく、超えてい

    くべきものなのです。つまり、身体や存在を

    構成している「五蘊」はすべて超えていくこ

    とが大切です。

    眼で見、耳で聞き、鼻で嗅かぎ、舌で味わい、

    身で触れる五感と、その五感によって生じる

    心の作用である意識も超えて、あるがままに

    とらえていく。それが、そのもの(対象)と

  • 1617

    心訳 般若心経 全訳

    13141516

    無むー色しき声しよう香こう味みー触そく法ほう

    無むー眼げん界かい 乃ない至しー無むー意いー識しき界かい

    無むー無むー明みよう 亦やく無むー無むー明みよう尽じん

    乃ない至しー無むー老ろう死しー 亦やく無むー老ろう死しー尽じん

    一体になることです。

    眼が感じとるのが色、耳が感じとるのが音、

    鼻が感じとるのが香り、舌が感じとるのが味、

    身が感じとるのが感触、法が感じとるのが人

    の意識であり、これをも超えましょう。

    眼が感じる世界を超越し、意識の世界へ至り

    ましょう。すべては超えるべきものであり、

    超然と生きるのが悟りの境地なのです。

    この世のことは真理によって動いているのだ

    から、本来、その真理が理解できない「無明」

    というものはないはずです。しかし、それを

    理解できない心の状態も、永遠になくなるこ

    とはないのです。

    老いて死にゆく苦しみにとらわれず、こだわ

    171819

    無むー苦くー集しゆう滅めつ道どう 無むー智ちー亦やく無むー得とく

    以いー無むー所しよー得とく故こー

    菩ぼー提だい薩さつ埵たー 依えー般はん若にやー波はー羅らー蜜みー多たー故こー

    らず、そのことによって、苦しみを超えてい

    きましょう。老死の苦しみが尽きた苦のない

    世界はないのですから、それを求めたり、そ

    こにこだわったりしてはいけないのです。

    お釈迦様が説かれた「苦く諦たい」「集じつ

    たい諦

    」「滅めつ

    たい諦

    「道どう

    たい諦

    」の「四し諦たい」の真理を超えて、前に進

    みなさい。これまでに学んだ智慧も御ご

    り利益やくも

    捨ててしまいなさい、それが前に進んでいく

    ことなのです。

    人は自分が手に入れたものは、たしかに自分

    のものだと思っています。しかし、死ぬとき

    にはそのひとつだって持ってはいけません。

    すべては預かりものなのです。

    「菩ぼ薩さつ」は悟りの世界に至るための最高の智

    慧を完成させている人です。

  • 1819

    心訳 般若心経 全訳

    202122232425

    心しん無むー罣けー礙げー 無むー罣けー礙げー故こー 無むー有うー恐くー怖ふー

    遠おん離りー一いつ切さい顚てん倒どう夢むー想そう 究くー竟きよう涅ねー槃はん

    三さん世ぜー諸しよー仏ぶつ 依えー般はん若にやー波はー羅らー蜜みー多たー故こー

    得とく阿あー耨のく多たー羅らー三さん藐みやく三さん菩ぼー提だい

    故こー知ちー般はん若にやー波はー羅らー蜜みー多たー

    是ぜー大だい神じん呪しゆー 是ぜー大だい明みよう呪しゆー 

    心をさえぎり、妨げるものは、なにもなくな

    れば、恐怖などというものもないのです。

    すべての誤ったものの見方や、ありもしない

    ことを想像することによる迷いから、遠く離

    れて、悟りを究め尽くすのです。

    過去、現在、未来という三世に通じる空の真

    理を理解しているのだから、誰にも永遠の真

    理が宿っています。

    究め尽くすことができない悟りを得たのです。

    それ故に、智慧が完成したことを、知らなけ

    ればいけません。

    この自在に神に通じ、心の闇やみを破る智慧でも

    ある真言(呪じゆ

    もん文

    )は、声にして出すこと、唱

    2627282930

    是ぜー無むー上じよう呪しゆー 是ぜー無むー等とう等どう呪しゆー 

    能のう除じよー一いつ切さい苦くー 真しん実じつ不ふー虚こー

    故こー説せつ般はん若にやー波はー羅らー蜜みー多たー呪しゆー  即そく説せつ呪しゆー曰わつ

     羯ぎやー諦てい 羯ぎやー諦てい 波はー羅らー羯ぎやー諦てい

    波は羅ら僧そう羯ぎやー諦てい 菩ぼー提じー娑そ婆わ訶かー

    えることが重要です。

    また、この智慧は永遠に究まることがない、

    絶対にして、平等な真言です。

    すべての苦は取り除くことができます。そし

    て、真実とは、あらゆるものが「無常」「無

    我」で成り立っていますが、それはけっして

    虚むなしいことではないのです。

    故に般若波羅蜜多(智慧の完成)を説きまし

    ょう。すなわち、その真言は、

    「ガテー 

    ガテー 

    パーラガテー」(煩悩を取

    り除き、他の人の過ちを取り除く)

    「パーラーサンガテー 

    ボーディスプァハー」

    (わたしもみなも、ともに行こう、行こう、悟

  • 20

    1章  「苦しみ」や「つらさ」で心をつぶされない

    21

    31

    般はん若にや心しん経ぎよう 

    りの境地へ)

    これが最高の智慧の真髄を説くお経、『般若

    心経』なのです。

    「苦しみ」や「つらさ」で心をつぶされない

    1章

  • 22

    1章  「苦しみ」や「つらさ」で心をつぶされない

    23

    01彼岸とは、この世で「悟る境地」に行くこと

    「摩ま訶か般はん

    にや若波は

    ら羅蜜みつ多た心しん経ぎよう」

    心 訳

    「摩訶般若波羅蜜多心経」はこのお経のタイトル、経題です。もともとは古代インドのサ

    ンスクリット語で書かれていたわけですが、その発音にできるかぎり近い漢字を当てたの

    です。意味を見ていきましょう。

    「摩訶」はすばらしい、すぐれている、大きいという意味です。ただし、「〜に比べて」

    すばらしい、すぐれている、大きいということではありません。他に比べるものがないほ

    ど、あらゆるものを超えて、すばらしい、すぐれている、大きいということなのです。普

    遍的な偉大さといってもいいですね。

    それに続く「般若」は智ち

    え慧のこと。ふつうは知恵という字を使うことが多いと思います

    が、自分の経験や知識をもとにして、さまざまな判断や決断をしていくのがその知恵。一

    方、智慧は自分の心の内を見つめることで、真理を明らかにしていくことをいいます。

    仏教でいう真理とは、すべてのものは移り変わっていく、変わらないものはなにひとつ

    ない、ということ。そして、すべてのものはかかわりあいのなかに存在している。『般はん

    にや若

    心しん経

    ぎよう

    』には何度も「空」という言葉が出てきますが、その真理に気づき、理解していく

    のが、すなわち空ということなのです。

    「波羅蜜多」の意味は完成です。仏教的にいい換えれば「彼岸に達する」こと。わたした

    ちが生きている世界、この世の中が此し岸がん(こちら側)、それに対して渡っていくべき向こ

    う側が彼岸です。

    此岸では、人は誰しも悩みや迷い、苦しみや執着といったものにとらわれています。偉

    大なる智慧を学ぶことによって、それらを脱し、彼岸に達する。それは悟りの境地に至る

    ことにほかなりません。

    最後の「心経」の「心」は仏様の教えのもっとも中心となるもの、「経」は「糸」を意

    味しています。サンスクリット語では「スートラ」といいますが、教えがバラバラになら

    ないように、しっかり束ねるということから、糸の字が使われているのです。

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    1章  「苦しみ」や「つらさ」で心をつぶされない

    25

    まとめると、偉大なる仏様の智慧を完成させて、悟りの境地に至るための教えを説くお

    経である、ということを「摩訶般若波羅蜜多心経」の経題は示しています。

    ちなみに、大本の経典である『大般若波羅蜜多経』は六〇〇巻、四八二万六九三字にも

    およびます。それを凝縮してわずか二六二文字(経題の一〇文字は除く)にまとめたのが、

    『般若心経』なのです。

    なお、天台宗や真言宗では経題の頭に「仏説」の二文字をつけていますが、禅宗ではつ

    けません。仏説とはお釈しや迦か様が説いたという意味ですが、仏典、経典のすべてはお釈迦様

    が説いたものですから、あえてつけるまでもない、というのがその理由です。

    解説・枡野流

    ・無心になるということ

    『般若心経』で繰り返し説かれているのは、空になれ、無心になれ、ということです。こ

    れだけではわかりにくいですね。別の言葉にすると、余計なことは考えるな、そのものと、

    そのことと、ひとつになれということだと思います。

    禅語に「喫きつ茶さ喫きつ飯ぱん」というものがあります。その由来は、曹洞宗大本山總そう持じ

    じ寺のご開山

    である瑩けい

    ざん山

    禅師がおっしゃった「茶に逢おうては茶を喫し、飯に逢うては飯を喫す」という

    言葉です。

    これがひとつになるということでしょう。お茶を飲むときにはお茶を飲むという、その

    ことだけに集中する。ご飯をいただくときは、ご飯をいただくという、そのことだけを精

    いっぱいにやる。

    ごく当たり前のことのようですが、これが至極むずかしいのです。みなさんは日常的に

    お茶を飲んだり、食事をしたりしているわけですが、お茶を飲みながら、

    「午後の会議でうまく自分の主張が話せるだろうか?」

    などと考えたりしていませんか? 

    あるいは、食事をしている最中に、

    「明日の彼とのデートはどんなおしゃれをしていこうかな」

    と思ったりすることはありませんか?

    仕事のことを考えたり、デートに思いを馳はせたりするのが、悪いことだというつもりは

    ありませんが、お茶を飲んでいるとき、食事をしているときは、それらも余計なことなの

    です。お茶を飲むという行為、食事をしているというふるまいと「心」がひとつになって

    いない。つまり、心ここにあらずで、お茶を飲み、食事をしているわけですね。

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    1章  「苦しみ」や「つらさ」で心をつぶされない

    27

    お茶を飲んでいるときは、「ああ、おいしい」という気持ちだけが心いっぱいに広がる。

    食事をしているときは、「この料理をいただけてありがたい」という感覚だけが心にある。

    それがまさしく、「喫茶喫飯」の境地。お茶と、食事と、ひとつになっている姿です。空

    ということに引き寄せていえば、心を空じている姿なのです。無心でやるべきことをやっ

    ている姿といってもいいですね。

    ・「ひとつになる」ことのむずかしさ

    もちろん、この禅語はお茶や食事についてだけいっているものではありません。一事が

    万事です。仕事をしながら、「さて、今日はどこに飲みにいくかな」というのも、仕事と

    ひとつになっていないことですし、逆に休日に、たとえば、ゴルフをしながら、「明日の

    仕事の準備はあれでよかっただろうか?」と考えるのも、ゴルフ(遊び)とひとつになっ

    ていない、ということなのです。

    掃除や洗濯といった家事をしているときも、趣味に興じているときも、なにもかもが同

    じです。そのような視点で、みなさんの日常を振り返ってみてください。さあ、いかがで

    すか、ひとつになることのむずかしさが、ヒシヒシと感じられませんか?

    最近の若い人には、デートの最中でも、おたがいがスマホとにらめっこして、別の人と

    ラインやメールをしている、といった光景がしばしば見られるようです。目の前にデート

    の相手がいるのに、まともに会話を交わさないのですから、心ここにあらずのふるまいの

    典型的な例といっていいかもしれません。

    そんなデートに意味があるのでしょうか。おおいに疑問。わたしには貴重な時間をただ

    ただ、浪費しているとしか思えません。

    「そんなふうにいわれたら、やることなすことのすべてが、ひとつになっていないかもし

    れない……」

    そんな思いがするという人、多いのではありませんか? 

    しかし、みなさんの『般若心

    経』への取り組みはまだ始まったばかり。その世界にほんの一歩足を踏み入れたところな

    のです。

    いまは、ひとつになることの大切さとむずかしさを、しっかり胸に刻み込んでいただけ

    たら、それでいいのです。

    さあ、ここからじっくり、わたしといっしょに『般若心経』と向き合っていきましょう。

    心を空じる境地への実践的な挑戦です!

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