hotel market outlook trends worth ......2019/09/04  · hotel market outlook trends worth...

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HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH CAPITALIZING ON 2018年の訪日外客数は3,119万人と、初めて年間3,000人の大台に乗った 【図表1。海外からの訪客数が3,000万人超 の国は、世界でも10 ヶ国程度、アジア・パシフィック地域では、中 国、タイに次いで日本が3 ヶ国目になる。増加率は対前年比+ 8.7%で、 2016年から続いた20%前後の増加率と比べると鈍 化したが、 2018年は日本各地で豪雪、豪雨、台風、地震の災害 に見舞われたことを考えれば、なお順調なペースで増加してい ると言えるだろう。ここに2019年のラグビーワールドカップ、 2020年の東京オリンピック・パラリンピックといった国際的祭典 による観光客数の上積みが加われば、 2020年の政府目標であ る訪日外客数4,000万人の達成が見えてくる。 2021 年のホテルマーケット展望 増加する 需要と供給の中で 勝ち残るホテル 1 延べ宿泊者数:各日の宿泊者数を足し合わせた数。仮に二人組の旅行者が7日間宿泊した場合は、 2人× 7=14人となる。 訪日外客数の増加を受け、外国人宿泊需要も増加している。 2018年の外国人延べ宿泊者数 1 は対前年比11.2%増(約 900万人泊増)の8,859万人泊。一方、日本人は海外への旅行 が増加したこともあり、日本国内での延べ宿泊者数は対前年比 2.2%減(約900万人泊減)の4.2億人泊。国内での日本人宿泊 需要の減少分を、ほぼ外国人宿泊需要の増加分で埋め戻す結 果となった 【図表2こうしたインバウンド需要の拡大が一時的なものではなく、今 後も継続して見込まれることを背景に、各地でホテルの開業が 相次いでいる。主要9都市における20192021年開業予定 のホテルの開発計画も、この1年の間に公表ベースで約3万室 から2.5倍の約8万室に増加した。改めて主要9都市で2019から2021年に供給される客室数を集計した結果、 2018年末 時点の既存ストックの24%に相当する見込みである。既存ス トックに対する供給客室数の割合を都市別に見ると、京都が最 も高い51%、次いで大阪の32%、東京が24%と続く結果と なった 【図表3。供給のインパクトが最も大きい京都は、賃貸オ フィスの貸室総面積が2010年末時点との比較で唯一減少して いる都市でもある。オフィスからホテルへの建て替えといった、 他用途からの建て替えも進んでいる。 インバウンド需要拡大の中で 浮上するホテル開発計画 1 HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH CAPITALIZING ON インバウンド需要の拡大が今後も継続して見込 まれることを背景に、全国各地でホテルの開業 が相次いでいる。 2021年までの供給量は主要 9都市合計で8万室、これは2018年末時点の 既存ストックの24%に相当する。ストックが増 加する今後は、あらゆるホテルがインバウンド 需要拡大の恩恵に与れるわけではなくなるだろ う。単純な価格競争を避け、差別化を図り、競争 に勝ち残るための鍵とは何か。 CBREが独自に 収集・分析したデータに基づき、考察する。 土屋 CBRE Hotels ディレクター 五十嵐 芳生 CBRE リサーチ アソシエイトディレクター 本田 あす香 CBRE リサーチ ディレクター ●本稿は、 2019610日にCBREホテルズとCBRE リサーチが共同で発表した レポート(HOTEL VIEWPOINT JUNE 2019)を再録したものです。 【図表1訪日外客数と政府目標 【図表3都市別ホテル客室新規供給 【図表2延べ宿泊者数の推移 2020年は政府目標値 出所:日本政府観光局(JNTO)、首相官邸、 CBRE2019145 40 35 30 25 20 15 10 5 出所:観光庁、 CBRE20191出所: CBRE201920 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 50 40 30 20 10 0 10 20 30 60 %(百万人) 実績値 〔左軸〕 政府目標値 〔左軸〕 伸び率 〔右軸〕 600 500 400 300 200 100 0 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 40 30 20 10 0 10 50 %(百万人) 日本人延べ宿泊者数 〔左軸〕 外国人延べ宿泊者数 〔左軸〕 日本人伸び率 〔右軸〕 外国人伸び率 〔右軸〕 150 125 100 75 50 25 0 名古屋 50 40 30 20 10 0 60 %(千室) 2018年既存客室数(A〔左軸〕 2019~2021年新規客室数(B〔左軸〕 B)÷(A)既存客室数に対する新規供給の割合 〔右軸〕

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Page 1: HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH ......2019/09/04  · HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH CAPITALIZING ON 2018年の訪日外客数は3,119万人と、初めて年間3,000万 人の大台に乗った【図表1】。海外からの訪客数が3,000万人超

HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH CAPITALIZING ON

 2018年の訪日外客数は3,119万人と、初めて年間3,000万

人の大台に乗った【図表1】。海外からの訪客数が3,000万人超

の国は、世界でも10ヶ国程度、アジア・パシフィック地域では、中

国、タイに次いで日本が3ヶ国目になる。増加率は対前年比+

8.7%で、2016年から続いた20%前後の増加率と比べると鈍

化したが、2018年は日本各地で豪雪、豪雨、台風、地震の災害

に見舞われたことを考えれば、なお順調なペースで増加してい

ると言えるだろう。ここに2019年のラグビーワールドカップ、

2020年の東京オリンピック・パラリンピックといった国際的祭典

による観光客数の上積みが加われば、2020年の政府目標であ

る訪日外客数4,000万人の達成が見えてくる。

2021年のホテルマーケット展望

増加する需要と供給の中で勝ち残るホテル

※1 延べ宿泊者数:各日の宿泊者数を足し合わせた数。仮に二人組の旅行者が7日間宿泊した場合は、2人×7日=14人となる。

政府目標は、2020年の訪日外客数を4,000万人、2030年

は6,000万人に定めている。また政府目標値に基づき外国人延

べ宿泊者数を計算すると、2020年に1.4億人、2030年に2.2

億人という目標値となる。この目標が達成されることを前提に、

主要9都市の2021年のホテルマーケットの需給バランスを検

証した。2021年の外国人宿泊需要については、2020年と

2030年の政府目標から年平均成長率を用い推計した。日本人

の国内宿泊需要については、将来の人口減少を考慮して推計し

た。この推計によって得られた2021年の宿泊需要を基に、ホテ

ル運営にとって適正とみられる空室を見込んで必要客室数を算

出し、これを同年の予想客室数ストックと比較した(検証にあ

たっての前提条件の詳細は、【図表4】を参照)。

 差別化の一つ目の鍵は、より細やかな立地戦略だ。今後は都

市単位でホテルの事業性を検討するのでは不十分で、駅や空港

などへの交通機関や観光地へのアクセスの良さ、ナイトタイム

エコノミーが活発なエリアへの近接性、新しさだけでは勝負でき

ないような供給が多いエリアの把握など、細やかに立地のポテ

ンシャルを見極め、その立地特性に応じた商品構成を検討する

必要がある。また、交通アクセスや周辺繁華性が弱いために供給

が少ないエリアでも、今後ポテンシャルが変化する可能性はな

いか、ホテル自体が需要を喚起する仕掛けを施すことで弱点を

埋めることができないか、等の立地戦略も検討に値するだろう。

 二つ目の鍵は、ハードを含めた商品の多様化だ。宿泊主体が

日本人だけでなく多数の外国人も加わったことで、受け皿とな

るホテルにも変化が見られるようになっている。例えば、客室構

成の多様化だ。訪日外国人の86%※3を占めるアジアからの観

光客は、単身で訪日するケースは2割程度にとどまり、残りの8

割は家族や親族、友人など複数人で日本を訪れている※4。すな

わち、訪日外国人の現在の宿泊需要の多くにとって、シングルの

客室では狭いのだ。すでに外国人観光客の多い東京、大阪、京

都では、近年はシングルからより広いダブルやツインへと客室

構成がシフトしている【図表8】。ターゲットとする客層に応じて

ハードも多様化する必要があるだろう。

ルのカテゴリは「価格帯」と「機能」の2軸で分類されることが一

般的だが、この新しいタイプのホテルはそれが当てはまらず、価

格帯も広い。アメリカでは平均を上回るパフォーマンスを発揮

する傾向が確認されており、まだ歴史の浅い日本においても成

功する可能性は十分にあるだろう。登場の背景は、旅行者の嗜

好が、モノからコト、すなわち「体験」へとシフトしていることが

関係している。ブティック・ライフスタイルホテルは、宿泊だけに

とどまらない、多様化した旅行者のニーズを充足し得るものとし

て期待されている(前出コラム「マズローの欲求段階説とホテ

ルタイプ」も参照)。

 訪日外客数の増加を受け、外国人宿泊需要も増加している。

2018年の外国人延べ宿泊者数※1は対前年比11.2%増(約

900万人泊増)の8,859万人泊。一方、日本人は海外への旅行

が増加したこともあり、日本国内での延べ宿泊者数は対前年比

2.2%減(約900万人泊減)の4.2億人泊。国内での日本人宿泊

需要の減少分を、ほぼ外国人宿泊需要の増加分で埋め戻す結

果となった【図表2】。

 こうしたインバウンド需要の拡大が一時的なものではなく、今

後も継続して見込まれることを背景に、各地でホテルの開業が

相次いでいる。主要9都市における2019~2021年開業予定

のホテルの開発計画も、この1年の間に公表ベースで約3万室

から2.5倍の約8万室に増加した。改めて主要9都市で2019年

から2021年に供給される客室数を集計した結果、2018年末

時点の既存ストックの24%に相当する見込みである。既存ス

トックに対する供給客室数の割合を都市別に見ると、京都が最

も高い51%、次いで大阪の32%、東京が24%と続く結果と

なった【図表3】。供給のインパクトが最も大きい京都は、賃貸オ

フィスの貸室総面積が2010年末時点との比較で唯一減少して

いる都市でもある。オフィスからホテルへの建て替えといった、

他用途からの建て替えも進んでいる。

インバウンド需要拡大の中で浮上するホテル開発計画1

都市全体で見ると、需給バランスは逼迫しない

 推計の結果、主要9都市のいずれにおいても、2021年の必

要客室数(=需要)は予想ストック(=供給)を下回る結果となっ

た【図表5】。必要客室数と予想ストックのギャップは都市によっ

て異なり、大阪で2.1万室、東京及び京都で1.2万室、名古屋で

8千室、仙台で4千室、札幌で3千室、広島及び那覇で2千室、福

岡で1千室となった。三大マーケット(東京、大阪、京都)に属する

都市のギャップが大きい一方、地方部に属する都市のギャップは

比較的小さい。

潜在化した需要の回帰の可能性

ただし、予想ストックが必要客室数を上回ることは、必ずしも

供給過剰を意味するものではない。これまでストック不足に起

因して、予約が取りにくくなったことから、需要の一部が顕在化

していなかった可能性もある。実績値をもとに推計された需要

の予測値には、この潜在需要は織り込まれていない。

実際、東京都、大阪府、京都府、福岡県、沖縄県を訪問した外

国人訪問者のうち、訪問先で宿泊できた訪問者の割合は他のエ

リアに比べて低い※2【図表6】。中でも大阪府は、2014年に大阪

府を訪れた90%の外国人が大阪府内で宿泊していたが、2017

年にはその割合が64%まで低下している。外国人訪問者の宿

泊率の低いこれらの地域では、供給によって予約の取りにくさ

が解消されれば、これまで流出または潜在化していた需要の回

帰・顕在化が期待できるだろう。現に供給が進む京都府では、

2017年に外国人訪問者宿泊率が上昇しており、需要回帰の兆

しが見られる。

競争がホテルマーケットを成熟させる

すでにホテルの開業が相次いでいる都市の中には、正常な競

争原理が働くことで、ホテルによって優勝劣敗が分かれ始めて

いる都市もある。ストックが増加する今後は、あらゆるホテルが

インバウンド需要拡大の恩恵に与れるわけではなくなるだろう。

単純な価格競争を避け、誘客力の強いホテルを作るには、差別

化が鍵となる。

 三つ目の鍵は、アッパークラス以上のホテルだ。CBREが把握

している主要9都市の新規供給の87%は宿泊主体型※5のホテ

ルであり、フルサービスホテル※6(その多くはアッパークラス以

上に属する)は5%に過ぎない【図表9】。世界各都市のインバウ

ンド需要(国際観光到着数)を考慮に入れると、日本における

アッパークラス以上のホテルの数はまだ少なく、開発余地は十

分にあるだろう【図表10】。

四つ目の鍵は、日本では新しいタイプのホテルとして注目さ

れているブティック・ライフスタイルホテルだ。ブティック・ライフ

スタイルホテルとは、一般的に、独創的なコンセプトに基づいた

高いデザイン性を備え、宿泊にとどまらない付加価値や体験を

提供し、ホテルでの時間を楽しめるホテルと言われている。ホテ

日本だけでなく、世界に目を向けると、国際観光は増加基調

にある【図表11】。交通運輸技術の進歩、経済発展による中間所

得層の増加、外国の観光都市に関する情報へのアクセスが容易

になったことなど、その要因はさまざまだ。過去に世界全体の国

際観光需要が減少したことはSARSの流行や世界同時不況を原

因とするものなど数年しかなく、この潮流は力強い。中でもアジ

ア・パシフィックの国際観光需要は成長著しい。2000年代半ば

に米州を上回り、その格差は年々拡大している。世界観光機関

の予測※7によると、今後もこの潮流が続く見込みであり、2017

年の全世界合計の実績値は13.26億人※8と、予測値を約

8,000万人上回るペースで増加していることを踏まえると、ア

ジア・パシフィックに属する日本のホテル需要は、さらに拡大し続

けることが期待される。

リニア中央新幹線や中長距離を結ぶバスターミナルをはじめ

としたインフラ整備も進んでいる。こうしたアクセス性の向上は

日帰り客を増やす懸念も生じ得るが、リニア中央新幹線につい

ては元々日帰りが可能であった都市間を結ぶものであり、企業

の拠点戦略がダイナミックに変わらない限り、懸念の顕在化は

限定的だと考えられる。むしろアクセス性の向上はターミナル

の後背地まで商圏が広がることを意味し、新たな観光需要を生

む可能性を含んでいる。

国内の構造変化にも目を向ける必要がある。今の旅行動態に

変化がなければ、国内の人口減少はすなわち宿泊需要の減少に

結びつく。一方で、働き方改革によって余暇が増加すれば宿泊を

伴う旅行が増える可能性がある。テクノロジーが進化して、働く

場所の柔軟性が認められ、旅行しながら仕事もするというワー

ケーションという形態も見受けられるようになってきた。このよ

うな形態が長期の宿泊需要を生み出す可能性もある。また、健

康なシニアが増え、インフラ整備によって身体が衰えても旅行

できる環境が整えられれば、旅行に行く回数も増えるだろう。

このように、宿泊する人の国籍、年齢層、目的は今後ますます

多様化することが見込まれる。多様化した需要に合わせて、ホテ

ルも絶えず変化をし続けることが、競争に勝ち残る鍵となるだ

ろう。

2019年のラグビーワールドカップ、翌2020年の東京オリン

ピック・パラリンピック、2025年の大阪・関西万博といったイベン

トは、会場周辺での宿泊需要を大きくブーストさせることは間違

いない。周辺都市を回遊する観光需要も生じるだろう。またこう

した一時的なイベントにとどまらず、2030年までの間には統合

型リゾート(IR)のオープンも見込まれており、持続的に観光需

要を増加させる集客装置の登場も控えている。

HOTEL MARKET OUTLOOK

TRENDS WORTH CAPITALIZING ON

インバウンド需要の拡大が今後も継続して見込

まれることを背景に、全国各地でホテルの開業

が相次いでいる。2021年までの供給量は主要

9都市合計で8万室、これは2018年末時点の

既存ストックの24%に相当する。ストックが増

加する今後は、あらゆるホテルがインバウンド

需要拡大の恩恵に与れるわけではなくなるだろ

う。単純な価格競争を避け、差別化を図り、競争

に勝ち残るための鍵とは何か。CBREが独自に

収集・分析したデータに基づき、考察する。

土屋 潔CBRE Hotelsディレクター

五十嵐 芳生CBRE リサーチアソシエイトディレクター

本田 あす香CBRE リサーチディレクター

●本稿は、2019年6月10日にCBREホテルズとCBREリサーチが共同で発表したレポート(HOTEL VIEWPOINT JUNE 2019)を再録したものです。

【図表1】訪日外客数と政府目標

【図表3】都市別ホテル客室新規供給

【図表2】延べ宿泊者数の推移

※2020年は政府目標値 ●出所:日本政府観光局(JNTO)、首相官邸、CBRE、2019年1月

45

40

35

30

25

20

15

10

5

●出所:観光庁、CBRE、2019年1月

●出所:CBRE、2019年2月

0 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020

50

40

30

20

10

0

-10

-20

-30

60(%)(百万人)実績値〔左軸〕 政府目標値〔左軸〕 伸び率〔右軸〕

600

500

400

300

200

100

0 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

40

30

20

10

0

-10

50(%)(百万人) 日本人延べ宿泊者数〔左軸〕外国人延べ宿泊者数〔左軸〕

日本人伸び率〔右軸〕外国人伸び率〔右軸〕

150

125

100

75

50

25

0 京 都 大 阪 東 京 札 幌 福 岡 名古屋 那 覇広 島 仙 台

50

40

30

20

10

0

60(%)(千室) 2018年既存客室数(A)〔左軸〕2019年~2021年新規客室数(B)〔左軸〕(B)÷(A)既存客室数に対する新規供給の割合〔右軸〕

Page 2: HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH ......2019/09/04  · HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH CAPITALIZING ON 2018年の訪日外客数は3,119万人と、初めて年間3,000万 人の大台に乗った【図表1】。海外からの訪客数が3,000万人超

HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH CAPITALIZING ON

2018年の訪日外客数は3,119万人と、初めて年間3,000万

人の大台に乗った【図表1】。海外からの訪客数が3,000万人超

の国は、世界でも10ヶ国程度、アジア・パシフィック地域では、中

国、タイに次いで日本が3ヶ国目になる。増加率は対前年比+

8.7%で、2016年から続いた20%前後の増加率と比べると鈍

化したが、2018年は日本各地で豪雪、豪雨、台風、地震の災害

に見舞われたことを考えれば、なお順調なペースで増加してい

ると言えるだろう。ここに2019年のラグビーワールドカップ、

2020年の東京オリンピック・パラリンピックといった国際的祭典

による観光客数の上積みが加われば、2020年の政府目標であ

る訪日外客数4,000万人の達成が見えてくる。

※2 福岡及び沖縄県の外国人訪問者宿泊率が低いことについては、クルーズ船の寄港が多く、ホテルに宿泊しない外国人が多いことの影響もある

 政府目標は、2020年の訪日外客数を4,000万人、2030年

は6,000万人に定めている。また政府目標値に基づき外国人延

べ宿泊者数を計算すると、2020年に1.4億人、2030年に2.2

億人という目標値となる。この目標が達成されることを前提に、

主要9都市の2021年のホテルマーケットの需給バランスを検

証した。2021年の外国人宿泊需要については、2020年と

2030年の政府目標から年平均成長率を用い推計した。日本人

の国内宿泊需要については、将来の人口減少を考慮して推計し

た。この推計によって得られた2021年の宿泊需要を基に、ホテ

ル運営にとって適正とみられる空室を見込んで必要客室数を算

出し、これを同年の予想客室数ストックと比較した(検証にあ

たっての前提条件の詳細は、【図表4】を参照)。

 差別化の一つ目の鍵は、より細やかな立地戦略だ。今後は都

市単位でホテルの事業性を検討するのでは不十分で、駅や空港

などへの交通機関や観光地へのアクセスの良さ、ナイトタイム

エコノミーが活発なエリアへの近接性、新しさだけでは勝負でき

ないような供給が多いエリアの把握など、細やかに立地のポテ

ンシャルを見極め、その立地特性に応じた商品構成を検討する

必要がある。また、交通アクセスや周辺繁華性が弱いために供給

が少ないエリアでも、今後ポテンシャルが変化する可能性はな

いか、ホテル自体が需要を喚起する仕掛けを施すことで弱点を

埋めることができないか、等の立地戦略も検討に値するだろう。

 二つ目の鍵は、ハードを含めた商品の多様化だ。宿泊主体が

日本人だけでなく多数の外国人も加わったことで、受け皿とな

るホテルにも変化が見られるようになっている。例えば、客室構

成の多様化だ。訪日外国人の86%※3を占めるアジアからの観

光客は、単身で訪日するケースは2割程度にとどまり、残りの8

割は家族や親族、友人など複数人で日本を訪れている※4。すな

わち、訪日外国人の現在の宿泊需要の多くにとって、シングルの

客室では狭いのだ。すでに外国人観光客の多い東京、大阪、京

都では、近年はシングルからより広いダブルやツインへと客室

構成がシフトしている【図表8】。ターゲットとする客層に応じて

ハードも多様化する必要があるだろう。

ルのカテゴリは「価格帯」と「機能」の2軸で分類されることが一

般的だが、この新しいタイプのホテルはそれが当てはまらず、価

格帯も広い。アメリカでは平均を上回るパフォーマンスを発揮

する傾向が確認されており、まだ歴史の浅い日本においても成

功する可能性は十分にあるだろう。登場の背景は、旅行者の嗜

好が、モノからコト、すなわち「体験」へとシフトしていることが

関係している。ブティック・ライフスタイルホテルは、宿泊だけに

とどまらない、多様化した旅行者のニーズを充足し得るものとし

て期待されている(前出コラム「マズローの欲求段階説とホテ

ルタイプ」も参照)。

訪日外客数の増加を受け、外国人宿泊需要も増加している。

2018年の外国人延べ宿泊者数※1は対前年比11.2%増(約

900万人泊増)の8,859万人泊。一方、日本人は海外への旅行

が増加したこともあり、日本国内での延べ宿泊者数は対前年比

2.2%減(約900万人泊減)の4.2億人泊。国内での日本人宿泊

需要の減少分を、ほぼ外国人宿泊需要の増加分で埋め戻す結

果となった【図表2】。

こうしたインバウンド需要の拡大が一時的なものではなく、今

後も継続して見込まれることを背景に、各地でホテルの開業が

相次いでいる。主要9都市における2019~2021年開業予定

のホテルの開発計画も、この1年の間に公表ベースで約3万室

から2.5倍の約8万室に増加した。改めて主要9都市で2019年

から2021年に供給される客室数を集計した結果、2018年末

時点の既存ストックの24%に相当する見込みである。既存ス

トックに対する供給客室数の割合を都市別に見ると、京都が最

も高い51%、次いで大阪の32%、東京が24%と続く結果と

なった【図表3】。供給のインパクトが最も大きい京都は、賃貸オ

フィスの貸室総面積が2010年末時点との比較で唯一減少して

いる都市でもある。オフィスからホテルへの建て替えといった、

他用途からの建て替えも進んでいる。

2021年のホテルマーケット2都市全体で見ると、需給バランスは逼迫しない

 推計の結果、主要9都市のいずれにおいても、2021年の必

要客室数(=需要)は予想ストック(=供給)を下回る結果となっ

た【図表5】。必要客室数と予想ストックのギャップは都市によっ

て異なり、大阪で2.1万室、東京及び京都で1.2万室、名古屋で

8千室、仙台で4千室、札幌で3千室、広島及び那覇で2千室、福

岡で1千室となった。三大マーケット(東京、大阪、京都)に属する

都市のギャップが大きい一方、地方部に属する都市のギャップは

比較的小さい。

潜在化した需要の回帰の可能性

 ただし、予想ストックが必要客室数を上回ることは、必ずしも

供給過剰を意味するものではない。これまでストック不足に起

因して、予約が取りにくくなったことから、需要の一部が顕在化

していなかった可能性もある。実績値をもとに推計された需要

の予測値には、この潜在需要は織り込まれていない。

 実際、東京都、大阪府、京都府、福岡県、沖縄県を訪問した外

国人訪問者のうち、訪問先で宿泊できた訪問者の割合は他のエ

リアに比べて低い※2【図表6】。中でも大阪府は、2014年に大阪

府を訪れた90%の外国人が大阪府内で宿泊していたが、2017

年にはその割合が64%まで低下している。外国人訪問者の宿

泊率の低いこれらの地域では、供給によって予約の取りにくさ

が解消されれば、これまで流出または潜在化していた需要の回

帰・顕在化が期待できるだろう。現に供給が進む京都府では、

2017年に外国人訪問者宿泊率が上昇しており、需要回帰の兆

しが見られる。

競争がホテルマーケットを成熟させる

 すでにホテルの開業が相次いでいる都市の中には、正常な競

争原理が働くことで、ホテルによって優勝劣敗が分かれ始めて

いる都市もある。ストックが増加する今後は、あらゆるホテルが

インバウンド需要拡大の恩恵に与れるわけではなくなるだろう。

単純な価格競争を避け、誘客力の強いホテルを作るには、差別

化が鍵となる。

 三つ目の鍵は、アッパークラス以上のホテルだ。CBREが把握

している主要9都市の新規供給の87%は宿泊主体型※5のホテ

ルであり、フルサービスホテル※6(その多くはアッパークラス以

上に属する)は5%に過ぎない【図表9】。世界各都市のインバウ

ンド需要(国際観光到着数)を考慮に入れると、日本における

アッパークラス以上のホテルの数はまだ少なく、開発余地は十

分にあるだろう【図表10】。

四つ目の鍵は、日本では新しいタイプのホテルとして注目さ

れているブティック・ライフスタイルホテルだ。ブティック・ライフ

スタイルホテルとは、一般的に、独創的なコンセプトに基づいた

高いデザイン性を備え、宿泊にとどまらない付加価値や体験を

提供し、ホテルでの時間を楽しめるホテルと言われている。ホテ

日本だけでなく、世界に目を向けると、国際観光は増加基調

にある【図表11】。交通運輸技術の進歩、経済発展による中間所

得層の増加、外国の観光都市に関する情報へのアクセスが容易

になったことなど、その要因はさまざまだ。過去に世界全体の国

際観光需要が減少したことはSARSの流行や世界同時不況を原

因とするものなど数年しかなく、この潮流は力強い。中でもアジ

ア・パシフィックの国際観光需要は成長著しい。2000年代半ば

に米州を上回り、その格差は年々拡大している。世界観光機関

の予測※7によると、今後もこの潮流が続く見込みであり、2017

年の全世界合計の実績値は13.26億人※8と、予測値を約

8,000万人上回るペースで増加していることを踏まえると、ア

ジア・パシフィックに属する日本のホテル需要は、さらに拡大し続

けることが期待される。

リニア中央新幹線や中長距離を結ぶバスターミナルをはじめ

としたインフラ整備も進んでいる。こうしたアクセス性の向上は

日帰り客を増やす懸念も生じ得るが、リニア中央新幹線につい

ては元々日帰りが可能であった都市間を結ぶものであり、企業

の拠点戦略がダイナミックに変わらない限り、懸念の顕在化は

限定的だと考えられる。むしろアクセス性の向上はターミナル

の後背地まで商圏が広がることを意味し、新たな観光需要を生

む可能性を含んでいる。

国内の構造変化にも目を向ける必要がある。今の旅行動態に

変化がなければ、国内の人口減少はすなわち宿泊需要の減少に

結びつく。一方で、働き方改革によって余暇が増加すれば宿泊を

伴う旅行が増える可能性がある。テクノロジーが進化して、働く

場所の柔軟性が認められ、旅行しながら仕事もするというワー

ケーションという形態も見受けられるようになってきた。このよ

うな形態が長期の宿泊需要を生み出す可能性もある。また、健

康なシニアが増え、インフラ整備によって身体が衰えても旅行

できる環境が整えられれば、旅行に行く回数も増えるだろう。

このように、宿泊する人の国籍、年齢層、目的は今後ますます

多様化することが見込まれる。多様化した需要に合わせて、ホテ

ルも絶えず変化をし続けることが、競争に勝ち残る鍵となるだ

ろう。

マズローの欲求段階説とホテルタイプ

C O L U M N

 心理学に「マズローの欲求段階説」(Maslow's Hierarchy of Needs)

という理論※がある。経営学にも応用されている理論で、「人間は自

己実現に向かって絶えず成長する」と仮定し、その欲求を階層で理

論化したもの。「自己実現理論」とも言われる。

 人間の欲求は、最も低位の欲求である生理的欲求(Physiological

needs)、安全の欲求(Safety needs)、愛情・帰属意識(Love and

Belongings)、承認欲求(Esteem)、そして最も高次の欲求である自己

実現(Self-Actualization)の五段階から成り、下位の欲求が満たされる

と上位の欲求へ上がっていくという理論。

 これをホテルタイプに当てはめてみると、睡眠という生理的欲求

を満たすことに特化しているのが、一般的なカプセルホテルに当た

るだろう。次いで安全の欲求が満たされるものとして、個室で、鍵が

かかるという意味で、エコノミーホテルがこれに当たる。愛情・帰属

意識が満たされるものとしては、宿泊以外の機能を有し、高度化し

た人的サービスを提供するミッドプライス/アップスケールホテル

がこれに当たる。さらに高次の欲求である尊厳や格式といった承認

欲求が満たされるものとしては、ラグジュアリーホテルということに

なるだろう。

 そして、自己実現の欲求を満たし得るのが、ブティック・ライフスタ

イルホテルに当たると考えることができる。他者に何かを求めると

いうよりは、自分らしさを求める欲求であり、それは人それぞれ異な

る多様化した欲求である。

 ホテルに対するニーズが多様化しているのは、旅行者の欲求が自

己実現の欲求に行き着いたことの帰結と見ることも可能である。近

年、日本においてブティック・ライフスタイルホテルが注目されてい

るのも、このような多様化したニーズを充足させ得るホテルの形態

として期待されていることに背景があると考えられる。

※Abraham Harold Maslow “A Theory of Human Motivation, Psychological Review” (1943年)

2019年のラグビーワールドカップ、翌2020年の東京オリン

ピック・パラリンピック、2025年の大阪・関西万博といったイベン

トは、会場周辺での宿泊需要を大きくブーストさせることは間違

いない。周辺都市を回遊する観光需要も生じるだろう。またこう

した一時的なイベントにとどまらず、2030年までの間には統合

型リゾート(IR)のオープンも見込まれており、持続的に観光需

要を増加させる集客装置の登場も控えている。

マズローの欲求段階説の概念図

ブティック・ライフスタイルホテル

ラグジュアリーホテル

ミッドプライス/アップスケールホテル

ビジネス/エコノミーホテル

カプセルホテル

自己実現あるべき姿になる

承認欲求尊敬、地位

愛情・帰属意識他者とのつながり

安全の欲求安全性、健康

生理的欲求食事、睡眠

【図表6】外国人訪問者宿泊率

【図表5】客室数と必要客室数(2021年) ※外国人訪問者数に占める外国人実宿泊者数の割合●出所:国土交通省「FF-DATA」、観光庁、CBRE、2019年5月

●出所:CBRE、2019年2月

●出所:CBRE、2019年2月

推計の前提条件

需給推計のイメージ

新規供給は、CBREによる個別計画の調査及び推計による積み上げ値をもって算出する

都道府県別のホテル客室数需要を求め、都市別に補正推計したうえ、稼働率を85%と想定した場合の必要客室数を求める

1室当たり宿泊者数は、都道府県毎、宿泊施設タイプ毎に算出し、2018年の値から横ばいとすることで、各都道府県の宿泊施設タイプ別の客室数需要を求める

日本人の宿泊地割合、宿泊施設タイプ割合は、2018年から横ばいとする

日本人の延べ宿泊者数は、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成29年推計)」に基づき推計

外国人が宿泊する施設タイプ(旅館、ホテルなどの分類)の割合は、2018年から横ばいとする

2021年の外国人延べ宿泊者数は、2020~2030年の年平均成長率を用いて算出する

「明日の日本を支える観光ビジョン」に示された政府目標が達成されることを想定

訪日外客数

地方部での外国人延べ宿泊者数

6,000万人

2030年2020年

1億3,000万人泊(全国に占める割合60%)

4,000万人

7,000万人泊(全国に占める割合50%)

VS

適正な空室を見込んだ必要客室数

既存客室数+

新規客室数

客室数需要

日本人延べ宿泊者数

人口予測に基づき推計

2020年▶4.2億人泊2030年▶3.9億人泊

外国人延べ宿泊者数

政府目標に基づき推計

2020年▶1.4億人泊2030年▶2.2億人泊

150

125

100

75

50

25

0 京 都 大 阪 東 京 札 幌 福 岡 名古屋 那 覇広 島 仙 台

(千室) 既存ホテル客室数(2018年)

必要客室数(稼働率85%想定)新規供給客室数(2019年~2021年)

100

80

90

70

60

50

40

30 東京都 大阪府 京都府 北海道 宮城県 愛知県 福岡県広島県 沖縄県

(%)2014年

2016年2015年

2017年

【図表4】2021年需給推計のイメージと、必要客室数・客室ストック数・推計の前提条件

Page 3: HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH ......2019/09/04  · HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH CAPITALIZING ON 2018年の訪日外客数は3,119万人と、初めて年間3,000万 人の大台に乗った【図表1】。海外からの訪客数が3,000万人超

HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH CAPITALIZING ON

2018年の訪日外客数は3,119万人と、初めて年間3,000万

人の大台に乗った【図表1】。海外からの訪客数が3,000万人超

の国は、世界でも10ヶ国程度、アジア・パシフィック地域では、中

国、タイに次いで日本が3ヶ国目になる。増加率は対前年比+

8.7%で、2016年から続いた20%前後の増加率と比べると鈍

化したが、2018年は日本各地で豪雪、豪雨、台風、地震の災害

に見舞われたことを考えれば、なお順調なペースで増加してい

ると言えるだろう。ここに2019年のラグビーワールドカップ、

2020年の東京オリンピック・パラリンピックといった国際的祭典

による観光客数の上積みが加われば、2020年の政府目標であ

る訪日外客数4,000万人の達成が見えてくる。

政府目標は、2020年の訪日外客数を4,000万人、2030年

は6,000万人に定めている。また政府目標値に基づき外国人延

べ宿泊者数を計算すると、2020年に1.4億人、2030年に2.2

億人という目標値となる。この目標が達成されることを前提に、

主要9都市の2021年のホテルマーケットの需給バランスを検

証した。2021年の外国人宿泊需要については、2020年と

2030年の政府目標から年平均成長率を用い推計した。日本人

の国内宿泊需要については、将来の人口減少を考慮して推計し

た。この推計によって得られた2021年の宿泊需要を基に、ホテ

ル運営にとって適正とみられる空室を見込んで必要客室数を算

出し、これを同年の予想客室数ストックと比較した(検証にあ

たっての前提条件の詳細は、【図表4】を参照)。

 差別化の一つ目の鍵は、より細やかな立地戦略だ。今後は都

市単位でホテルの事業性を検討するのでは不十分で、駅や空港

などへの交通機関や観光地へのアクセスの良さ、ナイトタイム

エコノミーが活発なエリアへの近接性、新しさだけでは勝負でき

ないような供給が多いエリアの把握など、細やかに立地のポテ

ンシャルを見極め、その立地特性に応じた商品構成を検討する

必要がある。また、交通アクセスや周辺繁華性が弱いために供給

が少ないエリアでも、今後ポテンシャルが変化する可能性はな

いか、ホテル自体が需要を喚起する仕掛けを施すことで弱点を

埋めることができないか、等の立地戦略も検討に値するだろう。

 二つ目の鍵は、ハードを含めた商品の多様化だ。宿泊主体が

日本人だけでなく多数の外国人も加わったことで、受け皿とな

るホテルにも変化が見られるようになっている。例えば、客室構

成の多様化だ。訪日外国人の86%※3を占めるアジアからの観

光客は、単身で訪日するケースは2割程度にとどまり、残りの8

割は家族や親族、友人など複数人で日本を訪れている※4。すな

わち、訪日外国人の現在の宿泊需要の多くにとって、シングルの

客室では狭いのだ。すでに外国人観光客の多い東京、大阪、京

都では、近年はシングルからより広いダブルやツインへと客室

構成がシフトしている【図表8】。ターゲットとする客層に応じて

ハードも多様化する必要があるだろう。

ルのカテゴリは「価格帯」と「機能」の2軸で分類されることが一

般的だが、この新しいタイプのホテルはそれが当てはまらず、価

格帯も広い。アメリカでは平均を上回るパフォーマンスを発揮

する傾向が確認されており、まだ歴史の浅い日本においても成

功する可能性は十分にあるだろう。登場の背景は、旅行者の嗜

好が、モノからコト、すなわち「体験」へとシフトしていることが

関係している。ブティック・ライフスタイルホテルは、宿泊だけに

とどまらない、多様化した旅行者のニーズを充足し得るものとし

て期待されている(前出コラム「マズローの欲求段階説とホテ

ルタイプ」も参照)。

訪日外客数の増加を受け、外国人宿泊需要も増加している。

2018年の外国人延べ宿泊者数※1は対前年比11.2%増(約

900万人泊増)の8,859万人泊。一方、日本人は海外への旅行

が増加したこともあり、日本国内での延べ宿泊者数は対前年比

2.2%減(約900万人泊減)の4.2億人泊。国内での日本人宿泊

需要の減少分を、ほぼ外国人宿泊需要の増加分で埋め戻す結

果となった【図表2】。

こうしたインバウンド需要の拡大が一時的なものではなく、今

後も継続して見込まれることを背景に、各地でホテルの開業が

相次いでいる。主要9都市における2019~2021年開業予定

のホテルの開発計画も、この1年の間に公表ベースで約3万室

から2.5倍の約8万室に増加した。改めて主要9都市で2019年

から2021年に供給される客室数を集計した結果、2018年末

時点の既存ストックの24%に相当する見込みである。既存ス

トックに対する供給客室数の割合を都市別に見ると、京都が最

も高い51%、次いで大阪の32%、東京が24%と続く結果と

なった【図表3】。供給のインパクトが最も大きい京都は、賃貸オ

フィスの貸室総面積が2010年末時点との比較で唯一減少して

いる都市でもある。オフィスからホテルへの建て替えといった、

他用途からの建て替えも進んでいる。

変化するホテルマーケットで勝ち残るヒント3

都市全体で見ると、需給バランスは逼迫しない

 推計の結果、主要9都市のいずれにおいても、2021年の必

要客室数(=需要)は予想ストック(=供給)を下回る結果となっ

た【図表5】。必要客室数と予想ストックのギャップは都市によっ

て異なり、大阪で2.1万室、東京及び京都で1.2万室、名古屋で

8千室、仙台で4千室、札幌で3千室、広島及び那覇で2千室、福

岡で1千室となった。三大マーケット(東京、大阪、京都)に属する

都市のギャップが大きい一方、地方部に属する都市のギャップは

比較的小さい。

潜在化した需要の回帰の可能性

ただし、予想ストックが必要客室数を上回ることは、必ずしも

供給過剰を意味するものではない。これまでストック不足に起

因して、予約が取りにくくなったことから、需要の一部が顕在化

していなかった可能性もある。実績値をもとに推計された需要

の予測値には、この潜在需要は織り込まれていない。

実際、東京都、大阪府、京都府、福岡県、沖縄県を訪問した外

国人訪問者のうち、訪問先で宿泊できた訪問者の割合は他のエ

リアに比べて低い※2【図表6】。中でも大阪府は、2014年に大阪

府を訪れた90%の外国人が大阪府内で宿泊していたが、2017

年にはその割合が64%まで低下している。外国人訪問者の宿

泊率の低いこれらの地域では、供給によって予約の取りにくさ

が解消されれば、これまで流出または潜在化していた需要の回

帰・顕在化が期待できるだろう。現に供給が進む京都府では、

2017年に外国人訪問者宿泊率が上昇しており、需要回帰の兆

しが見られる。

競争がホテルマーケットを成熟させる

すでにホテルの開業が相次いでいる都市の中には、正常な競

争原理が働くことで、ホテルによって優勝劣敗が分かれ始めて

いる都市もある。ストックが増加する今後は、あらゆるホテルが

インバウンド需要拡大の恩恵に与れるわけではなくなるだろう。

単純な価格競争を避け、誘客力の強いホテルを作るには、差別

化が鍵となる。

 三つ目の鍵は、アッパークラス以上のホテルだ。CBREが把握

している主要9都市の新規供給の87%は宿泊主体型※5のホテ

ルであり、フルサービスホテル※6(その多くはアッパークラス以

上に属する)は5%に過ぎない【図表9】。世界各都市のインバウ

ンド需要(国際観光到着数)を考慮に入れると、日本における

アッパークラス以上のホテルの数はまだ少なく、開発余地は十

分にあるだろう【図表10】。

四つ目の鍵は、日本では新しいタイプのホテルとして注目さ

れているブティック・ライフスタイルホテルだ。ブティック・ライフ

スタイルホテルとは、一般的に、独創的なコンセプトに基づいた

高いデザイン性を備え、宿泊にとどまらない付加価値や体験を

提供し、ホテルでの時間を楽しめるホテルと言われている。ホテ

日本だけでなく、世界に目を向けると、国際観光は増加基調

にある【図表11】。交通運輸技術の進歩、経済発展による中間所

得層の増加、外国の観光都市に関する情報へのアクセスが容易

になったことなど、その要因はさまざまだ。過去に世界全体の国

際観光需要が減少したことはSARSの流行や世界同時不況を原

因とするものなど数年しかなく、この潮流は力強い。中でもアジ

ア・パシフィックの国際観光需要は成長著しい。2000年代半ば

に米州を上回り、その格差は年々拡大している。世界観光機関

の予測※7によると、今後もこの潮流が続く見込みであり、2017

年の全世界合計の実績値は13.26億人※8と、予測値を約

8,000万人上回るペースで増加していることを踏まえると、ア

ジア・パシフィックに属する日本のホテル需要は、さらに拡大し続

けることが期待される。

リニア中央新幹線や中長距離を結ぶバスターミナルをはじめ

としたインフラ整備も進んでいる。こうしたアクセス性の向上は

日帰り客を増やす懸念も生じ得るが、リニア中央新幹線につい

ては元々日帰りが可能であった都市間を結ぶものであり、企業

の拠点戦略がダイナミックに変わらない限り、懸念の顕在化は

限定的だと考えられる。むしろアクセス性の向上はターミナル

の後背地まで商圏が広がることを意味し、新たな観光需要を生

む可能性を含んでいる。

国内の構造変化にも目を向ける必要がある。今の旅行動態に

変化がなければ、国内の人口減少はすなわち宿泊需要の減少に

結びつく。一方で、働き方改革によって余暇が増加すれば宿泊を

伴う旅行が増える可能性がある。テクノロジーが進化して、働く

場所の柔軟性が認められ、旅行しながら仕事もするというワー

ケーションという形態も見受けられるようになってきた。このよ

うな形態が長期の宿泊需要を生み出す可能性もある。また、健

康なシニアが増え、インフラ整備によって身体が衰えても旅行

できる環境が整えられれば、旅行に行く回数も増えるだろう。

このように、宿泊する人の国籍、年齢層、目的は今後ますます

多様化することが見込まれる。多様化した需要に合わせて、ホテ

ルも絶えず変化をし続けることが、競争に勝ち残る鍵となるだ

ろう。

2019年のラグビーワールドカップ、翌2020年の東京オリン

ピック・パラリンピック、2025年の大阪・関西万博といったイベン

トは、会場周辺での宿泊需要を大きくブーストさせることは間違

いない。周辺都市を回遊する観光需要も生じるだろう。またこう

した一時的なイベントにとどまらず、2030年までの間には統合

型リゾート(IR)のオープンも見込まれており、持続的に観光需

要を増加させる集客装置の登場も控えている。

奥武山公園

福州園

那覇港

牧志駅

美栄橋駅

旭橋駅

壺川駅

県庁前駅

安里駅

おもろまち駅

国際通り

住吉神社

博多駅

薬院駅渡辺通駅

天神南駅赤坂駅

祗園駅中洲川端駅

西鉄福岡(天神)駅 東比恵駅

中央公園

広島城

縮景園

平和記念公園

マツダスタジアム

比治山公園

二葉山緑地

平和大通り

本通り

広島駅

本町駅

稲荷町電停

八丁堀電停

中電前電停

新白島駅

ユニバーサルスタジオジャパン

大阪城

京セラドーム大阪

新淀川

新大阪駅

梅田駅

大阪駅京橋駅

天満橋駅淀屋橋駅

本町駅

心斎橋駅

難波駅

恵美須町駅

新今宮駅

JR難波駅

天王寺駅

森ノ宮駅

鶴橋駅

阿波座駅西九条駅

九条駅

ユニバーサルシティ駅

十三駅

伏見稲荷大社

西本願寺 東本願寺 渉成園

東寺

東福寺

清水寺

八坂神社

知恩院

平安神宮

京都御苑

二条城

三十三間堂

西大路通

鴨川

京都駅

九条駅

四条駅

三条駅

五条駅丹波口駅清水五条駅

河原町駅

烏丸御池駅

京都市役所前駅

烏丸駅

二条駅

十条駅

白山公園

名古屋駅

丸の内駅久屋大通駅

国際センター駅

矢場町駅

東別院駅

上前津駅

大須観音駅

金山駅

栄駅伏見駅

東 京 湾

上野駅

綾瀬駅

豊洲駅

蒲田駅

渋谷駅

新宿駅

池袋駅

赤羽駅

大塚駅

飯田橋駅

東京駅

六本木駅

西日暮里駅

五反田駅 品川駅

羽田空港駅

新木場駅

浅草駅

青葉通り

東北大学

仙台駅

榴ケ岡駅青葉通一番町駅

広瀬通駅

宮城野通駅

北海道大学

豊平川

大通公園

創成川通

石山通

札幌駅

大通駅

すすきの駅

中島公園駅

【図表7】供給立地動向(2019年~2021年)

札 幌

仙 台

東 京

京 都名古屋

大 阪

広 島

福 岡

0

〔凡例〕新規供給客室数

1,000室

●出所:CBRE、2019年2月

●出所:CBRE、2019年2月

●出所:CBRE、2019年2月

●出所:CBRE、2019年2月 ●出所:CBRE、2019年2月

●出所:CBRE、2019年2月

●出所:CBRE、2019年2月

●出所:CBRE、2019年2月

●出所:CBRE、2019年2月

●出所:CBRE、2019年2月

那 覇

Page 4: HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH ......2019/09/04  · HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH CAPITALIZING ON 2018年の訪日外客数は3,119万人と、初めて年間3,000万 人の大台に乗った【図表1】。海外からの訪客数が3,000万人超

HOTEL MARKET OUTLOOK TRENDS WORTH CAPITALIZING ON

2018年の訪日外客数は3,119万人と、初めて年間3,000万

人の大台に乗った【図表1】。海外からの訪客数が3,000万人超

の国は、世界でも10ヶ国程度、アジア・パシフィック地域では、中

国、タイに次いで日本が3ヶ国目になる。増加率は対前年比+

8.7%で、2016年から続いた20%前後の増加率と比べると鈍

化したが、2018年は日本各地で豪雪、豪雨、台風、地震の災害

に見舞われたことを考えれば、なお順調なペースで増加してい

ると言えるだろう。ここに2019年のラグビーワールドカップ、

2020年の東京オリンピック・パラリンピックといった国際的祭典

による観光客数の上積みが加われば、2020年の政府目標であ

る訪日外客数4,000万人の達成が見えてくる。

※7 UNWTO Tourism Highlights, 2017 Edition ※8 UNWTO Tourism Highlights, 2018 Edition

政府目標は、2020年の訪日外客数を4,000万人、2030年

は6,000万人に定めている。また政府目標値に基づき外国人延

べ宿泊者数を計算すると、2020年に1.4億人、2030年に2.2

億人という目標値となる。この目標が達成されることを前提に、

主要9都市の2021年のホテルマーケットの需給バランスを検

証した。2021年の外国人宿泊需要については、2020年と

2030年の政府目標から年平均成長率を用い推計した。日本人

の国内宿泊需要については、将来の人口減少を考慮して推計し

た。この推計によって得られた2021年の宿泊需要を基に、ホテ

ル運営にとって適正とみられる空室を見込んで必要客室数を算

出し、これを同年の予想客室数ストックと比較した(検証にあ

たっての前提条件の詳細は、【図表4】を参照)。

 差別化の一つ目の鍵は、より細やかな立地戦略だ。今後は都

市単位でホテルの事業性を検討するのでは不十分で、駅や空港

などへの交通機関や観光地へのアクセスの良さ、ナイトタイム

エコノミーが活発なエリアへの近接性、新しさだけでは勝負でき

ないような供給が多いエリアの把握など、細やかに立地のポテ

ンシャルを見極め、その立地特性に応じた商品構成を検討する

必要がある。また、交通アクセスや周辺繁華性が弱いために供給

が少ないエリアでも、今後ポテンシャルが変化する可能性はな

いか、ホテル自体が需要を喚起する仕掛けを施すことで弱点を

埋めることができないか、等の立地戦略も検討に値するだろう。

 二つ目の鍵は、ハードを含めた商品の多様化だ。宿泊主体が

日本人だけでなく多数の外国人も加わったことで、受け皿とな

るホテルにも変化が見られるようになっている。例えば、客室構

成の多様化だ。訪日外国人の86%※3を占めるアジアからの観

光客は、単身で訪日するケースは2割程度にとどまり、残りの8

割は家族や親族、友人など複数人で日本を訪れている※4。すな

わち、訪日外国人の現在の宿泊需要の多くにとって、シングルの

客室では狭いのだ。すでに外国人観光客の多い東京、大阪、京

都では、近年はシングルからより広いダブルやツインへと客室

構成がシフトしている【図表8】。ターゲットとする客層に応じて

ハードも多様化する必要があるだろう。

ルのカテゴリは「価格帯」と「機能」の2軸で分類されることが一

般的だが、この新しいタイプのホテルはそれが当てはまらず、価

格帯も広い。アメリカでは平均を上回るパフォーマンスを発揮

する傾向が確認されており、まだ歴史の浅い日本においても成

功する可能性は十分にあるだろう。登場の背景は、旅行者の嗜

好が、モノからコト、すなわち「体験」へとシフトしていることが

関係している。ブティック・ライフスタイルホテルは、宿泊だけに

とどまらない、多様化した旅行者のニーズを充足し得るものとし

て期待されている(前出コラム「マズローの欲求段階説とホテ

ルタイプ」も参照)。

訪日外客数の増加を受け、外国人宿泊需要も増加している。

2018年の外国人延べ宿泊者数※1は対前年比11.2%増(約

900万人泊増)の8,859万人泊。一方、日本人は海外への旅行

が増加したこともあり、日本国内での延べ宿泊者数は対前年比

2.2%減(約900万人泊減)の4.2億人泊。国内での日本人宿泊

需要の減少分を、ほぼ外国人宿泊需要の増加分で埋め戻す結

果となった【図表2】。

こうしたインバウンド需要の拡大が一時的なものではなく、今

後も継続して見込まれることを背景に、各地でホテルの開業が

相次いでいる。主要9都市における2019~2021年開業予定

のホテルの開発計画も、この1年の間に公表ベースで約3万室

から2.5倍の約8万室に増加した。改めて主要9都市で2019年

から2021年に供給される客室数を集計した結果、2018年末

時点の既存ストックの24%に相当する見込みである。既存ス

トックに対する供給客室数の割合を都市別に見ると、京都が最

も高い51%、次いで大阪の32%、東京が24%と続く結果と

なった【図表3】。供給のインパクトが最も大きい京都は、賃貸オ

フィスの貸室総面積が2010年末時点との比較で唯一減少して

いる都市でもある。オフィスからホテルへの建て替えといった、

他用途からの建て替えも進んでいる。

2030年に向けて-多様化する宿泊需要がホテルマーケットを変える

4

都市全体で見ると、需給バランスは逼迫しない

 推計の結果、主要9都市のいずれにおいても、2021年の必

要客室数(=需要)は予想ストック(=供給)を下回る結果となっ

た【図表5】。必要客室数と予想ストックのギャップは都市によっ

て異なり、大阪で2.1万室、東京及び京都で1.2万室、名古屋で

8千室、仙台で4千室、札幌で3千室、広島及び那覇で2千室、福

岡で1千室となった。三大マーケット(東京、大阪、京都)に属する

都市のギャップが大きい一方、地方部に属する都市のギャップは

比較的小さい。

潜在化した需要の回帰の可能性

ただし、予想ストックが必要客室数を上回ることは、必ずしも

供給過剰を意味するものではない。これまでストック不足に起

因して、予約が取りにくくなったことから、需要の一部が顕在化

していなかった可能性もある。実績値をもとに推計された需要

の予測値には、この潜在需要は織り込まれていない。

実際、東京都、大阪府、京都府、福岡県、沖縄県を訪問した外

国人訪問者のうち、訪問先で宿泊できた訪問者の割合は他のエ

リアに比べて低い※2【図表6】。中でも大阪府は、2014年に大阪

府を訪れた90%の外国人が大阪府内で宿泊していたが、2017

年にはその割合が64%まで低下している。外国人訪問者の宿

泊率の低いこれらの地域では、供給によって予約の取りにくさ

が解消されれば、これまで流出または潜在化していた需要の回

帰・顕在化が期待できるだろう。現に供給が進む京都府では、

2017年に外国人訪問者宿泊率が上昇しており、需要回帰の兆

しが見られる。

競争がホテルマーケットを成熟させる

すでにホテルの開業が相次いでいる都市の中には、正常な競

争原理が働くことで、ホテルによって優勝劣敗が分かれ始めて

いる都市もある。ストックが増加する今後は、あらゆるホテルが

インバウンド需要拡大の恩恵に与れるわけではなくなるだろう。

単純な価格競争を避け、誘客力の強いホテルを作るには、差別

化が鍵となる。

 三つ目の鍵は、アッパークラス以上のホテルだ。CBREが把握

している主要9都市の新規供給の87%は宿泊主体型※5のホテ

ルであり、フルサービスホテル※6(その多くはアッパークラス以

上に属する)は5%に過ぎない【図表9】。世界各都市のインバウ

ンド需要(国際観光到着数)を考慮に入れると、日本における

アッパークラス以上のホテルの数はまだ少なく、開発余地は十

分にあるだろう【図表10】。

 四つ目の鍵は、日本では新しいタイプのホテルとして注目さ

れているブティック・ライフスタイルホテルだ。ブティック・ライフ

スタイルホテルとは、一般的に、独創的なコンセプトに基づいた

高いデザイン性を備え、宿泊にとどまらない付加価値や体験を

提供し、ホテルでの時間を楽しめるホテルと言われている。ホテ

 日本だけでなく、世界に目を向けると、国際観光は増加基調

にある【図表11】。交通運輸技術の進歩、経済発展による中間所

得層の増加、外国の観光都市に関する情報へのアクセスが容易

になったことなど、その要因はさまざまだ。過去に世界全体の国

際観光需要が減少したことはSARSの流行や世界同時不況を原

因とするものなど数年しかなく、この潮流は力強い。中でもアジ

ア・パシフィックの国際観光需要は成長著しい。2000年代半ば

に米州を上回り、その格差は年々拡大している。世界観光機関

の予測※7によると、今後もこの潮流が続く見込みであり、2017

年の全世界合計の実績値は13.26億人※8と、予測値を約

8,000万人上回るペースで増加していることを踏まえると、ア

ジア・パシフィックに属する日本のホテル需要は、さらに拡大し続

けることが期待される。

 リニア中央新幹線や中長距離を結ぶバスターミナルをはじめ

としたインフラ整備も進んでいる。こうしたアクセス性の向上は

日帰り客を増やす懸念も生じ得るが、リニア中央新幹線につい

ては元々日帰りが可能であった都市間を結ぶものであり、企業

の拠点戦略がダイナミックに変わらない限り、懸念の顕在化は

限定的だと考えられる。むしろアクセス性の向上はターミナル

の後背地まで商圏が広がることを意味し、新たな観光需要を生

む可能性を含んでいる。

 国内の構造変化にも目を向ける必要がある。今の旅行動態に

変化がなければ、国内の人口減少はすなわち宿泊需要の減少に

結びつく。一方で、働き方改革によって余暇が増加すれば宿泊を

伴う旅行が増える可能性がある。テクノロジーが進化して、働く

場所の柔軟性が認められ、旅行しながら仕事もするというワー

ケーションという形態も見受けられるようになってきた。このよ

うな形態が長期の宿泊需要を生み出す可能性もある。また、健

康なシニアが増え、インフラ整備によって身体が衰えても旅行

できる環境が整えられれば、旅行に行く回数も増えるだろう。

 このように、宿泊する人の国籍、年齢層、目的は今後ますます

多様化することが見込まれる。多様化した需要に合わせて、ホテ

ルも絶えず変化をし続けることが、競争に勝ち残る鍵となるだ

ろう。

※3 日本政府観光局(JNTO)、2018年 ※4 訪日外国人消費動向調査、2018年 ※5 宿泊主体型ホテル:宿泊機能以外の付帯施設を限定、または最小限にした、宿泊を主体としたホテル及び宿泊に特化したホテル ※6 フルサービスホテル:レストラン、バンケット、フィットネス、スパ、ドアマン、ベルボーイ、コンシェルジュなどの多彩な施設とサービスを提供するホテル

 2019年のラグビーワールドカップ、翌2020年の東京オリン

ピック・パラリンピック、2025年の大阪・関西万博といったイベン

トは、会場周辺での宿泊需要を大きくブーストさせることは間違

いない。周辺都市を回遊する観光需要も生じるだろう。またこう

した一時的なイベントにとどまらず、2030年までの間には統合

型リゾート(IR)のオープンも見込まれており、持続的に観光需

要を増加させる集客装置の登場も控えている。

フルサービス5%

【図表8】開業時期別 客室タイプ割合 【図表10】各国の4スター・5スターホテルの軒数

【図表11】国際観光到着数の推移と見通し

【図表9】カテゴリ別 新規供給

●出所:CBRE、2019年2月※国際観光客到着数1,000万人以上の国〔アメリカ:77百万人/1,208軒〕(グラフ外)

●出所:Five Star Alliance、世界観光機関(UNWTO)、CBRE、2019年3月

●出所:世界観光機関(UNWTO)、CBRE、2018年4月

※主要9都市、開業時期:2019年~2021年 ●出所:CBRE、2019年2月

100%10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%

シングル ダブル ツイン その他

0%

東京都

~2015年 47% 25% 26%

2%

37% 39% 23%2016年~

大阪府

~2015年

2016年~

京都府

~2015年

2016年~

2%

2%

1%

54% 17% 28%

27% 30% 42%

31% 17% 50%

16% 27% 55%

1%

未定・不明8%

宿泊主体型87%

250

200

150

100

日本50

0 100755025

4スター・5スターホテルの軒数

国際観光客到着数(百万人)

2,000

1,800

1,600

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

2018

2019

2020

2021

2022

2023

2024

2025

2026

2027

2028

2030

20290

(百万人) ヨーロッパアフリカ米州

アジア・パシフィック中東

予測値

棟数割合

ヨーロッパ

アフリカ

米州

中東

アジア・パシフィック