:公債負担論...財政学3 回目 - 1 - 財政学3 回目 6:公債負担論...
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財政学 3回目
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財政学 3回目
6:公債負担論
将来世代への負担の転嫁
「公債を発行することは将来世代の負担を増やすことだ」と述べましたが、実際にそうなのか、という点
について論争が行われました。それについて見ていきましょう。
㋐ラーナー(新正統派)の公債論
〈「負担」というものの捉え方〉…どういうものを「負担」と呼ぶのか?
ラーナーは、公債の負担を「( )(国富)の減少」と考えました。つまり、「借
金をしたら、将来返済するときに、将来の支出を切り詰める。それは、将来利用できるお金を自由に使えな
いということになる」と考えました。
〈将来世代への負担の転嫁〉
ところが、国債については少々考え方が異なります。まず、内国債については、「一国を家族と考えると、
公債を発行するということは、お父さんが子供から借金するようなもので、公債を償還するというのは子供
がお父さんからお金を返してもらうようなものだ」という考えから、「国全体の利用可能な資源を減少させず
に将来世代への負担の転嫁もない」と考えました。
しかし、外国債については違います。お隣さんから借金するようなものだと考えればよいでしょう。つまり、
公債発行時点ではお隣さんから資金(利用可能な資源)が流入してきますが、公債償還時にはお金をお隣
さんに返さなければいけませんから、自国内で使える資源を切り詰めなければならなくなります。よって、
「( )は将来世代への負担の転嫁を生じる」と考えました。
㋑ブキャナン(公共選択学派)の公債論
〈「負担」というものの捉え方〉
「支払(あるいは取引)の( )」という言葉は覚えましょう。つまり、「将来世代は増税と
いう強制手段で公債償還の財源とされる」と考えました。
〈将来世代への転嫁〉…負担は転嫁される
これは上記の内容と同じです。ブキャナンは「国債を買うのは個人の勝手だから公債発行時の世代には
負担は生じないが、将来世代には増税が待っているから、将来世代に負担が転嫁される」と考えま
した。
財政学 3回目
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㋒モディリアニの公債論
〈「負担」というものの捉え方〉
「生産力の低下( )」と考えました。
〈将来世代への転嫁〉負担は転嫁される
「公債の発行は、課税と比べて民間企業の資本蓄積(つまり、機械などの資本ストックのことで
す)を減少させるから、将来の生産力は減少する。だから、将来世代の所得が低下して、それが将
来世代への負担につながる」と考えました。
さて、「公債の発行が課税と比べて民間企業の資本蓄積(投資)を減少させる」とモディリアニが考えた理
由を説明しましょう。例えば 1 兆円の政府支出を公債発行で賄うとすると、国民は貯蓄から公債を購入する
わけですから、貯蓄が 1兆円減るということになります。貯蓄が 1兆円減るということは、同額だけ投資が減
少するということになります。
一方、1兆円の政府支出を課税で賄う場合、可処分所得が1兆円減少するということになります。例えば、
消費関数を
TYCC 8.00
とおくと、貯蓄関数は
CTYS
ですから、
TYCS 2.00
とできます。ここで、増税すると貯蓄はどれだけ減るのでしょうか?租税(T)と貯蓄(S)だけが変化するの
ですから、
TS 2.0
となります。この式から、1兆円の増税は 2000億円の貯蓄の減少(つまり、2000億円の投資の減少)とで
きます。
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㋓ボーエン=デービス=コップの公債論
〈「負担」というものの捉え方〉
総消費量( )の減少。
〈将来世代への負担〉…負担は転嫁される
「公債発行時の世代はみんな消費量を一定にすることができるけれども、公債償還時の世代は、課税に
よって総消費量が減少する」と考えました。つまり、公債発行時の世代で公債を買わない人は、当然消費
量は減りません。また、公債を買った人も公債を将来世代に売ると消費量は変わりません。しかし、将来世
代では、公債を買った人も、買っていない人も増税によって消費量が減るため、将来世代全体では消費量
が減少するということです。
㋔リカード=バローの等価定理(中立命題)
〈負担の捉え方〉
総消費量の減少。
〈将来世代への負担の転嫁〉…負担の転嫁は生じない
リカードの等価定理…公債の発行と償還が同じ世代で行われれば、将来世代に負担は生じないし、公
債発行時の世代は消費を増やさずに、将来の増税に備えて自主的に貯蓄する。
よって、「課税と公債の発行は経済的な効果の面では同じだ(等価)」という考えで
す。
バローの等価定理…公債の償還が世代をまたがって行われる場合、公債発行時の世代は将来世代の
負担が増えないように遺産を残すので、将来世代への負担の転嫁は生じない、
という考えです。
〈等価定理の証明〉
(i)租税によって政府支出の財源を賄うとき
ある家計の人生を 2期間モデルで表してみます。「今期(第 1期)」を働いて納税する現役時代、「来期(第
2 期)」を引退後の期間として、今期の所得を 1Y 、今期の消費を 1C 、貯蓄を 1S 、租税を 1T とすると、今期の
所得は消費と貯蓄と租税にそれぞれまわされるので
1111 TSCY …①
とできます。次に、来期の消費は来期の所得(年金収入や利子所得、配当所得など色々…)と今期の貯
蓄から来期の租税を引いた分が用いられるので、以下のようになります。
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2122 1 TSrYC …②
①式より、 1111 TCYS とできます。これを②式に代入すると
211122 1 TTCYrYC
21112 111 TTrCrYrY
212121 111 TTrYYrCCr …③
とできます。もし、税収の分がそのまま政府支出がおこなわれるとするならば、③式は
212121 111 GGrYYrCCr …④
となり、この個人の第 1期と第 2期の消費量の合計(つまり、生涯消費量)は④式のようにできるということ
になります。
それでは、つぎに、政府支出の財源が公債の発行によって賄われるケースを見ていきましょう。
(ii)公債の発行によって政府支出の財源を賄うとき
公債の発行によって政府支出の財源を賄うときは、第 1期において租税が存在しないため
111 SCY …⑤
が成立します。また、第 1期の政府支出の財源は公債(Government Bonds)の発行によって賄われるの
で第 1期の公債発行額を 1B とすると
11 BG …⑥
が成立します。第 2期においては、第 2期の税額に加えて第 1期の公債の償還財源が国民から徴収され
るため、第 2期の消費関数は以下のようになります。
12212 11 BrTYSrC …⑦
この⑦式に⑤式を変形させた 111 CYS を代入し、展開すると
212121 111 TBrYYrCCr …⑧
が成立します。この⑧式に⑥式を代入し、さらに、第 2期の租税が第 2期の政府支出( 2G )の財源になる
と想定すると⑧式は④式に等しくなり、公債の中立性命題が証明されました。
□
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[No.1]
公債負担の考え方に関する A~Dの記述のうち、妥当なものを選んだ組合せはどれか。
(地上、2008)
A:ブキャナンは、取引が一方的に強制的に行われる場合に生じるものを負担とし、公債購入は自発
的取引であり個人の負担にはならないのに対して、公債の元利償還時の将来世代への課税は強制
的であり、個人にとっての負担が生じ、公債の発行時の世代から償還時の世代への負担が転嫁さ
れるとした。
B:ラーナーらの新正統派は、公債の負担を一国全体において民間が利用可能な資源の減少と捉え、
公債も租税も民間の利用可能な資源が公的に使われたという点では同じであり、公債が内国債で
あれば、償還時点での課税は同一世代内での所得再分配にすぎないとして、将来世代への負担の
転嫁は生じないとした。
C:ボーエン=デービス=コップは、負担を資本蓄積の減少による将来の所得減少と捉え、完全雇用
下では、公債の発行は、財政支出を同額の課税で調達した場合よりも民間の資本蓄積がより多く
減少して、将来の生産力が低下するから、将来世代に負担が転嫁されるとした。
D:モディリアーニは、ある世代全体が生涯にわたる私的財の消費を減らす場合を負担と考え、公債
を購入した第 1 世代は後にそれを第 2 世代に売って生涯の消費を一定に保つことができるが、
第 2世代において公債償還のための課税がなされた場合、その世代の生涯消費量は減少せざるを
得ず、負担は転嫁されるとした。
1.A,B
2.A,C
3.A,D
4.B,C
5.B,D
[No.2]
公債の負担に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。 (国Ⅱ、2004)
1.A.P.ラーナーによれば、内国債および外国債は個人が自由意思で購入している限り、個人の効用
を損なうものではないので購入した世代に公債の負担は生じないが、公債償還時に課税が行われ
るので、世代間の負担の転嫁が生じる。
2.J.M.ブキャナンによれば、内国債を発行する場合は、一国全体で利用可能な資源は減少しないの
で世代間の負担の転嫁は生じないが、外国債を発行する場合は、一国全体で利用可能な資源は減
少し、世代間の負担の転嫁が生じる。
3.W.G.ボーエンらによれば、公債発行時に年長世代と年少世代が共存する場合においては、公債
を発行しても年長世代の消費支出能力は低下しないが、公債償還が行われるのに伴い税負担が増
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える年少世代の消費支出能力は低下するので、世代間の負担の転嫁が生じる。
4.F.モディリアーニによれば、完全雇用状態の下で政府支出の財源を公債発行で賄う場合、クラウ
ディング・アウトが生じ民間投資が抑制されるものの、その減少分を政府支出で補う限りにおい
て一国全体での投資量は減少しないので、世代間の負担の転嫁は生じない。
5.D.リカードによれば、消費者が合理的な期待形成を行い、政府支出の財源を公債で賄う場合、公
債償還が公債発行時世代の生存期間中に行われれば公債発行は消費者の消費計画に影響を与え
ないが、政府支出の財源を課税で賄う場合は消費者の可処分所得が減少するので、消費者の消費
計画も変化する。
7:国の租税制度
7-1:租税制度
①租税の意味
行政が活動するには、お金が必要です。これは当然の話です。その財源の中心を占めるものが租税なの
ですが、まずはアッサリと定義について見てみましょう。
《定義》
租税
「政府が財・サービスを供給するために、強制的に無償で調達する貨幣」という意味を持ちます。ここで、
「強制的に無償で」というところに下線を引っ張ったのですが、これは、国民が「税金を払ったんだから、そ
の代わりに何かをしてくれ」というように、対価を要求できないということです。
もう少し学問的に定義すると、租税には以下の 3つの性質が成り立っていないと租税とは呼べません。
➊強制性…市場での貨幣の流れは任意性を持ちますが、税は強制性があります。
➋無償性…市場での貨幣の対価として財やサービスを要求できますが、税の場合はそれを要求できない
ということです。
➌収入性…国家(自治体)の活動に用いる貨幣を調達するということです。例えば、交通違反をした場合の
罰金は政府の収入を目的としたものではないので租税ではありませんし、市役所で住民票を
とったときの手数料も政府の収入を目的をしたものではないので、「租税」とはみなされませ
ん。
この「租税」というものはどうして必要になったのでしょうか?余談ですが、家産国家(中世のヨーロッパ)と、
無産国家(近現代)を比較してみましょう。
家産国家:封建領主が土地と領民を領有。つまり、領主自らがお金を持っていたので、そのお金で公共サ
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ービスをする、という感じでした。
無産国家:私的財産権が確立し、生産要素も私的に所有されるようになりました。換言すれば、「政府は何
も持たない」ということを意味します。ですから、政府が活動していくには「租税によって貨幣を
調達する」という選択肢を採らざるを得なくなりました。
②租税の根拠
なぜ、政府は強制的に無償で租税を徴収できるのかを議論したものが、租税の根拠論です。大きく利益
説(応益負担の原則)と義務説(応能負担の原則)に分けられますが、シッカリ押さえるようにしてください。
➊利益説…応益負担の原則
社会契約説的国家観(つまり、「国家とは、その構成員の共通目標を追及する団体だ」とする考え)に基づ
いて、「租税は、政府活動が国民に与える利益の対価である」とする考えです。いわば、政府側が「私(政
府)はあなた(国民)に○△をしてあげたんだから、お金払ってくれ」という考えです。「民間の経済取引に近
い考えなんだ」と考えればヨロシイでしょう。
➋義務説…応能負担の原則
有機体的国家観(つまり、「国家は社会諸集団の上位に位置する団体だ」とする考え)に基づいて、「租税
を納めるのは、国民にとっての当然の義務だ」とする発想です。ただし、この考えには問題があって、「ど
うして『当然の義務』なのか?」という点についての説明がなされていないというものがあります。余談です
が、皆さんもご存知のように、日本国憲法も、納税を国民の義務として規定しています。
③租税原則…スミスとワグナーについて
この「租税原則」とは、「どのように租税の負担を求めるべきか」ということについての議論(主張)のことで
す。上記の 2人の研究者がそれぞれの立場で主張を行っているので、見てみましょう。
➊アダム・スミスの 4原則…国民(納税者の立場に立つ)
以前もお話したように、スミスは国家を「必要悪」と見なしていました。つまり、「別にどうしても必要ってワ
ケではないけど、国防や外交・警察は民間ではできない。仕方ないから政府に任せるか」という考えです。
要するに、「小さな政府」を志向していたのですが、その立場から見てどのような税が望ましいのか?という
ことについての主張です。では見ていきましょう。
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a)( )の原則
「租税は、国家の保護のもとで各個人が享受する利益に応じて課されるべき」という考えです。つまり、
「国の公共サービスからたくさん利益を得ている人は、たくさん税金を払え!」という考えで、利益説的発想
に基づいています。
b)( )の原則
「租税は恣意的であってはならず、支払い時期・方法・金額が明確でなければならない」という考えで
す。つまり、「4月 1日に区役所で現金で 1万円の税金を払ってください」ということです。しかし、これには抜
け道があります。つまり、「集めた税金を政府がどういう風に使うか」という使途については明確になってい
ないということです。この辺りは引っかからないようにしてください。
c)( )の原則
「租税は、納税者である国民にとって............
最も都合の良い時期と方法で徴収されるべき」とする考えです。
換言すれば、「別に政府にとって都合が悪い時期でも OK」という意味になります。
d)( )の原則
「国庫に帰する租税の純収入額と国民の納税額の差をできるだけ少なくすべき」という考えです。
つまり、「効率的な方法で徴税し、ムダを少なくしましょう」という考えですが、この難しい表現で出題されるこ
ともあるので、注意してください。
➋ワグナー(1835~1917)の 4大原則・9原則…国民と政府の立場から
ワグナーに関しては特徴(下線部)だけ押さえてください。彼の租税原則は「大きな政府」という彼の国家
観を反映したものになっています。
a)( )の原則
1)課税の十分性
「財政需要を満たすのに十分な租税収入があげられること」とする考えです。つまり、「社会情勢の変化
に対応して、需要を満たすだけの税収があげられるシステムを作りましょう」ということです。
2)課税の弾力性
「財政需要の変化に応じて租税収入を弾力的に操作できる」こと。これは上記の項目に関連しますが、
社会が変化して需要も変化する(国民が何を望むかが変わってくる)場合、それに対応して租税収入
も弾力的に増やしたり減らしたりできるようにしましょう、という考えです。
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b)( )の原則
3)正しい税源の選択
「国民経済の発展を阻害しないように正しく税源を選択しましょう」とする考えです。つまり、所得に
税を課すのか、消費に税を課すのか、あるいは株・土地といった資産に税を課すのか、いずれにせよ、
国民経済に悪影響を及ぼさないところに課税しましょう、という考えです。
4)正しい税種の選択
「納税者への影響や転嫁(これについては租税理論で詳述します)を見極めて、国民経済の発展を阻害
しないように、正しく租税の種類(例えば、所得税や法人税など)を選択しましょう」という考
えです。
c)( )の原則
5)課税の普遍性
「負担は、普遍的に配分されるべき」という考えです。これをより具体的にいうと、「特権階級の免税は廃
止しますよ」ということです。ワグナーが登場したころは 19 世紀末のことでした。このころは現在とは
異なり、共和制の国の方が珍しく、領主や国王が支配する国が主でした。国王や貴族は文字通り「特
権階級」だったため、課税が免除されていたのです。そういう時代を背景とした考えということです。
6)課税の公平性
「負担は、各人の負担能力に応じて公平に配分されるべき」という考えです。つまり、「税の負担は、所得
が多い人ほどたくさん負担すべき」というものです。典型的な例としては累進課税があるのですが、
「ワグナー⇒累進課税」はセットで覚えてください。
d)( )の原則
7)課税の明確性
これは、スミスの「明確性の原則」と同じです。つまり、税額や徴収方法などに恣意性がなく、明確にそ
の意図が示されなければならないということです。
8)課税の便宜性
納税手続きは簡便であること。
9)最小徴税費への努力
これもスミスと同じです。「徴税費が最小となるように行政は努力しなさい」ということです。
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➌利益説と能力説
先述したことですが、再論します。というのも、先述した「租税原則」でスミスとワグナーを出したのですが、
彼らがどちらの立場をとるのかという点も含めて、また、確認の意味も込めて見ていきましょう。
a)利益説
1)代表的な研究者…スミス、リンダール。
2)特徴…「公共サービスから受ける便益に応じて課税されるべき」とする考え。すなわち、租税は、政府
の提供するサービスの対価としての性格を持つ。「応益課税」ともいう。ただし、公共サービスから受ける
便益の程度を客観的に測定するのは困難なため(なぜなら、ある人が公共サービスからどれくらいの利益
をあげているのか分かりにくいので)、現実には応益課税が行われる場合は少ない。地方税など、比較的
便益の範囲を特定しやすいものについては、応益課税は適切となる場合もある。
b)能力説
1)代表的な研究者…ワグナー、ミル、エッジワース。
2)特徴…公共サービスから受ける便益とは無関係に、各個人の負担能力に応じて課税がなされるべき、
とする考え。「応能課税」ともいう。これに従うと、現実の租税制度に対する国民の納得を得る
のに適した考え方であり、日本の租税制度も応能課税を原則としている。ただし、各個人の
負担能力をどのような基準で測るべきかについては、所得額や支出額など議論が分かれる。
④租税の分類
「租税」、つまり、「税金」は国・都道府県・市町村のそれぞれが徴収しています。また、徴収主体(どこが税
金を集めているのか)の区分によって、国が集める税金を「国税」、都道府県・市町村が集める税金を「地方
税」と呼びます。さらに、課税ベース(課税対象;教科書チックに言うと、「課税ベース」とは「租税を負担する
能力(担税力)」を示すものです。簡単に言うと、「所得や消費・資産のどこに課税しようかな」というもので
す)によって租税を分類すると、以下のようになります。下線部だけ覚えましょう。
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《租税の分類》
国 都道府県 市町村
所
得 所得税、法人税 都道府県民税、事業税 市町村民税
消
費
消費税、酒税、たばこ税、
揮発油税、石油ガス税、航
空燃料税、石油税、電源開
発促進税、関税など。
地方消費税、道府県たばこ
税、ゴルフ場利用税、軽油引
取り税、核燃料税
市町村たばこ税、
入湯税
資
産
相続税、贈与税、地価税
(停止中)
自動車税、鉱区税、固定資
産税(特例)
固定資産税、軽自動
車税、鉱産税、特別土
地保有税、事業所税、
都市計画税、水利地
益税
流
通 自動車重量税、印紙収入
不動産取得税、自動車取得
税、狩猟者登録税、入猟税
《過去問》
[No.3]
租税に関する次の記述のうち、正しいのはどれか。(国税、2006)
1.租税の根拠には、大別すると利益説と義務説がある。17 世紀中ごろから 19 世紀初頭にかけて
英国やフランスで唱えられた利益説は、社会契約説的国家観を前提にしており、19 世紀後半の
ドイツで盛んに主張された義務説は有機体的国家観に基づいている。
2.税負担配分の原則として、歴史的に応能原則と応益原則が展開されている。応能原則は、政府か
ら提供される公共サービスの量に応じて租税を負担することが公正だとし、応益原則は、租税は
経済力に応じて負担することが公正だとする原則である。
3.A.ワグナーは「公平の原則」、「確実性の原則」、「便宜性の原則」、「最小徴税費の原則」の 4つの
租税原則を提唱した。ワグナーは政府の活動は最小限度にとどめるべきだとし、「最小徴税費の
原則」を最も重視した。
4.A.スミスは「財政政策上の原則」、「国民経済上の原則」、「公正の原則」、「税務行政上の原則」の
4大原則と 9小原則から構成される租税原則を主張した。ただし、スミスは公正性の概念につい
て、所得配分の公正までは考慮していなかった。
5.公平性は水平的公平と垂直的公平の 2 つに分けて考えられる。垂直的公平とは、「経済的にみて
等しい状態にある(担税力が等しい)人びとは等しく取り扱われる(等しく税を負担する)。」と
いうものである。
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[No.4]
スミス又はワグナーの租税原則に関する記述として、妥当なのはどれか。
(特別区、2003)
1.スミスは、資本主義の発展による経費膨張を背景にして、財政政策上の原則を最優先とし、必要
な財源が十分に調達でき、その時々の財政需要の増減に応じて税収を伸縮的に増減できる税制を
志向した。
2.スミスは、国家有機体説に基づいて租税義務説を主張し、納税は個人を超越した存在である国家
に対する国民の義務であり犠牲であるとして、徴税者の立場から財政収入上の原則を重視した。
3.スミスの租税原則は、国家、資本、労働のそれぞれの利害の間に立ち、帝国主義段階の租税政策
を弁護するものであり、帝国主義的税制の理論として受容された。
4.ワグナーは、租税原則に社会政策的要素を取り入れ、所得再分配の観点から、累進課税の実施や
最低生活費免税、勤労所得の軽課、財産所得の重課を主張した。
5.ワグナーの租税原則は、確立しつつあった産業資本の利益に即した主張であり、租税利益説に立
ち、旧来の悪税や腐敗した徴税機構の撤廃を要求したものである。
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7-2:効率的な租税…死荷重を小さくするにはどうすれば良いのか?
ラムゼイの最適課税論…消費税の効果
一般的に、ある財に消費税を課すと、資源配分に非効率(死荷重)が生じるということはミクロ経済学で
勉強したことでした。すると、「どういう制度にすれば、非効率を抑えることができるのか?」ということが問
題になります。その答えの 1 つとして、「ラムゼイの最適課税論」というものがあります。まず、図を描いてみ
ましょう。
➊従量税の余剰分析
図:従量税
[課税前の余剰] [課税後の余剰]
消費者余剰…△ 消費者余剰…△
生産者余剰…△ 生産者余剰…△
☟ 税収…□
総余剰…△ ☟
総余剰…□
☟
死荷重…△
図に見るように、課税がなされると、死荷重が生じてしまいます。これはどうしようもないもので、必ず発生
するのです。では、これを小さくしようというのですが、そこで出てくるのが「ラムゼイの逆弾力性の命題(ル
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ール)」というものです。これは文章題でも問われることがあるので、注意してください。「ラムゼイの逆弾力
性の命題」とは、要するにこういうことです。
☟
需要の価格弾力性が大きい
(つまり、奢侈品の場合)
⇒ 需要曲線の傾きが小さい(水平に近い)
⇒ 死荷重が大きい(課税による取引量の減少が
大きいので)
需要の価格弾力性が小さい
(つまり、必需品の場合)
⇒ 需要曲線の傾きが大きい(垂直に近い)
⇒ 死荷重が小さい(課税による取引量の減少が
小さいので)
これは覚えるようにしてください。図を描いてみましょう。
[需要の価格弾力性が大] [需要の価格弾力性が小]
図:従量税の比較‐ラムゼイ・ルール
結果として、資源配分の効率性(つまり、「死荷重を小さくする」という)観点から見ると、「需要の価格弾力
性が高い財(例えば、高級外車のような奢侈品)には低い税率で、価格弾力性が低い財(例えば、
ガソリンや米などのような必需品)には、高い税率で消費税を課すことが望ましい」という結果にな
ってしまいます。
つまり、「非弾力的な財ほど、課税しても超過負担(死荷重)はそれほど大きくならないから、高い税率を
かけても OK」ということになってしまいます。これを教科書チックに言うと、「需要の価格弾力性に反比例す
るように税率を設定することが望ましい」といいます。これを「ラムゼイの逆弾力性の命題」といいます。
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しかし、問題があります。「需要の価格弾力性が低い財」とは、生活必需品のことです。こういう財に高い
税率を課すと、一般的な消費者は困ってしまいます。つまり、「効率性と垂直的公平性は両立しない」という
ことが分かります。これを「効率と公平のトレード・オフ」といいます。下線を引いたところは覚えましょ
う。
8:経済安定化政策
8-1:裁量的財政政策(フィスカル・ポリシー)
メインは IS-LM 理論ですが、ここでは「国債管理政策(数量的国債管理政策)」だけを取り扱います。国
債管理政策とは、特定の政策目標を実現するために、国債の満期構成1を変化させる政策のことをい
います。国債の満期構成は、短期国債と長期国債の構成割合によって変わってきます。政策目標としては、
「利子費用の最小化」と、「経済の安定化」です。その前に、短期国債と長期国債の特徴を挙げておきます。
①短期国債と長期国債
a)長期国債の方が、短期国債よりも国の利子負担が重い。これは当然のことで、短期国債と長期国債の
利子率がほとんど同じだとしても、長期国債であればそれだけ国が利子負担をする期間が長いわけで
すから。
b)短期国債の方が長期国債よりも流動性が高い。つまり、換金しやすいということです。
②利子費用の最小化
これは「利子費用の最小化を達成するには、利子率が高い好況期には短期国債を、利子率の低い不
況期には長期国債を発行しましょう」というものです。例えば、国債の満期と利子率を以下のようにして
みましょう。
好況期 不況期
短期国債(1年) 8% 1%
長期国債(10年) 9% 2%
好況期には確かに利子率が低い短期国債を発行した方が良いでしょう。しかし、不況期でも短期国債の
方が、利子率が低いです。どうしたものでしょうか。
まず、国債の金利というものは、発行時点で利回りが確定するという点に注意しましょう。すると、「不況期
には長期国債を発行する」という考えの背景には次のようなものがあります。つまり、「不況は長く続いたり
しない。せいぜい 2~3年くらいだろう。そのときに短期国債を発行してしまうと、実際に 2~3年後に好景気
になると利子率 8%を払わなければならなくなる。それなら、不況期に長期国債を発行すれば 10年間 2%
1 国債の満期構成とは、国債の満期別の集中度合いや満期の平均期間のことをいいます。
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の利払いでOKだ」ということです。不況期で2%の利払いは、国にとっては一見損(国民にとっては得)に見
えても、最終的には国が得をするということです。
③経済の安定化
今度は、「国の負担」という視点から、「経済の安定化」の方向に視点を移します。すると、「好況期には流
動性の低く利子率が上昇しやすい長期国債を、不況期には流動性の高い短期国債を発行すべきだ」
という結論に達します。つまり、「不況期に流動性の高い短期国債を発行し財源を調達すると、資産効果に
伴う貨幣需要の増加が抑えられるので、財政政策の効果を高めることができる」というものです。
〈補足〉構造的国債管理政策
構造的国債管理政策とは、国債の円滑な発行・消化のための制度的枠組みに関するもののことをいいま
す。
近年、この構造的国債管理政策の動きとして、平成 15(2003)年度の個人向け国債(変動金利型)・物価
連動国債の導入、平成 16(2004)年度の国債市場特別参加者制度・個人向け国債(固定金利型)の導入、
平成 19(2007)年度の 40年国債の導入および新型窓口販売方式による国債の発行2などが図られてきまし
た。
また、平成 16(2004)年度から、海外投資家による日本国債の保有を促進し、保有者層の多様化を図る
ため、国債に係る海外説明会(海外 IR; Investors Relationship)が実施されています。また、海外への訪問
に加え、来省した海外投資家との面談や国内で開催されるセミナーへの参加についても対応しています。
8-2:ビルト・イン・スタビライザー
①《定義》
景気変動を自動的に安定化させる制度のことです。歳入面では累進所得税制、法人税、歳出面では
失業保険給付が挙げられます。これは覚えましょう。
また、税収の所得弾力性(税収弾性値)が大きいほど、景気の変化に対して税収が大きく変化する
ので、安定化の効果は高くなります。これも覚えましょう。
税収の所得弾力性 = 税収の変化率
国民所得の変化率
よって、累進所得税や法人税は所得弾力性が高い(好景気になると、たくさん課税できる)のですが、消費
税は税収の所得弾力性が低いということが分かりますね。
2 平成 19(2007)年 10月から、個人投資家に向けた新型窓口販売方式による利付国債(新窓販国債)の販売
が開始された。これは、期間が 2年、5年、10年の固定金利型で毎月募集・発行(購入単位 5万円)される。
平成 19(2007)年 10月に日本郵政公社が民営化されたことに合わせて、それまで郵便局にのみ認められてい
た募集取扱方式による国債の販売方式を「新型窓口販売方式」として他の民間金融機関に拡大したものである。
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さらに、税収の国民所得に対する比率が高いほど、税収の変化が景気に対して大きな影響を与えるの
で、安定化の効果は高くなります。これも覚える。
税収の国民所得に対する比率 = 税収
国民所得
②安定化メカニズム…実際にどんな感じでやっているのか?
➊累進所得税…ブラケット・クリープとも言われます
好景気⇒所得の増加⇒高い税率の適用⇒景気の過熱の抑制
不景気⇒所得の減少⇒低い税率の適用⇒景気の落込みを回避
➋法人税
好景気⇒法人所得の増加⇒増税⇒景気の過熱を抑制
不景気⇒法人所得の減少⇒減税⇒景気の落込みを回避
➌失業保険給付
好景気⇒失業保険給付総額の減少⇒消費の抑制⇒景気の過熱を抑制
不景気⇒失業保険給付総額の増加⇒消費の増加⇒景気の落込みを回避
③マスグレイブ=ミラー指標…ビルト・イン・スタビライザーの計算問題
マスグレイブ=ミラー指標というのは、景気変動とともに投資が変動すると、それが乗数を通じて所得を変
化させるというもので、特に、ビルト・イン・スタビライザーが存在すると、乗数の値が低下して、景
気が安定化するというものです。マクロ経済学の乗数理論では ,GICY と cYCC 0 という式か
ら、例えば投資乗数が
cI
Y
1
1
とできました。ここで、 cYCC 0 を tYYcCC 0 としてやると、先の投資乗数は
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tcI
Y
11
1
とできます。さて、投資乗数の値はどちらが小さいでしょうか?もちろん、限界消費性向cと税率tは 0 から 1
の間の数をとります。多少恣意的かもしれませんが、 5.0,8.0 tc として計算してみるとどうでしょう?下
の式の方が小さな値をとります。これこそまさにビルト・イン・スタビライザーです。
さらに、マスグレイブ=ミラー指標をαとすると
α = 1- 税収が所得に依存する場合の投資乗数
税収が所得から独立する場合の投資乗数
c
tc
1
1
11
1
1
= tc
ct
11
とできますが、この式は覚えてください。ちなみに、0<α<1 となりますが、αの値が大きいほど安定化効
果が高くなります。
④経済政策とラグ
ラグ…政策がその効果を発揮し始めるまでの時間の遅れ
内部ラグ…政策が決定され、実行されるまでに要する時間。ビルト・イン・スタビライザーでは存
在しません。なぜなら、ビルト・イン・スタビライザーは制度だからです。
a)認知ラグ;経済に攪乱が生じてから、政策担当者が政策の必要性を認識するまでに要する時間の遅
れ。
b)意思決定ラグ;政策の必要性が認識されてから、政策の内容が決定されるまでの時間の遅れ。
c)実行ラグ;政策の内容が決定されてから、その政策が実行されるまでの時間の遅れ。
外部(波及)ラグ…政策が実行されてから、効果が現れるまでに要する時間。ビルト・イン・スタビライザーが
あっても存在します。効果ラグとも言われます。
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※ 財政政策と金融政策のラグの比較は以下の通りです。
認知ラグ ⇒ 財政政策 = 金融政策
意思決定ラグ ⇒ 財政政策 > 金融政策
実行ラグ ⇒ 財政政策 > 金融政策
波及ラグ ⇒ 財政政策 < 金融政策
ちなみに、大きい方が「ラグが大きい(つまり、時間がかかっている)」ということです。財政政策は国会の
審議や議決が必要ですから、どうしても意思決定や実行に移すまでに時間がかかります。反面、金融政策
は日本の場合は日銀の金融政策決定会合で決まるので、機動性があります。しかし、波及ラグでは財政政
策をすると G↑ということですから、即、総需要の増加になりますが、金融政策(M↑)では、利子率(r)が下
がって、投資(I)が増えて、やっと総需要が増えるという手間がかかります。ですから、波及ラグでは金融政
策では時間がかかるのです。
《過去問》
[No.5]
次のモデルで表される経済を考える。
,GICY TYaC 8.0
〔Y:国民所得、C:民間消費、I:民間投資、G:政府支出、T:租税〕
ただし、aは定数である。ここで、税収が所得の変化に依存する場合の租税が YbT 2.0 (b
は定数)とする。このとき、税収が所得の変化に依存する場合の所得の変動と、税収が所得の変化
に対し独立的な場合における所得の変動とを比較して、ビルト・イン・スタビライザーの働きによ
り、乗数効果が減殺される割合はいくらになるか。
(国税、2001)
1.3
1
2.7
3
3.9
4
4.8
5
5.1
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[No.6]
国民所得を Y,消費を C,投資を I,政府支出を G,租税を Tとし、
,GICY ,75.00 TYCC 〔C0は定数〕
が成り立つものとする。
ここで、所得に応じて税額が増える比例税を YTT 2.00 〔T0は定数〕とする。
このときの政府支出の増加による国民所得の変動を、所得とは無関係に一定の税額が課される定
額税の場合と比較したとき、ビルトイン・スタビライザーの働きにより、乗数効果が緩和される割
合はいくらか。ただし、政府支出の増加は同じものとする。
(特別区Ⅰ類,2005)
1.8
1
2.4
1
3.8
3
4.2
1
5.4
3
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〈補足:税収の所得弾力性〉
税収の所得弾力性( T )とは、所得が 1%変化したときに、税収が何%変化するかを表したもので、以下の
ようになります。
T
Y
Y
T
Y
YT
T
T
(Y:所得,T:税収)
すると、フツーに考えて、「累進税は所得が少し変化すると税収が大きく変化する税だから、税収の所得弾
力性は 1より大きいな」などということが分かるので、以下のように累進税や比例税を分類することができま
す。
➊累進税( T >1)平均税率<限界税率
所得が大きくなると、税額も大きくなる。例えば、所得税や相続税や贈与税。
➋比例税( T =1)平均税率=限界税率
所得の大きさにかかわらず、税率は一定。例えば、法人税や消費税。
➌逆進税( T <1)平均税率>限界税率
所得が大きくなると、税額は小さくなるという税。こういう税は日本には存在しないが、「重税感」という観点
から考えると、消費税は逆進性を持つと言われている。