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ILO 海事労働条約における認定機関(ROの導入に関する調査研究報告書 平成 22 6 (財)日本海事センター

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ILO 海事労働条約における認定機関(RO)

の導入に関する調査研究報告書

平成 22年 6 月

(財)日本海事センター

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(本調査研究は、財団法人日本海事協会からの委託を受けて実施したものです。)

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目次

はじめに……………………………………………………………………….. 第 1章 ILO海事労働条約の内容と条約証書に係る旗国検査・証書発給

スキーム…………………………………………………………….. 第 1節 ILO海事労働条約の概要……………………………………… 第 2節 ILO海事労働条約における条約証書に係る旗国検査・証書発

給スキーム……………………………………………………….. 第 3節 他の条約との比較検討…………………………………………..

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向………………………… 第1節 欧州諸国…………………………………………………………...

I. デンマーク…………………………………………………. II. フランス…………………………………………………… III. ドイツ……………………………………………………... IV. オランダ…………………………………………………... V. ノルウェー………………………………………………… VI. 英国………………………………………………………..

第 2節 非欧州諸国……………………………………………………….. I. バハマ………………………………………………………. II. 韓国..………………………………………………………..

第 3節 ILO・外国船級協会……………………………………………… I. ILO事務局…………………………………………………... II. BV (フランス船級協会) ………………………………….. III. DNV (ノルウェー船級協会) ……………………………... IV. KR (韓国船級協会) ………………………………………..

第 3章 ILO海事労働条約の円滑な履行とROの活用……………………. 第 1節 旗国検査・証書発給スキーム検討の視点……………………… 第 2節 旗国検査・証書発給スキームのパターン……..……………….. 第 3節 旗国検査・ 証書発給スキームにおける ROに対する監督……. 第 4節 旗国検査・証書発給スキームの在り方…………………………

おわりに………………………………………………………………………..

参考資料

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図表一覧

図 1:MLC2006の規定構造…………………………………………………... 図 2:MLC2006における旗国検査・証書発給スキーム……………………. 図 3:ISMコードにおける旗国検査・証書発給スキーム.…………………

表 1: MLC2006批准国一覧…………………………………………………… 表 2:海事労働証書発給に関する検査事項…………………………………. 表 3: ISMコード・ MLC2006規律対象対照表……………………………….. 表 4:ILO第 178号条約・MLC2006対照表…………………………………. 表 5:7か国のMLC2006動向調査結果概要………………………………... 表 6:各機関における検査・証書発給体制………………………………….. 表 7:SOLAS条約における認定機関に対する政府の監督.……………….. 表 8:EUにおける既存の RO監督スキーム.………………………………..

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はじめに

1.調査の背景・目的

2006年2月に開催された国際労働機関(International Labour Organization:

以下「ILO」 )海事総会において、1919年以来ILOにおいて採択された

約60の条約・勧告を統合した 「2006年ILO海事労働条約 (Maritime Labour Convention, 2006) 」 (以下「MLC2006」)が採択された。この条約は船員の

労働環境の向上に資するため、雇用条件、居住設備、医療・福祉、社会保障等

の国際的基準を定めている。 また、 この条約では、 旗国 (又は認定機関 (Recognized Organizations:以下「RO」) )による自国船舶への検査及び証書の発給、PSC

の仕組み(スキーム)が導入されている。

現在、日本国政府はMLC2006の批准に向け、国内法制化に関する勉強

会を実施しており、2011年中の批准が見込まれている。

本調査では、MLC2006を円滑に履行するためにはどのような形で認定

機関を活用すべきか、という論点について、今後の議論に資することを目的と

して調査を行った。

2.調査の実施体制等

本調査のために、以下の委員及び事務局から成る調査研究委員会を設け、そ

の指導及び助言の下、文献調査及び現地調査等を行った。

【委員名簿】 (敬称略・順不同)

委員長

委 員

事務局

野川 忍

根本 到

門野 英二

小山 智之

平尾 真二

吉田 秀一郎

赤塚 宏一

春成 誠

齋藤 芳夫

大嶋 孝友

奈良 孝

野村 摂雄

佐藤 量介

明治大学法科大学院教授

大阪市立大学大学院法学研究科教授

川崎汽船(株)執行役員 海事人材グループグループ長

日本郵船(株)人事グループグループ長代理 (株)商船三井海上安全部船員グループマネージャー (社)日本船主協会海務部労政担当リーダー (社)日本船長協会副会長 (財)日本海事センター 理事長

常務理事

企画研究部長

〃 情報課長

〃 特別研究員

〃 専門調査員

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当調査研究委員会の開催状況は以下の通りである。

【調査研究委員会の開催状況】 (場所はいずれも当センター会議室)

第1回 2010年 1月25日14:00~16:00

主たる議題 調査実施方案の検討・合意、他の条約における検査・

証書発給スキーム

第2回 2010年4月21日13:00~15:00

主たる議題 MLC2006 をめぐる諸外国の動向、諸外国における既

存の ROの状況

第3回 2010年6月23日13:00~15:00

主たる議題 MLC2006 をめぐる諸外国の動向、MLC2006 対象船舶

への影響

【現地調査の実施日時等】

国名・日時 訪問先

デンマーク 2010年 3月 18日 14:00­16:00

Danish Maritime Authority ­ Mr. Jorgen Loje (Head of Division) ­ Mr. Jan Gabrielson (Head of Division) ­ Mr. Martin John (Marine Surveyor)

フランス 2010年 5月 17日 14:30­16:00

Ministry of Ecology, Energy, Sustainable Development and the Sea, General Directorate for Infrastructure, Transport and the Sea, Directorate for Maritime Affairs ­ Mr. Alain Moussat (Director of Labour, Head of the Maritime Labour Office) ­ Mr. Yann Becouarn (Deputy Sub­Director for Seafarers and Maritime Education)

ドイツ 2010年 3月 23日 10:00­12:00

Federal Ministry of Transport, Building and Urban Affairs ­ Dr. Heiko Schafer MJI BG Verkehr, Ship Safety Division ­ Capt. Tilo Berger

欧州諸

オランダ 2010年 5月 17日 11:30­13:00

Ministerie van Verkeer en Waterstaat Transport en Luchtvaart ­ Mr. Wouter Pietersma (Senior Policy Advisor, Sea Ports Division and Sea Shipping)

­ Mr. Rj., de Brujin (Senior Beleidsmedewerker, Programma Zeevaart)

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韓国 2010年 5月 10日 14:00­16:00

国土海洋部物流港室海運政策官室 ­ Mr. Lee, Hi Young (Director) ­ Mr. Kim, Dong Seo (Deputy Director) ­ Mr. Kim, Sok Hun (Deputy Director)

非欧州

諸国

バハマ 2010年 3月 30日 10:00­11:00

Bahamas Maritime Authority ­ Capt. Douglas Bell (Deputy Director) ­ Dr. Phillip Belcher (Technical and Compliance Officer)

ILO事務局 2010年 5月 10日 16:00­17:30

ILO, Sectoral Activities Department ­ Mr. Dani Appave (Senior Maritime Specialist)

ノルウェー 2010年 5月 12日 10:00­12:00

Det Norske Veritas (DNV) ­ Capt. Karl R Johansen (Project Manager, Competence Operation & Management, Maritime Technology and Production Centre)

フランス 2010年 5月 17日 17:45­18:15

Bureau Veritas (BV) ­ Mr. Serdar Isik (Manager, Maritime Labour Department)

ILO

・外国

船級

協会

韓国 2010年 5月 12日 13:00­15:00

Korean Register of Shipping (KR) ­ Mr. Jeon, Jeong Chong(General Manager, Statutory System Certification Team)

­ Mr. Choi, Jin Hong(Surveyor/Auditor, Statutory System Certification Team)

Inspectie Verkeer en Waterstaat (IVW) ­ Mr. Pieter Oost

ノルウェー 2010年 3月 16日 10:00­12:00 同 17日 10:00­12:00

Norwegian Maritime Directorate ­ Mr. Haakon Strhaug (Senior Adviser) ­ Ms. Unn Caroline Lem (Senior Legal Adviser) Ministry of Trade and Industry ­ Mr. Terje Hernes Pettersen (Senior Adviser)

英国 2010年 3月 29日 14:00­15:00

Maritime and Coastguard Agency (MCA) ­ Mr. Neil Atkinson (Inspector) ­ Ms. Julie Carlton (Medical Administration Manager)

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※船級協会凡例

American Bureau of Shipping (ABS) AZS­System (AZS) Bureau Veritas (BV) Consultancy4 LLP (C4LLP) China Classification Society (CCS) China Corporation Register of Shipping (CCRS) Det Norske Veritas (DNV) Ferriby Marine (FM) Germanischer Lloyd (GL) Hellenic Register of Shipping (HRS) Isthmus Bureau of Shipping (IBS) Intermaritime Certification Services (ICS) International Naval Surveys Bureau (INSB) Indian Register of Shipping (IRS) International Register of Shipping (IS) International Yacht Bureau (IYB) Korean Register of Shipping (KR; KRS) Korea Ship Safety Technology Authority (KST) Lloyd’s Register of Shipping (LR) Martinez & Co. (M) Marine Bureau (MB) Macosnar Corporation (MC) Marconi International Marine Company (MIMC) National Shipping Adjuster (NSA) Nippon Kaiji Kyokai (NK) Overseas Marine Certification Services (OMCS) Panama Bureau of Shipping (PBS) Panama Maritime Documentation Services (PMDS) Panama Maritime Quality Services (PMQS) Panama Marine Survey and Certification Services Panama Marine (PMSCS) Phoenix Management Services Group (PMSG)

Panama Register Corporation (PRC) Polish Register of Shipping (PRS) Panama Shipping Registrar (PSR) Registro Italiano Navale (RINA) Registro International Naval, SA (RINAVE) Russian Maritime Register of Shipping (RS; RMRS) Ships Classification Malaysia (SCM) St. Education & Training PTE (SETP) STET Maritime PTE (SMP) Star Maritime Security (SMS) Universal Shipping Bureau (USB) Universe Security Group (USG)

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第 1 章 ILO 海事労働条約の内容と

条約証書に係る旗国検査・証書発給スキーム

第1節 ILO 海事労働条約の概要

(1)条約の背景

国際労働機関(International Labour Organization: ILO)では、1919 年の発足以来、 68 にものぼる海事労働に関する条約・勧告が採択されてきたが、その多くは採択から

相当の年月を経て、現在の社会状況や技術進展に十分対応できておらず、さらに、こ

れらの中には同じ趣旨の規定を含む条約が複数存在するなど、条約体系が非常に複

雑なものとなっていった。そのため、それらの批准状況は全体として芳しくなく、結果と

して実効性が伴っていないという問題点も指摘されていた。

こうした状況に対処する必要から、海事労働に関する条約・勧告を最新の基準ととも

に整理・統合し、2006 年 2 月 23 日の ILO 第 94 回総会において採択されるに至った

のが、「2006 年の ILO 海事労働条約(Maritime Labour Convention, 2006)」(以下、

「MLC2006」)である。

(2)条約の目的 MLC2006 は、国際海事機関(International Maritime Organization: IMO)における

「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)及び「1974年

の海上における人命の安全のための国際条約に関する1988年の議定書」(SOLAS88 議定書)、「1978 年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条

約」(STCW 条約)、「1973 年の船舶による汚染の防止のための国際条約」及び「1973 年 の 船 舶 に よ る 汚 染 の 防 止 の た め の 国 際 条 約 に 関 す る 78 年 議 定 書 」

(MARPOL73/78 条約)に続く、国際海事規則体系の「第 4 の柱」として、海事労働に

関するグローバル・スタンダードを確立することを大きな目的としている。 具体的には、

海事労働に関する雇用条件、居住設備、医療・福祉・社会保障等の国際的基準を確

立することで、船員の労働環境の向上を図るとともに、こうした国際的基準の確立を通

じて、国際海運における「公正かつ適正な競争の場(Level Playing Field)」が確保され

ることをも目的とするものである。

(3)条約の内容

こうした目的を達成するため、MLC2006 は以下の内容・特徴を有するものとなって

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いる。

第一に、条約の適用対象・範囲について、各国の裁量を認めている。すなわち、 MLC2006 は「船員」を「能力のいかんを問わず、この条約が適用される船舶において

雇用され若しくは従事し、又は労働する者」と広く定義し(第 2 条 1 項(f))、また、「船

舶」を「船舶のうち、内陸水域又は外洋の影響から保護されている水域若しくは港湾規

則の適用水域若しくはこれらの水域に近接する水域のみを航行する船舶以外のもの」

と定義し(同条同項(i))、漁船、伝統的構造船舶、軍艦を除き、通常商業活動に従事

するすべての船舶(公有のものであるか私有のものであるかを問わない。)を適用対

象・範囲とすると同時に(同条 4 項)、これら船員および船舶の適用対象・範囲につい

て疑義がある場合には、各加盟国政府は労使との協議によりこれを決定することが可

能である(同条 3 項及び 5 項)。

条約が定める規範(コード)の適用については、国際航海に従事しない総トン数 200 トン未満の船舶に限り、これを国内法、労使協定、またはその他の措置により、加盟国

政府が個別に適用しないことを決定することもできる(同条 6 項)。

第二に、各加盟国が遵守すべき条約規定の構造であるが、国際的に法的な効力を

有している条約と、そうした拘束力を持たない勧告を統合したという事情もあり、 MLC2006は強制規定と任意規定の二層構造を採用している(第 6条)。具体的には、

規則及び規範 A 部(コード・パート A)が強制規定であり、規範 B 部(コード・パート B)

が任意規定である。この点、規範A部の国内実施にあたっては、加盟国が規範A部を

条文通り実施できない場合でも、国内法の規定が当該条文の一般的目標の達成に貢

献し、かつ当該条文に効果を及ぼすと加盟国が判断する場合には、当該条文と国内

法の規則は実質的に同等であるとして、規範 A 部は実施されているものとして扱われ

る(第 6条 3項及び 4項)。この規定は「実質的同等性原則」と呼ばれるもので、加盟国

が MLC2006 の国内実施をより柔軟に行うことができる条約規定となっている。

第 1 章 ILO 海事労働条約の内容と条約証書に係る旗国検査・証書発給スキーム

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【図 1:MLC2006 の規定構造】

第三に、実効性を高めるため、実施する枠組みに次のような工夫がなされている。ま

ず、加盟国は自国を旗国とする船舶について、船員の労働条件に関する検査及び証

明のための効果的な制度を設けることが義務づけられている(第 5.1.1規則 2項)。この

効果的な制度を設けるに当たっては、加盟国は適当な場合、能力を有し、かつ、独立

していると認める公の機関又は他の団体(認定機関:RO)に対し、検査、証書発給、又

はその双方を行うことを認めることができる。ただし、いかなる場合にも、自国を旗国と

する船舶における船員の労働条件及び生活条件に関する検査及び証明について引

き続き十分な責任を有する(同規則 3 項)。これに加え、旗国は、国際航海に従事する

総トン数 500トン以上の船舶について検査を実施し、条約適合が認められれば海事労

働証書(Maritime Labour Certificate)を発給する責任を有し(第 5.1.3 規則)、そして旗

国以外の加盟国の港に寄港する船舶に対しては、当該寄港国が検査(ポート・ステー

ト・コントロール:PSC)を実施する権利を有する(第 5.2 規則)。

さらに、安全性や労働条件などについて定められた国際基準よりも低い水準で運航

される、いわゆる「サブスタンダード船」を排除するため、非締約国の船舶に対しても条

約に定められた国際基準を適用する「一層有利な取扱いをしない(“No More Favorable Treatment”)原則」が規定されている(第 5 条 7 項)。

なお、これら旗国検査と寄港国検査については、先に示した「実質的同等性原則」

が適用されないため(第 5 章 2 項)、加盟国は条文に依拠した制度を構築しなければ

ならない。

第四に、条約の規律対象は、主に加盟国を規律する事項を除き、以下の通りである。

第 1 章「船内で労働する船員の最小限の要件」(最低年齢、健康証明書、訓練及び資

格、募集及び職業紹介システム)、第 2 章「雇用条件」(船員の雇用契約、賃金、労働

Article(総則)

Regulation(規則)

Standard(基準)

(規範 A 部)

Guideline(ガイドライン)

(規範 B 部)

通常改正

簡易改正

強制規定

任意規定

第 1 節 ILO 海事労働条約の概要

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時間及び休息時間、休暇、送還、船員への補償、配乗水準、職業経歴・技能開発及

び雇用機会)、第 3 章「居住設備、娯楽設備、食料及び供食」(居住設備及び娯楽設

備、食料及び供食)、第 4 章「健康の保護、医療、福祉及び社会保障による保護」(船

内・陸上医療、船舶所有者の責任、健康及び安全の保護並びに災害の防止、陸上の

福祉施設の利用、社会保障)、第 5章「遵守及び執行」(船内苦情処理手続、海難、陸

上苦情処理手続)。このほか、船員の社会保護に関しては、労働供給国の責任として

規定されている(第 5.3 規則)。

(4)条約の批准状況 MLC2006の発効要件は世界の船腹量の 33%を有する 30か国以上の批准後 12ヶ

月で効力を生じると規定されている(第 8 条)。2010 年 6 月 21 日時点での批准国は、

バハマ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、ブルガリア、カナダ、クロアチア、リベリア、マーシ

ャル諸島、ノルウェー、パナマ、スペインの 10 か国である(表 1 参照)。

発効要件の一つである船腹量については、この 10 か国で既に要件を充足しており、

残りは「30 か国」要件の達成のみとなっている。この点、欧州連合理事会(The Council of the European Union)が 2010 年 12 月末までの MLC2006 批准を EU 加盟国に促す

理事会決定(2007/431/EC)を行っていることから、EU27 か国が 2010 年度中に批准し

た場合には「30 か国」要件も充たされるため、2011 年度中の MLC2006 発効の可能性

が高いと見込まれている。

【表 1:MLC2006 批准国一覧】

国名 批准日

バハマ 2008 年 2 月 11 日

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ 2010 年 1 月 18 日

ブルガリア 2010 年 4 月 12 日

カナダ 2010 年 6 月 15 日

クロアチア 2010 年 2 月 12 日

リベリア 2006 年 6 月 7 日

マーシャル諸島 2007 年 9 月 25 日

ノルウェー 2009 年 2 月 10 日

パナマ 2009 年 2 月 6 日

スペイン 2010 年 2 月 4 日

(ILO ホームページより:http://www.ilo.org/ilolex/cgi­lex/ratifce.pl?C186)

第 1 章 ILO 海事労働条約の内容と条約証書に係る旗国検査・証書発給スキーム

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第2節 ILO 海事労働条約における条約証書に係る旗国検査・

証書発給スキーム

(1)条約証書に係る旗国検査・証書発給スキーム MLC2006が規定する旗国検査・証書発給スキームは以下の通りである(図 2参照)。

まず、旗国は自国籍船について、内外航を問わず、船内の船員の労働条件・生活条

件の MLC2006 及び法令等への適合性を確保する責任を有し(第 5 条 1 項及び第 5.1.1 規則)、定期的検査、監視その他の管理措置の効果的かつ調整された制度を通

じて、自国を旗国とする船舶が国内法令において実施される MLC2006 要件を遵守し

ていることを確認する(同条 2 項及び第 5.1.4 規則)。具体的には、加盟国は自国籍船

における船員の状況に関する検査制度を保持し、その責任を果たすために資格を有

する十分な数の検査員を認定する(第 5.1.4 基準)。この検査官の任務実施のために

は、能力確保、権限付与、独立性保持のための適当な措置が執られなければならず、

また、検査は適当な場合には 3 年を超えない間隔で実施される(同基準)。

次に、旗国は MLC2006 が対象とする自国籍船について、海事労働証書及び海事

労働適合申告書(Declaration of Maritime Labour Compliance: DMLC)を備えることを

確保する義務を負う(第 5 条 3 項)。具体的には、国際航海に従事する総トン数 500 ト

ン以上の自国籍船に対し、MLC2006 を実施する国内法令等への適合性に係る検査

を行った上で、海事労働証書を発給する(第 5.1.3 基準 6 項)。要求される検査事項は

下記表 2 の 14 項目である。

【表 2:海事労働証書発給に関する検査事項】

検査項目 該当規定

1.最低年齢

2.健康証明書

3.船員の資格

4.船員の雇用契約

5.職業紹介機関の利用

6.労働時間又は休息時間

7.船員の配乗水準

8.居住設備

9.船内の娯楽設備

10.食糧及び供食

11.健康・災害防止

第 1.1 規則

第 1.2 規則

第 1.3 規則

第 2.1 規則

第 1.4 規則

第 2.3 規則

第 2.7 規則

第 3.1 規則

第 3.1 規則

第 3.2 規則

第 4.3 規則

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12.船内医療

13.船内苦情処理手続

14.賃金支払

第 4.1 規則

第 5.1.5 規則

第 2.2 規則

この海事労働証書は 5 年を超えない期間で発給され、その有効性の維持のため、3 年を超えない間隔で中間検査が実施される。そして、海事労働証書は更新が可能で

あり、更新検査が証書の有効期間の満了の日前 3 ヶ月以内に完了した場合には、新

たな海事労働証書は、当該検査の完了の日から 5 年を超えない日まで期間効力を有

すると規定されている(第 5.1.3 規則)。

また、この海事労働証書には 2 部からなる DMLC を添付することが求められる(第 5.1.3基準 10項)。DMLC第 1部は権限のある機関により作成されるもので、MLC2006 が関連する国内法規及び国内的要件を明示する(同項(a))。第 2 部は船舶所有者に

より作成され、検査から次の検査までの間において国内的要件を継続的に遵守するこ

とを確保するために執られる措置を明示する必要がある(同項(b))。この第 2 部の様式

については、非強制規範である規範 B において、海事関係の関連する他の文書(例

えば国際安全管理(ISM)コードによって要求される文書)を参照することができるとさ

れている(第 5.1.3 ガイドライン 2 項)。

権限のある機関又は RO は、この第 2 部を確認して DMLC を発給する(5.1.3 基準 10 項(b))。また、海事労働証書の発給に関する船舶に条約違反があり、これに対して

是正措置がとられない場合、その違反の重大性又は違反頻度を考慮して、権限のあ

る機関又は RO は海事労働証書を取り消すものと規定される(同基準 16 項及び 17 項)。

第 1 章 ILO 海事労働条約の内容と条約証書に係る旗国検査・証書発給スキーム

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【図 2:MLC2006 における旗国検査・証書発給スキーム】

(2)認定機関の権限等

先に述べたように、加盟国は、適当な場合には、能力を有し、かつ、独立していると

認める RO に対し、検査、証書発給、又はその双方を行うことを認めることができる(第 5.1.1 規則 3 項)。この RO の“能力及び独立性”に係る要件としては、MLC2006 に関

する必要な専門知識、船舶運航の適当な知識、及び MLC2006・国内法令・MLC2006 に関連する国際文書についての必要な知識を保持し、さらに、RO に属する人材の専

門知識の維持・更新ができることを RO に求めている(第 5.1.2 基準 1 項)。他方、加盟

国には、RO が実施する業務の妥当性を確保するための制度の確立、RO との連絡手

続及びその監督手続の確立が求められる(同基準 3 項及び 4 項)。また、旗国検査に

従事する RO 職員に対し、その職務に従事するための資格を有することを要求し、検

査業務に従事するための必要な法的権限をROに付与するものとされる(第5.1.4基準 2 項)。 MLC2006 上の RO の権限は、以下の通りである。検査権限については、少なくとも

RO が検査において特定した欠陥の是正を要求し、この点に関して寄港国の要請によ

り検査を実施する権限が与えられる(同基準 2 項)。RO 職員を含む、権限のある機関

が任命する検査官には、(a) 自国籍船への乗船、(b) 条約適合を確認するための調

査、検査又は取り調べ、(c) 欠陥是正要求並びに関連する船舶の出港禁止、以上の

権限が与えられる(同基準 7項)。この点、旗国検査において示された苦情に対する調

査(同基準 5 項)、又は MLC2006 遵守のための国内要件の執行については、RO で

はなく権限のある機関が取り扱うべきとされる(『2006 年の海事労働条約に基づく旗国

旗国

(または RO)

MLC2006 対象船舶

寄港国

検査・海事労働証書発給 適合申告書(DMLC)

PSC 実施

DMLC 第 1 部の作成(権限のある機関)

「国内的な要件の継続的な遵守を

確保するために船舶所有者が取る措置」

の記載

DMLC2 部の作成(船舶所有者)

添付

国内要件の記載

第 2 節 ILO 海事労働条約における条約証書に係る旗国検査・証書発給スキーム

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12

検査に関するガイドライン』第 1 章第 58 パラグラフ)。海事労働証書については、これ

を発給し、又は更新する権限を有する(第 5.1.3 基準 6 項)とともに、関連船舶に条約

違反があり、これに対して是正措置がとられない場合、その違反の重大性又は違反頻

度を考慮して、海事労働証書を取り消す権限も条約上認められる(同基準 16 項及び 17項)。ROを利用する加盟国は、ROの一覧表を ILO事務局に提供し、そこにROに

与えられた任務権限を明記する(第 5.1.2 基準 4 項)。

第3節 他の条約との比較検討

(1)MARPOL73/78 附属書 I 「1973 年の船舶による汚染の防止のための国際条約」及び「1973 年の船舶による

汚染の防止のための国際条約に関する 1978 年の議定書」(MARPOL73/78)は、船舶

からの油その他の有害物質の排出により海洋環境が汚染されることを防止する目的で

採択された条約である。その附属書 I は、油による汚染の防止のための諸規則を規定

したものであり、国際航海に従事する総トン数 150 トン以上の油タンカー及び油タンカ

ー以外の総トン数 400 トン以上の船舶を適用対象とする。検査(survey)の対象項目は、

対象船舶の構造、設備、装置、取付け物、配置及び材料であり、3 年を超えない間隔

で実施される中間検査においては、設備並びに関連するポンプ及び管系(油排出関

し制御装置、原油洗浄装置、油水分離器及び油除去装置を含む。)がこの附属書に

定める諸要件に完全に適合し、かつ、良好な作動状態にあることを確保することを検

査する。

条約上の検査を行う主体は、主管庁の職員、主管庁が指名する検査員又は主管庁

の認定する団体(RO)である(第 2 章第 6 規則 3.1)。検査によって条約適合が確認さ

れた後、主管庁又は主管庁から権限を与えられた者若しくは団体(RO)は国際油汚染

防止証書を発給する(第 2章第 7規則 2及び第 8規則 1)。証書の有効期間は 5年で

ある(第 2 章第 10 規則 1)。

(2)SOLAS 条約附属書第 I 章

「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)は、航海の安

全、特に人命の安全の確保を目的に、船舶の構造、設備等の基準を定めた条約であ

る。同条約附属書第 I 章は、海上における人命の安全を増進するために設けられたも

ので、国際航海に従事する旅客船及び総トン数 500トン以上の貨物船(無線設備につ

いては総トン数 300 トン以上)を適用対象とする。検査(inspection and survey)の対象

項目は、船体、ボイラー機関、主機関、補助機関、無線設備、救命設備、防火・消防

第 1 章 ILO 海事労働条約の内容と条約証書に係る旗国検査・証書発給スキーム

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設備、航行設備など多岐にわたる。検査を行う主体は、主管庁の職員、主管庁が指名

する検査員又は主管庁の認定する団体(RO)である(第Ⅰ章 B 部第 6 規則(a))。検査

によって条約適合が確認された後、主管庁又は主管庁から権限を与えられた者若しく

は団体(RO)は、旅客船安全証書(Passenger Ship Safety Certificate)、貨物船安全構

造証書(Cargo Ship Safety Construction Certificate)、貨物船安全設備証書(Cargo Ship Safety Equipment Certificate)、貨物船安全無線証書 (Cargo Ship Safety Radio Certificate)及び免除証書(Exemption Certificate)を発給する。

証書の有効期間は、旅客船については 12 ヶ月、貨物船については 5 年と規定され

ている(第 I 章 B 部第 14 規則)。

(3)SOLAS 条約附属書第 IX 章-国際安全管理(ISM)コード SOLAS条約附属書第 IX章の ISMコードは、最近の海難事故の多くが人的要因(ヒ

ューマン・ファクター)により生じているとの認識から、海難防止のためには船舶(ハー

ド要件)だけではなく陸上の管理部門も含めた全社的な取組が必要と判断し、船舶・

陸上を含めた全社的な「安全管理システム」(ソフト要件)を構築し、これを確実に実施

することを義務付けるために設けられたものである。その目的は、海上における安全、

傷害又は人命の損失並びに環境、特に海洋環境及び財産の損害回避を確実にする

こと(Code.1.2.1)及び海 上部 門と 陸上部 門 を包括す る安全 管理 体制 の構築

(Code.1.2.2)であり、そのため、検証(verification)対象も国際航海に従事する旅客船

及び総トン数 500 トン以上の貨物船に加え、その船舶の運航を管理する会社にも検証

を実施する(第 IX 章第 3 規則 1)。ISMコードにおける会社とは、「船舶の所有者又は

船舶の管理者若しくは裸傭船者等他の団体若しくは人であって、船舶の所有者から

船舶の運航の責任を引き受け、かつ、当該責任を引き受けるに際し、ISM コードによ

って課されるすべての義務及び責任を引き継ぐことに同意した者」(第 IX 章第 1 規則 2)と定義される。会社は、船舶運航時の安全な業務体制及び安全な作業環境の確保

(Code.1.2.2.1)、予防措置の確立(Code.1.2.2.2)、陸上及び船上の要員の安全管理技

術の継続的な改善(Code.1.2.2.3)に留意し、安全管理システム(SMS)の構築に当た

ることが求められる。 ISM コードの規律対象は、「経営資源及び要員配置」(Code.6;実務上は、年齢制

限などの任用基準、船員免状・資格、身体適正(健康証明書)、訓練、配乗など)、「船

内業務計画の策定」(Code.7;実務上は、人員配置、当直体制、航海日誌など)、「緊

急事態への準備」(Code.8;実務上は船上医療体制など)、「船舶及び設備の保守」

(Code.10)、「文書管理」(Code.11)、「会社による検証、見直し及び評価」(Code.12)等

である。この規律対象の一部は、事実上、MLC2006 がカバーするところと重複する

(表 3 参照)。そのため、MLC2006 における船上検査を ISM コードにおける船上監査

と同時に実施することを方針とする諸外国政府も少なくない。

第 3 節 他の条約との比較検討

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【表 3:ISM コード・MLC2006 規律対象対照表】 ISM コード MLC2006

・経営資源及び要員配置

(年齢制限などの任用基準、船員

免状・資格、身体適正(健康証明

書)、訓練、配乗)

・船内業務計画の策定

(人員配置、当直体制、航海日誌)

・緊急事態への準備

(船上医療体制)

・船舶及び設備の保守

・文書管理

・会社による検証、見直し及び評価

※括弧内はコード規定、その解釈及

び国内法で担保されている具体

例。(国交省検査測度課監修『ISM コードの解説と検査の実施』(成山

堂、2008)参照。)

・最低年齢

・健康証明書

・訓練・資格

・募集職業紹介

・雇用契約

・賃金

・労働時間・休息時間

・送還

・船舶滅失沈没時の船員補償

・配乗水準

・居住設備・娯楽設備

・食料・供食

・健康・安全・災害防止

・陸上・船上医療

・社会保障

・苦情処理手続

※実線下線部の項目は、ISM コードと

重複すると考えられるもの。ちなみ

に、ノルウェーは、実線下線部に加

え、破線下線部の項目も重複すると

認識している。

ちなみに、船社は実際の SMS を日常の船舶運航・管理に関する全ての項目に対

応できるシステムとして構築・更新してきており、既存の SMS によって MLC2006 の殆

どがカバーされていることから、MLC2006 に備えて若干の修正措置で対応している船

社のケースも見受けられる。他方、現時点での社内体制と、MLC2006規律対象との間

に“ギャップ”が存在している場合、船級協会の力のもとに、MLC2006規律対象も包摂

する SMS 又は社内システムの構築に向けて対応している船主は少なくない。

ISM コードにおける旗国検査・証書発給スキームにおいては(図 3 参照)、まず、会

社は、ISM コードの要件を満たすような SMS を確立しなければならない。旗国による

検証に合格すれば、適合書類(Document of Compliance; DOC)の発給を受ける

(Code.13.2)。次に、船舶は、DOC を所持する会社によって運航されなければならな

第 1 章 ILO 海事労働条約の内容と条約証書に係る旗国検査・証書発給スキーム

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15

い(Code.13.1)。そして、旗国による会社及び船舶への検証に合格すれば安全管理証

書(Safety Management Certificate; SMC)が発給される(Code.13.7)。

【図 3:ISM コードにおける旗国検査・証書発給スキーム】

そして、DOC 及び SMC の有効期間は 5 年であり、検証及び DOC 並びに SMC の

発給主体は、主管庁及び主管庁の認定を受けた団体(RO)である(第 IX 章第 4 規則

及び第 6 規則)。そして 3 年を超えない期間に中間検証が行われなければならない

(Code.13.8)

(4)SOLAS 条約附属書第 XI­2 章-船舶及び港湾施設の保安の国際(ISPS)コード SOLAS 条約附属書第 XI­2 章の ISPS コードは、2001 年 9 月 11 日の米国同時多発

テロ事件を契機に、海事保安の強化の必要性が認識されるようになったことから、海事

運送セクターにおいて保安に脅威を与える行動を検知し阻止するために、船舶と港湾

施設と協調する枠組みを形成することを目的とするものである。ISPS コードでは、政

府・主管庁並びに海運及び港湾業界間の協力を含む国際的な枠組みを設立し、国

際貿易に使用される船舶及び港湾施設に影響を与える保安事件に対する予防措置

をとること、海事保安を確実にするために国内・国際レベルにおける政府・主管庁並び

に海運及び港湾業界それぞれの役割及び責任を確立すること、保安関連情報の早

期かつ効率的な収集及び交換を確実にすること、保安レベルの変更に対応するため

の手続きを保持するよう、保安評価のための方法を提供すること、十分かつ均整のと

れた保安措置が適切となるための信頼性を確実にすることなどが規定されている(Part A/Code.1.2)。

旗国

船舶

(DOC, SMC 保持)

寄港国

会社

船舶検証・安全管理証書(SMC) 会社検証・適合証書(DOC)発給

PSC 実施

安全管理システム(SMS)

第 3 節 他の条約との比較検討

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ISPS コードの適用対象は、国際航海に従事する旅客船及び総トン数 500 トン以上

の貨物船と、上記船舶に供する港湾施設とされる(Part A/Code.3)。船舶の保安体制

及び全ての関連保安設備の ISPSコードとの適合検証(verification)は、主管庁又は認

定された保安団体(RSO)が実施する(Part A/Code.4.3 及び 19.1.2)。この検証に基づ

き発給される船舶保安証書(International Ship Security Certificate)についても、主管

庁又は認定された保安団体(RSO)により発給がなされる(Part A/Code.19.2.1 及び 19.2.2)。船舶保安証書の有効期限は 5 年であり、3 年を超えない期間に中間検証が

行われなければならない(Part A/Code.19.1.3)

(5)ILO 諸条約 MLC2006は、海事労働に関する 68もの条約・勧告を整理・統合した条約であるため、

その規律対象のほとんどが既存の ILO 諸条約を土台としている。たとえば、MLC2006 第 2.3規則の「労働時間及び休息時間」は「船員の労働時間及び船舶の定員条約(第 180 号条約)」と、第 3.1 規則の「居住設備」は「船員の設備(改正)条約(第 92 号条

約)」及び「船員設備(補足規定)条約(第 133 号条約)」に基礎を置いている。

また、規律対象のみならず、条約の履行に関しても、既存の ILO 諸条約にならって

いる(表 4 参照)。例えば、MLC2006 で規定された旗国検査制度と RO 利用制度は、

証書発給に関する事項を除き、「労働監督(船員)条約(第 178 号条約)」において既

に導入されているのである。

第 1 章 ILO 海事労働条約の内容と条約証書に係る旗国検査・証書発給スキーム

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【表 4:ILO 第 178 号条約・MLC2006 対照表】 ILO 第 178 号条約(「船員の労働条件及び生活条件の監督に関する条約」)

・1996 年採択、2000 年発効。15 か国が批准。日本は未批准。

・海上の労働監督に関する初の国際条約である。

第 178 号条約 MLC2006

対象

「船員」とは、資格のいかんを問わ

ず、この条約が適用される海上航行

船舶において雇用される者をいう。

(第 1 条(d))

「船員」とは、能力のいかんを問わ

ず、この条約が適用される船舶にお

いて雇用され若しくは従事し、又は労

働する者をいう。(第 2 条 1 項(f))

締約

国の

義務

この条約の適用を受ける加盟国は、

船員の労働条件及び生活条件の監

督の制度を保持する。(第 2 条 1 項)

加盟国は、自国を旗国とする船舶に

おける船員の労働条件及び生活条

件がこの条約の基準を満たすこと及

び引き続き満たすことを確保する第 5.1.3 規則及び第 5.1.4 規則の規定に

従い、船員の労働条件に関する検査

及び証明のための効果的な制度を設

ける。(第 5.1.1 規則 2 項)

検査

加盟国は、船内における船員の労働

条件及び生活条件が国内法に適合

していることを確認するため、自国の

領域において登録された船舶が 3 年

を超えない間隔で及び、実行可能な

場合には毎年、監督を受けることを確

保する。(第 3 条 1 項)

検査は、適当な場合には、第 5.1.3 基

準(規範 A)に規定する間隔で実施さ

れる。この間隔は、いかなる場合にも 3 年を超えてはならない。(第 5.1.4 基

準(規範 A)4 項)

・船内における生活区域及び労働区

域の維持及び清潔さの基準

・最低年齢

・雇入契約

・食料及び司厨

・乗組員の施設

・募集

・配乗

・資格

・労働時間

・健康検査

・職業上の災害の防止

・最低年齢

・健康証明書

・訓練・資格

・募集職業紹介

・雇用契約

・賃金

・労働時間・休息時間

・送還

・船舶滅失沈没時の船員補償

・配乗水準

・居住設備・娯楽設備

・食料・供食

第 3 節 他の条約との比較検討

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・医療

・疾病及び負傷に対する給付

・社会福祉及びこれに関連する事項

・送還

・国内法令に従った雇用条件

・国際労働機関の 1948 年の結社の

自由及び団結権保護条約に規定

する結社の自由等に関する条件

(第 1 条(e))

・健康・安全・災害防止

・陸上・船上医療

・社会保障

・苦情処理手続

(第 1 章~第 5 章)

中央調整機関は、いかなる場合に

も、船員の労働条件及び生活条件の

監督について責任を負う。中央調整

機関は、当該機関が能力を有しかつ

独立していると認める公的機関又は

他の団体に対し当該機関に代わって

船員の労働条件及び生活条件の監

督を行うことを認めることが出来る。

(第 2 条 3 項)

船員の労働条件に関する検査及び

証明のための効果的な制度を設ける

に当たり、加盟国は、適当な場合に

は、能力を有し、かつ、独立している

と認める公の機関又は他の団体(他

の加盟国が同意した場合には、その

加盟国のものを含む。)に対し検査を

行うこと若しくは証明書を発給すること

又はその双方を行うことを認めること

ができる。いかなる場合にも、当該加

盟国は、自国を旗国とする船舶にお

ける船員の労働条件及び生活条件

に関する検査及び証明について引き

続き十分な責任を有する。(第 5.1.1 規則 3 項)

第 1 章 ILO 海事労働条約の内容と条約証書に係る旗国検査・証書発給スキーム

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第 2章 ILO 海事労働条約をめぐる諸外国の動向

第 1節 欧州諸国

I. デンマーク

訪問先 Danish Maritime Authority(デンマーク海事局) ­ Mr. Jorgen Loje (Head of Division) ­ Mr. Jan Gabrielson (Head of Division) ­ Mr. Martin John (Marine Surveyor)

訪問日 2010年 3 月 18日

デンマーク海事局より聴取した内容は以下のとおり。

1.MLC2006の批准について

(1)批准時期

・同国は 2010年 12月末を目標としている。

(2)国内担保法

・ The Merchant Shipping (Masters’ and Seamen’s) Act及び The Act of Safety at Sea が主たる担保法であり、その実施規則で詳細を定める予定である。

・両法について、MLC2006実施のために必要な修正法案を国会に上程してい

る。 当該法案が国会を通り、 詳細な規則を策定すれば、 批准の運びとなる。

【追記】

・当該法案は、4月末に国会を通過した。

2.MLC2006のための ROについて

(1)導入の見込み

・検査及び証書発給について導入の予定。

・但し、客船を除く。しかし、三国間航路に従事している客船については RO に任せる。

・従来の IMO条約の下で導入しているのと同様のスタイルである。

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20

(2)資格要件・手続き

・資格要件としては、 EUの承認を受けた船級協会*であることが挙げられる。

・従来、船級協会は、当局と書面(”Danish Class Agreement”)で業務等につ

いて合意の上、ROとなる。

【EU承認船級協会】 *EUの承認を受けた船級協会 EUは、船舶の検査及び検査機関に関する基準等を策定し(Directive 94/57/EC,

Regulation (EC) No 391/2009, Directive 2009/15/EC)、それを満たすものとして以

下の 13の船級協会を承認している(2007/C/ 135/04) 。EU加盟国は、EUに承認

された船級協会のみを ROとして利用することとされている。また、EU加盟国

は、未承認の組織について EU に承認を求めることもできる(Article 3 of Reg. (EC) No 391/2009)。 American Bureau of Shipping (ABS) Bureau Veritas (BV) China Classification Society (CCS) Det Norske Veritas (DNV) Germanischer Lloyd (GL) Korean Register of Shipping (KR) Lloyd’s Register of Shipping (LR) Nippon Kaiji Kyokai (NK) Registro Italiano Navale (RINA) Russian Maritime Register of Shipping (RS) Hellenic Register of Shipping (HRS) Registro International Naval, SA (RINAVE) Polish Register of Shipping (PRS)

(3)権限・義務

・ROは、検査及び証書発給を行う権限が与えられる。

・RO は DMA との合意事項及び IMO 決議 A.739 (18)に従って、業務を行わ

なければならない。

・当局による監督(後述)を受け入れなければならない。

・RO検査員は、公務員と同じくデンマーク法に基づく守秘義務を負う。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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(4)当局による監督

・当局は、EU指令(Directive 94/57/EC)に従い、ROの業務について定期的

にモニタリングを行っている。 (当局は同指令 11 条 2 項により、RO の活

動の適切性について少なくとも隔年で監査を行い、その結果を委員会及び

他の加盟国に報告しなければならない。 )

・当局は RO のオフィスに対して監査を行い(2 年に 1 度) 、また、RO が発

給した証書をランダムに抽出して当該証書の適切性を検査する。

・当該 RO が証書を発給した船舶が拘留をうけた場合、若しくは、5 件の欠

陥が発覚した場合、PSC 班が当該証書を確認し、結果報告書を作成する。 RO関係班は、それを見て、ROにコメントや是正措置を求めるなどしてい

る。

3.その他MLC2006の国内実施について

(1)エンターテーナーの扱い(MLC2006 第 2条第 1項(f)関係)

・原則としてあらゆる者をMLC2006上の船員と考えているが、1ステージ若

しくは 1晩限り客船に乗船するエンターテーナーは除外する。

(2)船員の募集及び職業紹介機関の確認方法(第 1.4規則関係)

・検討中である。「旗国検査ガイドライン」に則ることとなる。

(3)船長への労働時間規制(第 2.3基準(規範 A)関係)

・その旨の労使協約が結ばれれば、例外を容認する。

(4)苦情受付窓口(第 5.2.2規則関係)

・PSC担当官が窓口となる。

・DMAには PSC担当官が 40人在籍しており、25人は本部、残り 15人は全

国 7つの支部に配置されている。

(5)ISMコードとの関係性(第 5.1.3規則関係)

・詳細は未定であり、ISM コードと MLC2006 とは完全に中身が一致してい

ないという意味で別個のものと認識しているが、検査する側からすれば ISMコードとなるべく一体的に検査を行う方が自然であると考えている。

第 1節 欧州諸国 I. デンマーク

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4.SOLAS条約等における認定機関について

(1)認定機関の利用状況

条約 条約証書 検査 発給 備考

MARPOL (I) 国際油汚染防止証書 IOPPC

ABS BV DNV GL LR NK RINA

­

旅客船安全証書 PSSC ‐ ­ 貨物船安全構造証書 CSSCC ­ 貨物船安全設備証書 CSSEC ­

SOLAS (I)

貨物船安全無線証書 CSSRC ­ 適合証書 DOC 旅客船を除く

SOLAS (IX) 安全管理証書 SMC ­

­ SOLAS (XI­2) 船舶保安証書 ISSC

ABS BV DNV GL LR NK RINA ­

* 2010年 3月の現地調査において確認。

(2)関連法令

・1(2)国内担保法に同じ

5.統計

(1)MLC2006条約証書対象船舶:約 549隻

(2)自国籍船員数:5,833名(2009年時点)

(3)船員労務官:約 40名

(4)船上検査頻度:定期的には行っていない。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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Ⅱ.フランス

訪問先 Ministry of Ecology, Energy, Sustainable Development and the Sea, General Directorate for Infrastructure, Transport and the Sea, Directorate for Maritime Affairs(エコロジー・エネルギー・持続可能開発・海洋省海事局) ­ Mr. Alain Moussat (Director of Labour, Head of the Maritime Labour Office)

­ Mr. Yann Becouarn (Deputy Sub­Director for Seafarers and Maritime Education)

訪問日 2010年 5 月 17日

エコロジー・エネルギー・持続可能開発・海洋省海事局より聴取した内容は以下

のとおり。

1.MLC2006の批准について

(1)批准時期

・同国は 2011 年 6月をめどとしている。

・ILO188号条約*もあわせて批准する予定。

【批准が遅れる理由】

・EU指令で 2010年中の批准が推奨されていることは認識しているが、如何

せん、条約の内容が網羅的なので、関係する法令条文の数が多い。逐一確

認する作業を行っており、また、改正には国会動向とも関わるので、スム

ーズにはいかない。よって、時間がかかっている。

*ILO188号条約

正式名称は 2007年の漁業労働条約(Work in Fishing Convention, 2007)で、 2007年 6 月 14日採択(第 96回総会)。同条約は、MLC2006が適用されな

い漁船員の保護を目的とし、漁業労働を包括的に扱っている。同条約のベ

ースは、112号条約(1959年の最低年齢(漁船員)条約、113号条約(1959 年の健康検査(漁船員)条約)、114 号条約(1959 年の漁船員の雇入契約

条約)、126 号条約(1966 年の船員設備(漁船員)条約)であり、フラン

スはいずれも批准している。なお、日本はいずれも未批准。

第 1節 欧州諸国 II. フランス

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(2)国内担保法

・ MLC2006が関係する法令は、 これまで海事労働法令集 (maritime labour code)

としてまとめている。しかし、目下、すべての関係法令を見直し、新たに

交通法令集(transport code)として再編する作業を行っているところであ

る。ここでの海事労働に関する部分は、一般労働法の特別法にあたるもの

となる。

2.MLC2006のための ROについて

(1)導入の見込み

・検討中で確定していないが、 導入するとすれば少なくとも批准の段階では、

居住設備に関する検査に限ってのこととなると思う。

・居住設備について代行させるのは、二重検査を避けるためである。

・MLC2006の国内実施については、ステップ・バイ・ステップの姿勢で臨む

こととなるので、 将来的には ROを活用する幅が広がる可能性はゼロではな

い。

【導入をハード面に限る理由】

・労働省が MLC2006 の国内実施に高い関心を示しているため、それを民間

に代行させることは相当な反対が予想される。組合も反対すると思われる。

・一般にフランスでは、労働条件など社会的事項の検証は、守秘義務の観点

からも重要な問題と考えられている。

・もとより、ILO 第 178 号条約の国内実施においても、RO を利用せず、海

事局検査官が労働省の検査官とともに船上検査にあたっている。もっとも、

十分には実施してきていない。なお、フランスでは、労働監督に関する制

度が再編されたところである。それまで各省で行ってきたものが、2009年 1月 1以降、労働省の監督の下で一元的に実施されることとなった。

【MLC2006検査官の養成】

・MLC2006 検査官として 40 名の養成している。そのうち 7 名(うち 2 名は

元船長)を先駆的に MLC2006 検査官として養成すべく、ILO の研修を受

けさせている。ナントに研修センターを有しているので、彼らにそこで行

う講習を構築してもらい、さらなるMLC2006検査官を養成する予定だ。

・彼らは 14ある Maritime Safety Centerに配備されることとなる。

・なお、Maritime Safety Centerは、従来 ISM コードなどに基づく検査及び証

書発給を担っているが、24時間 365日対応している。証書発給の申請はオ

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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ンラインを利用可能、交付までの所要時間は通常1~2日で、急ぐ場合に

は暫定証書を発給している。交付は郵送若しくは窓口で行っている。

(2)資格要件・手続き

・すべては検討中であるが、中立性の要件を盛り込むことは確実である。

・むろん EUで承認されている船級協会であることも要件となる。

(3)権限・義務

・代行させるとしても当面は居住設備に限っての検査権限であろう。

(4)当局による監督

・検討中だが、従来の枠組みで実施することとなるであろう。

第 1節 欧州諸国 II. フランス

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3.その他MLC2006の国内実施について

(1)エンターテーナーの扱い(MLC2006 第 2条第 1項(f)関係)

・短期乗船のエンターテーナーは除外する。どの程度を「短期間」とするか

を検討中である。むろん乗船の頻度も考慮し、関係団体と協議の末、決定

する。

(2)船員の募集及び職業紹介機関の確認方法(第 1.4規則関係)

・雇用契約に明示させ、その複写を船上検査で確認する必要があるのではな

いかと考えている。

(3)船長への労働時間規制(第 2.3基準(規範 A)関係)

・起草過程における議論を考慮しつつ、緊急時の適用除外及び労使協約に基

づく例外を認める方向である。但し、労使協約に基づく例外は、荒天など

特定の状況のみであり、船長についてそっくり除外するようなことは許さ

れないと考えている。

(4)苦情受付窓口(第 5.2.2規則関係)

・PSC担当官が窓口となる。その後の対応は、労働省の人間とともに行うこ

ととなる。

(5)ISMコードとの関係性(第 5.1.3規則関係)

・まだ確定していないが、DMLC第 2部の作成において、SMSの参照をする

ことを認める方向である。

(6)その他

・DMLC 第 1部の作成について議論がある。当局としては、14項目に関連す

る国内法令の規定を記すのみではなく、 MLC2006遵守に必要なすべての国

内法令の規定を挙げるべきだと考えている。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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4.SOLAS条約等における認定機関について

(1)認定機関の利用状況

条約 条約証書 検査 発給 備考 MARPOL (I) 国際油汚染防止証書 IOPPC

旅客船安全証書 PSSC 貨物船安全構造証書 CSSCC 貨物船安全設備証書 CSSEC

発給に

制限あり

SOLAS (I)

貨物船安全無線証書 CSSRC

BV, DNV, GL, LR

検査・発給に

制限あり

適合証書 DOC ­ BV, DNV, GL, LR

発給に

制限あり SOLAS (IX)

安全管理証書 SMC BV, DNV, GL, LR 検査・発給に

制限あり

SOLAS (XI­2) 船舶保安証書 ISSC GL, BV 不明 * 2010年 3月の現地調査において確認。

(2)関連法令

・1(2)国内担保法に同じ

5.統計

(1)MLC2006条約証書対象船舶:250~300隻

(2)自国籍船員数:10,000名以上

(3)船員労務官:約 200名

(4)船上検査頻度:制度改正以後についてデータなし。

第 1節 欧州諸国 II. フランス

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Ⅲ.ドイツ

訪問先 Federal Ministry of Transport, Building and Urban Affairs(連邦交通建設

都市開発省) ­ Dr. Heiko Schafer MJI BG Verkehr, Ship Safety Division(運輸交通組合船舶安全課) ­ Capt. Tilo Berger

訪問日 2010年 3 月 23日

連邦交通建設都市開発省及び運輸交通組合安全課より聴取した内容は以下のと

おり。

1.MLC2006の批准について

(1)批准時期

・同国は 2010年 12月末を目標としている。

(2)国内担保法

・1957 年制定の Seemannsgesetz が船員法であり、その他、MLC2006 の国内

実施に関する法令の中心をなす。 ­Seemannsgesetz (1957) ­Verordnung über die Unterbringung der Besatzungsmitglieder an Bord von Kauffahrteischiffen (1973) ­Verordnung über die Krankenfürsorge auf Kauffahrteischiffen (1972) ­Schiffsbesetzungsverordnung (1998) ­Verordnung über die Seediensttauglichkeit (1970) ­See­Arbeitszeitnachweisverordnung (2002) ­Schiffsoffizier­Ausbildungsverordnung (1985) ­Arbeitsschutzgesetz (1996) ­Sozialgesetzbücher

2.MLC2006のための ROについて

(1)導入の見込み

・ 検査について導入する。証書発給は、BG Verkehr の Ship Safety Division

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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が行う 1 。

・ IMO条約の下で既にROとして活動している船級協会 (ABS, BV, DNV, GL, LR, RMRS, RINA)が MLC2006のための RO となると考えられる。

(2)資格要件・手続き

・ 資格要件としては、EU法(Directive 94/57/EC))に合致した船級協会であ

ることが挙げられる。他にドイツ独自の要件はない。

・ 従来、船級協会は、当局と書面で業務等について合意の上、RO となる。

・ 手続き等においては、 MLC2006の第 5.1.2規則及び第 5.1.2基準を遵守し、

また、第 5.1.2ガイドラインを勘案しつつ行う。

(3)権限・義務

・ROは、MLC2006に基づく検査について実施する権限を与えられる。

・検査は、IMO決議(Resolutions A. 744(18)及び A.948(23)に則って行われな

ければならない。

・当局による監督(後述)を受け入れなければならない。

・RO は、証書発給に必要となるすべての情報を当局に提供しなければなら

ない。また、2002年制定の Seeaufgabengesetz(German Maritime Authorities Tasks Act)に従い、当局が整備する船舶データベースに必要となる情報な

ど関連情報も提出しなければならない。

・RO は、検査報告書を含め、すべての書類について当局がアクセスするこ

とを認める。(必要な限りにおいて、EU委員会にもかかるアクセスを認め

ている。)

(4)当局による監督

・当局は、EU法(Directive 94/57/EC)に従い、ROの業務について定期的に

モニタリングを行っている。かかるモニタリングでは、RO に活動内容に

ついて報告をさせ、また、QSCS(IACS Quality System Certification Scheme)

報告書も活用している。半年ごとにミーティングも行っている。

・RO が作成する検査報告を検証し、当該船舶に対する不定期の検査も実施

1 BG Verkehrの一部門である"Dienststelle Schiffssicherheit" (Ship Safety Division) は、「公海海運分野における政府機能に関する法律(the Law on the Government’s Functions in the Field of High­Sea Shipping)」により、当該分野における連邦中央

当局とされ、海上安全及び海洋環境保護に関する規制執行機関である。交通建

設都市開発省(the Federal Ministry of Transport)所管。

第 1節 欧州諸国 III. ドイツ

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している。

・RO に対する直接の監査は、IACS 若しくは EMSA が行う監査に参加して

行っている。

3.その他MLC2006の国内実施について

(1)エンターテーナーの扱い(MLC2006 第 2条第 1項(f)関係)

・ 「48 時間以内の乗船者」を除外することとしているため、エンターテーナ

ーがそれに該当すれば除外する。

・48時間の算出根拠は、機器類の修理等で船舶に訪れる者を勘案してのこと

である。かかる修理業者等は、48時間あれば修理等の作業を終え、下船す

ると考えられるからだ。

(2)船員の募集及び職業紹介機関の確認方法(第 1.4規則関係)

・ 「旗国検査ガイドライン」に則って行う。それ以上の詳細は未定。

(3)船長への労働時間規制(第 2.3基準(規範 A)関係)

・労使協約に基づき、例外が可能である。

・ドイツは、ILO第 180号条約においてもかかる対処をしており、MLC2006 についても同様の扱いとなると見込まれる。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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【ILO第 180号条約・MLC2006対照表】 ILO第 180号条約(1996年の船員の労働時間及び船舶の定員条約)

・1996年採択、2002年発効。ドイツを含む 21か国が批准。日本は未批准。

・同条約は、船員の労働時間及び休息時間について下記のとおりMLC2006と同

様の規定を有するものである。

第 180号条約 MLC2006

対象

「船員」とは、資格のいかんを問わ

ず、 国内法令又は労働協約により船

員と定義され、かつ、この条約が適

用される海上航行船舶において雇

用され又は従業する者をいう。 (第 2条(b))

「船員」とは、能力のいかんを問わ

ず、 この条約が適用される船舶にお

いて雇用され若しくは従事し、 又は

労働する者をいう。(第 2条 1項(f))

労働時

労働時間又は休息時間の限度は、 次

のとおりとする。(a)最長労働時間

は、次の時間を超えてはならない。 (i)いかなる二十四時間についても

十四時間 (ii)いかなる七日間につ

いても七十二時間 (b)最短休息時

間は、 次の時間を下回ってはならな

い。(i) いかなる二十四時間につい

ても十時間 (ii)いかなる七日間に

ついても七十七時間(第 5条 1項)

労働時間又は休息時間の限度は、 次

のとおりとする。(a) 最長労働時間

は、次の時間を超えないものとす

る。(i) 24時間につき14時間 (ii) 7日間につき72時間(b) 最短

休息時間は、 次の時間を下回らない

ものとする。(i) 24時間につき1

0時間(ii) 7日間につき77時間

(第 2.3基準(規範 A)5項)

休息

時間

休息時間は、 二を超えない期間に分

割することができる。 そのいずれか

一の期間は少なくとも六時間の長

さとし、 休息時間から休息時間まで

の間隔の長さは、 十四時間を超えて

はならない。 (第 5条 2項)

休息時間は、 2回を超えずに分割す

ることができる。 そのいずれか1の

休息時間は、 少なくとも長さ6時間

とし、 及び連続する休息時間と休息

時間の間隔は、 14時間を超えない

ものとする。 (第 2.3基準(規範 A) 6項)

1及び2の規定は、 加盟国が権限の

ある機関による所定の限度の例外

を認める労働協約の承認又は登録

のための国内法令又は手続を定め

ることを妨げるものではない。 この

例外については、 所定の基準にでき

る限り従うものとし、 当直を担当す

5及び6の規定は、 定められた限度

の例外を認める団体交渉協約につ

いて権限のある機関が承認し、 又は

登録するための国内法令又は手続

を加盟国が有することを妨げるも

のではない。この例外については、

この基準の規定にできる限り従う

第 1節 欧州諸国 III. ドイツ

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る船員又は短航海に従事する船舶

の船員に対し一層頻繁な若しくは

長期の休暇を考慮し又は補償休暇

の付与を考慮することができる。

(第 5条 6項)

ものとし、そうでない場合には、当

直を担当する船員又は短航海に従

事する船舶で労働する船員に対し

一層頻繁な若しくは一層長期の休

暇又は補償休暇の付与を考慮する

ことができる。 (第 2.3基準 (規範 A)

第 13項)

(4)苦情受付窓口(第 5.2.2規則関係)

・PSC担当官が窓口となる。

(5)ISMコードとの関係性(第 5.1.3規則関係)

・DMLC 第 2 部の作成について形式は問わない。船舶所有者の判断である。

最終的に、MLC2006に求められるところが担保されていればよい。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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4.SOLAS条約等における認定機関について

(1)認定機関の利用状況

条約 条約証書 検査 発給 MARPOL (I) 国際油汚染防止証書 IOPPC

旅客船安全証書 PSSC 貨物船安全構造証書 CSSCC

貨物船安全設備証書 CSSEC

ABS, BV, DNV, GL, LR,

RINA, RMRS SOLAS (I)

貨物船安全無線証書 CSSRC

ABS, BV, DNV, GL, LR

適合証書 DOC

SOLAS (IX) 安全管理証書 SMC

ABS, BV, DNV, GL, LR, RINA RMRS

SOLAS (XI­2) 船舶保安証書 ISSC

ABS, AZS, BV, DNV, GL, LR,

* 2010年 3月の現地調査において確認。

(2)関連法令

・1(2)国内担保法に同じ

第 1節 欧州諸国 III. ドイツ

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5.統計

(1)MLC2006条約証書対象船舶:約 485隻(貨物船 472隻+客船 13隻)

(2)自国籍船員数:9,738名(2007年時点)

(3)船員労務官:約 40名

(4)船上検査頻度:定期的には行っていない。問題が判明したときに

随時行う。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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Ⅳ.オランダ

訪問先 Ministerie van Verkeer en Waterstaat Transport en Luchtvaart(運輸公共

事業水利省) ­ Mr. Wouter Pietersma (Senior Policy Advisor, Sea Ports Division and Sea Shipping) ­ Mr. Rj., de Brujin (Senior Beleidsmedewerker, Programma Zeevaart) Inspectie Verkeer en Waterstaat(IVW)(運輸・水利監督局) ­ Mr. Pieter Oost

訪問日 2010年 5 月 17日

運輸公共事業水利省及び運輸・水利監督局より聴取した内容は以下のとおり。

1.MLC2006の批准について

(1)批准時期

・同国は 2011 年 1月を目標としている。

(2)国内担保法

・海事労働に関しては、一般的な労働関係法規及び海運関係法規のなかで規

定されている。 ­ Sea Manning Act ­ Working Hours Act ­ Working Hours Decree Transport ­ Work Conditions Act ­ Occupational Safety and Health Decree ­ Civil Code Book 7 ­ Act on Allocation of Workers by Intermediaries Regulation Safety Seagoing Vessels ­ Ships Act

・MLC2006の批准に当たっては、Sea Manning Act を改正し、Sea Manning Act を第1部、 MLC2006の内容を第2部とするSeafarers Actとする予定である。

第 1節 欧州諸国 IV. オランダ

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2.MLC2006のための ROについて

(1)導入の見込み

・検査及び証書発給について導入の予定。

・従来の IMO条約の下で導入しているのと同様のスタイルである。

(2)資格要件・手続き

・ROとしては船級協会を想定している。

・外国船級協会も対象とする。

・中立性要件も盛り込む予定である。

・検査員の資格要件については、MLC2006に規定された要件で十分である。

(3)権限・義務

・ROは、MLC2006に基づく検査及び証書発給について実施する権限を与え

られる予定である。

・当局による監督(後述)を受け入れなければならない。

【権限機関の分業体制】

・MLC2006及び IMO関連条約に係る検査・証書発給についての最終的な責

任は、IVW(原語 Inspectie Verkeer en Waterstaat;英語 Transport and Water Management Inspectorate)が負っている。

・オランダ籍船への検査実施については、IVW の一部門である NSI(the Netherlands Shipping Inspectorate)が権限を有している。

・RO の利用に関しては、NSI が RO と協定を締結し、検査・証書発給権限

を委任するが、その業務はあくまで IVWのための代行業務と位置付けら

れている。

(4)当局による監督

・当局は、RO への立入検査・船上検査への立ち会いなど、不定期監査を実

施する。また RO のデータベースにアクセスし、業務手続きをチェックす

る。

・事実上、違反ということは生じないと考えている。違反があるとしても、

それは通常法令解釈の相違であることから、従来は協議によって問題を解

決してきた。

・理論的には違反ということもありえることから、認定の取消しという措置

も準備するかもしれないが、通常はそういう事態は生じないと考える。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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3.その他MLC2006の国内実施について

(1)エンターテーナーの扱い(MLC2006 第 2条第 1項(f)関係)

・船員に含める。

・ただし、この問題はソーシャル・パートナーと協議の上決定する。

(2)船員の募集及び職業紹介機関の確認方法(第 1.4規則関係)

・ 「旗国検査ガイドライン」に則って行う。それ以上の詳細は未定。

(3)船長への労働時間規制(第 2.3基準(規範 A)関係)

・船長も適用対象とする。

・緊急事態においては、すべての船員が“長さの如何を問わず従事する”こ

とが求められる。

(4)苦情受付窓口(第 5.2.2規則関係)

・PSC担当官が窓口となる。

(5)ISMコードとの関係性(第 5.1.3規則関係)

・ISM船上検証はMLC2006船上検査によって部分的にカバーされうるため、

重複項目について二度検査を行う必要はない。

・ISM船上検証とMLC2006船上検査との同時実施は効率的で良い考えで

ある。

4.SOLAS条約等における認定機関について

(1)認定機関の利用状況

条約 条約証書 検査 発給 MARPOL (I) 国際油汚染防止証書 IOPPC

旅客船安全証書 PSSC 貨物船安全構造証書 CSSCC 貨物船安全設備証書 CSSEC

SOLAS (I)

貨物船安全無線証書 CSSRC 適合証書 DOC

SOLAS (IX) 安全管理証書 SMC

ABS, BV, DNV, GL, LR, NK, RINA

SOLAS (XI­2) 船舶保安証書 ISSC ABS, BV, GL, LR, NK:

Approval SSP, -

第 1節 欧州諸国 IV. オランダ

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Verification Ship Security

DNV: Review and

approval of ship security plans, shipboard initial, intermediate and renewal survey

to verify implementation of the security

system * 2010年 5月の現地調査において確認。

(2)関連法令

・1(2)国内担保法に同じ

5.統計

(1)MLC2006条約証書対象船舶:約 820隻

【船種別内訳】 Liquified Gas Tanker 15 Bulk carrier 0 RO­RO Cargo 15 Oil Tanker 4 Chemical Tanker 60 Wood Chips Carrier 0 Cable Layer 0 Ref. Cargo Ship 10 General Cargo 575 Others 141 Total 820

(2)自国籍船員数:2,621名(2007年時点)

(3)船員労務官:0名(IVW技官 45名で適宜対応;内、5名を MLC2006担当

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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に指名予定)

(4)船上検査頻度:年間 220隻

第 1節 欧州諸国 IV. オランダ

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Ⅴ.ノルウェー

ノルウェー海事局及び貿易・産業省より聴取した内容は以下のとおり。

1.MLC2006の批准について

(1)批准時期

・同国は 2009年 2月 9日に批准している。

【早期批准の理由】

・批准が早ければ早いほど、船主には MLC2006 発効に備える時間ができる

と考えたから。ソーシャル・パートナー(船主協会、組合等)もその旨、

同意した。

・なお、MLC2006 の批准を議会にかけた際(2008 年 12 月)、時期尚早であ

ると主張した議員がわずかにいたのも事実である。

(2)国内担保法

・ MLC2006の国内実施には、 Seamen’s Act (1975年法律第18号) 及びShip Safety and Security Act(2007年法律第 9号)が最も関係が深く、加えて、National Insurance Act 及び Seafarer’s Pensions Act も関係する。従って、主としてこ

れら 4つの法改正を行った。

・但し、これらはほとんど授権規定であるため、MLC2006の国内的実施のた

めには詳細を規定する行政規則を制定する必要がある。当該行政規則につ

いては目下検討中である。

・同国は、ILO 第 178 号条約(1996 年採択、2000 年発効)を 1999 年に批准

しているため、その実施法制がMLC2006実施の基礎となる。

訪問先 Norwegian Maritime Directorate(ノルウェー海事局) ­ Mr. Haakon Strhaug (Senior Adviser) ­ Ms. Unn Caroline Lem (Senior Legal Adviser)

訪問日 2010年 3 月 16日

訪問先 Ministry of Trade and Industry(貿易・産業省) ­ Mr. Terje Hernes Pettersen (Senior Adviser)

訪問日 2010年 3 月 17日

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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【MLC2006に関連する国内法令】

法律

・Seamen's Act 1975(船員法) ・Norwegian International Ship Register Act 1987 ・Social Security Act 1997 ・Food Production and Safety Act 2003 ・Labour Market Act 2004 ・Ship Safety and Security Act 2007(船舶安全保安法)

規則

・Regulation concerning the Accommodation and Catering Service on Ships 1992

・Regulation concerning leave of absence in connection with pregnancy, childbirth, or adoption, etc. 1995

・Regulation concerning medical supplies on ships 2001 ・Regulation concerning the medical examination of employees on ships 2001

・Regulation concerning work by and placement of young people on Norwegian ships 2002

・Regulation concerning qualification requirements and certificate rights for personnel on board Norwegian ships, fishing vessels and mobile offshore units 2003

・Regulation concerning the working environment, health and safety of workers on board ship 2005

・Regulation concerning guarantee for social security entitlements for employees on Norwegian ships 2005

・Regulation concerning guarantee of remuneration for work and of passage home for employees on ships registered in the Norwegian International Ship Register 2005

・Regulation concerning hours of work and rest on Norwegian Passenger and Cargo Ships etc. 2007

2.MLC2006のための ROについて

(1)導入の見込み

・導入する。

・IMO条約の下で既に ROとして活動している船級協会(DNV、LR、ABS、 GL、BV)がMLC2006のための ROとなる見込みである。

【導入の理由】

・海事関係者には、国際航海に従事する船舶は、元来、船級協会が扱う船舶

という認識が共通してある。それ故、当該船舶を扱うための人員及び予算

を当局は当初から用意していない。

第 1節 欧州諸国 V. ノルウェー

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(2)資格要件・手続き

・同国独自の資格要件は、法令上は存在しない。EU法に依拠している。

・従来、船級協会は、当局と書面で業務等について合意の上、RO となる。

なお、MLC2006に関しては、既存の合意文書にMLC2006に関する業務等

を追記するのみである。

【法令】 Regulation of 15 June 1987 No. 506 concerning Survey for the Issue of Certificates to Passenger Ships, Cargo Ships and Lighters, and concerning other Surveys, etc.

§5: Requirements pertaining to recognized classification societies, etc. 第 5条 認定船級協会にかかる要件

Annex XIII of the EEA Agreement (Directive 94/57/EC as amended by Directive 97/58/EC, Directive 2001/105/EC and Directive 2002/84/EC) on common rules and standards for ship inspection and survey organizations and the relevant activities of maritime administrations shall apply as regulations with amendments and additions pursuant to Protocol 1 to the Agreement, and the Agreement as a whole.

「海事当局の関連活動及び船舶検査機関についての共通ルール及び基 準に関する EEA協定附属書 XIIIは、当該協定の第 1議定書に基づく修

正及び追加並びに当該協定全体とともに規則として適用するものとす る。」

(3)権限・義務

・ROは、MLC2006の第 5.1.3基準(規範 A)に関する権限が付与される。

・ROは、第 5.1.2規則及び第 5.1.2基準(規範 A)並びに第 5.1.2ガイドライ

ン(規範 B)を遵守しなければならない。

(4)当局による監督

・NMDは、ROに対して監査を実施する。

・監査では、ROが合意文書に基づく代行権限の行使について、第 5.1.2規則

及び第 5.1.2 基準(規範 A)並びに第 5.1.2 ガイドライン(規範 B)を遵守

しているか、また、「旗国検査ガイドライン」に則っているかを検証する。

・また、NMDは、ROに検査等が委託されている船舶についても事前通告な

し監査を実施する。

・なお、これまでに ROが何らかの法令不遵守を犯したことはない。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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3.その他MLC2006の国内実施について

(1)エンターテーナーの扱い(MLC2006 第 2条第 1項(f)関係)

・短期乗船のエンターテーナーも含む。これは、ITCの訓練コース(2009年 2月受講)で示された解釈に従うものと考えている。

【ITC訓練コース】 ITC: International Training Centre(1964年設置、トリノ)

“Training of trainers and maritime inspectors on the application of the ILO Maritime Labour Convention, 2006”

【開催実績・予定】 2009年 2 月 16日~2月 27日、9 月 14日~25日、12月 7日~18日 2010年 2 月 15日~26日、6 月 21日~7月 2 日、8月 30日~9月 10日、

12月 6日~17日

【その他、船員の範囲に関する事案】

・石油など海底資源の採掘に関わる科学者等の扱いについて、今後、議論を

詰めていかなければならない。

・その他、個別の事案は労働協約で解決されるものと考えている。

(2)船員の募集及び職業紹介機関の確認方法(第 1.4規則関係)

・ 「旗国検査ガイドライン」に則って行う。それ以上の詳細は未定。

(3)船長への労働時間規制(第 2.3基準(規範 A)関係)

・適用除外としない。船長も船員であること、事故の原因の多くが船員の疲

労にあることを強く認識しており、 MLC2006 もその認識に基づいていると

考えている。

・従って、第 2.3基準(規範 A)第 13項の規定の利用は、認めるとしても極

めて制限的である。

第 1節 欧州諸国 V. ノルウェー

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【第 2.3基準(規範 A)第 13項】

5及び6の規定は、 定められた限度の例外を認める団体交渉協約につい て権限のある機関が承認し、 又は登録するための国内法令又は手続を加

盟国が有することを妨げるものではない。この例外については、この基 準の規定にできる限り従うものとし、そうでない場合には、当直を担当

する船員又は短航海に従事する船舶で労働する船員に対し一層頻繁な 若しくは一層長期の休暇又は補償休暇の付与を考慮することができる。

【同第 5項】 労働時間又は休息時間の限度は、次のとおりとする。 (a) 最長労働時間は、次の時間を超えないものとする。 (ⅰ) 24時間につき14時間 (ⅱ) 7日間につき72時間 (b) 最短休息時間は、次の時間を下回らないものとする。 (ⅰ) 24時間につき10時間 (ⅱ) 7日間につき77時間

【同第 6項】

休息時間は、2回を超えずに分割することができる。そのいずれか1の 休息時間は、少なくとも長さ6時間とし、及び連続する休息時間と休息

時間の間隔は、14時間を超えないものとする。

(4)苦情受付窓口(第 5.2.2規則関係)

・NMDに所属する PSC担当官が窓口となる。

・担当官は約 100名おり、全国 19の支部に配置されている。

(5)ISMコードとの関係性(第 5.1.3規則関係)

・DMLC 第 2 部の作成においては、SMS を参照することを認める。これは、

第 5.1.3ガイドライン(規範 B)第 2項に基づくものである。

第 5.1.3ガイドライン(規範 B)第 2項

船舶所有者によって記入される海事労働適合申告書第2部に規定する

措置は、特に、特定の国内的な要件の継続的な遵守を確認する機会、そ の確認について責任を負う者、 記録しておく事項及び遵守されていない

ことが判明した場合において従うべき手続を明示すべきである。 第2部 は、種々の様式をとることができる。海事部門の他の側面に係る政策及

び手続を含む他の一層包括的な文書(例えば、国際安全管理(ISM) コードによって要求されている文書又は船舶の履歴記録に係る海上に

おける人命の安全のための国際条約第11-1章第5規則によって要 求される情報)を参照することができる。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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(6)その他の論点(船舶所有者の定義)

・MLC2006の国内実施のためには、船員法(Seamen’s Act)及び船舶安全保

安法(Ship Safety and Security Act)における義務の主体について調整を要

した。すなわち、前者は実際の船舶の所有者若しくは雇用主、後者は会社

を主体として規定していたため。

・今般の改正においては、会社を船員法上の船舶所有者とし、MLC2006条約

証書の保持主体とした。

【船員法の改正】

改正前

船員法第 1条 (船員の定義についてのみ規定)

This Act applies to any person who is employed on board a Norwegian ship, and who does not only work on board while the ship is in port.(以

下、略) 「本法は、ノルウェー船舶に雇用されている者であって、当該船

舶が港にある間に勤務するだけではない者に適用する。」

船員法第 1条に以下を追加。

In this Act the shipowner means the company as defined in Section 4 in Act of 16 February 2007 nr. 09. 「本法において船舶所有者とは、船舶安全保安法(2007年法律第 9号)第 4条に規定する会社をいう。」

改正後

船員法第 2条に以下を追加。

Duties of the shipowner and employer: The shipowner shall ensure that provisions issued in pursuance of this Act are complied with, including conditions regulated by the employment agreement. The first indent also applies if the employer is different from the shipowner. In such cases the employer is still responsible for the seaman with regard to the employment agreement, cf. section 3, and provisions in this Act that regulate the employment relationship, notwithstanding the duties of the shipowner in the first indent. 「船舶所有者及び雇用主の義務:船舶所有者は、雇用契約で規定 される条件を含め、本法に従って公布される規定が遵守されるこ

と確保するものとする。これは、雇用主と船舶所有者とが異なる 場合にも適用される。この場合、雇用主は、かかる船舶所有者の

義務にかかわらず、第 3 条の雇用契約及び雇用関係を規制する本 法の規定に関し依然として責任を有する。」

第 1節 欧州諸国 V. ノルウェー

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参考

船舶安全保安法第 4条 “Company” means any company stated as the managing company in the Safety Management Certificate the ship shall possess in accordance with provisions in or pursuant to section 7, cf. section 5 of this Act. If the requirement for a Safety Management Certificate, as mentioned in the first paragraph, is not applicable to the ship, or the Safety Management Certificate has ceased to be valid or has been withdrawn, the owner of the ship is considered to be the company. If the ship is registered, the registered owner is considered to be the owner of the ship. If the ship’s owner in the case referred to in the first sentence has submitted documentation in accordance with section 5 with the consent of the operational manager or the responsible builder, this person is considered to be the company pursuant to this Act. The second paragraph applies correspondingly if the person or company who is reported to be the managing company in the ship’s Safety Management Certificate, does not exist. The Ministry may issue regulations concerning who is to be regarded as a “company” pursuant to the provisions in the first to third paragraphs.

* 英文は、当局作成参考英訳

(7)MLC2006の 14項目に関する国内法

【対応条文一覧】

最低年齢 1

船舶安全保安法第 18条 Minimum age Any person who is working on board must be over 16 years of age. The Ministry may issue regulations on minimum age, including regulations concerning: a) higher minimum age for certain trade areas, ships and positions; b) special conditions in order for persons between the age of 16 and 18 to serve on board, and special protective measures for these persons; and

c) the right to deviate from the requirements of the first paragraph.

健康証明書 2

船舶安全保安法第 17条 Health requirements Any person who is working on board must be physically and mentally fit for the service and not pose a danger to other persons on board. The employee shall present a health certificate that states that the conditions of the first sentence are fulfilled, and shall be required to submit to medical examination whenever the master considers that there are reasons for this to be done. The Ministry may issue more

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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detailed regulations on the requirements of the first paragraph regarding physical and mental fitness, health certificate and medical examinations, including regulations concerning: a) minimum requirements regarding health, sight and hearing for different positions;

b) health certificate; c) approval of doctors; d) complaints board; e) reporting of occupational injuries and diseases; and f) the right to deviate from the requirements of the first paragraph.

船員の資格 3

船舶安全保安法第 16 条 Qualification requirements and personal certificates Any person who is working on board must have the qualifications and certificates required for the relevant position or the work to be performed. The certificate shall state that the necessary requirements were fulfilled at the time of issuance, including requirements regarding age, service, health condition, education, languages and training for the position. The Ministry may issue regulations containing further provisions relating to positions for which a certificate of competency is required and qualifications, including provisions concerning: a) the issue and grading of certificates; b) necessary documentation; c) recognition of foreign certificates; d) verification of qualifications; e) the right to withdraw certificates; f) the right to deviate from the requirements of the first paragraph; and

g) mustering. 船員の雇用契約 4

船員法第 3条 Employment agreement 1. A seaman is employed in the service of the shipping company. If the employment agreement is verbal, it shall be confirmed by a written agreement. It is the duty of the shipping company to ensure that a written contract of the terms of the employment is made. The King may prescribe by regulation the information to be contained in the employment agreement and the contract form. The seaman has the right and duty to serve on any of the shipping company’s ships unless otherwise agreed in writing or laid down in a collective wages agreement. It may be laid down in a collective wages agreement that the seaman shall serve on ships belonging to shipping companies other than the one in which he is employed insofar as there is a cooperation

第 1節 欧州諸国 V. ノルウェー

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arrangement as regards the crew between the companies. The King may establish special conditions for entering into such agreements. 2. The parties may arrange for an initial probationary period in the seaman’s employment. The probationary period must not exceed six months. 3. Employment for a specified period or voyage or for temporary work can be validly agreed only when rendered necessary by the nature of the work. A contract for this type of employment may nevertheless be made in the case of trainee service or if a specific seaman needs a replacement.

船員の募集及び職業機関の利用 5

船舶安全保安法第 6条 General duties of the company The company has an overall duty to see to that the construction and operation of the ship is in accordance with the rules laid down in or pursuant to this Act, including that the master and other persons working on board comply with the legislation. The company shall ensure that the statutory requirements are fulfilled, except for cases when the master by law is given an independent duty to ensure this. The company shall take steps to ensure that all the persons working on board have the opportunity to fulfill their obligations under the law. The Ministry may issue regulations containing further provisions relating to the obligations of the company pursuant to this provision.

船舶安全保安法第 7条 The company’s duty to establish, implement and develop a Safety Management System The company shall ensure that a Safety Management System which can be documented and verified is established, implemented and developed in the company’s organization and on the individual ships in order to identify and control the risk and also to ensure compliance with requirements laid down in or pursuant to a statute or in the actual Safety Management System. The contents, scope and documentation of the Safety Management System shall be adapted to the needs of the company and its activities. The company shall ensure that the master and other persons working on board are given the opportunity to participate in the establishment, implementation and development of the Safety Management System. The Ministry may issue more detailed regulations on the requirements for a Safety Management System, including regulations on: a) contents, scope and documentation; b) Safety Management Certificates for ships; c) a Document of Compliance for safety management for companies; and

d) the right for certain ships to deviate from the requirements for a

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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Safety Management System and the right to deviate from the first and second paragraphs when this is required as a consequence of the implementation of the EEA Agreement.

労働市場法第 26条、第 27条

労働時間又は休息時間 6

船舶安全保安法第 23条 Working hours The regular working hours shall be 8 hours a day, with one day of rest per week and rest on holidays. The Ministry may issue regulations on working hours, including regulations concerning exceptions from the provisions of the first paragraph, either in general or for certain positions, and also regulations concerning extra work for safety and security reasons.

船舶安全保安法第 24条 Hours of rest The hours of rest shall not be less than ten hours in any 24­hour period, and 77 hours in any 168­hour period. Hours of rest may be divided into two periods, one of which shall be at least six hours in length. The interval between consecutive periods of rest shall not exceed 14 hours. For seafarers on watch, the provisions of the first paragraph do not apply in the event of an emergency situation or work as a consequence of a drill or other exceptional operational conditions. The provisions of the first paragraph may be departed from in a binding collective wage agreement. For persons forming part of the navigational or engineering watch, derogation in a wage agreement from the provisions in the first paragraph shall be limited to at least six consecutive hours, provided that no such reduction extends over more than 48 hours and the hours of rest will comprise at least 70 hours for any period of 168 hours. The Ministry may issue regulations on the hours of rest, including regulations concerning derogations from the provisions of the first paragraph: a) for passenger ships with a shift system plying domestic routes after the affected seafarer and shipowner organizations have been consulted; and

b) for fishing vessels.

船舶の配乗の水準 7

船舶安全保安法第 15条 Manning and watchkeeping A ship shall be safely manned. The watchkeeping arrangements on board shall be adequate to maintain safe navigation of the ship and other operating and safety procedures. The Ministry may issue further regulations on the requirements for manning and watchkeeping.

第 1節 欧州諸国 V. ノルウェー

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居住設備 8

船舶安全保安法第 25条 Living and recreational environment An adequate living and residential environment shall be provided for the persons who are working on board. There shall be cabins, recreation rooms, dining rooms, rooms where food can be prepared, rooms for personal hygiene and hospital accommodation. All rooms shall be of an adequate size and furnished and equipped so as to ensure a proper working environment. The Ministry may issue regulations concerning the requirements of the first paragraph, giving due regard to the number of persons working on board and the ship’s size, design, trade area and other circumstances. The Ministry may also issue regulations on requirements for certificates regarding working and living conditions on board ships.

船内の娯楽設備 9

船舶安全保安法第 25条(同上)

食料及び供食 10

船舶安全保安法第 26条 Catering The persons working on board shall receive a good and sufficient diet which shall be in accordance with the Act of 19 December 2003 No. 124 relating to Food Production and Food Safety etc. (the Food Act) and regulations issued pursuant to this Act. The Ministry may issue further regulations concerning the requirements of the first paragraph, including requirements for provision rooms and cold store and freezer rooms.

健康及び安全並びに災害の防止 11

船舶安全保安法第 21条 Safety devices and equipment A ship shall have necessary safety devices and equipment. Moreover, necessary safety measures and precautions shall be taken in order to avoid or reduce any hazard to life and health for persons who are working on board. The Ministry may issue regulations on the requirements of the first paragraph, including regulations concerning: a) light conditions; b) climate; c) pollution; d) physical factors; e) escape routes; and f) protective and safety devices.

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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船舶安全保安法第 22条 The arrangement and carrying out of work on board The work on board shall be arranged and carried out so as to safeguard life and health and the psychosocial working environment. In the arrangement of work, due regard shall be paid to the individual person’s qualifications to undertake the work on a safe and sound basis. The Ministry may issue regulations containing further provisions relating to the requirements of the first paragraph in order to avoid or reduce any hazard connected with the work, including regulations concerning: a) identification of hazards and implementation of appropriate measures;

b) necessary measures for training and practice and for instruction of the persons working on board;

c) the availability of appropriate protective safety equipment; and d) the duty to inform and discuss hazards connected with the work and the safety with the persons who are working on board.

船舶安全保安法第 28 条 Safety representatives and working environment committee Safety and environmental work shall be organized on board ships. A safety representative shall be elected by and from among those who are working on board, and a working environment committee shall be established. The Ministry may issue regulations on safety and environmental work, including regulations concerning: a) the safety representative’s duties and rights; b) the composition and duties of the working environment committee;

c) coordination of the safety and environmental work; and d) exceptions from the provisions of the first paragraph for certain ships.

船内における医療 12

船舶安全保安法第 27条 Medicaments and treatment of sick persons A ship shall be equipped with medicaments and other equipment considered necessary for the treatment of sick and injured persons and for the prevention of sickness on board. Sick and injured persons may receive treatment to the extent that this is necessary. The Ministry may issue further regulations concerning the requirements of the first and second paragraphs, including regulations stating who can perform the treatment.

第 1節 欧州諸国 V. ノルウェー

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船内における苦情処理の手続 13

船員法第 50A条(追加) (船員は、 船舶所有者に対して賃金等に関する苦情を申立てを行

う権利を有する旨規定される模様。)

cf. 第 50 条 Settlement of disputes between master and crew abroad

賃金の支払 14

船員法第 22条 Payment of wages The seaman may only demand payment of wages when the ship is in port, and not more than once every seventh day in any one country. Wages shall be paid in cash unless the seaman asks for a draft on the shipping company. Unless otherwise provided by law, the seaman may demand payment in local currency at the current rate of exchange. A seaman may remit his wages to Norway through foreign service stations designated by the King, if this is permissible under the local currency regulations. The government shall be responsible for such transmissions, which shall be effected without charge to the seaman. A seaman may require that part of his wages shall be paid as a monthly allotment to a specified beneficiary in Norway or deposited in a Norwegian bank. If a seaman has unlawfully left his service in the shipping company and if he upon his departure has wages due, the shipping company shall immediately remit the total amount to the authority designated by the King. The amount may be used for payment of possible expenses inflicted on the state or the shipping company by the seaman. Before the particular authority undertakes this settlement in cooperation with the shipping company, the seaman shall be paid the amount necessary to sustain himself and his family, cf. § 23, subsection 2, second paragraph. It attempts have been made to inform the seaman of his wages due after the settlement, and if he has not claimed this amount within three years following the termination of his employment, the money shall be used for the benefit of seamen or their relatives in accordance with regulations issued by the King.

* 英文は 2007年時点の当局作成参考英訳

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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4.SOLAS条約等における認定機関について

(1)認定機関の利用状況

条約 条約証書 検査 発給 MARPOL (I) 国際油汚染防止証書 IOPPC

旅客船安全証書 PSSC 貨物船安全構造証書 CSSCC 貨物船安全設備証書 CSSEC

SOLAS (I)

貨物船安全無線証書 CSSRC 適合証書 DOC

SOLAS (IX) 安全管理証書 SMC

SOLAS (XI­2) 船舶保安証書 ISSC

ABS, BV, DNV, GL, LR

* 2010年 3月の現地調査において確認。

第 1節 欧州諸国 V. ノルウェー

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(2)関連法令

Act of 16 February 2007 No. 09 relating to Ship Safety and Security (The Ship Safety and Security Act)

法律

§41 Supervisory authority The King determines who shall be the supervisory authority pursuant to this Act. The Ministry may enter into an agreement with one or more classification societies to the effect that the supervisory authority may be delegated to the institution concerned. The agreement shall regulate the scope of and the conditions for such delegation. The Ministry may issue regulations or enter into an agreement to the effect that supervision or supervisory authority in delimited areas is delegated to private enterprises or to foreign or international authorities.

Regulation of 15 June 1987 No. 506 concerning Survey for the Issue of Certificates to Passenger Ships, Cargo Ships and Lighters, and concerning other Surveys, etc.

規則

§5 Requirements pertaining to recognized classification societies, etc. Annex XIII of the EEA Agreement (Directive 94/57/EC as amended by Directive 97/58/EC, Directive 2001/105/EC and Directive 2002/84/EC) on common rules and standards for ship inspection and survey organizations and the relevant activities of maritime administrations shall apply as regulations with amendments and additions pursuant to Protocol 1 to the Agreement, and the Agreement as a whole.

EU法

Directive 2009/15/EC of the European Parliament and of the Council of 23 April 2009 on common rules and standards for ship inspection and survey organisations and for the relevant activities of maritime administrations

REGULATION (EC) No 391/2009 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 23 April 2009 on common rules and standards for ship inspection and survey organisations

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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5.統計

(1)MLC2006条約証書対象船舶:約 1,458 隻

【NIS船舶の船種別内訳】 Passenger vessels/ ferries 9 Gas tankers 54 Chemical tankers 139 Shuttle­/storage tankers 8 Other oil tankers 50 Combined carriers 12 Bulk carriers 58 Other dry cargo vessels 154 Offshore service 100 Total 584

(2)自国籍船員数:1,615名(NIS船舶)

(外国籍船員は 45,705名(うち 2,825名はリグ))

【自国籍船員の船籍別内訳】 NIS 1,615名 NOR 8,850名(うち 1,240名はリグ)

外国籍 4,950名(うち 3,805名はリグ)

計 15,415名(うち 5,405名はリグ)

(3)船員労務官:約 88名

(4)船上検査頻度:2.5年に 1回のほか、随時検査

第 1節 欧州諸国 V. ノルウェー

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Ⅵ.英国

海事沿岸警備庁より聴取した内容は以下のとおり。

1.MLC2006の批准について

(1)批准時期

・同国は 2010年 12月末を目標としている。

(2)国内担保法

・ MLC2006と国内法の gap analysis は早々に終了し、関係国内法の改正案の

準備も終えている。

・ MLC2006に関係する国内法として、Merchant Shipping Act をはじめ、十数

本の Regulation が存在する。MLC2006 の国内法制化に際しては、各 Title に対応する Regulationを改正することになる。

[Act] ­ Merchant Shipping Act (1995) ­ Merchant Shipping and Maritime Act (1997)

[Crew Regulations] ­ Merchant Shipping (Certificate of Competency as AB) Regulations (1970) ­ Merchant Shipping (Maintenance of Seamen’s Dependants) Regulations (1972) ­ Merchant Shipping (Seamen’s Allotments) Regulations (1972) ­ Merchant Shipping (Seamen’s Wages) (Contributions) Regulations (1972) ­ Merchant Shipping (Seamen’s Wages and Accounts) Regulations (1972) ­ Merchant Shipping (Repatriation) Regulations (1979) ­ Merchant Shipping (Certification of Ships’ Cooks) Regulations (1981) ­ Merchant Shipping (Certification of Deck Officers and Engineer Officers) Regulations (1984)

訪問先 Maritime and Coastguard Agency(MCA)(海事沿岸警備庁) ­ Mr. Neil Atkinson (Inspector) ­ Ms. Julie Carlton (Medical Administration Manager)

訪問日 2010年 3 月 29日

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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­ Merchant Shipping (Seamen’s Documents) Regulations (1987) ­ Merchant Shipping (Provisions and Water) Regulations (1989) ­ Merchant Shipping (Crew Agreements, Lists of Crew and Discharge of Seamen) Regulations (1991) ­ Merchant Shipping and Fishing Vessels (Medical Stores) Regulations (1995) ­ Merchant Shipping (Ships’ Doctors) Regulations (1995) ­ Merchant Shipping (Training and Certification) Regulations (1997) ­ Merchant Shipping (Minimum Standards of Safety Communications) Regulations (1997) ­ Merchant Shipping (Safe Manning, Hours of Works and Watchkeeping) Regulations (1997) ­ Suspension from Work on Maternity Grounds (Merchant Shipping and Fishing Vessels) Order (1998) ­ Merchant Shipping (Hours of Work) Regulations (2002) ­ The Merchant Shipping (Working Time: Inland Waterways) Regulations 2003 (2003) ­ The Merchant Shipping (Inland Waterway and Limited Coastal Operations) (Boatmasters’ Qualifications and Hours of Work) Regulations 2006 (2006) ­ The Merchant Shipping (Local Passenger Vessels) (Crew) Regulations 2006 (2006)

[Occupational Health and Safety Regulations] ­ Merchant Shipping (Means of Access) Regulations (1988) ­ Merchant Shipping (Entry into Dangerous Spaces) Regulations (1988) ­ Merchant Shipping (Safe Movement on Board Ship) Regulations (1988) ­ Merchant Shipping (Safety at Work Regulations) (Non­UK Ships) Regulations (1988) ­ Merchant Shipping and Fishing Vessels (Medical Stores) Regulations (1995) ­ Merchant Shipping (Ships’ Doctors) Regulations (1995) ­ Merchant Shipping (Safe Manning, Hours of Work and Watchkeeping) Regulations (1997) ­ Merchant Shipping and Fishing Vessels (Health and Safety at Work) Regulations (1997) ­ Merchant Shipping (Code of Safe Working Practices for Merchant Seamen) Regulations (1998) ­ Merchant Shipping and Fishing Vessels (Health and Safety at Work)

第 1節 欧州諸国 VI. 英国

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(Employment of Young Persons) Regulations (1998) ­ Merchant Shipping and Fishing Vessels (Manual Handling Operations) Regulations (1998) ­ Merchant Shipping and Fishing Vessels (Personal Protective Equipment) Regulations (1999) ­ The Merchant Shipping and Fishing Vessels (Provision and Use of Work Equipment) Regulations 2006 (2006) ­ The Merchant Shipping and Fishing Vessels (Lifting Operations and Lifting Equipment) Regulations 2006 (2006) ­ The Merchant Shipping and Fishing Vessels (Control of Noise at Work) Regulations 2007 (2007) ­ The Merchant Shipping and Fishing Vessels (Control of Vibration at Work) Regulations 2007 (2007) ­ The Merchant Shipping and Fishing Vessels (Health and Safety at Work) (Carcinogens and Mutagens) Regulations 2007 (2007) ­ The Merchant Shipping and Fishing Vessels (Health and Safety at Work) (Biological Agents) Regulations 2010 (2010) ­ The Merchant Shipping and Fishing Vessels (Health and Safety at Work) (Chemical Agents) Regulations 2010 (2010) ­ The Merchant Shipping and Fishing Vessels (Health and Safety at Work) (Work at Height) Regulations 2010 (2010)

2.MLC2006のための ROについて

(1)導入の見込み

【基本方針】

・ ROは基本的に導入しない方針である。

【例外】

・ ただし、ケースバイケースで RO による検査を海事沿岸警備庁(Maritime and Coastguard Agency: MCA) 2 が承認することは可能である。例えば、日

本や韓国など極東で建造した船舶の船員居住設備(crew accommodation)

の検査を船級協会が実施することを承認するケースが考えられる。 ただし、

これは検査権限を RO に委託することと同義ではなく、あくまでも個々の

2 MCAは、明確に限定された事業について政府の執行機能を担ういわゆるエー

ジェンシーの1つであって、海洋の安全・環境保護や船舶・船員に関して基準

の策定や監視について責任を負う。交通省(Department of Transport)所管。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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ケースについて MCA が承認した場合に RO による検査を認めるというも

のである。

・ RO による検査を承認するかどうかの判断基準としては、以下の点が考え

られる。 ­ 検査官の空き状況 ­ 船舶の所在 ­ 船主の経歴 ­ 船種(例えば、コンテナ船であれば RO による検査承認は可能である

が、客船の場合は MCA による検査が望ましいという判断はあり得

る。)

【既存の RO利用状況との関係性】

・ なお、ケースバイケースで RO を利用する場合においても、RO による証

書の発給は認めない方針である。

(2)導入しない理由

【政策方針】

・ 基本方針として RO を導入しない理由は、ISM コードと MLC2006 の枠組

みの中で MCA が検査を実施することにより、当該船舶のオペレーション

にかかわる事項を MCA が包括的に把握し、安全性を確認できるという点

にある。(現在、 英国では ISMコードに基づく検査を ROに認めていない。)

【対応能力】

・ また、すでにMARPOL条約及び SOLAS条約の下での検査において ROの

導入を認めているのは、船舶の設備の一部についてのみであるが、 MLC2006 では船舶のハードウェアではなく船員の労働条件や生活環境な

どソフト面を検査しなければならず、 検査官の culture changeを実施しなけ

ればならない点も ROを導入しない理由の一つと言える。 MCAの検査官は、

すでに ISMコードの下で審査(audit)を実施し、ILO第 178号条約に基づ

く検査を実施するための訓練も受けている。さらに、現在、MLC2006の検

査を実施するための訓練を実施しているところである。

3.その他MLC2006の国内実施について

(1)船員の定義について

・ 短期間(1~2 航海)乗船するエンターテーナーは船員とみなされないが、

長期間(3~4か月)乗船するエンターテーナーは船員とみなされる。

・ 実習生(cadet)、訓練生(trainee)、ホテルスタッフ(hotel staff)は船員と

第 1節 欧州諸国 VI. 英国

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みなされる。

・ 現在の国内法上、船員の最低年限は 16歳と規定されている。かつては学校

卒業年齢(school leaving age)と規定されていたが、16歳に変更された。

(2)船員の募集及び職業紹介機関の確認方法(第 1.4規則関係)

・ 旗国ガイドラインの第 3章に基づいて実施する。

・ 船員を雇用する際に利用した職業紹介機関を海事労働適合申告書 (DMLC)

第 2部に明記させ、これを確認する方法が考えられる。

(3)船長への労働時間規制(第 2.3基準(規範 A)関係)

・ 基本的に船長への最長労働時間/最低休息時間の要件の適用除外は認めな

い。ただし、オペレーション上、同要件の適用除外が必要となる場合、 MLC2006 第 2.3 規則の第 14 パラグラフに基づき、埋め合わせの休息

(compensatory rest) 3 をとる方法により対応することが可能と考えられる。

あるいは、第 2.3規則の第 13パラグラフに基づき、workforce agreement を

労働協約(CBA)と解して例外を容認する方法も考えられる。

・ MCA では、最低休息時間を設定する方式を採用する予定(当該方式の方

が、実質労働時間が短くて済むとのこと)。

(4)苦情受付窓口(第 5.2.2規則関係)

・ 苦情の申し入れ先としては、①MCA本部、②現場の検査官(PSC検査官)

の 2つが想定される。労働組合からの苦情など複雑な問題であれば、MCA 本部に直接申し入れるのが望ましいだろう。

(5)ISMコードとの関係性(第 5.1.3規則関係)

・ MLC2006 の Title1 の全ての規則、Title2 の一部の規則など、DMLC の記載

事項の約 25%が SMS の内容と重複する。このため、重複する内容につい

ては、DMLC の中で SMS を参照する形式をとり、また、DMLC と安全管

理証書 (SMC) の検査を同時に行う方法をとることは可能である。 ただし、 DMLCの検査を ISMコードに基づく審査(audit)の一部に組み込むことは

できない。

(6)その他

【外国の港での抑留措置への対応】

3 STCW条約では、最長労働時間/最低休息時間の要件を満たすために、埋め合

わせの休息(compensatory rest)をとる方法が認められている。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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・ 外国の港で抑留措置にあった英国籍船への対応としては、すでに、国内法

上、抑留措置を受けてから 6 週間以内に検査官(inspector)を派遣するシ

ステムがあり、 当該システムをMLC2006にも導入することになる。 また、 MCA は、検査官を派遣すると同時に、抑留されている船舶の船主にも通

告を行う。なお、検査官の派遣費用は船主が支払う。

4.SOLAS条約等における認定機関について

条約 条約証書 検査 発給 備考

MARPOL (I)

国際油汚染防止証書 IOPPC

ABS, BV, DNV, GL,

LR, NK, RINA

旅客船安全証書 PSSC ­

貨物船安全構造証書 CSSCC

ABS, BV, DNV, GL,

LR, NK, RINA

検査に

制限あり

貨物船安全設備証書 CSSEC

ABS, BV, DNV, GL, LR, NK, RINA

ABS, DNV, LR

検査・発給

に制限あり SOLAS (I)

貨物船安全無線証書 CSSRC

ABS, BV, DNV, GL, LR, NK, RINA

­

適合証書 DOC ­ ­ SOLAS (IX)

安全管理証書 SMC ­ ­

英国本土

SOLAS (XI­2)

船舶保安証書 ISSC ­ ­

バミューダ MARPOL (I)

国際油汚染防止証書 IOPPC

ABS, BV, DNV, GL,

­

第 1節 欧州諸国 VI. 英国

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LR, RINA

旅客船安全証書 PSSC ­ ­

貨物船安全構造証書 CSSCC

ABS, BV, DNV, GL, LR, RINA

­

貨物船安全設備証書 CSSEC

­ ­

SOLAS (I)

貨物船安全無線証書 CSSRC

MIMC ­

適合証書 DOC ­ ­

SOLAS (IX) 安全管理証書 SMC ­ ­

SOLAS (XI­2)

船舶保安証書 ISSC ­ ­

MARPOL (I)

国際油汚染防止証書 IOPPC

ABS, BV, DNV, GL, LR, RINA

検査・発給

に制限あり

旅客船安全証書 PSSC ­ ­

貨物船安全構造証書 CSSCC

­

貨物船安全設備証書 CSSEC

SOLAS (I)

貨物船安全無線証書 CSSRC

適合証書 DOC

マン島

SOLAS (IX) 安全管理証書 SMC

ABS, BV, DNV, GL, LR, RINA

検査・発給

に制限あり

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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SOLAS (XI­2)

船舶保安証書 ISSC ­ ­

* 2010年 3月の現地調査において確認。

(2)関連法令

・1(2)国内担保法に同じ

5.統計

(1)MLC2006対象船舶数:813隻

(2)自国籍船員数:約 2,500名

(3)船員労務官:132名

(4)船上検査頻度:年間 308回

第 1節 欧州諸国 VI. 英国

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第 2節 非欧州諸国

Ⅰ.バハマ

訪問先 Bahamas Maritime Authority(バハマ海事当局) ­ Capt. Douglas Bell (Deputy Director) ­ Dr. Phillip Belcher (Technical and Compliance Officer)

訪問日 2010年 3 月 30日

バハマ海事当局より聴取した内容は以下のとおり。

1.MLC2006の批准について

(1)批准時期

・MLC2006 の批准は済んでおり、可能であれば 2010 年末までに国内法制化

作業を終える予定。

(2)国内担保法

・MLC2006に対応する国内新法(名称は“Merchant Shipping [Maritime Labor Convention] Regulations 2010”などを想定)を制定し、これと重複する内容

を削除するかたちで既存のMerchant Shipping Act を改正する方針。現在、

法案の作成作業は終えたが、内航海運への規則適用のための検討、国内船

主及び船員組合との協議など、法制化作業を終えるために調整すべき問題

が残されている。

・ 業界団体としては、国内の船主団体(Bahamas Shipowner’s Association)と

内航船員組合の団体が存在する。外国の船主とは定期的に会合を開催して

意見調整を行っている。

2.MLC2006のための ROについて

(1)導入の見込み

・ これまで 5 つの船級協会から打診があった。BMA は IACS 加盟の 10 の船

級協会による検査・ 証書発給を認める方針である。 これらの船級協会には、

旗国検査ガイドラインに沿うかたちで検査を実施してもらう。船級協会の

訓練プログラムもすでに開始している。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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(2)資格要件・手続き

・ RO のサーベイヤーの資格要件については、RO との協議の上、Bulletin に

記載する考えである。

(3)権限・義務

・検査・証書発給を認める方針である。

・旗国検査ガイドラインに沿うかたちで検査を実施してもらう。

(4)当局による監督

・ RO の監督体制としては、MARPOL 条約や SOLAS 条約と同じように、検

査官(inspector)を派遣する方法を考えている。船級協会の本部の審査

(audit) を実施している国もあるが、 バハマは船上検査を重要視している。 BMA では、毎年、250 人の検査官が約 1650 隻のバハマ籍船を世界中で検

査している。これらの検査官は、船級協会の活動もチェックしている。

3.その他MLC2006の国内実施について

(1)エンターテーナーの扱い(MLC2006 第 2条第 1項(f)関係)

・ 短期間乗船するエンターテーナーは船員の定義から除外されるが、シーズ

ンを通して乗船するエンターテーナーは除外されない。長期間乗船するエ

ンターテーナーには保護を与える必要があるが、短期間乗船するエンター

テーナーの場合、陸上の雇用者から保護が与えられていることが多い。

【船員の定義について】

・ MLC2006 及び ILO 決議第 7 号に規定されている船員の要件に適合する形

で国内法を整備する方針。

・ 実習生(cadet)及び訓練生(trainee)は当然、船員とみなされる。

・ マーシャル諸島の解釈による場合、船主とは直接雇用契約を結んでいない

が、第三者と雇用契約を結び、乗船した船上労働従事者が船員の定義から

除外され、 MLC2006の保護を受けないという問題が発生することが懸念さ

れる。

・ 調理士の免状発行の要件については、Bulletin No.115 を参照するかたちを

とる。(Bulletinはバハマ海事局(BMA)のウェブサイトで閲覧可能)

・ 船員の最低年限は既に国内法上、16歳と規定されているため、変更の必要

はない。

第 2節 非欧州諸国 I. バハマ

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(2)船員の募集及び職業紹介機関の確認方法(第 1.4規則関係)

・ 船員雇用機関がバハマ国内に存在していれば、BMA がこれをチェックす

る必要がある。また、寄港国検査に際しては、船上に備え付けられた雇用

契約書に必要事項が記載されているかどうかを確認する必要がある。客船

の場合、船員が多く、かつ雇用形態が複雑なため、雇用契約書の確認が困

難となる場合も予想される。

(3)船長への労働時間規制(第 2.3基準(規範 A)関係)

・ 船長も船員の定義に含まれることは、 MLC2006の作成審議過程において既

に確認されている。船長への適用を除外する規定を MLC2006 の中で見つ

けることは困難である。短期的に船長の労働時間が規定の要件を超える事

態は起こり得るが、長期的には要件の適合範囲内でなければならない。 MLC2006 は、オペレーション面でのベスト・プラクティスを何ら妨げるも

のではない。

・ 最長労働時間と最低休息時間のいずれの要件を適用するかという問題につ

いては、船主にいずれの要件も選択可能とする方法が可能と考えられる。

(4)苦情受付窓口(第 5.2.2規則関係)

・ PSC検査官が苦情を受け付けることになる。

(5)ISMコードとの関係性(第 5.1.3規則関係)

・ 海事労働適合申告書(DMLC)と安全管理証書(SMC)は別々の証書とし、 DMLC第 2部の中で安全管理システム(SMS)を参照する方法を採用する

ことは可能である。なお、MLC2006 と SMC の検査は同時に実施すること

が可能である。

4.SOLAS条約等における認定機関について

(1)認定機関の利用状況

条約 条約証書 検査 発給 MARPOL (I) 国際油汚染防止証書 IOPPC

旅客船安全証書 PSSC 貨物船安全構造証書 CSSCC 貨物船安全設備証書 CSSEC

SOLAS (I)

貨物船安全無線証書 CSSRC SOLAS (IX) 適合証書 DOC

ABS, BV, CCS, DNV, GL, KR,

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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安全管理証書 SMC LR, NK, RINA, RMRS

SOLAS (XI­2) 船舶保安証書 ISSC

ABS, BV, DNV, GL, KR, LR, NK, RINA

* 2010年 3月の現地調査において確認。

(2)関連法令

・1(2)国内担保法に同じ

5.統計

(1)MLC2006条約証書対象船舶:約 1,650 隻

(2)自国籍船員数: 詳細不明(自国船員の大部分は内航船の船員であり、外

航船の自国船員は少数である。)

(3)船員労務官:約 250名(ただし、その大部分が民間人への業務委任。 )

(4)船上検査頻度:年間約 1,650回(隻数とほぼ同数。 )

第 2節 非欧州諸国 I. バハマ

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Ⅱ.韓国

訪問先 国土海洋部物流港室海運政策官室 ­ Mr. Lee, Hi Young (Director) ­ Mr. Kim, Dong Seo (Deputy Director) ­ Mr. Kim, Sok Hun (Deputy Director)

訪問日 2010年 5 月 10日

国土海洋部より聴取した内容は以下のとおり。

1.MLC2006の批准について

(1)批准時期

・同国は 2010 年 12 月末を目標としている。(遅くとも、2011 年上半期の批

准を予定)。

(2)国内担保法

・1962 年制定の船員法であり、既に MLC2006 批准のための改正船員法を国

会に上程、現在審議中である。船員からの除外など、MLC2006実施に係る

詳細については船員法施行令に明記する予定である。

・韓国の現船員法は日本の船員法と類似しており、日本同様、船員労務官制

度を備えている。

2.MLC2006のための ROについて

(1)導入の見込み

・検査及び証書発給について導入の予定。

・従来の IMO条約の下で導入しているのと同様のスタイルである。

(2)資格要件・手続き

・船員法に ROの資格要件を規定する予定。

・ROとしては船級協会を想定しているが、他の機関も考慮可能とする。

・選定手続きは透明にする。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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(3)権限・義務

・ROは、MLC2006に基づく検査及び証書発給について実施する権限を与え

られる予定である。

・当局による監督(後述)を受け入れなければならない。

・船員法で規定される MLC2006 に関する教育・訓練を受けなければならな

い。

・ROは、 その代行業務について国土海洋部に報告しなければならないなど、

各種報告義務を負う。

(4)当局による監督

・当局は、ROを定期的に監督し、各種報告義務を課す。

・日本の船員法同様、検査業務規程の認可、経理・活動報告義務、立入検査

を通じて監督を実施している。重大な違反や不履行に対しては、認定機関

資格の取消し又は業務停止、検査員の懲戒処分などの行政罰、そして懲

役・罰金などの刑事罰を科している。

3.その他MLC2006の国内実施について

(1)エンターテーナーの扱い(MLC2006 第 2条第 1項(f)関係)

・水先人、運航管理者、港湾労働者、船舶修理者及びエンターテーナーは船

員から除外する。船員法施行令に明記の予定である。

(2)船員の募集及び職業紹介機関の確認方法(第 1.4規則関係)

・船舶所有者が MLC2006 未批准国の職業紹介機関を利用して船員を供給し

てもらう場合、船舶所有者が当該紹介機関の条約適合を立証する。

(3)船長への労働時間規制(第 2.3基準(規範 A)関係)

・船長も適用対象とする。

(4)苦情受付窓口(第 5.2.2規則関係)

・PSC担当官(港湾局統制官)が窓口となる。

(5)ISMコードとの関係性(第 5.1.3規則関係)

・船員法上、独立した DMLC制度を導入する。

第 2節 非欧州諸国 II. 韓国

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4.SOLAS条約等における認定機関について

(1)認定機関の利用状況

条約 条約証書 検査 発給 MARPOL (I) 国際油汚染防止証書 IOPPC

旅客船安全証書 PSSC 貨物船安全構造証書 CSSCC 貨物船安全設備証書 CSSEC

SOLAS (I)

貨物船安全無線証書 CSSRC

KST, KR

KST, KR

適合証書 DOC SOLAS (IX)

安全管理証書 SMC SOLAS (XI­2) 船舶保安証書 ISSC

KR KR

* 2010年 5月の現地調査において確認。

(2)関連法令

・1(2)国内担保法に同じ

5.統計

(1)MLC2006条約証書対象船舶:約 956隻

【船種別内訳】 Bulk carrier 229 Chemical tanker 16 Gas tanker 64 MODU 1 Oil tanker 52 Oil/Chemical tanker 174 Other cargo ships 404 Passenger high speed ship 3 Passenger ships 13 Total 956

(2)自国籍船員数:77,174名(内、職員 21,207名、部員 17,795名)

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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(3)船員労務官:約 49名(84名まで増員を計画中)

(4)船上検査頻度:商船は 3年に一度、漁船は 5年に一度の間隔で実施

第 2節 非欧州諸国 II. 韓国

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第 3節 ILO・外国船級協会

Ⅰ.ILO 事務局

訪問先 ILO, Sectoral Activities Department(ILO事務局) ­ Mr. Dani Appave (Senior Maritime Specialist)

訪問日 2010年 5 月 10日

ILO事務局より聴取した内容は以下のとおり。

1.船級協会が ROとなることについて

・ これまでハード面の検査を担ってきた船級協会が、船員の労働条件という

ソフト面についての検査を RO として担うことには、まったく不安視して

いない。というのも、船級協会は検査員について必要な研修を行うと表明

しているし、元船員をリクルートすることもしている。

・ 船級協会は世界中に拠点を置き、統一的に研修を施した検査員を配置する

のであるから、ROとして望ましいと思う。IACSによる統一解釈の作成作

業にも期待している。

2.MLC2006の条文解釈について

(1)短期間乗船のエンターテーナーについて

・ MLC2006は、周知のとおり船員について広い定義規定をおいているが(条

約 2条 1項(f))、いかなる者をMLC2006上の船員とみなすかは、締約国政

府が関係者と協議の上決めることができる(同条 3項)。このように条約の

国内実施に関して、締約国政府に柔軟性を与えているのが MLC2006 の特

徴である。

・ 特に船員の範囲については、条約とあわせて採択された決議(Resolution concerning information on occupational groups)もあるが、それでもなお締約

国によって見解が分かれそうなところもある。それは例えば、船舶の整備

に関わる人や地理学者等が挙げられる。そうした議論は本年 9 月に開催さ

れる予備的三者会合で話し合われることと思う。

・ したがって、エンターテーナーについてもそこでの議論を待ちたいが、今

までの考え方からすれば次のように回答できる。1 度きり 1 週間の乗船は

問題ないであろうが、1週間の乗船を何回か繰り返す場合は、MLC2006上

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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73

の船員とみなされるであろう。1 度きりで 2 か月の場合には、期間だけを

見ては判別不可能であるから、その者のキャリア、職業上のリスクを誰が

負っているかなどを総合判断することが必要となる。

(2)A3.1.11(f)の“wash places”について

・ 冷水及び温水の両方が利用可能であることが求められている“wash places” とは、洗面所に限られるものではなく、およそ人の身体の部分を洗う場所

すべてと言える。

・ もし暖かい海域のみを航行する船であれば、温水の利用を不要と旗国が決

定することは可能である。

Standard A3.1.11(f) hot and cold running fresh water shall be available in all wash places. すべての洗面所には、清水の冷水及び温水が出るようにしておく。

(3)A3.1.18の「頻繁な検査」について

・ どれほどが「頻繁」であるかは、旗国が決定することであるが、1か月に 1 度程度が限界であろう。望ましいのは 1週間に 1度だ。

Standard A3.1.18 The competent authority shall require frequent inspections to be carried out on board ships, by or under the authority of the master, to ensure that seafarer accommodation is clean, decently habitable and maintained in a good state of repair. The results of each such inspection shall be recorded and be available for review. 権限のある機関は、船員の居住設備が、清潔であり、相応な居住性があ

り、及び修理の良好な状態が維持されることを確保するため、船長によ

り又はその監督の下に、船内で実施される頻繁な検査を求める。検査の

結果は、記録し、及び再検討のために利用することができる。

3.その他

・ 日本には、早い時期の批准を期待している。日本がトップランナーとして

他国とりわけアジア地域を引っ張っていってもらいたい。

第 3節 ILO・外国船級協会 I. ILO事務局

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Ⅱ.Bureau Veritas (BV)(フランス船級協会)

訪問先 Bureau Veritas(BV)(フランス船級協会) ­ Mr. Serdar Isik (Manager, Maritime Labour Department)

訪問日 2010年 5 月 17日

フランス船級協会より聴取した内容は以下のとおり。

1.MLC2006に関して

・ BVは、 本年 3月にMLC2006の専門部門 (MLD: Maritime Labour Department)

を設けて、MLC2006対応に力を入れている。

・ MLD は、後述する船員配乗会社の認証のほか、MLC2006 のギャップ分析

や自主的船上検査を通して、広く MLC2006 関係者にサービスを提供して

いく予定。

2.BVの準備状況

(1)検査員の養成について

・ MLC2006検査員を養成するために、 ILO研修コースの内容に則った社内研

修をすでに世界的に実施している。ILO 研修コースに参加した人間が当該

研修の責任者となっている。

・ BV では、MLC2006 検査員になるために、まず当該研修を受けさせ、 MLC2006の内容や検査要領等を学ばせる。 その後、 船上研修を行い、 DMLC 第 2部の承認方法を学ばせることとしている。

・ すでに 150 名以上の検査員が当該研修を受講済みだが、適当な船舶が見つ

からないため、船上研修はまだ実施できていない。

(2)DMLC第 2部について

・ 船主に対して特定の方法を推奨することはしていない。継続的な適合措置

をとることの重要性を伝えるのみ。

(3)船員の募集・職業紹介機関について

・ BV は、従来、船員の配乗を行う会社に関する規則を定め、認証を行って

きた。 それは、 1999年に公表したASMO (Code for Approved Seafarer Manning Office)が最初である。

・ 今では、MLC2006 の内容を取り込み、“Standard for Quality Management

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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System of Seafarer Manning Offices” (Guidance Note NI563)を完成させ(本年 4月公表済み)、 MLC2006の規則 1.4との適合性を検証するサービスを用意

している。

・ かかるサービスは、船舶所有者に代わって船員を募集し、若しくは船員を

配乗させる会社等について、 マネジメント・システムを構築させ、 監査し、

認証するものである。当該会社等は、かかるマネジメント・システムを通

して、船舶所有者及び旗国が求めるところに適合する船員を供給すること

が可能となる。

・ なお、BV の当該基準は、MLC2006 のほか、IMO 条約(1995 年 STCW 条

約・ISPSコード、 ISMコード)、 安全配乗に関する IMOガイドライン (IMO Guideline Principles of Safe Manning)、英国の基準(MCA, “Code of Safe Working Practices for Merchant Seamen”)等に依拠するものである。

3.その他

検査申請窓口 いずれかの BVオフィス

検査申請期限 なし(早いほど良い)

申請に必要な書類(ISMの場合) 新規顧客のみ、DOC、SMCの複写

検査員数 専任 776名、非専任 64名

オフィス数 179 PSC対応時間 24時間 365日

第 3節 ILO・外国船級協会 II. BV

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Ⅲ.Det Norske Veritas (DNV)(ノルウェー船級協会)

訪問先 Det Norske Veritas(DNV)(ノルウェー船級協会) ­ Capt. Karl R Johansen (Project Manager, Competence Operation & Management, Maritime Technology and Production Centre)

訪問日 2010年 5 月 12日

ノルウェー船級協会より聴取した内容は以下のとおり。

1.MLC2006に関して

・ DNV は、MLC2006 の起草過程からノルウェー政府代表団の一員として議

論に参加してきた。更に言えば、目下、DNV内のMLC2006担当のトップ

は、当時の政府代表団を率いてきた Mr. Georg Smefjell(当時 Ministry of Trade and Industry)である。

・ それ故、ILO の研修コースに参加するまでもなく MLC2006 に関しては熟

知しており、 早々に後述の社内講座を構築し、 実施してきている。 この点、

他の船級協会をリードしていると自負している。

2.DNVの準備状況

(1)検査員の養成

・ DNVでは、 MLC2006の検査員を養成するための社内講座を開催している。 4日間のコースで、初日はコンピューターを用いて、MLC2006の概要等を

学ぶ。残り 3 日間は、座学及び参加者によるグループ討議・ロールプレイ

を行っている。4 日間を通して学ぶことは、①MLC2006 の内容、②DNV が果たすべき役割、そして③具体的にどのように検査し証書発給を行うか

である。

・ ①では、条約の構成・背景・目的・内容を詳細に扱う。全 113頁の資料(A4 版スライド)のうち 64頁を費やしている。

・ ②では、ROとしての DNVの役割、検査員の責任・権限、苦情の対処方法

などを扱う。特に苦情の対処に関しては、DNV検査員が苦情を解決するこ

とが求められているのではなく、船上の苦情受け付け手続きが実施されて

いるかを検査することだけであることを周知している。

・ ③については、DNV が作成している「検査員のための説明書」(IS: Instructions to Surveyors)、検査ガイドライン、検査項目一覧を示しつつ、

説明する。

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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・ グループ討議は、MLC2006、ILO旗国検査ガイドライン、旗国法令サンプ

ル、船上書類サンプル、「検査員のための説明書」などを用いて、参加者自

身が MLC2006 の要求項目及び検査項目を把握し、遵守・不遵守を発見す

ることを目的として行っている。

・ 従来実施してきたハード面についての検査ではなく、ソフト面での検査で

は、船員という人を対象にインタビューを行うことも必要であるため、イ

ンタビュー対象者の選抜方法から礼儀正しくあること、話しやすい雰囲気

を作ることまでを本講座で扱っている。

・ 進捗状況としては、すでに約 80名が本講座を受講済みである。但し、本講

座の仕上げは船上検査であり、それはまだほとんどできていない。トライ

アルの船上検査は、進行中のものを含め 5~10件程度にとどまっている。

・ 将来的には、 MLC2006の検査員を 200~300 名とすることを予定している。

(2)DMLC第 2部について

・ 船主に対し、既存の SMSを補強することを勧めている。

(3)船員の募集・職業紹介機関について

・ 船員紹介所について、DNV がMLC2006適合性を検証するサービスを行う

予定である。未批准国及び批准国に対して、かかるサービスの提供につい

て打診している。

・ このサービスは、特に MLC2006 未批准国における船員募集等機関が MLC2006 に適合していることを確保することを求められうる船舶所有者

を助けるものであるが、かといって、DNVの認証はあくまでその時点のも

のであって、認証時以降の当該機関の MLC2006 適合性等を保証するもの

でもない。従って、以後の当該機関の MLC2006 不適合に起因する問題に

ついて、何ら責任を負うつもりはない。

3.その他

検査申請窓口 いずれかの DNVオフィス

検査申請期限 なし(早いほど良い)

申請に必要な書類(ISMの場合) 新規顧客のみ、DOC、SMC、船籍登録

証書等の複写

検査員数 専任 1,700名、非専任 41名

オフィス数 250程度 PSC対応時間 24時間 365日

第 3節 ILO・外国船級協会 III. DNV

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Ⅳ.Korean Register of Shipping (KR)(韓国船級協会)

訪問先 Korean Register of Shipping(KR)(韓国船級協会) ­ Mr. Jeon, Jeong Chong(General Manager, Statutory System Certification Team) ­ Mr. Choi, Jin Hong (Surveyor/Auditor, Statutory System Certification Team)

訪問日 2010年 5 月 12日

韓国船級協会より聴取した内容は以下のとおり。

1.MLC2006に関して

・ KRは、韓国政府が RO導入に踏み切ったこともあり、現在MLC2006対応

を鋭意進めている。KR は、MLC2006 のギャップ分析や自主的船上検査、

そして訓練コースの提供・セミナー開催などを通して、広く MLC2006 関

係者にサービスを提供していく予定。

2.KRの準備状況

(1)検査員の養成

・ KR は、外部の専門家(労働、船員法、IT など)を招聘し、理論研修を実

施している。また、KRの代表者を ILO研修コースに参加させており、ILO 研修コースに参加した人間により、KR内での教育指導を実施している。

(2)DMLC第 2部について

・ ISM 船上検証と MLC2006 検査との同時実施は、政府が許可した場合にの

み実施されると予想している。SMS参照は可能だが、具体的に継続的な適

合措置を記載する方が良いと考えている。現在、DMLC第 2部のサンプル

を作成中である。

(3)船員の募集・職業紹介機関について

・ 船社に対し、第三者機関の認定の有無を確認するようにアドバイスしてい

る。また、直接現地を訪れることも奨励している。

3.その他

検査申請窓口 全支部

検査申請期限 原則 10日前(しかし柔軟に対応)

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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申請に必要な書類(ISMの場合) 質問票、DOC複写、SMC複写

検査員数 専任 478名、非専任 2名

オフィス数 43(国内 15、海外 28) PSC対応時間 24時間 365日

第 3節 ILO・外国船級協会 IV. KR

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【表 5:7 か国の MLC2006 動向調査結果概要】

デンマーク フランス ドイツ オランダ ノルウェー 英国 韓国

批准見込み時期 2010.12 2011.6 2010.12 2011.1 2009.2.10 済 2010.12 2010.12

ROの導入等

MLC2006 のための RO 導入する 検討中 導入する 導入する 導入する 原則導入しない 導入する

RO の代行権限 検査: 証書:

(導入する場合) 検査:居住設備に限る

証書:×

検査: 証書:×

検査: 証書:

検査: 証書:

(個船ごとの判断) 検査:居住設備に限る

証書:×

検査: 証書:

RO の監督方法 EU規則に則って実施 検討中 EU規則に則って実施 EU規則に則って実施 EU規則に則って実施 EU規則に則って実施 日本の監督制度と同様

MLC2006 への対応

短期間乗船のエンター テーナーの扱い

除外する 除外する

期間につき検討中 除外する

原則として除外しない (条約 2 条 3 項に基づ

く協議もありうる)

除外しない 除外する 除外する

(施行令に明記見込み)

「募集及び職業紹介の

利用」の確認方法

旗国ガイドラインに則

って実施

契約書(複写)

を船上確認

旗国ガイドラインに則

って実施

旗国ガイドラインに則

って実施

旗国ガイドライン

に則って実施

旗国ガイドライン

に則って実施 不明

船長への労働時間規制 例外を認める 例外を認める 方向で検討中

例外を認める 除外を認めない 限定的に例外を

認める 例外を認める 除外を認めない

船員の苦情受付 PSC担当官が兼務 PSC担当官が兼務 PSC担当官が兼務 PSC担当官が兼務 PSC担当官が兼務 PSC担当官が兼務 PSC担当官が兼務

DMLC 第 2部の作成方法

(ISM・SMS参照) 認める 認める方向で検討中 認める 認める 認める 認める 認めない

既存の船員労務監査制度

ILO 第 178 号条約 未批准 批准 未批准 未批准 批准 批准 未批准

船員労務監査の

ための船上検査 実施していない 実施している 実施している

実施している

(ROの代行あり) 実施している 実施している 実施している

海外検査 実施していない 可能だが、実施はまれ 実施していない 実施していない 実施している 実施している 実施している

船員労務官 40 40(うち 30は船舶技官) 40 0~5(船舶技官) 88 130 49(84に増員予定)

その他

MLC2006 証書対象船舶 549 250~300 485 820 1458 810 956

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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【表 6:各機関における検査・証書発給体制】

船級協会 当局

BV DNV KR BG(独) MCA(英) 仏

申請期限 なし

(早いほどよい)

なし

(早いほどよい)

なし

(柔軟に対応;

原則は 10 日前)

なし

(通常は 5日前)

なし

(状況に応じて

弾力的に対応)

海外実施 あり あり あり あり あり

ISM 船上検証 同時実施 同時実施 同時実施 同時実施 同時実施

検査員数 250 300 100

(船級協会が実施)

130 200

申請方法 ― ― ― オンライン可

(通常 E­mail) オンライン可 オンライン可

受付時間 ― ― ― 7:00~17:00

月~金 24 時間 365日 24 時間 365日

交付方法 船上 船上 船上 郵送

(メール添付も可)

郵送

(ファクシミリ、

メール添付も可)

郵送若しくは窓口

発給日 即日(即時) 即日(即時) 即日(即時) 即日若しくは翌日 即日若しくは数日 通常1~2 日

(暫定証書は即日)

PSC 対応 24 時間 365日 24 時間 365日 24 時間 365日 24 時間 365日 24 時間 365日 24 時間 365日

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(余白)

第2章 ILO海事労働条約をめぐる諸外国の動向

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第3章 ILO 海事労働条約の円滑な履行と ROの活用

第1節 旗国検査・証書発給スキーム検討の視点

第 1章でみたとおり、 MLC2006は、 加盟国が自国を旗国とする船舶について、

船員の労働条件に関する検査及び証明のための効果的な制度を設けることを義

務づけている(第 5.1.1 規則 2 項)。そして、加盟国がかかる義務を果たすため

に、能力を有し、かつ、独立していると認める公の機関又は他の団体(RO)を

して、検査、証書発給、又はその双方を行うこと認めている。

この旗国検査・証書発給スキームは、MLC2006 が規定する船員の生活・労働

条件を実現する上で有効なものであるところ、その実施は、加盟国及び船社な

ど関係各方面にとって多分にリソースを割かれるものである。しかし、当該ス

キームを実施しなければならない行政のリソースは無限ではないし、また、当

該スキームの対象となる船社にとってそれが運航スケジュールに支障をきたす

ほどのものとなれば、安定的な海上輸送そのものが危ぶまれる。従って、当該

スキームは、MLC2006 の円滑な履行を期するならば、所期の目的を達する限り

において効率的にあることが望まれる。スキームの効率性は、 「船員の労働条件

に関する検査及び証明のための効果的な制度」(第 5.1.1 規則 3 項)という目標

の達成に要する費用で算出されるものであるから、スキームが効率的であると

き、行政にすれば当該スキームの運営にかかる負担が少なく、船社にすれば当

該スキームの利用にかかる機会費用が少なく、裏を返せば利便性が高いもので

ある。

周知のとおりMLC2006は、船員の労働環境の向上を図ることを目的とするも

のであるが、それが発効しグローバルスタンダードとして世界で実施されるこ

とにより、劣悪な労働環境で運航されるサブスタンダード船が排除されること

が期待されるものである。従来、日本籍船が悪質なサブスタンダード船として

糾弾された事実はなく、それはすなわち、現行法制下における行政の適切な監

督指導及び船主の率先的取組みによりクオリティ・シッピングが実現できてい

ることに他ならない。

また、サブスタンダード船の排除は、世界の外航海運のためのレベル・プレ

イング・フィールドの実現を意味する。船員にとって劣悪な労働環境であるサ

ブスタンダード船、すなわち船員の労働環境整備に費用等をかけていない船舶

が市場から淘汰されれば、費用をかけて適切な労働環境を整備した船舶間での

公平な競争が可能となるからである。従って、日本がMLC2006のための旗国検

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査・証書発給スキームを構築する上では、サブスタンダード船が排除された後

のレベル・プレイング・フィールドの出現という、MLC2006 の発効により必然

的にもたらされる競争環境を念頭に置くことが必要である。船員の労働条件を

犠牲にすることなどで不当に安い費用構造で運航されていた船舶が市場から退

場させられてから、クオリティ・シッピングを目指す船舶間で真の競争が始ま

るからである。とすれば、日本の旗国検査・証書発給スキームは、その下にあ

る日本籍船が外国の当該スキームの下にある外国籍船と比してレベル・プレイ

ング・フィールドに置かれるべく、存在することも意識しなければならないの

は当然である。実際、諸外国調査(第2章)で明らかになったとおり、諸外国

はその点を織り込んで、MLC2006 の発効までの準備期間を長く取るために、必

要な法改正・批准を早く済ませることとしたり、検査員を ILO 研修センターに

派遣して養成し、検査体制の構築を始めたり、検査・証書発給にあっては柔軟

な対応を可能としたりしている。

ところで、日本の経済・国民生活を支えるライフラインである外航海運の基

盤である日本籍船は、経済安全保障の観点から一定規模が確保されることが必

要である。そこで、海上運送法第34条に基づく日本籍船・日本人船員の確保

に係る基本方針においては、当面の目標として、日本籍船の数を2008年度

からの10年間において2倍に増加させることとしている。今この目標に向け、

国及び関係業界が力を合わせて取り組んでいる状況に鑑みれば、少なくとも今

後の海事分野におけるすべての政策は、かかる目標を共有し、船主が日本籍船

を増やす環境を整備する若しくはその意欲を減退させないことを直接間接を問

わずひとつの効果として備えるべきであることは論を俟たない。

日本におけるMLC2006のための旗国検査・証書発給スキームの対象は日本籍

船である。よって、当該スキームの在り方如何によって影響を受けるのは日本

籍船であるため、当該スキームの在り方もまた、日本籍船増加目標との関係に

おいて如何なる効果を有するかが問われなければならない。それ故、MLC2006 のための旗国検査・証書発給スキームは、日本籍船を増加させることについて

何らか正の作用を及ぼすことあるいは少なくとも負の作用をもたらさないこと

が見込まれるものでなければならない。

以上のように、MLC2006 を国内的に実施するためには新たに旗国検査・証書

発給スキームを構築することが必要であるものの、MLC2006 が排除しようとす

る悪質なサブスタンダード船はそもそも日本籍船には存在しないこと、 MLC2006 は適切な船舶間でのレベル・プレイング・フィールドを作り出すもの

であるからその基盤たる国内実施スキームもまた諸外国とレベルであることが

望ましいこと、実際に諸外国はそれを意識していること、さらに、日本は目下、

経済安全保障の観点から日本籍船を増やす取組みの中にあることなどを踏まえ

第3章 ILO海事労働条約の円滑な履行と ROの活用

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ると、MLC2006 の円滑な履行という観点から日本の当該スキームの在り方を論

ずるには、当該スキームの効率性、とりわけ日本籍船の船主にとっての利便性

を視座に据えることが必要である。

もとより船主にとっての利便性とは、検査の内容についてではなく、検査及

び証書発給にかかる手続きの負担の少なさであり、証書発給までの時間短縮で

あり、寄港国検査において問題が生じた場合の迅速な対応などである。

第 2節 旗国検査・証書発給スキームのパターン

MLC2006 のための旗国検査・証書発給スキームについては、RO が代行する

権限に応じて3つのパターン、すなわち、 (1)検査及び証書発給の双方を RO が代行する「RO完全代行型」 、 (2)検査のみを ROが代行し、証書発給は国の

みが行う「RO 検査代行型」 、 (3)検査及び証書発給ともに RO に代行させず、

国が自ら行う「非代行型」が考えられる。諸外国もこれらのいずれかを採用予

定であるところ、日本の事情を踏まえた上述の視点、すなわち船社の利便性か

らそれぞれを眺めてみる。

(1)RO完全代行型 RO完全代行型は、検査と証書発給の双方を ROに代行させるものである。今

般調査対象国の中では、デンマーク、オランダ、ノルウェーそして韓国におい

て採用される予定である。

RO 完全代行型においてはまず、検査の代行権限が RO に与えられる。RO と

して今のところ具体的に候補となっている船級協会を例に、その検査体制につ

いてみてみると以下のとおりである。

検査を希望する船社が、検査希望日時のどれくらい前に当該日時を船級協会

に申請しなければならないかといえば、基本的に、明示的な申請期限はなく、

検査員の都合が付く限り対応するとしている。この点、三国間輸送若しくは長

期航海に従事する船舶にあっては、寄港地が急遽変更になるなど直前になって

受検可能な寄港地が確定することが多いが、それへの対応として船級協会の申

請受付体制は望ましいものである。当然、検査の受検地についても、国内の港

や海外の少数の港に限られることなく、船級協会の従来のネットワークを活か

し、数多くの海外港で対応するとしている。

第 2節 旗国検査・証書発給スキームのパターン

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MLC2006 であれ何であれ、検査

には、 所要の時間がかかるのはやむ

を得ないものの、 検査を行う側にと

っても受ける側にとっても、 検査が

必要にして最短の時間で済むに越

したことはない。MLC2006 のため

の検査は、 検査事項の一部が事実上 ISM コードと共通性を有するが故

に ISM 検査と同時に実施すること

により、 少なくとも別個に行うより

もある程度の短縮が可能である。 今

では荷役の効率化に伴い、 船種によ

っては停泊時間が短い船舶が多く

なっている中、 検査の所要時間は船

社の運航スケジュールに大きな影

響を与えうるものである。この点、

船級協会は、MLC2006 のための検査を ISM 検査と同時に実施するとしており、

両検査を別個に行うことの煩雑さ、所要時間の長さから船舶を解放する意味で、

船社にとって利便性の高いものである。 RO完全代行型においては、条約証書の発給についても代行権限が ROに付与

される。ここでも ROたる船級協会の証書発給体制をみれば、証書発給にかかる

申請等は、検査の申請とともになされることとなり、船社にとっては一度の手

続きで完了するワン・ストップ・サービスが提供されることとなり、利便性が

高い。そして証書の交付について、船級協会は検査後に即時交付としており、

これも運航スケジュールを守らねばならない船舶にとって条約証書の入手時間

までの見込みが立ちやすく、利便性が高いものである。 PSC へのサポートは、船級協会は24時間365日体制を敷いており、船社

に不満はない。

(2)RO検査代行型 RO検査代行型は、条約証書の発給にかかる検査についてのみ代行する権限を

ROに付与し、条約証書の発給については ROに委ねず、当該検査にかかる報告

を受けて、国が証書を発給するものである。今般調査対象国のうち、ドイツが

該当する。 ROに検査のみを代行させる場合、当該検査を担う ROとして具体的に名前が

挙がっているのはやはり船級協会である。よって、検査体制については上記 RO

【RO完全代行型】

RO

検査権限

証書発給権限

検査

証書

対象船舶

国際航海へ

第3章 ILO海事労働条約の円滑な履行と ROの活用

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完全代行型と同じ利便性が確保される。

しかしながら、船級協会による検査の後、船社は証書発給主体である当局に

対し、証書交付申請を行う。船社にとっては、検査を受けるための申請と、証

書の交付を受けるための申請と、2つの手続きが必要となることから、ワン・

ストップ・サービスを提供する RO完全代行型及び非代行型(後述)と比べると

利便性が一段劣るものである。

但し、RO 検査代行型は、RO が証書発給までを代行しないか

ら、 裏を返せば国が証書を発給す

るからというだけで利便性がひ

どく低下するというわけではな

い。それは、国が提供する証書発

給手続きがROのそれと同等若し

くは若干見劣りするぐらいであ

れば、 全体として一定程度の利便

性は確保しうるからである。

ドイツを例に挙げれば、当局

(BG Verkehr)は、証書発給にか

かる申請の受付時間を月曜から

金曜日の朝7時から夕方5時ま

でとしているが、申請方法としてオンライン(通常 E­mail)を用意しているの

で、実際には申請が上記時間に限られることはない。そして、証書の発給は、

申請の当日若しくは翌日に行っている。交付について、郵送を基本とするが、

船社や船舶の事情によっては、当該証書の画像データを E­mail 添付で送ること

もしている。そして PSC については、専門の人員を用意し、24時間365日

の対応を行っている。

以上のとおり、RO検査代行型においては、検査について ROとして船級協会

を活用し、その世界的なサービス体制を船社が享受することを可能としつつ、

証書発給についてオンライン申請を認め、証書の即日交付などの対応とるドイ

ツのような体制であれば、船社にとっての利便性は一定程度確保されていると

みることができる。特にオンライン申請の導入は、それが時間を問わず申請者

の都合で提出できるものであることから、ワン・ストップ・サービスでないこ

とや平日夜間・土日に休業することのデメリットを最小化しうるものである。

【RO検査代行型】

RO

国 検査権限のみ

検査

証書

対象船舶

国際航海へ

第 2節 旗国検査・証書発給スキームのパターン

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88

(3)非代行型

非代行型は、原則として検査及び証書発給のいずれにも ROを使わず、国がど

ちらも行うタイプである。今般調査対象国においては、英国及びフランスが該

当する。

非代行型の検査・証書発給スキーム

においては、国の機関が検査及び証書

発給の双方を行うことから、 RO完全代

行型と同じく、ワン・ストップ・サー

ビスは実現される。しかしながら、そ

こで提供されるサービス如何によって、

当該スキームを利用せざるを得ない船

社の利便性は、 RO完全代行型若しくは RO 検査代行型の下にある船社と大幅

に差異が生じうる。そしてそれは、 MLC2006がレベル・プレイング・フィ

ールドをもたらそうとも、当該スキー

ム下の船社にとっては、レベル・プレ

イング・フィールドへのアクセス時点

ですでにハンデがかけられることを意

味する。 もとより例えそうだとしても、

世界中の顧客に対しサービスを提供することを業とする船級協会と、自国を旗

国とする船舶に対して条約上求められる責任を果たすばかりでなく、国内外の

他のあらゆる分野に対しても責任を有しリソースを割かねばならない一国の政

府とで、ある一側面について差が出ることはいわば当然のことである。

非代行型の代表例として、英国についてみると、第2章で述べたとおり、検

査及び証書発給の主体はMCA(Maritime and Coastguard Agency)である。まず、

検査にかかる手続きについて MCA は、申請期限を特段定めておらず、従って、

申請期限という形式的要件をもって検査手続きを不備とすることはない。船舶

の都合に合わせた海外での検査は、可能な限り行っており、MCA検査員による

対応が不可能な場合には、 ROを利用するという柔軟な対応を見せている。 また、 MLC2006は、事実上 ISMコードと検査事項が部分的に重なる故、両者の検査を

同時に実施することが望ましいとして、それぞれ個別に行う場合よりも検査料

を安く設定する見込みである。MCA は、MLC2006 条約証書対象船舶が約81

0隻であるところ、それらに対し5年に2回以上検査を行うために、MLC2006 のための検査員として130名を養成する予定である。

証書発給については、申請のためにオンラインが用意され、それ故、受付は

【非代行型】

検査

証書

対象船舶

国際航海へ

第3章 ILO海事労働条約の円滑な履行と ROの活用

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24時間365日である。証書の発給にかかる時間は、即日若しくは数日であ

り、その交付は郵送が基本だが、ファクシミリや E­mail 添付による対応も行っ

ている。そして PSCについては24時間365日対応している。

以上のとおり、MCAは、検査手続きに関し、完全代行型及び検査代行型にお

いて ROが提供する利便性と同程度を確保しつつ、 それが不可能な場合は ROに

代行させるとしており、英国籍船舶にとって利便性は高いと言える。また、証

書発給に関しても、発給所要時間に幅があることを除いては、船級協会とほぼ

同程度の利便性を確保している。

また、同じく非代行型のフランスは、MCAのようなエージェンシーを有しな

い点で行政機構としては日本に等しく、中央官庁(Ministry of Ecology, Energy, Sustainable Development and the Sea) がMLC2006関連法令の当局として存在する。

そして同国では、 MLC2006のための旗国検査・証書発給については、 既存の IMO 条約に基づく場合と同じように、それが所管するMaritime Safety Centerが任を

負う。Maritime Safety Centerは、検査申請のためのオンラインを整備しており、

船社の要望への弾力的な対応を是として申請期限を有さず、24時間365日

体制でその任を果たしており、MLC2006 に関しても同様の対応をする予定であ

る。

このように、検査にも証書発給にも ROを用いない非代行型であっても、旗国

検査・証書発給スキームの構築次第で、船社にとっての利便性は、RO完全代行

型とさほど変わらないものになりうる。

第 2節 旗国検査・証書発給スキームのパターン

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第3節 旗国検査・証書発給スキームにおける ROに対する

監督

(1)日本における既存の RO監督スキーム MLC2006 における RO については、現在批准に向けた国内法制化作業の最中

ということもあり、現時点では監督スキームの構築はなされていない。他方、 SOLAS 条約における RO に関しては、 「 (登録)船級協会」として、その登録要

件、認可要件、検査義務、報告義務、罰則など、詳細な監督スキームが船舶安

全法に規定されている(§25­69~§25­72及び表 7参照。なお、§25­70につい

ては、準用条文を参照) 。

【登録要件】

船舶安全法は、船級協会について以下のように登録要件を定めている。積極

要件としては、検査設備の保有(§25­47①(ⅰ))、有資格人員の保有(§25­47 ①(ⅱ))、そして消極要件としては、船舶関連事業者の子会社等の船舶関連事業

者の被支配者要件 (§25­47①(ⅲ))、 及び違反経歴者等に関する欠格条項 (§25­47 ②)が規定されている。そして、上記いずれかの要件に適合しなくなったと認

める時には、国土交通大臣は適合命令を発することができ(§25­55)、さらに、

命令に違反した場合又は不正登録を行った場合には、登録取り消し・業務停止

命令を発することができる(§25­58①(ⅶ)及び(ⅷ))。

【認可事項】

船級協会は、その検査業務の開始前及びその変更時に、検査業務規程につい

て認可を受けなければならない(§25­51①)と定められている。この検査業務

規程には、検査業務の実施方法、専任の管理責任者の選任その他の検査業務の

信頼性を確保するための措置、検査に関する料金その他の国土交通省令で定め

る事項を定めておかなければならない(§25­51②)。当該規程に対する変更命令

に違反した場合には、国土交通大臣は登録取り消し・業務停止命令を発するこ

とができる(§25­58①(ⅴ))。

【検査義務】

船級協会は、正当な理由がある場合を除き、遅滞なく検査を行う義務を負う

(§25­49②)。この検査業務に対しては、国土交通大臣はその改善命令を発する

ことができ (§25­56)、 その命令に違反した場合、 国土交通大臣は登録取り消し・

業務停止命令を発することができる(§25­58①(ⅶ)) 。

第3章 ILO海事労働条約の円滑な履行と ROの活用

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【報告・情報アクセス】

船級協会は、財務諸表等の毎事業年度の提出義務(§25­53①)及び財務諸表

等の供覧義務を負う(§25­53②)。その他の報告・情報共有義務に関しては、登

録事項変更届出義務(§25­50)、帳簿の記載・保存義務(§25­59)、業務・経理

の報告義務(§25­60)が規定されている。これらの違反に対しても、国土交通

大臣は登録取り消し・業務停止命令を発することができる(§25­58①(ⅲ)及び (ⅵ)) 。

【立入検査】

政府は、船舶安全法を施行するため必要があると認めるときは、船級協会に

対し、立入検査を実施できる(§25­61)。

【罰則】

上記の違反行為に対して、懲役刑を含む刑事罰を規定している(§25­63、§ 25­64(ⅱ)、§25­65、§25­66、§25­71①、§25­72①)。

第 3節 旗国検査・証書発給スキームにおける ROに対する監督

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【表 7:SOLAS条約における認定機関に対する政府の監督】

国内認定機関の義務等 違反に対する行政措置等

【積極要件】

検査設備の保有§25­47①(ⅰ) 有資格人員の保有§25­47①(ⅱ)

登録

【消極要件】 船舶関連事業者の被支配者(船舶関

連事業者の子会社等)§25­47①(ⅲ)

欠格条項(違反経歴者等)§25­47②

適合命令§25­55 ↑命令違反について登録取消・業務 停止命令

§25­58①(ⅶ)

不正登録について登録取消・業務 停止命令

§25­58①(ⅷ)

欠格条項該当事項発生について 登録取消・業務停止命令§25­58① (ⅰ)

認可

検査業務規程の認可§25­51①

(検査業務実施方法、専任管理責任者 の選任、検査管理業務信頼性確保措置

等)§25­51②

変更命令§25­51③

↑命令違反について登録取消・業務 停止命令

§25­58①(ⅴ)

検査

公正適法な検査の実施§25­49②

改善命令§25­56 ↑命令違反について登録取消・業務

停止命令 §25­58①(ⅶ)

財務諸表等の毎事業年度提出§ 25­53①

財務諸表等の供覧§25­53②

登録取消、業務停止命令§25­58 ①(ⅲ)

登録取消、業務停止命令§25­58 ①(ⅵ)

登録事項変更届出§25­50 帳簿の記載・保存§25­59

登録取消、業務停止命令§25­58 ①(ⅲ)

報告・立

入検査

業務・経理の報告§25­60 立入検査§25­61

罰則

(いずれも当該行為者について) 業務停止命令違反 1年以下の懲役又は 50 万円以下の罰金 §25­63 虚偽報告等 30万円以下の罰金 §25­64(ⅱ) 立入検査拒否等 30万円以下の罰金 §25­65 財務諸表の供覧拒否等 20万円以下の過料 §25­66 検査に係る収賄等 3年以下の懲役 §25­71①

検査に係る不正行為等 1年以上 10年以下の懲役 §25­71①

(注)条文番号は船舶安全法

第3章 ILO海事労働条約の円滑な履行と ROの活用

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(2)EUにおける既存の RO監督スキーム EU における既存の RO に対する監督は、EU レベルのものと各加盟国レベル

のものとが一体となって構築されている。すなわち、EUは、IMO決議に依拠し

つつ、ROの資格要件、定期検査、賠償責任、制裁等を規定しており、各加盟国

が利用する RO に対して直接の監督を行っている。それと同時に、各加盟国は EU の規定に従いつつ、RO に対する監督の制度を各国内で設けているのである

(表 8参照) 。

【法的根拠】 EU における当該スキーム構築の嚆矢は、RO に関する最低基準の資格要件を

定め、 その資格要件を満たすものとして EUが認定した ROのみを利用するよう

各国に要請した理事会指令 94/57/EC 1 である。

その後、 この理事会指令は欧州議会・理事会指令 2001/105/EC 2 及び 2009/15/EC 3

による改訂を経て、現在では EU 諸国の国内法として効力を有する EU 規則 391/2009 4 を含む法的枠組みとして、 これらが EU全体における RO監督スキーム

を規定している。

具体的には、RO の初回認定権限の EU 帰属、EU 認定 RO の資格要件、監督

制度、賠償責任規定、制裁規定からなるスキームである。

【初回認定】 RO の初回認定権限については、EU に帰属するものとされている。具体的に

は、未認定団体への認定を希望する加盟国は、対象団体が付属の最低基準(Reg. Annex I)及び 8 条 4 項、9 条、10 条並びに 11 条の要件を遵守していることの

証拠を付し、欧州委員会に認定要請を提出しなければならず(Reg. Art.3.1)、認

定は、Reg. Art.3の要件を満たす団体にのみ与えられる(Reg. Art.4.2)。そして、

対象団体が最低基準(Reg. Annex I)の要件を満たさない場合、または対象団体

1 Council Directive 94/57/EC of 22 November 1994 on common rules and standards for ship inspection and survey organizations and for the relevant activities of maritime administrations 2 Directive 2001/15/EC of the European Parliament and of the Council of 19 December 2001 amending Council Directive 94/57/EC on common rules and standards for ship inspection and survey organizations and for the relevant activities of maritime administrations 3 Directive 2009/15/EC of the European Parliament and of the Council of 23 April 2009 on common rules and standards for ship inspection and survey organizations and for the relevant activities of maritime administrations 4 Regulation(EC) No. 391/2009 of the European Parliament and of the Council of 23 April 2009 on common rules and standards for ship inspection and survey organizations

第 3節 旗国検査・証書発給スキームにおける ROに対する監督

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の実績が船舶の安全及び環境への容認できない脅威だと見なされた場合には、

欧州委員会は対象団体への認定要請を拒否しなければならない(Reg. Art.3.3) 。

【資格要件】 ROは、船級検査に必要な支援要員、研究要員を保持し(Reg. Annex I, A.3)、

豊富な知識を有する検査員と、その知識・能力の維持向上システムを具備して

いなければならない(Reg. Annex I, B 7)。さらに、ROは能力を有した専門要員 の使用を通じ、そして ISMコード実施ガイダンス(IMO A.913(22), Annex)に記

された条項に準じて、査定を行うのに必要な手段を備えていなければならない (Reg. Annex I, B 10)。

また、ROの組織内部規制に関する要件としては、独立の会計監査による証明 (Reg. Annex I, A.1)、倫理規範による運営(Reg. Annex I, B 2)、守秘義務の確保

(Reg. Annex I, B 3)、サービス品質に関する内部システムを伴う規則・手続の確 保(Reg. Annex I, B 7)、RO要員の活動・業務を監視する内部監督システムの確

保(Reg. Annex I, B 7)が必要である。さらに品質評価要件として、品質に関す る計画的かつ文書化された内部監査システムの確保(Reg. Annex I, B 7)、国際的

に認められた品質基準に基づく、EN/ISO/IEC 17020:2004 (inspection bodies)及び EN ISO 9001:2000 (quality management systems, requirements)を遵守した実効的な

内部品質システムの構築、実施及び維持(Reg. Annex I, B 8)が要件として規定 される。そして ROは、2011年 6月 17日までに国際基準に一致する品質評価証

明組織(a quality assessment and certification entity)を設置しなければならない (Reg. Art.11.1)と規定される。そして、この品質評価証明組織は、RO の品質

管理システムに対する ISO9001 基準に応じた頻繁かつ定期的な査定、当該シス テムの認証等の任務を実施する(Reg. Art.11.2)。

情報公開については、船級登録に関する電子データベースの公開と維持(Reg. Annex I, A.4)、消極資格要件としては、RO 及び RO検査員の被支配・独立要件

が規定されている(Reg. Annex I, A.6)。

【定期検査】 全ての ROは少なくとも 2年毎に、 欧州委員会並びに認定要請を出した加盟国

により、最低基準(Reg. Annex I)及び Reg.の要件の適合を検証するための査定 を受けなければならない(Reg. Art.8.1)。また、品質評価証明組織は、委員会に

よって定期的に査定されなければならない(Reg. Art.11.6)。

【是正措置】 最低基準(Reg. Annex I)の要件を満たさない場合、Reg.の要件を満たさない

場合、または船舶の安全及び環境への容認できない脅威を構成すると見なした 場合、 欧州委員会は、 ROに対して予防措置及び是正措置を要求する (Reg. Art.5)。

【情報アクセス・報告義務】 ROは欧州委員会に対し、定期査定に必要な情報アクセスを確保しなければな

らない(Reg. Art.9.1)。RO は、欧州委員会及び加盟国に対し、機器装備等の証

明に関する基準の進展について定期的報告する(Reg. Art.10.1)。

第3章 ILO海事労働条約の円滑な履行と ROの活用

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【立入検査】

査定には、RO地方支部の視察と船舶への無作為検査を含む(Reg. Art.8.3)。

【賠償責任】

人損については、ROが関与した責任の度合いに応じて、当局は金融補償を請

求する権利を有する(加盟国は 4 百万ユーロまでの請求額下限を設けることが

できる)(Dir. 2001, 5 (d) (ii)) 。また物損については、ROが関与した責任の度合

いに応じて、当局は金融補償を請求する権利を有する(加盟国は 2 百万ユーロ

までの請求額下限を設けることができる)(Dir. 2001, 5 (d) (iii)) 。

【認定取消】

最低基準 (Reg. Annex I) 及び Reg.の要件の度重なるかつ深刻な不履行の場合、

船舶の安全及び環境への容認できない脅威を構成すると見なした場合、欧州委

員会による査定の度重なる妨害の場合、そして罰金又は定期的懲罰支払金の支

払いを怠った場合には、 欧州委員会は当該 RO の認定を取り消さなければならな

い(Reg. Art.7.1) 。

【罰金及び定期的懲罰支払金】

欧州委員会は ROに対し、罰金定期的懲罰支払金(periodic penalty payments)

を科すことができる(Reg. Art.6.1 & 2) 。この罰金及び定期的懲罰支払金は、抑 止的であって、 事案の重大性及び ROの経済的能力に比例したものでなければな

らない。罰金及び定期的懲罰支払金の総額は、ROの過去 3年の平均粗利額の総 額の5パーセントを超えてはならない(Reg. Art.6.3) 。

第 3節 旗国検査・証書発給スキームにおける ROに対する監督

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【表 8:EU における既存の RO 監督スキーム】

EU デンマーク ドイツ

根拠法等

­ Regulation (EC) No. 391/2009 on common rules and standards for ship inspection and survey organizations (Reg.)

­ Directive 2009/15/EC of the European Parliament and of the Council on common rules and standards for ship inspection and survey organizations and for the relevant activities of maritime administrations (Dir.)

­ Order on technical regulation on the performance of certain tasks pursuant to the Act on Safety at Sea on behalf of the Danish Maritime Authority Order No.1359 (Order No.1359)

­ Agreement Governing the Authorization of The Recognized Organization (RO) to undertake Statutory Certification Services for Vessels Registered in Denmark between the Danish Maritime Authority and RO, September 2003 (DK_Ag.)

­ Agreement on the Assignment of Tasks to Recognized Organizations by and between See­berufsgenossenschaft and RO (DE_Ag.)

認定

初回認定

­ 未認定団体への認定を希望する加盟国は、対象団体が最低

基準(Reg. Annex I)及び 8条 4 項、9条、10条並びに 11 条の要件を遵守していることの証拠を付し、欧州委員会に

認定要請を提出しなければならない(Reg.Art.3.1) ­ 欧州委員会は、対象団体が最低基準(Reg. Annex I)の要件

を満たさない場合、または対象団体の実績が船舶の安全及 び環境への容認できない脅威だと見なされた場合には、対

象団体への認定要請を拒否しなければならない(Reg. Art.3.3)

― ―

要件

資格要件

­ 認定は、Reg. Art.3の要件を満たす団体にのみ与えられる (Reg. Art.4.2) ­ 船級検査に必要な支援要員、研究要員の保持 (Reg.Annex I, A.3) ­ 豊富な知識を有する検査員と、その知識・能力の維持向上 システムの具備(Reg. Annex I, B 7)

­ ROは、能力を有した専門要員の使用を通じ、そして ISMコ ード実施ガイダンス(IMO A.913(22), Annex)に記された条

項に準じて、査定を行うのに必要な手段を備えていなけれ ばならない(Reg.Annex I, B 10)

­ 「EC指令(Dir. 94/57/EC – 2001/105/EC)に応じ て認められた団体」(DE_Ag. Preamble)

­ 認定された船級協会(Recognized Classification Society: RCS)は、Dir. 94/57/EC及びその付属書に

記載された要件の全てに適合しなければならな い(DE_Ag.Art.2.6)

内部規制要件

­ 独立の会計監査による証明(Reg.Annex I, A.1) ­ 倫理規範による運営(Reg.Annex I, B 2)、 守秘義務の確保(Reg.Annex I, B 3)

­ サービス品質に関する内部システムを伴う規則・手続の確 保(Reg.Annex I, B 7) ­ RO要員の活動・業務を監視する内部監督システムの確保 (Reg.Annex I, B 7)

― ―

第3章 ILO海事労働条約の円滑な履行と ROの活用

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品質評価要件

­ 品質に関する計画的かつ文書化された内部監査システムの

確保(Reg.Annex I, B 7) ­ 国際的に認められた品質基準に基づく、EN/ISO/IEC 17020:2004 (inspection bodies)及び EN ISO 9001:2000 (quality management systems, requirements)を遵守した実効的な内部

品質システムの構築、実施及び維持(Reg.Annex I, B 8) ­ ROは、2011年 6月 17日までに国際基準に一致する品質評

価証明組織(a quality assessment and certification entity)を設 置しなければならない(Reg.Art.11.1)

* 品質評価証明組織は、RO の品質管理システムに対する ISO9001 基準に応じた頻繁かつ定期的な査定、当該システ ムの認証等の任務を実施する(Reg.Art.11.2)

­ ROは、IMO A.913(22), Annexと“the Class Directives” (94/57/EC – 2001/105/EC) に記された条項に従い、 品 質管理システムを構築しなければならない

(DK_Ag.Art. 3.1)

情報公開要件 ­ 船級登録に関する電子データベースの公開と維持 (Reg.Annex I, A.4)

― ―

消極要件 ­ RO及び RO検査員の被支配・独立要件(Reg. Annex I, A.6) ― ―

監督

定期査定

­ 全ての RO は少なくとも 2 年毎に、欧州委員会並びに認定

要請を出した加盟国により、最低基準(Reg.Annex I)及び Reg.の要件の適合を検証するための査定を受けなければな

らない(Reg. Art.8.1) ­ 品質評価証明組織は委員会によって定期的に査定されなけ

ればならない(Reg.Art.11.6)

― ­ Dir. 94/57/ECに従い、当局は RCSによる合意履行

状況に対する定期な監視を行う(DE_Ag.Art.5.4)

是正要求 ­ 最低基準(Reg.Annex I)の要件を満たさない場合、Reg.の

要件を満たさない場合、または船舶の安全及び環境への容 認できない脅威を構成すると見なした場合、欧州委員会は ROに対して予防措置及び是正措置を要求する (Reg.Art.5)

― ―

情報アクセス ­ ROは欧州委員会に対し、定期査定に必要な情報アクセスを

確保しなければならない(Reg.Art.9.1)

­ 全ての関連文書への当局への情報アクセス権提供義

務 (DK_Ag.Art.8.4.1)

­ RCSは独語または英語で書かれた規則・規程集を

当局の自由に供さなければならない(DE_Ag. Art.4.1)

報告義務等 ­ ROは、欧州委員会及び加盟国に対し、機器装備等の証明に

関する基準の進展について定期的報告する(Reg.Art.10.1)

­ 当局への年二回の報告書提出義務(DK_Ag. Art. 8.4.7)

­ ROは、当局との合意内容について、これを業務受益 者に通知しなければならない (Order No.1359, Section 6)

­ 当局への報告書提出義務(DE_Ag.Art.5.1)

­ 当局への証書発給に関して要請される全てのデ ータの送付義務(DE_Ag.Art.7.2)

監督・立入検 査等

­ 査定には、 RO地方支部の視察と船舶への無作為検査を含む (Reg.Art.8.3)

­ 当局は ROの監督を行う(Order No.1359, Section 4) ­ 監査、無作為検査、計画的検査または広範な特別検

査により RO業務を監督する(DK_Ag.Art.13.2) ­ 全ての敷地及び文書に対する立入検査(DE_Ag. Art.5.2)

賠償責任

人損 ­ ROが関与した責任の度合いに応じて、当局は金融補償を請

求する権利を有する (加盟国は 4百万ユーロまでの請求額下 限を設けることができる)(Dir. 5 (d) (ii))

­ ROが関与した責任の度合いに応じて、 当局は金融補

償を請求する権利を有する(5百万ユーロ上限責任) (DK_Ag.Art.15.2)

­ (人損及び物損に関し)RCSが関与した責任の度

合いに応じて、 当局は金融補償を請求する権利を 有する(無限責任)(DE_Ag.Art.10.1)

第 3節 旗国検査・証書発給スキームにおける ROに対する監督

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物損 ­ ROが関与した責任の度合いに応じて、当局は金融補償を請

求する権利を有する (加盟国は 2百万ユーロまでの請求額下 限を設けることができる)(Dir. 5 (d) (iii))

­ ROが関与した責任の度合いに応じて、 当局は金融補

償を請求する権利を有する (2.5百万ユーロ上限責任) (DK_Ag.Art.15.3)

制裁

認定取消

­ 最低基準(Reg. Annex I)及び Reg.の要件の度重なるかつ深 刻な不履行の場合、船舶の安全及び環境への容認できない

脅威を構成すると見なした場合、欧州委員会による査定の 度重なる妨害の場合、そして罰金又は定期的懲罰支払金の

支払いを怠った場合には、欧州委員会は当該 RO の認定を 取り消さなければならない(Reg. Art.7.1)

­ 当局は承認条件がもはや満たされていないと判断し た場合には、その承認を取り消すことができる

(Order No.1359, Section 7.2) ­ RO が合意内容を実効的に履行できず、かつ IMO A.913(22), Annexと “the Class Directives” (94/57/EC – 2001/105/EC)の基準に満たないと判断した場合、又

は EU が認定取消を要請した場合、当局は RO の認 定を全面的または部分的に取り消すことができる

(DK_Ag.Art.16.1) ­ 上記に拘らず、当局は RO への業務実施許可を一時

停止することができる(DK_Ag.Art.16.2)

罰金及び 定期的懲罰支

払金

­ 欧州委員会は RO に対し、罰金定期的懲罰支払金(periodic penalty payments)を科すことができる(Reg. Art.6.1 & 2)

­ この罰金及び定期的懲罰支払金は、抑止的であって、事案 の重大性及び RO の経済的能力に比例したものでなければ

ならない。罰金及び定期的懲罰支払金の総額は、RO の過 去 3 年の平均粗利額の総額の5パーセントを超えてはなら

ない(Reg. Art.6.3)

­ 業務受益者への RO-当局間合意内容の通知を怠っ

た場合、罰金に処す(Order No.1359, Section 8) ―

EU と加盟国 との関係 ­ EC条約 5条(補完性の原則)

第3章 ILO海事労働条約の円滑な履行と ROの活用

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(3)ROに対する監督の在り方

以上見てきたように、EU は、RO の資格要件、定期検査、是正措置、立入検

査、認定取消し、情報アクセス及び報告義務について、指令及び規則により規

定している。他方、ドイツ及びデンマークは、EUが認定した船級協会を ROと

認定し、それらに情報アクセス・報告義務を課し、監査及び立入検査を実施す

る。

かかる EU 加盟国と EU 自体とをあわせた総体としての RO 監督スキームは、 IMO 決議など国際的な合意に依拠するものである。その内容は、日本の監督ス

キームと比べ、ROの定期検査を除き、知識・能力要件や被支配・独立要件など

の規律事項、報告義務や立入検査の実施などの監督手段、違反に対して罰金や

刑事罰を課す罰則規定など、類似する点が多い。

また、MLC2006のための RO監督について、EU諸国は従来のスキームとは異

なる制度設計・資格要件の加重などを今のところ予定していない。これは、労

働条件に関する検査・証書発給業務を実施することになる ROに関しても、基本

的に既存の監督制度にならって運用すれば、実効的な監督がなされるという認

識があるからである。

日本においてMLC2006のための ROを導入するに際しても、その監督の在り

方は、基本的に既存の監督手法に則りつつ、ROの資格要件、業務の妥当性及び

検査員の知識・専門性を確保する制度など、MLC2006の規定及び ILOガイドラ

インに応じた修正を行い、構築される必要がある。

第 3節 旗国検査・証書発給スキームにおける ROに対する監督

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第4節 旗国検査・証書発給スキームの在り方

これまでに旗国検査・証書発給のスキームについて、制度設計が先行する欧

州諸国の例を踏まえて概観した上で、ROの監督の在り方についてみた。

そこでは、 当該スキームには ROを利用する形態に応じて3種類のパターンが

存在しうるところ、 MLC2006の円滑な履行の観点からいってスキームの効率性、

すなわち船社にとっての利便性は、ROの導入如何は重要なファクターであるも

のの、それだけで直ちに決せられるものではないことが明らかであった。検査

及び証書発給の主体が国であれ ROであれ、それらが具体的にいかなる検査・証

書発給体制を敷くかによるからである。MLC2006 の円滑な履行は、そのための

国内スキームにおける ROの存否から直接に導かれるものではないのである。 RO完全代行型を選択するデンマーク、ノルウェー及びオランダは、MLC2006

の条約証書の対象となる船舶に関し、IMO 条約の下での検査を従来 RO に委ね

ており、それ故、そもそも国の機関が検査等を実施するに十分な数の検査官な

どリソースを備えていないために、MLC2006 についても必然的に RO を導入す

るものである。RO 検査代行型のドイツは、デンマーク等と同じく当該船舶を IMO条約の下での検査に委ねているものの、 証書発給は国のみが行う。 しかし、

その証書発給体制は、既に見たとおり、船社の利便性を十分に確保しうるもの

であった。非代行型の英国は、船舶のオペレーションにかかる事項を国が把握

したいということを主たる理由に ROを導入せず、国が自ら旗国検査・証書発給

を行うとしつつ、 その体制は船社の利便性の観点からみると ROを導入した場合

に劣らぬものであった。かつ、手が及ばない部分は ROを利用するという極めて

柔軟な対応は注目に値する。同じく非代行型のフランスは、MLC2006 が規律対

象とするような事項については従来国が行うものとされている風土から、ハー

ド面を除き ROを導入しないものの、 やはりその旗国検査・証書発給スキームは、 ROに委ねた場合と遜色ないものであった。

もとより RO を導入するか否かの選択は、MLC2006 上における締約国の裁量

である。当該国の従来の法制度、行政リソース、その他の国内事情によって円

滑な履行に適したものが決せられるものである。それ故、MLC2006 のための旗

国検査・証書発給スキームにおける ROの利用パターンは3種類が考えられると

ころ、上述のとおり、それぞれに該当する国が存在するのである。

しかしながら、ROの導入の観点から3種のパターンに分別される各国の制度

設計には共通するものがあることに気付かされる。それは、当該スキームの効

率性であり、船社の利便性が確保されている点である。旗国検査・証書発給を

国が行うにしても ROが行うにしても、 船社が負う手続きの負担は各スキームの

第3章 ILO海事労働条約の円滑な履行と ROの活用

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中で最小化されているのである。

なお、英国MCAは先述のとおりエージェンシーであり、主として海上安全を

担う専門機関として存在する。それ故、MCAは日本でいうところの国の機関で

はないからそのような対応が可能なのだと見られがちであるが、国としてその

ような対応を可能ならしめるためにかかる専門機関を設置し、規制執行権限を

付与しているという順序が正確な理解である。

以上を踏まえて、欧州諸国等の先行事例を勘案しつつ、MLC2006 の円滑な履

行のために、日本における旗国検査・証書発給スキームの在り方としてどのよ

うな形で ROを活用すべきかを現時点で考えるとき、 先の検討の視点からは以下

のように条件論的にまとめることができる。

日本の行政リソースに目を向けると、日本においてはMLC2006を担保しうる

法律として船員法があり、同法をいくらか改正することでMLC2006の規律事項

をカバーすることが可能である。また、MLC2006 のための旗国検査スキームの

受け皿となりうるものとしては、同法に基づく船員労務監査制度(同法第12

章)がある。当制度は2005年4月より運航監理と統合されており、船員労

務の監督にあたる運航労務監理官(2005年4月より、船員労務官と運航管

理官を統合して発足)は179名(『平成22年版海事レポート』174頁)が

全国に配置されている。その監督対象は14,452隻であり 5 、そこには MLC2006の条約証書を要する船舶のみならず、 MLC2006の対象であるが条約証

書を要しない船舶(内航船舶など)やMLC2006の対象外の船舶(漁船など)が

含まれている。当制度においては、少なくとも法令上は運航労務監理官が監査

を定期的に行うことは義務付けられていない。

当該制度を基礎としてMLC2006の国内実施を担保するには、 まずこれら船舶、

少なくともMLC2006対象船舶については3年間隔以内の定期的検査を行うこと

が必要となる(MLC2006 第5.1.4基準 A 第4項) 。加えて、条約証書を要

する500総トン以上の外航船舶に対しては、そのすべてについて検査を行い、 MLC2006の発効の日までに条約証書を交付しなければならない。 MLC2006は2

011年中の発効が見込まれるため、今や時間的余裕が十分あるとは言い難い。

既に述べたとおり、 当該外航船舶の中には、 三国間輸送に従事するものもあり、

これら船舶に対しては、時間的制約のある中で外国の港において確実に検査を

行い、必要に応じて条約証書を交付するということは、既存の船員労務監査の

運用にはなかった負担である。

以上からすれば、MLC2006 の条約証書にかかる旗国検査及び証書発給スキー

ムの土台となりうる国内法制度、そしてそれを担う行政リソースとして運航労

5 「船舶船員統計調査 年報(船員統計) 」(平成 17年度)

(http://www.mlit.go.jp/k­toukei/senpakusenin/senpakusenin.htmlにて閲覧可)参照。

第 4節 旗国検査・証書発給スキームの在り方

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務監理官が日本には存在するものの、MLC2006 は新たな負担をもたらすことか

ら、その円滑な履行を期するとき、既存の行政リソースだけで対応しうると言

うためには、旗国検査・証書発給スキームの運用に関して具体的かつ現実的な

検討を行うことが必要である。

そして、国がそうした負担を引き受けつつ当該スキームを運用する行政リソ

ースがある又は用意できると認められるとき、その在り方が効率的であるかが

問われるのは前述のとおりである。スキームの効率性を考えるときに着目され

るのは、スキームを整備・運用することに対する関係各者の負担の大きさであ

る。行政の負担は、つまるところ国民の負担であるから、過度に大きくなるこ

とは避けなければならない。他方で、船社にとっての負担は、当該スキームに

かかる手続きに関するもの、証書発給までの時間などであり、運航に支障をき

たすことは避けなければならない。

望ましい旗国検査・証書発給スキームの在り方は、かかる意味で効率的であ

ること、すなわち、船社の利便性が確保されていること、レベル・プレイング・

フィールドを作り出すMLC2006の国内実施スキームにふさわしく諸外国スキー

ムと同レベルであること、日本籍船の増加政策に寄与しうること、これらいず

れをも満たすものである。例えば、検査にあっては、申請手続きにおいて申請

期限という形式的要件を設けず、当該船舶の運航スケジュール及びその突然の

変更等にも柔軟に対応しうること、船舶証書類の謄本が利用可能であること、

海外の港においても国内の港と同様に検査を受けられること、ISM コードにか

かる検査と同時に受検でき、検査にかかる時間等の節約が可能であることなど

が挙げられる。特に、その一部においてMLC2006と規律事項を同じくしている ISM コードにかかる検査及び証書発給スキームとの整合性は図られるべきであ

る。今般調査国のいずれの国においても見られるとおり、内容及び手続きにか

かる負担の両面から、両検査が同時に実施されるなど有機的連関をもって国内

実施されるのが実効的だからである。

証書発給にあっては、その手続きにおいて申請のためだけに特定の窓口へ出

向く時間を節約できるようにオンラインの申請が可能であること、夜間の手続

きも可能であること、証書の交付までに長い時間を要しないことなどが挙げら

れる。

かかる要素を考慮した体制を国が過度な負担なく構築できるものであれば、

国が ROを導入せずに検査及び証書発給を行うということは、当該検査・証書発

給スキームに限ったところで言えば、格別の問題はなさそうである。しかし、

現状においては、国が検査及び証書発給を行う制度を採用した場合、海外の港

における検査等を行う場合に財政あるいは人員体制の面で大きな負担を抱える

ことは自明である。そして、財政等を理由に、国として効率的な検査体制を構

第3章 ILO海事労働条約の円滑な履行と ROの活用

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築できなければ、船主など船に関係する多くの人間に大きな不利益を生じさせ

るのである。こうした事情にかんがみれば、SOLAS条約など IMOで採択されて

きた条約の下、 諸外国や日本が ROを通じて監督する実績を重ねてきたことを背

景にして、ILO が、RO の資格を定期的に監督することを条件に、MLC2006 基

準の検査等について ROの導入を認めていることは重要であろう。 何らかの理由

で国としてはそこまでの体制を敷くことができないというとき、MLC2006 の枠

内で ROを導入し、当該検査及び証書発給を代行させることが妥当である。

また、本報告書で紹介してきたように、各国とも、MLC2006 基準の実効性に

配慮する一方、検査等に係る船主の利便性を高めることに重点をおいた制度を

採用しているが、後者の目的を図るために、ROの導入を選択した国は決して少

なくない。日本でも、RO の資格監督制度を整備するなどして、MLC2006 基準

の実効性確保が損なわれないよう配慮しつつ、MLC2006 に関する検査等を RO に代行させる制度を導入することは、利用者の利便性確保や行政の負担の軽減

の観点から積極的意義があるといえる。

第 4節 旗国検査・証書発給スキームの在り方

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第3章 ILO海事労働条約の円滑な履行と ROの活用

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おわりに

本調査では、MLC2006 の円滑な履行という観点から、旗国検査・証書発給ス

キームにおける ROの活用に関して調査研究を行った。

繰り返すまでもなく、結論としては、また、船社にとって一定の利便性を確

保できる在り方が望ましいとして、 それを国が提供しうるなら RO導入の必要性

は減じるが、国が提供しえないなら ROを導入すべきというものであった。

ただ一方的にROを導入すべき、 あるいはその反対にROを導入すべきでない、

との結論にならないのは、日本には適切な行政リソースが存在し、同時に、RO たりうる船級協会が存在するからである。それ故に、ROを導入するか否かにつ

いて、その度に必要性や正当性をめぐって検討が必要となる。然るべき行政リ

ソースがなければ、無条件に船級協会が代行機関として臨場するし、他方、信

頼しうる船級協会が存在しなければ、行政がどれだけリソースを費消しようと

も自ら実施するほかはないのである。

かかる日本の状況は、RO の導入に関する国の判断の是非や、RO 自体の力量

の有無が問われる機会を継続的に生むものであって、それは両者の質的向上を

持続させる一因となりうるものである。

本調査研究の対象となったMLC2006の旗国検査・証書発給スキームについて

は、本調査結果を踏まえ、今後検討が進められることで、結果、MLC2006 が国

内において適切に実施されつつ、日本籍船と日本船社が外航海運市場で平等な

競争環境を維持できれば幸いである。

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