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錯視による速度及び空間認知における知覚変化 Influence on the Speed and Space Perception using Optical Illusions 今野和紀(Kazuki Konno):[email protected], ミケレット・ルジェロ(Ruggero Micheletto横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 Yokohama City University, Graduate School of Nano bioscience 概要 我々は普段の生活の中で五感から膨大な情報を 得ている。その中でも視覚からの情報量は全体 80%を占めると言われている。そこで錯視に焦 点を当て、人間の知覚に与える影響について研 究を行った。錯視は物理的特性(網膜の特徴)と は異なる知覚をしてしまう現象のことである。そこ で(主にツェルナー)錯視を用いた知覚実験を行 い、視覚認知の変化を定量的に観測することを目 的とする。 これまでの研究 実験1:速度知覚に与える影響 実験2:空間知覚に与える影響 課題と展望 まとめ パターンA パターンB 運動錯視 角度錯視 パターン2 パターン3 パターン4 パターン5 pattern1 pattern2 pattern3 pattern4 pattern5 1.9 1.95 2 2.05 2.1 2.15 2.2 2.25 entropy パターン1 実験内容 コンピューター上でマウスを使ったタスクによる視覚的心理実 験を行った。スクリーンに湾曲したコースを表示し、被験者は 画面に映しだされた対象物にマウスカーソルを合わせ、コース に沿って移動させるよう指摘。 実験コースの背景が無地のパータン1の他に、色の違いに よって静止画が上下に動いて見える運動錯視や、平行な輪郭 線が傾いて見える角度錯視を背景に表示し、計5つのパター ンで実験をした。 背景なし 結果 背景なしに比べ、運動錯視では移動時間の短 縮、角度錯視では延長する傾向がみられた。 また、進行方向に対するぶれの指標として Shannonのエントロピーを求めたところ、角度錯 視での値が低減していることが分かった。 これまでの研究より、輪郭ツェルナー錯視を提示 し知覚実験を行った際に、被験者の運動速度が 減少するとともに進行方向に対して水平方向の動 きのブレが低下する様子が見られた。この結果を 踏まえ、斜線画像を提示した時の知覚の変化を 速度及び空間認知の側面から見た影響を明らか にするため二つの実験を行った。 実験内容 ここでは、斜線による視覚刺激と速度調整の関係を明らかにする実験を行う。 実験内容 ここでは、斜線による空間知覚の変化を明らかにする実験を行う。 そこでまず、角度を持たない平行線を上下どちらかの方向に任意の速度で動く画像を 提示する。次に、同じ画像で速度がランダムに異なる刺激を提示し、被験者には前に 見た提示画像と同じ速度になるようにキーボードの上下キーを用いて速度調整のタス クを与える。(実験 1a実験1aを行った後、続けて以下の実験を行った。 実験1aの速度調整における刺激画像を角度を持つ斜線画像に変えて同じ速度調整 のタスクを与えた。(実験 1b結果 詳細設定 ✱斜線角度:40° ✱試行回数:a,b共に10✱提示刺激の速度は-0.020.02(Blender Unit) 0.000314BU)単位で速度 調整が可能 被験者 19-23歳の晴眼者5青●:実験1a 赤●:実験1b 実験1b0.00380 実験1a0.00185 誤差平均 ・グラフはそれぞれ5人分のデータをまとめてプロット したものであり、(左図)提示刺激移動速度とそれに 対する被験者の調整速度、(右図)提示刺激移動速 度の絶対値とその時の調整誤差を示したものである。 ・移動速度と調整誤差の間には目立った関係性はみ られないが、実験a,bでの誤差平均の値が2なった。提示刺激を 斜線に変えたことによって被験者 の速度知覚が曖昧になった と言える。 提示刺激 間隔調整 はじめに、提示刺激として任意の間隔で引かれた平行線を表示。その後、ランダムな 角度と間隔の中心で反転した斜線が提示される。被験者はその斜線の間隔をキー ボードの上下キーを用いて調整する実験を行った。 結果 1.角度の違いによる間隔調整誤差 2.提示刺激間隔と間隔調整誤差 3.角度の違いによる間隔調整誤差 とその理論値(×マーク) 実験によって得られた結果を図13に示す。ただし、斜線の角度がマイナス(/\)の 場合赤●、プラス(\/)の場合青●でプロットした。 ・図12より間隔調整の誤差は斜線の角度と最初の提示刺激の間隔に依存するような グラフとなった。 ・しかし、被験者の知覚する感覚と実際に測定する値に相違があるため以下の手法で 理論値を求めた(図3)。 α 被験者の測る距離 d 測定値 d =d×cos(α) 理論値=真値-d 4.理論値に対する間隔調整誤差 ・理論値に対する測定 誤差を求めた結果を 4に示す。 今回の実験で、斜線に よる 空間知覚の変化 はみられなかった 1.被験者の数を増やしたより信憑性の高いデータが必要である。 2.今回の行った速度調整の実験において、斜線の角度が+40°の パターンでの測定のみであったが、マイナス方向のパターンでの検 証も検討する必要がある。 3.斜線による知覚変化において斜線間隔が関係している要因の一 つであるという仮説を立て、検証を行ったが仮説は成立しなかった。 今後はより詳しい解析を行い要因を解明する必要がある。 1.これまでの研究結果を踏まえ斜線が与える速度知覚・間隔知覚の検証実験を行った。 2.その結果、速度知覚は平行線に比べ斜線の提示によって測定誤差が2倍近く上昇した。これより、斜線の 影響により速度の認識能力が低下し知覚が曖昧になることが示唆された。 3.間隔調整の実験では、斜線の角度が大きくなるにつれ調整誤差も大きくなる傾向が見られた。しかし、被 験者の測る距離と測定値から理論値を求め、測定誤差に関して規格化したところ斜線の角度による影響は みられなかった 4.今回の実験では、斜線が与える明確な影響を明らかにすることは出来なかった。

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Page 1: Influence on the Speed and Space Perception using Optical Illusionsruggero.sci.yokohama-cu.ac.jp/data/VSJ_Konno.pdf · 2018-09-05 · Influence on the Speed and Space Perception using

錯視による速度及び空間認知における知覚変化Influence on the Speed and Space Perception using Optical Illusions

今野和紀(Kazuki Konno):[email protected], ミケレット・ルジェロ(Ruggero Micheletto)横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科

Yokohama City University, Graduate School of Nano bioscience

概要我々は普段の生活の中で五感から膨大な情報を得ている。その中でも視覚からの情報量は全体の80%を占めると言われている。そこで錯視に焦

点を当て、人間の知覚に与える影響について研究を行った。錯視は物理的特性(網膜の特徴)とは異なる知覚をしてしまう現象のことである。そこで(主にツェルナー)錯視を用いた知覚実験を行い、視覚認知の変化を定量的に観測することを目的とする。

これまでの研究

実験1:速度知覚に与える影響 実験2:空間知覚に与える影響

課題と展望 まとめ

パターンA パターンB

運動錯視

角度錯視

パターン2 パターン3

パターン4 パターン5

pattern1 pattern2 pattern3 pattern4 pattern5

1.9

1.95

2

2.05

2.1

2.15

2.2

2.25

entropy

パターン1

◆実験内容

コンピューター上でマウスを使ったタスクによる視覚的心理実験を行った。スクリーンに湾曲したコースを表示し、被験者は画面に映しだされた対象物にマウスカーソルを合わせ、コースに沿って移動させるよう指摘。

実験コースの背景が無地のパータン1の他に、色の違いによって静止画が上下に動いて見える運動錯視や、平行な輪郭線が傾いて見える角度錯視を背景に表示し、計5つのパターンで実験をした。

背景なし

◆結果

背景なしに比べ、運動錯視では移動時間の短縮、角度錯視では延長する傾向がみられた。

また、進行方向に対するぶれの指標としてShannonのエントロピーを求めたところ、角度錯視での値が低減していることが分かった。

これまでの研究より、輪郭ツェルナー錯視を提示し知覚実験を行った際に、被験者の運動速度が減少するとともに進行方向に対して水平方向の動きのブレが低下する様子が見られた。この結果を踏まえ、斜線画像を提示した時の知覚の変化を速度及び空間認知の側面から見た影響を明らかにするため二つの実験を行った。

◆実験内容ここでは、斜線による視覚刺激と速度調整の関係を明らかにする実験を行う。

◆実験内容ここでは、斜線による空間知覚の変化を明らかにする実験を行う。

そこでまず、角度を持たない平行線を上下どちらかの方向に任意の速度で動く画像を提示する。次に、同じ画像で速度がランダムに異なる刺激を提示し、被験者には前に見た提示画像と同じ速度になるようにキーボードの上下キーを用いて速度調整のタスクを与える。(実験1a)

実験1aを行った後、続けて以下の実験を行った。実験1aの速度調整における刺激画像を角度を持つ斜線画像に変えて同じ速度調整のタスクを与えた。(実験1b)

◆結果

詳細設定✱斜線角度:40°✱試行回数:a,b共に10回✱提示刺激の速度は-0.02~

0.02(Blender Unit)✱0.000314(BU)単位で速度調整が可能

被験者✱19-23歳の晴眼者5名

青●:実験1a赤●:実験1b

実験1b:0.00380実験1a:0.00185

誤差平均

・グラフはそれぞれ5人分のデータをまとめてプロット

したものであり、(左図)提示刺激移動速度とそれに対する被験者の調整速度、(右図)提示刺激移動速度の絶対値とその時の調整誤差を示したものである。

・移動速度と調整誤差の間には目立った関係性はみられないが、実験a,bでの誤差平均の値が約2倍に

なった。提示刺激を斜線に変えたことによって被験者の速度知覚が曖昧になったと言える。

提示刺激 間隔調整

はじめに、提示刺激として任意の間隔で引かれた平行線を表示。その後、ランダムな角度と間隔の中心で反転した斜線が提示される。被験者はその斜線の間隔をキーボードの上下キーを用いて調整する実験を行った。

◆結果

図1.角度の違いによる間隔調整誤差 図2.提示刺激間隔と間隔調整誤差 図3.角度の違いによる間隔調整誤差とその理論値(×マーク)

実験によって得られた結果を図1~3に示す。ただし、斜線の角度がマイナス(/\)の場合赤●、プラス(\/)の場合青●でプロットした。

・図1、2より間隔調整の誤差は斜線の角度と最初の提示刺激の間隔に依存するようなグラフとなった。

・しかし、被験者の知覚する感覚と実際に測定する値に相違があるため以下の手法で理論値を求めた(図3)。

α

被験者の測る距離d*

測定値d

d*=d×cos(α)理論値=真値-d*

図4.理論値に対する間隔調整誤差

・理論値に対する測定誤差を求めた結果を図4に示す。

今回の実験で、斜線による空間知覚の変化はみられなかった。

1.被験者の数を増やしたより信憑性の高いデータが必要である。2.今回の行った速度調整の実験において、斜線の角度が+40°の

パターンでの測定のみであったが、マイナス方向のパターンでの検証も検討する必要がある。3.斜線による知覚変化において斜線間隔が関係している要因の一

つであるという仮説を立て、検証を行ったが仮説は成立しなかった。今後はより詳しい解析を行い要因を解明する必要がある。

1.これまでの研究結果を踏まえ斜線が与える速度知覚・間隔知覚の検証実験を行った。2.その結果、速度知覚は平行線に比べ斜線の提示によって測定誤差が2倍近く上昇した。これより、斜線の影響により速度の認識能力が低下し知覚が曖昧になることが示唆された。3.間隔調整の実験では、斜線の角度が大きくなるにつれ調整誤差も大きくなる傾向が見られた。しかし、被

験者の測る距離と測定値から理論値を求め、測定誤差に関して規格化したところ斜線の角度による影響はみられなかった4.今回の実験では、斜線が与える明確な影響を明らかにすることは出来なかった。