innovation and management in the era of “co-creation”—cultivating knowledge maneuverability

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© 2017 Nonaka I. all rights reserved 共創時代のイノベーションと 組織経営 -知的機動力を練磨する- 一橋大学名誉教授 野中郁次郎 2017215() Digital Innovation Leadership

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Page 1: Innovation and Management  in the Era of “Co-Creation”—Cultivating Knowledge Maneuverability

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共創時代のイノベーションと組織経営

-知的機動力を練磨する-

一橋大学名誉教授

野中郁次郎

2017年2月15日(水)

Digital Innovation Leadership

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21世紀は知識創造者の時代ドラッカー、シュンペーター、ハイエク

知識は今日唯一の意義ある資源である。今言えることは、知識を富の創造過程の中心に据える経済理論が必要とされているということである。そのような経済理論のみが、今日の経済を説明し、経済成長を説明し、イノベーションを説明することができる。

P. F. ドラッカー 『ポスト資本主義社会』 ダイヤモンド社 1993年、P.303

創造的破壊:イノベーションとは、既存の静態的な均衡を破ることである。イノベーションとは、起業家が新たな知識を商業的・産業的に結合することである

シュンペーター『経済発展の理論』 (1912)

市場とは、「部分的な知識しか持っていない多くの人々との間の相互作用の場」であり、個人が試行錯誤するなかで誤りを修正するダイナミックな発見の場である。そこでは、自生的に秩序が創発していく。 ハイエク F. 『個人主義と経済秩序』 (1948)

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知識とは

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・ 知識の最大の特徴は、「人が関係性の中で主体的に創る資源である」ということである。

・ 知識とは、個人の信念/ 思いを「真・善・美」に向かって社会的に正当化していくダイナミックなプロセスである。

A dynamic social process of justifying personal

belief towards the truth, goodness, and beauty

イノベーションとは、知識創造プロセスである。

人類は有史以来、森羅万象から様々な知を暗黙的に受け、それらを形式知―共有して使える知―に営々と翻訳し続けてきた。そしてさらなる価値創造にむけて、いまも不断の努力が続いている。

-東京大学名誉教授 和田昭允出所:日経産業新聞2013年12月13日10ページ

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サイエンスとアートを統合する現象学

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現象学は意味づけと価値づけの生成を探求するので、自然科学の客観的・分析的研究成果を、主観的・感覚的意味と価値づけの全体に総合することができる。「何が一番大事なことか」などの、意味と価値づけの秩序が問われる時、本質直観の方法論は、すべての意味の基底を生き生きと感じる「生活世界」の感覚質に還元し、その普遍的な本質を追求する。すでに理念化・数学化された自然科学が前提にする客観的時間をカッコに入れ(判断停止し)、絶対に疑いきれない各自に直接与えられている感覚の意味をと

らえ、その本質を過去・現在のあらゆる経験や知識と未来予測も総動員して概念化する。

出所:フッサール(1995)『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』中央公論社

“学問的で客観的な真理とは、もっぱら世界が、すなわち物理的なら

びに精神的世界が、事実上なんであるかを確定することだ、という

わけである。しかし、もし諸科学がこのように、客観的に確定しうるも

のだけを真理と認めるのだとしたら、……世界と世界に生きる人間

の生存全体は、はたしてほんとうに意味をもちうるものであろうか。”

参考:山口一郎(2002)『現象学ことはじめ』日本評論社

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身体性の復権-人間の心は身体に根ざし、共感させることにある-

身体感覚は相互に浸透する間身体性(メルロ・ポンティ)

「身体化された心」(Embodied-mind)(ヴァレラ:2001)

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ミラーニューロンの発見(イアコボーニ:2009、リゾラッティ:2009)

脳内には、他人のしていることを見て、言語を媒介にしなくても相手の意図を感じさせる細胞があり、「共感」の土台はここにある。

人間の最も根源的欲求は「生理的(Physiological)」(マズローの欲求5段階説)ではなく「社会的(Social)」である。(リーバーマン:2015)

メッシー(雑)でリーキー(漏れ気味)な脳心は、脳の中にだけあるものではない。心は、脳と身体と環境の相互作用から創発するものである。「拡張された心(Extended Mind)」 (クラーク:2012)

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非認知スキル(身体知)の習得が成功のもと- 認知スキル(IQ:知能至上主義)を超えて -

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非認知スキル(non-cognitive skills)の項目例

1.やり抜く力:根性(Grit)2.自制心(Self-control)3.意欲(Zest)4.社会的知性(Social Intelligence)5.感謝の気持ち(Gratitude)6.楽観主義(Optimism)7.好奇心(Curiosity)

出所:ポール・タフ(著), 高山真由美(翻訳) 『成功する子 失敗する子』2013年、英治出版、アンジェラ・ダックワース (著), 神崎 朗子 (翻訳) 『やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』2016年、ダイヤモンド社に基づく

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マネジメントはアートとサイエンスの総合

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マネジメントは“アート”と“サイエンス”の両方の性質を持つが、サイエンスだけではマネジメントという行為を説明しきることはできない。

マネジメントの本質は、究極には総合(Synthesis)である。 人人間の力強い意志からなる一人ひとりの創造性と直観によるアートであるが、分析(analysis)をしなくていいというのではない。総合の素材は分析によって得られるが、難しいのは分析よりも総合である。

マネジメントのアートは、刻々と変化する個別具体的文脈の本質をつかむ直観的能力、実践的なソリューションを生み出す創造的能力、強固な目的を実現するための実行力を必要とする。

出所:H.ミンツバーグ(池村千秋訳)『MBAが会社を滅ぼす』日経BP社、pp.12,53-54.

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マイクロソフト人間中心のAIめざす

AIの研究者は人間の『置き換え』を目指すのか、それとも『能力の拡張』を目指すのかを選択しなければならない。我々は後者にすべてを懸ける。能力を拡張するといっても、あらゆるシステムを動かすのにいちいち人間が関わるという意味ではない。自律型のシステムでは、今後ますます増えていく。人間の幸福とは何かを考え、その増進に役立つ『人間中心』の発想を核に設計するという意味だ。

他者に共感する力をAIが身につけるのは極めて難しい。だからこそ、AIと人間が共生する社会において価値をもつ。

AIが普及した社会で一番希少になるのは、他者に共感する力を持つ人間だ。

出所:日本経済新聞朝刊2016年11月28日

サティア・ナデラCEO

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%

B5%E3%83%86%E3%82%A3%E3%8

2%A2%E3%83%BB%E3%83%8A%E3

%83%87%E3%83%A9#/media/File:Sat

ya_Nade

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SECIモデル- 組織的知識創造理論の一般原理 -

© Nonaka I. , N.Konno, H. Takeuchi 9

I = 個人(Individual) G = 集団(Group) O = 組織(Organization) E = 環境(Environment)

暗黙知 暗黙知

形式知 形式知

暗黙

知暗

黙知

形式

知形

式知

共同化(S)

内面化( I ) 連結化(C)O

G

E

G

G

G

G

O

E

G

E

E

I

表出化(E)

I

I

I

I

I

I

II

直接体験を共有し暗黙知を生成する(共観)

対話と思慮により暗黙知を

言語や図像にする(概念化)

モデルや物語りを実践し暗黙知を理解学習する

(実践)

関連する概念をプロトタイプ、

モデル、物語りにする (体系化)

・絶えず変化する世界で五感を通じて暗黙知を直接つかむ

・棲み込み、感情移入し、共感する

・共感から自己認識し、共観する

・対話や情動一致を通じて本質をつかむ

・レトリック、メタファー、仮説で概念化する

・状況に応じて、モデルや物語りを具体化し、形式知をスキル化する

・よりよいモデルや物語りを無限に追求する

・概念の操作化に向かって関連概念を整合的につなげる

・組み合わせ、編集し、体系化する

・IoTやAIも活用し、見えない情報の意味を解釈し、総合する

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直接経験を通じて現実に共観(共同化)し、気づきの本質をコンセプトに凝縮(表出化)し、コンセプトと現実を関係づけて体系化(連結化)し、技術、商品、ソフト、サービス、経験に価値化し、知を血肉化(内面化)すると、同時に、組織・市場・環境の新たな知を触発し、再び共同化につなげる。

このSECI螺旋の「高速回転化」が、創造性と効率性をダイナミックに両立させる知の機動力である。

イノベーションはSECIスパイラルである

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なぜ暗黙知なのか?(Tacit Knowing)

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人格的知識- Personal Knowledge -

すべての知識は暗黙的か暗黙知に根ざす(All knowledge is either tacit or rooted in tacit knowledge)

われわれは語れる以上のことを知りうる(We can know more than we can tell) (マイケル・ポラニー)

信じなければ理解できない (聖アウグスティヌス)(Unless you believe, you shall not understand)

客観的で科学的な形式知こそが知識であるとする偏見から脱却するには、知ること(Knowing)は、全人的なコミットメント、人格的知識(パーソナル・ナレッジ)が不可欠だと認めることで、信念と理性、主観と客観、アートとサイエンスのバランスある知識観を回復しなければならない。

品位と美意識を持つ知の「探索者(explorer)」の普遍的意図(universal intent)と、無限の目的達成への卓越性(excellence)追求の職人道こそが、単なる主観主義に陥らないことを担保する。

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潜在能力としての暗黙知ー 前意識の知はインターフェースである -

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出所:下條信輔 『サブリミナル・インパクト-情動と潜在認知の現代』 2008年、ちくま新書、pp.257-259。

意識明示的に

知っている範囲

前意識暗黙裡に

知っている範囲

無意識

前意識の知は、人々の間で共有されている部分が多く、ユングの言う「集合無意識」という考えともつながる。

形式知

~~~

暗黙知

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暗黙的統合①階層的認識「~から~へ(from – to – )」

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「見ることのアート(art of knowing)」

「鑑識眼」 – 顔の識別、病気の診断、美術品の鑑定、など例:病気の診断

医師は、患者の顔相やレントゲン写真など(部分)を見て、患者の病状(全体)知るという目的のために(焦点化)、諸部分を暗黙的に統合する。

「することのアート(art of doing)」

「技能」 – 自転車の運転、ピアノの演奏など例:ピアノの演奏

ピアニストは、自分の指の動き(部分)を補助的に意識して、ピアノを弾きメロディーを奏でるという目的のために(焦点化)、諸部分を暗黙的に統合する。

「イメージすることのアート(art of imaging)」例:シャーロック・ホームズの観察力「細かな点を観察すれば、事件の本質が分

かるんだがね」。普通の人なら見逃すような細かい、たった一つの事柄を見分けることが彼の推理の名人芸の基礎である。アブダクション(仮説生成)。

出所:渡辺幹雄『ハイエクと現代リベラリズム』2006年、春秋社、第4章。

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暗黙的統合②ハワイとはなにか –アブダクションの作法-

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ハワイ州

パイナップル畑

フラダンス ワイキキビーチ

アリゾナ・メモリアル・センター

ハワイ基地のアメリカ海兵隊

マーケットを行きかう人々

下位レベルの細目から特定の要素を抽出・総合して、上位の意味を創造し、それを繰り返すことによって、より全体へと注目を移す創造的プロセス。部分と全体は相互作用の関係にあり、何を全体とするかは目的に依存する。

ハイビスカス

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共通善(Common Good)

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「善い」目的をつくるー理想主義的プラグマティズムー

「あらゆる行為や選択はすべて何らかの善を希求する」

手段にならない、自己充足的価値(幸福ないし自己実現)

アリストテレス 『ニコマコス倫理学』

「理想は決して達成できないかもしれないが、それを達成しようとするからこそ人は限界を超え知を創造する。人を動かすのは理想を追求したいという信念、思いである」

ニコラス・レッシャー『Human interests: Reflections on

philosophical anthropology』

「美徳は社会的に確立された卓越性の基準を達成しよ

うとする無限の実践に内在する」・・・職人(artisanship)

マッキンタイア 『美徳なき時代』17

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「善い目的」

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三つの喜び買う喜び、売る喜び、創る喜び

The Three Joys:the joy of buying, the joy of selling and the joy of creating.

本田 宗一郎

敬天愛人常に公明正大 謙虚な心で仕事にあたり 天を敬い 人を愛し仕事を愛し 会社を愛し 国を愛する心‟Respect the Devine and Love People”Preserve the spirit to work fairly and honorably, respecting people, our work, our company and our global community.

稲盛 和夫

もっといいクルマづくり‟Creating Ever-Better Cars”

豊田 章男

http://www.kyocera.co.jp/company/philosophy/index.html

http://www.bs-j.co.jp/asuteku/img/pics/pic101_3.jpg

http://car.watch.impress.co.jp/img/car/docs/296/055/01.jpg

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相互主観性(Intersubjectivity)

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相互主観性とは-フッサール現象学-

能動的相互主観性(知性の綜合)

言語の習得による自我の確立にともなう主客の分離によって、自己の中で「我‐それ(I-It)」という形で他者をとらえる。

無心・無我の相互主観性(感性と知性の綜合)

高次の感覚の次元で、主客未分の状態を再び共有する「我‐汝(I-Thou)」において、自己に固執せず、自己中心化から開放されて、他者と触れあう。

受動的相互主観性(感性の綜合)

母と子のように「生き生きした現在」が主客未分の「我‐汝(I-Thou)」状態で共有されている。

出所: 山口一郎 『存在から生成へ』 知泉書館 (2005)に基づく

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相互主観とは、相互に他者の主観と全人的に向き合い、受け容れ合い、共感し合うときに成立する、自己を超える「われわれ」の主観である。

個人の主観(1人称)

大きな組織で共有する

客観(3人称)

対面で共創する相互主観(2人称)

客観主観

組織

集団

個人

相互主観を媒介とする主観の客観化

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共感による場づくり:ワイガヤのプロセス三日三晩の生きた時空間の共有

会社負担で場(よい宿とよい食事、よい温泉)を手配• 日常的仕事環境からの脱却 - 間身体性の成立

初日: 個と個のぶつかり合い• 話は上司の悪口、不満、対立から始まる

• 徹底的に話させると、喧嘩も起きるが逃げ場がない

• うわべの形式知が尽きて、自己中心の殻がとれる

二日目: 相互理解・許容• 「何のために(存在論)」を問う、妥協を許さない知的バトル

• 違いを認める、お互いの思いを知るようになる

• 気に入らない相手の意見も全人的に受け入れる

• 暗黙知レベルでの自己認識と相互理解

三日目:自己意識を超えた深みから生まれる相互主観の創造• 個人レベルの暗黙知を超える総合的意見が出て、アイディアの飛躍が起きる

出所: 小林三郎 「知識創発型研究開発マネジメント~ホンダ~」 『知識創造経営とイノベーション』 野中郁次郎・遠山亮子 (編) 丸善 2006年。

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自律分散リーダーシップ(Distributed Leadership)

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© 2017 Nonaka I. all rights reserved 24

SECIプロセスを駆動するリーダーシップ—フロネティック・リーダーシップ—

③場をつくる②現実を直観する

⑤物語を実現する ④直観の本質を物語る

①善い目的を追求する

⑥実践知を自律分散する

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アリストテレスの実践知

フロネシス(Phronesis)とは賢慮(Prudence)、実践知(Practical Wisdom)、実践理性(Practical Reason)

共通善(Common Good)や徳(Virtue) の価値基準をもって、個別のその都度の文脈のただなかで、最善の判断ができる実践的な知性である。

個別具体の文脈で「ちょうど(just right)」の解を見つける能力

個別と普遍、細部と大局を往還しつつ、熟慮に基づく合理性とその場の即興性を両立させる能力

動きながら考え抜く「行為のただなかの熟慮」(Contemplation in Action)

「文脈に即した判断」と「適時・絶妙なバランス」(Contextual Judgement) &(Timely Balancing)

矛盾や対立を総合する弁証法

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自律分散的フロネシス

個人の全人格に埋め込まれているフロネシスを、実践のなかで組織メンバーに伝承し、育成し、自律的チームを組織全体に行き渡らせて、フラクタルな機動的組織を構築する。

個人のフロネシスが集合的実践知に変換される。フラクタル型組織は、弾力的・創造的にリアルタイムで対応できる強靭な組織(resilient organization)を構成する。

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Source: http://www.iawwai.com/FractalBrains.htmlマトリョーシカ(フラクタル)鉛の兵隊(官僚制)

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アジャイル・スクラム・イノベーション- ソフト開発は知識創造プロセス -

アジャイル・スクラムは、開発進行中にチームメンバーの共同化、表出化、内面化と技術的な知識の連結化を促進し、その結果として技術的な専門知識を実践共同体としてのコミュニティの知的資本へと変換(野中、1995)。

したがって、スクラム会議は、チームメンバーの知識を共同化し、互いの文化的な壁の超越を促進。

会議が毎日、同じ場所、同じ時間、同じ参加者で行われることにより

自律的な場を創り、場への親密さを高め、知識を共有する習慣を形成し日々の開発プロセスの改善を促進する。

1 2 3 4 5 6

1 2 3 4 5 6

1 2 3 4 5 6

フェーズA

(リレー)

フェーズB

(サシミ)

フェーズC

(スクラム)

連続的 (A) vs. 重複的 (B 及び C) 開発フェーズ

出所: Takeuchi, H. & I. Nonaka. (1986). The new new product development, Harvard Business Review, January-February, 1986.

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アジャイル・スクラム開発-スプリント(開発プロセス単位)のスパイラルによる知識創造活動-

出所:平鍋健児、野中郁次郎 著(2013) 『アジャイル開発とスクラム』 翔泳社P. 232

スクラムとは、会社を機能単位に分割した階層や組織ではなく、どこをとっても会社のビジョンに向かった判断・行動パターンを共有するフラクタルな知識創造活動であり、それを実践する人々である。

KPTフィードバック タスクかんばん

朝会 ペア・プログラミング

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スクラム開発の流れ

出所: サザーランド,J.(2015)『スクラム』(石垣賀子訳)早川書房

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自律分散全員経営:ミドル・アップ・ダウン

矛盾解消

矛盾

知識の転移(現実はこうだ)

トップ

中範囲コンセプト

ミドル

壮大な理論(あるべき理想)

フロント29

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消耗戦と機動戦の比較

消耗戦 機動戦

焦点戦闘:戦場での戦力、戦力比と消耗比、量

敵の結束力:精神、道徳、身体面での安定性、質

強調点軍事能力、計画:優位性と物量で圧倒して勝つ

信頼、イノベーション、スピード:戦況の観察・情勢判断・意思決定・行動ループの速さで混乱させて勝つ

性質 階層的 ネットワーク的

スタイル全体的、中央集権的、競争的、指示的、標準化

分権的、自律分散的、協働的、適応的、独自性

手段 敵の戦力と戦闘遂行力の破壊 敵の「勝てない」という認識の創出

目標 敵の戦力の破壊 新しいパラダイムの創造

事例ナポレオン、グラント、Dデイ、ベトナム戦争のアメリカ軍

ハンニバル、雷撃戦、毛沢東の遊撃戦、合衆国に対する北ベトナム軍-ベトコン

要件 大量の火力、技術、工業力、中央制御信頼、プロフェッショナリズム、個人のリーダーシップ

リスク不均衡の脅威、副次的損害、長期化、膠着、死傷者の増加

個人の率先力・モラルの高さ・正確な状況判断・創造的な対応に依存、組織への浸透の難しさ

特徴ジョミニの戦争論、サイエンス的、定量的、線形的

孫子、クラウゼヴィッツ、リデルハート、毛沢東の戦争論、アート的、定性的、非線形的

出所:Hammond, G.T. (2001). The Mind of War: John Boyd and American Security. Washington,

Smithsonian Books. P.153のTable 6に基づく。

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OODA (ウーダ) ループ-機動戦の意思決定モデル-

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アメリカ空軍ジョン・ボイド大佐 (1927-1997) が考案。

OODA Loopとは、意思決定のプロセスである。観察(Observation): 五感を駆使して敵を発見し情報収集する。

情勢判断(Orientation): 収集した情報と、自身の知識や経験をもとに

情勢を判断する(“Big O”と呼ばれて重視される)。

意思決定(Decision): 判断した情勢をもとに取るべき方針を決定する。

行動(Action): 方針に基づいて、実際の行動・攻撃を行う。

サイクルをまわす「テンポ」が重要:敵よりも速くまわす。

ボイドは、OODAプロセスの中心は「情勢判断」だと強調:情勢判断によって環境対応性を構築できる。そして情勢判断によって、観察の仕方も行動の仕方も決まる。 総合力

出所: サザーランド,I.(2015)『スクラム』(石垣賀子訳)早川書房、pp236-238

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ホンダにおけるプロジェクト組織プロデューサー型人材の育成

ホンダの手本は本田宗一郎ホンダはトップだけが頑張るような会社ではありません。製造現場の一人一人がもの

すごく重要なんです。ですから、従業員全員が本田宗一郎にならなきゃいけない。

大勢の本田宗一郎を作ることが、ホンダにとっては大切なんです

- 福井威夫前社長 出典: 赤井邦彦 『「強い会社」を作る』 文春新書 (2006)

LPL:開発責任者

設計PL テストPL デザインPL

●エンジン

●ボディ

●サスペンション

●艤装

など

●エンジン

●風洞

●衝突

●エミッション

●耐久

など

●レイアウト

●エクステリアデザイン

●インテリアデザイン

●カラー/表皮

●デザインデータ

●デザインモデル

など 出所: 本田技研工業株式会社 社内資料

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知の型:卓越性を無限追求する職人道-Creative Routines-

Appleトヨタ

出所: Karney, L. (2008/2009). Inside Steve’s Brain (expanded edition).

Portfolio, New York.

現地・現物・現実

真因の追求(なぜを5回繰り返す)

横展(よこてん)

視える化

ジャスト・イン・タイム

改善

インフォーマル活動

単純化せよ(Simplify)

妥協するな(Don’t compromise)

全員を巻き込め(Include everyone)

知的闘いをせよ(Engage in intellectual combat.)

仕事に情熱を持て(Find a passion in your work.)

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出所: Osono, E., Shimizu, N., & Takeuchi, H. (2008). Extreme Toyota: Radical

contradictions that drive success at the world's best manufacturer. Hoboken, N.J:

John Wiley & Sons.

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実践知/賢慮の基盤

教養(Humanity/Liberal Arts)哲学、歴史、文学、心理、レトリック、芸術※人類学、生物学、デザイン学、政治学、都市計画学、神学(HBS)

至高・多様経験(Peak and Diverse Experience)極限体験(畏敬)、良き師(Mentor)との共体験、失敗・成功体験、異文化経験、偉人伝・・・

実践・伝統・評価職人道(Artisanship),型高い卓越性の評価基準※Moon Shots for Management

(Harvard Business Review, April,2009)

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事例

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GEで、GEと社員の人生が結びつくイメルトGE会長兼CEO

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GEは、接続産業企業(connected industrial company) だ。リアルとデジタルの交差点に立ってデジタル化と同時に製造業をさらに進化させ、新たな時代で勝利する。

出所: 2015/7/18 3:30 日本経済新聞 電子版

GEは大きくて複雑な企業だが、持ち株会社のような運営をしてほしくない。すべての社員の人生とGEという会社が結びつくような(社員と一体感を持った)経営をしてもらいたいと思っている。こうした感覚を持つことが必要だ。

イメルトGE会長兼CEO

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GEの重視すべき5つの信念価値(Values)から信念(Beliefs)へ

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GE Growth Values

GEグロースバリュー

External Focus

外部志向

Clear Thinker

明確で分かりやすい思考

Imagination & Courage

想像力と勇気

Inclusiveness

包容力

Expertise

専門性

GE Beliefs

GEビリーフス

Customers Determines Our Success

お客様に選ばれる存在であり続ける

Stay Lean to Go Fast

より速く、だからシンプルに

Learn and Adapt to Win

試すことで学び、勝利につなげる

Empower and Inspire Each Other

信頼して任せ、互いに高め合う

Deliver Results in an Uncertain World

どんな環境でも、勝ちにこだわる

出所:「特集 GEの破壊力」日経ビジネス2014.12.22.39-40頁。

ビリーフはバリューよりもひとの内面に入り込んで行動を促す。「こうあるべきだ」から「改善していこう」へ

GE ジェフ・イメルトCEO

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GE Fast Works (ファーストワークス)

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ファーストワークス:• お客さまとの距離を縮める• 商品化スピードを加速する• 成功率を向上する• 実現を容易にする

小さく速く、行動しながら調整を

出所:日本GE株式会社

顧客Customer

発見するDiscover

展開する

Develop

行動するAct

学習するLearn

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GEの人事制度改革

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GEビリーフス(行動基準)導入により、評価方法も改革

GEの代表的だった人事制度廃止 「パフォーマンス・ディベロップメント」の導入

• 9ブロックのように数値で語るのではなく、部下たちの顔写真を置きながら、本人の資質と可能性について語り、より育成、成長させるためのプランを自由に話し合う場(「ピープル・レビュー」)へ

• ピープルレビューは年1回だが、

リーダーと部下は年間を通じて対話。日々の気づきを共有し、行動と成長を促進するプロセスが生まれた

出所:熊谷昭彦(2016)『GE変化の経営』ダイヤモンド社、116-136頁

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京セラの経営理念

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「従業員の物心両面の幸福を追求する

と同時に、人類、社会の進歩発展に貢

献すること」

出所:http://www.kyocera.co.jp/company/philosophy/index.html

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京セラフィロソフィ-行動指針-

ものごとの本質を究める一見どんなにつまらないと思うようなことであっても、与えられた仕事を天職と思い、それに全身全霊を傾けることです。それに打ち込んで努力を続ければ、必ず真理が見えてきます。

渦の中心になれ自分が渦の中心になり、積極的に周囲を巻き込んで仕事をしていかなければなりません。命令でもって人を動かすのではありません。問題意識を提示すれば自然に人がそこに集まり、周りに渦をつくっていきます。

バランスのとれた人間性を備えるビジネスの世界では、徹底した合理主義者、しかし、それ以外ではロマンチストであり、形而上学的なことも考えられる人間でなければいけません。科学者としての合理性とともに、「この人のためなら」と思わせるような人徳を兼ね備えていなければなりません。この両面のバランスが取れていなければ、一流の経営者にはなれないのです。

知識より体得を重視する「知っている」ということと「できる」ということはまったく別です。経験に裏打ちされた、つまり体得したことによってしか本物を得ることはできません。

利他の心を判断基準にする最初に出てきた思いをいったん横において、「(略)自分がもうかるかもうからないかではなく、相手にとってそれがいいことか悪いことかで考えてみよう」と、結論を出す前にワンクッション置くわけです。誰もが皆この現世に生まれてきて、一回しかない貴重な人生を必死に生きてます。自分も生き、相手も生かす。利他の心で見れば、もうけ話の裏側まで見通せる。

大胆さと細心さをあわせもつ両極端をあわせもつことは、「中庸」をいうのではありません。大胆さと細心さ、温情と冷酷、合理性と人間性、それぞれ両極端の性質が、一人の人間の中に綾を織りなすように存在しているわけです。ぞれぞれの性質を状況に応じてうまく機能させる能力がなければなりません。

有意注意で判断力を磨く目的をもって真剣に意識を集中させることを有意注意といいます。あらゆる状況下で気を込めて現象を見つめるという基本ができていますから、何か問題が起きても、すぐにその核心をつかみ、解決ができるようになります。

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潜在意識にまで透徹する強い持続した願望をもつ

潜在意識は、今私たちが使っている顕在意識の何十倍もの容量があるとも言われています。潜在意識を日常的に使えるようにするには、強く持続して意識し、覚え込ませるようにしなければなりません。仕事のことや経営のことで、四六時中「有意注意」で、ど真剣に考えていると、思いもかけない場面で潜在意識が働いて、すばらしい着想が得られるのです。

楽観的に概観し、悲観的に計画し、楽観的に実行する

新しいことを成し遂げるには、まず「こうありたい」という夢と希望をもって、楽観的に目標を設定することが何よりも大切です。計画の段階では、「何としてもやり遂げなければならない」という強い意志をもって悲観的に構想を見つめなおし、起こりうるすべての問題を想定して対応策を慎重に考え尽くさなければなりません。実行段階においては、「必ずできる」という自信をもって、楽観的に明るく堂々と実行していくのです。

売上を極大に、経費を極小に(入るを量って、出ずるを制する)

経費とは非常にシンプルなもので、その基本はいかにして売上を大きくし、いかにして使う経費を小さくするかということに尽きます。利益とはその差であって、結果として出てくるものにすぎません。したがって私たちはいつも売上をより大きくすること、経費をより小さくすることを考えていればよいのです。

能力を未来進行形でとらえる新たな目標を立てるときは、あえて自分の能力以上のものを設定しなければなりません。今はとてもできそうもないと思われる高い目標を、未来の一点で達成するということを決めてしまうのです。そして、その一点にターゲットを合わせ、現在の自分の能力を、その目標に対応できるようになるまで高める方法を考えるのです。今できないものをなんとしても成し遂げようとすることからしか高い目標を達成することはできないのです。

出所:稲盛和夫(2014)『京セラフィロソフィ』サンマーク出版より抜粋・要約

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コンパ経営—相互主観に基づく京セラ哲学と経営理念の共有と身体化—

経営者と従業員、上司と部下、同僚同士が胸襟を開き、仕事の悩み、働き方、生き方を酒を通して、本音で語り合う場である。

畳部屋で肩を寄せ合い、ひじが当たって、鍋をつつき、酔っ払って誰のか分からない匿名のコップになる。

テーマを設けて深く掘り下げていく。経営者は、オープンな討論を通じて、最終的に京セラフィロソフィーに基づいて方向づける。

率直な対話が体に染み込み、頭で覚えるだけでなく、知識は知恵に重層化され、実際の行動に移せるようになる。

42出所:北方雅人・久保俊介 『稲盛流コンパ』日経BP社、2015年

http://www.kyocera.co.jp/social/topics/20150422-1

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時間当り採算:1時間当りのアメーバの付加価値 (アメーバの売上から人件費以外の費用を引き、それをアメーバの総労働時間で割ったもの)を示し、アメーバの業績測定指標と

して使われる。この会計方法は、市場価格の変動を即時にアメーバに反映するので、すばやい市場対応が可能となる。

予実管理:アメーバ一つ一つの目標実績を予定(予算+具体的な実行案)として設定し、実

際の実績と対比できるようにする取り組み。通常は事後管理である予算管理のプロセスを、未来志向の「事前管理」として行う。予定と実績に差異がある場合には、アメーバ経営者と従業員はその真の要因を突きつめる。成果は金銭ではなく賞賛で報いる。これは、アメーバ一つひとつに過去の延長線上やマニュアルでは、簡単に答えがでないような課題と真摯に取り組ませる組織的システムである。

1時間当たりの付加価値

アメーバ経営を支える実践知のシステム-売上最大・経費最小、利益は後からついてくる-

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京セラ哲学と経営理念:アメーバ間に協力と共栄の精神を育み、会社全体としての一貫性と秩序を保ちつつ、賢慮ある経営を行うための精神的、哲学的根幹を成している。

アメーバ: 一つの職能を細かく分けて編成され、一つ10名前後の社員から構成される自立分散

チーム。すべてのアメーバはビジネスとして完結する単位であり、収支を計上する。アメーバ同士は「売り手と買い手」の関係で綿密につながっている。

参考:上総康行(2010) 「アメーバ経営の仕組みと全体最適化の研究」、アメーバ経営学術研究会編『アメーバ経営学』KCCSマネジメントコンサルティングに基づく。

売上高 経費 利益

アメーバ経営の方程式

時間当たり生産力を上げる

利益 働く時間

➖ =

=➗

(最短に)

(最小に)(最大に)

出所:週刊ダイヤモンド2013/06/22

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JAL:稲盛経営哲学による経営再生ー哲学と理念が具現化されたフラクタル・システムー

フィロソフィの注入(教育とコンパ)

全社員の物心両面の幸福を追求する「人間として何が正しいかで判断する」

JALフィロソフィの創造

アメーバ経営の導入

・事業部を細分化、製造部門などもそれぞれプロフィットセンター化

・コストを可視化するために「パイロット費用」「キャビンアテンダント費用」「空港費用」などの社内取引単価を決め、1便ごとに収支計算

・時間当たり付加価値がわかる仕組み

・市場の動きをダイレクトに伝え即座に対応する自律分散の小集団

柱 具体的効果

仕事へのコミットメントの強化

全社レベルでの資源戦略の確立

超アメーバ・レベルでの資源配分の合理化

アメーバ・レベルの業務改善

植木義晴社長「JALの社員は“美しい人”になれた。人格を高めて、仲間を信頼できる会社に生まれ変わった」

44出所:引頭麻美編著(2013)『JAL再生』日本経済新聞出版社、『特集:解剖 稲盛経営』 、週刊ダイヤモンド2013年6月22日号

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賢慮リーダーシップを育てるアメーバ経営

管理会計実践は、京セラフィロソフィーや経営理念の実現に真摯に取り組むアメーバリーダーに、正面から向き合い乗り越えていかなければならない具体的・現実的な課題を、日常的に可視化し対峙させることで、賢慮(フロネシス)を養う機会を与えられている。

このような課題解決には、個別具体的な状況において正しい目的を実現するために適切な手立てをとって「善く生きる」ための知、賢慮が必要になる。「賢慮」という知は、状況を与えられたものとしてではなく、自分もその一部として変わりうるものとしてとらえ、理解したうえで、それを望ましい方向へと変えていくための実践知である。「賢慮」は、過去の延長線上やマニュアルでは簡単に答えがでないような課題と真摯に取り組むことによってはじめて育まれる。

参考:澤邊紀生(2010)「賢慮を生み出すアメーバ経営」、アメーバ経営学術研究会編『アメーバ経営学』KCCSマネジメントコンサルティングに基づく。

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日本的経営の本質は「利他性」と「賢慮ある人材の組織的育成」にある。日本的経営は、他者に善い人生を生きるための潜在能力を開発することを信条とする。「どのような人になりたいのか」や「どのような行動をとりたいのか」を結びつける機能の選択肢(ケイパビリティ)を他者に与えることは、実質的な生き方の発展や自由の拡大なのである(アマルティア・セン)。

それぞれの人がより善い人生を生きるために必要な能力や課題というのはそれぞれ個別具体に存在、変化しており、個人はそれに即時に対応して自分の未来を切り開いていかなくてはならない。企業はダイナミックに変化にする市場と共生し、利他的に市場に即対応することのできる従業員の育成(能力の開発)に組織的に取り組むことで善い社会を創る使命がある。

人間の知識創造や能力開発を信条とする経営は、コンテクストに依拠する能力としての暗黙知を源泉とし、相互主観性を媒介とした組織・環境一心体の知識創造を目指さなければならない。知識創造の矢じりを「共通善」に向かって構え、人間の潜在能力をより活かした形での現場の状況判断と思考力、行動力を究め、組織の知識創造力と知的資本を増幅していくことが、日本的な革新経営の本質なのである。

日本的革新経営の本質

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参考:アマルティア・セン(1999)『不平等の再検討』岩波書店。鈴村興太郎・後藤玲子(2001)「アマルティア・センー経済学と倫理学ー」実教出版。

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近代経済は善き生の実現に奉仕する

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国家の豊かさは、繁栄であるが、それは愛着心、挑戦、自己表現個人的成長という要素を基盤とする。金銭的収入そのものが繁栄をもたらすわけではない。

個人の繁栄は、新しい状況、問題、洞察、新しいアイデアを積み重ね、発展させること経験によってこそ実現する。

国家規模での豊かさは、大衆の繁栄によって支えられ、人々がイノベーションのプロセスに関与することによって実現する。新しい方法や製品が考察・開発され、共有され、普及していくうちに、イノベーションは草の根までに浸透していく。パイオニア的国家では、意欲や能力を持つ人々が地域密着型のイノベーションを興し、そこからダイナミズムあふれる近代経済が生まれたのである。

近代経済の繁栄は、実は善き生というアリストテレスの概念と共通している。善き生とは、世界との積極的な関わりを通じて知的成長を遂げ、先の見えない状況で創造力と探求心を働かせながら、道徳的に成長していくことが求められる。近代経済は、善き生の実現に奉仕するのだ。

出所:フェルプス,E(2016)『なぜ近代は繁栄したか:草の根が生み出すイノベーション』(小坂恵理訳)みすず書房、ⅶ~xv頁

Source:http://www.nobelprize.org/no

bel_prizes/economic-

sciences/laureates/2006/

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産・官・学・民の協働・共創促進-知の社会的エコシステム -

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知識は関係性のなかで創られる。ステークホルダーは、相互主観の場をつなぐ場を構築して関係性をダイナミックに生成し変容させていく。産・官・学・民は協働・共創することで、組織的な知の壁を超越していく。このような知の社会的エコシステムを確立することによって、社会の繁栄、そして善き生の実現に近づくことができる。

政府

顧客

競合他社業者企業

大学

地域社会場

供給業者

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知的機動力を培う経営へ

知的機動力とは?

知的機動力とは、共通善に向かって実践的な知を俊敏かつ弁証法的に創造、発展、共有、実践する能力である。

フロネシスは知的機動力経営を可能にし、知的正当化コストを最小化、知的資産を最大化する。

• リスクを取りに行く積極果敢の精神と、全人的な知の創造にコミットする「全員経営」

(オーバー・アナリシス、オーバー・プラニング、オーバー・コンプライアンスの創造的破壊)

• 機動的組織人事・財務・組織間連合と共創(組織間の知のプラットフォーム化)とM&A

• 『人間中心』の発想をもとに、能力拡張に役立つAIと共生する

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フロネシスによる知的機動力経営を元に、知識創造の効率の最大化へ!

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頭 Mind思索家 Thinker

体 Body実践家 Doer

知的体育会系

“Intellectual Muscle”共通善に向けた

「よりよい」の無限追求

「身体化された心」

Embodied Mind

フロニモスは価値判断のダイナミック・バランスを実現する「徳」のある人である

実践知リーダー:フロニモス「熟慮的な実践的推論」(Contemplation in Action)

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