ivr x 線装置の基礎 - uminplaza.umin.ac.jp/ivr-rt/kousyu/8th_seminar/text/miyazaki.pdfivr 用x...
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第 8回認定機構主催セミナー
2013.11.9 15:30-16:30
IVR用 X線装置の基礎
医療法人邦友会 小田原循環器病院
宮﨑 茂
日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構
IVR用 X線装置の基礎
1 日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構
2013.11.09
日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構講習会
第 8回セミナ東芝那須工場
IVR 用 X 線装置の基礎
医療法人邦友会 小田原循環器病院
宮﨑茂
1.はじめに
医用 X 線装置の構成は X 線発生装置、X
線機械装置、X 線映像装置、X 線画像処理
装置およびその他の関連機器に分類される。
X 線発生装置は X 線源装置、X 線高電圧ケ
ーブルおよび X 線高電圧装置から構成され
る。X 線源装置は X 線管装置と照射野限定
器を組合せたもの、X 線高電圧装置は高電
圧発生装置と X 線制御装置からなる。セミ
ナではこの中から、主に循環器用 X 線管装
置および X 線高電圧装置について話をする。
2.X 線管装置
2.1 回転陽極 X 線管の構造
回転陽極 X 線管の構造を図 1 に示す。
X 線管は陽極、陰極およびガラスバルブか
らなるが、大容量 X 線管は、ガラスバルブ
の代わりに金属を用いた金属外囲器 X 線管
が多い。陽極はターゲットの他に陽極を回
転させるロータ(陽極回転子)、アノードシ
ャフト(陽極軸)ベアリングなどから構成
される。陽極は内部にある 2 個のベアリン
グとアノードシャフトで支えられ、その先
端に傘状のタングステン板が取り付けられ、
モリブデンの支軸によって回転子に固定さ
れている。陽極の多くは輻射を図る目的で
黒化処理が行われている。
2.2 陽極
ターゲットは電子衝撃による焦点荒れを防
ぐ目的でタングステンにレニウム(Re)、ま
たは鉄(Fe)を添加した合金が使用される。
また、熱伝導を高めるために黒化処理され
た陽極が多い。陽極熱容量を増大する目的
ターゲットはモリブデン(Mo)を張り合わ
せている。循環器用 X 線装置などに使用さ
れる大容量 X 線管はモリブデンにグラファ
イトを張り合わせた X 線管が用いられる
(図 2)。
図 1 回転陽極 X 線管の構造
循環器用に用いられる X 線管は、公称陽極
入力が 2130 kJ(3000 kHU)、ターゲット
の直径は 132~140 mm(一般撮影用:70
~100 mm)、質量は 2.2 kg 程度である。
図 2 ターゲットの外観
回転陽極 X 線管では回転部にベアリング
を用いているが、循環器用 X 線管ではター
ゲットが大きく質量が大きいことからベアターゲット
ベアリング
焦点 焦点軌道集束電極
フィラメント陰極スリーブ
陽極回転子
陽極軸
コバールリング(鉄合金ガラス接合)
X線
ガラスバルブ
(硬質ガラス)
ステム(導入線)
ターゲット
ベアリング
焦点 焦点軌道集束電極
フィラメント陰極スリーブ
陽極回転子
陽極軸
コバールリング(鉄合金ガラス接合)コバールリング
(鉄合金ガラス接合)
X線
ガラスバルブ
(硬質ガラス)
ガラスバルブ
(硬質ガラス)
ステム(導入線)ステム(導入線)
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リングレス回転陽極 X 線管が用いられるよ
うになった。ベアリングの代わりに液体金
属潤滑動圧軸受けが使用された陽極回転子
を図 3 に示す。
図 3 液体金属潤滑導圧軸受け陽極の外観
液体金属潤滑動圧軸受はベアリングのよう
に接触部分がないため、静寂性が高い、連
続して高速回転が可能なためロータアップ
の時間がいらない(フィラメント加熱時間
は必用)などの特徴がある。
2.3 陰極
循環器用 X 線管はパルス透視を行う関係
から、三極 X 線が使用されている。三極 X
線管は格子があるので、熱電子の流れが阻
害されるので低管電圧、大管電流撮影が難
しい。こうしたことからグリッドレス三極
X 線が用いられている(図 4)。
図 4 三極 X 線の陰極外観 グリッド有(左)グリ
ッドレス(右)
三極 X 線管は通常透視時に三極管として用
い撮影時は二極管として使用する。
2.4 金属外囲器 X 線管
循環器用 X 線管は陽極の質量が大きいた
め、ガラスバルブの代わりに金属を用いた
金属外囲器 X 線管多い(図 5)。
図 5 金属外囲器 X 線管の外観
金属外囲器 X 線管の特徴は強度のほかに、
タングステンフィラメントの蒸発による絶
縁劣化をゲッタ処理することで絶縁を保つ
事ができる。また、焦点外 X 線を軽減でき
るという特徴もある。注意点としては、陽
極、陰極の他に金属外囲器という電子の流
れがあるため、外囲器に二次電子が衝突し
電流が流れる。この現象により陽極を流れ
る管電流が 10 %程度実際より減少する。ま
た。外囲器の内側は輻射熱の効率を上げる
目的で、黒化処理が行われるが、その工程
の不具合などで放電する要因が増えること
などが考えられる。
2.5 X 線管装置の主な特性
1)X 線管焦点
X 線管焦点には、実焦点と実効焦点があ
る。実焦点は電子ビームが衝突するターゲ
ットの表面部分をいう。実効焦点は基準面
への実焦点の垂直投影されたものをいう。
したがって、ターゲット角度によって同じ
実効焦点であっても、実焦点を変えること
ができる。ターゲット角度は実焦点面と基
準軸とがなす角度をいう。
2)X 線管の放射強度分布
熱電子が高速でターゲットに衝突した場
合、熱電子はターゲットの表面だけでなく、
ある程度の深さまで進入する(タングステ
ンターゲットの場合、管電圧 100 kV で 6
~10 μm 程度といわれている)。したがっ
て、ターゲットに衝突した熱電子はターゲ
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ットの表面だけでなく、ターゲット物質の
中で X 線は発生する。したがって、ターゲ
ット角度によって放射される X 線の強度お
よび線質は異なる。
3)管電流特性
① X 線管の v‐i 特性
電子管には陰極に対し陽極を正電位にし
たとき陽極電流が流れるが、逆の極性の場
合は流れないという性質(整流作用)があ
る。空間電荷電流は管電圧の 3
2 乗に比例し、
電極間距離の 2 乗に反比例する。
② 管電流特性
X 線管負荷条件における、管電流とフィ
ラメント電流との関係(JIS Z 4751-2-28)。
③フィラメント特性
フィラメントに加える電圧とフィラメン
ト電流との関係(JIS Z 4751-2-28)。
3.X 線高電圧装置
循環器用 X 線高電圧撮影装置は低管電圧、
大管電流、短時間撮影で使用されることか
ら、極わずかな管電圧・管電流波形の変化
が X 線出力に大きく影響する。したがって、
高電圧装置は、管電圧波形の立ち上がり・
立下りの早い矩形波を要し、管電圧リプル
百分率が 4 %以下であることまた、短時間
制御で長時間繰り返し X 線照射をすること
などから、X 線出力の再現性および直線性
が保たれた装置が望まれる。こうした理由
から今まで、X 線高電圧装置の整流方式は
定電圧形 X 線高電圧装置が主に使われてい
たが現在は、小形軽量で且つ定電圧形 X 線
高電圧装置に匹敵するかそれ以上の性能を
持つインバータ式 X 線高電圧装置が用いら
れている。
一方循環器撮影では、X 線吸収が刻々と
変化する被写体を撮影するため、自動露出
制御装置は不可欠であるとともに、被写体
厚、管電圧および応答特性の優れた自動露
出制御装置が求められる。
3.1 インバータ式 X 線装置の特徴
1)小形、軽量
インバータ周波数を高周波にすることで、
高電圧変圧器を小形化できる。
2)精度、再現性、短時間特性に優れる
高圧側で管電圧を検出して一次電圧のイ
ンバータ回路にフィードバック制御を行う。
3)管電圧リプル百分率の低減
高電圧ケーブルの浮遊容量により、イン
バータ周波数を高くするほど、リプル百分
率を小さくできる。
4)単相電源で三相装置並みの X 線出力
交流電源を直流に変換した後、高周波交
流にするため管電圧リプル百分率の少ない
X 線出が得られる。
5)電源容量
最大定格は電源容量、電源インピーダン
スの制限を受ける。
6)電源位相
交流を直流に変換するため、電源周期と
無関係に X 線制御ができる。
3.2 インバータの基本動作
X 線装置に使用されるインバータ回路は、
半導体制御素子を 4 個ブリッジ状に接続し
たフルブリッジインバータが主流である。
インバータの基本回路と基本動作を図 6 に
示す。
基本動作ではスイッチ S2と S3、S1と S4
が常に同じスイッチングになる。期間 t1は
S2と S3がオンで正極性の電圧が発生し、電
流 Ilは図に示した方向に流れる。期間 t3は
S1 と S4 がオンのとき t1 とは逆極性の電圧
が負荷にかかり、電流 Il は図に示したよう
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に逆極性に流れる。期間 t2、t4 はスイッチ
S1、S2、S3、S4 のすべてがオフとなる休止
期間をあらわす。このように期間 t1~t4 を
繰り返すことで負荷に加わる電圧は方形波
状の交流電圧になる。交流電圧の周波数は
スイッチの切換え周期で決まる。
図 6 インバータの基本回路
3.3 インバータ回路の分類
インバータには共振形インバータと方形
波(非共振形)インバータがる。インバー
タの出力波形を図 7 に示す。
図 7 インバータ回路の分類と出力波形
方形波形インバータはブリッジインバータ
で直流電圧を ON/OFF を繰り返すること
で方形波の出力電圧を得られる。スイッチ
ング素子は、パワートランジスタ、GTO、
IGBT および MOSFET などが使用される。
共振形インバータは高電圧変圧器のインダ
クタンス Lと共振コンデンサCを用いた共
振現象を利用したもので、出力電圧は正弦
波となる。
3.4 方形波形インバータ式 X 線高電圧装置
方形波形インバータ式 X 線高電圧装置の
特長は、負荷条件を細かく設定でき、軽負
荷から重負荷まで広範囲に制御が必要な X
線装置として有利である。マイナス面とし
て、チョッパ‐フィルタ回路を有すること
から、回路を必要としない装置と比較した
場合、高価になる。方形波形インバータ式
X 線高電圧装置の基本回路を図 8 に示す。
図 8 方形波インバータ式 X 線高電圧装置の基本回
路
方形波形インバータ式 X 線高電圧装置の
動作を以下に記述する。単相または三相電
源から供給された電力は
1)AC-DC コンバータで整流されコンデン
サによって平滑される。
2)DC-DC コンバータはチョッパ回路とフ
ィルタ回路からなり、チョッパ回路から出
力された方形波パルスをフィルタ回路で平
均化する。管電圧はチョッパ回路から出力
されるパルス電圧幅を制御して調整される。
3)フルブリッジインバータはチョッパ‐フ
ィルタ回路から出力された直流電圧を方形
波交流に変換し、かつ高周波化し高電圧変
圧器に供給する。
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4)高電圧変圧器に供給された方形波交流電
力は全波整流に変換され、高電圧ケーブル
の静電容量(約 250 pF/m)で平滑される。
3.5 共振形インバータ式 X 線高電圧装置
共振形インバータ式 X 線高電圧装置の特
長は、チョッパ回路が要らないため、方形
波形に比べ小形軽量および安価にできる。
欠点として、軽負荷ほど周波数が低いため
管電圧リプルが大きくなる傾向にある。
装置の基本動作回路を図 9 に示す。
図 9 共振形インバータ式 X 線高電圧装置の基本回
路
1)AC-DC コンバータは単相または三相
商用交流電源入力を整流後、大容量電解コ
ンデンサで平滑する回路である。
2)共振形インバータは AC-DC コンバータ
からの出力電圧は、共振形インバータに加
えられる。共振形インバータは、高電圧変
圧器の一次巻線に対して、共振用コンデン
サCと共振用インダクタンス Lが直列に接
続されていて、この C と L による共振現象
を利用した装置で出力波形は正弦波となる。
3)高周波化された出力交流電力は、高電圧
装置で全波整流され周波数が高いので高電
圧ケーブルの静電容量で平滑され理管電圧
リプルの小さい管電圧波形となる。
3.6 インバータ式 X 線高電圧装置の基本制
御
(1)整流回路(AC-DC コンバータ)
インバータ式 X 線高電圧装置の整流回路
を図 10 に示す。
図 10 整流回路(左)負荷時のオシログラム(右)
整流回路は、商用電源(交流)を整流・
平滑する回路である。整流器にはダイオー
ドまたはサイリスタが使用される。平滑用
コンデンサ C は数十 mF の大容量電界コン
デンサが用いられ、整流後の脈流を直流に
平滑する。オシログラムは X 線負荷 100
kV,800 mA, 80 ms 時の整流回路の一次電
圧波形(P.V)である。電圧降下はあるが X
線負荷には問題なく正確に出力されている。
(2)管電圧制御
1)方形波形
DC-DC コンバータ(直流電圧可変回路)
DC-DC コンバータの基本動作を図 11 に示
す。
図 11 DC-DC コンバータの基本動作
管電圧制御はチョッパとフィルタ回路で構
成される DC-DC コンバータとインバータ
回路によって制御され、チョッパから出力
された方形波パルスはフィルタで平均化さ
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れる。入力電圧を 𝑉𝑖、 出力電圧を𝑉𝑜、スイ
ッチングトランジスタ𝑇𝑟がオンしている時
間𝑇𝑜𝑛 (s) とすると、 𝑇𝑟の通電時間にイン
ダクタンス𝐿𝑓に加わる電圧は𝑉𝑖−𝑉𝑜となる。
この期間の電流変化量 ∆I𝐿𝑂𝑁 は 𝐼𝐿𝑜𝑛 =
(𝑉𝑖−𝑉𝑜)
𝐿𝑓× 𝑇𝑂𝑁となる(1)。𝑇𝑟がオフしている
期間は転流ダイオードDが導通しインダク
タンス L には−𝑉𝑜 の電圧が加わるため、こ
の期間の電流変化量∆𝐼𝐿𝑜𝑓𝑓は∆𝐼𝐿𝑜𝑓𝑓 =−𝑉𝑂
𝐿𝑓×
𝑇𝑜𝑓𝑓であらわされる(2)。
インダクタンス𝐿𝑓に流れる電流が連続的な
場合、定常状態はオンとオフの期間が等し
くなる{(1)+(2)=0}。したがって、
𝑉𝑜 =𝑇𝑜𝑛
𝑇𝑜𝑛+𝑇𝑜𝑓𝑓× 𝑉𝑖となり
𝑇𝑜𝑛
𝑇𝑜𝑛+𝑇𝑜𝑓𝑓をデューテ
ィ比(1 パルスの時間/1 周期の時間)とい
う。
出力電圧 V0 はチョッパのデューティ比に
比例するので、チョッパの周波数を一定し
てデューティ比を変えれば直流一次電圧
VOを制御することができる。デューティ比
を変えて管電圧を制御する方法をパルス幅
変調(PWM: pulse width modulation)と
いう。
図 12 インバータ制御電圧波形
公称最大電力 80 kW、最大インバータ周波
数 15 kHz の高電圧装置における管電圧
100 kV 時のインバータの制御電圧信号を
図 12 に示す。左は管電流 50 mA、右は管
電流 500 mA である。X 線負荷の違いでイ
ンバータの導通時間が変わり、デューティ
比が変化していることがわかる。
2)共振形
共振形インバータ式高電圧装置の周波数
変調制御方式のインバータ制御信号と、一
次電流の関係を表したものを図 13 に示す。
図 13 インバータ制御信号と一次電流波形
X 線照射信号が加えられるとインバータ回
路の半導体素子 Tr2-Tr3、Tr1-Tr4 が交互に
導通し、共振用コンデンサ C とインダクタ
ンス L および高電圧変圧器の一次巻線を通
じて正弦波電流が流れる。
軽負荷時では、一組のインバータが ON の
とき、一つの方形波パルス電圧に対し半周
期 π√𝐿𝐶[s]の正弦波電流が流れる。方形
波パルス幅𝑇𝑟𝑜𝑛は一定であるが、インバー
タの休止時間𝑇𝑟𝑜𝑓𝑓が長いため、一次電流波
形も断続的になる。このとき方形波パルス
の一周期期間は長くなり周波数は低下する。
大負荷時では、インバータの休止時間が短
くなるため、インバータ周波数は高くなり、
一次電流波形は連続した波形となる。周波
数変調制御は、このようにインバータの動
作周波数およびパルス幅を変化させて、直
流から交流変換と同時に出力電圧を制御し
て管電圧を調整する方法である。公称最大
電力 80 kW、最大インバータ周波数 30 kHz
の高電圧装置における管電圧 100 kV、管電
流 50,200,500 mA時のフルブリッジインバ
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ータの一次電流波形と管電圧波形の関係を
表したオシログラムを図 14 に示す。
図 14 管電圧波形(U)と一次電流波形(PC)
管電流 50 mA はインバータの休止時間が
長く、インバータ周波数が低いので管電圧
が放電し管電圧リプルが大きくなる。管電
流が 200 mA では、インバータの休止時間
が 50 mA 時に比べ短く、一次電流も連続的
になっている。
管電流 500 mA では、インバータの休止時
間が極短くインバータ周波数が高くなり一
次電流波形も正弦波に近くなっている。
(3)管電流制御
管電流制御は、一般的にインバータを使用
した半導体交流加熱方式が使用されている。
特徴としては、
1)フィラメント加熱をインバータで高周波
化することで、管電流は加熱電源周波数の
リプルの影響を受けにくくなり、X 線出力
はより安定する。
2)フィードバック制御のため X 線出力は
安定し、応答性に優れる。
3)X 線管の管電流特性に対応した非線形制
御ができる。
4)予備加熱や撮影時のダイナミック制御が
可能である。
5)CPU による制御が可能となり、空間電
荷補償や X 線管の特性に応じた高精度の補
正が可能となる。
6)X 線管を流れる管電流を実測する機能を
持つ装置では、X 線管フィラメントの経時
的変化に対応することが可能。
などの点が上げられる。
(4)照射時間
X 線撮影時間を設定および制御する限時
(タイマ)装置は変圧器式 X 線高電圧装置
に用いられるものとなんら変わりはない。
インバータ式 X 線高電圧装置の照射時間の
制御はタイマ回路からの信号でチョッパ駆
動回路およびインバータ駆動回路を制御す
ることで行われる。このチョッパおよびイ
ンバータ駆動回路の周波数は数十kHzと高
周波化されているため、管電圧波形の立ち
上がりおよび立下り時間、X 線遮断の応答
遅れなどは従来の 12 ピーク形 X 線高電圧
装置と比較し数段短く高精度となっている。
こうした特性の向上は自動露出制御装置と
組み合わせた場合、X 線制御の遅延がなく、
自動露出制御装置の応答特性を大幅に向上
させることができる。
4.管電圧波形と X 線出力
循環器撮影で使用される X 線高電圧装置
は、撮影対象となる被写体は動態であるこ
とから連続で短時間撮影が要求される。ま
た、描写される画質は適度のコントラスト
を要求されるので、低管電圧で大管電流が
出力される装置が必要となる。こうした撮
影条件を考えた場合 X 線発生装置(X 線源
装置、X 線高電圧装置)は高度な X 線制御
を有したものを求められる。
従来使用されてきた 12 ピーク形 X 線高
電圧装置では、X 線制御には電源位相によ
る制限を受けるため、テトロード管による
二次側制御を行ってきた。現在は、半導体
制御素子の高性能化に伴ってインバータ式
X 線高電圧装置が使用されるようになった。
管電圧波形の違いによる X 線出力(蛍光強
度)の変化を図 15 に示す。
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図 15 管電圧波形と X 線出力(U:管電圧 I:管電流
F:蛍光強度)
X 線出力は同一照射時間であっても、管電
圧の立ち上がり立下りが早く、管電圧リプ
ル百分率の少ない波形が有利であることが
理解できる。
循環器撮影の中でも最も厳しいシネ撮影時
の X 線出力の違いを図 16 に示す。
図 16 シネ撮影時の管電圧波形と X 線出力(U:管
電圧 I: 管電流 F:蛍光強度)
オシログラム右上の装置はコンデンサを使
用した装置で、管電圧の立ち上がり立下り
時間は早いが、放電による管電圧低下が大
きく X 線出力は大きく低下する。オシログ
ラム左上はテトロード管による二次側でス
イッチングを行った 12 ピーク形 X 線高電
圧装置である。管電圧の立ち上がり立ち下
りは早いが、12 ピーク形による管電圧リプ
ル百分率が X 線出力に影響している。オシ
ログラム左下はインバータ式であるが、管
電圧リプル百分率が大きくまた、管電圧の
立ち上がり時の波形変化が X 線出力に影響
をおよぼしている。オシログラム右下の装
置はインバータ式装置であるが、管電圧の
立ち上がり立ち下りが早くまた、管電圧リ
プルも少なく X 線出力波形は矩形波である。
これらのことから循環器に用いられる X 線
発生装置は短時間、定電圧、大電流撮影が
可能な高電圧装置でなくてはならない。ま
たこうした撮影に十分耐えうる X 線管装置
が必要となる。
パルス透視による管電圧波形と X 線出力
波形の関係を図 17 に示す。
図 17 パルス透視による管電圧(U)および蛍光強
度(F)波形
オシログラム上は三極X線で波尾切断時の
X線出力波形である。管電圧の波尾切断に
より管電圧が高くなっても矩形波で制御さ
れている。オシログラム下は波尾切断を行
っていない管電圧とX線出力波形である。
管電流が少ないため、高電圧ケーブルの浮
遊容量に影響で管電圧が高くなるほど波尾
を引くことがわかる。この波尾によって被
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曝が増すことが考えられる。
5.IVR 用 X 線装置に関する JIS
5.1 X 線高電圧装置
IVR用X線装置のX線高電圧装置に関係
する JIS(日本工業規格)を図 18 に示す。
図 18 IVR 用 X 線高電圧装置関連 JIS
IEC(国際電気標準会議)は各 JIS 原案作
成に翻訳したものである。IDT は identical
(一致)の意味で、国際規格と一致してい
ることを示す。MOD は modified(修正)
を意味し、国際規格を修正していることを
示す。
1)JIS T 0601-1 は医用電気機器および医用
電気システムの電気機器の安全と機器およ
びシステムの基本性能について規定し、個
別規格に対して基礎を与えるものから親規
格である。
2)JIS T 0601-1-3 は診断用 X 線装置にお
ける X 線防護の一般要求事項を規定し患者、
操作者、その他の従事者および一般市民が
受ける照射を放射線学医療の恩恵を損なう
ことのないように規格されたものである。
3)JIS Z 4751-2-7 は X 線発生装置(X 線源
装置、X 線高電圧装置)および一体形 X 線
装置の一般要求事項の安全の適合性を規定
している。
4)JIS Z 4751-2-54 は X 線撮影および X 線
透視を行う医用電気機器または医用電気シ
ステム全体の基礎安全、基本性能について
規定したJISで、X線装置全体の規格ある。
5)JIS Z 4751-2-43 は上記の JIS(撮影・
透視用 X 線装置-基礎安全及び基本性能)を
基本として、IVR 用 X 線装置の設計および
製造に関する基礎安全および基本性の要求
事項、IVR の手技から生じる患者または従
事者の放射線リスクおよび装置の故障によ
るリスクを管理している責任者に対し情報
を明確化したものである。
5.2 X 線管装置
X線管装置に関連するJISを図19に示す。
図 19 X 線管装置関連 JIS
1)JIS Z 4751-2-28 は X 線源装置および X
線管装置の設計および製造に関しての個別
要求事項を確立し、安全を確保し使用者の
適切な使用および医療従事者の放射線リス
クなどの情報を記載した。
2)JIS Z 4120 は診断用 X 線装置に使用す
る医用 X 線管装置の焦点特性を記載したも
のである。焦点特性の測定方法、およびそ
の適合性を明記している。
3)JIS Z 4121 は診断・治療に用いる X 線
管装置の固有ろ過の概念を定義し、固有ろ
過の決定方法について規定している。また、
総ろ過を得るための適切な付加ろ過を提供
するため、X 線乾燥地の固有ろ過求める方
法についても記載してある。
4)JIS Z 4122 は X 線源装置および X 線管
装置の最大対称照射野の測定方法につて規
定したもので、相対空気カーマ率が許容値
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を下回らないように、焦点から指定の距離
で幾何学的な対象照射野の最大値を決める
方法を記載している。
5)JIS T 60613 は医用に使用する固定およ
び回転陽極 X 線管の負荷特性について定義
したもので、特性の適正な測定方法を規定
した製造業者および責任部門に関する規格
である。従来、X 線管陽極入力は撮影前の
冷えた状態での電力で表していたが、この
規格から「公称撮影陽極入力」、「公称 CT
陽極入力」、「CT スキャン入力」などが追加
され稼動時の陽極入力が明記されている。
上記 JIS の中で主な規格の値を下記の図で
示す。
診断用 X 線装置の電気安全
診断用 X 線装置の放射線安全
IVR 用 X 線装置-基礎安全及び基本性能
IVR 用 X 線装置-基礎安全及び基本性能
6.おわりに
診断用 X 線装置の品質・安全管理は日常
使用している X 線装置の動作特性を熟知し
た上で行えるものである。こうした行為は、
患者が安心して受けられる検査および治療
に結びつくとともに、医師に正確で適切な
情報を提供できると考える。IVR 専門認定
技師は医用画像装置の品質保証および品質
管理を確立し、品質維持のための活動を進
めることを期待する。