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8 回認定機構主催セミナー 2013.119 15:3016:30 IVR X 線装置の基礎 医療法人邦友会 小田原循環器病院 宮﨑 日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構

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第 8回認定機構主催セミナー

2013.11.9 15:30-16:30

IVR用 X線装置の基礎

医療法人邦友会 小田原循環器病院

宮﨑 茂

日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構

IVR用 X線装置の基礎

1 日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構

2013.11.09

日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構講習会

第 8回セミナ東芝那須工場

IVR 用 X 線装置の基礎

医療法人邦友会 小田原循環器病院

宮﨑茂

1.はじめに

医用 X 線装置の構成は X 線発生装置、X

線機械装置、X 線映像装置、X 線画像処理

装置およびその他の関連機器に分類される。

X 線発生装置は X 線源装置、X 線高電圧ケ

ーブルおよび X 線高電圧装置から構成され

る。X 線源装置は X 線管装置と照射野限定

器を組合せたもの、X 線高電圧装置は高電

圧発生装置と X 線制御装置からなる。セミ

ナではこの中から、主に循環器用 X 線管装

置および X 線高電圧装置について話をする。

2.X 線管装置

2.1 回転陽極 X 線管の構造

回転陽極 X 線管の構造を図 1 に示す。

X 線管は陽極、陰極およびガラスバルブか

らなるが、大容量 X 線管は、ガラスバルブ

の代わりに金属を用いた金属外囲器 X 線管

が多い。陽極はターゲットの他に陽極を回

転させるロータ(陽極回転子)、アノードシ

ャフト(陽極軸)ベアリングなどから構成

される。陽極は内部にある 2 個のベアリン

グとアノードシャフトで支えられ、その先

端に傘状のタングステン板が取り付けられ、

モリブデンの支軸によって回転子に固定さ

れている。陽極の多くは輻射を図る目的で

黒化処理が行われている。

2.2 陽極

ターゲットは電子衝撃による焦点荒れを防

ぐ目的でタングステンにレニウム(Re)、ま

たは鉄(Fe)を添加した合金が使用される。

また、熱伝導を高めるために黒化処理され

た陽極が多い。陽極熱容量を増大する目的

ターゲットはモリブデン(Mo)を張り合わ

せている。循環器用 X 線装置などに使用さ

れる大容量 X 線管はモリブデンにグラファ

イトを張り合わせた X 線管が用いられる

(図 2)。

図 1 回転陽極 X 線管の構造

循環器用に用いられる X 線管は、公称陽極

入力が 2130 kJ(3000 kHU)、ターゲット

の直径は 132~140 mm(一般撮影用:70

~100 mm)、質量は 2.2 kg 程度である。

図 2 ターゲットの外観

回転陽極 X 線管では回転部にベアリング

を用いているが、循環器用 X 線管ではター

ゲットが大きく質量が大きいことからベアターゲット

ベアリング

焦点 焦点軌道集束電極

フィラメント陰極スリーブ

陽極回転子

陽極軸

コバールリング(鉄合金ガラス接合)

X線

ガラスバルブ

(硬質ガラス)

ステム(導入線)

ターゲット

ベアリング

焦点 焦点軌道集束電極

フィラメント陰極スリーブ

陽極回転子

陽極軸

コバールリング(鉄合金ガラス接合)コバールリング

(鉄合金ガラス接合)

X線

ガラスバルブ

(硬質ガラス)

ガラスバルブ

(硬質ガラス)

ステム(導入線)ステム(導入線)

IVR用 X線装置の基礎

2 日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構

リングレス回転陽極 X 線管が用いられるよ

うになった。ベアリングの代わりに液体金

属潤滑動圧軸受けが使用された陽極回転子

を図 3 に示す。

図 3 液体金属潤滑導圧軸受け陽極の外観

液体金属潤滑動圧軸受はベアリングのよう

に接触部分がないため、静寂性が高い、連

続して高速回転が可能なためロータアップ

の時間がいらない(フィラメント加熱時間

は必用)などの特徴がある。

2.3 陰極

循環器用 X 線管はパルス透視を行う関係

から、三極 X 線が使用されている。三極 X

線管は格子があるので、熱電子の流れが阻

害されるので低管電圧、大管電流撮影が難

しい。こうしたことからグリッドレス三極

X 線が用いられている(図 4)。

図 4 三極 X 線の陰極外観 グリッド有(左)グリ

ッドレス(右)

三極 X 線管は通常透視時に三極管として用

い撮影時は二極管として使用する。

2.4 金属外囲器 X 線管

循環器用 X 線管は陽極の質量が大きいた

め、ガラスバルブの代わりに金属を用いた

金属外囲器 X 線管多い(図 5)。

図 5 金属外囲器 X 線管の外観

金属外囲器 X 線管の特徴は強度のほかに、

タングステンフィラメントの蒸発による絶

縁劣化をゲッタ処理することで絶縁を保つ

事ができる。また、焦点外 X 線を軽減でき

るという特徴もある。注意点としては、陽

極、陰極の他に金属外囲器という電子の流

れがあるため、外囲器に二次電子が衝突し

電流が流れる。この現象により陽極を流れ

る管電流が 10 %程度実際より減少する。ま

た。外囲器の内側は輻射熱の効率を上げる

目的で、黒化処理が行われるが、その工程

の不具合などで放電する要因が増えること

などが考えられる。

2.5 X 線管装置の主な特性

1)X 線管焦点

X 線管焦点には、実焦点と実効焦点があ

る。実焦点は電子ビームが衝突するターゲ

ットの表面部分をいう。実効焦点は基準面

への実焦点の垂直投影されたものをいう。

したがって、ターゲット角度によって同じ

実効焦点であっても、実焦点を変えること

ができる。ターゲット角度は実焦点面と基

準軸とがなす角度をいう。

2)X 線管の放射強度分布

熱電子が高速でターゲットに衝突した場

合、熱電子はターゲットの表面だけでなく、

ある程度の深さまで進入する(タングステ

ンターゲットの場合、管電圧 100 kV で 6

~10 μm 程度といわれている)。したがっ

て、ターゲットに衝突した熱電子はターゲ

IVR用 X線装置の基礎

3 日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構

ットの表面だけでなく、ターゲット物質の

中で X 線は発生する。したがって、ターゲ

ット角度によって放射される X 線の強度お

よび線質は異なる。

3)管電流特性

① X 線管の v‐i 特性

電子管には陰極に対し陽極を正電位にし

たとき陽極電流が流れるが、逆の極性の場

合は流れないという性質(整流作用)があ

る。空間電荷電流は管電圧の 3

2 乗に比例し、

電極間距離の 2 乗に反比例する。

② 管電流特性

X 線管負荷条件における、管電流とフィ

ラメント電流との関係(JIS Z 4751-2-28)。

③フィラメント特性

フィラメントに加える電圧とフィラメン

ト電流との関係(JIS Z 4751-2-28)。

3.X 線高電圧装置

循環器用 X 線高電圧撮影装置は低管電圧、

大管電流、短時間撮影で使用されることか

ら、極わずかな管電圧・管電流波形の変化

が X 線出力に大きく影響する。したがって、

高電圧装置は、管電圧波形の立ち上がり・

立下りの早い矩形波を要し、管電圧リプル

百分率が 4 %以下であることまた、短時間

制御で長時間繰り返し X 線照射をすること

などから、X 線出力の再現性および直線性

が保たれた装置が望まれる。こうした理由

から今まで、X 線高電圧装置の整流方式は

定電圧形 X 線高電圧装置が主に使われてい

たが現在は、小形軽量で且つ定電圧形 X 線

高電圧装置に匹敵するかそれ以上の性能を

持つインバータ式 X 線高電圧装置が用いら

れている。

一方循環器撮影では、X 線吸収が刻々と

変化する被写体を撮影するため、自動露出

制御装置は不可欠であるとともに、被写体

厚、管電圧および応答特性の優れた自動露

出制御装置が求められる。

3.1 インバータ式 X 線装置の特徴

1)小形、軽量

インバータ周波数を高周波にすることで、

高電圧変圧器を小形化できる。

2)精度、再現性、短時間特性に優れる

高圧側で管電圧を検出して一次電圧のイ

ンバータ回路にフィードバック制御を行う。

3)管電圧リプル百分率の低減

高電圧ケーブルの浮遊容量により、イン

バータ周波数を高くするほど、リプル百分

率を小さくできる。

4)単相電源で三相装置並みの X 線出力

交流電源を直流に変換した後、高周波交

流にするため管電圧リプル百分率の少ない

X 線出が得られる。

5)電源容量

最大定格は電源容量、電源インピーダン

スの制限を受ける。

6)電源位相

交流を直流に変換するため、電源周期と

無関係に X 線制御ができる。

3.2 インバータの基本動作

X 線装置に使用されるインバータ回路は、

半導体制御素子を 4 個ブリッジ状に接続し

たフルブリッジインバータが主流である。

インバータの基本回路と基本動作を図 6 に

示す。

基本動作ではスイッチ S2と S3、S1と S4

が常に同じスイッチングになる。期間 t1は

S2と S3がオンで正極性の電圧が発生し、電

流 Ilは図に示した方向に流れる。期間 t3は

S1 と S4 がオンのとき t1 とは逆極性の電圧

が負荷にかかり、電流 Il は図に示したよう

IVR用 X線装置の基礎

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に逆極性に流れる。期間 t2、t4 はスイッチ

S1、S2、S3、S4 のすべてがオフとなる休止

期間をあらわす。このように期間 t1~t4 を

繰り返すことで負荷に加わる電圧は方形波

状の交流電圧になる。交流電圧の周波数は

スイッチの切換え周期で決まる。

図 6 インバータの基本回路

3.3 インバータ回路の分類

インバータには共振形インバータと方形

波(非共振形)インバータがる。インバー

タの出力波形を図 7 に示す。

図 7 インバータ回路の分類と出力波形

方形波形インバータはブリッジインバータ

で直流電圧を ON/OFF を繰り返すること

で方形波の出力電圧を得られる。スイッチ

ング素子は、パワートランジスタ、GTO、

IGBT および MOSFET などが使用される。

共振形インバータは高電圧変圧器のインダ

クタンス Lと共振コンデンサCを用いた共

振現象を利用したもので、出力電圧は正弦

波となる。

3.4 方形波形インバータ式 X 線高電圧装置

方形波形インバータ式 X 線高電圧装置の

特長は、負荷条件を細かく設定でき、軽負

荷から重負荷まで広範囲に制御が必要な X

線装置として有利である。マイナス面とし

て、チョッパ‐フィルタ回路を有すること

から、回路を必要としない装置と比較した

場合、高価になる。方形波形インバータ式

X 線高電圧装置の基本回路を図 8 に示す。

図 8 方形波インバータ式 X 線高電圧装置の基本回

方形波形インバータ式 X 線高電圧装置の

動作を以下に記述する。単相または三相電

源から供給された電力は

1)AC-DC コンバータで整流されコンデン

サによって平滑される。

2)DC-DC コンバータはチョッパ回路とフ

ィルタ回路からなり、チョッパ回路から出

力された方形波パルスをフィルタ回路で平

均化する。管電圧はチョッパ回路から出力

されるパルス電圧幅を制御して調整される。

3)フルブリッジインバータはチョッパ‐フ

ィルタ回路から出力された直流電圧を方形

波交流に変換し、かつ高周波化し高電圧変

圧器に供給する。

IVR用 X線装置の基礎

5 日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構

4)高電圧変圧器に供給された方形波交流電

力は全波整流に変換され、高電圧ケーブル

の静電容量(約 250 pF/m)で平滑される。

3.5 共振形インバータ式 X 線高電圧装置

共振形インバータ式 X 線高電圧装置の特

長は、チョッパ回路が要らないため、方形

波形に比べ小形軽量および安価にできる。

欠点として、軽負荷ほど周波数が低いため

管電圧リプルが大きくなる傾向にある。

装置の基本動作回路を図 9 に示す。

図 9 共振形インバータ式 X 線高電圧装置の基本回

1)AC-DC コンバータは単相または三相

商用交流電源入力を整流後、大容量電解コ

ンデンサで平滑する回路である。

2)共振形インバータは AC-DC コンバータ

からの出力電圧は、共振形インバータに加

えられる。共振形インバータは、高電圧変

圧器の一次巻線に対して、共振用コンデン

サCと共振用インダクタンス Lが直列に接

続されていて、この C と L による共振現象

を利用した装置で出力波形は正弦波となる。

3)高周波化された出力交流電力は、高電圧

装置で全波整流され周波数が高いので高電

圧ケーブルの静電容量で平滑され理管電圧

リプルの小さい管電圧波形となる。

3.6 インバータ式 X 線高電圧装置の基本制

(1)整流回路(AC-DC コンバータ)

インバータ式 X 線高電圧装置の整流回路

を図 10 に示す。

図 10 整流回路(左)負荷時のオシログラム(右)

整流回路は、商用電源(交流)を整流・

平滑する回路である。整流器にはダイオー

ドまたはサイリスタが使用される。平滑用

コンデンサ C は数十 mF の大容量電界コン

デンサが用いられ、整流後の脈流を直流に

平滑する。オシログラムは X 線負荷 100

kV,800 mA, 80 ms 時の整流回路の一次電

圧波形(P.V)である。電圧降下はあるが X

線負荷には問題なく正確に出力されている。

(2)管電圧制御

1)方形波形

DC-DC コンバータ(直流電圧可変回路)

DC-DC コンバータの基本動作を図 11 に示

す。

図 11 DC-DC コンバータの基本動作

管電圧制御はチョッパとフィルタ回路で構

成される DC-DC コンバータとインバータ

回路によって制御され、チョッパから出力

された方形波パルスはフィルタで平均化さ

IVR用 X線装置の基礎

6 日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構

れる。入力電圧を 𝑉𝑖、 出力電圧を𝑉𝑜、スイ

ッチングトランジスタ𝑇𝑟がオンしている時

間𝑇𝑜𝑛 (s) とすると、 𝑇𝑟の通電時間にイン

ダクタンス𝐿𝑓に加わる電圧は𝑉𝑖−𝑉𝑜となる。

この期間の電流変化量 ∆I𝐿𝑂𝑁 は 𝐼𝐿𝑜𝑛 =

(𝑉𝑖−𝑉𝑜)

𝐿𝑓× 𝑇𝑂𝑁となる(1)。𝑇𝑟がオフしている

期間は転流ダイオードDが導通しインダク

タンス L には−𝑉𝑜 の電圧が加わるため、こ

の期間の電流変化量∆𝐼𝐿𝑜𝑓𝑓は∆𝐼𝐿𝑜𝑓𝑓 =−𝑉𝑂

𝐿𝑓×

𝑇𝑜𝑓𝑓であらわされる(2)。

インダクタンス𝐿𝑓に流れる電流が連続的な

場合、定常状態はオンとオフの期間が等し

くなる{(1)+(2)=0}。したがって、

𝑉𝑜 =𝑇𝑜𝑛

𝑇𝑜𝑛+𝑇𝑜𝑓𝑓× 𝑉𝑖となり

𝑇𝑜𝑛

𝑇𝑜𝑛+𝑇𝑜𝑓𝑓をデューテ

ィ比(1 パルスの時間/1 周期の時間)とい

う。

出力電圧 V0 はチョッパのデューティ比に

比例するので、チョッパの周波数を一定し

てデューティ比を変えれば直流一次電圧

VOを制御することができる。デューティ比

を変えて管電圧を制御する方法をパルス幅

変調(PWM: pulse width modulation)と

いう。

図 12 インバータ制御電圧波形

公称最大電力 80 kW、最大インバータ周波

数 15 kHz の高電圧装置における管電圧

100 kV 時のインバータの制御電圧信号を

図 12 に示す。左は管電流 50 mA、右は管

電流 500 mA である。X 線負荷の違いでイ

ンバータの導通時間が変わり、デューティ

比が変化していることがわかる。

2)共振形

共振形インバータ式高電圧装置の周波数

変調制御方式のインバータ制御信号と、一

次電流の関係を表したものを図 13 に示す。

図 13 インバータ制御信号と一次電流波形

X 線照射信号が加えられるとインバータ回

路の半導体素子 Tr2-Tr3、Tr1-Tr4 が交互に

導通し、共振用コンデンサ C とインダクタ

ンス L および高電圧変圧器の一次巻線を通

じて正弦波電流が流れる。

軽負荷時では、一組のインバータが ON の

とき、一つの方形波パルス電圧に対し半周

期 π√𝐿𝐶[s]の正弦波電流が流れる。方形

波パルス幅𝑇𝑟𝑜𝑛は一定であるが、インバー

タの休止時間𝑇𝑟𝑜𝑓𝑓が長いため、一次電流波

形も断続的になる。このとき方形波パルス

の一周期期間は長くなり周波数は低下する。

大負荷時では、インバータの休止時間が短

くなるため、インバータ周波数は高くなり、

一次電流波形は連続した波形となる。周波

数変調制御は、このようにインバータの動

作周波数およびパルス幅を変化させて、直

流から交流変換と同時に出力電圧を制御し

て管電圧を調整する方法である。公称最大

電力 80 kW、最大インバータ周波数 30 kHz

の高電圧装置における管電圧 100 kV、管電

流 50,200,500 mA時のフルブリッジインバ

IVR用 X線装置の基礎

7 日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構

ータの一次電流波形と管電圧波形の関係を

表したオシログラムを図 14 に示す。

図 14 管電圧波形(U)と一次電流波形(PC)

管電流 50 mA はインバータの休止時間が

長く、インバータ周波数が低いので管電圧

が放電し管電圧リプルが大きくなる。管電

流が 200 mA では、インバータの休止時間

が 50 mA 時に比べ短く、一次電流も連続的

になっている。

管電流 500 mA では、インバータの休止時

間が極短くインバータ周波数が高くなり一

次電流波形も正弦波に近くなっている。

(3)管電流制御

管電流制御は、一般的にインバータを使用

した半導体交流加熱方式が使用されている。

特徴としては、

1)フィラメント加熱をインバータで高周波

化することで、管電流は加熱電源周波数の

リプルの影響を受けにくくなり、X 線出力

はより安定する。

2)フィードバック制御のため X 線出力は

安定し、応答性に優れる。

3)X 線管の管電流特性に対応した非線形制

御ができる。

4)予備加熱や撮影時のダイナミック制御が

可能である。

5)CPU による制御が可能となり、空間電

荷補償や X 線管の特性に応じた高精度の補

正が可能となる。

6)X 線管を流れる管電流を実測する機能を

持つ装置では、X 線管フィラメントの経時

的変化に対応することが可能。

などの点が上げられる。

(4)照射時間

X 線撮影時間を設定および制御する限時

(タイマ)装置は変圧器式 X 線高電圧装置

に用いられるものとなんら変わりはない。

インバータ式 X 線高電圧装置の照射時間の

制御はタイマ回路からの信号でチョッパ駆

動回路およびインバータ駆動回路を制御す

ることで行われる。このチョッパおよびイ

ンバータ駆動回路の周波数は数十kHzと高

周波化されているため、管電圧波形の立ち

上がりおよび立下り時間、X 線遮断の応答

遅れなどは従来の 12 ピーク形 X 線高電圧

装置と比較し数段短く高精度となっている。

こうした特性の向上は自動露出制御装置と

組み合わせた場合、X 線制御の遅延がなく、

自動露出制御装置の応答特性を大幅に向上

させることができる。

4.管電圧波形と X 線出力

循環器撮影で使用される X 線高電圧装置

は、撮影対象となる被写体は動態であるこ

とから連続で短時間撮影が要求される。ま

た、描写される画質は適度のコントラスト

を要求されるので、低管電圧で大管電流が

出力される装置が必要となる。こうした撮

影条件を考えた場合 X 線発生装置(X 線源

装置、X 線高電圧装置)は高度な X 線制御

を有したものを求められる。

従来使用されてきた 12 ピーク形 X 線高

電圧装置では、X 線制御には電源位相によ

る制限を受けるため、テトロード管による

二次側制御を行ってきた。現在は、半導体

制御素子の高性能化に伴ってインバータ式

X 線高電圧装置が使用されるようになった。

管電圧波形の違いによる X 線出力(蛍光強

度)の変化を図 15 に示す。

IVR用 X線装置の基礎

8 日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構

図 15 管電圧波形と X 線出力(U:管電圧 I:管電流

F:蛍光強度)

X 線出力は同一照射時間であっても、管電

圧の立ち上がり立下りが早く、管電圧リプ

ル百分率の少ない波形が有利であることが

理解できる。

循環器撮影の中でも最も厳しいシネ撮影時

の X 線出力の違いを図 16 に示す。

図 16 シネ撮影時の管電圧波形と X 線出力(U:管

電圧 I: 管電流 F:蛍光強度)

オシログラム右上の装置はコンデンサを使

用した装置で、管電圧の立ち上がり立下り

時間は早いが、放電による管電圧低下が大

きく X 線出力は大きく低下する。オシログ

ラム左上はテトロード管による二次側でス

イッチングを行った 12 ピーク形 X 線高電

圧装置である。管電圧の立ち上がり立ち下

りは早いが、12 ピーク形による管電圧リプ

ル百分率が X 線出力に影響している。オシ

ログラム左下はインバータ式であるが、管

電圧リプル百分率が大きくまた、管電圧の

立ち上がり時の波形変化が X 線出力に影響

をおよぼしている。オシログラム右下の装

置はインバータ式装置であるが、管電圧の

立ち上がり立ち下りが早くまた、管電圧リ

プルも少なく X 線出力波形は矩形波である。

これらのことから循環器に用いられる X 線

発生装置は短時間、定電圧、大電流撮影が

可能な高電圧装置でなくてはならない。ま

たこうした撮影に十分耐えうる X 線管装置

が必要となる。

パルス透視による管電圧波形と X 線出力

波形の関係を図 17 に示す。

図 17 パルス透視による管電圧(U)および蛍光強

度(F)波形

オシログラム上は三極X線で波尾切断時の

X線出力波形である。管電圧の波尾切断に

より管電圧が高くなっても矩形波で制御さ

れている。オシログラム下は波尾切断を行

っていない管電圧とX線出力波形である。

管電流が少ないため、高電圧ケーブルの浮

遊容量に影響で管電圧が高くなるほど波尾

を引くことがわかる。この波尾によって被

IVR用 X線装置の基礎

9 日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構

曝が増すことが考えられる。

5.IVR 用 X 線装置に関する JIS

5.1 X 線高電圧装置

IVR用X線装置のX線高電圧装置に関係

する JIS(日本工業規格)を図 18 に示す。

図 18 IVR 用 X 線高電圧装置関連 JIS

IEC(国際電気標準会議)は各 JIS 原案作

成に翻訳したものである。IDT は identical

(一致)の意味で、国際規格と一致してい

ることを示す。MOD は modified(修正)

を意味し、国際規格を修正していることを

示す。

1)JIS T 0601-1 は医用電気機器および医用

電気システムの電気機器の安全と機器およ

びシステムの基本性能について規定し、個

別規格に対して基礎を与えるものから親規

格である。

2)JIS T 0601-1-3 は診断用 X 線装置にお

ける X 線防護の一般要求事項を規定し患者、

操作者、その他の従事者および一般市民が

受ける照射を放射線学医療の恩恵を損なう

ことのないように規格されたものである。

3)JIS Z 4751-2-7 は X 線発生装置(X 線源

装置、X 線高電圧装置)および一体形 X 線

装置の一般要求事項の安全の適合性を規定

している。

4)JIS Z 4751-2-54 は X 線撮影および X 線

透視を行う医用電気機器または医用電気シ

ステム全体の基礎安全、基本性能について

規定したJISで、X線装置全体の規格ある。

5)JIS Z 4751-2-43 は上記の JIS(撮影・

透視用 X 線装置-基礎安全及び基本性能)を

基本として、IVR 用 X 線装置の設計および

製造に関する基礎安全および基本性の要求

事項、IVR の手技から生じる患者または従

事者の放射線リスクおよび装置の故障によ

るリスクを管理している責任者に対し情報

を明確化したものである。

5.2 X 線管装置

X線管装置に関連するJISを図19に示す。

図 19 X 線管装置関連 JIS

1)JIS Z 4751-2-28 は X 線源装置および X

線管装置の設計および製造に関しての個別

要求事項を確立し、安全を確保し使用者の

適切な使用および医療従事者の放射線リス

クなどの情報を記載した。

2)JIS Z 4120 は診断用 X 線装置に使用す

る医用 X 線管装置の焦点特性を記載したも

のである。焦点特性の測定方法、およびそ

の適合性を明記している。

3)JIS Z 4121 は診断・治療に用いる X 線

管装置の固有ろ過の概念を定義し、固有ろ

過の決定方法について規定している。また、

総ろ過を得るための適切な付加ろ過を提供

するため、X 線乾燥地の固有ろ過求める方

法についても記載してある。

4)JIS Z 4122 は X 線源装置および X 線管

装置の最大対称照射野の測定方法につて規

定したもので、相対空気カーマ率が許容値

IVR用 X線装置の基礎

10 日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構

を下回らないように、焦点から指定の距離

で幾何学的な対象照射野の最大値を決める

方法を記載している。

5)JIS T 60613 は医用に使用する固定およ

び回転陽極 X 線管の負荷特性について定義

したもので、特性の適正な測定方法を規定

した製造業者および責任部門に関する規格

である。従来、X 線管陽極入力は撮影前の

冷えた状態での電力で表していたが、この

規格から「公称撮影陽極入力」、「公称 CT

陽極入力」、「CT スキャン入力」などが追加

され稼動時の陽極入力が明記されている。

上記 JIS の中で主な規格の値を下記の図で

示す。

診断用 X 線装置の電気安全

診断用 X 線装置の放射線安全

IVR 用 X 線装置-基礎安全及び基本性能

IVR 用 X 線装置-基礎安全及び基本性能

6.おわりに

診断用 X 線装置の品質・安全管理は日常

使用している X 線装置の動作特性を熟知し

た上で行えるものである。こうした行為は、

患者が安心して受けられる検査および治療

に結びつくとともに、医師に正確で適切な

情報を提供できると考える。IVR 専門認定

技師は医用画像装置の品質保証および品質

管理を確立し、品質維持のための活動を進

めることを期待する。