jica ネパール国 地方都市における水道事業強化 プロジェクト...-2-...

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1ネパール国では、近年の人口増加(増加率2.095%2008年推計)や経済発展(成長率:2.5% 2007年推計)、 によって水需要の急激な増加とともに水質の悪化が 深刻化しており、安全な飲料水の確保が喫緊の課題 となっている。 ネパールにおける水道事業実施体制は、地方行政 法に基づき地方自治体への移管が掲げられている。 都市開発省上下水道局(DWSS)が担当する中規模地 方都市部から村落部については、DWSS 等が予算措 置を行い、水道施設を建設した後、地元の水道事業 (WUSC)へ移管し、 WUSC 主体で水道施設の運転・ 維持管理を行っている。しかし、中小規模の WUSC では組織体制・技術水準が未熟であるため経済面・ 技術面ともに極めて脆弱であり、適正な予算・人員 配置の欠如、財政計画の不在等、経営面での問題点 もあり、健全な水道事業運営のために克服すべき課 題が山積している。中小規模の多くの WUSC では、 適切な給水施設の維持管理がなされておらず、故障 した水道施設が修理されず放置されているなど、適 切かつ安全な水が住民に供給されなく、その改善も なされないことが課題となっている。また、WUSC に対してDWSSの支援が必要であるにもかかわらず、 WUSCへ施設の運転維持管理の指導を担う郡上下水 道事務所(WSSDO)及び地域モニタリング監督事務所 (RMSO)が弱体で適切な支援がなされていないこと が課題となっている。 こうした中、日本の無償資金協力で、カトマンズ 盆地内及びネパール国内主要地方都市(ジャパ郡・ モラン郡、他)において上水道施設の改善・新設な どネパール全域で事業を進めてきたほか、都市開発 (MoUD)への水道政策アドバイザーの派遣を実施 している。 そこでネパール国での安全な水の供給体制を高め ていくためには、施設整備のみならず、WUSCの人 材育成及び経営の健全化と、指導・支援するDWSS JICA プロジェクトブリーフノート ネパール国 地方都市における水道事業強化 プロジェクト ‐上下水道局による支援体制の構築と作業マニュアル及びビジネスプラン作成を通じた 地方都市水道事業体の能力向上‐ 2013 10 ネパール連邦民主共和国 対象の東部地域 1.プロジェクトの背景と問題点

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    ネパール国では、近年の人口増加(増加率2.095%:

    2008年推計)や経済発展(成長率:2.5%:2007年推計)、

    によって水需要の急激な増加とともに水質の悪化が

    深刻化しており、安全な飲料水の確保が喫緊の課題

    となっている。

    ネパールにおける水道事業実施体制は、地方行政

    法に基づき地方自治体への移管が掲げられている。

    都市開発省上下水道局(DWSS)が担当する中規模地

    方都市部から村落部については、DWSS 等が予算措

    置を行い、水道施設を建設した後、地元の水道事業

    体(WUSC)へ移管し、WUSC 主体で水道施設の運転・

    維持管理を行っている。しかし、中小規模の WUSC

    では組織体制・技術水準が未熟であるため経済面・

    技術面ともに極めて脆弱であり、適正な予算・人員

    配置の欠如、財政計画の不在等、経営面での問題点

    もあり、健全な水道事業運営のために克服すべき課

    題が山積している。中小規模の多くの WUSC では、

    適切な給水施設の維持管理がなされておらず、故障

    した水道施設が修理されず放置されているなど、適

    切かつ安全な水が住民に供給されなく、その改善も

    なされないことが課題となっている。また、WUSC

    に対してDWSSの支援が必要であるにもかかわらず、

    WUSCへ施設の運転維持管理の指導を担う郡上下水

    道事務所(WSSDO)及び地域モニタリング監督事務所

    (RMSO)が弱体で適切な支援がなされていないこと

    が課題となっている。

    こうした中、日本の無償資金協力で、カトマンズ

    盆地内及びネパール国内主要地方都市(ジャパ郡・

    モラン郡、他)において上水道施設の改善・新設な

    どネパール全域で事業を進めてきたほか、都市開発

    省(MoUD)への水道政策アドバイザーの派遣を実施

    している。

    そこでネパール国での安全な水の供給体制を高め

    ていくためには、施設整備のみならず、WUSCの人

    材育成及び経営の健全化と、指導・支援するDWSS

    JICA プロジェクトブリーフノート

    ネパール国

    地方都市における水道事業強化

    プロジェクト ‐上下水道局による支援体制の構築と作業マニュアル及びビジネスプラン作成を通じた

    地方都市水道事業体の能力向上‐ 2013 年 10 月

    ネパール連邦民主共和国

    対象の東部地域

    1.プロジェクトの背景と問題点

  • -2-

    の各機関の役割の明確化と能力強化が必要である。

    こうした状況の中、ネパール国のMoUD(都市開

    発省)より地方都市の水道事業強化のための技術協

    力プロジェクの要請が日本国政府に対してなされた。

    本プロジェクトでは東部地域のジャパ郡及びモラン

    郡において、DWSS, ERMSO及びWSSDOが実施する

    WUSCへの技術支援体制が強化されることを目的と

    した。なお、ジャパ、モラン郡では、日本の無償資

    金協力「ネパール国地方都市上水施設改善計画」に

    より建設された浄水場が2007年7月から稼働してお

    り、本技術協力プロジェクトは無償資金協力事業の

    連携案件としても重要な位置づけとなっていた。

    本技術協力プロジェクトは、WASMIP (Water

    Supply Management Improvement Project)と称してカ

    ウンターパート(C/P)及び対象地域住民に憶えてもら

    いやすい名称とした。WASMIPでは、JICA専門家チ

    ームとDWSSが協働して、無償資金協力で水道施設を

    建設した3つのWUSC(ドゥラバリ、ゴウラダ及びマ

    ンガドゥWUSC)において、給水サービスの改善を

    図りながら、DWSSのWUSCへの技術支援体制の強化

    及びWUSCの水道サービス向上を図るための活動を

    進めた。さらにその実施プロセスをモデル及び標準

    作業手順書(SOP)等に取りまとめ、技術・経営・財務

    体制を強化する方法を標準化したモデルを構築し、

    他のWUSCへ普及を進めることとした。プロジェク

    トの目標と成果は右囲みのとおりである。

    本プロジェクトの C/P を図 1 に示す。対象となる

    WUSCは 20であるが、DWSS及びWSSDOの下部組

    織ではなく、組合として独立し水道事業を運営して

    いる。プロジェクトでは、カトマンズにプロジェク

    ト事務所を置き、DWSS を主要な C/P とした。一方

    で、実際に現場で技術指導を行う拠点として、モラ

    ン・ジャパ郡の WSSDO に作業事務所を設置した。

    それぞれの郡でWUSCに対して技術指導を行う際に

    は、WSSDO と協働で実施し、技術指導のワークショ

    ップ/実地訓練(OJT)を通じて人材育成を図った。なお、

    ワークショップ/OJT では、DWSS, WSSDO のスタッ

    フにも、併せてトレーナーズトレーニング(TOT)を実

    施した。

    図 1 本プロジェクトのカウンターパート

    プロジェクト実施のアプローチとして図 2 に示す

    ように、①キャパシティ・アセスメントの実施、②

    SOP の開発、③WASMIP 運営モデルの開発、④

    2.問題解決のためのアプローチ

    都市開発省(MoUD)

    上下水道局(DWSS)

    東部地域モニタリング監督事務所(ERMSO)

    ジャパ郡上下水道事務所(WSSDO)

    モラン郡上下水道事務所(WSSDO)

    11 水道事業体(WUSC) 9 水道事業体(WUSC)

    【上位目標】

    本プロジェクトで構築した上下水道局側のモ

    デルが全国に普及し、水道事業体への技術支

    援体制が強化される。

    【プロジェクト目標】

    プロジェクト対象となるモラン及びジャパ郡

    において、上下水道局による水道事業体への

    技術支援体制が強化される。

    【成果 1】

    プロジェクト実施のための基礎情報及び指標

    に必要な情報が収集され、適切なプロジェクト

    マネジメントが実施されるとともに、適切な水

    道事業運営のためのモニタリングが定期的に実

    施される。

    【成果 2】

    地域と郡の上下水道事務所及び水道事業体に

    【上位目標】

    本プロジェクトで構築した上下水道局側のモ

    デルが全国に普及し、水道事業体への技術支

    援体制が強化される。

    【プロジェクト目標】

    プロジェクト対象となるモラン及びジャパ郡

    において、上下水道局による水道事業体への

    技術支援体制が強化される。

    【成果 1】

    プロジェクト実施のための基礎情報及び指標

    に必要な情報が収集され、適切なプロジェクト

    マネジメントが実施されるとともに、適切な水

    道事業運営のためのモニタリングが定期的に実

    【上位目標】

    本プロジェクトで構築した上下水道局側のモ

    デルが全国に普及し、水道事業体への技術支

    援体制が強化される。

    【プロジェクト目標】

    プロジェクト対象となるモラン及びジャパ郡

    において、上下水道局による水道事業体への

    技術支援体制が強化される。

    【上位目標】

    本プロジェクトで構築した上下水道局側のモ

    デルが全国に普及し、水道事業体への技術支

    援体制が強化される。

    【プロジェクト目標】

    プロジェクト対象となるモラン及びジャパ郡

    において、上下水道局による水道事業体への

    技術支援体制が強化される。

    【成果 1】

    プロジェクト実施のための基礎情報及び指標

    に必要な情報が収集され、適切なプロジェクト

    マネジメントが実施されるとともに、適切な水

    道事業運営のためのモニタリングが定期的に実

    施される。

    【成果 2】

    地域と郡の上下水道事務所及び水道事業体に

    関するモデルとして、中小規模水道事業体支援

    モデルと中小規模水道事業運営モデルが取りま

    とめられる。

    【成果 3】

    対象 2郡において、成果 2のモデルが普及する。

  • -3-

    WASMIP 支援モデルの開発の手順で行った。

    図 2 プロジェクト実施のアプローチ

    (1) キャパシティ・アセスメント

    プロジェクト実施のためのアプローチとして、ま

    ず C/P のキャパシティ・アセスメント(CA)を実施し

    た。現場レベルでは前述の 3 WUSC(ドゥラバリ、

    ゴウラダ及びマンガドゥ WUSC)を対象として、現

    状の組織、個人の能力を評価し、顕在・潜在してい

    る問題及び改善・強化が必要な事項を抽出した。さ

    らにWUSCを監督・指導、支援する役割を担うジャ

    パ、モランWSSDO 及び DWSS の現行での支援と必

    要とする支援とのギャプを埋める方策を検討した。

    問題として、WUSC では、安全な飲料水を廉価で

    広く住民に給水することを使命に掲げているが、給

    水水質を定期的に測定しておらず、安全な飲料水が

    確保されていない。また、水道施設の定期点検、補

    修がなされておらず機械電気設備の故障、無収水量

    の増大などで住民への給水量が減尐、水道事業体の

    経営計画がないことから適正な水道料金が設定でき

    ない。さらに施設拡張、更新の費用が確保・調達で

    きない、水需要に対する供給不足が生じ、顧客サー

    ビスの低下などの問題が明らかになった。現状では

    これらの問題を抱えながらも点検、補修とその記録

    や運転維持管理(O&M)マニュアルがないことから故

    障時の対応が適切になされておらず、住民からの苦

    情のみに対応していた。一方、WSSDOにおいても職

    員の技術面、経営面での知識、技術が不足しており、

    定期的かつ適切な監督指導を実施しておらず、

    WUSC との連携も不十分であった。また、WUSC,

    WSSDO とも職員交代時には引き継ぎが不十分であ

    り、現場対応では経験と勘を頼りにしていた。

    (2) SOPの開発

    そこで技術面の強化では、CA の結果に基づいて

    SOP を開発した。経営面ではWUSCの中長期経営計

    画(ビジネスプラン)の策定支援を行うこととした。

    上水施設の運転維持管理を適切な方法で行うべく、

    3分野 6種類の SOP を開発した。

    1) 浄水場運転維持管理及び水質管理の SOP

    浄水場の適切な O&M(操作、運転記録)と浄水プ

    ロセスを考慮した上での水質管理を行う。

    2) 配水施設維持管理及び新規計画策定の SOP

    配水施設の適切な維持管理(運転、点検、修理、

    記録)と配水の新規計画(検討事項、計画手順、行

    き止まり配管対策など)を行う。

    3) 水道メータ検針及びメータ精度管理の SOP

    家庭用水道メータの管理方法(保管、記録)や適

    切な取り扱い(敷設、管理、修理)と水道メータの

    校正方法を示した。

    これら SOP は先に挙げた 3 WUSC へまず適用し、

    OJT を通じて現場での適用性を高めた。同時に

    WSSDO に対して TOT により C/P の指導能力を高め

    た。

    (3)WASMIPモデル

    WASMIP では地方上水道改善のため 2つのモデル

    を策定した。ひとつは「中小規模水道事業運営モデ

    ル」(運営モデル)であり、住民への給水サービス

    向上のため水道事業体が水道システムを適切に運転

    維持管理することを目的にしている。もう1つは「中

    小規模水道事業体支援モデル」(支援モデル)で、

    DWSS が給水サービス改善活動のために水道事業体

    を支援することを目的にしている。

    1) 中小規模水道事業体運営モデル(運営モデル)

    運営モデルは、WUSCが望ましい給水サービス(安

    全な水を豊潤に、安定的に廉価で、なるべく多くの

  • -4-

    住民に供給する)を実施するためのコンセプトを示

    しており、その到達に必要な活動のため SOP に加え

    ビジネスプランをツールとして位置づけている。

    WUSC の望ましい給水サービスの実現には、給水

    能力が水需要に応えられるものであること、財務的、

    持続的、安定的に給水事業を十分継続できる能力を

    保持すること、そして設備の運転維持管理も含めた

    事業を運営していける組織能力を保持することが必

    要である。十分な給水能力及び財務能力は、主にビ

    ジネスプランで目標を定め、その目標が実現できる

    活動を行い、水道料金改定を含む財務能力確保のた

    めの財務行為を行うことで実現できる。ビジネスプ

    ランを実現していくことで、段階的に先の理想的な

    状態を達成していくことが出来る。十分な組織運営

    能力は、SOP などを活用し、業務処理のやり方を標

    準的なプロセスにしていくと共に、職員の能力強化

    を図っていくことで実現できる。

    一方、DWSSはWUSCが策定したビジネスプラン

    に基づいて水道政策の立案とWUSCへの予算配分に

    活用することが出来る。DWSS/WSSDOからの技術、

    財務支援により WUSC の組織、機能及び財務能力を

    強化し、WUSC ではビジネスプランに基づいて活動

    し、理想のサービスを実現することが可能となる。

    2) 中小規模水道事業支援モデル(支援モデル)

    支援モデルは、DWSS 及び WSSDO が、安定した

    給水サービスを提供できるようWUSC の組織、技術

    及び財務の能力を向上させ、支援するためのガイド

    ラインである。支援モデルのコンセプトは、WUSC

    のあるべき姿に向けて適正な水道施設の O&M 及び

    水道経営を行うため、WUSC を技術面と財務面にお

    いて支援するものである。

    支援モデルでは、主に 4 つのツールを用いて支援

    する。そのツールとは、1) Maintenance Inspection Team

    (MIT), 2) Management Advisory Team (MAT), 3)

    Monitoring Evaluation Team (MET) 及び現場研修

    (Practical Training)である。METとMATは主にWUSC

    の経営計画と財務諸表作成などを支援し、MIT は

    SOP に基づく活動及び施設運転維持管理を支援する。

    現場研修(Practical Training)は、MET, MAT 及びMIT

    の活動を通じ、現場の要望に基づいて研修を実施す

    るものである。支援モデル及び運営モデルの概念図

    を図 3に示す。

    図 3 WASMIPモデルの概念図

    支援モデルの概念では、3 WUSC が現実的なモデ

    ルを追求する良いベンチマークとなり、他の WUSC

    が 3 WUSC に追いつけるように協力関係を築く。ま

    た、運営モデルは SOP とビジネスプランから構成さ

    れるため、WUSC それぞれが独自の運営モデルを持

    つことを意味している。WUSC によって運営、経営

    条件が異なるため、独自のビジネスプランを策定し、

    また水道施設構成、条件も異なることから SOP を改

    訂し、活用していくことが求められる。

    支援モデルでは、運営モデルとの位置付けを示し、

    ツールの実施主体、目的、役割及び活動内容を明確

    にした。図 4 に支援モデルのツールと運営モデルと

    の位置づけを示す。

  • -5-

    プロジェクトの成果及び指標に基づいた実践結果

    を次に示す。

    (1) 成果 1に関する実践結果(モニタリング実施)

    DWSS/WSSDO のメンバーで WUSC 運営のモニタ

    リング・評価チーム(MET)を立ち上げた。WUSC の

    モニタリングはプロジェクト期間中に 4 回実施し、

    WUSC を集めたモニタリング/評価連絡協議会を計

    3 回開催し、その結果を発表した。連絡協議会では、

    DWSS により優秀なWUSC に対して表彰を行い、各

    WUSC に運営モデル活用のインセンティブを与えた。

    第 4回のモニタリング/評価は、JICA 専門家不在

    時期に行われ、C/P が主体的に実施した。その連絡会

    議において、各WSSDO/WUSCはWASMIPモデル(運

    営モデルと支援モデル)の運用は水道施設の O&M、

    水道事業運営に有効で、今後も活用していくことを

    明言した。また、プロジェクト終了後も連絡協議会

    を継続するための小委員会が結成され、継続的なモ

    ニタリングを実施して、意見交換の場を設けること

    とした。

    写真 1 モニタリング/連絡協議会の様子

    図 4 支援モデルのツールと位置づけ

    3.アプローチの実践結果

  • -6-

    (2) 成果 2 に関する実践結果(WASMIP モデル策定)

    水道事業のあり方に関しては運営モデル、WUSC

    支援業務のあり方に関しては支援モデルとして作成

    した。運営モデルの一部を構成する SOP はこれまで

    のワークショップ/ OJTを経て改訂を行ってきた。特

    に WSSDO から実態に応じた内容の追記(例えば、

    井戸チェックシート、水道計画諸元、施設仕様など)

    の提言があり、これを取り入れた。また、SOP を現

    場で効果的に活用するためにもネパール語での適切

    な記述が必要であり、WSSDOよりネパール語版 SOP

    の加筆修正がなされ、より実用的となった。

    DWSS及びジャパ、モランWSSDOが SOP に基づ

    いた配水施設維持管理/水道メータ管理に関するワー

    クショップ/ OJTの講師を務めた。C/P の直接指導に

    より通訳を必要としないことから活発な議論となり、

    細かい箇所まで説明が行き届いた。

    水質管理においては、DWSS/WSSDO のトレーナ

    ー養成を図り、WUSC に水質管理のあり方を説明・

    普及した。特に 3 WUSCでは、商品である水質を保

    証するため、料金窓口に水質測定結果を表示した。

    写真 2 C/Pによるワークショップの様子

    運営モデル及び支援モデル(素案)がまとまった

    時点で、モデルを紹介するワークショップを開催し

    た。WUSC 参加者の 86%がモデルの概念を理解し、

    99%が WUSC の経営にとって有効であるとの回答が

    あった。さらに両モデルをネパール版(英語、ネパ

    ール語とも)に改訂を行い、C/P にとって利便性の高

    いモデルとなり、C/P 側に定着できる仕様となった。

    最終の JCC(2013年 9月 27日開催)において、今

    後、DWSS は運営モデル、支援モデルを正式に承認

    することとし、年間プログラムにおいて MIT, MAT,

    MET及び現場研修を実施していくこととした。

    (3) 成果 3に関する実践結果(WASMIPモデルの普及)

    支援モデルの一環として、DWSS/WSSDO の支援

    体制を構築するため、WSSDO 内に WUSC の運転維

    持管理を定期的に巡回、監視するチーム(MIT)を立ち

    上げた。MIT は、DWSS, WSSDO, WUSC 間の橋渡し

    役となり、定期的に現場の状況を上部組織に報告す

    る。また、MIT の中心となる WSSDO には、施設の

    予防保全に必要となる技術指導も行い、現場を巡回

    する際にはこれらの技術を各 WUSC に移転した。

    MIT 活動は 2013年 8月までに計 4回実施され、その

    結果は計 3回のWUSC合同ワークショップにて報告

    された。

    一方、運営モデル導入支援を目的として、MAT活

    動を行い、WUSC に対してビジネスプランの策定ワ

    ークショップを行った。これによりビジネスプラン

    の更新、適正な水道料金の値上げ、WUSC の適正な

    人員配置、また健全な財務管理を学び今後プランの

    検討ができるようになり、MAT の助言を受けながら

    必要に応じてビジネスプランを見直すことができる。

    他のWUSCでは総会によりビジネスプランが正式に

    承認されており、これに基づいて活動している。

    DWSS は、今後、WASMIP モデルをツールとして

    全国の WSSDO に普及し、運用していくことを明言

    した。また、WUSC のスクリーニングの確立や各

    WUSC での水質検査を実施しながら、機能を強化し

    ていく。DWSS はWASMIP モデルの普及活動を主導

    し、これらに必要な予算を確保していく予定である。

    また、モニタリング・評価を行うことでモデルの有

    効性を確認していく。

    WASMIP モデルは、東部地域内の WUSC、他ドナ

    ー(ADB, UNICEF, SWISS 大使館、WHO)に対して

  • -7-

    ワークショップを開催し、モデルの紹介とその成果

    を発表した。

    写真 3 WASMIP成果共有ワークショップの様子

    (4) 3 WUSCの運営効果指標(PI)

    3 WUSC に対する水道事業の運営効果指標(PI)を、

    給水人口、有収水量、無収水率及び水道料金収入で

    評価した。データはプロジェクト開始当初と最終年

    度の 3 カ年で評価し、それぞれの PI を図 5~8 に示

    す。

    給水人口(給水区域内人口)は、図 5 に示すよう

    に 2010 年に対して 2012 年において、ドゥラバリで

    1.15 倍(同 1.04倍)、ゴウラダで 1.24 倍(同 1.22倍)、

    マンガドゥで 1.38倍(同 1.08 倍)と年々増加してい

    る。給水区域内人口もそれぞれ伸びていることから、

    給水人口の伸びはこの趨勢と配水管が整備された地

    区に人口が集中したことと考えられる。

    図 5 給水人口

    有収水量は、図 6 に示すように 2010 年に対して

    2012 年において、ドゥラバリ 1.2 倍、ゴウラダ 1.57

    倍、マンガドゥ 1.61 倍と給水人口以上に増加してお

    り、一人当たり使用水量が増えていることを示す。

    有収水量増加は、まず DWSS 支援による水源開発

    (新設井戸建設)により配水能力が増強されたこと

    が第一の要因である。しかし従前では施設の適切な

    運転維持管理がなされておらず、故障、放置の状態

    が見受けられた。WASMIP では MIT 活動により上水

    施設に予防的維持管理を実施したことから、給水能

    力向上とそれに伴う安定給水ができるようになった

    と考えられる。また、無収水率低減、水道料金徴収

    とも関わるが、水道メータの維持管理を SOPに従い、

    適切なメータの設置、管理及びメータ校正を行って

    きたことで、有収水量増加への寄与だけでなく、顧

    客からの苦情対応にも対応できるようになった。

    図 6 有収水量

    一方、無収水率は、図 7に示すように 2010年に対

    して 2012年において、ドゥラバリ-13%、ゴウラダ-9%、

    マンガドゥ-11%と減尐した。

    3 WUSC とも配水管網図を持たず、(マンガドゥ

    WUSC は管網図を所有していたが、活用されていな

    かった。)主要な漏水の発生箇所となるバルブ、ドレ

    ーンなどの点検を実施してこなかった。無収水率の

    低減は、WASMIP において SOP に従い、配水管網図

    及び施設台帳を作成し、配水施設の定期点検、維持

    管理を実施することで漏水などの不具合を早期解消

    できるようになったことが要因と考えられる。

    16,813

    4,835

    19,371 18,211

    5,040

    22,996

    19,383

    6,000

    26,716

    -

    5,000

    10,000

    15,000

    20,000

    25,000

    30,000

    Dhulabari Gauradaha Mangadh

    pers

    onn

    el

    2010 2011 2012

    412

    130

    321

    442

    157

    548 494

    204

    517

    -

    100

    200

    300

    400

    500

    600

    700

    Dhulabari Gauradaha Mangadh

    1000 m

    3/y

    ear

    2010 2011 2012

  • -8-

    図 7無収水率

    最後に水道料金収入では図 8に示すように 2010年

    に対して 2012年において、ドゥラバリ 1.33倍、ゴウ

    ラダ 1.96倍、マンガドゥ 1.47 倍と増加した。徴収率

    はもともと高いことから給水人口増、無収水率の減

    尐などが主な要因といえる。また、住民からの苦情

    (赤水、メータ不具合、水質悪化、水量・水圧減)

    に対する迅速な対応、給水水質の情報開示、ビジネ

    スプランに基づいた料金収入の設定、PR 活動など、

    給水サービス向上も要因の 1つと考えられる。

    図 8水道料金収入

    (1) 第三国(カンボジア国)研修の実施

    WUSC を支援する立場の DWSS/WSSDO が水道事

    業経営や施設の O&M について理解が深められるよ

    う TOTを目的として第三国(カンボジア国)研修を

    実施した。研修先は、プノンペン水道公社(PPWSA)

    とシェムリアップ水道公社(SRWSA)とした。

    PPWSA は JICA の技術協力プロジェクトにより技

    術面と経営面で人材育成が改善された組織の 1 つで

    ある。SRWSAは無償資金協力で水道施設が建設され

    ており、水源や施設運転管理項目など類似点が多い。

    ネパール側が抱えている問題、水道事業運営、水

    質管理、浄水場 O&M など両水道公社が取り組んで

    きた方策を学んだことで、知識・技術だけでなく、

    ネパール、カンボジアの情報や経験を共有する良い

    機会となった。

    また、研修生 12名は、得られた知見を共有するた

    め、帰国後、DWSS 関係者に対して研修帰国報告会

    を開催した。研修報告では、1) Human Resource &

    Business Management, 2) Water Treatment Plant & Water

    Quality Management, 3) Distribution Facilities & Water

    Meter Maintenanceの 3グループに分けそれぞれの研

    修内容、現職務での活用などを報告した。

    (2) WASMIP参加への促進

    ジャパ、モラン郡の対象WUSCの理事会の中には、

    WASMIP の便益に対する認識が不十分なため、ワー

    クショップ/OJTの参加を許可しないWUSCがあった。

    こうしたところでは研修の案内を通知しても当該の

    スタッフは参加せず、プロジェクト活動拡大の阻害

    要因となった。

    WASMIPの有益性を各WUSCのマネジメントが理

    解してもらうため、プロジェクト活動に関する合同

    ワークショップを実施した。また、参加に消極的な

    WUSC に対して、DWSS/WSSDO が直接出向き、

    WASMIP の目的と有益・効果をボードメンバーに説

    明し、理解を促した。

    (3) 人員の確保

    技術移転及びWASMIP後の継続性を確保するため

    には、C/P の人員は出来るだけ固定することが望まし

    い。実際、2012年 4月と 9月にWASMIP の中枢を担

    っていた C/P がことごとく異動となり、プロジェク

    トの継続性に大きな影響を与えた。

    人事異動については、DWSS は決定権を持たず、

    4.プロジェクト実施上の工夫・教訓

    35

    18

    33

    30

    14

    25 22

    9

    23

    -

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    45

    Dhulabari Gauradaha Mangadh

    (%)

    2010 2011 2012

    4,027

    1,090

    3,958

    4,685

    1,324

    4,663 5,337

    2,136

    5,812

    -

    1,000

    2,000

    3,000

    4,000

    5,000

    6,000

    7,000

    Dhulabari Gauradaha Mangadh

    1000 N

    Rsyear

    2010 2011 2012

  • -9-

    どの組織でも起こりうる課題である。これに備える

    ため、ワークショップ/OJTに DWSS/WSSDO から出

    来るだけ複数名が参画した。後述の(5)水道施設の運

    転維持管理体制及び運営体制の維持で述べているが、

    MIT 及び MATを立ち上げ、人事異動の影響が最小限

    となるようにした。

    (4) DWSS中央水質分析所の再整備

    DWSS は敷地内に中央水質分析所を有しており、

    設備が比較的整備されている。この分析所を拠点に

    浄水プロセス管理、水質管理の TOT を行うことで、

    各地方分析所や WSSDO のトレーナーの支援が可能

    となった。

    浄水プロセス・水質管理に関する研修を円滑に実

    施するために、DWSS の中央水質分析所を再整備し

    た。具体的にはスタッフを配置し、SOP を用いて浄

    水プロセス管理、水質測定精度の向上、定量下限値、

    検定限界及び機器校正方法などを学んだ。また、こ

    れらを実施するため適切な予算管理を DWSS に提案

    した。

    (5) 水道施設に関する運転維持管理及び運営体制の

    維持

    1) 施設の運転維持管理体制

    これまでのDWSS/WSSDOとWUSC間の連絡体制

    は、施設機器の発注要望や有事の際の連絡程度にと

    どまっており、WUSC の実情を常時把握できる体制

    になっていなかった。本プロジェクトの目的は、

    DWSS/WSSDO による WUSC への技術支援体制を強

    化することであるが、DWSS/WSSDO が WUSC の施

    設 O&M 状況を正確に把握しない限り、効果的な指

    導を行うことは難しい。また、人事異動・退職など

    不可避な要因を考慮すると、C/P 個人への能力強化を

    図るだけではプロジェクトの持続性が失われてしま

    う恐れがある。

    このため支援モデル構築の一環として、WSSDOを

    中心とした MIT を発足し、定期的に WUSCの現場状

    況を把握し、技術指導を行えるようにした。MIT 活

    動が継続されるようメンバーは、WSSDO と WUSC

    で構成した。また、運転維持管理の書式や提出をル

    ールに定め、これを DWSS と共有し、活動を実施し

    ている。MIT 活動のシステムを図 9に示す。

    図 9 MIT活動のシステム

    (プロジェクト実施期間:2010年1月~2013年9月)

    参考文献:

    独立行政法人 国際協力機構(2009) 「ネパール連邦

    民主主義国 地方都市における水道事業強化プ

    ロジェクト事前調査報告書」

    独立行政法人 国際協力機構(2013) 「ネパール国地

    方都市における水道事業強化プロジェクト プ

    ロジェクト完了報告書」

    ①Maintenance Inspection & Coaching ②Submission of Evaluation Report

    ③Submission of On-site Report ④Annual Workshop/Budget Allowance for O&M