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Journal Club ラメルテオンはせん妄予防に有効か? 東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科 作成 新井 順也 監修  江原 淳 J Hospitalist Network March.2015

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Journal  Club      ラメルテオンはせん妄予防に有効か?

東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科作成 新井 順也監修  江原 淳

J  Hospitalist  Network  March.2015

症例・入院前はADLが自立していた77歳男性  

・ST上昇型心筋梗塞で入院し、左前下後枝にPCIを施行  

・経過は良好であったが入院5日目に塞栓性脳梗塞を 発症しt-­‐PAを施行 症状軽減し一般病床へ

右半身麻痺に対してリハビリをしていたが…

○○さんが毎晩大声をだします!!

○○さん今日も暴れてます!!

とにかくなんとかしてください!

せん妄への対応• 連日夜間不穏、昼夜逆転あり日中にリハや車椅子乗車を試みるも傾眠で意欲もなくすすまず  

• 疼痛や感染といった増悪因子はなく抗ヒスタミン薬や睡眠薬も使っていない  

• Re-­‐orientationを試みるももとの認知機能せいか効果が感じられない  

• ハロペリドールやリスペリドンを使用するも奏功せずDMのためMARTAも使えない....

4

・10日あまり後、環境整備と薬物療法を 繰り返しなんとかせん妄をコントロール することができた  

・しかし、病棟看護師も主治医も患者家族も 対応に疲れ果ててしまった

・せん妄は一度発症すると大変だ、と皆が 思った

何か予防策はなかったのだろうか…

Clinical  Question

メラトニン製剤であるラメルテオン(ロゼレム®)がせん妄の予防に有効と聞いたことがある。  

今回の症例もラメルテオンを投与しておけば よかったのか…

有効性についての論文を調べてみることにした

EBM実践の5つのSTEPSTEP1 問題の定式化  

STEP2 論文の検索  

STEP3 論文の批判的吟味  

STEP4 情報の患者への適応  

STEP5 STEP1~4の見直し

EBM実践の5つのSTEPSTEP1 問題の定式化  

STEP2 論文の検索  

STEP3 論文の批判的吟味  

STEP4 情報の患者への適応  

STEP5 STEP1~4の見直し

P せん妄のリスクのある患者  

I   ラメルテオン投与群  

C ラメルテオン非投与群  

O    せん妄の発症率

STEP1 問題の定式化

EBM実践の5つのSTEPSTEP1 問題の定式化  

STEP2 論文の検索  

STEP3 論文の批判的吟味  

STEP4 情報の患者への適応  

STEP5 STEP1~4の見直し

PubMedで[MeSH]Delirium、[MeSH]Ramelteonを入力し、Article  typesをRandomized  Controlled  Trialに設定

EBM実践の5つのSTEPSTEP1 問題の定式化  

STEP2 論文の検索  

STEP3 論文の批判的吟味  

STEP4 情報の患者への適応  

STEP5 STEP1~4の見直し

•入院患者のせん妄の有病率は11-­‐33%

•救急・外科病棟に入院中の高齢者におけるせん妄の発症率は3-­‐65%とされる。

論文の背景

Dement  Geriatr  Cogn  Disord.1999;10(5):315-­‐318  CMAJ.2000;163(8):977-­‐981  N  Engl  J  Med.2006;354(11):1157-­‐1165

•大腿骨頸部骨折手術目的の入院患者を対象に老年科へのコンサルテーションがせん妄の発症頻度を減少させたとの報告がある  

•抗精神病薬はせん妄の予防にも有用とする報告もあるが、副作用を考慮すると使用しにくい。

論文の背景

J  Am  Geriatr  Soc.2001;49(5):516-­‐522

Psychosomatics.2010;51(5):409-­‐418

• 松果体より分泌されるメラトニンは睡眠リズムを調節し、せん妄のリスクを下げるとするRCTがある(12% vs 31%)

• メラトニン作動薬であるラメルテオンは、 アメリカ食品医薬品局により不眠症の治療薬として承認 されている。

• ケースシリーズではラメルテオンが高齢者のせん妄予防に有効とするものもあり、RCTでせん妄の予防効果に関して 検証した。

論文の背景

Int  J  Geriatr  Psychiatry.2011;33(4):407-­‐409

論文のPICO

Patient:Inclusion  criteria・4大学+1市中病院の患者  

・65-­‐89歳  

・重篤な医学的問題による  新規入院  

・経口内服可能  

・救急を介してICUまたは 急性期病棟へ入院  

Patient:Exclusion  criteria•入院期間または余命の見込みが48時間以内  

•重症肝不全やレビー小体病  

•フルボキサミン内服中  

•アルコールや薬物による離脱症候群  

•精神疾患、双極性障害、気分障害を有する患者

•入院時にせん妄であった患者

Intervention

ラメルテオン8mg/日投与

Comparison

プラセボ投与  

(中身:ラクトース330mg)

Outcome

・せん妄の発症率

→  DSM-­‐  ⅳ(Diagnostic  and  Statistical Manual  of  

Mental  Disorders  Fourth  Edition  )で定義

P   

I   

C O  

論文のPICO

ラメルテオン8mg/日投与 7日間

ラクトース330mg/日投与 7日間

せん妄の発症率

ICUまたは急性期病棟に新規入院した  

65-­‐89歳の患者

時計やカレンダー、離床の促しや照明の調整など  標準的な対応は両群とも実施した

・P<0.05であれば、統計的 有意差ありと判断  

・placebo群のせん妄発生率を

28% ラメルテオン群を3%α  level  0.05、β  level  0.2 (power  80%)に設定  

→必要なサンプルサイズは 両群とも32例

統計学的分析方法

倫理的配慮

倫理的配慮の記載もされている。

介入群と対照群は同じ予後で開始したか  

 患者はランダム割り付けされていたか  

 ランダム割り付けは隠蔽化(concealment)されていたか  

 既知の予後因子は群間で似ていたか→base-­‐lineは同等か  

研究の進行とともに、予後のバランスは維持されたか  

 研究はどの程度盲検化されていたか  

研究完了時点で、両群は予後のバランスがとれていたか  

 追跡は完了しているか→追跡率、脱落率はどうか  

 患者は、ランダム割り付けされた集団において解析されたか  

 →intention  to  treat(ITT)解析されているか  

 試験は早期中止されたか

結果は妥当か

患者はランダム割り付けされていたか ランダム割り付けは隠蔽化(concealment)されていたか

 封筒法でランダム割り付けされている。  

 また、封のされた不透明な連続番号の封筒であり隠蔽化(concealment)されている。

既知の予後因子は群間で似ていたか→baselineは同等か

• 男性、せん妄の既往がラメルテオン群で多い

• 認知症はプラセボ群で多い

小規模なのである程度のばらつきは想定範囲内  

特にどちらかの群が極端に有利ということもないだろう

 研究はどの程度盲検化されていたか

評価者のみが盲検化された一重盲検である。

医師や看護師、患者本人によるバイアスが入る可能性あり

追跡は完了しているか→追跡率、脱落率はどうかintention  to  treat(ITT)解析されているか

・placebo群に34人が割り当てられ、34人全員が解析を受けている。  

・同様にRamelton群に33人が割り当てられ、33人全員が解析を受けている。

追跡率100%、脱落率0%  

ITT解析されている試験の早期中止もない

結果は何か

治療効果の大きさはどれくらいか  

 RRR、ARR、NNTはそれぞれいくらか  

治療効果の推定値はどれくらい精確か  

 95%CI(信頼区間)の範囲は適切か・広すぎないか

サンプルサイズは十分か

目標の症例数は集められている。  結果に有意差がついているので症例数は十分と考える。

RRR、ARR、NNTはそれぞれいくらか

RRR、ARR、NNTはそれぞれいくらか

せん妄(+) せん妄(−)ラメルテオン 1 32 33プラセボ 11 23 34

12 55 67

RR    RRR     ARR    NNT 

    0.03/0.32=0.09       1-­‐RR=0.91      0.32-­‐0.03=0.29       1/0.29=3.45→NNT  4

4人ラメルテオン服用で1人せん妄が減る 大きな効果あり

95%CI(信頼区間)の範囲は適切か・広すぎないか

RRの95%CI(信頼区間)は0.01-­‐0.69であり1を含まない

区間は広いがRR自体が小さい 有意差あり

有害事象• 本研究ではラメルテオン投与に関連した有害事象(傾眠、ふらつき、倦怠感)は両群ともに0例であった  

• 過去の研究ではこれらの有害事象が2%程度増加すると言われている

37

STEP3まとめ• 規模が小さいRCT  

• ベースの2群間に若干の差はあるが極端にどちらかに有利不利はなさそう  

• 盲検化は評価者のみ→ 看護師や医師、患者本人によるバイアスが入る可能性あり  

• NNT4と治療効果はかなり大きい  

• 有害事象は今回の検討ではみとめず38

EBM実践の5つのSTEPSTEP1 問題の定式化  

STEP2 論文の検索  

STEP3 論文の批判的吟味  

STEP4 情報の患者への適応  

STEP5 STEP1~4の見直し

情報の患者への適応結果を患者のケアにどのように適用できるか  

 研究患者は自身の診療における患者と似ていたか  

 患者にとって重要なアウトカムはすべて考慮されたか  

 見込まれる治療の利益は、考えられる害やコストに見合うか

情報の患者への適応研究患者は自身の診療における患者と似ていたか  

・本症例はInclusion  criteriaを満たし、Exclusion  criteriaに該当項目はない。  

・Baseline  characteristicsの患者群と大きな相違はない。  

患者にとって重要なアウトカムはすべて考慮されたか  

・考慮されている。

情報の患者への適応見込まれる治療の利益は、考えられる害やコストに 見合うか  

・Primary  outcomは患者にとって有用かつ有害事象なし。

・ロゼレム®(ラメルテオン)8mgの薬価は84.9円であり、 ロゼレムによる利益は考えられる害やコストを上回る と考える。

せん妄の予防にはラメルテオン試してみてもよいかも

EBM実践の5つのSTEPSTEP1 問題の定式化  

STEP2 論文の検索  

STEP3 論文の批判的吟味  

STEP4 情報の患者への適応  

STEP5 STEP1~4の見直し

STEP1~4の見直しSTEP1 問題の定式化  

 せん妄に対するラメルテオンの有用性を疑問に感じた。  

STEP2 論文の検索  

 PubMedを用いて短時間で検索できた。  

STEP3 論文の批判的吟味  

 JAMA  user’s  guideを用いて論文の内的妥当性を検討した。  

STEP4 情報の患者への適応  

 批判的吟味の結果、外的妥当性のある論文であると判断。  

 

まとめ・高齢の入院患者のせん妄予防において、 ラメルテオンの有用性が示された・小規模な研究で盲検化が評価者のみという弱点はあるが治療効果はかなり大きい・有害事象も小さく、費用もあまりかからないのでラメルテオンを試してみる価値はあるだろう