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5
JOu rnalisrrr 混迷を深める現代社会を理解するために…… 100冊 で読み解く 大澤真幸/社会学者 変化 のうちにある定数 に着眼 変化そのものをつかむ 神里達博 /千 葉大学教授 社会 は科学や技術 とどう つきあうか 死活的に重要な領域に飛び込んでみては 増原裕子/LGBTコ ンサルタント LGBTへ の偏見構造を知り 勇気を持って声を上げ続ける 谷口真由美 /大 阪国際大学准教授 男七ツライ、女もツライ そんな世の中を変えてみたい 監視社会を生きる 小笠原みどり /ジ ヤーナリスト 不可視の監視 と情報統制は始まつている スノーデン証言から考える共謀罪時代 伊藤智章 /朝 日新聞編集委員 大垣警察の市民監視と情報提供 ズム 2017 |||‖ |||||||||||||‖ ||‖ ||‖ || 9784022811080 192o030007413 ISBN978-4-02-281108-0 C0030¥741E 定価:800円 (本 体741円 ) 発行 :朝 日新 聞社 発売 :朝日新 聞 出 版 no.329 |||||||‖ |‖||||‖ |||‖|‖ || 朝日選書○新刊 96 958 957 21 964 96 953 退 96 ¨ 95o ¨ 955 nS htt‐ μ Ж 西 1珈1883-26� 朝日新聞

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Page 1: JOurnalisrrr C0030¥741E ISBN978-4-02-281108-0 · ISBN978-4-02-281108-0 C0030¥741E 定価:800円(本体741円) 発行:朝日新聞社 発売:朝日新聞出版 no.329 |||||‖|‖||||‖‖

JOurnalisrrr● 混迷を深める現代社会を理解するために……

100冊で読み解く町ヽ当大澤真幸/社会学者

変化のうちにある定数に着眼

変化そのものをつかむ

神 里 達 博 /千葉大学教授

社会は科学や技術とどうつきあうか

死活的に重要な領域に飛び込んでみては

増原裕子/LGBTコ ンサルタント

LGBTへの偏見構造を知り勇気を持って声を上げ続ける

谷 口真 由美 /大阪国際大学准教授

男七ツライ、女もツライ

そんな世の中を変えてみたい

●監視社会を生きる小笠原みどり/ジヤーナリスト

不可視の監視と情報統制は始まつている

―スノーデン証言から考える共謀罪時代

伊藤智章/朝日新聞編集委員

大垣警察の市民監視と情報提供

ズ ム

2017 |||‖ |||||||||||||‖ ||‖ ||‖ ||

9784022811080

192o030007413

ISBN978-4-02-281108-0

C0030¥741E

定価:800円 (本体741円 )

発行:朝 日新聞社

発売:朝 日新聞出版no.329

|||||||‖ |‖ ||||‖‖|||‖ |‖ ||

NO“N・一〇

朝日選書○新刊96 プリーモ・レーヴィ/著

竹山博英/訳

1、62

0円

 oN∞+oNも888

強制収容所から生還した著者が、極限状態にある人間

の魂がいかに破壊されていくかを克明に描き出す。

文化庁/編

 

01、620円

tT〓Nヽ

888

帯木蓬生  01、404円

oN口+0ヽ・ヽ803,ヽ

958碧多ケイパゴアイ管盗奏慧緑え男

山本淳子  01、620円

0ざ■0や88tふ

957枕草子のたくらみ

「春はあけばの」に秘められた思い

山内昌之/編著

02、052円

0冨ヽあ

‐ヽN88o●

イスラーム、アメリカ、ロシアから燎む21世紀

96496 高田良信/著

小滝ちひろ/構成

「人間、一生勉強や」当代

一の学僧の全生涯。貴重な資

料発見の経緯や古代史ブームの表裏を酷り尽す。

生井久美子

 

01、620円

場0玉さミ88

,一

◎1、9

8円

ON∞ムとN,N8o86

釈 徹宗

 

 

01、512円

oN”卜0ヽ,N8o,t

宗数と芸能は共振す0

953古代日本の情報戦略

奥 武則

 

 

01、620円

りヽ1と

,ヽN8oヽも

ジャーナリズムをつくった人びと

野中尚人、青木 還

01、728円一0さ●6

,N8o望お

政策会議と討論なき国会

官邸主導体制の成立と後退する熟薇

奈良文化財研究所/編 早川和子/絵

96 ン̈ェイムズ・ウィンブラント/著

忠平美幸/訳

、8

 

oNl

とヽヽo8

o一ヽ

恐怖と嫌悪で語られる「歯治療の世界」を、エピツード

っぶりに綴

った

〈笑える歯痛の世界史〉。

95o飛鳥むかしむかし

貝ンくり編

奈良文化財研究所/編 早川和子/絵

01、998円‘N〓と

,ヽN80●0さ

¨飛鳥むかしむかし

飛鳥誕生編

改訂完全版

アウシュヴィッツは終わらない

日本人は大災害をどう乗り越えたのか

遺跡に刻まれた復興の歴史

身体知性

佐藤友亮

1、620円 oN〓さN‐一88やo

高田長老の法隆寺いま昔

955ルポ

希望の人びと

ここまできた認知症の当事者発信

1、6

20円

 ヽ中やONヽo8

,3

近江俊秀

 

 

01、728円

篭〓ふN,N8o甲N

昭和のくらし博物館から

小泉和子

1、836円 3●+oN,ヽ88

おヽ

歯痛の文化史

古代エジプト貸リウッドまで

医師が見つけた身体と感情の深いつながり

武道家で医師の著者による、 一歩先の面白い

「からだ」

の話。内田樹氏との対談も収録。

昭和は史上、くらしがも

っとも充実した時代だ

った。

衣食住さまざまな角度から見た激動の昭和史。

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」べ

‐b円ね

格/

htt‐r反

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ロロ聞新日朝

江戸時代

恋愛事情

難の恋、町娘の恋

板坂則子

1、8

6円一 ONЖ点

,N8o●〓

古荘純

一   〇1、

勁発達障害と

62

0円一ONl

8ヽ,ヽ3o一3

はいか一”に外″慎解をとく

いつの時代も「恋愛」は物語の主要テーマ。江戸期小説、

浮世絵、春画

・春本から読み解く、江戸の恋。

小倉紀蔵、大西 裕、樋口直人

01、512円

■,8N,N8RNあ

嫌韓問題の解き方

ステレオタイプを排して韓国を考える

1珈 1883-26�

朝日新聞維十二■

一●●

● 

Page 2: JOurnalisrrr C0030¥741E ISBN978-4-02-281108-0 · ISBN978-4-02-281108-0 C0030¥741E 定価:800円(本体741円) 発行:朝日新聞社 発売:朝日新聞出版 no.329 |||||‖|‖||||‖‖

CO:NTENTS

贔爾5100冊で読み解く河,直・

轡男もツライ、女もツライ

そんな世の中を変えてみたい

変化のうちにある定数に着眼

変化そのものをつかむ

大澤真幸

管社会は科学や技術とどうつきあうか

死活的に重要な領域に飛び込んでみては………………………神里達博12

LGBTへの偏見を生みだす構造を知り

勇気を持って一つ一つ声を上げ続ける

増原裕子

19

幹押しつぶされないために

「働き方」と「働かされ方」を知る…・‥‥‥‥‥………………………本田由紀26

読む。書く・話す・聞くをどう結ぶか

示唆を与えてくれた座右の書

事件報道が「加担」する監視社会

田畑暁生

権力見張る側面強化を

幹言論の自由とジャーナリズム

同時進行的な崩壊が進んでいる

脅麟雲浅ば、〈塾妻口斡議耀計なる

‥・・・……‥……若松英輔

5o

響総燿諦夢得けやつてくる

・‥‥……‥……嶋

一郎

脅璽嫌端電聾鱚〕”α解想田和■

饉》監視社会を生きる

大垣警察署による風力発電の反対市民監視

‐,懸念される萎縮、守れるかモノを言う自由

……………‥伊藤智章

68

谷口真由美

32

牧原

山田健太

44

▼紙面審査の実例

隠れた問題点をすぐい上げ、疑間を投げかける

少しずつでも事態を良くする記事を応援したい

…………‥…南井徹

98

日本の首相にも公式別荘を?

私的。公的に様々な利点……‥‥‥……‥…………佐藤信

■メディア・リポート

齢目り爽やかな報道合戦が連帯感を生む

協会賞に学ぶ記者の健全な在り方…‥……‥…猪股征一1lo

O脳U

「宣伝」からヮ′ロモーション」へ

出版流通の縮小で変わる広告手法…………‥…農一野渉

・12

餞譴リネット議論の行き先はバベルの塔?

AI利用のNスペ炎上に思う……………………高木利弘

‐14

島圏U中期計画の目標、2部門で達成

チューリップテレビが見せた現場の力……‥……市村元

‐16

■海外メディア報告

「親米」排除に動くカンボジア

英字紙を廃刊、米系ラジオに圧力………・‥‥‥…………木村文

‐19

定期購読のご案内

………‥……………

Ю

バツクナンバー

…………………‥………‐3

朝日新聞全国世論調査詳報

‥‥n

2017年8月定例RDD調査

不可視の監視と情報統制は始まつている

スノーデン証言から考える共謀罪時代

……‥…小笠原みどり

82

【公文書管理のあり方は】

意思形成過程に関する公文書の取り扱い

独立性の高い第二者機関を設けて監視を……三宅弘

9o

■カラーグラビア

写真家の目

廃虚の街と化したモスル

ーSに奪われた日常

‥‥………二真́と文=鈴木雄介

‐26

Jorrrnalisrn

〈連載〉記者講座「良い記事」の見分け方①

〈連載)「政要事・情」④ll若手研究者の目

2017年 10月号 通巻329号 朝日新聞社 lSSN 1883-2628

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ヨttF^

ヽ一

目目

100冊で読み解く「いま」

世間知を上げるための10冊

谷口真由美

男もツライ、女もツライ

そんな世の中を変えてみたい

個人的な趣味と言われればそこまでだ

が、幼少期の育った環境も手伝って、私

はラグビーという競技が好きだ。かつて、

父親が近鉄ラグビー部八現近鉄ライナー

ズ)の選手を引退した後に、同部コーチ

となり、同じタイミングで母が同部寮母

となった。近鉄ラグビー部の寮はその音、

花園ラグビー場のスタンド下にあったた

め、家族でラグビー場に移住したのは私

が小1のときのことだった。

利他的なラグビーが育てる

仲間を信じ、人を見る力

常に18歳から30歳くらいまでのマッ

チョな男たちとの共同生活は、振り返っ

てみるとかなリベンテコだ。そんな

「T

he

男社会」の中心で、ゴマメとして

かわいがられて育らた私が、フェミニス

トになったのは偶然ではない。男社会の

息苦しさを垣間見て育ち、成長とともに

自分が女であることで社会的差別の対象

になっていった過程で、私はフェミニス

トになった。誰もがしんどい社会は、誰

も望んでいる訳があるまい。男もツライ、

女もツライなんて世の中おかしい。そん

な思いから、より社会的にツラそうな女

性の権利を研究することとなった。

さて、2019年にはワールドカップ

が日本で開催されることもあって、ラグ

ピーが認知され、メディアでもあらゆる

角度から取り上げられている。ラグピー

を取材する機会のある皆さんに、ぜひと

も目を通しておいてもらいたいのが、藤

島大

『人類のためた。」。帯にはこうある、

「明日の炎天下の練習が憂鬱な若者よ、

君たちはなぜラグビーをするのか。それ

は『戦争をしないため』だ。

」と。

かつて、元日本代表監督で早稲田大学

教授であった故

。大西鐵之祐さんは最終

講義でこんな話をした。「権力者が戦争

のほうに進んでいく場合には、われわれ

は断固として、命をかけてもそのソー

シャル・フオーセス(※闘争の倫理を知

る者による社会の基礎集団)を使って(選

『城111111ililil

たにぐち・まゆみ

大阪国際大学グローバルビジネス学部准教整L1975年 生まれ。20∝年、大阪大学大学院国際

公共政策研究科修了。専門は国際人権法、ジェ

ンダー法。12年に「全日本おばちゃん党」をフェイ

スプックで立ち上:六 おばちゃん目線で「オッサン

政治」をチエツクしている。現在、代表代行。著

書に『日本国憲法 大阪おばちゃん語訳』(文 藝

春初 、『憲法つて どこにあるのフ』條 英機 なと

32

挙で)落としていかないと、あるところ

までウファーと引っ張られてしもうた

ら、もうなんにもできませんよ、私たち

がそうだったんだから」。真剣にラグビー

をした者は、人を見る日は養われると思

う。チャウシェスクは国威発揚にならな

いからとラグビーを嫌い、ムッソリーニ

は選手の非従順性を見抜いてラグビーに

関心を失ったそうだ。チェ・ゲバラはラ

グビーに夢中になった。

私がラグビーを好きな理由は、利他的

なスポーツだからだ。後ろにボールをま

わして前に進むなんて、なんて不合理で

不条理なのだろうと思うが、後ろにいる

仲間を信じないとできない。ズルをする

奴は、審判がみていなくても

一緒にプ

レーしている者たちがみている。

かつて、おおかたのスポーツは男の

ものであった。いまがら半世紀以上前

に、男がやっても八百長だといった色眼

鏡で見られていたプロレスで、エロだグ

ロだという偏見ともたたかい、リングの

上でも闘っていた女たちがいた。代表格

は、1955年に女子プロレスラーとし

てデビューした小畑千代だ。秋山訓子

『女子プロレスラー 小畑千代』によれ

ば、1955年といえば、朝鮮戦争によ

る特需景気に続いて、高度経済成長に突

入していく時代。それに合わせるように

日本の女子プロレスは始まったのだ。

また、女性の社会運動も活発になって

いく。例えば、1955年6月には、第

1回

「日本母親大会」が開かれ、全国か

ら2千人の母親たちが集まった。中心人

物は、戦前から市川房枝らと共に婦人参

政権運動で活躍した河崎なつたちであっ

た。女だって、自分の頭で考え、社会と

関わりをもち、おかしいと思うことに声

を上げ、行動する。「女が闘う」女子プロ

レス

・と、こういった女性の動きが期を同

じくしているのは偶然ではないだろうと

秋山は記す。

韓国、沖縄、プロレス……

虐げられたものが歴史を紡ぐ

日韓基本条約が結ばれる2年前の19

63年には、「日韓親善」のために2週間

ほどの日程で韓国を訪れ、韓国の女子プ

ロレスラーと親善試合を行っている。ま

た、何度か、戦争の傷跡を色濃く残し、

米軍の統治下にあった沖縄に、力道山よ

りも早く訪れ試合をしている。秋山は「誤

解を恐れずにいえば、韓国、沖縄、プロ

レスは日本からみれば、虐げられたもの、

はみだしたものが紡いできた歴史なのだ。

女子プロレスは、「女性』という点でさら

に差別が

一枚加わる。だからこそ小畑は

誇りをもって目線を高くし、闘い続けて

きた。

」と書く。共通するのは、日本(本土)

との間に不幸な歴史があり、時に差別の

対象になってきた場所ということ。

小畑にとって、プロレスの魅力は、「プ

ロレスそのものの魅力」と

「女だからや

りたかった」という側面があったと語る。

自分の体

一つで勝負ができるシンプルさ、

プロレスのような世間からも偏見を持た

れがちな職業を生業とすることに対する

自負と誇り、反発、そして愛情が見える。

「マイナーだ

ったからこそチャンスが

あった。女でもこれくらいできるという

ことを見せたかった。男のプロレスがあ

んなに人気があるのに、なんで女のプロ

レスが軽蔑されるのか。「たかが女の』と

みんな思っているでしょう。よ―し、た

かが女というのならやってやろう、とい

う想いがあった」と回想する小畑は今年

81歳、まだ引退した気はさらさらない。

小畑らが復帰前に訪れた沖縄は、日

(本土)から行くのにパスポートが必

要だった。本土復帰から今年で45年。先

100冊 で読み解く「いま」

男もツライ、女もツライ そんな世の中を変えてみたいJoumalism 2017.1033 特集

Page 4: JOurnalisrrr C0030¥741E ISBN978-4-02-281108-0 · ISBN978-4-02-281108-0 C0030¥741E 定価:800円(本体741円) 発行:朝日新聞社 発売:朝日新聞出版 no.329 |||||‖|‖||||‖‖

郷知醜中一一)(い一ヽ

だって、琉球新報社の記者からこんな話

をきいた。「本土では、日本国憲法につ

いて押し付けられたという論もあります

が、沖縄では日本国憲法を勝ち取ったと

いう見解も多いんです。日本国憲法が沖

縄にも適用される。これで、沖縄にも日

本と同じように平和や人権、そして主権

べき事態。」と言ってのけた。知日派はこ

ぞって、トランプ氏反対を表明し、トラン

プ政権の重要なポストには誰も就けない

事態となった。いまこそ、対米従属から脱

却し、日米同盟について深く考察し、未来

的な思考でアジア近隣諸国との関係を再

構築する必要があると猿田は説く。

その沖縄では、少女たちが別の側面か

ら過酷な状況にさらされている。『裸足

で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』の

著者、上間陽子は沖縄で生まれ、育ち、

15

歳で地元を離れ、また地元に戻った大学

教員だ。沖縄には、在留米軍の基地の大半

がある。そのことは沖縄に住むすべての

人々に、思想信条は関係なく影響がある。

「彼女たちは、家族や恋人や男たちか

ら暴力を受けて、生きのびるためにその

場所から逃げようとします」「米軍基地

のフェンスによって分断された無数の街

は、彼女たちが見た街です,どこからも

助けはやってこない。彼女たちは裸足で

そこから逃げるのです。

」とある。

上間が真摯に向かい合

った少女たち

は、常に暴力と隣り合わせで生きており、

「性」を売ることで生き延びている。調

査に出てくるシングルマザーは全員、自

分のパートナーであり子どもの父親であ

が適用されると」

いま、沖縄をめぐる状況をみ

ていると、とても日本国憲法が

沖縄でも最高法規であるとは信

じがたい。そしてこの数年、「沖

ヘイト」が酷くなっていると

感じる。東京出身で、大学卒業

後に沖縄タイムス記者となった

阿部岳による『ルポ 沖縄 国

家の暴力 現場記者が見た

「高

江165日』の真実』は、阿部自

身が「よそ者」であることに意味

がある。私はずっと大阪にいる

が、阿部と同年で同じ時代を生

きてきた。だからこそ、沖縄の被

害を知らずにのうのうと生きて

いた衝撃を、沖縄に対する責任

を改めて考えさせられる。

沖縄の2紙は漬さないといけ

ないといった売れっ子作家、基

地反対の抵抗運動をする人々を

「土人」

と発言した大阪府警の警察官、反対運動

の人々を

「過激派」とデマとレッテル貼

りをしたテレビ番組、なんという酷いこ

とをと憤る日々だが、沖縄に向けたこう

いう状況を生み出しているのは、私の隣・

で普通に生活している人々の無関心に他

る男性と関係を解消したあと、慰謝料も

養育費も

一銭ももらえず、単身で子ども

を育てることを強いられている。少女た

ちが暴力や貧困の中にいて、多くの困難

を引き受けるしかなかったことを上間が

よしとしているわけではない。それは、

「少ない資源で選ぶ道がそこにしかない、

という事実であり、長いあいだ、女性や

沖縄の問題が放置されている、日本の現

実」を示している。問われているのは沖

縄の少女たちではなく、私たち大入全員

なのだということを思い知らされる。

「活躍させてよ」

女性たちの声が聞こえる

貧困にさらされている少女/女性たち

は、沖縄をはじめとして全国にたくさん

存在している。女性が輝き活躍する社会、

と政権はよく使うが、その貧困の実態を

見聞きするにつけ、どこに輝いて活躍で

きる社会があるというのか、疑問しかわ

いてこない。雨宮処凛

『女子と貧困 乗

り越え、助け合うために』は、輝かせて

よ、活躍させてよ、そんな社会がどこに

あるっていうの?という声が聞こえてき

そうだ。生活保護世帯でも学びたい女性、

ならな

い。

再構築できるか日米関係

少女たちに見る沖縄の現実

沖縄と米軍基地の問題は切っても切り

離せず、米軍基地と地位協定などの問題

に関しての日本政府の態度については、

一体どこの国の政府かと思うくらい、ア

メリカの立場を擁護する。阿部も書いて

いたが、昨年の「オスプレイ墜落事故」

の際には、日本の警察も手出しできず、

沖縄の土地であるのに、見るだけしかで

きない状況を垣間見た。猿田佐世

『自発

的対米従属 知られぎる

「ワシントン拡

声器」』では、「ァメリカがこう言ってい

る」というときの「アメリカ」とはどこ

を指すのかといえば、この発信源の典型

的なものはアメリカの知日派、アメリカ

の中の少人数の集まりにすぎないという。

しかも、その限られた人たちに、情報と

資金、そして発言の機会を広く与え、そ

の声を日本で拡散しているのは日本政府

であり、日本のメディアだと猿田はいう。

この知日派の典型が、リチャード・アー

ミテージ氏。トランプ氏の当選後、日本

の報道番組で「大変残念なことで、恥ず

原発事故で自主避難し困難に直面してい

る女性、キャバ嬢たちが労働組合をつ

くって連帯したり、夫のギャンブル・借

o自己破産を経て離婚し2人の子ども

を育てる女性が出てきたり。登場する女

性たちの困難は、たまたま隣に座った女

性が抱えていることかもしれない。

10年の時限立法とはいえ、2016年

からは女性活躍推進法も施行され、働く

女性の活躍推進のための法的枠組みも整

備された。政府は、あれやこれやと少子

化対策を講じているが、本当に必要とし

ている人に届いていないことが多い。雨

宮がインタビューした子育て中のシング

ルマザーである女性正社員は、「育児ハ

ラスメント」を受け、降格させられ、正

社員としてもらえる手取りは月14万円と

いう。降格人事も、給料も納得がいかな

い彼女は、個人加盟の労働組合プレカリ

アートユニオンに相談し、最低生活費に

足らない部分は生活保護を受けられるこ

とも教えてもらえた。団体交渉も行い、

結果的に会社を提訴した。きちんと伴走

してもらえる団体につながれれば良いが、

そうでない女性が大半だ。政府の政策は、

本来はこういう女性に届くべきものだ。

しかし、政治の争点が安保法案の行方

………‥―llil

llIIIllIlliヨ■う揉菫■一■囃

導嗜嘔選埋蓬一E一援艦睡懸曖鶴一日

・                             ・    ・     ・ .    ・  ‐‐     .・・ ̈..一.一一一”蹟一一一磁榊̈島神饉神華凛螂罐陣一理

100冊で読み解く「いま」

男もツライ、女もツライ そんな世の中を変えてみたい34Joumalisa 2017.1035 特集

Page 5: JOurnalisrrr C0030¥741E ISBN978-4-02-281108-0 · ISBN978-4-02-281108-0 C0030¥741E 定価:800円(本体741円) 発行:朝日新聞社 発売:朝日新聞出版 no.329 |||||‖|‖||||‖‖

に集中していた最中の2015年8月に

は、少子化対策として高校

・保健体育の

啓発教材

『健康な生活を送るために』が

改訂され、全国の高校1年生に配布され

ると発表があった。安保法と、若い子に

向けた

「産めよ増やせよ」の対策が同時

期だなんて、悪い冗談にもほどがあると

思っていたら、その危機感を同じように

持っていた研究者たちがある記事に注目

していた。2015年8月21日の毎日新

(東京版夕刊)の記事に掲載されてい

た啓発教材の「妊娠しやすさグラフ」が、

その元となる出典にあるグラフとは、曲

線の形状や縦軸のタイトルが違うことや、

表示が不適切だという議論を始める。西

山千恵子

・柘植あづみ『文科省/高校『妊

活』教材の嘘』は、科学的知見を結集して、

政府のすすめる少子化対策のおかしさを

あぶりだしている。

性と生殖は個人とカップルの権利であ

ると、1994年のカイロ国際人口開発

会議以降、グローバル社会の常識となっ

た。しかし、今回のこの教材事件は、日

本は妊娠

・出産の知識レベルが国際的に

特に低いという強引な説に基づき、政治

と、またそれと結びついた

「専門家団体」

が「医学的

・科学的に正しい知識」の教

育の必要性を主張し、国家による生殖ヘ

の干渉が教育を通して常態化されようと

していることを示唆している。全国の高

校生に、改ざんしたデータ等を示して、

若い年齢での妊娠

・出産を奨励し圧力を

かけようとしていたことに、別の「専門

家」たちがきっちりと反証をする過程が

描かれている。そもそも若い年齢の妊娠・

出産を奨励し、それを高校で啓発教材と

して使用するのなら、高校生が妊娠

。出

産して退学になるなどというニユースが

流れてくること自体がおかしい。

セックスの低年齢化が進んでいると言

われて久しいが、しっかりとした教材の

ないなかで、教材代わりにAV

(アダル

トビデオ)をまねるんです、と大学の教

え子

(男子)に言われたことがある。ま

た別の教え子

(女子)は、彼氏とのセッ

クスでは、いつも必ず最後に顔面射精を

されることを相談してきたことがある。

たまたま彼氏も面識があったので、彼女

が嫌がっていることを伝えると、鳩が豆

鉄砲を食ったような顔をして「ぼく、性

体験がほとんどなくて、AVみたら最後

に顔面射精しているのが多くて、それで

女性が気持ちよさそうにしているからそ

うしないといけないと思っていました。

彼女は嫌がっているんですか? 嫌われ

たらどうしよう」と涙目になった。

そんなとき、学生たちにすすめるのが

杉田聡

『AV神話 アダルトビデオをま

ねてはいけない」だ。AVは、セックスと

は似て非なる性暴力(レイプ、監禁、痴漢

行為、セクシュアルハラスメント等)まで、

あたかもセックスのパリエーションであ

るかのように提示されている。日本でも、

レイプの事件が絶えず、今年に入っても、

詩織さん(仮名)が有名ジャーナリストに

レイプをされたと告発したが、被害者た

る彼女に対してのパッシングはひどいも

のがある。なぜ被害者がパッシングされ

なければならないのかという問いへの一

つの答えは、レイプものと呼ばれるAV

の存在があると思えてならない。メディ

アでの女性の扱いも、それを企画したり

演出したりする側に、AVの影響が大き

くあるのではないかと思えてならない。

日本のジェンダーギャップ

過去最低を記録

話を少子化対策と女性活躍推進に戻

すが、女性活躍推進法が施行された

2016年、世界経済フォーラムが毎年

36Journals●12017.1037特集

だしている男女の社会的/経済的な格差

をはかる指標として使われるジェンダー

ギャ

,プ指数

(GGI)ランキングは、

世界144カ国中111位、これまでの

最下位という悲惨なものとなった。この

国は女性が輝いたり、活躍したりなんて

本気でできるのかと思えてくる。浅倉む

つ子『雇用差別禁止法制の展望』は、こ

のジェンダー格差を、雇用分野から膨大

な研究をもとに刊行された。

政府は、「働き方改革」を推進している

が、そもそも根強い性別役割分業があり、

家事

。育児責任は圧倒的に女性に集中し

・ている。まず男性の働き方が改革されな

ければ、女性労働者の活躍は無理だ。な

ぜなら、男性の家事

・育児時間が長くな

るほどその配偶者の離職率は低下してい

るというデータがあるからだ。また、政

府は2019年度から、同

一労働同

一賃

金制度を導入することを決めた

(中小企

業は同

一労働同

一賃金制度の適用に1年

間の猶予あり)が、果たしてどんな効果

があるのか。そもそもは、「同

一価値労

働同

一賃金原則」と呼ばれるべきもので

あろうが、この機会にちゃんと学ぶため

には浅倉の本は外せない一冊である。

さて最後に、巷では、私は憲法が専門

のように思われている節があるが、専門

はそもそも国際人権法であり、大学では

国際法を教えている。

日本のメディァでは、領土問題や安全

保障問題などが生じたとき、国際政治学

者のコメントは取っているが、国際法学

者にきいている例はほとんどない。森川

一・森肇志

・岩月直樹

・藤澤巌

・北村

朋史

『国際法で世界がわかる 】一ュース

を読み解く32講』を読むと、 ニュースの

背景にある国際法の重要性が、大変よく

わかる。メディァがぁまリコメントを取

りにいかない国際法学者に、国際社会の

できごとをきいてもらいたい。個人的な

願いだ。            日

世間知を上げるための10冊

谷口真由美 選

藤島大

『人類のためだ。ラグビーエッセー選集』(鉄筆 )

秋山訓子

『女子プロレスラー 小畑千代

闘う女の戦後史』(岩波書店 )

阿部岳『ルポ 沖縄 国家の暴力

現場記者が見た「高江165日」の真実』(朝 日新聞出版)

猿田佐世

『自発的対米従属

知られぎる「ワシントン拡声器」』(角川新書)

上間陽子

『裸足で逃げる沖縄の夜の街の少女たち』

(太田出版 )

雨宮処凛『女子と貧困

乗り越え、助け合うために』(か もがわ出版 )

西山千恵子・柘植あづみ

『文科省/高校「妊活」教材の嘘』(論創社 )

杉田聡

『AV神話

アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店 )

浅倉むつ子

『雇用差別禁止法制の展望』(有斐閣)

森川幸一・森 肇志・

岩月直樹・藤澤 巌・北村朋史

『国際法で世界がわかる

ニュースを読み解く32講』(岩波書店 )

100冊で読み解く「いま」

男もツライ、女もツライ そんな世の中を変えてみたい