ユダヤ教徒は共同体の指導原理を

めぐつて生じた階級的思想的対立の

中から諸党派が結成された。

「蔦の

教会」第３９７号で述べたサドカイ

派、フアリサイ

（パリサイ）派の他

に、聖書には記されていないが、　一

世紀の歴史家で

「ユダヤ古代誌」著

者フラウィウス・ヨセフスや

ユダヤ

人哲学者アレクサンドリアのフイロ

ンがその存在を書き記しているエッ

セネ派がいた。

エッセネ派とクムラン宗団

ヘレニズム

・ローマ時代を通じて

苛酷な外国支配を受けた

ユダヤ民族

には、どんなに大きな犠牲を払

って

も、支配勢力に対する闘争をやめよ

うとしない抵抗精神がみなぎ

つてい

た。彼等の信念によれば、これは単

なる民族解放闘争ではなく、世界の

支配者である唯

一の神の選民が、異

教徒の邪悪な支配を打破するために

戦う正義の戦いであ

った。しかし現

実は彼らの希求する方向とは全く逆

方向に動いていった。神の全能にた

いする信仰が、絶対的であればある

ほど、敗北は不可解であり挫折感は

深かった。この厳しい現実に直面し

て、彼らはあえて歴史の支配者であ

る神の計画を問いたださずにはいら

れなかった。神に対するこの問いか

けから生み出されたのが、黙示思想

であ

った。

この黙示思想を生み出した当時の

時代的雰囲気の中から、多種多様の

過激派が生まれた。　エツセネ派はこ

のような宗教的過激派の

一派であ

っ

た。今から

７０年前の１９４７年に、

死海北岸のクムランの洞窟で、死海

写本が発見されるまで実態が不明で

あ

った。約

ｌｏ年間行われた発掘調査

の結果、　エッセネ派が死海西岸に本

部を置く契約共同体であ

ったことが

明らかにな

った。発見された多数のクムラン遺跡

(5)蔦の教会2018年 5月 27日

文書の中にエツセネ派という名称は

全く見当たらないことから、このセ

クトは

「クムラン宗団」と呼ばれて

いる。

クムラン宗団の創立者は、紀元前

２世紀なかばにハスモン家のヨナタ

ンが

エルサレム神殿の大祭司に任命

されたことに反対して、祭司グルー

プ間の大きな亀裂争いに敗れ、荒野

に追放された

「義の教師」であ

った

ということを、宗団の文書が暗示し

ている。

エッセネ派の

一般メンバー

は町々に住んでいたが、中心メン

バーはクムランの本部に集ま

って、

完全な共有財産制度と独身主義を守

る契約共同体を形成していた。この

セクトは律法を厳格に守り、絶えず

礼拝をささげて、終末が早く到来す

るよう祈る生活に没頭することで

あ

つた。死海写本の

一つ「戦いの書」

において終末戦争の状況を詳細に描

いているが、　エッセネ派は元来平和

主義者であり、熱心党が指導した対

ローマ武装反乱は、本来彼らが目指

していたことではなかった。それに

も拘わらず、ＡＤ６６年に始ま

った大

反乱

（第

一次

ユダヤ戦争）に彼らは

参加して戦い、その結果クムランの

本部は破壊され、　エッセネ派は消滅

した。

死海

文書

から解

ったクムラン・

エッセネ派とキリスト教との違い

クムラン洞窟で発見された死海写

本の巻物は考古学者たちによる解読

分析が進められ、その一部が公表さ

れるとメディアがセンセーショナル

に報道を始めた。そして激しい論争

が起こり、　一部の評論家はイエスと

その弟子たちはエッセネ派であった

と主張し、他の立場の者はイエスの

宣教時代にクムランの住民も存在し

ていたが、死海写本のどれもイエス

に言及しておらず、新約聖書に描か

れているイエスのいかなる弟子にも

触れていないとして、イエスとその

弟子グループはクムラン・エツセネ

派とは無関係だったと主張している。

解読分析が進み、クムラン・エツ

セネ派とイエスとその弟子グループ

の多くの類似点と基本的な相違点が

明らかになってきた。

（類

似

点）

０入会者は２年間の修行の後、水に

よる洗礼の儀式を受けた。

②写本の宗規要覧で

ごルれ野でヤー

ウェの道を備えよ」と教えている。

０神からの聖霊の存在を信じてい

た。そして聖霊は今や共同体の中に

住んでいるとした。

０クムラン・エツセネ派の成会員と

して完全に加入した場合、自分の財

産をすべて共同体に提供し、共有財

産にする制度だ

った。

⑤

不品行以外での離婚を禁上して

いた。

③会員たち自らを

「光の子ら」とい

う用語を用いていた。

（相

違

点）

①決定的違いは、械れた者として日

の不自由な人、手足の不自由な人、

ハンセン氏病の人、耳の聞こえない

人、売春婦、取税人は共同体に加入

出来ないし、聖所にも入ってはなら

ないと拒絶している。これとはまっ

たく逆に、イエスとその弟子たちは

積極的にこれらの人々のところに出

掛けて行き、病を癒し、手を取

つて

一緒に涙を流し、取税人と

一緒に食

卓についたりした。

②

エッセネ派のダ

マスコ文書には

「だれも安息日に家畜の出産を助け

てはならない。また、もし水ためま

たは穴に落ちても安息日にそれを上

げてや

ってはならない」とあり、律

法を厳格に求めた。イエスはこれを

批判して

「安息日は人間のために造

られたのであ

って、人の子は安息日

の主なのである」

（マタイ

ー２

¨８）

と強調した。

③分離主義のクムラン・エツセネ派

は写本の宗規要覧で

「神の選びたも

うたものを皆愛し、神の斥けたもう

たものを皆憎む。すべて闇の子

（共

同体以外の者）をおのおの神の報復

に入るべきその罪に応じて憎むこと

と規定している。イエスは「しかし、

わたしは言

っておく。敵を愛し、自

分を迫害する者のために祈りなさい

「悪人に手向かってはならない。だ

れかがあなたの右の頬を打

つなら、

左の頬をも向けなさい」と述べてい

フ（υ。このようなことから、イエスとそ

の弟子グループはエッセネ派を熟知

していたと思われる。弟子たちの中

にはフアリサイ

（パリサイ）派から

加わ

った者もいたことは聖書の記述

にもあり、　エッセネ派の者もイエス

に従

った者がいたであろうことは、

容易に想像される。のちに原始キリ

スト教となるイ

エスとその弟子グ

ループにはエツセネ派の影響がかな

りあ

つたと私は思

つている。

（完）

［参考文献］

古代イスラエル史

（マ

ルテイン

・メッガー著　山我哲雄訳

新地書房）、　ユダヤ教史

（石田友雄

著　山川出版社世界宗教史叢書４）、

イスラエル史

（Ｍ

・ノート著　樋口

進訳　日本基督教団出版局）、　ユダ

ヤ教の歴史

（市川裕著　山川出版社）

地図

・絵画

・写真

（ウィキペデイア

日本語版）

「イエスと死海文書」

ジ

エームス

・Ｈ

・チャールズウアー

ス編著、山岡健訳

（一二父社）