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ある銀行で住宅ローンの貸し倒れの危険性について、アナリストが警告したに もかかわらず、担当の事業部長にはうまく伝わっていなかった。アナリストが示 した数式やモデルの報告書がよく理解できなかったのだ。アナリティクスがあら ゆる組織に必要なものとなっている今日、マネジャーと計量アナリストとの連携 は優れた意思決定に欠かせない。しかし、マネジャーがすべてアナリティクス に精通しているわけではない。本稿はそうしたマネジャーのために、アナリティ クスをうまく活用するための方法と注意点を伝授する。 統計学が苦手なあなたに アナリティクスの専門家を いかに活用するか バブソン大学 特別教授 トーマス H. ダベンポート Thomas H. Davenport 編集部“Keep Up with Your Quants,” HBR, July-August 2013. ©2013 Harvard Business School Publishing Corporation. Keep Up with Your Quants May 2014 Diamond Harvard Business Review 78

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Page 1: Keep Up with Your Quants - DIAMOND ハーバード・ …...Keep Up with Your Qats アナリティクスの専門家をいかに活用するか |特集|アナリティクス競争元年

ある銀行で住宅ローンの貸し倒れの危険性について、アナリストが警告したにもかかわらず、担当の事業部長にはうまく伝わっていなかった。アナリストが示した数式やモデルの報告書がよく理解できなかったのだ。アナリティクスがあらゆる組織に必要なものとなっている今日、マネジャーと計量アナリストとの連携は優れた意思決定に欠かせない。しかし、マネジャーがすべてアナリティクスに精通しているわけではない。本稿はそうしたマネジャーのために、アナリティクスをうまく活用するための方法と注意点を伝授する。

統計学が苦手なあなたに

アナリティクスの専門家をいかに活用するか

バブソン大学 特別教授

トーマス H. ダベンポートThomas H. Davenport

編集部/訳“Keep Up with Your Quants,” HBR, July-August 2013.©2013 Harvard Business School Publishing Corporation.

Keep Up with Your Quants

May 2014 Diamond Harvard Business Review 78

Page 2: Keep Up with Your Quants - DIAMOND ハーバード・ …...Keep Up with Your Qats アナリティクスの専門家をいかに活用するか |特集|アナリティクス競争元年

ILLUSTRATION: Lasse Skarbovik

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ビッグデータが

宝の持ち腐れとならないために

 数年前、アメリカの大手銀行に勤務するあ

る上級計量アナリストが私にこう言った。

「うちの銀行がどうして住宅ローンを帳簿か

ら外さなかったのか、理解に苦しむ。返済さ

れないローンが多いことを強く示すモデルが

あったから、住宅ローン事業部長には報告し

ておいたのに」

 私は住宅ローン事業部の部長本人に会った

時に、なぜそのアドバイスを無視したのかと

聞いてみた。彼の答えは「アナリストがモデ

ルを見せてくれたとしても、私が理解できる

ような用語では説明されていない。だいたい

アナリストのチームが返済見込みについて作

業しているのさえ知らなかった」というもの

だった。

 いまはビッグデータの時代である。金融サ

ービス、消費財、輸送交通、工業製品と、ど

んな分野であろうとも、アナリティクス(分

析力)が組織にとって、競争上不可欠なもの

となりつつある。とはいえ、前述の銀行の例

が示すように、ビッグデータを所持している

だけでは、それをうまく扱える人材がいたと

しても、不十分なのだ。アナリストたちとう

まく連携し、そこからより戦略的で戦術的に

も優れた意思決定を生み出すようなゼネラ

ル・マネジャーたちが、企業には必要である。

 カジノ・ホテル経営で知られるシーザー

ズ・エンタテインメントのゲイリー・ラブマ

ン(マサチューセッツ工科大学で博士号取得)、

アマゾン・ドットコムのジェフ・ベゾス(プ

リンストン大学で電気工学とコンピュータ・サ

イエンスを専攻)、グーグルのセルゲイ・ブリ

ンとラリー・ペイジ(スタンフォード大学コ

ンピュータ・サイエンス博士課程中退)のよう

に、アナリティクスに精通している人なら問

題ない。しかし、どこにでもいる企業の幹部

で、数学と統計学は大学の授業で一つか二つ

選択した程度だとしたら、どうだろうか。ス

プレッドシートには熟達して、棒グラフや円

グラフの見方は大丈夫でも、分析となると、

その数式に圧倒されるように感じるのではな

いだろうか。

 そうなると、データ主導の意思決定へと移

行することは、どんな意味があるのだろうか。

Thomas H. Davenportバブソン大学特別教授。デロイト アナリティクスのシニア・アドバイザー、インターナショナル・インスティテュート・フォー・アナリティクスの共同創設者。共著にKeeping Up with the Quants, Harvard Business Review Press, 2013.(邦訳『真実を見抜く分析力』日経BP社、2014年4月刊行予定)、単著にBig Data at Work, Harvard Business Review Press, 2014.(未訳)がある。

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Keep Up with Your Quantsアナリティクスの専門家をいかに活用するか

|特集|アナリティクス競争元年

部長、ジェニファー・ジョイだ。ジョイは看

護師資格とMBAを持っているが、自分の分

析スキルにはそれほど自信がなかった。しか

し彼女は、患者が自分の病状を管理し、日常

生活においてもそれを守れるように指導する

電話業務が本当に患者の役に立っているのか、

送られてくるコール・センターからの膨大な

報告書では判然としないということに気づい

ていた。

 そこでジョイは、シグナのアナリスト・グ

ループ、特に実験計画法のエキスパートたち

にコンタクトを取った。実験計画法は、原因

と効果を実証できる唯一の分析アプローチで

ある。

 一例を挙げれば、コール・センターの提供

サービスから最も恩恵を受ける(また最も恩

恵を受けにくい)対象母集団のセグメントを

突き止めるための実験が可能だとわかった。

具体的には、彼女はアナリティクスを用いて、

二名一組で患者を「プレマッチ」し、無作為

に選んだそのうち一人に当該サービスを利用

させ、他の一人には郵便による通知やウェブ

によるサポートなどの代替サービスを提供し

た。各検証に要した期間は二カ月ほどで、複

数の調査を同時進行で進めている。そしてい

までは、ジョイは電話指導プログラムの効果

について継続的に情報を得られるようになっ

ている。

どうすれば、住宅ローンで損失を被った銀行

幹部のような運命を回避して、自社をアナリ

ティクス主導の革命へと導くことができるの

か。あるいは、少なくともよき戦士として、

大変革のただなかを進軍できるのか。

 本稿は、アナリストでない人のための入門

書として、私が教員として、あるいはコンサ

ルタントとして関わった数名を含め、多くの

企業幹部たちとの広範囲にわたるインタビュ

ーを基盤として書かれている。

アナリティクスのユーザー

としての視点

 まずアナリティクスのユーザーとしての自

分を考えてみよう。「生産者」は計量アナリ

ストたちだ。彼らの分析とモデルを、これま

でのビジネス経験と直観に照らして、総合的

に意思決定を下すことになる。

 生産者たちはもちろん入手可能なデータを

収集し、予測することについては長けている。

とはいえ、彼らの多くには、仮説と適切な変

数を識別し、組織の真下の土台が揺らいでい

る時を察知するほど知識は十分でない。だか

らこそ、変化する事業環境のなかで仮説を出

し、結果や提案が道理にかなったものかどう

か判断するという、データ利用者の仕事が決

定的に重要となる。つまり、非常に重要な責

任のいくつかは担っているのだ。姿勢と見方

を変えるだけでよい場合もあれば、多少の調

査が必要になる場合もある。

少し分析を学ぼう

 大学レベルの統計学の内容を思い出せれば、

それで十分かもしれない。そうでないなら、

回帰分析、統計的推論、実験計画法の基礎を

勉強しよう。どんな時にユーザーとして介入

すべきかを含めて、アナリティクスを使った

意思決定プロセスを理解する必要がある。そ

して、どんな分析モデルも、基礎となる前提

は生産者が説明と解説の責任を負っており、

その前提で構築されているということを認識

しなくてはならない(囲み「アナリティクス

による意思決定の六つのステップ」を参照)。

 高名な統計学者ジョージ・ボックスが言っ

たように「すべてのモデルは間違っているが、

なかには役立つものもある」。つまり、モデ

ルとは複雑な世界を意図的に単純化したもの

なのだ。

 データに強くなろうと思ったら、企業幹部

向け統計教育プログラムやウェブ上の講座を

受講するといい。またプロジェクトなどで一

緒に仕事をしながら、社内のアナリストたち

に教わることもできる。

 別のやり方を選んだ者もいる。医療サービ

スをグローバルに展開するシグナの臨床事業

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 最終的に、ジョイと協力したアナリストた

ちは、電話による指導は特定の疾患のある

人々には役立つが、その他の患者には役立た

ないとわかったので、一部のコール・センタ

ー要員は異動となった。

 現在、彼女のチームは常時、年間二〇~三

〇件のテストを実施し、本当に患者に役立つ

のは何かを探っている。ジョイが方法論の詳

細まですべて理解しているわけではないかも

しれないが、シグナのリサーチ・アナリティ

クス(アメリカ担当)部門長のマイケル・カ

ズンズは、彼女は努力して「非常に分析的な

志向」を身につけた、と証言する。

適切なタイプの計量アナリストを

選んで仕事をしよう

 インテルのディシジョン・エンジニアリン

グ・グループのカール・ケンプは、社内で

「超計量アナリスト」とか「数学のチーフ」

と呼ばれる人物である。彼はしばしば、効果

的な定量分析的意思決定は「数学の問題では

なくて、人間関係の問題だ」と言う。アナリ

ストとそのデータのユーザーが情報とアイデ

アを自由に交換できるような深い信頼関係を

結べば、ずっとよい結果を得られるようにな

るという意味である。

 もちろん、高度なアナリティクスを扱う

人々すべてが、協調性や社交性などのソーシ

ャル・スキルを十分に持ち合わせているわけ

ではないから、協調的に仕事をするのが難し

い場合もある。ある冗談好きが「話している

時に、自分の靴ではなくて、相手の靴を見つ

めるアナリストを探すとよい」とアドバイス

してくれたほどだ。しかし、意思疎通ができ、

数学の問題よりもビジネスの問題の解決に熱

意を持つアナリストを探し出すことは可能だ

し、いったんよい関係が確立できれば、二人

の間の率直な対話も進むし、データを根拠と

する意見の相違も明快になるだろう。

 バンク・オブ・アメリカのケイティ・ノッ

クスは、データの生産者と連携するやり方を

学んできた。同行のコンシューマー部門でリ

テール戦略と販売を指揮する彼女は、五〇〇

〇万以上の消費者と小規模企業にサービスを

提供する五四〇〇余の支店を監督している。

彼女は、数年にわたり、よりよい意思決定の

ためにアナリティクスを使うよう、上申し続

けてきた。たとえば、どの支店を開くか閉じ

るか、顧客の待ち時間をいかに短縮するか、

どういうインセンティブが複数のチャネルの

やり取りにつながるのか、営業担当者の成績

に良し悪しが出る理由は何か、といったこと

を見極めるためである。

 バンク・オブ・アメリカには何百人ものア

ナリストがいるが、大部分はマネジャーたち

では容易に近づけない一グループにまとまっ

特定の変数が結果にどのように作用するか詳細な仮説を立てる。

ソリューションのモデルをつくり、変数を選ぶ

統計モデルを走らせ、データの適切性を評価し、最適な適合が得られるまでプロセスを反復する。

データを分析する

仮定した変数について、1次データと2次データを収集する。

データを収集する

意思決定者とステークホルダーがアクションを取れるよう、データを用いて話をする。

プレゼンし、結果に基づく行動を取る

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Keep Up with Your Quantsアナリティクスの専門家をいかに活用するか

|特集|アナリティクス競争元年

ていた。ノックスは直属のアナリティクス・

チームを抱えることを主張し、頻繁に行われ

る会議やプロジェクト報告会を通して、その

グループのメンバーたちとの絆を強めた。

 彼女は特にチーム・リーダーのジャスティ

ン・アディスおよびマイケル・ハイジーと緊

密に連携するようになった。この二人はリテ

ール業務とシックス・シグマで経験を積んで

いたことから、ノックスの担当部門の課題を

よく理解し、それらを部下の熱心なアナリス

トに噛み砕いて説明することができた。

 この先例に従い、その後バンク・オブ・ア

メリカでは、コンシューマー部門内でのアナ

リストに対してマトリックス組織を設け、ア

ナリストたちは事業部門と中央の分析グルー

プの両方に報告義務を持つようになった。

初めと終わりに焦点を当てよう

 問題を特定し、過去にどのように解決され

たか、というフレームに当てはめるのが、ビ

ッグデータのユーザーにとって、最も重要な

分析プロセスとなる。ここで発揮されるのが

あなたのビジネスにおける経験と直観である。

結局のところ、仮説とは、世界がどのように

動くのかについての予感なのだ。分析的な考

察では、当然ながら、その仮説を厳密に検証

する手段を使うことになる。

 一例を挙げよう。フォトクロミック(調

光)・レンズ生産のトランジションズ・オプ

ティカルの親会社二社の経営幹部は、同社の

マーケティング投資が最適レベルにないと考

えていたが、それを確証する経験的データは

なく、反証するデータもなかった。当時マー

ケティング部門を率いていたグラディ・レン

スキは、アナリティクス・コンサルタントを

雇い、販促が異なる場合の効果を測定するこ

とを決めた。これは経費が高すぎるか否かを

問う単純な二者択一の質問で展開する、建設

的なフレームである。

 あなたがアナリストでないのなら、プロセ

スの最後のステップ、すなわち他の経営幹部

たちに結果を伝達することにも注意を払うべ

きだ。というのも、多くのアナリストがその

意義を重視しなかったり、見逃したりするの

で、いずれかの時点であなたがおそらくその

役目を引き受けなければならないだろう。

 アナリティクスがだいたいにおいて「デー

タについてのストーリー」であるなら、どん

なタイプの話が好ましいだろうか。どんな言

葉、どんな調子が使われるのだろうか。スト

ーリーは記述として伝えられるべきか、ある

いは視覚的なほうがよいだろうか。どんな図

が好ましいだろうか。分析がいかに高度なも

のであろうと、だれにでも理解できる単刀直

入な方法でその結果を説明するよう、アナリ

ストたちに勧めるべきだ。彼らがそうしない

アナリティクスによる意思決定の6つのステップビッグデータを用いて大きな決定をする時、アナリティクスの専門家でない場合は、プロセスの最初と最後に焦点を当てなければならない。通常は数字に強い人間に中間部分の詳細を任せるが、専門家でなくても賢い人間はたくさんの質問を投げかけ続ける。

意思決定やビジネス上の問題をフレームに当てはめ、そのフレームには当てはまらない別の可能性を見極める。

問題や疑問点を認識する

その問題または類似の問題を解決しようとした人たちと、そのアプローチ方法を明らかにする。

以前にわかっている事項を再検討する

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なら、自分ですべきである。統計手法のお話

(「まずカイ二乗検定を行い、カテゴリー・デー

タを順序データに換え、それからロジスティッ

ク回帰、そして経済データを一年ラグ処理した」

など)は、まず受け入れられない。

 結局、多くのビジネスパーソンは、ROI

(投資利益率)の話に落ち着く。つまりは、

新しい意思決定モデルがどのようにコンバー

ジョン、売上高、収益率を伸ばすのか、とい

う話である。たとえば、製薬企業のメルクで

グローバル部門を担当する経営幹部は、長年

にわたって同社の消費者アナリティクス・グ

ループと協力し、消費者に直接に販促した場

合のROIを含むさまざまな疑問を解決して

きた。一つのROI分析の前には、その仕事

が単に学術的な練習問題に終わることがない

よう、販促の成功度(大きく成功、まあまあ

成功、失敗)が明らかになった時に、成功度

に応じてどんな行動に出るかを話し合う。分

析後には、マネジメント・チームとともにア

ナリストたちをテーブルに着かせ、結果を発

表させ、討論する。

作業中はたくさん質問をしよう

 定量分析を基本として運用を行うクオン

ツ・ヘッジ・ファンドの顧問を務めた経験も

ある元財務長官ローレンス・サマーズは、そ

の仕事の主な責任は「監視する」ことだと言

った。つまりは、企業内の賢いアナリストた

ちに、そのモデルや仮定について、同様に賢

い質問をすることである。アナリストの多く

はこれまでそのように問い詰められたことは

ない。彼らに徹底的に考えさせ、その仕事を

改善させるためには、知的なデータ・ユーザ

ーが必要だったのである。

 いくらあなたがアナリストを深く信頼して

いようとも、厳しい質問を投げかけるのをや

めてはいけない。たいていの場合、より正確

で、正当性を証明できる分析へと導く質問例

をここに挙げておく(理解できない返答をさ

れたら、もっと簡潔な言葉で話せる人に尋ねる

とよい)。

❶ 

データの出所はどこか。

❷ 

サンプル・データは母集団をどれくらい

代表しているか。

❸ 

データ分布には外れ値も含まれているか。

それらはどのように結果に影響するか。

❹ 

分析の背後にある仮定は何か。何らかの

条件があれば、その仮定やモデルは無効

になるのか。

❺ 

なぜその分析アプローチをしようと決め

たのか。そのほか、他にどのような選択

肢を考えたか。

❻ 

独立変数が実際に従属変数の変化を起こ

す可能性はどれほどか。他の分析で因果

関係をもっと明確に示せるか。

 デロイト・アメリカの財務管理部門のCF

O兼マネージング・パートナーのフランク・

フリードマンは、執拗に質問を繰り返す。彼

はデータ・サイエンティストと計量アナリス

トから成るグループをつくり、サービス価格

の最適化、社員のパフォーマンスを予測する

モデルの開発、受取勘定の変動要因の識別な

ど、数件のイニシアティブについて、力にな

ってもらっている。

「私と仕事をするメンバーは、私がいつも、

あらゆることに対して、たくさん質問するこ

とを知っている」とフリードマンは言う。

「質問が終わると、分析のいくつかに戻って

やり直さなければならないことも承知してい

る」。彼はまた、何かが理解できない時、そ

れを認めるのは非常に重要だと信じている。

「そういう人たちといたら、自分が部屋中で

いちばん頭がよい人間ではないことがわかる。

もし明確に説明できないとすれば、他人にそ

の正当性を主張することなどできないのだか

ら、いつでも明瞭な説明を要求する」

擁護ではなく、質問の文化を

確立しよう

 だれもが「数字は簡単に嘘をつき、嘘つき

は簡単に勝ち点を取る」ことを知っている。

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Keep Up with Your Quantsアナリティクスの専門家をいかに活用するか

|特集|アナリティクス競争元年

アナリティクスのユーザーは生産者に対し、

けっして「私のアイデアをサポートするよう

な証拠が見つけられるかな」といった圧力を

かけてはならない。そうではなく、明確な目

標とすべきは、真実を求めることである。メ

ルクの消費者アナリティクス・グループのト

ップが「経営陣は我々にスイスのようであれ

と望む。株主だけのために仕事をするという

ことだ」と述べているように。

 実際、上級幹部のなかには、アナリストた

ちに「悪魔の代弁者」(多数派に対してあえて

批判や反論をする)を演じさせる人たちもい

る。これにより、適切な文化のトーンを定め、

モデルの改善が可能になる。シーザーズ・エ

ンタテインメントのゲイリー・ラブマンは次

のように説明する。

「どんな組織もボスを喜ばせようとする。だ

から、人とは分離してアイデアを吟味し、そ

れらのアイデアをきちんと見分けられる厳正

な証拠にこだわる環境を育むことは不可欠で

ある」

 ラブマンは、部下たちに意見ではなく、デ

ータと分析を出すよう求め、自分の誤った仮

説、結論、意思決定を白日の下にさらす。そ

のようにして、マネジャーもアナリストも同

様に、ラブマン自身の言葉によれば時として

「不十分で思慮の足りない見方」には、だれ

のものであろうと客観的で偏向のない実証が

必要だということを理解する。

 たとえば、彼はしばしば、新任CEO時代

の最大の誤りは、分析的な方向性に同調しな

かったプロパティ・マネジャーを解雇しない

と決めたことだと言う。その人たちが経験を

十分に積んでいると判断したのだった。ラブ

マン自身が誤りやすい人間であること、そし

てアナリティクスのユーザーであることの両

方を示すために、この例を持ち出すのだ。

すべてに納得がいったら

 ウォーレン・バフェットはある時「数式で

武装した変人に気をつけろ」と言った。しか

しデータで動いている今日の世界で、そんな

悠長なことを言ってはいられない。アナリテ

ィクスという科学的方法と直観の技を組み合

わせる必要があるのだ。変人たちを知り、そ

の数式を知り、その分析プロセスの向上を助

け、効果的に解釈し、わかったことを他の

人々に伝え、結果としてよりよい意思決定が

できるような、そういうマネジャーになろう。

 本稿の最初に言及した銀行と、トロント・

ドミニオン銀行を比べてみよう。CEOのエ

ド・クラークは計量分析に詳しく(経済学の

博士号を持つ)、マネジャーたちには同行が

関わるすべての金融商品の基礎にある数学を

理解するよう求めている。その結果、同行は

高リスクの仕組み商品(デリバティブなどを

組み合わせた金融商品)を回避したうえ、二

〇〇八年から二〇〇九年にかけて、大きな損

失を招く前に、その他のリスク商品からも手

を引く分別を持っていた。

 トロント・ドミニオンのデータとアナリテ

ィクス重視の姿勢は、事業の他の分野にも影

響を与えている。たとえば、報酬は業績・マ

ネジメントの評価と緊密に連携している。ま

た同行はたいていの銀行より営業時間が長い

が、これはリテール部門の前責任者ティム・

ホッキーが営業時間の延長の効果を(対照群

で)系統的に実験することにこだわり、その

結果預金が増えることを見出したからである。

経営会議で新しい方向性を提議するなら、そ

の人はデータと分析で裏打ちするよう求めら

れる。クラークは「トロント・ドミニオンは

完璧とはいえない。しかし、数字を計算して

いないと必ずとがめられる」と言う。

 自分の会社を振り返れば、トロンド・ドミ

ニオンほどアナリティクス重視ではないかも

しれないし、CEOはエド・クラークのよう

ではないかもしれない。だからといって、自

分自身が優れたアナリティクス・ユーザーに

なり、会社全体に模範を示すことができない

わけではない。

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