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Kobe University Repository : Thesis
学位論文題目Tit le 下垂体前葉のゴナドトロピン分泌予備能に関する臨床的研究
氏名Author 小辻, 文和
専攻分野Degree 博士(医学)
学位授与の日付Date of Degree 1976-03-31
資源タイプResource Type Thesis or Dissertat ion / 学位論文
報告番号Report Number 甲0158
権利Rights
JaLCDOI
URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/D1000158※当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。
PDF issue: 2020-12-29
下垂体前葉のゴナドトロピン分泌予備能
に関する臨床的研究
神戸大学医学部産科婦人科学教室
(指導 : 東 侯 仲 平 教授 )
小 辻 文 和
下 垂体 前葉 ゴ ナ ド ト ロ ピ ン 分 泌 予 備 能
LRF 試験 性 周 期 無 排 卵 症 妊 娠 産 額
Ⅰ 緒 言
女性の生殖生理現象が視床下部一下垂体 一卵巣系 とい うきわめて精撤な機能
環の コン トロールによ り支配 されていることはよく知 られてい るO そしてこの
コン トロール ・メカニズムの解明は婦人科 内分泌学領域における最 も興味深い
テーマの一つであ t),多 くの研究者達 がこのテーマに とりくんで きT=.
この機能環の うち視禾下部 一下垂体間のmediatorは長い間謎 とされていTこ
が, 1960年代(こ入 って本邦Kobayashi ptal(19F;ll'/こよ り,この間に
gonadotropin releasing factor(OnRF)なる物質が存在 することが証
明され,まT=相前後 してMcCannetal(1960),Campbell et al(1961)
ほよ りluteinizitlg hormone releasing factor(LRF)の,まT=Iga-
ra8hi andMcCann(1964)ほよ りfollicle-Stimulating hormone
releasing factor(FRY)の存在が確認 されT=.その後 この研究は主 とし
てSchally-派の手(こよ り進め られT=が,彼等 はまず ブタ視床下部よ りこの物
質を抽出製精 (Schally et al,1971a),次いで, このブタLRFの構造を決
定 (M且t8uO et al,1971),この物質の合成に も成功した (8aba et al,
1971)。さらには, この物質に種特異性のなきこと・ またLRFとFRFとは
同一物質の有する二 重性格であろうことを推論 した (Schally et al,1971b)o
そこで一躍 この物質の各方面-の銃床応用がクローズ ・アップされたわけだが ,
今回著者は特にこの物質を用いて種 々の状態下の下垂体 予備能の検索を試みた。
そこで,以下まず正常性周親各斬婦人の下垂体予備能 を検栗,ついで無排卵症
例おiび生理的無排卵状態であ る妊娠および産額婦人の下 垂体予備能の検累を
行い, これ らを正常性局部の ものと比較検討 したo
m 研 究 方 法
LRF試験の対象としては以下の 79例を選んだ。
-1-
1 正常性周期例
卵胞親前期
排卵 前期
黄体期
2 無排卵症例
例
例
例
7
7
7
第 1度無 月経 7例
第 2度無 月経 17例
3 妊娠例
妊娠前職
妊娠中朝
妊娠後期
例
例
例
5
5
4
4 産蒋靭例
産蒋第 1週 8例
産祷第 3週 6例
産帝第 5過 6例
研究対象の年令は 22- 37才 (平均 29.1才 )であ った。また,正常性局
駒例の過去 3回の月経周期は 27日~ 31日 (平均 29.0日 )であ り,月経周
期の第 4日-第 7日を卵胞期前期,第 11日~第 13日を排卵前期,第 17日
~第 30日を黄体親 とした。、
従来我 々は,無排卵症tこ起因する無月経 をプロゲステロン20-30呼の筋
肉内投与‡こ対 する子宮出血の有無によ り第 1度無 月経 と第 2度無 目経 とは分類
しているが,今回 もこの分数tこ従い無排卵症 を2群 に分数,第2度無 目経群に
関 しては臨床成績 ,ゴナ ドトロピン試験 ,卵巣生検,さらにはLRF試験 日休
の成績により,さらに視床下部機能不 全群,下垂休機能不 全群,卵巣機能不全
-2-
群 の 3群 に分取 LT=。
LRF試験 に用いT=合成LRFとしては,第一製薬 よ り提供 を受 けT=DB-
2521,あるいは持田製薬 よ り提供 を受けT=M0 -1208を用 いT=。尚両
者の生物学的活性は,我 々が行 っT=家兎 におけ る排卵誘発実験 な どか ら,ほぼ
相等 しい もの と考 え られT=Q これ らの合成 LRF 200IL3 を 先 の 対 象 に
200IL5/ 2m2/308eC とい う条件で静脈内投与 し, LRF投与前,投与後
15分, 30分, 45分, 60分, 120分の計 6回にわた って採血,血中LE,
FSEを二抗体法 ラジオイムノアッセイ (R IA )にて制定 した。R IAはNa-
Lional 工丑8titute of Arthriti8 andMetabolism alld Digestive
Diseases rN IAM DD)より提供を受 けた R IA materials を用い,
LHはOdell et al (1967)' FSHはMidgley(1967)の方法に準 じ
た二抗体法R IA (仲野良介, 1971a)にて制定 した。 また標準品 としては,
2bd international reference Preparation of human menopausal
gonadotropin(2nd IRP of EA40) を用いrniu//棚 で表示した。 またデー
ターの算出には doSe response Cur▼e On logarithmllogit paper (仲野
良介, 1971tI)を用いた。
Ⅲ 結 果
1 正常性局靭例 の下垂体機能
正常性周期各期のLRF試験の結果 をFig.1- Fig.31こ示 すO
卵胞期 前期の 7例 では ,LRFに反応 して血中 LEは投与後 15分 よ り上昇
し始 め,投与後 80分に最高値 をとり,以後漸減 するも,120分後に もなお
投与前値 を上 まわる といっT=パター ンを示 しT:(Fig.1)O まT=,LRF投与
前の血中 LE値の平均は 19.7miu/me, ピーク時でのLHの増加量の平均は
87.Omiu/nCであ っT=.一方 FSEの場合には,やは りLRF投与後 15分
-3-
分よ り上昇 し始めT=が, ピークは45分に存在 し,しか も以後の減衰傾向 もL
Eの場合よりは緩徐なものであっT=(Fig.1).まT=,LRF投与前値の平
均は 11.1miu/me,ピーク時での平均増加量は 16.8miu/meであっT=.
排卵前鵜の 7例では,LRF投与前の血中LE値の平均は47.8miu/meと
卵胞期前期例に較べて高い値を示 し, ピーク時での平均増加量 も203.Omiu
/meと非常に大 きな ものであっT=O まT=,その反応 ′ヾ ターンも15分より上昇
し始 め,60分に一応の ピークをとるも, 120分後fこもなお減衰傾向を殆ど
認めなか っT=(Fig.2)o FSEの場合に もLHの場合 とはぼ同様のことが
言えるようで,LRF投与前値の平均は19.Omiu/meと卵胞期前期の ものに
較べて高い値 を示 し,まT=,ピーク時での平均増加量 も62.6miu/meと前者
に較べて適かiこ大 きな値を示 しT=D反応パターンに関 して も,LRF投与後
15分 より上昇 し始め,60分 こ̀一応の ピークをとるも・120分後にもなお
殆 ど減衰傾向を認めず,やはり卵胞期前期例のそれとは明 らか∈こ異質なもので
あっT=(Fig.2)0
黄体期例では,LEの場合に もFSHの場合 にも卵胞現前胡例の場合 とほぼ
同様の反応パターンを示 し,LH,FSE ともにLRF投与後 15分よ り上昇
し始 め,LIIは30分に,FSIIは 45分に ピークをとり,以後漸減 LT=(F
ig.3 )。 まT=,LRF投与前のLE値の平均は20.4miu/me,FSH値の
平均は8.Omiu/meであ り, ピーク時での平均増加量はLHでは 116.Omiu
/me,FSEでは 31.Omiu/meであっT=.
2 無排卵症例の下垂体機能
無排卵症例におけるLRF試験の結果をFig.4-Fig.7に示す.
1)第 1匿無 月経例
第 1度無 月経例では,LRF投与前の血中LE値,FSE値, ピーク時での
-4-
これらの増加量は,いづれ も正常性周期の卵胞期前靭例,あるいは黄体期例の
それ らに類似LT=ものであっT=OまT=,LRF投与後の血中LE,FSEの変
動パターンに的 して も同様のことが言えるよ うで,殆 どの症例でLEはLRF
投与後 30分に,FSEは45分にそれぞれ ピークをとり,以後漸減するパタ
ーンを示 しT=(Fig.4)。 これ らの症例中,血中LEのLRF投与前値が他
の症例より高く,まT=ピーク値が非常Iこ高か っT:1例は,卵巣生検の結果,多
嚢胞卵巣症候群の症例であっT=0
2)第 2度無 月経例
今回の第 2度無目経群は臨床像 ,ゴナ ドトロピン試験 ,卵巣生検およびLR
F試験 自体 lこよ り,視床 下部機能不全を予想 される群 ,下垂休機能不全を予想
される群,卵巣機能不全を予想 され る群の 3群に分数することが出来T=。
各々の群のLRF試験の結果をFig.5-Fig.7(こ示すO
視床下部機能不全群の症例では,LH,FSn ともにLRF投与前値, ピー
ク時での増加量,LRF投与後の変動パターンのいづれ もが正常性周期の卵胞
期的靭例,黄体靭例,あるいは第 1度無月経例のそれ らと類似 した ものであっ
T=(Fig.5).
下垂体機能不全群では,全例にてLRF投与前の血中LH,FSH値はきわ
めて低 く,まT=LRF投与後のこれらの変動 も殆 ど認 めなかっT=(Fig.6)O
卵巣機能不全群においては,特に血中LHに関 して,LRF投与前値は正常
性間期の卵胞期的期例,あるいは黄体期例に較べて非常fこ高 く, ピーク時での
増加量 もこれ らの ものに較べて非常に大 きか っT=。まT=,反応のパターンもむ
しろ排卵前期のそれに近い ものであっT=oFSEに関 して もはば同様のことが
いえるが,この場合には必ずしも同一のパターンを示 さないようであっT=(F
ig.7)0
-5-
3 妊娠時の下垂体機能
妊娠例のLRF試験の結果をFig.8-Fig.10に示すが,妊娠例では血中
ECO値の高い状態が予想 され,血中LIIを特異的に測定することが困難であ
るT=め,今回は血中FSHのみの変化 を観察しT=o妊娠の前期 (Fig.8),中
鶴 (Fig.9),後期 (Fig.10)のいづれほても,全例【こてLRF投与前の
血中FSEレベルは正常性間期の卵喝靭前期例あるいは黄体期例に較べて低 く,
まT=,LRF投与後に もその上昇を殆 ど認めなかっT=0
4 産裾期の下垂体機能
産南例のLRF試験の結果をFig.ll-Fig.13Eこ示すが,産祷第 1通例で
は妊娠例の場合 と同様の理由ほより血中FSEの変動のみを観察 しT=O
産梅第 1通例では,血中FSE値はLRF投与前,投与後を通じて全例が正
常性周期の卵胞親前期例あるいは黄休靭例lこ較べて低値を示し,LRFに対す
る下垂体前葉の反応は殆ど認められなかっT=(Fig.ll).
産蒋第 3通例では,血中FSEに関しては,LRF投与前値の比較的高かっ
T=2例にLRF投与後 こ々著明な上昇 を認め,残 る4例のうち3例Iこは軽度の上
昇を認めT=が, 1例では殆 ど変動 を認めなかっT=0-万血中LEiこ関しても,
LRF投与後 2例に著明な上昇を,まT=1例には軽度の上昇を認めT:が,残 る
3例には殆 どその変動 を認めなかっT=(Fig.12)。
産蒋第 5通例では,全例 にLRF投与後の血中LE,FSE両者の上昇 を認
め,LEは投与後 80-45分lこ,FSEは45-60分にそれぞれ ピークを
とり,以後漸減するパターンを示しT=(Fig.18)0
Ⅳ 老 按
種々の状態下の下垂体機能,特にLRFに対する下垂体前葉の反応態度を知
-6-
るべ く,まず正常性周期例(こLRF試験 を行い,この時の下垂体前葉の反応態
度を知 り,ついで種 々の状態の無排卵症例,あるいは生理的無排卵状態 とされ
ている妊娠例,産額例にこれを行い,この時の下垂体前葉の反応態度を正常性
周期の ものと比較検討しT=。
正常性周闘例では,21例のすべてがLRFに反応 し,血中LE,FSE レ
ベルの上昇 を示しT=。卵晦胡前朝例および黄体期例では,血中L且,FSEと
もKLRF投与後 15分より上昇 し始め,LEは 30分,FSfIは45分にそ
れぞれ ピークをとり,以後漸減するもいづれ も120分後に もなお投与前値 よ
りは高い値 を示 しT=o これに対 して,排卵前期例では,LRF投与前の血中L
E値,FSE値 ともに約 2者よりは高い値 を示 し,まT=LRF投与後のLE,
FSEの上昇 も前 2者に較べ非常に大 きく,その反応パターンも全く異なる も
のであっT=Oこの差異に対する十分な説明はいまだ不可能で今後の研究が待T=
れるところではあるが,一つの可能性 として性同軸各期間の視床下部一下垂体
一卵巣系内のホルモン環境の差が上げられる。Arimura and Schally
(1970),Debeljuk et al(1972),Reeves et al(1971)はエス トロゲン
で前処置 LT=ラットや ヒツジにLRFを投与 LT:実験 より,Nillius and
Wide(1971),MoJlrOe et al(1972),Yen andTsai(1972),KaStin et
81(1972)は無 月経婦人や正常男子にエス トロゲ ンを授与 しLRF作用に与え
るエス トロゲンの影響を観察しT=実験 より,エス トロゲンはLRF作用に対 し
促進的に働 くと報告 している。まT=, Schally et al(1973)ば in vitro
実験によ り,大量の エス トロゲンはLRF作用に抑制的に,逆 に少量のエス ト
ロゲ ンは促進的に作用すると報告 しているDプロゲステロンに関 して もAri-
- ra and Schally(1970)の報告があるが,彼 らはこの物質はエス トロゲ
ンとは逆にLRF作用tこ対 して抑制的iこ作用すると報告 してい る。我 々の動物
-7-
実験で もすでに報告したように (Nakano et al,1974),エス トロゲ:/ある
いはプロゲステロンはLRFに対する下垂休前葉の反応態度に顕著な影響を及
ぼすようであったO次に,本実験ではLRF投与前の血中ゴナ ドトロピン ・レ
ベルの高い症例程LRF投与後に大きなLE,FSEの上昇がみ られたが, こ
のことよりLRF投与前の下垂体前葉巾のゴナドトロピン含量の差 もまた,今
回の性周期各期間の反応パター:/の差との間に何 らかの関連を有す るのではな
いかと推察 される。 このように性ステロイ ドあるいは ゴナ ドトロピン自体の効
果'また, これ らのホルモン・レベルの変動の結果二次的に派生する下垂体内
ゴナ ドトロピン含量の変化等が今回の性周期各崩のLRFに対する下垂体前葉
の反応態度を変えた一因ではないかと推察される。
無排卵症の下垂体機能に関する報告は多数ある.Yen et al(1973)は 8
例の視床下部性無 月経の症例にLRF試験 を行い,この時の血中LII,FSE
の変動 は正常性問朝の卵胞期前朝のものに較べ るとやや大 きい ものの,その変
動のパターンは同質の ものであっT=と報告している。A。n。 etil(1973)お
よびCoscia et al(1974)は下垂体機能不 全例のLRF試験について報告 し
.ているo Aono et alは 7例の Sheehan症候群例にこれを行い,これ らのう
ち 5例には血中LH,FSEの上昇を全く認めなか っT=としているし,Cos-
cia et alは 19例の下垂体鷹揚例, 5例の Sheehan症候群例,4例のidi-
opathic hypogonadotropichypogonadism例tここれを行い, Shoe-
han症候群 と idiopathic hypogonadotropic hypogonadismの全例,
および下垂休腫蕩例中 17例ではLRF投与【こ対す る血中LE レベルの変動を
殆 ど認 めなか っT=と報告 している.まT=,卵巣機能不全例にLRF試験 を行 っ
T=報告 としては Siler andYen(1973)およびRoth et al(1972)の報告
があるD siler et alは 3例の卵巣機能不全例,4例の閉経例, 4例の去勢
-8-
例の計 11例に,まT=RoLh etalは3例の卵巣機能不全例にLRF試験 を
行い,いづれ も血中LE,FSEの変化は正常性周期の卵胞期前期例の ものよ
りも大きかっTこと報告 しているo
ところで,今回の報告は視床下部機能不全例 ,下垂体機能不全例,卵巣機能
不全例の 3者の下垂体前葉機能,特にLRFに対する下垂体前葉の反応態寛を
同時に観察 し,これ らを正常性周期各期例のそれ らと比較 しT=ものであるが,
今回の結果ほて も,その病因が視床 下部Eこあると考えられる第 1鑑無 月経例,
および第 2度無 月経例の うち視床下部機能不全を予憩 されT=症例では,LRF
投与前の血中LE,FSH レベルは正常性周期の卵胞期前期例あるいは黄体期
例のそれらとはぼ類似 LT=値であ り,まT=LRF投 与後のLII,FSHの ピー
ク値,変動のパターンもやは りこれらの もの と数似 LTこものであっT=O これ ら
の うち多嚢胞卵巣症候群の 1例のみは,特に血中 LEに開 してLRF投与前値
も高く,まT=LRF投与後の上昇 も他の症例よ りも大きかっTこO
下垂体機能不全を予想出来T=症例群では,正常性間期の卵胞期前期例あるい
は黄体期例に較べてLRF投与前の血中 LH,FSE レベルは低 く,LRF投
与後に もこれらは殆 ど変化 を示 さないとい っT=,前者に較べ特徴的なパターン
を示 しT=.
卵巣機能不全を予想出来た症例群では,正常性周期の卵胞靭前期例あるいは
黄体期例に較べて,特に血中LEのLRF投与前値,LRF投与後の ピーク値
が非常に高 く,反応パターンはむしろ正常性間期の排卵前胡例の ものに近い も
のであ っT=。本群では下垂体前葉機能は正常iこ存在し,しか も何 らかの原因で
LRFに対する反応性が克進している状態にあると考 えられ , 前 2者に較べて
特徴的な反応パターンといえる。
以上の考察より,無排卵症例ではその障害部位によりLRF試験にてきわめて
-9-
特徴的な3種の血中LII,FSEの変動パターンが得 られることがわかり,逆
に無排卵症例にこの試験 を行 うことほより,ある程度その障害部位を知 り得る
ことが推察 された。
妊娠中の下垂体前葉機能に関してはいまだ不明の点が多いoFaitnan et al
(1968)は妊娠中には比較的高い血中FSE レベルが持続し,しか もこの値は
殆ど変化 しない と述べているが, Jaffe et al(1969),あるいはParlow
et al(1970)は逆に妊娠中の血中FSE レベルは低値 を持続す ると報告 して
いる。まT=,妊娠例にLRF試験 を行 っT=報告 としてはZよ,ate et &1(1976)
の報告があるO彼 らは妊娠の中,後閑婦人 13例にこれを行い, この うら10
例iこてLRF投与後に血中FSEレベルの上昇を認めT=と報告,妊娠中に も下
垂休前葉はLRFに対する反応性 を有すると報告している.しかし今回の著者
の成績は,妊娠中の血中FSEレベルは妊娠の全期間を通じて正常性周明の卵
胞親前期あるいは黄休期のそれ らよ りも低 く,まT=LRF投与による血中FS
Eレベルの上昇 も認 めないといっT=ものであり,先tこ紹介 しT=ZArateらの報
告 とは異なるものであっTこO最近のYliokorkala et al(1976)の妊娠前期
例の下垂体前葉機能 を調べた報告で も,妊娠前期には tl)yrotropin relea8-
izLg factor(TRY )投与による血中サイロ トロピン .レベルの上昇やイ
ンスリン投与による血中成長ホルモン ・レベルの上昇は認められるも,LRF
投与による血中FSE レベルの変化は認め られないとされてお り,おそらく妊
娠中には下垂体前葉はサイロトロピンや成長 ホルモンの分泌予備能 を正常に有
するIこもかかわらず,上昇 している血中fICOあるいは性ステロイ ドによりL
RFに対する反応性は抑制されているもの と考 えられるo
産衝期の下垂休前葉機能に関 して も妊娠中 と同様いまだ不明の点が多い。
Faiman et al(1968)あるいはSaXena et al(1968)は産梅 6週までは
-10-
正常性周鵜の卵胞親よ りも低い血中FSE,LH レベルが観察 されT=と報告 し
ているし,Jaffe 8tal(1969)は 1例の婦人Iこついて産梅 74日目までの検
索 を行 うことiこより,血中FSE レベルは産衝 20日日頃までは正常性周期の
卵胞期の ものよりも低 く,産衝 20日目を過 ぎT=頃より卵胞期 レベルtこ上昇す
ると報告 しているOまT=,CryStle et al(1970)は授乳婦人では血中 FS
E,LE レベルはきわめて低い とも報告 している。産衝例にLRF試験 を行 っ
T=報告 としてはFriedman et &l(1976)の報告があるO彼 らは産額第 1日,
第 3日,第 8日,第 36日の婦人 にLRF試験 を行い,産額第 36日の症例に
のみ下垂体の反応 を認めT=と報告 しているO今回の成績でも特に産蒋第 1週例,
第 3過例ではLRF投与前の血中 ゴナ ドトロピン ・レベルは低 く,LRFに対
する下垂体前葉の反応は産裾第 1適例では全く認められず,第 8遇例か ら第 5
週例へ と移 るほしT=がい反応例は増加,まT=,反応例のLRF投 与前血中 ゴナ
ドトロピン ・レベルは無反応例のそれに較べて高かっT=O
以上のことより,おそらくECOあるいは性 ステロイ ドの影響が残 っている
と考え られる重荷初朝には,LRFに対す る下垂体前葉の反応性は抑制 されて
お り,この影響の消退 ととも(こ下垂体前葉のLRFfこ対する反応性 も回復する
ものと考 えられる。また,以上のことは産南朝無排卵あるいは無月経の原因が
下垂体前葉のLRFに対する反応性の低下Iこあ ることをも示す ものと考 えられ
る。
以上,LRFを授与し,下垂体前葉からの ゴナ ドトロピン分泌能を検索する
こと‡こより,軽々の条件下における下垂体分泌予備能について検討を加 えたo
T,RFの臨床応用によ り,視床下部 一下垂体闇の機能相関が今後,よりクリア
ーに解明 されるものと思われ,生殖生理学の分野に新T=なる発展の もT=らされ
る可能性が明待 される.
-ll-
Ⅴ 結 論
1)正常性周期例では,いづれ もLRF投与(こ対 して血中LIi,FSE レベ
ルの上昇が観察 されT:OまT=,その反応パターンは卵胞期前期例,黄体朔例で
は,LEは 30分に,FSHは 45分【こそれ ぞれ ピークをとり,以後漸減する
ち,120分後に もなおLE,FStIともほLRF投与前値 よりは高い値 を示
すといっT=ものであるの こ̀対 し,排卵前期例ではLII,FSE ともほ30分あ
るいは 45分に一応の ピークをとるものの, ピーク値 自休 も前 2者に較べ非常
に高 く,まT=, 120分後に もなおLII,FSEの減衰債向を殆 ど認めなかっ
た。
2)無排卵症例の うち,第 1度無 月経例および第 2覆無月経例 のうちの視床
下部機能不 全例では,LRF投与後 に血中LE ,FSfIレベルの上昇を認めT=.
まT=,LRF投 与前の血中LE,FSHレベルは正常性間期の卵胞期前期例あ
るいは黄体期例のそれ らと数似 LT=値であ り,LRF投与後 のLH,FSEの
ピーク値 ,変動 パターンに関 して も同様であっT=O第 2度無 目経例の うち下垂
体機能不全例では,LRF投与前の血中LE,FSEレベルは正常性周期の卵
胞期前期例あるいは黄体期例に較べ非常に低 く,まT=,LRF投与後の血中L
I,FSEの変動 も殆 ど認めなか っT=O第 2寛無 目経例の うち卵巣機能不全例
では,LRF投与前の血中LtI,FSHレベルは正常性周期の卵胞期前新例あ
るいは黄体期例 よ りも高 く,まT=,LRF投 与後のこれ らの上昇lこ関 して も同
様であ り,その変動パターンは正常性周親の排卵 前期例の ものに鞄似 LT=もの
であっT=O以上の成績 より,無排卵症例ではその障害部位ほよ りLRF試験ほ
てきわめて特徴的な変動 パ ターンを示すことが判明 し,逆に無排卵症例 にこの
試験 を行 うことによ り,ある程度 その障害部位 を知 り得 ることが推察 されT=0
-12-
3)妊娠例では,妊娠の時明の如何 をとわず,全例にLRFに対する下垂体
前葉の反応 を認めず,また,文献的考察よりも,おそらく妊娠中Iこは下垂体前
葉はその機能 を正常iこ有するに もかかわ らず,上昇 しているECOあるいは性
ステロイ ドレベルの影響によ り,LRFiこ対する反応性が抑制 されていると考.
えられる。
4)産裾例Iこ関 しては,産衝第 1通例ではLRF投与に対する反応例 を認め
ず,産蒔第 3週か ら第 5週- と進むほ従い反応例は増加 しT=。 このことは血中
RCOあるいは性ステロイ ドの影響が強い と考 えられる産蒔初期ではLRFiこ
対する下垂体前葉の反応性は抑制 されてお り,これ らの影響の消退 ととも(こ下
垂体前葉の反応性が回復することを示 す もの と考えられる。 また,この ことは
産衝期無排卵あるいは無目経の原因が視床下部一下垂体系の機能低下fこあるこ
とをも示す ものと考 えられるO
稿を終えるほあT=り,本研究に際 し御指導 を賜わ りまLT=東棟仲平教授 なら
びに仲野良介助教授tこ深謝いT=します。
また, r&dioimmun088By materialSを提供していただいたNational
lnBtitute of Arthriti8 andMetabolism andDigestiveI)i8-
e88e8 (NIAMDI)),2nd IRPofE加Gを提供していただいたNational
lz)BtituteforMedicalResearch,およびDB-12521,M0 -1208
を提供していただいた第一製薬株式会社,持田製薬株式会社に深謝いたします。
-13-
参 考 文 献
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200 FSH
(9NHd竺
P
U
N:]∈
\
n
!u
J)
HSL.HI
H⊇一山S
1 0 0
015304560 1530TIME AFTERJVINJECT10N
(minutes)
4560 1
Fig 1. Serum Ltiand-FSH res‡)onse to i・ntravenous
injection of synthetic LRF (2ODFLg)in normal But)jects
in the follicular phase (n-7)
Brackets ind.icateM±SE
-20-
0
0
0
▲
U
■.■
(9王Hd∝lPuZ
:tuJtnguこ
こSj・H1
三
「匠山S
∵
∵
0 15304560 120 015304560TtME AFTERIVINJECTtON
(minutos)
Fig 2. Serum LH and.FSH response to intravel101S
injection of synthetic LRF (200FE3) in normal But)jects
in the preovLllatory phase (n-7)
Brackets ind_icateM±SfI
-21-
…
㈹
(9王
H
dUJPu川
:t∈
J
n!u)
HSL・H1
三
rN
uS
015304560
rf{ 一一→120 015304560 120
TIME AFTERIVINJECTION(rninut●i)
Fig 5. SerL1m LH anユ FSH resf)OnSetO intraveno1ユS
injection of syntheticLRF (200IL5)in normal su上)jects
in the lutealphase (n-7)
Brackets ind_icateM±SE
-22-
20 FSH
015304560 120 015304560TIMEAFTERIVINJECT10N
(minutes)
(9王H
d望
P
UN‥
一E
ln盲))
エSL
〓」
三
⊃
∝
u
S
Fig 4. Serum LH and-FSH respc,nse to intravenous
injection of synthetic LRF (208IL3) in anovLllatory
amenorrhoeic patients with estrogenic activity.
-23-
015304560
200 FSH
120 015304560TIMEAFTER IVlNJECT10N
(minutes)
Fig 5. Serum LH and.FSH response to intravenous
injection of syrltheticLRF (200pg) in anovulatory
amenorrhc)eic patientswithout estrogenic activity
(hy王)Othalamic failure)
-24-
(
9三H
d
竺P
uZ二∈\
つ一∈
)
HS
L
.H1
∝山S
015304560
200 FSH
120 015304560TIMEAFTERIVINJECT10N
(minutes)
Fig 6. Serl⊥m LH and.FSHresponse to intravt3nOuS
injection of syntheticLRF (200Fla) in anov-ulatory
amenorrhoeic patientswithout estrogenicactiv'ity.
(pituitary failure)
十25-
015304560 120 015304560 120TIMEAFTERIVINJECTION
(rTlinutせき)
Fig 7. Serum L臼and_FSH responseto intraveno1ユS
injection ofsyntheticLRF (200i15) inanovulatory
amenorrhoeicpatientswithout estrogenicactivity.
(ovarian failure)
-26一・・
010
(9王
HdtJlPuZ:]
EJn!
uJ)
HSL.H1
王ntJu
S
015304560 120
TIMEAFTER IVINJECTION(minutos)
Fig 8. Serum FSH responseto intravenous injection of
synthetic LRF(200/Ja) in pregnant women
(lst trimester)
ー27-
00
(
9三H
J
竺PuZ:一∈\n!uj)
〓SL
.〓」王⊃∝uS
015304560 120TlMEAFTER IVINJECT10N
(minutes)
Fig 9. Serum FSH response to intr'avenous injection of
synthetic LRF(2DOiLa) in pregnantwomen
(Rna. trimester)
-28-
00
(9HH
d
tlfPuZ‥
lE\n!tD)
HSL
.H1
王ntJ山S
015304560 120TIMEAFTER IV INJECT10N
(minutes)
Fig 10, Serum FSH response to intravenous illjt∋Ction
of synthetic LRF (2DOpg) in preucmant women.
(3rd trimester)
-29-
00
(9
MH
d竺
Pu
N‥luJlnlluJ)/
エS
L.〓」
三つ∝uS
120TIME AFTER JVJNJECT10N
(minutos)
Fig ll. Serum FSH response tointravenousinjectionof
synthetic LRF (200pg)inpuerperalwomen.
(let postpartlユmWeek)
-80-
120015304560TIHEAFTER IVINJECT10N
(minutos)
Fig 12・ Serum LH and-FSH response tO intravenous
injection of syntheticLRF (20DFE3) in puerpt3ral
women.(5rd postpartum Week)
-81-
0
0
0
0
2
(9N
Hd
竺
PUZ
:TE\n!UJ)
HSL.H1芸
」∝uS
75 30 45 60 120 015 3045 60TIMEAFTER tVINJECTJON
(minutes)
120
Fig 15. SerL1m Ⅰ」q and. FSH response to intravenous
injection of synthetic LRF (200pa) inpuerperal
women.(5th postpartum week)
-渇2-