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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 隠れた行動と情報における効率性に関する分析(An Analysis on Effeciency under Hidden Action and Information) 著者 Author(s) 宮原, 泰之 掲載誌・巻号・ページ Citation 国民経済雑誌,190(5):27-39 刊行日 Issue date 2004-11 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/00055963 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00055963 PDF issue: 2020-01-07

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Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le

隠れた行動と情報における効率性に関する分析(An Analysis onEffeciency under Hidden Act ion and Informat ion)

著者Author(s) 宮原, 泰之

掲載誌・巻号・ページCitat ion 国民経済雑誌,190(5):27-39

刊行日Issue date 2004-11

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/00055963

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00055963

PDF issue: 2020-01-07

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隠れた行動 と情報 における

効率性 に関す る分析

宮 原 泰 之

本 稿 で は,隠 れ た行動 と隠れ た情報 が存 在 す る場 合 につ い て,ひ と りのプ リンシ

パル とふ た りの エ ー ジェ ン トの関係 にお け る効 率性 を研究 す る。 プ リンシパル とエ

ー ジ ェ ン ト間で コ ミュニ ケー シ ョンは可能 で あ るが,プ リンシパ ル は コ ミュニ ケー

シ ョンの後 にエ ー ジ ェン トの報 酬体 系 を設計 す る状 況 を考 え る。 この と き,効 率性

を達 成 す るこ とは で きない こ とを明 らか にす る。

キー ワー ド 隠 れた行 動,隠 れた情 報,コ ミュニ ケー シ ョン,

プ リンシパル ・エー ジェ ン ト関係

1は じ め に

契 約 理論(contracttheory)は 情 報 の 非 対 称 性 を 扱 う理 論 で あ り,特 に企 業 内 の イ ンセ ン1)

テ ィプ 問題 の 分 析 に 応 用 され て い る。 企 業 内 の イ ンセ ンテ ィブ 問題 を分 析 す る場 合,契 約 理

論 で は経 営 者 と従 業 員 が 契 約 関係 を結 ぶ と い うモ デ ル 化 を行 う。 通 常,経 営 者 は プ リ ンシ パ

ル(principa1)と 呼 ば れ,従 業 員 は エ ー ジ ェ ン ト(agent)と 呼 ば れ る。プ リ ンシパ ル は エ ー

ジ ェ ン トと契 約 を結 び,プ リン シパ ル は 自分 の代 わ りに エ ー ジ ェ ン トに仕 事 を遂 行 して も ら

う。 そ の と きの 契 約 と は,賃 金 契 約 の こ と を意 喋 す る。 エ ー ジ ェ ン トは 与 え られ た 契 約 の 下

で 自分 の 期 待 効 用 を最 大 に す る よ う に行 動 す る。 そ の た め,プ リン シパ ル はエ ー ジ ェ ン トの

仕 事 に 対 す る誘 因 を考 慮 しな が ら,プ リ ン シパ ル の期 待 効 用 ま た は企 業 の 期 待 利 潤 を最 大 に

す る よ うに契 約 を設 計 しな け れ ば な らな い 。

しば しば,プ リン シパ ル とエ ー ジ ェ ン トの 間 に情 報 の 非 対 称 性 が 存 在 す る。例 え ば,従 業

員 で あ るエ ー ジ ェ ン トの ほ うが,需 要 や 生 産 費 用 な どの 現 場 情 報 を よ く理 解 して い るか も し

れ な い 。 ま た,経 営 者 で あ るプ リ ン シパ ル は 従 業 員 の 日 々 の作 業 をモ ニ タ ー す る こ とが 時 間

的 に も物 理 的 に も可 能 で は な い た め に,従 業 員 が 仕 事 に投 入 す る努 力 は従 業 員 の 私 的 情 報

(privateinformation)と な る か も しれ な い 。 こ の よ う に,従 業 員 の ほ うが生 産 に 関 わ る情

報 を よ く知 っ て い るか も しれ な い。 従 業 員 は経 営 者 が 現 場 情 報 を正 確 に は知 る こ と は で き な

い こ と を踏 ま え,企 業 全 体 の観 点 か らす る と最 適 で は な い行 動 や 情 報 の 利 用,つ ま り,機 会

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28第190巻 第5号

主義的な行動を して しまうかもしれない。 よって,プ リンシパルはこのような情報の非対称

性 の影響を考慮 して契約を適切 に設計する必要がある。

標準的な契約理論において,契 約はすべてが起 こる前に設計 される。つまり,現 場情報が

実現す る前,そ して,エ ー ジェン トが努力を投入する前に契約の設計が行われる。例 えば,

次の ような状況を分析 している。プ リンシパルはあるプ ロジェク トを実行 したいと考 えてい

る。エージェン トはふた り存在 しており,努 力の費用は異なっている。努力費用は現場情報

であると解釈で き,エ ージェン トは現場情報 を知っているがプ リンシパルは知らなし㌔ プロ

ジェク トの成功する確率はエー ジェン トが投入する努力に依存する。プ リンシパルは努力費

用の小さいエージェン トに努力を投入 してもらいたいと考えている。 そこで,契 約は現場情

報が実現す る前に設計 される。契約 には,現 場情報が実現 したときに,エ ージェン トは現場

情報に関す る情報をプ リンシパルに報告す るように義務付けられてお り,報 告 された内容に

応 じて,賃 金の支払いが行われることが約束 されている。 しか し,プ リンシパルは現場情報

を知 らないので,エ ージェントは実際の情報 とは異なる情報を報告することも可能である。

適切に設計 された契約の下では,現 場情報を正直に報告することがエージェン トにとって最

適 となる。つまり,プ リンシパルは現場情報 を正確 に聞き出すことができるということであ

る。そ して,締 結 された契約に したがって,プ リンシパルは報告された情報に応 じて,エ ー

ジェン トに賃金の支払いをする。

Myerson(1982)は 一般的に直接メカニズム(directmechanism)と 呼ばれるものを利用

することによって,現 場情報 を引 き出すことが可能であることを示 している。第3.1節 で,直

接メカニズムの設計の方法を利用 して,本 稿のモデルにおけるプ リンシパルが得 られる最大

の期待利潤が明 らかにされる。

このように,標 準的な契約理論のモデルにおいては現場情報が実現する前に,エ ージェン

トの賃金または報酬体系は決定される。契約が締結 された後は,プ リンシパルが行 うことは

締結 された契約 を履行す るのみである。つ まり,報 酬体系は現場情報が実現す る前に設計 さ

れてお り,エ ージェン トから報告された情報 を元にプ リンシパルが報酬体系を再設計す ると2)

いうことは行わない もの と想定 している。契約が締結 されるとゲームが構築されることにな

るが,そ のときプ リンシパルにプレーヤー としての役割はない。プ リンシパルが契約を設計

した後にすべきことは契約を履行するのみである。

しか し,現 実ではあるプロジェク トを実行 しようとするとき現場か ら様々な情報 を集めた

後に,そ のプロジェク トを実行す るためのインセンティブ契約が設計されている。つまり,

標準的な契約理論の設定とは異なり,エ ージェントか ら情報を聞き出 した後に,報 酬体系の3)

設計 を行うのである。本稿 ではそのような状況 を隠れた行動(hiddenaction)と 隠れた情報

(hiddeninformation)が 存在する場合について分析する。

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隠 れ た行 動 と情報 にお け る効 率性 に関す る分 析29

本稿 で は ひ と りの プ リン シパ ル とふ た りの エ ー ジ ェ ン トが 存 在 す る状 況 を分 析 す る。 そ し

て,現 場 情 報 をエ ー ジ ェ ン トの 努 力 費 用 パ ラメ ー タ と解 釈 す る。 ま た,そ れ ぞ れ の エ ー ジ ェ

ン トの 努 力 費 用 は エ ー ジ ェ ン ト間 で は観 察 可 能 で あ る が,プ リ ン シパ ル は観 察 で きな い と仮

定 す る。 エ ー ジ ェ ン トの 努 力 費 用 が エ ー ジ ェ ン ト間 で観 察 可 能 で あ る と き,標 準 的 な 契 約 理

論 の モ デ ル で は,エ ー ジ ェ ン トが 異 な る メ ッセ ー ジ を報 告 した場 合 に は両 方 の エ ー ジ ェ ン ト

を罰 す る こ とが 可 能 で あ る た め,効 率性 を達 成 す る こ とが で きる。 つ ま り,報 酬 体 系 は メ ッ

セ ー ジ を受 け 取 る 前 に 設 計 され,プ リン シパ ル が 契 約 に確 約(commit)す る こ とが 可 能 で あ

4)

る ため,エ ー ジ ェ ン トを罰 す る こ とが 可 能 と な るの で あ る。 一 方,メ ッセ ー ジ を受 け取 っ た

後 にプ リン シパ ル が 報 酬 体 系 を 設計 す る場 合 に は,両 方 の エ ー ジ ェ ン トを罰 す る こ と は不 可

能 と な る。 なぜ な ら,プ リ ンシパ ル は受 け取 っ た メ ッセ ー ジ を も とに真 の 現 場 情 報 に 関 して

信 念(belief)を 形 成 す る た め,異 な る メ ッセ ー ジを 受 け取 っ た と して も,両 方 の エ ー ジ ェ ン

トを罰 しな い こ とが 得 に な るか も しれ な い か らで あ る。 この た め,プ リ ン シパ ル は真 の現 場

情 報 を聞 き 出 す こ とが で きず,効 率 性 を達 成 す る こ とは で きな い 。 これ が,本 稿 の 主 要 な 結

果 で あ る。

本 稿 の構 成 は 以 下 の 通 りで あ る。 次 節 で基 本 モ デル を 設 定 す る。3節 で は ペ ンチ マ ー ク と

して,契 約 理 論 の分 野 で 標 準 的 な契 約 設 計 問 題 を示 す 。4節 が 本 稿 の 主 要 分 析 とな る部 分 で

あ る。 標 準 的 な契 約 設 計 問題 と異 な り,コ ミ ュニ ケ ー シ ョンの あ とに プ リ ンシパ ル が 報 酬 体

系 の 設計 を行 う場 合 を分 析 す る。5節 は い くつ か の 拡 張 につ い て 言 及 す る。

2基 本 モ デ ル

ひ と りの プ リ ンシパ ル(経 営 者)と ふ た りの エ ー ジ ェ ン ト(労 働 者)か ら構 成 され る企 業

を考 え る。

エ ー ジェ ン トは同 時 に 努 力 を選 択 す る もの とす る。 エ ー ジ ェ ン トiの 努 力 をei∈{O,1}と

書 くこ とに す る。ei=1は 高 い努 力 を表 し,ei=0は 低 い 努 力 を あ らわ して い る。 エ ー ジ ェ ン

ト ∫が選 択 した努 力 は エ ー ジ ェ ン ト ゴの み が 知 る こ とが で き,プ リン シパ ル と他 の エ ー ジ ェ ン

トブ(≠の は エ ー ジ ェ ン ト'の 努 力 を観 察 す る こ とは で き な い と仮 定 す る。

エ ー ジ ェ ン トが 選 択 した 努 力 の 組 み 合 わ せ がe=(e1 ,e2)で あ る と きの プ ロ ジェ ク トの成

功 確 率 をp。(、)と書 く。 よ っ て,プ ロ ジ ェ ク トが 失 敗 す る確 率 は1-p.(,)と な る。 こ こで,

x(e)=max{el,e2}で あ る。 つ ま り,す べ て のeに つ い て,x(e)∈{0,1}で あ る。0<Po<

Pi<1で あ る と仮 定 す る。よ っ て,プ ロ ジ ェク トの 成 功 確 率 を 高 め る た め に は ひ と りの エ ー ジ5)

エ ン トが 努 力 を投 入 す れ ば 十 分 で あ る。 プ ロ ジ ェ ク トが 成 功 した と きに プ リン シパ ル が 受 け

取 る利 潤 はB>0で あ り,失 敗 した 場 合 の利 潤 は ゼ ロ で あ る とす る。プ リ ン シパ ル は危 険 中立

的 で あ る と仮 定 す る。

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30第190巻 第5号

工 一 ジ ェ ン トiの 努 力 に関 す る費 用(不 効 用)関 数 はCi(ei ,θノ)で表 され る もの とす る。 こ

こ で,タ は エ ー ジ ェ ン トの 費 用 環 境 を表 して い る。 費 用 環 境 はエ ー ジ ェ ン トの 費 用 パ ラメ ー

タ ー の 組 み 合 わ せ θノ=(e{,θ1)を 表 して い る。 実現 可 能 な タ イ プ の 集 合 を θ と し,以 下 で は,

θ={θ1,θ2}を 考 え る。 こ こで,θ1=(6,め,θ2=(亘6)で あ り,汐 〉β>0を 満 た す と仮 定 す

る。 費 用 環 境 θ1=(旦 θ)の と き,エ ー ジ ェ ン ト1の 高 い 努 力 に対 す る費用 は 互で あ り,エ ー

ジ ェ ン ト2の 高 い 努 力 に対 す る費 用 はbで あ る こ と を表 して い る。費 用 環境 θ2に つ い て も同

様 に 解 釈 す る。 エ ー ジ ェ ン トの 費 用 関 数 はCi(ei,θi)==θ{leiと 表 され る。 つ ま り,費 用 環 境

θゴにお い て は,i=ブ の と きCi(1,θ り=β で あ り,i≠ ノの と き,Ci(1,θ ノ)=・0で あ る とす る。

また,す べ て のi=1,2,θ ∈θ に つ い て,Ci(0,θ)=0で あ る とす る。

エ ー ジ ェ ン トの 費 用パ ラ メ ー タ ー の 実 現 は 完 全 に相 関 す る の で,費 用環 境 が 実 現 した と き,

エ ー ジ ェ ン トの 費 用 パ ラメ ー タ ー は エ ー ジ ェ ン ト間 で 共 通 知 識 とな る。 一 方,プ リン シパ ル

は エ ー ジ ェ ン ト費 用 環 境 を観 察 す る こ と は で きな い と仮 定 す る。費 用 環 境 θ1=(互,の はq∈

(1/2,1)の 確 率 で 実 現 し,θ2=(b,4)は1-qの 確 率 で 実現 す る。

エ ー ジ ェ ン トは危 険 中 立 的 で あ る と仮 定 す る。 つ ま り,費 用 環 境 が θゴの と き に,努 力 ¢,を

選 択 して,賃 金wを 受 け 取 る と き,エ ー ジ ェ ン トiの 効 用 はw-Ci(ei,θ り と表 され る。エ ー

ジ ェ ン トに は富 の 制 約 が あ り,プ リ ンシパ ル は エ ー ジ ェ ン トに 罰 金 を課 す こ と はで きな い と

仮 定 す る。つ ま り,プ リン シパ ル が エ ー ジ ェ ン トに支 払 う賃 金 はw≧0を 満 た さな け れ ば な ら

な い。

以 下 で は,仮 定1を 満 た す もの とす る。

仮定1ゆ 睾1。)・<B・⑦讐)・ ・

本 稿 に お け る モ デル は 隠 れ た情 報(hiddeninformation)と 隠れ た行 動(hiddenaction)の

両 方 の 影 響 を考 慮 す る。 プ リン シパ ル が 費 用 環 境 グ を観 察 可 能 で あ る と仮 定 した場 合 は,標

準 的 な モ ラル ハ ザ ー ドの 問題 に相 当 す る。以 下 の分 析 の た め の 準 備 と して,費 用 環 境 θ'を固

定 した 場 合 の最 適 契 約 を示 して お く。 プ ロ ジ ェ ク トが 成 功 した と き にエ ー ジ ェ ン トゴに支 払

う賃 金 を 瓦,プ ロ ジ ェ ク トが 失 敗 した と き に支 払 う賃 金 を 鋤 と表 す こ とに す る。((ω1,望1),

(w2,型2))を 賃 金 プ ロフ ァ イル と呼 ぷ こ とに す る。 ゲ ー ム は以 下 の 手順 で 行 わ れ る とす る。

6}1.プ リン シパ ル はエ ー ジ ェ ン トに契 約w(θ う=((d万i,Wl),(i2」2,型2))を 提 示 す る。

2.利 潤 が 実 現 した と き,契 約 に した が っ て賃 金 が エ ー ジ ェ ン トに支 払 わ れ る。

この 契 約 設 計 問題 に お い て,プ リン シパ ル は以 下 の 制 約 付 き最 大 化 問 題 を解 くこ とに な る。

塑axP。(el)(8一 ω「 ω2)+(1一 ρ.(,・})(一望1一 墾2)el.{砺.勤}2。1.2

・・t・e;∈ ・・gmρ ・ ρ.,δ、.,,画 ・(1-P.,ε 、.,,,,勘 一 ・(δ、,θ')・Vi-1・2・(1)

ei

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隠 れ た行 動 と情報 にお け る効 率性 に関 す る分 析31

笏 ・望ノ≧嚇 一1・2・ .(2)

制 約 式(1)は 誘 因 両 立 性 条 件(iηcentivecompatibilitycondition)を 表 して い る。 エ ー ジ ェ

ン トが 選 択 す る努 力 は 観 察 可 能 で は な い の で,自 発 的 に プ リン シパ ル の 好 む努 力 を選 択 す る

よ うに 契 約 を 設計 しな けれ ば な ら な い。 制 約 式(2)は エ ー ジ ェ ン トの 富 の 制 約 を表 して い る。

仮 定1よ り,こ の最 大 化 問 題 の 解 は 一 意 で あ る。 この 最 大 化 問題 の解 をe*i=(efi,ε 芽f),

が(θi)=((iU{,P望{),(砺,壷 〉)と 書 き,ブ ≠ ゴとす る と,最 適 解 は 以 下 で与 え られ る。

・芦LL・ ノLq霧 一、1皇、。・型1一α 砺 一型1-・ ・

また,最 適解におけるエージェン トの期待効用をの(θ り,こ1ア(θう とすると,そ れぞれ以下

で与えられる。

σ詳(θう一pt-f,21;_e,。・U;(θ')・ …(3)

費 用 環 境 θゴに お け る最 適 契 約 にお い て は,エ ー ジ ェ ン ト ゴの み が 高 い努 力 を選 択 し,正 の 期

待 効 用 を得 る こ とが で き る。 一 方,エ ー ジ ェ ン トブ(≠の は低 い努 力 を選 択 し,ゼ ロ の期 待 効

用 を得 る。

あ る 費 用 環 境 が 実 現 した 時 点 で の プ リン シ パ ル の 期 待 利 潤 はn*=Pl(B-6/(Pi-PO))と

な る。 よ っ て,費 用 環 境 が観 察 可 能 で あ る と き,費 用 環 境 が 実現 す る前,つ ま り,事 前 の観

点 か らの プ リ ン シパ ル の期 待利 潤 はH*に 等 しい 。

3ベ ン チ マ ー ク

ベ ン チマ ー ク と して プ リン シパ ル とエ ー ジ ェ ン ト間 で コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンが 可 能 で あ り,

プ リ ン シパ ル が コ ミュニ ケ ー シ ョ ンの 前 に契 約 を設 計 す る場 合 の 契約 設 計 問題 と コ ミ ュニ ケ

ー シ ョンが 可 能 で はな い場 合 の 契 約 設計 問 題 を分 析 し,コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンが 可 能 で あ る こ

とが プ リン シパ ル の 期 待 利 潤 を増 加 させ る こ と を確 認 す る。

3.1コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンの 前 に契 約 を設 計 す る

コ ミ ュニ ケ ー シ ョンが 可 能 で あ り,プ リン シパ ル が コ ミュ ニ ケ ー シ ョン の 前 に 契 約 を設計

す る もの とす る。 この と き,プ リン シパ ル は 費用 環 境 を観 察 す る こ とが で きな い と して も,

期 待 利 潤n*を 得 る こ とが で き る こ と を示 す 。

コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 可 能 な 場 合 の 契 約 と は,エ ー ジ ェ ン トが 利 用 可 能 な メ ッ セ ー ジ

の 集 合 と ア ナ ウ ン ス さ れ た メ ッ セ ー ジ に応 じて 与 え ら れ る賃 金 プ ロ フ ァ イ ル の 組(〃,

{w(m))}m.〃)の こ とで あ る。M≡Ml×M2は メ ッセ ー ジの 組 合 せ の 集 合 で あ り,Miは エ ー

ジ ェ ン トノが 選択 可 能 な メ ッセ ー ジの 集 合 を表 して い る。w(m)は メ ッセ ー ジ の組 合 せm∈

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32第190巻 第5号

Mに お け る賃 金 プ ロフ ァイ ル の こ とで あ る。つ ま り,z〃(m)≡((Wl,辺1),(ω2,辺2))と 表 わ さ

れ る。

以 下 の手 順 で ゲ ー ム が 行 わ れ る もの とす る。

1.プ リン シパ ル は エ ー ジ ェ ン トに契 約(M,{w(m)}m.〃)を 提 示 す る。

2.費 用 環njeiが 実 現 し,エ ー ジ ェ ン トは 同 時 に メ ッセ ー ジmi∈Miを ア ナ ウ ンス す る。

エ ー ジ ェ ン トが ア ナ ウ ンス した メ ッセ ー ジ は共 有 知 識 に な り,立 証 可 能 で あ る と仮 定

す る 。 そ の 後,エ ー ジ ェ ン トは同 時 に 努 力 を選 択 す る。

3.利 潤 が 実 現 した と き,契 約 に した が っ て 賃 金 が エ ー ジ ェ ン トに支 払 わ れ る。

契 約(M,{w(m)}贋 〃)が 与 え られ る と,エ ー ジ ェ ン トが プ レー す る ゲ ー ム が 定 義 され る

こ とに な る。 エ ー ジ ェ ン トノの 戦 略 は(μ ノ(θ),θノ(ω(魏),θ))で 表 され る。 こ こ で,μ ノ(θ)は

エ ー ジ ェ ン トノが 費 用 環 境 θに お い て 選 択 す るメ ッセ ー ジ を表 して い る。つ ま り,μノ:θ → 〃ノ

で あ る。 そ して,ei(w(m),θ)は 費用 環境 θと賃 金 プ ロ フ ァ イルW(m)が 与 え られ た下 で,

エ ー ジ ェ ン トノが 選 択 す る努 力 を表 して い る。 この ゲ ー ム に お い て は 均 衡 概 念 と して サ ブ ゲ

ー ム 完 全 均 衡(subgameperfectequilibrium)を 採 用 す る の が 適 切 で あ る。以 下 で 示 す よ う

な契 約 に よ っ て 導 出 さ れ るゲ ー ム の サ プ ゲ ー ム 完 全均 衡 で は,そ れ ぞ れ の 費 用 環 境 θiにお い

て 賃 金 プ ロ フ ァイ ル が(θ う が 与 え られ,エ ー ジ ェ ン トはe*iを 選 択 す る こ とを示 す こ とが で

き る。 こ こ で,が(θ う は 前 節 で導 出 され た最 適 賃 金 プ ロ フ ァイ ル と同 じもの で あ る 。

次 の よ う な契 約 を考 え る。 そ れ ぞ れ の ブにつ い て 〃 戸{m;,mタ}と す る。 賃 金 プ ロ フ ァイ

ル は以 下 で 定 義 され る とす る。

ω*(θL}if〃1=(mi,mを),

漁)3ω*(θ2)ifm一 伽 卸5L

((0,0),(0,0))otherwise.

そ れ ぞ れ の エ ー ジ ェ ン トノの メ ッセ ー ジ関 数 を 乃(θ1)=m;・ か つ 鴻(θ2)=myと す る。 そ れ ぞ

れ の エ ー ジ ェ ン トが この メ ッセ ー ジ関 数 に したが っ て メ ッセ ー ジ を選 択 す る と き,そ れ ぞ れ

の 費 用 環 境 θ`につ い て 賃 金 プ ロ フ ァイ ル が(θ う が 与 え られ る こ とに な る。前 節 に よ り,費 用

環 境 グ に お い て 賃 金 プ ロ フ ァ イル ω(θう が 与 え られ る と き,そ れ ぞ れ の エ ー ジ ェ ン トノは

θプ を選 択 す る こ とが最 適 な 努 力 の ひ とつ で あ る こ とは 明 らか で あ る。 ま た,上 記 の メ ッセ ー

ジ 関 数 に した が わ な か っ た場 合 は,エ ー ジ ェ ン トは低 い 努 力 を選 択 す る こ とが 最 適 で あ り,

ゼ ロ の期 待 効 用 を得 る こ とに な る。 よ っ て,エ ー ジ ェ ン トは メ ッセ ー ジ関 数 乃 か ら逸 脱 す る

誘 因 を持 た な い 。以 上 に よ り,プ リン シパ ル は 期 待 効 用n*を 得 る こ とが で き る こ とが示 され

た。

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隠 れ た行動 と情 報 にお け る効率 性 に関 す る分析33

3.2コ ミュニ ケ ー シ ョン が 可 能 で は な い 場 合

コ ミュニ ケ ー シ ョン が 可 能 で は な い場 合 の プ リン シパ ル の 期 待 効 用 を導 出 して み る。 コ ミ

ュ ニ ケ ー シ ョ ンが 可 能 で は な い と き,プ リ ン シパ ル は エ ー ジ ェ ン トの タ イ プ が 実現 す る前 に

契 約 を提 示 す る こ と に等 し い。 こ の と きの 契 約 は プ ロ ジ ェク トの 成 功,失 敗 の み に応 じて エ

ー ジ ェ ン トに賃 金 を支 払 うイ ン セ ンテ ィブ 契 約 に な る。 つ ま り,プ リ ンシ パ ル が 提 示 す る契

約 は賃 金 プ ロ フ ァ イル ω を ひ とつ 与 え る こ と に な る。 ゲ ー ム は 以 下 の 手 順 で行 わ れ る。

Lプ リン シパ ル はエ ー ジ ェ ン トに 契 約w=((WI,望1),(w2,蟹2))を 提 示 す る。

2.費 用 環 境 θiが実 現 し,エ ー ジ ェ ン トは 同 時 に努 力 を選 択 す る。

3.利 潤 が 実 現 した と き,契 約 に した が っ て賃 金 が エ ー ジ ェ ン トに 支 払 わ れ る。

この ゲ ー ム に お い て,プ リ ン シパ ル が 直 面 す る問題 は以 下 の 制 約 付 き最 大 化 問 題 に要 約 され

る。

遡axq{ρr(、 ・)(B-Wl一 ω2)+(1-P。(。 ・》)(一望1-eq2)el,e2.{M,,望,},。1.2

+(1-q)IO。{e・)(B一 ω1一ω2)+(1-P。(、 ・))(一望1型2)

・・t・ ・}…9M9・ ρ.向 .,㌧,両 ・〈1-Px、 ら.ら 、)型・一・(∂・・θf岡 一1・ 蹴 一1忍(4)el瓦,望 ノ≧O,∀ブ=1,2.(5)

この 制 約 付 き最 大 化 問 題 の最 適 解 は仮 定1に よ り一 意 で あ る。最 適 解 を(の ∫=1,2,の とす る

と,最 適 解 は 以 下 で 与 え られ る。

ε1-(1,・),ε ・一(…)・ab-((煮 ・・》(…)》

最大化問題の最適値,つ まり,プ リンシパルの期待利潤愈は以下で与えられ る。

fi-{・Pl+(1-q)・ ・)}(B-P-e .P。!

Pi>POよ り,n*>fiで あ る。 コ ミュ ニ ケ ー シ ョンが 可 能 で は な い と き にプ リン シパ ル が 得 る

こ との で き る期 待利 潤 は コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンが 可 能 な場 合 よ り小 さ くな る こ と を意 味 して い

る。

4コ ミュ ニ ケ ー シ ョン の後 に設 計 す る

前 節 で は コ ミ ュニ ケ ー シ ョンが 可 能 で あれ ば,プ リ ンシパ ル の期 待 利 潤 を増 加 させ る こ と

が 可 能 で あ る こ と を示 した 。 この 結 果 は プ リ ン シパ ル が コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョンの 前 に 契 約 を 設

計 す る こ とが で き,契 約 に コ ミ ッ トで き る こ とに よ る もの で あ る。 この 節 で はプ リン シパ ル

が コ ミ ュニ ケ ー シ ョンの 後 に 報 酬 体 系 を 設 計 す る状 況 を分 析 す る。

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34第190巻 第5号

ゲ ー ム は以 下 の 手 順 で行 わ れ る とす る。

1.プ リン シパ ル が エ ー ジ ェ ン トの選 択 可 能 な メ ッセ ー ジ の集 合M≡Ml×M2を 決 め る。

2,状 態 θtが実 現 し,エ ー ジ ェ ン トは 同 時 に メ ッ セ ー ジ を ア ナ ウ ン ス す る。 メ ッセ ー ジ

勉 ∈〃 は 共 有 知 識 と な り,立 証 可 能 で あ る とす る。

3.プ リン シパ ル は エ ー ジ ェ ン トか ら受 け 取 っ た メ ッセ ー ジ を も と に,エ ー ジ ェ ン トに賃

金 プ ロ フ ァ イ ルw(m)≡((死,製1),(砺,w2))を 提 示 す る。

4.エ ー ジ ェ ン トは 同 時 に努 力 を選 択 す る。

5.利 潤 が 実 現 し,プ リ ンシパ ル は契 約 に従 って エ ー ジ ェ ン トに支 払 い をす る。

メ ッセ ー ジの 集 合Mが 与 え られ る とゲ ー ム が 定 義 さ れ る こ とに な る。この ゲ ー ム に お い て

は エ ー ジ ェ ン トだ け で な くプ リ ン シパ ル もプ レー ヤ ー で あ る。 均 衡 概 念 は 完 全 ベ イ ジア ン均

衡 を採 用 す る。 プ リ ン シ パ ル の 戦 略 は 賃 金 プ ロ フ ァ イル を選 択 す る こ と で あ る。 つ ま り,

{w(m)}mE〃 で表 さ れ る。エ ー ジ ェ ン トの戦 略 は3.1節 と同様 で あ る。 つ ま り,エ ー ジ ェ ン ト

ノの 戦 略 は(μ ノ(θ),吟(ω(吻),θ))で 表 さ れ る。以 下 で は,そ れ ぞ れ の エ ー ジ ェ ン トノの メ ッセ

ー ジ の集 合 を 」鴨={'〃mノ・mノ}と す る。メ ッセ ー ジの 集 合 と して,よ り一 般 的 な もの を採 用 し

た 場 合 で も命題 は成 立 す る。つ ま り,#砺 ・≧3で あ る よ う な メ ッセ ー ジの 集 合 を考 え た と して

も結 論 は成 立 す る。 こ こ で,#砺 は 集 合 砺 の要 素 の 数 を表 して い る。

命 題:こ の ゲ ー ム に お け る,い か な るペ イ ジア ン ・ナ ッ シ ュ均 衡 に つ い て も,プ リン シパ

ル の 期 待 利 潤 はnを 上 回 るこ と は な い。

証 明:ま ず,メ ッセ ー ジが ア ナ ウ ン ス され た 意 思 決 定 節 を考 え る。メ ッセ ー ジの 組 合 せ 形 が

ア ナ ウ ン ス され た と き に,プ リン シパ ル が 費 用 環 境 は θで あ る と信 じ る確 率,つ ま り,信 念

(belief)を τ(θim)と す る。す べ て の θ∈θ につ い て τ(θlm)≧0で あ り,Σ1;1τ(θilm)=

1を 満 た して い る。

メ ッセ ー ジm∈Mが 与 え られ た 下 で の プ リ ン シパ ル の 期 待 利 潤 を最 大 にす る よ うな 賃

金 プ ロフ ァ イル の 設 計 は 以 下 の 制 約 付 き最 大 化 問題 を解 く こ と に相 当 す る。

㎎・x・(θ'1m){P.<,,》(B一 ω1一ω2)+(1-P.{、 ・})(一望 「eq2)}et,92馬.卯,。1.2

+・(θ21m){P.、,・、(B-iii-i2J・)+(1-P.,,・ 、)(一望1一 望・》}・

s.tforeach .isuchthatτ(θ'Im)>0,

・}…g聯 ρ蹴,、両 ・(1一 ρ.、卿)望 ・一・(δ・・θう1胴 ・2・ei

ωi,望 」≧0,∀)'=1,2・

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隠れた行動 と情報における効率性に関する分析35

この 最 大 化 問 題 の最 適 解 を の(m)(ま た は 夕(m)),2(の(m),θ り ≡(譜,θ 夕)と す る。 こ こ

で,ノ ≠ づで あ る。また,プ リン シパ ル が ラ ン ダ ム に賃 金 プ ロ フ ァ イル を選 択 す る こ と も可 能

で あ る とす る。夕(甥)は 賃 金 プ ロ フ ァ イル 上 の確 率 分 布 を表 す とす る。この と き,最 適 解 は

以 下 の 補 題 に よ っ て,特 徴 付 け られ る。

補 題:仮 定1を 満 た す もの とす る。 こ の と き,そ れ ぞ れ のm∈Mに つ い て,上 記 の 最 大 化

問 題 の 解 は以 下 で 表 され る。

(A)τ(θ`lm)>1/2の と き,to(m)=w*(θi),2(w*(θ り,θi)=(1,0),2(w*(θi),θ ノ)=

(0,0)で あ る。

(B)τ(θilm)=1/2の と き,夕(m)∈A{w*(θ1),w*(ヂ)}を 満 た す,あ らゆ る9(m)は

最 大 化 問題 の 解 で あ り,∂(ω*(θ り,θi)=(1,0),2(w*(θ り,θり=(0,0)で あ る。

こ こ で,w*(θ り は2節 で導 出 さ れ た最 適 賃 金 プ ロ フ ァイ ル と同 じ もの で あ る。 ま た,i≠ ノ

で あ る。

プ リ ン シパ ル の期 待 利 潤 を最 大 に す る よ うな 完 全 ベ イ ジア ン均 衡 に着 目 し,均 衡 径 路 上

で 選 択 さ れ る,す べ て の メ ッセ ー ジ の 組 合 せmに つ い てnd(m)=w*(θ1)で あ る こ とを示

せ ぱ,命 題 は 証 明 され た こ とに な る。

まず,あ る エ ー ジ ェ ン トノが μノ(θ1)#μi(θ2)と な る よ うな戦 略 を選 択 す る よ う な均 衡 は

存 在 しな い こ とを示 す 。

1、 それ ぞ れ の ブにつ い て,μ ノ(θ1)=%か つ μノ(θ2)=m;・'で あ る とす る。この と き,プ リン

シパ ル の 信 念 は τ(θ'1mi,%)=1か つ τ(θ11m{',ml')=0を 満 た して い る。つ ま り,エ ー一ジ

ェ ン トが,こ の 純 粋 戦 略 に した が う とす れ ば,プ リン シパ ル は均 衡 経 路 上 に お い て は真 の

状 態 を知 る こ とに な る。よっ て,プ リン シパ ル は メ ッセ ー ジ(mi,mS)を 受 け取 った と き,

賃 金 プ ロ フ ァ イルw*(θ1)を 提 示 す る。こ の と き,均 衡 に お け るエ ー ジ ェ ン ト1の 期 待 効 用

は ρ06/(p「Po>>0で あ り,一 方,エ ー ジ ェ ン ト2の 期 待 効 用 は ゼ ロで あ る。 よ って,上 記

の 戦 略 が 均 衡 とな る た め に は,エ ー ジ ェ ン ト2が 逸 脱 して メ ッセ ー ジm{'を 選 択 した と き,

プ リ ン シパ ル は τ(θ'1mi,〃z『)>1/2と い う信 念 を形 成 しな け れ ば な らな い。同 様 に して,

メ ッセ ー ジ(〃zf,mli')に お け るエ ー ジ ェ ン ト1が 逸 脱 した 場 合,プ リン シパ ル は τ(θilml,

ml')<1/2と い う信 念 を形 成 しな け れ ば な ら な い。しか し,こ れ ら を同 時 に 成 立 させ る こ と

は 不 可 能 で あ る。

2.次 に エ ー ジ ェ ン トノの み が μノ(θ1)=噺 か つ#i(θ2)=吻 タで あ る よ う な 戦 略 を均 衡 で

選 択 し,エ ー ジ ェ ン ト ゴ(≠ノ)は あ る状 態 θに お い て は メ ッセ ー ジ を確 率 的 に混 ぜ 合 わせ る

と仮 定 す る。こ の と き,プ リ ンシ パ ル は エ ー ジ ェ ン トノの メ ッセ ー ジ に よ り,均 衡 径 路 上 に 旨

お い て,真 の状 態 を知 る こ とに な る。つ ま り,エ ー ジ ェ ン トゴの メ ッセ ー ジ と は関 係 な く,

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36第190巻 第5号

τ(θilm;,・)=1か つ τ(θ21畷,・)=1と い う信 念 を形 成 す る こ と に な る。 よ っ て,均 衡 で

は,状 態 θ∫に お い て賃 金 プ ロ フ ァ イル ω零(θり が提 示 され,エ ー ジ ェ ン トブの 期 待 効 用 は

ρ06/(p「Po)>0を 得 る。 一 方,i≠ ブで あ る よ う な 状 態 θゴに お い て は 賃 金 プ ロ フ ァイ ル

ω㍗ θう が 提 示 され,期 待 効 用 は ゼ ロ で あ る。 エ ー ジ ェ ン トブの み が,メ ッセ ー ジの ア ナ ウ

ンス につ い て 逸 脱 した と き,均 衡 径 路 上 で 正 の 確 率 で 選択 され るメ ッセ ー ジ の組 合 せ と矛

盾 しな い の で,プ リ ン シパ ル は エ ー ジ ェ ン トの メ ッセ ー ジの ア ナ ウ ンス に関 す る逸 脱 を認

識 す る こ とは で きな し㌔ エ ー ジ ェ ン トノは 状 態 θゴに お い て,メ ッセ ー ジ%を 選 択 す る こ と

に よ っ て,正 の 期 待 効 用 を得 る こ とが で き る。 エ ー ジ ェ ン トノの戦 略 μメ・)は 最 適 で は な

い。 よ っ て,矛 盾 が 示 され た 。

1と2に よ り,あ るエ ー ジ ェ ン トノが μノ(θ1)≠Pti(θ2)で あ る よ うな戦 略 を選 択 す る よ う

な均 衡 は 存 在 しな い こ とが 示 され た。つ ま り,そ れ ぞれ の エ ー ジ ェ ン トが メ ッセ ー ジ を混 合

しな い とす れ ば,プ リン シパ ル の 期 待 利 潤 を最 大 に す る よ うな 均 衡 で は μノ(θり=μ ノ(θ2)で

な け れ ば な らな い こ とを 意 味 して い る。こ の と き,均 衡 で選 択 さ れ る メ ッセ ー ジの 組 合 せ が

mで あ る とす れ ば,補 題 に よ り,の(m)=ガ(θ1)で な けれ ば な らな い こ とは 明 ら か で あ る。

次 に,エ ー ジ ェ ン トが あ る費 用 環 境 に お い て メ ッセ ー ジ を混 合 す る場 合 を考 察 し,す べ

て のm∈Mに つ い て の(m)=w*(θ1)で あ る こ と を示 す 。

3.エ ー ジ ェ ン トノは費 用 環 境 θノにお い て は メ ッセ ー ジmJ'と 〃zタを混 合 す るが,費 用 環 境

θゴで は メ ッセ ー ジ 勉アを確 実 に送 る と仮 定 す る。 こ こで,ノ ≠づで あ る とす る。こ の と き,均

衡 径 路上 に お い て エ ー ジ ェ ン トゴが 正 の確 率 で選 択 す る,す べ て の 物 ∈賜 につ い て,プ リ

ンシパ ル は τ(eilm;,mi)=1と い う信 念 を形 成 す る。 よ って,エ ー ジ ェ ン トノは 費 用 環 境

θノに お い て,期 待 効 用 ρo互/(Pi-Po)>0を 得 る。 エ ー ジ ェ ン トブが 費 用 環 境 θノに お い て,

メ ッ セ ー ジmlと 〃zタを混 合 す る た め に は,プ リン シ パ ル は メ ッセ ー ジ 畷 に対 して,賃

金 プ ロ フ ァ イル ω串(θり を提 示 しな け れ ば な ら な い 。 つ ま り,プ リ ン シパ ル は メ ッセ ー ジ

(〃zア,mi)に つ い て τ(θilmY,mi)>1/2と い う信 念 を形 成 しな け れ ば な らな い 。 よっ て,

均 衡 に お い て 正 の確 率 で選 択 され る,す べ て の メ ッセ ー ジmに つ い て,τ(θノIm)>1/2で あ

る。 補 題 とq∈(0,1/2)の 仮 定 に よ り,の(m)ニ ガ(θ1)を 満 た さ な け れ ば な らな い。

4.上 記 の3と は逆 に エ ー ジ ェ ン トノは 費 用 環 境 θノに お い て は メ ッセ ー ジ%を 確 実 に選

択 す る が,i≠ ブで あ る よ うな 状 態 θiでは メ ッセ ー ジ 嘱 と 〃zアを混 合 す る場 合 は,上 記 の

3と 同 様 に証 明 す る こ とが で き るの で,省 略 す る。

5.最 後 に,両 方 の エ ー ジ ェ ン トと も,そ れ ぞ れ の 費 用 環 境 に お い て メ ッセ ー ジ を混 合 す

る と仮 定 す る。 ひ と りの エ ー ジ ェ ン トの み が,そ れ ぞ れ の 費 用 環 境 に お い て メ ッセ ー ジ を

混 合 す る場 合 は2,3,4の い ず れ か の ケ ー ス に該 当 す る こ と にな る。

エ ー ジ ェ ン トブが 費 用 環 境 θに お い て メ ッセ ー ジ%を 選 択 す る確 率 を αノ(θ)とす る。仮

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隠れ た行 動 と情 報 にお け る効 率性 に関す る分析37

定 に よ り,す べ て の θ∈θ と ノ∈{1,2}に つ い て,α ノ(θ)∈(0,1>で あ る。 また,メ ッセ ー

ジの 組 合 せ 吻 ∈〃 に つ い て,プ リ ン シパ ル が均 衡 に お い て 賃 金 プ ロ フ ァ イル げ(θ う を提

示 す る確 率 を ダ(m)と 書 く。よ っ て,げ(θ り は5>ノ(m)=1-pi(m)の 確 率 で提 示 され る。

こ こ で,ノ ≠ ゴで あ る。以 下 の こ とに 注意 して お く。プ リン シパ ル の 最 適 性 よ り,エ ー ジ ェ ン

ト ∫は 賃 金 プ ロ フ ァイ ル ω*(θり が提 示 さ れ る と き,高 い努 力 と低 い努 力 は無 差 別 で あ り,

期 待 効 用 は ρ02/(p「Po)>0で あ る。 また,ノ ≠iで あ る よ うな が(θ ノ)が 提 示 さ れ た と き

は,低 い努 力 を選 択 す る こ と に よ っ て期 待 効 用 は最 大 とな り,期 待 効 用 ゼ ロ を得 る。

そ れ ぞ れ の エ ー ジ ェ ン トゴが す べ て の 費 用 環 境 に お い て,メ ッセ ー ジ を混 合 す る ため に

は以 下 の 条 件 を満 た さな けれ ば な らな い。

、1呈1。【・メ・》ダ(嘱)・(1一 α、(・))f'(咽)1

-,1皇 睾。[・1(・)7i(嘱)・(1-・ 」(・))5t(嘱)]・ ・S・e,Vi・ 姻 ・

左 辺 は費 用 環 境 θにお い て,エ ー ジ ェ ン トゴが メ ッセ ー ジ 嘱 を選 択 した と きの 期 待 効 用 を

表 し,右 辺 は メ ッセ ー ジm7を 選 択 した と きの期 待 効 用 を表 して い る。

整 理 す る と以 下 が 得 られ る。

・ゴ(θ){テ`伽1,瑚 一ダ 伽 ∫,m;)}+(1-・,(θ)){テ 肋1,㊨ 一テ肋 錘 ノ》}-o,

∀θ∈θ,∀i≠」,Vブ=1,2.(6)

こ こ で,5>i(嘱,m;・)-pi(mt,嘱)≠0で あ る と仮 定 す る。仮 定 に よ り,0〈 αノ(θ)〈1で

あ るの で,5>i(〃2;,〃zタ)-5>i(窺7,mT)羊0で な け れ ば な らな い 。よ って,(6)よ り,そ れ ぞ

れ の ブ=1,2,す べ て の θ∈θ につ い て,αi(θ)=α ノが満 た さ れ て い な け れ ば な らな い。 こ

の と きプ リン シパ ル の 信 念 は任 意 の 吻 に つ い て 以 下 を満 た す こ とに な る。

・(θ'lm)一,α1α 、肇鴇)α1α 、-q・ ・m・M・

よ っ て,補 題 に よ り,す べ て のmに つ い てnd(m)=w*(θ1)を 満 た さ な け れ ば な らな い。

次 に,5>i(ノ ノ"zわ"zノ)一ダ(m;',m;)=0で あ る とす る。仮 定 に よ り,0〈 αノ(θ)〈1で あ る の

で,5>i(m;一,MS・T)-5>i(m7,〃zダ)=0で な けれ ば な らな し㌔ つ ま り,す べ てのm,M'∈Mに つ

い て,夕i(m)=5>,(〃 の;ア を1藺た さ な け れ ば な らな い。7∈(0 ,1)で あ る とす る。プ リン シ

パ ル はす べ て の メ ッセ ー ジの 組 み 合 わせ につ い て ,契 約 げ(θ1)と ガ(θ2)を 混 合 す るの で,

す べ て のm∈Mに つ い て,τ(θilm)=1/2を 満 た さな けれ ば な らな い。

・(θ・}m・m2)-qα1(m11,i)。、(響i}弩 器II,2)。 、(m、1,・)-S・

∀(M1,M2)∈Ml×M2・

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38第190巻 第5号

こ こ で,αi(milθ)は 費 用 環 境 θに お い て,エ ー ジ ェ ン トiが メ ッセ ー ジmiを 選 択 す る確 率

を表 して い る。 こ の と き,そ れ ぞ れ の ゴ=1,2,す べ ての θ∈θ に つ い て,αi(miiθ)二 瓦 を

満 た さ な け れ ば な らな い 。 こ こで,仮 定 よ り,瓦 ∈(0,1>で あ る。 しか し,こ の と き,す べ

て の メ ッセ ー ジの 組 み 合 わ せm∈Mに つ い て,τ(θilm)=qと な る。 よ っ て,矛 盾 す る。 よ

っ て,す べ てのm∈Mに つ いて 夕i(m)=1ま た は5>i(m)=0を 満 た さな けれ ば な ら な い。つ

ま り,プ リ ン シパ ル は メ ッセ ー ジ に 応 じて賃 金 プ ロ フ ァイ ル を変 え るこ と は な い こ と を意

味 して い る。 この と き,す べ て の メ ッセ ー ジm∈Mに つ いて γ1(m)=1,つ ま り,の(m)=

が(θ1)で な けれ ば な らな い 。

以 上 の議 論 よ り,プ リン シパ ル の 期 待 利 潤 を最 大 にす る よ うな 完 全 ベ イ ジア ン均 衡 に お い

て,正 の 確 率 で 選 択 され る,す べ て の メ ッセ ー ジm∈ 〃 に つ い て,の(m)=ガ(θ り で あ る こ

とが 示 され た 。(証 明 終)

5お わ り に

本 稿 で は簡 単 な モデ ル を用 い て コ ミュニ ケ ー シ ョ ンの 可 能 性 が 非 効 率 性 の 改 善 を もた ら さ

な い こ とが あ る こ と を示 した 。 コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ンが 可 能 で あ る と して も,プ リ ン シパ ル が

コ ミュ ニ ケ ー シ ョンの 後 に賃 金 プ ロ フ ァ イル を設 計 す る場 合,効 率 性 を 達 成 で きな い こ とが

あ る の で あ る。 本稿 で 導 出 され た 結 果 は 費 用 環 境 の 実 現 の 可 能性 が2種 類 の み とい う仮 定 に

依 存 して い るか も しれ な い。 よ り一 般 的 な 環 境 に お い て効 率 性 が どの 程 度 達 成 可 能 で あ るの

か を 明 らか にす る こ とは 興 味 深 い と言 え る。

一 方 で,Miyahara(2004)で は,本 稿 と同 じ設 定 に お い て,効 率 性 を達 成 す る こ とが 可 能

とな る よ うな 方 法 が あ る こ と を示 して い る。 エ ー ジ ェ ン ト間 の 秘 密 裏 の 契 約 を利 用 す る こ と

に よ っ て,コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンを利 用 す る こ とな く,プ リン シパ ル は 期 待 利 潤n*を 得 る こ と

が で き る こ と を明 らか に して い る。

本稿 はペ ンシルバ ニ ア大学 滞在 中 に完 成 しま した。 記 してペ ンシル バニ ア大 学の 滞在 中 の厚 遇 に

感 謝 します。

1)Salani6(1997)は 契約 理論 の入 門的 テ キス トであ り,LaffontandMartimort(2002)は 契約

理 論 の幅広 い トピック を取 り上 げ てい る。

2)最 初 に設計 され た契約 を生 産 の途 中 で再 設 計 す る問題,つ ま り,契 約 の再 交渉 の 問題 を扱 った

もの もあ る。例 え ば,FudenbergandTirole(1990),HarmalinandKatz(1991)で はモ ラルハ

ザ ー ドの 問題 にお いて契約 の再 交 渉の 問題 を分 析 してお り,Ma(1994)は ア ドバ ース ・セ レク シ

ョンの 問題 におい て契約 の再交 渉 の問 題 を分析 して い る。

3)遂 行 理論(implementationtheory)の 分 野 ではBaliga,Corchon,andSj6str6m(1997)が 同

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隠 れた行 動 と情報 にお ける効率性 に関 す る分 析39

様 の問題 を分析 して い る。 彼 らはエー ジェ ン トが少 な くと も3人 以上 存在 す る場合 を分析 し,完

全ペ イジア ン均 衡(perfectBayesianequilibrium)と して遂 行 可能(implementable)な 社 会選

択関 数(socialchoicefunction)を 特 徴付 けて いる。

4)第3,1節 で紹 介 され る。

5)そ れ ぞれの努 力 の組合 せ につ いて,プ ロジ ェク トの 成功確 率が 異 な る と仮 定 した場 合 で も,以

下の分析 の 本質 は 変わ らな い。

6)エ ー ジェ ン トに は富 の制約 が あ るため,プ リン シパ ル は必 ず非負 の賃 金 を支払 わ なけ れば な ら

ない。 よって,プ ロ ジ ェク トの成 功,失 敗 にかか わ らず,エ ー ジ ェン トは非 負 の賃金 を得 られ る

の で あれば,契 約 を受 け入 れ る もの と仮 定 す る。次節 以 降 のゲ ー ムにつ い て も,等 一 ジェ ン トの

契約 に同意 また は拒否 の表 明の手 番 は明示 しない こ とにす る。

参 考 文 献

Baliga, S., L. Corchon, and T. SjOstrOm (1997): "The Theory of Implementation When the

Planner is a Player," Journal of Economic Theory, 77, 15-33.

Fudenberg, D. and J. Tirole (1990): "Moral Hazard and Renegotiation in Agency Contracts,"

Econometrica, 58, 1279-1320.

Harmalin, B. and M. Katz (1991): "Moral Hazard and Verifiability: The Effects of Renegotia-

tion in Agency," Econometrica, 59, 1735-1753.

Laffont, J.-J. and D. Martimort (2002): The Theory of Incentives: The Principal-Agent Model,

Princeton University Press.

Ma, A. (1994): "Renegotiation and Optimality in Agency Contracts," Review of Economic

Studies, 61, 109-129.

Miyahara, M. (2004): "Efficiency and Collusion under Hidden Action and Information,"

mimeo.

Myerson, R. (1982): "Optimal Coordination Mechanisms In Generalized Principal-Agent

Models," Journal of Mathematical Economics, 10, 67-81.

Salanië, B. (1997): The Economics of Contracts: A Primer, MIT Press.