学習障害児(ld児)と健常学齢児における 運動制御...

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学習障害児(LD 児)と健常学齢児における 運動制御能の比較 -平衡機能と運動イメージ機能の検討- Comparison of motor control function in children with learning disabilities and normal children in school aged -Equilibrium function and Motor imagery function- 札幌医科大学大学院保健医療学研究科 理学療法学・作業療法学専攻 感覚統合障害学分野 瀧澤 聡 Takizawa Satoshi

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学習障害児(LD 児)と健常学齢児における

運動制御能の比較

-平衡機能と運動イメージ機能の検討-

Comparison of motor control function in children

with learning disabilities and normal children

in school aged

-Equilibrium function and Motor imagery function-

札幌医科大学大学院保健医療学研究科

理学療法学・作業療法学専攻

感覚統合障害学分野

瀧澤 聡 Takizawa Satoshi

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目次

Ⅰ.序論...........................................................................1

(1)背景........................................................................1

(2)目的と仮説...............................................................4

(3)用語の説明...............................................................4

Ⅱ.方法...........................................................................4

(1)対象........................................................................4

(2)倫理的配慮...............................................................5

(3)実験1:平衡機能に関する研究....................................5

(4)実験2:運動イメージ機能に関する研究 .....................6

Ⅲ.結果...........................................................................8

(1)実験1:重心動揺検査................................................8

(2)実験2:運動イメージ機能の評価.................................9

Ⅳ.考察...........................................................................11

(1)LD児と健常児の平衡機能..........................................11

(2)LD児と健常児の運動イメージ機能..............................13

(3)LD児の運動制御能の特色..........................................16

(4)研究の限界...............................................................16

(5)今後の展望...............................................................17

Ⅴ.参考文献.....................................................................18

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Ⅰ.序論

(1)背景

学習障害児(Learning Disabilities、以下 LD 児)と診断されている子どもたちに対し

て、学校教育の場で体育の指導や遊びでかかわっていると、動作がぎごちなかった

り、つまずきやすいなど、粗大運動における問題を確認することがある。これまでも、

「片足立ちが苦手」や「体のバランスがとりにくい」などのバランスの問題や、鉄棒、マ

ット運動、跳び箱など、連続的な動作の組み合わせを要求される課題や遊びにおい

て困難さを示す身体協応性の問題などが指摘されている1)。この様な症状は、教科

学習の遅れという主症状と共にLD児の運動面の特性として指摘されている1)。これら

の問題に対処するため、さまざまな領域で問題の把握のためのアセスメントや指導・

訓練などが開発され実践されてきた。LD 児の運動面の問題に焦点化したり、それに

も対応できるように開発されたアセスメントとして、心理・教育の分野では Movement

Assessment Battery for Children2)、 Frostig Move-ment Skills Test Battery3)な

どが代表的であり、我が国でも日本版として標準化されたり4)、標準化が検討されて

いる5)。これらの検査は、基本的に小児の運動機能面をアセスメントするように構成さ

れている。

一方、リハビリテーションの領域では、感覚統合理論の立場から、一連の動作を組

み立てて順序よく運動遂行する運動企画力を問題視した Ayres の研究があげられ

る。Ayres は、LD児の運動面での問題を「発達性行為障害」として概念化し、praxis

(行為)の視点から研究をすすめ、その過程を3段階の神経学的なモデルとして提示

した6)。そのモデルの中核に運動企画力という認知的な要因を据え、イメージ機能の

関与を示唆した。 さらにこれらの考えを 基本に Sensory Integration and Praxis

3)

4≫

5)

6)

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Test(SIPT)を開発し7)、LD児の行為の問題の分類化を試みた。この様な Ayres の理

論は、praxis(行為)という概念自体の曖昧さや、これらの仮説が実証性に乏しいなど

の指摘もあるが8)、身体の協応性の問題に対する運動面と認知面それぞれからのア

プローチの重要性を提示している。Ayres のような運動面の問題に関して運動面と認

知面の両面を重要視する立場は、Shumway-Cook&Woolla-cott によって積極的に

運動制御理論として位置づけられている9)。彼らは、従来の運動制御理論に関して、

反射理論、階層理論、運動プログラム理論、システム理論などをあげ、これらが「単独

で完全な理論となるものはない」とし、彼らの考える運動制御理論を「システムアプロ

ーチ」と称している。また、運動は、知覚系、認知系、運動系の関連を含めた多重過

程の相互作用によって生じるとしている。

運動面に認知系、特にイメージ機能が関与しているという指摘は、コグニティブスキ

ル理論1)や体育学におけるスポーツトレーニング理論1)などにもある。古くは、

Jacobson1)による運動イメージ化と筋放電の共変関係が報告されている。それ以来、

脳波分析1)1)や皮膚電気反射分析1)など生理的パラメーターを指標にし、運動イメ

ージを想起する場合、実際の運動中と同じ神経系の賦活が確認されるようになった。

最近ではリハビリテーション領域におけるイメージ機能の臨床場面への応用研究も始

められている1)17)18)。どんなに単純な運動にも運動的要素と認知的要素の統合と

7)

8)

9)

1)

1)

1)

1)

1)

1)

1)17)18)

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処理により成立するという指摘があり1)、また上記にあげたような諸領域からの運動と

イメージの関連に関する知見を考慮すれば、運動遂行には運動面の評価と共に認

知的要素も含めた包括的な評価が必須になると思われる。運動制御の概念は、まさ

しく運動における運動的要素と認知的要素を適切に包含させている用語であると思

われる。これまで LD 児の運動遂行の問題へのアプローチに関しては、運動制御の

観点からの報告はなく、Ayers による感覚統合理論では、イメージ機能の関与を示唆

しているが、彼女の理論の中に積極的には導入されていない。本稿では、運動制御

論に関して Shumway-Cook らの定義9)に基本的に従うことにするが、彼らのように知

覚系と認知系をそれぞれ独立した系とはせず、知覚-認知系として考えることにし

た。情報処理理論のモデルでは、その情報を知覚から認知までの一連のプロセスと

して把握することが一般的なためである。従って、運動制御を構成するものとして、知

覚-認知系と運動系のそれぞれの要因を設定した。このように運動制御論の観点を

設定することで、LD児の粗大運動の問題に関して、従来、運動機能面へのアプロー

チに偏りがちであったアセスメントが、認知面も含めることで、複数面のアセスメントが

可能になると考えられる。

運動面、特に粗大運動面のアセスメントに関しては、その基本的かつ重要な因子で

あり、また認知的要因の関与が少ないと考えられる平衡機能を、重心動揺計により測

定した。本稿ではこれを実験1とする。これまで重心動揺計を用いた学齢児の平衡機

能に関する研究は、10 年から 20 年前の研究であり、近年の児童の体力や運動機能

の低下、それとは反比例するように身長と体重は増加する傾向との関連からの報告

はない。平衡機能はそれらの現象と密接な関連が指摘されているので2)、発達障害

のある児童の平衡機能の特色を比較する上で、現在の健常児における平衡機能の

特色に関して明らかにする必要性がある。さらに発達障害児の中でも、ダウン症児を

はじめとする知的障害のある児童の平衡機能についての報告は散見されるものの

2)、学習障害のある児童等の軽度発達障害児に関するものは、臨床上、LD 児が「つ

まづきやすい」、「片足で長く立てない」などバランスを要する運動に困難な症状を示

1)(小河 2004) 9)

2)

2)

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すことが指摘されているだけであり1)、発達的観点からの検討や重心動揺計などを使

用した定量性を目的とした研究の報告は見当たらない。

次に知覚-認知系のアセスメントは、前記のようにイメージ機能が運動に関与して

いることから、運動イメージをアセスメントの項目として採用した。そのアセスメントとし

て、動作の系列化における運動イメージ機能に関するカードを用いた連続動作再認

課題を独自に考案した。本稿では、これを実験2とする。イメージ機能に関する評価

は、一般的にイメージの鮮明性と操作性の2つに分類されることが多い2)。本研究に

関連するのは、イメージの操作性の評価であるが、これまでの評価法の代表的なもの

として、質問紙法による Richardson2)の Test of Visual Imagery Control(TVIC)や、

西田ら2)によるカードを使用した再認法などがあるが、研究報告が少なくいずれも成

人を対象にした研究である。また、質問紙法は被験者の主観に依存するので、学童

期の児童が適切に反応することは難しいと予想される。西田らによる再認法は、イメ

ージを手がかりに身体部位を言語指示で順次変化させ、最終的な姿勢ポーズにつ

いて5枚のカードから1枚のカードを選択するもので、質問紙法に比べより客観的評

価が可能と思われる。しかし、5種類の言語指示に従いながら最終のポーズを選択す

る課題は、認知的負荷が大きく記憶容量や処理速度に問題がある2)26)とされるLD

児にとって遂行が困難である。運動模倣能力を検査するもので Bergés & Lézine2)は

単一の動作課題、是枝ら2)は単一と連続した動作課題を設定した報告をしているが、

いずれも対象を幼児に限定しており、学齢期の問題を明確化できない。

そのため、本研究では、動作のパフォーマンスの内的過程を重視したコグニティブ・

1)

2)

2)

2)

2)26)

2)

2)

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スキルにおけるイメージ処理のモデルを導入した1)。日常の行動をスキルという視点

でその認知的過程のプログラムに着目し、行動の認知的過程のモデルを提示してい

る。その特色は、動作遂行には、ある動作に見合う適切な行動のプログラムが長期記

憶から検索され、一連の動作の大きさ、位置、速さなどのパラメーターを設定し、より

具体的なイメージに変換され、それらが効果器に伝えられ、動作が遂行されるという

ものである。さらに、そのプログラムは、抽象から具体へ階層的に構造化されていると

する。動作イメージとの関連では、行動のプログラムがパラメーターの設定を経て、行

動のイメージに変換される処理段階が重要であると考えられる。この段階を評価でき

れば、子どもの運動イメージの学齢期における特色を明らかにできると思われる。そこ

で本研究では動作の系列化における運動イメージ機能形成に関するカードを用いた

連続動作再認課題のように、工夫した評価法を作成し用いた。つまりイメージ機能に

おけるパラメーターの操作性について、運動制御論の観点から検討することを意味し

ている。

(2)目的と仮説

目的:運動制御論の観点から、複数の評価を取り入れ、LD 児の身体平衡機能と運

動イメージ機能の特色を明らかにすること。そのため健常学齢児の運動制御能につ

いても検討した。

仮説:LD児の運動制御能には偏りがみられ、粗大運動の問題は、バランスの問題

より運動イメージ機能の問題が優位である。

(3)用語の説明

・運動制御:運動するために必要なさまざまな機構を調整する能力9)。

・学習障害(Learning Disabilites):学習障害とは、基本的には全般的な 知的発

達に遅れはないが、聞く、話す、 読む、書く、計算する又は 推論する能力

のうち特定のものの習得と使用に著 しい困難を示す様 々な状態を指すもの

である。学習障害は、その原因として、中枢神 経系に何らかの機能障害が

あると推 定されるが、視覚障害、聴覚障 害、知的障害、情緒障害などの障

害や、環境的 な要因が直接の原因 となるものではない2)。

1)

9)

2)

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・イメージ:過去経験(知覚的・感覚的・感情的経験など)によって、外界の 事物の

知覚と類同的に習得、保持された情報が、自己の記憶を手がかり として意識的な

レベルで想起あるいは再生されたもので、絵画的な特性 を持つもの3)。

Ⅱ.方法

(1)対象

対象は実験群として、LD 児群(札幌市およびその周辺地域に在住する児童9名、

男子、年齢10.2±1.7歳)、コントロール群として、健常児群(札幌市のM小学校

(児童数 658 名、19 学級、職員数 37 名(2003 年4月現在)の児童、男子60名、女子

60名、計120名、7歳~12歳)を設定した.健常児の選定基準として聴覚障害、視覚

障害、身体の障害など有さず、教科の体育の成績が3段階評価「たいへんよい、よ

い、がんばりましょう」で、「たいへんよい」と評価されている児童を、各学年から 20 名

ずつ(男子 10 名、女子 10 名)それぞれの学級担任に抽出してもらった.本研究の最

終目的は、LD児の運動制御能の状態を検討することにあるので、通常学級にはLD

児など軽度発達障害のある児童も在籍しており、被験者内にそれら児童を含めない

ため運動能力が優れた児童を選出してもらった.被験者の検査結果を分析する際に

は、教育課程や学校行事など基本的活動単位である、低学年群(小学校1年生と2

年生)、中学年群(小学校3年生と小学校4年生)、高学年群(小学校5年生と6年生)

の3群に分けた。検査の実施期間は、2003年2月から5月であった。

LD児に関しては、札幌市にあるA療育センターに通院し、小児精神科医による診

断が明記されているものとした。検査期間は2005年2月から5月であった。知能検査

に関して、LD児群はWISC-Ⅲを用いた。

(2)倫理的配慮

検査を実施するにあたり、選定された健常児童の保護者に研究協力のための同意

書(1.検査途中、児童・保護者から、何らかの理由で継続できなくてもいっさいの不利

益は生じない、2.児童・保護者は、いつでも検査を中断できる、3.検査によって得ら

れたデータは、厳重に管理し、本研究以外は使用しない、4.本人であると特定化され

る表示はいっさいしない、5.検査中に、心理的負担が生じ医療機関などで治療受け

た場合、当方で全額保証する)についての説明を行い、の提出を求め、同意が得られ

た児童のみ対象とした。LD児に関しては、主治医が研究協力依頼書を提示し説明

した上で、同様に同意書の説明を行い、同意が得られた場合のみ対象とした。

3)

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(3)実験1:平衡機能に関する研究

1)重心動揺検査の方法

1-ⅰ)測定環境

健常児に関しては、M小学校内にある通級指導教室の1室を使用した。児童の心

理的緊張を発生させないように、また児童が検査に最大限集中するように、検査室の

壁面や窓には白いカーテンで覆った。検査の時間帯として、学校時の中休み時間

(午前10:20~10:45)を設定した。検査に際しては、検査前に体育などの激しい身

体活動を行っていないことを条件とした。LD 児は、A療育センターおよび札幌医科

大学リハビリテーション教育実習棟の一室を使用した。児童・生徒の心理的緊張を発

生させないように、また検査に最大限集中するように、検査を実施する環境に最大限

配慮した。具体的には、検査室の壁面の掲示物をなくしたり、窓を黒いカーテンで覆

うなどした。検査に際しては、検査前に激しい身体活動を行っていないことを条件とし

た。

1-ⅱ)測定方法

重心動揺の測定は、日本平衡神経学会の検査基準に従った(日本平衡神経科学

会運営委員会 1995)。被験者は裸足、ロンベルグ姿勢で直立させ、測定時間は60秒

である。開眼では2m前方で目の高さに合わせた一辺が1.5cm の正方形の赤い固定

指標を注視させ、閉眼ではアイマスクを着用させ眼瞼を閉じさせた。重心動揺計(日

本電気三栄製1G06)の検査台上での開眼、閉眼各々60秒間の動揺を、AD変換器

を介してパーソナルコンピューター(FMV-BIBLONUⅢ13)にサンプリングタイム2

0Hzで入力した。AD変換器の分解能は12ビットで、入力した動揺記録を三栄製プ

ログラムを使って解析した。

1-ⅲ)検査項目

検査項目は、外周面積、総軌跡長、単位軌跡長の3項目について分析を行った。

それぞれの項目の詳細については表1に示した。

1-ⅳ)解析方法

分析には健常児群の3群(低学年群:7歳と8歳、男子20名、女子20名、計40名、

中学年群:9歳と10歳、男子20名、女子20名、計40名、高学年群:11歳と12歳、男

子20名、女子20名、計40名)と、LD児群(男子9名)、4群に分け、各群の比較を行

った。その際、各群の検査項目における開眼・閉眼条件下の値の平均値と標準偏差

を算出するとともに、その差をt検定で検討した。そして各群間の差を一元配置分散

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分析を行い有意な差(p<0.05)を求め、有意差があった場合には、Fisher の PLSD 法

(5%水準)による多重比較を行った。

(4)実験2:運動イメージ機能に関する研究

1)環境

Ⅱ方法、(3)実験1、1)重心動揺検査の方法の1-ⅰ)に同じ。

2)課題

本研究では西田ら2)による再認法を参考に、被験者に検査者による動作の実演か

ら、それらのイメージを手がかりに適切なカードを選択し、系列化させる事を対象児童

に求めた。課題内容は、上肢下肢を含む身体全身が関わる連続動作の再認課題と

した。図1に示すように課題は全部で3種類とした。また、検査方法としては Bergés

& Lézine 2)や是枝ら2)による研究と同様に、検査者が被験者と対面する形で各課題

を試行ごとに順次モデル提示した後、カードの並列化を求めた。カードの内容は、も

っとも単純で動作の特徴が表れやすいと考えられる針金絵とした。各課題は以下の

通りである。

課題 1: 動作は 立 位姿 勢 から、 上 肢を 上 方 に伸 展 させ 身体 を 一 回転 させ、

再び立位姿勢に戻るというもの。ランダムに提示された5枚のカード を適切に

並列化させる。

課題2 :動 作は 立 位姿 勢か ら左 下肢 を 体 幹を 交 叉 して 斜め に 伸展 させ、 立

位姿勢に戻し、次に体幹を交叉して右下肢を斜めに伸展させ、再び 立位姿

勢に戻るというもの。ランダムに提示された5枚のカードを適 切に並列化させ

る。

課題3:動 作は 、 立位姿勢か ら左 上肢は 左斜 め下、 右上 肢は 右斜め 上に伸

展させ、左右上肢をおろしながら 180 度回転し後ろ向きになり、同時 に左上

肢は左斜め上、右上肢は右斜め下へ伸展させる。再び180 度回転し前向き

の立位姿勢に戻すというもの。ランダムに提示され た6枚のカードから4枚の

カードを選択し、適切に並列化させる。

2)

2)

2)

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3)材料

検査室の中央へ間仕切りとした壁に移動式のホワイトボードを重ねて設置した。3

㎝×5㎝のマグネット式のカードを 16 枚用意し、課題1と2では5枚、課題3では6枚

使用した。検査者は、時間計測のために手動式ストップウオッチを用いた。検査の実

施状況を、デジタルビデオで記録した。

4)手続き

被験者をホワイトボードの前にたたせ、検査者が「これから先生がある動作をしま

す。どのような動作をしたのか、カードから選んで横に一列に並べてください」と説明

した。被験者から3メートル前方にいる検査者が連続的に動作を遂行した。被験者は

検査者の動作遂行が終了すると同時に、与えられたマグネット式カードを選択しなら

べた。試行時間は30秒(検査者が被験者の動作遂行と同時にストップウオッチで測

定)とし、正解すると次の課題に移行した。1課題につき3回の試行までとし、3回とも

失敗の場合は、その時点で次課題へ移行した。

5)評価および分析

正答基準は、時間内(30 秒)に正確に並べられた場合を正答とし、それ以外は失敗

とした。各課題を一回目の試行で正答できたものを 3 点、二回目の試行で 2 点、三回

目の試行で1点、三回目の試行でも正答できなかったり、時間制限内(30 秒)に正答

できなかったりしたものは0点とした。健常児群の3群(低学年群:7歳と8歳、男子20

名、女子20名、計40名、中学年群:9歳と10歳、男子20名、女子20名、計40名、

高学年群:11歳と12歳、男子20名、女子20名、計40名)とLD児群(男子9名)の4

群に分け、各群の正答数から平均値と標準偏差を算出するとともに、各群間の差を

一元配置分散分析を行い有意な差(p<0.05)を求め、有意差があった 場合には

Fisher の PLSD 法(5%水準)による多重比較を行った。また正答の有無にかかわら

ず時間制限内にカードを系列化できた全試行数のうち、提示された系列情報を正し

く再生した割合を再生率とした。そして、その再生率から、系列内の位置ごとに正しく

再生された最初の項目を初頭性効果、最後の項目を新近性効果として、各出現率を

算出した。さらに、不正等でも時間制限内にカードを系列化できた全試行数のうち、

提示された系列情報を誤って再生した割合を、再生誤認の出現率として算出した。

その中でも、最も多く誤った系列情報の割合を動作の最多誤認出現率として算出し

た。

Ⅲ.結果

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(1)実験1:重心動揺検査

1)有効対象者数

有効対象者は、測定時間60秒をロンベルグ姿勢で、開眼・閉眼ともに姿勢維持す

ることができた者とした。LD児群では9名(男)が有効対象者数であった。コントロー

ル群では、健常児群が 112 名(対象児の内8名が欠席等で測定できなかった)で、内

訳は低学年群38名(男子19名、女子19名)、中学年群36名(男子17名、女子19

名)、高学年群38名(男子19名、女子19名)であった。

2)重心動揺検査

重心動揺検査の測定値を表2に示した。

2-ⅰ)外周面積

LD児群の外周面積では、開眼条件(図2)で、3.5±0.9c㎡、閉眼条件(図3)で 6.3

±3.8c㎡であった。コントロール群の健常児群は、開眼条件(図2)で、低学年群が

4.2±2.5c㎡、中学年群が 3.7±1.8c㎡、高学年群が 3.6±1.6c㎡、閉眼条件(図3)

で、低学年群が、6.1±3.9c㎡、中学年群が 5.4±3.1c㎡、高学年群が 4.96±2.5c㎡

であった。開・閉眼条件では、すべての群で有意に開眼条件の外周面積が狭くなっ

ていた(低学年群(t=3.45、p<.05)、中学年群(t=3.42、p<.05)、高学年群(t=3.85、

p<.05)、LD児群(t=2.35、p<.05))。また、群間の比較では、開眼条件と閉眼条件の

それぞれの両条件下で、有意差がみられなかった。

2ーⅱ)総軌跡長

LD児群の総軌跡長では、開眼条件(図4)で、71.7±13.8 ㎝、閉眼条件(図5)で

87.6±20.3 ㎝であった。コントロール群の健常児群は、開眼条件(図4)で、低学年群

が 72.4±19.3 ㎝、中学年群が 68.9±14.9 ㎝、高学年群が 64.6±12.9 ㎝、閉眼条件

(図5)で、低学年群が 96.9±33 ㎝、中学年群が 89.2±26.5 ㎝、高学年群が 91±

26.4 ㎝であった。開・閉眼条件では、すべての群で有意に開眼条件の総軌跡長が短

くなっていた(低学年群(t=5、p<.05)、中学年群(t=5.66、p<.05)、高学年群(t=5、

p<.05)、LD児群(t=2.56、p<.05))。また、群間の比較では、開眼条件と閉眼条件の

それぞれの両条件下で、有意差がみられなかった。

2-ⅲ)単位軌跡長

LD児群の単位軌跡長は、開眼条件(図6)で、1.1±0.2㎝、閉眼条件(図7)で 1.4±

0.3 ㎝であった。コントロール群の健常児群は、開眼条件(図6)で、低学年群が 1.2±

0.3 ㎝、中学年群が 1.1±0.2 ㎝、高学年群が 1±0.2 ㎝、閉眼条件(図7)で、低学年

群が 1.5±0.6 ㎝、中学年群が 1.4±0.4 ㎝、高学年群が 1.5±0.4 ㎝であった。開・

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閉眼条件では、すべての群で有意に開眼条件の単位軌跡長が短くなっていた(低学

年群(t=5.14、p<.05)、中学年群(t=5.58、p<.05)、高学年群(t=5、p<.05)、LD児群

(t=2.54、p<.05))。また、群間の比較では、開眼条件と閉眼条件の両条件下で、有意

差がみられなかった。

(2)実験2:運動イメージ機能の評価

1)有効対象者数

全対象者の内、重心動揺の測定ができた者のみを対象にした。LD児群では9名

(男)、コントロール群の健常児群が 112 名で、内訳は低学年群 38 名(男子 19 名、

女子 19 名)、中学年群 36 名(男子 17 名、女子 19 名)、高学年群 38 名(男子 19 名、

女子 19 名)であった。

2)正答数

各課題における各群ごとの正答数の平均値と標準偏差(図8~図10)は、課題1で

は、LD児群が 1.3±1.3 であるのに対し、コントロール群の健常児群では、低学年群

が 0.8±1.2、中学年群が 1.5±1.2、高学年群が 2±1.1 であった。同様に課題2と課

題3では、LD児群 1.5±1.5 と 0.8±1、コントロール群の健常児群では、低学年群が

0.7±1 と 0.6±1、中学年群が 1.6±1.2 と 1.2±1.3、高学年群が 2.1±1 と 1.7±1.2

という結果であり、各課題とも正答率に群間の有意差があった。(課題1は F(3、118)=

6.14、p<.05、課題2は F(3、118)=9.11、p<.05、課題3は F(3、118)=4.79、p<.05).多

重比較の結果では、各課題とも低学年群が中学年群と高学年群に較べ正答率が低

かった(p<0.05)。LD児群の正答率は、健常児群間の有意差はなく、低学年群より高

く、中学年群より低いという傾向であった。

3)LD 児群における全課題の平均正答率と知能検査結果の関連

LD 児群における全課題の平均正答率と知能検査結果を表5に示した。LD 児群に

おける課題1~課題3の全正答数から算出した正答率の平均値と標準偏差は、1.2±

0.9 であった。知能検査結果(WISC-Ⅲ)における全 IQ の各平均値と標準偏差は、

91±14.2、VIQ の各平均値と標準偏差に関しては、91.8±17.3、PIQ の平均値と標

準偏差に関しては、91.8±15.5 であった。平均正答率の平均値と知能検査結果の相

関分析は、全IQがr=0.1、VIQがr=-0.08 で、全IQとVIQには相関は認められず、PI

Qがr=0.4 で「弱い相関」がみられた。

4)再生率

各課題の各群ごとの再生率を、図11~図13に示した。言語情報による系列的な自

由再生課題では、初頭効果と新近効果のある系列位置曲線を示すことが報告されて

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いる。本研究のいずれの課題においても、全5項目中、第1項目と第5項目の再生率

が高く、第3項目の再生率はそれらより低かった(課題2の再生率は第4項目が第3項

目より低かった)。

初頭性効果が課題1において低学年群 56.1%、中学年群84.0%、高学年群85.0%、

LD児群 80.9%、課題2では、低学年群 77.6%、中学年群 91.9%、高学年群 99.1%、L

D児群 94.4%、課題3では、低学年群 65.6%、中学年群 83.1%、高学年群 96.5%、LD

児群 59%であった.

新近性効果は課題1において低学年群60.0%、中学年群73.7%、高学年群82.5%、

LD児群 100%、課題2では、低学年群 85.8%、中学年群 91.4%、高学年群 97.7%、L

D児群 88.8%、課題3では、低学年群 65.7%、中学年群 65.0%、高学年群 93.0%、LD

児群 86.3%であった。最も再生率の平均が低かったのは、低学年群、中学年群、高

学年群が、課題1と課題3の第3項目で、低学年群 23.7%~26.7%、中学年群 34%~

38.8%、高学年群51.9%~59.9%の範囲であった。LD 児群は課題1は第3項目、課題3

は第2項目で、その範囲は 31.8%~33.3%であった。課題2に関しては、最も再生率の

平均が低かったのは第4項目で、低学年群 27.3%、中学年群 34.5%、高学年群

52.3%、LD 児群 27.7%であった。

5)再生誤認の出現率

正答にならなかったが時間制限内にカードを系列化できた全試行数から、再生誤

認の平均出現率を図14~図16に、各群ごとの最も多いカードの誤認出現率を図17

に示した。課題1で最も顕著なカードの誤認は、並列化3枚目の後ろ向きの姿勢カー

ド①を選択すべきところを、前向き・両上肢の上方挙上のカード③を選択する傾向に

あり、全誤りの中で低学年群では 70.6%、中学年群では 88.1%、高学年群では

81.9%、LD 児群が 93.3%で同様の誤認をしていた。課題2では各学年群とも並列化

4枚目で体幹を交叉して右下肢を斜めに伸展させた姿勢カードを立位(カード②)と

誤認して配置することが多かった。全誤りの内、低学年群は 55.3%、中学年群は

55.8%、高学年群は 52.9%LD 児群が76.9%を占めていた。一方、課題3では各群と

もに左右上肢をおろしながら 180 度回転し後ろ向きになる並列化3枚目での間違い

が多いが、選択したカードは各群によって異なっていた。各群による誤選択をしたカ

ードは、低学年群では立位(カード②)で 29.1%、中学年群が前向き・上方左斜め伸

展(カード①)で 26.1%、高学年群、LD 児群が後向き・下方左斜め伸展(カード⑤)

でそれぞれ 34.2%、44.4%であった。

Ⅳ.考察

(1)LD児と健常児の平衡機能

ヒトの平衡機能の測定方法の中で、運動発達と密接に関連あるのは、身体平衡機

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能検査であり、静的平衡機能の測定には一般的に重心動揺計が使用される。重心

動揺は、ヒトの立位バランス能を客観的評価できる有用な測定方法である。この検査

方法は、直立姿勢を一定時間とり続けなければならず、姿勢保持の耐久性や検査中

の集中性が必要とされ、一般的には 15 歳から 16 歳以降でなければ正確に測定でき

ないとされている。その一方で、発達的な観点からの幼児や学齢児を対象とした研究

もみられ、健常児では一定の発達的変化を示すとの報告も散見される3)32)33)3)。

その学齢健常児の重心動揺の特徴は、幼児期のような著しい減少傾向はないが、成

人の標準値へ漸次減少するという報告が多い。平沢3)(表3)が報告した平均値のみ

の年齢別推移では、外周面積の開眼条件(7歳~12 歳)は男子が 2.5~5.8c ㎡、女

子が 3.1~4.9c㎡の範囲であった。また、小島・竹森3)の報告(表3)では男子が 3.5

~12c㎡、女子が6~8.5c㎡の範囲、坂口3)(表3)は4~17c㎡の範囲(7 歳~12 歳)

と報告している。また本研究と同様の年齢幅で研究を行っている水田3)(表3)は、開

眼条件における外周面積が、低学年群で 5.0±2c㎡、中学年群で 3.1±1.6c㎡、高

学年群で 3.2±1c㎡であったことを示している。一方、健常成人では日本平衡神経

科学会3)(表3)が参考値として提示している外周面積の正常値では、20 代の男女

で、2.07±0.96c㎡、1.82±0.82c㎡、八木3)の報告(表3)では、1.88±0.53c㎡、

1.96±0.37c㎡とされている。先行研究と今回の結果を比較すると、全学年群におけ

る外周面積の範囲では 1.7~6.7c㎡とバラツキが少ないこと、また、学年別では水田

3)32)33)

3)

3)

3)

3)

3)

3)

3)

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の報告3)とほぼ同様の結果ではあるものの、低学年群では重心動揺面積が狭い傾

向にあった。健常成人との比較では高学年群で 3.6±1.6c㎡であり健常成人の水準

には達していないことが推測される。

総軌跡長の開眼条件(7 歳~12 歳)で、坂口3)の報告(表4)では正確な測定値が記

載されていないものの、50~105cm の範囲であるとしている。近年の報告では宇野3)

(表4)が6歳から 11 歳の児童で行った研究で、開眼条件で107.82±13.5cm としてい

る。一方、総軌跡長の健常成人における開眼条件での報告として、日本平衡神経科

学会3)(表4)の正常値としては20歳代男女それぞれ 76.8±17.4cm、 72.3±

17.4cm、八木3)の報告(表4)で20歳代男女で 76.3±9.07cm、69.8±4.78cm という

結果であった。単位軌跡長では、開眼条件で低学年群が 1.4±0.3cm、中学年群が

1.2±0.4cm、高学年群が 1.2±0.7cm と、水田3)が報告(表4)している。今回の結果

では、総軌跡長の高学年群は平均値で 64.6±12.9cm であり、先行研究が示してい

る健常成人の値より総軌跡長が短いという特徴的な値が得られていた。また、低学年

群でも 72.4±19.3cm であり日本平衡神経科学会3)が提示している 20 歳代女の 72.3

±17.4cm に近似している。水田3)は外周面積では 15 歳前後、総軌跡長では 10 歳

前後から成人と有意差がなくなり成熟してくる事を指摘しているが、本実験結果でも

外周面積に比べると軌跡長の成熟が早く、姿勢制御の発達に一定の特性があること

が考えられた。重心面積はメニエール病などの前庭覚障害において、総軌跡長は小

3)

3)

3)

3)

3)

3)

3)

3)

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脳障害などで特異的に増加する傾向にあることが指摘されている4)。総軌跡長の後

に外周面積が成人の値に近づくという本結果からも、姿勢制御の発達に前庭覚と固

有受容覚が関連していると考えられる結果であった。

今回の実験ではLD児群は平均年齢が約10歳なので、年齢的には健常児群の中

学年群に該当する。中学年群との比較でも、外周面積、総軌跡長、単位軌跡長は近

似していた。本実験結果では、中学年群においても外周面積に比べると軌跡長の成

熟が早かったが、この傾向はLD児群においても同様であった。しかし、先述したよう

に、LD 児の粗大運動には、「つまづきやすい」、「片足で長く立てない」などバランス

を要する運動の困難性と、鉄棒や縄跳びなど身体協応性の困難性という2つが考え

られる。身体の平衡機能が健常児と変わらないという本実験結果からは、前者のよう

な従来から指摘されている問題とは異なる見解となった。その要因として、研究の方

法論の相違が考えられる。つまり、従来からの指摘は、そのほとんどが記述的で観察

によるものであるが、本実験では重心動揺計を用いた定量的なアプローチによった。

本実験のように定量的なアプローチでは、健常児の平衡機能との差異が発生しなか

ったことが示唆された。

次に、身体協応性の問題に関して、Ayres がLD児の運動企画力の問題として指摘

していることは既に述べた。Ayres6)は、運動企画力にイメージ機能の関与を示唆し

ているにすぎなかったが、現在の運動制御理論ではイメージ機能は、知覚-認知系

において中核となる。そのイメージ機能の観点から、LD児の身体協応性の問題を検

討していくことにする。

(2)LD児と健常児の運動イメージ機能

1)健常児の運動イメージ機能

本実験の検査課題は、運動の順番を記憶し、再生する必要があった。これは手続

き的学習で、健常成人の場合、動作の方向や身体の向きなどの情報を、「右上、左

下」等と言語でコード化させ、処理していくことが一般的である4)。コグニティブ・スキ

ルのモデルに従えば、動作のパラメーター操作において言語使用することで効率よく

処理していると考えられ、本検査課題は言語の関与の可能性が示唆される。言語情

報を用いた記憶の自由再生課題では、初頭効果と新近効果の両方の出現が認めら

4)

6)

4)

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れる系列位置効果があることが知られている。本検査課題の健常児群の結果におい

ても、非言語情報による課題にもかかわらず、言語情報の課題の結果と同じ系列位

置効果が認められた。このことの要因の一つには、課題の意味的理解が促進され言

語的符号化が容易に生じたためと考えられる。

また、この検査課題では、子どもがカードを理解しやすいように針金絵を使用した。

そのねらいは、針金絵では身体の主要部分や動作の諸特徴を簡略化することが可

能であり、詳細な絵図や写真よりも、子どもは瞬時にそれらの情報を理解したり言語

的符号化が容易であると考えたためである。また、障害児に対して本検査課題を実

施していく際に、「こだわり」が強かった場合、カードのある部分に集中してしまい、実

験が効率よく実施できないことも想定した。そのような事態を最大限回避するために

も、検査課題に使用するカードは詳細な情報より簡略された情報の方が、本検査の

ねらいを達成できると考えた。しかし、Nelson ら4)の実験では、写真などの詳細な情

報のものと、簡略画像のものを素材にした健常成人を対象にした再認記憶の比較で

は、成績に差がないことを示している。障害児の再認記憶が、情報の内容によって影

響をうけるのかどうかという問題は、今後の研究課題の一つになると考えている。

本検査課題の特色は、手続き的学習であり、言語の関与の可能性が示唆される。

この手続き的学習は、前頭前野と密接に関連していることが指摘されている4)。前頭

前野は、9歳から 10 歳にかけて機能的にも変化をとげることが脳イメージングの研究

で示唆され4)、発達心理学の領域においても「9、10歳の節」として、思考の分岐点で

あると指摘する研究者もいる4)45)46)。さらに前頭前野と非常に深い関連があるとさ

れるワーキングメモリーの発達研究でも、9 歳あるいは10歳にウイスコンシン・カード

分類検査などの検査課題の成績上昇が確認され、この時期が発達的変化のポイント

であることを示唆している4)48)。健常児群の本実験結果では、低学年群が中学年群

と高学年群に比べて正答率も再生率も低かった。従って、中学年群や高学年群に比

較し、低学年群のイメージ機能が低い傾向にあり、9歳から 10 歳の年齢に当たる中

4)

4)

4)

4)45)46)

4)48)

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学年群にむけて運動イメージ機能形成がなされる発達過程を反映していることが示

唆されたと考えられる。

また、健常児群における最多再生誤認の出現率の分析では、課題1と課題3での

誤認は身体の向きに関する情報のイメージ化における間違いであり、課題2では正

中線を超えた動作の方向の誤認が各学年群で共通していた。また、最多再生誤認

の出現率も課題毎で学年にかかわらず一定の傾向にあった。この結果は、各課題の

「身体の向きの変化」と「動作の方向」といった動作パラメーターの操作が、学齢期を

通じて完全には成熟しないことを示唆するものと考えられた。コグニティブ・スキルの

モデルでは、行動のプログラムが基本になっており、また、内藤ら4)は、行動のプログ

ラム自体が、身体図式(ボディスキーマ)に基づいて選択し作成されるとしている。これ

に従えば、コグニティブ・スキルの基本単位が身体図式であると考えられ、身体図式

と行動のプログラムが密接に関連しているといえる。従って、動作パラメーターの操作

が未成熟と考えられる背景には、基本的単位としての身体図式が曖昧あるいは貧弱

な状態が推測され、記憶の中で正確なパラメーター情報として再生することが困難で

あると考えられる。健常児の場合、身体図式が完成されるのは 9 歳から10歳と Cratty

5)は報告しているが、本検査結果からは、身体図式が未成熟な状態の健常児が存在

する可能性が考えられ、運動イメージ機能形成に身体図式が非常に重要な要因の

一つになりえることも示唆していると考えられる。

さらに、動作パラメーターの操作に関して、完成された身体図式を持つ健常成人の

ように言語を効果的に使用させているのと異なり、健常の学齢児によっては、身体図

式が未完成なために、動作パラメーターを言語にコード化することが困難な状態にあ

ると考えられる。彼らは、「左右」「上下」「前後」など位置や方向を表す動作パラメータ

ーに必要な言語力は既に獲得している。しかし、記憶内では、動作パラメーターの操

作に必要な言語と動作パラメーターの統合が曖昧であったり、貧弱であることが考え

られる。動作パラメーターの操作に言語の関与が乏しいことが推定される。

従って、健常学齢児の運動イメージ機能の発達は、前頭前野の発達に反映され、9

歳あるいは10歳から成熟しはじめるが、身体図式の完成が遅れると、依然として言語

の関与は乏しく、記憶内で自由に動作のパラメーターと言語を制御することはでき

ず、未成熟のまま思春期をむかえると考えられる。発達心理学では、記憶内でイメー

ジと言語の統合可能な時期は、7 歳あるいは 8 歳からとされ、イメージの自由な操作

4)

5)

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は 15 歳以降とする仮説2)があるが、本実験における健常学齢児の運動イメージ機能

形成の発達に関する考察からもそれを支持できると考えている。

2)LD児の運動イメージ機能

2-ⅰ)仮説の検証

LD児群については、平均年齢が 10 歳、連続動作再認課題の平均正答率が 1.2、

系列位置効果が確認できることや、再生率が中学年群とほとんど差異はないと思わ

れる範囲にあった。従って、運動イメージ機能は低学年群より発達しており、中学年

群とほとんど類似していると考えられる。このことは、本実験の「LD児群の粗大運動

の問題は、バランスの問題より、運動イメージ機能の問題が優位である」という仮説が

否定され、LD児群の運動制御能の評価として、運動イメージ機能の問題が優位で

はなかったことを示唆したと考えられる。しかし、最多再生誤認の出現率は健常児群

より高く、一定した傾向もあった。最多再生誤認の内容を分析してみると、健常児群

に較べ、「身体の向きの変化」と「動作の方向」といったカードを誤って選択する傾向

が高かった。従って動作パラメーターの操作の問題は、健常児群よりさらに露呈され

ていると考えられる。また、LD児群のWISC-ⅢのIQ平均値は正常域の範囲にあっ

たが、それと課題の正答率との相関関係がほとんど認められなかった。このことは、誤

りの特色がLD児にとって知的機能に関係なくみられると推測される。健常児群とLD

児群では、カード選択の誤りにおいて、質的な相違が示唆されたと考えられる。

2-ⅱ)LD児における誤りの特色の要因

LD児においては、身体図式の問題がこれまで多く報告され2)5)52)、 彼らの問題

の特色の一つとしてあげられている。身体図式が曖昧あるいは貧弱な状態であれ

ば、健常児の運動イメージ機能で考察したように、姿勢変換や動作の方向といった

運動イメージ機能に関連する記憶内での情報の操作が困難になると考えられる。ま

た、本検査課題は、カードを並べる系列化問題でもあり、LD児の場合、系列化の困

2)22) 2)

5)52)

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難はAyres6)や鈴村・佐々木5)などこれまで多くの報告があり、カードを適切に配列

できない要因には、系列化の困難も反映されていると思われる。本検査課題では、L

D児群は VIQ と課題の結果との関連がなかった。一方、運動イメージは言語との関連

で発達するという2)報告があり、運動イメージが言語と相互作用の関係を意味してい

る。しかし、本結果からは、本検査のLD児群の運動イメージ機能と言語の関連が低

い可能性が示唆された。コグニティブ・スキルのモデルによれば、前述したように本検

査結果のLD児群は動作のパラメーターと言語の関係が健常児に比較して乖離して

いる状態を推測させ、動作パラメーターを言語に変換する能力が貧弱あるいは動作

パラメーターと言語のマッチングが困難などが考えられる。Torgesen&Kail5)において

も言語的な符号化の処理に困難があることを示している。LD児群の誤りの特色に

は、すくなくともこれらの要因が、関与していると推測され、運動イメージ機能の特色

ある処理が、跳び箱やなわとびなどの連続的な動作の組み合わせが要求されるよう

な課題に影響を与えている可能性が示唆された。

(3).LDの運動制御能の特色

本実験のLDの運動制御能の特色は、 運動的側面については、平衡機能が健常

の学齢児とほぼ同じで、知覚-認知的側面についても、知能や記憶が正常範囲に

あり、運動イメージ機能は健常の学齢児と差異はなかったと考えられる。しかし、運動

イメージ処理に特色がある可能性が示唆された。その要因として身体図式の未成

熟、情報の系列化や符号化の問題が推測された。そのことが運動や動作の順番を記

憶する際に、効率よく処理することを妨げ、跳び箱やマット運動などの運動課題に影

響を与えている可能性が考えられた。従って、本実験のLD児の運動制御能は、健

常学齢児のほぼ同じであるが、特色ある運動イメージの処理が彼らの粗大運動の問

題にも反映されていると推測される。

(4)研究の限界

LD児と診断を受けている児童数自体が限られており、その中から研究協力者とし

ての被験者を募集した。その結果有効対象数 9 名の被験者で実験を実施したが、母

6)

5)

2)

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集団の数が少なく、実証性に限界があったと思われる。また、今回の運動イメージ機

能の評価は、カードの選択から実施したが、運動イメージ機能に関与していると考え

られる眼球運動、視知覚機能やワーキングメモリなどの観点からは、今回は詳細に検

討しなかった。今後の研究課題になると考えている。次に、本研究では、運動イメー

ジ機能の評価として、カードによる連続動作再認課題を考案し、カードの内容として

針金絵を使用した。針金絵はヒトの動作を簡略化でき、特色を明確に表せると考えた

ことは前述した。しかし、ヒトの動作に関連した情報について、写真のような詳細な画

像と針金絵のような簡略化画像について、障害児に関する情報処理の特色を検討し

た報告はみあたらないので、簡略した画像の処理ばかりではなく、詳細画像について

も検討を加えるべきであったと考えている。最後に本研究における倫理的配慮につ

いて、LD児に関しては、主治医が研究協力依頼書を提示し説明した。しかし、主治

医による研究協力の依頼ではなく、第3者による研究協力の提示と説明をすべきであ

ったと考えている。主治医による依頼では、通常、患者は研究協力を拒否することが

難しい場合が想定される。このような観点から、LD児に対して倫理上の配慮が不足

していたことが考えられる。今後は、上記に述べたような観点も含めながら、研究協力

の依頼を実施していきたい。

(5)今後の展望

この問題を改善していくためには、認知的要因を視野にいれた支援プログラムの作

成が必須になると考えられる。特に学校教育では、運動スキル面に支援の対象が焦

点化されやすいので、本研究での知見は、学校教育の教育課程への問題提議にな

ると考えている。

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23) Richardson,A.: The meaning and measurement of mental imagery. British Journal of Psychology 68 : 24-33, 1977

24) 西田保,勝部篤美,猪俣公宏他:運動イメージの統御可能性テス ト作成の試み. 体育学研究 31(1): 13-22, 1987 25) Siegel, L. S.: Working memory and reading: A life span. International Journal of Behavioral Development 17: 109-124, 1994

26) Elbert, J. C. : Short-memory encoding and memory search in the word recognition of learning-disabled children. Journal of Learning Disabilit ies 17: 342-345, 1984

27) Bergés ,J& Lézine, I. : Test d'Imitation de Gestes.[Imitation and gesture for test]. Paris, Masson, 1977

28) 是枝喜代治,小林芳文,太田昌孝:自閉症児の運動模倣能力の特 性.

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発達障害研究 25(4): 265-279, 2004

29) 文部省 : 学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生 徒の指導方法に関する調査研究協力者会議. 1999

30) 西田保,勝部篤美,猪俣公宏他:運動イメージの明瞭性に関する 因子分析的研究. 体育学研究 26(3): 189-205, 1981

31) 小島幸枝,竹森節子:小児の身体平衡の発達について. 耳鼻臨床 73 : 685-671, 1980

32) 坂 口 正 範 : 小 児 の 重 心 動 揺 お よ び 頭 部 動 揺 の 年 齢 的 変 動 . Equilibrium Res 48:341-350,1989

33) 仙石泰仁,舘延忠,佐藤剛:軽度発達障害リスク児の平衡機能に 関する研究. 札幌医科大学保健医療学部紀要 2:39-44,1999

34) 田中敏明,江刺家修,大畠純一ほか:小児期の重心動揺における 発達. 北海道理学療法 3 :11-16, 1986

35) 平沢彌一郎:日本人の直立能力について, 人類誌 87:81-92, 1979

36) 水田啓介,宮田英雄:ヒトの直立姿勢. 総合リハ 21:985-990,1993 37) 日本平衡神経科学会運営委員会:重心動揺検査のQ&A , 手引き (1995). Equilibrium Res 55:67-77,1996 38) 八木一記:ヒト直立時重心動揺の多変量解析(第1報)-重心動 揺から見た年齢変化-.日耳鼻 92:899-908,1989

39) 宇野功一:軽度発達遅滞児におけるバランス反応の研究. 感覚統 合障害研究 6:8-14,1998

40) 八木一記:ヒト直立時重心動揺の多変量解析(第2報)-重心動 揺のパターン認識-. 日耳鼻 92:909-922,1989

41) 川島隆太:高次機能の脳イメージング.東京,医学書院,2002

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42) Nelson,T.O., Metzler,J.&Reed,D.A : Role of details in the long-term recognit ion of pictures and verbal descriptions. Journal of experimental Psychology 102 : 184-186, 1974

43) 川島隆太,泰羅雅登,野瀬出他:fMRIによる子供の脳賦活研 究. 神経化学 40: 2-3 , 2001

44) 田丸敏高:児童の社会認識に関する発達的研究.鳥取大学教育学 部研究報告(教育科学)29(1): 41-53, 1987

45) 田丸敏高:対話事例にみる児童の社会認識の発達. 鳥取大学教育 学部研究報告(教育科学)29(1): 55-71, 1987

46) 田丸敏高:子どもはどのようにして社会を認識し始めるか. 鳥取 大学教育学部研究報告(教育科学)30(1): 203-229, 1988

47) Chelune,G.J.&Baer,R.A: .Developmental norms for the Wisconsin Card Sorting Test. J Clin Exp Neuropsychol 8 : 218-228, 1986

48) Levin, H. S., Culhane KA.,& Hartmenn, J. : Developmental changes in performance on test of purported frontal lobe functioning. Dev Neuropsychol 7: 377-395, 1991

49) 内藤栄一,定藤規弘: 身体図式(ボディスキーマ)と運動イメージ. 体育の科学 52(12): 921-928, 2002

50) Cratty, B. J.: Perceptual and motor ability in infants and children. New York, The Macmillan Co, 1970

51) Frostig,M : .Movement education,theory and practice.Follet, Chicago, 1970

52) DeMyer,M. : Motor, Perceptional-motor and intellectual disabilities of autistic children. Wing,L.(Ed.): Early Childhood Autism.-clinical,educational and social aspects,Second ediiton. London, Pergamon Press, 1976

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53) 鈴村健治, 佐々木徳子:LD 児の指導法入門. 東京, 川島書店, 1992

54) Torgesen,J.K.&Kail, R.V.: Memory processes in excepitonal children. B.Keogh (Ed.): Advances in special education.vol.1: 55-99. 1980

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研究協力のお願い

札幌医科大学大学院保健医療学研究科感覚統合障害講座では、発達障害のあ

るお子さんの不器用に関する基礎的研究を実施しています。 最近、学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)の問題が社会で

クローズアップされるにつれ、不器用さの問題が注目されるようになりまし

た。しかし、不器用といっても、かなり広範囲な概念なので、曖昧さが生じて

しまいます。本研究では、不器用について粗大運動とそれを支える認知能力の

両面から考察していくことにしました。粗大運動のバランスをみるために平衡

機能を測定する重心動揺計を用い、認知面の運動イメージを評価するために、

検査者による動作の提示から、それをどのように実施したのかをカードで再現

してもらう課題をそれぞれ行う予定です。対象としては、発達障害の中の学習

障害児と広汎性発達障害児、ダウン症候群の子どもたち、そして健常児の4者

の不器用について調査する計画をたてました。各10名から20名程度の子ど

もたちが研究協力してくれることを期待しています。検査場面をビデオで記録

しますが、検査結果の分析以外に使用することはいっさいありません。 調査については、お子さんに負担となる検査はいっさいありません。検査

時間も15分程度を予定しています。検査日程は、今年の1月から3月にかけ

て、検査場所は、札幌医大のリハビリテーション教育実習棟あるいはお子さん

の所属する小学校を基本に考えていますが、状況によっては保護者の方々の都

合にあわせることも可能かと思われます。以上のような研究の趣旨をご理解く

ださり、ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。

協力依頼者 札幌医科大学大学院保健医療学研究科 理学・作業療法学専攻

感覚統合障害学分野 院生 瀧澤 聡(博士課程) 勤務先(札幌市立南月寒小学校ことばの教室) 電話番号(携帯)090-○○○○-○○○○

札幌医科大学大学院保健医療学研究科

舘 延忠 平

成16年12月

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検 査 説 明 本研究の目的は、「研究協力のお願い」にもありますように、発達障害のあ

るお子さんの不器用の特色を明らかにし、その改善・軽減をめざした支援(内

容)プログラムを開発することにあります。検査の方法は、平衡機能を測定す

る重心動揺計を用いたり、提示された動作をカードで再現してもらうような簡

易な内容であり、全検査時間が15分程度ですむもので、 お子さんの負担に

なるものはありません。そして、検査の途中で何らかの理由で継続できなくな

っても、それによる不利益はいっさい生じませんし、いつでも検査をやめるこ

とができます。 今回の検査によって得られたそれぞれ個別のデータおよびビデオ撮影によ

る記録は、本研究以外では使用しません。また、論文などでデータを表示する

場合でも、本人であると特定化されるような表示はいっさいしません。あくま

でもデータは統計的に処理します。データの管理は、最大限の配慮と責任をも

って管理し、プライバシーの侵害にあたるような行為はいっさいいたしませ

ん。 最後に、検査ができなくなり、それがもとで心理的に負担が生じ、医療

機関などで治療をうけた場合には、当方で医療費などの負担を全額補償させて

いただきます。 今回の研究の趣旨にご理解を賜り、検査にご協力いただきますように何卒お

願い申し上げます。

札幌医科大学大学院保健医療学研究科 理学・作業療法学専攻 感覚統合

障害学分野 院生 瀧澤 聡(博士課程)

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同 意 書

学齢児の運動制御能と認知処理能の関連に関する検査・研究に対して、札幌

医科大学大学院保健医療学部助教授 舘延忠先生の研究協力依頼文を読み、 私も児童名 に対する検査について

これを理解しましたので、検査に協力します。 平成16年 月 日 保護者 氏名 (自著) (代理人)

協力依頼者 札幌医科大学大学院保健医療学研究科理学・作業療法学専攻

感覚統合障害学分野 院生

瀧澤 聡

勤務先(札幌市立M小学校ことばの教室)電話番号(携帯)090-○○○○-○○○○

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図1.検査課題

課題1.身体の回転を含む上肢の上方挙上

課題2.下肢の左右屈曲

課題3.身体の回転を含む上肢左右斜め伸展

カード② カード① カード② カード③ カード②

カード② カード③ カード④ カード② カード① カード⑤

カード② カード③ カード① カード③ カード②

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図2.開眼条件下の外周面積

図3.閉眼条件下の外周面積

0

1

2

3

4

5

6

7

8

LD 低学年 中学年 高学年

0

2

4

6

8

10

12

LD 低学年 中学年 高学年

(c㎡)

(c㎡)

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図4.開眼条件下の総軌跡長

図5.閉眼条件下の総軌跡長

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

LD 低学年 中学年 高学年

(㎝)

0

20

40

60

80

100

120

140

l総軌跡 低総軌c 中総軌c 高総軌c

(㎝) LD 低学年 中学年 高学年

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図6.開眼条件下の単位軌跡長

図7.閉眼条件下の単位軌跡長

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

LD 低学年 中学年 高学年

0

0.5

1

1.5

2

2.5

LD 低学年 中学年 高学年

(㎝)

(㎝)

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図8.課題1の正答率

図9.課題2の正答率

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

低年・健常 中年・健常 高年・健常 LD

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

低年・健常 中年・健常 高年・健常 LD

* *

* *

*p<.05

*p<.05

*p<.05

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図10.課題3の正答率

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

低年・健常 中年・健常 高年・健常 LD

*p<.05

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図11.課題1の出現率

図12.課題2の出現率

0

20

40

60

80

100

1枚目課題1

2枚目 3枚目 4枚目 5枚目

LD

健常(低学年)

健常(中学年)

健常(高学年)

0

20

40

60

80

100

1枚目

課題2

2枚目 3枚目 4枚目 5枚目

LD

健常(低学年)

健常(中学年)

健常(高学年)

(%)

(%)

(%)

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図13.課題3の出現率

0

20

40

60

80

100

1枚目課題3

2枚目 3枚目 4枚目

LD

健常(低学年)

健常(中学年)

健常(高学年)(%)

(%)

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図14.課題1の再生誤認の出現率

(%)

0

20

40

60

80

100

LD 低学年 中学年 高学年

1枚目

2枚目

3枚目

4枚目

5枚目

(%)

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図15.課題2の再生誤認の出現率

図16.課題3の再生誤認の出現率

0

20

40

60

80

100

LD 低学年 中学年 高学年

1枚目

2枚目

3枚目

4枚目

5枚目

0

20

40

60

80

100

LD 低学年 中学年 高学年

1枚目

2枚目

3枚目

4枚目

(%)

(%)

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図17.最多再生誤認率

表 1.検査項目

検査項目(全5項目) 内 容

外周面積 軌跡の外周に囲まれた面積

X軸とY軸方向の総軌跡長XY 1分間の身体の総移動距離

単位軌跡長 1秒間の平均軌跡長

0

20

40

60

80

100

低学年群③

3枚目課題1

中学年群③

高学年群③

LD③

低学年群②

4枚目課題2

中学年群②

高学年群②

LD②

低学年群②

3枚目課題3

中学年群①

高学年群⑤

LD⑤

(%)

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表 2.各測定項目の結果

外周面積(c ㎡) 総軌跡長(㎝) 単位軌跡長(㎝)

開 眼 閉 眼 開 眼 閉 眼 開 眼 閉 眼

男子 低学年群 3.6±1.7 5.6±4.2 73.6±16.8 94.0±34.4 1.2±0.2 1.4±0.6

中学年群 4.2±1.6 6.6±3.0 76.7±11.8 102.6±27.7 1.0±0.2 1.7±0.4

高学年群 3.2±1.0 4.5±2.0 65.6±11.3 90.2±24.2 1.0±0.1 1.5±0.4

女子

低学年群 4.7±3.0 6.6±3.8 70.9±22.1 100.2±33.2 1.1±0.1 1.6±0.5

中学年群 3.3±1.9 4.4±3.0 61.9±14.1 77.3±19.0 1.0±0.2 1.2±0.3

高学年群 4.0±2.0 5.3±2.9 63.7±14.6 91.8±9.1 1.0±0.2 1.5±0.4

男女

低学年群 4.2±2.5 6.1±3.9 72.4±19.3 96.9±33.0 1.2±0.3 1.5±0.6

中学年群 3.7±1.8 5.4±3.1 68.9±14.9 89.2±26.5 1.1±0.2 1.4±0.4

高学年群 3.6±1.6 4.9±2.5 64.6±12.9 91.0±26.4 1.0±0.2 1.5±0.4

LD 児群 3.5±0.9 6.3±3.8 71.7±13.8 87.6±20.3 1.1±0.2 1.4±0.3

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表 3.外周面積(開眼条件)の比較(c ㎡)

本研究 平沢(1979) 小島(1980) 坂口(1989) 水田(1993) 日本平衡神経科 八木(1989)

学会(1995)

男子 1.9~5.8 2.5~5.8 3.5~12

女子 1.4~7.7 3.1~4.9 6~8.5

男女 低学年群 4.2±2.5 4~17 5.0±2.0

中学年群 3.7±1.8 3.1±1.6

高学年群 3.6±1.6 3.2±1.0

LD 児群 3.5±0.9

20代男 2.07±0.96 1.88±0.53

20代女 1.82±0.82 1.96±0.37

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表 4.総軌跡長(開眼条件)・単位軌跡長(開眼条件)の比較

総軌跡長(cm) 単位軌跡長(cm)

本研究 坂口(1989) 宇野(1998) 日本平衡神経科 八木(1989) 本研究 水田(1993)

学会(1995)

男 子 1.9~5.8

女 子 1.4~7.7 3.1~4.9 6~8.5

男 女

50~105 107.82±13.5

低学年群 72.4±19.3 1.2±0.3 1.4±0.3

中学年群 68.9±14.9 1.2±0.2 1.2±0.4

高学年群 64.6±12.9 1.1±0.1 1.2±0.7

LD 児群 71.7±13.8 1.1±0.2

20代男 76.8±17.4 76.3±9.07

20代女 72.3±17.4 69.8±4.78

表 5.LD群のWISC-Ⅲの結果と平均正答率

WISC-Ⅲ LD

全IQ 91±14.2

VIQ 91.8±17.3

PIQ 91.8±15.5

平均正答率 1.2±0.9