天然ガス・lng 市場のあり方に関する調査 報 告...

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平成 25 年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 平成 26 3 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所

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平成 25年度国際石油需給体制等調査

天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査

報 告 書

平成 26年 3 月

一般財団法人 日本エネルギー経済研究所

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目次

要旨 .......................................................................... 1 第 1章 価格が及ぼす影響の定量分析 ............................................. 6

1-1 エネルギー価格とエネルギー需要の関係 ..................................... 6 1-2 天然ガス・LNG価格が需要に与える影響 ..................................... 7 1-3 エネルギー需要(全体)の価格弾力性 ....................................... 9 1-4 エネルギー間競合における天然ガス需要の価格弾力性 ........................ 12 1-5 世界・アジアの天然ガス需要見通し ........................................ 16 1-6 世界・アジアの天然ガス供給見通し ........................................ 19 1-7 世界・アジアの LNG需給バランス .......................................... 21 1-8 天然ガスの需給と価格の安定化に向けた方策 ................................ 23

第 2章 天然ガス・LNG市場の制約要因 .......................................... 27 2-1 商品としての天然ガス.................................................... 27 2-2 天然ガス市場の競争市場化を阻む要因 ...................................... 30

第 3章 国内外の新たな天然ガスの取引市場創設に向けた動き ...................... 42 3-1 ハブの形成メカニズム.................................................... 42 3-2 欧米でのハブ形成........................................................ 46 3-3 アジアでの LNG指標価格形成に関する取り組み .............................. 52

第 4章 天然ガスの需給緩和に向けた諸方策 ...................................... 58 4-1 供給の増加 ............................................................. 58 4-2 需要の抑制 ............................................................. 61 4-3 流動性の向上による地域間需給格差の解消 .................................. 64

第 5章 他の消費国の取り組み事例 .............................................. 66 5-1 調達相手国・企業の多角化 ................................................ 66 5-2 輸送方式の多角化........................................................ 72 5-3 価格フォーミュラの工夫、多角化 .......................................... 75 5-4 自主開発プロジェクトへの参画・政府支援 .................................. 79 5-5 非在来型天然ガスの調達促進 .............................................. 81 5-6 長期契約とスポットの組み合わせ .......................................... 84 5-7 電力ガス市場制度改革.................................................... 86 5-8 他のエネルギーを活用した購買力の強化 .................................... 88 5-9 ハブ価格による調達...................................................... 89 5-10 輸入インフラの整備 ..................................................... 90 5-11 産ガス国側の価格維持に向けた動き ....................................... 91

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第 6章 LNG価格がマクロ経済に及ぼす影響 ...................................... 94 6-1 LNG価格上昇がマクロ経済に及ぼす影響 .................................... 94 6-2 分析手法 ............................................................... 94 6-3 分析結果 ............................................................... 95 6-4 LNG輸入動向に関する定期報告書 .......................................... 97

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1

要旨

第 1 章 価格が及ぼす影響の定量分析 エネルギーは必需品の性格があるため、価格が上昇しても短期的には需要が顕著に減少

することはない。しかし、代替エネルギーや技術が十分に存在する場合は、エネルギー間

の代替や機器の効率改善を通じて、長期的には需要に対して一定の減少圧力が働くことに

なる。天然ガスについても、過去の石油危機とその後の原油需要と同様に、価格の高止ま

りは、短期的には大きく影響しないが、長期的には需要量を減少させる可能性がある。

そこで、天然ガス・LNG価格が需要に与える影響について、エネルギー需要(全体)の価

格弾力性とエネルギー間競合における価格弾力性の両方の観点から分析を行った。日本の

エネルギー需要(全体)の価格弾力性は短期においては非弾力的である。すなわち、エネ

ルギー価格の上昇に対し、当該年のエネルギー需要全体は劇的には変化しない。しかし、

長期的には徐々に需要を下押しする。エネルギー需要が伸びる中国・インドでは相対的に

弾力的であり、価格の高止まりは需要全体を抑制することになる。

一方、エネルギー間競合における価格弾力性は、天然ガス価格が高止まりを続けた場合、

その国内シェアは、日本においても、アジア主要国(韓国・中国・インド)においても、

大きく減少する。計測対象が異なるため、必ずしも厳密な比較とはいえないが、天然ガス

価格の影響は、エネルギー需要(全体)に対してよりも、天然ガスシェアに対する方が大

きい。したがって、天然ガス価格が上昇する場合、エネルギー需要量全体はあまり減少し

ないが、エネルギー間の代替が生じることにより、天然ガス需要量は減少の方向へと働く

といえるだろう。

以上の理論的な考察の後、天然ガス価格自体がエネルギー需要(全体)に与える影響と、

エネルギー間の競合に与える影響の両方を含めつつ、アジア市場では天然ガス価格の高騰

が解消するという前提条件の下で、計量モデルを用いて世界・アジアの天然ガス需要を見

通した。その結果、2040 年に向けて世界の天然ガス消費量は化石燃料の中で最も高い年率

1.9%で増加し、一次エネルギーシェアは 25%まで増加する。天然ガス消費量増加分の大

半は非 OECD 諸国によるもので、特に中国・インド・ASEAN を中心とするアジアの消費量の

伸びが大きい。

世界・アジアの天然ガス・LNG の供給量を、既存生産能力分に新規分を加えて推計する

と、天然ガス・LNG の需給バランスは、2020 年にかけて緩和することが予想される。この

ため、天然ガス・LNG 価格は下押しされる方向へと動くであろう。2030 年にかけても、タ

イムリーな投資が行なわれれば、増加する需要を満たす供給力に問題はない。

ただし、天然ガス・LNG 価格は原油価格リンクのフォーミュラに代表される企業間の契約

によって決定される限り、必ずしも自由市場経済の原則どおりに需給バランスのみによっ

て決まるとはいえない。天然ガス・LNG市場のさらなる拡大による産消国双方の長期的な利

益のためには、産消国間の連携や正確な需給見通しなど、相互の協力も必要となる。

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第 2 章 天然ガス・LNG 市場の制約要因 天然ガス・LNG市場は、完全競争市場となることが困難な制約が多数存在する。それらの制約

のいつくかは、商品としての天然ガスの特性、つまり、容積当たりのエネルギー量の少なさが輸

送や貯蔵コストの高さに帰結していることに由来する。輸送・貯蔵コストの高さは、天然ガス供

給コスト全体を押し上げ、開発主体にとっては投資リスクが高まることになる。

投資リスク低減のために、特に西欧や北東アジア向けの初期の天然ガス輸出プロジェクトでは、

固定的なサプライチェーンを構築する垂直統合的なオペレーションが採られてきた。このような

オペレーション形態は、国際天然ガス取引自体が存在しなかった時期においては、プロジェクト

実現のために有効であったが、一方では、競争市場を構築する大きな制約となっている。

また、垂直統合的オペレーションは、市場集中度の高さや参入障壁、サプライチェーン内外で

の情報非対称性、硬直的な契約条件といった他の制約要因にも帰結している。さらに、天然ガス

熱量の多寡も天然ガス・LNG 市場の流動性を向上させる上での制約となっている。

現在では、国際天然ガス取引拡大に伴うインフラ整備の進展や市場流動性の発生により、得に

既存プロジェクトでは垂直統合的オペレーションの必要性が低下している。しかし、新規プロジ

ェクトにおいては現在でも垂直統合的オペレーションが採用されることが多く、天然ガス・LNG

市場の競争市場化を阻んでいる。

第 3 章 国内外の新たな天然ガスの取引市場創設に向けた動き 米 Henry Hub や英 NBP といった現物の天然ガス卸売価格を形成するハブは、当該国のガ

ス市場が自由化される過程で、需給調整機能が垂直統合企業(もしくは硬直的な長期契約

で担保されるところの垂直統合的供給体制)から、市場機能(価格メカニズム)に移行さ

れることによって出現してきたものである。ハブでの天然ガス取引量が増加し、市場流動

性が高まると、国内での天然ガス取引のみならず、当該国に天然ガスを輸出する際には事

実上当該ハブ価格を基準にして価格決定を行なわないと売買が出来なくなる。また、ハブ

価格が国内ガス卸売指標価格として確立されると、先物契約におけるデリバリーポイント

として当該ハブ価格が採用されることも多い。

米国には、122ヵ所のガス価格形成ポイントがあり、Henry Hubはその代表的なものであ

る。Henry Hubが指標価格化された背景には、ハブ事業としての先行者利益を享受できたこ

と、周辺ガス市場の巨大さ、各需要地域や貯蔵設備へのアクセスの良さが挙げられる。

欧州では、英国で 1996 年からハブ(NBP)価格が形成されるようになっている。大陸欧

州のハブ流動性は Henry Hub や NBP よりも低いが、2000 年代後半からオランダ TTF、ベル

ギーZeebrugge、ドイツ NCG 及び Gaspoolといった北西欧州のハブにおける取引量が増加し

ている。一方、イタリアやスペインといった南欧ではハブそのものが形成途上にあり、従

って取引量も少ない。

近年、大陸欧州向けの天然ガス価格決定方式が石油価格連動からハブ価格連動に移行し

ている。この背景には、欧州主要国でのガス事業のアンバンドリング、需要側での石油と

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天然ガスの競合関係が減少、2008 年後半以降のガス需給緩和が挙げられる。今後ハブでの

天然ガス取引量がさらに増加し、市場流動性が高まれば、大陸欧州全体でハブ価格による

天然ガス輸入が主流になると考えられる。

アジアでは、日本やシンガポールを除いて国内ガス市場自由化が行われていない。中国

やインドでは、供給コストを反映したガス価格設定すら行われていないこともある。従っ

て、アジアにおいて本章冒頭で定義したような欧米型のハブが形成されるような条件は揃

っていない。日本や中国での LNG 先物契約は、現物 LNG 市場の流動性が向上するか否かに

大きく左右されると考えられる。

アジア輸入国による取り組みと並行して、2009 年頃からメディアが、売主や買主等、市

場関係者への取材に基づくスポット LNG 推定価格を発信し始めた。スポット LNG 価格がア

ジアでの指標 LNG 価格となるには、スポット取引量の更なる増加のみならず、大幅かつ急

激な需給環境の変化が必要であると考えられる。

第 4 章 天然ガスの需給緩和に向けた諸方策 LNG 調達価格を引き下げるうえで、天然ガス需給バランスの緩和は不可欠である。もし

LNG 価格が天然ガスそのものの需給で決まるような環境であれば、需給バランスの緩和は調

達価格の引き下げに直結する。また、LNG価格自体は現在主流の原油リンクであったとして

も、需給バランスの緩和は、売主側の競争の活性化によって、売主との価格交渉を買主に

とって優位なものとする可能性があるためである。

供給面では、北米や豪州、ロシア、東アフリカなど、新たな天然ガス供給源として期待

できる国・地域が多数ある。日本では、生産量の拡大に向けた実際の投資や LNG 調達は民

間企業が行うため、この分野における政府の関与は間接的なものに限られる。しかし、間

接的とはいえ多様な手段が残されており、天然ガス供給を輸入に依存する日本では、安定

供給に向けて政府が果たすべき役割も大きいといえる。計画の段階別には、「産ガス国にお

ける適切(時期、規模)な投資を促すための対話」や「産ガス国における投資環境整備に

向けた働きかけ」、「日本企業が目指す権益獲得や LNG 調達に対する利益誘導の働きかけ」、

「民間企業が行う先行調査や投資に対する資金的援助(出融資、債務保証)」を政府の役割

として挙げることができる。また、近年見られる産ガス国の輸入国化を回避するための取

組も、供給量の維持という点で必要になる。

他方の需要面では、「発電部門における天然ガス需要の抑制(代替電源の確保、高効率化)」

や「最終消費部門における利用効率向上(効率基準の引き上げ、断熱強化)」を対策として

挙げることができる。当然のことながら、これらの対策は日本のみならず世界中で進めら

れることが求められる。中でも需要拡大の著しいアジア地域での対策が重要であり、支援

活動はアジア地域の天然ガス需給緩和というメリットを日本にもたらすばかりでなく、日

本はインフラ、製品輸出というビジネス上の利益も享受することが可能であり、前向きに

取り組むべきであろう。

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さらには、取引流動性の向上による地域間需給格差の解消も大切な取組である。今後ア

ジア地域は北米や欧州と比較して相対的に需給が緊張し易い環境におかれる可能性がある。

そのためアジア地域では、自身の需給バランスを改善することと同時に、需給が緩和する

傾向にある北米および欧州が享受している安い天然ガス価格のメリットを、如何にアジア

市場にまで波及させ取り込むか、ということを考える必要がある。天然ガス・LNGの国際市

場では、その時々の需給環境や価格差に応じた市場間の裁定取引があまり活発に行われて

おらず、このことが、地域間の価格差を過度に大きくする、あるいは固定化する要因とな

っている。そのため、市場の流動性を高めることによって、国際市場間の価格差を縮小す

るための取組みが求められる。

第 5 章 他の消費国の取り組み事例 他のガス消費国でも、ガス輸入価格低減に向けて様々な方法に取り組んでいる。

調達相手国を多様化し、売主同士を競合させることは、価格低減に向けた有効な方策の

一つである。売主同士を競合させる方法としては、パイプランガス売主同士、パイプライ

ンガス売主と LNG 売主、LNG 売主同士を競合させる方法がある。また時間的に購入契約締結

時期を分散することで、例えば LNG の場合、競合させる LNG プロジェクトの数を増やすこ

とができる。

ガス輸送パイプラン網を整備し輸入手段を多様化することで、売主同士を競合させる機

会を増やすことができる。またガス輸入国において地下貯蔵施設を整備すれば、季節的に

変動する国内需要に対して、年間を通じて一定量のガスを購入できるようになり、生産者

のガス生産設備の利用率の向上による購入価格低減交渉が可能となる。LNGの輸送分野では

売主が買主まで LNG を届ける Ex-Ship 契約から買主が LNG 船や輸送に関する保険等を手配

する FOB契約が徐々に増えている。FOB契約では買主が LNG輸送に関わるコスト構造を把握

できるようになり、輸送コスト低減が可能となった。また最近ではプロジェクトを特定し

ない LNG輸送船の建造も始まっており、今後競合増による輸送コスト低減が期待できる。

購入契約については当初は長期契約が多く、競合の石油や石油製品に連動する値決め方

式主流であった。スポットガス取引が増加するにつれ、次第に市場価格ベースの取引が増

え、米国ではヘンリーハブ、英国では NBP 等の市場指標による取引が増えてきた。アジア

の LNG 取引では石油価格に連動した値決め方式が依然として主流であるが、ヘンリーハブ

価格連動の LNG 輸入を開始する動きがある。このように他地域の価格指標による LNG 購入

量の増加や、アジア独自の LNG ハブ指標による取引が拡大していけば、従来の石油製品連

動の価格決定方法の見直しにつながる可能性がある。前提としてガスの市場取引に十分な

厚みがあり、供給安定性に対する懸念が払拭される必要がある。

ガスの購入者にとって上流権益の取得はナチュラルヘッジの効果をもたらし、ガスの購

入価格低減に有効な手法である。いくつかのプロジェクトで中国やインドの買主が積極的

に上流権益購入を進めている。また日系企業が係るプロジェクトに対しては JBICのプロジ

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ェクトファイナンスが活用でき、本邦企業の競争力向上に役立っている。

北米シェール、豪州 CBM、コンデンセートガス田や中小ガス田といった非在来型天然ガス

の供給増加は、売主側の競争が増えることで従来の売主に対して価格低減の圧力となる。

日本の場合は、実現には時間がかかると予想されるものの、国内資源のメタンハイドレー

ト開発は有力な交渉カードの一つとなりうる。また石炭、原子力、再生可能エネルギーと

いった他エネルギーを活用して、購買力を強化することも有効である。ただしこれを機能

させるためには、設備能力の余裕が必要となる。

第 6 章 LNG 価格がマクロ経済に及ぼす影響 LNG を直接消費している業種は多くないが、LNG価格が上昇すれば、これを原燃料とする

都市ガス・電力価格の上昇を通じて、生産者は、①自ら生産する財の値上げ、②利益の減

少、③賃金や投資など他の支出の抑制を迫られる。これらは別の生産者から見れば売上げ

の減少や費用の上昇につながるため、影響が広範に及ぶことになる。一方、家計などの消

費者側では、財・サービス価格の上昇と賃金の減少により実質購買力が低下する。そのた

め、①貯蓄の減少、②他の財・サービス購入の抑制による対応を迫られることになる。上

記のメカニズムをモデル化することで、LNG価格が我が国マクロ経済へどの程度影響を及ぼ

すか分析した。

日本エネルギー経済研究所は、日本のマクロ経済指標やエネルギー需給の動向等を経

済・エネルギー需給モデルを用いて分析・評価し、短期および長期の見通しを行っている。

これらの経済・エネルギー需給モデルを用いて、LNG価格上昇によるマクロ経済への定量的

な影響を推計した。

日本の LNG 輸入価格が 2014 年度以降、$5/MMBtu 上昇した場合、LNG 輸入額は 2020 年度

で約 2.3 兆円、2030 年度では約 2.8 兆円も押し上げられ、その分だけ、国富が追加的に流

出してしまうことになる。また、2030 年度の実質 GDP は、LNG 価格上昇により、約 3 兆円

も下押しされる。LNG価格の上昇は、LNG輸入額を増加させるだけでなく、様々な経路を通

じ、生産者側では投資・賃金の抑制、消費者側では財・サービス購入の抑制を招き、長期

的に日本経済全体に大きなダメージを与える。

また、LNG価格が貿易収支等のマクロ経済指標に与える影響及びその背景について調査・

分析し、定期的に報告を行った。具体的には、毎月、貿易統計等で発表される LNG 輸入動

向を調査・分析し、輸入価格の変動が輸入総額、貿易収支に与える直接的な影響を寄与度

などの定量的な指標を用いて分析し、関連する情報について整理を行った。

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第 1 章 価格が及ぼす影響の定量分析

1-1 エネルギー価格とエネルギー需要の関係

1-1-1 エネルギー価格上昇がエネルギー需要に及ぼす影響について

エネルギーは必需品の性格があるため、価格が上昇しても短期的には需要が顕著に減少

することはない。しかしながら、代替エネルギーや技術が十分に存在する場合は、エネル

ギー代替や機器の効率改善を通じて、長期的には需要に対して一定の減少圧力が働くこと

になる(エネルギー需要は経済規模や他のエネルギー価格などの要因にも影響されるため、

需要が必ずしも減少に転じるわけではない)。

ただし、例えば米国の発電部門のように、発電設備の能力に十分な余剰があり、かつそ

の時々の市況を素早く反映する価格指標が存在する場合には、エネルギー価格の上昇に対

して需要は比較的短期間で応答する場合もある。

1-1-2 参考事例としての「石油危機」

適例として石油危機とその後のエネルギー事情を取り上げ、石油価格の上昇が石油需要

に及ぼした影響を整理する。

1973年、1979年の 2度の石油危機において、原油価格は大幅に上昇したものの、短期的

には原油輸入量に大きな変化はなく、輸入額は原油価格の上昇によって増加した。しかし

ながら、1980 年以降、原油価格は石油危機以前よりも高水準が続いたが、原油輸入量が減

少に転じたことで、輸入額も減少が続いた。1985年には、原油価格は 1979年より約$8/bbl

高いにもかかわらず、輸入額は 1979年より下回る状態となった。

35~40 年前の原油と同じことが、今日の天然ガスにも言えるのではないか。つまり、天

然ガス価格の高止まりは、短期的には天然ガス需要量に大きく影響しないが、長期的には

天然ガスの需要量を減少させる可能性がある。

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図1-1-1 原油輸入CIF価格と輸入量・輸入額の関係

0

5

10

15

20

25

30

35

40

0

50

100

150

200

250

300

1971 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985

原油輸入量(日米欧合計), 億バレル 原油輸入額(日米欧合計), 10億US$

原油輸入価格(日米欧平均),US$/b

(億バレル)

(10億US$) (US$/bbl)

(出所)「Monthly Energy Review」(EIA)、日本貿易統計等の各種資料より作成

1-2 天然ガス・LNG 価格が需要に与える影響

1-2-1 分析の枠組み

天然ガス価格の上昇は 2つの経路—(1)エネルギー需要全体の抑制と(2)天然ガスから他の

エネルギー源への代替—を通じて天然ガス需要の減少に寄与する。このため天然ガス価格

と天然ガス需要の関係を直接的に観察するのではなく、2 段階に分離した上で行う。具体

的には、需要の価格弾力性を以下のように計測する。なお、対象は日本およびアジア主要

国(韓国、中国、インド)である。

①エネルギー需要(全体)の価格弾力性

オーソドックスに固定価格弾力性を想定し、かつエネルギーシステムの変化は即時には

完了しないことも考慮する。具体的には以下のようなシラー・ラグ(分布ラグ・モデルの

一種)による推定式を基本とする:

uPYEn

tttPYc +++= ∑

=0, lnlnln βββ

ここで、 E はエネルギー需要、Y は活動指標、 P は平均価格である。価格弾力性は

PPEE

∂∂

と定義されることから、この場合は 0,Pβ が短期価格弾力性(当期)、∑=

n

ttP

0,β が長期価

格弾力性(n期までの累積)となる。

②エネルギー間競合における価格弾力性

理論的には自己価格弾力性と交差価格弾力性から構成されるが、実測データからこれら

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を峻別することは難しい。そこで、天然ガス価格と平均エネルギー価格との比率(相対価

格)が天然ガスシェアに及ぼす影響を評価する。具体的には以下のようなシラー・ラグに

よる推計式を基本とする:

vP

PE

E n

t t

tNGtPc

NG ++= ∑=0

,, lnln γγ

ここで、添え字NGは天然ガスを表す。

1-2-2 天然ガスの価格弾力性と需要・供給曲線

天然ガスは必需品の性格が強いため、その需要は価格に対して一般的に非弾力的である。

とりわけ、短期的には、価格の変化(図 1-2-1 では S→S’にシフト)に対して、天然ガス

需要の変化は小さく、硬直的である。一方、長期的には、価格の上昇に対して、他の代替

財(エネルギー、資本)によって天然ガス需要を調整することが可能となることから(図

1-2-1では D→D’にシフト)、短期よりも長期の価格弾力性は大きくなる。

図1-2-1 天然ガスの価格弾力性

価格

数量

価格上昇

他エネルギーへの代替

及び省エネルギー

S

S'

DD'

短期価格弾力性長期価格弾力性

1-2-3 天然ガス・LNG 価格と生産者・消費者余剰

天然ガス・LNG 価格が何らかの理由で過剰に高い場合、短期的には生産者は余剰利潤を

得ることが可能であるが、中長期的には他のエネルギー源へのシフトが進むことでその需

要を失うとともに、価格低下を生むため、生産者にとって不利益となる。一方、天然ガ

ス・LNG 価格が過剰に低い場合には、短期的には消費者余剰が高まるものの、中長期的に

は生産者の投資が低調になることによって、将来の消費者の調達セキュリティへの悪影響

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や価格上昇を生むことになりうる。また、天然ガス・LNG 価格が市場均衡価格の場合には、

生産者余剰・消費者余剰ともに最大となり、双方にとってメリットが生じることになる。

図1-2-2 天然ガス・LNG価格と生産者・消費者余剰の関係

<天然ガス・LNG価格が高い場合> <天然ガス・LNG価格が低い場合>

価格 価格

数量 数量

生産者余剰

消費者余剰

D

SP'

生産者余剰

消費者余剰

D

S

P'

1-3 エネルギー需要(全体)の価格弾力性

ここでは、エネルギー価格の上昇がエネルギー需要全体に及ぼす影響について分析する。

なお、エネルギー価格は、原油価格、石炭価格、天然ガス価格の各エネルギー源の需要量

をウェイトとする加重平均値、エネルギー需要は一次エネルギー供給を指す。また、以下

で示す「ラグ期間 10 年」はラグ期間を 10 年として推計した値、「最適ラグ長」は統計学

的に(情報量規準で)最も適切とされるラグ長での推定値を意味する。

1-3-1 日本とアジア主要国(韓国・中国・インド)の価格弾力性

①日本

エネルギー需要の短期価格弾力性は-0.03である。すなわち、エネルギー価格が 10%上昇

したとき、その年のエネルギー需要はわずか 0.3%しか減少しないことを意味する。

エネルギー需要の長期価格弾力性は-0.11である。エネルギー価格が 10%上昇したままと

しても、長期的には、エネルギー需要は 1.1%程度の減少にとどまることを意味する。

エネルギー需要の価格弾力性は、短期、長期のいずれの場合においても非弾力的である。

日本は、世界で最も省エネルギーが進んでおり、消費機器の効率改善の余地が小さい。そ

のため、エネルギー価格の上昇に対し、エネルギー需要は劇的には変化せず、価格が需要

に与える影響は大きくはない。

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図1-3-1 日本のエネルギー需要の価格弾力性

-0.00

-0.02

-0.04

-0.06

-0.08

-0.10

-0.12

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

価格弾力性

n年後

ラグ期間10年

最適ラグ長

(出所)日本エネルギー経済研究所

②韓国

エネルギー需要の短期価格弾力性は-0.04 であり、エネルギー価格が 10%上昇しても、1

年後のエネルギー需要はわずか 0.4%しか減少しない。

エネルギー需要の長期価格弾力性は-0.11であり、エネルギー価格が 10%上昇したとして

も、長期的には、エネルギー需要は 1.1%程度の減少にとどまる。

省エネルギー化が進み、消費機器の効率改善の余地が比較的小さい韓国では、エネルギ

ー価格の上昇に対して、エネルギー需要に与える影響は大きくはないため、日本とほぼ同

様の構造であるといえる。

図1-3-2 韓国のエネルギー需要の価格弾力性

-0.00

-0.02

-0.04

-0.06

-0.08

-0.10

-0.12

-0.14

-0.16

0 1 2 3 4 5 6 7

価格弾力性

n年後

ラグ期間10年

最適ラグ長

(出所)日本エネルギー経済研究所

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③中国

統計データの性質上、厳密な分析結果は得ることができなかったが、エネルギー需要の

長期価格弾力性は-0.20程度であると推察される。すなわち、エネルギー価格が 10%上昇す

ると、長期的には、エネルギー需要は 2%程度減少する。

中国は、日本・韓国よりも省エネルギー化が進んでおらず、消費機器の効率改善の余地

が大きい。そのため、エネルギー価格が上昇した場合、需要を押し下げることが比較的容

易であることから、長期価格弾力性がやや高くなったと考えられる。

図1-3-3 中国のエネルギー需要の価格弾力性

-0.00

-0.05

-0.10

-0.15

-0.20

-0.25

0 1 2 3 4

価格弾力性

n年後

ラグ期間10年

最適ラグ長

(出所)日本エネルギー経済研究所

④インド

エネルギー需要の短期価格弾力性は-0.10程度であり、エネルギー価格が 10%上昇すると、

その年のエネルギー需要は 1%程度減少する。

エネルギー需要の長期価格弾力性は-0.16であり、エネルギー価格が 10%上昇すると、長

期的には、エネルギー需要は 1.6%程度減少する。

インドは、中国と同様、日本・韓国よりも省エネルギー化が進んでおらず、消費機器の

効率改善の余地が大きい。そのため、エネルギー価格が上昇した場合、需要を押し下げる

ことが比較的容易であることから、長期価格弾力性がやや高くなったと考えられる。

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12

図1-3-4 インドのエネルギー需要の価格弾力性

-0.00-0.02-0.04-0.06-0.08-0.10-0.12-0.14-0.16-0.18

0 1 2 3 4

価格弾力性

n年後

ラグ期間10年

最適ラグ長

(出所)日本エネルギー経済研究所

1-3-2 日本とアジア主要国との比較

日本はアジア主要国に比べ、価格弾力性は若干低い。それでも中長期的には、エネルギ

ー価格の上昇は需要を一定程度下押しする。今後、エネルギー需要が伸びる中国・インド

では相対的に弾力的であることから、エネルギー価格の高止まりは需要をより抑制するこ

とになる。

1-4 エネルギー間競合における天然ガス需要の価格弾力性

ここでは、エネルギー価格に対する天然ガス価格(相対価格)の上昇が、エネルギー需

要に対する天然ガス需要、すなわち天然ガス需要の国内シェアに及ぼす影響を分析する。

1-4-1 日本とアジア主要国(韓国・中国・インド)の価格弾力性

①日本

天然ガスシェアの短期価格弾力性は、ほぼ0であり、LNG価格の上昇が当該年の天然ガス

需要のシェアに及ぼす影響はほとんどない。

一方、天然ガスシェアの長期価格弾力性は-0.3 程度である。これは、LNG の相対価格が

10%上昇した場合に、長期的には天然ガスの国内シェアは 3%程度減少することを意味し、

それ以上のシェア減少(9年後に 7%程度減)となる可能性も考えられる。

日本は輸入する LNGの大半を長期契約で調達しており、LNGの相対価格上昇は即時には天

然ガスシェアに影響を及ぼさないが、LNG 価格が高止まりを続けた場合、発電部門におい

て石油や石炭などに代替される可能性があることから、国内の天然ガスシェアは大きく減

少することになる。

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13

図1-4-1 日本の天然ガスシェアの価格弾力性

-0.0

-0.1

-0.2

-0.3

-0.4

-0.5

-0.6

-0.7

-0.8

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

価格弾力性

n年後

ラグ期間10年

最適ラグ長

(出所)日本エネルギー経済研究所

②韓国

天然ガスシェアの短期価格弾力性は、-0.3 であり、他国と比べて大きい。LNG の相対価

格が 10%上昇した場合に、その年の天然ガスの国内シェアは 3%も減少することを表してい

る。

一方、天然ガスシェアの長期価格弾力性は-0.4程度である。LNGの相対価格が 10%上昇し

た場合に、長期的には天然ガスの国内シェアは 4%程度減少する。分析結果では、長期的に

1割程度のシェア減少となる可能性も考えられる。

韓国では、季節間の需要変動が大きい(冬が多く夏が少ない)ことから、スポット調達

を積極的に活用している。そのため、スポット LNG 価格が上昇した場合、調達量を減少さ

せることが比較的容易であることが、相対的に弾力性が高い要因となっている可能性があ

る。

図1-4-2 韓国の天然ガスシェアの価格弾力性

-0.00

-0.20

-0.40

-0.60

-0.80

-1.00

-1.20

0 1 2 3 4 5 6 7

価格弾力性

n年後

ラグ期間10年

最適ラグ長

(出所)日本エネルギー経済研究所

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14

③中国

天然ガスシェアの短期価格弾力性は、ほぼ 0 であり、天然ガス価格の上昇がその年の天

然ガス需要のシェアに及ぼす影響はほとんどない。

一方、天然ガスシェアの長期価格弾力性は-0.6 程度である。これは、天然ガスの相対価

格が 10%上昇した場合に、長期的には天然ガスの国内シェアは 6%も減少することを示して

おり、天然ガスの国内シェアに大きな影響を及ぼす。

中国では、天然ガスの多くが産業部門や民生部門で燃料として活用されるようになって

きている。他のエネルギー源への代替には設備の変更を必要とするものの、とりわけ産業

部門においてはコストに敏いとされる様態もあり、代替が行われる可能性が相対的に大き

い。そのため、短期的には、価格上昇の影響はほとんどないが、価格が高止まりを続けた

場合、天然ガスの国内シェアが大きく減少すると推察される。

図 1-4-3中国の天然ガスシェアの価格弾力性

-0.00

-0.10

-0.20

-0.30

-0.40

-0.50

-0.60

-0.70

0 1 2 3 4

価格弾力性

n年後

ラグ期間10年

最適ラグ長

(出所)日本エネルギー経済研究所

④インド

天然ガスシェアの短期価格弾力性は、-0.1 程度であり、天然ガスの相対価格が 10%上昇

した場合に、その年の天然ガスの国内シェアは 1%程度減少する。

一方、天然ガスシェアの長期価格弾力性は-0.2 程度である。天然ガスの相対価格が 10%

上昇した場合に、長期的には天然ガスの国内シェアはわずか 2%程度の減少にとどまること

を示しており、天然ガスの国内シェアに及ぼす影響は小さい。

インドでは、これまで天然ガスは肥料用など石油化学原料用を中心に用いられてきた。

原料用でのエネルギー代替は、設備の変更が大掛かりになるなどの理由で、実現のハード

ルが高い。エネルギー代替が相対的に起こりうる他の最終消費部門での利用は、増えつつ

あるもののこれからという状況である。そのため、価格弾力性が低くなっていると考えら

れる。

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図 1-4-4インドの天然ガスシェアの価格弾力性

-0.00-0.02-0.04-0.06-0.08-0.10-0.12-0.14-0.16-0.18

0 1 2 3 4

価格弾力性

n年後

ラグ期間10年

最適ラグ長

(出所)日本エネルギー経済研究所

1-4-2 日本とアジア主要国との比較

天然ガスの相対価格は、天然ガスシェアに対し、日本では、韓国・中国・インドと比べ、

即時には影響をほとんど及ぼさないが、長期的には他国と同様に、大きな影響を及ぼす可

能性が考えられる。

図1-4-5 天然ガスシェアの長期価格弾力性

-1.2

-1.0

-0.8

-0.6

-0.4

-0.2

0.0インド 日本 韓国 中国

長期価格弾力性

ラグ期間10年

最適ラグ長

(出所)日本エネルギー経済研究所

1-4-3 エネルギー需要(全体)との比較

計測対象が異なるため厳格な比較はできないが、エネルギー需要(全体)の価格弾力性

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より、天然ガスシェアの価格弾力性の方がかなり大きい。このことは、価格が上昇する場

合、エネルギー需要量(全体)を削減することは難しいが、エネルギー間の代替により、

特定エネルギーの需要を抑えることは比較的容易であることを意味している。天然ガス需

要が、石油、石炭、原子力、再生可能エネルギーその他の、天然ガス以外のエネルギー源

に一部取って代わられるということである。

特に日本は、韓国・中国・インドに比べ、天然ガス需要の多くをLNG長期契約によって

賄っていることから、天然ガス(LNG)価格が上昇した場合、短期的には天然ガス需要(LNG

調達量)への影響が小さいが、長期的には需要への影響が大きくなると考えられる。また、

割高な天然ガス価格のため、莫大な投資をして石炭火力発電所などの代替エネルギー利用

インフラ設備が一旦建設されてしまうと、LNG価格がその後低下しても、導入されたイン

フラを廃棄して天然ガスに切り替えることは容易ではない。エネルギー需要構造は数十年

という単位で固定化される部分がある。

1-5 世界・アジアの天然ガス需要見通し

1-5-1 前提条件

ここでは、計量モデルで世界・アジアの長期天然ガス需要見通しを行う。また、天然ガ

ス価格のみならず、原油および石炭価格が「エネルギー需要(全体)」および「エネルギー

間競合」に与える影響、さらには、エネルギー利用技術や政策も勘案して、天然ガス需要

を見通した。

その際の天然ガス、原油、石炭価格の想定は以下のとおりである。

表 1-5-1天然ガス・原油・石炭の想定価格

2012 2020 2030 2040

日本 $/MMBtu 16.7 13.9 14.0 14.4

米国 $/MMBtu 2.8 4.3 5.6 8.0

欧州 $/MMBtu 10.5 11.1 12.0 12.8

$/bbl 115 117 122 127

$/t 134 139 139 145

実質価格(2012年基準)

天然ガス

原油

石炭

(出所)日本エネルギー経済研究所「アジア/世界エネルギーアウトルック2013」

天然ガス価格の想定は、北米ではシェールガス増産が廉価な天然ガス価格を持続させる

ものとした。一方、日本では液化や海上輸送等のコスト低減に一定の限界があることから、

北米のような大幅な価格下落はない。欧州では日米価格の間で緩やかに上昇すると想定す

る。日本の輸入天然ガス価格は、$16.7/MBtu から 2040 年にかけて$14.4/MBtu に低下する

が、欧米との価格差は依然として残る。なお、中国などではシェールガスの豊富な埋蔵量

が確認されており、開発が進められているが、水や地層、価格体系の問題等から、北米ほ

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どには進まない。

原油価格の想定においては、石油輸入国が中東を中心とする石油輸出国機構(OPEC)諸国

やロシアなど少数の輸出国への依存を高め、OPEC の市場支配力を拡大させることにつなが

るとした。同時に、相対的に生産コストの高い中小規模、極地、大水深油田等へのシフト

による限界費用の上昇も見込まれる。また、これまでの経緯から鑑みると、先物市場への

過剰な資金流入に対し強力な規制が導入される見込みは薄く、投機・投資資金による原油

価格の押し上げが継続することも否定できない。これらのことから、原油価格は短期的な

変動幅を増しつつ、中長期的にはじりじりと上昇してゆくものと想定している。実質原油

価格(2012年価格)は、2020年に$117/bbl、2040年には$127/bblに達する。

石炭価格の想定は、過去、天然ガス、原油と比較すると長らく価格変動が極めて緩やか

であったため、今後も同様に推移するものとした。また、石炭は資源制約が相対的に小さ

いが、発電用、製鉄用を中心とした世界的な需要増があり、価格は緩やかに上昇する。

1-5-2 世界の天然ガス需要見通し

世界の天然ガス消費量は、2011年の3,097Bcmから、2040年に向けて化石燃料の中で最も

高い年率1.9%で増加し、5,411Bcmへ達する。一次エネルギー消費に占めるシェアは、2011

年の21%から2040年には25%まで増加する。

図1-5-1 世界の天然ガス消費と一次エネルギー消費に占めるシェア

4,637

5,411

3,808

3,097

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

1990 2000 2011 2020 2030 2040

Bcm

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

天然ガス消費

天然ガスシェア(右軸)

(出所)日本エネルギー経済研究所「アジア/世界エネルギーアウトルック 2013」

天然ガス消費量の増分のうち OECD諸国によるものは 18%に過ぎず、非 OECD諸国が大宗を

占める。世界の天然ガス消費に占める非 OECD諸国のシェアは半分強から 3分の 2へ増加す

る。地域別には、中東、北アフリカ、中国の増加が著しい。中東・北アフリカを合わせた

天然ガス消費量は 2030年代に米国を抜き、世界第 1位の天然ガス消費地域となる。

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図1-5-2 主要国・地域の天然ガス消費(レファレンスケース)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1990 2000 2011 2020 2030 2040

Bcm

中東・北アフリカ

米国

中国

EU

ASEAN

インド

(出所)日本エネルギー経済研究所「アジア/世界エネルギーアウトルック 2013」

1-5-3 アジアの天然ガス需要見通し

アジアの天然ガス消費は、2011年の531Bcmから2040年には1,676Bcmへと3倍強に増大す

る。多くの国で消費が増大し、2040年には中国一国で現在のアジア全体より多くの天然ガ

スが消費される。現在、LNG輸入大国である日本や韓国では、経済の成熟という要因に価

格の要因も加わって、天然ガス消費の増加は緩やかである。

図1-5-3 アジアの天然ガス消費(地域別)

17

46

111

56

130

120

24

52

108

97

196

302

31

57

120

163

274

523

35

58

119

265

366

698

0 100 200 300 400 500 600 700 800

台湾

韓国

日本

インド

ASEAN

中国

Bcm

2040203020202011

(出所)日本エネルギー経済研究所「アジア/世界エネルギーアウトルック 2013」

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1-6 世界・アジアの天然ガス供給見通し

1-6-1前提条件

各国政府や研究機関などによる、天然ガスの開発計画、生産見通し

各 LNGプロジェクト主体などによる、天然ガス液化プロジェクトの開発計画、見通し

IEA などの国際機関が発表する、天然ガスや LNGの供給見通し

等の情報を整理し、長期天然ガス供給を見通すこととした。

1-6-2世界・アジアの天然ガス供給見通し

この先四半世紀の間、増大する天然ガス需要を満たすため、中東、ロシアを中心とする

旧ソ連諸国、アフリカ、中国、オーストラリアなどを中心に生産拡大が行われる。これら

5地域で生産増分の3分の2を占めることとなる。

アルゼンチン、メキシコで2018年以降、中東、欧州、旧ソ連諸国、アフリカで2021年以

降、シェールガスを中心として、非在来型天然ガスが少量ずつながら商業化してゆく。ア

ジア・オセアニアについては、2014年以降オーストラリアで炭層メタン(CBM)生産が増加、

2021年以降、中国、オーストラリアでシェールガスの生産が少量ずつ増加してゆく。これ

らにより、2040年の世界の天然ガス生産中、非在来型天然ガスが4分の1程度を占めること

となる。

ただし、中国の増産分は需要増分を下回り、中東の増産分についても域内の需要増分に

より吸収される。国際市場への追加的な供給源としては、旧ソ連諸国、アフリカ、それに

世界最大のLNG輸出国となると見込まれるオーストラリアの寄与が大きい。また、北米は

シェールガスの増産により、純輸出を徐々に拡大してゆく。

表1-6-1 世界の天然ガス生産

Bcm

2011 内非在来非在来比率

2040 内非在来非在来比率

北米 808 364 45% 1,043 782 75%中南米 218 0 0% 449 127 28%中東 523 0 0% 871 24 3%欧州 287 0 0% 300 19 6%CIS 868 0 0% 1,229 66 5%アフリカ 200 0 0% 420 80 19%中国 103 0 0% 352 127 36%インド 46 0 0% 96 29 30%ASEAN 203 0 0% 385 80 21% 内インドネシア 81 0 0% 126 22 17% 内マレーシア 56 0 0% 85 8 10%他アジア 75 0 0% 74 5 6%オーストラリア 51 6 12% 193 103 53%世界計 3,384 370 11% 5,411 1,442 27%

(出所)日本エネルギー経済研究所「アジア/世界エネルギーアウトルック 2013」

1-6-3世界の天然ガス純輸出入量

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世界の天然ガス需要が増加するにつれて、天然ガス貿易量は需要を上回るペースで増加

する。特に変化が大きい地域は、輸出の場合、非在来型天然ガスの生産が増加する北米、

旧ソ連、豪州(オセアニア)、輸入の場合、需要を満たすために輸入増が必要となる中国お

よびインドである。

2040年時点での北米およびオセアニアの純輸出量は、115Bcmおよび141Bcmである。一方、

旧ソ連については、純輸出量は470Bcmにまで増加する。同じく2040年時点での中国および

インドの純輸入量は、350Bcmおよび169Bcmにまで急増する。

図1-6-1 世界の天然ガス純輸出入量

-600

-400

-200

0

200

400

600

北米 中南米 欧州 旧ソ連 アフリカ 中東 中国 インド 日韓台 アセアン 他アジア オセアニア

2011 2040

Bcm

(出所)日本エネルギー経済研究所「アジア/世界エネルギーアウトルック 2013」

1-6-4 主要な地域間天然ガス貿易フロー

地域別天然ガス純輸出量の変化は、貿易フローにも大きな影響をもたらす。2012年時点

での主要な地域間天然ガス貿易フローは、パイプラインガスの場合、旧ソ連から欧州、

LNGの場合、東南アジア・豪州・中東から北東アジア、中東・アフリカから欧州である。

2040年時点では、北米、旧ソ連、豪州からの純輸出量の大幅な増加分は、アジア向けが

主要となる。特に、米国・カナダと大きな輸出ポテンシャルを持つ北米からの大規模な輸

出フローが確立される。また、同じく大きな輸出ポテンシャルを持つ豪州は、アジア向け

を中心として着実に輸出量を増大させる。

図1-6-2 主要地域間の天然ガス貿易フロー(2012)

Page 24: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

21

(出所)日本エネルギー経済研究所「アジア/世界エネルギーアウトルック 2013」

図1-6-3 主要地域間の天然ガス貿易フロー(2040年)

28

単位:BCM

22

68

28 363014

1170

215

22

92

LNGパイプラインガス

28 14

2130 24

13

21 33

8

24

34

旧ソ連・東欧欧州 北米(メキシコ除く)

中南米

オセアニア

アフリカ

日韓台

東南アジア

中国

南アジア

中東

(出所)日本エネルギー経済研究所「アジア/世界エネルギーアウトルック 2013」

1-7 世界・アジアの LNG 需給バランス

1-7-1 主要な地域別LNG追加供給ポテンシャル

天然ガスの中でも、特に日本を含むアジア需要の多いLNG需給バランスを分析する。

2012年時点で世界のLNG市場は約2.4億トンの規模となっている。一方、現時点で計画され

ている個別プロジェクトを積み上げて世界のLNG追加供給ポテンシャルを推計すると、約

4.1億トンの追加生産可能量がある。供給国として、特に、アジア・豪州、および、北

米・南米地域と、今後、資源開発が進むと予想されるアフリカ地域のポテンシャルの伸び

が大きい。

図1-7-1 主要な地域別LNG追加生産ポテンシャル

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22

(百万トン)

0

20

40

60

80

100

120

140

アジア・豪州 中東 アフリカ 北米・南米 ロシア

(出所)テックスレポート「ガス年鑑 2013年度」等より日本エネルギー経済研究所作成

1-7-2 世界の LNG 需給バランス

実際には前項で示した LNG追加生産ポテンシャルの全てが実現する訳ではない。しかし

ながら、豪州、米国、カナダ、ロシア、モザンビーク等で多くの新規プロジェクトが具体

化しつつあり、需要量を満たす供給力は十分に存在すると考えられる。特に、2014年から

2020年にかけて豪州や米国での新規プロジェクトが相次いで運開することから、需給バラ

ンスが緩和し、価格には下方圧力がかかるものと想定される。

図1-7-2 世界のLNG需給(2010~2030年)

(出所)日本エネルギー経済研究所

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23

また、2030年にかけても、事業化検討中プロジェクトが順調に立ち上がれば、2030年に

至るまで供給ポテンシャルに問題はないと考えられる。したがって、これらの新規プロジ

ェクトに対する投資がタイムリーに行なわれることが重要である。

1-7-3アジアのLNG需給バランス

次に、アジア・中東市場向けのLNG需給バランス見通しを示す。2015年までについては、

欧米市場向けの供給力がアジア・中東の需給バランスを調整する可能性が高い。低需要ケ

ースの場合、2025年のまでの需要は既存プラントやSPA(Seles and Purchase Agreement)・

HOA(Head of Agreement)を締結しているプロジェクトからの供給力で賄うことが可能で

ある。高需要ケースの場合でも、事業化検討中プロジェクトが順調に立ち上がれば、2030

年に至るまで供給ポテンシャルに問題はないと考えられる。

図1-7-3アジア・中東のLNG需給(2010~2030年)

(出所)日本エネルギー経済研究所

1-8 天然ガスの需給と価格の安定化に向けた方策

ここでは、不確実な天然ガス・LNG の需給バランス安定化を図るための需給両サイドに

とっての方策について提案を行ないたい。

1-8-1アジアの天然ガス輸入国の施策

①供給源の多様化

輸入国政府・企業は、伝統的天然ガス・LNG 輸出国との契約のみならず、北米産やアフ

リカ産 LNG、近隣産出国からのパイプラインガスなど、天然ガスの供給源を多様化し、価

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24

格変動に対して柔軟に調達ポートフォリオを対応させる努力を続けることが重要である。

また、企業自ら海外における上流権益確保を行なうことで調達源の多様性をさらに強化す

ることもできる。しかしながら、単独企業のみでは産出国政府・企業に対する価格交渉力

が相対的に弱いため、消費国政府は企業の支援・環境整備等の支援を行なうべきである。

②輸入国間の協力

輸入国政府・企業は、現在の硬直的な LNG 契約条件を是正すべく協力すべきである。特

に、仕向地条項に関しては、アジア輸入国政府が各国の競争法や国際的な枠組みを用いて

撤廃することが出来ないかを検討する価値がある。また、産消双方が取り組む JODI GASプ

ロジェクト等を通じて、需給や輸出入に係る基本的なデータを整備し、市場透明性の向上

に資するべきである。

③正確な需給予測

消費国政府・企業は、長期的な天然ガス価格の安定化について、契約相手先の政府・企

業の供給量を正確に見通すと共に、自らに必要な調達量を正確に予測したうえで、長期・

短期・スポット各契約の調整を行い、長期と短期のバランスを勘案しつつ、最適コストと

なるポートフォリオ形成の努力を続けるべきである。ただし、天然ガスの追加生産が行な

われるかどうかはその価格にも依存することを念頭におきつつ、契約価格の適正性を常に

検証し続ける必要がある。

④エネルギー源の多様化

消費国政府・企業は、電力・都市ガス等の国内供給において、天然ガスのみに依存する

ことなく、石炭、原油、再生可能エネルギーなどエネルギー源を多様化し、廉価な代替エ

ネルギーを確保して、天然ガス市場の需給バランスが崩れるリスクや価格の高騰リスクに

備えておくことも検討されるべきであろう。

⑤エネルギー自給率の向上

消費国政府は、準国産エネルギーといわれる原子力や、シェールガス、メタンハイドレ

ード、再生可能エネルギーなどを自国内で開発し、長期的にエネルギー自給率を向上させ

る努力を継続することも重要な施策といえよう。

1-8-2 天然ガス産出国の施策

①正確な需要予測と合理的な価格設定

産出国政府・企業は、長期的な天然ガス価格の安定性を考えた場合、契約相手先の消費

国の長期的な需要予測をできるだけ正確に行なったうえで生産計画を立て、長期的に利益

を確保できる価格水準を維持する努力を行なう必要がある。ただし、消費国の天然ガス価

Page 28: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

25

格が高止まりを続けた場合、長期的にはその需要が他エネルギーに代替される可能性があ

ることを認識し、供給価格の妥当性を考慮すべきであろう。

②生産コストの低減努力

産出国政府・企業は、天然ガス生産技術の向上を図り、生産量を確保すると共に生産コ

ストを低減する努力を行なうことで、代替エネルギーに比べ、長期にわたり、全てのエネ

ルギー供給量の中で安定的な天然ガスシェアを維持・拡大することができるだろう。

③価格指標の尊重

産出国の天然ガス生産企業にとって、天然ガス取引市場が創設された場合などの価格指

標を参考にすることは、短期的には価格が不安定になる可能性にも十分留意する必要があ

る。ただし、長期的にはより合理的な価格で長期・短期・スポットの各契約を行なうこと

に資するであろう。

1-8-3消費国と産出国の協力関係構築について

前述のとおり、天然ガス価格が長期にわたって高止まりを続けると、エネルギー間競合

における天然ガスの価格競争力が落ち、天然ガス以外のエネルギーへの代替が起こる可能

性がある。日本エネルギー経済研究所の試算によると、天然ガス価格が 10%上昇した場合、

アジアの主要国(中国、日本、韓国、インド)の天然ガス需要量は 900万 tから 1,400万 t

減少することになる。

図1-8-1 天然ガス価格が10%上昇した場合の天然ガス需要の変化

-6

-5

-4

-3

-2

-1

0中国 日本 韓国 インド

Mt

(出所)日本エネルギー経済研究所

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このことは、長期にわたる天然ガス価格の高止まりはやがて消費国の天然ガス需要量全

体の減少を招き、天然ガス市場の健全な発展を阻害しかねないことを示唆しており、産出

国政府・企業にとっても良い結果をもたらさない可能性を示すものといえよう。

したがって、産出国政府・企業と消費国政府・企業とが対話を通じて、多様な価格指標

(原油価格リンク、取引市場など)に基づく、調達源および価格フォーミュラなどに関す

る多様な需給ポートフォリオを形成することは、天然ガス貿易の長期的な安定に貢献する

ものであり、両者にとって少なからず意味のあることといえるだろう。

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27

第 2章 天然ガス・LNG市場の制約要因

天然ガス・LNG 市場には、完全競争市場となることを阻む制約が多数存在する。ここで言

う完全競争が達成されるには、市場集中度が低く(独占力が排除されており)、市場参入が

容易に出来、売主・買主間での情報非対称性が存在せず、売主の供給する商品品質が同質

であるといった条件を満たす必要がある。このような条件が満たされれば、理論上は新規

参入者が多く出現し、価格は限界供給者のコストにまで下がることになる。現実には、完

全競争は一種の理想状態であり、実現される可能性は極めて低い。しかし、LNGのアジアプ

レミアム問題の大きさや日本経済への影響の深刻さを考慮すると、現在のアジア天然ガス

市場における市場の不完全性を理解し、少しでも完全市場に近づける努力をすることには

大きな意味がある。このような認識から、本章では、2-1で天然ガスの商品特性を石油と比

較しながら確認する。次に、2-2で天然ガス・LNG市場において競争市場を達成する上での

制約として、垂直統合的オペレーション、市場集中度の高さ、市場参入障壁の高さ、情報

非対称性の存在と市場情報共有度の低さ、熱量の多寡、及び契約条件の硬直性を指摘する。

2-1 商品としての天然ガス

天然ガスは、一般に地下深い地層内に気体として存在する可燃性ガスで、メタン(CH4)

を主成分としている。燃焼時に発生する二酸化炭素(CO2)や硫黄酸化物(SOx)の排出量が石

油や石炭に比べて少なく、環境面で大きなメリットがある。しかし、天然ガスの容積当た

りの熱量は石油の約 1/1000に過ぎず、液化しても 1/1.7に過ぎない。従って、パイプライ

ンであれ LNG タンカーであれ、天然ガスの輸送効率は石油に大きく劣り、はるかに大きな

輸送コストがかかることになる。天然ガスの容積を 1/600 に圧縮する LNG は、天然ガスの

長距離海上輸送を可能にしたが、-162 度という極低温を維持する必要からタンク内面には

高価なアルミ合金、9%ニッケルステンレス製のメンブレンが使用されることが多い。また、

LNG の積み込みや荷揚げにも極低温対応の資機材やノウハウが必要になる。

このような LNG の特性は、液化プラント、タンカー、受入基地という LNG 流通プロセス

全体に対して巨額の投資を必要とさせる。Wood Mackenzie 及び Deutsche Bank によると、

液化能力 500 万トン/年の設備を 1 系列建設し、5 隻のタンカーで輸送することを想定する

と、LNG チェーン全体では約$75 億の投資額が必要となる。

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28

図 2-1-1 LNGチェーン全体に要する投資額

(出所) Wood Mackenzie及び Detsche Bank

2012 年時点の標準的なタンカー建造費を比較すると、石油はVLCC(Very Large Crude

Carrier。32万原油トン)の場合で 9,300万ドルであるのに対し、LNGは 16万m3(7万 2,000LNG

トン=9 万 3,528 原油トン)級で 1 億 9,950 万ドルである 1。従って、LNGタンカーは、熱量

当たりで原油タンカーの約 7 倍高価である。また、輸出基地や受入基地で必要となるタン

ク建設費は、原油が 20~30 億円/10万klとされている 2

このような LNG 船建造費の高さは、当然ながら LNG 輸送コストの高さに帰結している。

図 2-1-1 は、日本のカタール産原油及び LNG 輸入価格と、カタールから日本もしくは北東

アジアへの輸送コストを比較したものである。2013年 1月の輸入価格は原油が$21.0/MMBtu

($108.9/bbl)、LNG が$17.0/MMBtu であった。カタールから日本への原油の基準輸送コス

トは$0.7/MMBtu($29.1/トン)で輸入価格の 4%を占めた。一方、カタールから日本を含む

北東アジアへの LNG 輸送コストは$2.3/MMBtu で輸入価格の 14%にも達している。このよう

な相対的な輸送コストの高さは、当然ながら輸送事業リスクを増大させる。

のに対し、LNGでは 150~200億円/20

万kl(11万 8,000原油kl)程度である。従って、LNGタンクは、熱量当たりで原油タンクの

4~9倍高価である。

1 Clarkson Research Services、「World Shipyard Monitor」、Volume 20、No.12、2013年 12月 2 総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会石油備蓄専門小委員会報告書(案)参考資料集、2005年

7月

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29

図 2-1-2 原油と LNG の輸入価格と輸送コスト(2013年 1月)

0

5

10

15

20

25

原油 LNG

$/MMBtu

(註)輸送ルートは原油がサウジアラビア・日本間、LNGが中東・北東アジア間

(出所)IEA Energy Prices & Taxes、Energy Intelligence、石油資料、Platts LNG Daily

輸送コストや貯蔵コストの高さは、多くの場合で天然ガスがガス田周辺の限られた地域

でしか利用されてこなかった一因である。ガス田近傍に需要がない場合、天然ガスが発見

されてもフレア(燃焼処分)されたり、地層内に再圧入されたりすることが多かった。従

って、天然ガスの国際取引量は少なく、国際取引の割合も低かった。これは原油と比較す

ると顕著である。天然ガスの国際取引量は、1990 年代以前には原油の国際取引量と比較に

ならないほど小さく、2010 年現在でも原油の 44%に過ぎない。2010 年現在における生産量

に対する国際取引の割合は、原油が 55%に達しているのに対して、天然ガスは 29%に過ぎな

い。また、同年における輸出入国数を比較すると、原油が輸出国数 113、輸入国数 136であ

るのに対して、天然ガスは輸出国数 68、輸入国数 89 に過ぎない 3

。従って、輸出入設備や

輸送設備といった国際取引インフラ整備の程度も天然ガスは石油よりはるかに遅れている

ことになる。

3 LNGは輸出国数 19、輸入国数 23と更に少ない。

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30

図 2-1-3 原油及び天然ガスの国際取引量及び割合

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

1950

1952

1954

1956

1958

1960

1962

1964

1966

1968

1970

1972

1974

1976

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008

2010

天然ガス国際取引量 原油国際取引量 天然ガス国際取引割合 原油国際取引割合

Mtoe

(出所)United Nations、Energy Statistics Yearbook

2-2 天然ガス市場の競争市場化を阻む要因

2-2-1 垂直統合的オペレーション

天然ガス市場の競争市場化を阻む最も大きな要因は、国際天然ガス取引において一般的

である垂直統合的オペレーションの強さである。市場取引自体が存在しないグリーンフィ

ールド 4

のプロジェクト開発における投資リスクを下げる上で有効であるが、長期契約を核

とした固定的バリューチェーン内でしか天然ガスが流通しないため、後述する市場集中度

を高め、新規参入者にとっては参入障壁となり、バリューチェーン内外での情報非対称性

を生むからである。垂直統合的オペレーションは、西欧向けや北東アジア向けの天然ガス

輸出プロジェクトで伝統的に採用されてきたが、輸入国の市場自由化、インフラ整備の進

展、市場流動性の発生によって、その程度や形態が多様化している。

①伝統的な国際天然ガス取引における垂直統合的オペレーション

初期の天然ガスプロジェクトでは、輸出国から輸入国への商流すら存在しない場合が多

かったので、ガス田や液化プラントといった上流から、パイプラインや LNG 船といった輸

送設備、受入基地や発電所といった下流までのバリューチェーンを一体的に構築すること

が一般的であった。これは西欧や北東アジア向けの天然ガス輸出の場合に顕著である。

例えば、旧ソ連から西欧への天然ガス輸出の場合、ガス田開発・生産から旧COMECON

4 まったく新規に立ち上げる計画のこと。

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31

(Council for Mutual Economic Assistance:経済相互援助会議)諸国と西欧諸国の国境 5

同様に、北東アジア向けの伝統的なLNGプロジェクトの場合、ガス田開発・生産・液化・

Ex-Ship契約

までは、旧ソ連のガス工業省(Gazpromの前身)の管轄、当該国境から需要家まではドイツ

の旧Ruhgas(現E.ON)、フランスの旧Gaz de France(現GdF Suez)、イタリアのENIといっ

た輸入国で独占的な地位にある事業者が担当した。旧ソ連ガス工業省とこれら西欧のガス

事業者は、長期契約の締結によって第三者が介在しない垂直統合的オペレーションを行っ

た。

6における輸送はShell、ExxonMobil、BP、Total、Chevron等の国際石油会社

(International Oil Companies: IOCs)およびPertamina(インドネシア)、Petronas(マ

レーシア)、Qatar Petroleum(カタール)等の天然ガス生産国の国営石油会社(National Oil

Companies: NOCs)、更に、しばしば日本の商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、丸紅

等)が担ってきた。FOB契約 7

一方、カナダとアメリカ間の輸出入の場合、上記のような垂直統合的オペレーションは

とられていない。両国における豊富なガス資源賦存、リベラルな経済政策、鉱業権の土地

所有者への付与、連邦制がもたらす州政府権限の強さにより、旧ソ連やロシア、欧州諸国

でのようなナショナルチャンピオン企業は生まれなかった。その結果、カナダには 1,000

程度、アメリカには 8,000程度の生産者、3,000以上の電力・ガス事業者という非常に多く

のプレーヤーが存在する。このような環境では、天然ガス開発や輸出を実現するために、

欧州や北東アジア向けのような一体的なバリューチェーンを形成させる必要性がなかった

と解釈出来る。

における輸送・LNG受入・ガス配給は日本の電力・ガス事業者

や、韓国のKOGAS、台湾のCPCといったそれぞれの供給区域や輸入国でのガス事業に関して

独占的な地位にある事業者が担当することが一般的あった。典型的にはIOC・NOC・商社が

売主、輸入国電力・ガス会社が買主となり、20 年前後の長期契約を締結した。旧ソ連・西

欧間での取引と同様に、天然ガスが長期契約で定められた範囲でのみ流通する垂直統合的

オペレーションが行われた。

②現在の国際天然ガス取引における垂直統合的オペレーション

西欧向けや北東アジア向けの天然ガス輸出における上記のような垂直統合的オペレーシ

ョンの程度や形態は、輸入国の電力・ガス市場自由化、インフラ整備の進展、国際天然ガ

ス市場流動性の発生等によって、現在ではその程度や形態が多様化している。

西欧向けの場合、輸入国の市場自由化によって伝統的輸入者の輸入独占権は剥奪され、

ガス事業がアンバンドリングされたことにより、輸入や卸売事業への新規参入が可能にな

った。特に、アンバンドリングがもたらした卸売市場(ハブ)の形成により、需要家が伝

5 例えば、スロバキアとオーストラリア国境の Baumgartenやチェコとドイツ国境の Waidhaus。 6 本船持込渡し。輸入国の港に着船するところまでが売主の責任。 7 本船甲板渡し。輸出国の港で船に LNGを積むところまでが売主の責任。

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統的輸入者にガス供給を依存する必要性が低下したことは、伝統的輸入者にとっては自社

輸入量見通しが不透明になったことを意味し、従来のような硬直的な長期契約を締結する

ことのリスクが増大した。電力・ガス市場自由化による伝統的輸入者にとっての量的リス

クの増大は、日本の電力・ガス事業者にもあてはまる。しかし、自由化が行われていない

他のアジア輸入国には関連性が低い。

インフラ整備の観点からは、西欧や北東アジアへの天然ガス輸出から 40 年以上を経て、

輸出プロジェクトの初期投資も回収され、輸出入インフラがそれなりに整備されてきたこ

とから、既存のバリューチェーンにおいては、垂直統合的オペレーションの必要性が低下

していると捉えることも出来る。近年、旧ソ連から西欧、また東南アジアから北東アジア

といった既存プロジェクトでの契約期間が短期化したり、柔軟性が高まったりする傾向が

あるのは、ガス田枯渇という要素とともにこのような背景があると考えられる。

しかし、新規輸出入国の場合は勿論のこと、既存輸出入国であっても新規バリューチェ

ーンを構築する際には、現在でも長期契約を核とする垂直統合的オペレーションが広く採

られている。旧ソ連は 1975 年に旧西ドイツへの天然ガス輸出を開始したが、ロシアとドイ

ツをバルト海経由で直接連結する Nord Stream の場合、Gazprom は E.ON、Dong、GdF Suez

といった伝統的輸入者と長期契約を締結している。また、オーストラリアは 1989年以来 LNG

を北東アジアに供給しているが、既存の NWS LNG の売買契約更改では契約期間が短期化さ

れている一方、Darwin、Pluto、Gorgon、Queensland Curtis LNG、G LNG等の新規プロジェ

クトでは従来とおり 20年前後の長期契約が締結されている。

但し、新規のプロジェクトであっても、売主が電力・ガス事業者といった伝統的な輸入

者と契約せず、自社で生産物の一部をマーケティング(Equity LNG)するプロジェクト形

態が増加していることは注目すべきである。このような売主自社マーケティング契約の増

加は、垂直統合的オペレーションの強化及び緩和という両面で解釈することが出来る。垂

直統合的オペレーション強化の観点では、売主が輸入国市場へ進出することによってバリ

ューチェーンの支配力を強化する場合がある。例えば、カタールの新規 LNG プロジェクト

の場合、Qatar Petroleumは、自社 LNGの販路確保のために、アメリカ、イギリス、イタリ

アといった国々で受入基地を建設した。反対に、当該プロジェクトの場合、ExxonMobil、

Total、ConocoPhillips、Shell といった売主が自ら LNG をマーケティングする契約が多い

が、これらの IOC は、短期的な利益追求のために仕向地を変更する場合もあり、決まった

仕向地のみで LNG が流通するわけではない。また、2012 年に運開した Angola LNG の場合、

少なくとも公開資料で確認出来る限り、如何なる長期契約も締結されていない。これは、

当該プロジェクトが当初市場流動性の極めて高い米国向けに計画されたという経緯はある

ものの、短期契約やスポット市場での流動性の向上を見込んだ動きであるとも考えられる。

このように、現在の国際天然ガス国際取引では、垂直統合的オペレーションの程度や形

態が多様化している。既存プロジェクトを中心に、バリューチェーンを固定化しない場合

も出てきているが、石油取引と比較した場合、全体としては依然として垂直統合の程度は

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高いと言える。国際天然ガス取引における垂直統合的オペ―レーションは、それ自体が天

然ガス市場の競争市場化を阻むものであるし、次節で述べるとおり、市場集中度、参入障

壁、バリューチェーン内外での情報非対称性をそれぞれ高め、伝統的な国際天然ガス取引

で特有である硬直的な契約条件を可能にしてきたと考えられる。

2-2-2 市場集中度の高さ

完全競争を阻害する要因として最も言及されるのが市場集中度の高さ(独占や寡占市場

の存在)である。上述のとおり、垂直統合的オペレーションの下では、天然ガスは長期契

約で定められた売主・買主間でしか流通せず、市場集中度は高くなる。西欧向けや北東ア

ジア向けといった垂直統合的オペレーション程度の高かった市場では、北米よりも市場集

中度が高かったであろうことは容易に想像出来る。

しかし、地域間での集中度格差や企業データの不足等により、国際天然ガス市場の集中

度を図ることは容易ではない。図表 2-4は、世界全体(輸出国別)と日本向け(輸出国別及

びプロジェクト別)の天然ガス輸出市場集中度を、ハーフィンダール・ハーシュマン指数

(HHI)8を用いて示したものである。2009 年時点でのHHIを見ると、天然ガス(世界全体、

輸出国別)が 825 であったのに対して、日本向けLNG(輸出国別)は 1,432、日本向けLNG

(プロジェクト別)は 1,003であった。輸出国別で比較した場合、日本向け(アジアのLNG

輸入国も)は世界全体よりも集中度が高い。また、データの制約により数値化することは

不可能であるが、例えば北米での生産者の多さを考慮すれば、例えば北米におけるガス田

プロジェクト別のHHIは日本向けのそれよりもはるかに低いことは確実である 9

。垂直統合

的オペレーションの存在意義は、特にグリーフィールドプロジェクト開発において認識さ

れる必要があるが、一方では、垂直統合的オペレーションの結果生じる市場集中度の高さ

が、特にアジアの天然ガス市場における競争促進を阻害している一因であると考えられる。

8 この指数は、個別プレーヤー(この場合では輸出国)ごとに当該プレーヤーの事業分野占拠率(%)を二

乗した値を合計したものである。独占市場の下では指数は 10,000、競争市場になればなるほど指数は 0に

近づく。この指数の大小と市場集中度程度について、統一的な基準があるわけではない。例えば、米司法

省及び連邦取引委員会(「Horizontal Merger Guideline、1992年、

http://www.ftc.gov/sites/default/files/attachments/merger-review/hmg.pdf」)では、HHI指数が

1,000未満の場合は非集中市場、1,000-1,800は中程度の集中度、1,800以上は集中市場としている。また、

EC(「Commission Staff Working Paper: 2009-2010 Report on Progress in Creating the Internal Gas and

Electricity Market - Technical Annex」、2011年、

http://ec.europa.eu/energy/gas_electricity/legislation/doc/20100609_internal_market_report_200

9_2010_annex.pdf」は、HHI指数が 5,000以上の場合を非常に高い集中度、1,800-5,000を高い集中度、

750-1,800を中程度の集中度、としている。 9 前述のとおり、アメリカには 8,000余り、カナダには 1,000余りの生産者が存在するとされている。

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34

図 2-2-1 世界全体と日本向け天然ガス輸出市場集中度

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

400019

80

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008

2010

日本向けLNG(プロジェクト別) 日本向けLNG(輸出国別)

天然ガス(世界全体、輸出国別)

HHI

(出所)国際連合「Energy Statistics Yearbook」より作成

2-2-3 参入障壁

①政策的な参入制限

垂直統合的オペレーションの存在自体が、市場参入障壁を高める点は既に指摘した。そ

れ以外に市場参入障壁として挙げられるのは、輸出国あるいは輸入国の政府による輸出者

あるいは輸入者の制限である。特に輸出国で、産業構造の自由化程度が低かったり、かつ

天然ガス輸出への経済依存度が高い場合には、天然ガス輸出が国営企業の独占体制となる

傾向がある。典型的な例としてはアルジェリアや 2012年以前のロシアが挙げられる。輸入

国でも、国内ガス産業そのものを立ち上げる必要がある場合、国全体あるいは地域で天然

ガス輸入者が独占体制となるのが通常である。ガス市場自由化以前の欧州諸国や日本、現

在のアジア諸国の輸入者がそれらの例である。このような制限は必ずしも法律によって根

拠が与えられている訳ではない。例えば、中国の場合、国営企業である三大石油会社(CNPC、

CNOOC、SINOPEC)が天然ガス輸入を事実上独占しているが、法律によって独占が認められ

ているわけではない。これらの石油会社が中国の天然ガス供給(ガス田やインフラ)の大

半を握っており、安定的な天然ガス輸入を担わせる民間企業がほとんど存在しないことか

ら、現在のところ政府は国営企業にほとんどの天然ガス輸入を行わせているという構造が

ある。しかし、法的根拠の有無にかかわらず、政府によるこのような参入制限が、天然ガ

ス・LNG 市場の集中度を高め、競争促進を阻んでいると考えられる。

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表 2-2-1 天然ガス輸出上位 10ヵ国の輸出者規制

輸出国2012年輸出量

(Bcm)国営企業

(政府出資比率)輸出者制限内容

ロシア 207 Gazprom(50%)2013年以前:Gazprom独占

2013年以降:LNG輸出のみ自由化

カタール 120 Qatar Petroleum(100%)輸出プロジェクト会社には

Qatar Petroleumが過半数以上を出資

ノルウェー 110 Statoil(67%)2001年以前:政府直轄2001年以降:自由化

カナダ 84 なし なしオランダ 55 GasTerra(50%国営) なし

アルジェリア 50 Sonatrach(100%) Sonatrach独占インドネシア 35 Pertamina(100%) なし

トルクメニスタン 35 TurkmenGas(100%) TurkmenGas独占

マレーシア 33 Petronas(100%)輸出プロジェクト会社には

Petronasが過半数以上を出資オーストラリア 27 なし なし

(出所)Cedigaz、企業ウェブサイトより日本エネルギー経済研究所作成

表 2-2-2 天然ガス輸入上位 10ヵ国の輸入者規制

輸入国2012年輸入量

(Bcm)国営企業

(政府出資比率)輸入者制限内容

日本 116国際石油開発帝石(19%)、

石油資源開発(34%)なし

アメリカ 89 なし なしドイツ 88 なし なし

イタリア 67 ENI(30%) なしイギリス 49 なし なし

韓国 48 KOGAS(27%)2001年以前:KOGAS独占

2001年以降:自家消費量LNG輸入自由化フランス 45 GdF Suez(36%) なし

トルコ 44 Botas(100%)2001年以前:Botas独占

2001年以降:自由化

中国 40CNPC、CNOOC、SINOPEC

(3社とも100%)なし

スペイン 34 なし なし

(出所)Cedigaz、企業ウェブサイトより日本エネルギー経済研究所作成

②非政策的な参入障壁

上述のとおり、少なくとも伝統的な天然ガスプロジェクトでは、輸出国から輸入国への

商流すら存在しない場合が多かったので、ガス田や液化プラントといった上流から、パイ

プラインや LNG 船といった輸送設備、受入基地や発電所といった下流までのバリューチェ

ーンを一体的に構築することが一般的であった。バリューチェーンの一体的構築は、初期

投資額の増大、ひいては投資リスクの拡大に帰結することも既に述べた。

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36

初期の国際天然ガス取引では、投資の確保はNOCを通じた国家、IOC、規制市場における

電力・ガス企業の信用力に拠っていた 10

他の非政策的参入障壁は、特に LNG における技術的なものである。-162 度という極低温

を扱うには、専用の設備とともに、専門的な訓練を受けた人材が必要である。インフラ設

備運営専門事業が未発達である場合には、新規参入者は設備投資や人材確保が必要となる

ことから、技術的な参入障壁が存在すると解釈出来る。反対に、アメリカにおける LNG 生

産設備、欧米自由化市場におけるインフラ事業者のように、インフラ設備運営専門事業が

確立されている場合には、技術的な参入障壁は低い。

。これらの企業自体の与信は必ずしも高いわけでは

ない。特に、輸出国のNOCや輸入国の電力・ガス企業の投資力は、当該国のエネルギー価格

如何によって大きく左右される。しかし、究極的にはこれらの企業の背後にある国家の信

用力によって公的金融機関も活用しつつ、投資が確保されたと考えることが出来る。つま

り、強固な財務体質を持たず、国家の後押しもない企業が、バリューチェーン一体構築型

の国際天然ガスプロジェクトを立ち上げることは現在でも容易ではない。非政策的な参入

障壁としては、このような投資(融資確保)能力の高低によるものが最も大きい。

2-2-4 情報非対称性と市場情報共有度

他の多くの市場と同様に、国際天然ガス取引においても市場参加者間での情報の非対称

性が存在し、市場競争促進を阻害する要因になっていると考えられる。図表 2-7 は、国際

天然ガス取引における情報非対称性を、契約当事者間及び契約当事者・非当事者間に分類

して整理したものである。

表 2-2-3 国際天然ガス市場における情報非対称性

契約当事者(売主及び買主)間

契約当事者(売主もしくは買主)・

非当事者間

売買価格(フォーミュラ構造) なし あり

供給コスト あり あり

稼働開始時期 あり あり

オペレーション状況 あり あり

供給柔軟性 なし あり

仕向地 なし あり

品質 なし なし

(出所)日本エネルギー経済研究所

契約当事者(売主及び買主)間の場合、当然ながら売買価格(石油価格連動の場合、フ

10 更に、投資力不足という問題を抱えていた旧ソ連の場合、プロジェクト実現には、バーター取引や労務

提供といった手段も利用されている。例えば、天然ガスの大量輸送を可能にする大口径パイプラインを生

産出来なかったソ連は、西欧諸国から大口径パイプラインを当初の天然ガス輸入決済手段として受け取っ

た。また、旧共産圏の輸入国に対しては、ソ連からの天然ガス供給を行う条件として、パイプライン建設

にかかわる資材や労務の提供を要求している。

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ォーミュラの構造)、供給柔軟性、仕向地、品質といった項目は売買契約書で定められるの

で、情報非対称性は存在しない。一方、売主は、供給コスト、ガス田・液化プラント・輸

送手段の稼働開始時期やオペレーション状況に関する一次情報を握っている。自らに悪影

響を及ぼすと考えられる場合、売主はこれらの情報を開示しないインセンティブが高まり、

結果として契約当事者間での情報非対称性を生じさせる可能性がある。

契約当事者(売主もしくは買主)と非当事者間の場合、情報非対称性の程度は更に高ま

る。この場合では、情報非対称性が存在しないと考えられるのは品質のみである。天然ガ

スの品質として重要視されるのは、燃焼性や燃焼時における排出物に影響を与える熱量、

比重、硫黄分、露点といった項目であるが、パイプラインガスであれLNGであれ、一旦生産

を開始すると、天然ガスの品質は安定している。また、地域によって差はあるものの天然

ガス品質に関するデータの開示度は比較的高い 11

契約当事者か否かとは関係なく、より一般的な情報の市場全体での共有度も、天然ガス

市場では充分とは言えない。価格や供給条件といった契約上の項目が契約当事者以外には

アクセス出来ないことは当然であるが、例えば国単位での輸入価格や輸入量といったデー

タでさえ充分に開示されているとは言えない。例えば、EU の場合、加盟国別の輸入価格情

報が乏しいし、多くの国で輸出入量データの月別の入手が困難といった問題がある。売主・

買主間における情報非対称性だけでなく、国単位での需給や価格といった情報公開の低さ

も、市場プレーヤーの情報アクセスを困難にし、天然ガス・LNG市場の競争促進を阻害する

要因になっていると言える。

。しかし、売買価格・供給柔軟性・仕向地

といった情報は、情報漏洩がない限り売主もしくは買主であれ契約当事者、また、供給コ

スト、ガス田・液化プラント・輸送手段のオペレーション状況は、前述のとおり一義的に

は当該事業の売主でしか知り得ない。

2-2-5 商品品質

商品品質が同質であることは、競争市場を形成する上で重要な要素の一つである。品質

に大きな乖離があると、同一商品群の中で複数の価格、ひいては細分化された市場が形成

されることになり、市場流動性の向上が困難になるからである。天然ガスの場合、地中か

ら採掘された生ガスには、硫黄分(H2S、メルカプタン)、CO2、窒素分(N2)、水銀、水分な

どの不純物が含まれる。また、主要な天然ガス輸入国の場合、天然ガスの燃焼性、大気汚

染防止、パイプラインやガス機器の腐食や誤動作回避の観点から、天然ガスの品質基準が

定められている。例えば、アメリカの天然ガス輸送事業の最大手である Kinder Morgan の

場合、各州際パイプラインの託送約款の中で規定されている品質基準は下表のとおりであ

る。従って、これらの品質基準をクリアしている限り、不純物の多寡は天然ガス品質の同

質性という点で問題とはならない。

11 LNGの場合、GIIGNL(LNG輸入者協会)が各輸出の LNG品質情報を開示している(「The LNG Industry」、

http://www.giignl.org/sites/default/files/publication/giignl_the_lng_industry_2012.pdf)。

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表 2-2-4 Kinder Morgan傘下のパイプライン会社託送約款におけるガス品質基準例

パイプライン名

CheyennePlains

Gas PipelineCompany

ColoradoInterstate Gas

Company

El Paso NaturalGas Company

HorizonPipelineCompany

Kinder MorganIllinois Pipeline

硫化水素(グレイン/100cf)

0.25以下 0.25以下 0.25以下 0.25以下 0.25以下

硫黄分(グレイン/100cf)

5以下 5以下

メルカプタン:0.75以下

有機硫黄:1.25以下

メルカプタン:0.25以下

全硫黄:0.5以下

メルカプタン:0.25以下

全硫黄:0.5以下

酸素分(ppmもしくはvol%)

10ppm以下 10ppm以下 0.2vol%以下 10ppm以下 10ppm以下

二酸化炭素(vol%)

2-3以下 3以下 2以下 2以下 2以下

水蒸気(ポンド/100万cf)

5以下 5-7以下 7以下 7以下 7以下

露点(華氏)

25度以下 25度以下 20度以下 -必要に応じて

設定

熱量(Btu/cf)

950以上 968-1,235 967以上 950以上 950-1065

窒素(vol%)

- - - 3以下 -

水素(mol%もしくはppm)

- - - 400ppm以下 400ppm以下

重質炭化水素(mol%)

- - - - 1.5以下

不活性ガス(mol%もしくはvol%)

- - - - 4mol%以下

ウォッベ指数(Btu/cf)

- - - - 1,274-1,380

温度(華氏)

20-120度 120度以下 50-120度 40-120度 40-120度

希釈成分(vol%)

- - - - -

(出所)Kinder Morganホームページ

天然ガスの品質項目の内、競争市場構築という観点から問題となるのは熱量の多寡であ

る。天然ガスの主成分はメタン(熱量は 39MJ/m3)であるが、程度の差はあれ通常は、エタ

ン(C2H6)、プロパン(C3H8)、ブタン(C4H10)、天然ガソリンといった重炭化水素が含まれる。

これらの容積当たりの熱量はメタンよりも高いため、通常はメタン濃度が低いほど製品と

してのパイプラインガスや LNGの熱量が高くなる。

北東アジアでは、国内配給網の効率向上という観点から伝統的に熱量の高い(重炭化水

素を多く含む)LNG を購入してきた。一方、欧米では重炭化水素はガス精製の段階で分離し

た上で別販売し、需要家には相対的に熱量の低い(メタン濃度が高い)天然ガスが供給さ

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れてきた。その結果、LNGの熱量は、液化プロジェクトによって大きな差異が見られる。

このため、輸入国や輸送パイプライン毎の基準から外れる天然ガスを輸入する場合には、

異なる熱量のガスや LNGを混ぜ合わせたり、LPGによる増熱、窒素よる減熱といった熱量調

整が必要になる。このような熱量調整には当然ながらコストを要するため、輸入者は自国

の熱量基準に近い天然ガスを輸入するインセンティブが高まる。従って、熱量面での天然

ガス品質の差異が、国際天然ガス取引における競争にとって障害となっている可能性は否

定出来ない。

図 2-2-2 LNGプロジェクト別の熱量

36

37

38

39

40

41

42

43

44

45

46

47

NWS

(豪州)

Darwin

(豪州)

ブルネイ

Badak

(インドネシア)

Tangguh

(インドネシア)

Sakhalin

(ロシア)

マレーシア

UAE

カタール

オマーン

イエメン

Skikda

(アルジェリア)

Arzew

(アルジェリア)

Idku

(エジプト)

Damietta

(エジプト)

赤道ギニア

リビア

ナイジェリア

ノルウェー

Alaska

(米国)

トリニダード・トバゴ

ペルー

MJ/m3 日本の長期契約締結プロジェクト

(出所)GIIGNL

また、北西欧州では極端に熱量の低い天然ガスも流通している。オランダのフローニン

ゲン・ガス田を中心に生産されているこのような天然ガスには窒素分が 15%程度も混入して

おり、熱量が 35MJ/M3 程度と低い。窒素除去に要するコストを勘案し、オランダを中心と

する北西欧州での低熱量ガス供給は、独立したパイプライン行われている。従って、この

ような低熱量ガスの存在は、北西欧州でのガス市場流動性向上を抑制していると考えられ

る。

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40

図 2-2-3 北西欧州でのガス供給ネットワーク

(注)低熱量ガス用パイプラインは水色(Groningen gas)や青(Low-calorific gas)、高熱量ガス用パイ

プラインは赤で表記されている。

(出所)Interfax

2-2-6 契約条件

西欧や北東アジア向けの伝統的な国際天然ガス取引における契約条件は、投資リスクを

低減し、垂直統合的オペレーションを担保する(特定の売主・買主間でのみ天然ガスが流

通し、第三者が介在する市場は存在させない)ための特徴がある。

まず、莫大な設備投資に対する投資リスクを低減するため、伝統的な国際天然ガス取引

においては、しばしば 20年以上にわたる長期契約によって生産量の全てもしくはほとんど

が売却される。これは、国際天然ガス取引自体が存在しなかった初期の北東アジア向けの

LNG プロジェクトで典型的にみられた。多くの国々が天然ガスの輸出入を行うようになるに

つれて、長期契約への依存度は低下しているものの、新規プロジェクトの場合は現在でも

生産物の過半数を長期契約で売却することでキャッシュフローを確保し、投資リスクを低

減することが多い。

また、伝統的な天然ガス売買契約では、一般的に買主がガスを引き取れない場合でも一

定の金額を支払う義務を買主に課す Take or Pay 条項が存在する。但し、契約締結時の需

給予測と実際の需給の差異を補うため、±5~10%程度の契約量柔軟性(弾力性)が定めら

れている。

更に、伝統的な国際天然ガス売買契約では、仕向地が輸入国や受入基地で特定されてい

る(仕向地条項)。これは、売主にとっては受け渡し、買主にとっては引取の確実性を高め

るための措置で、仮に受渡条件が FOB で輸送が買主の管理下にあったとしても、契約で規

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定された仕向地以外では受け渡しをせず、買主が売主の同意なしに第三者に転売すること

が認められない。

但し、欧州向けについては、基本的に仕向地条項は現在では違法化されている。この背

景にあるのは、欧州単一市場の理念と当該理念を法制化した 1957 年の EC 競争法(現 The

Treaty on the Functioning of the European Union 101条及び 102条)である。同法は調

印されてから各国の国内法に反映されるまでに長い期間を要したが、1980 年代以降、国営

企業の民営化や市場の自由化が実施される中で、域内天然ガス市場形成の阻害要因として

の仕向地条項を違法化する法的根拠とされるようになった。欧州委員会は 2000年に個別契

約における仕向地条項の調査を開始し、多くの契約において仕向地条項の存在を確認する

とともに違法化した。輸出企業との交渉の結果、2002年から 2005年にかけて、ノルウェー、

ナイジェリア、ロシアと西欧企業の契約から仕向地条項が削除されている。最も交渉が難

航したアルジェリア Sonatrachの LNG契約に関しても、Ex-Ship契約の場合での売主・買主

間における転売利益配分を条件に、2007 年に仕向地条項が削除された。現在では、東欧諸

国向けのロシア産パイプラインガスにおける仕向地条項が捜査されている。

このように、近年では緩和される傾向にあるものの、国際的な天然ガス取引契約条件に

は未だ垂直統合的オペレーションを担保するような固定的な特徴が存在する。そのような

契約条件が、天然ガス・LNG 市場の競争を阻害する要因の一つとなっていることは否めない。

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第 3章 国内外の新たな天然ガスの取引市場創設に向けた動き

第 2 章で述べたとおり、欧州やアジア向けの国際天然ガス取引では垂直統合的オペレー

ションの特徴が見受けられる。しかし、ガス市場自由化の結果、北米や西欧では輸入国内

でのガス指標(ハブ)価格が形成されてきている。石油価格連動による天然ガス価格決定

方式が LNG のアジアプレミアムを起こす要因の一つとして問題視される中、欧米における

ハブ価格のように、アジアでも天然ガス自体の需給による指標価格を形成する必要性が指

摘されている。本章では、3-1でハブ形成のメカニズムを解説する。次に 3-2で米国や欧州

におけるハブの形成過程及び現状を確認する。3-3では、アジアでの天然ガス指標価格形成

に向けた取り組みや可能性を分析する。

3-1 ハブの形成メカニズム

3-1-1 市場・価格の分類

本章では、ハブや指標といったような市場ないしは価格を取り上げるが、これらの一般

化された概念を議論する際には、当該市場や価格が具体的に何を意味するのかを区別する

ことが重要である。即ち、市場の場合では現物なのか先物等の金融市場なのか、その市場

は取引所なのか OTC(Over-the-Counter:相対)なのかを特定することが必要となる。また、

価格であれば国内価格なのか国際価格なのか、国内価格であれば小売価格なのか卸売価格

なのか、国際価格であれば FOBなのか CIFなのかといった区別も必要である。

深刻化するLNGのアジアプレミアムの原因の一つとして、石油価格連動による天然ガス価

格決定があることが指摘されている。そのため、石油価格連動に代わる新たな価格決定方

式を検討することは意義がある。新たな価格決定方式の一つとして、欧米のような国内天

然ガス自体の需給に基づく価格決定(いわゆる「ハブ」)方式の必要性も指摘されている。

また、石油のように国際的なスポット取引の価格をアジアでのLNG指標価格とする構想もあ

る。更に、金融市場においては、日本や中国がLNGの先物契約を上場する計画も存在する。

これらの計画はしばしば「ハブ」という用語で言及されるが、本章では、混乱を避けるた

め具体的な天然ガス市場・価格は、国内及び国際、また現物及び金融という区別して議論

する 12

12 但し、このような分類は、本章における議論を行う上であえて簡略化したものであることに注意が必要

である。上述のとおり、国内価格では少なくとも卸売価格と小売価格、国際価格では少なくとも FOB価格

と CIF価格に分けることが可能であるし、それらの価格でも地域、契約期間、消費量・時間・変動によっ

て膨大な種類の価格が存在する。また、先物取引のような金融取引においても現物デリバリーを受けるオ

プションがある契約も存在する。

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表 3-1-1 主要な天然ガス市場・価格に関する基本的な分類

国内 国際

現物

・米Henry Hub,・英NBP・蘭TTF,・独NCG、Gaspool,・豪Victoria

・Platts:Japan Korea Marker(JKM)・ICIS Heren:East Asia Index(EAX)

金融

・CME(Henry Hub先物),・ICE(NBP先物),・EEX(TTF先物),・ASX(Victoria先物)

・ICE:Platts JKM Swap・CME:ICIS EAX Swap・TOCOM:LNG先物計画・上海期貨交易所:LNG先物計画

(出所)日本エネルギー経済研究所

例えば、国内かつ現物の市場及び価格としては、米Henry Hubや英NBP等がある。これら

の価格(しばしばハブ価格として言及される)は、後述するように当該ガス市場における

自由化の結果として発生した米国内や英国内での卸売スポット価格である。国内かつ金融

の市場及び価格では、Henry HubやNBPの現物市場で取引される天然ガスを原資産とした先

物価格が代表例として挙げられる。国際かつ現物の市場及び価格としては、PlattsやICIS

Herenといったメディアが発信するJKMやEAXといったLNGスポット推定価格が存在する 13。国

際かつ金融の市場及び価格としては、ICEやCMEといった取引所で上場されている現在と将

来予想されるLNGスポット価格のスワップ契約や、東京工業品取引所や上海期貨交易所で計

画されている、輸入価格等、LNGの国際現物価格を原資産としたLNG先物がある 14

3-1-2 ハブの定義

オックスフォード英語辞典によると、ハブという単語には、車輪の中心という第一義的

な意味と、そこから派生した、諸活動、関心もしくは重要性の中心(central part of activity,

interest or importance)という意味がある。IEA15

13 但し、現時点ではこれらはあくまで北東アジア向けスポット LNGの推定価格であり、実際に JKMや EAX

で価格決定される LNGは極めて少ないと考えられる。

によるとハブは、「複数のパイプライン

を接続し、適正なガス計量を行い、それぞれ別のパイプラインへ出力変更を行なう物理的

な受渡しポイント(a physical transfer point where several pipelines connect to a

facility that redirects properly metered gas volumes from one pipeline to another.)」

と定義されている。この定義で想定されているのは、Henry Hubを典型とする受け渡し地点

の地理的位置が特定された国内での現物天然ガス取引地点である。しかし、後述するとお

り、NBPやTTFといった地理的位置が特定されていない天然ガス取引市場も存在する。また、

14 これらの LNG先物契約計画については 3-3で考察する。 15 Security of Gas Supply in Open Markets、2004年、73ページ

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通常「ハブ」という用語を使用する場合、物理的なパイプラインの接続点のみならず、価

格形成機能を持っているものを指すのが一般的である。従って、本章では、ハブを「当該

市場において広く使用されている現物の天然ガス卸売価格を形成する物理的もしくは観念

的な取引地点もしくは空間」と定義する。従って、本章では、先物等の金融取引集積地を

指す用語としてハブを用いない。

3-1-2 ハブの形成メカニズム

Henry Hubや NBP といったハブの形成には、米国や英国でのガス市場自由化、特にガス事

業のアンバンドリング(事業分離)が密接に関係している。

米国の場合、後述する 1992 年の FERC Order 636 までの天然ガス産業構造は、生産者が

生産した天然ガスをパイプライン会社が購入し、産業・発電用需要家に直接供給するか LDC

(Local Distribution Company:小売りを行う都市ガス会社)を経由して民生用需要家に

供給するかであったが、しばしば LDC を子会社として所有する(輸送・販売の垂直統合)

パイプライン会社の市場支配力が高かった。1980年にレーガン政権が発足し、運輸、金融、

エネルギーといった産業に対する政府の関与あるいは負担を軽減し、競争原理を導入する

ことによって産業の効率性を高め、価格を下げる事によって需要家に利益を還元すること

を目的としてこれらの産業の規制緩和策が進められた。ガス産業の規制体系も例外ではな

く、競争促進のための規制緩和策も取られるようになってくる。1980 年代を通じてガス事

業の規制緩和が段階的に進められてきたが、垂直統合企業のアンバンドリングという点で

は 1992 年の FERC Order 636 が最も重要である。この Order では、州際パイプライン・貯

蔵設備への第三者アクセス、州際輸送機能と販売機能のアンバンドリング等が定められ、

インフラ設備を保有せずにガスの売買を行なうことが可能になった。

欧州の場合、EUレベルと各国レベルで段階が異なるが、インフラ設備への第三者アクセ

スや垂直統合企業のアンバンドリングという手法は米国と同様である。最も早期に自由化

に動いたのが英国であり、1982年に旧British Gasの輸入独占権廃止・第三者アクセス導入・

大口市場自由化が行われた。その後も、旧British Gasの民営化(1986 年)、会計アンバン

ドリング 16(1994年)、所有アンバンドリング 17(1997年)が行われた。EUレベルでのガス

市場自由化は、第一次EUガス指令(1998年)、第二次EUガス指令(2003年)、第三次エネル

ギーパッケージ(2009 年)によって、段階的に進められてきた。EU指令に先行してガス市

場自由化を行った英国に対し、大陸欧州諸国の多くはこれらのEU指令に対応する形で自由

化政策を実施してきた。アンバンドリングの程度に関しては、第一次EU指令での会計分離、

第二次EU指令での法人分離 18

16 同一企業における輸送事業と小売等の他部門に関して個別の財務諸表など別会計を作成すること。

、第三次エネルギーパッケージでの所有分離もしくは機能分

17 輸送事業を完全に別会社化すること。小売等の他部門による直接あるいは持ち株会社を通じた間接的な

出資も認められない。 18 所有分離と同様に輸送事業を別会社すること。但し、小売等の他部門による直接あるいは間接的な出資

は認められる。

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45

離 19

天然ガス供給事業が垂直統合企業によって行われている場合、天然ガスは基本的に自社

サプライチェーン内のみを流れるので国内あるいは域内における統一的な卸売価格は存在

し得ない

というように、段階的に強化されてきた。

20

アンバンドリングされた供給体制の下では、サプライチェーンは多数の細分化された事

業者によって担われており、単一の企業が物理的な需給調整を行っているわけではない

。従って、自由化以前において市場で認識される価格は、ほとんどの場合ガス田

の井戸元価格や輸入価格、そして小売価格のみであった。このような供給体制の下では、

需給調整は垂直統合企業が自社サプライチェーンの供給量を物理的に調整することで行わ

れる。従って、井戸元価格や輸入価格が一定である限り、原理的には需要の増減は価格の

変動につながらない。

21。

原理的には、需給調整は価格変動を通じて行われる。つまり、需要増加や供給減少によっ

て需給が逼迫すれば、価格が上昇することで需要減少や供給増加が起こり、需要減少や供

給増加によって需給が緩和すれば、価格が低下することで需要喚起や供給抑制が起こる。

このように、アンバンドリングの強化によって垂直統合企業のオペレーションを解体する

ことは、需給調整機能が垂直統合企業(もしくは硬直的な長期契約で担保されるところの

垂直統合的供給体制)から、市場機能(価格メカニズム)に移行されることを意味する。

この場合の価格は、一義的には卸売価格を指す。従って、アンバンドリングが進むにつれ

て、卸売価格発信の必要性が生じ、欧米のハブが発生してきた(図表 3-2)。このようにハ

ブはガス市場自由化に伴う産業構造の変化に伴って発生してきたものであり、政府が物理

的な公設市場のようなものを設立したわけではない。個々の取引は売主と買主間での相対

取引 22

で行われることが多い。

19 法人分離と所有分離の中間的なアンバンドリング形態。EUでの場合、法人分離された企業による輸送イ

ンフラの所有は認められるが、インフラ運営機能は分離される Independent System Operator(ISO)方式、

インフラ設備所有及び運営機能分離は認められるが運営機能分離に関してより厳格な監視がされる

Independent Transmission Operator(ITO)方式がある。 20 垂直統合体制においても、例えば輸入企業が国内の電力・ガス会社に天然ガスを卸売することはあった。

しかし、その価格は完全な相対交渉によって決定されており、統一的な卸売価格が国内あるいは域内で形

成されることもなかった。 21 但し、輸送事業者がパイプライン圧力維持といった自社設備運営のため、託送者によるガス注入・払出

量を管理している。しかし、物理的な注入量・払出量の変動は個々の託送者が決定する。 22 具体的には、ハブ価格からのディスカウントもしくはプレミアムの程度、供給期間、供給量、供給時期、

供給変動パターンといった条件が決定される。

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図 3-1-1 ハブ形成の概念図

国内生産・輸入部門

インフラ部門(輸送・LNG受入・

貯蔵・配給)

垂直統合企業

小売部門

アンバンドリング

国内生産・輸入事業者

T

需要家

小売事業者

P A

需要家

売買

インフラアクセス(託送等)

インフラ事業者(輸送・LNG受入・

貯蔵・配給)

規制料金

自由料金

価格発信の必要性

需給調整は垂直統合企業内で行う

需給調整は市場価格変動で行う

ハブ成立

(出所)日本エネルギー経済研究所

3-2 欧米でのハブ形成

3-2-1 米国

米英を中心にエネルギーの現物や先物市場を運営する ICE(Intercontinental Exchange)

によると、現在米国には 122ヵ所のガス価格形成ポイントがあり、Henry Hubはその代表的

なものである。

Henry Hub は、Chevron の子会社 Sabine Pipe Line がルイジアナ州で運営する Henry ガ

ス処理プラントに位置している。Henry Hub は、1988 年にいち早くハブの運用を開始し、

そこで形成される価格は、アメリカ全体の天然ガス卸売価格の指標となっている。Henry Hub

でのガス価格が指標価格になるまで影響力を拡大した主な要因として、以下の 3 点が挙げ

られる。

第一に、先行者利益を享受できたことがある。Henry Hub が運用を開始した 1988 年は、

米国ガス市場は自由化の途上にあり、天然ガス取引におけるハブの重要性についての認識

も低かったと考えられる。その中でのハブ開設に踏み切ったことによって、Henry Hubはガ

ス取引ニーズをいち早く吸収することが出来たと言える。

第二に、Henry Hub周辺のガス市場の巨大さが指摘出来る。Henry Hubが位置するルイジ

アナ州、近隣のテキサス州およびメキシコ湾岸地域は、アメリカの天然ガスの一大生産地

域 、かつ一大需要地域 でもある。ルイジアナ州、テキサス州、メキシコ湾での天然ガス

生産量は、2012 年でアメリカ全体の 47%を占める。また、ルイジアナ州、テキサス州での

天然ガス需要は、2012年でアメリカ全体の 21%を占めている。

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第三に、Henry Hubから各需要地域や貯蔵設備へのアクセスの良さがある。Henry Hubか

らは、南東部向けに Southern Natural および Gulf South 、シカゴ等の中西部向けには NGPL 、

Texas Gas ・Trunkline 、北東部向けには Williams といったパイプライン会社が運営する

パイプラインシステムが伸び、全米需要の約 7 割にアクセス出来るとされている。また、

Jefferson Island および Sorrento の貯蔵施設にも接続していることから、ガストレーデ

ィングを行う上で Henry Hubはインフラ上の優位性も有していると言える。

図 3-2-1 米国でのハブ

(出所) 「Lesson Learned from Restructuring the U.S. Natural Gas Market」、Mariner-Volpe、

2005年 6月、 International Energy Agency Hub Workshop

Henry Hub価格はルイジアナ州の特定地点を受渡地点とする天然ガスの卸売価格であるが、

アメリカでの天然ガス指標価格として受け入れられている。具体的には、Henry Hubでの天

然ガス取引量が増加し、市場流動性が高まったため、Henry Hub価格の影響力も高まり、ア

メリカ国内での天然ガス取引のみならず、アメリカに天然ガスを輸出する際には事実上

Henry Hub価格を基準にして価格決定を行なわないと売買が出来なくなったのである。Henry

Hub 価格が指標卸売価格として確立されたため、1990 年に NYMEX が天然ガス先物契約を上

場した際、Henry Hubが受渡し地点(デリバリーポイント)として選択されている。

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48

3-2-2 欧州

①各国のハブ形成

欧州で最も早くガス事業の所有分離を行った英国では、1996年からハブ(NBP)価格が形

成されるようになっている。大陸欧州のハブの流動性は Henry Hub や NBP よりも低いが、

2000年代後半からオランダ TTF、ベルギーZeebrugge、ドイツ NCG及び Gaspoolといった北

西欧州のハブにおける取引量が増加しているのも事実である。その結果、これらのハブ価

格の存在感が高まり、輸入価格決定方式にも影響を及ぼすようになってきた。米国での場

合と同様に、これらのハブ形成に際して政府の明示的な関与はない。

一方、イタリアやスペインといった南欧ではハブそのものが形成過程にあり、従って取

引量も少ない。この理由として、両国では制度的にはアンバンドリングがされているもの

の、現実には垂直統合的オペレーションがまだ相対的に主流であることが推測出来る。ま

た、後述するとおり北西欧州でのハブシフトを促したのは輸入パイプラインガスの余剰で

あるが、LNG依存度の高いスペインの場合、売主がLNGを他市場に転売することが比較的容

易であることからスペイン国内グリッドでの供給過剰が起こりにくい。また、スペインガ

スインフラの孤立性が高い(フランスとの連携が弱い)。これらの要因もハブ形成が進まな

い理由として指摘されている 23

図 3-2-2 欧州でのハブ

(出所)日本エネルギー経済研究所

23 Gas Natural Fenosa及び Iberdrolaへのヒアリングによる。

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49

図 3-2-3 欧州ハブでの天然ガス取引量

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2,000

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

NCG

CEGH

GASPOOL

PEG

PSV

TTF

Zeebrugge

NBP

Bcm

(出所)IEA「Gas Medium-Term Market Report」より(一財)日本エネルギー経済研究所作成

欧州のハブで特徴的なのは、Zeebrugge以外は特定のデリバリーポイントが設定されてい

ない仮想的(Notional)ハブであることである。これは、欧州各国の天然ガス輸送料金決

定方式の特異性に由来する。天然ガスの流れ(出発点と到着点、流れの方向)が比較的明

確であるアメリカの場合、天然ガス輸送料金は基本的には各パイプラインでの輸送距離に

比例する。一方、天然ガス輸送網が網目状で天然ガスの流れを区別しにくい欧州諸国の場

合、輸送距離比例方式は馴染まないため、輸送料金はガス注入点及びガス払い出し点で設

定される個別料金の合計によって決定される(Entry-Exit方式)。このため、ガス受渡地点

は特定の地理的ポイントではなく、パイプライングリッドの地理的な範囲とされ、当該ハ

ブ価格はパイプライングリッド(市場ゾーン)全体に適用される。短距離の輸送料金が高

くなるといった欠点が指摘されているものの、Entry-Exit 方式により広範囲に適用される

価格形成が可能になることから、欧州委員会は、欧州市場の統一化と競争促進に寄与する

システムだとして、同方式による天然ガス輸送料金決定を推奨している。

②大陸欧州における輸入価格決定方式の変化

欧州でのハブ取引量の過半数は英 NBP でのものであり、大陸欧州ハブでの取引量は相対

的に少ない。しかし、北西欧州においてはハブ価格の影響力が高まり、米英における場合

と同様に、北西欧州に天然ガスを輸出する場合はこれらのハブ価格に準じた価格設定をし

なければ売買が出来なくなりつつある。この傾向は特に 2009 年頃から明確になっている。

このような状況の背景として、以下の三点が指摘出来る。

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50

第一に、前節で述べたとおり、欧州主要国でのガス事業のアンバンドリングによって、

需給調整機能が垂直統合企業から市場(価格メカニズム)に移行するプロセスが進行中で

あることである。

第二に、欧州において、石油と天然ガスの競合分野が減少したことにより、石油連動に

よる価格決定の根拠が失われたという認識である 24

。欧州で石油連動方式による天然ガス価

格決定方式は、産業用や民生用における石油代替を可能にするために編み出されたもので

ある。下に示すとおり、1971 年から 2011年にかけて、石油のシェアが産業用で 42%から 12%

に、民生用で 44%から 14%に、発電用でも 7%から 6%にそれぞれ縮小している。従って、天

然ガスは欧州のエネルギーミックスにおいて、石油から既に相当程度のシェアを奪ってお

り、競合分野が縮小したことは明らかである。

図 3-2-4 OECD欧州の需要部門別エネルギー源のシェア

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1971 2011

発電用

石油

天然ガス

石炭

原子力

水力他

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1971 2011

産業用

石油

天然ガス

石炭

電力

バイオマス・廃棄物

その他

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1971 2011

家庭・業務用

石油

天然ガス

石炭

電力

バイオマス・廃棄物

その他

(出所)IEA World Energy Balances of OECD Countries

24 例えば、Jonathan Stern、「Is There A Rationale for the Continuing Link to Oil

Product Prices in Continental European Long-Term Gas Contracts?」、2007年 4月、Oxford Institute

for Energy Studies、

http://www.oxfordenergy.org/wpcms/wp-content/uploads/2010/11/NG19-IsThereARationaleFortheConti

nuingLinkToOilProductPricesinContinentalEuropeanLongTermGasContracts-JonathanStern-2007.pdf

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51

第三に、2008 年後半以降の欧米市場におけるガス需給の緩和である。2008年 9月のリー

マンショックとそれに続く景気悪化により、2009 年の欧米ガス需要は大幅に減少した。一

方、2000 年代に入っての国際天然ガス価格の上昇は、天然ガス開発の大きなインセンティ

ブとなり、カタールなど各地で LNG 輸出プロジェクトが建設され、米国内ではシェールガ

スの大増産を引き起こした。このような状況で、需給環境が直接価格に反映される米英で

は天然ガス価格が急激に低下したが、石油価格連動である大陸欧州での価格低下ペースは

米英に追いつかなかった。結果として、欧州において北西欧州のハブ価格と大陸欧州の石

油連動価格差が拡大した。これを見て、欧州の輸入者はシェールガス革命によって北米市

場を失った LNG を NBP や Zeebrugge といったハブ価格で大量に調達したことで、石油連動

価格で調達した天然ガスの競争力が失われたのである。

石油連動価格による購入量が大半を占める大陸欧州の輸入者、特に E.ON、ENI、GdF Suez

といった企業は、市場シェア確保のために石油連動価格で調達したガスをハブ価格で販売

せざるを得なくなり、損失が拡大した。2009 年より、これら 3 社は欧州向け最大のガス輸

出者であるロシア・ガスプロムとの価格交渉を行い、2010~2012 年の 3 年間について、こ

れまでの 100%石油連動価格から、15%ハブ価格・85%石油連動価格のフォーミュラで価格決

定を行うことに合意した。これを契機に、欧州輸入者とガスプロム等輸出者との価格交渉

が活発化し、一部は仲裁裁判(Arbitration)の実施にまで至っている。

これらの価格交渉において、ノルウェーやオランダといった欧州域内からの供給につい

ては、石油価格連動からハブ価格連動への変更が進んでいる。しかし、ロシア、アルジェ

リア、カタールといった欧州域外からの供給については、Gazprom と E.ON の合意内容にあ

るとおり、石油連動による価格決定方式の大枠は維持され、価格水準を現在のハブ価格ま

で下げることで一応の妥協が成立していると考えられる。

一方、これら欧州以外の供給者であっても、既にハブ価格による輸入が主流である北西

欧州(英・白・蘭)向けには、NBP、Zeebrugge、TTFといったハブ価格で天然ガス販売を行

っている。このことから、将来の大陸欧州向けの天然ガス価格決定方式は、輸入国でのハ

ブ価格の影響力に左右されると推測出来る。米国や北西欧州において、アンバンドリング

によって需給調整機能が市場(価格メカニズム)への移行したこと、それによって価格発

信の必要性が高まったことによって、ハブ価格形成が進んだことは既に述べた。EU ガス指

令を核とする欧州ガス市場自由化によって、大陸欧州でもアンバンドリングが強化され、

独・仏・伊という大消費国においてもハブによる価格発信が行われるようになってきた。

今後、それらの国においてハブでの天然ガス取引量が増加し、市場流動性が高まれば、大

陸欧州全体でハブ価格による天然ガス輸入が主流になるであろう。

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表 3-2-1 欧州向け天然ガス価格交渉動向

輸出企業 輸入企業 状況

Gazprom

ENI(伊) 2012 年 3 月、石油連動基準価格値下げで和解

E.ON(独) 2011 年 8 月、仲裁裁判申請

⇒2012 年 7 月、値下げで交渉が妥結し、調停を取り下

げ。但し、石油連動自体は維持とされている。

RWE(独) 2011 年 8 月、仲裁裁判を申請。現在継続中。

GdF Suez(仏)

2011 年末、値下げ合意

Wingas(独)

Sinergie Italiane(伊)

SPP(スロバキア)

Econogas(墺)

PGNiG 2012 年 11 月、値下げ合意

Statoil E.ON(独) 2012 年 3 月、値下げ合意

RWE(独) 2012 年 8 月、値下げ合意

RasGas Edison(伊) 2011 年 3 月、仲裁裁判申請。

⇒2012 年 9 月、Edison が勝利。4 億 5,000 万€を獲得

ENI Edison(伊) 2011 年 8 月、仲裁裁判申請。

⇒2012 年 10 月、Edison が勝利。2 億 5,000 万€を獲得

Sonatrach Edison(伊) 2011 年、仲裁裁判申請。現在継続中。

(出所)JOGMEC、「欧州における天然ガス購入価格見直しの動き」、2012 年 10 月 18 日、より抜粋

3-3 アジアでの LNG 指標価格形成に関する取り組み

アジアでは日本やシンガポールを除いて国内ガス市場自由化が行われていない。漸進的

な改革が進められているものの、中国やインドでは、社会政策の一環として国内ガス価格

を低く抑えているために、供給コストを反映したガス価格設定すら行われていないことも

ある。特に発展途上国において、ガスのみならずエネルギー価格の値上げは政治的にデリ

ケートな問題であり、解決には長い年月を要する。多くのアジア諸国ではガス価格規制の

改革を行う優先度が高く、ガス市場自由化はその後の検討課題となる。従って、アジアに

おいて本章冒頭で定義したような欧米型のハブが形成されるような条件は揃っていない。

一方、既に述べたとおり、石油価格連動に代わるアジアにおける指標ガス価格形成の必

要性が指摘されており、LNG 先物計画も存在する。本節では、アジアでの指標価格形成に向

けたシンガポール、日本、中国での取り組みや可能性を分析する。

3-3-1 日本

日本では、1990 年代以降、3 度のガス事業法改正を経て、ガス市場の自由化が進められ

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てきた。1995 年度の改正では、年間ガス使用量が 200 万 m3以上の需要家は供給者を自由に

選択することが出来るようになった。また、大手 3 社(東京ガス・大阪ガス・東邦ガス)

が託送実施要領の作成を行った。

1999 年度改正では、料金制度が見直され、小口料金の値下げが届出制になり、選択約款

制度 が導入された。また、西部ガスを含む大手 4社に託送供給約款の作成が義務付けられ、

自主基準であった託送制度が法制化され、自由化対象範囲は年間ガス使用量が 100 万 m3以

上の需要家に拡大された。これにより、販売量の 50%程度が自由化対象となった。

2003 年度改正では、大手 4 社に限定されていた託送約款の作成が全ての一般ガス事業者

及びガス導管事業者に義務付けられ、自由化対象範囲は 50万 m3以上の需要家にまで拡大さ

れた。2007年に更にその範囲は拡大され、現在では 10万 m3以上の需要家が自由化対象範囲

となっている。その他、LNG 基地の第三者利用、段階的な小売自由化と大口供給の許可制廃

止、簡易ガス事業者の天然ガス利用などが示されている。

2013 年 2 月に取りまとめられた電力システム改革での議論を受けて、現在ガスシステム

改革の名の下に 2013 年 11 月より更なるガス市場自由化(小売の自由化範囲の拡大、天然

ガス供給インフラのアクセス向上と整備促進、簡易ガス事業制度の在り方等)の議論が行

われている。

このように段階的な小売自由化範囲の拡大を中心に自由化政策が進められてきたが、こ

れらの取り組みは、国内ハブを形成するために行なわれてはいない。自由化市場に関して

は、競争の進展が見られるものの、指標となる卸売価格が形成されるには至っていない。

一方、輸入LNG価格高騰とアジアプレミアム問題の深刻化を契機として、輸入LNG価格の

先物契約を上場し、当該価格をアジアにおける指標LNG価格に育成する取り組みが行われて

いる。経済産業省は、2013 年に発表した報告書において、現行のLNG取引の問題点として、

原油価格に連動しているため価格の変動幅が大きいこと、原油連動型契約以外の契約にお

けるリスクヘッジ手段が不十分であること、LNG取引における流動性の低さ、の三点を指摘

した 25。また、当該問題の解決策の一つとして、リスクヘッジの場としてのLNG先物市場の

創設が重要であると述べている 26

先物契約は現物市場での原資産からの派生商品であることから、LNG先物取引の成否は現

物LNG市場流動性の多寡に大きく左右される。このため経済産業省は、2014年 4月から月次

のスポットLNG輸入価格を公表し、LNG先物取引の拡大につなげると報道されている

27

3-3-2 シンガポール

シンガポールは日本と並んでアジアの輸入国で唯一ガス市場自由化を行っている国であ

る。シンガポールの電力・ガス事業は、1965 年以来、政府の一部門である PUB(Public

25 経済産業省、「LNG先物市場に関する方向性について」、2013年 5月、

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoryu/lng_sakimono_shijo/report_01.html 26 同上 27 日本経済新聞、「経産省、LNG価格を 4月から毎月公表」、2014年 1月 9日

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Utilities Board)の管轄下に置かれてきた。1995年に、政府は、エネルギー市場の自由化

を促進する一環として、PUB の事業を 3 社の発電会社(Senoko Power、Tuas Power、Power

Seraya) と、送電会社(PowerGrid)、配電会社(SP Services)、ガス会社(PowerGas)お

よび Power Grid、SP Services、PowerGas 等の持ち株会社である Singapore Power に分割

した 。

2001年に Gas Actが制定されにより、PowerGasのガス輸入製造及び小売配給部門はアン

バンドリングされ、Gas Supplyと City Gasが誕生した 。これに伴いより、PowerGasは輸

送事業者として位置づけられるようになっている。天然ガスの輸入は、マレーシアからに

ついては Senoko Powerが、インドネシアの西 Natunaからについては SembCorp Gas が、同

じくインドネシアのスマトラからについては Gas Supplyがそれぞれ行っている。また、ナ

フサを原料とする製造ガスは City Gasによって生産されている。

2008 年 9 月の Gas Act 改正によって、SembCorp Gas の輸送事業が PowerGas に引き渡さ

れ、シンガポールの輸送事業者は PowerGasのみとなった。なお、PowerGasによるガス輸入

及び、配給事業への参画は禁止されている 。

このようにシンガポールでは、欧米型のアンバンドリングが実施されているが、現在の

ところ卸売(ハブ)価格は形成されていない。この背景には、小売ガス価格が依然として

規制下にあること、卸売段階での競争が進んでいない(需給調整機能が垂直統合企業から

価格メカニズムに移行していない)ことが考えられる。

一方、通商産業省(MTI)が 2007 年に策定した国家エネルギー戦略「成長のためのエネ

ルギー」によると、シンガポール政府は、LNG輸入により国内の天然ガス需要を賄うだけで

なく、将来のLNGスポット市場拡大を見込んで、同国をLNGトレーディング市場の拠点とす

る構想を描いている。2010年 11 月にエネルギー市場規制機関であるEMAとLNG受入基地を運

営するSingapore LNGがLNG受入基地の第 3 タンク建設を発表した際にも、基地拡張により

国内需要を満たすだけでなく、LNG市場参加者に対してLNG貯蔵・再輸出というビジネス機

会を提供できる、としている 28。EMAは、同基地でのLNG取引を活発化させるため、基地の第

三者アクセス制度の確立などに取り組んでいる。しかし、国内ガス市場規模が相対的に小

さい 29こともあり、今後の市場参加者をどのように増やすのかという点や、現在はLNG基地

建設のためパイプラインガス輸入量に制限をかけているが将来的に政府はどのように対応

するのか、といった課題も挙げられている 30

3-3-3 中国

上述したとおり、中国では供給コストを反映した天然ガス価格設定をすべく、規制価格

の改革が長年続けられてきた。最近では、国家発展改革委員会が、2013 年 7 月から政府指

28 EMAプレスリリース、「Third Tank for Singapore's LNG Terminal on the Back of Strong LNG Uptake」、

2010年 11月 2日、http://www.ema.gov.sg/news/view/227 29 2012年の天然ガス需要は 8Bcmである。 30 IEA、「Developing a Natural Gas Trading Hub in Asia」、2013年

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導価格を出荷段階(政府基準出荷価格)からシティゲート価格を設定する方式に変更する

とともに、シティゲート価格を平均 1.69元/m3($7.39/MMBtu)から 1.95元/m3($8.52/MMBtu)

に引き上げた。これにより、ガス生産者と地方政府や大口需要家双方は、シティゲート価

格を上限として卸売価格を決定する。また、小売価格は地方政府による規制下にある。こ

のような改革にもかかわらず、輸入天然ガス価格はしばしばシティゲート価格を上回って

いる 31

一方、中国でもアジアLNG指標価格形成の必要性が認識されており、上海期貨交易所

(Shanghai Futures Exchange)が、LNG先物契約の上場を計画している。デリバリーポイ

ントは上海及び広州が想定されているが、契約に関する詳細や上場時期は未定である

。このように中国では、発展途上国型のガス価格規制が残存しており、欧米型のガス

市場自由化やハブ形成が行われる兆候はない。

32

。当

該先物契約の成否は、日本での場合と同様に、現物LNG市場の流動性が向上するか否かに大

きな影響を受けると考えられる。

3-3-4 LNGスポットアセスメント価格

アジア輸入国による取り組みと並行して、2009 年頃から Platts、ICIS Heren、RIM

Intelligence、Argus、Energy Intelligence といったメディアが、売主や買主等、市場関

係者への取材に基づくスポット LNG推定価格を発信し始めた。

このような価格発信が開始された背景には、スポット LNG 取引の増加がある。伝統的に

は、新規 LNG プロジェクト立ち上げには生産物のほとんどを長期契約で売却することが必

要であった。しかし、1990 年代の LNG プロジェクトコスト低下時期には、新規プロジェク

トにおいても液化キャパシティの一部を長期契約で販売することなしに投資決定が行なわ

れる事例が出現した。2000 年代には、欧米市場向け、特にカタールの新規プロジェクトに

おいて、プロジェクト出資者(売主)が LNG の販売を保証することによって、投資決定を

行なうことが一般化した。さらに、一部の大手プレーヤーが複数の生産国、消費国、さら

に生産・消費の両側にまたがりポジション(出資、キャパシティー、購入・販売先)を確

保して、自社のビジネスポートフォリオ内で価格状況に応じて品物を世界の様々な地点で

調達・引き渡すことができる状況となっている。このようなビジネスモデルの変化とシェ

ールガス革命によって米国が LNG 輸入を必要としなくなったことが、近年のスポット・短

期契約による LNG 取引量増加の背景にあると考えられる。

31 例えば、価格改革が施行された 2013年 7月の場合、LNG輸入価格は豪州産($3.5/MMBtu)、インドネシ

ア産($4.0/MMBtu)、マレーシア産($8.0/MMBtu)が平均シティゲート価格を下まわったものの、イエメ

ン産($14.0/MMBtu)、カタール産($17.2/MMBtu)は上回っている。 32 上海期貨交易所へのヒアリングによる。

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56

図 3-3-1 スポット・短期契約による LNG取引量

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

0

10

20

30

40

50

60

70

80

2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012

中東中南米北米欧州インド台湾中国韓国日本スポット・短期契約の割合

100万トン

(出所) GIIGNL

現時点ではこれらのスポットアセスメント価格は、あくまで市場関係者の取材に基づく

推定価格であることから、価格形成の透明性と信頼性が充分であるとは言えない。従って、

潜在的には、被取材者によって価格情報が操作される可能性は排除出来ない。また、情報

収集が適切に行われたとしても全体取引量中の比率が僅少な単一カーゴベースのスポット

価格を一般的な指標とは出来ない、という論点も存在する。

スポット LNG 価格がアジアでの指標 LNG 価格となるには、スポット取引量の更なる増加

が必要である。2012 年は LNG 取引量の 26%がスポット・短期契約による取引とされている

が、カーゴ単位の純然たるスポット取引の割合は 5%程度であると推定出来る。一方、石油

の場合、スポット取引の割合は 30%程度とされており、両スポット市場の流動性には大きな

差がある。LNGプロジェクトの特質に由来する長期契約の必要性はまだ存在するため、スポ

ット取引が大幅に拡大するのは容易ではない。

原油市場や大陸欧州の価格決定方式の変化過程を見る限り、スポット LNG 価格がアジア

LNG の指標価格となるには、大幅かつ急激な需給環境の変化が必要である。大陸欧州の価格

決定方式の変化を起こした要因の一つが、リーマンショック以降の需給緩和であることは

既に述べた。この場合では、スポット(ハブ)価格が長期契約価格を大幅に下回ったため

に、長期契約価格の信頼性が失われ、ハブ価格への移行が進んだ。

一方、原油市場では逆のケースが起こった。1960年代までは、国際石油会社(メジャー)

が国際原油市場を独占的に支配していたが、両石油危機を経て、OPEC は価格決定権をメジ

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57

ャーから奪うとともに、OPEC 加盟国内におけるメジャーの現地操業会社を国有化した。こ

の過程でメジャーの垂直統合体制は解体され、産油国国営石油会社がメジャーを通さず、

直接原油を販売する形式が次第に増えた結果、原油のスポット市場が形成され始めた。第

二次石油危機の際にスポット価格が長期契約価格を大幅に上回るようになると、産油国の

中には短期的な利潤の拡大のため、自国原油の販売を全てスポットに切り替えるケースも

出現した。その結果、スポット取引は急拡大し、現在のように契約期間にかかわらずスポ

ット価格あるいはそこから派生する先物価格を参照して原油の価格が決定されるようにな

った。これら二つのケースで共通するのは、逼迫であれ緩和であれ需給環境が大幅かつ急

激に変化し、長期契約価格がその環境変化に対応することが出来なかったことである。従

って、これらのケースを踏まえると、長期契約価格が市況変動に対応出来る(スポット価

格との大幅な乖離が生じない)限り、スポット LNG 価格がアジアにおいて指標価格化する

可能性は低いということになる。

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第 4 章 天然ガスの需給緩和に向けた諸方策

LNG 調達価格を引き下げるうえで、天然ガス需給バランスの緩和は不可欠である。もし

LNG 価格が天然ガスそのものの需給で決まるような環境であれば、需給バランスの緩和は調

達価格の引き下げに直結する。また、LNG価格自体は現在主流の原油リンクであったとして

も、需給バランスの緩和は、売主側の競争の活性化によって、売主との価格交渉を買主に

とって優位なものとする可能性があるためである。

ここでは、LNG調達価格を引き下げに必須な需給バランスの緩和に向けて、どのような方

策を取り得るのかを考察する。

4-1 供給の増加

①期待される新規供給源

今後期待できる新規供給源として、次のものを例示することができる。特に北米につい

ては、原油リンクとは異なる価格形成での輸入、あるいは割安な価格での輸入に対する期

待が高まっている。実際に LNG輸出が始まる 2017年以降の米国の天然ガス需給や価格水準

には不透明ではあるものの、比較的高い確度で新たな供給源として期待ができる。

他方の豪州は、非常に多くの新規輸出計画があるものの、プロジェクトコストの高まり

から最終投資決定に若干の遅れが見られる。仮に米国から安価な LNG が大量に流入するこ

ととなれば、LNG 輸出能力の拡大が抑制される可能性がある。ロシアは地理的に近いことが

日本にとっての大きなメリットであり、また中国の急増する輸入依存度を抑制する供給源

としても期待できる。東アフリカは未知数の面が多いが、LNG 輸出が現実のものとなれば、

供給源多様化の効果も期待できる。

北米 米国のシェールガス増産によって、北米全体で天然ガス需給が急速に緩和

しつつある。余剰の天然ガスを LNGで輸出する計画が多数。

豪州 豪州政府は、自国が 2020 年までに世界最大の LNG 輸出能力を持つように

なると予測。ただし計画によってはコスト高が課題に。

ロシア 欧州向けの販売不振から、アジア向けの輸出拡大を志向。東シベリア、極

東からの新規輸出計画あり。

東アフリカ モザンビークを中心に新たな埋蔵を確認。LNGでの輸出を計画。

この他にも、天然ガス供給全体でみれば、以下に例示する地域も需給緩和に貢献する供

給源として期待ができる。中国自身の生産量拡大は、中国の輸入依存度抑制を通じて、日

本の天然ガス需給の改善効果がある。同じ意味で、日本とは縁遠い中央アジアも、中国や

インド向け供給の拡大は間接的に世界の需給を緩和させ得る。また、イランが持つ世界最

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大の天然ガス埋蔵を有効活用する方法を考えるべきであろう。現在は米欧の経済制裁によ

って投資もままならない状態にあるが、国際社会との関係を改善し新たな天然ガス供給源

として期待できるようになることが望まれる。

中国 非在来型天然ガスの開発に注力。開発に成功すれば中国の輸入依存度抑制

に貢献する可能性。

中央アジア 陸路で欧州、中国向けの供給量拡大を計画。新たにインド向けに輸出する

計画も。

イラン 世界最大の天然ガス確認埋蔵量を誇るが、政治的影響から世界の天然ガス

需給改善に貢献できていない。

②政府の役割

日本では、生産量の拡大に向けた実際の投資や LNG 調達は民間企業が行うため、この分

野における政府の関与は間接的なものに限られる。しかし、間接的とはいえその幅は広く、

多様な可能性がある。天然ガス供給を輸入に依存する日本では、安定供給に向けて政府が

果たすべき役割も大きいといえる。

図 4-1-1 新規供給源の開発、確保に向けた方策

一点目の「投資を促すための対話」は、将来の需給に対する見方を産ガス国と消費国が

共有することで、適切な投資を促すものである。新たに天然ガスの生産を始めるには、莫

大な額の投資と 5年や 10年といった長い年月が必要である。そのため産ガス国は、将来の

天然ガス需要が不確実な中では投資に踏み切ることができない。投資リスクを勘案して保

産ガス国における適切(時期、規模)

な投資を促すための対話

産ガス国の投資環境整備に向けた働きかけ

日本企業が目指す権益獲得や LNG

調達に対する利益誘導の働きかけ

民間企業が行う先行調査や投資に対

する資金面援助(出融資、債務保証)

国際市場の需給 日本の需給

計画の段階 初期

投資決定

調達契約

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守的になる産ガス国の行動は理解できるものの、投資決定と実際の供給開始の間には大き

な時間差があることを鑑みれば、天然ガスの安定供給には中長期的な視点での着実な投資

が欠かせない。この意味から、アジア・エネルギー大臣円卓会議や LNG 産消会議などとい

った場で、産消双方の将来の需給に対する認識の共有を継続することが求められる。

二点目の「投資環境整備に向けた働きかけ」は、産ガス国の投資環境を良好なものとす

ることで、日本企業を含む外資による開発投資が円滑に進むことを促すものである。外資

による開発投資では、利益の配分方法やローカルコンテンツ(現地調達比率)の問題がよ

く議論の俎上に載る。資源の賦存や権利が産ガス国にある以上、その配分方法を決めるの

は産ガス国の主権である。しかし、開発に必要な技術や人材、資金を自国で持たない国に

とっては、外資の誘致が自国資源を有効活用するための唯一の手段であり、他の資源国と

の比較で有利な条件を提示できなければ、地下に眠る天然ガス資源の開発を進めることは

できない。この意味から、産ガス国の投資環境を改善するための交渉余地は残されており、

そのための取組が求められる。

三点目の「利益誘導の働きかけ」と四点目の「資金面での支援」は理解が容易であろう。

前者は日本企業が目指す新たな権益獲得や LNG 調達について、相手国政府に対して直接的

に日本企業への利益誘導を働きかけるものであり、後者はたとえば JOGMECが提供している

開発投資などに対する出融資や債務保証を指す。

③産ガス国の需給バランス変化への対応

近年、従来は天然ガス輸出国であったのが、国内需要の増加を受けて輸出を抑制する動

きが見られる。日本に直接的に影響を及ぼしたものとしてはインドネシアの例を挙げるこ

とができるほか、最近はミャンマーやエジプト、リビアが国内供給優先・輸出抑制の姿勢

を示していることが例示できる。世界の一大石油・ガス輸出地域である中東諸国において

も、UAEが LNG 輸出国(アブダビ)であると同時に輸入国(ドバイ)にもなっていることに

象徴されるように、発電・造水用天然ガス需要の急増にともなって、天然ガス輸入に転じ

る例がみられる。

現時点ではインドネシア以外には大規模な輸出抑制が顕在化した例はないが、産ガス国

自身の天然ガス需要増加と国内供給優先政策の発露は今後も懸念される。こうした変化を

回避するための措置も、国際市場への天然ガス供給量維持という点で極めて重要である。

具体的な措置の一つとして、日本の需給緩和という点では、長期契約による量の確保が

考えられる。特に将来の輸出余力減少が懸念される国に対しては、長期契約によって輸出

を義務化させることが有効である。ただしこの方法では、産ガス国は不足する天然ガスを

別の国から輸入することになるため、世界全体でみると需給緩和には貢献しない。

そのため根源的には、産ガス国において石炭や再生可能エネルギーといった天然ガス以

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外のエネルギー利用を拡大するか、あるいは天然ガス利用効率を改善することによって天

然ガス需要の伸びを抑制するしかない。

4-2 需要の抑制

①発電部門における天然ガス需要の抑制

日本の天然ガス需要のおよそ 3 分の 2 が発電用であることと、現在みられる日本の LNG

輸入量急増の最大の要因が発電部門にあることを考えれば、この部門での天然ガス需要抑

制対策が需給緩和対策として最も効果的であろう。

図 4-2-1 LNG 輸入量の用途別内訳 図 4-2-2 発電用 LNG需要の推移

2011年8318万トン

電力65%

都市ガス31%

その他4%

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec

(kton)

2005-2010

2011

2012

2013

(出所)IEEJ, エネルギー経済統計要覧 2013 (出所)電力調査統計月報

特に効果が大きいのは、ベースロードで運転する原子力と石炭火力の利用拡大である。

休止している原子力発電所の再稼働は、LNG需要を抑制するための最も即効性が高く、か

つ確実な手法である。原子力発電の代替需要が LNG 輸入量を大きく押し上げているのは周

知の事実であり、安全性の確保を前提として、既存の原子力発電所の再稼働を出来る限り

急ぐことが効果的である。再稼働に向けては、将来の電源ミックスの議論と足元の再稼働

の議論を切り離し、足元の再稼働については、安全基準に則った審査を粛々と進めること

が求められよう。

1,000MW の原子力発電所を代替するために必要な LNGの量

原子力発電所稼働率 :80%

ガス火力発電所熱効率 :55%(高位発熱量基準)

LNG の発熱量 :55MJ/kg(高位発熱量基準)

1000[MW]×3600[s]×24[hr]×365[day]×0.8÷0.55÷55[MJ/kg]÷1000=834,010[ton]

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仮に原子力発電の再稼動がままならないとすれば、これに代わるベースロード電源とし

て石炭火力を活用することが考えられる。CO2排出量の抑制を考慮すれば無制限に石炭火力

を増やすことは出来ないため、将来の電源構成における比率に目標(上限)を定め、その

範囲内で建設許可を与える手法が現実的であろう。

環境への影響を考慮すれば、石炭火力の利用は極力効率的であることが求められる。高

効率で環境負荷の低い技術の選択を誘導する、あるいは低効率で環境負荷の高い技術の退

出を促すに際しては、大気汚染物質の排出基準を、利用可能な技術水準の変化に合わせて

段階的に強化していく方法が有効である。また例えば、EU で取られている、排出ガスの性

状(=発電効率、排ガス対策の実施状況)に応じて発電ユニットの運転可能時間に上限を

設ける措置が参考となる。さらには、A-USC(先進超々臨界圧発電)や IGCC(石炭ガス化複

合発電)など、さらに効率の高い発電技術の開発に対する支援を継続し、石炭火力のクリ

ーン化を追及することが求められよう。

これらと同時に、ガス火力の更なる高効率化を目指すべきであろう。仮に、2010 年のガ

ス火力の平均熱効率(高位発熱量基準)が 5%高かったとすると、発電用天然ガス消費量の

約 10%、およそ年間 410万トンの LNG消費量の削減が可能であった。現在はガス火力の稼働

率が高い状態にあるため、高効率化による LNG消費量の抑制効果は更に高まっている。

ガス火力発電所の高効率化による LNG需要削減効果

ガス火力による発電電力量 :287.5TWh(一般電気事業者合計、2010年度)

発電用天然ガス消費量 :4,174万トン(一般電気事業者合計、2010年度)

2010年度のガス火力平均熱効率 :45.1%(計算値)

向上後の平均熱効率 :50%(高位発熱量基準)

LNG の発熱量 :55MJ/kg(高位発熱量基準)

287.5×106[MWh]×3600[s]÷0.50÷55[MJ/kg]÷10,000,000=3764万トン

4174-3764=410 万トン (▲10%)

更新時期を迎えるガス火力は、その時点で利用可能な最高効率の技術を適用していくべ

きであろう。政策面では、運転開始年次に応じて最低限達成すべき効率基準を設けること

によって、効率の低いガス火力の早期退役と高効率火力の新設を誘導する措置が考えられ

る。また、高効率火力の立地が円滑に進むよう支援することが求められるが、この点から、

既に取り組みが進んでいる環境アセスメントの簡素化、短期化は適切といえる。

②最終消費部門における利用効率向上(効率基準の引き上げ、断熱強化)

最終消費部門での都市ガス利用に際しては、効率を極力高めることが求められる。利用

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者と利用方法が多岐に渡るため、省エネルギーの手法も多様である。先ずは、高効率な利

用機器の普及を後押しすることが求められる。この点では、既に複数の導入支援制度が存

在するため、これらの支援を継続、拡大することが考えられる。また、利用者のニーズや

技術開発の進捗に合わせて適宜支援内容を見直すことによって、利用しやすい制度とする

ことが求められる。

天然ガスの利用効率を高めるうえでは、コジェネレーションは有効な手法である。熱需

要の多い産業部門のみならず、暖房需要の多い北海道や東北、北陸地方など寒冷地の都市

部、あるいは暖房需要は標準的でも都市の密度が極めて高い東京中心部など、熱需要の集

積が見込める地域が対象となる。北欧で取られているような、熱供給事業者からの熱供給

を義務化するといった措置も考えられる。

民生部門の都市ガス需要の多くは、給湯や暖房である。これら用途の使用量を減らすた

めには、機器の効率化とともに、建物の断熱性能を向上させることが求められる。新築の

断熱基準を厳しくすることや、既存建築の断熱改修支援が考えられる。

③途上国の利用効率向上支援(途上国の輸入依存を抑制)

①および②では日本国内での対策について述べてきた。しかし、天然ガス利用国や LNG

輸入国が次第に増えている状況のなかでは、日本単独の取組みだけでは、世界はもとより

アジア地域の天然ガス需給緩和に与える効果は限定的とならざるを得ない。特にアジア地

域は天然ガス需要の拡大が著しく、この地域の天然ガス/LNG需給を緩和させることが必要

である。またことのことは当然、幾つかの産ガス国でみられる国内供給優先・輸出抑制と

いった政策を回避する意味でも、重要な取組みである。

図 4-2-3 LNG輸入量の国別比率

2012年219百万トン

日本

36%

韓国

15%中国

6%

インド

5%

台湾

5%

スペイン

6%

イギリス

4%

その他

6%米国:1%メキシコ:1%

アルゼンチン:1%

フランス:3%

その他:1%

イタリア:2%その他:2%

トルコ:2%

中東2%米州

10%

欧州20%

アジア69%

(出所)GIIGNL, The LNG Industry in 2012

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アジア地域で求められる需要対策は、①および②に示したものと変わりない。すなわち、

発電効率の向上や都市ガス利用機器の高効率化、断熱性能の向上などである。問題は、ア

ジアの途上国の多くでは、こうしたエネルギー利用効率向上に対する投資を行うためのリ

ソースが不足している場合が多く見られる点である。例えば、高効率設備の導入を計画す

るノウハウを有する人材、設備の製造能力、必要な資金の確保といったものである。また、

場合によっては省エネルギーに対する意識が希薄であることも課題となる。これは、省エ

ネルギーに関する教育がされていない、あるいは天然ガス価格が極めて安いため省エネル

ギー活動に経済合理性がない、といったことが要因となっている。

翻って日本は、1970 年代の石油危機以降地道に省エネルギーに取り組んできたという、

豊富な経験がある。そのため、政策策定支援や人材育成、技術移転、製品輸出、投融資な

ど、あらゆる側面でアジアの国々における天然ガス利用効率向上を支援することが可能で

ある。こうした支援活動はアジア地域の天然ガス需給緩和というメリットを日本にもたら

すばかりでなく、日本はインフラ、製品輸出というビジネス上の利益も享受することが可

能であり、前向きに取り組むべきであろう。

4-3 流動性の向上による地域間需給格差の解消

上述の各種対策によって日本あるいはアジアの天然ガス需給バランスが改善したとして

も、その程度が世界の他の市場と比較して相対的に緊張した状態にあれば、日本向け LNG

価格は北米や欧州市場と比較して割高なものにとどまる可能性がある。

残念ながら世界全体でみると、今後アジア地域は北米や欧州と比較して相対的に需給が

緊張し易い環境におかれる可能性がある。それは、アジア地域は世界でもっとも需要拡大

速度が早い地域であると同時に、東南アジアの天然ガス産出国の多くで生産量の減退傾向

がみられるためである。そのためアジア地域では、自身の需給バランスを改善することと

同時に、需給が緩和する傾向にある北米および欧州が享受している安い天然ガス価格のメ

リットを、如何にアジア市場にまで波及させ取り込むか、ということを考える必要がある。

世界の天然ガス市場は大きく北米、欧州、アジアの 3 つに分かれているが、その時々の

需給環境や価格差に応じた市場間の裁定取引はあまり活発に行われていない。このことが、

地域間の価格差を過度に大きくする、あるいは固定化する要因となっている。

他方原油取引では、市場間の価格差をみた現物と金融両面での裁定取引が活発に行われ

ており、市場間の価格差を小さくする機能が働いている。天然ガスの国際市場においても、

このような市場間の需給や価格差を反映した短期取引を活発化させることによって、現在

見られるような市場間の極端な値差を回避できる可能性がある(ただし、値差をゼロにす

ることはできない)。

では、市場間の裁定取引を阻害している要因は何であろうか。要因として次のようなも

のが考えられる。

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・ 歴史的に長期契約が主流で、スポット取引が少ない

・ 調達契約における転売禁止、仕向け地規制の存在

・ アジアの天然ガス需給状態を発信する価格指標が不在

・ 現物取引に必要なインフラ(LNG船)の不足

・ 品質が大きく異なる LNGの受入れ量に制限がある

これらは全て、第 2章「天然ガス・LNG市場の制約要因」で取り上げた要素と同一である。

これら制約要因の解消に向けた方策は第 2 章で示したとおりであり、それらを着実に推進

することで国際市場間の価格差を縮小することが求められる。

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第 5 章 他の消費国の取り組み事例

5-1 調達相手国・企業の多角化

これは、LNGの調達相手を国あるいは企業単位で多様化することによって LNG調達の選択

肢を増やすことで、より条件の良い契約を獲得する機会を増し、また特定の調達先に依存

することによるリスクを低減することを目的としたものである。

近年見られる事例としては、次のようなものを挙げることができる。

番号 企業名/国名 概要

① Polskie LNG

/ポーランド

ポーランドのロシアへのガス依存度低減を目的に新規に

LNGを導入。

② Klaipedos Nafta

/リトアニア

リトアニアのロシア一国へのガス依存度低減を目的に新規

に LNGを導入。

③ Petro China/中国 ロシアとのガス購入交渉がまとまらない中、増加する需要

をまかなうため新規にトルクメニスタンからガスを購入。

④ 東京ガス/日本 LNGの購入先、契約交渉時期を分散化する。

⑤ 大阪ガス/日本

INPEX/日本

購入先を特定せず、供給元の保有するポートフォリオの中

から供給を受ける。

⑥ 中部電力/日本 1社から集中して LNGを購入することで購入数量を増やし、

有利な購入条件を得る。

①ポーランドPolskie LNGのLNG輸入計画(調達相手国の分散、欧州)33

ポーランドは国内石炭資源が豊富で、2011 年は 2,500PJ の国内産石炭を生産しており一

次エネルギー消費における石炭の割合も 54%と高く、石炭はほぼ自給自足となっている。

一方天然ガスに関しては、国内産天然ガスの割合は一次エネルギー消費の 30%程度であり、

残りは国外からの輸入に依存している。天然ガスの輸入先としては 7割がロシア、2割がウ

ズベキスタン、トルクメニスタン、カザフスタンの中央アジア 3 カ国、残りの 1 割がドイ

ツとノルウェーとなっている。天然ガスの大部分をロシアの Gazprom から輸入するポーラ

ンドは、エネルギー安全保障上の観点から、2006 年から LNG 生産者と LNG 輸入に関する協

議を開始していたが、ウクライナ Naftgazとロシア Gazpromの 2009年のガス紛争によりハ

ンガリーやオーストリアと同様、ロシアからのガス供給停止の被害を受けたことから、ポ

33 Swinoujscie LNG Gas Terminal, http://www.hydrocarbons-technology.com/projects/swinoujscie/ PGNiGと Qatargas、LNG売買契約締結

http://www.qatargas.com/English/MediaCenter/PressReleases/2009/Pages/Article_40.aspx

http://www.icis.com/heren/articles/2009/06/26/9312381/qatargas-polish-deal-to-be-signed-on-mon

day-after-pgnig-approval.html

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ーランド北西部バルト海沿岸の Swinoujscie に LNG 受入基地を建設することを決定した。

Swinoujscie が選定された理由は、大きな港を持つ Gdansk と比較しても大型の LNG 船を受

け入れるのに有利で、発電所や化学プラント等の大口需要家に近いためである。

2008年に Suez-Tractebelを含む SNC-Lavalinグループが LNG受入基地の FEEDを実施し、

2011年に EPCを Saipem SpAが獲得した。ポーランドのガス配給事業者 PGNiGとしては、2014

年 6月からの運用開始を希望している。LNGについては 2014年から 2034年の 20年間、PGNiG

と Qatargasの間で年間 1.6bcmの LNGを ex-shipで購入する契約を締結済みである。

PGNiG は Qatargas と契約をすることでロシアへの依存度を下げることは実現できたが、

Gazprom よりも有利な価格条件での契約は出来なかった模様である。ロシア Gazpromとのパ

イプラインガス購入価格は、50-70%の石油製品連動と言われている一方、Qatargas との契

約は Blent 連動で傾き 16%とされており、熱量ベースの石油等価に近い。Blent 価格が 100

ドル前後と高止まりしている現状では、Gazpromから購入するパイプラインガスよりも高い

LNG を購入することになり、調達相手国を多様化という点では効果的であるものの、経済性

の面からはマイナスとなる可能性がある。今後はこのポジションを生かして、安価で柔軟

性の高い LNG 契約を獲得していくことが必要である。

②リトアニア Klaipedos Naftaの LNG輸入計画(調達相手国の分散、欧州)

リトアニアは 1994 年の第二次世界大戦時にリトアニア・ソビエト社会主義共和国として

ソビエト連邦に編入されたが、1990 年に独立を果たし 2004年 NATOと EUに加盟した。エネ

ルギーの面では現在でもロシアにエネルギー供給の 8 割を依存しており、ロシアへのエネ

ルギー一極依存から脱却するため、ビサギナス原発の建設の検討、リトアニアとスウェー

デン、リトアニアとポーランドをつなぐ電力接続網の建設計画、LNG受入基地の建設が進め

られている。

LNG受入基地はバルト海沿岸にFSRU(浮体式再ガス化施設)を設置する計画 34

NBPリンクでのLNG調達が常に石油製品連動価格での調達よりも安くなるわけではないが、

複数の調達先を持つことは Gazprom との今後のパイプランガス購入交渉でもひとつのカー

ドとなり、そのためには NBP 価格の変動も許容するという判断を Klaipedos Nafta は下し

たと思われる。今後 Gazprom とのパイプランガス購入価格交渉で価格低減を引き出せるか

である。Hoegh

LNGから 10 年契約でFSRUを傭船し、契約では 10 年後の買取オプションを含んでいる。LNG

の購入価格はNBPリンクを計画しており、2011年の平均NBP価格で試算すると、LNG調達量に

もよるが、Gazpromから全量石油製品連動価格で購入するよりも最大 10%安く購入できる見

込みである。試算上は 100%LNGに切り替えた方が天然ガス調達費は安くなるが、今後のNBP

価格の変動リスクや、供給源の多様化という観点から、現在の計画では 2/3をLNGに切り替

え、残りの 1/3 は従来どおりGazpromから購入する予定である。LNG受入基地と付属施設は

2012年に建設が開始され、2014 年 12月の完成を目指している。

34 Klaipedos Nafta, Lithuania, LNG business plan_20130220, http://www.oil.lt/

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は交渉次第である。

③中国のトルクメニスタンからのガス輸入(調達相手国の分散、中国)

中央アジア 3 カ国(カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)と中国コルガ

スを結ぶ中央アジア天然ガスパイプラインが 2009 年末に開通し、中国国内の西気東輸パ

イプラインと連結することで、中央アジアからの天然ガス輸入が始まった 35

一方、中国との天然ガス取引の開始は、中央アジア 3 カ国にとっても販売先の多様化と

いう面で望ましいものであった。中央アジア 3 カ国の石油・天然ガスパイプラインは長い

間旧ソ連(ロシア)にコントロールされ、輸出価格も国際市場価格より遥かに低く設定さ

れてきた。中央アジア天然ガスパイプライン開通により、中央アジア諸国としては新たな

東方への輸出ルートが開かれ、対ロシアの輸出依存度を下げることができるようになった。

。2012

年の中央アジア天然ガスパイプラインから中国へのガス輸送量は約 60bcmで、内訳

は 40bcmがトルクメニスタン産、残り 20bcmがカザフスタンとウズベキスタン産と言わ

れている。トルクメニスタンでは同国最大のGalkynysh鉱区からの天然ガス生産が 2013 年

から開始予定で、中国とトルクメニスタンは今後中国向けの天然ガス輸出を 65bcmまで増や

すことで 2011年に合意している。中国にとっては旺盛な国内ガス需要を賄う新たな供給先

が増えたことが最大のメリットであるが、難航する中露天然ガス交渉においてもロシアを

牽制する中国側のカードが 1枚増える意義は大きい。

このケースでは売主、買主ともにメリットのある契約であったが、中国が自らの投資で

中国国内の西気東輸ガスパイプラインを建設していたからこそ中央アジアからのガスを輸

入できた点を忘れてはならない。調達相手国の分散と共に、国内のガスインフラの着実な

整備が必要である。

④東京ガスの LNG 調達先分散(調達相手国の分散、日本)

LNG調達先分散は多くの日本の電力ガス会社で取り組んでおり、一例として東京ガスを取

り上げる。東京ガスの 2012年度のLNG輸入量は 1,148万トンであり、輸入元はマレーシア、

オーストラリア、ブルネイ、インドネシア、ロシア等である 36

。2012 年 3 月末現在の東京

ガスのLNG長期契約量を図 5-1 に示す。マレーシアⅠの契約が 260 万トン/年と突出してい

るが、他の契約はおおむね 1件当たり 100万トン/前後であり、特に 2000年代半ば以降は、

1~2年間隔で 100万トン/年強の契約が並んでいる。総契約量は 1,605万トン/年であり、1

件当たりの契約量で割ると 15件程度に契約を分散しており、契約更改時期も重ならないよ

うになっている。

35 中国とトルクメニスタン、天然ガスの大量輸送で合意、人民網日本語版 2011年 11月 29日

http://j.people.com.cn/95952/7660269.html 36 東京ガス、原料関連データ、2012年 3月期

http://www.tokyo-gas.co.jp/IR/library/pdf/investor/ig1206.pdf

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69

図 5-1-1 東京ガスの LNG長期契約量

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

ブル

ネイ(197

2)

マレー

シア

Ⅰ(198

3)

西豪

州(198

9)

イン

ドネシア

(199

4)

マレー

シア

Ⅱ(199

5)

カター

ル(199

7)

マレー

シア

Ⅲ(200

4)

西豪

州拡

張(200

4)

ダー

ウィン

(200

6)

サハ

リン

Ⅱ(200

9)

プル

ート(

2012

)

ブル

ネイ(201

3)

ゴー

ゴン

(201

4)

QCL

NG(201

5)

イクシ

ス(201

7)

LN

G年

間契

約量

(千ト

ン)

(出所)東京ガス、原料関連データ、2012年 3月期

このように契約を分散することで、ほぼ毎年新規 LNG 契約の交渉ができるようになり、

FID が近い複数のプロジェクトを競合させることが可能となる。売主同士を競合させること

で、より買主側に有利な契約条件を獲得できる可能性が高まると思われる。これ以外にも

セキュリティの向上という面では、ある LNG 出荷基地でトラブルが生じ出荷ができなくな

っても他の基地での生産量を増やすことが可能となるほか、地理的に分散していれば、台

風等の自然災害により被害のリスクを分散することができる。また、実務面では契約更改

の時期が重ならないことによる交渉スタッフの負荷低減も指摘しておきたい。

一方デメリットとしては、最近の LNG出荷設備の容量が 1系列あたり 300万トン/年程度

であり、単独では 1 系列すべてを購入することができず、共同購入のパートナーが必要と

なる点がある。価格面では 1系列全体を購入できる競合他社(韓国 KOGAS、インド GAIL等)

と比較すると、不利になっている可能性がある。また、共同購入では契約条件交渉におけ

る各社の優先順位の違いから、単独購入よりもより綿密な買主側の調整が必要となり、契

約交渉が長期化するリスクもある。

LNG プロジェクトの黎明期にはまとまった購入量を確保するため共同購入の形を取るこ

とが多かったが、その後各社の調達方針等の違いにより、個別に契約する方向に変わって

きている。再び 1系列規模の単位まで購入単位をまとめることも一つの方策と思われる。

⑤大阪ガスのシェル・イースタン・トレーディング社とのポートフォリオ供給契約、INPEX

の直江津 LNG 基地向け LNG売買契約(供給元の分散、日本)

買主が 1 件ずつ供給先を増やして多様化する方法とは別に、中間取引者を利用して分散

する方法もある。例えば大阪ガスがシェルグループの 100%子会社シェル・イースタン・ト

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レーディング社と結んだポートフォリオ供給契約がある 37

またINPEXの直江津LNG基地向けのLNG売買契約は、INPEXがオペレーターとして開発中の

オーストラリアのイクシスLNGプロジェクト等から自社受入基地向けにLNG調達を行う計画

において、同プロジェクトが本格生産に至るまでの間のLNGを確保すべく、中部電力との間

でLNG売買契約を締結したもので、期間や数量も限定された契約である

。これは、売主が保有する複数の

供給源からLNGを調達することで、調達における安定性を高めることに加え、生産開始遅延

によって生じる調達上のリスクを低減するものである。しかし、このような契約によって

LNGの購入価格が低減できるかどうかは現時点では未知数である。売主が全世界に多くの供

給源を保有しており、価格指標の異なる複数の調達源を組み合わせて平均価格を下げるこ

とができれば、アジアの石油価格連動で最も高価なLNGを購入している買主であれば、購入

価格は安くなるかも知れない。しかし、全世界に多くの供給源を保有していてこのような

条件を提示できる会社は石油メジャーだけであり、売主側が仕入れの詳細を開示する必要

は無いことから価格構造は買主には不透明で、売主が安価な購入価格を提示するかどうか

は疑わしい。

38

。しかし日本の大

手LNG輸入者であった中部電力が、自社のポートフォリオを活用し、売主のポジションを取

った意義は大きい。LNG契約数量の拡大、引き取り量や時期の柔軟性を高めて行けばこのよ

うな契約を結ぶことも可能となり、LNG取引の柔軟性向上に繋がる。価格を引き下げること

ができるかどうかは、売主側がどれだけ安価なLNG購入契約を保有しているかに影響される

が、今回のケースでは中部電力の保有する売主とのLNG売買契約を考えると、大幅な価格低

下は期待できない。

⑥中部電力のカタールカタールからのガス購入(供給元の集中化)

今までのケースはLNGの購入先を地域的、時間的に分散化することで、より条件の良い契

約を獲得していこうという動きであったが、これとは逆に購入先を 1 社に集約し、購入量

を増加することでLNG調達価格の低減を図る試みがなされている 39

中部電力は 2013年 5月現在、合計約 900万トン/年、9本の LNG長期購入契約を持ってい

るが、このうち 500 万トン/年、2本がカタールとの長期契約である。また 2013年のスポッ

トを含む LNG 購入量 1,400万トン/年のうち、カタールからの購入が約 60%、850万トン/

年を占めており、カタールからの購入が突出している。2012 年にはカタールからのスポッ

37 シェル・イースタン・トレーディング社との液化天然ガス(LNG)売買契約の締結について

2010年 7月 7日 、大阪ガス株式会社

http://www.osakagas.co.jp/company/press/pr_2010/1190151_2408.html 38 直江津 LNG基地向け 中部電力との液化天然ガス(LNG)売買契約の締結について

2013年 7月 31日、国際石油開発帝石株式会社

http://www.inpex.co.jp/news/pdf/2013/20130731-a.pdf 39 中部電力 2013年 3月期(2012年度)年度決算説明会資料、P36

http://www.chuden.co.jp/corporate/ir/ir_siryo/setsumeikai/__icsFiles/afieldfile/2013/05/09/set

sumeikai-20130509.pdf

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ト LNG 購入量がかなりの量を占めているが、これは浜岡原子力発電所停止に伴う代替 LNG

需要のためである。このように 1社から 800万トン/年以上の LNGを購入しているケースは

少ない。今回は震災影響という非常事態でもあり、カタール側も大口の契約者である中部

電力が原発停止により追加 LNG を必要としているのを見て、善意で従来の契約よりも原油

連動の係数を緩くした条件での追加の LNG供給に応じたとされている。

しかしカタールとしても善意だけで条件の緩和に同意したのではなく、背景には欧州の

景気後退による欧州向け LNG 販売の低迷があるとされる。元々カタールの LNG は北米向け

に計画されたが、シェールガス革命により北米への輸出の見込みは無くなり、その分を欧

州向けに振り分けていた。ところがその欧州でも景気低迷によりガス需要が減退し、ロシ

ア、ノルウェー、アルジェリア等のパイプラインガスが豊富に供給されていることから、

欧州向けの LNG は想定していたほどには売れなくなってしまった。2010 年前後にはカター

ルが建造したばかりの大型 LNG 輸送船も、港で停泊していることが多くなった。このよう

な状況の中で、日本で東北大震災が発生し原子力発電所が停止したことから、東アジアで

の LNG 需要が急激に高まり、余っていた LNG の行き先が見つかったというのが真相と思わ

れる。

現在カタールの余剰 LNG は日本が吸収している形になっているが、今後日本の原子力発

電所が再稼動すれば、東アジアの LNG 需給は緩むと予想される。今後の価格改定交渉のタ

イミングにおいて、その時の需給動向次第では、購買力を生かした価格低減が可能になる

かもしれない。

⑦共同調達

中部電力は韓国KOGASと共同で、2013 年からの 5 年間に合計 28 隻分のLNGを伊ENIから購

入することに合意した 40

イクシスLNGプロジェクトはINPEXがオペレーターを務める日の丸プロジェクトで、生産

量の約 70%が日本向けである。買主は日本企業が 8社で、他社との共同調達によるスケール

メリットを生かした経済的な調達ができた可能性がある

。購入するLNGは両社間で融通し合うことが可能であり、調達の安

定性および柔軟性の向上に繋がる。価格についての公開情報は無いが、KOGASは冬季に需要

のピークがあるのに対し、中部電力は夏季に需要のピークがあるので、両社間で季節間変

動を打ち消しあうことができ、年間を通じたLNGの受入が可能となるメリットがある。売主

にも出荷スケジュール平準化のメリットがあるので、交渉により調達価格が安くなった可

能性がある。

41

40 中部電力と KOGAS共同購入

http://www.chuden.co.jp/corporate/publicity/pub_release/press/3207187_6926.html 41 イクシス LNGプロジェクト、電力ガス各社 LNG共同購入

http://www.kyuden.co.jp/rate_application_faq_q1-16.html

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5-2 輸送方式の多角化

2010 年の全世界のガス貿易のうち、パイプラインによるものが 69%、LNGによるものが

31%となっており、両分野で輸送方式を多様化することで、ガス価格の低減を目指した試

みがなされている 42

番号 企業名/国名 概要

① Nord Stream

South Stream

ガス産出国主導でのガス輸送パイプラインの建設。

② Trans Adriatic

Pipeline (TAP)

ガス輸入国主導でのガス輸送パイプラインの建設。

③ LNGで Ex-ship 契約か

ら FOB契約へ

LNG輸送における保険手配と責任範囲の変更。

④ 買主の自主管理LNG船

の拡大

LNG輸送船の管理を売主手配から買主手配へ。

⑤ プロジェクトを特定

しない LNG船

特定のプロジェクトに紐付けされていない LNG船の建造

①Nord Stream、South Streamへの輸入企業の資本参加

豊富な天然ガス資源を持つロシアは冷戦時代以前から、西欧に大量の天然ガスを供給し

ていた。ソ連崩壊の後、ウクライナやベラルーシが独立すると、特にウクライナとはガス

の販売価格についての紛争が頻発するようになり、西欧諸国へのガスの安定供給が脅かさ

れるようになってきた。ロシアとしては両国を経由せず、直接西欧諸国へガスを販売でき

る手段を必要としていた。そのような状況の中、2009 年 1 月のロシア・ウクライナガス紛

争の影響で、東欧を中心にロシアからのガス供給が中断することとなった。この事件以降、

ガスの通過国との紛争で欧州へのガス供給が中断されることの無いように、ウクライナや

ベラルーシを通過しないパイプラインの建設に拍車がかかった。

ウクライナとベラルーシを北方から迂回するNord Streamパイプラインは、バルト海底を

経由し、ロシアからドイツに直接ガスを送るパイプラインである 43

一方、South Streamパイプラインはウクライナとベラルーシを南方から迂回するもので、

。運営会社としてNord

Stream AG.が設立されGazpromが 51%の過半の株式を保有し、他には独化学メーカーBASF子

会社のWintershallが 15.5%、独E.ONが 15.5%、蘭Gasuniが 9%、仏GDF SUEZが 9%の株式を保

有する。全長 1,224km、2 本の海底パイプラインで、1 本目が 2011 年 11 月、2 本目が 2012

年 10月に運用開始した。合計ガス輸送量は 27.5 bcm/年となる。

42 ENI World Oil and Gas Review 2011 http://www.eni.com/world-oil-gas-review/pages/gas-international_trade-87.html 43 Nord Stream AG, http://www.nord-stream.com/about-us/our-shareholders/

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黒海を横断しブルガリアで陸揚げした後はセルビア、ハンガリー、オーストリアとつなぐ

ルートと、ギリシャを経由してイタリアに繋ぐルートが計画されている 44

両プロジェクトとも Gazprom が主導するプロジェクトであり、買主は少数出資者として

プロジェクトに参加している。供給ルートが多様化してガスの供給安定性向上には役立つ

が、基本的に Gazpromの影響下にあり、価格の低下に繋がるとは期待できない。

。2008年にGazprom

と伊Eniの折半出資で事業会社South Stream AGが設立され、2013 年のパイプライン建設開

始、2015年にガス供給開始を予定している。

②自主パイプラインガス輸送プロジェクト(Nabucco、TAP)

Nabuccoプロジェクトは、トルコと東欧諸国を経由しカスピ海地域および中東地域の天然

ガスをEU諸国に供給するするプロジェクトで、2002年にオーストリアのOMV、ハンガリーの

MOL、ブルガリアのBulgagas、ルーマニアのTransgaz、トルコのBotasの計 5 社で建設合意

書に署名がなされた 45

Nabucco プロジェクトは上記 South Stream プロジェクトとルートが競合する。South

Stream プロジェクトのパートナーの伊 Eni からは両プロジェクト統合の提案があったが、

合意できなかった。また Nabucco プロジェクトは天然ガス供給源として中央アジア諸国を

想定しているが、アゼルバイジャンの Shah Denizガス田のみでは需要を賄うのに十分なガ

スは供給できないとされており、近隣で豊富が天然ガス資源を有するトルクメニスタンは

ガス供給に対し何もコミットしていない。もう一つの有力供給先とされるイランはアメリ

カ合衆国よりプロジェクトへの参加が拒否されている。現時点では Shah Deniz ガス

田第 2期プロジェクトが有力視されている。資金面では欧州投資銀行・欧州復興開発銀

行・国際金融公社等がプロジェクトへの融資を通じ支援を表明しているが、不確定要

因が多いため計画は遅れがちであった。2013 年時点では Nabucco プロジェクトを縮小

した、トルコからオーストリアまでの Nabucco Westを先行して事業化することが検討され

ていた。

。本プロジェクトは、中央アジアからロシアを経由せずガスを

輸入することで、ヨーロッパへの天然ガスの最大の供給者であったロシアへの依存

度を軽減させ、欧州のエネルギー供給元を多様化するものである。欧州連合および

アメリカ合衆国が計画を後押ししている。

Trans Adriatic Pipeline(TAP)プロジェクトはアゼルバイジャンのShah Denizガス田第 2

期プロジェクトのガスをトルコ、ギリシャを経由しアドリア海を横断してイタリア南部に

送るもので、ギリシャDEPAとイタリアEdiosnのJVで事業を進めている 46

44 South Stream AG, http://www.south-stream.info/en/

。パイプラインは全

長約 800kmとなる。本プロジェクトは上記Nabuccoプロジェクトとガス供給源やルートが競

合しており、2013 年にどちらかのプロジェクトが決定されることになっていた。2013 年 6

45 Nabucco gas pipeline, http://www.nabucco-pipeline.com/portal/page/portal/en 46 Trans Adriatic Pipeline (TAP), http://www.trans-adriatic-pipeline.com/

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月 27日にTAPが勝利したとの報道があった。

これらのパイプランはロシアを経由せずカスピ海のガスを直接欧州が購入できるので、

エネルギーの安全保障面ではメリットが大きい。ロシアよりも安価なガスを入手できるか

どうかは、中央アジア諸国のガス販売価格、ガス田の開発コスト、パイプランの建設コス

トに依存しており、現時点では見通しは不透明である。

③LNGで Ex-ship 契約から FOB契約へ

日本向けLNGの売買契約では、売主が船を手配し買主の港まで輸送のコストと保険を負担

するEx-ship契約が多かった。これはLNG導入の初期段階では海上輸送のリスクを買主が取

ることが出来ず、売主が船の手配等を行ったことによる。順次LNGプロジェクトが増えてく

るに連れて、買主側も事情がわかりリスクを取れるようになってくると、積み地でLNGの所

有権を売主から買主に移転し、海上輸送の船の手配と保険を買主が行うFOB契約が徐々に増

えてきた。FOB契約を導入することで、LNGの輸送にかかるコストが買主側でも把握できる

ようになり、LNG購入価格の低減が可能となった 47

④自主管理 LNG船の拡大

FOB契約ではLNG輸送船の手配が買主側の責任となることから、自前のLNG船を保有する

ことが可能となる。日本のユーティリティ各社は自社単独あるいは船会社と共同で、LNG船

の所有や運行管理を行う子会社を設立し、その会社を通じて船を所有し、運行管理を行う

ようになった。これらの船は基本的にはプロジェクト専用船で、決まったプロジェクトに

張り付き、積み地と受入基地を往復しているが、LNG出荷基地の建設遅延等でLNG輸出基地

完成前に船が竣工した場合や、需給調整で船のスケジュールに空きが出た場合には、船の

貸し出しも行われている。自主管理LNG船の利用を拡大することで、輸送コストの低減が可

能となる 48

⑤プロジェクトを特定しない LNG 輸送船の建造

最近では欧州の船会社を中心に、プロジェクトが決まっていない LNG 船を建造する動き

がある。従来の LNG 船建造はプロジェクトと一体で、基本的には一つのプロジェクトの LNG

輸送だけに従事するものであったが、最近の LNG スポット市場の発展と共に、いくつかの

船会社がリスクを取り、プロジェクトを特定しない LNG船の建造が増えている。

その背景としては石油タンカーやバラ積み船と比べLNG船の数がまだまだ少ない点があ

47 世界の LNG船市場に係る調査、IEEJ HP 10月、P25, http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1359.pdf

我が国における LNG取引の方向性、2002年 7月

http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=200207_001a.pdf&id=463 48 Naming of new LNG carrier, TLT, http://www.tokyo-gas.co.jp/Press_e/20110706-01e.pdf LNG船の保有を目的とした新会社の設立について、平成 17年 11 月、東京電力

http://www.tepco.co.jp/cc/press/05112401-j.html

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る。スポットLNG船の市況はその時々の需要と供給に応じ大きく変動し、傭船料もわずか 1

年で 2倍以上に上昇したりする。今後も世界のLNG取引は拡大する可能性が高く、スポット

市場の拡大も見込まれることから、船会社としてはリスクを取っても十分商機があると見

ているのであろう。このようなLNG輸送船が増えてくればLNG船の間での競争が進み、傭船

料の低下を通じガス調達価格の低減が可能となる 49

5-3 価格フォーミュラの工夫、多角化

①欧州におけるガス価格のスポット市場連動比率拡大への取り組み

2011 年以降 Brent 価格が 105US ドル±5 ドルで推移している中、欧州の天然ガス調達は

石油製品に連動して決まる契約が多く、石油価格の高騰と共にガス価格も高止まりしてい

る。一方でリーマンショック以降、欧州景気は一時回復したもののその後は減速傾向で、

エネルギー需要も頭打ちとなり、天然ガスの需要も横ばいが続いている。このような状況

の中、米国のシェールガス革命で米州でのガス価格が低下し、ガスの利用が進んだことか

ら余剰となった石炭が欧州に流れ込み、欧州では米国とは逆に発電の石炭シフトが起こり、

欧州のガスの需要はよりいっそう低迷することとなった。LNGのスポット需要も低調で、そ

れに合わせスポット価格も低下した。

欧州のユーティリティ企業は、石油製品連動の長期契約のガス価格が高いため、契約下

限までガス購入量を削減し、スポットでのガス調達を増やした。また市況によっては、ペ

ナルティを支払ってもスポット調達を増やしたほうが安価になる場合もあり、実際に欧州

のユーティリティ各社でペナルティを払ってパイプラインガス購入量を削減した例もある。

このような状況で欧州ユーティティ企業の収益は急激に悪化したため、相対交渉や調停等

様々な手段を使い、Gazpromとの長期ガス購入契約の見直しに臨むこととなった。

最初に契約見直しに合意したのは独 Wingas、伊 Eni、仏 GDF SUEZの 3社である。契約締

結時点に遡って 10%の価格低減で合意した。この価格割引を通じ、3 社合計で合計 6 億 US

ドルが還元され、大部分は Eni に行ったと報道されている。Wingas は Gazprom と

Whintershall の合弁会社で、基本的に Gazprom の支配下にあるためできるだけ値下げ幅を

縮小したい Gazprom側の意向で動いたと見られ、Eniは 10%という価格引き下げ幅ではある

ものの、今回の合意で実利面での利益が多かったことから双方合意に至ったと推定される。

一方の独E.ON、独RWE、ポーランドPGNiGは継続交渉となった。E.ONは 100%スポットマー

ケット連動での契約を求めたが、Gazpromも引かず、最終的にはE.ONの半期決算に 10 億US

ドルの利益を与える取引で合意した。 E.ONは国際商業会議所国際仲裁裁判所

(International Court of Arbitration of the International Chamber of Commerce)に裁

判を起こしていたが、拘束力ある仲裁ではなく和解を選択した。Gazpromとの合意内容は

49 Speculative ships show on the horizon、10 April 2013、Tradewinds

http://www.tradewindsnews.com/weekly/2013-04-12/article315353.ece5

Dynagas, Greece, http://www.dynagas.com/index.html

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Wingas等との合意と基本的に同じと推定され、詳細は明らかになっていないが、石油製品

連動の枠組みは維持しつつ、スポット連動割合を増加したとの情報もある。Gazpromとして

は石油製品連動を維持できた一方、E.ONとしても 100%スポットマーケット連動は実現でき

なかったが、スポット連動割合を増やすことができたことで一定の前進は見られた。残る

交渉相手は、RWE、PGNiGであるが、本合意を基本としつつ交渉が進むと思われる 50

価格フォーミュラの改定は非常にタフな交渉で売主側もなかなか譲歩しない。欧州であ

る程度の価格見直しに成功した理由の一つとして、流動性の高まりつつあるスポットマー

ケットの存在がある。日本で JCC リンク以外の契約形態を望む際には、流動性の高いアジ

アのスポットマーケットの指標を持つことは必要である。

②アジア LNGの JCCリンク、Sカーブ、ジェントルスロープ

1970 年代の LNG 導入初期、天然ガスは石油の代替燃料として導入されることから、原油

リンクでの値決め方式が導入された。その後売主側から LNG プロジェクトの経済性を確保

するために、原油価格がある上下限を越えた場合に傾きが緩やかになる S カーブの導入提

案があり、買主側も同意した。売主側にとっては原油価格が下落しても LNG 価格がある程

度のレベルを保つことにメリットを見出していた。また CNOOC の広東大鵬 LNG 受入基地向

けの契約では、価格上限も導入された。

その後の原油価格の高騰で、多くの S カーブ導入契約で適用範囲の上限を超えて原油価

格が推移することとなった。契約見直し交渉が売主と買主の間で行われるものの、合意で

きない状況が続き、買主側は Sカーブを延長した価格で代金を支払い続けている。CNOOCの

広東大鵬の契約では、さらに価格上限が導入されているので、スポット価格が 10 ドル/

MMBtuを超える場合であっても、3.20ドル/MMBtuで購入できており、現在から見れば極め

て買主に有利な契約となっている。ただし契約数量は少ない。

1990 年以降は S カーブの無い線形の価格算定式が導入され、傾きと切片が主な協議の対

象となった。切片は FOB契約ではゼロに近く、Ex-ship契約では顧客の LNG受入基地まで届

ける費用とされている。傾きも買主側はより緩やかな傾きを希望するが、売主側が 14-15%

以下の傾きで合意することはほとんど無い。

2000 年代になり、再び S カーブを導入する契約が見られるようになった。以前の S カー

ブは売主側の意向で導入され、原油価格が大幅に低下した場合に対する S カーブであった

が、新しい S カーブは買主側の意向で導入され、原油価格が大幅に上昇した場合にその影

響を低減する目的の S カーブである。S カーブの傾きが変わるポイントも幅広く、1970 年

代の Sカーブとは性格が異なるものである。

以上のようにLNGの契約もその時々の経済情勢により変化してきており、売主側も価格低

50 EON Raises Profit Forecast After Gazprom Gas Price Deal、Bloonberg, Jul 4, 2012

http://www.bloomberg.com/news/2012-07-03/eon-raises-profit-forecast-after-gazprom-gas-price-de

al.html

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減の交渉を行っているが、石油価格に連動するJCCリンクの基本は変わらない 51

③Take or Pay裁判

欧州企業のパイプランガス契約では、価格は石油製品連動で、あわせて買主側の引き取

り下限量が決められている場合が多い。チェコのガス輸入者 RWE Transgas はロシアの

Gazprom Exportとパイプライン経由で 9bcmのガスを購入する契約を結び、Take or Pay契

約により契約量の 90%は必ず引き取ることになっていた。

しかし景気低迷によるガス需要の減退と、石油価格高騰に伴うガス価格の高騰により、

決められた契約量の 90%を引き取ることが出来なくなってしまった。Gazpromは 2008-2011

年の間に使われなかったガスの代金として、5億USドルを支払うようにチェコの裁判所に訴

えたが、裁判所はチェコの会社はTake or Pay契約を結んでいたとしても、使わなかったガ

スについては支払う必要は無いとの判断を下した。さらに長期ガス輸入契約では輸入会社

はTake or Pay契約に定める最低引き取り量を削減する権利を持つとされた。Gazprom Export

は本判決を不服とし、上級裁判所へ控訴する見通しである 52

価格条件も含めて硬直的な契約は取引の実態に合わなくなってきている。当事者同士の

交渉で合意できない場合、裁判所に訴えて判断を仰ぐのも策である。

③仕向地条項撤廃

The Treaty on the Functioning of the European Union 101条及び 102条で、競争阻害

行為の禁止が規定されている。本規定では、事業者間の協定や、事業者団体の決定および

協調的行為であって、加盟国間の取引に影響を与える恐れがあり、かつ域内市場の競争機

能を阻害・制限・歪曲するものを禁止している。この条項を根拠にガス供給国側に仕向地

条項の撤廃を迫る動きがあった。

EU 機能条約による規定は域内の企業に対しては有効であるが、域外の国に対しては効力

を発しない。日本でのケースに当てはめると独占禁止法の適用が考えられるが、これも国

内の企業に対してのみ効力があり、外国の企業となると圧力をかけることは難しい。EU の

例に倣えば、TPP、日中韓 FTA、ASEAN+3 等の国際的枠組みの中で、域内市場の競争を妨げ

る契約は無効との交渉を行う方策が考えられる。

51 The pricing of internationally traded gas, Jonathan P. Stern The Oxford Institute for Energy Studies 52 Czech company wins case against Gazprom over ‘take or pay’, October 25, 2012

http://rt.com/business/czech-rwe-gazprom-dispute-212/

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欧州域内の例 ①Gasprom が Eni に供給したガスの仕向地条項、②GDF SUEZ が Eni

および ENEL に課した供給したガスをフランス国内での再販を禁じた

条項、の双方が EU機能条約 101条違反と認定されたもの。②は当事

者がすべて EU域内関係者であったため、欧州委員会の指導に従った。

①も関係者間で合意。

欧州域外の関係者

を巻き込んだ例

①ナイジェリアNLNGによる、EU顧客による国外への再販、利益配分条

項がEU機能条約 101条違反と認定されたもの。本件は関係者間で自主

的に規約の撤廃に合意 53

②アルジェリアSonatrach がEU顧客にガスを販売する場合に仕向地

制限が付いていたが、EU機能条約 101条に該当するとして、EU側は同

条項の撤廃をSonatrachに求めたもの。交渉は難航し、FOB契約では仕

向け地条項の撤廃に成功したものの、Ex-ship契約では仕向け地を変

更した場合の利益配分条項を認めることで合意。そのため、アルジェ

リアは契約更改のタイミングで順次FOB契約をEx-ship契約に切り替

えることで、実質は以前と変わらない利益配分を維持

54

④複数指標の組み合わせ

近年のLNG市場では複数の価格指標にリンクする契約が見られる。BG Groupの運営するチ

リのQuintero LNG輸入基地では、20%の基地の権利を持つEndesa ChiliがBG Groupとガス

購入契約を 2007 年に締結しており、21年間、170万トン/年のLNGを、BG Groupが全世界に

持つポートフォリオから供給するとされていた。価格の指標は当初はBlentリンク、途中か

らHHリンクとなる契約であった。しかし、アメリカでのシェールガス革命の影響でHH価格

が大幅に低下したことから、HHリンクでのガス供給ではBG groupが利益を確保できなくな

るため、Endesa Chiliと契約の再交渉が行われた 55

。Endesa Chiliにとっては優位に立てる

交渉であるが、これは契約締結時に、複数の価格指標にリンクすることに伴う価格変動の

リスクを取った結果に得られたものである。今回はHHが安くなったので安価なガスを入手

できたが、HHが高騰すればもちろんガス価格は高くなり、必ず安価なガスが入手できると

は限らない。購入者側でリスクを取った契約が出来るかどうかが鍵となる。

53 EC-ナイジェリア間の仕向地条項廃止に関する同意

http://europe.eu/rapid/press-release_IP-02-1869_en.htm 54 EUの仕向地条項撤廃への取り組み(アルジェリア)

http://ec.europe.eu/competition/publications/cpn/2007_3_19.pdf 55 Endesa Chiliと BG groupの Quintero契約再交渉

http://www.santiagotimes.cl/business/energy/26264-endesa-chile-and-bg-reach-deal-over-natural-

gas-prices

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79

5-4 自主開発プロジェクトへの参画・政府支援

ガスの輸入企業が上流権益を持つと、将来的な輸出価格変動のナチュラルヘッジ(価格

変動を自動的に相殺する仕組み)機能を得ることが出来る。たとえば米国から LNG を購入

する場合、米国の上流権益を保有していれば、米国産 LNG の購入価格が上昇しても、ちょ

うどその分、買収済み米国ガス鉱床権益からの利益も上昇するので、両者が相殺し、実質

的に買収した時点で調達コストが固定化できる。現在のようにヘンリーハブ価格が低位に

あり、かつ上流権益を合理的な値段で購入することができれば、ガスの買主にとってナチ

ュラルヘッジを用いた価格固定が有効である。日本の LNG の購入者(電力・ガス会社)に

とっては、米国の上流事業で利益を得ること自体よりも、この長期的な LNG 価格リスクの

ヘッジ機能が大きな意味を持つ。将来的に LNG 輸入のコスト上昇リスクを相殺できれば、

ガスの調達から販売まで含めた全体として十分な利益を得ることができる。

このようなナチュラルヘッジの効果を得るためには、上流の資源調達事業と下流の小売

事業の両方を持つ企業でなければならない。両部門が完全に別会社であれば、当然各社は

自社や自部門の利益最大化のために行動し、このような長期的な価格ヘッジの機能を追及

しようとする動きは起こらない。電力ガス市場の自由化が進んでいる英国において小売事

業を行っている Centricaが、英国内資源ではあるがガス田の権益取得に動いている目的は

このナチュラルヘッジ効果を得ることだと思われる。

この効果はガスの輸入者にとって等しく意味のある取り組みであるため、韓国 KOGAS、イ

ンド GAIL、中国 CNOOC 等各国のガス輸入者も、新規 LNG プロジェクトの最終投資決定のタ

イミングで、ガスの引き取り量にコミットすると同時に、上流権益の獲得に動いている。

①欧州ユーティリティ企業の上流権益獲得(BG group、GDF SUEZ、RWE、E.ON)

欧州のユーティリティ企業の上流権益獲得の動きとしては下記の例がある。British Gas

から分離したBG Group(現在は上流専業の会社となり、小売部門を持つ企業とは同一視で

きないかもしれない)は、オーストラリアを始めとする世界各地で積極的に上流権益に投

資している。その動きは在来型のガス田に限らず、非在来型のガス田にも広がっており、

オーストラリアでは世界初のCBM(コールベッドメタン)からのLNG輸出プロジェクトを手

がけている 56

またフランスのGDF SUEZはオーストラリアのBonaparte海盆でのガス田開発事業に乗り出

している。本ガス田はフランス本国からは遠く離れており、自らLNGを購入するというより

は、オペレーターとしてガス田を開発し、それをアジアを始めとする顧客に販売すること

を目指している。GDF SUEZは欧州ではユーティリティ企業のポジションであるが、太平洋

ではShellやTotalと同様のガス田開発事業者となっている。

57

56 BG group、Australia http://www.bg-group.com/OurBusiness/WhereWeOperate/Pages/Australia.aspx 57 GDF SUEZ、Bonaparte http://www.gdfsuez.com/wp-content/uploads/2012/05/bonaparte-uk.pdf

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80

②中国ユーティリティ企業の上流権益獲得(CNOOC、CNPC、Sinopec)

中国国営のエネルギー企業は積極的に上流権益の確保を進めている。CNOOCはオーストラ

リアのQCLNGプロジェクトにおいて、当初 5%の上流権益を保有していたが、500 万トン/年

の追加LNG契約に伴い、20%の上流権益を購入し合計 25%とした 58。CNPCもモザンビークの

オフショアガス田開発事業において、ENIが保有するArea4 の 70%の権益のうち 20%を 42

億USドルで購入することで合意した。また、この権益取得に合わせ、ENIは中国国内でCNPC

の保有するRongchangシェールガス田開発に取り組むことでも合意した 59。Sinopecは

Chesapeake Energyの保有するオクラホマ州とカンザス州のシェールオイル・ガス田権益を

10億USドルで購入することで合意した 60

③日本ユーティリティ企業の上流権益獲得(INPEX、関西電力)

日本のエネルギー関連企業も上流権益の取得を進めている。イクシスLNGプロジェクトは、

INPEXが日本企業で初めて操業主体(オペレーター)として事業を推進するLNGプロジェク

トで、2016 年末までに生産開始予定である。LNG生産量 840万トン/年、生産されるLNGの 7

割相当が日本へ輸入される予定である。日本のユーティリティ企業もLNG購入契約と同時に

プロジェクトの少数権益も購入している 61

プルートLNGプロジェクトは、2007 年 7 月から豪Woodsideが西豪州のCarnarvon海盆で進

めるものである。LNGは 15 年の長期契約で関西電力と東京ガスが売買契約を締結済みでる

が、売買契約と合わせて両社は各々ガス田の 5%の権益を保有することとなった

62

カナダのブリティッシュ・コロンビア州のCordova(コルドバ)堆積盆地のシェールガス

を中心とした天然ガス開発プロジェクトでは、JOGMEC、中部電力、東京ガス、大阪ガス、

三菱商事の 5 社が共同で事業を運営している。シェールガスは、近年の技術革新により北

米で低コストかつ大量に生産することが可能となったが、カナダ西部にも大量にシェール

ガス資源が存在する。今回のプロジェクトでは生産したガスは北米市場にて販売すること

になるが、コンソーシアム各社にとっては、保有資産の多様化が可能になると共に、シェ

ールガス開発の動向に関する有益な知見を得ることができる。また、将来的には、シェー

ルガスを液化天然ガス(LNG)として、日本へ輸入する可能性についても検討し、資源安定

調達と輸入ソースの多様化つなげることを目的にしている

63

58 Binding agreements signed for QCLNG stake sale and LNG supply

http://www.bg-group.com/MediaCentre/Press/Pages/6May2013.aspx 59 CNPC to buy stake in Eni's gas field offshore Mozambique, 2013/3/14 http://www.ogj.com/articles/2013/03/cnpc-to-buy-stake-in-eni-s-gas-field-offshore-mozambique.html 60 Sinopec to Buy Stake in Chesapeake Energy Asset, WSJ 25/02/2013 http://online.wsj.com/article/SB10001424127887324338604578325901158645038.html 61 INPEX, Ichthys Project, http://www.inpex.com.au/projects/ichthys-project.aspx 62 Pluto LNG Project, http://www.woodside.com.au/our-business/pluto/pages/default.aspx 63 中部電力、大阪ガス、コルドバシェールガス開発

http://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2011/html/0000012150.html

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④プロジェクトファイナンス

日本にとって重要な資源の海外における開発や取得に対しJBICが資金調達の支援を行っ

ている。イクシスLNGプロジェクトは生産されるLNGの 70%が日本向けであり、日本企業の

INPEXがオペレーターを務めることから、JBICの支援を受けている。イクシスLNGプロジェ

クトでは、国内外の輸出信用機関(Export Credit Agency、以下ECA)8 行および市中銀行

24行(これらECAおよび市中銀行を総称して、以下レンダー)等との間で、総額 200億米ド

ルを限度とするプロジェクトファイナンスに係る融資関連契約に調印しており、このうち

JBICは 50億米ドルを限度に融資する。JBICの 1件あたりの融資承諾額(米ドル建)として

は過去最大の規模 64

。日本企業としてはこのJBICの有利なファイナンスを活用し、有利な条

件の案件獲得に取り組んでいる。

5-5 非在来型天然ガスの調達促進

①北米シェールガス

アメリカのシェールガス革命により北米での天然ガス産出が大幅に増大し、天然ガスの

取引指標のひとつである HH 価格が他地域の価格と比較して、低位に留まっている。LNG 輸

出基地での液化コスト、LNG タンカーによる輸送コストを加えても、アジアに持ち込んだ場

合、高止まりの続く原油価格連動価格よりも安価になる可能性があり、日本を中心に多く

の会社が獲得に向けて取り組んでいる。

2013 年 5月には米国テキサス州のフリーポートLNGプロジェクトにおいて、米国エネルギ

ー省が自由貿易協定(FTA)未締結国向けの輸出許可を発行した。大阪ガスと中部電力はフ

リーポートLNGプロジェクトの第 1トレインにおける天然ガスの液化加工契約をフリーポー

ト社の子会社と提携しており、輸出許可を受けたことでプロジェクトが大きく前進した。

米国産LNGの調達は、供給ソースの分散および価格指標の多様化に貢献する。また今回の契

約では仕向地制限も無いことから、日本への持ち込みはもちろん、欧州への販売といった、

柔軟性の高いLNG調達・販売が可能となる 65

北米LNGの輸入については、欧州のユーティリティ企業も取り組んでいる。ドイツのE.ON

は 2013 年 5月カナダのPieridae Energyとの間で、シェールガスをLNGとして輸入すること

で合意した。詳細は明らかになっていないが、カナダ東海岸にLNG輸出基地を建設し、2020

年から 20年間、500 万トン/年程度のLNGを欧州に持ち込むものと見られる。基地のLNG輸出

能力は 1000 万トン/年を予定している

66

64 JBIC, Ichthys Project, http://www.jbic.go.jp/en/about/press/2012/1218-01/index.html 65 米国エネルギー省、Freeport LNGから非 FTA締結国への輸出許可、大阪ガス

http://www.osakagas.co.jp/company/press/pr_2013/1203599_7831.html 66 E.ON seals Canadian LNG on European natural gas hub indexing http://www.icis.com/heren/articles/2013/06/06/9675884/e.on+seals+canadian+lng+on+european+natu

ral+gas+hub.html

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②欧州シェールガス(ポーランド、英国)

欧州でもシェールガス鉱床が存在しており、いくつかの国で開発が行われている。最も

積極的にシェールガス開発を進めているのがポーランドであり、メジャー数社が開発に参

入した。2010年以来 44 本の試掘井が掘られたが、ガス産出の結果は思わしくなく、関係者

は地層構造の難しさを指摘している。2012年にExxon Mobilがポーランドのシェールガス開

発から撤退し、2013 年にはMarathonとTalismanもポーランドから撤退すると発表した。他

の石油メジャーではChevron撤退の噂もあり、ConocoPhillipsはまだ残っているが、ポーラ

ンドでのシェールガス開発は困難に直面している。一方で独立系の中小のシェールガス開

発事業者がポーランドでの開発に参入しており、引き続き評価試験を実施中である 67

英国もシェールガス開発に積極的に取り組んでいる。英国の独立系シェールガス開発会

社IGasは、自社がイングランド北西部に持つ鉱区の推定原始資源量を、従来見通しの 9 tcf

(255bcm)から、シェールガス 15.1 - 172.3 tcf(428-4,880bcm)、最も可能性高い数字

として 102 tcfに増加したと発表した。IGasによれば 1.5tcf(42bcm)/年のガス生産が可

能で、英国の輸入依存度を引き下げるのに役立つとしている。その他にはウクライナでも

いくつかの会社がシェールガス開発に取り組んでいる

68

③オーストラリア CBM(BG、東京ガス、CNOOC)

非在来型の天然ガス資源のひとつとして、CBM(Coal Bed Methane)の開発がオーストラ

リアで進んでいる。東部のクイーンズランド州では、石炭層とその周辺に存在するメタン

ガス(Coalbed Methane:CBM)が近年、発電燃料として使われるようになるとともに、LNG

として輸出するプロジェクトが進行中である。CBMを採掘する炭層は従来の天然ガス田とは

異なり浅い地層が主である。井戸を掘り、随伴水と共にガスが生産されるが、井戸の生産

性は、石炭層の孔隙率、浸透率等によって様々に異なり、比較的短い期間でガスの生産は

減退する。そのため数多くの井戸を掘削することが必要となる。井戸を短期間に大量に掘

ることが求められ、従来の天然ガス生産井戸の掘削とは大きく様子が異なる。以前は天然

ガスの生産が安定しなかったが、近年の技術革新により安定した生産が可能となり、LNG化

して輸出するプロジェクトが実現するようになった 69

現在クイーンズランド州で 3 件のCBMのLNG輸出プロジェクト(Queens Curtis LNG、

Gladstone LNG、Australia Pacific LNG)が事業中で、2件のプロジェクト(Arrow Energy

LNG、Fisherman's Landing)が計画中である。CBMは従来の天然ガスと異なり、大部分がメ

67 英 San Leon、ポーランドで水圧破砕によるシェール探鉱を開始, Platts Oilgram News, 2013/5/9

欧州のシェールガス開発後退、Platts Oilgram News, 2013/5/24 68 英国 IGas、イングランド北西部に持つシェールガス鉱区の資源量を上方修正

http://www.guardian.co.uk/environment/2013/jun/03/igas-shale-gas-reserves 69 クイーンズランド・カーティス LNGプロジェクトからの液化天然ガス購入と同プロジェクトへの参画に

関する契約の締結について http://www.tokyo-gas.co.jp/Press/20110307-02.html

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タンのリーンガス 70

である。そのため都市ガス原料として利用するためにはLPG等による増

熱が必要となり、この点は従来の天然ガスに比べて手間もコストも必要となる。言い換え

るとこの点は、他の競合する従来型ガス田に対しては不利な点であり、生産者は従来より

も安い価格を提示しない限り、プロジェクトの実現は難しい。安価かつリーンなガスを受

け入れることが可能な大手の電力ガス事業者にとっては、CBMの調達を増やすことはガスの

輸入価格の低減につながる。

④パプアニューギニア、コンデンセートガス田(大阪ガス)

液体分を多く含むコンデンセートガス田は、ガスだけでなく天然ガス液(NGL)の販売利

益も期待できることから、市況によっては有利なプロジェクトとなる。大阪ガスはパプア

ニューギニアで、成分がガソリンなどに近い超軽質原油(コンデンセート)などの開発プ

ロジェクトに参画している。豪州の資源開発会社ホライゾン・オイル・リミテッドが保有

する鉱区の権益の一部を約 7,400 万米ドル(約 74億円)で取得することでホライゾン・オ

イル・リミテッド社側と合意した。生産開始は 2015年ごろで、生産量は日量 1万バレルを

予定している。2020 年以降には年間 200万~300万トン規模の液化天然ガス(LNG)の生産

も目指すとしている 71

⑤中国シェールガス、CBM

2013 年 6 月にEIAの発表した「世界のシェールガス・オイルの技術的回収可能性 2013 年

版」で、中国はアメリカに次ぐ世界 2位の 1,115tcf(31.6tcm)のシェールガスの技術的回

収可能量を持つ 72

中国国内には大きなポテンシャルがあるとされているが、北米とは地質構造が異なり、

複雑な褶曲や多く断層が存在し、実際の開発には難航している。中国の国土資源部や国家

発展改革委員会が発表している中国の開発対象となるシェールガスの技術的回収可能量は

145 - 310Tcf(4.1 - 8.8tcm)と EIAの発表した 1,115Tcfに比べると少ない。実際にシェ

ールガスよりも 20 年以上昔に開発の始まった CBM の開発でも、現時点で 0.5 bcfd(日量

14mcm)の生産量に留まっている。

とされている。増加する国内需要を賄うため、トルクメニスタンやミャン

マーからのパイプラインガス輸入、オーストラリア等からのLNG輸入を進めているが、国産

資源となるシェールガス開発が進むことは中国政府にとりエネルギー安全保障上も望まし

く、積極的に開発を進めている。

中国でシェールガスが商業生産されるには長期間を要するとの意見もあり、中国政府の

開発目標である 2020 年までに 7.7Bcfd(日量 218mcm)の達成は困難な見通しである 73

70 lean gas:単位体積当たりの発熱量が低いガスであることを指す

71 大阪ガス、PNGコンデンセートガス田権益取得、TEX Report 24/05/2013 72 EIA World Shale Gas Resources 2013, http://www.eia.gov/analysis/studies/worldshalegas/ 73 中国のシェールガス開発近況

http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/4/4873/1304_out_m_cn_shale.pdf

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⑥FLNG(オフショア、中小ガス田等、)

探査・探鉱技術の進歩により、陸地から離れた海底や中小のガス田等が多く発見されて

いる。しかしこれらのガス田は、遠隔地であるためにプラントや付属施設の建設コストが

高くなったり、陸上にプラントを設置するには十分な埋蔵ガス量が無い等の理由で開発の

進まないものも多い。これらの解決する方法として、ガスの生産設備を大型の浮体式プラ

ットフォームに載せてしまう Floating LNGが提案されている。

Shellが中心となり世界初のFLNGプロジェクトが西オーストラリアのBrowse海盆で進ん

でいる 74

FLNG は陸地から遠かったり、比較的小規模等の理由で、従来は困難だったプロジェクト

の開発が可能となる等のメリットがあるが、LNGの生産コストが安くなるかどうかは、FLNG

設備の建設コストや、コンデンセート等副産物の産出量によるところが大きい。FLNG が増

加し設備の建設コストが低下すれば、LNG生産コスト低減も期待できる。

。原料ガスは、2007 年に発見されたPreludeと 2009 年に発見されたConcertoの 2

つガス田、推定埋蔵量は 3tcf(85bcm)とされている。FLNG設備は全長 488m、全幅 74m、

排水量 60万トンで、サッカー場 4面以上のデッキ面積を持つ世界最大の海洋構造物である。

2016年から 25年間、360万トン/年のLNG、130万トン/年のコンデンセート、40万トン/年

のLPGを生産予定である。プロジェクト総額は 120億USドルで、以前はShell 100%保有であ

ったが、現在ではINPEXが 17.5%、韓国KOGASが 10%のシェアを有する。

⑦日本メタンハイドレート開発

国産天然ガス資源としてメタンハイドレートの開発が進められている。JOGMECは、渥美

半島~志摩半島沖において、第 1回メタンハイドレート海洋産出試験のガス生産実験を 2013

年 3月に実施した 75

今後商業ベースでのガス生産に向けて、様々な試験が予定されているが、実用化までは

まだ時間がかかる見通しである。

。減圧法により海洋のメタンハイドレ-ト層からガスを産出し、連続的

にガス生産を実証した。海洋算出試験を行った東部南海トラフ海域では、地震探査・試掘

などの調査を実施し、相当量のメタンハイドレートの賦存が確認されており、将来の有望

な資源として期待されている。

5-6 長期契約とスポットの組み合わせ

長期契約とスポット調達を組み合わせて、ガスの調達価格を低減する取り組みが行われ

ている。

74 Shell Prelude FLNG Project, http://www.offshore-technology.com/projects/shell-project/ 75 メタンハイドレート層からのガス生産実験の終了について、JOGMEC

http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_02_000003.html

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①スポット調達の拡大

LNGの契約において、これまで日本の各社は安定供給を重視して、長期契約で必要数量の

大部分を確保し、スポットでの調達は少ない傾向にあるが、韓国のKOGASはLNGスポット市

場からの調達が多い 76

価格についてはアジアの場合欧州と異なり、スポット市場の価格指標が無いため、売主

と買主の相対交渉で価格が決まる。スポット玉が必要な際にUQT

。これは夏と冬の季節間需要格差が大きく、LNG貯蔵タンクの容量も

少ないため、スポットでの調達を活用してきたことが要因である。また韓国特有の事情と

して、LNGの輸入契約には国の認可が必要な点も、スポット依存が高くなった一因である。

LNG輸出会社とKOGASの間でLNG長期売買契約の価格条件について合意できたとしても、最終

的な認可権限は韓国知識経済省が持っており、国の認可が得られず契約が成立しなかった

こともある。必要なLNGはスポットで調達することになり、必然的にスポット調達割合が多

くなった。

77

また韓国では今まで 1 社独占となっていたKOGASによるLNG輸入を、複数の需要家が輸入

できるようにする法案を準備している

により調達する価格より

も安価なスポット玉が手配できれば、LNG輸入価格の低減につながる。一方で追加の玉が必

要な際にはおおむね他の事業者も需要が逼迫していることが多く、相対での交渉で足元を

見られて、高値掴みする可能性もある。

78

。LNG取引を活発にし、将来的にはアジアのLNG取引

ハブのひとつにしたいとの思惑であるが、輸入者を増やすだけではLNG取引は活発にはなら

ない。また価格の面でも、単純にスポットの比率を増加させたからといって、購入価格が

下がることは無いと思われる。スポット市場での調達が効率的になるためには、供給側の

設備が過剰で、参加者の多い十分に厚みのあるスポット市場が成立していることが必要で

ある。

②トレーディング事業の強化

自由化による電力ガス取引市場の拡大と歩調をあわせ、欧州のユーティリティ各社はト

レーディング事業を拡大している 79

76 KOGASの経営戦略、http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1358.pdf

。各部門で個別に行っていた取引と市場取引を一部門に

集中し、会社全体で資産の有効活用や最適化を行うことで、収益の安定化を図っている。

77 Upper Quantity Tolerance:LNG調達契約における、通常よりも多い量を引き取る際の上限 78 Korea's National Assembly will in June 2013 debate a bill that could reduce Korea Gas Corporation's (Kogas) gas import dominance and allow private companies to buy in gas - but only for storage and

resale overseas amid nascent plans to turn the country into an "Asian LNG trading hub".

Gas Matters Today Monday 03 June 2013 79 GDF SUEZ Trading, http://www.gdfsuez-trading.com/en/homepage/ EDF Trading, http://www.edftrading.com/

RWE Supply & Trading, http://www.rwe.com/web/cms/de/158406/rwe-supply-trading/

E.ON Global Commodities,

http://www.eon.com/en/about-us/structure/company-finder/e-dot-on-global-commodities.html

Enel Trade, http://www.enel.it/it-IT/azienda/profilo/enel_in_italia/enel_trade/

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取引対象品目も電力、ガスだけでなく石油や石炭、CO2等の市場取引も手がけることにより、

量と価格のヘッジを行っている。また現物だけではなく先物、フィナンシャル、デリバテ

ィブ取引を駆使して、利益の最大化を図っている。

エネルギー事業者はもちろん、銀行や先物取引事業者等エネルギー以外の事業者も、エ

ネルギートレーディングに積極的に参加している。取引市場が発展し取引の厚みが増せば

合理的な価格水準に落ち着くようになり、長期的にはガスの調達価格の低減に繋がる。

③スポットカーゴ入札

メキシコ国営電力CFEおよびメキシコ国営石油会社PEMEXは国内のガス不足に対応するた

め、2013 年 5 月にスポットカーゴを入札により調達しようとした。PEMEXは安価なLNGの入

札を期待したが、ARGUSによると 19.50-20 ドル/MMBTUの入札しかなかった模様。スポット

市場の需給はタイトではなかったが、入札でも価格が安くならなかった反例である 80

④震災後の日本電力各社のスポット契約・短期契約の増加

東日本大震災後、急増するLNG需要のために、日本の電力各社はスポット契約・短期契約

を増やしてLNGを調達した 81

。需要逼迫によるスポット価格上昇を回避するため、既存契約

による数量増加、既存買主との数量増加について先ず交渉をし、それでも不足する分をス

ポット調達した。需要逼迫時の交渉ということもあり、価格は安くは無かった模様である。

原子力発電所の再稼動のスケジュールが見通せない中、量的柔軟性の高い短期契約によっ

てLNGを調達する方向に徐々にシフトしている。

5-7 電力ガス市場制度改革

①欧州域内単一エネルギー市場の構築

EUは競争的な域内単一エネルギー市場を構築することが、効率性の向上だけでなく、安

定供給・持続可能性に資するとの考えのもと各種制度改革を行ってきた 82

。EUのエネルギー

政策目標は、①持続可能性(低炭素化)、②競争力確保、③安全保障の三本柱から成り、競

争原理に基づいたエネルギー市場の統合を目指している。2007 年 9 月の第 3 次EUエネルギ

ーパッケージでは、EU加盟国に対して輸送システム(送電網、幹線パイプライン網)の分

離について、次の 3 つのいずれかの選択を義務付けた。

80 Mexico’s CFE launches speculative tender to buy LNG, 18/03/2013

http://www.argusmedia.com/News/Article?id=839147 81 総合資源エネルギー調査会 料金専門委員会、エネルギー経済研究所

http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denkiryokin/pdf/012_09_00.pdf 82 EU第 3次エネルギーパッケージ

http://ec.europa.eu/energy/gas_electricity/legislation/third_legislative_package_en.htm

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・所有権分離(OU:Ownership Unbundling)

・機能分離(ISO:Independent System Operator)

・機能分離(ITO:Independent Transmission Operator)

垂直統合のユーティリティ企業から輸送システム部分を分離し、誰でも送電網あるいは

幹線パイプライン網を利用できるようすることで新規事業者の参入を図り、競争環境を実

現するものである。ガス市場の自由化によってガス事業者間の競争を促し、もってガス価

格の引き下げ圧力をかけるのはもちろん、電力市場の自由化は、発電用エネルギー間の競

争をつうじてガス価格に対して引き下げ圧力を加えることができる。

単一エネルギー市場を実現することで、消費者のエネルギー購入価格が低下するかどう

かについて、EU では四半期ごとに検証している。ガス市場を例に取ると欧州ガス市場レポ

ートでは、もっとも競争環境の整備が進んだ英国でエネルギー事業者の購入するガス価格

がもっとも低くなっていることが示されており、競争的な市場がエネルギー価格低減に貢

献している。

②送電線、ガスパイプラインの整備

競争市場においては、事業者は電気が流れるかわからない送電線や、ガスが流れないか

もしれない輸送パイプラインには投資できないが、地域全体のエネルギーセキュリティの

観点から必要な送電線やパイプラインに対しては、欧州委員会が補助金を出して建設を促

している。特に再生可能エネルギーの普及にEUは熱心に取り組んでおり、北海の洋上風力

発電所からの電気を需要地まで送る送電線が建設促進の対象として選ばれるケースが多い。

送電線投資についてはENTSOEが 10年ネットワーク投資計画Ten-Year Network Development

Plan (TYNDP)を 2010 年および 2012 年に策定し、今後の送電線網投資の方向性を公表して

おり、ガス輸送パイプラインについても同様にEMTSOGが 10年ネットワーク投資計画を毎年

公表している。10 年ネットワーク投資計画策定に当たっては、ENTSOEおよびENTSOG内に各

事業者の代表からなる作業部会を作り、規制当局とも密接に連携して計画を策定している 83

このように送電線網やガス輸送パイプライン網を整備することは、セキュリティの向上

だけでなくその輸送余力を使った電力やガスの取引を活発にする効果もある。欧州ではネ

ットワークの整備と平行して電力ガス取引市場の整備を進めており、市場メカニズムを通

じ電力ガスの調達価格低減を目指す方針である。

83 Pipeline International, December 2010 http://pipelinesinternational.com/news/energy_security_and_pipeline_politics_in_europe/053586/

Page 91: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

88

5-8 他のエネルギーを活用した購買力の強化

①ドイツ、ポーランド

天然ガスの価格交渉にあたっては代替となるエネルギーを交渉カードとして持つ意味は

非常に大きい。ドイツは石炭資源が豊富で、無煙炭が 25億トン、褐炭が 405億トンあると

されており重要な資源である。発電用に多く使われており、ドイツの総発電量のうち 42.4%

が石炭火力発電である 84

ポーランドもドイツと同様国内産石炭資源を多く持ち、ポーランドの総発電量の 91%を石

炭火力発電が占める。ドイツと同じようなガスから石炭へのシフトが起こると思われたが、

ポーランドでは国産石炭の価格が安いため輸入炭の利用が進まなかった。また、発電用途

の天然ガスもわずか 3%であったため、ロシア産ガスの輸入量に変化はなく、ドイツと異な

りガスプロムとの価格改定はかなわなかった。天然ガスと石炭の価格に応じて発電量を切

り替えることができるのは、双方のエネルギーをバランスよく利用し、かつそれぞれの発

電能力に余裕があることが必要となる。ポーランドのように国産石炭にエネルギー資源を

一極依存している国では、北米産の石炭輸入というチャンスを生かすことができなかった。

他のエネルギーを活用した購買力の強化を実現するためには、バランスの取れたエネルギ

ーミックスが必要である

。また最近では米国のシェールガス革命の影響で、米国向け石炭が

欧州に流れ込み欧州での石炭価格が低下している。そのため発電事業者は天然ガスよりも

石炭を好んで使うようになり、発電用天然ガスが影響を受けて需要が減少している。もと

もと欧州の景気低迷の影響で天然ガス需要が低迷していたことに加え、この需要減少が重

なりロシアからの天然ガス輸入は大幅減少となった。欧州のユーティリティ企業各社はこ

の機会を捉え、ガスプロムと交渉した結果、契約に占める石油製品連動価格の割合を減少

させ、欧州の市場価格であるNBP価格にリンクした割合を増加することに成功した模様であ

る。現在はBlent価格が高止まりしているため、相対的にNBP価格が安く、ロシアからのガ

ス購入価格の低減に成功した。

85

②中国

中国における石炭需要は発電分野で最も大きく、この 10年では電源構成の 8割程度を石

炭が担っている。一方でトルクメニスタンやミャンマーからのパイプラインガス輸入が始

まり、原子力発電所の建設も進めていることから、今後は発電に占める石炭のシェアは徐々

に低下すると思われる。しかし国全体のエネルギー需要は増加し続けるため、中国におけ

る石炭は将来も重要なエネルギー源であることは変わらない。中国では天然ガス購入を巡

ってロシアと長年交渉中であるが、中国としてはJCCにリンクした高い天然ガスを購入する

気は無く、ロシアとの意見の隔たりは大きい。中国側からは交渉においてHHリンクでの購

84 ドイツの石炭産業の概要、http://www.euracoal.be/pages/layout1sp.php?idpage=72 85 ポーランドの政策における石炭エネルギー、

http://brain-c-jcoal.info/ccd2011/day2_session3_2_jp.pdf

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89

入等も提案しているようであるが、このような強気の交渉が可能な一つの要因は、天然ガ

スに代替できる自前の石炭という手段があるためである 86

5-9 ハブ価格による調達

①ハブリンクの導入(HH、NBP)

BPと関西電力は米ガス市場価格(ヘンリーハブ=HH)にリンクするLNG長期契約で基本合

意した 87

。HH価格に準拠するLNG輸入は、シェールガスを原料とする米国からの液化加工プ

ロジェクトで実現しているが、石油メジャーが既存のLNGプロジェクトでHHリンク方式の長

契に応じたのは今回が初めてで注目される。日本をはじめアジアの買い主は割高なLNG輸入

価格(アジアプレミアム)の低減を目指し、脱原油リンクを志向しており、石油メジャー

がガス価格指標リンクを受け入れたことは、売り手市場のLNG市場に変化の兆しが訪れつつ

あると言える。

米国エネルギー省(DOE)は、Freeport LNGにおいて非FTA締結国向けの輸出を許可した 88

DOEによる非FTA締結国への輸出許可は 2011年 5月のSabine Pass LNGに続き 2件目となる。

今回の輸出許可取得を受け、日本への輸出が可能となった。中部電力と大阪ガスはそれぞ

れ 20 年間にわたり、220 万トン/年のLNG生産を見込んでおり、価格はヘンリーハブリンク

を予定している。その後も 2013 年 8月にLake Charles Exportsが、2013年 9月にCove Point

LNGが、それぞれ非FTA締結国向けの輸出許可を得ている。今後も新たに日本向けを含む輸

出許可が得られる可能性があり、HHリンクでのLNG輸入量が増えるとみられる。

東アフリカのモザンビークでは、近年洋上で有望な天然ガス鉱床が発見された。モザン

ビークは日本から見るとカタールと等距離であり、将来のLNG輸入先として期待されている。

東京電力と東京ガスが三井物産、Anadarkoと交渉しているが、欧州の代表的な価格指標で

あるNBPリンクでのガス購入を目指している 89

。最近両社は米国産シェールガス由来のLNG

購入を決定しており、このガスはHHリンクで購入することになる。従来のJCCリンクに加え

NBPリンクでの購入が実現すれば、購入するLNGの価格指標の多様化に繋がる。また現在高

値の続いているJCCリンクでのLNG価格の低減にも貢献する可能性がある。

86 アジアの主要石炭消費国における石炭消費動向と石炭供給ソース確保に向けた動き、平成 24年 2月、

NEDO、http://coal.jogmec.go.jp/result/docs/012.pdf 87 既存 LNGプロジェクトで初のガス HH価格リンク長契を実現、関電とBPが年 50万t

http://www.gas-enenews.co.jp/news/2012/11/post-1163.html 88 米国エネルギー省、Freeport LNGから非 FTA締結国への輸出許可

http://www.chuden.co.jp/corporate/publicity/pub_release/press/3217832_6926.html

http://www.osakagas.co.jp/company/press/pr_2013/1203599_7831.html 89 東京電力と東京ガス、モザンビークの LNGプロジェクトで NBPリンクのガス購入目指す

http://www.platts.com/RSSFeedDetailedNews/RSSFeed/NaturalGas/8160067

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90

ドイツの大手ユーティリティ企業RWEがカナダからのシェールガス由来のLNG購入につい

てPieridae Energy Canadaと話し合っている模様である 90。また同じくE.ONもPieridae

Energy Canadaと交渉しており、2020年第 1四半期に 500万トン/年を引き渡す 20年間の販

売協定を締結したと、Pieridae Energy Canada側は発表した 91

。価格については、HHリンク

ではなく、「西欧市場の天然ガス市場価格に基づくこととなる」と述べており、NBPリンク

のネットバックの可能性がある。現在のHHガス価格を考えるとネットバックよりもHHリン

クのほうが安くなると思われるが、E.ONとしては将来的な値上がりのリスクは取れないと

いうことで、ネットバックによる取引価格を望んだものと思われる。

②欧州での天然ガスハブ市場の創設(TTF等)、各市場の連動性強化

欧州にはパイプラインガスの取引市場が存在する。代表的な指標は英国のNBPであり、取

引量も多い。次いでオランダ国内の高カロリーガスの取引指標となっているTTFが比較的取

引量が多い 92

この動きを発展させ、欧州単一の厚みのある天然ガス取引市場ができることで、相対契

約においても従来の石油製品連動から市場価格連動により重点を置くような契約も可能と

なるであろう。

。フランスではPEG-Nord、PEG-Sud、TIGFの 3 ゾーンに分かれているが、現在

PEG-NordとPEG-Sudの統合が検討中で、その先にはTIGF も含めた 1 ゾーン化、さらには周

辺国の取引市場との統合が想定されている。欧州委員会としては、NBP、TTF、ZEEといった

主要ガス取引市場間の指標の連動性を高め、取引市場の無い各国にはバーチャルなガスト

レーディングのハブを作り、これらを連結し欧州単一の取引市場を作ろうという動きがあ

る。国内に取引市場が十分発達していない国では、例えばイタリアの例をみると、オラン

ダTTF指標を使う動きがある。イタリアの規制ガス価格は、従来は 80%が石油連動の長期契

約ガス価格に連動していたが、2013年からTTF連動のスポット価格要素を 100%に引き上げ、

イタリアのガス取引市場Gestore Mercati Energetici(GME)での取引に切り替えることを

予定している。

5-10 輸入インフラの整備

①輸入パイプライン

ガスの輸送パイプライン網の整備を着実に進めて行くことは、ガスの安定供給に貢献す

る共に輸入先の多様化につながる。ガスの輸入先が複数あれば、売り手側の競合によりガ

ス輸入価格が低減できる可能性がある。しかしながらガス輸入導管の新規建設にあたって

90 RWE、Goldboro LNG

http://www.icis.com/heren/articles/2012/10/26/9608033/canadian-group-opens-new-front-in-north-

american-lng-export.html 91 Goldboro LNGプロジェクトにおいて、E.ON向け販売契約を締結

http://goldborolng.com/2013/06/pieridae-energy-signs-e-on-as-long-term-goldboro-lng-customer/ 92 TTF: The virtual gas hub covering all high calorific entry and exit points in the Netherlands, operated by Dutch TSO Gas Transport Services, a subsidiary of N.V. Nederlandse Gasunie.

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91

は十分な量のガス輸送需要を確保する必要があるため、新設パイプラインでは複数のガス

供給源を競合させることが難しい。欧州のように長い時間を掛けて着実に輸送パイプライ

ン網を建設し、ガス輸送導管にも余力が生まれてはじめてこのような競合が可能となる。

日本の場合、外国と接続する輸送パイプラインは存在せず、パイプラインガスの導入から

始めなければならず、欧州や北米のようなガス輸送パイプライン網の充実にはまだかなり

の時間を要すると思われる。

②地下貯蔵施設

ガスの地下貯蔵施設としては Aquifer(帯水層貯蔵型)、Salt Cavern(岩塩層貯蔵型)、

Depleted field(枯渇ガス田型)の三種類がある。帯水層貯蔵型と枯渇ガス田型の 2 つは

地層内の水やガスのあったところにガスを貯蔵するもので、年単位の比較的ゆっくりした

ガスの出し入れに適し、非需要期の夏季にガスを貯蔵し、需要期の冬季にガスを払い出す

といった運用を行う。一方岩塩層貯蔵型は岩塩層内に作った空洞の中に高圧のガスを気体

の形で貯蔵するもので、ガスの出し入れが容易という特徴がある。週単位、日単位、時間

単位の出し入れが可能で、ガスのトレーディングにも活用されている。地下貯蔵施設を用

いることで、年間を通じてガスの引取り量を平準化することが可能となる。ガスの生産は

年間を通じてほぼ一定であるのに対し、ガスの需要は冬に高まり夏に少なくなることから、

地下貯蔵施設を持つことは産ガス国との交渉において、年間一定量の引取りが可能となり、

条件交渉で多少有利となるかもしれない。

またガス貯蔵施設を自国内あるいは近隣の国に保有することは、供給途絶リスクへの対

応という面でも望ましい。ガス輸送パイプラインの事故等による突発的な供給途絶にも対

応が可能となる。2006年のロシアとウクライナのガス紛争では、ロシアは EU諸国とウクラ

イナ向けの総供給量からウクライナ向け供給量の 30%に相当する供給を削減したが、ウクラ

イナ側はこれを無視した自国分全量のガス取得を続行したため、下流にある EU諸国でのガ

ス圧力が低下し大混乱となった。この時も、地下貯蔵施設の容量に余裕のある国は地下貯

蔵施設からガスを払い出すことで、供給途絶を回避することができた。

5-11 産ガス国側の価格維持に向けた動き

近年石油価格が高騰している影響で、アジアにおける石油価格にリンクした LNG 価格が

高止まりを続けている。特にシェールガス革命の影響で価格が低位となっている北米の HH

リンク価格とは 5 倍以上の価格差になることもあり、消費国側から強い不満が出ている。

各種 LNG の国際会議でも高価格を維持したい生産者側と、石油価格リンクの価格体系はも

はや合理的でないとする消費国側で意見の応酬が見られる。2012年の第 25回世界ガス会議

マレーシア大会にて、この問題を取り扱う戦略パネル「LNGの将来」のセッションが開催さ

れた。Qatargas、ExxonMobil、Royal Dutch Shell、東京ガス、Excelerate Energy の経営

幹部らによるパネルで、各社の LNGに対する展望の後、議論が展開された。

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92

上流事業者の Royal Dutch Shellの発表では、将来の LNG需要は堅調に伸び、各市場(ア

ジア・北米・欧州)では需要と供給がバランスするものの、タイトな市場が続くとの見方

を示した。また、LNG 開発には近年コスト上昇圧力がかかっており、着実な開発には技術革

新とともに、石油価格リンクの価格設定や長期契約が必要とのポジションであった。Shell

の発表はオーストラリアで自社の手がける FLNGの重要性をアピールすると共に、上流事業

者側のガス高価格維持の姿勢を強くアピールするものであった。

一方、下流事業者を代表して東京ガスは、ユーラシア大陸の天然ガス市場は将来拡大し、

北米のシェールガス LNG の輸入によって価格の影響も受けるであろうとの見方を示した。

アジアの天然ガス需要は引き続き堅調に推移する一方、欧州でのガス需要が頭打ちとなる

中でロシアは東方への拡大を目指す。しかしアジア市場を巡っては、東アフリカでの新規

大型天然ガス田の発見があり、北米からのシェールガスの LNG が始まり、在来型の石油価

格連動の高いガス価格では、競争力は無い、とのメッセージである。東アジアのガスマー

ケットは久しぶりの買主主導であり、買主にとっては各種プロジェクトを天秤にかけて、

最も有利な契約を結ぶ好機になっているとの発表であった。

質疑応答でも白熱した議論が続き、北米からの LNG 輸出の価格インパクトについても、

下流事業者側は大きな影響があるとの立場に対し、上流事業者側は輸出量も限られている

ので影響は限定的と意見は対立している。

公開の場での議論と合わせ、実際の契約交渉の場ではもっと生々しい足の引っ張り合い

が起きている。現在北米からの LNG の輸出について、非 FTA 締結国向けに DOE からいくつ

かのプロジェクトの輸出許可が出た段階であるが、輸出実現のためには輸出許可だけでな

く、既存の LNG 輸入基地を輸出基地に改造するといった様々な条件を整備する必要がある。

基地の改造には現在輸入ラインセンスをもつメジャー各社から同意を取り付ける必要があ

るが、現時点および今後も LNG 輸入の見込みは無いのにもかかわらず、輸出基地への改造

は輸入の妨げになる恐れがあるとして DOEに働きかけていたりする。

産ガス国側で石油の OPECに準じた産ガス国の意見を代表するグループを作り、産ガス国

側の意見を広めていこうとする動きがある。GECF(ガス輸出国フォーラム)の源流は、2001

年のテヘランで開催された第 1 回のガス輸出国大臣会合まで遡ることができる。この大臣

会合で GECF の設立の合意がなされ、2009年の第 9回ガス輸出国大臣会合(ドーハ)で組織

概要が決定し活動が始まった。正式メンバーは Algeria、Bolivia、Egypt、Equatorial Guinea、

Iran、Libya、Nigeria、Oman、Qatar、Russia、Trinidad and Tobago、United Arab Emirates、

Venezuela。オブザーバーとして Kazakhstan、Iraq、The Netherlands、Norwayが参加して

いる。事務局はドーハに所在し、大臣会合、総会、評議委員会等を開催すると共に、独自

研究として世界のガス需給モデルを開発している。

第 2 回 GECF ガスサミットが 2013 年 7 月にモスクワで開催され、参加各国は長期輸出契

約に基づく安定供給と、石油及び石油製品に連動したガス価格設定を柱とする現在の供給

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モデルの保全に支持を表明した。ロシアのウラディミール・プーチン大統領は、伝統的ガ

ス輸出諸国に対して、欧州連合(EU)第 3 エネルギーパッケージの不当な圧力に結束して

抵抗することを求めた。E.ONや RWEといった欧州のユーティリティ企業が Gazpromに対し、

ガス輸出価格の引き下げや、石油製品価格連動からスポットマーケット連動への指標変更

の圧力を強めていることに対し、消費諸国が仕掛けてきている差別的制限と指摘している。

また欧州連合第 3 次次エネルギーパッケージについて、EU 市場向けの伝統的ガス供給者達

の活動を深刻に制限しているとも述べた。EU 市場向けの伝統的ガス供給者達は、何十年も

渡り欧州ガス部門の開発のため自己の資金を投資してきており、その貢献を考慮すべきと

もアピールした。また「長期ガス契約の基本原則を拒絶することは、ガス生産者達に打撃

を与えるばかりか、最終的には購入諸国のエネルギー安全保障を脅かすことを理解してい

ないことが多い」とも述べ、従来通り石油製品に連動したガス価格設定維持を求めた。

消費国側は日本だけでなく中国もアジアの石油連動価格を解消すべく様々な機会で産ガ

ス国側と交渉している。ロシア Gazprom・Miller 社長と中 CNPC・Zhou Jiping 社長は 6 月

19日、Moscow本社にて会合を持ち、ロシアから中国へのガス供給に関する長期契約の締結

に関して意見が交わされた。会合後、Gazprom の Miller社長は「中国向けガス価格をヘン

リーハブリンクにする考えはない」とわざわざ発言する等、現状の高い石油連動価格を維

持すべく画策しており、消費国側も横の連携を深める等で、産ガス国側に対抗していく必

要がある。

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94

第 6 章 LNG 価格がマクロ経済に及ぼす影響

6-1 LNG 価格上昇がマクロ経済に及ぼす影響

必需品の性格が強いエネルギーの需要は、価格に対し非弾力的である。特に、今日の日

本の LNG では、原子力代替の発電用が需要をけん引しているため、価格が上昇しても需要

減少の余地が小さい。そのため、LNG価格が上昇すると、LNG輸入金額は価格上昇率とほぼ

同率で増大することになる。

LNG を直接消費している業種は多くないが、LNG価格が上昇すれば、これを原燃料とする

都市ガス・電力価格の上昇を通じて、生産者は、①自ら生産する財の値上げ、②利益の減

少、③賃金や投資など他の支出の抑制を迫られる。これらは別の生産者から見れば売上げ

の減少や費用の上昇につながるため、影響が広範に及ぶことになる。

家計などの消費者側では、財・サービス価格の上昇と賃金の減少により実質購買力が低

下する。そのため、①貯蓄の減少、②他の財・サービス購入の抑制による対応を迫られる

ことになる。利益、賃金の減少といった直接的な経路、あるいは価格の上昇といった間接

的な経路のいずれが前面に出てくるかは、そのときどきの事情により異なる。しかしなが

ら、国全体として見れば、生産者と消費者とで輸入金額の増分を捻出・負担し、その分の

富が輸出国へ流出する事実に変わりはない。購買力の低下は、乗数効果によりさらに経済

減速に寄与することになる。上記のメカニズムをモデル化することで、LNG価格が我が国マ

クロ経済へどの程度影響を及ぼすか分析した。

図 6-1-1 LNG 価格上昇によるマクロ経済への影響

生産者 消費者

LNG価格の上昇

輸入金額の増大

財・サービスの値上げ

利益の減少

賃金・投資の抑制

実質購買力の低下

貯蓄の減少

財・サービス購入の抑制

6-2 分析手法

日本エネルギー経済研究所は、日本の経済・エネルギー需給モデルを用いて、マクロ経

済指標やエネルギー需給の動向等を分析・評価し、短期および長期の見通しを行っている。

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日本の経済・エネルギー需給モデルは、マクロ経済モデルおよびエネルギー需給モデルの

二つの計量経済型モデルにより構成されている(図 6-2-1)。

マクロ経済モデルは、所得分配、生産市場、労働市場、一般物価などに関するマクロ経

済指標を整合的に算出し、エネルギー需要に直接・間接的に影響を与える経済活動指標を

推計する。ここでは、得られた国内一般物価指数等と、原油・LNGなどの国際エネルギー価

格から、国内でのエネルギー購入価格も推計する。

エネルギー需給モデルは、マクロ経済モデルから得られる各指標から、各最終部門にお

けるエネルギー需要を推計する。その後、発電部門等のエネルギー転換、一次エネルギー

供給量が推計される。最終的な出力は、部門別エネルギー最終消費、エネルギー源別一次

供給、CO2排出量などである。

これらの経済・エネルギー需給モデルを用いて、LNG価格上昇によるマクロ経済への定量

的な影響を推計した。

図 6-2-1 マクロ経済モデル・エネルギー需給モデルの構造

マクロ経済モデル†

エネルギー需給モデル

産業活動指標

エネルギー需要

エネルギー転換

エネルギー供給

(主要前提)

GDP関連指標

物価指数・金融等

CO2排出量

GDP、原油価格、為替レート

人口、電源計画、世界貿易など

運輸関連指標等

モデル利用により諸要因間の関係を客観的に捉えるとともに数量間の整合をとる

†日本、中国、韓国、ASEAN 4カ国につい

て、詳細なマクロ経済モデルを併用

技術評価モデル

電源構成、自動車、民生機器等

†中国とインドについて、さらに素材系生産高や自動車普及を詳細に分析・予測。

6-3 分析結果

ここでは、日本の LNG輸入価格が 2014年度以降、基準ケースよりも$5/MMBtu上昇した場

合におけるマクロ経済への定量的影響について、6-2 に記載の分析方法に基づき推計した。

なお、「基準ケース」とは、日本エネルギー経済研究所「アジア/世界エネルギーアウトル

ック 2013」において現在の国際エネルギー情勢の趨勢がそのまま続くとした「レファレン

スケース」に基づくものである。

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96

表 6-3-1 日本の天然ガス価格の前提条件 93

2012年度 2013年度 2014年度 2020年度 2030年度

①基準ケース $/MBtu 16.7 16.1 16.6 16.3 20.0

②LNG価格上昇ケース $/MBtu 16.7 16.1 21.6 21.3 25.0

差(②-①) $/MBtu 0.0 0.0 5.0 5.0 5.0

名目価格

(出所)日本エネルギー経済研究所

2020 年の LNG 輸入額は基準ケースで 6.6 兆円であるのに対し、LNG 価格上昇ケースでは

8.9 兆円に増大する。また 2030年の LNG輸入額は、基準ケースで 9.9兆円であるのに対し、

LNG 価格上昇ケースでは 12.7 兆円にまで拡大する。これは、今後、LNG 輸入価格が 5 ドル

高い状況が続くと、年間約 2~3 兆円もの国富が追加的に流出してしまうことを意味する。

図 6-3-1 日本の名目 LNG輸入額

8.9

12.7

6.6

9.9

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030

LNG価格上昇ケース 基準ケース(兆円)

(出所)日本エネルギー経済研究所

6-1 で述べたとおり、LNG価格の上昇は、様々な経路を通じ、生産者による財・サービス

の値上げや賃金・投資の抑制だけでなく、消費者の購買力低下や財・サービス購入の抑制

に繋がる。その結果、日本のマクロ経済全体へ重大な悪影響が生じることなる。

2020年度および 2030 年度のマクロ経済指標への影響について、実質 GDPは、LNG価格上

昇が 2020年度で約 2.3兆円、2030年度では約 3兆円もの下押し要因となる。経常収支は、

LNG 輸入額増加による貿易収支悪化などにより、2020年度で 1.1兆円、2030年度で 0.8兆

円下振れする。一人あたり実質国民総所得は、わずかではあるが LNG価格上昇ケースが基

93 2013年度は 2014年 1月までの実績値

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準ケースよりも低下する。完全失業者数は、LNG価格上昇ケースが基準ケースよりも、2020

年度で 11万人、2030 年度には 16万人増加する。化石燃料輸入額は、対名目 GDP比率で、

2020年度には基準ケースで 5.2%、LNG価格上昇ケースでは LNG輸入額の増加等により 5.6%

に上昇する。

表 6-3-2 マクロ経済指標への影響

2012年度

実績 ①基準ケース②LNG価格上昇ケース

差(②-①) ①基準ケース②LNG価格上昇ケース

差(②-①)

実質GDP(2005年価格兆円) 517.5 602.9 600.6 -2.3 693.3 690.3 -3.0

経常収支(10億円) 4,596 6,320 5,217 -1,103 12,561 11,716 -845

一人あたり実質国民総所得(2005年価格万円) 389.0 445.9 443.6 -2.2 530.4 528.0 -2.4

完全失業者数(万人) 285 285 296 11 332 348 16

化石燃料輸入額(%,名目GDP比) 5.2% 5.2% 5.6% 0.4% 4.7% 5.0% 0.3%

2030年度2020年度

(出所)日本エネルギー経済研究所

LNG 価格の上昇は、直接的には LNG輸入額を増加させ、経常収支を悪化させることとなる

が、それだけでなく、様々な経路を通じ、間接的に国民の生活水準や労働者の雇用環境に

まで波及して、日本経済全体が悪循環に陥る可能性が高い。もはや LNG価格の低減に向け

た取り組みは、電力会社・都市ガス会社だけの問題ではなく、国全体で取り組むべき重要

な課題であるといえる。

6-4 LNG 輸入動向に関する定期報告書

LNG 価格が貿易収支等のマクロ経済指標に与える影響及びその背景について調査・分析し、

定期的に報告を行った。具体的には、毎月、貿易統計等で発表される LNG輸入動向を調査・

分析し、輸入価格の変動が輸入総額、貿易収支に与える直接的な影響を寄与度などの定量

的な指標を用いて分析し、関連する情報について整理を行った。定期報告書は以下の通り

である。

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98

①2013 年 4月の LNG 輸入動向

2013 年 4 月の LNG 輸入 CIF 価格は、前月比 2.8%、\2,252/t 上昇し、\82,474/t となった。

ドル建て価格が前月比 0.9%、$0.14/MBtu 増の$16.62/MBtu に上昇したことに加えて、円安

が進行したことにより、過去最高値を更新した。通関レートは前月より 1.9%、1.8円/ドル

の円安ドル高となり、95.90 円/ドルとなった。原油輸入 CIF 価格から予測される LNG 輸入

CIF 価格は、5月$16.9/MBtu、6月$17.1/MBtuである。

4 月のLNG輸入額は 5,814 億円で、前月より 6.3%、394 億円減少した。価格は上昇したもの

の、輸入量が前月より 8.9%、69 万t減少したことによる。輸入総額は 6兆 6573億円、貿易

収支は 8,799 億円の赤字であり、輸入総額に占めるLNGの割合は 8.7%で依然として高水準で

ある。なお、GDPへの一次的な影響程度を表す指標である名目GDPに対するLNG輸入額の比率

は 2013 年第 1四半期において 1.6%であった 94

図 1 LNG 輸入 CIF 価格(ドル建て) 図 2 LNG 輸入 CIF 価格(円建て)

16.6

4.17

112

02468

101214161820

2010 2011 2012 2013

$/M

Btu

0

20

40

60

80

100

120

140

LNG ($/MBtu)

Henry Hub($/MBtu)

原油($/bbl)3か月ラグ[右軸]

8.2

0123456789

2010 2011 2012 2013

万円/t

図 3 LNG 輸入量 図 4 LNG 輸入額

7.1

0123456789

2010 2011 2012 2013

100万

t

0.6

8.7%

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

2010 2011 2012 2013

兆円

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

LNG輸入額

対輸入総額シェア[右軸]

94 仮に LNG輸入価格のみが 10%上昇した場合、国富の流出を通じて実質 GDPには 0.16% (=10%*1.6%)程度の

押し下げ効果が働く。

Page 102: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

99

図 5 主要輸入先別 LNG 輸入量 図 6 主要輸入先別 LNG 輸入価格

1.5

1.4

1.3

0.7

0.5

0.5

0.5

0.4

0.3

0.3

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

オーストラリアマレーシアカタールロシア

ブルネイインドネシア

アラブ首長国連邦ナイジェリアオマーン

赤道ギニア

Mt

2013/32013/2

8.07.1

8.78.5

6.98.6

9.08.58.3

5.29.3

0 2 4 6 8 10

平均オーストラリアマレーシアカタールロシア

ブルネイインドネシア

アラブ首長国連邦ナイジェリアオマーン

赤道ギニア

万円/t

2013/32013/2

図 7 LNG 輸入額要因分解 図 8 LNG 輸入価格要因分解

-0.10-0.08-0.06-0.04-0.02

0+0.02+0.04+0.06+0.08+0.10

2011 2012 2013

兆円

ドル建て輸入価格寄与輸入量寄与

為替寄与

輸入額変化(対前月比)

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

+2.0

2011 2012 2013

$/M

Btu

輸入先別価格寄与

輸入先構成寄与

ドル建て価格変化(対前月比)

図 9 LNG 輸入額と GDP 図 10 貿易収支

1.81.6%

0.00.20.40.60.81.01.21.41.61.82.0

2010 2011 2012 2013

兆円

0.0%0.2%0.4%0.6%0.8%1.0%1.2%1.4%1.6%1.8%

LNG輸入額

対名目GDP比[右軸]

-0.9

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

2010 2011 2012 2013

兆円

図 11 燃料調整費(東京電力、低圧、従量) 図 12 原料調整費(東京ガス、東京地区、家庭用)

1.29

-2.5

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

2010 2011 2012 2013

円/kWh

料金改定

10.24

-10-8-6-4-20

+2+4+6+8

+10+12

2010 2011 2012 2013

円/m

3

料金改定

※2013年 3月まで

Page 103: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

100

②2013 年 5月の LNG 輸入動向

2013 年 5 月の LNG 輸入 CIF 価格は、前月比 3.4%、\2,792/t 上昇し、\85,269/t となった。

ドル建て価格は前月比 0.2%、$0.03/MBtu 減の$16.59/MBtu でほぼ横ばいとなったが、大幅

に円安が進行したことにより、前月に引き続き過去最高値を更新した。通関レートは前月

より 3.6%、3.4 円/ドルの円安ドル高となり、99.34円/ドルとなった。原油輸入 CIF価格か

ら予測される LNG 輸入 CIF価格は、6月$16.9/MBtu、7月$16.5/MBtuである。

5 月のLNG輸入額は 5,475 億円で、前月より 5.8%、339 億円減少した。価格は上昇したもの

の、輸入量が前月より 8.9%、63 万t減少したことによる。輸入総額は 6兆 7616億円、貿易

収支は 9,939 億円の赤字であり、輸入総額に占めるLNGの割合は 8.1%となり 3ヶ月連続で減

少した。なお、GDPへの一次的な影響程度を表す指標である名目GDPに対するLNG輸入額の比

率は 2013年第 1四半期において 1.6%であった 95

図 1 LNG 輸入 CIF 価格(ドル建て) 図 2 LNG 輸入 CIF 価格(円建て)

16.6

4.04

9.91

113

02468

101214161820

2010 2011 2012 2013

$/M

Btu

0

20

40

60

80

100

120

140LNG ($/MBtu)

Henry Hub($/MBtu)

NBP($/MBtu)

原油($/bbl)3か月ラグ[右軸]

8.5

0123456789

2010 2011 2012 2013

万円/t

図 3 LNG 輸入量 図 4 LNG 輸入額

6.4

0123456789

2010 2011 2012 2013

100万

t

0.5

8.1%

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

2010 2011 2012 2013

兆円

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

LNG輸入額

対輸入総額シェア[右軸]

95 仮に LNG輸入価格のみが 10%上昇した場合、国富の流出を通じて実質 GDPには 0.16% (=10%*1.6%)程度の

押し下げ効果が働く。

Page 104: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

101

図 5 主要輸入先別 LNG 輸入量 図 6 主要輸入先別 LNG 輸入価格

1.6

1.5

1.0

0.7

0.5

0.5

0.4

0.4

0.3

0.2

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

カタールオーストラリアマレーシアロシア

インドネシアアラブ首長国連邦

ブルネイオマーン

赤道ギニアナイジェリア

Mt

2013/42013/3

8.28.7

7.78.7

7.39.0

8.68.7

6.19.1

8.4

0 2 4 6 8 10

平均カタール

オーストラリアマレーシアロシア

インドネシアアラブ首長国連邦

ブルネイオマーン

赤道ギニアナイジェリア

万円/t

2013/42013/3

図 7 LNG 輸入額要因分解 図 8 LNG 輸入価格要因分解

-0.10-0.08-0.06-0.04-0.02

0+0.02+0.04+0.06+0.08+0.10

2011 2012 2013

兆円

ドル建て輸入価格寄与輸入量寄与

為替寄与

輸入額変化(対前月比)

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

+2.0

2011 2012 2013

$/M

Btu

輸入先別価格寄与

輸入先構成寄与

ドル建て価格変化(対前月比)

図 9 LNG 輸入額と GDP 図 10 貿易収支

1.81.6%

0.00.20.40.60.81.01.21.41.61.82.0

2010 2011 2012 2013

兆円

0.0%0.2%0.4%0.6%0.8%1.0%1.2%1.4%1.6%1.8%

LNG輸入額

対名目GDP比[右軸]

-1.0

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

2010 2011 2012 2013

兆円

図 11 燃料調整費(東京電力、低圧、従量) 図 12 原料調整費(東京ガス、東京地区、家庭用)

1.69

-2.5-2.0-1.5-1.0-0.5

0+0.5+1.0+1.5+2.0

2010 2011 2012 2013

円/kWh

料金改定

12.74

-10

-5

0

+5

+10

+15

2010 2011 2012 2013

円/m

3

料金改定

※2013年 4月まで

Page 105: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

102

③2013 年 6月の LNG 輸入動向

2013 年 6 月の LNG 輸入 CIF 価格は、過去最高であった前月より 1.2%、\1,060/t 低下し

\84,206/t となった。前月に続き円安は進行したものの、ドル建て価格が前月比 1.8%、

$0.29/MBtu 減の$16.29/MBtu となったことから、円建て価格は 7 か月ぶりに低下した。通

関レートは前月より 0.54 円/ドルの円安ドル高となり、99.88 円/ドルとなった。原油輸入

CIF 価格から予測される LNG 輸入 CIF 価格はこの先も低下傾向にあり、7 月$15.9/MBtu、8

月$15.5/MBtuである。

6 月のLNG輸入額は 5,425 億円となり、前月より 0.9%、51 億円減少した。輸入量は前月比

0.3%、2 万t増の 644 万トンで 3 か月ぶりに増加したものの、価格が下落したことによる。

輸入総額は 6 兆 2422 億円、貿易収支は 1,808 億円の赤字となったが、過去 12 か月では最

も小さい赤字幅となった。輸入総額に占めるLNGの割合は 8.7%となり 4か月ぶりに増加した。

なお、GDPへの一次的な影響程度を表す指標である名目GDPに対するLNG輸入額の比率は 2013

年第 1四半期において 1.6%であった 96

図 1 LNG 輸入 CIF 価格(ドル建て) 図 2 LNG 輸入 CIF 価格(円建て)

16.3

3.83

9.84

116

02468

101214161820

2010 2011 2012 2013

$/M

Btu

0

20

40

60

80

100

120

140LNG ($/MBtu)

Henry Hub($/MBtu)

NBP($/MBtu)

原油($/bbl)3か月ラグ[右軸]

8.4

0123456789

2010 2011 2012 2013

万円/t

図 3 LNG 輸入量 図 4 LNG 輸入額

6.4

0123456789

2010 2011 2012 2013

100万

t

0.54

8.7%

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

2010 2011 2012 2013

兆円

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

LNG輸入額

対輸入総額シェア[右軸]

96 仮に LNG輸入価格のみが 10%上昇した場合、国富の流出を通じて実質 GDPには 0.16% (=10%*1.6%)程度の

押し下げ効果が働く。

Page 106: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

103

図 5 主要輸入先別 LNG 輸入量 図 6 主要輸入先別 LNG 輸入価格

1.3

1.1

1.0

0.7

0.5

0.5

0.5

0.4

0.3

0.1

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

オーストラリアマレーシアカタールロシア

インドネシアアラブ首長国連邦

ブルネイナイジェリアオマーンペルー

Mt

2013/52013/4

8.58.2

9.19.0

7.28.98.99.0

8.56.9

8.3

0 2 4 6 8 10

平均オーストラリアマレーシアカタールロシア

インドネシアアラブ首長国連邦

ブルネイナイジェリアオマーンペルー

万円/t

2013/52013/4

図 7 LNG 輸入額要因分解 図 8 LNG 輸入価格要因分解

-0.10-0.08-0.06-0.04-0.02

0+0.02+0.04+0.06+0.08+0.10

2011 2012 2013

兆円

ドル建て輸入価格寄与輸入量寄与

為替寄与

輸入額変化(対前月比)

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

+2.0

2011 2012 2013

$/M

Btu

輸入先別価格寄与

輸入先構成寄与

ドル建て価格変化(対前月比)

図 9 LNG 輸入額と GDP 図 10 貿易収支

1.831.6%

0.00.20.40.60.81.01.21.41.61.82.0

2010 2011 2012 2013

兆円

0.0%0.2%0.4%0.6%0.8%1.0%1.2%1.4%1.6%1.8%

LNG輸入額

対名目GDP比[右軸]

-0.18

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

2010 2011 2012 2013

兆円

図 11 燃料調整費(東京電力、低圧、従量) 図 12 原料調整費(東京ガス、東京地区、家庭用)

1.89

-2.5-2.0-1.5-1.0-0.5

0+0.5+1.0+1.5+2.0+2.5

2010 2011 2012 2013

円/kWh

料金改定

14.12

-10

-5

0

+5

+10

+15

+20

2010 2011 2012 2013

円/m

3

料金改定

※要因分解は 2013年 5月まで

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104

④2013 年 7月の LNG 輸入動向

2013年 7月の LNG輸入 CIF価格は、前月比 0.5%、\390/t安の\83,821/tとなり、円建て価

格は 2 か月連続で低下した。ドル建て価格は前月比 0.7%、$0.11/MBtu 高の$16.40/MBtu と

なったものの、通関レートは前月比 1.1円/ドルの円高ドル安で 98.75円/ドルとなり、9か

月ぶりに円高に振れたためである。原油輸入 CIF価格から予測される LNG輸入 CIF価格は 8

月$16.1/MBtu、9月$15.9/MBtuであり、低下傾向にある。

7月のLNG輸入額は前月より 14.5%、788億円増加し、過去最高の 6,213億円となった。価格

は低下したものの、輸入量は前月比 15.1%、97万t増の 741万トンで 7月として過去最高と

なった。輸入総額は 6兆 9860億円で 9か月連続の増加、貿易収支は前月の 1,823億円の赤

字から一転、1兆 240億円の大幅な赤字となった。輸入総額に占めるLNGの割合は 8.9%とな

り 2 か月連続で増加した。なお、GDPへの一次的な影響程度を表す指標である名目GDPに対

するLNG輸入額の比率は 2013 年第 2四半期において 1.4%であった 97

図 1 LNG 輸入 CIF 価格(ドル建て) 図 2 LNG 輸入 CIF 価格(円建て)

16.4

3.62

9.96

111

02468

101214161820

2010 2011 2012 2013

$/M

Btu

0

20

40

60

80

100

120

140LNG ($/MBtu)

Henry Hub($/MBtu)

NBP($/MBtu)

原油($/bbl)3か月ラグ[右軸]

8.4

0123456789

2010 2011 2012 2013

万円/t

図 3 LNG 輸入量 図 4 LNG 輸入額

7.4

0123456789

2010 2011 2012 2013

100万

t

0.62

8.9%

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

2010 2011 2012 2013

兆円

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

LNG輸入額

対輸入総額シェア[右軸]

97 仮に LNG輸入価格のみが 10%上昇した場合、国富の流出を通じて実質 GDPには 0.14% (=10%*1.4%)程度の

押し下げ効果が働く。

Page 108: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

105

図 5 主要輸入先別 LNG 輸入量 図 6 主要輸入先別 LNG 輸入価格

1.4

1.2

1.2

0.6

0.5

0.4

0.4

0.4

0.2

0.1

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

オーストラリアカタール

マレーシアロシア

インドネシアアラブ首長国連邦

ブルネイオマーン

赤道ギニアナイジェリア

Mt

2013/62013/5

8.47.9

8.99.2

7.39.09.2

7.97.0

9.28.7

0 2 4 6 8 10

平均オーストラリア

カタールマレーシアロシア

インドネシアアラブ首長国連邦

ブルネイオマーン

赤道ギニアナイジェリア

万円/t

2013/62013/5

図 7 LNG 輸入額要因分解 図 8 LNG 輸入価格要因分解

-0.10-0.08-0.06-0.04-0.02

0+0.02+0.04+0.06+0.08+0.10

2011 2012 2013

兆円

ドル建て輸入価格寄与輸入量寄与

為替寄与

輸入額変化(対前月比)

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

+2.0

2011 2012 2013

$/M

Btu

輸入先別価格寄与

輸入先構成寄与

ドル建て価格変化(対前月比)

図 9 LNG 輸入額と GDP 図 10 貿易収支

1.67

1.4%

0.00.20.40.60.81.01.21.41.61.82.0

2010 2011 2012 2013

兆円

0.0%0.2%0.4%0.6%0.8%1.0%1.2%1.4%1.6%1.8%

LNG輸入額

対名目GDP比[右軸]

-1.02

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

2010 2011 2012 2013

兆円

図 11 燃料調整費(東京電力、低圧、従量) 図 12 原料調整費(東京ガス、東京地区、家庭用)

1.98

-2.5-2.0-1.5-1.0-0.5

0+0.5+1.0+1.5+2.0+2.5

2010 2011 2012 2013

円/kWh

料金改定

15.23

-10

-5

0

+5

+10

+15

+20

2010 2011 2012 2013

円/m

3

料金改定

※要因分解は 2013年 6月まで

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106

⑤2013 年 8月の LNG 輸入動向

2013年 8月の LNG輸入 CIF価格は、前月比 5.3%、\4,451/t安の\79,364/tとなり、円建て

価格は 3か月連続で低下した。ドル建て価格が原油輸入 CIF価格(3か月ラグ)の低下を受け、

前月比 5.0%、$0.82/MBtu安の$15.58/MBtuとなったことに加え、通関レートが前月比 0.3%、

0.31円/ドルの円高ドル安で 98.44 円/ドルとなり、2か月連続で円高に振れたためである。

原油輸入 CIF価格から予測される LNG輸入 CIF価格は 9月、10月ともに$15.7/MBtuであり、

ほぼ横ばいで推移する見込み。

8 月のLNG輸入額は、過去最高となった前月より 7.4%、460 億円減少し、5,753 億円となっ

た。価格が低下したことに加え、輸入量も前月比 2.2%、16万t減の 725万tとなったためで

ある。輸入総額は 6 兆 7440 億円、貿易赤字は前月より若干減少したものの、9,603 億円と

依然高水準であった。輸入総額に占めるLNGの割合は 8.5%となり 3か月ぶりに減少した。な

お、GDPへの一次的な影響程度を表す指標である名目GDPに対するLNG輸入額の比率は 2013

年第 2四半期において 1.4%であった 98

図 1 LNG 輸入 CIF 価格(ドル建て) 図 2 LNG 輸入 CIF 価格(円建て)

15.6

3.43

10.02

107

02468

101214161820

2010 2011 2012 2013

$/M

Btu

0

20

40

60

80

100

120

140LNG ($/MBtu)

Henry Hub($/MBtu)

NBP($/MBtu)

原油($/bbl)3か月ラグ[右軸]

7.9

0123456789

2010 2011 2012 2013

万円/t

図 3 LNG 輸入量 図 4 LNG 輸入額

7.2

0123456789

2010 2011 2012 2013

100万

t

0.58

8.5%

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

2010 2011 2012 2013

兆円

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

LNG輸入額

対輸入総額シェア[右軸]

98 仮に LNG輸入価格のみが 10%上昇した場合、国富の流出を通じて実質 GDPには 0.14% (=10%*1.4%)程度の

押し下げ効果が働く。

Page 110: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

107

図 5 主要輸入先別 LNG 輸入量 図 6 主要輸入先別 LNG 輸入価格

1.5

1.3

1.3

0.7

0.6

0.5

0.5

0.3

0.3

0.2

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

オーストラリアカタール

マレーシアロシア

インドネシアアラブ首長国連邦

ブルネイオマーン

赤道ギニアナイジェリア

Mt

2013/72013/6

8.48.4

8.88.8

7.58.88.8

8.55.0

8.98.5

0 2 4 6 8 10

平均オーストラリア

カタールマレーシアロシア

インドネシアアラブ首長国連邦

ブルネイオマーン

赤道ギニアナイジェリア

万円/t

2013/72013/6

図 7 LNG 輸入額要因分解 図 8 LNG 輸入価格要因分解

-0.10-0.08-0.06-0.04-0.02

0+0.02+0.04+0.06+0.08+0.10

2011 2012 2013

兆円

ドル建て輸入価格寄与輸入量寄与

為替寄与

輸入額変化(対前月比)

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

+2.0

2011 2012 2013

$/M

Btu

輸入先別価格寄与

輸入先構成寄与

ドル建て価格変化(対前月比)

図 9 LNG 輸入額と GDP 図 10 貿易収支

1.67

1.4%

0.00.20.40.60.81.01.21.41.61.82.0

2010 2011 2012 2013

兆円

0.0%0.2%0.4%0.6%0.8%1.0%1.2%1.4%1.6%1.8%2.0%

LNG輸入額

対名目GDP比[右軸]

-0.96

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

2010 2011 2012 2013

兆円

図 11 燃料調整費(東京電力、低圧、従量) 図 12 原料調整費(東京ガス、東京地区、家庭用)

1.98

-2.5-2.0-1.5-1.0-0.5

0+0.5+1.0+1.5+2.0+2.5

2010 2011 2012 2013

円/kWh

料金改定

15.49

-10

-5

0

+5

+10

+15

+20

2010 2011 2012 2013

円/m

3

料金改定

※要因分解は 2013年 7月まで

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108

⑥2013 年 9月の LNG 輸入動向

2013年 9月の LNG輸入 CIF価格は、前月比 2.6%、\2,033/t安の\77,328/tとなり、円建て

価格は 4か月連続で低下した。通関レートは前月比 0.4%、0.35円/ドルの円安ドル高で 98.79

円/ドルとなったものの、ドル建て価格が原油輸入 CIF 価格(3 か月ラグ)の低下を受け、前

月比 2.9%、$0.45/MBtu安の$15.13/MBtuとなったためで、$15台前半となったのは 10か月

ぶりとなる。原油輸入 CIF価格から予測される LNG輸入 CIF価格は 10月$15.5/MBtu、11月

$15.7/MBtuである。

9月のLNG輸入額は、前月より 11.5%、663億円減少し、5,090億円となった。価格が低下し

たことに加え、輸入量も前月比 9.2%、67万t減の 658万tとなったためである。輸入総額は

6 兆 9043 億円、貿易赤字は前月より若干減少したものの、9,321 億円と依然高水準であっ

た。輸入総額に占めるLNGの割合は 7.4%となり 2 か月連続で減少し、10 か月ぶりに 8%を切

った。なお、GDPへの一次的な影響程度を表す指標である名目GDPに対するLNG輸入額の比率

は 2013 年第 2四半期において 1.4%であった 99

図 1 LNG 輸入 CIF 価格(ドル建て) 図 2 LNG 輸入 CIF 価格(円建て)

15.1

3.62

10.48

105

0

20

40

60

80

100

120

140

0

5

10

15

20

2010 2011 2012 2013

$/M

Btu

LNG ($/MBtu)

Henry Hub ($/MBtu)

NBP($/MBtu)

原油($/bbl)3か月ラグ[右軸]

7.7

0123456789

2010 2011 2012 2013

万円

/t

図 3 LNG 輸入量 図 4 LNG 輸入額

6.6

0123456789

2010 2011 2012 2013

100万

t

0.51

7.4%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

2010 2011 2012 2013

兆円

LNG輸入額

対輸入総額シェア[右軸]

99 仮に LNG輸入価格のみが 10%上昇した場合、国富の流出を通じて実質 GDPには 0.14% (=10%*1.4%)程度の

押し下げ効果が働く。

Page 112: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

109

図 5 主要輸入先別 LNG 輸入量 図 6 主要輸入先別 LNG 輸入価格

1.6

1.4

1.3

0.6

0.5

0.5

0.4

0.4

0.2

0.1

0.0 1.0 2.0

オーストラリアカタール

マレーシアロシア

インドネシアアラブ首長国連邦

ブルネイオマーン

ナイジェリア赤道ギニア

Mt

2013/82013/7

7.97.6

8.38.6

6.78.6

8.58.2

5.37.8

9.0

0 5 10

平均オーストラリア

カタールマレーシアロシア

インドネシアアラブ首長国連邦

ブルネイオマーン

ナイジェリア赤道ギニア

万円/t

2013/82013/7

図 7 LNG 輸入額要因分解 図 8 LNG 輸入価格要因分解

-0.10

-0.05

0

+0.05

+0.10

2011 2012 2013

兆円

ドル建て輸入価格寄与輸入量寄与

為替寄与

輸入額変化(対前月比)

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

+2.0

2011 2012 2013

$/M

Btu

輸入先別価格寄与

輸入先構成寄与

ドル建て価格変化(対前月比)

図 9 LNG 輸入額と GDP 図 10 貿易収支

1.67

1.4%

0.00.20.40.60.81.01.21.41.61.82.0

2010 2011 2012 2013

兆円

0.0%0.2%0.4%0.6%0.8%1.0%1.2%1.4%1.6%1.8%2.0%

LNG輸入額

対名目GDP比[右軸]

-0.93

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

2010 2011 2012 2013

兆円

図 11 燃料調整費(東京電力、低圧、従量) 図 12 原料調整費(東京ガス、東京地区、家庭用)

1.78

-2.5-2.0-1.5-1.0-0.5

0+0.5+1.0+1.5+2.0+2.5

2010 2011 2012 2013

円/kWh

料金改定

13.86

-10

-5

0

+5

+10

+15

+20

2010 2011 2012 2013

円/m

3

料金改定

※要因分解は 2013年 8月まで

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110

⑦2013 年 10 月の LNG 輸入動向

2013 年 10 月の LNG 輸入 CIF 価格は、前月比 0.2%、\130/t 高の\77,454/t となり、円建て

価格は 5か月ぶりに上昇した。通関レートは前月比 0.5%、0.50円/ドルの円高ドル安で 98.29

円/ドルとなったものの、ドル建て価格が前月比0.7%、$0.10/MBtu高の$15.23/MBtuとなり、

3 か月ぶりに上昇したためである。原油輸入 CIF 価格から予測される LNG 輸入 CIF 価格は

11月$15.8/MBtu、12月$16.2/MBtuと上昇していく見込みである。

10 月のLNG輸入額は、前月より 14.7%、749 億円増加し、5,838 億円となった。価格が僅か

に上昇したことに加え、輸入量が前月比 14.5%、96 万t増の 754 万tと大幅に増加したため

である。10月のLNG輸入量としては過去最高となった。輸入総額は、前月比 2,889億円増の

7 兆 1,952 億円となり、輸入総額の増加額のうち、LNG輸入額が 4 分の 1 程度を占め、財別

で最大寄与となった。輸入総額に占めるLNGの割合は 8.1%となり 3か月ぶりに増加した。貿

易赤字は前期よりも赤字幅が拡大し、1 兆 907 億円で 3 か月ぶりに 1 兆円を超えた。なお、

GDPへの一次的な影響程度を表す指標である名目GDPに対するLNG輸入額の比率は 2013年第 3

四半期において 1.4%となり前期とほぼ横ばいであった 100

図 1 LNG 輸入 CIF 価格(ドル建て) 図 2 LNG 輸入 CIF 価格(円建て)

15.2

3.68

11.10

105

0

20

40

60

80

100

120

140

0

5

10

15

20

2010 2011 2012 2013

$/M

Btu

LNG ($/MBtu)

Henry Hub ($/MBtu)

NBP($/MBtu)

原油($/bbl)3か月ラグ[右軸]

7.7

0123456789

2010 2011 2012 2013

万円

/t

図 3 LNG 輸入量 図 4 LNG 輸入額

7.5

0123456789

2010 2011 2012 2013

100万

t

0.58

8.1%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

2010 2011 2012 2013

兆円

LNG輸入額

対輸入総額シェア[右軸]

100 仮に LNG輸入価格のみが 10%上昇した場合、国富の流出を通じて実質 GDPには 0.14% (=10%*1.4%)程度

の押し下げ効果が働く。

Page 114: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

111

図 5 主要輸入先別 LNG 輸入量 図 6 主要輸入先別 LNG 輸入価格

1.6

1.2

1.1

0.9

0.4

0.4

0.3

0.3

0.2

0.1

0.0 1.0 2.0

オーストラリアカタール

マレーシアロシア

アラブ首長国連邦インドネシアナイジェリアオマーンブルネイイエメン

Mt

2013/92013/8

7.77.0

8.28.5

7.58.2

8.88.2

5.08.3

7.4

0 5 10

平均オーストラリア

カタールマレーシアロシア

アラブ首長国連邦インドネシアナイジェリアオマーンブルネイイエメン

万円/t

2013/92013/8

図 7 LNG 輸入額要因分解 図 8 LNG 輸入価格要因分解

-0.10

-0.05

0

+0.05

+0.10

2011 2012 2013

兆円

ドル建て輸入価格寄与輸入量寄与

為替寄与

輸入額変化(対前月比)

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

+2.0

2011 2012 2013

$/M

Btu

輸入先別価格寄与

輸入先構成寄与

ドル建て価格変化(対前月比)

図 9 LNG 輸入額と GDP 図 10 貿易収支

1.71

1.4%

0.0%0.2%0.4%0.6%0.8%1.0%1.2%1.4%1.6%1.8%2.0%

0.00.20.40.60.81.01.21.41.61.82.0

2010 2011 2012 2013

兆円

LNG輸入額

対名目GDP比[右軸]

-1.09

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

2010 2011 2012 2013

兆円

図 11 燃料調整費(東京電力、低圧、従量) 図 12 原料調整費(東京ガス、東京地区、家庭用)

1.60

-2.5-2.0-1.5-1.0-0.5

0+0.5+1.0+1.5+2.0+2.5

2010 2011 2012 2013

円/kWh

料金改定

-1.62

-10

-5

0

+5

+10

+15

+20

2010 2011 2012 2013

円/m

3

料金改定 料金改定

※要因分解は 2013年 9月まで

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112

⑧2013 年 11 月の LNG 輸入動向

2013 年 11 月の LNG 輸入 CIF 価格は、前月比 3.5%、\2,735/t 高の\80,184/t となり、円建

て価格は 4 か月ぶりに 8 万円台の水準に上昇した。通関レートは前月からほぼ横ばいであ

ったが、ドル建て価格が原油輸入 CIF 価格(3 か月ラグ)の上昇に伴い、前月比 3.4%、

$0.51/MBtu高の$15.74/MBtuとなり、2か月連続で上昇したためである。原油輸入 CIF価格

から予測される LNG輸入 CIF価格は 12月$16.3/MBtu、1月$16.5/MBtuと上昇していく見込

みである。

11月のLNG輸入額は、前月より 0.1%、5億円減少し、5,787億円となった。価格は上昇した

ものの、輸入量が前月比 3.5%、26 万t減少し、722万tとなったためである。輸入総額は、7

兆 1,933 億円、貿易赤字は前月よりも赤字幅が拡大し、1 兆 2929 億円と過去 3 番目に高い

水準となった。輸入総額に占めるLNGの割合は 8.0%となり前月からほぼ横ばいであった。な

お、GDPへの一次的な影響程度を表す指標である名目GDPに対するLNG輸入額の比率は、2013

年第 3四半期において 1.5%であった 101

図 1 LNG 輸入 CIF 価格(ドル建て) 図 2 LNG 輸入 CIF 価格(円建て)

15.7

3.64

11.41

107

0

20

40

60

80

100

120

140

0

5

10

15

20

2010 2011 2012 2013

$/M

Btu

LNG ($/MBtu)

Henry Hub ($/MBtu)

NBP($/MBtu)

原油($/bbl)3か月ラグ[右軸]

8.0

0123456789

2010 2011 2012 2013

万円

/t

図 3 LNG 輸入量 図 4 LNG 輸入額

7.2

0123456789

2010 2011 2012 2013

100万

t

0.58

8.0%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

2010 2011 2012 2013

兆円

LNG輸入額

対輸入総額シェア[右軸]

101 仮に LNG輸入価格のみが 10%上昇した場合、国富の流出を通じて実質 GDPには 0.15% (=10%*1.5%)程度

の押し下げ効果が働く。

Page 116: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

113

図 5 主要輸入先別 LNG 輸入量 図 6 主要輸入先別 LNG 輸入価格

1.6

1.3

1.2

0.6

0.6

0.5

0.4

0.4

0.3

0.2

0.0 1.0 2.0

オーストラリアカタール

マレーシアロシア

インドネシアアラブ首長国連邦

オマーンブルネイ

赤道ギニアナイジェリア

Mt

2013/102013/9

7.77.3

8.28.3

6.28.48.2

5.78.1

8.68.1

0 5 10

平均オーストラリア

カタールマレーシアロシア

インドネシアアラブ首長国連邦

オマーンブルネイ

赤道ギニアナイジェリア

万円/t

2013/102013/9

図 7 LNG 輸入額要因分解 図 8 LNG 輸入価格要因分解

-0.10

-0.05

0

+0.05

+0.10

2011 2012 2013

兆円

ドル建て輸入価格寄与輸入量寄与

為替寄与

輸入額変化(対前月比)

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

+2.0

2011 2012 2013

$/M

Btu

輸入先別価格寄与

輸入先構成寄与

ドル建て価格変化(対前月比)

図 9 LNG 輸入額と GDP 図 10 貿易収支

1.71

1.5%

0.0%0.2%0.4%0.6%0.8%1.0%1.2%1.4%1.6%1.8%2.0%

0.00.20.40.60.81.01.21.41.61.82.0

2010 2011 2012 2013

兆円

LNG輸入額

対名目GDP比[右軸]

-1.29

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

2010 2011 2012 2013

兆円

図 11 燃料調整費(東京電力、低圧、従量) 図 12 原料調整費(東京ガス、東京地区、家庭用)

1.44

-2.5-2.0-1.5-1.0-0.5

0+0.5+1.0+1.5+2.0+2.5

2010 2011 2012 2013 2014

円/kWh

料金改定

-3.32

-10

-5

0

+5

+10

+15

+20

2010 2011 2012 2013 2014

円/m

3

料金改定 料金改定

※要因分解は 2013年 10月まで

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114

⑨2013 年 12 月の LNG 輸入動向

2013 年 12 月の LNG 輸入 CIF 価格は、前月比 6.5%、\5,183/t 高の\85,279/t となり、円建

て価格は 3 か月連続で上昇し、過去最高値となった。通関レートが前月比 3.6%、3.54 円/

ドルの円安ドル高となったことに加え、ドル建て価格が原油輸入 CIF価格(3か月ラグ)の

上昇に伴い、前月比 2.8%、$0.44/MBtu 高の$16.16/MBtu となり、3 か月連続で上昇したた

めである。原油輸入 CIF 価格から予測される LNG 輸入 CIF 価格はさらに上昇し、1 月

$16.5/MBtu、2 月$16.4/MBtu である。また、米国 Henry Hub は寒波到来の影響により、前

月比 16.5%、$0.60/MBtu高の$4.24/MBtuとなり、7か月ぶりに 4ドル台に上昇した。

12 月のLNG輸入額は、前月より 20.3%、1,165 億円増加し、6,895 億円となった。価格が上

昇したことに加え、輸入量が前月比 13.0%、93万t増加し、809万tとなったためである。輸

入総額は 7兆 4,126億円、貿易赤字は前月よりも赤字幅が拡大し、1兆 3,021億円と過去 3

番目に高い水準となった。輸入総額に占めるLNGの割合は 9.3%となり前月から大きく増加し

た。なお、GDPへの一次的な影響程度を表す指標である名目GDPに対するLNG輸入額の比率は、

2013年第 3四半期において 1.5%であった 102

図 1 LNG 輸入 CIF 価格(ドル建て) 図 2 LNG 輸入 CIF 価格(円建て)

16.2

4.24

11.60

111

0

20

40

60

80

100

120

140

0

5

10

15

20

2010 2011 2012 2013

$/M

Btu

LNG ($/MBtu)

Henry Hub ($/MBtu)

NBP($/MBtu)

原油($/bbl)3か月ラグ[右軸]

8.5

0123456789

2010 2011 2012 2013

万円

/t

図 3 LNG 輸入量 図 4 LNG 輸入額

8.1

0123456789

2010 2011 2012 2013

100万

t

0.69

9.3%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

2010 2011 2012 2013

兆円

LNG輸入額

対輸入総額シェア[右軸]

102 仮に LNG輸入価格のみが 10%上昇した場合、国富の流出を通じて実質 GDPには 0.15% (=10%*1.5%)程度

の押し下げ効果が働く。

Page 118: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

115

図 5 主要輸入先別 LNG 輸入量 図 6 主要輸入先別 LNG 輸入価格

1.4

1.3

1.2

0.7

0.6

0.4

0.4

0.4

0.2

0.1

0.0 1.0 2.0

マレーシアオーストラリア

カタールロシア

インドネシアナイジェリアブルネイ

アラブ首長国連邦オマーン

赤道ギニア

Mt

2013/112013/10

8.08.5

7.28.4

7.18.7

8.28.38.3

5.98.9

0 5 10

平均マレーシア

オーストラリアカタールロシア

インドネシアナイジェリアブルネイ

アラブ首長国連邦オマーン

赤道ギニア

万円/t

2013/112013/10

図 7 LNG 輸入額要因分解 図 8 LNG 輸入価格要因分解

-0.10

-0.05

0

+0.05

+0.10

+0.15

2011 2012 2013

兆円

ドル建て輸入価格寄与輸入量寄与

為替寄与

輸入額変化(対前月比)

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

+2.0

2011 2012 2013

$/M

Btu

輸入先別価格寄与

輸入先構成寄与

ドル建て価格変化(対前月比)

図 9 LNG 輸入額と GDP 図 10 貿易収支

1.71

1.5%

0.0%0.2%0.4%0.6%0.8%1.0%1.2%1.4%1.6%1.8%2.0%

0.00.20.40.60.81.01.21.41.61.82.0

2010 2011 2012 2013

兆円

LNG輸入額

対名目GDP比[右軸]

-1.30

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

2010 2011 2012 2013

兆円

図 11 燃料調整費(東京電力、低圧、従量) 図 12 原料調整費(東京ガス、東京地区、家庭用)

1.53

-2.5-2.0-1.5-1.0-0.5

0+0.5+1.0+1.5+2.0+2.5

2010 2011 2012 2013 2014

円/kWh

料金改定

-3.07

-10

-5

0

+5

+10

+15

+20

2010 2011 2012 2013 2014

円/m

3

料金改定 料金改定

※要因分解は 2013年 11月まで

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116

⑩2014 年 1月の LNG 輸入動向

2014年 1月の LNG輸入 CIF価格は、前月比 5.6%、\4,773/t高の\90,050/tとなり、円建て

価格は過去最高値を更新し、初めて 9万円台となった。通関レートが前月比 2.5%、2.54円

/ドルの円安ドル高で 104.53円/ドルとなったことに加え、ドル建て価格が原油輸入 CIF価

格(3か月ラグ)の上昇に伴い、前月比 3.0%、$0.49/MBtu高の$16.65/MBtuとなり、4か月

連続で上昇したためである。原油輸入 CIF 価格から予測される LNG 輸入 CIF 価格は 2 月

$16.5/MBtu、3 月$16.4/MBtu である。また、米国 Henry Hub は、寒波到来の影響により前

月に引き続き上昇し、前月比 11.1%、$0.47/MBtu 高の$4.71/MBtu となり、3 年 7 か月ぶり

の高水準となった。

1 月のLNG輸入額は、前月より 6.8%、470 億円増加し、7,365 億円となった。価格が上昇し

たことに加え、輸入量が前月比 1.2%、9万t増加し、818万tとなったためである。輸入総額

は 8 兆 429 億円、貿易赤字額は単月として過去最大の 2 兆 7,900 億円となった。輸入総額

に占めるLNGの割合は 9.2%となり前月とほぼ横ばいである。なお、GDPへの一次的な影響程

度を表す指標である名目GDPに対するLNG輸入額の比率は、2013年第 4四半期において 1.5%

であった 103

図 1 LNG 輸入 CIF 価格(ドル建て) 。

図 2 LNG 輸入 CIF 価格(円建て)

16.6

4.71

10.91

113

0

20

40

60

80

100

120

140

0

5

10

15

20

2010 2011 2012 2013 2014

$/M

Btu

LNG ($/MBtu)

Henry Hub ($/MBtu)

NBP($/MBtu)

原油($/bbl)3か月ラグ[右軸]

9.0

0

2

4

6

8

10

2010 2011 2012 2013 2014

万円

/t

図 3 LNG 輸入量 図 4 LNG 輸入額

8.2

0123456789

2010 2011 2012 2013 2014

100万

t

0.74

9.2%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

2010 2011 2012 2013 2014

兆円

LNG輸入額

対輸入総額シェア[右軸]

103 仮に LNG輸入価格のみが 10%上昇した場合、国富の流出を通じて実質 GDPには 0.15% (=10%*1.5%)程度

の押し下げ効果が働く。

Page 120: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

117

図 5 主要輸入先別 LNG 輸入量 図 6 主要輸入先別 LNG 輸入価格

1.8

1.6

1.3

0.8

0.7

0.4

0.4

0.4

0.2

0.2

0.0 1.0 2.0

オーストラリアカタール

マレーシアロシア

インドネシアオマーン

ナイジェリアブルネイ

アラブ首長国連邦ノルウェー

Mt

2013/122013/11

8.57.7

8.89.1

8.69.2

6.18.89.08.9

9.3

0 5 10

平均オーストラリア

カタールマレーシアロシア

インドネシアオマーン

ナイジェリアブルネイ

アラブ首長国連邦ノルウェー

万円/t

2013/122013/11

図 7 LNG 輸入額要因分解 図 8 LNG 輸入価格要因分解

-0.10

-0.05

0

+0.05

+0.10

+0.15

2011 2012 2013 2014

兆円

ドル建て輸入価格寄与輸入量寄与

為替寄与

輸入額変化(対前月比)

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

+2.0

2011 2012 2013 2014

$/M

Btu

輸入先別価格寄与

輸入先構成寄与

ドル建て価格変化(対前月比)

図 9 LNG 輸入額と GDP 図 10 貿易収支

1.84

1.5%

0.0%0.2%0.4%0.6%0.8%1.0%1.2%1.4%1.6%1.8%2.0%

0.00.20.40.60.81.01.21.41.61.82.0

2010 2011 2012 2013

兆円

LNG輸入額

対名目GDP比[右軸]

-2.79 -3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.5

0+0.5+1.0+1.5

2010 2011 2012 2013 2014

兆円

図 11 燃料調整費(東京電力、低圧、従量) 図 12 原料調整費(東京ガス、東京地区、家庭用)

1.84

-2.5-2.0-1.5-1.0-0.5

0+0.5+1.0+1.5+2.0+2.5

2010 2011 2012 2013 2014

円/kWh

料金改定

-0.60

-10

-5

0

+5

+10

+15

+20

2010 2011 2012 2013 2014

円/m

3

料金改定 料金改定

※要因分解は 2013年 12月まで

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118

⑪2014 年 2月の LNG 輸入動向

2014 年 2 月の LNG 輸入 CIF 価格は、過去最高値であった前月より 1.1%、\1,029/t 低下し、

\89,020/tとなった。ドル建て価格は前月比 0.5%、$0.09/MBtu高の$16.74/MBtuとなり、5

か月連続で上昇したものの、通関レートが前月比 1.7%、1.74 円/ドル円高ドル安の 102.79

円/ドルとなったためである。原油輸入 CIF 価格から予測される LNG 輸入 CIF 価格は 3 月、

4 月ともに$16.7/MBtu であり、ほぼ横ばいで推移する見込み。また、米国 Henry Hub は、

寒波到来の影響により前月に引き続き上昇し、前月比 27.4%、$1.29/MBtu 高の$6.00/MBtu

となり、2008年 11月以来の高水準となった(日次の月中最高値は 2/5付で$8.12/MBtu)。

2 月のLNG輸入額は、前月比 9.2%、679 億円減の 6,686 億円となった。価格が低下したこと

に加え、輸入量が前月比 8.2%、69 万t減少し、751 万tとなったためであるが、それでも過

去 3 番目の高水準であった。輸入総額は 6 兆 6,003 億円、貿易赤字額は過去最高となった

前月よりは大幅に減少したものの、2月としては過去最大の 8,003億円となった。輸入総額

に占めるLNGの割合は 10.1%となり初めて 10%を上回った。なお、GDPへの一次的な影響程度

を表す指標である名目GDPに対するLNG輸入額の比率は、2013年第 4四半期において 1.5%で

あった 104

図 1 LNG 輸入 CIF 価格(ドル建て) 。

図 2 LNG 輸入 CIF 価格(円建て)

16.7

6.00

9.78

113

0

20

40

60

80

100

120

140

0

5

10

15

20

2010 2011 2012 2013 2014

$/M

Btu

LNG ($/MBtu)

Henry Hub ($/MBtu)

NBP($/MBtu)

原油($/bbl)3か月ラグ[右軸]

8.9

0

2

4

6

8

10

2010 2011 2012 2013 2014

万円

/t

図 3 LNG 輸入量 図 4 LNG 輸入額

7.5

0123456789

2010 2011 2012 2013 2014

100万

t

0.67

10.1%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

2010 2011 2012 2013 2014

兆円

LNG輸入額

対輸入総額シェア[右軸]

104 仮に LNG輸入価格のみが 10%上昇した場合、国富の流出を通じて実質 GDPには 0.15% (=10%*1.5%)程度

の押し下げ効果が働く。

Page 122: 天然ガス・LNG 市場のあり方に関する調査 報 告 書2017-12-13 · 平成25年度国際石油需給体制等調査 天然ガス・LNG市場のあり方に関する調査

119

図 5 主要輸入先別 LNG 輸入量 図 6 主要輸入先別 LNG 輸入価格

1.7

1.7

1.3

0.8

0.6

0.5

0.4

0.4

0.4

0.1

0.0 1.0 2.0

オーストラリアカタール

マレーシアロシア

インドネシアナイジェリア

アラブ首長国連邦オマーンブルネイ

赤道ギニア

Mt

2014/12013/12

9.08.1

9.49.6

7.89.6

9.39.5

8.69.49.8

0 5 10 15

平均オーストラリア

カタールマレーシアロシア

インドネシアナイジェリア

アラブ首長国連邦オマーンブルネイ

赤道ギニア

万円/t

2014/12013/12

図 7 LNG 輸入額要因分解 図 8 LNG 輸入価格要因分解

-0.10

-0.05

0

+0.05

+0.10

+0.15

2011 2012 2013 2014

兆円

ドル建て輸入価格寄与輸入量寄与

為替寄与

輸入額変化(対前月比)

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0

+0.5

+1.0

+1.5

+2.0

2011 2012 2013 2014

$/M

Btu

輸入先別価格寄与

輸入先構成寄与

ドル建て価格変化(対前月比)

図 9 LNG 輸入額と GDP 図 10 貿易収支

1.84

1.5%

0.0%0.2%0.4%0.6%0.8%1.0%1.2%1.4%1.6%1.8%2.0%

0.00.20.40.60.81.01.21.41.61.82.0

2010 2011 2012 2013

兆円

LNG輸入額

対名目GDP比[右軸]

-0.80

-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.5

0+0.5+1.0+1.5

2010 2011 2012 2013 2014

兆円

図 11 燃料調整費(東京電力、低圧、従量) 図 12 原料調整費(東京ガス、東京地区、家庭用)

2.35

-3.0

-2.0

-1.0

0

+1.0

+2.0

+3.0

2010 2011 2012 2013 2014

円/kWh

料金改定

3.14

-10

-5

0

+5

+10

+15

+20

2010 2011 2012 2013 2014

円/m

3

料金改定 料金改定

※要因分解は 2014年 1月まで