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目 次 1 2015 年度 LORC 年次報告書 目次 第一部 研究体制 …………………………………………………………………………………… 1 2015 年度 総括 ………………………………………………………………………… 1 節 全体総括 ………………………………………………………………………… 2 節 各研究班・各ユニット代表総括 ……………………………………………… 11 研究班 ………………………………………………………………… 22 研究班ユニット 1 …………………………………………………… 32 研究班ユニット 2 …………………………………………………… 42 研究班ユニット 3 …………………………………………………… 2 章 共同研究の体制と関連プロジェクト …………………………………………………… 1 節 共同研究の体制と関連プロジェクトとの相関 ……………………………… 2 節 受託事業・社会事業 …………………………………………………………… 1科学技術振興機構「創発的地域づくりによる脱温暖化」研究開発プロ ジェクト 2015 年度総括 ………………………………………………… 22 次守山市環境基本計画策定業務 …………………………………… 3 章 運営体制 …………………………………………………………………………………… 1 節 関連規程 ………………………………………………………………………… 2 節 共同研究者 ……………………………………………………………………… 3 節 活動日誌 ………………………………………………………………………… 1運営会議の開催日および議題 …………………………………………… 2外部評価 ……………………………………………………………… 3研究班研究会 ………………………………………………………… 4LORC 公開イベント ……………………………………………………… 5各種研究会 ………………………………………………………………… 6研究出張 …………………………………………………………………… 7研究招聘者(国外) ……………………………………………………… 第二部 研究報告 …………………………………………………………………………………… 1 章 国際シンポジウム開催報告 ……………………………………………………………… 1 IPrA 国際会議(2015 7 27 日~8 2 日)……………………………… 2 LORCOECD 主催国際シンポジウム「京都アライアンスとレジリエント な都市圏」 ……………………………………………………………………… 3 LORC 国際研究会“Actors and Factors in Challenging Shrinkage in City and Region” …………………………………………………………………… 4 OECD-GOV 国際ワークショップ……………………………………………… 5 節 ポートランド州立大学・LORC 共催ワークショップ………………………… 3 4 4 7 7 11 15 19 22 22 24 24 27 29 29 32 35 35 41 41 41 41 42 48 49 50 50 53 60 63 66

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  • 目 次

    ― 1 ―

    2015 年度 LORC 年次報告書 目次

    第一部 研究体制 ……………………………………………………………………………………

    第 1 章 2015 年度 総括 …………………………………………………………………………

    第 1 節 全体総括 …………………………………………………………………………

    第 2 節 各研究班・各ユニット代表総括 ………………………………………………

    1. 第 1 研究班 …………………………………………………………………

    2. 第 2 研究班ユニット 1 ……………………………………………………

    3. 第 2 研究班ユニット 2 ……………………………………………………

    4. 第 2 研究班ユニット 3 ……………………………………………………

    第 2 章 共同研究の体制と関連プロジェクト ……………………………………………………

    第 1 節 共同研究の体制と関連プロジェクトとの相関 ………………………………

    第 2 節 受託事業・社会事業 ……………………………………………………………

    1. 科学技術振興機構「創発的地域づくりによる脱温暖化」研究開発プロ

    ジェクト 2015 年度総括 …………………………………………………

    2. 第 2次守山市環境基本計画策定業務 ……………………………………

    第 3 章 運営体制 ……………………………………………………………………………………

    第 1 節 関連規程 …………………………………………………………………………

    第 2 節 共同研究者 ………………………………………………………………………

    第 3 節 活動日誌 …………………………………………………………………………

    1. 運営会議の開催日および議題 ……………………………………………

    2. 外部評価 ………………………………………………………………

    3. 研究班研究会 …………………………………………………………

    4. LORC 公開イベント ………………………………………………………

    5. 各種研究会 …………………………………………………………………

    6. 研究出張 ……………………………………………………………………

    7. 研究招聘者(国外) ………………………………………………………

    第二部 研究報告 ……………………………………………………………………………………

    第 1 章 国際シンポジウム開催報告 ………………………………………………………………

    第 1節 IPrA 国際会議(2015年 7月 27日~8月 2日)………………………………

    第 2節 LORC・OECD主催国際シンポジウム「京都アライアンスとレジリエント

    な都市圏」 ………………………………………………………………………

    第 3節 LORC 国際研究会“Actors and Factors in Challenging Shrinkage in City

    and Region” ……………………………………………………………………

    第 4節 OECD-GOV 国際ワークショップ………………………………………………

    第 5節 ポートランド州立大学・LORC 共催ワークショップ…………………………

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  • 目 次

    ― 2 ―

    第 2 章 海外調査報告 ………………………………………………………………………………

    第 1節 台湾(2016 年 2月 2日~2月 5日) …………………………………………

    第 2 節 アメリカ(2016 年 2 月 6 日~2 月 14 日) …………………………………

    第 3 章 研究会・国内調査実施報告 ………………………………………………………………

    第 1節 研究方針検討会 …………………………………………………………………

    第 2 節 第 1 研究班 ………………………………………………………………………

    第 3 節 第 2 研究班 ………………………………………………………………………

    1. 第 2 研究班全体会議 ………………………………………………………

    2. 第 2 研究班ユニット 1 ……………………………………………………

    3. 第 2 研究班ユニット 2 ……………………………………………………

    4. 第 2 研究班ユニット 3 ……………………………………………………

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  • ― 3 ―

    第一部 LORC 研究体制

    第一部

    LORC研究体制

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 4 ―

    第1章 2015 年度 総括

    第1節 全体総括

    2015 年度 LORC 研究活動 全体総括

    LORC センター長

    白石 克孝

    (1)研究プロジュクトの目的と取り組み

    本年度は LORC にとって第 4 フェーズの 2 年目となった。第 4フェーズでは人口減少と高齢化の進

    行、地域資源の管理・活用能力の低下を直視し、「限界都市化」――健康で文化的な暮らしを持続する

    ために必要な都市機能を質的、量的に維持することが難しくなっている都市――に抗する、持続可能な

    地方都市行政の「かたち」と、それを実現するための地域政策実装化への道筋を研究することを目的

    としている。

    第1研究班「限界都市論」研究班は、「限界都市化」の概念とその「抗し方」について理論的にアプ

    ローチする研究班であり、「空間計画・機能」研究ユニット、「地方政府・ガバニング」研究ユニッ

    ト、の2つの研究ユニットからなる。ただ、限界都市に抗する地域社会像をフィジカルに表現する「空

    間計画」と、その表現プロセスを規定する「ガバニング」とは密接な関わりがあるため、共同で研究

    活動を行ってきた。本年度は、①昨年度に続いて定期的に学内の研究会を開催した。②経済協力開発

    機構(OECD)公共ガバナンス・地域開発局(GOV)と「レジリエントな都市圏」を主題とした協働

    プロジェクトを継続させ、国際シンポジウムを共催し、OECD のワークショップに LORC の研究員

    を派遣した。③LORC の海外研究員や海外の研究者を招聘して、「縮小都市」や「大学と地域の関係」

    を主題とした研究会を開催した。④アメリカや台湾で現地調査を行った。

    第2研究班「政策実装化」研究班は、「コミュニケーションデザイン」研究ユニット(ユニット 1)、

    「ソーシャルスキル育成」研究ユニット(ユニット 2)、「地域還元型再エネ政策」研究ユニット(ユ

    ニット 3)から構成されている。

    第 2研究班ユニット 1は、ソーシャルスキルとしてのコミュニケーションを考察し、地域公共人材

    に必要なコミュニカティブ・コンピテンスの抽出や可視化を目指して研究を進めてきた。また、協働

    /連携プラットフォーム形成メソッドとしての「話し合い学」構築に向けた研究も同時並行で進めて

    きた。本年度は、①「雑談」を主題とした図書を公刊した。②海外の学会や国内の学会で「話し合い」

    を主題としたパネルを企画した。③「聞く・聴く・訊く」や「話し合い学」を主題としたラウンドテ

    ーブルを開催した。

    第 2研究班ユニット 2は、政策実装化に必要なソーシャルスキルを析出し、協働/連携プラットフ

    ォームの担い手のあり方の研究を進め、既存の京都における大学連携共同教育プログラム開発事業を

    活用して、人材育成スキームを構築・展開を目指している。本年度は、①アメリカのポートランド州

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 5 ―

    立大学と「大学の社会関与」を主題とする共同ワークショップを開催した。②国内の研究者や行政官

    を招聘して、「アクティブ・ラーニング」や「資格枠組み」を主題とした研究会を開催した。

    第 2研究班ユニット 3は、売電収益を地域に還元し、地域再生につながるような、再生可能エネル

    ギーの利活用の事業モデルを構築し、そのモデルを実現するためのソーシャルスキルの育成プログラ

    ムを実施し、低炭素社会の実現を組み入れた地域社会での政策実装化の実践的研究を進めるべく、議

    論をおこなった。本年度は、①国内の研究者を招聘して、「再生可能エネルギー」を主題とした研究会

    を開催した。②日本環境学会と「地域エネルギー」を主題としたシンポジウムを共催した。③科学技

    術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)の統合実装プロジェクト「創発的地域づく

    りによる脱温暖化」と共催して、「再生可能エネルギー基本条例」を主題としたシンポジウムとワーク

    ショップを全国の既制定自治体を招いて開催した。④LORC が事業モデルを構築した社会貢献型発電

    施設「龍谷ソーラーパーク鈴鹿」が竣工した。

    (2)研究プロジェクトの推進体制

    第 1研究班が主に比較論的な理論研究を担い、第 2 研究班が第 1研究班の成果を社会の中に実装化

    させていくという実践的研究を主として担うという役割分担であるが、両者の連携をどうはかるかが

    重要な課題となっている。

    本研究プロジェクトは、関連する事業が多くあり、また各ユニットや研究員が委託事業を別途受託

    したり、研究助成を受けていたりしている。LORC は、それらの多様な関連事業、プロジェクトを研

    究面から支えながら、同時に関連事業、プロジェクトの社会的な実践を研究成果に取り込んできた。

    関連事業、プロジェクトには、可能な限り研究コーディネーターが参加して情報収集につとめ、また

    研究コーディネーターの代表者が LORC 運営会議に参加して、全体の運営が連携的に進むように取

    りはかった。

    (3)研究成果の概要

    本年度、LORC は多大、多様な成果を上げることができた。そ

    の中でとりわけ重要なものは、①第1研究班を中心とした理論的

    な成果として、「レジリエントな都市圏」についての概念の提示、

    ②第 2 研究班を中心とした実践的な成果として、「大学の社会関

    与」についての検討、③第1研究班と第2研究班にまたがる理論

    と実践の懸け橋となる今後の計画――の 3つである。

    ①については、OECD との協働研究が鍵となった。この協働

    研究の中で、元来、LORC が関心を抱いていた「自治体間連携」

    に「レジリエント」の観点から迫る「レジリエントな都市圏」の

    概念が浮上した――「都市圏」という言葉は「自治体間連携」を

    示唆する――。そして、OECDが提起した「経済」、「社会」、「環

    境」、「組織・制度」の4要素に、LORC が従来から提起している

    ヒューマンキャピタルのひとつの類型としての「地域公共人材」

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 6 ―

    を組み合わせた概念図を提示した。この概念図は、「レジリエントな都市圏」の実現のためには「経済」、

    「社会」、「環境」、「組織・制度」の4要素における課題を 4要素間でバランスよく解決しなければな

    らないこと、そのためには 4 要素のいずれにも「地域公共人材」が不可欠であることを示している。

    この「地域公共人材」の育成に実際に関わるのが、第2研究班、すなわち、②である。②について

    は、ポートランド州立大学との協力が鍵となった。ポートランド州立大学と関わるのは本年度が初め

    てでない。昨年度は第 1研究班の研究員が、ポートランド市およびその周辺の自治体を調査した折り

    に、ポートランド州立大学を訪問している。今年度は、昨年度までの関係を深化させ、第 2研究班を

    中心として、第1研究班の研究員を含む 10名の訪問団を結成し、「大学の社会関与を進める教育・研

    究(Engaged Scholarship)」を主題として議論した。この議論から、本年度も第 2 研究班は政策実装

    化のために多彩な活動を行ったが、これらの活動の方向性が間違っていなかったことを確認するとと

    もに、今後の活動の方向性についても新たな手がかりを得ることができた。

    なお、ポートランド州立大学との協力関係は、今後も継続することで合意しており、来年度(2016

    年度)に同校の研究者を招聘してシンポジウムとワークショップなどを開催することを計画している。

    今後の関係の発展が期待される。

    ③については、今後、①第 1 研究班が「レジリエントな都市圏」をキーワードとした研究を進め、

    京都府北部地域対象として自治体連携アプローチをベースとする広域連携マスタープラン草案(仮称)

    を作成する、②滋賀県湖南・湖東地域では、パートナーシップアプローチをベースとするテーマ領域

    別の連携モデルをモデル的に実施し、その際には、第2研究班ユニット 1がコミュニケーションの観

    点から議論と計画の作成に関与する、③第 2 研究班ユニット 2 が「ソーシャルスキル」を再定義し、

    これからの時代に適した地域公共人材育成プログラムを開発する、④第2研究班ユニット 3が、地域

    貢献型再生可能エネルギーを念頭において、「ソーシャルファイナンス(社会的金融)」の開発および

    モデル的実装に取り組み、自治体職員や社会的企業家を含む地域公共人材育成に当たってはユニット

    2 と協力して新たな育成プログラムを開発する、以上を計画している。

    このように、LORC 第 4 フェーズの 2 年目となった本年度は、LORC にとって基本的な方向性が

    固まる重要な年となった。来年度以降、本年度に固まった方向性がどのように発展させていくかが大

    きな課題である。

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 7 ―

    第2節 各研究班・各ユニット代表者総括

    1. 第1研究班

    2015 年度 第1研究班 総括

    第1研究班班長、第1研究班ユニット2ユニット長

    的場 信敬

    第1研究班ユニット1ユニット長

    阿部 大輔

    第 1 研究班「限界都市論」研究班は、「限界都市」の概念とその「抗し方」について理論的にア

    プローチする研究班であり、「空間計画・機能」研究ユニット、「地方政府・ガバニング」研究ユ

    ニット、の 2つの研究ユニットからなる。昨年度(初年度)は主に、本研究プロジェクトのキーワー

    ド、特に「限界都市」や「広域連携」、そしてあらたに加わった「レジリエンス」などの解釈と認識の

    共有と、お互いの研究領域の相互理解を促進するような研究活動を行ってきた。それをふまえて今年

    度は、より具体的に広域連携のさまざまなあり方を事例から学ぶための(1)研究会、(2)国内外調

    査と、レジリエントな地域社会が持つ要素の理論的整理のための(3)OECDとの協働研究、を中心

    に、昨年度同様、2つのユニット共同で研究活動を行った。以下、それぞれの成果を簡潔に報告する。

    (1)班研究会

    今年度の班研究会では、第1研究班の研究内容、特に行政界を超えた自治体間の広域連携のあり方

    に関する研究員による研究成果を共有する場として、今年度は 6回開催した。

    日時 報告者 内容

    第 1回:

    4 月 16日

    白石克孝研究員

    「OECDとの協働プロジェクトの背景」

    的場信敬研究員

    「これまでの研究会での議論と当面の研

    究課題」

    ・OECD の協働研究パートナーが LEED

    からGOV への変わった経緯、京都レポー

    ト、10 月のシンポジウム等の現況を共有

    し、今後の京都レポートに関する作業手

    順、課題を皆で議論した。

    ・その他、当面の研究課題、GIS の活用に

    ついても議論した。

    第 2回:

    5 月 13日

    大矢野修研究員

    「京都府北部地域における自治体(都市)

    間連携の意義を考える」

    立花晃(RA)

    「公設民営大学、チェーン系私立大学の現

    ・京都北部地域における自治体間の水平

    連携の必要性、その先進事例として「南信

    州」「北海道・奈井江町」を取り上げた。

    ・公立民営大学については、政府の当初の

    思惑を現実とのギャップについて報告さ

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 8 ―

    状と地域連携の取組」 れた。

    第 3回:

    6 月 10日

    的場信敬研究員

    「レジリエンス論の整理」

    並木州太朗(RA)

    「京都北部調査報告」

    ・多数の文献を引用し、レジリエンスの概

    念、レジリエントな環境形成方法、OECD

    による指標とレジリエンスの関係などが

    報告された。

    ・また、前年度3月に行った京都北部調査

    に関する報告も行った。

    第 4回:

    6 月 26日

    本多滝夫研究員

    「自治体間の広域連携と連携協約制度―

    連携協約を「条約」に擬える意味」

    今里佳奈子研究員

    「東三河地域における地域連携~レジリ

    エントな地域社会と広域行政・地域連携」

    ・連携協約制度の特徴、これまでの連携と

    の違い、連携協約までの歴史的背景、連携

    協約の罠について報告された。

    ・東三河地域の地域連携について、多様で

    多層的なネットワーク形成を実現してき

    た経緯について報告された。

    第 5回:

    7 月 23日

    阿部大輔研究員

    「レジリエンスに関して、空間計画の立場

    からの論点整理」

    久保友美研究員

    「京都北部地域における CUANKA の取

    り組み」

    ・レジリエンスに関して、交通と情報への

    アクセス、ノウハウを共有する政策プログ

    ラムの作成、高齢者のための空間、施設整

    備コストを軽減するための手法の重要性

    について報告された。

    ・CUANKAの設立から現在までの一連の

    取組み、成果・課題について報告された。

    第 6回:

    1 月 18日

    阿部大輔研究員

    「欧州における広域マスタープラン策定

    の取り組み」

    大石尚子研究員

    「自治体間ネットワークによる地域イノ

    ベーション—イタリア・スローシティ協会

    の取り組みから—」

    ・地域内結束、土地法、バルセロナ大都市

    圏プラン、カタルーニャ州広域プラン、バ

    スク州地域整備などを取り上げ、大都市圏

    に依存しない地域づくりのための広域連

    携プラン作りについて報告された。

    ・スローフード、スローシティの経緯、特

    徴と課題について報告された。

    (2)国内外の事例調査

    今年度は、既存の行政界であらゆる公共サービスを提供する「フルセット型」自治体の対抗軸とな

    りうる、「広域連携」による地域運営をキーワードとして、国内外での事例調査を実施した。

    国外では、特定のテーマや産業復興を軸とした広域的な連携の先進的な取り組みとして台湾(台北

    市、新北市)、広域的な自治体間連携のガバニングについての先進事例調査としてアメリカ(ニューヨ

    ーク、ワシントンD.C.、ミネアポリス/セントポール)調査を実施した。

    国内では、前年度に引き続き第 1研究班のメインフィールドの一つである京都府北部地域を対象に、

    今回は再生可能エネルギー事業の促進状況の把握を目的に現地視察を行った。また、自治体間広域連

    携の先進事例として熊本県阿蘇地域、福岡県北九州市への現地視察を行った。

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 9 ―

    〇 台湾(台北市、新北市)

    台北では、まず都市内に多数存在している空き家の中から所有者・立地条件・築年数などを考慮し、

    地域の拠点となるポテンシャルの高い空き家を選定・改修し、都市再生前進基地(Urban Regeneration

    Statioon):URS とする事業の現地視察を行った。針灸治療的に、ポイントとなる部分を改修し、地

    域の拠点とすることで、地域内の交流の向上のみでなく、複数の URS を拠点としたイベントなどを

    通じ、地域間の連携へと発展している。

    次に台北市から南東に車で 30 分の場所に位置する人口 6000 人程度の坪林地区の茶畑に関する調

    査を行った。台湾大学と台湾大学卒業生・在学生の計 5人からなる団体、大桌環境整合股份有限公司

    (通称、TEBO)による茶文化の復興・発展を目指す取り組みによって、持続的な地域発展モデルが

    徐々に形成されてきていることを把握した。

    ○ アメリカ(ニューヨーク、ワシントン D.C.、ミネアポリス/セントポール)

    市場主義のアメリカだが、実際は、戦前の大恐慌時代以降、公共交通、環境規制、流域管理、自然

    管理など、多様なスタイルの都市圏ガバナンスの経験を積み重ねている。また、都市圏ガバメントの

    事例も多数存在している。アメリカの事例に関する聴き取りを通じ、我が国の都市圏ガバナンスを考

    えるヒントを得ることを目的として本調査を実施した。

    ニューヨークの純民間企業 RPA による 3 州 31 郡 783 市町村に及ぶ広域圏計画、ワシントン D.C.

    に本拠を置くブルッキングス研究所(非営利公共政策機関)による都市圏内経済の力強いものにする

    ための方策Metropolitan Policy Program、ミネソタでのTax-sharingの導入に関するヒアリング調

    査、現地視察を行った。

    〇 京都府北部地域

    京丹後市大宮庁舎、袖志棚田保存会、道の駅舟屋の里伊根、三和地域づくり協議会、一般社団法人

    京都府北部地域・大学連携機構(CUANKA)など訪問し、①地域の中には有能な若い人材が多く存在

    していること、②京都北部地域を全体としてみれば、都市と田舎の連携活動などを展開するために有

    効なパッケージを展開できる余地は色々とあるということ、を確認することができた。

    〇 九州(熊本県阿蘇市、福岡県北九州市)

    今後京都府北部地域の広域連携を構想していく際の参考事例として、観光を重視した自治体間広域

    連携の先進事例として阿蘇地域振興デザインセンター、GIS(地理情報システム)を用いた自治体間

    広域連携の先進事例として北九州市総務企画局へヒアリング調査を実施した。

    これらの調査から、①行政界を股ぐイベントを企画し、短期的に自治体間連携を行うことの有用性、

    ②GIS を用いた優れた政策システムが、自然と自治体間広域連携を強化させていく可能性について確

    認した。

    (3)OECD との協働

    日本社会が直面する人口減少社会への対応策は、今後同様の課題と向き合うことになる他の国々か

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 10 ―

    らもおおいに注目されている。そのため、国外の研究組織などと連携し積極的に研究成果を海外へ発

    信することは、LORC の重要な社会貢献のひとつである。そのような活動の一環として今年度は、主

    にOECDと密に協働研究をおこなってきた。

    前年度のOECD協働国際ワークショップ「京都アライアンスとレジリエントな都市と地域づくり」

    に引き続き、今年度はOECD・LORC 主催国際シンポジウム「京都アライアンスとレジリエントな都

    市圏」を開催した。これらの OECD との共同企画を通じて、LORC は、京都発のレジリエントな都

    市圏実現の構想モデルとして、大学を含むマルチパートナーシップ型の協働プラットフォーム-京都

    アライアンス-の役割を全世界へ発信する研究拠点として機能した。

    また、OECD とのレジリエンス概念の議論を通して(12 回のビデオ会議を開催)、4 つの社会要素

    (経済、社会、環境、組織・制度)の相互作用と、それをつなぎ・機能させる地域公共人材の関係性

    を、ユニット全体をつなぐレジリエントな地方都市の概念図として提示した(第一部第 1章第 1節参

    照)。

    今年度の研究活動を踏まえて、来年度以降第 1研究班は、レジリエントな地域都市行政のガバニン

    グの在り方について研究を発展させていく予定である。LORC の主要な研究対象地域である、京都府

    北部地域、滋賀県湖南地域の基礎自治体の政策方針の比較・分析、更には国内外の先進事例研究を行

    っていく。また、京都府北部地域と滋賀県湖南地域に2つのエリアに適した広域連携マスタープラン

    草案(仮称)の作成・提示を通じて、具体的に何に着目すれば自治体間の広域連携が可能となるか、

    明確にしていく。京都府北部地域では、地域公共人材、社会、経済、環境、組織・制度についての基

    本的な考え方を包括的に扱ったプランを作成し、滋賀県湖南地域では、「水資源・再エネ」といった特

    定の対象に特化したプランを作成していく。

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 11 ―

    2. 第2研究班ユニット1

    2015 年度 第2研究班ユニット1 総括

    第2研究班ユニット1ユニット長

    村田 和代

    (1)第2研究班ユニット1の研究成果の概括

    第 2研究班「政策実装化」研究班「コミュニケーションデザイン」研究ユニットは、ミクロ・メゾ

    の両レベルで、次の 2つの側面からコミュニケーションの研究を進めている。まず、協働/連携プラ

    ットフォーム形成メソッドとしての「話し合い学」構築に向けた研究があげられる。もうひとつが、

    第2研究班全体のテーマである政策実装化に求められるソーシャルスキルとしてのコミュニケーショ

    ンを考察し、地域公共人材に必要なソーシャルスキルの析出や可視化を目指す研究である。もう一つ

    の目標としては、協働/連携プラットフォーム形成メソッドとしての「話し合い学」構築に向けた研

    究を進めることである。

    今年度は、①まちづくりの話し合い談話分析プロジェクト、②「聞き手行動」や「話し合い学」を

    テーマとしたラウンドテーブルの開催、③研究成果の国際的発信に加えて、政策実装化につなげるべ

    く④北部調査を開始した。

    (2)個別研究課題の研究成果の総括

    ①まちづくりの話し合い談話分析プロジェクト

    昨年度収録し文字転記したまちづくり話し合い談話のうち、熟練・非熟練ファシリテーターが進め

    る話し合い談話を比較し、ファシリテーターや話し合い参加者に着目してそれぞれが分析を行った。

    2015 年 9 月 5 日 6 日に京都教育大学に於いて開催された社会言語科学会第 36 回大会において、「ま

    ちづくりの話し合い学―言語学・社会学からのアプローチ―」というテーマのワークショップを開催

    し、研究成果を報告した。ワークショップでは、まちづくりをめぐる市民参加型の話し合い談話の特

    徴や課題を、質的・量的、ミクロ・メゾといった多角的な視点から考察した。企画責任者(村田和代・

    龍谷大学)の進行のもと、LORC メンバーより、言語学からの報告(森篤嗣・帝塚山大学、増田将伸・

    京都産業大学、岡本雅史・立命館大学)、社会学からの報告(井関崇博・兵庫県立大学)で行った。ワ

    ークショップでは、企画主旨の説明とまちづくりの話し合い談話の先行研究の紹介につづいて、話し

    合い談話の量的分析(テキストマイニング)、場の円滑化や効果的なファシリテーションの諸相につい

    ての質的分析、話し合いが行われる社会的な仕組みをめぐる考察といった計 4件の報告を行った。

    話題提供者 タイトル

    森 篤嗣(帝塚山大学) テキストマイニングによるまちづくりの話し合いの傾向分析

    増田将伸(京都産業大学) 話し合いの場の円滑化に寄与する要素の探索的分析

    岡本雅史(立命館大学) ファシリテーションにおける響鳴の諸相

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 12 ―

    井関崇博(兵庫県立大学) まちづくりの話し合いをデザインする運営事務局の機能

    報告の概要は以下の通りである。

    テキストマイニングによるまちづくりの話し合いの傾向分析(森 篤嗣)

    まちづくりの話し合いにおいて、参加する市民やファシリテーターの発話について、話し合いの中

    に埋め込まれた語彙や表現をテキストマイニングという手法を用いて検討した。それにより、話し合

    いの展開や、主張の押し引きなどの傾向がみられた。

    ファシリテーションにおける響鳴の諸相(岡本雅史)

    市民の話し合い場面におけるファシリテーターの育成を目指す上で、「良い」ファシリテーションと

    は何かを多角的に検討する必要がある。本発表では、熟練したファシリテーターと経験の浅いファシ

    リテーターの発話を比較することで、ファシリテーションにおける効果的な言語方略としての「響鳴

    (resonance)」に着目し、ファシリテーションにおける響鳴の機能を明らかにした。

    話し合いの場の円滑化に寄与する要素(増田将伸)

    大局的な印象としてうまくいっている話し合いをそうでないものと比較し、話し合いの場の大局を

    構成する要素で上記印象に関係したものを分析して、話し合いが円滑に進められるための要素を探る

    ことを目標とした。具体的には、「参加機会の平等」「ロードマップの設定」「意見表明の仕方」等の要

    素を取り上げた。

    まちづくりの話し合いをデザインする運営事務局の機能(井関崇博)

    まちづくりの話し合いは、行政等の公共的な団体による一つの「事業」として実施されることが多

    い。そして、主催者は参加者による話し合いが円滑に進み、それを通して望ましい結果が生まれるよ

    うに、話し合いをデザインする「運営事務局」を立ち上げ、話し合いをマネジメントしようとする。

    本発表では話し合いの要に位置するこの運営事務局が話し合いのプロセスや主体間の関係形成に対し

    てどのように機能するのかを分析した。

    話し合いの場で行われるインタラクションの研究をミクロの視点から行い、まちづくりの話し合い

    の課題を抽出し、より質の高い市民参加の話し合いの「場」の設計につなげることは重要である。一

    方、その話し合いの場で形成された合意・規範・意思決定が実際の意思決定のしくみと接続されてい

    なければ市民参加型のまちづくりとは言えない。本ワークショップでは、まちづくりの話し合いを総

    体として考え、ミクロの視点からの研究(話し合いの場で行われる言語・コミュニケーションの研究等)、

    メゾレベルの視点からの研究(話し合いによる課題解決・まちづくり、人材育成の研究等)、マクロレ

    ベルの視点からの研究(話し合いが埋め込まれる社会システムや法制度等の研究)の連携の必要性につ

    いても議論し、多角的視点からの研究を融合したまちづくりの話し合い学の構築を提案した。

    当日は、報告の後、参加者約 60名で活発な質疑応答が行われた。なお、本ワークショップは、学会

    誌『社会科学』18巻 1号に掲載予定である。

    ②ラウンドテーブルの開催

    今年度は、ふたつのラウンドテーブルを開催した(詳細については、第二部 第 3章 第 2節 1. 第

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 13 ―

    2 班研究ユニット 1 に記載)。2016 年 1月には、2日間にわたりラウンドテーブル『<聞く・聴く・

    訊く>こと-聞き手行動の再考-』を開催した。コミュニケーションにおいて重要なことは「伝える

    こと」であると考えられてきたが、近年「聞くこと」に注目が集まるようになってきた。LORC のこ

    れまでの研究においても、地域公共人材に求められるコミュニケーションスキルとして「聞くこと」

    の重要性があげられている。本ラウンドテーブルでは、様々な談話を<聞く・聴く・訊く>という言

    語行動の観点から研究を行う言語・コミュニケーション研究者が集まり、14件の研究報告が行われた。

    それぞれの研究成果の報告を通して<聞く・聴く・訊く>ことの諸相を明らかにし、2 日目の全体討

    議においては、聞き手行動がもたらす可能性やリスナーシップ研究の社会的貢献についても議論を行

    った。本ラウンドテーブルは、出版社からオファーを受けて、2017年度に本として出版の予定である。

    2016 年 3月には、同じく 2 日間にわたってラウンドテーブル「『話し合い学』構築をめざして」を

    開催した。昨年度開催した「市民参加の話し合いを考える」ラウンドテーブルの続編として、新たな

    報告者をむかえて行った。本ラウンドテーブルでは、多領域からの研究・実践報告や議論を通して、

    「共創」を実現するための「話し合いのモデル」と、それを基調とする「社会・制度・政策のあり方」

    を探求する学際的な「話し合い学」構築の全体図を描くことを目標とした。 2 日間で 14 件の研究報

    告があり、オーディエンスと活発な質疑応答や全体議論を行った。本ラウンドテーブルは、出版社か

    らのオファーを受けて、2017 年度本として出版の予定であり、現在報告者を含む執筆者に概要作成を

    依頼している段階である.

    なお、昨年度開催した「『雑談の美学を考える』ラウンドテーブル」(2014 年 7 月 19 日 20 日)は、

    『雑談の美学―言語研究からの再考』(ひつじ書房)として 2016年 2月に出版した。

    また、「『市民参加の話し合いを考える』ラウンドテーブル」(2015年 1月 24日 25 日)については、

    現在編集中であり 2016年度中に出版の予定である。

    編者 村田和代・井出里咲子編

    出版 ひつじ書房

    定価 2,800 円+税

    ISBN 978-4-89476-786-7

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 14 ―

    執筆者 東 照二、井出里咲子、大津友美、岡本能里子、片岡邦好、白井宏美、菅原和孝、

    筒井佐代、平本 毅、坊農真弓、堀田秀吾、村田和代、山内 裕、山口征孝

    ③研究成果の国際的発信

    研究成果の国際的発信として、今年度は 7 月にアントワープ(ベルギー)で開催された国際学会

    (International Pragmatics Conference: IPrA)の「話し合いデザイン」をめぐるテーマのシンポジ

    ウムにおいて、2 名の LORC 研究員で LORC のこれまでの研究成果について報告を行った(詳細に

    ついては、第二部 第 1節に記載)。さらに、ソーシャルスキル育成や可視化をめぐる取り組みとして、

    ポートランド州立大学(PSU)との共同ワークショップを西芝雅美氏(PSU)とともにデザインし(7月

    に龍谷大学、9 月にポートランドにて打ち合わせ)、ワークショップ開催(2016 年 2 月 25 日 26 日)

    へとつなげた(詳細については、第二部 第 5節に記載)。

    ④北部調査

    2015 年 7 月 9 日、京都府北部地域・大学連携機構を訪問し、今年度事業や実装化の可能性につい

    て意見交換を行うとともに、京都移動コンシェルジュの川渕一清氏に、京都府北部地域への U・I タ

    ーンの状況や、京丹後市を中心とした若者のネットワーク構築に関する取り組み及びについてヒアリ

    ングを実施した。また、福知山市大江町で大江元気プロジェクト・伊田さなえ代表、河口珠輝氏に参

    道マルシェの展望や地元住民とのコミュニケーションについてヒアリングを実施した。これらのフィ

    ールド調査をもとに、今後研究の具体的プランを構築し、2016年度より始動することになった。

    (3)来年度にむけて

    話し合い学の学術的展開としては、今年度開催した話し合い学構築のラウンドテーブルで培ったネ

    ットワークをもとに海外の研究者へも交流を広げ、協働/連携プラットフォーム形成メソッドとして

    の「話し合い学」構築に向けた研究をさらに展開する。言語チームでは、話し合い談話データの拡充

    とさらなる談話分析を進める予定である。さらに、来年度以降は、とりわけ、京都府北部における研

    究の実装化を意識して研究を展開する。話し合い学の研究成果を、1 班と連携しながら、京都府北部

    の広域マスタープラン作成過程の話し合いのデザインを担当することを計画している。また、新しい

    タイプの話し合いの開発と北部での試行を行う予定である。

    ソーシャルスキルをめぐる研究としては、京都府北部への I ターン・U ターン者へのインタビュー

    調査や、京都府北部で展開している PBL の効果や評価についての実証研究を、ユニット2と共同で

    行う予定である。加えて、来年度 12月には、今年度に PSU との共同開催で行ったCommunity-based

    Learning のワークショップをさらに展開した国際シンポジウムを龍谷大学で開催する予定で、これ

    にむけての準備も進める必要がある。

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

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    3. 第2研究班ユニット2

    2015 年度 第2研究班ユニット2 総括

    第2研究班ユニット2ユニット長

    大田 直史

    LORC 第 3期までの成果および 2014年度の研究調査の成果を踏まえて、「ソーシャルスキル」を軸

    として研究・調査活動を行った。具体的には、①縮小都市や限界都市の課題に直面している日本社会

    において求められるソーシャルスキルを析出し、それを涵養するためのプログラムを継続して検討す

    ること、②京都北部地域において地域再生を進める人材に求められる資質や能力に関して検討するこ

    とを課題とした。

    (1)今年度の国内調査について

    ①第 1回海外調査報告(BIBB、CSE)(2015年 4月 20日)

    2014年度の海外調査で得られた知見を共有し、2015 年度の研究課題を議論した。

    1)BIBB(ドイツ):BIBB では、ソーシャルスキルは、職業教育のなかで副次的に結果的に獲得

    できる能力として捉えられていたこと、2)リエージュ大学CSE(ベルギー)では、社会起業家に必

    要な能力について、大学が学生にプログラムを提供して育成されるものではなく、大学で勉強して獲

    得できないスキル(ビジョン、カリスマ的リーダーシップ、創造的、リスクを負うこと等)が必要と

    され、大学では一定のコンピテンスを涵養プログラムが開発されており、汎用性のあるジェネリック

    スキルとして「ソーシャルスキル」として想定される能力に近いものへのフォーカスがある印象があ

    った。

    ②研究会「〈新しい能力〉の形成と評価-地域公共人材の育成のために」(2015年 6月 24日)

    6 月 24日に、松下佳代教授(京都大学高等教育研究開発推進センター高等教育教授システム研究開

    発部門)を招いて標記の研究会を開催した。同教授は、教育方法学(能力論・評価論など)を専門と

    し、<新しい能力>と大学教育との関係に関して積極的かつ批判的に論じてきた。同教授から、本ユ

    ニットが研究対象としているソーシャルスキルは、地域において住民と連携し、公・民間営利・民間

    非営利の各セクターの垣根を越えて関係を構築できる能力と想定されており、これは<新しい能力>

    あるいはそれに含まれる能力と同じものとの指摘を受けた。ほかに同教授からは、新潟大学歯学部の

    事例を通じて講義からアクティブラーニングへの教育変化とディープ・アクティブラーニングによる

    能力形成、ルーブリックを含むパフォーマンス評価モデルが紹介された。併せて地域公共政策士資格

    制度について、地域公共人材の学問的・職業的なプロフィールを定義すること、使える資源を確認し

    てプログラムデザイン、すなわち一般的能力と分野固有の能力に関する学習成果コンピテンスの定義、

    プログラムの質保証のためにコースツリーと履修支援の必要性、評価タイプ(パフォーマンス評価、

    ポートフォリオ)と教授・学習アプローチ(ディープ・アクティブラーニング)の選択の必要性が提

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 16 ―

    言された。

    質疑を通じて、「ソーシャルスキル」の概念が、人によって、コンピテンスなどより狭い意味に捉え

    られる可能性があることが指摘された。また、アクティブラーニングについて、教員負担を増大させ

    ずにどう実施し、かつディープなものとするかは、学生が学べる課題設定のあり方にかかり、上回生

    の関わらせ方や、TA の配置により、知識を学び、能力・スキルを広げていく循環を生み出すことが課

    題であると述べられた。

    ③研究会「諸外国の資格枠組み制定動向と、厚労省文科省の能力評価制度の検討状況について」(2016

    年 1月 7日)

    岩田克彦(国立教育政策研究所フェロー・厚生労働省職業能力開発局職業能力開発研究官・前職業

    能力開発総合大学校教授)を招いて標記の報告をいただくとともに、久保友美氏(地域公共人材・政

    策開発リサーチセンター(LORC)研究員龍谷大学地域協働総合センターPD)から「地域公共政策士

    の開発状況について」、大石尚子研究員(政策学部准教授)から「ソーシャルスキルをめぐる研究課題

    について」、各報告を行い、資格制度とそれによる能力評価制度のあり方と地域公共政策士の資格制度

    の課題について意見交換した。

    岩田教授の報告では、“Qualification”(資格)は、「評価・認定プロセスの公式結果(認定証・修了

    証・称号)であり、ある個人が所定の基準に沿った学習成果を達成、及び/又は特定の業務分野にお

    いて働くために必要なコンピテンス(総合的能力)を持ち、適格性のある機関が判断した場合に得ら

    れるものであり、日本の「資格」よりは幅広い「能力評価制度」である。資格枠組みは、「一群の基準

    に沿って、特定のレベルの学習成果に適用される国・部門レベルなどの資格を分類・開発するための

    仕組み」である。欧州諸国では、教育・訓練体系全体の見直しを促す起爆剤として、EQF(European

    Qualification Framework:欧州資格枠組み)にリンクしたNQF(国単位の資格枠組み)の整備を積

    極的に進めている。

    日本でも、イギリスをモデルに、①介護・ライフケア分野、②環境・エネルギー分野、③食・観光

    分野に焦点を当てて 2020 年度までに日本版 NVQ(国家職業資格制度)の構築を目指す動きはある

    が、実際に進んでいるのは、①の分野のみである。JQF 策定の効果は大きく、①若者の学校から職場

    への円滑な移行を可能にする、②女性の職場復帰を推進する、③中高年をターゲットにした職業訓練

    を再活性化する、④就業能力の認定が重視されることで障害者の能力開発を可能にする、⑤グローバ

    ル化への対応を可能とする、⑥成長・発展分野への労働移動を支援する、⑦新たな日本型フレクシキ

    ュリティの構築につながることが挙げられた。

    久保報告では、資格教育プログラムは、京都府内9大学と京都府立林業大学校で 30 プログラムが

    実施され(2015年 7月現在)、①資格取得者の公共分野への高い就職率、②地域社会との実践教育の

    広がり、③京都府北部地域・大学連携機構との連携強化といった社会的効果を生み出している。今後

    の課題として、①プログラム受講生及び資格取得者がつながる機会創出、②プログラム修了・資格未

    申請者へのアプローチ、③受講者の資格制度についての理解度向上があることが紹介された。

    大石報告は、ソーシャルスキルを、「対人場面において、適切かつ効果的に反応するために用いられ

    る言語的・非言語的な対人行動と、そのような対人行動の発現を可能にする認知過程との両方を包含

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 17 ―

    する概念」とする定義を引用(相川充、「社会的スキルと対人関係」誠信書房、1996)。政策実装に結

    びつけるために、ソーシャルスキルや社会変革の意識といったソーシャル・イノベーターの要素を入

    れる必要を指摘した。ソーシャル・イノベーターに求められる能力には、Competence(実行能力)、

    Commitment(当事者意識)、Compassion(共感する力)があるとする考え方が紹介された(マーク・

    アルビオン)。EUにおけるSI醸成のエコシステムを形成する Innovation UnionとSocial Innovation

    Europeと、Impact HUB の取り組みが紹介され、また大学では、ベルギー・リエージュのCSE(Centre

    of Social Entrepreneur)、フィンランド・タンペレのイノベーションセンターNew Factory、イタリ

    ア・ミラノのDESISの取り組みが紹介された。

    最後に本ユニットの課題との関係で、①コミュニケーションスキル育成に注目した精緻なプログラ

    ミング、コミュニケーションスキルの評価方法が必要、②政策実装の環境整備として、地方版 Impact

    HUB を形成することや政策実装化するための現場、いつでも誰かと議論できるサロン的空間、イン

    キュベーションセンター設置の検討が必要と指摘した。

    (2)今年度の外国調査について

    アメリカのポートランド州立大学で同校と共同ワークショップ「大学の社会関与を進める教育・研

    究(Joint Workshop on Engaged Scholarship)」を開催し、「大学の社会関与を進める教育・研究」に

    ついて意見交換を行った。以下、同大学での取り組みに関する報告と議論の概要のみ記す。

    Judith Ramaley 氏からは、ポートランド州立大学の前身のオレゴン大学が、社会人に向けた公開

    教育部として発足したことなどから社会への関与が始まった経緯について説明があった。

    Stephen Percy 氏からは、大学が社会への関与を強めている背景には、大学に地域の問題を解決す

    るための知識や能力の提供が期待されていること、公立大学に公的資金に見合う活動が期待されてい

    ること、大学自身が社会への関与による受益を認識していること、そしてアンカーの組織としての大

    学の在り方などがあることが述べられた。同氏は、教職員に対するサービス・ラーニングのトレーニ

    ングに関する質問に対して、サービス・ラーニングの方法は当初誰にもわからず、研究会や学術誌に

    おける発表を通して、実績を積み重ねてわかってきたと述べ、方法は多様であり、すべての教職員が

    習熟しているわけではないとも述べた。

    Sy Adler氏は、同大学のキャップストーン・プロジェクトを紹介し、依頼人は、オレゴン州内・州

    外の場合もあり、学生は就職に有利になると考えて地方自治体を選ぶことが多いが、大学は、支援を

    必要としている依頼人に支援するという観点から、既に人的な資源を有する地方自治体より、地域団

    体や町内会を選ばせようとしていること、学生は活動を通して地元についての理解を深め、大学は、

    依頼人に当該の学生グループについて聞いたり、教員に学生グループと相談させたりしているとのこ

    とである。同大学の学生の活動は全国的な賞や州レベルの賞を多数、受賞していることが紹介された。

    同氏の発表に対して学生にどのようにスケジュールを立てさせるかにかかる質問が出たが、依頼人と

    の関係で調整していると回答された。また学生の評価に関する質問に対して、成績は「可」「不可」の

    2 段階という回答があった。

    Celine Fitzmaurice氏は、同大学の地域関連型キャップストーン・コースを紹介した。University

    Studies という部署が、一般教育カリキュラムとして学年ごとに学際的なコースを提供しており、キ

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

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    ャップストーン・コースでは、学生はサービス・ラーニング、すなわち、チームとして地域パートナ

    ーに成果を与えることが求められる。学生には、ボランティア活動を行うだけでなく、問題が生じる

    原因について考えることを促されているとのことであった。

    Kecskes 氏と Erin Elliott 氏が、同大学における地域に関与する学問について発表した。地域関連

    型研究(Community Based Research、CBR)は研究者と地域の成員の協働であり、CBR の目標は

    社会活動と社会変化である。伝統的な学問と社会に関与する学問は、相反するものではなく、社会に

    関与する学問が伝統的な学問を補完する関係にある。事例として、市南東部のレンツ地区における街

    づくりが紹介され、地域にインパクトを与えると同時に、学生たちも、ハード・スキル、ソフト・ス

    キル、ほかの実質的な経験を得ることができたことが紹介された。

    Amy Spring氏は、同大学のCommunity Engagement Research Academyについて発表し、同組

    織が地域関連型研究と地域関連型教育を関連づけるために設けられ、図書館を利用した資料の蓄積、

    出版や発表を通した情報交換、補助金の獲得の支援、学生リーダーのトレーニングと支援、教員の教

    育、地域活動を調査する会議などを行っていることを紹介した。

    最後に、両校が協力を継続させることで合意した後に、スカイプ会議の開催、できればいずれかが

    他方に訪問することが望ましいという意見が出され、主題としては、災害対策や人口減少が挙げられ

    た。

    (3)総括と次年度の課題

    本年度の調査研究活動を通じて、ソーシャルスキルの概念が、ジェネリックスキル・社会人力など

    と同内容の資質や能力と捉えられるのが一般的であること、地域公共政策士の資格制度で保障しよう

    とする資質・能力がこの資格の分野のプロフィール・職業分野固有の能力と離れて考えにくく、緩や

    かであるとはいえ地域公共政策士の職業分野・知識を明らかにしていくことが求められている。この

    点では、EQF に基づく資格制度を発展させているオセアニア地域での資格制度とその実情などをさ

    らに調査して、獲得を目的とする能力・資質の内容を研究することが必要と思われる。

    また、それを涵養するプログラムについては、地域社会に関与した研究・教育のあり方を、CUANKA

    およびCOLUP とも共同しつつ、実践的に探求を進めてきたポートランド州立大学の経験から学ぶと

    ともに同大学と共同して災害問題や人口減少への対応について京都府北部自治体等を依頼者とする実

    践的な取り組みを進めつつ研究を深化させ政策実装化へとつなげることを検討する。

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

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    4. 第2研究班ユニット3

    2015 年度 第2研究班ユニット3 総括

    第2研究班ユニット3ユニット長

    深尾 昌峰

    第 2研究班「政策実装化」研究班「地域還元型再エネ政策」研究ユニットは、再生可能エネルギー

    事業による利益が地域に還元され地域再生へとつながる事業モデルの構築をめざし、地域還元型事業

    モデルの研究、地域再生可能エネルギー条例の研究、社会的投資の研究などを目指すユニットである。

    今年度の大きな成果として、「龍谷ソーラーパーク鈴鹿」の実装化がある。売電収益を地域活動に寄

    付するモデルの「地域貢献型メガソーラー」として開発を進めてきたものである。この取り組みの大

    きなポイントは社会的投資を活用したモデルであるという点である。社会的投資とは、これまでの「投

    資」が利回りなどの経済的指標を重視してきたものだとすると、それに加えて多様な社会的収益を投

    資評価軸に取り込んだ投資のことをいう。つまり、利回り以外の評価軸、つまり社会的な課題解決や

    それに伴うソーシャルアクションなどを評価し、投資行動に繋げていく手法である。

    (龍谷ソーラーパーク鈴鹿スキーム図)

    「龍谷ソーラーパーク鈴鹿」の総工費は約 11億円であるが、そのうち 4億 7000 万円を機関投資家

    が社会的投資として提供し、残額を地域金融機関による融資、事業会社の自主資金で調達をしている。

    このモデルは、資産をもつ公益法人などの地域金融機関との協働運用を可能にし、域内で資金循環を

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 20 ―

    促すモデルとしても注目される。信託事業体の組成を行うことで投資家へのリスク低減をおこなうと

    同時に地域金融機関からの融資と組み合わせることで投資に対するレバレッジを効かせている。

    再生可能エネルギーの実装プロジェクトから見えてきたこの社会的投資のスキーム構築は、限界化

    に抗する観点で活用方法を考えると非常に多岐に応用が考えられる。全国的に問題となっている「空

    き家」の利活用や維持が困難となっている地域医療、農業の新たなる展開などに展開できる可能性が

    ある。それらの実装化を通じて得た新たな可能性と知見を今年度は滋賀県湖東地域でもある「東近江

    市」において、地域において社会的投資がどのように活用が可能かを議論し検討を行った。東近江市

    内部に「コミュニティファンド検討委員会」(委員長:筆者)を設置し、6回の検討をおこなった。ま

    た、それらの議論を市民と共有し、実装化につなげるためLORC と東近江市と共催でシンポジウムを

    開催した。詳細は後述するが、2016年 3月 30日、滋賀県東近江市能登川コミュニティセンターにて

    開催し、市民、金融機関職員、行政職員、大学生など約 150名の参加があった。環境省の中井審議官

    も登壇し、環境省が進める森里川海(もりさとかわうみ)プロジェクトとの連携や協働した価値創出

    の提案も行われるなど、活発な議論が展開された。

    参加者と社会的投資のあり方や展開について議論をしたわけだが、参加者からは、「一次産業への

    就業支援」「食の六次産業化」「着地型観光」「発達障害の若者が働ける場づくり」「能登川駅前商店街

    のサステイナブルな地域づくり」「森での保育」「まちづくり協議会での地域学習」などに社会的投資

    を活用できないかという具体的なアイデアも寄せられた。

    来年度以降も、これまでの蓄積を生かし、市民が地域の生業を支える域内の資金循環、社会的投

    資と再生可能エネルギーをあわせ、地域にリターンが落ちるための構造変革など、東近江市を一つの

    フィールドにフレームづくりに取り組んでいきたいと考えている。

    また、同じ第2研究班である「コミュニケーションデザイン」研究ユニットや「ソーシャルスキル

    育成」研究ユニットと連携しながら、地域において社会的投資、特に「出口」(資金を活用してローカ

    ルビジネスやソーシャルビジネスを起業やコーディネーション)を構築できる人材の育成に取り組ん

    でいきたい。再生可能エネルギーの実装に対する人材育成を展開してきて、複合的要素を織り交ぜて

    事業をデザイン、構築、調整、実行できる人材が地域の中で不足していることを痛感する。必ずしも

    これらは一人の人間が担う必要はないと考えるが、それらの能力をもつ、あるいは志向する人々がつ

    ながっていない弱さが地域にある。セクター間の分断もその一つである。「営利」ー「非営利」での整

    理が地域社会の中で意味をなさなくなってきている状況で、それらを地域の公共性の視点でどう統合・

    再構築するかが問われている。それらの結節点、あるいはきっかけに社会的投資が位置付く可能性を

    感じている。再生可能エネルギーの実装化は社会的投資と親和性が高く、これまでのLORC の蓄積が

    活かせる分野であり、社会的投資のプロトタイプとしても興味深い。今後、実装化を進めていく地域

    において、寄付を含む社会的投資の組み込みを意識したモデル開発を行い、それが地域の自治や暮ら

    し方に与える影響を考察していきたいが、同時にそれらをデザインし、地域で展開できる人材のコン

    ピテンシーや人材像を明らかにし、教育プログラムの構築にも取り組んでいきたい。これは2班の各

    ユニットを貫く共通の課題として来年度以降は設定し取り組みを進めたい。

  • 第一部 研究体制 第 1 章 2015 年度 総括

    ― 21 ―

    また、社会的投資のフレームワークの一環として、SIB(Social Impact Bond)が注目を集め、パイロ

    ット事業として試行されているが、必ずしもうまくいっていない。地域に実装するためには、いくつ

    かの要素や要件が必要と考えられる。来年度は、地域で SIB を展開する際の課題や問題点も明らかに

    しつつ、自治体と協力し SIB の実装も視野にいれ、研究活動を展開していきたい。

  • 第一部 研究体制 第 2 章 共同研究の体制と関連プロジェクト

    ― 22 ―

    第2章 共同研究の体制と関連プロジェクト

    第1節 共同研究の体制と関連プロジェクト

    (1)関連プロジェクトと LORC 運営

    LORC は多様な関連プロジェクトを研究面から支えながら、同時に関連プロジェクトの社会的な実

    践自身を研究成果に取り込むという研究スタイルをとっている。そして、これらの関連プロジェクト

    はいずれも LORC との連携による事業推進が明記されている。とりわけ関連プロジェクトには、可能

    な限り LORC の運営委員会を構成する共同研究員が参加して情報収集につとめ、また、研究ユニット

    の研究計画に関連プロジェクトの実践や企画を結びつけるようにして、LORC の研究と関連プロジェ

    クトの運営が連携的に進むようにはかった。

    (2)地域公共人材大学連携事業との連携

    京都府内の 9大学(龍谷大学・京都大学・京都府立大学・京都橘大学・同志社大学・佛教大学・京

    都産業大学・京都文教大学・成美大学――2016年 4月より福知山公立大学――)は、地域公共人材大

    学連携事業に取り組み、欧州資格枠組(EQF)に準拠した社会的認証による地域資格認定制度-「地

    域公共政策士」を開発して展開している。

    地域公共政策士のスキームは LORC の研究成果を踏まえたものであり、LORC は地域公共人材大

    学連携事業と研究や発信の面で連携することを自らのミッションとして位置づけている。第 2研究班

    「政策実装化」研究班の「ソーシャルスキル育成」研究ユニットを中心に資格制度や職業訓練教育の

    研究を、第1研究班「限界都市論」研究班を中心に京都府北部地域の地域再生と大学の役割の研究を

    進め、地域公共人材大学連携事業に貢献する研究活動に取り組んでいる。

    またこれまでの経緯から、次に紹介する OECD との協働研究については、引き続き LORC と地域

    公共人材大学連携事業と連携して取り組むことを確認した。

    (3)OECD との協働研究

    地域公共人材大学連携事業は、LORC を含む産公学民の連携を「京都アライアンス」として発展さ

    せ、国内外に発信するために、経済協力開発機構(OECD)との協働プロジェクトを進めている。こ

    れまでは京都アライアンスとして OECDの地域経済雇用開発プログラム(LEED)と雇用と高等教育

    における職業訓練教育(VET)をテーマとして協働研究を進めてきた。2014年度からは OECDとの

    連携部局を公共ガバナンス・地域開発局(GOV)に換え、地域社会をレジリエントなものにしていく

    ための地方政府のあり方をテーマとした協働研究を開始した。

    2015年度には龍谷大学において、国際シンポジウム「レジリエントな都市圏」を共催し(詳細は第

    二部第 1 章第 2 節を参照)、OECD のパリ本部におけるワークショップに LORC の研究員を派遣し

    た。これらは OECD GOV のプロジェクトの一環であり、2016 年度に同プロジェクトの報告書を世

    界に発信するリスボンでの国際会議が開催される。それと並行して、同プロジェクトの中で京都の事

  • 第一部 研究体制 第 2 章 共同研究の体制と関連プロジェクト

    ― 23 ―

    例を扱う『京都レポート』が OECDより刊行される計画である。

    (4)一般社団法人京都府北部地域・大学連携機構との連携

    一般社団法人京都府北部地域・大学連携機構(以下、CUANKA)が設立され、大学と地域社会の恒

    常的なプラットフォームとして、地域課題に対応する地域公共人材の育成と地域社会の活性化を目指

    している。LORC の研究調書では、限界都市化に抗する都市モデルを京都府北部地域に求め、京都シ

    ナリオとして提示することを掲げている。その実現にCUANKA と連携して進めることを構想してい

    いる。

    LORC の調査や大学地域連携の取り組みへの協力とコーディネート、OECD の京都レポート作成

    への支援等を念頭において、CUANKA に業務を委託した。京都府北部地域の調査分析と京都シナリ

    オ提言の構想構築にむけて、今後も戦略的な連携関係を進めていくことが両者で合意された。また第

    2研究班の地域公共政策士のフレームワークの開発拡充との関連で、地域での学習や研修をマイクロ

    サイズの資格認証ポイントとして展開するために、大学と地域が連携する仮想キャンパス構想に関わ

    る事業に協力して取り組んだ。

    (5)守山市の環境基本計画策定

    LORC の構想調書では、限界都市化に抗する都市モデルとして、京都府北部地域の連携モデルと並

    んで、滋賀県湖南地域の連携モデルを構想している。湖南エリアでの連携は、京都府北部地域のよう

    な包括的な連携ではなく、テーマ領域別の連携として展開できないかと考えている。

    琵琶湖を共有しているという点で、環境領域は共有テーマとして展開できる可能性が高い。環境審

    議会の開催と環境基本計画の策定のプロセスの中で、湖南エリアでの環境領域での自治体間連携、大

    学地域連携あるいは公民連携の構想を打ち出していくことを盛り込むことで LORC と守山市とが合

    意し、守山市の第 2 期環境基本計画の策定を LORC が事業受託することとなった。2015 年度中に第

    2 次環境基本計画を策定した。2016年度から計画実現のプロセスとして、テーマ領域別の自治体間連

    携の模索、大学地域連携を展開することが計画されている。

    (6)JST の「創発的地域づくりによる脱温暖化」研究プロジェクト

    JST(科学技術振興機構)の「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」領域の採択事業(2010年

    10 月~2013 年 10 月)として「地域再生型環境型エネルギーシステム実装のための地域公共人材育

    成・活用システムの形成」を受託し、関連プロジェクトとして展開してきた。同事業への取り組みを

    踏まえた地域実装を進めるために、社会技術研究開発センター(RISTEX)統合実装プロジェクト「創

    発的地域づくりによる脱温暖化」の研究プロジェクト(2014 年 10 月から 3 カ年)がスタートした。

    LORC は引き続き参加し、同研究プロジェクトの推進を支える業務の一部を受託した。地方自治体の

    再生可能エネルギー基本条例制定や再生可能エネルギー人材育成塾などの過去の成果を社会実装の主

    要テーマとして、再生可能エネルギーが地域社会の発展に寄与する取り組みの支援と普及に取り組ん

    でいる。事業の詳細報告は、第 2章第 2節‐1を参照されたい。

  • 第一部 研究体制 第 2 章 共同研究の体制と関連プロジェクト

    ― 24 ―

    第2節 受託事業・社会事業

    1. 科学技術振興機構「創発的地域づくりによる脱温暖化」研究開発プロジェクト 2015 年度

    総括

    (1)はじめに

    龍谷大学では、2010年 10 月から 3ケ年、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研

    究開発センター(RISTEX)統合実装プロジェクト「創発的地域づくりによる脱温暖化」を受託して

    いる。研究実施機関であるLORC では、再生可能エネルギーを地域主体によって普及するための自治

    体支援策を研究し、本年度は、自治体エンパワメント型パッケージ開発の一環として、再生可能エネ

    ルギー基本条例や地域還元型再生可能エネルギー事業について講座やシンポジウム等を開催した。本

    報告では主催事業のみを掲載し、共催事業であるフォーラム「三方よしで拓く森里川湖の未来」につ

    いては、別途詳細を報告している(第二部第 3章第 3 節-3参照)。

    (2)地域が元気になる脱温暖化全国大会 in 桐生 分科会1

    ① 概要

    年 月 日 2015 年 11月 5日(木)

    会 場 桐生市市民文化会館 1 階小ホール

    ② プログラム

    14:00~17:00 分科会 1「地方創生に再エネをどう活かすか」

    高橋 壱氏(洲本市農政課主任)

    太田 明広氏(竹原町内会会長)

    小川 博氏(飯田市環境モデル都市推進課 地域エネルギー計画係係長)

    原 亮弘氏(おひさま進歩エネルギー株式会社代表取締役)

    谷口 信雄氏(再生可能エネルギー・アドバイザー)

    白石 克孝氏(龍谷大学政策学部教授)

    はじめに、谷口氏より自治体意向調査の報告が行われた。調査は 2015 年 9 月中旬から 1,600 以上の

    自治体に依頼し、そのうち 10 月 26 日までに回答があった 696 件を集計した結果が述べられた。

    再生可能エネルギーに関しては、6 割の自治体が地域データを把握していないため、再生可能エネ

    ルギーを盛り込んだ構想をつくることが困難になっている。また、利用は公共施設に偏っており、過

    半数の自治体で再生可能エネルギーの地域利用について関心が低く、実際の政策にまで結びつかない

    という問題点が指摘された。そのなかで、小規模自治体ほど再生可能エネルギーの地域利用に関する

    視点がなく、ガイドラインを持たない自治体が 75%に上ることが述べられた。そもそも自治体が地域

    における再生可能エネルギーの価値を見いだしておらず、地域経済への波及効果、実施ノウハウを持

    っていない点が明らかになったとした。このような自治体アンケートの結果から、再生可能エネルギ

  • 第一部 研究体制 第 2 章 共同研究の体制と関連プロジェクト

    ― 25 ―

    ーが地方創生に役立つという認識が共有されていないという課題は、再生可能エネルギーを地域で利

    用し、公正に活用することが出来ていないという実態に結びついていることが明らかになった。

    つぎに、兵庫県洲本市の太田氏と高橋氏より再生可能エネルギーによる地域貢献に関するこれまで

    の取り組みについて紹介があった。

    洲本市では、2013 年 6 月に、地域資源である再生可能エネルギーから生まれた恩恵を地域に還元し

    発展に寄与するため、「洲本市地域再生可能エネルギー活用推進条例」を制定した。そのなかで、行

    政と市民、事業者らがそれぞれの役割を明らかにし、多様な主体が連携することで、地域社会の持続

    可能な発展を目指すという市の基本理念が示された。

    また、2013 年度から始まった域学連携事業(総務省)や、2014 年 2 月に開催された洲本・再生可能

    エネルギー塾への参加をきっかけに、市民意識も徐々に変化してきている。域学連携とは、大学生と

    大学教職員が地域に入り、住民やNPO、市とともに地域の課題解決に継続的に取り組み、地域の活性

    化や人材育成に資する活動である。その一つの成果として「グリーン&グリーンツーリズム」が紹介さ

    れた。これは、再生可能エネルギーに自然や農漁業を有機的に連携させた新しい形の着地型観光であ

    る。

    また、JST プロジェクトとして取り組んできた千草竹原地区における小水力発電について報告があ

    った。村では、小水力発電の電力を防犯カメラ、街灯、フットライトなどに利用している。千草竹原

    では、再生可能エネルギーが地域の賑わい創出に役割を果たしており、地域資源としての利用法とそ

    れを通じた地域活性化の可能性が示された。

    つぎに、小川氏より長野県飯田市におけるエネルギー政策の歩みに関して説明があった。飯田市は、

    2007 年に環境都市宣言が行われ、2009 年には環境モデル都市に選定、2013 年度には「飯田市再生可

    能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」が制定されるなど、環境政策に関

    する先進市として歩んできた。再生可能エネルギー基本条例の制定に当たっては、固定価格買取制度

    では大企業ばかりが地域の再エネ利権を独占しており、果たしてそれでよいのかという問題意識から、

    住民自治によって再生可能エネルギーを活用し、資金の確保、リスク管理、収益の活用に関して住民

    の主体的判断により共同決定する仕組み作りを行った。事業化する際のプレイヤーは地縁団体、市、

    地方銀行、投資家、市内外の企業等である。多様な主体が参画する再生可能エネルギー事業により得

    られた収益を地域振興に投資する仕組みを採用している点が特徴的である。

    その具体的活用モデルとして、原氏により「飯田山本おひさま広場整備事業」について紹介があった。

    この事業では、市民、企業、行政が垂直的補完関係ではなく、水平的補完が成立する社会的関係性を

    構築し、各プレイヤーの役割の最適化を図る公民協働を進め、公共的領域の進化を図ることを目的と

    している。寄付型で NPO が設置した第一号発電所であるおひさま発電所「さんぽちゃん 1 号」が 2004

    年 5 月から稼働し、以降、大規模な太陽光発電の市民出資「南信州おひさまファンド」の事業展開へと

    広がってきた。この南信州おひさまファンドでは、不足資金は市民出資により、地球温暖化防止のた

    めの CO2 削減の事業を行う。屋根を貸借し、ソーラー発電の電力を査定で全額買い取りを行う、いわ

    ば飯田版 FIT ともいえる事業であるとしている。単年度ではなく 20 年の長期契約、固定価格である

  • 第一部 研究体制 第 2 章 共同研究の体制と関連プロジェクト

    ― 26 ―

    事が特徴であり、新しい公共の形の一例ともいえる。

    最後の全体討論では、自治体と地域の関係のなかで、地方銀行や企業といった各プレーヤーの役割

    や課題を明らかにすることを目的として、司会の白石氏および谷口氏、講演を行った 4 名により議論

    が行われた。

    飯田市や洲本市においては、行政と民間双方に中心的プレーヤーがおり、それらがうまくかみ合っ

    た時うまくという点が強調された。そしてその際、自治体がどのような支援を行うことができるのか

    という点については、洲本市では、再エネ塾や域学連携をきっかけとして制度や手続きを学び、市民

    の想いを理解し、信頼を置ける市の職員が存在したことが最も重要な成功要因として挙げられた。一

    方飯田市では、地域に再生可能エネルギーを扱う弁護士がいたことが、今日に至る取り組みを後押し

    した点が強調された。しかしながら、最終的に意志決定を行うのは地域の人々であり、地域が本気に

    なったことが最も重要であり、もともと地域にネットワークがあるところでうまく回っているとされ

    た。

    さらに、国の政策を待つのではなく、自分たちで再生可能エネルギー基本条例に見られるような地

    域のルールを作っていくことが重要であるとの指摘がなされた。このとき地域が自分のことのように

    考えることが重要であり、地域の人々が最初から計画に関わり、参画していることが成功の鍵である

    とされた。そうすることで、地域がどう変わったかが可視化され、地域が元気になり明るさを持つと、

    他の町内会への波及効果が出てくる。このとき、他の地域との良い意味での競争と、都市計画との連

    携が重要となってくるという積極的な議論がなされた。

    ディスカッションの様子

  • 第一部 研究体制 第 2 章 共同研究の体制と関連プロジェクト

    ― 27 ―

    2.滋賀県守山市 第2次環境基本計画策定業務

    LORC の構想調書では、限界都市化に抗する都市モデルとして、京都府北部地域の連携モデルと並

    んで、滋賀県湖南地域の連携モデルを構想している。湖南エリアでの自治体間連携は、京都アライア

    ンスやCUANKAを手がかりとした京都府北部地域のように大学地域連携をしっかりと組み込んだも

    のにはなっていない。

    そのため、大学地域連携による地域課題の打開と地域間連携の促進を実現することも狙いの一つと

    して、滋賀県守山市の第 2 次環境基本計画の策定をLORC が受託した。環境審議会の開催と環境基本

    計画の策定のプロセスの中で、琵琶湖南岸の保全や温室効果ガス削減のための自治体間連携や大学

    地域連携の構想を打ち出していくことで、センター長である白石克孝が環境審議会会長に就任した。

    2015 年度に第二次環境基本計画を策定し、2016 年度から計画実現のプロセスとしての自治体間連携

    の模索、大学地域連携を展開することが計画されている。

    現行の第一次守山市環境基本計画は、2006 年度~2015年度を計画期間として、「みんなでつくろ

    う 五感にやさしく響くまち 守山」を環境の将来像として取り組まれた。今回策定した第二次計画

    は、2016 年度から10 年間を期間として実施し、中間年度において見直しを行う。守山市は、昭和

    40 年代後半に顕在化した琵琶湖の水質汚濁問題で、住民が中心となって「せっけん運動」を展開

    し、琵琶湖の水質が大幅に改善してきた。市民と行政が力を合わせることで、環境課題を乗り越えて

    きた歴史がある。

    そのことを背景に、第二次基本計画の将来像には、「地域の環境に誇りを持ち、地球の環境への

    責任を果たす環境先端都市 もりやま」を基本方針に据え、「自然環境」「まち環境」「地球環境」

    とともに「ともに創る」のそれぞれの分野ごとのビジョンを定めた。これらのビジョンを実現するた

    めに、横断的かつ挑戦的なプロジェクトとして「チャレンジプロジェクト」を位置づけた。①水と光

    の好循環プロジェクト、②低炭素型移動プロジェクト、③つなぐプロジェクトの 3つのプロジェク

    トの推進には、大学や連携自治体を含む多くの主体と協�