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1 矢島の体系整理テキスト 憲法

【速修】矢島の速修インプット講座

矢島の体系整理テキスト2018

憲法

・はじめに この講座では各科目の重要基本事項を体系的に理解して真の応用力が身に付けることを目

的としています。講義中は重要度が特に高い「●」や「○」の記号を付した箇所を中心に

解説し,必要に応じてその他の記号を付した箇所を解説することがあります。 講義を聴いて重要事項の理解をした上で,講義の復習の際は,下記の重要ランクを参考

にして,まずは,重要度の高い「●」や「○」の記号があるところを優先して可能な限り

理解と記憶を深めていってください。

平成30年4月20日(仮原稿) (講義で使用するテキストは同年5月下旬に完成予定)

LEC専任講師 矢 島 純 一 ・記憶する事項 重要ランク 論文試験で規範(要件)や法律効果などとして答案に書くことがある事項のうち,内容を

理解して答案に書けるように記憶しておかなければならない知識を重要度の高いものから

順番に「●」,「◆」,「▲」と記号を付しました。 ・理解する事項 重要ランク 論文試験でこれをそのまま答案に書くことはあまりないけれど,より深い答案を作成する

ために内容を理解しておくことが必要な知識を重要度の高いものから順番に「○」,「◇」,

「△」と記号を付しました。

・条文の略記:Ⅰ=1項 ①=1号 本=本文 但=ただし書 前=前段 後=後段 ・短答の問題番号の略記: H23-4=平成23年度司法試験第4問 プレ=プレ試験

予H25-7=平成25年度予備試験第7問 サン=サンプル問題

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2 矢島の体系整理テキスト 憲法

序章 憲法の基本

・憲法の基本的な思考方法 ○

法令や処分の合憲性を検討するに当たっては,まず,問題になっている法令や処分が,ど

のような権利を,どのように制約しているのかを確定することが必要である。次に,制約

されている権利は憲法上保障されているのか否かを,確定する必要がある。この二つが確

定されて初めて,人権(憲法)問題が存在することになるのであり,ここから,当該制約の

合憲性の検討が始まる。(以上はH22司法論文の採点実感)。

人権制約の合憲審査の判断枠組みの大枠としては,制約される自由の内容・性質,自由に

対する制約の必要性の程度,自由に対する制約の態様などを総合考慮して,制約の必要性と

合理性が認められるかを審査する利益衡量の基準(比較衡量論)といわれるものなど複数の

見解がある。

・補足 比較衡量論は,具体的状況をふまえて対立する利益を衡量して妥当な結論を導き出そうと

するものである点で優れているが,比較の基準が必ずしも明確でなく,特に個人の利益と

国民全体の利益(例:行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼)とを比較衡量すると,

全体の利益が優先されがちで,個人の利益が保護されにくいという点に問題があるとの指

摘がされている。そこで,比較衡量論は,同じ程度に重要な2つの利益を,裁判所が仲介

者として第三者的な立場で調整する場面に限定して用いるべきであるとの指摘がされて

いる。(例えば,個人のプライバシーを侵害する表現行為を裁判所が仮処分により差し止め

る場合など。)この場合でも,比較の基準は,何と何を,どのように比較衡量するのかが

分かるような明確なものでなければならないと解されている。

・目的手段審査 ○

裁判所による恣意的な利益衡量を防止するために,精神的自由の規制立法は経済的自由の規制

立法よりも厳格な基準で審査すべきとの二重の基準論を具体化する試みとして,規制目的の重

要度や,規制目的と目的達成手段との関連性を,権利の性質や規制の態様などに応じて厳格度

を変化させて審査する目的手段審査といわれる違憲審査基準論が提唱されている。

典型的には,①精神的自由などの重要な人権を制約する法令の違憲審査をするときは厳格

審査基準,②経済的自由を人の生命や健康に対する危険を防止するという消極目的のために制

約する法令の違憲審査をするときは実質的関連性の基準(中間審査基準といわれることもあ

る),③経済的自由を経済的弱者の保護や経済の調和のとれた発展を実現するという積極目的

のために制約する法令の違憲審査をするときは合理的関連性の基準を用いる。上記以外の違

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3 矢島の体系整理テキスト 憲法

憲審査基準(例:明白かつ現在の危険の基準,LRAの基準,厳格な合理性の基準,明白性の

原則,その他)は講義を進めていく中で紹介する。

基準の厳格度を決定する主な要素:権利の内容や性質,規制の目的,規制の態様など

① 厳格審査基準 ● (1)立法目的(規制目的)が必要不可欠な利益(やむにやまれぬ利益)を確保するため

のものといえるか,(2)目的達成手段として是非とも必要 小限度のものといえるかを

厳格に審査する。 ② 実質的関連性の基準(中間審査基準) ●

(1)立法目的(規制目的)が重要なものといえるか,(2)目的と手段との間に実質的関連

性があるかを具体的に審査する。実質的関連性の有無は,目的達成手段としての実効

性,相当性が実質的に認められるかにより判断される。 ③ 合理的関連性の基準 ●

(1)立法目的(規制目的)が正当なものといえるか,(2)目的と手段との間に合理的関連

性があるかどうかを審査する。

・立法事実と司法事実~あてはめに使える事実の違い ○

裁判所が人権を制約する法令の違憲審査をする場合は,当該法令の文面のみから絶対禁

止される検閲に該当したり,明確性の原則に違反したりすることが判断でき文面無効と

される場合を除いて,立法の目的や目的達成のための手段の合理性を支える社会的な一

般事実たる立法事実を検証して,立法の必要性・合理性を審査することになる。立法事

実の存在の確証度をどの程度まで求めるかは,合憲審査基準の厳格度に対応している。 処分が人権を制約しており,裁判所が処分の合憲性を司法審査する場合は,誰が,い

つ,どこで,何をしたのかなど当該事件に関する個別具体的な事実を確定することが必

要となる。このような事実を司法事実という。裁判所は司法事実を確定してその事実に

法令を適用して処分の合憲・違憲を判断することになる。

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中 略

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52 矢島の体系整理テキスト 憲法

第4章 法の下の平等

1 総論 →歴史的には,アメリカの独立宣言(1776年)やフランスの人権宣言(1789年)

において個人の尊重や自由権と不可分のものとして,公権力による不平等な取扱いを禁

止する平等原則が発展してきた。その後,差別を禁止することを強調するために,一定

の事由により不合理に差別されない権利としての平等権が確立されてきた。○ ・憲法14条1項は「すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的

身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。」と規定

している。この規定の前段は平等原則を定め,後段は一定の事由により不合理な差別を

されない権利としての平等権が保障されていることをあらわしたものと解する見解が

ある。○ ・平等原則は,法律行為か事実行為かを問わず,また,憲法上保障されている権利につい

てはもちろんであるが憲法上の権利として保障されていない事柄についてでも,公権力

は平等に取り扱わなければならないことを意味する。ある事柄につき公権力により差別

的に取り扱われている者は,その差別的な取扱いが,憲法14条が保障する平等原則に

違反して違憲であると主張できることになる。○ 関連問題:司法論文H25,H27

・14条1項後段に列挙された事由は例示であって,平等原則が及ぶ事項はこれに限る趣

旨ではない(例示列挙)。○

・人種とは,本来は皮膚,毛髪,目,体型等の身体的特徴によって区別される人類学上の

種類である。なお,人種は国籍とは無関係である。◇ 予H24-1

・信条とは,本来は宗教上の信仰を意味する概念であったが,今日では,広く宗教観や人

生観,政治的意見等を含めて,個人が内心において信じる事柄と広く解するのが一般的

である。判例も,信条とは,宗教上の信仰だけでなく広く思想上,政治上の主義を含む

としている( 判昭 30.11.22)。● 予H24-1

外部的な行為に着目した別異の扱いは,「信条」による差別にはならないが,真の狙い

が信条を理由とするものであるときは信条による差別に当たる。

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53 矢島の体系整理テキスト 憲法

・社会的身分の意義について,判例は,人が社会において一時的ではなく継続的に占める

地位をいうとしている( 大判昭 39.5.27)。● 同判例は,高齢であることは社会的身分には当たらないとしている。もっとも,14

条1項は例示列挙なので社会的身分に当たらない事柄であっても不合理な差別であれ

ば別に平等原則違反の問題が生じるところ,町長が町職員の余剰を整理するために高齢

であることのみを基準として対象者を選択することは,別に平等原則違反の問題が生じ

うる。◇ 予H24-1,H27-2

・H27司法論文(採点実感・抜粋)

平等違反の問題を検討するに当たっては,「何」による差別の問題であるのかをきちんと指摘・検討す

る必要がある。本問で言えば,憲法第14条第1項後段の列挙事由である「信条」による差別ではない

かという点である。しかし,この点に関する指摘・検討が全くない答案が少なくなかった。

*平等に関するその他の条文

・14条2項は,法の下の平等を担保するために,「華族その他の貴族の制度は,これを

認めない。」と規定し,日本において昭和22年まで存在していた華族制度を禁止すると

ともに,その他の貴族制度も禁止している。△ H25-4 ・14条3項は,「栄誉,勲章その他の栄典の授与は,いかなる特権も伴はない。栄典の

授与は,現にこれを有し,又は将来これを受ける者の一代に限り,その効力を有する。」

と規定している。この点,文化勲章の受章者に年金を支給することが憲法14条3項に

違反するかが問題となるも,民主主義のもとにおいて功労に報いるための常識的な限度

にとどまる限り本条の特権には当たらないとする見解がある。△ H25-4 ・憲法24条は,夫の妻に対する様々な優越権を認めてきた戦前の家制度を解体して個人

の尊厳と両性の本質的平等に基づく新たな家族像を実現しようとする趣旨である。

24条1項は,「婚姻は,両性の合意のみに基づいて成立し,夫婦が同等の権利を有

することを基本として,相互の協力により維持されなければならない。」として,婚姻

生活における基本原則を定めている。24条2項は「配偶者の選択,相続,住居の選定,

離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性

の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。」として家族生活における立法

に関する基本原則を定めている。◇

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54 矢島の体系整理テキスト 憲法

2 「法の下に」の意義 →内容が不平等な法をいくら平等に適用しても平等は実現できないので,単に法適用の平

等だけを意味するのではなく,法内容の平等を含むと解されている。法内容の平等を要

求するこの見解からは,法の下の平等における「法」は「憲法」を意味し,行政権,司

法権だけではなく立法権も拘束して,立法府は憲法に従って平等な内容の立法をするこ

とが必要となる(立法者拘束説)。○ ・第二次世界大戦前のドイツなど形式的な法治主義を取っていた国では,平等原則は法適

用の平等のみを意味するとする見解が一般化していた(立法者非拘束説)。△

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55 矢島の体系整理テキスト 憲法

3 「平等」の意義

(1) 絶対的平等と相対的平等

→「平等」とは,事実上の差異に着目せずに絶対的・機械的に平等に取り扱うという絶

対的平等を意味するのではなく,同一事情・同一条件では平等に取り扱うという相対

的平等を意味する。事実上の差異に着目した合理的な区別(差別)は14条が禁止す

る差別には当たらず14条違反にならない。合理的な区別といえるかは事柄の性質に

応じて判断する。● ・平等の意義をあらわす「等しい者は等しく扱い,等しくない者は等しくなく扱う」と

の法格言は相対的平等を意味する。平等原則違反の典型は,等しい者を等しく扱わな

いという意味で,同じなのに違うものとして扱われる場合である。また,個人の尊重

を基礎とする平等原則には,「等しくない者は等しくなく扱う」要請も含まれているた

め,違いがあるにも関わらず同一に取り扱われることも平等原則違反となりうる。○

・H27司法論文公法系第 1問(出題の趣旨・抜粋) 憲法第14条第1項の「法の下の平等」について,判例・多数説は,絶対的平等ではなく,相対的平

等を意味するとしている。この平等に関し,原告となるBは,Dらとの比較において,これまで論じ

られてきた問題を提起しているほか,Cとの比較において,「違う」のに「同じ」に扱われたという

観点からの問題も提起している。平等が問題となる具体的事例においては,何が「同じ」で,何が「違

う」のかを見分けることが議論の出発点となることから,本問でも,まずは,Bの主張を踏まえ,「同

じ」点と「違う」点についての具体的な指摘とその憲法上の評価が求められることとなる。その上で,

憲法が要請する平等の本質等にも立ち返りつつ,自由権侵害とは異なる場面としての平等違反に関す

る判断枠組みをどのように構成するかが問われることになる。 (2) 実質的平等

・憲法14条は,福祉国家の下で国家が格差を積極的に是正するという実質的平等も要

請していると解されている。もっとも,実質的平等をどのように実現するかは,社会

権の保障の中で実現されるべき問題であり,14条を根拠に格差の是正を求めること

まではできないと解されている。したがって,国家は憲法14条を根拠に実質的平等

を実現する格差是正措置を採ることを義務付けられない。△ H25-4

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56 矢島の体系整理テキスト 憲法

4 平等原則違反の合憲審査の判断枠組み(合憲審査基準)

(1) 判例の判断枠組み

→ 高裁は,昭和48年の尊属殺違憲判決以来,差別的な取扱いを規定する法令が不合

理な差別として憲法14条1項に違反するかを合憲審査する際は,差別的取り扱いを

する立法の合理的根拠の有無を,立法目的の正当性と立法目的の達成手段の合理性を

審査し,目的の正当性とその目的と目的達成手段との間に合理的関連性が認められれ

ば14条に違反しないとの「合理性の基準」により判断してきた。もっとも, 近の

判例は,差別的規定に合理性があるかについては事柄の性質を十分考慮して判断する

傾向にある。○

・ 高裁は,憲法14条1項の合憲審査基準の判断枠組みにつき,法的取扱いの違いの

合理性を審査するということを示すのみで,目的の正当性と手段の合理性をどの程度

まで検証して審査するのかを明示してこなかった。 高裁の判断枠組みをどのように

理解するかについては,改正前民法733条の部分違憲判決( 大判平27.12.16)に

おける千葉裁判官の補足意見が参考になる。 千葉裁判官の補足意見の抜粋は次のとおりである。「立法目的が正当なものでも,

その達成手段として設定された再婚禁止期間の措置は,それが100日間であっても,

女性にとってその間は再婚ができないという意味で,憲法上の保護に値する婚姻をす

るについての自由に関する利益を損なうことになり,しかも,多数意見の指摘すると

おり,今日,晩婚化が進む一方で,離婚件数及び再婚件数が増加する状況があり,再

婚への制約をできる限り少なくするという要請が高まっている事情の下で,形式的な

意味で上記の手段に合理的な関連性さえ肯定できれば足りるとしてよいかは問題で

あろう。このような場合,立法目的を達成する手段それ自体が実質的に不相当でない

かどうか(この手段の採用自体が立法裁量の範囲内といえるかどうか)も更に検討す

る必要があるといえよう。多数意見が,『婚姻に対する直接的な制約を課すことが内

容となっている本件規定については,その合理的な根拠の有無について以上のような

事柄の性質を十分考慮に入れた上で検討をすることが必要である。』としているのは,

この趣旨をも含めた説示であろう。」○

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57 矢島の体系整理テキスト 憲法

(2) 学説の判断枠組み

→学説には,合理的根拠がなく不合理な差別といえるかの判断枠組みについて,14条

1項後段列挙事由に由来する差別については民主主義や個人の尊重から特に差別が

禁止されるため厳格審査基準を用い,後段列挙事由以外の差別については,二重の基

準の考え方に基づき,対象となる権利の性質の違いを考慮して,精神的自由に関して

平等原則違反が問題となるときはそこに認められる立法裁量は狭いため厳格審査基

準を用い,経済的自由の積極目的規制など社会経済上の政策的な要素が強い立法につ

いて平等原則違反が問題となるときは広範な立法裁量が認められるので も緩やかな

基準である合理的関連性の基準を用い,その中間に当たる経済的自由の消極目的規制

に関する差別については実質的関連性の基準を用いるとする見解がある。○

① 厳格審査基準 ● (1)立法目的(規制目的)が必要不可欠な利益(やむにやまれぬ利益)を確保するため

のものといえるか,(2)目的達成手段として是非とも必要 小限度のものといえるかを

厳格に審査する。 ② 実質的関連性の基準 ●

(1)立法目的(規制目的)が重要なものといえるか,(2)目的と手段との間に実質的関連

性があるかを具体的に審査する。実質的関連性の有無は,目的達成手段としての実効

性,相当性が実質的に認められるかにより判断される。 ③ 合理的関連性の基準 ●

(1)立法目的(規制目的)が正当なものといえるか,(2)目的と手段との間に合理的関連

性があるかどうかを審査する。 *平等原則違反の基準(判断枠組み)

判断枠組み 典型的な適用場面

厳格度

目的:必要不可欠な利益の確保(やむにや

まれぬ利益の保護)

手段:是非とも必要 小限度

・14条1項後段列挙事由に関する差別

・表現の自由や表現の自由に準じる重要な人権

(精神的自由,選挙権等)に関する差別

厳格度

目的:重要

手段:実質的関連性

経済的自由に対する消極目的規制の事例

厳格度

目的:正当

手段:合理的関連性

経済的自由に対する積極目的規制の事例

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58 矢島の体系整理テキスト 憲法

・H27司法論文(出題の趣旨・抜粋) 平等が問題となる具体的事例においては,何が「同じ」で,何が「違う」のかを見分けることが議論

の出発点となることから,本問でも,まずは,Bの主張を踏まえ,「同じ」点と「違う」点について

の具体的な指摘とその憲法上の評価が求められることとなる。その上で,憲法が要請する平等の本質

等にも立ち返りつつ,自由権侵害とは異なる場面としての平等違反に関する判断枠組みをどのように

構成するかが問われることになる。

・H27司法論文(採点実感・抜粋) 判断の枠組みの定立にばかり気を取られてしまい,事実関係への着眼がおろそかになっている答案が

見られた。他方で,事実関係には適切にかつその細部にも着眼できているが,判断の枠組みを定立す

るという意識を欠いており,結局は本問限りの場当たり的な判断をしているのではないかと疑われる

ような答案も見られた。本問のような事例問題では,判断の枠組みを適切に定立した上で,事実関係

に即して結論を考えていくという両方がきちんとできて初めて説得力のある論述となることを意識

してほしい。 基本的な知識や理解が不足しているからか,本問限りの独自の枠組みを定立しているかのような答

案も見られた。しかし,判断の枠組みの定立に当たっては,判例や学説をきちんと踏まえる必要があ

る。判断の枠組みを定立するに当たり,「平等」の問題として論じているのか,それとも,「自由」の

問題として論じているのかが判然としない答案や両者を混同していると思われる答案も少なくなか

った。

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59 矢島の体系整理テキスト 憲法

5 積極的差別解消措置 →例えば,性別による差別でも,一般的に男性よりも社会的地位において差別を受けてい

る女性の雇用促進等の社会政策上の必要性から女性の採用枠を増やすために,採用試験

の点数に一定程度上乗せする等,男性と比べて女性を優遇するという積極的差別解消措

置は,性別により男性を逆差別するという側面がある。14条1項後段列挙事由の性別

による差別だからといって,目的が必要不可欠でその手段が必要 小限度であることを

要求する も厳しい審査基準で判断したのでは政策目的が達成できず妥当ではない。そ

こで,このような社会政策の実現の必要性に配慮し,審査基準の厳格度を緩和した上で

合憲審査するべきとの見解がある。● H25-4

・積極的差別解消措置は,アファーマティブ・アクションあるいはポジティブ・アクショ

ンといわれる。

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60 矢島の体系整理テキスト 憲法

6 法の下の平等に関する判例

(1) 尊属殺重罰規定違憲判決

→尊属に対する殺人罪の法定刑を死刑又は無期懲役とする旧刑法200条が,これらの

刑の他に選択的に有期懲役刑が法定されている普通殺人罪の刑と比べて著しく重いこ

とから憲法14条1項に違反するかが問題となった。 高裁は,憲法14条1項は,法の下の平等を保障した規定であって,この平等の

要請は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり,差別的な取

扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきとした上で,刑法200条が憲法の右条項

に違反するかどうかは右のような差別的取扱いが合理的な根拠に基づくものであるか

どうかによって決せられるとの判断枠組みを示した。

同 高裁は,その上で,刑法200条の立法目的は,尊属を卑属またはその配偶者

が殺害することをもって一般に高度の社会的道義的非難に値するものとし,これを通

常の殺人の場合より厳重に処罰し,もって特に強くこれを禁圧しようとするところに

あるとした上で,尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度の社会的道義的非難を

受けて然るべきであるとしてその刑を加重すること自体はただちに違憲であるとは

いえないとして立法目的の正当性は肯定した。しかし,いかに酌量すべき情状があろ

うとも法律上刑の執行を猶予することはできないため,尊属殺の法定刑を死刑または

無期懲役刑のみに限っている点において,その立法目的達成のため必要な限度を遥か

に超え,普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いを

するものと認められ,憲法14条1項に違反して無効であるとした( 大判昭48.4.4)。

○ プレ-22,H19-5,H26-3

・改正前刑法200条の法定刑は死刑と無期懲役しかないため,減軽をしても執行猶予

がつけられない。尊属に対する尊重報恩という立法目的は合理的といえても,その目

的達成のために,どのような事情があっても,殺人の被害者が尊属である場合には執

行猶予がつけられないとの結果を招く手段をとることは,合理性がなく,不合理な差

別といえる。多数意見はこのような考え方に基づくものであるが,仮に,執行猶予の

要件が緩和され刑法200条の罪に執行猶予がつけられるようになれば,多数意見に

よっても刑法200条は合憲であると解することは可能であると考えられる。○

H19-5

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61 矢島の体系整理テキスト 憲法

(2) 国籍法違憲判決

→外国人の母から生まれた子で,日本国民である父から認知された準正子〔父母の婚姻

により嫡出子の身分を取得した子〕に日本国籍を認める一方で,同じく日本国民であ

る父から認知されたのに父母が婚姻してないために非嫡出子が日本国籍を取得するこ

とができないという点で差別を生じさせている国籍法3条1項の規定が憲法14条

1項に違反し無効であるとした判例がある( 大判平20.6.4・国籍法違憲判決)。○

H26-3 ・事案の概要 婚姻関係にない日本人の父とフィリピン人の母との間に生まれた子Xが,父に生後認

知された。しかし,国籍法3条1項は,母と婚姻関係にある日本人の父に認知された

子は日本国籍を取得できる旨の規定(「準正要件」)〔準正:嫡出でない子が父母の婚

姻により嫡出子たる身分を取得すること。準正には父の認知が必要となる。〕となって

いたが,母と婚姻関係にない日本人の父に認知された子は日本国籍を取得できる旨の

規定とはなっていなかったため,Xは,日本国籍を取得できなかった。 そこで,Xは,日本国民である父から認知された準正子に日本国籍を認める一方で

同じく日本国民である父から認知されただけの非嫡出子が日本国籍を取得することが

できないという点で差別を生じさせている国籍法3条1項の規定が憲法14条1項

に違反し違憲無効であることや,国籍法3条1項のその部分が無効になった場合は同

条項のその余の部分により日本国籍を取得できると主張してXが日本国籍を有する

との地位確認等を求めた。 ・ 高裁の示した判断枠組みと判断の方法 ○ 憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定は,事柄の性質に即応した

合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると

解すべきところ,憲法10条は,「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と

規定し,これを受けて,国籍法は,日本国籍の得喪に関する要件を規定している。国

籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治

的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをど

のように定めるかについて,立法府の裁量判断にゆだねる趣旨のものであり,このよ

うにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別が,立法

府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの

立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目

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62 矢島の体系整理テキスト 憲法

的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない

差別として,憲法14条1項に違反する。その判断の際は,父母の婚姻により嫡出子

たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては

変えることのできない父母の身分行為に係る事柄であることから,このような事柄を

もって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか

否かについては,慎重に検討することが必要である。 ・ 高裁の判断枠組みに則した具体的検討 ◇

同 高裁は,上記判断枠組みに則して,まず,本件規定の立法目的を次のとおり検討した。すなわち,

日本国民を血統上の親として出生した子であっても,日本国籍を生来的に取得しなかった場合には,

その後の生活を通じて国籍国である外国との密接な結び付きを生じさせている可能性があるから,国

籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ,日本国民との法律上の親子関

係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて,これらを満たす場合に

限り出生後における日本国籍の取得を認めることとしたものと解され,このような目的を達成するた

め準正その他の要件が設けられ,これにより本件区別が生じたのであるが,本件区別を生じさせた上

記の立法目的自体には,合理的な根拠があるというべきである。

次に,同 高裁は,国籍法3条1項の規定が設けられた当時の社会通念や社会的状況の下において

は,日本国民である父と日本国民でない母との間の子について,父母が法律上の婚姻をしたことをも

って日本国民である父との家族生活を通じた我が国との密接な結び付きの存在を示すものとみること

には相応の理由があったものとみられ,当時の諸外国における前記のような国籍法制の傾向にかんが

みても,同項の規定が認知に加えて準正を日本国籍取得の要件としたことには,上記の立法目的との

間に一定の合理的関連性があったものということができるが,その後,我が国における社会的,経済

的環境等の変化に伴って,夫婦の共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様で

はなくなってきており,今日では,出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど,家族生活や親子

関係の実態も変化し多様化してきているなど我が国を取り巻く国内的,国際的な社会的環境等の変化に

照らしてみると,準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて,前記

の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっているというべきであるとした。

そして,国籍法が,同じく日本国民との間に法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,上記

のような非嫡出子についてのみ,父母の婚姻という,子にはどうすることもできない父母の身分行為が

行われない限り,生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は,今日におい

ては,立法府に与えられた裁量権を考慮しても,我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国

籍を付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用している

ものというほかなく,その結果,不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ないとした。

同 高裁は,以上のことから,本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根

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63 矢島の体系整理テキスト 憲法

拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境

の変化等によって失われており,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合

理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっている等として,本件区別は,遅くとも上告人らが法務

大臣あてに国籍取得届を提出した当時には,立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目

的との間において合理的関連性を欠くものとなっていたとして,上記時点において,本件区別は合理

的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせて

いることは,憲法14条1項に違反するものであったとした( 大判平20.6.4)。

・ 高裁が原審が回避した国籍法3条の合理的な解釈をした部分 △

同 高裁は,本件区別による違憲状態を解消するためには国籍法3条1項の規定の全部を無効とする

のではなく,「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したこと」という部分を除いた同項所定の国

籍取得の要件が満たされる場合に届出による国籍取得を認めることが国籍法の合憲的で合理的な解

釈であるとして,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された

子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が

満たされるときは,同項に基づいて日本国籍を取得することが認められるとした( 大判平20.6.4)。

なお,本件 高裁判決の後,国籍法が改正され,生後認知の届出により国籍を取得できるようにな

った(改正国籍法3)。

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64 矢島の体系整理テキスト 憲法

(3) 嫡出でない子の法定相続分差別

→平成13年7月に死亡した被相続人の遺産につき遺産分割の審判をする中で,平成2

5年改正前民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の法定相続分を嫡出

子の法定相続分の2分の1とする部分(「本件規定」)は憲法14条1項に違反するか

が争われたところ,本件規定が憲法に違反するとした 高裁の法令違憲決定を紹介す

る( 大決平25.9.4・相続分差別規定違憲決定)。○ H26-3 ・なお,本件が判決ではなく「決定」となっているのは,本件が遺産分割審判の抗告棄却決定に対する

特別抗告事件であり,決定の形式で裁判するべきものであったからである。

・ 高裁決定のポイントは,①本件規定が憲法14条1項に適合するかをどのような判

断枠組みを用いて審査するかを示した点,②その判断枠組みを用いて本件規定の合憲

審査をして本件規定を違憲と判断した点,③本決定が他の事件に及ぼす影響を示した

点の3点である。○

・ポイント① 憲法14条1項適合性審査の判断枠組み ○

憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定が,事柄の性質に応じた合

理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであ

ると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである( 高裁昭和39年5月2

7日大法廷判決, 高裁昭和48年4月4日大法廷判決等)。相続制度は,被相続人の

財産を誰に,どのように承継させるかを定めるものであるが,相続制度を定めるに当

たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情なども考慮されなければならな

い。さらに,現在の相続制度は,家族というものをどのように考えるかということと

密接に関係しているのであって,その国における婚姻ないし親子関係に対する規律,

国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で,

相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられているもの

というべきである。この事件で問われているのは,このようにして定められた相続制

度全体のうち,本件規定により嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関

する区別が,合理的理由のない差別的取扱いに当たるか否かということであり,立法

府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,そのような区別をすることに合理

的な根拠が認められない場合には,当該区別は,憲法14条1項に違反するものと解

するのが相当である。

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65 矢島の体系整理テキスト 憲法

・ポイント② 本件規定の憲法14条1項適合性 ◇

高裁は,次に,②本件規定の憲法14条1項適合性について,次のとおりの立法事実の変化を指摘

した。すなわち,〔1〕婚姻,家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいる点,現在,

嫡出子と嫡出でない子の相続分に差異を設けている国は,欧米諸国にはなく,世界的にも限られた状

況にある点,〔2〕住民票における世帯主との続柄の記載につき平成6年から嫡出子であるか嫡出でな

い子であるかを区別することなく,一律に「子」と記載することとされたことや,戸籍における続柄

欄の記載につき平成16年から嫡出子と同様に「長男(長女)」等と記載することとされた点,〔3〕

高裁平成20年6月4日大法廷判決は,嫡出でない子の日本国籍の取得につき嫡出子と異なる取扱

いを定めた改正前国籍法3条1項の規定が遅くとも平成15年当時において憲法14条1項に違反

していた旨を判示し,同判決を契機とする国籍法の上記改正に際しては,同年以前に日本国籍取得の

届出をした嫡出でない子も日本国籍を取得し得ることとされた点,〔4〕当裁判所は,平成7年大法廷

決定以来,結論としては本件規定を合憲とする判断を示してきたものであるが,平成7年大法廷決定

において既に,嫡出でない子の立場を重視すべきであるとして5名の裁判官が反対意見を述べたほか

に,婚姻,親子ないし家族形態とこれに対する国民の意識の変化,更には国際的環境の変化を指摘し

て,昭和22年民法改正当時の合理性が失われつつあるとの補足意見が述べられ,その後の小法廷判

決及び小法廷決定においても,同旨の個別意見が繰り返し述べられてきたことや,特に, 高裁平成

15年3月31日第一小法廷判決以降の当審判例は,その補足意見の内容を考慮すれば,本件規定を

合憲とする結論を辛うじて維持したものとみることができる点など種々の立法事実の変化が本決定

により指摘された。

同 高裁は,その上で,本件規定の合理性に関連する以上のような種々の事柄の変遷等は,その中

のいずれか一つを捉えて,本件規定による法定相続分の区別を不合理とすべき決定的な理由とし得る

ものではないとしたが,「昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向,我が国にお

ける家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化,諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した

条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制

等の変化,更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば,家族と

いう共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そし

て,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記

制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄

を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべ

きであるという考えが確立されてきているものということができる。」とした上で,「以上を総合すれ

ば,遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては,立法府の裁量権を考慮しても,嫡

出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。したが

って,本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していたものとい

うべきである」とした。

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66 矢島の体系整理テキスト 憲法

・ポイント③ 本件決定の先例としての事実上の拘束力 △

高裁は,本件の事案を処理するためにはポイント①と②に記載した事項のみを判示すれば足りるの

に,さらに進んで本件決定の先例としての事実上の拘束力についても触れている。すなわち, 高裁

は,本決定は,本件規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判

断するもの」であるところ,「憲法に違反する法律は原則として無効であり,その法律に基づいてさ

れた行為の効力も否定されるべきものであることからすると,本件規定は,本決定により遅くとも平

成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断される以上,本決定の先例としての

事実上の拘束性により,上記当時以降は無効であることとなり,また,本件規定に基づいてされた裁

判や合意の効力等も否定されることになろう。」ということを指摘している。

もっとも, 高裁は,「本決定の違憲判断が,先例としての事実上の拘束性という形で既に行われ

た遺産の分割等の効力にも影響し,いわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは,著しく法的

安定性を害することになる。法的安定性は法に内在する普遍的な要請であり,当裁判所の違憲判断も,

その先例としての事実上の拘束性を限定し,法的安定性の確保との調和を図ることが求められてい

る」として「既に関係者間において裁判,合意等により確定的なものとなったといえる法律関係まで

をも現時点で覆すことは相当ではないが,関係者間の法律関係がそのような段階に至っていない事案

であれば,本決定により違憲無効とされた本件規定の適用を排除した上で法律関係を確定的なものと

するのが相当であるといえる。」とした。

この点につき,千葉勝美裁判官は補足意見で,「我が国の 高裁判所による違憲審査権の行使が,

いわゆる付随的審査制を採用し,違憲判断の効力については個別的効力説とするのが一般的な理解で

ある以上,本件の違憲判断についての遡及効の有無,範囲等を,それが先例としての事実上の拘束性

という形であったとしても,対象となる事件の処理とは離れて,他の同種事件の今後の処理の在り方

に関わるものとしてあらかじめ示すことになる点で異例」と指摘する。

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67 矢島の体系整理テキスト 憲法

(4) 女性の再婚禁止期間

→女性についてのみ前婚の解消又は取消しの日から6か月間の再婚禁止期間を定めて

いた平成28年6月1日改正前民法733条1項の規定は,合理的な根拠なく女性を

差別的に取り扱うもので,憲法14条及び24条2項に違反するとして,改正前民法

の規定により再婚禁止期間内の婚姻届を不受理とされた者が,同法を改正しなかった

立法不作為の違法を理由に国に対して慰謝料請求を求めた事案がある。 この問題につき従前の 高裁は合憲判断を繰り返してきたが( 判平 7.12.5等),

平成27年大法廷判決は,ついに違憲判断をした( 大判平27.12.16・再婚禁止規定

の部分違憲判決)。○

なお,学説では従前から,民法772条2項が「婚姻の成立の日から200日を経

過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻

中に懐胎したものと推定する。」と規定していることから,嫡出推定の重複の回避の

ために再婚を制限する期間は100日で足りるのであり,その期間を6か月とする民

法733条は目的達成手段として過度であり違憲であると主張されてきた。

300日(前婚につき嫡出推定される期間)

婚姻解消

再婚

100日

200日(後婚につき嫡出推定されない期間)

この100日間の再婚を禁止するだけで嫡出推定は防げる

・平成27年大法廷判決は,立法不作為を理由とする国家賠償請求について,本件規定

のうち100日超過部分が憲法に違反するものとなってはいたものの,これを国家賠

償法1条1項の適用の観点からみた場合には,憲法上保障され又は保護されている権

利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であ

るにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠ってい

たと評価することはできず,本件立法不作為は,国家賠償法1条1項の適用上違法の

評価を受けるものではないとして慰謝料請求を棄却した原審の判断を結論において

是認した。△

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68 矢島の体系整理テキスト 憲法

・平成27年大法廷判決の概要 ○ 高裁は,後掲の判断枠組みを示した上で,女子の再婚禁止期間を定める本件規定の

立法目的は女性の再婚後に生まれた子につき父性の推定の重複を回避し,もって父子

関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解するのが相当であり,父子関係

が早期に明確となることの重要性に鑑みると,このような立法目的には合理性を認め

ることができるが,本件規定のうち100日超過部分は合理性を欠いた過剰な制約を

課すものとなっているというべきであり,本件規定のうち100日超過部分は,遅く

とも上告人が前婚を解消した日から100日を経過した時点までには,婚姻及び家族

に関する事項について国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるものとして,

その立法目的との関連において合理性を欠くものになっていたとして,本件規定のう

ち100日超過部分が憲法24条2項にいう両性の本質的平等に立脚したものでな

くなっていたことも明らかであり,上記当時において,同部分は,憲法14条1項に

違反するとともに,憲法24条2項にも違反すると判示した( 大判平27.12.16・再

婚禁止規定の部分違憲判決)。

・平成27年の合憲審査の判断枠組み ○

高裁は,女性について6箇月の再婚禁止期間を定める民法733条1項の規定の憲

法14条1項,24条2項の憲法適合性について,憲法14条1項は,法の下の平等

を定めており,この規定が,事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限

り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきであり,本件規定は,

女性についてのみ前婚の解消又は取消しの日から6箇月の再婚禁止期間を定めており,

これによって,再婚をする際の要件に関し男性と女性とを区別しているから,このよ

うな区別をすることが事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものと認められな

い場合には,本件規定は憲法14条1項に違反することになると解するのが相当であ

るとした上で,その判断の際に,婚姻をするについての自由は,憲法24条1項の規

定の趣旨に照らし,十分尊重に値するものと解することができ,婚姻制度に関わる立

法として,婚姻に対する直接的な制約を課すことが内容となっている本件規定につい

ては,その合理的な根拠の有無について以上のような事柄の性質を十分考慮に入れた

上で検討をすることが必要であり,本件においては,上記の考え方に基づき,本件規

定が再婚をする際の要件に関し男女の区別をしていることにつき,そのような区別を

することの立法目的に合理的な根拠があり,かつ,その区別の具体的内容が上記の立

法目的との関連において合理性を有するものであるかどうかという観点から憲法適

合性の審査を行うのが相当であるとの判断枠組みを示した。

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69 矢島の体系整理テキスト 憲法

・平成27年判決の判断枠組みに則した具体的検討 ◇

同 高裁は,その上で,本件規定の立法目的の検討について,科学技術が発達してDNA検査が可能

となったが,父子関係の確定をDNA検査という科学的な判定に委ねることとする場合には,父性の

推定が重複する期間内に生まれた子は,一定の裁判手続等を経るまで法律上の父が未定の子として取

り扱わざるを得ず,その手続を経なければ法律上の父を確定できない状態に置かれることになり,生

まれてくる子にとって,法律上の父を確定できない状態が一定期間継続することにより種々の影響が

生じ得ることを考慮すれば,子の利益の観点から,上記のような法律上の父を確定するための裁判手

続等を経るまでもなく,そもそも父性の推定が重複することを回避するための制度を維持することに

合理性が認められることなどを理由に,本件規定の立法目的は女性の再婚後に生まれた子につき父性

の推定の重複を回避し,もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解するのが相

当であり,父子関係が早期に明確となることの重要性に鑑みると,このような立法目的には合理性を

認めることができるとした。

同 高裁は,次に,目的達成手段について,民法の嫡出推定規定から,計算上100日の再婚禁止

期間を設けることによって,父性の推定の重複が回避されることになり,父性の推定の重複を避ける

ため上記の100日について一律に女性の再婚を制約することは,婚姻及び家族に関する事項につい

て国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるものではなく,上記立法目的との関連において

合理性を有するものということができるとした上で,本件規定のうち100日の再婚禁止期間を設け

る部分は,憲法14条1項にも,憲法24条2項にも違反するものではないとした。

しかし,同 高裁は,旧民法起草時の立案担当者の説明等からすると,その当時は,専門家でも懐

胎後6箇月程度経たないと懐胎の有無を確定することが困難であり,父子関係を確定するための医療

や科学技術も未発達であった状況の下において,再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを

回避するための期間に限定せず,一定の期間の幅を設けようとしたものであったことがうかがわれ,

再婚禁止期間を6箇月と定めたことが不合理であったとはいい難いが,医療や科学技術が発達した今

日においては,再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間に限定せず,

一定の期間の幅を設けることを正当化することは困難になったといわざるを得ないなどとして,本件

規定のうち100日超過部分は合理性を欠いた過剰な制約を課すものとなっているというべきであ

り,本件規定のうち100日超過部分は,遅くとも上告人が前婚を解消した日から100日を経過し

た時点までには,婚姻及び家族に関する事項について国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超

えるものとして,その立法目的との関連において合理性を欠くものになっていたと解されるとして,

本件規定のうち100日超過部分が憲法24条2項にいう両性の本質的平等に立脚したものでなく

なっていたことも明らかであり,上記当時において,同部分は,憲法14条1項に違反するとともに,

憲法24条2項にも違反するに至っていたというべきであるとした( 大判平27.12.16・再婚禁止規

定の部分違憲判決)。

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70 矢島の体系整理テキスト 憲法

(5) 夫婦同氏の原則と夫婦間の不平等 →夫婦同氏を強制する民法750条の規定は,形式的には不平等にはならないが,現実

には,96%の夫婦において夫の氏が選択されているため,事実上,夫婦間で不平等

が生じている。本件は,上告人Xらが,夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は

妻の氏を称すると定める民法750条の規定(「本件規定」)は憲法13条,14条1

項,24条1項及び2項等に違反すると主張し,本件規定を改廃する立法措置をとら

ないという立法不作為の違法を理由に,被上告人国に対し,国家賠償法1条1項に基

づき損害賠償を求めた事案である。本件は,前の章で氏の変更を強制されない自由に

関して13条違反の有無が問題とされた判例として紹介した 大判平 27.12.16 と同

じ判例である。14条1項及び24条の憲法適合性に関する 高裁の判断は次のとお

りである。 高裁は,14条1項違反の上告理由に対して,本件規定は,その文言上性別に基

づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく,本件規定の定める夫婦同氏制そ

れ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではないとし,さらに,我が国にお

いて,夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が

圧倒的多数を占めることが認められるとしても,それが,本件規定の在り方自体から

生じた結果であるということはできないとして,本件規定は,憲法14条1項に違反

するものではないとした。△

・24条に関する判示 △ Xらは,本件規定が,夫婦となろうとする者の一方が氏を改めることを婚姻届出の要件とすることで,

実質的に婚姻の自由を侵害するものであり,また,国会の立法裁量の存在を考慮したとしても,本件

規定が個人の尊厳を侵害するものとして,憲法24条に違反するとの主張をした。 まず,24条1項の点について, 高裁は,「憲法24条は,1項において『婚姻は,両性の合意

のみに基づいて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持され

なければならない。』と規定しているところ,これは,婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻をするか

については,当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにした

ものと解される。本件規定は,婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたも

のであり,婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではない。仮に,婚姻及び家族に関す

る法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択した者がい

るとしても,これをもって,直ちに上記法制度を定めた法律が婚姻をすることについて憲法24条1

項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない。ある法制度の内容により婚姻をす

ることが事実上制約されることになっていることについては,婚姻及び家族に関する法制度の内容を

定めるに当たっての国会の立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき

事項であると考えられる。」とした。

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71 矢島の体系整理テキスト 憲法

次に,24条2項の点について, 高裁は,「憲法24条は,2項において『配偶者の選択,財産

権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の

尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。』と規定している。婚姻及び家族

に関する事項は,関連する法制度においてその具体的内容が定められていくものであることから,当

該法制度の制度設計が重要な意味を持つものであるところ,憲法24条2項は,具体的な制度の構築

を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに,その立法に当たっては,同条1項も前提

としつつ,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指針を示すことによって,

その裁量の限界を画したものといえる。」とした上で,「憲法24条の要請,指針に応えて具体的にど

のような立法措置を講ずるかの選択決定が国会の多方面にわたる検討と判断に委ねられているもの

であることからすれば,婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法13条,14条1項

に違反しない場合に,更に憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは,当該法制度の趣

旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し,当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平

等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合

に当たるか否かという観点から判断すべき」との判断枠組みを示した。 同 高裁は,その上で,「夫婦が同一の氏を称することは,家族という一つの集団を構成する一員

であることを,対外的に公示し,識別する機能を有している。特に,婚姻の重要な効果として夫婦間

の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ,嫡出子であることを示すため

に子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があると考えられる。また,家族

を構成する個人が,同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを

実感することに意義を見いだす考え方も理解できるところである。さらに,夫婦同氏制の下において

は,子の立場として,いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる。

加えて,前記のとおり,本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在する

わけではなく,夫婦がいずれの氏を称するかは,夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択

に委ねられている。」とし,一方で,「夫婦同氏制の下においては,婚姻に伴い,夫婦となろうとする

者の一方は必ず氏を改めることになるところ,婚姻によって氏を改める者にとって,そのことにより

いわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会

的な信用,評価,名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合がある

ことは否定できない。そして,氏の選択に関し,夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現

状からすれば,妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じているものと推認できる。

さらには,夫婦となろうとする者のいずれかがこれらの不利益を受けることを避けるために,あえて

婚姻をしないという選択をする者が存在することもうかがわれる。」としつつも,「近時,婚姻前の氏

を通称として使用することが社会的に広まっているところ,上記の不利益は,このような氏の通称使

用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。」として「以上の点を総合的に考慮する

と,本件規定の採用した夫婦同氏制が,夫婦が別の氏を称することを認めないものであるとしても,

上記のような状況の下で直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度

であるとは認めることはできない。したがって,本件規定は,憲法24条に違反するものではない」

として本件規定を合憲とした( 大判平27.12.16)。

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72 矢島の体系整理テキスト 憲法

(6) サラリーマン税金訴訟

→改正前所得税法は,給与所得課税にかかる必要経費の控除につき,給与所得者には事業所得者に認め

られている実額控除を認めず,事業所得者と給与所得者とを別異に扱っている点で,給与所得者は,

事業所得者に比べて不公平な課税をされているとして,同法の規定が憲法14条に違反するかが争わ

れた事案がある。

高裁は,憲法14条1項の平等の保障は,憲法の も基本的な原理の一つであって,課税権の行

使を含む国のすべての統治行動に及ぶが,絶対的な平等を保障したものではなく,合理的理由なくし

て差別することを禁止する趣旨であって,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別する

ことは,その区別が合理性を有する限り,何ら右規定に違反するものではないとした上で,租税法の

定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎と

する立法府の政策的,技術的な判断にゆだねるほかはなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を

尊重せざるを得ないものというべきであることから,租税法の分野における所得の性質の違い等を理

由とする取扱いの区別は,その立法目的が正当なものであり,かつ,当該立法において具体的に採用

された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り,その合理性を否

定することができず,これを憲法14条1項の規定に違反するものということはできないとして,租

税立法については立法府の政策的,技術的判断に委ねざるを得ないところが大きいことを理由にかな

り緩やかな合憲審査の判断枠組みを示した。◇

その上で,同 高裁は,目的の正当性につき,旧所得税法が給与所得に係る必要経費につき実額控

除を排し,代わりに概算控除の制度を設けた目的は,租税負担を国民の間に公平に配分するとともに,

租税の徴収を確実・的確かつ効率的に実現することにあり,これは,租税法の基本原則であるから,

右の目的は正当性を有するとした。また,同 高裁は,目的達成手段の正当性につき,憲法14条1

項の規定の適用上,事業所得等に係る必要経費につき実額控除が認められていることとの対比におい

て,給与所得に係る必要経費の控除のあり方が均衡のとれたものであるか否かを判断し,給与所得控

除を専ら給与所得に係る必要経費の控除ととらえて事を論ずるのが相当であるとした。そして,給与

所得者の職務上必要な諸設備,備品等に係る経費は使用者が負担するのが通例であり,また,職務に

関し必要な旅行や通勤の費用に充てるための金銭給付,職務の性質上欠くことのできない現物給付な

どがおおむね非課税所得として扱われていることを考慮すれば,給与所得者において自ら負担する必

要経費の額が一般に給与所得控除の額を明らかに上回るものと認めることは困難であって,給与所得

控除の額は給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を欠くことが明らかであるという

ことはできないとした。

以上のことから,同 高裁は,旧所得税法が必要経費の控除について事業所得者等と給与所得者と

の間に設けた前記の区別は,合理的なものであり,憲法14条1項の規定に違反するものではないと

した( 大判昭60.3.27・サラリーマン税金訴訟)。△ プレ-22,H22-3,H27-2

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73 矢島の体系整理テキスト 憲法

(7) 売春取締条例による取締りの地域格差

→第1審で東京都売春取締条例に違反して罰金2万円の刑に処せられた被告人は,条例

で売春の取締りをしていない県が存在し,都道府県ごとに異なる取締規定を設けて異

なる取扱いをすることは憲法14条1項に違反するとして争った。 高裁は,「憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上,地域によって差別

を生ずることは当然に予期されることであるから,かかる差別は憲法みずから容認す

るところである」として,地方公共団体が売春の取締について各別に条例を制定する

結果,その取扱に差別を生ずることがあっても,地域差の故をもって違憲ということ

はできないとした( 大判昭 33.10.15)。◇ プレ-22,H19-5,H24-19,H28-3

・前記昭和33年判決の補足意見は,「憲法が各地方公共団体に,条例制定権を認めて

いるからといって,当然に,各条例相互間に憲法14条の原則を破る結果を生ずるこ

とまでも,憲法が是認しているものと解すべきではなく,各条例が各地域の特殊な地

方の実情その他の合理的根拠に基づいて制定され,その結果生じた各条例相互間の差

異が,合理的なものとして是認せられて始めて,合憲と判断すべきものと考える。し

たがって,多数意見が,無条件に地域的差別取扱を合憲とする趣旨であるとするなら

ば,私どものにわかに賛同し得ないところである。」としている。この補足意見は,条

例による地域格差が平等原則に違反しないかは,立法目的とその目的と目的達成手段

との間の関連性を具体的に検討して判断する必要があることを示唆しているといえる。

論文試験対策の参考になる。◇ 関連問題:H22司法論文公法系第 1問(医療扶助受給権と地域格差)

・H22司法論文(出題の趣旨・抜粋)

自治体による別異の取扱いに関しては,それを合憲とした先例( 大判昭和33年10月15日)が

あるが,その先例と本問の事案とは異なることを踏まえて検討する必要がある。〔注:売春取締条例

には地域の事情に応じた地域差が許容されても,本問で問題とされている生きる権利そのものについ

ての地域差は当然には許容されないと考えられる。〕

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74 矢島の体系整理テキスト 憲法

(8) 堀木訴訟

→国民年金法の別表1級1号の視力障害があるため障害福祉年金を受給していたX女

は,離婚して以来,次男を一人で養育していたところ,児童扶養手当法に基づき同手

当の受給資格の認定申請をしたが,障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止規定を理

由に申請が却下された。そこで,Xは,却下処分の取消訴訟を提起し,児童手当法の

併給禁止規定が憲法25条及び14条1項等に違反すると主張して争った。 高裁は,

次のとおり,いずれの憲法違反もないとした( 大判昭 57.7.7・堀木訴訟)。 25条の問題については生存権の章で取扱い,ここでは14条の問題について学習

する。 ・ 高裁は,憲法14条等の違反の主張につき,本件併給調整条項の適用により,上告

人のように障害福祉年金を受けることができる地位にある者とそのような地位にな

い者との間に児童扶養手当の受給に関して差別を生ずることになるとしても,さきに

説示した生存権をどのように具体化するかについての立法裁量が広範であることに

加えて,原判決の指摘した諸点,とりわけ身体障害者,母子に対する諸施策及び生活

保護制度の存在などに照らして総合的に判断すると,右差別がなんら合理的理由のな

い不当なものであるとはいえないとした。△ H27-2

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75 矢島の体系整理テキスト 憲法

(9) 遺族補償年金の受給資格についての夫に対する差別 →地方公務員の遺族補償年金の受給資格について,職員の死亡の当時にその妻の受給資

格については年齢制限がない一方で,夫については55歳以上と規定している地方公

務員法32条1項但書及び附則7条の2第2項が憲法14条1項に違反するかが争わ

れた。 高裁は,次のとおり判示した。地方公務員災害補償法の定める遺族補償年金制度

は,憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障の性格を有する制度とい

うべきところ,その受給の要件を定める地方公務員災害補償法32条1項ただし書の

規定は,妻以外の遺族について一定の年齢に達していることを受給の要件としている

が,男女間における生産年齢人口に占める労働力人口の割合の違い,平均的な賃金額

の格差及び一般的な雇用形態の違い等からうかがえる妻の置かれている社会的状況

に鑑み,妻について一定の年齢に達していることを受給の要件としないことは,上告

人に対する不支給処分が行われた当時においても合理的な理由を欠くものということ

はできない。したがって,地方公務員災害補償法32条1項ただし書及び附則7条の

2第2項のうち,死亡した職員の夫について,当該職員の死亡の当時一定の年齢に達

していることを受給の要件としている部分が憲法14条1項に違反するということ

はできない。以上は, 高裁昭和39年5月27日大法廷判決, 高裁昭和57年7

月7日大法廷判決〔堀木訴訟大法廷判決〕の趣旨に徴して明らかである( 判平

29.3.21)。◇

・本件の第1審は,遺族年金の制度の性格について社会保障とは捉えず「一種の損害賠

償制度」と捉えて,堀訴訴訟大法廷判決を引用しなかったのに対して,原審及び 高

裁は,遺族年金を社会保障の性格と捉えて堀木訴訟大法廷判決を引用した。堀木訴訟

判決は,社会保障の制度に関わる差別が問題となるときは,広範な立法裁量を認めて

非常に緩やかに合憲審査するものなので,本件に堀木訴訟は判決が引用されると合憲

の結論が導かれやすくなる。 第1審は,合理性の審査において,今日においては共働きの世帯が一般的になって

いることや,男性の安定的就業という前提が見直されざるを得なくなっていることに

着目して,遺族年金の受給要件について男女で区別することは合理性がなくなったと

した上で,本件の規定が憲法14条1項に違反し無効であるとして,遺族年金の不支

給決定を取り消した。

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