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Net beNefits ―MSC認証がもたらしたもの ―MSC認証漁業 10年の歩みと成果―

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Net beNefits ―MSC認証がもたらしたもの

―MSC認証漁業 10年の歩みと成果―

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目 次

MSC最高責任者のご挨拶 03海の目覚ましい変化――海洋管理協議会の10年 04MSC認証取得漁業地図 06

西オーストラリアのロブスター漁業 08 テムズ入江‐ブラックウォーターの流し網ニシン漁 10 アラスカのサケ漁業 12 ニュージーランドのホキ漁業 14 ベリー湾のザルガイ漁業 16 イギリス南西沿岸の手釣りサバ漁業 18 トリドン湖のヨーロッパアカザエビ漁業 20 サウスジョージアのパタゴニアンメロ延縄漁業 22 南アフリカのヘイクトロール漁業 24 メキシコ、バハ・カリフォルニアのロックロブスター漁業 26 ベーリング海/アリューシャン列島とアラスカ湾のスケソウダラ漁業 28 ヘイスティングス漁船団のシタビラメ/タイセイヨウニシン/サバ漁業 30 ベーリング海とアリューシャン列島の(太平洋)マダラ漁業-冷凍延縄漁船 32オーストラリアのコオリカマス漁業 34アメリカ北太平洋のオヒョウ漁業 36 浮魚冷凍トロール漁船協会の北海ニシン漁業 38 アメリカ北太平洋のギンダラ漁業 40 イェルマレン湖のパイクパーチ、フィッシュトラップ/刺し網漁業 42 パタゴニア ホタテガイ漁業 44 米国ビンナガマグロ漁業協会・南北太平洋のビンナガマグロ漁業 46North Eastern Sea漁業委員会のスズキ漁業 48オレゴンのピンクエビ漁業 50 Astrid Fiske北海のニシン漁業 52 南オーストラリアの湖とクーロン礁湖の漁業 54 ノルウェー北海と北東北極海のセイス(シロイトダラ)漁業 56 Scottish Pelagic Sustainability Group(SPSG)による北海ニシン漁業 58 カナダのホッコクアカエビ漁業/セントローレンス湾Esquiman海峡のホッコクアカエビトロール漁業 60京都府機船底曳網漁業連合会・ズワイガニ/アカガレイ漁業 62セントローレンス湾のホッコクアカエビ漁業/セントローレンス湾Esquiman海峡のホッコクアカエビトロール漁業 64ドイツ北海のセイス(シロイトダラ)トロール漁業 66 Scottish Pelagic Sustainability Group(SPSG)の北東大西洋西部サバ漁業 68Domstein Longliner Partnersの北東北極海のタラ/ハドック漁業 70

カバー写真 南西部の手釣りサバ漁業(イギリス) ⓒ John Spaul、南アフリカのヘイク漁業(南アフリカ) ⓒ John White / MSC、米国ビンナガマグロ漁業者協会の太平洋ビンナガマグロ漁業(アメリカ) ⓒ Fishes Holding BV、アメリカ北太平洋のギンダラ漁業(アメリカ) ⓒ Peter Thompson、Domstein Longliner Partners・北東北極海のタラ/ハドック漁業(ノルウェー) ⓒ Alice Blålid、アラスカのサケ漁業(アメリカ) ⓒ Chris Arend Photography、メキシコ、バハ・カリフォルニアのロックロブスター漁業(メキシコ)

 今年、MSCは、パートナーシップと発展の10年を祝うことができました。この刊行物は、最初の漁業がMSCの制度に参加して10年となることを記念して、各漁業の成果を讃えるとともに、彼ら自身のことばで語られたそれぞれの逸話をお伝えするために制作されたたものです。 思い返せば、すばらしい道程であったと言えます。きっかけは、グランドバンクのマダラ漁業が壊滅したことを受け、WWFとユニリーバが手を携えて、持続可能な漁業の振興と促進のための、市場原理を基盤とした制度の創設に立ち上がったことでした。両組織は、将来の海の健全性と生産力、および水産物供給の持続可能性に大きな懸念を抱いていました。MSCは、市場原理に基づいた認証とエコラベルの制度として創設されました。環境に責任を持って持続可能な操業を行う漁業を認証、報奨し、何よりも、そのラベルを目印にして消費者が「環境的にベストな選択」をすることができるよう

にすることがその機能です。そして1999年、私たちは、完全に独立して活動する、国際的な非営利組織となったのです。 10年目の今、これらの先駆的漁業の実績が示すとおり、信頼のおける認証取得持続可能水産物への需要の高まりが、漁業に望ましい変革をもたらしていることは明らかです。今日、世界中で150を超える漁業が、第三者機関による審査プロセスのいずれかの段階にあります。これらの漁業は600万トンを超える水産物を水揚げしており、これは世界の年間天然魚水揚げ量の約7%に相当します。 MSCは、ここに登場する漁業、すなわちMSC認証の取得を達成した最初の42の漁業に大きく支えられてきました。彼らは、当時、開始して間もないこの制度に対し、投資を行なう勇気、尽力、そして先見性を備え、急速に発展する持続可能な水産物市場を支える供給源を生み出してくれました。また、水産物の持続可能性を商品調達戦略の中核に据えてくださった世界中の水産企業および小売企業の皆様にも、同じくこの上ない感謝の念を抱いております。今日、MSC認証取得した持続可能な水産物の市場価値は15億米ドルを超えるとされ、また2500点を超える個々のMSCラベル製品が世界52ヶ国で入手可能となっています。 MSCの設立に中心的役割を果たしたすべての個人および団体の皆様に、心から感謝いたします。また、MSCの最初の10年間をその寛大なご支援で

MSC最高責任者のご挨拶

支えてくださった資金提供者の皆様の欠くことのできないその役割に謝意を表明いたします。主要な出資者の中には、創設当初から変わらずご支援くださっている皆様もいらっしゃいます。こうした資金援助なくして、この制度の成功とその広まりつつある影響力の基盤となっているパートナーシップを築くことはできませんでした。さらに、環境に責任を持った持続可能な漁業のためのMSC基準が信頼性を確立する上で、中心的役割を果たしたいくつかの海洋保全NGOおよび科学者の皆様方の支援にも感謝いたします。 ここから先のページに示されているように、私たちには祝うべき業績が数多くある一方で、海の健全性と生産力をしっかり維持していくためには、これまで以上に多くのことが、しかも早急に、なされなければならないのも明らかです。生命に満ちた世界の海を守り、将来にわたって水産物の供給を確保するという私たちのビジョンが、この10年の成果を基に、すべてのパートナーと共に達成されることを期待しています。

2009年9月、MSC最高責任者Rupert Howes

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海の目覚ましい変化―海洋管理協議会の10年

この漁業は、政府の科学者と協同で、トロール漁船の立ち入りが禁じられた深海珊瑚域の分布調査を行い、固定漁具による損傷や枯渇の有無を確かめました。 また、別の例では、CoC認証の直接的な結果として利益が生まれています。この制度は、MSCロゴが表示されたすべての水産物をその認証漁業にまで追跡可能にするものです。この認証を受けるため、南大西洋のサウスジョージアのメロ漁業

(22ページ)では、フォークランド諸島において政府の管理のもとに、全漁獲重量を1箱ずつ量ることにしました。こうすることで、買い手や消費者は、認証された漁獲物が他のメロ漁業によって違法に捕獲されたものではないという保証を得られるのです。

経済的インセンティブ 大半の漁業は、MSCラベルによって、既得市場を保持し、地理的に、あるいは新しい製品分野開発の機会という点で、新規市場に参入することができたと述べています。ベーリング海とアリューシャン列島のスケソウダラ漁業(28ページ)では、その両方を獲得しました。以前の主な売り上げは、干しタラと塩漬けフィレによるものでしたが、認証取得以降は、ダブルフローズン、フライ用、天ぷら用等の付加価値を付けた加工製品の市場への参入を果たし、ヨーロッパ諸国へも市場を伸ばしています。ドイツ北海のセイス(シロイトダラ)

環境便益 認証は漁業をより持続可能なものにするのでしょうか。それともすでに行なわれている最良の操業例を報奨するだけなのでしょうか。この冊子の中で紹介されているように、MSCが存在する以前から多くの漁業が持続可能な漁獲を行なってきましたが、測り得る改善はMSC認証のもとで現れてきています。その好例がニュージーランドのホキ漁業(14ページ)で、長い間低迷していた資源量が、多数の管理措置によって今年は回復したのです。その管理には、MSC認証の条件として認証機関が提案した、資源再生案も含まれています。 南アフリカでも、MSC制度が関わった直接的な結果として、海洋環境が改善されました。経済的に重要な南アフリカのヘイクトロール漁業(24ページ)では、トロールの引き網に捕らわれた海鳥の死亡率を調査し、必要性が認められた場合には、その低減措置をとるよう求められました。その結果、鳥の死亡は年間18,000例からわずか200例へと、劇的な減少を示したのです。 ノルウェー北海と北東北極海のセイス

(シロイトダラ)漁業(56ページ)では、認証の条件として、混獲の記録を既存の規制よりも体系的にするよう求められました。これにより他の漁業の管理体制にも変化が生じるものとみられています。また

 1999年に発足したばかりの取り組みに最初の漁業が参加して以来、海洋管理協議会(MSC)は、この重要かつ持続可能な資源に我々の眼を向けさせてきました。MSCの10周年を前に、MSCのエコラベルが付いた製品数は2,000を超え、その量は250万トンに迫っています。しかし、製品に付けられた青いエコラベルの陰には、積み重ねた日々の行いによってそれを可能にした、世界中のMSC認証取得漁業で働く人々の存在があるのです。同時に、彼らは、持続可能な漁業の管理について知っておくべきことをすべて知っているのです。 この祝うべき10年の功績を収めた記念冊子にはMSCの制度が、その創設から10年経った今、どのように漁業に役立っているかについて、漁師やクライアント自身の言葉で掲載されています。 認証への期待は実現したのか? はっきりとした経済的利益はあったのか? おなじみの青いエコラベルはプレミアム価格につながり、漁業の新規市場参入や既存市場保持に役立ったのか? また、測ることのできる環境への貢献、例えば、資源の回復、新しい科学調査、混獲の低減、漁船への監視の拡充、が成されたかについても是非知りたかったのです。そして、社会への貢献はあったのでしょうか? MSC制度によって、職業や地域社会が守られ、生活の手段としての漁業への関心が高まり、社会再生プログラムや政府助成金の恩恵が受け易くなったのでしょうか? 時差や気候、そして異なる言語圏を巡り、私は2009年4月までに認証を取得した42の漁業の1つ1つに、これらの鍵となる質問を投げかけました。どの漁業にもそれぞれの語られるべき魅力的な逸話があり、またその答えから、MSCの取り組みがさまざまな形で私たちの海の健全性の向上に貢献していることが、はっきりとわかったのです。

の結果として、政府の関心をよりひきつけ、電力普及のための2,000万ドルの補助金や、インフラの整備、集落への道路、飲料水のための政府援助といった、基本的公益事業の拡充が得られたのです。

政策への影響 ここで再び、南アフリカのヘイク漁業

(24ページ)を適例として挙げることにします。この漁業は、MSC認証取得のために付された条件の1つに応えるため、トリ・ライン(鳥が餌や漁具に近づかないよう漁船に立てる吹き流し)を、自主的に導入しました。今では南アフリカの全トロール漁船にこれが義務づけられており、MSCの取り組みに携わる漁業がいかに政府の政策にも影響を与え得るかを示す例となっています。南アフリカの漁業管理者たちはまた、MSC審査を経たことによって、業界と規制再度との長期的協同の機会が確立されたことも認識しています。ヨーロッパでは、主要なニシン漁業(30、38、52、58ページ)のほとんどがMSC認証を取得しているか審査中となっていますが、それらの漁業の存在が、EU漁業交渉の方向に変化をもたらしました。証機関がどのように判断するかを念頭に置き、漁獲枠やその他の事項が、より予防的観点から検討されるようになっています。 西オーストラリアのロブスター漁業(8ページ)は、MSC認証が強力な交渉手段であることに気づきました。EUに輸入される水産物の関税が半減され、それにより認証費用のいくらか埋め合わされたのです。 これらすべてから明らかなように、この10年間にMSC制度が果たした役割は、価格プレミアムという単純な値をはるかに超えるものです。ここには、MSCの正真正銘の支持者たちによる、複雑で興趣あふれる業界変革の物語がつづられています。海の目覚ましい変化としか表しようのないものです。

安定な波止場周りでの商売に頼らずに、将来へ向けた安定した価格設定が可能となります。 西オーストラリアのロブスター漁業(8ページ)は、漁業が価格プレミアム以上の経済的利益を得ることもできるという好例です。オーストラリア政府が、水産物を輸出する企業は審査を受け輸出認証を取得しなければならないという法令を施行した際、MSC認証も基準を満たした代替認証のひとつとして認められ、漁業は輸出認証の取得コストを抑えることができたのです。

社会的便益 認証は社会的な便益ももたらします。漁業の資源が持続可能な状態に管理されれば、その資源に依存する漁業コミュニティの暮らしはより安定したものとなります。これは、イギリスのスコットランド・トリドン湖のヨーロッパアカザエビ漁業(20ページ)や、アメリカの米国ビンナガマグロ漁業者協会(AAFA)・太平洋のマグロ漁業(46ページ)といった小規模で古くからある漁業に、特に言えることです。 MSC認証が、地域社会の自主性の確立を通してより広域の社会便益に貢献したことを強く示す例として、メキシコのロブスター漁業(26ページ)があります。MSCの取り組みに携わったことで、この小さな共同体型の漁業に支えられた10ヶ所の村落が、連邦政府の地図に載ったのです。そ

漁業(66ページ)は、かつては鮮魚の売り上げのみに頼っていましたが、現在、まったく新たな市場分野である冷凍のフィレでの契約が成立しつつあります。これは、ドイツの小売り企業(特に大型量販店のAldiとLidl)が、MSC認証の冷凍製品を求めていることによるものです。アラスカのブリストル湾では、大手小売り企業の需要によって、アラスカのサケ(12ページ)の市場が、廉価な缶詰から、フィレ、冷蔵品、冷凍品といった付加価値のあるものへと移っていきました。 価格プレミアムを獲得した漁業もあります。小規模で古くからある漁業が主で、その多くが、より有利な価格設定によって存続し、業績を伸ばすことができました。オーストラリアのクーロング湖の漁業

(54ページ)では、MSC認証水産物に対し、シドニーとメルボルンのレストランが非認証品と比べて30から50パーセントのプレミアム価格を支払っているとのことです。世帯収入の60パーセントを漁業とその関連が占めるこの地域社会にとって、これはきわめて重要なことです。イギリスのNESFCのシーバス漁業(48ページ)では、認証取得以前の地元での価格に比べ、最大25パーセントのプレミアムが付いてロンドンの一流レストランに販売されているとのことです。また、これもイギリスの例ですが、ヘイスティングスのシタビラメ/ニシン/サバ漁業(30ページ)については、オランダ向けに販売される製品におよそ10パーセントのプレミアムが付されており、フランスのCasinoスーパーマーケットグループからは、最大15パーセントアップの価格提示を受けています。アメリカの米国ビンナガマグロ漁業者協会

(AAFA)による太平洋のマグロ漁業(46ページ)では、2007年8月にMSC認証を取得するや否や、1トンにつき1,700米ドルから2,250米ドルへと価格が上昇しました。ヨーロッパでの市場が確保されれば、AAFAにとっては創設以降初めて、不

ⓒ Jiri Rezac/WWF-UK

ⓒ Carey Schumacher

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MSC認証を取得した持続可能な漁業

漁業1 アラスカのサケ漁業2 米国ビンナガマグロ漁業者協会・南北太平洋のビ

ンナガマグロ漁業(2漁業)3 オーストラリアのコオリカマス漁業4 ベーリング海/アリューシャン列島の(太平洋)マダ

ラ漁業-冷凍延縄漁船5 ベーリング海/アリューシャン列島のスケソウダラ

漁業6 ベリー湾のザルガイ漁業7 アラスカ湾のスケソウダラ漁業8 ヘイスティングス漁船団のシタビラメ/ニシン/

サバ漁業(3漁業)9 イェルマレン湖のパイクパーチ、フィッシュトラッ

プ/刺し網漁業(2漁業)10 メキシコ・バハカリフォルニアのロックロブスター

漁業11 ニュージーランドのホキ漁業12 North Eastern Sea漁業委員会のスズキ漁業13 オレゴンのピンクエビ漁業14 パタゴニアホタテガイ漁業15 浮魚対象冷凍トロール漁船協会の北海のニシン漁業16 南アフリカのヘイクトロール漁業(2漁業)17 サウスジョージアのパタゴニアンメロ延縄漁業18 イギリス南西沿岸の手釣りサバ漁業19 テムズ入江‐ブラックウォーターのニシン漁業20 アメリカ北太平洋のオヒョウ漁業21 アメリカ北太平洋のギンダラ漁業22 西オーストラリアのロックロブスター漁業23 Astrid Fiske、北海のニシン漁業24 カナダのホッコクアカエビ漁業25 Domstein Longliner Partnersの北東北極海の

タラとハドック漁業(2漁業)26 ドイツ北海のセイス(シロイトダラ)トロール漁業27 セントローレンス湾のホッコクアカエビ漁業28 セントローレンス湾Esquiman海峡のホッコクアカ

エビトロール漁業29 京都府機船底曳網漁業連合会のズワイガニ/アカ

ガレイ漁業(2漁業)30 南オーストラリアの湖とクーロン礁湖の漁業31 ノルウェー北海のセイス(シロイトダラ)漁業/ノル

ウェー北東北極海のセイス漁業(2漁業)32 Scottish Pelagic Sustainability Group(SPSG)

の北海のニシン漁業33 Scottish Pelagic Sustainability Group(SPSG)

の北東大西洋西部のサバ漁業34 トリドン湖のヨーロッパアカザエビ漁業

MSCラベル付き商品が販売されている国々

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西オーストラリアのロブスター漁業

 世界で初めてMSC認証を取得したこの漁業には、その利益を十分に享受する時間がありました。Western Rock Lobster協議会の会長、Dexter Davies氏は、「市場参入の機会がその主たるものでした。オーストラリアの大手スーパーチェーンがMSCラベル製品を求めており、私たちは有利な立場にあります」と述べています。3月、Aldiの店舗(ドイツ資本の量販店で、オーストラリアのニューサウスウェールズ、クイーンズランド、ビクトリア各州に200を超える販売店を所有)が、2009年7月よりMSC認証を取得した缶詰と冷凍製品11点を全店舗で取り扱うと発表しました。

新規市場への参入、関税の削減と政治的発言力 これほど関心を集めるのはオーストラリアでは初めてのことですが、MSC認証の取得によって、この漁業は早い時期からヨーロッパ市場に参入することができたのです。「EUはヨーロッパに輸出されるオーストラリアの水産物に関税をかけていますが、MSC認証はそれを半分に、すなわち12パーセントから6パーセントにまで引き下げるという、実に強力な手段となりました。過去3年間にヨーロッパ向けに販売された冷凍ロブスター1,500トンに対するこの節税により、MSC認証の費用が多少埋め合わされました」と、Davies氏は説明します。 「ロブスター業界の代表者が市場参入を認めるようEUに働きかけたのですが、MSC認証を取得していたことが強力な交渉手段となったのです。交渉では『ほら、これは独立機関による審査を受けた持続可能な漁業によるロブスターなんだ』と言うことができました。効果は抜群でした」と、Davies氏は言います。 しかし、この、長い触角を持つ、トゲだらけで赤紫色をした甲殻類は、その大半が中国、台湾、アメリカ、日本向けに輸出され、年間4億豪ドル(1億9000万ポンド)、オーストラリア漁業総売り上げの20パーセントを稼いでいます。これら市場への販売では、MSCとの関わりが時間と労力の節約につながり、それによって費用も削減できました。MSCの認証取得は、価格プレミアムだけが利点ではないことを証明しています。西オーストラリアのロブスター漁業によるMSC認証取得の4ヶ月後、

オーストラリア政府は1999年環境保護及び生物多様性保全法(EPBC)を施行し、企業が水産物を輸出するには、審査を受けてEPBC認証を取得しなければならないと定めました。Davies氏によれば、「あの法律はMSC規格を基にしたもので、私たちはすでにMSC認証を取得していましたから、対応済みだったわけです。単に輸出認証を得るためだけにもMSCへの高いコストはどのみち必要となるものだったのです」。

世界的不況による悪影響の軽減 今年は、ロブスターの輸出量が概して減少しています。Davies氏は、「世界的な不況下では、ロブスターはどうしても食べなければならないというものではありません。しかしここでもまたMSC認証が強い味方となります。今、ヨーロッパや中東において、またアメリカでは特別な製品分野において、極めて多様な市場への展開が本当に必要になっているのです。こうした高級専門市場に参入するためには、価格帯の高い商品で他とは違う何か、が必要になります。このような市場機会の増加において、MSCは実用的な役割を果たしてくれています」と述べています。

長期的管理 生態学的には、ロブスター漁業はこれまで、Davies氏の言う「私たちが40年来培ってきたすばらしい予測的科学」に依存してきました。これは、1960年代に生物学者のBruce Phillips氏によって開発された、漁獲高を4年先まで正確に予測できるという技術を指します。Phillips氏は、沿岸の礁に「採集器(あるいは人工生息域)」を設置して、Panulirus cygnusが産卵するインド洋の深みから潮流に乗って流れ着く稚エビ、すなわちロブスターの幼生を数えることに成功しました。「そのおかげで管理方針を4年先まで事前に決めること が で き、非 常 に 有 効 でした」と、Davies氏は言います。 この技術により、管理者は稚エビが環境要因による「信じ難い少数」であることを認識することができ、資源回復のため漁獲努力量を50パーセント削減しました。Davies氏は、「これは予防措置ですが、優れた管理と言えます。私たちがやっているのは問題に早めに対処するということだけなのです」と言っています。

認証取得日 2000年3月3日、2006年12月再認証取得

魚種 オーストラリアロブスター(Panulirus cygnus)

漁法 かご漁国 オーストラリア操業区域

西オーストラリア沿岸、ルーイン岬(パースの南、マーガレット川流域)から北に1,000kmのシャーク湾まで

漁獲量 10,750トン

「認証取得以前は、この漁業が持続可能だというのは私たち自らの主張によるものでした。今は、これらすべての優れた科学的情報が世界中の専門家によって確認されています。つまり、私たちの漁業管理方法は、自動的に専門家の査読を受けていることになるのです」

Western Rock Lobster協議会、会長、Dexter Davies氏

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「テムズニシン、私たちの言う『シルバーダーリン』は、古くから地元に伝わる食料源で、地元マーケットではよく売れています。MSC認証漁業で獲れた魚なので、消費者には漁師が20年後も今と同じように網を刺しているだろうということがわかるのです」

Aquanet Ltd、Managing Director、Toby Talbot氏

テムズ入江‐ブラックウォーターのニシン漁業

ⓒ John Spaul

ⓒ John Spaul

 「小さいことは美しい」という表現が、この小さな漁業ほど似合うものは他にはありません。テムズ川河口から北に延びるコルチェスターに近いブラックウォーター入り江とコーン入江がその操業範囲です。エセックス州東部の、ロンドンからわずか56マイルの町に位置しています。この制限区域(より大規模なテムズ川のニシン漁業の一部)では、流し網だけが認められていますが、それを仕掛けるのは長さ10m足らずの1ダース以下の舟数で、操業時間は毎日1時間か2時間です。 その規模に合わせるかのように、この漁業が対象とする魚もまた非常に小さなものです。ここで産卵するニシンは、ブラックウォーター種、またはテムズ入江ニシンと呼ばれ、北海のニシンより脊椎が1つ少ない別個の生息群です。この地方の漁業を管理、規制、発展するKent and Essex Sea 漁業委員会(KESFC)の主席漁業管理官、Joss Wiggins氏は、「そういった理由でこの魚は小さいのです。だから私たちには、皆様にこの製品を買っていただくための、何らかのマーケティングツールが必要だったわけです」と言います。

漁業者の支持を得る 1990年代後半、まだ持続可能性ということばが普及する前に、漁師たちはMSC認証にその答えを見いだしました。地元で獲れた魚を地元の市場に持続可能な方法で販売することは、「漁業者にとっての多くの関心項目を満たすものでした」とWiggins氏は述べますが、それは漁業管理者としての氏自身にも多くの便益をもたらしました。「私たちのやっていることを誰か他の人に審査してもらうのは有益なことでした。規制する者としては、資源を持続可能に管理するためにやろうとしていることを他人に支持してもらえると助かるのです。それによって、管理措置に対する漁業者の支持も高まるというわけです」と述べています。

規制の枠組みを変える その措置の一例が、例年の産卵区域閉鎖(2月に流し網区域、3月にはテムズのニシン漁業全体)でした。Wiggins氏は、既存の条例では、「日付は設定されていましたが、それ以前に漁獲枠に到達してしまった場合に、入り江全体を閉鎖する仕組みはありませんでした」と言います。1ヶ月の間、流し網制限水域外のトロール漁船は

魚を獲り続けることができ、TAC(漁獲可能量)を超えることもありました。 MSC認証の完全な達成には、この問題への対処が条件の1つとされました。「私たちは条例を改正し、現在は、Defra(環境食糧農村省)からMSC区域内の漁獲枠が満限に達したとの通知があれば、入り江全体を閉鎖することができます。これをきっかけに漁業全体が停止されることになり、将来の資源が守られることになりました」とWiggins氏は説明します。

経済的便益 しかしながら、経済的見返りはたちどころに現れ、すばらしいものでした。漁師のAndrew French氏は当時、「まだ認証が降りる前から、Grimsbyのバイヤーは漁獲のすべてを購入したいと言ってきました。値段はあっという間に1ストーン(約6.35キロ)当たり2ポンドから3ポンドにはね上がりました」と話してくれました。M S C認証取得の年である2000年、Defraによると価格は1トン388ポンドの最高額に達しました。テムズニシンの力量はイギリスのスーパーで試され、一時期は、皇太子殿下が設立したイギリスのブランド、Duchy Originalsから、MSCテムズニシンのパテが販売されました。とは言え、主 な 販 売 所 は 地 元 の マーケットやショップで、それは今も変わっていません。 ところが 皮 肉にもそ の 後、ブラックウォーターの個体群は産卵場所を他に移したのです。「どうもテムズ入り江のずっと先に集まっているようです」とWiggins氏は言います。これはつまり、MSC区域外のトロール漁業者たちが「漁獲量を増し、私たちのニシンの水揚げがほぼ皆無なのに対して、年間80から90トンを獲っている」ことになります。 いらだたしい話ですが、明るい兆しもあります。認証取得時の関心の高さを見ていた地元の漁業者たちが、「ここの漁業共同体が獲っている主な魚種のいくつか」について認証取得に向けた検討を始めているのです。シタビラメ、スズキ、ガンギエイなどがそれです。Wiggins氏は、「ニシンはきっかけを作るという役割を果たしたし、同じことがこれらの他の魚種資源にも適用されれば、このあたりのほとんどの漁師がこれはうまく行くはず、と思うでしょう」と述べています。

認証取得日 2000年3月3日、2005年12月再認証取得

魚種 ニシン(Clupea harengus)漁法 流し網漁国 イギリス操業区域

テムズ入江地帯、6マイル海域の範囲

漁獲量 2トン(2006/07年の陸揚げ)

「MSC認証が可能にしていることは、魚種資源をより持続可能にすることを目指した私たちの管理対策に、漁業者からの賛同と協力を得ることができるということです。―特に彼らにとって価格面での利益が見込める場合には。」

Kent & Essex Sea 漁業委員会、主席漁業管理官、Joss Wiggins氏

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「MSCラベルは、私たちの新製品であるアラスカサケのナゲット製品を主要商品に押し上げてくれました。フランスの全大手小売り企業が即座に取り扱いを決めたのです。MSCラベル製品の扱いを増やしていくことにより、小売り業者は持続可能性への取り組みを効果的に示すことができるわけです」

Findus France、fish group brand manager、Sophie Allemand氏

ⓒ Rupert Howes / MSC

ⓒ Rupert Howes / MSC

アラスカのサケ漁業

 「それはまるで現代のゴールドラッシュのようなものです」と、Warren ‘Buck’ Gibbons氏は、西アラスカのサケの水揚げを表現します。氏は同地で漁業を行なっているだけでなく、Bristol Bay Regional Seafood Development Associationの役員でもあります。「6月1日だと、網を入れてもまず何も獲れません。それが6月20日ごろになると、4,000万匹のサケがやってくるのです! 7月20日までにはまた1匹もいなくなります。母なる自然がもたらすすばらしい光景です」と話します。世界最大のベニザケ漁業 アラスカ半島が屈曲するブリストル湾の海岸線400km全体に沿って、サケはなつかしいシンダー、クビチャック、ヌシャガク、トギアック、ウガシックなどの川を遡上していきます。河口でその帰還を待ち構えるのは、ブリストル湾の刺し網漁船団に属する1,800隻の小型漁船です。個々は全長わずか10mの船ながら、全体では世界最大のベニザケ漁業となっており、2008年の水揚げは1億9000万ドル相当でした。 しかも、ブリストル湾はアラスカ全土のサケ漁業-5魚種にわたって何億匹も扱う-に対してはその一部に過ぎません。毎年そのすべてが、生まれた川や湖での産卵のため、北太平洋のかなたから何千マイルも戻って来るという大移動を敢行するのです。収獲と保全 広大なアラスカ州全域にわたり、荒涼とした景観の中に点在する辺境の漁獲区域で、この漁業は、アラスカ州漁業狩猟局

(ADF&G)により、持続可能性を確保するため慎重に管理されています。ADF&Gがまず行うのは、全般的な保全目標を設定し、次いでその目標を確実に達成すべく、水 揚 げ 量 を 制 御 す ること で す。ADF&Gのdeputy commissioner、David Bedford氏によれば、「漁獲量は保護上の必要量を超えた余剰資源に基づいて設定」されます。アラスカの管理者たちは、漁業の水揚げを監視し、サケの各魚種を絶えず注意深く数え、十分な個体数が確実に漁獲を免れ、川を遡って産卵できるようにしているのです。  G i b b o n s 氏 ととも に 水 産 会 社Wildcatchを経営するJohn Sarrheim氏は、「ADF&Gでは、比較的浅く透明な河川系において監視用飛行機を用いており、空からこの魚を見ることができます。魚が跳ねるのを見ることもでき、カウント用の塔からは行動を観察することができます」と言っています。これは、厳格な規則、執行、および進行中の調査と相俟って、アラスカを「漁業管理の世界的先導者にし、正しい管理をすればどのようになる

のかを示す見本としました」と、Gibbons氏は言います。サケ缶を越える付加価値 ブリストル湾では、極めて豊富な漁獲が、この地域をサケの缶詰で有名にしました。「タンパク質の殺到ですよ。缶詰にするしかないでしょ、だって翌日にはまた大量に 押 し 寄 せ て くる の で す か ら」と、Gibbons氏は言います。「今、この魚の国際的な価値が高まったことで、ブリストル湾でも付加価値をつけようとフィレやポーション加工に大規模な投資が行なわれています。こうした変化が生じた背景の一部には、アメリカとヨーロッパの大手小売り企業がMSCに携わっているからです」と、氏は続けます。 2008年9月、Findus Franceは新規の付加価値製品、アラスカサーモンナゲットを発売しました。MSCラベルが功を奏し、フランスの全大手小売り企業が即座に取り扱いを決め、Findusの市場シェアは38パーセントから45パーセントにまで伸びたのです。地域社会を支える 「フィレ加工、冷蔵、付加価値をつけるために割く労力のすべてが、サプライチェーンに属する全員に少しずつ増収をもたらします。私たちの地域では、仕事も機会もごく限られており、しばしばサケだけが1年を乗り切るための現金を生む存在となるのです。漁獲物の価値が上がれば、それだけ人もこのアラスカの地域社会に戻って来るでしょう」と、Gibbons氏は説明します。MSCとの長い歴史 1959年に州になって以来の、持続可能な管理手法の模範であるアラスカのサケ漁業は、その持続可能性を独立機関による認証によって世界の市場に示すべくMSCの取り組みに加わった最初の漁業の1つでした。2007年、この漁業は、ADF&Gのたゆまぬ主導と努力を通して、二度目となる5年間ごとのMSCの再認証取得を無事に終えています。MSC制度における先駆的漁業の1つとして、ADF&Gは主要なパートナーであるとともに、MSC制度の進歩と漁業の持続可能性を測るMSC規格の基準と指針の一貫性向上に重要な役割を果たしてきました。 Bedford氏によれば、「プリンスウィリアムズ海峡と東南アラスカにおける孵化場と天然サケとの関係に対し、MSCからより詳細な調査を進言されたことは、その優先順位を上げるという意味で当局にとって有益なことでした」とのことです。 しかしながら、ことは必ずしも容易な‘航海’だったわけではありません。Bedford氏は、「ADF&Gがどのように『MSC』制度発展に伴う苦難の一端を分かち合ってきたかを」指摘します。それは、Bedford氏が、漁業の複雑さや規模とともに、「MSCのクライアントとしては比較的長くこの制度に携わっていることによる、いくぶんか珍しい」ものであろうと認める経験です。ADF&GのMSCとの努力は、アラスカの水産物経済にとって利益をもたらしました。天然のアラスカサケ製品は、世界中で人気が高く、現在そのうちの900点近くがMSCラベル製品として30を超える国で食されています。

認証取得日 2000年9月3日、2007年11月再認証取得

魚種 サケ―ベニザケ(Oncorhynchus nerka)、シロザケ

(Oncorhynchus keta)、キングサーモン

(Oncorhynchus tshawytscha)、ギンザケ

(Oncorhynchus kisutch)、カラフトマス

(Oncorhynchus gorbuscha)漁法 網(流し刺網、定置刺網、巻き

網)、流し釣り(餌をつけた糸やルアーを船尾から流す)、捕魚車(バスケット付きの水車の車輪のようなもので、魚を捕らえ、タンクに移す)

国 アメリカ操業区域

アラスカ州に隣接するアメリカの領海

漁獲量 287,000トン

「ウォルマート―そしてMSCとの関係―についてのこのメッセージは、はるばるブリストル湾の船にまで遡り、持続可能性の真価と意識を、おおもとの生産者にまで運ぶものです」

Bristol Bay Regional Seafood Development Association、‘Buck’ Gibbons氏

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「ニュージーランドのホキ漁業は、ニュージーランド最大の漁業です。私たちはヨーロッパ、南北アメリカ、そしてアジアの顧客に、MSC認証を取得したホキを供給しています。ニュージーランドのホキ漁業のMSC認証取得は、私たちに持続可能な水産物の供給に長期的に取り組む必要と、その取り組みから生じる便益の両方を確約してくれました」

Sanford Ltd Sustainable Seafood、Managing Director、Eric Barratt氏

ⓒ Sealord Group Ltd

ⓒ Sealord Group Ltd

ⓒ Terry Hann

ニュージーランドのホキ漁業

 「ニュースのネタをお探しなら、ここにとてもいいのがありますよ」と、ニュージーランド、DeepWater グループ Ltdの最高経営責任者、George Clement氏は言います。『MSCの下で漁業が再生し、資源は今や最大持続可能漁獲量をはるかに凌ぐ』というのはどうです?」と、わざわざ見出しまで考えて。電話で話しているうちに、MFish(ニュージーランドの漁業省)がちょうど、東部と西部両方のホキ資源の年次評価を終えました。西部資源は、加入量―その年の個体群に加わる幼魚の数―が低下したことにより、近年は管理目標を下回っています。ホキ(ずんぐりとした白身魚で、この国の最も貴重な魚種の1つ)については、まったくその原因がわかりません。年によっては、生き延びる幼生や小形のホキが他の年より少ないのですが、過剰漁獲とは無関係なのです。 Clement氏は、「まるでジェットコースターです。ホキの加入量は年ごとの変動が激しく、50倍ということもあるんです。1991年から1994年の間は西部資源への加入量が平均を上回ったため、1997から2002年までの年間漁獲量は100,000~140,000トンとなりました。ところが、1995年から2001年にかけての加入量が減少したため、資源の規模は縮小しているのです。これを補うために、私たちはこの資源からの漁獲を29,000トンまで減らしました。この漁獲率の低減が、加入量の改善と相俟って、資源の規模を回復させたのです」と話します。

資源の再建 この戦略はうまく行っているようです。加入量の増加と漁獲量の低減により、資源は最大持続可能漁獲量(MSY)―資源量の豊富さやその回復能力を損なわずに得られる最大漁獲量―をまかなう規模を超えるところまで回復しました。 2007年、西部資源は必要なMSY数値を大幅に下回り、特に懸念されていました。2009年の資源評価では、どちらの資源も最大持続可能漁獲量をまかなえる規模を超えると見られています。 この成功の1つのカギは、MSCによる管理でした。2007年の再認証に付された条件には、資源の再建計画を実施し、回復が予測に及ばない場合は毎年改定する、というものがありました。この条件ではさらに、ニュージーランド政府による既存の回復計画に概説された管理目標を、より

詳細に記録することも求められました。 MSC認証は漁業管理の手順の文書化を促進させた、と言われます。Clement氏も、これがMSC認証の付随的なボーナスであることには賛成ですが、他にも得るところはあり、「MSC認証では、利害関係者を交えてこの漁業の環境リスク評価を行なうことも求められました。有益な手段だと思います」と語っています。

海鳥の死亡数の減少 再認証の取得には、漁船からのオファル

(魚屑)投棄の管理によって、海鳥の損傷や死亡の危険を減らすことを求める条件も付されました。Clement氏は、「今はすべてのホキトロール船が、合意の得られたオファル管理手順に則ったそれぞれの管理計画を持っています。目的はただひとつ、餌を漁る海鳥の損傷や死亡の危険を減らすことです」と話します。2001年以降、海鳥への影響は、様々な規制と自発的な措置によって、曳網100回につき8.73羽から1.32羽へと減少しています。

海底への影響を低減 Clement氏は、MSCは、すでに存在する意志を強化しシステム化する存在だと考えています。海底保護区域(BPA)の設置もその優れた例と言えます。MSCの認証と監視の制度により、トロール漁と海底生息域との関係が、より管理を考慮すべき分野であるとされました。2007年、ニュージーランド政府は、BPAの閉鎖を導入して、同国の排他的経済水域を30パーセントにわたりトロール漁とドレッジ漁の禁止区域とするとともに、広範な本来の典型的な底性生物生息域に対する法的な保護を施しました。これは水産物業界の提案で始められた取り組みです。これは、海洋保護区域の集積としては世界最大のもので、自然のままの深海における海底生物の多様性を維持することが主眼とされています。 「これがすべてホキのMSC認証取得だけによる結果だとは言えませんが、同じ考え方がそこにはあるのだと思います。私たちとMSCは同じことをしているのであり、長期的かつ持続可能な解決を、手を携えて目指しているのです。私たちは食べ物を生産していますが、同時に漁業資源と海洋生息域にも配慮しているのです」と、Clement氏は言います。

認証取得日 2001年3月、2007年10月再認証取得

魚種 ホキ(Macruronus novaezelandiae)

漁法 中層トロール漁、低層トロール漁

国 ニュージーランド操業区域

2つの個体群として別々に管理。サウスアイランドの西部と南部(西部資源)、およびサウスアイランドの東方、クック海峡とチャタムライズ(東部資源)。

漁獲量 90,000トン(2008/09年TAC)

「ニュージーランドでは、自分たちの持続可能な漁業管理に誇りを持っております。ですから、その操業法に対する独立機関による監査として、このホキ漁業のMSC再認証を歓迎したのです。これはいいニュースのネタですよ」

ニュージーランド、 DeepWater Group Ltd、最高経営責任者、George Clement氏

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「MSC認証は、よく管理された漁業への承認です。私はこれまで、適切な規制や管理がなされなかったために、実に多くの投資が無駄になるのを見てきました。私たちには継続的な供給が必要であり、持続可能性が必要なのです」

Penclawdd Shellfish Processing Ltd、会長、Colin MacDonald氏

写真提供 South Wales Sea Fisheries Committee

Photo provided courtesy of South Wales Sea Fisheries Committee

ベリー湾のザルガイ漁業

 MSC認証取得以前から、ベリー湾のザルガイ漁業には独自の歳月と伝統がありました。この漁業の歴史を通じて(ローマ時代から続いている)、熊手(手掘り)とふるいが唯一許された捕獲法となっています。干潮時の干潟からこの貝を掘り出した後、大きさの満たない稚貝をふるいにかけて落とし、埋め戻して繁殖させます。採集者は、伝統的には女性で、1日100~150kg―運べるだけの量―を獲っていましたが、1920年代に馬荷車の導入でその量が増え、ザルガイ資源が圧迫されるようになりました。

時代を先取りした管理方法 1965年、採集される貝の量を規制するため、ベリー湾ザルガイ条例が制定されました。免許が発行されたのはわずか50人前後(現在と同様)の採集者で、漁業の従事者とイギリスに3つの研究所を持つCEFAS(環境漁業養殖科学センター)により毎年5月と11月に行なわれる調査に基づいた、バイオマスの協定割り当て量を守ることがその目的です。調査では、ラファー入り江両岸の横断部に沿って、ザルガイの無作為の計数やサイズの分類などが行なわれます。獲らずに残したものは繁殖用資源であり、また、科学的重要地区

(SSSI)およびEUの特別保護地域(SPA)に指定されているこの地域に群がるミヤコドリその他の鳥類の餌となります。 この規則は、時代を先取りしたものでした。「EUの共通漁業政策は、インプット―漁船団の規模、漁獲努力量―の規制と、アウトプット、すなわち漁獲枠による漁獲量の規制を決定することで機能しています」と、イギリス各地で漁業を規制・管理する12の委員会の1つ、South Wales Sea Fisheries Committee(SWSFC)のディレクター、Phil Coates氏は説明します。

「ベリー湾でもまったく同じ規制を講じており、すべて規制は2つのうちのどちらかによるものです。しかし、干潟での規制のほうが海上の漁船を管理するより多少容易なのです!日曜日の採集を禁じたり、採集区域を指定したり、大きなザルガイあるいは小さなザルガイを獲るよう促すことができますから。さらに罰則規定も施行されており、3度違反すれば、アウトです」

MSCとともに先を走る こうした方策が取られていたにも関わ

らず、Coates氏は断固としてMSCの道を進つもりでした。「よく管理された漁業があるのに、それをアピールしない手はないでしょう。他の漁業も、同レベルの規制の実施や、規制側と業界の参画によって管理できるのではないかと思いました。先駆者になりたかったのです。利他的に聞こえるかも知れませんが、消費者のためだけではなく、それを獲る漁業者やそれを餌にする鳥のための管理、それこそが私たちの仕事なのです」と述べています。

政府の支援 8年後、世界中で39の漁業がMSCにより認証されていますが、これは、ベリー湾の漁業(認証を5番目と早々に取得し、しかも二枚貝では初めての例)が、まさに変化の先駆であったことを意味します。その成功を受けて、ウェールズ自治政府は、Environment Strategy for Wales

(ウェールズ の 環 境 戦 略)と、策 定 中 のWelsh Fisheries Strategy(ウェールズ漁業戦略)双方による、絶大な支援を発表しました。 「持続可能な漁業管理の指標として、私たちにはもっとMSC認証漁業が必要であると政府 は言っています。MSC認証は客観的な成功の指標、評価基準なのです」と、Coates氏は言います。政府の支援発表を受け、ウェールズ地方協議会(CCW)とWWFが、二度にわたってベリー湾のMSC漁業の認証費用を分担しました。 地元の業者も、この便益を認識しています。Leslie A Parsons & SonsのMDで、Penclawdd Shellfish Processing Ltdの会長、Colin MacDonald氏は、「誰もがこれを、規制指示に沿って前進するための模範として利用しています。ディー川のMSC認証取得への動きを見たいものです」と言います。ベリー湾は、管理状態とは無関係に、ザルガイの死亡数が増加したため一時的に閉鎖されていますが、氏はそのMSC認証が保持されることを望んでいます。「MSC製品に熱心なスーパーマーケットが増えており、私たちはサプライチェーンへのつながりを失いたくないのです。ザルガイが復活したらすぐに始動です」と述べています。

認証取得日 2001年4月20日、2007年2月再認証取得

魚種 ザルガイ(Cerastoderma edule)

漁法 熊手(手掘り)/ふるい国 イギリス操業区域

イギリス西部、サウスウェールズのラネリーとスウォンジーに近いベリー湾の入り江

漁獲量 960トン(2008年)

「彼ら(ウェールズ自治政府)は、私たちがしっかりやっていることを示すには、MSC認証漁業がもっと必要であると言っています。それは客観的な成功指標なのです。MSCは総合的に見ますからね」

South Wales Sea Fisheries Committee、ディレクター、Phil Coates氏

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「屋根のない小舟に1人だけ乗り、釣り針をつけた簡単な糸で、というのが最も基本的な漁の姿でしょう。MSCのラベルは、この魚が可能な限り環境に優しい漁法によって獲られたものだということを伝えてくれます。そして、サバの産地は数多くあれども、コーンウォールの手釣りサバは別格なのです」

Marks & Spencer、海洋技術者、Andrew Mallison氏

ⓒ John Spaul

ⓒ John Spaul

南西部の手釣りサバ漁業

 「餌は要りません」と、N a t h a n d e Rozarieux氏は教えてくれます。画家のパレットのような、手に持った木の板から、糸をほどき水中に垂らしながら。それには、鉛のおもりと長さ5cmのフック35本が付けられ、赤い羽とプラスチックの飾りがついています。私に糸を手渡してゆっくり船を押し進めながら氏は、「これがサバのかかったときの手応えです」と教えてくれます。私が感じ取れるのは、下に広がる暗い水の中からかすかなふるえが伝わってくることだけです。「彼らはプランクトンを餌にするか、イカナゴを追っかけてるんだよ」と、de Rozarieux氏は言います。氏が糸を巻き上げると、1匹ではなく、なんと8匹の魚が陽光に踊っています。

伝統的で環境負荷の低い漁業 環境への負荷が低いこの漁法は、正確かつ堅実で、1つの魚種だけを対象とし

(他魚種が釣られても生きているうちに投げ戻されます)、稚魚は海に返されます。

「私たちのこのやり方なら、過剰漁獲も資源量へのダメージもあり得ません」と、South West Handline Fishermen’s Association(SWHFA)の事務局長、David Muirhead氏は語ります。さらに、この150隻の丈夫な漁船団の漁獲枠は年間わずか1,750トンとされており、イギリス全体の1パーセントにも満たないのです。「スコットランドの大規模漁船団であるトロール漁業ならば、一晩でその半分を獲ってしまいます」と、Muirhead氏は言います。

注目度のアップ 環境への影響が少ないこの漁業は、市場への大きな影響力を有しています。「1年のうちの何れかの段階で、すべてのイギリスの大手小売企業がコーンウォールのMSC手釣りサバを販売します」と、de Rozarieux氏は言います―2001年の認証取得以来、この漁業についての報道無しに過ぎていく月はまずありませんでした。 「MSCということで、間違いなくこの漁業は注目を集めました」と、氏は言います。

「多くの報道関係者が取り上げたし、MSC全般に関する報道にも、手釣りサバ漁業がイギリス産の例として引き合いに出されていました。雑誌の付録ではよくレシピに使われています。メディアにとっては、私

たちがMSC取得漁業だということが、言ってみれば『釣り針』ですね」

価格プレミアム 消費者の意識が高まるにつれ、価格も上昇しています。「大形のサバはどんな等級よりも高値で売れます。最高でキロ当たり4ポンドと信じ難い価格になっています。それは1ストーン28ポンドと同じです。1970年代には1ストーン80ペンスでしたが、近年でも、大形のサバが1ストーン7ポンドなら大したものでした。MSC認証が1つの理由には違いありませんが、どこまでがそのお陰なのか計り知れないですね」と、Muirhead氏は言います。 De Rozarieux氏は、健康食の流行や、油性魚に含まれるオメガ3脂肪酸の効能が一般に知られるようになったことも理由ではないかと思っていますが、氏にとっては、魚の値段についての議論は重要ではありません。

既存市場を守る 「私たちにとって、MSCとは、すなわちこの市場を守るということです。多角店舗

(スーパーマーケットチェーン)の大半が、昨今はMSC認証を仕入れの意思決定に利用していますから、製品が店の棚に並ぶためにはどうしても認証取得が必要です。MSCはエコラベルの間では最高の基準と見なされています。大事なことは、将来多角店と取り引きしたければ、MSCは必須である、ということです」と、氏は言います。イギリスの大手小売り企業のすべてが、MSC認証を持続可能な水産物の調達戦略の中心に据えているのです。 コーンウォールは、MSC・CoC制度に加わっている取引業者に恵まれています。つまり、スーパーで売られるサバにはすべて青いラベルが表示されるということです。de Rozarieux氏は、「ここには業者が多数いて、Tesco、Marks & Spencer、Sainsbury’s、Morrisonsのために買い付けを行なっています」と言っています。競りが開かれるニューリンには、スイスの小売り企業、Migrosのバイヤーも顔を出します。「質のよいものには最高額を出す彼らも、やはりMSCを求めているのです」と、de Rozarieux氏は言います。

認証取得日 2001年8月29日、2007年2月再認証取得

魚種 タイセイヨウマサバ(Scomber scombrus)

漁法 手釣り国 イギリス操業区域

イングランド南西部、スタートポイントとハートランドポイント間の、コーンウォール州とデボン州の沿岸水域

漁獲量 1,750トン

「MSCは最高の基準と見なされています。将来、大手小売企業と取引したいのなら、MSCは必須です」

Seafood Cornwall、漁師/プロジェクト責任者、Nathan de Rozarieux氏

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ⓒ Caroline Woffenden

ⓒ Caroline Woffenden

「トリドン湖のアカザエビ漁業に携わる漁師の皆さんは、私たちが一緒に取り組んだことを光栄と思える方たちの中でも、極めて責任感が強く、進歩的な考えをお持ちです。スコットランド初のMSC認証申請および取得は、その管理方法が有効で価値あるものであることに対する、確実で客観的な保証であり、大いに声望を高めるものと言えます」

スコットランド自然遺産協会、policy and advice manager、David Donnan博士

トリドン湖のヨーロッパアカザエビ漁業

 「いえいえ、想像されるような、舟を漕いで行ってかごを引き上げる、というような素敵なものじゃありませんよ!」Torridon Nephrops管理グループのKaren Starr氏に、アカザエビ漁業のイメージを話したところ、彼女はこう言いました。「船は10隻あって、うち4隻は現代的な双胴船、2隻は単胴船で、すべて船長10m未満です。びく

(もしくは、ロブスター籠に似た餌入りので、甲殻類が入ると簡単には出られない)は1度に115個、一方の端に目印のブイがついた縄に取りつけて設置します」 1983年まで、軟サンゴ、シーファーン

(サンゴの一種)、シ―ペン(ウミエラ)が生育するこれらの沿岸水域では、可動式漁具―つまりトロール船―の使用を制限する3マイル海域がありました。1984年にこの制限が解かれると、かご漁師たちは、トロール船が自分たちのかごを引きずって持って行ってしまうことに気付きました。それは「大きな経済的損失」でした。漁師たちは、自分たちの温和な漁法が、他の、より産業的なやり方に損なわれていると強く感じました。 2001年、スコットランド行政は「閉鎖区」を指定し、かごなどの固定漁具だけが使用を許される保護区域を設けました。漁師たちはこれを、自らの漁業を持続可能に管理できることを証明する好機ととらえ、それを世に示す客観的、科学的な方法としてMSC認証を選んだのです。

漁業の自主規制 認証取得条件の1つが、自主的な漁業規制を監督することのできる管理グループを組織することでした。規制の内容は、年に一定の日数だけ操業を認める、使用するかごの数を制限する、「抱卵」雌(すなわち卵をもったもの)を海に戻す、かごに脱出パネルを取り付け、未成熟のヨーロッパアカザエビがかからないようにする、といったものです。

科学的関心と裏づけ 認証取得後、この漁業はいうなれば生きた研究所となり、スコットランド自然遺産協会、グラスゴー大学、アバディーンにある漁業リサーチサービスその他による調査が行なわれました。「その結果、環境への私たちの影響はごく軽微であることが示されたのです。混獲は極めて少なく、海中で紛失した漁具が海底で魚を獲り続

けるという『幽霊漁業』についてもほんのわずかです」と、Starr氏は説明します。

行政への影響力 この漁業の唯一の懸念は、グループ以外の、またはその規則に従わないかご漁船が、この区域に出没することでした。皮肉にも、その閉鎖区域の設置が大きく報じられたことによって、漁をするのに魅力的な場所になってしまったのです。2008年、この漁業の再認証に際して、認証機関であるMoody Marineも同様の懸念を表明し、規制の有効な実施が確実になされることを認証の条件として課しています。それに応じ、この漁業は、問題への対処法の策定を求めてスコットランド政府に働きかけました。 「これが今の私たちの状況です」と、Starr氏は、政府の介入がすべてMSCへの参画の直接的結果として得られるものであることを認めます。当初はしかし、この計画は現状を維持するためのものでした。「認証は閉鎖区域を保持するために取得したもので、状況をそのままに保つのに役立っています。この取り組みに参加したのは、私たちの持続可能性を証明、維持し、それが私たちにとって経済的であり続けることで、地元民の生活を守るためでした」と、氏は言います。

社会経済的便益 経済面では、トリドン湖の生きたアカザエビは、トロール船の網で捕獲された同一種に比べ、3倍から4倍の値で売れると、Starr氏は説明します。漁獲量の95パーセントはスペイン向けで、そこではMSC認証制度がようやく関心を集めるようになったばかりであるため、MSCラベルはまだ表示されていません。 地元社会における便益は計り知れません。認証取得以降、かご漁は魅力的な生活様式であると見られており、グループに所属する漁師の数は、変動がないか、わずかに増えており、これは明らかに社会的便益と言えます。「それが私たちの狙いで、現在、この漁業に従事している男たちからその息子へと確実に伝えられるようにしたかったのです。私たちは遠い先を見越しているのです」と、Starr氏は言います。

認証取得日 2003年1月16日、2008年7月再認証取得

魚種 ヨーロッパアカザエビ、ノルウェーロブスター

(Nephrops norvegicus)漁法 餌入りびく、紐付きかご漁業国 イギリス操業区域

スコットランド北西部、トリドン湖およびラッセイ島・内入江の水域

漁獲量 120トン

「私たちはスコットランド政府やその他の関係者に、『ほら、持続可能な漁業をやっているでしょう』と言うことができます。それがMSC認証取得漁業であることの利点です」

Torridon Nephrops管理グループ、事務局長、Karen Starr氏

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「この漁業は、極めて混獲の影響を受けやすい、繁殖中のアホウドリやウミツバメの、広大な集団営巣地の中で操業していますので、海鳥の死亡数を低水準に引き下げたことは大きな成果と言えます。これは、この漁業の従事者と管理者の功績です。そしてMSC認証は、この成功にならう者を生み出す上で、欠くことのできない励みとなるのです」

バードライフ 世界海鳥プログラム、コーディネーター、Ben Sullivan博士

ⓒ David Agnew, MRAG Ltd

ⓒ David Agnew, MRAG Ltd

サウスジョージアのメロ延縄漁業

 「サウスジョージアには人口というほどのものはありません。この島には少数の科学者チームだけが住んでいます」と、サウスジョージアおよび南サンドイッチ諸島政府の漁業ディレクターである、Harriet Hall氏は言います。そのため、この遠隔のイギリス海外領土には、政府プロジェクトのための収入をもたらす産業も所得税収もありません。海洋保護も例外ではありません。「メロ漁業は私たちの主要収入源であり、そこから得られるお金が、この環境を守る上で重要なのです」と、Hall氏は付け加えます。 メロを収獲する10隻の遠洋延縄漁船に課されるライセンス料は、漁業の調査と保護に再投資され、この貴重な資源の保存に役立てられています。去年、この領土の総収入は4,900万ポンド(1994年の670,000ポンドから増加)で、その80から90パーセントが漁業によるものでした。Hall氏は、「ほぼ同じ金額」が調査と取り締まりに使われていると言います。 「ここで大切なのは、MSCの認証を受けたこの漁業がなければ、研究も監視も管理もまかなうことができず、環境に悲惨な事態がもたらされるということです」と、Hall氏は警告します。 氏は、指しているのは、南洋の一部におけるメロの無規制漁業や違法漁業という、比較的広範囲に及ぶよく知られた問題のことです。そうした行為は、この魚種自体を激減させただけでなく、海鳥の混獲を増長しました。唯一のMSC認証メロ漁業として、この漁業はどこが違うのでしょう? 「漁獲枠はCCAMLR(南極海洋生物資源保存委員会)によって定められ、そこには多くの科学的知見が投入されます。私たちには専任の巡視船、訓練を受けた漁業監督官、極めて有効な法令などがありますので、不適切な操業を行なう者がいれば然るべき行動に出ることができます」と、Hall氏は言います。鳥の混獲を低減するため、漁船の操業は冬季(繁殖期ではないため摂食への圧迫が少ない)にのみ、また飛んでいる鳥の少ない夜間にのみ行なわれます。「餌は早く沈むよう解凍しなければならず、また釣り縄にオモリをつけることによって同じ効果を得る方法もあります」と、Hall氏は言います。 結果、MSC審査報告書によれば、ライセンス保有漁業による海鳥の混獲はとるに足らない程度にまで減りました。2001

~2002年度の漁期に死亡が報告された鳥は、わずか6羽でした。

禁漁区の設置 以上はすべて認証取得以前のことですが、果たして認証は何らかの改善をもたらしたのでしょうか? Hall氏は、MSC認証報告の条件10、すなわち、この漁業に深海の珊瑚礁域などの「複雑な海底生息域への」直接調査を求めた条項、を引用します。延縄は、海底生息域については比較的影響の少ない漁法と見なされているものの、損傷を及ぼす可能性はあります。「そのような区域があれば、保護の方策を検討し、結果を文書化すべきである」と、MSCの報告書は提案しています。 「私たちは検討と文書化だけでは済ませませんでした」と、Hall氏は強調します。

「特に3つの深海珊瑚礁域の保護が必要とされていたことから、漁船の立ち入りを完全に禁じました。私たちは条件を上回る対策を講じたわけです」

トレーサビリティが最大の環境的利益をもたらす しかし、主たる環境面の利益は、CoC認証―MSCロゴを表示した製品はすべて追跡可能であるという保証―で求められる審査によってもたらされました。「私たちは今、フォークランド諸島ではすべての漁獲について、私たちの管理のもとに1箱ずつ計量することを義務付けています。MSC制度に携わる全漁船が、船上で処理するごとに1箱残らず漁獲物へのバーコード表示を行い、それを私たちが審査、点検するのです。私たちは、わずか数キログラムという誤差で年間の正確な漁獲高を把握しており、それが資源量を測るのに役立ってきました。漁獲枠が正確に守られていることはわかっています」と、Hall氏は言います。

保全のための歳入を増やす 認証取得の結果、漁業会社が新規の顧客(アメリカのWhole Foods Marketなど)を獲得する一方、漁業の保護に不可欠な歳入も増加しました。「私たちの立場から言うと漁業ライセンスに価値がもたらされ、私たちはその価値を維持することができている、ということになります。それができたのはMSC認証のおかげだと、私は思っています。」と、Hall氏は言います。

認証取得日 2004年3月23日、2009年9月11日再認証取得

魚種 サウスジョージア・マジェランアイナメ(メロ)

(Dissostichus eleginoides)漁法 底延縄漁国 サウスジョージアおよびサン

ドイッチ諸島操業区域

サウスジョージア島―南大西洋上、フォークランド諸島の南東約1,300km―、西方のシャグロックスまで

漁獲量 3,500トン

「サウスジョージアの名を高めたことが、MSC制度参加による1つの収穫でした。この認証漁業は政府歳入の80から90パーセントを占めています。そしてその大半が調査と漁業の保護に費やされるのです。これがなかったら、今どうなっていたか誰にもわかりません」

サウスジョージア政府、漁業ディレクター、Harriet Hall氏

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「MSC認証は、私たちが協力するための機会と動機を与えてくれました。それまでは、業界は私たちに懐疑的でしたが、MSC認証取得という可能性が示されるや否や、それが共通の目標となり、以前にはなかった対話が始まったのです」

世界自然保護基金(WWF)、持続可能漁業プログラムマネージャー、Samantha Petersen博士

ⓒ WWF

ⓒ John White / MSC

南アフリカのヘイクトロール漁業

 「MSC認証の長所の1つは、それが人々の『意識の向上』を促すこと(conscien-tises)です」と言うのは、南アフリカ遠洋トロール漁業協会(SADSTIA)の事務局長、Roy Bross氏です。最初、私は氏が`con-scientise`ということばを創作したのかと思いましたが、実はブラジルの教育学者、Paulo Freire氏の造語で、一連の異なった段階を通して、意識を向上すること、と定義しています。「MSCは、そのような意識向上を漁業への生態系アプローチという形で私たちに考えさせ、それを実行する機会を与えてくれるのです」と、Bross氏は説明します。「私たちはそうしたことを実行してきたのです」

海洋保護区の設置 底引き漁業の影響を受けやすい生息域を特定することが、この漁業に求められたMSC認証の条件の一つでしたが、これへの対応として、この漁業は、海洋保護区

(MPA)の可能性について独立の審査を開始しました。MPAの設定場所を決める4つのプロジェクトが進行中です。同時に、新たな区域において環境への影響が適正に調査されない限り、トロール漁は海底が平らな泥地の所定の漁場でしか許されません。「それが認証による顕著な利益の1つです。MSCはMPAの重要性に私たちの注意を向け、その結果、私たちは調査に多くの費用を費やすことになったのです」と、Bross氏は同意しています。

海鳥の混獲を激減させる この流れで、この漁業は2004年10月、底引き綱に捕らえられる海鳥の数について調査を委託しました。これは最初にフォークランド諸島で確認された問題です。認証取得の条件として、この漁業には

「1年以内に海鳥の死亡数を調査する」ことが求められ、「被害が大きいと分かった場合には、翌年中にその死亡数を軽減するよう求められました」と、調査に加わった3つの組織の1つ、WWFのSamantha Petersen博士は言います。 Petersen博士は、平均で年間18,000羽が被害に合っていることを突き止めましたが、博士によると、「この漁業は極めて速やかに対応し」、トリライン(通常延縄漁船の後部に立て、鳥を驚かして餌に近寄らないようにする吹き流し)や、船から投棄される魚の内臓が鳥を引き寄せる「無

料の食事」となることから、網の設置中は魚の処理を制限する、などの対策を導入しました。その結果、海鳥の死亡数は年間わずか200羽にまで減っています。 当初は自主的なものでしたが、その後トリラインは義務化されました。「そういうことが起こるわけです」と、Bross氏は言います。「MSCがきっかけとなって、私たちは対策を講じることになります。すると政府は迷わずそれを法制化し、誰もが確実にそうしなければならないようにするでしょう。結局は意識の向上という話に戻るのです」。

キングクリップの資源再生計画 2004年は、キングクリップの資源状態にも懸念がありました。この魚は延縄漁の対象となり得るものですが、偶発的に底引き網に捕獲されることがあります。そこで、より明確な指導が必要でした。認証取得の条件として、この漁業は混獲対策とともに、キングクリップについては資源再生計画も設定しなければなりませんでした。その結果、キングクリップの予防的な漁獲可能量が設けられ、産卵場は適切な時期に閉鎖され、「他の魚種についても制限がつけられました。以前は、混獲対策などありませんでしたが、今では非常に明確な対策があり、年に一度再検討されています」と、Bross氏は言います。それは「治療法ではなく予防策」で、なぜなら、「慣習的に混獲や望ましくない漁獲はほぼ皆無だったのですから」と氏は強調します。

思考を変える 注目すべきは、MSC認証によって漁業管理の詳細がどう変わるかではなく、それによって思考がどのように改まるかということである、とBross氏は信じています。

「そういう変化から、多くの便益が生まれ続けるのです」と氏は付け加えます。「直接の便益とは思われないかも知れませんが、私はそれこそがMSC認証のより根本的な利点の1つだと信じています。それはこの仕事に携わるあらゆる人の考えを変えるのです。これこそが強調されるべき点です」

認証取得日 2004年4月16日魚種 ヘイク(Merluccius capen-

sis、Merluccius paradoxus)漁法 底引き網国 南アフリカ操業区域

南東大西洋の大陸棚、ナミビア国境の南方200mと1,000mの間(遠洋漁業)、および南アフリカ南岸の浅海――主にアルガス浅瀬(近海漁業)

漁獲量 120,000トン

「民間セクターの企業体としての私たちが、鳥の死亡や混獲に対する手段を講じる理由はMSCなのです。政府も躊躇することなくそれを法制化するでしょう。そうなれば皆『法律なら従うしかない』と言うでしょうが、知っている人にはそれがMSCから端を発したものであることがわかるはずです」

南アフリカ遠洋漁業トロール協会、事務局長、Roy Bross氏

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「バハのロブスター漁業は、MSC認証が既によく管理されている漁業を改善するだけでなく、漁業に生計を依存している住民の自主性の確立にもつながることを明らかにしたのです」

WWFアメリカ・Sustainable Seafood Initiative、Deputy Director、Meredith Lopuch氏

(WWFは、MSC審査プロセスを通してこの漁業を支援した2つのNGOのうちの1つです)

メキシコ・バハカリフォルニアのロブスター漁業

 この小さな、共同体型の漁業に支えられている10の村落では、MSC認証によって可能になったことが2つあります。「これらの集落は以前は政府企業から電力の供給を受けていませんでした」と、FEDECOOP

(Regional Federation of Fishing Industry Cooperatives)の上席生物学者、Mario Ramade氏は言います。「それぞれが自家発電でまかなっていたのですが、認証取得後は、連邦政府が私たちに関心を払うようになり、電力供給のためのプログラムを開始しました。これもMSC認証がもたらしたものです」

地域社会の自立拡大 2,000万ドルの電力用交付金に加え、政府は、漁業インフラ、集落への道路、飲料水に関しても支援しました。国際的注目とMSC認証漁業であるという栄誉に政府が刺激されたものとRamade氏は信じています。氏は、社会的、政治的便益は、いかなる商業的利益をもはるかに凌ぐ、と考えて い ま す。「メ キ シ コ の 漁 業 当 局、CONAPESCAは、社会事業に融資し、MSC認証のために全国委員会への私たちの出席を認めました。これは形にはならない便益です」と、氏は言います。

インパクトの小さい漁業 世界自然保護基金(WWF)アメリカと、メキシコ の N P O、C o m u n i d a d y Biodiersidad(COBI)からの支援により達成されたこの漁業の認証取得は、政府と漁師と自然保護団体による協力関係により成し得た成功の模範と言えるものです。DEDECOOPに所属する9つの組合のそれぞれが、政府の認可する長期の特権

(あるいは免許)のもとに、排他的区域で漁業を行います。通常は、それぞれの組合に、データ収集の補助や科学的助言を行なう生物学者または技術者がいます。資源に懸念があれば区域が閉鎖されることもあります。また、ロブスターには最小漁獲可能サイズが法律で定められており、卵を持った雌の捕獲は禁止されていて、さらに、決まったタイプの漁具のみが許可されています。すべてのトラップは、未成熟のロブスターがかからないよう、脱け出せる隙間を設けて仕掛けなければなければなりません。 こうした措置は、漁船の様式(船外機のついた8mの小型ボート)と船団の規模(1つの組合につき約20隻)と同様に、この漁業によるインパクトが小さいことを示すも

のでしたが、それを証明する調査はほとんど行なわれていませんでした。認証条件の1つが、この漁業は2年以内に「生態系への影響について、少なくとも1つの調査プログラムを始めなければならない」というものでした。1年のうちに、カリフォルニア州スタンフォード大学のFio renza Micheli博士率いるバハ生物複雑性プロジェクトの一環である、スタンフォード・CIBNOR共同プロジェクトが実施されました。当時スタンフォードの博士課程学生であったGeoff Shester氏による論文も、その一部です。氏と仲間は、混獲を監視したり、海で消失した漁具を模したトラップを10日間水中に放置して、ロブスターが捕らわれたままになっている(いわゆる

「幽霊漁業」)かを確認したり、半分の時間で腐食し、幽霊漁業が発生する期間を最小限にするバイオディグレーダブル(生物分解性)トラップ(2007年より法制化)の実験を行なったり、スキューバダイビングによりトラップを直接海綿動物やサンゴの上に落とし、生息域への影響をビデオカメラに記録しました。 この調査によって、漁師の予想は立証されました。生態系へのトラップの影響は極めて小さく、幽霊漁業の程度も、ロブスターの数に深刻な影響もたらすようなものではなかったのです。「この調査結果は、バハカリフォルニアのロブスター漁業は生態系への影響が小さく、MSC認証の継続取得に値する優れた持続可能漁業であることを裏づけています」と、Shester氏は2008年の論文に記しています。

市場の維持 今年、この漁業が再審査(MSC認証継続には5年ごとに必要)を受けたときに、この予測が試されることになります。では、この漁業はなぜ再審査に入ることを選んだのでしょう?「現在、私たちのロブスターの95パーセントはMSCラベルなしでアジア向けに売られていますが、市場もより多くのMSC製品を求めるようになってくると思われます。いずれあの青いエコラベルは、食品の安全性におけるHACCPのように必須となり、それなしでは取り残されてしまうことになるでしょう。この共同体には他に代替となる資源がありません。私たちにとっては、漁業、特にロブスター漁がすべてなのです。それがMSC認証を継続する理由なのです」と、Ramade氏は説明します。

認証取得日 2004年4月27日、2009年5月再審査開始

魚種 ロブスター(Panulirus interruptus)

漁法 針金餌かご国 メキシコ操業区域

バハカリフォルニア・スル州の太平洋岸、セドロス島とプンタアブレオホスの間

漁獲量 1,300トン

「私たちの当初の目的は、MSC認証によって市場プレミアムを獲得することでしたが、実際に私たちが得た利益は、無形のものでした。それは、公正でより良い地元地域社会のために、当局に働きかけることができるようになったということです」

FEDECOOP所属 上席生物学者、Mario Ramade氏

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「MSCラベルは私たちに、アラスカのスケソウダラについて消費者に伝える自信を与えてくれました。単に『それがこの魚の名前です』と言うのではなく、『この名前が、消費者としてのあなたに意味するところ…それは、この魚が持続可能な漁業で獲られたものだということなのです』と」

Young’s Seafoodの部門ディレクター、Mark Ventress氏

ⓒ At-sea Processors Association

ⓒ At-sea Processors Association

ベーリング海/アリューシャン列島とアラスカ湾のスケソウダラ漁業

 「イギリスの市場はしばらくの間スケソウダラを受け入れませんでした。なぜなら、それはなじみのあるマダラではなかったからです」と語るのは、At-Sea Processors Association(APA)の広報部長、Jim Gilmore氏です。APAのメンバーは、大規模で象徴的な、商業的価値の高いこの漁業を凍てついた海で操業しています。「しかし次に知ったことは、Young’sのMSC認証スケソウダラ製品が品切れになりそうだということでした。売れているんです!」と、氏は言います。

「新たな」魚の新たな市場 最近では、イギリスの買物客も、生協のアラスカスケソウダラで作ったフィッシュコロッケやYoung’s Chip Shopのジャンボ・スペシャル(「カリカリでサクサクの衣で包んだ2切れの特大天然アラスカスケソウダラのフィレ」)をアメリカの消費者同様に楽しむようになりました。アメリカではスケソウダラが何年も前からあらゆる商品のラベルに謳われており、それは、北米全土で売られているBake ‘N BroilフィッシュフィレやBatter ‘N Brewポーションから、Healtybake BitesやTridentのUltimate Fish Stickにまで至ります。2005年以前のイギリスでは、タラとハドック好みの客にはわからぬよう、スケソウダラは単に「白身魚」としか表示されていなかったこととは対象的です。

持続可能な漁業管理 実は、スケソウダラは何十年もの間、持続可能な方法で漁獲されてきました。漁業管理者たちは、連邦、州、科学者からなる委員会の助言のもとに、予防的な手段を取り、生物学的許容水準より低い年間漁獲許容量を設けています。不確実性があれば、管理者はより慎重な制限を設定します。すべての漁船に最低1名、連邦の漁業監視員が任命されており、漁獲量を監視、記録し、科学的調査を行ないます。監視員は、陸上の全スケソウダラ加工施設にも配置されています。 混獲と投棄は少なく、網にかかる99パーセントはスケソウダラが占めます。しかもすべての部位がさまざまな製品に利用されています。トドの繁殖地や餌場を守るため、この漁業は漁場全域にわたって大規模な禁漁区を設置しました。また、スケソウダラ漁獲枠の一部をアラスカ州の離村地域に割り当てる制度も実施されています。

 しかし、他のMSC認証漁業と同様、スケソウダラへの認証にはいくつかの条件が付されており、この漁業が旧来どおりに継続されるよう、この重要な海洋生態系の資源と環境を守るための科学調査や措置の拡充が、確実になされることが求められています。

市場への参入とその保持 「この取り組みに参加したのは、私たちがMSC基準を満たしていると思ったからですが、MSCが、その第三者による検証を通してもたらしてくれるのは、さらなる保証の付与と、よく管理された漁業であるという水産業界における認知の向上です」と、Gilmore氏は強調します。 しかし、認知度の急激な高まりは、この魚そのものによるものでした。日本は伝統的にスケソウダラの大手バイヤーですが

(すり身、および魚卵製品に使用)、ヨーロッパとアメリカは成長市場です。アメリカでは、たとえば、マクドナルドがほぼ全面的にスケソウダラをフィッシュバーガーに利用しています。「マクドナルドは、宣伝こそしていないものの、アラスカのスケソウダラがMSC認証魚であることを評価しています。ヨーロッパとイギリスにおいては、MSC制度に参加していることが、市場への参入とその保持という点で、私たちに便益をもたらしていることは疑いようもありません。」 確かな事実や数値ほど捉え難いものですが、それでもイギリスでは、スケソウダラ全体(アラスカのスケソウダラを含む)の販売重量が、TNSの市場調査によると、過去2年間で11パーセントから23パーセントへと倍増しています。この傾向は、MSC認証のスケソウダラを漁獲する者だけに利益をもたらし得るものです。 「スケソウダラの人気の高まりがすべてMSCのおかげだとは思いませんが、大きな要因であることは事実です。私たちは、ただの『白身魚』ではなく、堂々とスケソウダラと表示してもらえるべく力を合わせてきました。Young’sのように早くからMSCについての取り組んできたところでは、MSCラベルによって、表示の切り替えをより進めていきました。MSCは1つの役割を果たしたわけです」と、Genu ine Alaska スケソウダラ生産者(GAPP)のプログラムディレクター、Pat Shanahan氏は言います。 2009年1月、ベーリング海、アリューシャン列島のスケソウダラ漁業とアラスカ湾のスケソウダラ漁業は、再審査を受けることを発表しました。認証漁業であり続けるためには、5年ごとに必要となる手続きです。「メンバーは皆、『よし、おもいきってやってみよう。自分たち助けになるんだから―特にヨーロッパでは』と言いました。それが彼らの選択だったのです。私は、認証のおかげで市場が生まれ、それが維持され、保証が得られたものと確信しています」と、Gilmore氏は述べています。

認証取得日 2005年2月14日、2005年4月、2009年1月29日再認証取得

魚種 スケソウダラ(Theragra chalcogramma)

漁法 遠洋トロール国 アメリカ操業区域

アリューシャン列島北方のベーリング海東部、およびアリューシャン列島南方ならびに東方のアラスカ湾(太平洋)

漁獲量 815,000トン、19,000トン、50,000トン(2009年)

「私たちのメンバー企業が、MSC認証取得によって顧客を維持し、またヨーロッパやイギリスの顧客層を広げているのは事実です。疑う余地なんてありません―便益があるのです」

At-Sea Processors Association、広報部長、Jim Gilmore氏

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「ヘイスティングスのシタビラメ漁業との仕事を通じて、これが進むべき唯一の道なのだということがよりわかりました。FishesがMSC認証を受けた持続可能な漁業とのみ取引をするのはそのためです。こうすることや、また消費者に啓発メッセージを伝えることで、私たちはこの海の保全に対する自らの責任を果たしているのです」

Fishes Wholesale BV、経営ディレクター、Bart van Olphen氏

ⓒ MSC

ⓒ MSC

ヘイスティングスのシタビラメ/ニシン/サバ漁業

 「風が南西から吹いたら、ブルドーザーで砂利浜から舟を押し出します」と、ヘイスティングス漁師保護協会(HFPS)のPaul Joy氏は、イギリスで唯一浜辺から出漁する船団の「操業様式」を説明します。

「天候が悪いと、まるでボンダイビーチ(オーストラリア)ですよ。まあ、それよりずっと寒いですけど。船はもうサーフィン状態ですね。船が戻って来たら、次の波に粉々にされる前に、フックをかけて海からウィンチで引き上げるんです」

環境面で最良の漁法 すべて舟長10m未満の24隻の漁船は、対象とする魚種に応じて異なる種類の漁具を使用します。シタビラメの場合は、両端で固定された刺網が夜通し設置され

(「ヒラメは暗闇を泳ぐので」とJoy氏)、翌日漁獲物が取り出されます。100mmというメッシュサイズは、法規定よりさらに10mm広く、その分捕獲される稚魚が少ないわけです。自主的な最良操業法の一例と言えます。網の底には「ごく軽量の沈子」が取り付けられており、「海底の動植物をまったくと言っていいほど傷つけません」であるとJoy氏は説明します。そうしなければ、ヘイスティングス沖の場合、軟サンゴ、ヒトデ、ウニ、カニ、それにネズッポやコガレイなどの小魚に影響がでることになります。 サバ漁とニシン漁に使用される流し網も、海底を時折擦る程度の錘つき底縄により、損傷はほとんど与えません。「うちは先祖代々こうして魚を獲ってきました」と、ノルマン征服以前にまで家系を遡ることができるというJoy氏は言います。「私たちの漁法は昔から持続可能なものでしたが、環境に優しい漁業として自分達を表現したかったのです。MSC認証がその方法だったのです」 審査を通過するための改善は、予想通りほとんど不要でした。それゆえ、逆にこの取り組みへの参加がもたらした生態学的な改善を提示するのは難しいのです。当初は、経済的利益もやはり見られませんでした。「2年の間、MSCによる儲けは一銭もありませんでした。私たちの魚も、他の皆と同じ値段でしたね」と、Joy氏は言います。 その後、2007年に、漁師たちは、自らの漁獲物をMSC認証水産物として販売して市場での価格優位性を獲得すべく、非営

利のCommunity Interest Company(CIC)を立ち上げました。支払われたプレミアムがいずれも、加工業者や取引業者にではなく、漁業者自身に還元されるようにしたのです。

市場利益 「このやり方はうまく行きました」と、Joy氏は言います。「今はプレミアムが入って来ますから。私たちのシタビラメはオランダに販売されているのですが、あそこはMSCへの需要が極めて大きいのです。あちらでのプレミアムは10パーセントで、それは私たちが主張してきた値です」とのこと。フランスでは、巨大なCasinoグループが、特定の店舗で販売されるMSC認証魚について、さらに15パーセントまでのプレミアムを氏に提示してきました。「MSCは輸出者としての我々の存在を押し上げたと言えます。MSCなしでは、この達成はあり得ませんでした」と、Joy氏は断言します。

発言力の向上 もう少し目立たないところでも、やはりMSC認証による便益がありました。「発言力の向上という意味で、私たちをたくましくしてくれるのです。MSCは、有力な身分証として私たちをバックアップしてくれます。陳述の道具とでも言いますか。持続可能な漁業であるとの証明があれば、例えば、漁獲枠のより公平な割り当てをより強く、有効に訴えることができるわけです」と、Joy氏は主張します。 何よりも、ヘイスティングスの漁業は、漁業の将来を保証する「MSCであることが誇り」なのです。Joy氏は、「現在、資源はごく健全で、まさしく私たちが望む状態なのです。私は、100年後にも確実に船団があるようにしたいのです。それぞれの船には維持すべき乗組員がいて、それが水産物市場も持続させ、それによって雇用が創出されます。漁業を中心にあらゆる社会的生産基盤が築かれているのです」

認証取得日 2005年9月16日魚種 シタビラメ(Sole solea)、

ニシン(Clupea harengus)、サバ(Scomber scombrus)

漁法 底引きトロール、刺し網、三枚網、流し網

国 イギリス操業区域

イギリス海峡東部のビーチーヘッドとダンジネスの間、および6マイル海域境界までの沖合い

漁獲量 シタビラメ・72トン、ニシン/サバ・10トン

「自分が金持ちになるために海からすべてを獲り尽くし、それで息子が漁に出ても何ひとつ獲れなくなるのはごめんです。漁業資源、海底の損傷、混獲……MSCは全体を見ています」

ヘイスティングス漁師保護協会(HFPS)、会長、Paul Joy氏

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「釣り糸と釣り針を使うのが、私たちの好むインパクトの小さい漁法の1つであり、MSCに持続可能と認証された漁法によるアラスカのマダラを提供できることは、うれしい限りです。天然魚漁獲漁業の認証における世界的リーダーとしてのMSCは、私たちの水産物調達方針の基本要素となっています」

Sainsbury’s PLC、養殖兼漁業マネージャー、Ally Dingwall氏

写真提供 Bering Select Seafoods 社

Photo provided courtesy of Bering Select Seafoods Company

ベーリング海とアリューシャン列島のマダラ漁業―冷凍延縄

 「2005年当時、北海のマダラ、バルト海のマダラ、それにバレンツ海のマダラにまでも懸念が広がっていました」と、Bering Select Seafoods 社の経営ディレクターの、Paul Gilliland氏は語ります。「皆、『もはやどのマダラを選べば責任ある購買行動なのかわからない。だからもうマダラを買うのはやめよう』と言っていたものです。当時は、アラスカのマダラの持続可能性についてはあまり知られていませんでした。私たちは、科学的根拠に基づいたMSC制度によって、消費者が確信を持ってこの製品を買えるよう、この漁業をMSCに導いたのです」 製品は、MSC認証を取得したアラスカのマダラで、全長35mから60mの船で延縄によって漁獲された後、海上で冷凍されます。歴史的に重要なこの魚は、塩漬けにされるか、フィッシュフライ用やフィッシュコロッケ、フィッシュフィンガー(パン粉をまぶした棒状のフィッシュフライ)などに加工されます。他のアラスカ漁業と同様、この漁業も、北太平洋漁業管理協議会と、監視と規制を行うNational Marine Fisheries Serviceによって、良好な管理が行われてきました。アラスカのマダラ漁業は「見事な結果を出した」と、2006年にMSCの認証機関が述べており、資源は、アラスカのマダラ資源の豊富さと生態系の維持が保証される水準に保たれています。

環境への影響を最小限にする 延縄漁業では、幹縄が海底沿ってまっすぐに設置されます。餌は自動的にドラム上で付けられます。このドラムはまた、延縄が設置されるにつれて幹縄に張力を与える役目もします。この張りが、縄の揺れとそれに伴う海床への損傷を最小限に抑えるのです。数時間後、縄は収穫船により横に引きずるのではなく上方に吊り上げられます。「この漁業に携わる誰に聞いたって、延縄は海底を傷つけないといいますよ」と、Gilliland氏は言います。 実は、認証機関が特別な条件を出すに足る問題が3つだけありました。2つは環境に関するもので、もう1つは管理方法に関するものです。この漁業がMSC認証を維持するには、これらの条件に対処しなければなりません。1つめはフルマカモメの混獲に関わるものでした。この鳥は、他の種と同様、釣り針に付けられた餌をめがけ

て海に飛び込み、からまってしまうことがあります。もう1つは、使用中の、または海で紛失した延縄漁具による、海底への損傷に関わるものです。どちらについても、その影響の度合を知るための十分な科学的調査はなされていませんでした。この漁業は、以後のそうした調査を確認し注視することを約束し、また、Bering Select社は、他の延縄漁業企業とともに、紛失した延縄漁具の影響調査に500,000ドルの連邦補助金を認めるよう、連邦政府に働きかけています。

新規市場への参入 認証取得をする以前は、Bering Select社の市場は基本的に乾燥と生タイプの2種類の塩漬けのアラスカ・マダラに特化しており、それらは伝統的に、イタリア、フランス、スペイン、ブラジルで食べられています。「過去15年間、このアラスカのマダラは付加価値のある、パン粉や衣をつけたフライ製品にはほとんど使われていませんでした。私たちにとってこれらは伸び始めた大きな市場ですが、MSC認証の結果もたらされたものなのです。新たな顧客も増えています。まずはイギリスでの消費が見込まれますが、ヨーロッパの他地域でも増 加 の 兆しを見 せています」と、Gilliland氏は伝えます。MSC認証を取得したアラスカのマダラを扱っている大手企業として、Asda、Sainsbury’s、Young’s Seafoodなどがあります。 Gilliland氏は、MSC認証を取得したアラスカのマダラに支払われたプレミアムが、需要の大きいときには2から3パーセントにも達したと見ていますが、「最も重要な便益は、新規市場への参入でした」と言います。「しかもそれは拡大し続けています。日本は成長が見込まれる市場ですが、あの国では持続可能性よりトレーサビリティへの関心のほうが高いのです。幸運なことに、トレーサビリティもまたMSC制度の特質の1つなんです」

認証取得日 2006月2月10日魚種 マダラ

(Gadus macrocephalus)漁法 底延縄国 アメリカ操業区域

太平洋、於ベーリング海およびアリューシャン列島

漁獲量 103,000トン(2009)

「マダラについては、持続可能性に対して多くの意見が錯綜しています。どれが本当の事なのでしょう?消費者にとっては、心配する必要がない、というのは大切な要素です。私たちのMSC認証製品は消費者が確証を持って購入できるものです」

Bering Select Seafoods 社、経営ディレクター、Paul Gillilad氏

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認証取得日 2006年3月31日魚種 オーストラリアコオリカマス

(Champsocephalus gunnari)漁法 低層および中層トロール漁国 オーストラリア操業区域

パースの南西4,000kmおよび南極付近の南氷洋の火山群、ハード島とマクドナルド諸島(HIMI)沖

漁獲量 およそ1,000トン

「オーストラリアのコオリカマス漁業では、既に予防的な漁獲量と制限、および年次会議における徹底的な再検討を盛り込んだCCAMLRの規格に準じた、あるいはそれ以上の管理が施されています。ではありましたが、MSC認証取得は、この資源の管理に用いられているレベルの高基準を一般に認めてもらい、消費者への知名度をはるかに高めてくれるのです」

Chair of Commonwealth Sub-Antarctic Resource Assessment Group、Malcolm Haddon博士

ⓒ Dylan Skinns

ⓒ Dylan Skinns

オーストラリアのコオリカマス漁業

 「MSCは、コオリカマスを地図に載せました」と、Austral Fisheriesの最高経営責任者、David Carter氏は言います。このオーストラリア企業は、主にマジェランアイナメ(メロ)を水揚げしていますが、天然の不凍液を備えたこの色の白い繊細な南極魚を「私たちの主力商品の2番手」と見なしています。 氏が地図ということば引き合いに出したので、私自身、地図を開き、Aust ra l Fisheriesがコオリカマス漁を操業する―それは操業されている唯一のコオリカマス漁船である―オーストラリアの海外領土の位置を確かめました。常時変化する南極の外縁に近いHIMI(島々はこのように呼ばれている)は、南氷洋のまっただ中、冷たい南極水域が北からの暖かい海流と接することで生じる生物学的境界内にある、一種の「閉鎖性生態系」です。HIMIは世界で唯一、手つかずのまま残る亜南極諸島生態系であり、多くの海洋哺乳類と鳥類の繁殖域や摂餌域になっています。これらの島、およびその周囲の海は、原生保護地域に指定されました。

「極めてレベル高い」監視と遵守の水準 1992年に保護区となったこの領土は世界遺産に登録されています。当然のことながら、隣接する場所で行われるコオリカマス漁業は、それぞれオーストラリア漁業管理局(AFMA)とCCAMLR(南極海洋生物資源保存管理委員会¬―生物多様性と生態系の安定を念頭に、南極の漁業の管理を目指す25ヶ国からなる国際委員会)による厳格な取り締りと管理を受けています。 メロの違法漁業と戦うため、オーストラリア政府は、常時警戒に当たる巡視船を用いた監視を行うために、数億ドルを投じました。監視は「極めて高い水準」を満たしており、遵守の程度は「優良」で、漁獲は対象種と非対象種の両方とも1回1回正確に記録されていると、MSCの認証機関が2006年に記しています。また、定量的な資源評価は「世界級」であるとも書かれています。

科学的厳密さの向上 とは言え、使用されていた評価方法には不確実な部分もあったため、認証機関はこの漁業に、「現行の資源選定が保全の

ための最上の選択であり」、他の方法より「予防的である」(つまり、不確定要素がある場合にはより慎重な側を選択する)という「証拠を示す」ことを条件としました。 Carter氏は、「私たちにとって、MSC認証の真の価値は、資源評価の仕組みに対する科学的厳格さ、専門家による査読といった外部の考えを得る機会にありました。その中で、別の手法、すなわち資源の管理方法について試すべき他の仮説も検討されるなど、とても有益だったと言えます。それは、私たちのコオリカマスの資源評価の質を向上させました」と言います。 同様に、この漁業に対し、深海底への影響といった海底トロール漁の生態学的リスクを審査するよう求めた条件によって、

「様々な調査が付随的に行なわれることになりました」とCarter氏は言います。「トロール網に取り付けたカメラが底まで降りて行き、網が海底とどのように接触するかを確かめたりもしました。MSC認証に付された要求条件から生じたこの全調査領域は、Australian Fisheries Research and Development Corporationが一部資金援助を行なうプロジェクトにまで発展したのです」 この漁業では、絶滅危惧種や保護種、または象徴種に対する影響リスクを低減するため、使用する漁具(低層および中層トロール漁の両方で)の様式と、それぞれが使用される特定の場所と期間が詳細に把握されている、と認証機関は書き留めています。「私たちはMSCのチェック項目すべてに印をつけることができました」と、Carter氏は言います。こうした生態学的に脆弱な地域としては重要なことです。

「このゴールド・スタンダードを満たすことにより、私たちは世界に向けて言うことができるのです。『我々は大したものだと思うよ、だって、この漁業はしっかりと管理されているし、質の高い科学的根拠に基づき日々の操業を行い、その透明性は高水準なんだから』と。これはいずれやらなければならないことだったのです」

「認証取得以前、コオリカマスの資源評価とモデリング計画において、私たちは確実な推定を行っていました。それらをMSC認証の審査チームに見てもらったことで、私たちは他にも傾聴すべき識者や、私たちと同じように漁業管理にごく精通した人たちのいることに気づいたのです。私たちの推定は考査され、そういった意味でこの漁業はより良いものとなっています」

西オーストラリア、パース、Austral Fisheries、最高経営責任者、David Carter氏

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「私たちは、この米国とカナダの共同委員会(国際オヒョウ委員会)に管理された北太平洋のオヒョウ漁業が、将来世代にとってのモデルになるものと信じています。MSCラベルは、すべての関係者が持続可能性に寄与している―また寄与すべきである―ことの、さらなる証明だと言えます。私たちの子供たちの子孫もまた、このすばらしい資源を獲り、加工し、販売し、また消費することを期待できるのです」

Dena F Besecker Co, Inc、社長、Dana Besecker氏

写真提供 Bering Select Seafoods 社

ⓒ Peter Thompson

ⓒ Peter Thompson

アメリカ北太平洋のオヒョウ漁業

 「望ましいサイズは30ポンド級です」と、シアトルのFishing Vessel Owners AssociationのExecutive Director、Bob Alverson氏は写真を見せながら話します。大の男2人が巨大なオヒョウを海から引き上げていますが、綱引きでもしているように両足をふんばっています。その重量は2人の体重を合わせたぐらいはあるでしょう。カレイやヒラメの類に属するこの超大型魚は500ポンド(225kg)に達することもあるのです。男3人分の重さです。ここに写っているものは、女性乗組員の一人の身長に匹敵する体長です。

環境への影響 実は、その巨大なサイズが、幼魚や非対象種を捕獲することなくオヒョウを獲ることを比較的容易にしているのです。漁業者は、海底に直線状に置かれた“スケート”と呼ばれる幹縄に5.5m間隔で付けられた、適切なサイズの大針を用いることにより、混獲と投棄を大幅に避けることができます。「彼らは、市場性の高いタイセイヨウアカウオや、水揚げを認められているキンムツも漁獲しています」と、Alverson氏は言います。法的に漁獲高の20パーセントまでを占めても良いことになっているマダラも獲っていますが、ほとんどは餌として使われ、出費を抑えてくれています。「もちろん、彼らはそれも記録しなければなりません」と、Alverson氏は言います。 オヒョウ漁業は、全米海洋漁業局と国際太平洋オヒョウ委員会による共同管理のもとに、上記やその他の規則が厳しく施行されています。「体長32インチ(0.8m)未満のオヒョウは水揚げすることが許されていませんが、これはこの魚が繁殖能力を持ち始めるのがその大きさだからです。私たちはそれを10/20と呼んでいます。重さが10ポンドと20ポンドの間だからです。彼ら(海洋学者)は、この魚がその大きさになるまでは、捕獲しないように望んでいますが、それは私たちにとっても良いことです。大きい魚ほど高く売れますから」と、Alverson氏は言います。 別の面でもやはり、漁業者と自然保護活動家は軌を一にしているようです。「かつては鳥の混獲問題があり、私たちはワシントン大学と協力して、補助金を受け、6隻の漁船を2年間調査の拠点として提供しました。彼らは船尾でひらひらする「トリライン」とよばれる小さな吹き流しを試し、乗組員がそれを正しく立てれば、鳥と

餌の接近を大幅に減らすことができることを確かめたのです」と、Alverson氏は言います。3年にわたって、トリラインは北太平洋で操業する延縄漁船に義務づけられており、鳥の誤獲を約80パーセント低減しています。

政策的影響力 改善の余地が見られた点は1つだけでした。「岸辺での極めて濃密な管理と確実な日誌付けはありましたが、オヒョウ漁業には混獲のための監視員プログラムはありませんでした」と、Alverson氏は言います。つまり、商業的に価値のある混獲物は計量されて帰港時に記録され、漁師自身も記録をつけます。しかし、漁船に同乗して混獲を監視する第三者としての科学者はいません。MSC認証の条件の1つとして、この漁業がそうしたプログラムの実施を政府当局に働きかけることが求められました。「今後の3年間で、北太平洋協議会の監視員プログラムには、MSCの懸念に応えるべく意味のある変更が加えられるでしょう」と、Alverson氏は見込んでいます。これはどのみち行なわれたことかも知れませんが、この特別な働きかけが役立ったことは確かである、とAlverson氏は付け加えます。

プロモーションと新規市場 認証取得のはるかに具体的な便益は、倫理観を持ったシェフたちに訴えかけ、彼らが出演する昼間のテレビ番組で言及したことです。「『これはMSC認証を取得したすばらしい製品ですので、是非食べてみてください』と彼らは伝えます。西海岸では、オヒョウを目玉としないシーフードレストランなど、シーフードレストランとは見なされません。テレビに出演するシェフたちの熱意が、私たちに間接的利益をもたらしたと言えるでしょう」と、Alverson氏は言います。 従来、この漁業の売り上げは80パーセントが北米でのもので、それをカナダと米国が二分していました。しかし、それはゆっくりと変わりつつあります。「MSCラベルは、現在のヨーロッパ向け販売量において、重要な役割を持っています。あちらでは流行し始めているようです。新たな需要が生まれたことで、私たちは大いに助けられたと思います」と、Alverson氏は述べています。

認証取得日 2006年4月魚種 オヒョウ

(Hippoglossus stenolepis)漁法 底延縄国 アメリカ操業区域

ベーリング海、アラスカ州、ワシントン州

漁獲量 24,000トン

「認証取得は私たちの価格にたいへん良い効果をもたらしました。1ドルにつきいくら価格が上がったとかそういうことは言えませんが、無料でたくさん宣伝することはできました。モントレー湾水族館がMSCを推進し、テレビではシェフたちが話題にしてくれますから。それで新たな需要が生まれたのです」

Fishing Vessel Owners Association、Executive Director、Bob Alverson氏

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「唯一よく知られた独立のラベルとして、MSCは消費者に持続可能な水産物を選ぶことを身近にしました。資源管理、環境への影響、混獲と生息域の破壊についての我々独自の基準により、MSC認証を取得した北海のニシン漁業にはゴーサインが出されたのです」

北海 Foundation、漁業政策オフィサー、Christien Absil氏

ⓒ PFA

ⓒ PFA

the Pelagic Freezer-Trawler協会・北海のニシン漁業

 「ある意味、私たちは先駆者なのです」と言うのは、the Pelagic Freezer-Trawler協会の会長、Gerand van Balsfoort氏です。所属する26隻の漁船は、大きなもので全長140mあり、北海のニシンを漁獲するだけではなく、船上で選別、冷凍、包装までもを行ないます。「私たちの前にもいくつかの小規模漁業が認証を取得していますが、ヨーロッパでは私たちが認証を取得した最初の大規模漁業です。MSCにとっては、ちょっとした躍進でした」

EU漁業交渉の様相を変える 3年たった今、MSC認証は標準となっているようです。スウェーデン、デンマーク、スコットランドの 漁 船 団 が 続 き、v a n Balsfoort氏は、「今年中に北海のニシン漁業の大部分がMSC認証を取得するものと予期しています」と言います。氏によれば、この団結が、この資源に関するEU漁業交渉の様相を変えたといいます。 2002年の共通漁業政策改革の1つの柱が、漁業管理についての勧告案を作成し、それを委員会や国の関係当局に提出する地域諮問評議会(RAC)の創設でした。会議には科学者も専門家として参加し、加盟国の代表がオブザーバーとして出席することもあります。しかし、議論に最も貢献するのは漁業利害関係者(業界とNGO双方の)です。 「このRACが扱うのは浮魚資源です」とvan Balsfoort氏が言うのは、海底ではなく中層域を群泳する魚を指しています。

「今やヨーロッパの主要なニシン漁業者はすべてMSC認証を取得しているか、審査中となっており、諮問プロセスのあり方にも影響を与えています。資源の視点からは、科学的な根拠のない限り、安易に漁獲枠の拡大を求めることはできません。私たちは皆、認証機関が私たちの海上での行動だけではなく、漁獲枠についての諮問における言動にも目を向けているのを知っています。認証を取得したら、予防的配慮がなされなければなりません。それがMSCの副次効果です」

資源の回復計画 ニシンの場合、これは特に重要な問題です。「私たちは資源が最高潮にあった2006年に認証を取得しました」と、van Balsfoort氏は言います。その後、漁業とは無関係の複雑な生物学的理由により、

北海のニシンは数が減っているのです。「加入量に不全があり、新規加入量が比較的不足しています。つまり、それ以来、資源は縮小しているのです」 2006年、MSCの認証機関はそうした不測の事態を考慮に入れることにしました。「認証を受けるには、科学者と協議して、資源の回復計画を立てなければなりませんでした。私たちはそれをやったわけです。認証がなかったら、同じことを浮魚漁業地域諮問評議会の範囲だけでやっていただけでしょう」 持続可能な漁業が行なわれていたとしても、資源は「変動したり、傾いたり、増えたり、減ったりします。下降部分もうまく管理できれば、認証を取得することはできます。柔軟に対応することが大事なのです。私たちの対応は、資源再生計画を策定し、TACの大幅な削減を受け入れることだったのです」

持続可能性の証明 ニシン漁業は選択的で、1種のみを対象にしていて、混獲が事実上無い点も有利に働きました。「これは主にこの魚種の性質によるものです」と、van Balsfoort氏は言います。ニシンは独自の群れで泳ぐ傾向があり、他の魚種が一緒に捕獲されることはほとんどありません。廃棄の程度は、2から5パーセントの間と低く、また、トロール網が中水層で用いられるため、海底への影響は軽微である、と氏は付け加えます。 「そういうわけで私たちはMSC認証を目指したのです。自分たちの漁業が、責任ある持続可能なものであることは知っていましたが、それを証明したかったのです。これは特にニシンの消費者の安心につながります。ニシンは、北海周辺の住むすべての人々にとって、生活に根付いた親しみ深い魚なのです」と、van Balsfoort氏は言います。

認証取得日 2006年5月9日魚種 ニシン(Clupea harengus)漁法 浮魚トロール国 PFAの漁船団はオランダ、ド

イツ、イギリス、フランス、アイルランド、リトアニアを拠点としている。

操業区域

北海およびイギリス海峡東部漁獲量 約65,000トン

「ブリュッセルでの漁業管理決議に対して働きかける場合――もちろん私たちは皆そうするわけですが―MSC認証がものを言います。私たちは、非常に均整のとれた意見しか言いようがありません。だって、私たちの漁業のすべては、既に認証取得しているかもしくは現在審査中ですからね。」

the Pelagic Freezer-Trawler 協会、会長、Gerard van Balsfoort氏

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「『天然限定』の水産物のバイヤー、加工業者、取引業者として、Harbour Marine Products Incは、健全で持続可能な水産業界に極めて強い関心があります。MSC認証は、私たちに新規の付加価値事業など新たなビジネスチャンスをもたらしました。私たちのMSC認証製品は、競合相手からの差別化を果たすとともに、新しい大きな可能性を有しています。消費者、サプライチェーン、漁業にとってMSCが有益であることが証明されつつあります」Harbour Marine Products Inc、社長兼最高責任者、Ron F Habijanac氏

ⓒ Peter Thompson

ⓒ Dean Adams

米国北太平洋のギンダラ漁業

 「商業的にはブラックコッドとして知られるギンダラですが、実はタラの仲間ではありません。身はタラのように白くて薄片状ですが、もっと脂がのっており、それによって、料理家や食通が好む濃厚で木の実のような風味となっています。風味の総合ガイド、Young’s Lexicon of Fishによれば、「サバのような甘いアーティチョーク風の香気とオイリーな余韻」が「はっきりとしたハーブやスパイスと絶妙に調和する」と表現されています。味噌でマリネにしたギンダラは、日本食レストランの経営者でシェフであるノブ・マツヒサの看板料理であり、この漁業による漁獲の90パーセントはアジア、特に日本へ渡っています」

新たな市場 日本では、他の多くの市場と異なり、消費者がギンダラを買うのは、持続可能だからではなく、それがおいしいからです。そのため、新たな売り上げを直接MSCの取り組みに帰すことは難しかったのです。

「先ごろ、あるグループから初めて電話があり『MSCのギンダラが欲しい』と指定されました」と、シアトルにある漁船船主協会事務局長のBob Alverson氏は言います。「『その魚の行き先は?』と聞くと、『スペインです』とのことでした。ブラックコッドはヨーロッパで流行になり始めていますが、これはMSCが要因です」 こうした成果は、長い時を経て得られたものです。しかし、Alverson氏が、2004年に、この漁業と北太平洋オヒョウ漁業のMSC基準に対する認証取得を思い立ったのは、ヨーロッパの新規市場獲得が1つの理由だったのです。「当時は、まだこうした取り組みへの理解がまったく進んでいなかったアメリカに比 べ、ヨーロッパではMSC製品への反応がはるかに良かったのです。商業的にも政治的にも、これは私たちの国でも非常に有益な存在になるだろうと思いました」と、氏は説明します。

持続可能な漁業の管理 アメリカは、売り上げの点ではヨーロッパに後れをとっていたものの、漁業管理に関しては多くの地域、特にアラスカにおいて先んじていました。マグナソン漁業保護管理法が発足した1977年以来、資源は持続可能な状態に管理されてきました。この漁業の監視と取り締りに当たる全米海洋漁業局(NMFS)の報告では、「ギンダ

ラの個体数は高水準にあり」、地域によっては、最大持続可能漁獲量に必要な個体数サイズの96から105パーセントで推移しています。 「私たちには、混獲のための監視員プログラムと航海日誌制度があります」と、氏は言います。また、漁具の形式は、針の大きさや、使用される275mの延縄、業界用語で言う「half-skate」が、既知のギンダラ生息域のみで海底に設置されることにより、選択制の高いものになっています。漁獲枠は個々の漁船ごとに割り当てられ、水揚げはすべて電子式カードを用いて記録されます。「納入時に、全バイヤーが持っていなくてはならないそのカードを読み取り機に通すと、連邦政府にログインします」とAlverson氏は言います。漁業者は、NFMSの職員が水揚げを監視できるよう、

「取引場所」に到着する6時間前に連絡をいれなくてはなりません。

発言力の向上 「これらすべてを踏まえ、私たちはこの漁業が持続可能であることを認証以前から知っていたのですが、それを証明することが重要だったのです」と、Alverson氏は言います。氏にとって、MSC制度に関与することは「15パーセントが戦略的」だと説明します。「今はまさに、環境保護を訴えるオバマ政権下にあり、ワシントンへ行って

『あ、ところで、私たちはMSC認証を取得しているんですよ。私たちの漁業が独立した審査を受け、すべてを適正に行なっていると認められたということなんです』と言えることは、私たちにとってはそれなりの意味があるわけです」とも言います。このようなツールで身を固め、漁業者は自らが影響を受けている問題において耳を傾けてもらえるのではないかと感じています。「発言力の向上、という観点からも、MSC認証取得は私たちにとってたいへん大きな価値があるのです」と、Alverson氏は言います。

認証取得日 2006年5月19日魚種 ギンダラ

(Anoplopoma fimbria)漁法 底延縄国 アメリカ操業区域

北太平洋、ベーリング海およびアラスカ湾

漁獲量 18,100トン

「私たちのギンダラは90パーセントがアジア、主に日本向けなのですが、そこではようやくMSC認証への関心が高まり始めたところです。最近になって初めて、あるグループ組織から

「MSCのギンダラが欲しい」との要望がありました。ヨーロッパでは、MSCの需要しかありません。これにはたいへん助かっています」

漁船船主協会、事務局長、Bob Alverson氏

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ⓒ Mikael Johansson / Swedish Board of Fisheries

「北欧の湖から獲れる淡水魚の最大手供給企業の1つとして、国内外の顧客に、MSCラベル付きのイェルマレン湖産パイクパーチを提供できることを光栄に存じます。私たちは、持続可能な漁業によるものであることが保証されたMSC製品の市場に対する関心の高まりを感じており、その需要に応えられることをたいへん喜ばしく思っております」ヨーテボリ、Hjalmarfisk AB、最高責任者、Soren Jensen氏

ⓒ Mikael Johansson / Swedish Board of Fisheries

イェルマレン湖のパイクパーチ漁業

 今日、イェルマレン湖は、ミサゴ、ウミワシ、ウが飛び立つ水上と同じぐらい、水面下でも肥沃、多産となっていますが、昔からこうだったわけではありません。20世紀の初め、スウェーデンでは、漁師が古くから獲っていたザリガニが伝染病で壊滅したため、パイクパーチに注意が向けられたの で す。よくしまった、脂 肪 の 少 な いジューシーでやわらかな白い身を持った捕食性の淡水魚で、スウェーデンでは重さは11kgに及ぶこともあります。20世紀終盤には、これもまた深刻なレベルまで減少し、必死の管理対策が導入されることになりました。

環境対策 スウェーデンでは1994年の漁業法により、すべての漁業者に免許の取得が求められたのですが、漁業規則の細目は地域ごとに合意することが認められました。イェルマレン湖の場合、パイクパーチの法定最小体長は自主的に45cm(他地域では40cm)に、刺し網のメッシュサイズは60cmに引き上げられ、大きなものでさえ捕らえられずに長期間かけて成長できるようにしました。 「雌は大きくなればなるほど、卵も多く産みます」と、WWFスウェーデンの海洋漁業保全オフィサーで、この漁業のMSC認証取得をサポートしたInger Naslund氏は言います。「漁師たちは健全な漁業資源が欲しかったのです。それが健全な湖の鍵となりますから。ライセンスは、長さ約6mの 25隻に制限されています。」 結果、資源は急激に増加し、揺るぎなく健全な状態にあります。夏の間、漁師は選択性の高いフィッシュトラップを使用します。それは、沈められるわけですが、不要な魚種や大きさの満たないものをすばやく取りだせるように、船上に引き上げられます。水深わずか5mのところから上げられる魚の浮き袋は最小限の拡張にとどまります(急激な拡張は浮力の異状につながり、それによって投棄された魚がカモメの餌になっています)。生存率は非常に高く、ある研究では、標識を付けたパイクパーチ2,299匹のうち28匹が、最低でも10回捕獲されリリースされていたことがわかっています。 刺し網は主として冬に使用されます。漁師は雪上スクーターで凍結した湖に出ると、氷に複数の穴を開け、is hast(「氷馬」)

と呼ばれる仕掛けを使って、穴の間の湖面下に縄を通します。これを使って氷の下に網を設置し、手で引き上げるのです。氷で覆われているため、夏季には時々釣りあげてしまうウやその他の潜水鳥がかかる心配はありません。 「漁師は自分たちがすでに持続可能な漁業を行なっていることを知っていましたが、彼らの魚にラベルが付くかどうか確かめたかったのです。2004年、私はWWFの同僚、Lennart Nymanとともに訪問し、認証や市場でのMSCラベルの効果について説明を行ないました。私たちは、彼らが議論する間、部屋を出ていかなければならないだろうと思っていたところ、議長はただ立ち上がってこう言ったのです。

『どうです、皆さん。MSCをやってみませんか』と。そしてその場で全員が賛成したのです。驚きましたよ」と、Naslundは言います。

価格と環境意識の向上 現在、このパイクパーチの80パーセントを、MSC・CoC認証を取得しているヨーテボリ所在のHjalmarfiskが買い取り、主にドイツ向けに販売しています。「認証を取得していれば、漁師が受け取るキロ当た り の 額 は 多 少 高 く な りま す」と、Naslund氏は請け合いますが、MSC認証はより目立たない、永続的な便益ももたらしています。 「今、彼らは、資源の再生が確実になされるよう、メッシュサイズをさらに拡大したいと思っています」と、Naslund氏は言います。氏が思うに、彼らの一致団結した精神は、MSCの審査が、認証取得の条件として、減少した資源の水準に対処する今後の行動計画を漁師が策定することを求めたことによるものです。同時に、パイクパーチの繁殖能力に影響を及ぼし得る個体数の変動を察知できるよう、雌雄比、体長、魚齢などのデータを収集することも求められました。 「漁師たちはすでに持続可能性を考えるようになっていたのですが、MSCによってさらに目覚めさせられたわけです。先日聞いたところでは、他の湖でも、パイクパーチに対する最小サイズが引き上げられたそうです」と、Naslund氏は言います。明らかに、持続可能性というメッセージは、イェルマレン湖畔を超えて浸透しつつあるのです。

認証取得日 2006年8月7日魚種 パイクパーチ

(Sander lucioperca)漁法 フィッシュトラップ、刺し網漁国 スウェーデン操業区域

ストックホル ムから西 へ 約160kmの南部に位置するイェルマレン湖

漁獲量 166トン

「2004年、スウェーデンにはMSCラベル製品が1つしかありませんでしたが、ドイツには数多くありました。それで漁師はMSCがやって来つつあるのを知り、認証申請を決めたのです。今では、エコラベル付き漁獲物の80パーセントがドイツに輸出されています」

WWFスウェーデン、海洋漁業保全オフィサー、Inger Naslund氏

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「MSCは、Young’sにとっても親会社グループのFoodvestにとっても重要な存在であり、そのラベルは、懸念される魚の持続可能性に関して、顧客にさらなる安心をもたらします。MSCのアルゼンチン・ホタテガイは、イギリスの顧客にもたいへん評判がよいことがわかり、私たちは誇りを持って販売しています」Young’s Seafood、Category Director、Mark Ventress氏

ⓒ Clearwater Seafoods

パタゴニアホタテガイ漁業

 ほとんどの漁業には乱獲の過去があるものですが、この漁業の場合は、科学的に研究し得る持続可能性の言わば実証が、そうした前科のない状態で1996年に始められました。その前年を通して、漁船Erin Bruceに対し、この水域におけるホタテガイ漁業の資源評価と商業的価値を査定するための、アルゼンチン政府による15回の調査が完了していました。その後、1996年1月に、政府は、2つの漁業会社が出していたアルゼンチンにおけるパタゴニアホタテガイの漁獲許可申請を、その漁業が最良の科学的助言に従って行なわれるよう定めた法令のもとに承認しました。 「それは、1つの漁業をゼロから研究できるすばらしい機会となりました」と言うのは、ホタテガイの漁獲と加工を許された2つの会社の1つ(いずれも冷凍トロール船2隻)、Glaciar Pesquera SAの社長、Eduardo Gonzalez Lemmi氏です。開始とともに、監視員を付けて、混獲、死亡数、およびトロール漁具による海底生態系への影響が、すべて調査されました。「船団が出航するたびに、科学者が1人乗船します」と、Gonzalez Lemmi氏は確言します。

持続可能な操業に向けた改善 その他の点についても、この漁業は斬新的です。トロール漁は、海底が平らで凹凸のないことがわかっている区域でのみ行なわれます。「99パーセントが砂と泥です」と、Gonzalez Lemmi氏が言うこのエリアは、漁具による損傷が起こりにくい生息域です。網を曳くのは10分だけとし、死亡が発生し得る時間を制限し、また未成熟のホタテガイは2、3分内に海へ戻し、生存率を最大にしています。混獲物についても「捕獲と分別作業を経ても、大抵ピンピンしている」ことがMSC認証機関によりわかっています。そして最後に、将来の資源を守るため、貝殻の高さが55mm以上のホタテガイ以外は水揚げしないことになっています(40mmで生殖可能となります)。「この種は通常、ほとんどが最初の産卵 後 に 捕 獲 さ れ て い ま す。そ の 後、44mmから48mmで再び産卵します。55mmで捕獲すれば、すでに3回産卵していることになるのです。これはすばらしい持続可能性の保証です。」と、Gonzalez Lemmi氏言います。

MSC認証による専門知識の導入 当初から、A r g e n t i n e F e d e r a l Fisheries Councilは、最善の管理策定に向けた堅実な調査とホタテガイ資源の監視に対し「深い関与」を示しました。このことも踏まえ、MSC認証はどう役立ったのでしょうか。「私たちをさらに深く進ませたのです」と、Gonzalez氏は言います。「MSCの認証機関がもたらした専門的知識の水準には感銘を受けました。世界でも第一級の科学者たちであり、知識が豊富な高名な人たちです。したがって、私利的な議論ではない、専門的な議論のための、前向きな環境が生まれたのです」

新たな市場 しかし、主たる便益は商業的なものでした。「今私たちは、ヨーロッパ、特にフランスの顧客から注文が入っています。これは、これまで予期したこともないことです。それは、私たちの持続可能な方針と責任ある行動に対する客観的な証であるMSCラベルのおかげなんです。私たちにとって、これは実に大きな利点です」とGonzalez Lemmi氏は言います。 この便益は、EUが中国からのホタテ輸入の禁止を解除すれば拡大が望めます。解除によって、主要な競合国が1つ市場に戻ることとなり、他の国々も自らの製品をより上手に販売しなければならなくなります。この禁輸は、1988年、一連の食品不安を受けて取られた措置で、それまで中国産のホタテガイは「私たちの出費もまかなえないような」値段で売られていたと、Gonzalez Lemmi氏は言います。「中国は、品質の問題を抱えており、また、持続可能性を証明することも難しいだろうことは知っていました。そのとき、私たちはMSCについて耳にし、認証によって持続可能性の面において差別化が望めることに気づき、申請することにしたのです」と、氏は説明します。ところがその後、皮肉にも、EUの輸入禁止措置がとられましたが、Gonzalez Lemmi氏にはそれが永続しないことはわかっていました。「今、中国が復帰すれば、顧客は私たちの製品を知り、私たちの製品が気に入り、MSC認証を取得していることで信頼を置くことでしょう。MSCは、私たちの商売に大きな損害を加える競合相手に対抗する強力な手段を与えてくれるのです」

認証取得日 2006年12月8日魚種 パタゴニアホタテガイ

(Zygochlamys patagonica)漁法 オッタートロール魚国 アルゼンチン操業区域

南大西洋、ウルグアイ国境(北部)からマルビナス諸島とティエラデルフエゴ間の仮想境界線(南部)に至る、アルゼンチンの大陸棚

漁獲量 45,000トン

「MSC認証プロセスの一環であるこの漁業の審査は、アルゼンチンだけではなく、他国からの経験ももたらしました。国際的な協力を受けた以上、私たちはこの調査をさらに推進するとともに、有意義な議論が行なわれるよう努めなければなりません。私たちはそれを歓迎しています」

アルゼンチン、Glaciera Pesquera SA、社長、Eduardo Gonzalez Lemmi氏

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「MSCによって、私たちは新規市場の開拓ができましたし、世界中で持続可能な漁業への認識が高まりました。AAFAがその一例で、何代にもわたって持続可能な操業を行ってきた漁業です。だから私たちは協同しているのです。MSC認証により、持続可能なマグロ漁業に注いできた彼らの努力が、改めて認められたことになります」Fishes Wholesale BV、業務マネージャー、Andrew Bassford氏

ⓒ Fishes Holding BV

ⓒ Carey Schumacher

北米ビンナガマグロ漁業協会・南太平洋のビンナガマグロ漁業

 「1990年代後半、私の夫はここでの漁期を11月に終えると、船上で少し作業した後、南太平洋へ向かったものです」と、米国ビンナガマグロ漁業者協会(AAFA)事務局長のNatalie Webster氏は語ります。「そこで魚を獲り、4月に帰ると、6月からまた同じことを繰り返します。つまり、1年のうち10ヶ月は魚を獲っていたわけです」と言います。今は、燃料費の高騰により、4隻か5隻の船だけが、カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州の漁村から、はるばるフィジー、タヒチ、パゴパゴ、サモアの水域まで出かけています。その他多数は、より地元に近い北太平洋を漁場にしています。2008年、50隻の漁船がAAFAの要求事項を満たしていると認定されました。合計すると、西海岸に水揚される全ビンナガマグロの半分以上は、AAFAの漁師によるものです。

伝統的な漁法 彼らの行なう「一本釣りと流し釣り」も、島々の名前に劣らず夢のあるものです。まず一本釣り漁では、1隻につき最大6人の漁師が、短い釣り糸と一個のかえし無し針が装着された頑丈な竿で、ビチビチのたうつマグロ(いずれも重さ8~9kg)を、ひょいと長さ20mの船の甲板に釣りあげます。すぐにまた糸を投げ入れ、数秒ごとに1匹釣りあげるのです。 流し釣り/ジギング漁業では、人工ルアー(これも返しの無い針)を船尾から約6ノットで曳きます。当たりがあると、魚は即座に油圧ウィンチあるいは巻き上げ機で引き上げられます。どちらも、1回に1匹ずつしか獲らない「さっぱりした」漁法です。混獲は軽微で、投棄も少数です。ビンナガの魚群は体長によって分かれる傾向があり、漁師は小さい魚を避けます。これは保護のためだけではなく、良い値を得るためです。 「すべてはこうして始まったのです」と、Webster氏は指摘します。「マグロの漁獲は竿と流し釣り漁として始まりました。時を経て、他の漁法がそれに取って代わりましたが、その機器に頼った漁法は、環境とマグロ資源により大きな影響を及ぼすことがあります。「私たちは先に進むのではなく、むしろ後戻りするべきなのかも知れません。私たちの漁業は常に持続可能であったのです」と、Webster氏は言います。

ヨーロッパの新規市場 しかし、一本釣りと流し釣りによるマグロはニッチ製品(隙間製品)としては市場に出されず、「その他のマグロ製品と一緒に取り扱われていたのです」と、Webster氏は説明します。「価格の安さから、見通しは暗く、不安定なため、次の世代が親や祖父母の伝統を受け継ごうとはしなかったのです。私たちは心の中で、漁師たちは皆50代後半という事情から、この漁業は途絶えるのだと思っていました」 そして、5年前に、AAFAはMSCのことを知りました。「私たちはそれを、自分たちの物語、私たちの家族の物語を、国際フォーラムのような場で発表するためのワンステップになると感じたのです。私たちは本審査を受け、その間に、ヨーロッパで良好な関係を築くことができました。人々は私たちの認証取得を待っていて、取得と同時に注文が入ってきたのです」と、Webster氏は言います。 その後、消費者が、「一本釣りと流し釣り」のビンナガマグロ漁業と、その伝統的漁業を行なう家族の共同体について知り始めました。「彼らはこの漁業を、質の高い持続可能なマグロの源として支援したいと思ったのです」と、Webster氏は言います。

価格の安定と社会経済的利益 ヨーロッパでの新規市場が確保されたことで、漁師たちは、波止場での不安定な価格設定に左右されずに、漁期を通して安定した価格を付けることができるようになりました。4月、AAFAの役員会は、典型的な市場価格である1米トン(907.2kg)あたり1,700ドルに対し、2,260ドルという価格に同意しました。これにより、漁師が自分たちとこの漁業に未来のあることを知り、ボロボロになった漁船の修理にお金をかけられるようになったのです。「歴史的なできごとでした」と、Webster氏は言います。 「MSCがなかったら、こうはいかなかったでしょう。エコラベルなしでこの新規市場を生むことはできませんでした」と、氏は付け加えます。今、そのラベルは、瓶詰や缶詰、そして燻製品として販売されるAAFAのビンナガ製品にはっきりと付けられています。「製品は、スイス、ドイツ、フランスでよく売れています」と、Webster氏は請け合います。「イギリスではこれまで私たちの製品が販売されたことはありませんでしたが、今ではSa in sbu r y’s、Tesco、その他すべての大手チェーンが私たちのビンナガを仕入れています。タイはその加工を考えており、カナダの食品チェーンLoblawsは、ブリティッシュコロンビアの加工業者から入手しようとしています。世界中の漁業にとっての模範と言えるでしょう」

認証取得日 2007年8月23日魚種 ビンナガマグロ

(Thunnus alalunga)漁法 一本釣り、流し釣り/ジギング国 アメリカ操業区域

北太平洋漁業―アメリカ太平洋岸(カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州)沖の水域、およびカナダ・ブリティッシュコロンビア州 南太平洋漁業―南太平洋の水域

漁獲量 10,000トン(両漁業)

「MSCによって、消費者には、持続可能性が単にラベルに書かれた言葉だけではないことが保証されます。私たちのビンナガマグロは、漁獲した漁船まで追跡可能であり、それによって私たちは世界に向けて自らを語れるようになったのです。市場を築くごとに、私たちの漁業はより安定したものになっていきます」

AAFA、事務局長、Natalie Webster氏

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「MSCの活動とは、同じ意思を持つ人たちを集め、その人たちに方向性と共同体意識を与えることにあります。このことを、ブリドリントンのシーバス漁師の例以上に言えるところを私は見たことがありません。」レストラン経営者/Moshi Moshi 寿司 チェーンオーナー、Caroline Bennett氏

ⓒ David McCandless / North East Sea fisheries committee

ⓒ David McCandless / North East Sea fisheries committee

North Eastern Sea Fisheries Committeeのシーバス漁業

 この 手 つ かず の 長く伸 び たヨークシャー海岸は、海のピカデリーサーカスといった存在で、回遊魚のシーバス、シートラウト、サケが、フランバラ岬の岸壁から季節ごとに移動しています。その中でもシーバスは、地元漁師がMSC認証取得を選択するまで、条例による保護が最も手薄な魚でした。 これらサケ科(サケとシートラウト)の、夏季における捕獲は常によく管理されてきましたが、冬季のシーバスは事情を異にします。North Eastern Sea Fisheries Committee(NESFC)の漁業主任オフィサー、David McCandless氏は、「11月から3月まで、この地方の大半では何の規制もありませんでした。言わば常時解禁期となっていたのです」と言います。

負荷の小さい漁業 しかしながら、その漁法は、海底にも、またより広い環境にも、非常に小さな影響しか及ぼさないものでした。それは浜から行なう網漁で、干潮時に、コルクの浮きと錘付きの沈子綱が取りつけられた網を、浜からまっすぐ180mの位置まで設置し固定します。潮が満ちてくると、網は漁獲に適した形を取り、1日2回、かかった魚をはずします。 この漁具は選択性に優れており、目標のサイズや魚種に狙いを絞りながら、時にコモンソール、タラ、ホワイティングも一緒に漁獲しますが、それらはすべて、サイズの満たないものを除き、市場に回されます。それは主に小形のホワイティングで、秋には潮の干満ごとに5から10匹というピークに達するものの、その後は急激に減少します。4年の間、生きたアザラシや、小型の歯クジラ類やその他のクジラ目は捕獲されていませんし、この浅水域では、原因不明の打ち上がりや病気の場合以外、大形の海洋哺乳類が見られることは滅多にありません。それにも関わらず、ホルダーネスの漁師は自主的に波動音発信装置「ピンガー」を彼らの網に取り付けていました。これは、鯨類を威して遠ざける周期的な音波音を発する小型の電子装置です。 偶発的に海鳥(主にウミガラス)が網にかかることとも観察されましたが、発生率は低く、MSC規格を満たすためにこの漁業に求められた修正点はごくわずかでした。いずれにしても既にかなり持続可能で

あったのです。

明確な環境便益 しかし、環境にとっての最も顕著な便益は、認証の条件としてなされた変更によってもたらされました。その主要なものが、新たな条例の施行で、10月半ばから4月の間は、設置網許可証の発行を5人の漁師に限定するというものです(北はタイン川から南はハンバー川までの約100マイルにわたる区域で)。それぞれ、ホルダーネス海岸沖で獲られた全漁獲物の魚種と重量を詳述した漁獲報告書を、毎月提出しなければなりません―もちろん混獲分もです。対象種だけではなく、海洋環境に及ぼす影響をすべて監視することが目的です。 「MSCがなかったら、私たちの漁業規則にこのような要求事項を盛り込むことは考えませんでした。すべての改善は、この漁業と、その将来の管理を強化してくれるでしょう」と、McCandless氏は率直に語ります。

市場利益 氏はまた、製品へのMSCラベルの表示が、市場での漁師たちの立場を強化することも期待しました。予想どおり、ロンドンの最高級レストランへの販売では、最大25パーセントのプレミアム(認証以前の地元の価格に対して)を得ています。

漁業の将来 55歳のFrank Powell氏は、15歳から魚を獲っています。ハルを拠点にし、イーストライディングの海岸沖とともに、アイスランドやグリーンランドの沖にも出漁するトロール漁に従事しています。氏もまた、シーバス漁業がMSC認証を取得したことを喜んでいます。イギリスの近海漁業が閉鎖の危機に瀕しているこの時期に、彼は次のように言います。「私たちの生き残りの手助けになるかもしれません。『私たちは持続可能です。それは証明されています。なぜ閉鎖する必要があるのです?』と言えるわけです。私たちは戦う手段を得たのです」 ただし、メディアや有名シェフの世界に関しては、このように論理的にはいかないようです。「BBCがここにやって来ましてね」と彼は言います。「あのトム・エイケンスはご存知でしょう? うちに一晩泊まったんですよ」。

認証取得日 2007年12月3日魚種 シーバス

(Dicentrarchus labrax)漁法 潮間帯設置式刺し網漁国 イギリス操業区域

イギリス、イングランド北東部のホルダーネス海岸、フランバラ岬灯台からスパンポイントまでの、干潮標と満潮標の間

漁獲量 7トン

「MSC審査によって、私たちの管理の改善が促され速められました。私たちはより速く計画を進める起動力を与えられたのです。MSCなくして、この達成はあり得ませんでした」

NESFC、漁業主任オフィサー、Dav id McCandless氏

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「オレゴンのピンクエビトロール漁業の認証取得はたいへんな偉業です。MSCは国際的に認められた団体で、天然魚漁業を承認するための非常にレベルの高い科学的基準を持っています。ここの漁師たちは、この認証によって既存の市場を維持しながら、新規市場をも獲得することでしょう」オレゴン州農業局ディレクター、Katy Coba氏

ⓒ Pacific Media Productions of Newport, Oregon, ⓒ Oregon Trawl Commission

ⓒ Pacific Media Productions of Newport, Oregon

オレゴンのピンクエビ漁業

 「持続可能性が何かも知らない団体に責められるのはもうたくさんです」と、Brad Pettinger氏は言います。オレゴン州農業局所管のもとで操業する漁師、加工業者、流通業者を代表する州当局、オレゴントロール委員会のディレクターです。

持続可能な管理の証明 エビのトロール漁を行なう大半の漁業と同様、この漁業もかつて、魚の混獲や底引きトロール漁具による海底への損傷に関 する批 判 に 悩 まさ れて い ました。Pettinger氏は、エビ漁業を高い環境基準で管理するオレゴン州魚類野生動物局

(ODF&W)の先進的体制によって、オレゴンの実態がそれとは異なることを知っていたのです。 「それで、他の漁業との差別化のために、我々はMSC認証取得を目指したわけです。今の時代、ある漁業がよく管理されていると政府が言ったところで、以前ほどの効力はありません。MSCのような、独立した第三者に入ってもらって、そう言われたなら、それには大きな価値があります。MSC認証は、NGO、一般、小売業者、役人、政治家など、私たちの生計を遠くから左右する人たちに、その漁業が世界最高の規格を満たすように管理されているという保証を与えるのです」と、Pettinger氏は言います。 何年もの間、ODF&Wはこの漁船団と協同で、混獲削減装置(BRD)(大形の魚が捕獲されないよう、網の入り口に取り付ける格子)の完成に努めていました。それは、ダブルリグ式の―1つではなく、2つの網を、漁船の左右からから伸びた張出し棒で曳く―エビトロール漁船に適するように設計されています。「ダブルリガーは、ときどき網が水面に出たまましばらく進むと、ノードモア格子(エビトロール網の中に付けられた、魚を上方に誘導して網の外へ出すための伝統的な正方形の格子)が激しく回転し、網がからまることもあります。試行錯誤を繰り返した末、私たちは丸い格子を開発して、この問題を解決することができたのです」と、Pettinger氏は言います。 2002年以降義務化されたBRDは、ヘイク、シタビラメ、ロックフィッシュといった魚種の混獲を大幅に減らしました。様々な研究により、格子の間隔が32mmのBRDは混獲を6パーセント未満に減らし、間隔が19mmのものはさらにわずか2パーセ

ントにまで減らすことがわかっています。この装置の使用によって、混獲に関する限り、「オレゴンのピンクエビ漁業は……世界でも極めてクリーンなエビ漁業の1つとなっている」と、MSCの認証機関は結論づけました。

よりよい管理のための知識の向上 MSC認証取得の達成には、いくつかの修正が必要でした。「小さなエビの投棄についてもっと情報を得るため、日誌に項目を少し追加しました。以前は行なっていなかったことです」と、Pettinger氏は言います。幸運なことに、この条件は、翌年に日誌を再注文しようとしていたODF&Wの計画と重なったため、簡単に新たなデータの記入欄を加えることができました。 同様の運の良い偶然は別の条件についても起こりました。その条件とは、エビトロール漁が海底生態系に及ぼす影響をより詳しく把握するための調査を、認証取得後2年以内に行なうようこの漁業に求めたものです。影響は低次元であると考えられていましたが、目的は、万一、顕著な影響が検知された場合、どのように生態系を回復するか、その方策を見つけることにありました。実は、ODF&Wは海底トロール漁が禁じられた区域の内外における水底への影響を探るROV調査(無人潜水艇による)の計画段階にあったのです。 「前進はしていたのですが、私は認証が助けになったと思っています。そのおかげで、局は『私たちはこれがやりたい』と言いやすくなったのです。私が思うに、MSCは個人に物事を遂行する手段をさずけてくれます。それによって政府機関などがすでに考えているかも知れない計画に、勢いを与えるわけです。考えていない場合は、彼らに強く働きかけ、可能なら自らが進み出て、ことがなされるようにするのです」と、Pettinger氏は言います。 何よりも、認証取得によって将来に対して少し楽 観できるようになりました。

「MSCは私たちに、来年もこの商売を続けられるという安心感を与えてくれます。第三者認証は今や避けて通ることのできない存在ですから。買物客はただの野菜が欲しいのではなく、オーガニックだと認証された野菜が欲しいのです。誰もが何か特別なものを探しており、その何かをMSCが提供してくれるのです。皆MSCに賛同しています」

認証取得日 2007年12月6日魚種 オレゴンピンクエビ

(Pandalus jordani)漁法 オッタートロール漁国 アメリカ操業区域

アメリカ西海岸のオレゴン、ワシントン、カリフォルニア各州沖合いの太平洋

漁獲量 11,570トン(2008年度陸揚げ)

「私がMSCを好きなのは、基準を定めてくれるからです。そうすることで、私たちの業界に何か固守するものを与えてくれるわけです。NGOの中には、絶えず基準が変動し、それを満たすのが無理なものもあります。MSCの場合、基準は厳格ですが、いざ認証を取得すれば、自分たちがやっていることが正しいとわかるのです」

オレゴントロール委員会ディレクター、Brad Pettinger氏

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「NGO、MSC、および流通に携わる全てのサプライヤーによるすばらしい協力例の結果として、MSCのマーチェスを顧客の皆様にお届けできることをたいへん喜んでおります。これは、水産製品の品揃えをより持続可能なものにしようという私たちの取り組みにおける、大きな一歩と言えるものです」オランダ、Super de Boer スーパーマーケット、持続可能性マネージャー、Caspar Woolthuis氏

ⓒ Saskia van Osnabrugge

ⓒ Saskia van Osnabrugge

Astrid Fiske北海ニシン漁業

 自然発酵した、塩漬けの、生で食べられるマーチェス(乙女の)ニシン――この漁業が水揚げする種類―は、オランダ、ベルギー、ドイツでは珍味とされています。「白子も卵もな いアブラニシンです」と、Werner Larsson氏は言います。氏は、雌の卵巣が成熟する時期にだけこのニシンを獲るスウェーデンの漁業会社、Astrid Fiskexportのマネージャーです。「これは春産卵種なので、1年のうちほんの短期間、5月半ばから7月にかけてだけ漁獲します」とのことです。

負荷の小さい漁業 巻き網は魚群の周りに「配置」され、巾着の紐のように徐々に引かれます。漁獲を中水層だけで行なうことで、海底との接触をほぼ皆無にして海底への損傷を避け、

「巾着」が閉じられる間も、魚は網の中で泳ぎ続けます。漁具の様式も、MSC認証機関がこの漁業は負荷が小さいと納得した理由の一つでした。 意外なことに、マーチェスニシン自体の習性も、この漁業を持続可能にしています。この魚は、まさに求められている種類である未産卵のニシンだけで構成される混じりけのない魚群を形成する傾向があり、誤って網にかかるサバはごくわずかです。混獲の発生率は2パーセントに満たず、投棄は皆無となっています。豊富な経験に加え、ソナーや電子魚群探知装置を用いることにより、Astrid Fiske漁船団

(長さ36mから45mの近代的漁船3隻)の船長達は、正確な魚種、密度、サイズの魚群だけを対象にすることができます。 脂肪の多いマーチェスニシンは、小さなエビを食べているのでしょう、腹部を押すとその「赤い餌」が噴き出すのです。

「MSCの審査を受けている間も、私たちはすべてのリリースを記録していました」と、Larsson氏は言います。サンプリングをして、それらの魚が小さすぎるものやマーチェスではないのがわかると、網から逃がすことを指してのことです。「今、私たちは監査を行なっていますが、認証取得以後、一度の戻しもありません」とのことです。しかし、この処置は北海のニシン漁業では共通のものであるところから、認証の条件の1つとして、Astrid Fiskeには、今後リリース魚の生存率に対する調査に対し全面的に協力し、科学オブザーバーを同行させることについて積極的に議論

を行なうことが求められました。「船長達は、いつでも独立の観察者を迎え入れますよ」と、Larsson氏は言います。 「必要とされた措置はわずかでしたが、それによって、私たちが子供たちやそのまた子供たちのために持続可能で責任ある行動をとっていることが証明できるわけです」と、氏は付け足します。

新たな市場 MSC認証を取得する最初のマーチェスニシン漁業として、Astrd Fiskeは豊年を迎えることができました。「MSC認証は、私たちに新たな市場をもたらした存在です。今、私たちは、2、3の新しい卸売業者と取引をしています。彼らの顧客はMSC製品を求めており、そのおかげで、去年より多くの魚が売れました」と、Larsson氏は言います。 氏によれば、特にオランダでは、スーパーマーケットから要望が押し寄せているとのことで、その多くが2011年までに水産物の取り扱いををMSCのものに限ると宣言しています。「彼らに販売していくことができるのか、できないのかという問題なのです」と、Larsson氏は言います。「選択の余地はありません。今では、他のすべての漁業が私たちに続いているのです。数年後には、MSC認証漁業かどうかを問うことすらなくなっているでしょう。すべての漁業が取得していなければならない、ごく当たり前のことになっているでしょうから」

認証取得日 2008年6月9日魚種 タイセイヨウニシン

(Clupea harengus)漁法 浮魚対象巻き網国 スウェーデン操業区域

北海北部および中央部、ノルウェー南西岸からシェットランド諸島ならびにスコットランド北東岸までの一帯

漁獲量 5,000トン

「私たちは船長達に言いました。『これをしなければ、つまり、責任ある行動を取り、MSC認証を受けなければ、将来一切魚を売ることができなくなりますよ』と。多くののスーパーマーケットがMSCの魚しか買わないと言っています。自分の鼻先だけを見ていてはだめなんです。何年も先を見据えなくては」

スウェーデン、Astrid Fiskexportマネージャー、Werner Larsson氏

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「クーロンには、オーストラリアで最良の操業を行なう漁業があります。これは誇るべきことであり、他の漁業が後に続く規範ともいえます。MSCの認知により、環境的に安全なオーストラリアの水産物を購入する際の不確実性をいずれ払しょくしてくれるでしょう。」オーストラリア、Rockpool レストラングループ、シェフ兼ディレクター、Neil Perry氏

ⓒ Leonard Fäustle

ⓒ Randy Larcombe

南オーストラリア・湖とクーロンの漁業

 Ngarrindgeri―オーストラリア先住民族の1つで、湖とクーロン周辺のいたるところに考古学上の足跡を残すヤラルディの子孫―の中心地では、景観に劣らず地名 も 心 に 迫 る も の が あ りま す……Narrung、Mundoo島、Tauwitchere島、ペリカンポイント、スネークピット。

環境に調和した管理 2つの湖(アレクサンドリア湖とアルバート湖)、および幅3kmのクーロン礁湖は、140kmの細長い砂丘によって海と隔てられ、オーストラリアでも極めて重要な湿地の1つをなしています。1966年に国定公園に指定され、1985年には国際的に重要なラムサール条約登録湿地となっているその繊細な生態環境は、マレー川の淡水と海水の混じり合った汽水に依存しており、この漁業は3つの異なる生態系において操業しています。 「ある魚種が、例えば淡水域で獲れない時期には、これはゴールデンパーチのことなのですが、漁師たちはムロウェイやマレットのいる河口域に移動することができます」と、Southern Fisehrman’s 組合の組長、Garry Hera-Singh氏は言います。さらに「ピピを獲りに行く者もいます」と付け加えますが、これはザルガイのことで、南大洋海岸の波打ち際で手掘りされており、漁獲高は、他の魚種がそれぞれ年間およそ100トンであるのに対し、600トンに及びます。 このローテーション式の漁獲が、この漁業を持続可能にしている一番の理由です。

「漁師たちはどれか1つの魚種をとことん獲るということはしません」と、Hera -Singh氏は言います。二番目の理由として、ライセンスが伝統的な負荷の低い漁法を用いる32名の漁師にのみ発行されていることが挙げられます。彼らにとっては、魚にとってと同様、このローテーションが安定した未来への保証になるのです。

「市場に1つの魚種があふれ、値段が下がれば、彼らは別なものに切り替えることができます。そうすることによって、量的にはそれほど豊富ではなくとも価格は高いといった別の製品に注いだ努力に相応しい収益が得られるわけです」と、Hera-Singh氏は説明します。

経済利益 認証取得以後、収益の確保が問題に

なったことはありません。「私たちは大概、MSCラベル付きの水産物に30から50パーセントのプレミアムを要求します。オーストラリアではMSC認証製品がごく少ないため、これは平均よりはるかに高い値です」と、Hera-Singh氏は言います。この12ヶ月間で、需要は「相当な増加」を見せたとのことです。主としてレストランやホテルからの要望で、彼らの顧客が持続可能な水産物を突然要求するようになったのです。 「オーストラリア中から問い合わせの電話があり、『どんな製品があって、値段はどのくらいになるんですか?』と訊かれます。私たちの漁獲量はあまりにも少ないので、この漁業ではプレミアムを支払う準備のあるニッチ市場に重きを置いていると答えることができます」と、Hera-Singh氏は言います。 漁業やその関連業務(加工、運送、小売り、フードサービス)で100人の雇用が確保され、世帯収入の60パーセントを占める地域社会に、MSC認証は明らかな経済利益をもたらしました。しかし環境への貢献はあったのでしょうか?「この漁業は以前からよく管理されていて、私たちは持続可能性だけを念頭に、数十年にわたって絶え間なく漁獲方法に改良と修正を加えてきました。混獲種や稚魚に影響を及ぼせば、未来はなくなることがわかっていたのです。欠けていたのはそうした影響に関する定量的なデータでした。私たちの船には投棄物や混獲物を数える者が乗り込む必要があったのです」と、Hera-Singh氏は言います。

調査と資金援助 そこでこの漁業は、混獲調査実施のための資金援助を申請し、漁業研究開発公団

(FRDC)から2年間の補助金を受けることになりました。「公団が私たちへの援助に関心を持った1つの理由は、私たちがMSC認証取得のために混獲調査を求めていたことでした。この連邦調査機関は、

『オーストラリアの小さな共同体型漁業にとってすばらしい率先である』と述べています」と、Hera-Singh氏は言います。 認証が始まったとき、この調査はすでに進行中でした。しかし、そこから得られるデータによって、この漁業は認証の条件を1つ満たすことができるのです。その条件とは、「混獲の構成と程度に対する証拠を提示」し、「FRDCの調査によって決定された主要混獲種の」監視プログラムを設けるというものでした。この2者は共生関係にあり、互いに利益をもたらしているのです。

認証取得日 2008年6月13日魚種 「キャロップ」ことゴールデンパーチ

(Macquaria ambigua)、イエローアイマレット

(Aldrichetta forsteri)、ムロウェイ(Argyrosomus hololepidotus)、

「ピピ」ことザルガイ(Donax deltoides)

漁法 網(メッシュ、スウィンガー、ホーリング、ドラム)漁ならびに貝掻き漁、手釣り糸漁、延縄漁

国 オーストラリア操業区域

南オーストラリア、クーロン礁湖、アデレード付近のアレクサンドリア湖とアルバート湖および隣接する南大洋沿岸水域、グールワビーチからキング ストン 埠 頭 ま で の 南 に150kmの区間

漁獲量 n/a

「現実には、欧米型漁業のほとんどは生物学や持続可能性の基準によって管理されていないにも関わらず、一部のセクターが他よりも大きな利益を得られるようになっているのです。私たちがMSC認証を求めたのは、何より漁業管理の政治化を排除して、より純粋なあり方を確立したかったからです」

Southern Fisherman’s 組合・会長、Garry Hera-Singh氏

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認証取得日 2008年6月14日魚種 北海セイス(シロイトダラ)お

よび北東北極海セイス(シロイトダラ)(ともにPollachius virens)

漁法 トロール、刺し網、巻き網、機船底曳網、手釣り漁

国 ノルウェー操業区域

北海;およびノルウェー海内、ノルウェーの排他的経済水域内

漁獲量 296,000トン(両漁業合算)

「2008年にノルウェーのセイスがMSC認証を取得した後、需要が大きく増加しました。今でも供給が追いついていない状況です」Aker Seafoods、販売・マーケティングディレクター、Morten Hyldborg氏

ⓒ Fiskebatredernes Forbund

ノルウェー・北海/北東北極海のセイス(シロイトダラ)漁業

 この2つの漁業だけで、25万トンをはるかに超えるセイスを水揚げします。ノルウェー水産物輸出協議会は、この魚を「魚好きのための魚」、そして「熱烈なシーフード愛好家の間で堅く守られた秘密」と表現しています。今年の初め、世界的経済危機によってノルウェーの白身魚の価格が急落したときにも、セイスはその流れに抗いました。ノルウェー漁船船主協会のホワイトフィッシュ部門担当者、Webjorn Barstad氏は、「実は価格は上がり、輸出業者からも非常に良い反響が続きました。今も、当時と同様、MSC認証セイスは品薄で十分に提供できない状態です」と語ります。 どこまでがMSCラベルによるもので、どこまでが倹約の結果なのかは、議論の余地がありますが、「セイスもまた安い魚です。この不況の時代に生き残るのは、セイスやニシンといったより安価な魚ですから」と、Barstad氏は言います。

生態学的な利益 認証による生態学的な利益はよりはっきりしている、と氏は推定します。資源は、ICES(国際海洋探査委員会)が承認する戦略により持続可能に管理されてはいたとしても、国レベルでの管理としては一部でさらなる改善の余地が見られます。「ノルウェーでは、セイス漁業における混獲、特にPET種(保護対象あるいは絶滅危惧種)についての記録や分析が体系的な方法で行なわれていません」と、Barstad氏は言います。サメ、ガンギエイ、カレイ種、および海鳥の混獲は「低度であると報告されている」と、2008年に認証機関が報告しています。この根拠とされているのが、非対象種が逃げるのを助ける魚種選別格子と大きなメッシュサイズの使用です。しかし、データの収集法が原因で、混獲に関する具体的な情報が圧倒的に不足していました。 「ノルウェーでは投棄禁止法がありますので、いずれにしろ水揚げ記録を見れば捕獲物の内訳はわかるでしょう。また、海洋調査研究所に代わってサンプリングをする沖合漁船20隻と沿岸漁船20隻からなる「基準船団」もあります。これで捕獲物の内訳はかなり把握できるはずですが、商業的な関心の薄い魚種を記録する確かな統計的な手段はありません」と、Barstad氏は補足します。 1つのMSC認証条件として、12ヶ月以

内に、混獲をより科学的に評価する仕組みを、特にPET種の混獲が懸念される場所において、開始することが求められました。

「それが、現在、私たちが取り組んでいることです。MSC審査の直接的な結果として、ノルウェーの管理システムは、間違いなく改善されることでしょう」と、Barstad氏は言います。 また、冷水性珊瑚礁へのセイス漁業の影響に関する条件も出されました。3年以内に、この漁業は、トロール船が禁止された

「閉鎖区域」における珊瑚構造に及ぼす損傷の評価を完了し、刺し網漁、巻き網、手釣り漁による悪影響の有無を確かめなければなりません。

珊瑚域のマッピング 「海 洋 調 査 研 究 所 の 協 力 を 受 けるMareanoプログラムにより、すでに海底の広大な範囲が調査されています」と、Barstad氏は言います。「私たちは、トロール船禁止以降、網や縄といった固定漁具による珊瑚礁の枯渇、減少、損傷が生じているかどうかを確かめるため、この研究所に調査船の航路を変更して珊瑚の閉鎖区域に向かわせるよう提案しています」と付け加えました。 「私たちはさらに、漁業者から既知の珊瑚分布に関する情報を収集し、それを研究所に伝えることを、MSC行動計画書に記しました」と、Barstad氏は説明します。

「私は船長グループと話し合って地図を作成しました。今、ノルウェーの漁船はすべて、常時更新される電子海図を利用しています。すべての珊瑚域が特定されれば、誤って衝突することもなくなります。沈没船や石油・ガスの施設を回避することができるなら、珊瑚礁だって回避できるはずです。これらすべてが、MSC認証に付された条件から直接発展したものなのです」

「MSC認証の条件を満たすことで、非常に良好な効果をもたらしました。世界でも最高水準にあるノルウェーの管理システムでさえ、確実に改善されるのです」

ノルウェー漁船船主協会、Webjorn Barstad氏

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58 ⓒ David Linki

ⓒ James Simpson / MSC

「このスコットランド北海のニシン漁業へのMSC認証に対し、スコットランドの漁業界は祝福されて然るべきです。すべての漁業はよく管理された持続可能な資源に依存しており、スコットランド漁業とその地元の今後の繁栄にとって、MSC認証は不可欠なのです」スコットランド首相、Alex Salmond

Scottish Pelagic Sustainability Group・北海のニシン漁業

 これが本格的なイギリス漁業の姿です。長さ60~70mの近代的トロール船が25隻、冷凍海水のタンクが備え付けられ、その中に漁獲物が手作業を介さず網から直接汲み上げられます。ソナーを装備し、北海の遠域でニシンの魚群を追い、帰港すると、6つある工場の1つにそれを降ろします。漁獲物はロシア、ドイツ、ウクライナ、西アフリカに輸出されます。このようなことを受けて、この船団は批判にさらされてきました。 「私たちにとってMSC認証は、そういった批判が見当違いであることを明らかにする手段でした」と語るのは、Scottish Pelagic Sustainability Group(SPSG)の会長、John Goodlad氏です。SPSGの事務局長、Derek Duthe氏は違った表現をします―「私たちは自らが持続可能であるといつまでも主張することができますし、それを信じるかどうかはそれぞれの判断です。でも第三者の認証機関が登場してそれを請け合えば、その主張には信頼性が付加されます」。

漁獲の精度を高める近代技術 では何がこの漁業を持続可能にしているのでしょう?まず、近代的な電子機器であるソナー、漁網と漁獲の監視装置によって、漁獲方法がより精密になりました。「私たちは1種類の魚を捕獲対象にしていますが、ニシン、サバ、ブルーホワイティングではそれぞれ漁期が異なります。港を出るときには、どの魚を獲ろうとしているかわかっているのです」と、Duthie氏は説明します。 ソナーはニシンの魚群をサバ(浮き袋がない)と見分けることができるため、混獲率は低く、MSCの認証報告書では約2パーセントとなっています。その大半がサバであり、2009年1月に認証を取得したSPSGのサバ漁業に送り込まれます。「サイズ識別装置(エコーの反射を利用して魚群中の魚の大きさや魚種を判別する)」といった技術への投資により、選択性が向上しました。水揚げされた魚群に混交があれば、船長はそれを無線で伝え、他の漁船が近寄らないようにします。 EUの規則により一部の漁船に乗り組んでいるオブザーバーは、鯨類――クジラやイルカなどの海洋哺乳類――の混獲は皆無であると述べています。中層トロールは海底に接触しないため、海底を損傷す

ることもなければ、タラ、ハドック、ホワイティングといった底生種を獲ることもありません。

資源増強のための行動計画 とは言っても、この漁業が認証を取得するには、いくつかの条件を満たさなければなりませんでした。たとえば、北海で漁獲するニシン資源回復のための行動計画を、同じくMSC認証取得ニシン漁業である遠洋冷凍トロール漁船協会(PFA)とともに作成することが求められました。

市場シェアの維持 「MSC認証を取得するのは、何よりそれが正しいことだからです。今、サステーナビリティは大きな注目を浴びており、産業としてその方向に動かなければ、私たちは世界の歩みから外れてしまいます」と、Goodlad氏は強調します。漁獲物すべてにMSCラベルを表示することは、マーケティングを考えてのものでもあると氏は言います。「自分達がやらずに、他の誰かがやっていたら、私たちは自らの市場を失うかも知れないのです」 これまでのところ、一夏の漁獲シーズンを経て、価格プレミアムの兆しは見えていません。ロシア、ウクライナ、西アフリカでは、MSCは「今のところあまり意味がありません」とGoodlad氏は言います。この漁業の売り込み先である、「小さいながら重要な」市場では、小売り業者がMSCラベルの重要性を認識し始めているということです。 「認証を取得する前でさえ、一部のドイツの顧客はこう言っていました。『我々は本当にMSCでやっていくつもりなんです。認証を取得できる見込みは本当にありますか?』と。あると答えると、『すばらしい。で、いつになります?』と言われました。2つのことがとてもいい具合に噛み合いました。私たちがちょうど取得を完了しようとしていたときに、既存の市場もそれを望んでいたというわけです」と、Goodlad氏は言います。

認証取得日 2008年7月9日魚種 北海ニシン

(Clupea harengus)漁法 浮魚対象トロール漁国 イギリス操業区域

主に、北海の北部および中央部、EUとノルウェーの排他的経済水域(EEZ)内におけるBuchan 系群ニシン

漁獲量 15,000トン(2009年)

「近代的で、技術的に効率がよく、生産性が高くて、儲かる―それでいて持続可能、これらは矛盾することではありません。それが認識されたことこそが、MSCがもたらしたこの業界への大きな成果なのです」

Scottish Pelagic Sustainability Group、会長、John Goodlad氏

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ⓒ Otis Bath

ⓒ The Navigator, 2009

「Clearwater社は、環境管理における自らの取り組みを誇りに思います。カナダのホッコクアカエビ漁業で獲られた私たちの冷水性エビ製品に、MSCの名を冠することを求めるのは、Clearwater社の持続可能性への取り組みにおいて当然のことでした。認証取得の商業的価値は、新規市場への参入、顧客や消費者の認識や需要から明らかです」Clearwater、ビジネス開発マネージャー、Dennis Coates氏

カナダ・セントローレンス湾/Esquiman海峡のホッコクアカエビ

 1992年、マダラのトロール漁船が船倉に氷だけしかない状態でグランドバンクスから戻るようになったとき、そこに希望の光を見出すことは困難でした。マダラは商業的絶滅に至るまで獲り尽されていたのですが、その枯渇により、餌となっていたホッコクアカエビが激増し、そのエビがニューファンドランド島で最も価値ある魚種の1つとなったのです。

予防的管理 「この資源量の規模から判断すると、私たちの漁獲率は控えめだと言えます」と、ニューファンドランド、セントジョンズの水産物生産者協会代表のDerek Butler氏は言います。「資源量が拡大しても、漁獲枠は拡大していません。それが良いのです。資源に対してより貪欲にならなかったことが、私たちのMSC認証取得につながったのです」 漁獲努力量が増す一方で、漁業管理当局である漁業海洋省(DFO)は、ライセンスの制限に対して「慎重」になっていると、Butler氏は言います。「カニ漁船の3,000隻に対し、小エビを獲る船は依然としてわずか300隻しかありません」と、氏は付け加えます。すべての船が、ノードモア格子を装着したメッシュサイズ40mm以上のオッタートロール網を使用しています。エビはこの格子を通り抜けますが、魚は設置が義務づけられている上方の脱出パネルのほうへ行くようになっています。これは、ほとんどのエビ漁業で最大の問題となっている魚の混獲を低減するものです。また、ボビンあるいはゴムの円盤がグランドロープ(沈子綱)に取り付けられており、網の前端が海底を避けて「飛ぶ」ようになっています。そのため、ヒラメ・カレイ類が接触しても、網の入り口の下を通り抜けられるわけです。トロール漁で混獲が5パーセントを超えたら、漁船は少なくとも5マイル移動しない限り漁獲を再開することができません。 こうした措置によって、この漁業はよく管理されているとされましたが、認証取得の条件としていくつかの条件を満たさなければなりませんでした。「その1つは、甲殻類の漁業は変動的なものであるため、資源量が低下したらどうするかを管理計画で示すことでした。低下したら、どのように漁船の数を減らすのか、ということです」と、Butler氏は言います。DFOにはより広域の政策目標がありましたが、「それ

は、資源量の低下に応じて漁獲努力量を低減する措置が取られていることを証明するために、明確化する必要がありました」―Butler氏はこの明確化を歓迎すべきものと考えています。 「マダラのときにはこれが欠けていたのです」と、氏は悔やみます。「マダラのころにMSCが存在していたと仮定してみてくださいよ。ある時、特定の海域で漁獲が減少しているのに気づき、『どのような管理でこれに対応しますか?』と言ってくれたことでしょう。そしてそれが行動計画書に書き込まれたことでしょう。すべてが同じだったとして、もしMSCがその時に存在していたら、私たちがマダラ漁業を失うことにはならなかったのかも知れません」

既存市場の保持と新規市場の拡大 しかし、認証取得を求めた理由は単に環境的な理由だけはなく、商業的なものでもありました。この漁業の漁獲はその半分以上が常にイギリス向けに販売されてきました(現在は約80パーセント程度)が、当地では2004年に、エビ生産者がこの流行を察知したのです。「イギリスでは、大手の小売り企業が、『MSC認証製品しか我々の棚には置きません』と言っていました。締め切りはすぐそこに来ていました。私たちのエビ生産者は、『我々の製品の扱いをやめるところが出てくる前に、このラベルを獲得すべきだ』と言ったのです」 市場を保持するとともに、メンバー達はMSC認証取得の結果として、市場を拡大させています。「ラベル獲得以来、以前は私たちの製品を扱っていなかった市場から関心が寄せられています」と、Butler氏は言い切ります。 詩的な表現をすれば、このラベルが表しているものは、歴史における一時代の終焉であり、同じことが繰り返されないための約束なのです。「MSCはWWFとユニリーバによって、グランドバンクの底生魚の枯渇を機に創設されました。ニューファンドランド・ラブラドール州で、私たちは1つの漁業の認証取得を遂げ、その漁業は世界に向けて、『私たちの業績は具合の悪い時期もありましたが、今はより良くやっています。今、私たちの漁業は優良であり、それを消費者に伝えられる証がここにあります』と言えるようになりました。自ら認証を取得したことで、私たちは原点へと還ったわけです」と、Butler氏は言います。

認証取得日 2008年8月5日;2009年3月30日

魚種 ホッコクアカエビ(Pandalus borealis)

漁法 オッタートロール国 カナダ操業区域

大西洋、大西洋のカナダ水域、セントローレンス湾北部とセントローレンス川河口

漁獲量 68,000トン;8,867トン

セントローレンス湾Esquiman海峡のホッコクアカエビトロール漁業は、認証審査が重複する区域における活動を合同化する調和過程によって成立したものです。

「近年における、私たちの漁業の最も注目すべき成果と言えば、何よりMSC認証を取得したことです。この取り組みを支えた人々がこの成功を振り返ったとき、それは誇るべき遺産となっていることでしょう」

ニューファンドランド、セントジョンズ、水産物生産者協会、Derek Butler氏

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「効果的で持続可能な漁業管理には、漁業者だけでなく、消費者の参画も必要です。京都府機船底引網漁業連合会は、長年持続可能な漁業管理を行なってきました。MSC認証よって、この漁業の持続可能な管理の取り組みが理解され、消費者は水産物購入における最良の環境的選択が可能になります。そしてその選択が持続可能な漁業管理につながることになるのです」京都府立海洋センター、主任研究員、山崎淳博士

ⓒ Duncan Leadbietter / MSC

ⓒ Tom Seaman / Fishing News International

京都府機船底曳網漁業連合会・ズワイガニ/アカガレイ漁業

 昨年のMSC認証取得達成に際し、京都府機船底曳網漁業連合会(KDSFF)の代表理事、川口哲也氏は次のように述べました。 「私たちの目的は、豊かな海を将来の世代に引き継ぐことです。京都の海への愛情を持って、今後も機船底曳網漁業を改善してまいります」 これは情緒的に聞こえますが、この船団が拠点とする315kmに及ぶ海岸線には、神秘的なほど深い愛着を呼び起こすものがあります。京都府の北方に位置し、その中間点は、経ヶ岬の険しい断崖になっています。西は砂丘と対馬暖流に洗われる岩礁があり、東は国定公園の若狭湾となっています。

負荷の小さい漁業 KDSFFの15隻の漁船が操業するのは、京都府の海岸から約50kmの地点からの、いわゆる京都沖合漁場です。各漁船は、海底の生態系に影響を及ぼす可能性のある重い鎖を使用しない漁法、すなわち機船底曳網で漁獲を行ないます。 底曳網は非常に長い曳綱によって綱が並行になるまで曳かれますが、これは網がいっぱいになったことを示します。これには1時間から1時間半かかりますが、トロール漁業とは異なって、曳網時間はそれを超えてはなりません。曳網時間が短いほど漁獲物の損傷が少なく収益が多いと言われているのです。このことは、曳網時間と網の形状に関する規則の遵守を経済的に促しています。 網の大きさ、目合、コッドエンド(網の後部)は、対象がカレイかカニかによって異なります。混獲を最小限に抑えるため、京都府立海洋センター(KIOFS)は、選別底曳網を開発しました。これは、傾斜パネルを用いてカレイを始め大型の魚類だけを残し、ズワイガニやヒトデ、イソギンチャク、エビは海底に戻すというものです。 選別底曳網は2006年から使用が義務づけられており、また他の自治体によって、漁船の許可証、禁漁期、禁漁区(生育および産卵区域周辺)などが管理されています。禁漁区では、海底トロール漁を妨げるコンクリートブロックの設置によって、ズワイガニは漁獲できません。

法による規制を超えて 1999年、ズワイガニの個体数が減少し

ていたことを受け、KDSFFのメンバーは自主的に規制を強化することを選びました。これには、繁殖経験のない未成熟の

「甲羅の柔らかい」雄は、甲羅の幅が100ミリのものを最小限度とすることなどが含まれます。これを一例とする自主規制は、同じくこの区域での操業が許可されている他の2県の漁船への法規制を遥かに超えるものとなっています。MSCの認証取得以来、認証機関の提案に直接促され、さらなる自主的措置がとられているのです。濱中氏は、「ズワイガニ資源の回復をさらに進めるため、私たちは、センター

(KIOFS)の指針に従って、試験的に甲羅の柔らかい雄の漁獲をすべて禁止しました。さらなる資源保存へ向けた大きな前進です」と、話します。

資源回復計画 2003年に日本政府はアカガレイとズワイガニの資源回復計画に着手しましたが、MSCはそれに新たな弾みを与えました。認証の条件の1つは、2009年9月までに、ズワイガニの完全な回復への期限を確定することでした。「この種のライフサイクルを考えれば、およそ10年が妥当だと思われます」と濱中氏。それまでは、予防措置を基本とした回復計画に従って漁獲が行なわれることになります。 京都のこの漁業にとって、10年という期間はそれほど長いものではありません。アカガレイは1340年代、ズワイガニは1800年から漁獲されてきました。

「MSC認証の獲得に触発されて、漁師たちは環境に配慮した漁業の向上と強化に一層努めることになるでしょう」と濱中氏。そして実際のところ、このことによる商業的利益が既に生じてきているのです。認証取得直後に、日本の大手小売のイオンがアカガレイを発注し、地元の生協もそれに続く見込みです。

認証取得日 2008年9月19日魚種 ズワイガニ

(Chionoecetes opilio);アカガレイ

(Hippoglossoides dubius)漁法 機船底曳網国 日本操業区域

日本海における日本の排他的経済水域内

漁獲量 ズワイガニ91トン(2009年);アカガレイ220トン

「漁業が環境に配慮した漁法によって漁業資源の保存と増加に努めていたとしても、それを消費者に伝えるのは困難なことです。ですから私たちはMSC認証の取得を目指すことにしたのです」

京都府機船底曳網漁業連合会事務局、濱中貴志

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「Nordic Seafoodは、セントローレンス湾のホッコクアカエビ漁業のMSC認証取得を喜ばしく思っています。近年、私たちは、持続可能な水産物に対する需要の伸びを目の当たりにしてきました。私たちは、MSC認証が、ホッコクアカエビの明るい未来と強い需要を保証する、大きな一歩であったと感じています」Nordic Seafood A/Sの販売担当ディレクター、Lars Olsen氏

ⓒ Daniel Suddaby / MSC

ⓒ Daniel Suddaby / MSC

セントローレンス湾/Esquiman海峡のホッコクアカエビ漁業

 この漁業の認証取得からわずか6ヶ月後の4月、海洋科学者が、セントローレンス湾の水域に出かけては、エビトロール漁が海底に及ぼし得る影響の調査の一環として、泥の標本を採集していました。地元の政府と、MSCラベルの使用を認められた企業7社が共同出資するこの調査では、海底部における生物の数と多様性を調べ、次いでトロール網がそれにどう影響するのかが確認されます。

環境への影響を調査する 「MSC認証漁業となっていなかったら、現在、この調査を企業に依頼して、漁場に影響を及ぼしているかどうかを確かめようとはしなかったでしょう」と、クライアント組織の1つであるL e s P e c h e r i e s Marinard Ltdのマーケティング担当副社長、Jules Pepin氏は語ります。この漁業の得点は高かったのですが、この率先した動きは、MSC認証に付けられた条件による直接的な結果の一つです。この漁業はすでに、所管政府当局であるカナダ漁業海洋省(DFO)により、極めて良好に管理されていました。漁業は許可制で、100隻前後の小型ボートに許可証が発行され、資源状態を考慮に入れた各区域のTAC(漁獲可能量)は1年ごとに見直され、40mm以上の目合の施行(未成熟の小エビを逃がすため)、および、非対象種の混獲を完全に排除するためノードモア格子と呼ばれる分別装置の使用がトロール網に義務づけられています。既存の管理計画には、ノーザンウルフフィッシュやスポッテッドウルフフィッシュなどの絶滅危惧種を海に戻すことも定められています。 「私たちの漁法は適正ですが、この調査によって漁場がさらに守られることになります」と、Pepin氏は言います。まずISMER

(リムスキーにあるケベック大学の海洋科学研究所)の研究者がDFOの科学者と協同で調査に当たり、2011年までには、DFOケベック支局が結果について報告会を開きます。「今のところ、私たちが漁場に影響を及ぼしていないと証明することはできません。もし影響があるということになれば、必要な是正措置を講じます。軟らかく堆積物の多い海底域を避けるために多少の変更が必要となるかも知れません」と、Pepin氏は言っています。 別のクライアント組織、L’Association Cooperative des Pecheurs de L’Ile

Ltdの販売担当部長、Serge Hache氏は、変更の必要はほとんどないものとみています。「トロール網に取り付けたScanmar社のセンサーやカメラを用いて、すでに私たちは海底への損傷が最小限であることを科学的に証明しています。必要なのは、今後2年間でより具体的なデータを出すことです」と、氏は言います。

新規市場への参入 漁業認証を失うわけにはいきませんし、条件を満たすことが商業的な便益につながります。「新規の顧客から、出荷品にあの小さな青いラベルを表示したいという電話がかかってきます。認証取得は明らかに新たな売り上げをもたらしました。認証取得の2ヵ月後、あるバイヤーが、箱やありとあらゆる物にラベルの付いたMSCのエビだけが欲しいと言ってきました。もし提供できなかったら、そのバイヤーは他へ行ってしまったことでしょう」と、Hache氏は言います。 この漁業の小エビの85パーセントはヨーロッパ向けに販売されますが、ヨーロッパでは多くのスーパーマーケットがMSC製品のみしか扱いません。Hache氏は、「2006年、世界最大の小売り企業であるWalmartが、MSCへの強力な関与を表明しました。雪玉が転がり始めたようなものです。私たちは強制される前に、今そこに加わりたいのです。」と言っています。 天然のエビが、アジアで安価に生産された養殖物に押されている市場でも、MSCラベルは力になっています。「天然の冷水性のエビを、この方面から売り込むことにしたのは非常に重要な決断だったと思います。「この魚は持続可能で適切に管理されていると証明された漁業で獲られた水産物ですとラベルに記載されていることも良いですね」と、Hache氏は話します。

認証取得日 2008年9月23日;2009年3月30日

魚種 ホッコクアカエビ(Pandalus borealis)

漁法 オッタートロール漁国 カナダ操業区域

セントローレンス湾、東部カナダ沖

漁獲量 28,800トン;8,867トン

セントローレンス湾Esquiman海峡のホッコクアカエビトロール漁業は、認証審査が重複する区域における活動を合同化する調和過程によって成立したものです。

「イギリスの顧客にとって、MSC認証は必須なのです。MSC認証を受けていないものは買ってもらえません。今では、デンマーク、ノルウェー、アメリカからも同じ要望が寄せられています。ゆっくりではあっても、確実に変化が起きているのです」

Les Pecheries Marinard Ltd、マーケティング担当副社長、Jules Pepin氏

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「ドイツは世界最大のMSCラベル製品市場であり、持続可能な漁業に大きく貢献しています。セイス漁業のMSC認証取得を通して、クックスハーフェンのKutterfisch-Zentraleは、経済的成功と海洋生態系の保全が両立できることを証明するドイツで最初の漁業となったのです。私が望むのは、消費者が、持続可能な水産物を選択することによって、これを支援してくれることです」Fishes Wholesale BV、最高経営責任者、Bart van Olphen氏

ⓒ Marnie Bammert / MSC

ⓒ Marnie Bammert / MSC

ドイツ北海のセイス(シロイトダラ)トロール漁業

 「最終的には、すべてを商業的観点から見なければなりませんが、長期的展望も考慮しなければなりません」と、この北海の漁業で獲られたセイスを加工するドイツ企業、Kutterfischの統括責任者、Jorg Petersen氏は言います。氏の見解によると、両者は互いに補完し合うものです。先を見据えた海洋保全の対策は、費用の削減にもつながります。

環境への影響の最小化 この見識がなければ、氏の会社がこの漁船団に投資したのはすべて環境への熱意によるものと思われたかも知れません。氏は、「私たちは、軟底トロールドアを試行しました」と、海底との接触をほぼ皆無にして、生態系への影響を最小限に抑える新型の用具を指して言います。さらに、漁獲されるセイスの大きさを決めるメッシュサイズの問題もあります。「EUの最小メッシュサイズの規定が100mmだったのに対して、認証取得の前からもう何年も私たちのサイズは125mmでした。漁師たちは、『小さい魚は獲りたくありません。それは次の世代となるものなのに、私たちはそれを捨てているのです。大きいメッシュなら、成魚だけを獲ることができます』と言っていましたよ」と、氏は話します。 実のところ、セイスの投棄は、MSC認証報告書によると「相対的に稀」です。これは稚魚が3歳まで沿岸(トロール船が操業しない区域)に生息する傾向があるからですが、いずれにしても、このこととトロールドアの話から、環境的便益と商業的便益が重複していることがわかります。 トロールドアは、曳網中に網の口を開いたままにする2枚の重い金属板です。Petersen氏は、「いろいろな角度で使え、網に取り付けるケーブルの長さも調節できます。海底からの距離は1mにも2mにも設定可能なので、網がときどき海底に触れるようにも、まったく触れないようにもできるわけです」と言います。軟底トロールドアという名称はそれによるものです。

環境対策による生産コストの削減 デンマークのThyboron社が製造するこの装置の使用に際しては、漁具についても変更を施す必要があります。海底との摩擦が小さいため、このドアの曳網力

は少なくて済みます。「さらに、従来の素材より30パーセント軽い別の糸を使った網も導入しました。そうすることで燃料費を20~30パーセント削減できることがわかったのです」と、Petersen氏は言います。 大きいメッシュサイズの使用は、商業 的 に も 利 益 を も た らし ま し た。Petersen氏は、「獲る魚が小さいと、仕事量が増え、加工費もかさみます。10kgの魚を供給するには、100切れのフィレが必要になるかもしれませんが、大きい魚なら60切れで足りるでしょう。150~200gの大きめのフィレは、100gのフィレよりずっと売りやすいのです」と言います。

環境パフォーマンスを高める行動計画 審査において、この漁業はMSC基準に対して高得点を獲得し、認証決定に際して、条件はほとんど付されませんでした。たとえば、トロールドアや軽量漁具の試行はすでに実施中でしたし、混獲はわずか2パーセントに抑えられていました。「それでも、MSCの条件により、漁業の環境パフォーマンスを高める行動計画の実施が求められました。私たちは海底トロール漁の影響低減に努めることに同意しました」と、Petersen氏は言います。漁具がほぼ継続的に改良されているのはそのためですが、それは条件を満たすだけでなく、事業の向上にもつながっています。

経済的利益 継続的な価格プレミアムとしてではなく、新たな製品分野への参入という形の報酬がもたらされました。「私たちには冷凍フィレの契約が入るようになりました。冷凍市場はMSC認証の魚を求めているのです」と、Petersen氏は言います。大きな需要はAldiやLidlといった量販店からのものですが、それは顧客からの需要増を反映してのことなのです。 「私たちにとって、これは非常に喜ばしい展開です。それで第二の保証が得られるのですから。私たちは日によって競り値が変わる鮮魚市場にはもうそれほど頼っていません。もっと安定した基盤が得られたわけですが、これもMSCラベルなくしては絶対に起こらなかったでしょう」と、Petersen氏は言います。

認証取得日 2008年10月8日魚種 セイス(シロイトダラ)

(Pollachius virens)漁法 底引きオッタートロール国 ドイツ操業区域

主に北部大陸棚付近の深海およびノルウェー深海、ノルウェー南部とスコットランド北東部の間の北海

漁獲量 9,700トン

「4年前私たちは、『我々は、いかにして差別化を図るか』ということを自問し続けていました。消費者や顧客に、私たちが他よりも優れていることを示すラベルを得る唯一の方法が、MSC認証だったのです」

Kutterfisch-Zentrale GmbH proces-sors、統括責任者、Jorg Petersen氏

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「MSC認証、それは持続可能性に関する最高の基準であり、スコットランドのサバ漁業がこの認証を取得したことは、私たちの漁業や地域社会にとって大きな励みとなるものです。それは消費者にとっても有益なことであり、これからは、スコットランドのサバを選ぶことで、確実に持続可能な最高品質の製品を購入ことができるのです」農村・環境大臣、Richard Lochhead氏

ⓒ David Linkie

ⓒ Seafood Scotland

Scottish Pelagic Sustainability Group・北東大西洋のサバ漁業

 「私たちはサバの漁獲枠のほとんどを西部系群から獲っています」と、Scottish Pelagic Sustainability Group(SPSG)の総務部長、Derek Duthie氏は言います。北東大西洋のサバ―エリアによっては減少している資源―を獲る漁業が、どのように持続可能であるとして認証され得るのかを氏は説明しています。MSC認証報告書によれば、実際には、1960年代の過剰漁獲に対する特別な保護対策を引き続き必要としているのは北海系群(イギリス東方の水域で産卵)だけで、西部群は「良好な状態」にあります。 2008年7月に認証取得したSPSGの北海ニシン漁業と同様、この漁業もまた大規模なものです。西部系群におけるイギリスのサバ漁獲枠全体のおよそ4分の3を水揚げし(8,000万ポンド市場)、ロシア、東ヨーロッパ、日本を主な販売先としています。では、何がこのイギリス最大の漁業を持続可能にしているのでしょうか。

選択性の高い漁法 第一に、この漁業では選択性の高い漁法が用いられています。「漁船は魚群探知装置を使ってサバの魚群を探り当てると、その機材が示すとおりの深さで網を曳きます」と、Duthie氏は言います。その魚群のサバが大形のものか小さなの幼魚か、あるいは両者の混合であるか、必ずしも船長にはわかりません。そこで選択性をさらに高めるため、昨年10月にSPSGの全漁船に導入された新技術の自動ジガーが利用されるわけです。 「手釣りではサバが針に食いつけばわかります。そこで操作担当者は、針を付けた糸が魚群のいる深さに垂れるようにプログラムするのです。サバが食いついたら、機械は自動的に糸を巻き上げ、捕獲された魚は電子秤で計量されます。船長は、個々のサバの重量だけでなく、平均サイズも見ます。かご数個分のそのサンプル、そうですね、100匹を基にして、船長はその位置(又はその魚群)で網を曳くかどうか、または別の場所に移動するかを判断するのです。工場が特定の大きさの魚を求めている場合は、出漁して市場の注文に合わせることができるわけです。概して、大きなサバほど高値で売れますから、稚魚は避けて、それらに狙いを定めることができるのです」と、Duthie氏は語ります。 報告書の中で、MSCの認証機関は、『滑り抜け(slippage)』(網を開いて、大きさ

の満たない魚がポンプで海から吸い上げられる前に逃がすこと)については、他の浮魚漁業に比べて「大きな問題ではない」と結論づけています。この結論は、SPSGの漁船の幾つかに同乗し、科学的監視を行っているアバディーンの海洋研究所

(FRS)の記録に基づくものです。 また、認証取得前の10年間、スコットランド遠洋漁船団のトロール船には、自主的な取り組みとして、セントアンドリュース大学海洋哺乳類の研究部門(SMRU)のオブザーバーが乗船していました。「監視の結果、このサバ漁業のクジラ目の混獲は皆無であることがわかりました」と、Duthie氏は明言します。EU法により監視員が義務化されたとき、「政府に代わってSMRUが引き続きその任に当たり、私たちもこのプログラムに協力しています」と、Duthie氏は言います。現在SPSGには、MSC行動計画の一環として、今後の相互交流を「有効に記録」していく方法につき、SMRUとのさらなる協同が求められています。

第三者による承認 2007年、SPSGが、前身のPelagic Strategy Group(政府と業界のジョイントベンチャー)から改編されたとき、その目標の1つがMSC認証の取得でした。すでに持続可能性についての方針は設けていたものの、第三者の承認による信用性が必要でした。「私たちは世間に対し、私たちの漁業が健全であり、責任を持って漁業を行なっていることを客観的に証明したかったのです」と、Duthie氏は言います。 自動ジギングなどの取り組みは、認証の条件に直接対応したものではないと、氏は強調します。しかし、MSC審査を受けるに当たって、「認証機関がどのような項目を審査するかを知ったこと」は一つの要因にはなりました。「投棄を最小限にしなければならないのはわかっていましたが、MSCのおかげで集中的にやり遂げることができたのです。MSCは、全体的な資源状態と私たちの責任について考えさてくれたのです」と、Duthie氏は語ります。

既存市場の保持 認証を求めたもう1つの理由は、既存の市場を守ることだったと、Duthie氏は言います。「認証取得は、私たちの競争力が決して衰えることのないようにするチャンスでした」と、氏は説明します。「現在、複数のサバ漁業が審査を受けています。つまりこれは私たちの未来を保証する方法だということです。この認証を最後に取得する漁業にはなりたくなかったのです」

認証取得日 2009年1月21日魚種 タイセイヨウサバ

(Scomber scombrus)漁法 浮魚対象トロール漁国 イギリス操業区域

大西洋北東部および北海――具体的には、イギリスの西海岸、アイルランド、フランスの沖合い、西部系群が対象

漁獲量 140,000トン(2009年度漁獲枠)

「私たちのしていることが持続可能であることにはもとより自信がありましが、何事にも改善の余地はあるものです。MSCのプロセスは、私たちの目をこの漁業のある特定の側面に向けさせ、資源全体の状態と私たちの責任について考えさてくれたのです」

Scottish Pelagic Sustainabil ity Group、総務部長、Dereck Duthie氏

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「Asdaとその顧客はMSCを支持しています。MSCのエコラベルは、私たちが販売する水産物が持続可能であることを保証してくれるものです。お客様にMSC認証取得タイセイヨウダラとハドックを一番にお届けできたことを光栄に思います。この国で人気のフィッシュアンドチップスは、環境に優しい食品となったのです」ASDA、倫理・持続可能調達部長、Chris Brown氏

ⓒ Alice Blålid

Domstein Longliner Partners・北東北極海のタラ/ハドック漁業

 「何年も前から、ノルウェーの漁業資源管理は世界でも最良であると見られてきました」と、Domsteinの最高責任者、Rolf Domstein氏は語ります。Domsteinは、この2つの重要な漁業を、Ervik Havfiske延縄漁船団と連携して管理する加工輸出企業です。こうしたことをはるか遠くの消費者に伝える上で、MSCラベルは計り知れない価値を発揮しました。

新たな市場 「ノルウェーでは、私たちの漁業の管理方法は大きな信頼を得ていると思いますが、より遠くの市場に対しては、中立的な第三者による認証を得ることが非常に重要です。今、私たちは、ドイツ、オランダ、イギリスで大きな注目を集めています。Asda[イギリス第3位の小売り企業]は、それまではまったく取引がなかったのですが、認証取得後の第一週目に私たちのMSC認証タラの取り扱いを始めました」と、Domstein氏は言います。 Domsteinでは従来、フィレの安価な部位を利用した付加価値製品を作ってきましたが、それもすべて変わりつつあります。

「今後は鮮魚の販売が増え、価格もさらに上がるものと見ています。価格プレミアムは要りません。売り上げ量を増やし、より高値で売れる市場に私たちの魚を参入させることができれば、価格プレミアムがなくても収支を向上させられるのです」と、Domstein氏は言っています。

持続可能な漁業 消費者にとっての大きな利益は、明確な良心を持ってタイセイヨウマダラ(持続可能性を論じる上で重要な魚種)を購入することができるということです。これは、ノルウェーとロシアの協定に基づく、模範的なバレンツ海の資源管理の賜物です。

「私たちは常に資源量に合わせて漁獲を行なってきましたので、この漁業は世界各所で見られるような危機に直面したことがありません」と、Domstein氏は言います。報告書の中で、MSC認証機関は、この資源が「一貫して予防的基準値より高く維持されている」と確認しました。すなわち、この魚種が翌年の健全な世代を産むのに十分な数より多くの魚が海に残っているということです。 選択性に関しても、両漁業は確かな実績を残しています。「漁業者は、時季ごとに

どんな魚種が獲れるのかを経験から知っています」と、Domstein氏は言います。主に、10月から3月まではタラ、夏季にはハドックといった具合です。「彼らには、どの区域のどの深さで漁獲すべきかがわかっており、使用する餌や針の大きさによって漁獲対象が決まります。私たちの混獲記録は非常に良好です」 しかし、MSC行動計画の一環として、どちらの漁業にも、全混獲数の「より堅牢な推量」を行い、他の魚種に及ぼし得る影響をさらに把握することが求められています。ことにサンプル採集プログラムを認証取得後12ヶ月以内に策定・実施し、商業種と非商業種、哺乳類、鳥類についての分布や生態、生息数を科学者が検証するためのデータを提供しなければなりません。

持続可能性に目を向ける 「魚を獲っているすべての漁師がこのレポートに責任を持つことになり、さらに深く携わることになるのです。MSC認証の結果、私たちは組織を挙げてさらに環境の改善に努めるようになりました。認証によって、私たちは多くを学ぶことができました。ノルウェーでの漁獲量についての報告を常に行っていましたが、これからはより形式化された方法で報告することになります」と、Domstein氏は言います。 他に関しても、Domstein氏は持続可能性に重点を置いています。「私たちは常に燃料の使用量に注意を払ってきました。燃油は私たちにとって最大の出費項目の1つなのです」と、Rolf Domstein氏は語ります。「漁船はすべて燃料効率を上げる技術を用いているのですが、この1年で、汚染という面をさらに意識するようになりました。特に二酸化炭素排出量です」と言っています。これを踏まえ、Domsteinが販売する水産物の全品目のライフサイクルについて分析がなされることになり、原料から最終製品に至るまでCO2の排出量が割り出されています。

認証取得日 2009年2月27日魚種 タイセイヨウマダラ

(Gadus morhua);ハドック

(Melanogrammus aeglefinus)漁法 延縄国 ノルウェー操業区域

バレンツ海南部およびスバルバルド海域のノルウェー海

漁獲量 タイセイヨウマダラ5,000トン(2009年);ハドック3,000トン(2009年)

「MSCラベルのおかげで、私たちはより高値で売れる魅力的なマーケットへの参入を果たしました。私たちは大手の顧客に大量の商品を売る大量生産から離れ、持続可能な水産物に特化した小規模な顧客へと移行しつつあるのです」

ノルウェー、Domstein Fish AS、最高責任者、Rolf Domstein氏

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