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はじめに コテングコウモリ Murina ussuriensis は管状の鼻孔と 黄茶褐色の体毛に特徴があり、昼間の休憩場所(ねぐら) や冬眠場所には主に樹洞などを利用するコウモリ類であ る(阿部ほか ,2007)。また秋季のねぐらとして枯れ葉を 利用することが報告されている(山本 ,2006)。日本では 北海道、本州、四国、九州等に生息している。神奈川県 においては箱根山地(前田 ,1979)や丹沢山地において 発見されている(山口 ,2002)。しかし、報告例はきわめ て少なく神奈川県のレッドリストでは絶滅危惧Ⅰ類にラ ンクされている(広谷,2006)。 今回、筆者らは相模原市で初記録となるコテングコウ モリを発見したためここに報告する。 確認状況 筆者らは2014年9月20日に神奈川県相模原市緑 区中沢にある藤野津久井線から入った道沿いのクズ Pueraria lobata の枯れ葉の中にコテングコウモリが入っ ているのを 2 カ所で発見した(図 1)。クズの葉は枯れ て丸まっており、その葉の中に入る形でコテングコウモ リが休息していた(図 2)(図 3)。1 個体は葉に入った 状態で写真撮影をした後、気付いて飛び去ってしまった。 目視の際に特徴的な管状の鼻孔が確認されたことと、体 毛が黄茶褐色で金色の刺毛があること、葉の大きさが 68mm と小さいことなどからコテングコウモリと同定し た。 考察 筆者らが発見した 10 日後の 2014 年 9 月 30 日に同じ 場所に行った際には同じクズの葉は落ちてしまってお り、他の葉でも確認することはできなかった。筆者らは その後も葉が完全に落ちる 11 月 15 日まで 10 日に一度 相模原市緑区で発見されたコテングコウモリ Murina ussuriensis について 清水海渡 * 1 木元侑菜 * 2 秋山幸也 * 3 * 1 神奈川県立津久井湖城山公園 * 2 環境省奄美野生生物保護センター * 3 相模原市立博物館 埼玉県 千葉県 東京都 神奈川県 さいたま 千葉 東京 横浜 串川 丹沢山 大室山 陣馬山 宮ヶ瀬湖 津久井湖 相模湖 相模川 道志川 相 模 原 市 発見場所 図 1 発見場所の位置 相模原市立博物館研究報告,(24):14~15,Mar.31.2016 14

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Page 1: New 相模原市緑区で発見されたコテングコウモリ Murina …sagamiharacitymuseum.jp/wp-content/uploads/2017/06/90c96... · 2020. 5. 30. · 黄茶褐色の体毛に特徴があり、昼間の休憩場所(ねぐら)

はじめに コテングコウモリMurina ussuriensis は管状の鼻孔と黄茶褐色の体毛に特徴があり、昼間の休憩場所(ねぐら)や冬眠場所には主に樹洞などを利用するコウモリ類である(阿部ほか ,2007)。また秋季のねぐらとして枯れ葉を利用することが報告されている(山本 ,2006)。日本では北海道、本州、四国、九州等に生息している。神奈川県においては箱根山地(前田 ,1979)や丹沢山地において発見されている(山口 ,2002)。しかし、報告例はきわめて少なく神奈川県のレッドリストでは絶滅危惧Ⅰ類にランクされている(広谷 ,2006)。 今回、筆者らは相模原市で初記録となるコテングコウモリを発見したためここに報告する。

確認状況 筆者らは 2014 年 9 月 20 日に神奈川県相模原市緑

区中沢にある藤野津久井線から入った道沿いのクズPueraria lobataの枯れ葉の中にコテングコウモリが入っているのを 2カ所で発見した(図 1)。クズの葉は枯れて丸まっており、その葉の中に入る形でコテングコウモリが休息していた(図 2)(図 3)。1個体は葉に入った状態で写真撮影をした後、気付いて飛び去ってしまった。目視の際に特徴的な管状の鼻孔が確認されたことと、体毛が黄茶褐色で金色の刺毛があること、葉の大きさが68mmと小さいことなどからコテングコウモリと同定した。

考察 筆者らが発見した 10 日後の 2014 年 9 月 30 日に同じ場所に行った際には同じクズの葉は落ちてしまっており、他の葉でも確認することはできなかった。筆者らはその後も葉が完全に落ちる 11 月 15 日まで 10 日に一度

相模原市緑区で発見されたコテングコウモリMurina ussuriensis について

清水海渡 *1 木元侑菜 *2 秋山幸也 *3*1 神奈川県立津久井湖城山公園 *2 環境省奄美野生生物保護センター *3 相模原市立博物館

埼玉県

千葉県

東京都

神奈川県

さいたま

千葉東京

横浜

串川

丹沢山

大室山

陣馬山

宮ヶ瀬湖

津久井湖

相模湖

相模川

沢井川

秋山川

道志川

相 模 原 市

発見場所

図1 発見場所の位置

   相模原市立博物館研究報告,(24):14~ 15,Mar.31.201614

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訪れて確認した所、確認できなかった。コテングコウモリが秋季に枯れ葉をねぐらとして利用することは山本(2006)などで知られており、今回の発見場所もそうした利用ではないかと考え、翌年 2015 年 9 月 10 日から 10 月 15 日にも同様の確認調査を行ったが確認できなかった。 現在、神奈川県内においてコテングコウモリが確認されている場所は丹沢山地の玄倉流域沿いと箱根産地に限られており、関東山地の派生として位置する相模原市緑区周辺ではこれまで確認されていなかった。今後の調査においては国土交通省国土技術政策総合研究所が提示している『コウモリ類の調査の手引き(案)』に基づき、バットディテクター等を用いた調査が必要であると考えられる。

謝辞 繁田真由美氏には有用な文献情報をご提供いただきま

した。深く御礼申し上げます。

引用文献阿部永・石井信夫・伊藤徹魯・金子之史・前田喜四雄・三浦信吾・米田正明 ,2005. 日本の哺乳類 . 改訂版 . 206pp. 東海大学出版会 , 東京広谷浩子 ,2006. 哺乳類 . 高桑正敏・勝山輝男・木場英久 編 , 神奈川県レッドデータブック生物調査報告書 .2006,pp.225-232. 神奈川県立生命の星・地球博物館 ,小田原前田喜四雄 ,1979. 日本の哺乳類(16)翼手目テングコウモリ属コテングコウモリ . 哺乳類科学 ,(37):1-16.山口善盛・曽根正人・永田幸志・滝井暁子 ,2002. 丹沢山地におけるコウモリ類の生息状況 . 神奈川県自然誌資料 ,(26):49-51.山本輝正 ,2006. テングコウモリとコテングコウモリの秋季のねぐら . コウモリ通信 ,14(1):13.

図 2 クズの葉に入るテングコウモリ 図 3 クズの葉に入るテングコウモリ

相模原市緑区で発見されたコテングコウモリ Murina ussuriensis について 15