nürburgring 24 -...

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43 24 24 16 20 24 24 Text : 中三川大地 Daichi Nakamigawa Photo : 河野マルオ Maruo Kono 鮮やかなスカイブルーとライムグリーンはニュルの風物詩。 近年は911GT3Rで参戦するファルケンモータースポーツだ。 毎年のようにニュル24時間へ挑戦して人々を熱狂させ、 同時に大会スポンサーとしてこの偉大なる文化を支える ファルケンという存在を通し、ニュル24時間を感じたい。 Nürburgring 24 THE ADAC Zurich 24h-Race 113 112

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  • カイブルーとライムグリーン

    に包まれた911GT3R

    が、ニュルを駆け抜ける。43回目を

    数えるニュル24時間(ADACチュ

    ーリッヒ・ニュルブルクリンク24時

    間耐久レース)において、この鮮や

    かなマシンはもはや風物詩となった。

    何しろ1999年から今年で16回目

    の挑戦だ。時代ごとに車種は変われ

    ど、首尾一貫してカラーリングは変

    わらない。しかも義務付けられた大

    会スポンサーステッカー以外はいっ

    さい添えられない。部品メーカーか

    らのロゴ添付の要望もあっさりと跳

    ね返す。「ステッカーを貼るくらいな

    ら定価で購入するさ」と言わんばか

    り。まさしく純度100%のファル

    ケン・カラーである。

     

    近年は大会自体のスポンサーも担

    うようになった。会場を訪れる20万

    人以上のファン、その多くはファル

    ケンの旗を小脇に抱え、またすべて

    の参戦車両のフロントフェンダーに

    は「FALKEN」の文字が添えら

    れる。この期間、ニュルという聖地

    がファルケン色に染まる。

     

    住友ゴム工業を母体とするこのタ

    イヤメーカーは、こと日本において

    モータースポーツ色は薄いと思って

    いた。なのにヨーロッパではこの熱

    量である。大会スポンサーと同時に

    メーカー自らがレーシングチームを

    展開するなど昨今は珍しい。

    「我々はまだ小さなタイヤメーカー

    です。性能面はもちろんブランド力

    という意味でも、老舗に追いつき、

    そして追い越すためには、ニュル24

    時間での包括的な活動が欠かせない」

    と、ヨーロッパのマーケティング・

    ディレクターを務めるマーカス・ボ

    ウグナー氏は言う。

    「本音を言えばミシュランに勝ちた

    い。マーケットシェアで追いつくに

    は、まだ多くの時間が必要とされる

    でしょう。しかしニュル24時間であ

    れば、すぐにでも彼らに勝つことが

    できる」と続けた。その言葉に自信

    がみなぎるほど、多くの時間とコス

    トを研究開発に費やしてきたのであ

    る。事実、昨年2014年は、強豪

    ポルシェ勢の最上位にして総合でも

    4位と立派な成績を収めた。となる

    と今年の目標はもちろん優勝。最低

    でも表彰台の上には立ちたい。

    Text : 中三川大地 Daichi Nakamigawa Photo : 河野マルオ Maruo Kono

    鮮やかなスカイブルーとライムグリーンはニュルの風物詩。近年は911GT3Rで参戦するファルケンモータースポーツだ。毎年のようにニュル24時間へ挑戦して人々を熱狂させ、同時に大会スポンサーとしてこの偉大なる文化を支えるファルケンという存在を通し、ニュル24時間を感じたい。

    Nürburgring 24THE ADAC Zurich 24h-Race

    113 112

  • 今年で43回目を数えるニュルブルクリンク24時間レースにおいて、ファルケンチームは16回目の参戦を果たした。走らせるマシンは997型の911GT3R。マシンこそ旧型となったが、ノウハウ蓄積による信頼耐久性の高さと、なによりタイヤメーカーチームならではのタイヤマッチングの良さで表彰台を目指し、有言実行、堂々総合3位に輝き表彰台に立った。レース活動と同時に、大会自体へのスポンサードも務めニュルを支える。会場の至るところにロゴが掲げられ、大型のブースを出展。来場者の多くがファルケンのバッグや旗などを身に付けていた。20万人近くが訪れヨーロッパはおろか全世界で注目されるニュル24時間をスポンサードする意味は大きく、すでにヨーロッパではスポーツタイヤブランドとして確固たる地位を築き上げて、実際にファルケンユーザーも多い。ドライバーを含めたチームメンバーの、その誰もがファルケンチームの一員であることを誇りに思っていたのが印象的だった。

     

    と、チーム監督を始め誰もがそう

    口を揃える。〝ウサギとカメ〟のカメ

    作戦とでも言うべきか。997型と

    旧型だからこそ、逆に長所も短所も

    知り尽くし、トラブルシューティン

    グだってお手の物だ。なによりファ

    ルケンタイヤとのマッチングや、そ

    の扱い方なら誰にも負けない。

     

    果たして展開は、彼らの思い通り

    となった。午後4時の決勝スタート

    から1時間後には13位へ、3時間経

    過で11位、5時間経過では7位と次

    第に表彰台が近づく。日の暮れてい

    く時間となると、ポツリポツリと雨

    が落ちてきて、路面は次第にウェッ

    トへ。闇夜の雨という難しいコンデ

    ィションにどのチームも悩まされ、

    実際、コース上の至るところでクラ

    ッシュが見られるハードなレース展

    開となっていた。しかし、44号車9

    11GT3Rは、まるで水を得た魚

    のごとく安定して走りきり、上位へ

    の階段を駆けあがった。

    「普通のクローズドコースはエスケ

    ープゾーンが広いから、心理的には

    いきなり実力の100%で走る。そ

    の上で勝つために120%の走りま

    で持っていこうとする。だけどニュ

    ルは違う。最初は安全マージンを取

    って80%の力で。そこから次第に気

    持ちを上げていって95〜100%へ

    と近づける。105%まで気持ちを

    昂ぶらせることができたら、間違い

    なく勝利が見えるだろうね」

     

    ドライバーのピーター・ダンブレ

    ック選手が決勝前につぶやいた。そ

    の言葉を証明するかのごとく、スタ

    ートから10時間が経過する深夜には

    3位へ。雨をものともせず、限界ま

    でドライ用タイヤのまま走った。

     

    表彰台圏内に突入してから14時間

    あまり。夜明けと共に雨もあがり、

    R8やZ4と長きにわたり上位争い

    を続ける。途中、接触やコースアウ

    トなどの危ない場面を見事にかわし

    つつ総合3位でチェッカーを受けた。

    ファルケンの挑戦16回目にして初の

    表彰台であり、もちろんポルシェ勢

    でも最上位という快挙だった。

     

    ニュル24時間。その底なしの魅力

    にのめり込んだ者たちが、飽くなき

    挑戦を続けるからこそ、レース好き

    の心を惹きつけて離さない。いや、

    誰よりもニュル24時間に魅せられて

    いるのは、ファルケン自身なのかも

    しれない。大会スポンサーという格

    好で主催者側に立ち濃密な24時間を

    創り上げ、同時に自らも最前線に出

    て闘うことで、その魅力を心底味わ

    ってきた。そうした意味でニュル24

    時間は、ファルケンにとっては究極

    的な自作自演のステージだった。な

    らば「タイヤのワンメイク供給を視

    野に入れては」と問いかけたら「ク

    ルマにしてもタイヤにしても、競争

    がなければ面白くない。だからワン

    メイクなんてナンセンスさ。俺たち

    は競争をして勝ちたいんだ」とピシ

    ャリ。完璧に演じ切るためには、自

    社ロゴをアピールするだけじゃダメ

    だ。競争をして勝たなければ意味は

    ないと教えてくれた。ニュル24時間

    を闘い抜き、その魅力を知る者だけ

    が持つ説得力だと思った。

     

    レースを終えた次の日から、早速、

    ファルケンチームは来年に向けて準

    備を始めている。来年もまた自作自

    演を完璧に演じるためである。

    イツ勢に殴り込みをかけるベントレ

    ーなどに比べ、型落ちの911は、

    明らかに後塵を拝していた。

     

    それでも決勝を目前にした彼らは、

    妙に落ち着いていた。「皆、確かに速

    い。だけど決勝では必ず何らかのア

    クシデントが起こる。それがニュル

    24時間だ。我々もその例外ではない。

    だけどそのロスを最小限にとどめて、

    コンスタントに走り切る自信がある。

    必ず勝てるはずだ」

     

    だが、開幕直前にして大きな不安

    要素が立ちはだかった。ニュル24時

    間の前哨戦であるVLNの第1戦。

    ジャンピングスポットとして知られ

    るフルークプラッツで、とある参戦

    車両が浮き上がり防護フェンスを越

    え、不幸にも観客1名が死亡、2名

    が負傷する事故が発生。それを重く

    受け止めたDMSB(ドイツモータ

    ースポーツ協会)は、3箇所に速度

    制限を設定した。フルークプラッツ

    は200㎞/h、その他2箇所の25

    0㎞/hという速度制限は、911G

    T3Rを含めたFIA

    GT3カテゴ

    リーの属するSP9マシン勢にとっ

    て多大な影響を及ぼす。なにしろ最

    高速300㎞/h以上で闘ってきたの

    だ。とりわけ旋回速度よりも最高速

    を得意とするGT3Rにとっては、

    これらの速度制限はライバル以上に

    痛手に思えた。

     

    実際、予選では19位と奮わなかっ

    た。8分22秒064というベストタ

    イムは、ライバルに比べて2〜4秒

    落ち。Z4やSLSなどお馴染みの

    GT3勢を始め、新型を大量投入し

    てきたアウディR8LMS、強豪ド

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  • Nürburgring 24THE ADAC Zurich 24h-Race

    誰よりもニュルに魅せられているのは

     ファルケン自身なのかもしれない︱︱︱。

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