和 文 表 題 - usui2 トホッパーに溜まる構造になっている.ホッパーに...

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1 1 開発した排ガス浄化システム( EGCS舶用ディーゼル機関のエミッション対応技術 -ブラックカーボンとスクラバ廃水汚濁の低減- 臼井国際産業() 梅澤勝志,林耕一,近藤啓明 ()古堅・牧野技術研究所 ○古堅宗勝,牧野義 東京海洋大学 佐々木秀次,塚本達郎 1. はじめに 国際海事機関(IMO)では,船舶から排出される NOxSOx の排出量について段階的に規制を強化し ている.NOx に関しては SCR EGR 等,SOx 関しては,燃料油の低硫黄化とともにスクラバの技 術開発が盛んに行われている.一方,排ガス中の粒 子状物質(PM)に関しては,直接的な規制はまだ 実施されていないものの,船舶から排出されるブラ ックカーボン(BC)は北極域の雪氷の融解を促進し て気候変動につながる物質と認識され,国際的な BC 排出規制の検討が始まった 1 筆者らは舶用ディーゼル機関から排出される PM の排出実態(PM 濃度,粒子個数濃度等)の解明および PM 排出量低減技術の確立を目的として,静電サイ クロン方式 PM 低減システム(以下, ESP-C システ ムあるいは ESP-C と略記)を開発した.これまで の研究開発の結果,ディーゼル機関の排ガス中の PM を高い捕集効率で除去できることが分かった. また,本 ESP は船舶燃料の主要燃料である C 重油 においても A 重油と同等の PM 捕集性能を有するこ とを確認した 2)-5) また, SOx 低減のための湿式スクラバにおいては, スクラバの汚濁廃水および大量に発生するウエット スラッジの処理が大きな課題となっている 1 .その 対応策として,筆者らは ESP-C と新しいスクラバ を組み合わせた新排ガス浄化システム( Exhaust gas cleaning systems: EGCS)の開発に取り組み, スクラバ廃水汚濁の大幅な低減が可能であることを 検証した 6) 本講演では,上記の環境規制動向に対応すべく,ブ ラックカーボン低減とスクラバ廃水汚濁低減につい て,筆者らの開発した技術を中心にご紹介する. 2.開発した排ガス浄化処理システム はじめに本開発技術の全体像である新排ガス 浄化システム(EGCS)の構成について概説し(図 1),各技術の各論を次項以降で説明する. ①静電サイクロン方式PM低減システム: 本システムは静電集塵機(Electrostatic Precipitator: ESP)とサイクロンで構成される. ESPで捕集されたPMは最終的にサイクロンのダス 61 回日本マリン学会特別基金講演会 2017 3 3 日,(於)笹川記念館

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図 1 開発した排ガス浄化システム(EGCS)

舶用ディーゼル機関のエミッション対応技術

-ブラックカーボンとスクラバ廃水汚濁の低減-

臼井国際産業(株) 梅澤勝志,林耕一,近藤啓明

(株)古堅・牧野技術研究所 ○古堅宗勝,牧野義

東京海洋大学 佐々木秀次,塚本達郎

1. はじめに

国際海事機関(IMO)では,船舶から排出される

NOx,SOx の排出量について段階的に規制を強化し

ている.NOx に関しては SCR や EGR 等,SOx に

関しては,燃料油の低硫黄化とともにスクラバの技

術開発が盛んに行われている.一方,排ガス中の粒

子状物質(PM)に関しては,直接的な規制はまだ

実施されていないものの,船舶から排出されるブラ

ックカーボン(BC)は北極域の雪氷の融解を促進し

て気候変動につながる物質と認識され,国際的な

BC排出規制の検討が始まった 1).

筆者らは舶用ディーゼル機関から排出される PM

の排出実態(PM濃度,粒子個数濃度等)の解明および

PM 排出量低減技術の確立を目的として,静電サイ

クロン方式 PM低減システム(以下,ESP-Cシステ

ムあるいは ESP-C と略記)を開発した.これまで

の研究開発の結果,ディーゼル機関の排ガス中の

PM を高い捕集効率で除去できることが分かった.

また,本 ESP は船舶燃料の主要燃料である C 重油

においてもA重油と同等のPM捕集性能を有するこ

とを確認した 2)-5).

また,SOx 低減のための湿式スクラバにおいては,

スクラバの汚濁廃水および大量に発生するウエット

スラッジの処理が大きな課題となっている 1).その

対応策として,筆者らは ESP-C と新しいスクラバ

を組み合わせた新排ガス浄化システム(Exhaust

gas cleaning systems: EGCS)の開発に取り組み,

スクラバ廃水汚濁の大幅な低減が可能であることを

検証した 6).

本講演では,上記の環境規制動向に対応すべく,ブ

ラックカーボン低減とスクラバ廃水汚濁低減につい

て,筆者らの開発した技術を中心にご紹介する.

2.開発した排ガス浄化処理システム

はじめに本開発技術の全体像である新排ガス

浄化システム(EGCS)の構成について概説し(図

1),各技術の各論を次項以降で説明する.

①静電サイクロン方式PM低減システム:

本システムは静電集塵機(Electrostatic

Precipitator: ESP)とサイクロンで構成される.

ESPで捕集されたPMは最終的にサイクロンのダス

第 61回日本マリン学会特別基金講演会

2017年 3月 3日,(於)笹川記念館

Page 2: 和 文 表 題 - USUI2 トホッパーに溜まる構造になっている.ホッパーに 溜まったPMは間欠的に燃焼処理され,その燃焼ガ スはESPの入側へ還流される.本ESP-Cシステムの

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トホッパーに溜まる構造になっている.ホッパーに

溜まったPMは間欠的に燃焼処理され,その燃焼ガ

スはESPの入側へ還流される.本ESP-Cシステムの

産廃物は,最終的に燃料中の灰分や金属分など少量

のドライアッシュとなる.

②SOxスクラバ:PMが除去された排ガスを湿式

スクラバで処理する.新スクラバは SOxのみを除去

し,ESP-Cで捕集できなかった少量の PMはスクラ

バを素通りさせる構造である.その結果,スクラバ

廃水の汚濁が大幅に低減され,水処理を必要としな

い海水によるオープンループ方式の実現の可能性が

あると思われる.なお,実際の運用では廃水の中和

処理など種々の対応が考えられる.

③本 EGCS は A重油だけでなく C重油に対して

も適用可能である.また,本 EGCS と EGRや SCR

の組合せにより,NOxを低減できる.

3.開発した静電サイクロン方式 PM低減

システム(ESP-C)

当初の研究開発ターゲットは,ディーゼル自動車

の排ガス PMの低減技術であった.そのため,自動

車への搭載性―すなわち,高捕集率,コンパクトな

装置およびメンテナンスフリー―を開発コンセプト

に据えて開発を始めた.一方,近年の環境問題への

関心の高まりから,船舶起源の排ガス物質において

も低減対策が求められる状況になってきた.また,

基礎実験の初期の段階で,本 ESP-C は船舶に適し

ていることが明らかになり,開発ターゲットを船舶

および陸上のパワープラントに絞って研究開発を進

めてきた.

3.1 ESP-Cシステムの概要(PM捕集メカ

ニズム)

ディーゼル機関のPMの粒径は大部分が0.5μm以

下の微小な粒子である.粒子の粒径と集塵機の捕集

性能の関係は大略次のようである 7).ESPはディー

ゼル PMのような微小粒子でも高効率で捕集できる.

一方,サイクロンは大粒径の捕集に適し(およそ

5μm以上),ディーゼル PM のような微小粒子はほ

とんど捕集できない.

船舶のように連続運転をする機関の場合には,

ESP 捕集壁に堆積した粒子を除去処理する必要が

ある.筆者らの実験において,捕集壁に捕集された

PM の堆積厚さが増大すると,堆積 PM は自然剥離

して大きな凝集塊となって捕集壁上を剥離と付着を

繰り返しながら ESP下流に移動すること(ジャンピ

ング現象)が観察された.この PM剥離現象は堆積

PM の厚さが過大になると,堆積 PM の電気的

な付着力よりも高速の排ガス流(およそ 5m/s 以

上)の剥離作用の力が大きくなり,堆積 PM が

剥離するものと考えられる.

図 2 ESP-C における PM 捕集メカニズム

以上の考察と実験結果を基に,筆者らは ESP-C

システムを考案した.図 2 に ESP-C における PM

捕集メカニズムを示す.①微細な PM は放電極

から放出されたコロナ電子によって帯電される.

②帯電 PM はクーロン力によって捕集壁に向か

って移動し,捕集壁に付着堆積する.③堆積 PM

の厚さが過大になると,堆積 PM は自然剥離し

て大きな PM 凝集塊となって下流のサイクロン

へ流される.④大きな PM 凝集塊はサイクロン

によって排ガス中から容易に分離でき,ESP で

捕集された PM は最終的にダストホッパーに溜

まる.PM が除去された清浄な排ガスは ESP-C

から大気へ排出される.なお,ESPもサイクロン

も PMの目詰まりを起こさない構造だから,メンテ

ナンスフリーによる連続運転が可能である.

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3.2 ESP-C装置の小型化

サイクロンの小型化の開発事例を紹介する.図 3

に ESP の下流に分離流路を組み込んだ新しい

ESP-C の構造を示す.ESP の下流において,排ガ

スの流れは中心部(メイン流路)と捕集壁面近傍部

(分離流路)に分かれる.捕集壁面近傍の分離流路

を流れる排ガスは高濃度 PMガスになっており,こ

れをサイクロンに導く.初期方式(図 3-a)の ESP

を通過する全排ガス量をサイクロンで処理する場合

に比べ,分離流路方式(図 3-b)ではサイクロンの

排ガス処理流量が大幅に減少するから,サイクロン

の小型化が可能になる.

また,分離流路の最適形状の検討に数値流体力学

(CFD)を用いた.非構造格子(約 800,000 Mesh)

による定常解析結果の一例を図 4に示す.分離流路

近傍の流速コンターおよび流速ベクトルを表示して

ある.分離流路の入口流速 Us と ESP 内部の流速

Ue を流速比 α(=Us/Ue)と定義し,流速比 αをパ

ラメータとして,最適化形状,流量比の検討を実施

した.解析結果から,αを 0.85~1.0に設定すれば,

捕集壁面近傍の高濃度 PMガスを分離流路側へ確実

に分離できることが分かった.分離流路の開口ギャ

ップは ESP 断面直径に依存せずほぼ一定でよいか

ら, 大型の ESPでは分離流路によるサイクロン小

型化の効果は相対的に大きくなる.

3.3 ESPの捕集性能の高効率化

ESP内部空間の電界分布とPMの挙動の模式図を

図 5に示す.帯電 PMに働くクーロン力は放電極先

端と捕集壁の間の空間では強く(強電界域, 領域 A),

放電極の内部空間では弱い(弱電界域, 領域 B).PM

捕集効率を高めるためには,PM が流れる空間を強

電界域で形成することが望ましい.この問題を解決

するため,図 6 に示す多段捕集壁構造の ESP を開

発した.捕集壁はガス流れの下流に向かって捕集壁

径が大きくなる多段構造となる.この多段捕集壁構

造によって, 排ガス中の PMは ESP内の強電界域

のみを流れることになり高い捕集率を達成できる.

その結果,ESP 装置の小型化も実現できる.また,

多段捕集壁構造は大口径大容量の排ガス処理装置に

おいても高い捕集率を維持できる長所がある.

(捕集壁)

(放電極)

PM

排ガスB

A強電界

弱電界

図 5 ESP 内部の電界分布と PM の挙動

排ガス

主流

分離流(捕集壁)

(放電極)

(a) 初期型

(主流路)

(分離流路)(b) 改良型

排ガス清浄な排ガス

図 3 ESPの出側に分離流路を設けた ESP-C

(主流路)

(分離流路)

UeUs Us

(α=1.2) (α=0.8) (α=0.6)

(解析モデル)

図 4 分離流路の CFD解析 (α=Us/Ue)

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図 6 ESP の多段捕集壁構造

3.4 ESP-Cの制御システム

ESP-C システムの主な制御項目は電圧設定制御

とサイクロン流量制御である.放電極への印加電圧が

高いほど捕集率は当然高くなる.従って,最適印加

電圧は火花電圧より若干低い電圧を設定することが

望ましいと考えられる.また火花電圧は排ガス条件

などにより変動する.本制御システムでは,最適電

圧を自動探索する制御を行っている.サイクロンと

シールガスの流量制御は目標流量値を維持するよう

にそれぞれのブロアー回転数を制御している.図 7

に ESP-C システムの制御パネルの一例を示す.排

ガス流量・温度等の実績データや電圧設定値等の各

種制御データが表示されている.

3.5 ESP-Cの実験結果

本研究開発の過程において,東京海洋大学(2 ス

トローク低速舶用機関-3UEC37LA,1103kW,4ス

トローク高速舶用機関-3L13AHS,74kW),海上安

全技術研究所( 4 ストローク中速舶用機関

-MU323DGSC,257kW),水産大学校(練習船耕洋

丸,2 ストローク低速機関-6L35MC,3900kW)ほ

かにおいて共同研究実験を行った.それぞれの実験

において,新たな問題点の発見と解決があり現在に

至っている.ここでは,実験結果の一部を紹介する.

(1)機関始動時の ESPによるスモーク低減

実験は 2ストローク低速舶用機関(東京海洋大学,

3UEC37LA)で行った.機関始動時には濃い黒煙や

白煙を発生しやすい.実験結果を図 8に示す.ESP

の印加電圧ONによりスモークは視認できないほど

顕著に低減している.また,ELPI による粒子個数

計測値でも ESPの効果は明瞭である.機関始動時の

排ガス流量は小さい(ESP 内の排ガス流速が遅い)

ために,ESPでの PM捕集は容易である.なお,実

験に使用した高電圧電源の仕様は最大 40kV で,実

際の設定電圧は 30~35kV程度であった.

(2)定常負荷運転時の ESPによる PM低減

実験は上記の 2ストローク低速舶用機関で行った.

実験結果を図 9,図 10に示す.本報での PM捕集率

ηは ESP入側と出側における PM濃度(ISO8178-1

に準拠した希釈トンネルフィルタ秤量法あるいは

ELPI の個数濃度)から算出した.η={1-(ESP 出

側 PM濃度)/(ESP入側 PM濃度)}×100. A重油(S

分 0.07%)と C重油(S分 2.2%)何れにおいても,

図 7 ESP-C システムの制御パネル

(a) スモーク

始50sec

総粒子個数

(#/c

m3)

ESP-Off ESP-On

0.0E+0

1.0E+6

2.0E+6

3.0E+6

4.0E+6

5.0E+6

6.0E+6

Tota

l nu

mb

er

con

cen

tra

tion

[#/c

c]

EngineSTART

High concentration

Low concentration

EngineSTOP

EngineSTART

50sec

0.0E+0

1.0E+6

2.0E+6

3.0E+6

4.0E+6

5.0E+6

6.0E+6

To

ta

l n

um

be

r

co

nce

ntra

tio

n [#

/cc]

EngineSTART

High concentration

Low concentration

EngineSTOP

EngineSTART

50sec

High concentration

Low concentration0.0E+0

1.0E+6

2.0E+6

3.0E+6

4.0E+6

5.0E+6

6.0E+6

Tota

l nu

mb

er

con

cen

tra

tion

[#/c

c]

EngineSTART

High concentration

Low concentration

EngineSTOP

EngineSTART

50sec

High concentration

Low concentration

0.0E+0

1.0E+6

2.0E+6

3.0E+6

4.0E+6

5.0E+6

6.0E+6

Total

numb

er co

ncen

tratio

n [#/c

c]

EngineSTART

High concentration

Low concentration

EngineSTOP

EngineSTART

50sec

0.0E+0

1.0E+6

2.0E+6

3.0E+6

4.0E+6

5.0E+6

6.0E+6

To

tal n

um

be

r co

nce

ntra

tio

n [#

/cc]

EngineSTART

High concentration

Low concentration

EngineSTOP

EngineSTART

50sec

High concentration

Low concentration0.0E+0

1.0E+6

2.0E+6

3.0E+6

4.0E+6

5.0E+6

6.0E+6

Total

numb

er co

ncen

tratio

n [#/c

c]

EngineSTART

High concentration

Low concentration

EngineSTOP

EngineSTART

50sec

High concentration

Low concentration

0.0E+0

1.0E+6

2.0E+6

3.0E+6

4.0E+6

5.0E+6

6.0E+6

Tota

l nu

mb

er

con

cen

tra

tion

[#/c

c]

EngineSTART

High concentration

Low concentration

EngineSTOP

EngineSTART

50sec

0.0E+0

1.0E+6

2.0E+6

3.0E+6

4.0E+6

5.0E+6

6.0E+6

To

ta

l n

um

be

r

co

nce

ntra

tio

n [#

/cc]

EngineSTART

High concentration

Low concentration

EngineSTOP

EngineSTART

50sec

High concentration

Low concentration0.0E+0

1.0E+6

2.0E+6

3.0E+6

4.0E+6

5.0E+6

6.0E+6

Tota

l nu

mb

er

con

cen

tra

tion

[#/c

c]

EngineSTART

High concentration

Low concentration

EngineSTOP

EngineSTART

50sec

High concentration

Low concentration

0E+0

2E+6

4E+6

6E+6

停 停始

(b) 粒子個数濃度,ELPI

ESP-Off ESP-On

図 8 機関始動時の ESP によるスモーク低減

(b) C重油

(a) A重油

200

150

100

50

0

200

150

100

50

0

(Load 75%) (100%)

η:82%η:74%

PM濃度

(mg/N

m3)

200

150

100

50

0

200

150

100

50

0ESP

inlet

ESP

outletinlet outlet

η:89% η:74%

PM濃度

(mg/N

m3)

図 9 定常負荷時の ESP による PM 低減

(2 ストローク低速機関,ISO 8178-1)

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5

粒子径 DP (nm)

粒子個数

Dn

/dlo

gD

p(#

/cm

3)

0

1E+09

2E+09

3E+09

4E+09

5E+09

6E+09

7E+09

10 100 1,000 10,000Par

ticl

e n

um

be

r Dn

/dlo

gDp

[p./

cm3]

Particle diameter Dp [ nm ]

Inlet of DPF

Outlet of DPF

ESP inlet

ESP outlet

0 100 1,000 10,000

6E+9

4E+9

2E+9

0

図 10 ESPによる PM粒子個数の低減効果

2ストローク低速機関,負荷 75%,A重油,ELPI

図 12 機関室内の垂直配置 ESP-C

ESP制御パネル

(ESP:Φ400 x L4400)

サイクロン

図 11 水産大学校練習船“耕洋丸”2703トン 図 13 ESP-Cプロトタイプ機

1.0E+0

8.0E-1

6.0E-1

4.0E-1

2.0E-1

0.0E+0

2.5E+6

2.0E+6

1.5E+6

1.0E+6

5.0E+5

0.0E+0

30 (min)

Ma

ss (

g/m

3)

Nu

mb

er

(#/c

m3)

ESP outlet

ESP inlet

(a) LFO

4.0E-1

3.0E-1

2.0E-1

1.0E-1

0.0E+0

1.0E+6

7.5E+5

5.0E+5

2.5E+5

0.0E+0

30 (min)

Ma

ss (

g/m

3)

Nu

mb

er

(#/c

m3)

ESPinlet ESP

outlet

Number

Mass

(b) HFO

図 14 定常負荷時の ESPによる PM低減効果

4ストローク中速機関,負荷 75%,10m/s,ELPI+

高い PM捕集率が達成できている.また,粒径分布

の測定結果から,ESPによりナノ粒子(<100nm)

でも高い捕集率で捕集されていることが分かる.な

お,BC は高温排ガス中でも固体粒子であると考え

られるから,排ガス温度の影響を受けずに ESPによ

り高い捕集率で低減できる.従って,BC 低減には

ESPは適している.

(3)実船試験結果

実験は水産大学校・練習船耕洋丸(2703トン,2

ストローク低速機関-6L35MC,A重油(S分 0.81%),

航路:2011年 1月,那覇港-東シナ海-下関港)で

行った(図 11)8).負荷率約 70%で PM 捕集率は

90%と高い捕集率であった.なお,本実験の ESP

は図 12 に示す垂直配置(垂直方向のガス流れ)で

ある.排ガス中の PMは微粒子であるから,重力の

影響は極めて小さく,PM捕集性能は ESPの配置方

向(水平あるいは垂直)に依存しないと思われる.

(4)改良型 ESP-Cによる最近の実験結果

一連の研究開発の過程で多くの改良を行ってきた.

図 13に実験に用いた改良型 ESP-Cプロトタイプ機

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6

を示す.実験は 4ストローク中速機関で行った.実

験条件は負荷率 75%,主排気管から排ガスを分流し

て ESP に導き,ESP 入側のガス温度は約 300℃,

ESP 内の排ガス流速は 10m/s である.燃料は A 重

油および C重油(S分 1%)の 2種類で行った.PM

捕集性能は ELPIで評価した.検査排ガスは ESPの

入側出側で吸引し,190℃に保温したトランスファ

ーチューブを経由して,250℃に加温した清浄空気

により高温希釈した排ガスを ELPI に供給した.実

験結果を図 14 に示す.ESP-inlet と ESP-outlet は

ESPの入側と出側の PM濃度を示す.PM質量(濃

度)は,ELPI の各粒径ステージの粒径に対応した

粒子個数から,各粒子の密度を一定と仮定して算出

した.10m/s の高速排ガス流速において,A 重油と

C重油ともに高い PM捕集率(約 80%)が得られた.

(5)ESPの圧損

常温大気圧空気の条件で ESP-C プロトタイプ機

の圧損を調査した.図 15に ESP内のガス流速 Uと

圧力損失⊿P(=(ESP入口の静圧)-(ESP出口

の静圧))の実験結果を示す.U=10m/sにおける圧

力損失⊿P はおよそ 280Pa であり,本 ESP の圧力

損失は小さいことが分かる.従って,2 ストローク

機関の排気管ラインの途中に本 ESP を設置しても

機関への影響は小さいと思われる.

0

100

200

300

400

500

0 2.5 5 7.5 10 12.5

⊿p

(P

a)

U (m/s)

⊿p

(Pa

)

U (m/s)

⊿ p

U

0 2.5 5 7.5 10 12.5

500

400

300

200

100

0

図 15 ESPの圧損: 空気,25℃,1 bar

3.6 ESP-Cシステムの装置ユニット例

図 16に ESP-Cシステムの装置ユニットと小型発

電機への設置レイアウトの例を示す.本 ESP-C シ

ステムはユニット構成とすることにより,既存の機

関や排気管との接合など装置施工性に優れたものを

提供できる.

図 16 ESP-Cシステムの装置ユニット例

1400kWディーゼル機関,ESP-Cユニット

3.7 ESP-Cシステム開発のまとめ

従来の ESP に対する評価は次のようであった.

ESPの利点は重油燃料を使用する排ガス中のPMを

捕集できることであるが,既存の ESPでは排ガス処

理流速が遅いため,必然的に大型装置となるから,

船舶への搭載は実用的でないとされていた 9).筆者

らはこの問題を上記の諸改良によって解決し,船舶

への搭載が可能なコンパクトでメンテナンスフリー

の ESP-Cシステムを開発した.

4.新しい SOxスクラバ

4.1 新 SOxスクラバのコンセプト

従来の湿式スクラバでは排ガス中の SO2 と

PM を同時に除去低減していた.そのため,PM

によるスクラバ廃水の汚濁が激しく,大量に発

生するウエットスラッジの処理が大きな課題で

あった.本 EGCS は,まず ESPで排ガス中の PM

を低減し,後続の新スクラバでは SO2のみを除去し,

ESPで捕集されなかった少量のPMはスクラバを素

Diesel

engine

Power

generator ESP-C

(b) 小型発電機への ESP-C設置

(a) ESP-Cユニット

(W2000xH2500xL3000)

Page 7: 和 文 表 題 - USUI2 トホッパーに溜まる構造になっている.ホッパーに 溜まったPMは間欠的に燃焼処理され,その燃焼ガ スはESPの入側へ還流される.本ESP-Cシステムの

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通りさせ大気へ放出する方式である.新スクラバの

基本は濡れ壁構造である.図 17 では説明の便の

ため,多層平板の濡れ壁構造のスクラバを示す.

平板壁面に沿って水を膜状に流下させ,気液の

間でガス吸収を行わせる.水滴と排ガスの衝突

を回避することが技術ポイントである.SO2ガス

の拡散速度は PM 中の Soot やオイルミストの拡散

速度に比べると極めて高く,また SO2の水への溶解

度は高いから,SO2は容易に濡れ壁に到達して吸収

される.一方,少量 PMの大部分は壁面間を素通り

して大気へ放出され,その結果,PM 汚濁の少ない

スクラバ廃水となる.以上のことから,本 EGCSに

よって,海水によるオープンループ方式の実現の可

能性があると思われる.

4.2 実験方法および結果

SO2はpH 管理を適切に行った水や海水への溶解

度が高く,スクラバによる SO2の吸収技術は確立さ

れている.本実験では,ESPによってスクラバ水汚

濁の原因となる PMを予め低減しておくことにより,

スクラバ廃水処理行程が簡素化できることの実証に

主眼を置いた.本実験では新スクラバの充填材として,

新スクラバのアイディアを模擬できる市販の斜交ハニカ

ムタイプを使用した.また比較実験の従来スクラバ

では市販のランダムパッキング(スクラバリング・

ロゼット型)を用いた.充填材容器寸法は

400W×400H×300L である.供試機関は前記の 2ス

トローク低速機関,燃料は C 重油(S 分 2.4%),

負荷率は 50%で実験した.ESP で PM を低減した

排ガス(ESP の PM 捕集率 60%)の一部を分流し

てスクラバへ導いた(スクラバ入口ガス温度 120℃,

排ガス流量は 500 Nm3/h).スクラバ水の汚濁を促

進するため少量の水道水 50Lを 40 L/min で循環さ

せ 180 分連続運転した.この時の液ガス比は

4.8L/Nm3 である.スクラバ処理開始後に定期的に

スクラバ水を採取し,pH,濁度,n-ヘキサン抽出物

質濃度,金属元素濃度,PAHphe 濃度等の水質検査

を行った.また,スクラバ出口側の SO2濃度を計測

し,SO2低減性能についても調査した.

図 18に経過時間とスクラバ水濁度の関係を示す.

180 分間循環後の濁度は ESP-ON の新スクラバに

より大幅に改善されている.図 19 の金属元素濃度

の測定結果においても,ESP-ON の新スクラバによ

り金属濃度は低減している.金属元素濃度の低減率

は ESP の PM 捕集率 60%にほぼ対応している.こ

のように,スクラバ廃水の汚濁改善の効果は ESP

の PM低減効果と濡れ壁方式スクラバの相乗効果に

よるものと考えられる.図 20 にスクラバ出口側の

SO2濃度の時間推移を示す.新スクラバと従来スク

ラバとの SO2低減性能はほぼ同等であった.実験開

始初期のpH6程度では,SO2濃度は約 230ppm(SO2

0

5

10

15

20

25

30

0 50 100 150 200

濁度

(NT

U)

経過時間 (min)

排出規制 < 25 NTU

濁度

(NT

U)

経過時間 (分)

●:従来スクラバESP-Off

●:新スクラバESP-On

0 50 100 150 200

30

25

20

15

10

5

0

スクラバ水の外観ESP-Off ESP-On

図 18 スクラバ水の濁度の推移

C重油,排ガス 500m³/h,水 40L/min・循環使用

SO2 :

水に吸収

●:PM

●:SO2

少PM :

素通りして大気へ

硫酸

少PM+

SO2

(ESPから)

濡れ壁

図 17 新 SOxスクラバの技術コンセプト

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低減率:約 50%)まで低減するが,スクラバ水循環

に伴って pHが下がると SO2溶解度が低下するため,

SO2濃度は上昇している.

5.まとめ

一連の研究開発によって,舶用ディーゼル機関の

排ガス浄化に関し以下の結果を得た.

1)静電サイクロン方式PM低減システム(ESP-C)

によって,舶用ディーゼル機関から排出される PM

の高効率低減が可能である.ブラックカーボン(BC)

は排ガス温度の影響を受けずに高い捕集率で低減で

きるから,ESPは BC低減に適している.

2)上述の諸改良によって,ESP-C 装置の小型化

とメンテナンスフリーシステムが実現できた.

3)ESP-C と新スクラバを組み合わせた新排ガス

浄化システムによって,スクラバ廃水汚濁の大幅な

低減が可能となり,海水のオープンループ方式が実

現できると思われる.

4)以上のことから,本開発技術は今後厳しくな

ると予想される排ガス規制に対応できる高いポテン

シャルを有していると考えている.

本開発技術を実船やパワープラントなどへの実適

用に当たっては,それぞれに固有の技術課題がある

と思われる.関係業界の方々と協力してこれらの課

題を解決して,わが国の開発技術を世界に発信し,

環境保全や海運業界の発展に寄与していきたい.

謝辞

本研究開発は,東京海洋大学(海洋電子機械工学

科・塚本研究室),水産大学校(海洋機械工学科・前

田研究室),海上技術安全研究所・環境・動力系およ

び JX日石エネルギー(株)・中央技術研究所との共

同研究によって実施した.また本研究開発の一部は,

財団法人シップ・アンド・オーシャン財団(現公益

財団法人笹川平和財団 海洋政策研究所)が行う技術

開発基金による補助金によって実施した.関係各位

のご指導ご協力に深く感謝を申し上げます.

参考文献

1)海洋政策研究財団,北極海航路における船舶からの黒

煙に関する調査研究事業報告書,平 26-7.

2)徐ほか 3名,日マリ学誌,44-2(2009),304-309.

3)佐々木ほか 4名,日機論 B,77-775(2011-3),860-866.

4)Furugen, et al, CIMAC Congress 2013, Shanghai,

Paper No. 137.

5)佐々木ほか 3名,日マリ学誌,51-3(2016-5),294-299.

6)塚本ほか 7名,日マリ 83回学術講演論,平 27-10,23-24.

7)産業環境管理協会,新・公害防止の技術と法規(大気

編Ⅱ),丸善(2011),238-242

8)Sasaki, et al, ISME 2011, Kobe, Proc. No. C4-4.

9)G. Hellen, et al, CIMAC Congress 2007, Vienna,

Paper No. 56.

■:従来スクラバESP-Off

■:新スクラバESP-On

金属含有量

(μg/m

L)

20

16

12

8

4

0

Al Ca Cr Fe K MgMnNa Ni P Si V Zn

図 19 スクラバ水中の金属元素の濃度

C重油,排ガス 500m³/h,水 40L/min,180分循環

0

1

2

3

4

5

6

7

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

0 50 100 150 200

0 50 100 150 200

6

4

2

0

pH

500

400

300

200

100

0

(スクラバ入口)465ppm

●:従来スクラバESP-Off

●:新スクラバESP-On

SO

2濃度

(pp

m)

52%低減

SO2

pH

経過時間 (分)

図 20 スクラバ出側の SO2濃度と pHの推移

C重油,排ガス 500m³/h,水 40L/min,180分循環

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付録

付図に図 14 (b)の実験におけるサイクロンダスト

ホッパーの溜まった PMを示す.

実験条件を再記すれば,4ストローク中速機関,

負荷率 75%,C重油(S分 1%),排ガス温度 300℃,

排ガス流量4500m3/h,ESP内の排ガス流速10m/s,

ESP-Cの有効作動時間 10時間である.

PM質量は 1,800g,PM 容積は約 14.4L,見掛け

密度は約 0.13g/cm3である.

サイクロンダストホッパーの溜まった PM 質量

1,800g,エンジン排ガス中の PM濃度(推定値約 0.1

g/Nm3)およびELPIによるESPのPM捕集率80%

から次のことが結論できる.排ガス中の PMは,ESP

で一旦捕集され,次いで捕集壁面から剥離した PM

塊は分岐流路を経由して,サイクロンで再度捕集さ

れ,最終的にダストホッパーに溜まることが確認さ

れた.

【付図】 図 14 (b) の実験においてサイクロンダス

トホッパーの溜まった PM

H= 120 mm

D = 600 mm

PMの円錐寸法

直径 D = 600 mm

高さ H = 120 mm

PM 質量 = 1,800 g