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医師 のための 保険診療入門 編集 社会保険診療研究会 2014

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医師のための保険診療入門

編集 社会保険診療研究会

2014

序文-知らなかったは通用しない!

この本を手に取られた皆さんの多くは,保険医として日々診療に(又は医療従事者や事務担当職員の皆さんであれば保険医療機関において業務に,となるかもしれませんが)携われていることと存じます。さて,“保険診療”とは一体どのようなものか,考えてみたことはありますか。実は,驚かれるかもしれませんが,制度上は保険医の皆さんはすでに保険診療のルールを十分知っていることが前提になっています。なぜならば,“保険診療”は,健康保険法等にもとづく「保険者と保険医療機関の間の公法上の契約」とされており,契約である以上,保険医療機関の指定を受け,保険医として登録される際には,保険診療のルールを熟知していることが前提になっています。つまり,何か契約違反をしてしまった後で「知らなかった」は通用し

ないのです。保険診療において契約外とみなされるものには報酬は支払われませんし,契約違反は「不正・不当な診療,不正・不当な請求等」と解され,報酬が支払われないばかりでなく,ペナルティを受けることになります。また,保険診療の範囲を超えて行った診療は,医学的に妥当であったとしても,保険請求することはできません。すなわち,次の項目を満たしている場合に,診療報酬が支払われます。① 保険医が,② 保険医療機関において,③ 医師法,医療法,健康保険法等の各種法令の規定を遵守し,④ 保険医療機関及び保険医療養担当規則(療養担当規則)の規定を

遵守し,

ii  序   文

⑤ 医学的に妥当適切な診療を行い,⑥ 「診療報酬の算定方法」(いわゆる診療報酬点数表)に定められた

とおりに,請求を行っている。上記について順を追って解説しているのが本書です。まず「第 1章 

医療保険の目的としくみ」で,医療保険財政を圧迫しながら増大の一途をたどる医療費の動向から,そもそもわが国の医療保険制度とは何を目的として,どのようなしくみとなっているのかについて解説をしています。そして,「第 2章 保険診療と保険医」で,わが国の医療保険制度の基礎をなす上記の①,②,③について解説をしています。続く「第 3章 保険診療のルール」では,医師の皆さんが保険医として日々の診療を行う上で常にかかわることになる④について解説しています。さらに本書の巻末には療養担当規則の原文,および,医薬品の投与制限等を定める「厚生労働大臣が定める注射薬等」(2014年 3 月現在のもの)も掲載していますので,ぜひこの機会に,保険医療機関と保険医を規定する最新の規則に目を通していただければと思います。次に,「第 4章 診療報酬の要点」では,個々の診療報酬の算定要件でとくに医師が行うこと(医師の診療録への記載事項等)が重要なものを中心に,「診療報酬の算定方法」で上記⑤とみなされるためのポイントを解説しています。さらに,「第 5章 診療報酬請求」では⑥について,いわゆるレセプトの作成のみでなく,その審査・査定,行政機関による指導・監査を含めて解説しています。なお,いわゆるDPCについてもここで解説しています。最後に,「第 6章 介護保険との給付調整」で,医療保険と介護保険のかかわりについて述べています。本書が皆様の日常の保険診療において役立つことができれば,幸いに

存じます。

平成26年 3 月

社会保険診療研究会

第1章 医療保険の目的としくみ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

1.1 医療費の動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

1.2 医療保険の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

1.3 わが国の医療保険制度と医療保険のしくみ ・・・・・・・・・・・・・・・31.3.1 被用者保険  3

1.3.2 国民健康保険  4

1.3.3 医療保険のしくみ  5

1.4 わが国の医療保険の特徴を活かして ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

第2章 保険診療と保険医 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

2.1 保険診療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92.1.1 保険診療とは  9

2.1.2 保険給付の制限  10

2.2 保険医 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102.2.1 新たに保険医になるには  10

2.2.2 保険医登録後の変更  11

2.3 関係法令 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112.3.1 健康保険法・国民健康保険法等  12

2.3.2 医師法  12

2.3.3 医療法  14

目   次

iv  目   次

2.3.4 医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律  16

2.3.5 介護保険法  16

第3章 保険診療のルール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

3.1 保険診療の制限 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・193.1.1 無診察治療等の禁止  19

3.1.2 特殊療法・研究的診療等の禁止  20

3.1.3 保険診療と保険外診療の併用の禁止  20

3.1.4 健康診断の禁止  21

3.1.5 濃厚(過剰)診療の禁止  21

3.1.6 疾病予防のための投薬・注射等の禁止  22

3.2 診療録 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・223.2.1 一般的事項  22

3.2.2 傷病名  24

3.2.3 記載および訂正の方法  25

3.2.4 電子カルテ(医療情報システム)  26

3.2.5 診療録をめぐる最近の動き  29

3.3 処方せん ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・293.3.1 記載の注意事項  29

3.3.2 処方せんの使用期間  30

3.3.3 薬剤の投与期間  30

3.3.4 一般名処方  31

3.3.5 医薬分業について  32

3.4 基本診療料等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・323.4.1 診療報酬の基本的な構造  32

3.4.2 初診料,再診料,外来診療料  33

3.4.3 入院基本料  34

3.4.4 入院期間の確認(入院料の支払要件)  37

目   次  v

3.5 保険外併用療養費制度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・383.5.1 評価療養  39

3.5.2 選定療養  41

3.5.3 先進医療  41

第4章 診療報酬の要点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・454.1 療養上の医学管理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・454.1.1 診療報酬請求の根拠は診療録にある  45

4.1.2 医学管理料の例  46

4.1.3 診療情報提供料  53

4.2 在宅医療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・544.2.1 在宅医療における診療録の重要性  54

4.2.2 同一建物居住者  54

4.2.3 医科診療報酬点数表における在宅医療の部の構成  55

4.2.4 主な在宅患者診療・指導料の項目  55

4.2.5 在宅療養指導管理料  59

4.3 検査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・604.3.1 検査項目の計画性・根拠  60

4.3.2 算定要件が定められている検査  61

4.4 画像診断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・624.4.1 保険上の画像診断  62

4.4.2 逓減制について  63

4.4.3 画像診断管理加算  64

4.4.4 遠隔画像診断  64

4.5 投薬・注射 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・654.5.1 医療用医薬品の使用・処方  65

4.5.2 2014年の薬事法改正による添付文書の届出制の導入  654.5.3 投薬・注射・処方せんの交付の実施方法  66

4.5.4 不適切な投薬・注射の具体例  67

vi  目   次

4.5.5 多剤処方  69

4.5.6 投薬の費用,薬剤情報提供料および薬剤管理指導料  694.5.7 血液製剤の投与にあたって  70

4.5.8 注射の費用  70

4.6 リハビリテーション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・704.6.1 リハビリテーションにおける医師の役割  70

4.6.2 リハビリテーション料の算定における注意点  71

4.6.3 認知症患者リハビリテーション料  72

4.7 処置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・724.7.1 処置にあたっての注意点  72

4.7.2 人工腎臓  73

4.8 手術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・734.8.1 手術を行うときの注意点  73

4.8.2 輸血  74

4.8.3 短期滞在手術  75

4.9 麻酔 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・754.9.1 麻酔を行うときの注意点  75

4.9.2 閉鎖循環式全身麻酔  76

4.9.3 麻酔管理料  76

4.10 放射線治療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・784.10.1 放射線治療  78

4.10.2 放射線治療管理料  78

第5章 診療報酬請求・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・795.1 レセプト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・795.1.1 レセプトのチェック  79

5.1.2 レセプト病名  79

5.1.3 レセプト開示  82

目   次  vii

5.1.4 レセプト作成にかかる医師の注意点  82

5.2 急性期入院医療におけるDPC/PDPS ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・885.2.1 DPC/PDPS(DPC制度)とは  88

5.2.2 DPC制度導入の経緯  88

5.2.3 DPC包括請求のしくみ  89

5.3 DPC制度における医師の責務 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・945.3.1 医療資源を最も投入した傷病の決定  94

5.3.2 出来高評価部分の範囲の決定  95

5.4 審査・査定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・955.4.1 審査支払機関  95

5.4.2 審査委員会  96

5.4.3 審査の法的根拠  96

5.4.4 増減点連絡書(増減点通知)  97

5.4.5 再審査請求  98

5.5 指導・監査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・985.5.1 指導で確認される内容  98

5.5.2 指導の方法  99

5.5.3 監査  100

5.5.4 指導および監査の実施状況について  100

第6章 介護保険との給付調整 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103

6.1 介護保険とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1036.1.1 介護保険の目的  103

6.1.2 要介護状態・要支援状態  103

6.1.3 要介護者・要支援者  104

6.1.4 介護保険の被保険者  104

6.1.5 要介護被保険者等とは  105

6.2 要介護被保険者等に対する医療保険からの給付 ・・・・・・105

viii  目   次

6.2.1 給付調整告示  105

6.2.2 介護保険施設入所者に対する医療保険からの給付  106

6.3 医療と介護の給付調整 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1066.3.1 介護保険施設の種類と各医療保険の給付範囲  106

6.3.2 要介護被保険者等に対する診療報酬の算定と請求の留意点  107

巻 末 資 料平成26年度 診療報酬改定について(解説) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・109

保険医療機関及び保険医療養担当規則(療養担当規則) ・・・・・113

厚生労働大臣が定める注射薬等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・127

索   引   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・131

あ と が き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・137

保険診療に関する参考資料(Web・書籍) ・・・・・・・・・・・・・・・140

〔保険診療のマメ知識〕No.1:自己診療の禁止,自家診療  11

No.2:特別食(治療食)  37

No.3:「180日超」患者の入院基本料  38

No.4:医師の裁量権  39

No.5:治験(医薬品,医療機器)  40

No.6:薬価基準  66

No.7:不正請求と不当請求  87

No.8:監査による取消事例  101

1.1 医療費の動向

わが国の国民医療費の推移は図1.1(次ページ)のとおりです。国民医療費は,毎年増加しています。1999年(平成11年)度に初めて30兆円を超えた国民医療費は,2011年(平成23年)度現在で,38.6兆円にまで達しています。また,そのうち後期高齢者医療費は,老年人口の急速な増加にともない医

療費全体を上回る伸びを示しています。1999年度時点で11.8兆円(全体の38.4%)に達していた後期高齢者医療費は,2000年(平成12年)度に介護保険が創設されたことにより医療費の一部が介護保険へ移ったことや,後期高齢者医療の対象年齢が2002年 9 月以降に段階的に引き上げられたこと(70歳以上 → 75歳以上)から2007年までの約10年間は見た目はほぼ横ばいとなっていましたが,2011年度の後期高齢者医療費は13.3兆円となっています。一方,近年,わが国の国民所得の伸びは低迷しており,国民医療費の伸びが

これを大きく上回る形となってしまっています。このため,2014年 4 月には消費税が 5%から 8%に増税されることとなり,その税収の多くが医療費を含めた社会保障財源に充てられることとなりましたが,それでも現在の医療保険制度を維持するにはまったく足りない状況とされています。

第1章

医療保険の目的としくみ

2  第1章 医療保険の目的としくみ

このように,わが国の医療保険財政をめぐる状況は非常に厳しく,現在の医療保険制度を維持していくためには医療費のいっそうの適正化が求められています。現在,医療従事者,医師の方々でこのような現状を知らないという人はいないと思いますが,わが国にとって大変深刻な状況にあるということをあらためてご理解いただきたいと思います。

図1.1 国民医療費の推移(「医療保険に関する基礎資料~平成23年度の医療費等の状況~」〔厚生労働省保険局調査課,http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/kiso23_3.pdf〕をもとに作成)※  後期高齢者医療費(老人医療費)については,2007年度以前と2008年度以後では制度が異なるた

め単純に比較できない。

〔年度〕

〔兆円〕 〔万円〕

国民医療費〔兆円〕

国民 1人あたり医療費〔万円〕

(うち後期高齢者〔兆円〕)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

095 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11

5

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15

20

25

30

35

2.1 保 険 診 療

2.1.1 保険診療とは

“保険診療”とは,健康保険法,国民健康保険法,高齢者の医療の確保に関する法律等にもとづいて保険医療機関で行われる診療をいいます。そして,「健康保険等に加入した被保険者またはその家族が,疾病または負傷のために保険医療機関で診療を受ける」(“療養の給付”を受ける)場合,この診療に要した費用は原則,保険者からその保険医療機関に直接支払われるシステムになっています(被保険者等が窓口で支払う一部負担金を除く)。また,“保険医療機関”とは,「健康保険を取り扱う診療を行うことを地方厚

生(支)局長に申請し,指定された医療機関」です。さらに,「保険医療機関で保険診療を行う医師」はすべて“保険医”として地方厚生(支)局長により登録されていなければなりません。つまり,保険診療を行うためには,保険医療機関の指定と保険医登録の両者が必要であり,これを保険診療の二重指定制といいます。保険診療上,守るべき具体的な診療方針等については,「保険医療機関及び

保険医療養担当規則」(以下“療養担当規則”または単に“療担”)に規定され

第2章

保険診療と保険医

10  第2章 保険診療と保険医

ています。詳しくは第 3章で解説します。

2.1.2 保険給付の制限

被保険者の自己の故意による犯罪行為やけんか・泥酔等の結果として保険医療機関で診療を受けようとした場合,保険給付が制限され自費負担となることもあります(健康保険法 第116条~第120条)。また,療養担当規則においても「遅滞なく,意見を附して,その旨を全国健康保険協会又は当該健康保険組合に通知しなければならない」(療担 第10条)と規定されており,このような場合に保険給付を行うか否かは保険者の裁量に委ねられています。

2.2 保  険  医

2.2.1 新たに保険医になるには

前述のとおり,医師国家試験に合格し,医師資格を得ただけでは保険診療を行うことはできず,必ず保険医登録を受けなければなりません(図2.1)。そして,医師自身が保険医登録の申請を行う必要があります。

図2.1  保険医登録票(昭和32年 厚生省令 第13号,最終改正;平成21年 厚生労働省令 第84号,様式第 3号)

2.3 関 係 法 令  11

なお,登録申請は,診療に従事する保険医療機関の所在地の地方厚生(支)局長に行います(健康保険法 第64条)。

2.2.2 保険医登録後の変更

保険医登録後,申請した事項に変更(他の都道府県への異動や氏名の変更など)があった場合には,「速やかに」その変更事項について管轄する地方厚生(支)局長に変更届を提出しなければなりません。これらの手続きの詳細については,各地方厚生(支)局のホームページを確認してください。

2.3 関 係 法 令

保険診療を行うためには,健康保険法等の医療保険各法を遵守することは当然ながら,その他保健医療福祉に関する法律(医師法・医療法等)の規定も併せて遵守する必要があります。以下,それらの法律における主要な規定につい

自己診療の禁止「医師が自らを診療すること」を“自己診療”といいます。この行為は保険診療として認められておらず,診療報酬請求することはできません。したがって,医師自身が保険診療を受けようとするのであれば,他の医師による「診察 → 診療録の記載 → 処方・投薬等」の手順で行われることが不可欠となります。自家診療「自院の職員やその家族を診察,治療すること」を“自家診療”といいます。その際に,職員等から一部負担金を徴収しない取り扱いを行っている医療機関があるようです。しかしながら,これは療担 第 5条(一部負担金の受領)違反となりますので「必ず徴収することが必要」です。職員等の金銭的負担を軽減したいということであれば,後日,一部負担金の相当額を福利厚生費として職員に支給するといった対応を行ってください。※ なお,保険者(医師国保など)によっては,自家診療の場合に保険請求を認めていない場合もありますので確認が必要です。

保険診療のマメ知識 No.❶

54  第4章 診療報酬の要点

4.2 在 宅 医 療

4.2.1 在宅医療における診療録の重要性

“在宅医療の対象”は,「通院が困難な患者」です。いわゆる団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて医療機関の機能分化・連携,在宅医療の充実が必要と考えられることから,近年の医療政策において在宅医療の多様化・高度化が年々進んでおり,それに応じて医科診療報酬点数表においても関連する診療報酬項目が増えてきています。在宅医療には大きく分けて在宅患者診療・指導料と在宅療養指導管理料があ

り,どちらもその算定における原則は「指導内容,治療計画等の診療録への記載」ですが,これ自体は診療所・病院における診療・指導,指導管理と同様です。ただし,在宅診療の場面のほうが来院時の診察券の確認記録や検査室での検査記録といった診療録以外の記録が残りづらいため,診療録の記載が診療報酬の請求にあたっても大変重要です。2014年(平成26年)度の診療報酬改定によって,「在宅患者訪問診療料」における患者同意書の作成や,診療録の記載についての要件が厳格化されています。

4.2.2 同一建物居住者

在宅医療においては多くの診療報酬項目において,同一建物居住者とそれ以外に対する所定点数等が区別されています。ここで,“同一建物”とは「構造上または外形上,一体的な建築物を指すも

の」であり,個々に別々の世帯であっても同じマンションや居住施設に含まれる場合は同一建物の中となります(対して,「同じ世帯に複数の患者が同居している場合」は“同一患家”といいます)。そして,「同一日に,同一建物内に居住する 2人以上の患者に,訪問診療または訪問看護などの訪問指導を行った場合」にはその全員を“同一建物居住者”とすることになります。

4.2 在 宅 医 療  55

4.2.3 医科診療報酬点数表における在宅医療の部の構成

“在宅患者診療・指導料”は,「医師の在宅等での診察や,看護師らが行う在宅等での医療サービスの提供に対する診療報酬項目」です。外来の初診や時間外再診にあたる位置づけの「往診料」や,時間内再診や予約診察にあたる位置づけの「在宅患者訪問診療料」等があります。対して,“在宅療養指導管理料”は,「当該患者の医学管理を行い,併せて,

必要かつ十分な量の衛生材料または保険医療材料を支給した場合に算定するもの」ですが,それらの衛生材料,保険医療材料等の費用や,小型酸素ボンベ,人工呼吸装置等の機材の費用は当該指導管理料に含まれており,別に算定できません。ただし,在宅療養指導管理材料加算として規定された,一部の衛生材料,保険医療材料等の費用は,2月に 2回に限り算定が可能です。これは,外来患者に対する,処置の費用等を包括した医学管理料に近いものです。医科診療報酬点数表の「在宅医療」の部は,在宅で療養を行う通院が困難な

患者に対する在宅で行う医療のほぼすべてを含むものであり,外来患者に対する基本診療料(在宅患者診療・指導料)や医学管理等(在宅療養指導管理料)の項目に相当するものの在宅医療にかかるほとんどがこの「在宅医療」の部に別にあることから項目が多く,さらに,同一建物居住者等で区分がされているため複雑に感じられる方も多いと思います。しかし,いいかえれば,この部にある項目の多くでは外来患者に対する項目として近いものが他の部にあるということでもあります。

4.2.4 主な在宅患者診療・指導料の項目

以下では,在宅患者診療・指導料のうち代表的な項目を取り上げます。〔主な在宅患者診療・指導料の項目〕・ 往診料

※ “往診料”は,「患家の求めに応じて患家に赴き,診療を行った場合」に算定できます。ただし,医療機関と患家の所在地との距離は原則16 km以内と定められており,他の往診を行う医療機関が存在しない等の絶対的理由がない限り,これを超える距離の往診は認められていません。

76  第4章 診療報酬の要点

4.9.2  閉鎖循環式全身麻酔(マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔)

閉鎖循環式全身麻酔(医科診療報酬点数表では「マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔」とされている)では保険診療上,麻酔の開始時間および終了時間(実施時間)を麻酔記録に記載することが算定の要件として定められています。この実施時間とは,当該麻酔を行うために「閉鎖循環式全身麻酔器を患者に接続した時点」を開始とし,「患者が当該麻酔器から離脱した時点」を終了とします。それ以外の手術室の中で行われる処置,観察等の時間は実施時間に算入できません。また,“別に厚生労働大臣が定める麻酔が困難な患者”の場合とそうでない

場合で大きく算定できる点数が異なりますが,これに該当する患者は表4.3のとおりです。

4.9.3  麻酔管理料(届出が必要)

麻酔科標榜医による質の高い麻酔が提供されることを評価する麻酔管理料(Ⅰ)と,麻酔科標榜医の指導のもとに安全体制を確保し,質の高い麻酔が提供されることを評価する麻酔管理料(Ⅱ)があります。算定にあたっては複数の要件をすべて満たさなくてはならず,麻酔科標榜医の資格があっても地方厚生(支)局へ届出をしていないといけないので注意してください。気をつけることの 1つとして,麻酔管理料(Ⅰ),(Ⅱ)とも,麻酔前後に診

察を行うことが算定の要件となっていますので十分に注意してください。さらに,麻酔管理料(Ⅰ)は前後診察および主たる手技も含めて,すべて麻

酔科標榜医が行わなければ算定できませんので,誤解のないよう気をつけてください。

4.9 麻   酔  77

表4.3 別に厚生労働大臣が定める麻酔が困難な患者

専門科等 対象疾患等 重症度,病期分類による条件等

循環器科

心不全 NYHA分類Ⅲ度以上狭心症 CCS分類Ⅲ度以上心筋梗塞 発症後 3月以内大動脈閉鎖不全(AR)僧帽弁閉鎖不全(MR)三尖弁閉鎖不全(TR)

Ⅱ度以上

大動脈弁狭窄(AS)僧帽弁狭窄(MS)

大動脈弁平均圧較差50mmHg以上

植込み型ペースメーカーの使用患者植込み型除細動器の使用患者先天性心疾患 心臓カテーテル検査により平均肺動脈圧

25mmHg以上,または,心臓超音波検査によりそれに相当する肺高血圧が診断されている

肺動脈性肺高血圧症 心臓カテーテル検査により平均肺動脈圧25mmHg以上,または,心臓超音波検査によりそれに相当する肺高血圧が診断されている

呼吸器科

呼吸不全 動脈血酸素分圧60mmHg未満動脈血酸素分圧・吸入気酸素分画比300未満

換気障害 1秒率70%未満かつ肺活量比70%未満気管支喘息 治療が行われているにもかかわらず,中発作

以上の発作を繰り返す

内分泌代謝科

糖尿病 HbA1c(JDS値)8.0%以上空腹時血糖160mg/dL以上食後2時間血糖220mg/dL以上

腎不全 血清クレアチニン値4.0mg/dL以上肝不全 Child-Pugh分類B以上

血液

貧血 Hb6.0g/dL未満血液凝固能低下 PT-INR2.0以上播種性血管内凝固症候群(DIC)血小板減少 血小板 5万/μL未満敗血症 全身性炎症反応症候群(SIRS)をともなうもの

救急

ショック状態 収縮期血圧90mmHg未満完全脊髄損傷 第 5胸椎より高位のもの心肺補助を行っている人工呼吸を行っている透析を行っている大動脈内バルーンパンピングを行っている肥満指数(BMI)35以上