「1時間の授業でまわる学区域のフィールドワーク」 ~江東区立...
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「1時間の授業でまわる学区域のフィールドワーク」
~江東区立大島中学校での実践事例~
茂田井 一人1 対象学年・学級:中学校第1学年、3~4クラス
2 教科:中学校社会科 地理分野
3 対象地域:東京都江東区大島中学校周辺
4 単元名:「身近な地域の調査」(全9時間)
5 フィールドワークの目標
①地図では表しきれない事象があることを現地の景観観察によって気づかせ、発見する喜びや楽しさを
体験させる(地理的事象に対する興味・関心の喚起)。
②街を歩く中で見つけたこと、気づいたことを「なぜだろう?」と考えることで、社会的事象に対する
さまざまな見方・考え方を養う(地理的な視点・観察力を養う)。
③身近な地域の特色や歴史、そこに暮らす人々の生活の工夫に気づき思い巡らすことで、教科書等の客
観的視点からの学習でなく、主観的・主体的な視点や行動力を養う。地域の良さを理解し、発信する。
④自分たちが暮らす地域の課題を見つけ、その課題の解決に向けて主体的・能動的に関わろうとする姿
勢を養う。
6 単元の指導計画
時 項目 学習内容
1 方位と縮尺・方位記号の役割と方位の表し方を学習する。
・縮尺の意味を学習し、縮尺を計算する。
2 測量と地図・校庭で伊能忠敬の測量法を体験する。
(歩測で距離を測る。坂の勾配を測る。)
3 等高線・等高線の読み取り。段彩図を作る。
・起伏の読み取り。(断面図を描く。尾根と谷。)
4地図記号
道順を示す
・地図記号の学習。地図記号を考える。
・方位、等高線、地図記号から道順を考える。道順を説明する。
52枚の地図から
変化を読み取る
・年代の違う2枚の地形図から、土地利用の変化を見つける。
・昔の江東区の地形図を使い、身近な地域の変化とその要因を探る。
6 江東区について調べる・江東区イラストマップを使い、名所・交通・地名等を学習する。
・江東区の特徴と地域の変化をまとめる。
7地形図と航空写真の比較
フィールドワークの事前学習
・学区域の地形図(10000 分の 1)と航空写真を比較する。
・フィールドワークの諸注意、観察方法。建物の高さを予測する。
8学区域のフィールドワーク
(本時)
・建物の高さの違いと、ビルの階ごとの使われ方の違いを探る。
・地図からだけでは読み取れない(地図に表せない)景観の調査。
9 フィールドワークの事後学習
・事前学習で立てた仮説を検証する。
・建物の高さや使われ方に違いがある要因を探り、まとめる。
・学区域の紹介文を作る。(身近な地域の特徴を文章にまとめる)
・地域の課題を見つけ、よりよい地域への取り組みを考える。
7 フィールドワークの実践
(1)学校周辺のようすとねらい
大島中学校は荒川・隅田川河口の三角州 0m 地帯に位置し、標高差はほとんどない。住宅密集地に
あり、学校周辺には 2~3 階建ての一軒家と 3~5 階建ての集合住宅がある。最寄りの都営新宿線大島
駅までは徒歩約 7 分、駅周辺には 10 階建て以上のマンションが建ち並んでいる。都営新宿線は交通量
の多い新大橋通りの地下を走っており、新大橋通り沿いには商店や飲食店が多い。学校から徒歩約 10
分のところに中の橋商店街があり、地域住民の生活を支える食品や生活用品、衣料品を販売する商店
が約 400m に渡り立ち並んでいる。学校の南には江戸時代に開削された運河の小名木川が流れている。
今回の実践では、生徒が毎日生活している地域の何気ない景観の中に、社会的事象を見つける視点、
考え方を養うことに重点を置いているため、あえて地域の名所・旧跡や特徴的な地形を取り上げて調
査するのではなく、建物の高さと階ごとの使われ方というごくありふれた題材に注目して景観観察を
行った。
(2)実施年月:平成17年~22年、それぞれ2学期の授業で計 20 回実施。
(3)実施形態:「身近な地域の調査」全 9 時間のうち、7 時間目後半に事前指導、8 時間目にフィールド
ワーク、9 時間目に事後指導およびまとめを行い、2.5 時間分を割り当てた。実施時間は1単位授業時
間の 50 分。フィールドワークのルートは約 1,500mで歩くだけなら 20 分程度の距離を途中5か所で
解説を行い、約 45 分で調査した。実施時期は 12 月初旬、2 月の学年末考査にはフィールドワークを
通して学習した内容も出題した。実践形態は1クラス単位で、引率は授業者と学年の空きの教員の2
名が基本だが、大きな時間割変更はせず、授業者のみで行うことも多かった。
(4)フィールドワークで使用したワークシート(実際には次ページと併せてB4横として使用した)
(5)観察方法:観察方法は、コースの中で授業者があらかじめ観察させたいと思う5か所の地点で立ち
止まり、注目すべき視点の説明と発問を行い、景観観察したことをワークシートに記入させた。
(6)観察ポイントと観察内容
①学校周辺の住宅地のようす
・学校周辺には、2~3階建ての一軒家が多く、1階は車庫として利用されていて、2階以上が住居に
なっている建物が多い。
・住宅が密集していることから、人口が多い地域であることに気づかせる。また、1階を車庫として利
用していることから、都心に近いために地価が高く、限られた土地を有効に利用していることにも気
づかせる。
(第1図 学校周辺の住宅地)
②大島駅周辺・新大橋通りのようす
・駅に近づくにつれて、学校周辺に比べて高い建物が多くなる。マンションや店舗が多くなる。歩きな
がら、景観の変化に気づかせる。
・交通の便と地価の関係、集客力が高い地域の商業地としての利用に気づかせる。
・新大橋通りを挟んで、通りの南側には 10 階建て以上の建物が多く、通りの北側には3階建ての建物が
並んでいる。
・用途地域による建物の高さ制限の違い、日照権の確保などから、通りの北側と南側で建物の高さが違
うことに気づかせ、その理由を考えさせる。
駅に近づくにつれて高い建物が多くなったり、マンションや店舗が多くなることに関しては、日常
生活の中で気づいていたり、理由を考えられる生徒が多いが、駅からの距離も同じであるにも関わら
ず、道路の両側ではっきりと建物の高さが違うことには、全ての生徒が新鮮な驚きを感じ、興味を持
って理由を考えた。
(第2図 大島駅周辺・新大橋通り)
中央を走る新大橋通りを挟んで、北側(写真左側)の建物は3階建てが多く、南側(写真右側)
には 10 階建て以上の高い建物立ち並んでいる。
③10 階建て以上の建物の階ごとの使われ方のようす
・1階はコンビニエンスストアなどの店舗や飲食店として利用されていることが多い。2~3階には、
学習塾・歯科などの病院・事務所といった、そこを目的に来客する施設が入っている。4階以上はほ
とんどがマンションになっており、住居スペースである。
・1つの建物がさまざまな用途に利用されていることは、地図では表しきれないが、現地で景観観察す
ることによって発見できることに気づかせる。1階に店舗が多い理由は集客力が高いから。2~3階
は1階ほどではないが入りやすいところだから。住居は防犯の面からも下層階は避けられているなど
の視点に気づかせる。
(第3図 10 階建て以上の建物の階ごとの使われ方)
④中の橋商店街・商店街の裏通りのようす
・2~3階建ての建物が多く、1階は店舗として利用されている。裏通りには広い駐車場がある。
・同じ2~3階建ての建物でも、商店街と学校周辺の住宅地では、階ごとの使われ方に違いがあることに
気づかせる。
店舗の営業車や来店客用の駐車スペースは、裏通りにあることに気づかせる。
(第4図 中の橋商店街・商店街の裏通り)
(7)実践の方法および結果
今回の実践では、フィールドワークを行う前の時間(単元の指導計画の7時間目)に事前学習を行
った。フィールドワークのやり方、諸注意とともに、建物の高さに重点を置いて景観観察を行わせる
ために、ワークシート左ページの①と②を利用して仮説を立てて考えさせた。
フィールドワークの途中では、ワークシートの右ページのみ記入させた。長い時間立ち止まって解
説できる場所もなく、屋外のために声も届きにくいため、空欄補充のみで終わるよう工夫した。また、
建物の高さの違いが生じる理由などは、あえてフィールドワークの途中では説明せず、次の時間まで
考えさせるようにした。学校へ到着して、地図中にルートを記入してワークシートを回収した。
次の授業で事後学習を行った。ワークシート左ページの③と④を使って、景観写真を用いて景観観
察を振り返りながら仮説を検証した。江東区の学習とフィールドワークを通してわかったことを⑤を
使って文章でまとめさせた。このとき、身近な地域を紹介する文章になるように指導し、地域の良さ
に気づき、それを発信する力を養うよう心がけた。
また、⑥では、フィールドワークの途中や日常生活の中で気づいた身近な地域の課題(不便に思う
ことや危険だと思う場所など)を考えさせた。自分や友だちが気づいた地域の課題を解決するために
は、自分たちができることを考えさせることで、3年公民のきまりの学習や地方自治の学習に結びつ
けたい。特に、現行の学習指導要領では、身近な地域の学習が地理分野の最後に置かれているため、
公民分野との連携をより深める形で進めていきたい。
8 今後の課題
今回のフィールドワークの事後学習では、ワークシートの⑥を使いながら身近な地域の課題を考え、
地域に暮らす市民の一人として、主体的に地域の活動に参加し、地域に働きかけることができる人材と
なることを目指した。ここでは、地域の課題として、生徒からはさまざまな意見が挙げられたが、今回
のフィールドワークとは直接関係が薄いものが多かった。地域に目を向けるという点では、目標を達成
できていたが、折角活発な意見が挙げられた割には割り当てた時間が短く、消化不良で終わってしまっ
た。今後は単元内の時間配分を調整しながら、「地域の良さ・課題を見つけ、発信する」という点を大切
にしながら、公民分野の学習につなげたい。