「この科目によって、生徒は社会や働くこ 埼玉 自分で決める力...

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20 11 使1 10 1 コミュニケーションキャンプ最終日に行った「地元の人へのイン タビュー報告会」。 図1 「産業社会と人間」プロジェクト学習 1946年創立/総合学科/生徒数486人 (男子216人・女子270人)/進路状況 (2012年度実績)大学55.6%・短大3.3 %・専門学校29.4%・就職3.9%・その他 7.8% 1年担任 塗田佳枝先生 1年担任 北原立朗先生 1学期 「社会理解」地域の企業や団体を取材し、社会の中の 「つながり」を知る。 現場を見ることで社会や職業に対する知識を深め、 視野を広げる。 2学期 「自己理解」さまざまな人の人生観を聞き、「生きる」こ とを考える。 時間割決定を前に、根源的な問いに立ち向かい、自 己を深く追究する。 3学期 「他者理解」対話を通して、思考の共同作業を楽しむ。 生徒自身が決めた正解のないテーマについて、自ら の考えを表現し、広げ深めるとともに、他者の意見を尊 重し、話し合う楽しさを知る。 取材・文/いのうえりえ 18

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Page 1: 「この科目によって、生徒は社会や働くこ 埼玉 自分で決める力 …souken.shingakunet.com/career_g/2013/12/2013_cgno49_16-2.pdf · つながっていく。スキルの向上に役立ち、生きる力の育成に否応なくライフスキルやコミュニケーションを実施している。これを繰り返すことが、

 

総合学科開設から20年。以来、先進的

なキャリア教育に取り組んできた筑波大

学附属坂戸高校。現在、同校のキャリア教

育は、1年次の「産業社会と人間(産社)」

「キャリアデザイン」、2年次の「総合的な

学習の時間」、3年次の「卒業研究」といっ

た流れで展開。その中枢を担うのが1年

次の「産社」である。

「この科目によって、生徒は社会や働くこ

とへの理解を深め、自らの適性を判断し

ながら、生き方を考えることになります。

11年度から始まった新教育課程のキーワ

ードは〝自分で決める、自分で学ぶ〞なの

ですが、産社での経験を通して、〝自分で

決める力〞の素地を養ってほしいと考えて

います」と塗田佳枝先生。

 

同校の「産社」は①自己理解②職業理

解③社会理解④履修計画作成をポイン

トに、学年団が中心となって指導計画を

立てている。「今年度は、例年に比べ、体験

的な内容を多く盛り込みました」と北原

立朗先生。具体的には、入学式翌日からの

「コミュニケーションキャンプ」でのインタビ

ュー、菜園作りの班活動、プロジェクト学習

を新たに取り入れている。「自分の生き方

を自分でみつけ、選択する力は、教えられ

て身につくものではなく、自身の体験から

でしか得られない。そこで私たちの学年団

は〝出会い・出会う〞をテーマに、さまざま

な人や体験、知識、場所との〝出会い〞を

生徒に提供することにしました。その出会

いを通して自分の生き方、哲学を育み、将

来へのイメージを広げてもらい、科目選

択、そして進路選択へとつなげてほしいと

考えています」(北原先生)。

 

産社の新たな試みの中で、特にユニーク

なのがプロジェクト学習だ。これは「本物

や実社会に触れることで、自らの世界観

をさらに広げ、知的好奇心を育むきっかけ

となる活動も取り入れたい」という思いで

スタート。各学期1回、3日間(6コマ)を

使う。概要は図1の通り。教師の力を借

りず、班ごとの自主的活動となる。「1学

期は地域の企業や団体を取材。聞きたい

内容、アポ取り、当日の計画もすべて生徒

に任せます。なかにはアポ取りの段階で10

社から断られた班もありました。でも、そ

の経験も社会を知るうえで大事なことで

す」と北原先生。  

 

2学期は自己理解がテーマ。他者の人

生観に触れることで、自分なりの生き方

を考えさせたいと、地域の人々に人生観を

尋ねる取材を実施した。「1学期とは〝出

会い方〞も変えたいと思い、街で出会った人

に『あなたにとって生きるとは?』と質問

し、答えてもらうことにしました。翌週は

多種多様な返答をもとに討議・発表し、

『生きること』に各自が向き合えたようで

す」。3学期は他者理解として、哲学的な

テーマに関する対話を行う予定だ。

 

こうした1、2学期の学習をベースにし

て、冬休みに「今後のライフプラン」を作成、

発表する。「高1の終わりで、将来を考え

ても絶対ではない。もっと人生は複雑で変

化に富んだものです。でも、少なくとも今

コミュニケーションキャンプ最終日に行った「地元の人へのインタビュー報告会」。

図1 「産業社会と人間」プロジェクト学習

1946年創立/総合学科/生徒数486人(男子216人・女子270人)/進路状況(2012年度実績)大学55.6%・短大3.3%・専門学校29.4%・就職3.9%・その他7.8%

1年担任塗田佳枝先生

1年担任北原立朗先生

多くの「出会い」の体験と

学びの基礎を修得し

自分で決める力を育てる

埼玉 国立 筑波大学附属坂戸高校

生き方を選択する力を

体験で身につける

1学期

「社会理解」地域の企業や団体を取材し、社会の中の「つながり」を知る。➡現場を見ることで社会や職業に対する知識を深め、視野を広げる。

2学期

「自己理解」さまざまな人の人生観を聞き、「生きる」ことを考える。➡時間割決定を前に、根源的な問いに立ち向かい、自己を深く追究する。

3学期

「他者理解」対話を通して、思考の共同作業を楽しむ。➡生徒自身が決めた正解のないテーマについて、自らの考えを表現し、広げ深めるとともに、他者の意見を尊重し、話し合う楽しさを知る。

の時点で〝こういう人間として生きたい〞と

自分の目指すべき価値を見出し、考えたこ

とを形にしておくことが、その後のキャリ

アを構築していく力になる。これこそが産

社の役割だと考えています」(北原先生)。

 

なお、産社では単元ごとに必ず振り返

りを行い、個人の発表やポスターセッション

取材・文/いのうえりえ

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Page 2: 「この科目によって、生徒は社会や働くこ 埼玉 自分で決める力 …souken.shingakunet.com/career_g/2013/12/2013_cgno49_16-2.pdf · つながっていく。スキルの向上に役立ち、生きる力の育成に否応なくライフスキルやコミュニケーションを実施している。これを繰り返すことが、

を実施している。これを繰り返すことが、

否応なくライフスキルやコミュニケーション

スキルの向上に役立ち、生きる力の育成に

つながっていく。

 

1年次のキャリアデザインは、11年度入

学生から導入した新科目(図2)。自主的

に学べる基礎力、場面に応じて行動できる

ソーシャルスキル、自分の生活をコントロー

ルできる能力の習得が目標となっている。

「入学時点で、自分で考えるという本校

のスタイルになじめない生徒もいます。ま

た、3年次の卒研が、本校での学びの集大

成であり、多くの取り組みがそこに向かっ

ているのですが、卒研の段階になってもテ

ーマ設定、情報収集やまとめ方がわから

ず、戸惑う生徒も少なからずいます。そこ

で教員の目が届きやすい少人数制で、学

ぶ楽しさを実感しながら、総合学科にお

ける学びの基本スキルを獲得させるため、

設置しました」と塗田先生。

 

産社が体験型なのに対し、キャリアデザ

インは調査中心。授業もHRに関係なく、

教師1人が生徒12〜13人を担当するとい

うゼミスタイルにしている。

「例年は教員が講座名を設定し、ある程

度内容を決めて受講者を募るのですが、

今年は担当教員に得意分野をいくつか挙

げてもらい、生徒に選ばせる形式にしまし

た。生徒は気になる項目のある枠の先生の

班に入ることになります」(塗田先生)。例

えば、2枠の「鉄道」に興味をもった生徒は、

2の班に所属する。そこでいくつかの鉄道

関連の本を読んだり、必要な資料を探し

たりしながら、自分のテーマを深めていくこ

とになる。進め方は各教師に一任している

が、1学期は「知る」、2学期は「考える」、3

学期「発表する」といった3ステップに主眼

を置くことは共通している(図3、図4)。

 

さらに、キャリアデザインでは生活を自

分でマネジメントできる能力を身につけさ

せるため、市販のスケジュール帳を活用し、

主体的な生活管理、学習習慣の定着を図

っている。

「本校は宿題や課題が比較的多く、2年

になって専門科目が始まると、レポート提

出の機会も増えます。締め切りをなかな

か把握できない生徒も多かったので、逆算

して計画を立てる力を身につけさせるた

め、開始しました。スケジュール帳は1週間

ごとに提出させ、各担当教員がチェックし

ます」。塗田先生は「記録することで内省

できる」ことも生徒にとって大事な作業

と考える。

「こういう地道なことを、日々繰り返して

いるうちに、自分で何かを考え、決める力

は身についていくのではないか。卒業後の

人生においても好奇心を持ち続け、視野

を広げて生きる人になってくれるのでは

ないかと、期待しています」(塗田先生)

 

体験型「産社」と自ら学習できる力を

養う新科目の相乗効果で、同校の考える

キャリアデザインを生徒たちに実現させて

いる。

ひと工夫のしかけを入れると

体験もひときわ充実します

Q コミュニケーションキャンプで

実施した取材活動とは?

 

入学式翌日から3泊4日、黒姫高原で

実施している校外学習では、コミュニケーシ

ョン能力や、自分で考え行動する態度を

身につけさせるため、マウンテンバイクや残

雪の森散策、アイスブレイクなどの活動の

中にさまざまな〝しかけ〞を仕込ませてい

ます。その一つが今回の取材活動。班ごと

にマウンテンバイクで野尻湖を1周するの

ですが、途中でタクシーの運転手さん、農

家の方など地元の人誰かに突撃取材をす

るという課題を与えたのです。「この町の

いいところはどこですか?」など質問は何

でもOK。いろんな人に出会えば、自分の

アンテナが広がることを実感してもらう、

その第一歩になりました。(北原先生)

図4 キャリアデザインの授業の流れ

キャリアデザインは、3年次「卒業研究」のプレ体験。学びのスキルと、相手の話を聞く態度、依頼、発表時のマナーといったソーシャルスキルを身につけるためのもの。掲載は1学期分のみ。

キャリアデザインはゼミスタイル。教師12名の得意分野を記したこの用紙を配り、生徒に希望を出してもらう。教師も自分の得意分野なので、いつもとは違った雰囲気で授業できることを楽しんでいる。

「総合学科の学び」を

ゼミスタイルで学ぶ

1学期

「知る(調べる)」➡調査の基礎を知る自分の興味のある分野を知る。テーマを考える。複数の文献を調べる。さまざまな調査方法を知る。レポートの書き方を知る。

2学期

「考える(整理する、まとめる)」➡レポートにまとめる・発表するテーマを決める。調査のまとめ方、発表方法を知る。発表時のマナーを身につける。聞くだけでなく疑問・意見をもつ。

3学期「発表する(伝える、発信する)」「批評する(評価する)」➡他者に伝える・意見を言い合う 2学期の内容を修正・補足し、完成させる

実践のヒント

図2 キャリアデザイン年間予定表

図3 班編制 希望調査票

高校生のためのキャリアデザイン入門   3章

※ダウンロードサイト:リクルート進学総研 >> 発行メディアのご紹介 >> キャリアガイダンス(NO.49)

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