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医療と社会論2 海山

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医療と社会論2

海山

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病と同様、死も間主観的

• 社会的、文化的、宗教的…さまざまな文脈に影響されて、人は死へ向かう

• これからの私たちの目指す穏やかな死は、どこらへんにあるのか(へ向けて考える)のが今日の主題

• 特に今後増えると考えられている在宅死において、素人の家族が支えの柱とならなければならないという難しい課題がある (資)

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死生学

• 1960年代 欧米 ホスピス(運動)の高まり

– Thanatology (Thanatosの学問)– Death Studies

• 1970年代 日本 Thanatology, Death Studies に「死生学」の訳語が定着–中国・台湾・韓国では「生死学」と呼ばれる

• 1977年 朝日新聞紙上で初めてホスピスが紹介される

–大阪で「日本死の臨床研究会」が発足–死生学の興隆

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生死(しょうじ)

• 仏教語 生まれることと死ぬこと。また、いのちあるものが、生まれることと死を繰り返すことをも意味し、輪廻と同義にも用いられる。それ故、「生死輪廻」「生死流転」という表現も仏典には散見される (『岩波仏教辞典』)

• 生死の語を用いると仏教独自の教説に引き込まれる ex.「生死即涅槃」

• 人々が関心を持ったのは「死」をめぐる新たな言説 ⇒死生観という語

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ホスピス

• 1967年 聖クリストファー・ホスピス(ロンドン、Dr.シシリー・ソンダース)–主にがんの末期患者の全人的苦痛を、キリスト教精神に基づいてチームを組んでケアしていこうというもの

–中世ヨーロッパにおける旅の巡礼者を泊めた教会の呼び名から

–巡礼途中で行き倒れたり、病気になったりした信者を収容してケアを行った小さな教会

–ホスピタルやホスピタリティの語源にも5

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ホスピス・仏教側の動き

• 1973年以降 大阪の淀川キリスト教病院で実質的なホスピス・ケア始まる

–ホスピス長、柏木哲夫• 1981年 聖隷三方原病院(静岡県浜松市)に日本最初のホスピスが設立される

• 1985年 長岡西病院(新潟県長岡市)を拠点にビハーラの理念が提唱される

• 1987年 仏教ホスピスの会できる• ホスピス≒緩和ケア病棟 (完全に同一ではない)

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緩和ケア

• 緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に関してきちんとした評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティー・オブ・ライフを改善するためのアプローチである。(2002、WHO)

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いつから終末期?

1. 医師が客観的な情報をもとに、治療により病気の回復が期待できないと判断すること

2. 患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係者が終末期であることに納得すること

3. 患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること

日本病院協会の定義による

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終末期の患者

• 患者は孤独• 死を迎えるにあたり、無力感に苛まれる• 癌のメタファー「死」は現時点で免れない

• それでは何がそこに望まれるか

死を受け入れることができれば…

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終末期に備えておきたいこと

1. 身の回りの整理や処分2. 延命治療を受けるかどうかの意思表示3. 自分の葬式、墓や埋葬についての意思表示4. 相続に関して、遺言状の作成5. 病院、施設、自宅など、最後に過ごす場所についての意思表示、準備

6. 死後に臓器提供するかどうかの意思表示7. 自分の思い、考えを大事な人に伝える

• 死生観1万人調査、週刊ダイヤモンド調べ

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婚姻タイプ別 死ぬとき心配

• 既婚者–家族や親密な人との別れ (37%)–家族の経済的な負担 (30%)–家族の精神的な負担 (28%)–家族の肉体的な負担 (17%)

• 未婚・死別・離別者–孤独死 (未婚 38%, 死別・離別 29%)–家族や親密な人との別れ (20%, 22%)–家族の経済的な不安 (16%, 23%)

• 死生観1万人調査、週刊ダイヤモンド調べ

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死への準備がある人の覚悟

死への準備はありますか 1 死への準備はありますか 2

55

39

45

61

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ある

ない

死んでも悔いなしという人

死んだら悔いが残るという人

91

61

9

39

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ある

ない

死を考えたことがある人

死を考えたことがない人

死生観1万人調査、週刊ダイヤモンド調べ

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仏教では輪廻転生が基本

• 地獄に落ちた者も、長い刑期の後、転生する• 仏教では六道(天・人・修羅・畜生・餓鬼・地獄)のどれも「苦の世界」と捉える

• それゆえ、輪廻からの解放、すなわち解脱≒成仏(仏に成ること)が目標とされる

• 人は亡くなって49日後に転生する–だから、魂が中有(ちゅうう)にいる間に解脱できるよう有難いお経を唱えたり、儀式を行う

• (参考)『チベットの死者の書』

• 成仏したのなら「墓」はいらない?

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自分が死んだときどんな葬式を希望しますか

1.4

9

11

12.2

32.7

33.1

0 5 10 15 20 25 30 35

多くの人が参列する盛大な式

普通の葬式

分からない

家族の判断に任せる

身内や親しい友だけで行う式

葬式は不要

死生観1万人調査、週刊ダイヤモンド調べ

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みんなのお寺 見性院(熊谷市)

見性院では、「送骨」(ゆうパックで郵送)すれば墓の継承者がいなくても永代供養してくれるサービスがある。2009~2013年の5年間で永代供養は145件だったが、2014年には年間133件。2015年には270件と倍増。今年は7月までで256件。※「送骨」サービス開始が2015年。この頃からたびたびテレビ等で採りあげられた

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終末期医療に関する意思表示

• 話合っている人の割合 (資)

• 実際に意思表示を書いているか(年齢階層)

6

1.8

0.6

88.7

92.5

94.4

5.3

5.8

5.1

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

60歳以上(638)

40~59歳(504)

20~39歳(354)

終末期医療の意思表示の書面を作成しているか作成している 作成していない 無回答 厚生労働省意識調査(2014)

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人生の最終段階を過ごしたい場所

• 末期がんであるが、食事はよくとれ、痛みもなく、意識や判断力は健康なときと同様の場合

– 厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査」(2014)

19 8.2 71.7 1.2

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

医療機関 介護施設 居宅 無回答

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一般国民の希望する治療方針(前スライドと同じ状態の場合)

16.2

11.1

7.9

12.7

18.8

61.1

57.8

28.6

68.8

67.0

71.9

63.4

56.7

21.9

24.0

47.5

13.2

20.0

18.3

22.0

22.4

14.4

16.0

20.3

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

心肺蘇生処置

人工呼吸器の使用

胃瘻(いろう)

経鼻栄養

中心静脈栄養

口から水を飲めなく

なった場合の点滴

肺炎にもかかった場合の

抗生剤服用や点滴

抗がん剤や放射線に

よる治療

望む 望まない わからない 無回答

厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査」(2014)

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治る見込みがない病気になった場合,最期を迎えたい場所

31.6

23

27.7

48.2

62.4

54.6

5.3

2.5

4.1

5.4

3.5

4.5

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

女性(1054)

男性(865)

総数(1919)

病院などの医療施設 自宅 子どもの家

兄弟姉妹など親族の家 高齢者向けのケア付き住宅 特別養護老人ホームなどの福祉施設

その他 わからない 内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」(2012年)

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延命治療に対する考え方• 万一、あなた、またはあなたのご家族の病気が治る見込みがなく死期が近くなった場合、延命のための医療を受けることについてどう思いますか

5.1

14.7

91.0

73.7

0.7

2.8

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

自分の治療

家族の治療

あらゆる治療をしてほしい 延命目的の医療はせず自然に任せて その他 わからない

内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」(2012年)

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桐野高明『医療の選択』より• 日本人の平均寿命が急速に延長して、高齢者の「治療後」の生活のサポート、すなわち介護が家庭内の問題では済まなくなってきたとき、日本には高度成長の過程で大量に生み出された病床があり、国民皆保険に加えて無料化された老人医療があった。その結果、老人の介護は医療とひっくるめて病院が担当するようになった。無料化によって、老人が病院に収容され、家族は安心することができた。

• しかし、看取りに至るヒトの自然の過程を、家族の日常生活から分離し、家庭とは離れた病院で起きる特殊現象とすることで、死は日常生活を送る人々には見えないものとなっていった。無料化で老人の医療が手厚くなったという面はあるものの、支払い方式が出来高払いであったために、検査漬け・薬漬けの問題や「社会的入院」の問題が発生した。また、老人の徘徊や転倒を防止するという理由でベッドに拘束をするため、寝たきり老人が全国的に発生し、経管栄養や点滴のチューブがスパゲッティ症候群と呼ばれる状態を生み出していった。

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スウェーデンにはなぜ寝たきり老人がいないのか

• スウェーデンはそもそも寝たきりになる人がほとんどいない

• いたとしても、終末期ケアが行われる数日から数週間の短期間だけ

• 施設で24時間介護を行うよりも、在宅で何度も介護士を派遣するほうが結局はコスト的に安く上がるため、在宅介護が推奨されている

• スウェーデンでも‘80年代までは無理な延命治療が行われていた

• だが徐々に死に方に対する国民の意識が変わってきた• 長期間の延命治療は本人、家族、社会にとってムダな負担を強いるだけだと気付いたのだった

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死を受容するまでの5段階エリザベス・キューブラ・ロス

– 『死ぬ瞬間 死とその過程について』

• 否定と孤独–衝撃を受け、死を受け入れられない。嘘だと思ったり、強い不安感におそわれる

• 怒り–なぜこんな目にあうのかと憤り、神や周囲の人間に怒りをぶつける

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• 取引–延命するために取引を考え、「~をするから生かしてほしい」とすがる

• 抑うつ–取引は無駄であるという失望、喪失感から周囲とかかわりたくない気持ちになる

• 受容–穏やかに死を受け入れる

(資)

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お迎え現象

• 宮城県仙台市で在宅緩和ケアをやっていた岡部医院の院長岡部健先生が、2003年から2007年にわたり、東大と共同で実施した調査

• 在宅で看取りを行った患者682人(平均年齢74.2歳)の家族にアンケート調査を行い、回収された366件の回答をもとに「現代の看取りにおける〈お迎え〉体験の語り──在宅ホスピス遺族アンケートから」という論文にまとめた

• 『死生学研究』2008年3月号

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「お迎え」体験の有無

度数 割合

そういうことがあった 155 42.3%そういうことはなかった 128 35.0%よくわからない 57 15.6%無回答 16 7.1%合計 366 100.0%

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「お迎え」されて人は逝く終末期医療と看取りの今 より

ポプラ新書、奥野滋子。2015

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小学生で死別した母が迎えに

• 夫と死別して子供もいなかったMさん(60)– お母さんは小学生の時に亡くなっている

• 卵巣がんで入院して1か月。腹水でお腹は膨らみ、顔はやつれ、手足がやせ細るなど衰弱が進行。自分の力では動くこともままならない。

• 死を受け入れられず

• 昨夜お母さんが会いに来てくれたと語る– でも私の方を見てくれない

• どんなお母さんでしたか– 物静かで優しい母でした

• お母さんがやっと私の方を見てくれたと話す– これできっとお母さんのところに行ける

• 穏やかな表情で亡くなる

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死別した夫が愛車で迎えに

• 胃がんが原因の虚血性心疾患で自宅療養していたSさん(80)– 夫は10年前に脳血管疾患で急逝

• 食事を口から摂るのが困難になり、低栄養、貧血、全身への浮腫が進行

– 自分で動くことが困難になり、寝たきりに

• 一人で死んでいくのが怖いと語る

• 部屋の隅の天井を見ながらひとりごと

– 昨晩お父さんが来た• 「白い…」「お父さん…」「一緒…」とつぶやく– 父の車は真っ白なサニーだったから…

• 2日後、笑みを浮かべたような表情で亡くなる

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着物姿の女の人が現われる

• 妻と離婚後食道がんとなり、肺や肝臓に転移して入院のTさん(69)

• 廊下から着物姿の女の人が部屋を覗いた

– 夜中のナースコールに看護師が出向くが誰もいない

• この日からしばしばTさんは女性を見かける

– 昼も現れたと訴える

• 何となく見たことがあるような気もするし、別に怖い感じはしない…– 髪を後ろで結わえ、いつも着物姿。そんなに年寄りでもない

• 2週ほど後に症状が悪化。「かあちゃん」とつぶやく

• 6日後、穏やかな表情で旅立つ

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幼いうちに亡くした息子が

• 婦人科系のがんで、入院して化学療法を受けていたKさん(60代女性)

• 幼いときに亡くした次男が、成長した青年の姿になって現れた

– 直観的にわかりました– ニコニコしていた

• 病気を治すことだけ考えていたKさんが、「死の準備」を始める

– 髪を切り、メークして写真を撮る

– 長男に料理の方法を教え始める

– なにか贈りたいと一緒に買い物にでかける

– ガーデニングで大切に育てていた庭の花の手入れを、長男に引き継ぐ

• 一週間後、Kさんは御主人と長男に看取られて亡くなる

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飼っていた犬が現われる

• 胃がんで入院していた男性(60)

– 入院する直前まで、妻と2匹の犬と一緒に暮らす

• 亡くなる前、血圧が低下して朦朧とした意識の中で「マロン、マロン」と繰り返しつぶやく

– マロンというのは10年ほど前に飼っていた犬の名前

– 子どもがいなかった夫婦が子ども同然に可愛がっていた犬がマロン

• 「マロンが来ているの?安心してマロンと一緒に行きなさい」と妻が夫に語りかけていた

• 数時間後、男性は静かに息を引き取った

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古くて大きな仏間で

• 肺がんで入院のAさん(85)。がんで生じた無気肺と肺炎も併発し、余命は長くて一週間と告知

– 家族は自宅で看取ることを決め、退院

• 先祖の遺影が10枚ほど飾られている大きな仏間にベッドを置く– 皆この部屋で最期を迎えた

– 仏さんたちが見守ってくれるこの部屋で過ごさせご先祖の所へ送りたい

• 家に戻ると奥さん、子ども、孫たちと少し会話が可能になる

– そこにいない人の名を呼んだり、ボソボソと誰かと話しをしているようにも

• 自宅に戻って7日後に亡くなる

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在宅ケア中心の老人医療へ

• ご自宅で亡くなる方の増加は間違いない所• そこで必要になってくるのは、最先端で高度な医療ではなく、ひとりひとりの「生活」

• 地域包括ケアシステム (構築中)

–生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場で適切に提供できるような地域での体制

–治療、予防、リハ、介護、福祉を地域ぐるみで行う住民参加の仕組み

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終末~こころの問題

• 安らかで穏やかな死を迎えるために–死を受け容れることができるか

• 個人的にその鍵は「お迎え」にあるのではないかと思っている

– もしうちのわんこが迎えに来てくれるのであれば、納得できるだろうと感じる

– 「お迎え」をただのせん妄としてしまわないように、医療関係者の中にこの現象への理解を広めることは重要なのではないかと考えている