「生命現象を理解する」とはどういう意味だろう …...(左上)sacla...
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 1
生物物理学 I の授業はツイキャスで行います。ツイキャスのアプリをインストールして、「YonedaS
ネット授業用」で検索してください。合言葉は「生物物理学」です。うまくいかなかったら、翌週まで
に [email protected] にメールください。
この資料は https://www.kitasato-u.ac.jp/sci/resea/buturi/seitai/yoneda/text.html にアップロー
ドしてあります。
「生命現象を理解する」とはどういう意味だろうか?
「理解する」という事は「より普遍的な原理・法則により現象を説明する」とも言いかえることができ
る。「生命現象を理解する」とは「自然法則と論理を用いて生命現象を説明する」ということである。
生命とはタンパク質などの生体分子により制御された精妙な化学反応である
例:金属触媒による COの多様な水素化反応(生体分子はさらに精妙な化学反応の制御をしている)
Cu触媒: CO + 2H2 → CH3OH
Ni触媒: CO + 3H2 → CH4 + H2O
Co, Fe 触媒: 6CO + 9H2 → C6H6 + 6H2O
Rh触媒: 2CO + 2H2 → CH3COOH
...
生体分子の機能を理解する手順
①酵素の立体構造を X線結晶構造解析、NMR、電子顕微鏡などの方法で原子レベルで決定する。
②反応物(および、生成物、遷移状態の化合物)と酵素の間の原子間相互作用を計算し(立体構造が分
かっているので計算できる)、「Fischer の鍵と鍵穴モデル」に従って遷移状態の自由エネルギーΔGを
を算出する。
③化学反応の反応速度 exp( )B
Gk A
k T
をアレニウスの公式 exp( )
B
Gk A
k T
で計算する。ただし、k は反
応速度、 Aは頻度因子、 Bk はボルツマン定数、T は絶対温度である。
④可能な反応過程のうち、反応速度が最大なもの(正確には結合定数も関係するが)が実際に進行する
化学反応である。
図.酵素表面での合成反応 A + B → C
図.遷移状態と反応速度
したがって、生体分子の立体構造を決定すること、立体構造にもとづいて生体分子の機能を理解するこ
とが生命現象を理解することにつながる。
A
B
B
A
C
酵素
mailto:翌週までに[email protected]:翌週までに[email protected]
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 2
Protein Data Bank
タンパク質、核酸の立体構造データがタンパク質データバンク(日本 PDBj、米国 RCSB PDB、欧州
PDBe)に登録・公開されている。今月の分子を読んでみよう
図.日本の PDBj(https://pdbj.org/) 矢印部分が「今月の分子」コーナー
参考:タンパク質構造決定と機能解析のための日本の施設
(左上)SACLA :第3世代X線放射光源。Spring-8の隣に作られている。(右上)J-PARC:大強度陽子
加速施設。第 4 世代放射光源(X線自由電子レーザー、XFEL)(世界4大 XFELの1つ)。
大きなタンパク質集合体として、ウイルス外殻タンパク質(Capsid)が近年、欧米で注目されているの
で、この講義では特に Capsidについて詳しく述べる。物理学科のコラムに私(米田)の気楽なコラム
があるので見たい人は見て下さい。
https://www.kitasato-u.ac.jp/sci/resea/buturi/phys_sp/contact17.html
https://www.kitasato-u.ac.jp/sci/resea/buturi/phys_sp/contact17.html
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 3
ViperDB(http://viperdb.scripps.edu/)
PDBに登録されているデータのうち、正 20面体対称性ウイ
ルス外殻タンパク質のものをまとめたもの(その他、若干
の独自データも含む)。ウイルスを Tナンバー、科
(family)、属(genus)などで分けて表示している。
図.ViperDB初期画面
ウイルスのボルチモア分類
ウィキペディアより。ssは 2本鎖、ssは一本鎖、RTは逆転写酵素の意味
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 4
ウイルスの外殻タンパク質(Capsid)の構造による分類
Capsid の大まかな構造(fold)はウイルス以外には存在しない。その foldのタイプによってウイルス
を分類することが可能である。
Nasir, A & Caetano-Anolles, G, Frontiers in Microbiology, 2017.
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 5
PyMol(分子グラフィックス・ソフト)
情報科学演習室の iMacには、すでに PyMol がインストールされている。
(自分の PCで使う場合はライセンスなしの無料インストールが可能
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/rcsfp/supracryst/suzuki/jpxtal/Katsutani/install.php)
Pymol の使用方法を説明する参考用 URL:
○PyMOL 基本操作(大阪大学 蛋白質研究所)
(http://www.protein.osaka-u.ac.jp/rcsfp/supracryst/suzuki/jpxtal/Katsutani/operation.php)
○BioKids Wiki:PyMOL を使ってみよう
課題1(IT 環境によりできる人のみ).
Protein DataBank から,タンパク質構造ファイルを検索する
1)PDBjの今月の分子から「Acetylcholine Receptor」を選んで、説明を読む。
2)PDBjの画面上部で「acetylcholine receptor」で検索をして、多数のアセチルコリンレセプターの
構造が決定されていることを確認する。
3)PDBjの画面上部で「2bg9」と入力して、今月の分子の説明に使用されていた構造 2bg9を選んで表示
する。
問1.2bg9 は何本のペプチド鎖から構成されるか?(ペプチド鎖に A からアルファベット順で名前を付
けると、どのように名称が付けられるか?同じアミノ酸配列のペプチド鎖は何本あるか?)
問2.アミノ酸配列のどの部分がαヘリックスでどの部分がβストランドか?
4)2bg9 のページから、「ダウンロード」の中の「More...」を選択すると、「全ての情報(非圧
縮)」が選択可能になるので選択して、非圧縮 pdbファイルをダウンロードする。
5)iMac の画面下側の MacPyMol をクリックして起動し、メニューバーの
「File」から「Open」を選択して、ダウンロードフォルダの中の
pdb2bg9.entを選ぶ。
問 3.MacPyMol 以下を入力するとどのような画面になるか?
右側のメニューから 「all」→「H」→「everything」
「all」→「S」→「ribon」
「all」→「C」→「by ss」→どれでも
キーボード入力で 「show surface」
上部の「Display」メニューから 「Background」→「white」
上部の「Setting」メニューから 「Transparency」→「Surface」→「80 %」
ウェブ「PyMOL 基本操作」を読んで上記スクリプトの意味を理解しよう
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/rcsfp/supracryst/suzuki/jpxtal/Katsutani/install.php
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 6
コンピューター・グラフィックスの用語
○分子表面(molecular surface、Connolly surface)
分子に接する半径 0.14 nm 程度の球の内接面
○溶媒接触表面(solvent accessible surface)
分子に接する半径 0.14 nm 程度の球の中心点が作る面
○slab mode(clipping)クリッピング
z軸方向に垂直な平面(clipping plane)を考える。それより手前(あるいは奥)だと画像が切り取ら
れる
○depth que デプスキュー
z軸方向に奥だと、雲がかかったように画像が薄れていく
○画面の x、y、z軸の定義
画面の面内の水平方向右側が x 軸方向
画面の面内の垂直方向上側が y 軸方向
画面の面に垂直で手前側が z軸方向
○CPK カラー(Corey, Pauling and later improved by Kultun)
通称 CPK モデルと呼ばれるプラスチック製の分子模型で採用されている色分け
C が黒(または灰色)、 Oが赤、Nが緑、H が白、Pが黄色、Sが
暗い黄色である
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 7
PyMol(パート 2)
1)まず、つぎのウェブに保存されている PDB形式のファイルをダウンロードする。
北里大学理学部を検索する
→物理学科→研究室紹介→生物物理学講座→米田茂隆
上記のウェブの末尾 index.html を simple.pdbに書き換える。
PyMol による分子の変形方法:
1)右下のマウス機能のメニューで 3-Button Editing を表示させる。
2)
原子の削除:原子を左クリックして、コントロールキー+dを押す(Build メニューを使っても良い)
水素原子などを CH3にする:その水素を左クリックして、コントロール+cを押す。
原子の移動:原子を左クリックして、ドラッグ
ボンドの回転:
①ボンド上にマウスを置き、コントロール+右クリックする(または、右ダブルクリック)
②ボンドの一方の原子をコントロール+左ドラッグ
課題2.(IT環境によりできる人のみ).
1.simple.pdb をエクステンデッド構造にせよ。
2.simple.pdb をαヘリックスの構造にせよ
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 8
アミノ酸の化学構造
ペプチドはアミノ酸が重合したものである。ウィキペディアの図表を下に示す。ラベルが省略してある原
子は炭素原子 C である。
図.ペプチドのねじれ角
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 9
図. 左)n-ブタン CH3-CH2-CH2-CH3のニューマン投影図.この構造の4個の炭素に関するねじれ角 C-
C-C-C はマイナス 60 度である。右)ねじれ角は原子1,2,3,4が作る角度である。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 10
.」
ペプチド主鎖のねじれ角 φ、ψ、を右上図、下図のように定義する。すなわち、φ :C-N-C-C、
ψ:N-C-C-N、:N-C-C-C
図. φ を横軸、ψを
縦軸にしたペプチド
主鎖のねじれ角の表
示図を Ramachandran
Plot(ラマチャンドラ
ン図)と呼ぶ。、が
逆に表示されること
もある。等高線や散布
図が描かれる。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 11
水素結合
水素結合は O や N などの電気陰性度が大きい(マイナス電荷を帯びやす
い)原子が H を仲介にして形成する相互作用で、図のように H と共有結
合している原子をドナー、そうでない原子をアクセプターとよぶ。
ドナーとアクセプターの間の距離 3.2Å以内
H とドナーとアクセプターのなす角 30°以内
という条件がしばしば水素結合形成の判断基準とされる。水素結合が形
成されることによりドナーと H の間の共有結合の距離は伸びる。さらに
切断されて H がアクセプターと共有結合しまうこともある。
βストランド
φ = 180°、ψ = 180°だと主鎖の原子たちは平面上に位置する。この構造を伸直構造(extended
structure)という。原子間の相互作用から 180°から少しずれた構造の方がより安定だが、それはβス
トランドと呼ばれる。2 本のβストランドが逆平行、または、平行にならぶと、主鎖の N と O がストラ
ンド間で水素結合を形成するので、それを逆平行βシート、並行βシートと呼ぶ。
図.逆平行βシートと平行βシート
逆平行βシートでは、残基 i のNとOが向かいの鎖の残基 j のOとNに水素結合する。平行βシートで
は、残基 i のNとOが向かい合った残基 j の隣の残基 j -1のOと残基 j+1のNに水素結合する(1
残基分、またいでいる)。
図.逆平行βシート(左)と平行βシート(右)の水素結合の模式図(+は側鎖が紙面より手前、-は側
鎖が紙面の奥に向かっている)
図.水素結合
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 12
βシートの主鎖は完全な平面ではなくヒダができるのが普通なので、ベータプリーテッドシート(β
pleated sheet)と呼ばれることもある。左下図は逆平行βシートのヒダを見えやすくした画像である。
平行βシートも同様にヒダをもつ。βシートについてはヘアピン型(右下左)とクロスオーバー型(右下
右)という用語がある。クロスオーバー型には右巻きと左巻きの2種類がある 。
図.βシート
へリックス
ヘリックスは1本のペプチド鎖が水素結合によってつくるらせん様の構造である。αへリックス、左巻
きαへリックス、310 へリックス、πヘリックス、左巻きαヘリックスなどの分類がある。
図.へリックスの構造.左から順に、310ヘリックス、αヘリックス、πヘリックス
図.ヘリックス内の水素結合
2次構造 ピッチ リングの大きさ
αヘリックス 5.4Å 3.6 残基(13 原子)
310へリックス 6.0Å 3.0 残基(10 原子)
πヘリックス 5.1Å 4.3 残基(16 原子)
左巻きαヘリックス 5.4Å 3.6 残基(13 原子)
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 13
ターン
ペプチド鎖が曲がった部分をターン(turn、折れ曲がり構造)と呼ぶ。I 残基の O と i+3 残基の N が水
素結合をしたものをβターンと呼ぶ。i残基と i+1 残基の側鎖はどれも紙面手前に向く。βターンは I
型、II 型、I’型、II’型に分類される。I’型はI型の、II’型は II 型の鏡像体である。下図のように、
I 型βターンはi残基と i+1 残基のカルボニルが紙面向こう側に出ている。II 型βターンはi残基のカル
ボニルが紙面向こう側に、i+1 残基のカルボニルが紙面から手前に出ている。I'型βターンはi残基と i+1
残基のカルボニルが紙面から手前に出ている。II'型βターンはi残基のカルボニルが紙面から手前に、
i+1 残基のカルボニルが紙面向こう側に出ている。
図.左から順に、I 型βターン、II 型βターン、I'型βターン、II'型βターン
I 型が一番多く見うけられ、I > II > II' > I'の順で少なくなる。I型以外は、側鎖と主鎖の立体障害
(原子の衝突)のため、2つの残基のどちらかがグリシンなのが普通である。βターン以外にも、γター
ン、インバースγターンなどがある。下図のように、γターンはβターンより残基が1つ少ない。インバ
ースγターンはγターンの鏡像体である。特に、i+1 残基のCαの向きが異なる。水素結合はβターンよ
り弱い。
図.γターン(左)とインバースγターン(右)
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 14
アミノ酸の光学異性体
図.アミノ酸分子の不斉性。H原子から H-C結合を見下ろすと、L 型は時計回りに CO、R、N 置換
基が Cから伸びている。生体内のほとんどのアミノ酸は L 型だが、最近は D 型アミノ酸もそんざいし
ていることが分かっている。
スイスロール(ゼリーロール)バレル構造
図.ピコルナウイルス外殻タンパク質のスイスロールバレル構造。ピコルナウイルス外殻タンパク質は
VP1、VP2、VP3 から構成され、スイスロールバレル構造の様式(左上枠内)を満たしている。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 15
超 2 次構造
βシート、ヘリックス、ターンを2次構造と呼ぶ。2次構造には、この他、ループ、バルジなどがあ
る。ループはシート、ヘリックス、ターンをつなぐ構造不安定な部分、バルジはβシートの水素結合が
不整合になっている部分である。
2次構造が組合わさってできたものを超2次構造という。
図.左から順にβヘアピン、αヘアピン、ロスマンフォールド(βαβ')、グリークキー(ギリシャ
鍵)、グリークキー模様のマットレス
超2次構造の1つに下図のようなベータ・ヘリックスという構造がある。βヘリックスはベータシート
が折れ曲がって全体として角柱状になっているもので、1本のペプチド鎖からなる一本へリックスと、
3本のペプチド鎖がおりなす3本へリックスの2種類がある。βシートのつなぎ目はループであるか、
鋭角に折れ曲がる。3角柱状のものが多いが、ペンタペプチドリピートと呼ばれる5残基の配列が 20~
30回繰りかえすようなβへリックス構造の場合は4角柱構造である。
図:三本鎖βへリックス(A)T4 ファージの gp5C末端ドメインの一部(PDBコードは 1K28)、(B)同じく
gp12シャフトドメインの一部(1H6W)、(C)連鎖球菌のプロファージのコードスル尾繊維タンパク質
(HylP1)の一部(2C3F)。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 16
課題 3.(IT 環境によりできる人のみ).
MacPyMOLで次のような操作を行って画像を作成し、パワポに張り付ける。
まず最初に
1)MacPyMOL→Build→Residue→Isoleucine を繰り返し、イソロイシン8残基からなるペプチドを作成
する。
2)主査のねじれ角φ、ψ、ωの角度を測定してノートに記帳する(1残基についてのみ測定すればよ
い)。具体的には、MacPyMOL→Wizard→Measurement を選ぶと、右側のメニューで Distances というボ
タンもできるので、それを Dihedralsに変えてから、4つの原子を選択するとねじれ角が測定できる。
3)Mouse Mode を 3-Button Editingにしておく。N末端の N原子を左クリックし、右側のメニューの
(pkobject)の A→hydrogens→add により、N末端を NH2にする。その後、背景を右クリックして終了。
4)C 末端は COHになっているので、その Hを左クリック。MacPyMOL→Build→Fragment→Oxygenによ
り C末端を COOH に変える。その後、背景を右クリックして終了。
5)all→H→everything と all→S→sticks によりスティック表示にする。
2本鎖平行βシート作成
1)Mouse Mode を 3-Button Viewingにしておく。MacPyMOL→File→Save Molecule...から ileを選び
保存する。ファイル名(Save As)は ile.pdb、Where はデスクトップ(Desktop)とする。
2)MacPyMOL→File→Openから、ile.pdb を読み込む。すると、同じ分子構造が読み込まれるので、2
分子あるようには見えないが、MacPyMOL→Display→Sequence Onで配列を表示すると2分子あるのが分
かる。
3)Mouse Mode を 3-Button Editingにしておく。2つ目の配列の IIIIIIII を選択した後、シフトキー
を押しながら中央ドラッグ(マウスのホィール部分を押す)して、2分子を分離する。シフトキーを押
しながら左ドラッグすると回転する。この操作により2本鎖逆平行βシートを作る。
4)MacPyMOL→Wizard→Measurementの機能で距離がわかるので、Nと Oの距離をおよそ 2.6Å~3.2Å
にしておくこと。
5)全残基を選択後、右側のウィンドウの all→A→find→polar contact で水素結合を黄色の表示させ
る(8本表示されるはず)。
6)commandキーとシフトキーを押しながら数字の4を押してスクリーンショットをとる。スクリーン
ショットのファイルはデスク上に作られる。これを、パワポに張り付ける。
7)パワポには、学籍番号と氏名、および、記帳しておいたφ、ψ、ωの角度を記入してデスクトップ
上に保存する。ファイル名は学籍番号とする(例:sp17199.pptx、すべて小文字)
8)MacPyMOL→File→Save Session As でセッションを保存しておくと、あとの学習のために良いかも
しれない。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 17
スイスロールバレル
1)PDBj で 2rs1を表示し、PDB ファイルをダウンロードする。
注)MacPYMOL のコンソールウィンドウ(PYMOL>と書いてある細い窓)で次の fetch コマンドを入力して
も良い。
fetch 2rs1, async=0
2)2rs1 は4本のペプチド鎖と水分子(O)と薬物 W84 を含むが、1番目の鎖(Cartoon かつ by ss 表
示)と薬物 W84(spheres)のみを表示する。
3)シークエンスを表示して(MacPyMOL→Display→Sequence On)、βストランドの部分のみを選択
し、その主鎖のみをスティック表示する(all→H→main chain→sticks)。
4)水素結合を破線で表示する(all→A→find→polar contacts→within selection)
課題 4.(IT 環境によりできる人のみ).3本鎖βヘリックス
1K28ファイルを PyMOL で表示するが、1K28 は同一形状の3つの構造(結晶学的非対称単位)から形成
されており、デフォルトでは PDBjにはその1つの構造しか扱えない。そこで3つの構造(生物学的単
位)を表示する。
1. MacPYMOLのコンソールウィンドウ(PYMOL>と書いてある細い窓)で、次のコマンドを入力する。
fetch 1K28, type=pdb1, multiplex=1, async=0
注)このコマンドを使わず PDBj からダウンロードする方法を用いる場合、ダウンロードする
ときに「生物学的単位(PDB形式)」を選択する。また、コンソールウィンドウから次のコマ
ンドを入力する。
split_state
2. 主鎖だけを表示し、水素結合を黄色の破線で示す。以下、Mouse Mode を 3-Button Editing にしてお
く。
all→H→every thing
all→H→main chain→sticks
all→C→by element→(上から7つ目、下から 3つ目)
all→A→find→polar contacts→within selection
3. 3本鎖βヘリックスの部分を拡大し、その1つの原子を適当に選んでクリックする。その後、次の
操作によりその原子を回転中心にする。
(sele)→A→center
その後、クリッピングにより見やすくするためにコンソールウィンドウから次のコマンドを入力する。
clip slab, 80
なお、80 という数字は適切に変更せよ。さら、コントロールキーとシフトキーを押しながら右ドラッグ
してクリッピングの領域を変える。最後に、拡大と移動により3本鎖βヘリックスが良く見えるように
せよ。
4. commandキーとシフトキーを押しながら数字の4を押してスクリーンショットをとる。スクリーンシ
ョットのファイルはデスク上に作られる。これを、パワポに張り付ける。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 18
5. パワポには、学籍番号と氏名を記入してデスクトップ上に保存する。ファイル名は学籍番号とする
(例:sp17199.pptx、すべて小文字)
6. MacPyMOL→File→Save Session Asでセッションを保存しておくと、あとの学習のために良いかもし
れない。
セリンプロテアーゼ
セリンプロテアーゼはアミノ酸の1つセリンを触媒部位
にもつ一群のタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の総称
で、キモトリプシンなど動物由来の酵素とサブチリシンな
ど微生物由来のものが良く知られている。キモトリプシン
を代表とする一群にはキモトリプシンやトリプシンやエラ
スターゼなどの消化酵素のほか、トロンビンなど血液凝固
関連の酵素が知られている。
キモトリプシンのアミノ酸配列の中で His57 と Asp102
と Ser195 が特に重要なカタリティックトライアード
(catalytic triad、触媒三残基)である。右図はX線解析で決定されたその立体構造の触媒部位付近の
拡大図である。描画には PDBファイルの 1T8Lを使用した。水素原子の座標はX線解析では決定できない
ので図には表示してない。セリンプロテアーゼにはこのトライアードは必ず存在し、図のような配置を
している。
この他、下の2つの図のように Gly193 と Asp194のN原子はオキシアニオンホール(oxyanion hole)と
呼ばれる重要なポケット状の構造で、その主鎖 NHと、四面体遷移状態の酸素原子が水素結合を形成して、
四面体遷移状態を安定化する。
ペプチド側鎖は特異性ポケット(specificity pocket)の中におさまる。
図.セリンプロテアーゼの活性部位
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 19
セリンプロテアーゼの2段階の触媒機構
アシル中間体の形成(左図)とアシル中間体の脱アシル化(右図)の2段階に分かれる(合わせて、下
図)。1
注)アシル基とは R-CO-のこと。Rは炭素と水素からなる構造を示す。
図.アシル中間体の形成 図.アシル中間体の脱アシル化
図.セリンプロテアーゼの触媒機構(ウィキペディアより)
1以前は電荷リレー(charge relay)システムという仮説があった。これはアシル中間体形成の段階で、Hisの水素原子の
共有結合が切断され、その水素原子は Aspと共有結合するとする説であり、反応過程において Hisはプロトン化されず
(His+とはならず)、代わりに Asp側鎖 COO-がプロトンを受けて一時的に COOHとなると主張していた。なお、Hisが一度
Serのプロトンをうけとって、それをペプチドの Nにリレーするという部分は同じ。このような電荷リレーシステム説は
今では否定されている
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 20
ウイルス外殻蛋白質
ウイルスは、そのライフサイクルのほとんどの時期において宿主細胞中に生息する。しかし、宿主細胞を
脱出して外界を移動して感染増殖する時期も必要であり、ウイルスは直径数十ナノメートルかそれ以上
の大きさのウイルス粒子(Virion)と呼ばれる形態をとる。ウイルス粒子は、基本的には、ウイルス核酸
遺伝子(RNA か DNA のどちらか1種)、それを保護するための外殻タンパク質(capsid)、さらにその外側
の脂質エンベロープ(envelope、外套膜)からなる。エンベロープ中には様々な機能をもつスパイクタン
パク質が混入している。脂質でへだてられた2重の外殻タンパク質をもつウイルス粒子もある。逆に、エ
ンベロープをもたず外殻タンパク質と核酸遺伝子だけからなるもっと簡単なウイルス粒子も多い。ウイ
ルスは多様であり、ウイルス粒子の共通した特徴を述べるのは簡単ではない。
ウイルス外殻タンパク質の対称性についての Crick and Watson の数学的予測
ウイルス粒子のエンベロープは宿主細胞の膜をウイルスがまとっているものだが、外殻タンパク質は
ウイルス遺伝子中の遺伝情報を宿主のタンパク質合成機構が翻訳したものである。一般にウイルスの核
酸遺伝子は小さく、その遺伝情報の大きさも限られているので、ウイルスは同一の小さな単位タンパク
質を多数産生し、それらの集合体として外殻タンパク質を作るという戦略を採用している。多数の同一
のタンパク質単位から効率的かつ正確に外殻タンパク質全体が構成されるためには、タンパク質単位間
の接触様式も同一であるはずであり、外殻タンパク質全体は対称性をもつはずである。このことに Crick
and Watsonが最初に気づいた(1956 年)。彼らは、「内部が空洞の対称的な分子集合体には、どのような
ものが可能か?」という問題を数学的に検討して、外殻タンパク質が、らせん対称性か立方対称性のどち
らかに分類され、立方対称性はさらに正 4 面体対称性、正6面体対称性、正 20 面体対称性のどれかであ
ると予測した2。
らせん対称性
らせん対称性は回転とその回転軸方向への並進の合成により分子集合した集合体の対称性である3。簡
単にらせん対称性の分子集合体の模式図
を作るには、図のように、平行移動(並進
対称性)により分子を多数複製して平たい
紙の表面を埋める。つぎに、右図のように
その紙を円筒状に折り曲げ、ややずらして
紙の両端をつなげばよい。図の隣接分子間
の結合(接触面)は、A-D、B-E、C-F であ
って、すべての分子で共通である。
2 もっとも、これらのすべての対称性が実際のウイルスに見られるわけではなく、これまで発見された外殻タンパク質対
称性は、らせん対称性と正 20面体対称性、およびその変形や組み合わせのみである。
3 長いらせん対称性外殻タンパク質は実際には直線ではなく、曲がって丸まったりする。したがって、比較的大きめのら
せん対称性の外殻タンパク質は、電子顕微鏡では、しばしばエンベロープも含めた全体の外形が丸っぽく見えることがあ
る。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 21
正 20 面体対称性
正 20 面体は、下図のように正3角形が 20 面あつまってできた立体である。正 20面体には、5回回
転軸(図の正3角形の頂点を通る)が 12本、3回回転軸(図の正3角形の中心を通る)が 20本、2回
回転軸(図の正三角形の辺の中点を通る)が 30本存在する。このような対称性を正 20面体対称性
(icosahedral
symmetry)と呼ぶ。1つ
の正3角形の3つの頂点
は互いに同一の環境にあ
る。したがって、1つの
正3角形は3つの同一の
図形4から構成すること
ができる。正3角形は
20枚あるから、60 個の
同一の図形で全体が構成される。その図形を非対称単位5と呼ぶ。非対称単位たちは完全に同一の構造を
もち、回転されていて向きと位置が異なるだけである。
正 20 面体とよく似た立体に正 12面体というのもあって、これは正5角形が 12面あつまってできた立
体である。正 12 面体にも5回回転軸が 12 本、3回回転軸が 20 本、2回回転軸が 30 本存在する。した
がって、対称性ということに関しては、正 20面体も正 12面体も同じ正 20面体対称性であり、両者の違
いは表面の形状が異なっているということだけである。一般に、5 回回転軸、3回回転軸、2回回転軸が
正 20 面体と同様に配置されてさえいれば正 20 面体対称性であり、ウイルス外殻タンパク質のように表
面が凸凹していてもかまわない。
準等価仮説
20 世紀の半ば頃から電子顕微鏡の進歩により正 20 面対称性のウイルス外殻タンパク質が多数見つか
った。対称性から、それら正 20 面体対称性ウイルス外殻タンパク質は必ず非対称単位 60 個の集合体で
なければならない。しかし、同時に、生化学的実験により1つの外殻タンパク質を構成するタンパク質が
60個ではなく、その倍数であることが多いということも発見された。したがって、正 20面体対称性ウイ
ルス外殻タンパク質の非対称単位1つは、しばしば同じタンパク質複数個から構成されているというこ
とである。
しかし、非対称単位 1つの中に複数の同じタンパク質を配置するのは簡単ではない。一見、外殻
タンパク質を構成するタンパク質たちは非対称単位の中の場所に応じて大きく変形しなければならない
と思われる。ところが、Caspar and Klug は、準等価(quasi-equivalence)仮説を提案し(1962 年)、タ
ンパク質の構造が変化せず、また、タンパク質間の接触の様式がたいして変化しなくても、一つの非対称
4 例えば、 のような四角形(立体的には四角錐)にとることもできる。 非対称単位は正 3角形を等しい同じ形状
で 3分割するものでありさえすればよく、以外の形にも設定できる。
5 対称性をもたない最大の空間の単位という意味で、非対称単位という。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 22
単位中に複数のタンパク質を配置することができると主張した。
準等価仮説を具体的に説明するために、まず、下図のように正3角形(黒い正3角形ではなく、細い
線で囲まれた大きな正3角形)で区分された平坦な紙を考えよう。1つの正3角形の中には3個の等価
な分子が存在し、3つの分子は 120°の回転により互いに関連づけられている。分子たちは完全に同一
構造であり、また隣接分子間の相互作用(ボンド)はすべての分子に対して同一である。図の場合、分
子たちは A-E、B-C、D-Dのボンドをもっている。正
3角形の中心は3回回転軸、辺の中点は2回回転軸
になる。3回回転軸をつないでいくと分子6個から
なる太線の正6角形ができる。図の太線は正3角形
の辺の垂直2等分線たちである。正6角形の中心は
6回回転軸となる。
この平面を正 20 面体対称性の構造に折りたたむた
めには、下図のように均等に配置された 12 個の6回
回転軸に切れ目を入れて、60°の開きをもつ2直線
にはさまれた部分を切り取るか、重ねるかして、5
回回転軸にすればよい。このように作成した立体は
12個の5回回転軸をもつので、正 20面体対称性とな
る。
分子の位置関係をはっきりさせたいので、別の図を使って分子
1つ1つをもっとはっきりあらわすことにする。下図では、点線
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 23
で描かれた小さな正3角形で平面が区分されている6。この小正3角形は上図の正3角形の3分の1の大
きさで、分子1個に相当している。小正3角形6個で正6角形が作られ、その正6角形で紙面がうめつく
される。上図とまったく同様にして、12個の正6角形の中心に切れ目を入れて紙を切って折り曲げれば、
正 20 面体対称性の模型が作れる。どこに切れ目を入れるかによって模型の形は当然異なるので、切れ目
の相対的な位置関係を明確に把握しなければならない。そこで、ある1つの切れ目の頂点を原点 O とし
て、O から下図のように2本の座標軸 h と k を伸ばす。ただし、h と k は 90°でなく 60°傾いている。
隣りあう正6角形の中心点間の距離を1とする。したがって、当然、どの正6角形についても、その中心
の位置座標 hとkは整数である。下図の展開図では、(h, k) = (1, 1)なる点に切れ目の頂点を入れてい
る。切れ目の頂点は均等に配置するので、他にも、(h, k) = (-1, 1), (1, 1), (3, 0)などが切れ目の
頂点である。これらの切れ目の頂点は 5回軸(5回回転軸)になる。5回軸を結ぶ大きな正3角形を考え
ると、その中に小正3角形が3×T個収まる7。ただし、 T = h2 + hk + k2である。5回軸を結ぶ大きな
正3角形の中に小正3角形が3×T個収まる以上、紙モデル全体には 60×T個の小正3角形が収まる。
この T のことを、Tナンバー(T-number、triangulation number、三角分割数)と呼ぶ。下図は、T = 3
の図である。T = 3 のとき、作られる紙モデルはもっとも単純な表面をもち、正20面体そのものである。
Tナンバーの定義式から、下の表のように、T ナンバーのとりうる値は、1,3,4、7...のとびとびの
整数に限られる。hかkのどちらかがゼロの場合は「P=1 型」、hとkの値が等しいときは「P=3 型」、そ
れ以外の場合を「ねじれ型」と表記する。ねじれはさらに右回りと左回りの2種類に分けられる。これら
の分類に応じて全体の表面の凸凹の分布が異なっている。この分類は紙モデルだけでなく実際のウイル
ス外殻タンパク質の表面を明確に特徴づけるものでもある。
表:T ナンバーと正 20 面対称性の分類
P=1 1 4 9 16 25
P=3 3 12 27
ねじれ 7 13 19 21
a) 正 20 面体対称性中の60個のタンパク質。各タンパク質は完全同一構造、完全同一相互作用。
b) 正 20 面体に 180個のタンパク質を入れたもの。各オタマジャクシは完全同一構造だが、微妙に相
互作用が異なり(あるいは構造も)、A, B, C の3つに分類される。正二十面体対称性には6回回転軸は
ありえないことなどに留意して、A, B, C のタンパク質を区別せよ。これは T=3である。
c) この図のみ平面図形である.同一のタンパク質3つをくっつけて正三角形を作っていった。各タン
パク質は構造相互作用とも完全同一である。
d)と e) cに切れ目を入れて、T=4で折り畳んだもの。各タンパク質の相互作用は微妙に異なる。
6 「図. T=3の紙モデルの作成」の中の点線で書かれた小さな正3角形は、「図. 正3角形で区分された平面」の黒く塗り
つぶされた正3角形に相当する。
7 簡単な幾何学の計算である。時間があれば、自分で計算してみよう。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 24
上述したように、正 20面対
称性ウイルス外殻タンパク質
を構成するタンパク質が準等
価な場合、全体はタンパク質
60×T 個からなる。各タンパ
ク質はほぼ同じ構造でありえ
るが、タンパク質間の結合の
様式が各タンパク質間で微妙
に異なる。また、疑似6回軸
やそれ以外の疑似対称軸が多
数できる。5回軸だけでなく
擬似6回軸のまわりも、準等
価性からほぼ同じ形状を示し
ているように見え、出っ張り
としてウイルス外殻タンパク
質の外形に現れる。そのウイ
ルス外殻タンパク質の形態的
な 単 位 を キ ャ プ ソ メ ア
(capsomer)と言う。キャプ
ソメアの形状と分布はウイル
スを特徴づけるものであり、電子顕微鏡写真のようなおおざっぱな画像からでも、キャプソメアの分布
を調べて Tナンバーを決定することができる。
T ナンバーについては、ViralZone というウェブにきれいな解説が載っている。
https://viralzone.expasy.org/1057?outline=all_by_protein
https://viralzone.expasy.org/1057?outline=all_by_protein
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 25
問題
1. 次のウイルス外殻タンパク質の画像について、5回回転軸や6回回転軸たちはどこにあるか?
2.hとkの値はいくつか?
3. T ナンバーはいくつか?8
(1) (2)
(3) (4)
ヒント)右下の(4)の画像でキャプソメアがはっきりみえないのは、きわめて簡単な構造でキャプソメ
アの個数が少ないから。まず、どこに5回回転軸があるかをはっきり考えると分かりやすい。ちいさな凸
凹をキャプソメアと誤解して難しく考えすぎないように。
8 解答は次ページ
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 26
準等価仮説の破れ
パポバウイルス(papovavirus)はポリオーマウイルス、SV40、パピローマウイルスなどを含む。その
外殻タンパク質は電子顕微鏡では、一見、T=7型であり、12個の5回回転軸、および、60個の擬似 6回
回転軸をもち、キャプソメアの数は 72個である(7×60=12×5+60×6)。しかし、下図のbのよう
に、粗いX線解析で、6回回転軸の中心にタンパク質単位5量体からなる5回対称性をつキャプソマー
が存在するという異常が発見された。
下図はそれを分かりやすく示したもので、5回回転軸上だけでなく6回回転軸の上にも5量体が存在
し、したがって、準等価性が壊れている。必然的にパポバウイルスのプロトマーは隣接したプロトマー
と状況に応じて複数の種類の接触の切り替えをしなければならない。
前ページの問題の答:(1ページ前の問題の解答)(1)T=13,(2)T=4,(3)T=3,(4)T=1
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 27
下左図は、高い精度のX線解析から得られた SV40の外殻タンパク質全体構造のうち、5量体を構成した
部分を抜き出したものであるが、その C末端が長く伸びた構造(アーム)をしていることが分かる。アー
ムはタンパク質単位の位置に応じて構造変化を起こし、対称的でない様々な相互作用をしている。アー
ムは隣接したタンパク質単位の方に遠く伸びて、その β シートと水素結合をして実質的にその β スト
ランドを1本増やしている。そのアームは侵入先のタンパク質単位のN末端により固定される。この5
量体が、下右図のように集合して、まわりの6個の5量体と相互作用する。すなわち、他のウイルス外殻
タンパク質とは異なり、パポーバウイルス外殻タンパク質はタンパク質単位間の相補的な接触面間のボ
ンドで構成されるというより、各タンパク質単位の C末端のアームでしばられたものといえる。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 28
正 20面体対称性の破れ:準等価はある意味成立している(HIV外殻タンパク質)
準等価仮説が前提とする「5回軸が均等に分布する」という仮説が崩れると、正20面体対称性も崩れ
る。その場合でも、下図の HIV のように、準等価仮説の根本的な前提「タンパク質単位が5量体と6量
体の両方を作りうる」という仮説が成立する場合がある。
図.HIV の外殻タンパク質構造.左のタンパク質単位が球殻状に自発的に集合する。(PDBj の今月の分
子より)
HIVカプシド は 1 種類のタンパク質(CA、p24とも呼ばれる)で、2つのドメインに折りたたまれ、両
者の間は柔軟な連結部分でつながっている。ヘリックスから構成されるのでスイスロールバレル構造で
はない。柔軟性があることにより対称性が少し崩れたカプシドを作ることができる。これは ポリオウ
イルスやライノウイルス(風邪ウイルス) など完全に対称なカプシドを持つウイルスとは異なる。HIVカ
プシドは珍しい円錐のような形をしていて、5量体の環状ドメイン 12個(橙色で示す部分)と 100個以上
の 6量体(赤色で示す部分)からできている。電子顕微鏡で解かれた 2つの構造(PDB エントリー 3h47 、
2kod )を使い、分子動力学(molecular dynamics)で構造を改良して全体構造が発表されている。電子顕
微鏡で得られた画像と矛盾しないモデルが 2つ得られていて、一方は 216 量体(上図の 3j3q )、もう一
方はもう少し小さい 186量体(PDB エントリー 3j3y )である。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 29
T=7L、T=7D、pT=3(pT3)、T=2
Tナンバーの表記のうち、Lと Dが追加されているものは「ねじれ」をもつ幾何異性体である。例え
ば、T=7は T=7L と T=7D に分かれる。もちろん原子レベルで厳密な幾何異性体であるわけではない。巨
視的に外殻タンパク質の外側から見て、2つの6量体を5量体でつないだとき Lの形に見えるのが L型
(縦線の方が横線より長い)、そうでないのを D型と覚えると良い。
T=7L(バクテリオファージ SF6、5L35) T=7D(ポリオーマウイルス、6ESB)
T=1型の外殻タンパク質のタンパク質単位がホモダイマーの場合、慣習的に T=2と表記する。
T=2(バクテリオファージφ6、5FJ5)左:全体構造、右:ホモダイマーのタンパク質単位
ピコルナウイルスは厳密にいえば T=1 型の構造であるが、タンパク質単位がヘテロ 3量体で、その
3つのタンパク質のアミノ酸配列の相動性が高い(7割程度)ので、同一タンパク質3つとみなすと各
タンパク質は T=3型の配置をしている。そこで、pT=3 と表記する。
ジェミニウイルスは正 20面体対称性構造が2つ合わさって、2つ団子のような構造をしている。2
つ団子の結合部分はもちろん正 20面体対称性が壊れている。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 30
肝炎ウイルス
A 型 ピコルナウイルス科へパトウイルス属
1本鎖+RNA 7500 残基 経口感染 急性肝炎、50歳以上はほぼ感染経験あり
E 型 Hepevirus 科 Hepevirus属(エンベロープなし、T=4)
1本鎖+RNA 7600残基 経口感染 急性肝炎、後進国のみ 妊娠後期に感染すると劇症肝炎
B 型 Hepadnaviridae 科(エンベロープあり、T=4と T=3)
2本鎖 DNA(一部1本鎖) 3200 残基 血液感染 持続感染+急性肝炎、劇症肝炎
C 型 フラビウイルス科(エンベロープあり、T=3、デングウイルスなどと同じ)ヘパシウイルス属
1本鎖+RNA 9500 残基 血液感染 持続感染
B 型肝炎ウイルスは T=4 と T=3 の外殻タンパク質を産生する。
T=3 構造(6BVN) T=4構造(1QGT)
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 31
疑似 T=3型の外殻タンパク質(ピコルナウイルス)
ピコルナウイルスは「RNA 遺伝子を持つ小さなウイルス」の1つの科を指す。ピコルナウイルスは、RNA
1本鎖の遺伝子と外殻タンパク質からなるエンベロープなしの小さなウイルス粒子を形成する。下のリ
ストのようにポリオウイルス、ライノウイルス、口蹄疫ウイルス、エコウイルスなどがピコルナウイルス
科に属し、どれもあまり致死的ではない疾病を発病する。
ピコルナウイルスの外殻タンパク質は、4本のペプチド鎖(VP1、VP2、VP3、VP4)からなるが、そのう
ちの特に短い VP4 は VP2 から切断されたものである(VP4 が切断される前の VP2 を VP0 と呼ぶ)。 ウイ
ルス粒子は、自発的に自己集合(assembly, morphogenesis)して形成される。意思をもたないタンパク
質や核酸がどのようにして自発的に集合するかということは、生命科学の大きな謎である。これまでの
ところ、 ピコルナウイルス外殻タンパク質の自発的分子集合は次の段階に分かれることが知られている。
1-0)ウイルスのポリプロテイン P1が2回切断されて、VP0、VP1、VP3ができる
1-1)VP0、VP1、VP3からプロトマー(I-protomer)が形成される(5S蛋白、S 抗原)
1-2)5つのプロトマーが集合してペンタマーが形成される(14S 蛋白、N,H抗原)
1-3)12 個のペンタマーが集合して空洞外殻タンパク質(natural empty
capsid、NEC)が形成される(70S蛋白、N抗原)
1-4)1-2)のペンタマーと RNA が直接に集合して、あるいは、1-3)の NEC の
中に RNAが進入して、ウイルス粒子前駆体(provirion)が形成される(N抗
原)
1-5)大部分の(下図のように、すべてではないかも知れない)VP0が加水分
解して、VP2 と VP4に切断され、感染性をもつウイルス粒子(virion)が完
成する(155S 蛋白、N抗原)
図.4つのタンパク質 VP1、VP2、VP3、VP4 からできているピコルナウイルス外殻タンパク質表面。この
図では、右上のプロトマーの VP0 が VP2 と VP4に切断されてないので 031 と表されている。
外殻タンパク質の前駆体仮説(Procapsid hypothesis)
ピコルナウイルスの外殻タンパク質中に RNA が入る仕組みは次の2つのどちらかであると思われる。
1)threading model(糸通し仮説)
空洞の外殻タンパク質(natural empty capsid, NEC)の穴から RNA が入り込む
2)transfiguration model(構造変化仮説)
RNAが procapsid を取り巻いている。この構造はなにかのチャネルにフィットしていて、そこを通過する
ことにより、部分単位の協調的再配向が引き起こされ、RNAが内部に入り、最後の VP2と VP4 の切断がお
きて成熟する。
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 32
図.ライノウイルスと宿主細胞表面のレセプ
ターとの結合と感染メカニズム
図.ライノウイルスのキャニオン(渓谷)仮説。「宿主
細胞のレセプターに結合するライノウイルスの部位は、
外殻タンパク質表面のくぼんだキャニオンにある。そ
のため、宿主の抗体が直接には結合することができな
い。そのため、重要なキャニオン以外のアミノ酸残基が
突然変異すれば、抗体からの攻撃から逃れることがで
きるし、宿主レセプターとの結合は維持される」
図.ライノウイルスのポケット因子。ライノウイルス外殻タン
パク質にはキャニオンの下にポケット(空洞)があって、ライ
ノウイルスが宿主細胞を脱出する際に宿主細胞の生体膜の分
子の断片がポケットの中にはまり込む。これをポケット因子と
いう。ポケット因子をはめ込んだ外殻タンパク質は安定化す
る。別の宿主細胞に吸着した際に、ポケット因子は放出され、
外殻タンパク質が不安定化し、内部 RNA が宿主細胞の中に放
出される。
Human Rhinovirus 14 (2HWC) pT=3
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 33
口蹄疫ウイルス以外はポケット因子を持つ(下図)
ピコルナウイルスの脱殻過程。以前は5回軸の穴(下右図中央)から内部 RNA が放出されると思われて
いた。
Smyth and Martin, Mol. Pathol. 2002.
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3SP・3SB 生物物理学 I(米田茂隆)令和2年5月配布資料 34
最近は2回軸から放出されることになっている(下図)。
Ren et al., Nature 2013.