地熱発電タービンの腐食とエロージョン · 1。2地...

6
発電プ ラン トにお ける損傷事例 と対策 〔1〕 Ju1.1999 地熱発電タービンの腐食とエロージョン (CorrosionandErosionofGeothermalSteamTurbines) 弘* (Y.Sakai) 地熱エネルギーは資源に乏しい我が国にとって 貴 重 な 国産 エ ネ ル ギ ーで あ り,石炭 ・石 油 等 の 化 石 燃 料 と異 な っ て リサ イ クル が可 能 で あ る こ と, 二酸化炭素等を殆 ど排出せず環境への影響が少な いクリーンエネルギーであること,発電以外の多 目的利 用 が 可 能 で あ る こ と,な どの利 点 もあ って, 今 後 ます ます 重 要 性 が 高 ま って い くもの と考 え ら れ る。 地 熱 流体 中 に は,塩 素,硫 化 水 素,炭 酸 ガ ス な どの強 い腐 食 作 用 を持 つ 不 純 物 が 多量 に含 まれ て い るた め,こ れ を利 用 す る地熱 発 電 プ ラン トでは, 使用材料のコロージョン,応力腐食割れ,腐 食疲 労 な どの腐 食 に まつ わ る問題 へ の対 応 が 最 も重 要 な課 題 の一 つ で あ る。 また地 熱 ター ビンの 入 口蒸 気 は通常,飽 和湿 り蒸 気であるため,ド レンア タ ックエ ロー ジ ョ ンや エ ロー ジ ョン ・コ ロー ジ ョ ン の問題 も無視できない。 本稿 では,地 熱発電 ター ビンにまつわる腐食や エロージョンなどの問題について概説する。 場 合 に は,フ ラ ッシ ャ(減圧 蒸 発 装置)に導 いて 再 蒸 発 させ,得 られ た低 圧 蒸 気 を タ ー ビ ンの 低 圧 部 に混 入 さ せ て 出 力 増 加 を はか っ て い る(ダブル フ ラ ッ シ ュ方 式=図1(b))。 地 中 か ら噴 出 した地 熱 流 体 に は,ガ ス状 お よび 非 ガス状の不純物 や地殻か らの固形物 が含 まれ て い る。地 熱 流体 中 に溶 解 して い る非 ガ ス状 の不 純 物 は,セ パ レー タで蒸気 と熱水 を分離 す る過程 で か な りの部 分 除去 され るが,一 部 は蒸 気 に溶 解 し て そ の ま ま ター ビ ン内 に持 ち込 まれ る。 また,地 熱流体中に不凝縮ガスとして含まれる不純物の大 部分は,蒸気 とともにタービン内に流入する。 地 熱 流 体 中 に含 まれ る不 純 物 の組 成 は地 域 に よ って 大 き な差 が あ るが一 般 的 に は,不 凝 縮 ガ スの 1.地熱流体中の不純物とその影響 1.1地熱 流 体 中 の不 純 物 地 熱 発 電 の形 式 に は 種 々の ものが あ るが,一 般 的 には,地 熱井 か ら取 り出 され る蒸気 と熱水の混 合 流 体 を セ パ レー タ(気水分 離 器)に導 い て 蒸 気 と 熱 水 を分 離 し,蒸 気 だ け を ター ビンに導 い て発 電 を行 って い る。 分 離 後 の熱 水 は還 元井 に よ り地 中 に戻 され る(シ ングル7ラ ッシュ方 式:図1(a)) が,熱 水 が なお 十 分 な熱 エネ ル ギ ー を持 っ て い る 図1一 般 的 な地 熱発 電 プ ラ ン トの 構 成 *富士 電 機㈱ エ ネ ル ギ ー製作所 (FujiE且ectricCo.,Ltd.) 原稿受付 平 成11年5月17日 14

Upload: others

Post on 25-Oct-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 地熱発電タービンの腐食とエロージョン · 1。2地 熱蒸気中の不純物が腐食に及ぼす影響 地熱蒸気中に含まれる不純物は,タ ービン部材

発電プラン トにおける損傷事例 と対策 〔1〕 Ju1.1999

地熱発電タービンの腐食 とエロージ ョン(CorrosionandErosionofGeothermalSteamTurbines)

酒 井 吉 弘*

(Y.Sakai)

ま え が き

地熱エネルギーは資源に乏しい我が国にとって

貴重な国産エネルギーであ り,石 炭 ・石油等の化

石燃料と異なって リサイクルが可能であること,

二酸化炭素等を殆 ど排出せず環境への影響が少な

いクリーンエネルギーであること,発 電以外の多

目的利用が可能であること,な どの利点もあって,

今後ますます重要性が高まってい くものと考えら

れ る。

地熱流体中には,塩 素,硫 化水素,炭 酸ガスな

どの強い腐食作用を持つ不純物が多量に含まれて

いるため,こ れ を利用する地熱発電プラン トでは,

使用材料のコロージョン,応 力腐食割れ,腐 食疲

労などの腐食にまつわる問題への対応が最も重要

な課題の一つである。また地熱 タービンの入口蒸

気は通常,飽 和湿 り蒸気であるため,ド レンアタ

ックエ ロージョンやエロージョン ・コロージョン

の問題 も無視できない。

本稿では,地 熱発電 タービンにまつわる腐食や

エロージョンなどの問題について概説する。

場合には,フ ラッシャ(減圧蒸発装置)に 導いて再

蒸発させ,得 られた低圧蒸気をタービンの低圧部

に混入させて出力増加をはかっている(ダ ブル フ

ラッシュ方式=図1(b))。

地中から噴出した地熱流体には,ガ ス状および

非 ガス状の不純物や地殻か らの固形物が含 まれて

いる。地熱流体中に溶解 している非ガス状の不純

物は,セ パレータで蒸気 と熱水を分離する過程で

かなりの部分除去されるが,一 部は蒸気に溶解 し

て そのままタービン内に持ち込まれる。また,地

熱流体中に不凝縮ガスとして含まれる不純物の大

部分は,蒸 気 とともにタービン内に流入する。

地熱流体中に含まれる不純物の組成は地域によ

って大きな差があるが一般的には,不 凝縮ガスの

1.地 熱流体中の不純物とその影響

1.1地 熱流体中の不純物

地熱発電の形式には種々のものがあるが,一 般

的には,地 熱井から取 り出される蒸気と熱水の混

合流体をセパレータ(気水分離器)に導いて蒸気と

熱水を分離 し,蒸 気だけをタービンに導いて発電

を行っている。分離後の熱水は還元井により地中

に戻される(シ ングル7ラ ッシュ方式:図1(a))

が,熱 水がなお十分な熱エネルギーを持っている 図1一 般的な地 熱発電 プラン トの構成

*富 士 電 機㈱ エ ネ ル ギ ー 製 作所

(FujiE且ectricCo.,Ltd.) 原稿受付 平成11年5月17日

14

Page 2: 地熱発電タービンの腐食とエロージョン · 1。2地 熱蒸気中の不純物が腐食に及ぼす影響 地熱蒸気中に含まれる不純物は,タ ービン部材

Vol.50醤o.7 地 熱発電 タービンの腐食 とエロージ ョン(酒 井 吉弘) 779

囲 〉籍欝篁鰹 朧 働宛 塩棄 イオ ン(αうの侵入

囲>1一 ス ケ ール 付 着 pHの 低下(pH<5>

〉 不働体皮膜

の破壊 〉[コ国

匡 藪][〉[一 一パーテ・ク・… 一・・ン

[藍三]〉[ ドレ ンア タ ッ ク・工 ロー ジ ョ ン

不働体皮膜

金 属

不繍 ガ・ 〉 「

図2

性能低下/真空低下 図4コ ロージ ョンの発生メカニズム

地熱蒸気タービンの技術的課題

塩素 イオン(Cド)[〉 孔食/隙 問腐食/応 力腐食割れ

硫酸イオン(SO4) 〉[全 面腐食]

硫化水素(HzS)じ 〉 硫化物応力腐食割れ

炭酸 ガス(co,)[〉 pH低 下 による腐食促進

アンモニア〔NHヨ)じ 〉 銅合金の応力腐食割れ/全 面腐食

酸 素(02) じ〉 局部腐食/応力腐食割れ

図3地 熱蒸気中の不純物の影響

大部 分 は炭酸 ガ ス(CO2)で あ り,次 い で 多 いの は硫

化水 素(H2S)で あ る。 そ の ほか ア ンモニ ア,メ タ ン,

窒素,水 素 な どが含 まれ る こ とが 多 い 。 これ らの

不凝 縮 ガ スは 作勤 流体 と して 適 して い な い ば か り

で な く,腐 食 作 用 を持 つ も の が 多 い 。蒸 気 に溶 解

して い る不 純 物 と して は,塩 化 物(XCD,硫 酸 塩

(sO4)な どの 腐 食 性 成 分 の ほ か,シ リ カ(Sio2),

炭酸 カル シ ウ ム(CaCO3)な ど の よ うに スケ ール 付

着 の原 因 とな る成 分 が あ る。 そ の ほ か に,岩 石 の

破 片 や土 砂 な どの 固形 物 が 蒸 気 に運 ばれ て ター ビ

ン内 に流 入 し,パ ー テ ィ クル ・エ ロー ジ ョ ンの 原

因 と なる(図2)。

1。2地 熱 蒸 気 中 の 不純 物 が 腐食 に 及 ぼ す影 響

地熱 蒸 気 中 に含 まれ る不 純 物 は,タ ー ビン部 材

に次 の よ うな影 響 を与 え る(図3)。

(1)塩 素 イ オ ン(Cr>

不 働 体 皮 膜 を破 壊 して,孔 食,隙 間 腐 食,応 力

腐食 割れ(SCC:StressCorrosionCracking)の 原 因

とな る。塩 素 イ オ ンは鋼 材 の 全 面 腐食 も促進 す る。

(2)硫 酸 イ オ ン(SO4⇒

鋼 材 の 全 面 腐 食 を促 進 す る。

(3)硫 化 水 素(H2S)

硫 化 物応 力腐 食 割 れ(SSCC:SulfideStressCor一

15

rosionCracking)の 原因 となる。酸素が混入 した

場合には硫化水素の酸化によってpH(水 素イオン

指数)が低下 し,腐 食性が急激に増加する。

(4)炭 酸ガス(CO2)

水に溶解 してpHを 低下させるとともに炭酸を

生成 し,腐 食を促進する。

(5)ア ンモニア(NH3)

銅合金の応力腐食割れを引き起こす。また軟鋼

の全面腐食を加速することがある。

(6)酸 素(02)

少量でも混入した場合には,著 しい局部腐食や

応力腐食割れを引き起こす。炭素鋼や低合金鋼に

対しては微量でも腐食を急激に増大させる。酸素

は地熱流体中には通常含まれていないが,地 上設

備中での熱水と空気の接触,タ ービン停止時の真

空破壊などによりター ビン内に侵入する。

2.地 熱タービンの損傷事例

2.1コ ロージ ョン

地熱 タービンは極めて腐食性の高い環境で使用

されるため,コ ロージョン(腐食)は程度の差 こそ

あれ避けがたい問題である。コロージョンの形態

には,全 面腐食 と局部腐食がある。金属が腐食さ

れると表面に腐食生成物による不働体皮膜が形成

され,こ の皮膜が金属母材を保護する働きをする。

しかし,pHの 低下や塩素イオンなどの侵入によ

り不働体皮膜が破壊 されると,孔 食(ピ ッテ ィン

グ)や隙間腐食などの局部腐食を生 じる(図4)。

また全体にわたって不働体皮膜が不安定な場合に

は全面腐食となる。

コロージョンの挙動は材料の種類によって異な

るが,そ の程度は使用環境の影響 を著 しく受 け

る。地熱タービン部材のコロージョンを促進する

環境物質としては,前 項で述べたように,塩 素イ

Page 3: 地熱発電タービンの腐食とエロージョン · 1。2地 熱蒸気中の不純物が腐食に及ぼす影響 地熱蒸気中に含まれる不純物は,タ ービン部材

780 火 力 原 子 力 発 電 Ju1.1ggg

写真1

初段静翼の孔食

囲険 変化1

〉 乾湿刺 〉 不純物の堆積 ・濃縮

図6乾 湿交番域における腐食割れの発生原因

応力腐食割れ(SCC) 甕食疲 労(CF)

破面の特徴

(例 外 もある)

粒界割れ

枝分れ状

応 力 との関係 静的応力

発生 しやす い

部 位

動翼根元

動翼植 込み部シュラウ ドテ ノン

ディスク表面熱影響 部

動的応力

動翼 根元

動翼植込み部

シュラウ ドテノン部

ディスク根元

写真2

動翼植込み部の腐食割れ

図5応 力腐食割れと腐食疲労

オン,硫 酸イオン,硫 化水素,炭 酸ガス,ア ンモ

ニア,酸 素などがあるが,pHは 炭素鋼や低合金

鋼のコロージョンに大 きな影響があり,pHが 低

いほど腐食速度が大き くなる。特にpH5以 下で

は全面腐食が著 しく促進される。一般にステンレ

ス鋼はコロージョンを生じにくいとされるが,塩

化物や硫化水素の侵入により孔食を生 じる。また

pHが 著 しく低い場合 には溶解 して全面腐食を生

じることがある。写真1は,13%Crス テンレス製

の初段静翼に発生 した孔食の例である。

2.2応 力腐食割れと腐食疲労

応力腐食割れは腐食環境のもとで静的応力(引

張応力)が作用する部位に割れが発生 ・進展する

現象である。また腐食疲労は腐食環境のもとで動

的応力(繰返 し応力)が 作用する部位に割れが発生

・進展する現象である(図5) 。動翼や ロータな

ど実際のタービン部材 には静的応力と動的応力が

同時に作用するので,応 力腐食割れ と腐食疲労を

明確に区別することは必ずしも容易ではない。一

般に,応 力腐食割れは粒界割れを示 し,ま た腐食

疲労は粒内割れを示す とされているが,例 外も知

られており,ま た破面が著 しい腐食 を受けている

場合には両者の識別は一層困難である。

応力腐食割れや腐食疲労が発生しやすい部位 と

しては,動 翼植込み部やシュラウ ドテノンなどが

ある。その理由としては,構 造が複雑であ り応力

集中により比較的高い応力が作用すること,部 材

聞の隙間に不純物が堆積 し著 しく腐食環境を高め

ること,な どがあげられる。

応力腐食割れや腐食疲労は,蒸 気がウィルソン

線(4~5%湿 り度)を横切って膨張する乾湿交番

域の段落に発生 しやすい。その理由は,タ ービン

の起動停止や負荷変化に伴 って,不 純物を溶解し

た水滴の部材表面への付着 と蒸発が繰 り返され,

不純物が次第に濃縮されるからであるとされてい

る(図6)。

写真2は,動 翼の植込み部に生じた腐食割れの

例である。破面は黒褐色の硫化物に覆われてお り,

硫化物応力腐蝕割れを起点 としてクラックが進展

したものである。

2.3工 ロージョン ・コロージョン

エロージョン ・コロージョンは,高 速の湿 り蒸気

流にさらされる金属部材の表面が溶出して減肉す

る現象である。鉄等の金属が水(湿 り蒸気)に さら

され ると金属の表面がイオン化反応により溶出す

るが,こ の反応は金属表面に腐食生成物による不

働体皮膜が形成 されることによって抑制される。

ところが,金 属表面が絶えず高速の湿 り蒸気流に

さらされている場合には,不 働体皮膜の形成が妨

げられるため,金 属のイオン化反応による溶出が

止まらず,減 肉現象を生 じる結果となる(図7)。

エロージョン ・コロージョンの程度は,蒸 気の

温度や湿 り度,流 速,流 路形状などのほか,pH,

16

Page 4: 地熱発電タービンの腐食とエロージョン · 1。2地 熱蒸気中の不純物が腐食に及ぼす影響 地熱蒸気中に含まれる不純物は,タ ービン部材

Vo1.50No.7 地熱発電 ター ビンの腐食 とエロージョン(酒 井 吉弘) 781

腐 食成分(Cretc)

i蒸 気 ・水・相流

囲 [〉不働体皮膜の破壊 [〉

○○

金属 の

溶 出 ・減 肉

⇒一金 属 此 、、、 鴇L β 、 魑

写 真3ロ ー タ表 面 の エ ロ ー ジ ョン ・コ ロ ー ジ ョン

図7エ ロー ジ ョン ・コ ロ ー ジ ョン の発 生 メ カ ニ ズ ム

写真4

最終段動翼の

ドレンアタ ック・

エロー ジ ョン

図8エ ロー ジ ョン ・コ ロ ー ジ ョンの 発 生 域(3)

腐食 成 分 な どの影 響 を受 け る。 ま た 固体 粒 子 に よ

る不 働 体 皮 膜 の破 壊 もエ ロー ジ ョ ン ・コ ロー ジ ョ

ンを助 長 す る。 図8は,エ ロー ジ ョ ン ・コ ロー ジ

ョンが 発 生 しや す い領 域 を トーs線 図 に示 し た もの

で あ る。

写 真3は,約10年 の 運 転 後 に ロー タ に生 じた エ

ロー ジ ョ ン ・コ ロー ジ ョンの例 で あ り,蒸 気 流 の

方 向に沿 って ロー タ表 面 が著 し く減 肉 して い る。

2.4エ ロー ジ ョン

エ ロー ジ ョン は,固 体 粒子 や水 滴 の 衝 突 に よ る

機械 的 損 傷 に よ り部 材 が 浸食 され る現 象 で あ る。

固体粒 子 に よ るエ ロー ジ ョ ンは,パ ーテ ィクル ・

エ ロー ジ ョン と して知 られ て い る 。蒸 気 卓越 型 の

地熱 発 電 プ ラ ン トで は,過 熱 蒸 気 を直 接 ター ビ ン

に導 入 して 発 電 す る た め,パ ー テ ィ クル ・エ ロ ー

ジ ョ ンを生 じや す い 。

水 滴 の衝 突 に よ る ドレ ン ア タ ッ ク ・エ ロ ー ジ ョ

ンは,火 力 ター ビンの 場 合 と同 じ現 象 で あ るが,

熱 水 卓 越型 の地 熱 発 電 プ ラ ン トで は タ ー ビ ン入 口

蒸 気 が 飽和 湿 り蒸 気 で あ り,全 段 落 が湿 り蒸 気 中

で 運 転 され る た め,ド レ ン ア タ ック ・エ ロ ー ジ ョ

ン に対 す る設 計 的 な配 慮 が 特 に必 要 で あ る 。写 真

4は,ド レ ンキ ャ ッチ ャが設 け られ て い な か っ た

た め に最 終 段 動 翼 に発 生 した 著 しい エ ロー ジ ョ ン

の例 で あ る。

3.地 熱 タービンの トラブル防止対策

3.1材 料選定および設計上の配慮

腐食に起因する地熱 タービンの トラブルを防止

するためには,適 切な材料を選定することが重要

である。このため,実 験室で人工的地熱環境によ

る材料試験を行 うだけでなく,世 界各地の地熱サ

イ トに試験装置を設置 し,地 熱蒸気および復水中

での材料試験を行ってきた(写 真5)。 この よう

な材料試験の結果に基づき,地 熱 タービンに適し

17

Page 5: 地熱発電タービンの腐食とエロージョン · 1。2地 熱蒸気中の不純物が腐食に及ぼす影響 地熱蒸気中に含まれる不純物は,タ ービン部材

782 火 力 原 子 力 発 電 Jul.1999

表1地 熱 ター ビン用主要部品の

使用材料(例)

ケ ー シ ン ク

ロー タ

主 弁 ケ ー シ ン グ

弁 棒

シ ール フ ィ ン

SS400

1Cr-1Mo-0.5Ni-0.3V

13Cr

SCPH2

SUS630

SUS410

写真5地 熱サイトにおける材料試験

た材料を選定 している。主要部品に使用 される材

料の例 を表1に 示す。

材料試験の結果,火 力タービンの低圧 ロータに

使用される3%NiCrMoV鋼 は,地 熱環境中では応

力腐食割れを発生 しやすい傾向があることがわか

った(写 真6)。 そのため,地 熱 ター ビンのロー

タ材としてはNi含 有量の少ない1%CrMoNiV鋼

を採用 している。このロータ材は高い試験応力で

も応力腐食割れを生じなかった。

地熱環境中では材料の疲労強度が空気中の半分

以下に低下する(図9)。 したがって翼の設計に

際 しては,疲 労強度の低下を考慮に入れ,動 的応

力を十分小さくすることが必要である。

固体粒子によるパーティクル・エ ロージョン対

策 としては,ス トレーナの設置が有効である。ま

た,水 滴による ドレンアタック・エロージョン対

策 としては,ド レンキャッチャを設けてエロージ

ョンの原因となる水滴を除去(図10)し たり,動

翼前縁部にステライ トを ろう付けするなどの方法

が採られている。

3.2蒸 気純度の管理

厳格な水質管理が行われる火力発電の場合と異

なり,地 中から噴出する地熱流体には極めて腐食

性の高い不純物が多量に含 まれている。熱水卓越

型の地熱井の場合は,セ パ レータにより地熱流体

から蒸気を分離しているが,こ の過程で地熱流体

中に溶解していた不純物の大部分は熱水 とともに

除去される。しかし,セ パレータの性能が悪いと

気水分離が十分 に行われず,多 量の腐食成分 を

含む水滴状の熱水がタービン内にキャリーオーバ

され,ス ケールの堆積や,応 力腐食割れ,腐 食疲

写真6 3%NiCrMoVロ ー タ材の応力腐食 割れ

労などの トラブルを生 じる原因となる。したがっ

て,セ パ レータは十分余裕のある設計を行い,ま

たタービン入口にデミスタ(湿分除去器)を設置し

て,タ ービン内への水滴のキャリーオーバを防止

することが重要である。一般に入口蒸気の湿 り度

は0.1%以 下に保つ ことが要求される。

地熱ター ビンの設計に際しては地熱蒸気中に含

まれ る不純物の性状を考慮 して,材 料,応 力,構

造の選定を行 うことは当然であるが,地 熱蒸気中

に含まれる不凝縮ガス(特に炭酸ガスや硫化水素)

曝露 前

4か 月曝露後

6か 月曝露後

13%Cr鋼

13%Cr鋼 硬てヒ

o

Φ

N

図9地 熱蒸気 に曝露 した13%Cr鋼 の疲労 強度

18

Page 6: 地熱発電タービンの腐食とエロージョン · 1。2地 熱蒸気中の不純物が腐食に及ぼす影響 地熱蒸気中に含まれる不純物は,タ ービン部材

VoL50No.7 地熱発電 ター ビンの腐 食 とエ ロージ ョン(酒 井 吉弘)

図10ド レンキ ャッチ ャによる水滴除去

が設計時点で知られていた値より増大すると,タ

ービン部品の寿命 を縮めたり,翼 折損などの重大

事故を引き起 こす可能性がある。 したがって,タ

ービン入口蒸気に含まれる不純物の量を定期的に

測定 ・記録 し,変 化があった場合には適切な対策

を採ることが求められる。

3.3運 転上の留意点

頻繁な起動停止や負荷変化は,タ ービン内部で

の蒸気の状態変化による腐食性堆積物の濃縮をも

たらし,ス ケール付着や,応 力腐食割れ,腐 食疲

労などの トラブルが生 じる原因 となる。また停止

時の真空破壊により空気中の酸素がタービン内に

流入すると,腐 食が著 しく促進される。通常の火

力発電では問題とならない場合でも,苛 酷な腐食

環境中で運転される地熱タービンの場合には注意

を要する。

タービン各段の圧力変化やタービン性能の変化

は,ス ケールの付着状況を示す指標 となる。極端

なスケールの付着は,タ ービン出力を低下させる

だけでな く,ラ ビングの原因となった り,翼 前後

の差圧増大や蒸気励振力の増大による翼応力の

783

増加をもたらし,重 大事故の原因となることがあ

る。

3.4メ ンテナンス上の留意点

地熱 タービンの長期にわたる安定運転のために

は,定 期的なメンテナンスが重要な役割を果たす

ことは言うまでもない。開放点検時には,タ ービ

ン各部に付着したスケールをサンドブラス ト等に

より除去するとともに,タ ービン各部の異常の有

無を入念にチェックすることが重要である。特に,

ロータ,翼 などの重要部品に対 しては磁粉探傷試

験を行ってクラックが発生 していないことを確認

する必要がある。開放点検は1~2年 ごとに実施

することが望ましい。クラック等の異常があるこ

とに気づかずに運転を継続すると,翼 折損等の重

大事故につながる可能性がある。

あ と が き

地熱 発 電 ター ビ ンの運 転 環 境 は,通 常 の 火 力 タ

ー ビン とは比 べ も の な らな い ほ ど苛 酷 で あ る。 こ

の よ うな苛 酷 な環 境 の も とで の 長 期 にわ た る安 定

運 転 は,設 計 ・製 作,運 転,メ ンテ ナ ン スの各 段

階 で細 心 の注 意 を払 う こ とに よ って の み 実 現 され

る。

その た め に は,メ ー カ とユ ー ザ が協 力 して デ ー

タベ ー ス を構 築 し,過 去 の貴 重 な経 験 を反 映 さ せ

て,た ゆ まぬ 改 善 を続 け て い く こ とが必 要 で あ る

と思 わ れ る。

参 考 文 献

(1)森 田:「 地 熱 発 電 プ ラ ン ト用 材 料 の 腐 食 試 験 」

富 土 時 報VoL55No,8(1982)

(2)加 藤 ・和 泉:「 地 熱 発 電 用 タ ー ビ ン の 最 新 技

術 」 富 士 時 報Vol.68No.10(1995)

(3)Keller,H.:「Korrosions-undErosionsprobleme

beiSattdampfturb二nen」InternationaleStudientage

fuermoderneKraftwerke(1978)

19