がんと療養 208 がんの療養と...

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がんと療養 がんの 療養 リハビリテーション 生活の質を高めて、あなたらしく生きる 患者 さんとご 家族 明日 のために 208

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Page 1: がんと療養 208 がんの療養と リハビリテーション...がんの療養におけるリハビリテーション(以下、リハビリ)は、患者 さんの回復力を高め、残っている能力を維持・向上させ、今までと変

がんと療養

がんの療養とリハビリテーション生活の質を高めて、あなたらしく生きる

患 者 さんとご 家 族 の 明日のために

208

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 がんの療養におけるリハビリテーション(以下、リハビリ)は、患者

さんの回復力を高め、残っている能力を維持・向上させ、今までと変

わらない生活を取り戻すことを支援することによって、患者さんのク

オリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を大切にしようとする考

え方に基づいて行われます。

 がんになると、がんそのものや治療に伴う後遺症や副作用など

によって、患者さんはさまざまな身体的・心理的な障害を受けます。

がんのリハビリは、がんと診断されたときから、障害の予防や緩和、

あるいは能力の回復や維持を目的に、あらゆる状況に応じて対応

していきます。

 この冊子では、がんのリハビリに関して

 がんの療養におけるリハビリの考え方

 がんのリハビリを受けられる時期

 がんのリハビリを受けられる場所

 治療や療養の時期におけるがんのリハビリの目的と役割

 ご家族に知っておいていただきたいこと

 を中心にまとめています。

 患者さんが必要なときに適切なリハビリを受けられるようにする

ことに加えて、医療スタッフによるリハビリの指導だけでなく、患者さ

ん自身やご家族でもリハビリを行うことができることを理解してい

ただけるように、この冊子を作りました。生活の質を高めて、あなた

らしく生きるために、ぜひ役立ててください。

はじめに

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はじめに

1. がんの療養とリハビリテーション ……………………… 1

2. リハビリを受ける時期は? ……………………………… 3

3. リハビリはどこで受けられますか? …………………… 5

4. 手術前後の時期(周術期)のリハビリ …………………… 7

5. 抗がん剤治療(化学療法)・放射線治療とリハビリ ……11

6. 積極的な治療を受けられなくなった時期のリハビリ …14

7. 在宅療養でリハビリを受けるには? ……………………18

8. リハビリについて  ご家族に知っておいていただきたいこと ………………19

目 次

がんの冊子 がんの療養とリハビリテーション

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がんになると、がんそのものによる痛みや食欲低下、息苦しさ、

だるさによって寝たきりになったり、手術や抗がん剤治療(化学療

法)、放射線治療などを受けることによって身体の機能が落ちたり、

損なわれたりすることがあります(表1)。

このような状況になったときに、「がんになったのだから仕方が

ない」と、あきらめる人が多いかもしれません。また、さまざまな障

害を抱えることによって、日常生活に支障をきたし、家事や仕事、学

業などへの復帰も難しくなります。そうなると、QOLも著しく低

下してしまいます。

しかし、がんになっても、これまでどおりの生活をできるだけ維持

し、自分らしく過ごすことは可能です。そのために欠かせないのが

「がんのリハビリ」です。すでに欧米では、がん医療の重要な一分野

としてリハビリが認められており、がんと診断された直後から、あら

ゆる状況に応じて適切なリハビリが行われています。その結果、患

者さんは回復力を高め、家庭や社会に短期間で復帰し、普段と変わ

らない日常を取り戻しています。

近年、日本においてもがんのリハビリに取り組む医療機関がよう

障害を抱えてもあきらめずによりよい生活を送れるようにリハビリを積極的に行いましょう

1. がんの療養とリハビリテーション

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2がんの冊子 がんの療養とリハビリテーション

やく増えてきました。診断や治療の進歩によって、がんの治療成績

は年々向上しています。また、進行した状態で診断されても、薬物

療法などの治療を続けながら長期に療養生活を送ることができる

ようになった現在、よりよい療養やQOLを支えるがんのリハビリ

は、ますます重要になってくるでしょう。

リハビリのより高い効果を得るためには、何よりも患者さん自身

がリハビリの必要性を理解し、障害を抱えてもあきらめずに、担当

医と相談しながらリハビリのサポートを積極的に受けていくことが

大切です。

表1:リハビリテーションの対象となる障害の種類

・骨への転移による痛みや骨折・脳腫瘍による麻

ま ひ

痺や言語障害・脊

せ き ず い

髄腫瘍や転移による麻痺や排尿障害・腫瘍が末

まっしょう

梢神経を巻き込むことによるしびれや筋力の低下

・抗がん剤治療や放射線治療による筋力や体力の低下

・胸部や腹部の手術後に起こる肺炎などの合併症・乳がんの手術後に起こる肩関節の運動障害・舌がんや甲状腺がんなど頭頸部にできるがんの

治療後に起こるのみ込み(嚥え ん げ

下)や発声の障害・腕や脚(四肢)に発生したがんの手術後に起こ

る機能障害・抗がん剤によるしびれや筋力の低下

がんそのものによる障害

がん治療の過程で生じる障害

がんの療養とリハビリテーション 1

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通常リハビリは、何らかの障害が起こってから受けるのが一般的

ですが、がんのリハビリには「予防的リハビリ」といわれる分野があ

ります。これは、がんと診断された後、早い時期に開始されるもの

で、手術や抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療などが始まる前、

あるいは実施された直後からリハビリを行うことによって、治療に

伴う合併症や後遺症などを予防するものです。がん医療において

は、このような予防的な関わりが重視されていることが、脳卒中な

どほかの分野のリハビリとは大きく異なる点です。

また、がんのリハビリは治療と並行して行われるため、病状の変

化をはじめ、あらゆる状況に対応することが可能で、治療のどの段

階においても、それぞれのリハビリの役割があり、患者さんが自分

らしく生きるためのサポートを行っています。

例えば、積極的な治療が受けられなくなった段階では、リハビリ

が果たせる役割はないのではないかと思われるかもしれませんが、

そうではありません。緩和ケアの概念と同様に緩和的リハビリも

「余命の長さに関わらず、患者さんとその家族の要望を十分に把握

した上で、その時期におけるできる限り可能な最高の日常生活動作

2. リハビリを受ける時期は?

がんと診断された早期からどのような時期でも受けられます

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4がんの冊子 がんの療養とリハビリテーション

(ADL)を実現する」ことを目指して行われています。

がんのリハビリの病期別の目的と役割は図1のとおりです。この

図からもわかるように、がんのリハビリは、どのような時期であって

も、どんな病状や状況であっても受けることができます。

がんと診断されてから早い時期(手術、抗がん剤治療、放射線治療の前)に開始。機能障害は起こっておらず、その予防を目的とします。

機能障害や筋力や体力の低下がある患者さんに対して最大限の機能回復を図ります。

がんが増大し機能障害が進行しつつある患者さんに対して運動能力の維持・改善を試みます。自助具の使用、動作のコツなどのセルフケア、関節が動く範囲が狭くなったり、拘縮や筋力が低下したりするなどの廃用症候群の予防も含みます。

患者さんの要望を尊重しながら、身体的、精神的、社会的にもQOLを高く保てるように援助します。

予防的

がん診断

回復的

治療開始

維持的

再発 /転移

緩和的

積極的な治療が受けられなくなったとき

こうしゅく

はいようしょう

こうぐん

がんのリハビリテーションの病期別の目的

図1:治療や療養の時期におけるがんのリハビリーション

リハビリを受ける時期は? 2

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がんのリハビリは、がんの治療と並行して行われるため、治療を

担当する医師や看護師、そしてリハビリに従事するリハビリ医、リ

ハビリスタッフ(理学療法士:PT、作業療法士:OT、言語聴覚士:

ST)がカンファレンスなどを通じて十分にコミュニケーションを図

り、リハビリの治療計画を共有することが望まれます。しかし、こ

のような体制を整備する医療機関は少ないのが現状です。

がんのリハビリを受けられる医療機関を探すときの一つの目安

になるのが、2010 年 4月の診療報酬改定で新設された「がん患

者リハビリテーション料」です。これは、がんの患者さんにリハビリ

を提供すると公的医療保険からその医療機関に報酬が支払われる

という制度です。その算定要件として、規定の研修(がんのリハビリ

テーション実践ワークショップ)を修了したスタッフがリハビリに従

事していることが定められています。

また、定期的な医師の診察結果に基づき、医師や看護師、リハビ

リスタッフ、社会福祉士などの多職種が共同してリハビリの計画を

立てることが求められたり、リハビリ医やリハビリスタッフが治療法

を検討するカンファレンス(キャンサーボード)に参加し、意見を交

3. リハビリはどこで受けられますか?

「がん患者リハビリテーション料」を算定するがん診療連携拠点病院を目安にしましょう

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6がんの冊子 がんの療養とリハビリテーション

3. リハビリはどこで受けられますか? 換したり共有したりすることが望ましいとされています。

さらに、施設にはリハビリ専任の常勤医や専従のリハビリスタッ

フの配置、100m2 以上の機能訓練室や、リハビリに必要な器機や

器具の設置が定められています。すなわち、がん患者リハビリテー

ション料を算定する医療機関は、がんのリハビリ体制の整備を積極

的に進めている施設だと評価してよいでしょう。

2013 年 6月現在、規定の研修を修了しているリハビリスタッフ

が在籍している医療機関は全国に773 施設あります。そのうち、

がん診療連携拠点病院は256 施設で、これは全国に397ヵ所あ

る拠点病院の64%以上にあたります。これらの医療機関ではある

一定レベル以上のがんのリハビリを受けることができます。

自分が暮らしている地域のがん診療連携拠点病院が、がん患者

リハビリテーション料を算定しているかどうかを知りたい場合は、

がん診療連携拠点病院に併設されているがん相談支援センターに

問い合わせてみましょう。

リハビリはどこで受けられますか? 3

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治療に伴う合併症・後遺症を予防し、スムーズな術後の回復を図ります

手術前後の時期(周術期)に行われるリハビリは「予防的+回復

的リハビリテーション」(4ページ参照)にあたり、治療に伴う合併

症を予防し、後遺症を最小限に抑えてスムーズな術後の回復を図

ることを目的に、手術や抗がん剤治療、放射線治療が始まる前、あ

るいは実施された直後から開始されます(図2)。このように早期

4. 手術前後の時期(周術期)のリハビリ

がん周術期のリハビリテーション

以前の

考え方

がん患者

リハビリテーション

手術

手術 早期回復・退院

リハビリ

リハビリ リハビリ

合併症

術前および術後早期からの介入により術後の合併症を予防し、後遺症を最小限にしてスムーズな術後の回復を図ることを目的に行う

図 2:がん周術期のリハビリテーションの考え方

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8がんの冊子 がんの療養とリハビリテーション

4. 手術前後の時期(周術期)のリハビリ からリハビリが関わることができるのも、がんの治療が予定されて

いるものだからです。

術前トレーニングのメリットとしては、1)早期離床(寝たまま

ではなく、ベッドから起き上がること)のために手術後できるだけ

早い時期から体を動かしたほうがよいことを、痛みがない術前の時

期の説明で理解することにより、術後の体がつらい時期も積極的に

リハビリに取り組めること、2)術前からリハビリスタッフと面識

があることで、術後のリハビリも安心してスムーズに進められるこ

と、3)腹式呼吸法などを事前に訓練しておくことで術後必要に

なったときにうまくできること、4)リハビリスタッフから見通し

を説明してもらえることで、後遺症や社会復帰に対する不安を軽

減できること、などがあります。また、治療前にリハビリを受けた

人とそうでない人の合併症の発症率や回復力の速さを比較すると、

明らかな差があることが証明されています。 

周術期の代表的なリハビリには「呼吸リハビリテーション」があ

ります。肺がんや食道がん、胃がん、大腸がんなどで開胸・開腹手

術を行うと、痛みや麻酔の影響で呼吸が浅くなり、痰がうまく出せ

ず、肺の奥にたまりやすくなるため、肺炎を起こすリスクが高くなり

ます。この合併症を予防する目的で、術前に腹式呼吸法を訓練し、

呼吸が浅くなっても自分でしっかり痰を出せるようにしておくので

す。そして、術後は肺の奥に痰がたまらないように早期離床を促し、

ベッドに座ったり、病室内を歩いたりするリハビリを行います。さら

に、体力が低下した人にはトレーニングマシンなどを使って持久力

訓練を行い、社会復帰が早くできるよう手助けします。

手術前後の時期(周術期)のリハビリ 4

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表 2:周術期リハビリテーションが主に対応するがんと手術により起こり得る障害の例

・食道がんや肺がんなどの開胸・開腹手術による障害(肺炎など)を減らすために手術前からリハビリを行う

・消化器系のがん(胃がん、肝がん、胆のうがん、大腸がんなど)の開腹手術でもリスクの高い患者さんに対して行う場合がある

・舌がんなどの口腔がん、咽頭がん、喉頭がんの手術後ののみ込み(嚥下)の障害や、発声障害に対してリハビリを行う

・頸部リンパ節を切除した後に起こる肩関節の機能障害に対してリハビリを行う

・腕や脚(四肢)を切断した場合に義肢を作製し、リハビリを行う

・腕や脚(四肢)を残す手術を行った場合に生じる機能障害に対してリハビリを行う

・がんが骨に転移した場合に生じる障害に対してリハビリを行う

・脳に発生したがん(腫瘍)によって起こった言語障害や運動障害などに対して、手術前後にそれぞれリハビリを行う

開胸・開腹手術前後の呼吸リハビリ

頭頸部がんの手術前後のリハビリ

腕や脚(四肢)に発生したがんの手術前後のリハビリ

脳腫瘍の手術前後のリハビリ

このほか周術期のリハビリには(表2)のようなものがあります。

頭頸部がん、乳がん、子宮がん、腕や脚(四肢)に発生したがん、脳

腫瘍など、さまざまながんの合併症や後遺症に対応できることを

知っておきましょう。手術を受ける際には、手術に伴う障害にはど

のようなものがあるのか、リハビリの目的や内容を含め、それらの

障害への対応策についても担当医に確認しておきたいものです。

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10がんの冊子 がんの療養とリハビリテーション

● がんのリハビリに従事するスタッフの役割●

★リハビリ医

機能低下や障害の程度を予測または評価し、各職種の意見も参考にしながらリハビリの治療計画を立案します。がんの治療を担当する医師、看護師らとの連携・調整を図り、リハビリを指導・実行します。合併症が出現した場合は検討し、適切に対応します。

★理学療法士(PT) がんの発症や治療に伴う「体力低下」「運動麻痺」「呼吸困難」「骨折の危険性」などによって生活に支障をきたしている患者さんに対し、基本的動作能力(座る、立つ、歩く、走る、姿勢調整能力など)の回復や維持および障害の悪化の予防を目的に運動療法や物理療法(温熱、電気などの物理的手段による治療)などを用いて行います。

★言語聴覚士(ST) がんの治療や進行により、声が出ない、発音ができない、言葉が出ないといった、

「人」ならではのコミュニケーション能力に問題を抱えた患者さんや、のみ込みがうまくできない患者さんに、評価・訓練、さまざまなツールの紹介を行います。機能回復とともに、代償手段の獲得も積極的に行い、就労などの社会的支援や心理的サポートも含め、QOLの向上に努めています。

★メディカルソーシャルワーカー(MSW)地域や家庭において自立した生活を送ることができるよう、社会福祉の立場から患者さんや家族が抱える心理的・社会的な問題の解決・調整を援助し、社会復帰の促進を図ります。

★義肢装具士(PO) 医師の処方に基づき、義肢および装具の装着部位の採寸や採型、作製および身体への適合を行います。

★ケアマネジャー 主に積極的な治療が受けられなくなった段階で、介護保険制度を利用し、要支援や要介護の認定を受けた患者さんに対して居宅サービス計画(ケアプラン)を作成し、介護サービス事業者との連絡や調整など行い、患者さんが自宅で滞りなく生活できるように支援します。

★訪問看護師 患者さんの生活の場を訪問し、看護ケアを提供しながら、その人らしく地域や家庭で療養生活が送れるように支援します。

★介護福祉士 患者さんの生活の場を訪問し、介護ケアを提供しながら、家族を含め日常生活のサポートをします。

★看護師 機能低下や障害の程度を把握した上で、患者さんが安心してリハビリに取り組めるように日常生活の視点からサポートします。また、患者さんが自主的にリハビリの訓練が行えるよう、病棟での指導や支援も行います。

★作業療法士(OT)がんの状態を踏まえて身体機能、精神・心理機能、高次脳機能などの評価を行います。その結果から上肢機能、「食事」「排

はい

泄せつ

」「更衣」などの応用的な動作訓練、仕事・学校生活などの社会的能力の訓練やリンパ浮腫への対応を行います。また、自助具の製作、福祉機器の適合などにより残存機能の活用、新規能力の開発や代償能力の獲得を図ります。

手術前後の時期(周術期)のリハビリ 4

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週3~ 5回の運動が治療中・治療後の体力低下を予防し、 怠感を軽減します

抗がん剤治療(化学療法)や放射線治療が行われている時期の

リハビリは「回復的リハビリテーション」、そしてこれらの治療が終

わった時期のリハビリは「維持的リハビリテーション」にあたります

(4ページ参照)。

抗がん剤や放射線による治療中もしくは治療後のリハビリとい

われても、多くの人はピンとこないかもしれません。というのも、が

ん治療の中でリハビリの対応が最も遅れている分野だからです。し

かし、抗がん剤や放射線による治療中は、がんそのものや治療の副

作用による痛み、吐き気、だるさなどの症状がよく起こります。 

 また、口内炎や吐き気・嘔お う と

吐、下痢などの副作用で食欲が低下して

栄養状態が悪くなり、眠れなくなることもあります。さらに、精神的

なストレスを感じたり、意欲が低下したり、気持ちがふさぎ込んだりし

て、心身ともに疲れ果ててしまい、昼間もベッドで伏せりがちです。

こうして動かなくなると、筋力はたちまち落ちて体力も低下し、

少し動いただけでエネルギーをたくさん消費するため、一層疲れ

やすくなります。そして、疲れるから動かない、動かないから体力

が低下するといった悪循環におちいり、ついには寝たきりになる

5. 抗がん剤治療(化学療法)・ 放射線治療とリハビリ

け ん た い

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12がんの冊子 がんの療養とリハビリテーション

「廃はいようしょうこうぐん

用症候群」を来してしまいます。抗がん剤や放射線による治療

を行っている患者さんの多くが疲労感や運動能力の低下に悩まさ

れており、さらに治療が終了した患者さんのなかにも体力や持久力

の低下を何年にもわたり実感している人がいます。このような状態

は「がん関連 怠感」とよばれ、近年、リハビリが積極的に対応すべ

き症状であると受け止められるようになってきました。

そして、いろいろな研究から、この時期に行うリハビリとして「運

動療法」が最も重要であることがわかってきました。運動を行うこ

とによって身体機能が高まるため、動いてもエネルギーをそれほど

消費しなくなり、疲れなくなるのです。また、すっきりした気分にな

り、精神的苦痛も軽減されてQOLが向上します。

運動療法は、抗がん剤や放射線の治療中に開始すると、より効果

が高いといわれています。ウオーキングや自転車エルゴメーター※

を使った有酸素運動で、最大心拍数の60~80%の強度(楽に運動

ができて呼吸も乱れず、少し汗をかく程度)で20~30分間の運動

を週 3 ~ 5日行うのが理想的です。また、軽い筋力トレーニングや

ストレッチも、機能を維持するために有効です(13ページイラスト

参照)。

このような有酸素運動は、血液がんの治療の一つである造血幹

細胞移植に伴う合併症を軽減することもわかり、骨髄移植リハビリ

プログラムの中にも積極的に組み込まれるようになっています。

抗がん剤治療(化学療法)・放射線治療とリハビリ 5

※エアロバイクともいわれる、自転車の形をした、室内用の運動器具

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13

①ウオーキング

■抗がん剤や放射線による治療中・治療後に効果的な運動

②自転車エルゴメーター

③ストレッチ

運動はリハビリ医や担当医の指示のもとに行うようにしましょう

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14がんの冊子 がんの療養とリハビリテーション

最後まで自分らしさを保つためにできる限り苦痛を取り除いていきます

積極的な治療が受けられなくなった時期には「緩和的リハビリ

テーション」が行われます(4ページ参照)。がんの進行とともに体

力が低下し、日常生活動作(ADL)も少しずつ障害されてくるもの

の、がん患者さんの多くは最後まで自分で動いたり、食べたり、排泄

したり、話したりすることができます。

緩和的リハビリの目的は、余命の長さに関わらず、患者さんとそ

の家族の要望を十分に把握した上で、患者さんに残っている能力を

うまく生かしながら、その時期におけるできる限り可能な最高の日

常生活動作(ADL)を実現することにあります。

つまり、患者さんが最後まで自分らしさ(尊厳性)を保つためにリ

ハビリの役割があるといってよいでしょう。積極的な治療が受けら

れなくなった患者さんに対してがんのリハビリを行う場合、最後ま

で実施することが多く、その必要性が大きいことを示していると考

えられます。

まずは、この時期に緩和的リハビリの提供できるサポートがたく

さんあることを知っていただきたいと思います。例えば、がんが進

行してくると、さまざまな物質が分泌されて不快な症状が生じ、患

積極的な治療を受けられなくなった時期のリハビリ

6. 積極的な治療を受けられなくなった  時期のリハビリ

6

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者さんは食事が困難になります。その上、がんそのものがエネル

ギーを消費するので、全身が衰弱する状態になります。また、がん

から分泌される物質は骨格筋のたんぱく質を減少させるため、「筋き ん

萎い

縮しゅく

や筋力の低下」も生じます(図3)。こうなると、患者さんは少

し動いただけでも疲れるので動かなくなり、日常生活のさらなる制

限をもたらす悪循環におちいり、やがては寝たきり(廃用症候群)に

なってしまいます。

筋萎縮・筋力の低下身体機能の低下

食べたくない(食思不振)摂取量減少

栄養障害

活動性低下寝たきり(廃用症候群)

リハビリ 栄養管理

 怠感全身衰弱

図 3:全身衰弱と筋肉の萎縮・筋力低下の関係

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16がんの冊子 がんの療養とリハビリテーション

このような状態にならないように、早めにリハビリに関わっても

らうことが大切です。筋萎縮や筋力の低下を予防する対策として

は、リハビリスタッフや看護師から定期的に運動療法の指導を受け

るとともに、運動不足や横になっている時間の増加につながらない

よう生活環境を見直します(表3)。また、痛みがあることでも活動

が制限されるため、緩和ケアチームに痛みのコントロールをきちん

と行ってもらうことも必要です。

また、この時期に半数以上の人にみられるのが「呼吸困難」の症

状です。呼吸困難は精神的な要因も関係するため、緩和するのが

難しいとされてきましたが、リハビリを活用することで、つらい症状

を和らげられる場合があります。例えば、 1)横になるより座ったほ

うが、横隔膜が下がって呼吸しやすくなるため、体位を工夫し、楽な

表 3:筋萎縮や筋力の低下に対する予防策

 1.ベッド回りの環境を整える 手すり、座面の高さを調整し、起き上がりやすいようにする

 2.補助具を利用する  歩行器、つえ、補装具、車いすなどを使って、 自分で動けるようにする

 3 .起き上がったとき、座ったときの姿勢を工夫する  安楽で息苦しさや痛みのない楽な姿勢をとる

 4 .定期的に運動する

積極的な治療を受けられなくなった時期のリハビリ 6

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姿勢を上手にとる、2)呼吸が苦しいため、早く息を吸い込もうと

して胸式呼吸になるが、悪化の一因にもなるので、腹式呼吸に変え

る、 3)歩行や足踏みのような軽い運動をすると、気管支が拡張さ

れ、のどに絡んだ痰も出やすくなり、呼吸が楽になる、などの対応

で効果があります。

このような方法は「非薬物療法」とよばれ、上記のような理学療

法をはじめ、マッサージやリラクセーション、イメージ療法、アロマ

セラピーなどいろいろな手法があり、呼吸困難だけでなく、がんの

進行に伴うあらゆる症状に対応することができます。がん性胸膜

炎や腹膜炎を併発すると、胸水や腹水がたまり、手足がむくんでつ

らいものですが、マッサージ・ケアは手軽に行えて効果的です。この

ような取り組みは、緩和ケアチームのスタッフや病棟の看護師との

連携が非常に重要になってきます。

非薬物療法のもう一つよいところは、ポイントを学べばご家族に

も取り組めることです。ただし、ご家族が行う際も、患者さんの病

状や身体機能の状態をきちんと認識しておくことが重要なので、担

当医の了解のもと、リハビリ医や看護師、リハビリスタッフから行う

場合の注意点などの指導を受けてから行いましょう。

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18がんの冊子 がんの療養とリハビリテーション

地域のかかりつけ医やケアマネジャーに相談しましょう

がんのリハビリは、痛みの軽減やがんの進行に伴う症状の改善

にも効果がみられるため、積極的な治療を受けない患者さんに対し

ても、ホスピスや緩和ケア病棟を中心に提供されるようになってき

ました。自宅で過ごすことを希望する患者さんの場合は、退院する

ときにリハビリ医やリハビリスタッフに身体機能の状態や自宅の環

境などを評価してもらい、日常生活動作(ADL)を維持・向上するた

めのアドバイスを受けたり在宅リハビリのプログラムを組み立てて

もらったりすることをお勧めします。

ただし、体の状態は変化しますので、継続的にリハビリ医やリハビ

リスタッフに関わってもらうことが望ましく、その時期に応じた適切

なリハビリを受けるためにも介護保険制度の「訪問リハビリ」や「デイ

ケア」をぜひ利用しましょう。このサービスでは、理学療法士(PT)

や作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)が患者さんの自宅を定期的

に訪問し、日常生活に必要な基本動作を行うための機能訓練をはじ

め、のみ込み(嚥下)機能の維持・回復など、さまざまな支援を行いま

す。そして、リハビリスタッフが関わることは「治療がまだ続けられて

いる」という患者さんやご家族の安心感につながることもあります。

訪問リハビリやデイケアのサービスを受けたいときは、地域のか

かりつけ医やケアマネジャーに相談しましょう。市区町村役場の

介護保険課の窓口には、ケアマネジャーのリストが置いてあります。

在宅療養でリハビリを受けるには?

7. 在宅療養でリハビリを受けるには?

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患者さんが必要なときに適切ながんのリハビリを受けるために

は、がんのリハビリに対するご家族の正しい理解が大切です。手

術を受ける際には、手術による障害を予防するために、どのような

対応をしてもらえるのか、担当医や病棟看護師にぜひ尋ねてくださ

い。また、ご家族もがんそのものや治療に伴う症状や 怠感で患

者さんが苦しんでいたら、「がんになったのだから仕方がない」と

思わずに、がんのリハビリを受けることを勧め、担当医に積極的に

相談してください。

がんのリハビリは患者さんだけでなく、ご家族に対しても提供さ

れるものです。中でも助けになるのが、介護に対する支援です。看

護師やリハビリスタッフから適切な介護の方法を教えてもらったり、

患者さんが動きやすいように手すりをつけるなど生活環境を整備

してもらったりすることは、介護者が自宅で看病する際の負担軽減

に確実につながります。

がんのリハビリは、がんと診断されたときから、あらゆる状況に応じ

て行われるため、提供される場所もさまざまです。病期が変化しても

スムーズに必要なリハビリを受けられるよう、地域のがん診療連携拠

点病院に併設されているがん相談支援センターで、がんのリハビリに

関する情報を上手に収集しましょう。そして、自宅で療養するときは

介護保険制度の各種サービスなども積極的に活用したいものです。

リハビリについてご家族に知っておいていただきたいこと

リハビリは介護の助けにもなります

8. リハビリについてご家族に 知っておいていただきたいこと

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がんの冊子がんと療養シリーズ

肺の手術を受けられる方へ 手術の前後のリハビリテーション

(7種)がんの療養とリハビリテーション、がんと心、がん治療と口内炎、がんの療養と緩和ケア、がん治療とリンパ浮腫、もしも、がんと言われたら、

相談支援センターにご相談ください、家族ががんになったとき、身近な人ががんになったとき

各種がんシリーズ(34種)社会とがんシリーズ(3種)

各種がんシリーズ(11種)

患者必携がんになったら手にとるガイド*    別冊 『わたしの療養手帳』

もしも、がんが再発したら*

国立がん研究センターがん対策情報センター作成の冊子

がんの冊子 がんと療養シリーズ  がんの療養とリハビリテーション

編集・発行 独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター印刷・製本 図書印刷株式会社

2013 年7 月 第1 版 第1刷 発行

協力: 辻 哲也(慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室) 国立がん研究センターがん対策情報センター患者・市民パネル

電話:0570-02-3410(ナビダイヤル)平日(土・日・祝日を除く)10時~15時 ※通信料は発信者のご負担です。また、一部のIP 電話、PHSからはご利用いただけません。

サポート

http://ganjoho.jp/

全ての冊子は、がん情報サービスのホームページで、実際のページを閲覧したり、印刷したりすることができます。また、全国のがん診療連携拠点病院や小児がん拠点病院のがん相談支援センターでご覧いただけます。*の付いた冊子は、書店などで購入できます。その他の冊子は、がん相談支援センターで入手できます。詳しくはがん相談支援センターにお問い合わせください。

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この冊子は、厚生労働科学研究費補助金(第 3 次対がん総合戦略研究事業)「国民に役立つ情報提供のためのがん情報データベースや医療機関データベースの質の向上に関する研究」(研究代表者 若尾文彦)の中の「がんクリニカルパスデータベース構築に関する研究」研究小班(研究分担者 河村進)の研究成果をもとに作成されたものです。

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あなたの地域のがん相談支援センター がんと療養

がんの療養とリハビリテーション

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「がん相談支援センター」についてがん相談支援センターは、がんに関する質問や相談にお応えします。がんの診断や治療についてもっと知りたいとき、不安でたまらないとき、いっしょに考え、情報を探すお手伝いをします。窓口は全国の「がん診療連携拠点病院」にあります。その病院にかかっていてもいなくても、無料で相談できます。

全国のがん診療連携拠点病院は、「がん情報サービス 病院を探す」で参照できます。

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国立がん研究センターがん対策情報センター

国立がん研究センター