がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養...

24
がんと療養 がんの 療養 緩和 ケア つらさをらげてあなたらしく ごす 患者 さんとご 家族 明日 のために 204

Upload: others

Post on 23-Jun-2020

8 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

がんと療養

がんの療養と緩和ケアつらさを和らげてあなたらしく過ごす

患 者 さんとご 家 族 の 明日のために

204

Page 2: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

 緩和ケアは、がんに伴う体と心の痛みを和らげ、生活やその人らしさを大切にする考え方です。

 がん患者さんや家族は、がんと診断されたとき、治療の経過、あるいは再発や転移がわかったときなどのさまざまな場面でつらさやストレスを感じます。

 緩和ケアでは患者さんと家族が自分らしく過ごせるように、医学的な側面に限らず、いろいろな場面で幅広い対応をしていきます。

 この冊子では、がんの療養と緩和ケアについて、

  緩和ケアの考え方  緩和ケアを受けられるとき  緩和ケアを受けられる場所  �心と体のつらさを取り除くために心がけていただきたいこと  ご家族に知っておいていただきたいこと

 についてまとめています。

 必要なときに十分な緩和ケアを受けられるように、この冊子をぜひ役立ててください。

はじめに

Page 3: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

はじめに

1. がんの療養と緩和ケア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

2. 緩和ケアを受ける時期は?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

3. 緩和ケアはどこで受けられますか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

  1 緩和ケアチーム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

  2 緩和ケア病棟(ホスピス)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

  3 自宅での緩和ケア(在宅緩和ケア)・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

4. がんの痛みと緩和ケア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

5. 心を支えること・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

6. ご家族へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19

目 次

がんの冊子 がんの療養と緩和ケア

Page 4: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

1

緩和ケアとは、がんの患者さんの体や心のつらさを和らげ、生活やその人らしさを大切にする考え方です。がんの療養中は、痛みや吐き気、食欲低下、息苦しさ、だるさ

などの体の不調、気分の落ち込みや絶望感などの心の問題が患者さんの日常生活を妨げることがあります。これらの問題はがんの療養の経過中、程度の差はあっても多くの患者さんが経験します。「がんの治療のことではないから」と相談できずにひとりで抱え込んでしまったり、「症状だけをなくしても、がんが治るわけではないから」「気持ちの持ちようだから」と症状を和らげることに消極的な人もいます。今までのがん医療の考え方では、「がんを治す」ということに

関心が向けられ、医療機関でも患者さんの「つらさ」に対して十分な対応ができていませんでした。しかし、最近では、患者さんがどのように生活していくのかと

いう「療養生活の質」も「がんを治す」ことと同じように大切と考えられるようになってきています。

1. がんの療養と緩和ケア

Page 5: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

2

患者さんを「がんの患者さん」と病気の側からとらえるのではなく、「患者さんらしさ」を大切にし、身体的・精神的・社会的・スピリチュアル(霊的)な苦痛について、つらさを和らげる医療やケアを積極的に行い、患者さんと家族の社会生活を含めて支える「緩和ケア」の考え方を早い時期から取り入れていくことで、がんの患者さんと家族の療養生活の質をよりよいものにしていくことができます。

仕事上の問題人間関係経済的な問題家庭内の問題相続問題

痛み息苦しさだるさ動けないこと

人生の意味 罪の意識苦しみの意味 死の恐怖価値観の変化死生観に対する悩み

不安 うつ状態恐れ いらだち怒り 孤独感

スピリチュアルペイン

社会的苦痛

身体的苦痛

全人的苦痛(トータルペイン)

精神的苦痛

図1.��全人的苦痛(トータルペイン)をもたらす背景

1がんの療養と緩和ケア

がんの冊子 がんの療養と緩和ケア

Page 6: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

3

緩和ケアを、がんの進行した患者さんに対するケアと誤解し「まだ緩和ケアを受ける時期ではない」と思い込んでしまう患者さんや家族は少なくありません。しかし、本来、緩和ケアは、患者さんの体や心のつらさを和ら

げ、生活やその人らしさを大切にする考え方ですから、診断されてからの期間や、がんの病状によって緩和ケアを受ける、受けないを決めるというものではありません。実際にはほとんどのがんの患者さんは、治療に伴う副作用や

これからのことへの不安、痛みなどのつらい症状をできるだけ少なく過ごしたいと考えているでしょう。例えば、がんと診断されたときには、ひどく落ち込んだり、落

ち着かなかったり、眠れないこともあるかもしれません。抗がん剤や放射線治療では食欲がなくなったり、吐き気などの副作用が起こることもあります。痛みはがんの早い時期にも、進んだ時期にも見られる症状で

す。痛みが強いままではがんの治療もつらく、また生活への影響も大きくなってしまいます。また、がんが進行した時期に、痛みや吐き気、食欲不振、だるさ、気分の落ち込み、孤独感などに対して適切な治療やケアを受けることは、生活を守り、自分らしさを保つことにつながります。緩和ケアは患者さんのどのような病状であっても、どのよう

な時期にも受けることができます。

2. 緩和ケアを受ける時期は?

Page 7: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

4

がんに対する治療が終了するまで苦痛緩和治療は制限し、治療終了後に緩和ケアを行う

がんに対する治療と並行して緩和ケアを行い、状況に合わせて割合を変えていく

がんの治療と緩和ケアの関係(A:これまでの考え方 B:新しい考え方)

A

B

がんの経過

がんに対する治療

がんに対する治療

緩和ケア

つらさや症状の緩和ケア

図2.��がんの治療と緩和ケアの関係の変化

2緩和ケアを受ける時期は?

●・WHO(世界保健機関)の緩和ケアの定義(2002年)緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチである。

がんの冊子 がんの療養と緩和ケア

Page 8: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

5

診断直後の不安や落ち込み 緩和ケアチームの心のケアの専門家が担当医や看護師と協力してサポートします。

治療前からの痛み

担当医や看護師と緩和ケアチームが協力して治療やアドバイスを行います。がんの治療の前後にかかわらず十分な鎮痛のために必要な治療を行います。

放射線や抗がん剤の副作用(吐き気・嘔

お う と

吐、食欲不振、しびれ、口の渇き、口内炎、下痢など)

担当医や病棟看護師、放射線科医と緩和ケアチーム、歯科医などが協力して治療やアドバイスを行います。栄養士が食事の内容や調理方法などについてアドバイスします。

手術後の痛み担当医や病棟看護師と麻酔担当医、緩和ケアチームが協力して治療やアドバイスを行います。

再発や転移による痛み 入院中、通院中とも担当医や看護師と緩和ケアチームや緩和ケア病棟の担当医、栄養士などが協力して治療やアドバイスを行います。在宅療養では訪問診療の担当医が訪問看護師とともに治療やケアを行います。緩和ケアチームにおける心のケアの専門家の視点から治療やアドバイスを行うこともあります。

息苦しさ

だるさ(倦けんたい

怠感)

食欲不振、吐き気・嘔吐

リンパ浮腫

医療費の問題 入院中、通院中とも担当医や看護師とソーシャルワーカーや緩和ケアチームのメンバーが協力してサポートします。在宅療養では訪問診療の担当医や訪問看護師、ケアマネジャー、市区町村の担当者がサポートします。

転院や自宅での療養についての不安

自分の存在や生きる意味についての悩み

入院中、通院中とも担当医や看護師と心のケアの専門家が担当医や看護師と協力してサポートします。在宅療養では訪問診療の担当医が訪問看護師などとともにサポートします。

不安や気分の落ち込み

家族の心や気持ちの問題

表1.��がんの療養の経過中の問題と緩和ケア

Page 9: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

6

緩和ケアは、自宅でも入院や通院治療の病院内でも受けることができます。がんの治療中かどうかや、入院・外来、在宅療養などの場を問わず、いずれの状況でも受けることができます。

1・ 緩和ケアチーム

がん治療と並行して受ける緩和ケアは、主に「緩和ケアチーム」が担当します。緩和ケアチームは、担当医や病棟の看護師などと協力して緩和ケアを提供します。全国のがん診療連携拠点病院には、すべて緩和ケアチーム

があります。これらの医療機関では、入院、通院治療を通じて緩和ケアを受けることができます。がん診療連携拠点病院以外の医療機関でも、緩和ケアチームが活動しているところがあります。緩和ケアチームは体と心のつらさなどの治療のほか、患者さん

の社会生活や家族を含めたサポートを行うために、さまざまな職種のメンバーが関与しています。担当医や病棟の看護師に加えて、緩和ケアチームの診療を受けることで、担当医が変わることはありません。緩和ケアチームの診療は、担当医から勧められることもありますが、患者さんや家族から希望することもできます。つらい症状が続いている場合には、我慢しないで緩和ケアを受けましょう。緩和ケアについて話を聞きたい、緩和ケアを受けたいときに

は、担当医や看護師に話してみましょう。

3. 緩和ケアはどこで受けられますか?

3緩和ケアはどこで受けられますか?

がんの冊子 がんの療養と緩和ケア

Page 10: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

7

表2.��緩和ケアチームにかかわるさまざまな職種と役割

医師痛みなどの体の症状の緩和を担当する医師と、精神症状の治療を担当する医師が、担当医と協力して治療を行います。

看護師患者さんや家族のケア全般についてのアドバイスを行います。転院や退院後の療養についての調整も行います。

薬剤師患者さんや家族に薬物療法のアドバイスや指導を行います。また、医療者に対して専門的なアドバイスを行います。

ソーシャルワーカー療養にかかわる助成制度や経済的問題、仕事や家族などの社会生活、療養先に関するアドバイスなどを担当します。

心理士気持ちの問題などについてカウンセリングを行ったり、心理検査などを行います。家族のケアも担当します。

栄養士食べたりのんだりすることにかかわる問題に対応して食事の内容や食材、調理法についてのアドバイスを行います。

リハビリテーション 患者さんの自立を助け、日常生活の維持のためのアドバイスや治療を行います。

Page 11: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

8

● 緩和ケア外来緩和ケア外来は、通院中の患者さんに対して、院内の緩和ケ

アチームが行う外来です。入院中に緩和ケアチームの診療を受けていた患者さんも、退院後引き続き緩和ケア外来で診療を行います。がんの治療が一段落しても、痛みやだるさが残ったり、病状

の変化や生活について不安が生じることもあります。緩和ケア外来を定期的にあるいは必要に応じて受診することで、こうした苦痛を軽減できます。また緩和ケア外来を行う医療スタッフが、地域の診療所や訪問看護ステーションと連携して、自宅での緩和ケアを支援する場合もあります。

3緩和ケアはどこで受けられますか?

がんの冊子 がんの療養と緩和ケア

Page 12: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

9

2・ 緩和ケア病棟(ホスピス)

緩和ケア病棟はホスピスとも呼ばれています。緩和ケア病棟に入院できる患者さんとしては、がんの進行に

伴う体や精神的な症状があり、がんを治すことを目標にした治療(薬物療法、放射線治療や手術など)が困難となったり、あるいはこれらの治療を希望しない方を主な対象としています。施設によって患者さんの受け入れの基準が異なる場合がありますので、各施設にお尋ねください。多くの職種がかかわることは緩和ケアチームと変わりません

が、宗教家やボランティアなどがチームの一員として参加している施設もあります。緩和ケア病棟と一般の療養病棟の違いには以下のようなも

のがあります。

1)・体と心の苦痛緩和に力をそそぐ病棟で担当する医師や看護師は痛みや呼吸困難など、さま

ざまな苦痛を和らげる方法の知識や技術に精通しています。また、患者さんや家族の心の問題についても時間をかけて対応が行われます。

2)・苦痛を伴う検査や処置を少なくしている点滴や注射などの処置や検査は、つらい症状を和らげるた

めに必要最小限にするように配慮されます。医学的な必要性ばかりを優先するのではなく、患者さんや家族と相談しながら行います。

Page 13: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

10

3)・患者さんや家族がくつろげるデイルームがある多くの緩和ケア病棟には、季節の行事や音楽を楽しんだり、

面会の方とくつろげるデイルームがあります。ベッドからの移動が難しい患者さんの場合でも、病棟の医師やスタッフが協力して、少しでも日常生活の中での楽しみや、変化を感じられるように工夫しています。

4)・面会時間の制限が少ない家族や大切な方々が面会できるように、面会時間の制限が

ない施設が多くあります。ペットと面会できる施設もあります。面会の条件などは、患者さんの状態や施設ごとの基準もありますので、各病棟のスタッフにお尋ねください。

5)・患者さんの家族が過ごしやすい設備がある病室は個室が多く、家族が患者さんのそばで宿泊できるソ

ファーベッドなどを備えている施設があります。また、家族が休息するための家族室、患者さんや家族のために簡単な料理ができるキッチン、家族が入浴できる設備がある施設もあります。

3緩和ケアはどこで受けられますか?

がんの冊子 がんの療養と緩和ケア

Page 14: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

11

● 緩和ケア病棟を探すには担当医や看護師、病院のソーシャルワーカーにご相談くださ

い。がん診療連携拠点病院の「相談支援センター」や「医療連携室」などの部門では緩和ケア病棟の情報を探すことができます。インターネットで緩和ケア病棟を探す場合は、国立がん研

究センターがん対策情報センターのホームページ「がん情報サービス」から、病院を探す�→�緩和ケア病棟のある病院の情報(http://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/fTopKanwa?�OpenForm)をご覧ください。緩和ケア病棟を探す場合には、患者さんご本人が今後どのよ

うに過ごしたいかを考えながら、担当医や看護師などからアドバイスしてもらうとよいでしょう。

3・ 自宅での緩和ケア(在宅緩和ケア)

緩和ケアに関連する治療の多くは、自宅でも入院中と同じように行うことができます。

多くの患者さんにとって、自宅は安心できリラックスすることができる療養環境です。体の状態が安定していれば、自宅での療養は難しいことではありません。病院で受けている治療を自宅で継続することは難しいと誤解されていることがありますが、緩和ケアで行われる治療のほとんどは、病院でも自宅でも同じように行うことができます。のみ薬による治療ばかりでなく、注射による治療のためのポンプや、点滴などの処置が必要な場合でも、自宅での継続もできるようになってきています。自宅での緩和ケアでは、在宅療養についての専門的な知識を

Page 15: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

12

持った訪問診療医(かかりつけ医)や訪問看護師、薬剤師、ホームヘルパーが協力してサポート態勢を整えます。また、今まで受診や通院したことがない初診の患者さんであっても、在宅療養支援診療所などでは十分な診療体制で対応することができます。自宅に戻れば生活のペースは患者さんや家族に合わせたも

のになります。訪問診療医や訪問看護師は、患者さんの生活のペースを守りながら緩和ケアを提供します。自宅だけでなく、介護施設やグループハウスなど、さまざまな場所で在宅緩和ケアを受けられることもあります。自宅での緩和ケアを選択したからといって、病院とのつなが

りが完全になくなってしまうわけではありません。訪問診療医を通じて病院の担当医や緩和ケアチームとの連携を継続し、必要に応じて治療やアドバイスを受けることができます。

安心して自宅で緩和ケアを受けるためには、訪問診療医や訪問看護師などと、療養の目的や希望について十分に話し合い、患者さんと家族の不安を少なくしておくことが大切です。

3緩和ケアはどこで受けられますか?

がんの冊子 がんの療養と緩和ケア

Page 16: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

13

がんに伴う体の痛みのほとんどは、鎮痛薬を適切に使うことで治すことができます。痛みを和らげるために必要な量は、痛みの原因や、強さ、鎮痛薬に対する反応の個人差などによって異なります。そのため、それぞれの患者さんにとって十分に痛みを止めることができる量を、患者さんに鎮痛薬の効果を尋ねながら痛みによる生活への影響がなくなる量まで調節していきます。強い痛みがあることで、必要な検査や治療が受けられなくな

ることもあります。在宅療養中の患者さんでは、せっかくの自宅での生活がつらいものになってしまいます。なるべく早いうちに相談して十分な痛みの治療を受けられるようにしていくことが大切です。

4. がんの痛みと緩和ケア

Page 17: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

14

・ 医療用麻薬の誤解をなくしましょう

がんの痛みの治療法は、WHO方式がん疼痛治療法と呼ばれ、世界的に、最も効果的で安全な治療法とされています。この方法では痛みの強さに従って段階的に鎮痛薬を使います。強い痛みにはモルヒネなどの医療用麻薬が使われます。モルヒネなどの医療用麻薬に対して、「中毒」「命が縮む」「最

後の手段」といった誤ったイメージを持たれていることがあるかもしれません。しかし、世界における20年以上の経験から、がんの痛みの治療には、モルヒネなどの医療用麻薬による鎮痛治療が最も効果的であり、誤解されているような副作用は認められないことが明らかになっています。医療用麻薬の一般的な副作用としては、吐き気・嘔吐、眠気

や便秘などがあります。多くの副作用は予防や治療ができるので、安心して痛みの治療を受けていただくことができます。

・ 痛みは我慢しないで、自分で伝えましょう

痛みを長い間我慢すると、夜眠れなくなったり食欲がなくなったり、体の動きが制限され、気分がふさぎがちになり、生活に大きな影響を及ぼします。がんの痛みは軽いうちに治療を始めれば、短期間に十分な鎮痛が得られるものがほとんどです。痛みの治療を早い時期から始めるためには、自分の痛みの症

状を医療者に十分に伝えることが大切です。

4がんの痛みと緩和ケア

がんの冊子 がんの療養と緩和ケア

Page 18: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

15

本当の痛みの状態は、患者さんにしかわかりませんので、具体的な表現をすることが重要です。「いつから」「どこが」「どのようなときに」「どんなふうに」「どのくらい」痛むのかを、言葉にして表現することで、患者さんにしかわからない痛みを医療者も共有することができます。これらの情報についてメモをつくって医師や看護師に見てもらうことも大変参考になります。また、痛みが影響している日常生活を伝えておくと、治療の目

標がより明確になります。例えば、痛みで眠れなかったが、治療したら眠れるようになった、などわかりやすい出来事を話す方がよいでしょう。

痛みの治療についての情報は、受診中の医療機関で尋ねるか、地域のがん診療連携拠点病院の「相談支援センター」でも入手できます。また、国立がん研究センターがん対策情報センターのホームページ「がん情報サービス」から、がんとつき合う→さまざまな症状への対応→痛み(http://ganjoho.jp/public/support/condition/pain.html)をご覧ください。

Page 19: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

16

表3.��痛みを伝えるときの大切な点

時 期 痛みは1日中あるか、どんなときに痛いのか、たいていはよいけれど、時々急に痛くなるのか、など。

場 所 どこが痛いのか、1ヵ所か広い範囲なのか、痛む場所はいつも同じなのか、など。

感じ方鋭い痛みか鈍い痛みか、ビリビリ、ジンジン、ズキズキ、しびれた感じ、ヒリヒリ、キリキリ、しめ付けられる感じ、など。

日常生活への影響

トイレやお風呂のときつらい、眠れない、食べられない、体が動かせないのが困る、座っているのもつらい、何も手につかない、など。

痛みの程度

イメージできる最も強い痛みを「10点」、まったく痛みのない状態を「0点」とすると、今回の痛みは何点ぐらいか、など。

●痛みを顔で表すときの例 �痛みの治療を受けるとき、日々「痛み」の変化を記録しておくと役に立つことがあります。

0~2 4 6 8 10

痛み止めの効果 「途中で切れる」「全体に少し和らいだ」「ほとんど効果を感じない」など。

4がんの痛みと緩和ケア

がんの冊子 がんの療養と緩和ケア

Page 20: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

17

患者さんと家族の心を支えることは、緩和ケアが担う大きな役割です。

患者さんは“がん”と疑われたとき、病名や再発や転移を知ったときなど、さまざまな場面で心に負担がかかります。その代表的なものが「不安」と「落ち込み」です。これらは多くの人に見られ、直ちに問題になるというわけではありません。通常は数日から2週間程度で、困難を乗り越えて適応しようとする力が働き出します。しかし、それ以上たってもつらさが回復しないで、日常生活に支障が出るようなら、心のケアなどの対処が必要です。この状態が長く続くことは、患者さんの生活の質を低下させるだけでなく、がんの療養への取り組みにも悪い影響を与えたり、家族のストレスを高めることにもつながります。

・ 患者さんの家族と心の問題

家族の誰かががんにかかることは、ほかの家族の心にもさまざまな影響を及ぼします。家族も、患者さんが“がん”と疑われたときや、病名や再発や転移を知ったときなど、さまざまな場面で心に負担がかかります。患者さんの治療がうまく進めば家族も元気になりますが、治療経過が芳しくないと家族も気持ちが沈みがちになります。

5. 心を支えること

Page 21: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

18

患者さんばかりでなく家族の心にも強く影響することを理解し、負担感が強いと感じたら、躊

ちゅうちょ

躇しないで家族の方も心のケアを受けてください。

● 心のケアの基本は「カウンセリング」ですカウンセリングは、心の専門家と不安や落ち込みについて話

していくことが中心になります。言葉にすることで気持ちが楽になり、整理がついたという経験は、多くの方が持っているのではないでしょうか。また、がんと心の状態についての理解を深めることで、心配やつらい気持ちが和らぐこともあります。

心のケアは、精神腫瘍科や心療内科、緩和ケアチームなどの医師のほか、心理士、心の問題を専門に扱う看護師、ソーシャルワーカーなどにも相談できます。相談については、各地域のがん診療連携拠点病院にある相

談支援センターでも対応してもらえます。�

5心を支えること

がんの冊子 がんの療養と緩和ケア

Page 22: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

19

患者さんが必要なときに十分な緩和ケアを受けるためには、緩和ケアに対する家族の正しい理解が大切です。家族に「緩和ケアは末期がんのためだけのもの」「痛いのは病気だから仕方ない」などの誤解があると、患者さんにとって緩和ケアを十分に受けることができなくなり、痛みなどに苦しむ時間を過ごすことになってしまうこともあります。一方、緩和ケアは患者さんだけでなく、家族に対しても行われます。患者さんをどう支えていったらいいのか悩んだり、社会的、経済的な問題が生じたりすることもあるかもしれません。がんの治療を専門にしている多くの医師や看護師は、緩和ケアの必要性を十分に理解していますので、痛みの治療や心の不安などのことで、緩和ケアについて積極的に相談してください。 患者さんが自宅で緩和ケアを受ける場合は、訪問診療医や訪

問看護師などが家族と協力しながらケアを行います。この場合、介護をする家族の負担を軽減できるような態勢を整えておくことも大切です。家族の気分転換や息抜きができる時間をつくれるように友人や親せきなどの協力が得られると、在宅療養への不安が軽くなります。また介護保険のサービスなども上手に利用しましょう。介護者が疲れる前に心身を充電できるような態勢づくりについても、訪問診療医や地域の緩和ケア病棟、あるいは地域のがん診療連携拠点病院の相談支援センターなどにご相談ください。

6. ご家族へ

6 ご家族へ

Page 23: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

がんの冊子がんと療養シリーズ(5種)がんの療養と緩和ケア、がんと心、がん治療と口内炎、がん治療とリンパ浮腫、 もしも、がんと言われたら

各種がんシリーズ(34種)  小児がんシリーズ(11種)社会とがんシリーズ(3種)相談支援センターにご相談ください、家族ががんになったとき、身近な人ががんになったとき

患者必携がんになったら手にとるガイド*    別冊 『わたしの療養手帳』

患者さんのしおり(『がんになったら手にとるガイド』概要版)

もしも、がんが再発したら*

国立がん研究センターがん対策情報センター作成の冊子

全ての冊子は、がん情報サービスのホームページで、実際のページを閲覧したり、印刷したりすることができます。また、全国のがん診療連携拠点病院の相談支援センターでご覧いただけます。*の付いた冊子は、書店などで購入できます。そのほかの冊子は、相談支援センターで入手できます。詳しくは相談支援センターにお問い合わせください。

がんの情報を、インターネットで調べたいとき近くのがん診療連携拠点病院や相談支援センターをさがしたいとき◆◆◆がん情報サービス

http://ganjoho.jp/

携帯電話でも見てみたいとき◆◆◆がん情報サービス 携帯版

http://ganjoho.jp/m/(携帯電話専用アドレス)

がんの冊子 がんと療養シリーズ がんの療養と緩和ケア

編集・発行 独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター印刷・製本 図書印刷株式会社

2010 年 3月 第 1版第 1刷 発行2012 年 3月 第 2版第 1刷 発行

協力:川村三希子(北海道医療大学 看護福祉学部 臨床看護学講座)   橋爪 隆弘(市立秋田総合病院 外科・緩和ケアチーム)   的場 元弘(国立がん研究センター中央病院 緩和医療科・精神腫瘍科)   国立がん研究センターがん対策情報センター 患者・市民パネル ※協力者の所属は第1版発行時のものです。

Page 24: がんの療養と緩和ケアganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000...がんと療養 がんの療養と緩和ケア つらさを和らげてあなたらしく過ごす

国立がん研究センターがん対策情報センター〒104-0045東京都中央区築地5-1-1

「相談支援センター」について相談支援センターは、がんに関する質問や相談にお応えします。がんの診断や治療についてもっと知りたいとき、不安でたまらないとき、いっしょに考え、情報をさがすお手伝いをします。窓口は全国の「がん診療連携拠点病院」にあります。その病院にかかっていてもいなくても、無料で相談できます。

全国のがん診療連携拠点病院は、「がん情報サービス 携帯版─病院を探す」で参照できます。

相談支援センターで相談された内容が、ご本人の了解なしに、患者さんの担当医をはじめ、ほかの方に伝わることはありません。どうぞ安心してご相談ください。

あなたの地域の相談支援センター がんと療養

がんの療養と緩和ケア

より詳しい情報はホームページをご覧ください

204

国立がん研究センターがん対策情報センター