日本的雇用システムの変化と課題…野和夫教授...「雇用システムと労働法制」2013講書始、「変化する労働法と雇用...

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日本的雇用システムの変化と課題 菅野 和夫 20191225連合総研 日本の未来塾 1

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日本的雇用システムの変化と課題

菅野 和夫

2019年12月25日

於 連合総研 日本の未来塾

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はじめに

○ 私は、労働法学者であるが、「日本的雇用システ

ム」を少々論じてきた (『雇用社会と法』1998、新版2002、

「雇用システムと労働法制」 2013講書始、「変化する労働法と雇用

システム」中央労働時報1213号10-20頁2017)。

ー それは、「日本的雇用システム」が日本の労働

法制(法政策、判例)と密接な相互作用を営んで

きたから。

○ 同システムが今後どうなるか、細々と考え続けて

いる。その一端をお話しさせていただく。

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I 日本的雇用システムとは(1)

〇 日本の長期雇用慣行の諸要素を、相関連する一つの仕組みとして理解したもの(国際的・学問的に認知)▪ アベグレン『日本の工場』(1958)、OECD対日労働報告書(1972)・・・▪ 労使関係論、労働経済学、産業社会学等の内外の諸学者が、1970年代から国際研究を進展させ、より精密に長期雇用慣行、内部労働市場、企業別労使関係等の仕組みを提示。国内外の識者の間で「日本的雇用システム」として認識された。

〇 多面的で周辺の仕組みを伴うものなので、どの側面(特色)を強調するか、どの範囲の仕組みととらえるかにつき、様々な視角あり: 「日本的経営」、「従業員主権企業」、「人本主義」、‘welfare corporatism’、「雇用社会」、「メンバーシップ型雇用」・・

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I 日本的雇用システムとは(2)1. 本質は、企業における人材の長期的な育成・活用の仕組み(私見)

① 企業の中核的労働力を、現場従業員と管理職員の双方にわたって、

若年時から定年時まで長期的に育成活用する人材としてとらえての、

長期的な雇用関係の仕組み。

・ 長期的に育成活用する人材を正規雇用者(「正社員」)として位置づけ

― 新卒一斉採用を基本として採用(補足的に中途採用)

― 勤続に応じ系統的に人事異動・教育訓練を施し、職業能力の

向上に応じて企業内の地位・処遇を向上させる(年功的処遇)

― その定着と雇用安定に意を注ぐ(勤続奨励、解雇権の自己抑制)と

共に最大限の献身を期待(人事権、残業命令権)。

・ 経営者も正規雇用者の中から内部昇進により育成、しかもキャリア・

ノンキャリアの区別をつけない(遅い選別)

② 内部労働市場の仕組み

・ 各種技能者、管理者、役員等の人材を企業内で育成・調達・調整す

る仕組み(配転、昇進、昇格、・・・人事権)

・ 企業グループ ⇒ 準内部労働市場(出向、転籍) 4

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I 日本的雇用システムとは(3)③ 利益共同体としての企業・ 企業は、雇用者(正社員)と経営者が当該企業の存続・発展に共通の利益を見出す共同体・ 企業別組合との協力的労使関係

― 労働組合も企業ごとに正社員を丸ごと組織(企業別組合)― 企業と企業別組合が企業の発展のために協力(企業別労使関係)

④ 非正規労働者・ 他方、企業は、長期的雇用関係にはない労働者を経済変動等に柔軟に対応するため一定数保有。

⑤ 周辺のシステム▪ 組合の産業別連合組織、春闘システム▪ 三者構成審議会、労働委員会、労働審判制度・・・▪ 組合の様々な社会貢献(労働相談、ボランティア・・・)、政治への関与

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I 日本的雇用システムとは(4)

2. 日本的雇用システムの適用範囲と多様性① 大企業・中企業に成立、社会の標準モデル② 規模、業種、資本、国際性、等により異なる(まだら模様)- 中小企業――中途採用に依存、定年は曖昧、ときに恣意的解雇- 外資系――外部労働市場からの人材獲得・ポスト採用、パッケージ解雇、at will解雇

③ 日本の労働市場、雇用・労使関係の全体的な姿を規定。- 新卒者が就職し易い。内部労働市場発達。高齢者の雇用継続- 外部労働市場の未発達、非正規労働者問題の拡大― 企業横断的賃金基準の不在、代わりに春闘・三者構成審議会④ 外部労働市場も部分的に散在

― 新卒採用市場、パートの地域労働市場、外資系企業の転職市場― 高度専門職(医師、弁護士、大学教員・・・)の転職市場――他方、薬剤師、看護師、IT技術者などは転職少なく、スキルとキャリアの発展は個別勤務先での研修、職務経験に依存する傾向(西村健『プロフェッショナル労働市場』2018“技能の汎用性と転職傾向は別”)

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II.日本的雇用システムの独自性

1.外部労働市場型雇用システムに対して○ 理念型としての内部労働市場型雇用システム vs. 外部労働市場型雇用システム(次頁)--いずれの雇用システムも長所と短所があり、どちらかが当然により優れたシステムであるわけではない。

〇 諸外国との比較(仮説)▪ 米国は、1970年代からのリストラの嵐の中で、内部労働市場型から外部労働市場型へとモデル・システムを変更。内部労働市場型システムも残っているが、年功ではなくメリット・ベースの評価・処遇制度。大学等の教育機関が職業人材の養成と供給の機能を営む。▪ 欧州(独、仏、スウェーデン)は内部労働市場型雇用システムだが、産業別労使関係を基盤として外部労働市場(職業訓練、技能評価、移動)の仕組みもあり、それと連結。▪ 日本の特色: 内部労働市場が堅固で、外部労働市場が未発達--韓国の財閥企業の雇用システムに比しても「長期雇用」(遅い選抜、高齢まで面倒を見る)。

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内部労働市場型雇用システム 外部労働市場型雇用システム

雇用の安定社員の献身(相互コミットメント)教育訓練投資の回収可能組織に固有のスキルが発達新卒者(若年者)の就職容易

経営の柔軟性も確保(包括的人事権、残業命令権、就業規則の合理的変更権)

経営の柔軟性(雇用責任の回避)

労働市場緩和時には企業の支配力増大(規律・勤務態度)契約内容の明確化

所組織的拘束強い(残業命令、辞令一本で異動、兼業許可制)転職の困難性

正規・非正労働者の分断と格差

(ピーター・カペリ『雇用の未来』(2001)を参考に菅野作成)

雇用の不安定

有能社員の引抜き転職のおそれ大中核的労働力確保の困難性

労働市場逼迫時には支配力減少

人材確保のための外部の仕組み必要(専門大学院、実践的な技能訓練・評価・認定機関、マッチング・ビジネス,等)

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III.日本的雇用システムの変化と持続性(1)1.日本的雇用システムの変化の経路○ 生成⇒確立⇒成熟⇒修正― JILP「雇用システムの生成と変貌-政策との関連」(2018、草野隆彦、

I 戦前期、II 戦後復興期からバブル期)▪ 戦前に部分的に生成

― 1880年代の政府の兵器工場・造船所、そして日露戦争・第一次大戦後の財閥系大企業において、技能労働者の企業内育成(訓練)、新卒採用、定期昇給制度、企業内福利厚生、常用工と臨時工・・

▪ 戦時体制下の労務統制・賃金統制も基盤を形成(e.g.,退職積立金及退職手当法(1936-1944)、産業報国会、・・)▪ 戦後、高度成長下で確立(一般化)し、その後円熟化(労使協力)- 技能労働者不足⇒企業内で養成し長期的に活用。生産性三原則、小集団活動、春闘システム・・・

- 1973~の国際経済変動も社会的合意と雇用安定政策で凌いだ。▪ 1980年代半ばから、労働政策による修正- 1985~:男女機会均等、定年延長、週40時間制、派遣労働制度化― 1990代以降の長期経済低迷⇒経済システムの規制改革、非正規労働者問題就職氷河期⇒行過ぎ是正の社会政策

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III.日本的雇用システムの変化と持続性(2)

2.日本的雇用システムの根強い持続性、今後は?

○ 要するに、日本的雇用システムの変化は連続的な経路

をたどってきた。= これからも大いに変化するが、連続

的な経路をたどるはず。

○ JILPTの各種調査(「人材マネジメントのあり方に関する

調査」2014、等) 、JILPT『日本的雇用システムのゆくえ』

(高橋康二ほか):“人材の長期的育成・活用としての内部

労働市場型システムは根強い持続性を有してきた。“

○ 労働関係は生身の人間の生活を巻き込んだ関係、シス

テムの全面入替えは起きにくい。ーーでは、米国はなぜ

標準モデルが変ったのか?=解雇規制なし+労働組合

が法制改革なく、弱体化+ Neo-liberalismの風潮?--

解雇規制(法制&規範意識)及び労使関係の重要性?10

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IV.日本的雇用システムの今後(1)

1.変化の大きさを予測させる諸要因(1)

〇 少子高齢化、人口減少、一層のグローバル化、市場の短期的変化▪ 若者の減少、労働力不足、労働移動の増加▪ 高齢者の増加と活用(70歳頃まで働く社会へ)、▪ 国内市場の縮小⇒企業の一層の海外進出⇒人事管理・処遇制度の国際化進展、・ 国内の外国人材の増加―短期的処遇の欲求▪ 商品サイクルの短期化、需要の多様化、研究開発・システム開発のための専門人材の需要とそのスキル変化の短期化

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IV.日本的雇用システムの今後(2)1.変化の大きさを予測させる諸要因(2)〇 情報関連技術の飛躍的な発展(デジタル情報革新)▪ 「雇用の代替」ある程度、しかし労働力不足を補う絶好の手段へ。▪ IT・AI関連人材の需要増とその養成の課題――企業内?外部化?▪ 労働における時間と場所の自由化が進む――現場作業が必須の建設、運輸、医療、等は別の様相?▪ 評価・処遇制度は、学歴・年功ベースから職務・成果・パフォーマンス・ベースへ向かう。

〇 テレワーカー等のフリーランス就労者の増加▪ JILPT「雇用類似の働き方に関する試算」(2019年1月)では、目下

169万人――雇用社会は続く。▪ JILPT「独立自営業者の就業実態」(調査シリーズNo.187、2019年

3月)――主な問題点(意識調査):①「収入が不安定、低い」、②失業やけがの補償なし。--主な要望:①契約内容書面化の義務づけ、②相談窓口・簡易なトラブル解決制度▪ 新たな非正規労働者へ?――労働保険特別加入や家内労働法に準じた仕組みが必要?

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IV.日本的雇用システムの今後(3)1.変化の大きさを予測させる諸要因(3)〇 労働力流動化政策の開始▪ 2012年までの労働政策--日本的雇用システムの雇用安定機能を強化しつつ、その問題点への政策的対応を行うもの― 第一次石油危機以降の国際経済変動 ⇒ 積極的雇用政策立法(1974雇用保険法、構造不況業種・地域対策立法)- 1980年代の労働市場変化でも、①男女別雇用管理⇒男女雇用機会均等法(1985)、②人口高齢化⇒高年法の制定・改正、③長時間労働への国際批判・サービス化⇒労基法改正(週40時間制、弾力化)

― 2000前後の規制改革(職安法・派遣法の規制緩和、会社分割制度、etc.)でも、また、2010年前後の規制改革の行過ぎ是正(非正規労働者保護の開始)でも、長期雇用慣行の本丸には迫らず。

▪ しかし、2013年からは、流動的(外部労働市場型)雇用システムへの同慣行の改造政策が開始されている。― 2017.3.18「働き方改革実行計画」ーー“日本経済の諸悪(投資と分配の不足、生産性の低さ、仕事と家庭の両立困難、転職の困難性、非正規雇用・・)の根源は“硬直的な雇用制度“

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IV.日本的雇用システムの今後(4)

2.予測される変化(1)〇 有期・パートの相当多くが、日本版「同一労働同一賃金」と労働力不足とによって内部労働市場に取り込まれていく。▪ この過程で、従業員全体の区分と処遇が職務の内容と職務内容・配置の変更範囲を基軸としたものに再編されていく。・ 被扶養者、学生・留学生、高齢者のパート等は残る。〇 他方、高齢化の進展のなかで、より長期に企業にとどまる者が増える一方、50歳代からのセカンド・キャリアへの転身者も増える。▪ 政府も双方への支援の施策を増やす。転身者のための外部労働市場も形成されていく?

〇 IT人材、国際人材等の専門人材の中途採用と別途の処遇(厚遇)が増加する。▪ これらの人材はより良い待遇やより魅力的な仕事を求めて移動しやすい。企業によっては、彼らの定着を図る処遇を行う。― これらの人材の移動がどれほど活発化して、外部労働市場(企業外での技能養成、評価、マッチング)の仕組みがどの程度できていくか?

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IV.日本的雇用システムの今後(5)3.予測される変化(その2)〇 それでも、企業が正社員(中核的労働力)を若年時に採用して育成活用し、その中の優秀な人材が経営者になる長期雇用システムは、基軸として維持されるのではないか。⇒ 問題は、内部育成の経営者では、激変する経営環境の中での革新的経営(革新的設備投資と組織再編)を担えるか?- 早い選別・養成へ? orキャリア・システムへ? 危機時には、外部のカリスマ経営者を導入?- 経営者と従業員間の格差が開いていく?

〇 雇用の周辺において、ITネットワークを利用してフリーランスで働く人々が(副業も含め)増加。▪ 企業もこれらの人々を新たな柔軟労働力として活用していく。〇 それでも、就労者の主要な割合が雇用形態で働く「雇用社会」は存続する。▪ しかし、雇用の中で、時間と場所にとらわれない働き方が増加し、労働時間法制の多様化などを要請する。

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IV.日本的雇用システムの今後(6)3.「失業なき労働移動」が円滑に行われる雇用システムとは?○ 内部労働市場中心だが、外部労働市場も利用できる接合型?・ そのような雇用システムを実現している国は?:ドイツ、スウェーデン?-産業別労組の役割重要?- 横断的な賃率・職業訓練・技能評価▪ わが国では、まず外部労働市場(能力開発、能力評価、マッチング、カウンセリング)整備が必要:how?- 準内部労働市場の活用?- 内部労働市場の改革(評価・処遇制度)も必要?- 職業キャリアの伸長も重要な考慮要素(「キャリア権」の具体化が必要)

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V.雇用システムと労働組合(1)

1.日本的雇用システムを土台とする労働組合○ 全体状況▪ 企業ごとに正社員(利害共通)を丸ごと組織する組合、近年はパートの組織化へ。▪ 補足的に、企業内の少数組合、企業外の合同労組・ユニオン・産別組合〇 憲法28条・労働組合法は、労働組合を労使対抗団体として保障。▪ 企業別組合も労使対抗団体(任意加入、戦闘性) ⇒ かつては産別組織を志向、企業別組合でも産別に(⇒連合)へ加入、春闘参加

〇 企業別組合は、労使協力の従業員代表団体としての性格も帯びる。▪ 従業員が当然加入、企業の繁栄のための経営関与(協力)⇒組合承認=組合員の範囲の線引き、ユニオンショップ(全員加入)、便宜供与(チェックオフ、組合事務所、組合専従&/or組合休暇)

▪ こちらの性格が強まった。――ストなし春闘、団交代替的労使協議〇非正規労働者増加の影響▪ 組織率逓減 ⇒ 過半数組合の地位が危うくなった。▪ パートの組織化へ(組織率やや持ち直し)

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V.雇用システムと労働組合(2)

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2.集団的労使関係の再構築の必要性(1)

○ 事業場レベルでの労働者の組織状況(事業所割合)「過半数労働組合及び過半数代表者に関する調査」JILPT調査シリーズNo.186(2018年12月)より

(注)組合ありの事業所のうち、非正社員が組合に「加入している」が38.5%(うち「ほぼ全員加入」が42.4%、「一部のみ加入」が57.6%)、「加入していない」が38.0%)。

事業所規模 組合あり(注) 過半数組合あり 過半数代表者あり

全 体 12.6% 8.3% 51.4%

10~29人規模 15.3% 9.9% 59.6%

30~99人規模 28.9% 20.5% 64.9%

100~299人規模 45.6% 35.5% 57.2%

300~999人規模 66.6% 300人以上:50.6% 44.5%

1000人以上 77.0% 同 上 40.5%

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V.雇用システムと労働組合:今後の展望(3)

2.集団的労使関係の再構築の必要性(2)○ 過半数代表者の選出方法(事業所規模別)前記JILPT2018年調査)

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事業所規模 投票や挙手

信任(注) 話合い 親睦会代表者等特定の者が自動的に

使用者(事業主や会社)が指名

全 体 30.9% 22.0% 17.9% 6.2% 21.4%

10~29人 27.1% 22.3% 19.5% 7.7% 21.9%

30~99人 32.9% 23.0% 15.5% 7.4% 19.7%

100~299人 37.3% 28.2% 10.8% 9.4% 12.2%

300人以上 43.7% 36.2% 5.7% 5.5% 6.8%

事業所規模 使用者が決める 親睦会代表者等特定の者が自動的に

その他

30~99人 49.6% 14.3% 20.4%

100人~299人 34.6% 20.7% 15.1%

300人以上 32.5% 17.3% 44.9%

(注)信任の候補者の定め方

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V.雇用システムと労働組合:今後の展望(4)

2.集団的労使関係の再構築の必要性(3)○ 日本版「同一労働同一賃金」には、正社員、非正社員にわたる社員区分・処遇の再編成が必要 ⇒ 労使交渉が必要- しかし正社員組合(スライド18参照)では交渉資格なし(労組6条)

○ 三六協定の主体としての「過半数代表者」はFiction(スライド19参照)○ まずは、過半数代表者制度の改革を(=労働組合の基盤整備)

― 複数代表化、労使委員会、従業員代表委員会の選択制?― 委員の公正な選出、不利益取扱禁止、活動への便宜供与― 任務は法定の協定締結・意見表明、任意的に苦情処理も?- 合同労組、少数組合の権能(労組6条)はそのまま。- 従業員代表は企業別組合に転化できる。組合は従業員代表を活用できる。

○ 企業別組合に果たしうる(果たして欲しい)機能・ 労働条件(制度)の改善、雇用の維持(特に企業再編時)・ 経営のチェック、労使の意思疎通・ 組合員からの相談への対応・ 企業不祥事の防止(モニタリング)

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おわりに○ 再び考える「労働政策の基軸」

- 2007年12月21日労政審建議:“今後の労働政策

の基軸は、①労働関係の公正さの確保、②雇用

(or 職業)の安定、③働き方の多様性の尊重“

- 日本的雇用システムの今後の主要課題

①公正 ⇒ “法規制と労使自治のRebalancing” ⇒

変化の時代に寄り添う労働組合の基盤の整備

②安定 ⇒ 内部労働市場から、変化の時代を切り

拓く革新的経営者を育てられるか。外部労働市場

との接合を図れるか。

③多様性 ⇒ AI時代の就労者と働き方の多様化に

労働組合と労働政策がいかに対応できるか。21