我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 ·...

37
IGPI All Rights Reserved 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 20161117日(木) 株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO 冨山和彦

Upload: others

Post on 10-Feb-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題

2016年11月17日(木)株式会社経営共創基盤代表取締役CEO 冨山和彦

CS857522
タイプライターテキスト
資料4
Page 2: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

- 1 -

故青木昌彦氏スタンフォード大学名誉教授

金子恭規氏スカイラインベンチャーズ

CEO

伊藤邦雄氏一橋大学CFO教育研究

センター長

落合誠一氏東京大学名誉教授

Hugh Patrickコロンビア大学名誉教授

日本経済経営研究所創立者

James C. Collinsビジョナリーカンパニー著者

Michael Spenceスタンフォード大学

ビジネススクール元学長ノーベル経済学賞

Charles A. O’Reilly Ⅲスタンフォード大学

ビジネススクール教授

Page 4: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

Gの世界とLの世界:経済特性、産業構造が大きく異なる2つの経済圏の存在

資本集約型、規模の経済 製造業、大企業が中心 グローバル経済圏での完全競争

産業構造

業種例

雇用

長期的に漸減傾向(約20%の世界) 知識集約型(高度人材が中心、高賃金)

Gの世界(グローバル経済圏) Lの世界(ローカル経済圏)

商品

モノ、情報 持ち運び可能(貿易財)

- 3 -

GD

P

比 約30%(長期漸減)

労働集約型、密度の経済 サービス産業、中堅・中小企業が中心 ローカル経済圏での不完全競争

空洞化が起きにくく、長期的に増加傾向(約80%の世界)

労働集約型(技能職系の人材が中心、低賃金)

交通(鉄道、バス、タクシー)・物流・不動産・建設 飲食・宿泊・対面小売・卸売・農林水産 社会福祉サービス(医療、介護、保育等)

コト、サービス(基本的に対面型) 生産と同時にその場で消費される(同時性・同場性)

約70%で長期漸増(先進国共通の傾向)

- 3 -

自動車・電機・機械 医療機器・製薬 情報・IT産業の非対称機能

Page 5: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

成長戦略の挑戦課題:持続的な所得アップのKey wordは「生産性」と「新陳代謝力」

両経済圏は緩やかな相互依存関係だが、直接的な関連性を持っていない(トリクルダウンが起きない背景)。

GとLの二つの世界を抱えながら前に進まざるを得ないこれからの時代は、重要なことはGかLかではなく、GにはGの、LにはLの特性に対応した政策体系、成長戦略を用意し、共存させることである。

- 4 -

テーマ

挑戦課題

Gの世界(グローバル経済圏) Lの世界(ローカル経済圏)

ビジネスのオリンピックを勝ち抜く 「新陳」と「代謝」の同時促進で労働生産性UP

① オリンピック水準の競技環境を整える⇒ 世界水準の立地競争力と競争ルール(コー

ポレート・ガバナンスを含む)を整備⇒ 世界のトッププレーヤーたち(企業、個人)

のアジアにおける活動拠点に 今こそ穏やかな退出・集約化政策とスマート・レギュレーションで、地域経済に生産性と安定雇用と賃金の同時上昇を達成する② 大中小を問わず日本企業のオリンピックメダリ

ストを増やす⇒株価、貿易収支、所得収支で国富を増大

資本生産性(資本効率)の向上 労働生産性の向上

Page 6: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved - 5 -

注1)2004~2013年暦年ベース、金融・不動産除く注2)対象=TOPIX500、S&P500、Bloomberg European 500 Index出所:Bloomberg、みさき投資株式会社分析

当期純利益

売上高

当期純利益

株主資本

売上高

総資産

総資産

株主資本= × ×

ROE 売上高純利益率 総資産回転率 財務レバレッジ

6.7%

合計

非製造業

6.8%

6.8%製造業

日本

米国

欧州

14.5%

製造業

合計

18.1%

非製造業

16.0%

製造業

合計

15.3%

15.4%

非製造業 15.6%

0.86

0.92

0.91

0.77

0.61

0.87

0.79

0.86

0.66

3.2%

3.5%

3.3%

8.3%

8.0%

8.4%

7.8%

7.2%

6.8%

1.91

2.02

2.28

2.29

2.33

2.24

2.44

2.74

2.58

日米欧の資本生産性分解

デュポン式のROE分析によって日米欧を比較すると、日本企業の低ROEの原因は低い利益率

Page 7: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

コーポレートガバナンス改革の経緯

- 6 -

内閣

金融庁

法務省

経産省

2013/6

日本再興戦略スチュワードシップ・コード/新しいインデックス

スチュワードシップ・コードの策定

会社法改正社外取締役を選任しない場合の説明義務

2014/6

東証

JPX日経インデックス400

の開始

2014/1

日本再興戦略改訂2014コーポレートガバナンス・コード

コーポレートガバナンス・コード

の策定

伊藤レポートの公表

2015/1

コーポレートガバナンスの強化

安倍政権発足以降、コーポレートガバナンス改革が進展

2016/6

コーポレートガバナンス・コードの

施行

Page 8: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

企業統治改革に関わる情緒的「都市伝説」

日本の上場大企業は、

短期的利益よりも長期的成長を重視してきた? 短期的利益よりも雇用を重視してきた?

企業統治を強化すると、

短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される? ROE指向で長期的な成長が犠牲になる?

企業統治改革は米国の株主至上主義の追随だ?

四半期開示を強化すると、

経営者が短期指向になる?

- 7 -

Page 9: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved - 8 -

14897 81 71 54

150

179176

139128

117111

109

103

87

82 103 118 141 133

9846

中国

2010 2015

その他

1995

3

日本

米国

英仏独

2005

16

2000

10

出所:Fortune

世界経済における日本企業の地位

グローバル競争の中で日本経済・企業の地位が低下

フォーチュン・グローバル500社の国別構成

(年)

Page 10: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved - 9 -

製造業のGDP構成比

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.019

76

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008

2010

2012

(%) 日本 ドイツ アメリカ

出所: United Nations, National Accounts Main Aggregates Database

(注)上記は、産業別付加価値の合計(GDPとは異なる)に対する構成比

Page 11: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved - 10 -

製造業の就労者比率

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.019

76

1978

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008

2010

2012

(%) 日本 ドイツ アメリカ

出所: ILO Stat Database

(注)ドイツは、1989年までは西ドイツ、1992年以降は東西ドイツ統一後のデータ

Page 12: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

大企業における就業者数の推移

大企業における就業者数は、2000年以降大幅に減少し、全就業者に占める割合も大きく低下

- 11 -

0

5

10

15

20

25

8.000

7.000

9.000

11.000

10.000

2.000

4.000

1.000

5.000

0

6.000

3.000

2000 2005 2010 2012

10.479

8.840

-16%

2013

20

16

全就業者に占める割合

就業者数

資本金10億円以上の企業における就業者・割合の推移

就業者数(千人)

全就業者に占める割合(%)

出所:国税庁「民間給与実態統計調査結果」

Page 13: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

日系企業の課題(経済産業省の資料より)

- 12 -

徐々に伸びる世界経済 日系企業の市場占領率の低下

Li-Ion電池

DRAMメモリ

カーナビ

DVDプレイヤ

DRAMメモリ

液晶パネル

DVDプレイヤ

Li-Ion電池

カーナビ

徐々に伸びる世界経済の中で、日本企業の市場占有率は低下

Page 14: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

0

5

10

15

1.0 100.00.1 10.0

三菱電機’12

NEC’80

三菱電機’80

東芝’80

ソニー’12

ソニー’80

日立’12

日立’80

NEC’12

営業利益率(%)

パナソニック’80

富士通’80

東芝’12

パナソニック’12富士通’12

売上高(兆円)

事業規模と収益性の関係

- 13 -出所:企業公開情報、IGPI分析

日系総合電機メーカーの規模と収益性(1980~2012年)

規模の拡大に従って、収益性は軒並み悪化

Page 15: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

事業規模と収益性の関係

- 14 -出所:企業公開情報、IGPI分析

グローバルプレイヤーの規模と収益性*1(1980~2012年)

*1:2012年時点で売上高1兆円以上の企業に限る

事業と機能の新陳代謝を進めながら、規模と収益性とが共に成長

0

5

10

15

20

25

30

35

100.010.01.00.1

営業利益率(%)

売上高(兆円)

GE12

GE80

3M80Caterpillar12

Caterpillar80

コマツ12コマツ80

信越化学12

信越化学80

Intel12

Intel80

UTC80

3M12

UTC12

Page 16: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved - 15 -

製造業(全規模)のROA推移(1990~2011年)

%

製造業(全規模)の売上高利益率推移(1990~2011年)

%

注1)ROA=税引き前当期純利益/総資産、売上高利益率=税引き前当期純利益/売上高出所:Annual Report on the Japanese Economy and Public Finance、財務省法人企業統計、Quarterly Financial Report, the U.S. Census Bureau

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

1990 1995 2000 2005 2010 2015

日本

米国

ドイツ

0123456789

101112

1990 1995 2000 2005 2010 2015

日本

米国

ドイツ

日米独のROA比較

日本企業は、アメリカ、ドイツと比較して、資本効率が悪い結果、利益率も低水準

Page 17: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

事業会社(金融機関除く)のROE*1の推移

- 16 -出所: 財務相「法人企業統計」、Bloomberg

0

5

10

15

20

25

30

35

40

1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015

(%)

*日本は法人企業統計における自己資本経常利益率、米国はS&P500構成銘柄のROE

米国

日本

Page 18: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

日経225構成銘柄*1の売上高成長率・ROE相関図

各社過去10年間の平均値

- 17 -出所: Bloomberg

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

-15 -10 -5 0 5 10 15 20 25 30 35

売上高成長率

ROE

相関係数: 0.46

*1 合併による大幅な売上増は集計から除外

Page 19: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

日米のGDP・家計金融資産の推移

- 18 -

出所:IMF “World Economic Outlook Database”、日本銀行「資金循環統計」、Board of Governors of the Federal Reserve System, “Financial Accounts of the United States”より作成

1989年 2014年 増減アメリカ GDP(10億ドル) 5,658 17,419 308%

一人当たりGDP(ドル) 22,879 54,597 239%一人当たりGDP順位 7位 10位 ▲3位家計金融資産総額 15兆ドル(約1600兆円) 68兆ドル(約7000兆円)444%一人当たり家計金融資産額(ドル) 62,295 214,610 345%

日本 GDP(10億円) 416,246 487,882 117%一人当たりGDP(円) 3,383,222 3,839,759 113%一人当たりGDP順位 4位 27位 ▲23位家計金融資産総額 982兆円 1,700兆円 173%一人当たり家計金融資産(円) 7,984,252 13,380,279 168%

日本の上場企業群はインベストメントチェーンを通じた家計資産形成に十分な貢献をしてきたのか?

Page 20: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved - 19 -

就任したCEOの内部昇格・外部招聘の割合

(2014年)

就任したCEOの他企業での経験(2012年)

87%

73%

92%

59%

92%

58%

77%

13%

27%

41%

8%

42%

23%

8%

その他新興国

ブラジル・ロシア・インド

中国

その他先進国

日本

西欧

米国・カナダ

外部招聘内部昇格

14%

12%

75%

32%

19%

29%

86%

88%

25%

68%

93%

81%

71%

7%

他企業での経験あり他企業での経験なし

出所:strategy&「2014年世界の上場企業上位2500社に対するCEO調査結果概要」

経営者の「生え抜き」率

出所:strategy&「2012年世界の上場企業上位2500社に対するCEO調査結果概要」

Page 21: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved - 20 -

就任したCEOの国籍(2014年) 就任したCEOの国際経験(2014年)

85%

84%

77%

100%

84%

100%

83%

78%

15%

14%

17%

22%

2%

0%

16%

1%

その他新興国

0%

ブラジル・ロシア・インド

西欧 7%

米国・カナダ

世界平均 4%11%

中国 0%

その他先進国

日本 0%

本社所在地と異なる地域

本社所在地と異なる国

本社所在地と同じ国

33%

24%

53%

17%

47%

50%

38%

67%

76%

47%

83%

53%

50%

62%

100%0%

本社と異なる地域での職務経験あり

本社と異なる地域での職務経験なし

出所:strategy&「2014年世界の上場企業上位2500社に対するCEO調査結果概要」

グローバル競争が過熱する中でも、国際経験を有するCEOの割合が少ない

経営者の国際性

Page 22: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

就任するCEOの平均年齢

- 21 -

就任するCEOの平均年齢

出所:strategy&「2014年世界の上場企業上位2500社に対するCEO調査結果概要」

52 51

62

5552

57

50

45

50

55

60

65

Ø 54

その他新興国

ブラジル・ロシア・インド

中国その他先進国

日本西欧米国/カナダ

Page 23: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

日本型ガバナンスの特徴と課題

日本的経営の特徴

新卒一括採用、終身雇用、年功序列、企業内組合などにより形成されるサラリーマンのムラ型ガバナンス

変革よりも現状維持のインセンティヴが強烈に働きやすい(変化が連続的で改善的努力の継続がモノを言う環境には強いが・・・)

日本企業の課題例①:選択と集中(捨象)が進まない

ある事業から撤退することはそこで働く従業員(=サラリーマン共同体のメンバー)の失業につながる

コンセンサス型、ボトムアップ型一辺倒の意思決定モデルの限界

日本企業の課題例②:トップマネジメントの交代

トップマネジメントの交代は、サラリーマンの出世競争の中で、計画的・定期的に繰り返され、業績との関係性が薄い

現トップマネジメントが、次期トップマネジメントを選任する傾向あり

- 22 -

「サラリーマンのサラリーマンによるサラリーマンのための共同体モデル」の「ムラの空気のガバナンス」の限界をどう克服するか!?

Page 24: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

日米における経営課題の相違

ガバナンスの究極目的は、「長期持続的な企業価値の向上」にあり、その達成を阻害する経営課題は日米では異なる

- 23 -

経営課題

独立取締役の期待役割

コーポレートガバナンスの

役割

日本 アメリカ

サラリーマンのムラ型ガバナンスによる意思決定の機能不全(不作為)

サラリーマン的な近視眼は問題先送り 収益率の低迷、「稼ぐ力」の強化

=アップサイド

強力な権限を持つCEOの暴走(作為) 短期株主的な利益先喰い 不祥事や強引な意思決定の抑止

=ダウンサイド

ステークホルダーを代表して経営陣をモニタリング

株主の代理人?

収益性の向上(≒決断力の向上)=アクセル=攻めのガバナンス

コンプライアンスの強化=ブレーキ=守りのガバナンス

Page 25: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

コーポレートガバナンス・コードについて

- 24 -

コーポレートガバナンス・コードについて

本コードにおいて、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじ

め顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅

速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。

本コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原

則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれ

の会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自

律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の

発展にも寄与することとなるものと考えられる。

Page 26: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

コーポレートガバナンスコードに示された改革理念

- 25 -

「公開」企業であることの意味、公器性が中核

株主至上主義ではなく、ステークホルダー重視型(その中心的な存在としての株主⇒サラリーマン至上主義も取らない)

今日現在の株主価値(目前の株価)ではなく、長期持続的な企業価値の向上(インベストメント・チェーンを通じて国民経済に長期的に貢献)

「守り」(コンプライアンス)のガバナンスよりも、「攻め」のガバナンス重視

マネジメントモデルよりも、モニタリングモデルを中核にすえる

ルールベースではなくプリンシプルベースだが・・・

Comply or Explainの本音の狙いは横並び心理での大半がComply(だからExplain要件は厳しくなっている)

ベストプラクティス形態の多様性(今のところ)

Page 27: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

企業統治改革に関わる情緒的「都市伝説」

日本の上場大企業は、

短期的利益よりも長期的成長を重視してきた? 短期的利益よりも雇用を重視してきた?

企業統治を強化すると、

短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される? ROE指向で長期的な成長が犠牲になる?

企業統治改革は米国の株主至上主義の追随だ?

四半期開示を強化すると、

経営者が短期指向になる?

- 26 -

Page 28: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

コーポレートガバナンス改革の今後の課題

日本企業の構造的な経営課題の解決

サラリーマン共同体至上主義の「ムラの空気のガバナンス」から徹底的に脱却(≒あえてKYな社外取の重要性)

鍵はトップ人事の客観化、透明化(≒OBガバナンスの排除)、社外の目(≒社外取の目)の有効活用

企業価値に関わる認識、基本的な価値観の共有

株主至上主義ではなく、ステークホルダー重視(社外取は全ステークホルダーの共通利益を代表)

今日現在の株主価値ではなく、長期持続的な企業価値向上を図る

投資家(特に機関投資家)の建設的対話の担い手力を抜本的向上

「最適」ROEの達成圧力を通じて、企業の「選択と集中」と産業の再編を促す

資本市場による成長期待圧力によってリスクテークとイノベーションへの挑戦を促す

長期的な資本生産性の向上を促す側の改革の徹底≒スチュワードシップ・コードの改訂、強化による「バカの二つ覚え」投資家からの脱却

資本市場による成長期待圧力によってリスクテークとイノベーションへの挑戦を促す

本質的な企業価値の長期的向上に関わる事項の開示充実(四半期開示については簡素化と四半期業績予測の原則廃止程度をやればOK)

- 27 -

Page 29: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

Lの成長戦略の根本課題:地域経済の基幹産業たるサービス産業、農林水産業の労働生産性と賃金を大幅に押し上げること

アベノミクス効果で需給ギャップが急速に解消し、従来からの生産労働人口減少による供給制約要因が特にLの経済圏、雇用の80%を占める世界で問題になる中、そこでの労働参加数の拡大と労働生産性上昇(≒持続的賃金上昇)こそが、ローカルアベノミクスの本丸

テーマ

挑戦課題

「新陳」と「代謝」の同時促進による労働生産性と賃金の上昇

①スマートな(賢い)レギュレーションで、地域社会との共生力と、イノベーションによる労働生産性向上力(付加価値up力、業務効率性up力)とを両立できる事業者、起業家を後押し

緩和すべき規制(ex. 既得権保護型の参入主体規制等) 強化すべき規制(ex. 最低賃金制度、労働・安全監督等) 新たなガバナンスモデル(非営利ホールディングス型)の導入⇒公共性の高い産業の集約化・統

合化を推進②コンパクトシティ化で地域の消費密度を高める

⇒「密度の経済性」に支配される地域のサービス業務(公共サービスを含む)の効率化

③職業訓練やジョブ型正社員化促進等でサービス産業従事者の潜在生産性向上と就労支援を進める

④穏やかな退出・集約化政策とスマート・レギュレーションで、地域経済に生産性と安定雇用と賃金の同時上昇を達成する。

⇒労働生産性(≒実質賃金)を高めて欧米先進国並みに⇒集約化・統合化で域内に規律ある寡占的安定を形成⇒高労働生産性(≒高賃金)かつイノベーション力のある企業へ事業と雇用を集約

- 28 -

Page 30: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

みちのりグループ各社

- 29 -

経営共創基盤

100%出資

みちのりホールディングス

車両数(バス)

100%出資

従業員数

福島交通グループ

545台

○ 福島交通

○ 福交整備

○ 福島交通観光

○ フクコーアド

○ 福交保険サービス

902人

茨城交通グループ

436台

782人

岩手県北バスグループ

221台

507人

○ 岩手県北自動車

○ 岩手県北観光

○ 浄土ヶ浜パークホテル

○ 宮古エコカーシェアリング

関東自動車グループ

424台

837人

○ 関東自動車

○ 関東自動車整備

○ 関東バス旅行社

みちのりグループ

車両数(他) 6編成14両(鉄道) 7台(タクシー) 1隻(遊覧船)

会津バスグループ

203台

○ 会津乗合自動車

○ 会津トラベルサービス

○ ATS保険サービス

○ あいづスタッフ

458人

111台(タクシー)

○ 茨城交通

○ ひたちなか海浜鉄道

(49%出資、持分法適用会社)

湘南モノレール

103人

7編成21両(鉄道)

92%出資

1,829台

合計

3,589人

Page 31: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

労働生産性対米比(1980~2010年)

ドル

非製造業の労働生産性の国際比較

- 30 -

労働生産性水準(1980~2010年)

ドル

出所:経済産業省「通商白書2013」

日本の生産性は、米国の5割程度にとどまっており、欧米諸国(独、仏、英)と比較しても低水準となっている

27.6

51.2

44.8

39.034.8

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

55

60

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010

日本 米国 英国ドイツ フランス

53.9

100.0

87.6

76.267.9

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

110

120

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010

日本 フランス米国 英国ドイツ

Page 32: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

- 31 -

労働生産性水準(対米日)と就業者シェア

出所:経済産業省作成資料より

Page 33: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved - 32 -

主要国の開業率国際比較

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

18%

20%

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

開業率日本

USA

UK

ドイツ

フランス

出所:日本:法務省登記統計、国税庁「国税庁統計年報書」より算出

アメリカ:U.S. Business Dynamics Statistics

イギリス:Office for National Statistics「Business Demography」

ドイツ:Statistisches Bundesamt

フランス:2014年中小企業白書

Page 34: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved - 33 -

主要国の廃業率国際比較

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

廃業率日本

USA

UK

ドイツ

フランス

出所:日本:法務省登記統計、国税庁「国税庁統計年報書」より算出

アメリカ:U.S. Business Dynamics Statistics

イギリス:Office for National Statistics「Business Demography」

ドイツ:Statistisches Bundesamt

フランス:2014年中小企業白書

Page 35: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

GとLの成長戦略の枠組

戦略① L型産業の労働生産性と賃金向上(サービス産業、農林水産業の高付加価値化and/or業務効率改善)戦略② G型産業の拡大(グローバル大企業の地方誘致、「隠れたチャンピオン」企業育成、プレミアム特産品

の育成等)戦略③ GとLのシナジー追求(G→L:訪日観光客の地方への取り込み、L→G:地域で生まれた新サービス、新商品、ベンチャー企業のグローバル展開、G&L:AI, IoT, BD革命の果実でイノベーション実現)

L型の産業

小売、卸売、物流、公共交通、宿泊、外食、医療、介護、保育、農林水産業の大半

G型の産業

製造業

IT産業

プレミアム特産品

戦略①

労働生産性(≒

就労人口数

付加価値生産

投入労働時間≒賃金)

戦略②

戦略③

- 34 -

企業統治改革のさらなる拡充 新陳代謝を促す企業法制整備

Page 36: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

IGPI All Rights Reserved

Lの世界の企業法制・税制のテーマ(例)

個人保証のさらなる制限

転廃業促進に関わる補助金

第二創業促進補助金に「廃業」も加える

オーナー企業の株式相続課税の労働生産性、賃金水準基準による税率緩和

銀行法の規制緩和

「廃業」も単独出資を認める特定子会社に追加する(主体要件を緩和し単独保有期間に2年間ほどの制限を入れる)

ベンチャー・キャピタルの投資契約書における、ベンチャー・キャピタルからベンチャー企業や経営者に対する株式買取請求条項の禁止

- 35 -

Page 37: 我が国の企業統治改革、企業法制改革のリアルな課題 · 企業統治を強化すると、 短期指向の株主に長期指向の経営者が振り回される?

ご清聴ありがとうございました