古地磁気年代測定法の考古学・人類学への応用富 山 大 学 理 学 部 酒 井 英 男

（１）古地磁気年代測定古 地 磁 気 年 代 測 定 法 の 原 理 は 、 鉄 の 酸 化 鉱 物 が 磁 石 に な る （ 磁 化 す る ） 性 質 を 持 つ

ことを利用する。そうした磁性鉱物を重量で数Ｘ含む遺構の土壌は窯等で焼成を受けると 冷 却 の 際 に 地 球 の 磁 場 方 向 に 熱 残 留 磁 化 と 呼 ば れ る 磁 化 を 獲 得 す る 。 磁 化 の 方 向 と地磁気永年変動を比較して焼土の年代を決める。窯だけでなく焼成を受けた土壌であれば年代測定の対象となる。日本ではＨｉｒｏｏｋａ

（１９７１）により西南日本、特に近畿地域の窯焼土から詳細な地磁気方位の永年変動が調べられ、これを利用して焼土の年代測定はかなりの精度で行われている（広岡、１９８８）。最近は、瀬戸地域や北陸地域におけるテ一夕の蓄積から地磁気方位の永年変動には地域に よる 違 い が あ る こ と が 示 唆 さ れ る 様 に な って お り 、 地 域 差 を 考 慮 して さ ら に 精 度 の良い永年変化曲線の作製が考えられている。地磁気は方向（偏角と伏角）とともに

強 さ も 変 化 す る 。 焼 土 や 遺 物 の 磁 化 は焼成時に地磁気の方向だけでなく強さも記憶した磁化となっている。図１は磁化の解析から調べられた日本の過去２０００年間の地 磁 気 変 動 を 示 す。 地 磁 気 強 度 も 古 地 磁 気年 代 測 定 の 手 段 と な る が 地 磁 気 変 動 の 標 準曲線のもとになるドータ数は充分でなく地 磁 気 方 向 の 年 代 測 定 の 標 準 曲 線 に 比 べ て信 頼 度 は 落 ち る 。 今 後 の 研 究 で 詳 細 な地 磁 気 強 度 の 変 化 が 求 め ら れ る と 地 磁 気方 向 と 強 度 を 併 用 し た 古 地 磁 気 年 代 測 定 が可能となる。

（２）考古地震や火山噴火の古地磁気年代測定地 磁 気 の 永 年 変 動 を 利 用 し た 年 代 測 定 は

焼 土 以 外 で も 試 み ら れて い る 。 例 え ば 地 震断 層 の 過 去 の 活 動 年 代 も 研 究 対 象 と な っている。断層周辺の土壌は断層活動の際に水が関与して流動するなどのフ’ロセスで再帯磁する性質がある（酒井・広岡、１９８３）。

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図 １ ： 日 本 の 過 去 ２ ０ ０ ０ 年 間 の 地 磁 気 変 動 。方向は１１１ｒ（）ｏｋａ（１９７１）に基づく。強度はＳａｋａｉ（１９８０）による。

こ の 再 磁 化 の 方 向 を 地 磁 気 永 年 変 化 と 比 較 す る こ と で 断 層 の 最 終 活 動 年 代 が 推 測 で きる。例えば、岐阜県と富山県境に位置する跡津川断層のトレンチ発掘調査の際に手法が試

みられ、１８５８年の安政の飛騨地震時の再帯磁が図２の様にうまく捉えられている（酒井・広岡；１９８３、竹内・酒井；１９８５）。最近、伊藤（ｉｎｐｒｅｓｓ）は柳ケ瀬断層の噴砂を利

用して１３００年代前半の古地震の調査を試みている。ま た 、 古 文 書 に 火 山 被 害 の 記 録 が あ る 火 山 活 動 が 起 き た か ど う か 、 火 山 被 害 が 及 ん

だ地域の検討にも地磁気永年変化は利用できる。火山砕屑物（火砕流中の角牒など）の磁化を利用して、例えば１４Ｃ年代で推測された焼岳の１５００-２０００年の大規模火砕流（酒井ほか、１９９３）や古文書にある那須茶臼岳の１４１０年の活動（里見ほか準備中）が検討されている。

古地震による再磁化

「１３Ｓｒｃ・ｉｎｎｌｌのスケシず・（左）と政町殿化測竃結吸（む）サンプリンク・のｉ城（｜-４）と訓・七紹吸を・ぬわす印は次の陥｜こ対応すろ．▲：１，●◇：２，●：３，嶺：４

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図４再・磁試１１の平均ｌ化方向（瓜丸）と過去２０（ｘ）年岡の岫ｌ気水年変化

図２：跡津川断層で試みられた古地震の年代推定の例。

（２）より古い時代への応用２０００年より古い時代の地磁気永年変動はもとになるテ一タの質量が十分でなく年痔測

定 に 利 用 で き る 標 準 変 動 は 得 ら れて い な い 。 考 古 学 の 試 料 だ け で な く 堆 積 物 や 火 山 岩を利用して地磁気変動が調査されている段階である。更に古くなり数十万年の原人の時代の議論では地磁気の逆転が利用できる。

５８９

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図３：インド洋の海洋底でｒ-リンク’された堆積物から求めた地磁気逆転パ夕りく１；ａｋａｉ＆Ｋｅａｔｉｎｇ、１９９１）。極性の黒は現在と同じ正磁極期、白は逆磁極期を示す。

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地 磁 気 逆 転 の ６ ０ ０ 万 年 前 ま で の パ タ ーン は か な り 決 め ら れ て い る （ 例 え ば 図 ３ ） 。 地 磁 気 逆

転 史 を 利 用 す る と こ の 時 代 の 地 層 の 年 代 測 定 が 行 え る 。Ｈｙｏｄｏｅｔａｌ．（１９９３）はＳ／）ワにおいて堆積層の磁化調査を行い、松山地磁気逆転期

（７３～２４９万年前）やその間にあるオルドウ）イ正磁極イヘ丿ト（９１-９８万年前）を利用して、Ｓ／゛ャワ原人の時代を論じている。また広岡ほか（１９９３）は、宮城県高森旧石器遺跡での石

器 出 土 層 の 時 代 を 数 十 万 年 ま で に 何 度 か 起 き て い る 地 磁 気 エ ク ス カ リ ョ ン を 用 い て 論 じ て い

る。

（３）地磁気強度どＣ年代成層圏での１４Ｃの生成量は地球への宇宙線船の浸透の度合に左右される。地磁気強度

の変動に伴う磁気圏の大きさの変動が９Ｃ生成量に影響することが以前から議論されている（例えば１１ａｓｅｇａｗａ、１９７７のまとめ）。地磁気の強弱’と１４Ｃ生成量の増減は逆相関が考えられ、地磁気が弱いと１４Ｃの生成量が増加して初期濃度が高くなるので絶対年代より１４Ｃ年代が新しく出るとの考えがある。Ｍｉｏｎｏ＆Ｏｈｔａ（１９７９）は縄文土器のＴＬ年代を同土器形式の１４Ｃ年代と比較して、縄文前期から後期にかける９Ｃ年代がＴＬ年代より若く出る傾向を示唆している。縄文土器から得た地磁気強度は現在より確かに弱い（図４）。

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，，ｂｙａｎｏｔｈｅｒｍｅｔｈｏｄｓ図５：１３ａｒｂｅｔｔｉ＆Ｆｌｕｄ（，（１９７９）による数万年前の

１ ４ Ｃ 法 年 代 と そ の 他 の 手 法 に よ る 年 代 の 比 較 。

タ ン ｉ ’ Å 装 置 の 活 躍 に よ り 数 万 年 前 の “ ｃ 年 代 が 年 代 研 究 の タ ー ゲ ッ ト と な っ て き た が 上 述の論理で、この時代の地磁気強度は興味が持たれる。Ｂａｒｂｅｔｔｉ＆１７１ｕｄｅ（１９７９）は、数

万 年 前 の １ ４ Ｃ 年 代 は Ｔ Ｌ 法 や 他 の 手 法 に よ る 年 代 と 比 較 す る と 数 千 年 新 し く 出 る 場 合 が ある と 示 唆 し て い る （ 図 ５ ） 。 同 時 代 の 地 磁 気 強 度 は 確 か に 弱 い 傾 向 に あ る （ 図 ６ ； 酒 井 、 １

図４：１４Ｃ生成量の変動と地磁気強度の変動

１；；ｌｋａｉ（１９８０）

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９９１）。今後、地磁気強度の変動が詳しく分かれば数万年を対象とした１４Ｃ年代法の研究にも貢献できるかも知れない。

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年代（１０００ｙｒＢ．Ｐ．）

図６：１４万年間の地磁気強度の変動。

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参 考 文 献

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ＰａｌｅｏｍａｇｎｅｔｌｃｄａｔｌｎｇｆｏｒｔｈｅｏｂｊｅｃｔｓｏｆＡｒｃｈａｅｏｌｏｇｙａｎｄＡｎｔｈｒｏｐｏｌｏｇｙ

ＨｌｄｅｏＳＡＫＡＩ

Ｄｅｐｔ．ＥａｒｔｈＳｃｌｅｎｃｅｓ，Ｔｏｙａｍａｕｎｌｖｅｒｓｌｔｙ

ＡＢＳＴＲＡＣＴ

Ｇｅｏｍａｇｎｅｔｌｃｆｌｅｌｄｃｈａｎｇｅｓｉｔｓｄｌｒｅｃｔｉｏｎａｎｄｓｔｒｅｎｇｔｈｗｌｔｈｔｉｍｅ．Ｔｈｅ

ｄｌｒｅｃｔｌｏｎａｌｃｈａｎｇｅｏｆｇｅｏｍａｇｎｅｔｌｃｆｉｅｌｄｄｕｒｌｎｇｔｈｅｐａｓｔ２０００ｙｅａｒｓｉｓ

ｌｎｖｅｓｔｌｇａｔｅｄｂｙＨｌｒｏｏｋａ（１９７１）ｆｒｏｍｔｈｅｐａｌｅｏｍａｇｎｅｔｌｃｓｔｕｄｙｏｎａｎｃｉｅｎｔ

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ａｒｃｈａｅｏｌｏｇｌｃａｌｏｂＪｅｃｔｓｂｅｃｏｍｅｓｐｏｓｓｌｂｌｅｂｙｃｏｍｐａｒｌｎｇｔｈｅｍａｇｎｅｔｉｚａｔｉｏｎ

ｏｆｔｈｅｍｗｌｔｈｔｈｅｓｅｃｕｌａｒｖａｒｌａｔｌｏｎｃｕｒｖｅ。

Ｔｈｌｓｐａｌｅｏｍａｇｎｅｔｌｃｄａｔｌｎｇｍｅｔｈｏｄｌｓａｌｓｏａｐｐｌｉｃａｂｌｅｔｏｄａｔｅｔｈｅｐａｓｔ

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ｅａｒｔｈｑｕａｋｅａｔＡｔｏｔｓｕｇａｗａｆａｕｌｔｌｎ１８５８ｂｙｕｓｌｎｇｔｈｅｍａｇｎｅｔｉｚａｔｉｏｎｏｆｔｈｅ

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（Ｓａｋａｌ，１９８０）．Ｔｈｅｒｅｌｓａｐｏｓｓｌｂ１１１ｔｙｔｈａｔｔｈｅｖａｒｌａｔｌｏｎｌｎｇｅｏｍａｇｎｅｔｌｃ

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