「味の素ファン」の拡大に向け 『u-cloud 』を基盤に 食のコミュ … ·...

12
味の素様 Case Study 1 「味の素ファン」の拡大に向け 『U-Cloud ® 』を基盤に 食のコミュニティサイトを構築。 12 Club Unisys + PLUS VOL.38

Upload: others

Post on 21-May-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

味の素様

CaseStudy1

「味の素ファン」の拡大に向け『U-Cloud®』を基盤に食のコミュニティサイトを構築。

12Club Unisys + PLUS VOL.38

 

世界初のうま味調味料「味の素®」

の開発を端緒に、1世紀にわたる

歴史を積み重ねてきた味の素様

は、現在では「グローバル健康貢献

企業グループ」をビジョンに掲げ、

調味料事業を中核とした家庭用

食品から、健康食品・医療用食品、

さらには医薬品・化粧品まで、幅広

い事業を展開しています。

 

早くからメディア戦略を重視し

てきた同社は、2000年に業界初

となるレシピサイトを立ち上げ、

大きな注目を集めました。その後、

各社がレシピサイトを通じた消費

者とのコミュニケーションを強化す

るなかで、同社はサイトの全面的

なリニューアルを実施。日本最大級

の双方向型食コミュニティサイトと

して新たなスタートを切るにあた

り、日本ユニシスのクラウドサービス

『U-Cloud

®

』を採用しました。

 

昆布だしの味わいが、アミノ酸の一種

であるグルタミン酸に由来することが

発見され、「うま味」と名づけられたの

は1908年(明治41年)のこと。この

成分を原料に、世界で初めてうま味調

味料の製法を確立したことが、味の素

様の100年に及ぶ歴史のスタートで

した。以来、同社はアミノ酸の可能性を

探求するなかで、食品、アミノサイエン

ス、そして医薬・健康の3分野において、

各分野が相互に連携しながら事業領域

を拡大し、今や世界でも類を見ない「グ

ローバル健康貢献企業グループ」へと発

展しています。

 

早くから新聞・雑誌広告やテレビCM

などのメディア戦略を重視してきた同

社は、インターネットが普及し始めた

1996年に、いち早くコーポレートサ

イトを開設。さらに、2000年には同

社の調味料を用いた調理法を紹介する

レシピサイト「レシピ大百科®

」を業界

に先駆けて立ち上げました。

 

こうした同社のメディア展開につい

て、執行役員である品田英明氏が語り

ます。

「当社の商品は、『味の素®

』であれ『ほん

だし®

』であれ、過去に例のない画期的

なものでしたので、お客様にお買い求め

いただくには、まずそれらの調味料を

用いてどんな料理ができるのかを、ご

理解いただく必要がありました。そのた

め、創業当初から婦人雑誌に広告記事

を掲載したり、料理本を出版したりと

PR活動に注力し、その後もテレビ放

送がスタートすればテレビCM、インター

ネットが登場すればWebサイトと、常

にメディアを活用して情報発信に努め

てきました。なかでも『レシピ大百科®

は、レシピサイトの草分けとして、大き

な反響を集めました」

 

同社が長い歴史のなかで培ってきた

約1万のメニューを紹介する「レシピ大

百科®」は、多くのアクセスを集め、会員

数は当初の1万人から増加を続け、現

在では60万人を突破しています。

 

開設から10年以上を経ても、変わら

ず多くのアクセスを集めていた「レシピ

Webならではの双方向型

コミュニケーションをめざし、

レシピサイトを刷新

積極的なメディア展開で

独創的な商品の魅力を発信

執行役員食品事業本部 家庭用事業部長

品田 英明 氏食品事業本部 家庭用事業部品質・広報グループ長

津布久 孝子 氏食品事業本部 家庭用事業部販売マーケティンググループ専任課長

高橋 清仁 氏

PROFILE

味の素株式会社創業設立所在地資本金従業員数事業内容

1909年5月1925年12月東京都中央区京橋1-15-179,863百万円単体3,300名/連結28,245名調味料、加工食品、アミノ酸、化成品などの製造・販売

NRIシステムテクノ株式会社システムソリューションセンター 戦略企画グループ

長岡 裕之 氏

13 Club Unisys + PLUS VOL.38

大百科®

」でしたが、品田氏をはじめと

した関係者の間には「このままではいけ

ない」という危機感があったといいます。

「開設当初はレシピサイト自体が目新し

かったこともあり、マスコミにも大きく採

り上げられ、当社商品の売上拡大に貢

献しました。しかし、その後、他の食品会

社もそれぞれ工夫を凝らしたレシピサイ

トを開設し、加えて近年では食品ネット

通販やポータルサイトなども含めて、ま

すます競争が激しくなってきました。当

社サイトはいち早く立ち上げただけに、

それらサイトと比較して、”物足りなさ“

を感じる部分もありました」と語るの

は、レシピサイトの運営を担う品質・広

報グループ長の津布久孝子氏です。

「当社サイトに欠けていたのは、コミュニ

ケーションの”双方向性“でした。Web

サイトには、雑誌広告やテレビCMなど

他のメディアと異なり、当社からの一方

的な情報提供だけでなく、当社とお客

様、あるいはお客様同士の対話を可能

にするという特性があります。こうした

双方向性コミュニケーションこそがWeb

サイトの真価といえますが、それも

Webを通じたコミュニケーションが成熟

してきた今だからこそいえること。当社

は、残念ながら、そこまでWebサイトの

特性を活かし切れていませんでした。競

合各社がレシピサイトを双方向コミュニ

ケーションの場として積極的に活用す

るなか、当社でも双方向型サイトへの刷

新を検討する声が上がってきたのは当

然のことといえるでしょう」(津布久氏)

 

既存のレシピサイトから双方向コミュ

ニティサイトへの進化を実現するために

は、アクセス数やコメントの増加に対応

するためのサーバの増設・改修が欠かせ

ません。ところが、同社には容易にシス

テム更改に踏み切れない背景がありま

した。レシピサイトはコーポレートサイ

ト、そして数多くのブランドごとのPR

サイトも含めて、社内の大規模サーバで

一括管理・運営しているため、システムの

刷新には多大な業務負荷とコスト負担

がともなったのです。

「しかし、お客様とのより良いコミュニ

ケーションを実現するためには、思い

切った改革が必要だという現場の熱意

が実を結び、2010年12月にレシピ

サイトの全面的なリニューアルが決定。

プロジェクトチームが発足しました」(津

布久氏)

「プロジェクトチームは、レシピサイトの

運営を担ってきた食品事業本部のメン

リニューアルのコンセプトは

”お客様に寄り添う“サイト

DNSサーバ(逆引き)

Web検証 A業務Web

管理サーバ

DNSサーバ(正引き)

CDNサービス

B業務Web

DB検証 A業務DB

C業務DB(マスタ)

C業務DB(スレーブ)

B業務DB

データバックアップ

データバックアップ

データバックアップ

IDC内データストア

IDC外データストア

Webサーバを負荷分散することでパフォーマンス維持

セグメント4にDBを隠蔽することでセキュリティ確保

データセンター内と外部サイトの2重に置くことでデータ保証

大量送付するメールセグメントを独立させることでパフォーマンス維持

管理サーバ

メール配信サーバ

「AJINOMOTO PARK」のシステム概要図

日本ユニシスデータセンター

専用セグメント1 専用セグメント4

専用セグメント2 専用セグメント3

お客様

他社サービス

味の素データセンター

味の素様Case Study 1

14Club Unisys + PLUS VOL.38

バーだけでなく、広報部やお客様相談

室、情報企画部、そして当社グループの

システム開発を担うNRIシステムテク

ノ社も含め、まさに全社一丸となった体

制でスタートしました」と語るのは、津

布久氏とともにプロジェクトチームの事

務局を務めた販売マーケティンググルー

プ専任課長の高橋清仁氏です。

「プロジェクトは、リニューアルにあたって

の目標とコンセプトを明確化すること

からスタートしました。活発な討議を重

ねるなかで、レシピ情報の提供によって、

お客様の食生活の充実に貢献すること

で『味の素ファンづくり』につなげるとい

う目標を設定し、その実現に向けて”お

客様に寄り添う“サイトというコンセプ

トを固めました」(高橋氏)

 

このコンセプトのもと、プロジェクト

チームのメンバーは1年後のリニューアル

オープンをめざして、具体的なコンテン

ツの検討や解決すべきシステム上の課

題抽出に取り組みました。

「レシピサイトは、お昼前や夕方など調

理時間に、瞬間的にアクセスが増加する

傾向があります。既存サイトでも、サー

バを3台構成にして負荷を分散するよ

うにしていましたが、それでも混雑時に

はサイト内検索の結果表示が遅くなる

など、お客様にストレスを与えかねない

状況でした。また、基本的なシステム設

計が10年以上前のものだけに、最先端

のWeb技術に対応させるためには大が

かりな改修が必要となります。そのた

め、現状のサーバからレシピサイトのみ

を取り出し、新たなサーバ上で運営する

ことを決めたのです」(高橋氏)

 

とはいえ、新たなサーバを構築するに

は相応の業務負荷とコストがかかり、

その負担をいかに抑えるか、アクセスの

集中をどう解決するか、さらには将来

的な会員増にどう対応するか…課題

は山積みでした。これらの課題に対して

「アウトソーシングして、クラウドを活

用する」という解決策を提案したのが、

NRIシステムテクノ社からプロジェクト

チームに参加していた戦略企画グループ

の長岡裕之氏でした。

 

レシピサイトの全面リニューアルにあ

たって、クラウド化というソリューション

を導いた理由について、長岡氏は次のよ

うに語ります。

「今回、私たちが構築をめざしたのは、

豊富なレシピの中から検索システムに

より最適な情報を提供するとともに、

数10万人、将来的には数100万人規

模の会員による双方向的なコミュニケー

ションを実現するサイト。その実現に

は、レシピや会員情報、会員から寄せら

れるコメントや要望など、膨大な情報を

管理できるだけの大規模サーバが必須

となります。しかし、これを自社で所有

しようとすれば、導入・構築に多大なコ

ストと時間を要するだけでなく、以降

の増設・改修にもその都度コスト負担が

かかります。また、導入時には最先端の

システムであっても、いずれITの進歩

とともに陳腐化が避けられず、既存サ

イトの二の舞ということにもなりかねな

いと考えたのです」

効率的かつ機動的な

サイト運営に向けて

クラウドを活用

15 Club Unisys + PLUS VOL.38

 

かねてから独自に情報収集を進めて

きた長岡氏は、「自らサーバを所有する

のでなく、必要に応じて利用する」クラ

ウドこそ、これらの課題を解決する最

善の方策だと確信していました。

「クラウドであれば、初期コストを抑えつ

つ、早期の立ち上げが可能なだけでな

く、キャンペーン期間などの一時的なアク

セス集中や、将来的な増設・改修にもタ

イムリーに対応できます。また、クラウ

ドの運営者が常に最新の環境を用意す

るため、陳腐化の心配もありません。今

後、双方向コミュニティサイトとして戦

略的に発展・進化させていくためには、

クラウドを利用するのがベストの選択

だと考えたのです」(長岡氏)

 

長岡氏の提案をふまえて、クラウド

環境を提供するパートナーを選択すべ

く、まずは各社のWebサイトやカタロ

グから情報を収集。そこから選んだ7

社にプロジェクトの概要を伝え、実現可

能性や費用などについて情報提供を依

頼しました。そのうえで、クラウドの性

能や、運用体制の信頼度、セキュリティ、

価格などをトータルに評価し、2社に絞

り込みました。

 

この両者に具体的な要望をまとめた

RFP(提案依頼書)を示し、それぞれ

の提案を比較検討した結果、日本ユニ

シスの『U

-Cloud

®

』の採用が決定しま

した。

 

日本ユニシスをパートナーに選んだ理

由を「コストメリットが大きかったから」

と長岡氏は語ります。

「といっても、単に他社よりも低価格だっ

たというのではなく、サイト構造や管理

すべき情報内容などを詳細に把握した

うえで、もっとも効率的なサーバ構成を

検討してもらった結果、初期費用を軽

減できたのです。数度にわたる提案のな

かで、こうした実績と技術に裏づけられ

た提案が随所に見られたことで、次第に

パートナーとしての信頼感を抱くように

なりました。こちらがやりたいことをお

伝えすれば、日本ユニシスさんがシステム

として具現化してくれる

―そう確信

できたことが、パートナー選定の最大の

ポイントだったと言えます」(長岡氏)

 

同じく選定にあたった津布久氏と高

橋氏も、それぞれの視点から評価の理

由を語ります。

「会員制のコミュニティサイトとして運

営するわけですから、個人情報のセキュ

リティには万全を期す必要があります。

このため当社では、ハッキング防止シス

テムなど、既存サイトと同様の信頼度

の高いセキュリティシステムに強くこだ

わりました。実は、このシステムはかな

り特殊なものだったようで、候補にあ

がった企業の多くは『当社のクラウドで

は対応できない』との回答でした。その

点、日本ユニシスさんは個人情報保護に

対する当社のこだわりに理解を示し、

柔軟に対応していただけました。そこも

評価が高かったポイントですね」(津布

久氏)

「東日本大震災を経験しただけに、個

人的には万一の天災に対するBCPや

ディザスターリカバリーの視点を重視し

ていました。日本ユニシスさんのデータセ

ンターを見学した際、優れた耐震性やセ

キュリティに感心させられましたが、加

えて大阪にもバックアップ機能を有する

など、クラウド大手ならではの万全の

体制に、これなら安心してお任せできる

と確信できました」(高橋氏)

豊富な実績と技術に

裏づけられた信頼感が

パートナー選定の決め手

味の素様Case Study 1

16Club Unisys + PLUS VOL.38

 

こうして、2012年7月、日本最

大級の双方向型食コミュニティサイト

「AJINOMOTO

PARK

」がオープン。

一人ひとりに最適なレシピをおすすめす

るレシピレコメンド機能などの新機能を

搭載した「レシピ大百科®」を中核に、食

に関するコミュニティ「みんなとごはん」、

多種多様な情報を発信する「社員のつ

ぶやきリレー」、各種のキャンペーン情報

を集約した「キャンペーン」など、豊富な

コンテンツでお客様とのより自由で活

発なコミュニケーションを実現する、まさ

に”お客様に寄り添うサイト“となり、お

客様の反応も上々だといいます。

「既存の『C

LUB

AJINOMOTO

』会員

60万人を対象に先行体験を実施した

ところ、2週間で早くも4万人の会

員がコミュニティにログインしていただ

けました。今後は2017年までに

300万人の会員獲得をめざすとと

もに、会員のログイン率を高めるべく、

よりアクションを起こしやすいような仕

掛けを考えていきたいと考えています」

(津布久氏)

 

また、課題となっていたアクセス集中

の問題についても、クラウド環境に変更

したことで大きく改善されました。

「お昼前や夕方などのアクセス集中時に

も検索速度が落ちることはなくなり、

ほっとしています。また、会員向けのメー

ル配信も、従来は一斉送信が完了する

まで丸1日かかっていたものが、数時間

程度で送信が完了するようになりまし

た。おかげで配信のタイムラグもなくな

り、運営側の負担が大きく軽減されま

した」(高橋氏)

 

もちろん、サイト刷新の最大の目的

であった双方向コミュニケーションの強

化についても、満足できる成果が上がっ

ているといいます。

「これまで見えづらかったお客様一人ひ

とりのご意見やご感想を『グッド!』や

コメントといった形で知ることができ、コ

ミュニケーションの充実につながっていま

す。こうしたコミュニケーションを、より

良い商品づくり、会社づくりに活かして

いくことで、多くの方々に味の素ファン

になっていただきたいと考えています。そ

のためには、今後もWebサイトに限ら

ず、さまざまな側面からITを活用す

る必要がありますので、日本ユニシスさ

んには、引き続きITパートナーとして、

私たちの想いやアイディアを具現化する

ような提案をいただければと思っていま

す」(品田氏)

「味の素ファン」の拡大に向けて

IT領域における

さらなる提案に期待

日々の営業活動のなかではお客様から

さまざまなご要望をいただきますが、どの

ようなご要望であっても適切に対応し、

常に最適解を提供できるように努めて

います。

今回の味の素様の案件においても、

関係部門のスタッフが一丸となって、最

適解を提供する日本ユニシスの“真価”を

発揮できるよう取り組んできました。お客

様からの直接的なご要望にお応えする

のはもちろん、インフラ基盤としての“あ

るべき姿”を構成案として提示するなど、

プラスアルファの提案を盛り込みました。

そうした私たちの努力や創意を評価し

ていただき、感謝のお言葉をいただけた

ことは、心から嬉しく思います。また、プラ

スアルファの提案もさることながら、やはり

誠実に、迅速に対応するといった基本的

な姿勢を徹底したことが、お客様の心に

届いたのではないかと考えています。

「AJINOMOTO PARK」を運営する

ためのシステム基盤の提供だけでなく、同

サイトを機軸に「全世界の味の素ファンを

増やしたい」というお客様のコンセプト実現

に貢献できるよう、今後も積極的な提案

活動を続けていきたいと考えています。

営業担当の声

プラスアルファの提案と誠実・迅速な対応で新たな取り組みを進めるお客様に貢献していきます。

Voice

製造工業事業部営業一部 第3プロジェクト担当マネージャー

八千代 友和

17 Club Unisys + PLUS VOL.38

特定非営利活動法人佐渡地域医療連携推進協議会様

CaseStudy2

100を超える医療・福祉関連施設の連携をめざした地域医療連携システムを構築し、佐渡島における医療レベルの維持を図る。

18Club Unisys + PLUS VOL.38

 

新潟県の佐渡島で、日本の医療

関係者が注目するネットワーク構築

が進んでいます。それが、佐渡地域

医療連携推進協議会様が2013

年4月の稼働に向けて取り組んで

いる「さどひまわりネット」です。稼働

後は、島内の医療・福祉関連施設を

ネットワークで結び、患者の医療情

報や介護情報を共有・活用する、

日本では前例のない地域医療連携

ネットワークとなります。

 

日本ユニシスは、このプロジェクト

に開発ベンダとして参画。「島内の

医療資源を最大限に活用し、島の

医療レベルを維持する」という同協

議会の先進的な取り組みをサポート

しています。

 

2008年度の統計データによる

と、佐渡島は、高齢化率が36%と全国

平均の22%を上回り、高齢者単身世帯

割合は13%(全国平均8%)、高齢者が

いる世帯割合も2005年の時点で

62%(全国平均35%)と、超高齢社会を

迎えています。

 

また、人口10万人あたりの医療資源に

目を向けると、登録医師数は134・6

人で全国平均の6割に満たず、登録診

療所数も全国平均の8割弱。看護師不

足も顕在化し、医療資源の不足が深刻

な課題となっています。

「島民の高齢化がますます進む一方

で、医師や看護師が増える見込みはな

く、島の医療レベルを維持するためには

抜本的な対策が必要です。そうした危

機感があって10年ほど前から島内の医

療関係者が参加する勉強会で『医療

ネットワーク構想』を紹介してきまし

た」と語るのは、佐渡地域医療連携推

進協議会の理事で、島の中核病院であ

る佐渡総合病院の外科部長を務める

佐藤賢治氏です。

 

佐藤氏は、医療ネットワークを病院

や診療所、歯科診療所、調剤薬局、介

護福祉関連施設まで拡げ、島内にある

医療施設を1つの医療機関のように機

能させる『仮想”佐渡島病院“』の実現

をめざしています。これは、日本では前

例のない大規模な地域医療連携ネット

ワークです。

「少ない医療資源で今後も医療水準を

維持し続けていくための答えは、これし

かありませんでした。また、こうしたネッ

トワークの構築により、”一人が10人診る

より二人で20人診る“ことで医療従事

者の負担を軽減しつつ安全性・確実性

を高めることができると考えたのです」

(佐藤氏)

 

その後、佐藤氏は島内で開催される

さまざまなシンポジウムなどで地域

医療連携ネットワークの必要性と有用

性を説明し、実現に向けた活動を精力

的に続けました。そうした取り組みは島

内の医療従事者へと拡がり、2009年

度には佐渡医師会中心となって「地域

医療連携ネットワークの構築」計画を

策定し、厚生労働省の「地域医療再生

基金」に応募。基金適用が決定し、プロ

ジェクトが開始されたのです。そして、

ネットワークの構築から運営の全般を

担当する事業推進組織として、島内の

医師会、歯科医師会、各病院、佐渡市の

島民の高齢化と医療資源の不足が

深刻な課題に

佐渡地域医療連携推進協議会 理事

佐渡地域医療連携ネットワークシステム検討委員会 委員長

新潟県厚生連佐渡総合病院 外科部長

佐藤 賢治 氏

PROFILE

特定非営利活動法人佐渡地域医療連携推進協議会設立認証

所在地組織の目的

2012年9月(前身団体設立/2009年)新潟県佐渡市千種161佐渡地域における医療、介護、及び福祉施設等に対して、各施設間の相互連携、患者情報の共有に関する事業を行い、佐渡島内の医療体制の充実に寄与する

19 Club Unisys + PLUS VOL.38

代表者を理事に、同協議会が設立され

ました。

 

同協議会では、地域医療連携ネット

ワークの構築にあたって主に3つの目

標を設定しました。1つ目の目標は、

「参加するすべての施設で情報の提供

と参照が可能な双方向システムとする」

こと。地域医療連携ネットワークは、島

内の医療関連施設が互いに情報を共有

し、活用することが構想の基本となって

いるからです。

 

2つ目の目標は「ネットワークへの参

加を促進するため、参加施設の業務負

荷とコスト負担を可能な限り抑える」

ことです。新たな業務負荷や費用負担

が発生するのでは、ネットワークへの参

加意欲を低下させてしまいます。そこ

で、とくに医療機関には、電子カルテな

ど新たなシステムの導入を求めること

なく、施設が従来から利用しているシス

テムや機器から必要な医療情報を自動

で取得するといった負担の少ない仕組

みを整備することとしました。

 

そして、3つ目の目標が「島民にメ

リットがわかりやすく、情報共有に多

くの人から同意してもらえるシステム

とする」こと。参加施設の数と同様、医

療・介護情報の共有に同意する患者の

数を確保できて初めて地域医療連携

ネットワークとしての機能を発揮する

ことができるからです。

 

これらの目標を実現するネットワーク

システムを構築するために、同協議会

では1年をかけて詳細な要件定義書を

作成し、ITベンタに提案を依頼。その

結果、2012年3月に開発パートナー

として日本ユニシスが選定されました。

 

日本ユニシスが評価を受けた最大の

ポイントは、同協議会から提示された

要件をすべて網羅し、要件1つひとつに

ついて根拠を示して実現に向けた具体

的な方策を提案したことでした。また、

医師など実際のシステム利用者も高齢

双方向システムで

医療施設も島民も参加しやすい

地域医療連携システムを

さどひまわりネット データ参照・更新

データ集約

さどひまわりネットの概要図

病院 介護施設

調剤薬局

医療情報

診療所

病院

診療所

検診センタ

検査会社

調剤薬局

在宅

患者情報

予約情報

コミュニケーション情報

特定非営利活動法人佐渡地域医療連携推進協議会様Case Study 2

20Club Unisys + PLUS VOL.38

化が進んでおり、ICTシステムに対す

る知見や習熟度が高くないことを考慮

し、操作が容易で閲覧性に優れたユー

ザインタフェースを提案するとともに、

事業継続の観点から保守・運用コスト

を抑えながら安定したシステム稼働が

可能な内容であったことも高い評価を

得ました。

「私たちがめざす姿をよく理解してく

れて、もっとも納得できて、信頼できる

提案をいただいたのが、日本ユニシスさん

でした。多くの島民、そして医療関連

施設に参加を呼び掛ける新しい試みで

すが、日本ユニシスさんであれば安心して

お任せできると評価しました」(佐藤氏)

 

日本ユニシスは、パートナー選定後す

ぐに2012年4月から開発をスター

トし、同年10月までに開発工程を完了。

『仮想”佐渡島病院“』として始まった

佐渡島の地域医療連携ネットワークは、

一般公募による「さどひまわりネット」

の愛称を得て、現在、2013年4月の

稼働に向けて最終段階の調整が進んで

います。

 「さどひまわりネット」は、同協議会が

目標に定めたとおりの双方向性を実現

するとともに、安全で安心なネットワー

クシステムとして運用できるよう、県内

長岡にあるデータセンターを活用した

クラウドシステムとなっています。また、

ネットワーク経由で参加施設のシステム

や機器から1日1回の情報自動取得

を行い、医療従事者の業務フローを一切

変更しない理想的なシステムを実現し

ています。収集された情報は取得段階

で同意チェックが行われ、情報共有に

同意した患者の分のみがデータベースに

保存されます。

 

ここまでの取り組みを振り返り、佐藤

氏は「論理設計段階で十分なレビュー

時間を取り、実現したい機能はすべて網

羅したつもりです」と語ります。

「なかでも、時間をかけたのは操作画面

の設計です。すべての利用者が使いやす

いシステムの実現をめざして260にの

ぼる画面のボタン配置やネーミングな

どを細かく検討した結果、全画面のレ

ビューに540時間以上を費やしました」

(佐藤氏)

 

また、セキュリティの確保にも時間を

かけて取り組んだといいます。

「医療情報は共有されて初めて活きる

ものですが、その一方で個人情報は、完

全に守られなければなりません。そこ

で、国や自治体が定めた法令やセキュリ

ティガイドラインに準拠するのはもちろ

ん、患者側に情報の取り扱いを示す患者

情報取扱規約、ネットワークを利用する

施設に対する利用規約、さらには協議

会スタッフや運用管理者に対する運用

管理規程も策定し、セキュリティ確保に

万全の体制を構築しました」(佐藤氏)

 

こうしたシステム構築や運用体制の

整備と並行して、同協議会では参加対

象となる100以上の医療・介護福祉

関連施設に向けた説明会を2010年

から開催してきました。地域医療連携

ネットワークの意義や目的、ネットワーク

への参加による各施設のメリット、利用

クラウドを採用した

安全・安心なシステムの構築が

着々と進行中

スムーズな稼働を実現するため

SEが医療施設を戸別訪問し

操作手順を説明

21 Club Unisys + PLUS VOL.38

コストなどを丁寧に紹介し、1つでも多

くの施設に参加してもらうための取り

組みを進めています。現在までに島内施

設100超のうち約6割が「さどひま

わりネット」への参加を表明しており、12

月からは参加準備が整った施設に対し

て順次日本ユニシスの担当SEが訪問。

稼働と同時にスムーズにシステムを利用

できるよう、操作説明などの導入準備

を行う予定です。また、情報共有に同意

した患者の医療情報を2012年10

月分から収集し、データベースに蓄積す

る作業も同時に進めており、稼働時点

で過去6カ月間の情報が共有・利用で

きる環境が整う予定です(収集対象は

一部の病院とする予定)。

 

一方、島民に対しても「さどひまわり

ネット」の必要性を紹介する広報活動

を実施しています。地元ケーブルテレ

ビ局の地域医療連携をテーマにしたシ

リーズ番組の制作に協力し、「さどひま

わりネット」の特徴や患者側のメリット

を紹介するなど、情報共有への理解と

同意を得る活動を積極的に展開して

います。

「基本的に患者さんからの同意取得は、

システム稼働と同時に開始することに

なっていますが、すでに一部の施設では、

先行受付窓口を設置して『さどひまわ

りネット』の紹介と同意書類の受け付

けを始めています。これまでの広報活動

の成果もあって、ほとんどの方が好意的

に受け止め、情報を共有することに同

意していただいています」(佐藤氏)

 

2013年4月に「さどひまわり

ネット」が稼働すると、島内の病院、診

療所、歯科診療所、調剤薬局、介護福

祉関連施設などが患者の医療・介護情

報を共有・活用し、患者に最適な医療

を提供できる環境が実現します。

 

例えば、島内の介護施設を利用する

高齢者の多くは、医療機関に通院して

いる「患者」ですが、「さどひまわりネッ

ト」を通じて介護職員が服薬指導の

情報を閲覧するようになれば、薬物

治療の効果を高めることはもちろん、

日々の服薬状況や健康状態を担当医

にフィードバックすることもできます。

また、長期経過観察が必要となるような

ケースの場合でも、病院または診療所

など状況に応じた医療機関で継続した

治療を提供する、ということも可能に

なります。このように複数の医療関連施

設で患者の情報を共有・活用する「さど

ひまわりネット」は、日本におけるEHR

(エレクトロニック・ヘルス・レコード)の事

例として大きな注目を集めています。

 

また、「さどひまわりネット」の運用が

始まり情報が蓄積されるようになると、

国内ではまれな大規模臨床データベー

スとなり得るため、大学などの研究機

関が実施する臨床研究や疫学調査、医

薬品の有効性・安全性を確認するため

に製薬会社が実施する市販後調査など

にも利用できる可能性があります。

「すでに各方面からさまざまな問い合わ

せが寄せられていますので、蓄積した診

療情報や調剤情報を匿名の情報に加工

して、幅広く社会に役立てていけるよう

な機能も検討しています」(佐藤氏)

日本におけるEHR事例として

注目される

「さどひまわりネット」

特定非営利活動法人佐渡地域医療連携推進協議会様Case Study 2

22Club Unisys + PLUS VOL.38

 

このように、さまざまな効果が期待

される一方で、佐藤氏は今回の取り組

みを通じて新たな課題も明らかになっ

たといいます。それは、標準化に関する

ことで、各施設が保有する種々のシステ

ム・機器から出力されるデータの書式は

その多くが独自規格であり、データ出

力機能すらもたない機器もあります。

これが今回、各施設から収集した医療

情報を一元管理する際の大きなネック

になりました。

「現在、国のレベルでは、個人が自らの健

康情報を管理することで、必要な時に

最適な医療サービスが受けられる『どこ

でもMY病院』構想を掲げていますが、

この実現にも医療情報に対する標準

化は必須条件になってくると思います。

日本ユニシスさんには、今回の開発で得

た知見やスキルを活かして、ぜひ標準化

への取り組みをリードしてほしいと思い

ます」(佐藤氏)

 

また、「さどひまわりネット」は、佐渡

に特化した取り組みではなく、汎用性

を強く意識した地域医療連携ネット

ワークシステムであり、地域医療連携

モデルの1つになり得るものと佐藤氏は

いいます。

「ご承知のように、住民の高齢化や医療

資源の不足という問題は、いま日本の多

くの地域が抱えている問題です。今後

は機器の接続仕様や、積み重ねた実績

とノウハウもオープンにすることで、地

域医療連携ネットワークの可能性を拡

げられれば良いなと考えています。その

時、日本ユニシスさんには地域医療連携

システムの発展に貢献するICTベンダ

の雄として、大いに力を発揮していただ

きたい」(佐藤氏)

 

数カ月後、島内の診察室では、共有さ

れた医療情報をパソコンで見ながら中

核病院と診療所の医師が連携し、患者

に最適な治療を行う姿が見られるはず

です。佐藤氏は「その時を、いまから楽

しみにしています」と語っています。

医療関連業界の標準化と

地域医療連携ネットワークを

推進する力として期待

「さどひまわりネット」は、当初から実現

したい内容が明確になっていましたので、

提案においてはそれをどのように実現する

かを1つひとつ丁寧に説明することに力を

注いできました。そのため、提案書は500

ページを超えるものとなってしまいましたが、

内容を詳細に検討し、評価していただいた

時は、それまでの苦労も吹き飛び、本当に

嬉しく思いました。

開発に入ってからは、実際に操作され

る方々の負担にならないよう、とくに画面

設計は何度も検討を重ねて提案しました

が、どうしてもITベンダ側の思考や設計

が残ってしまう部分もありました。それでも

最終的にシンプルで使いやすい画面がで

きたのは、佐藤先生から現場の視点で的

確な指摘をいただけたのが大きかったと

思います。

現在の目標は、プロジェクトメンバが

一丸となって、来年4月に「さどひまわり

ネット」を無事稼働させ、佐藤先生をはじめ

協議会の皆様の想いに応えること。各施

設で業務に従事する皆様の負担を軽減し、

佐渡全体の医療品質の維持に貢献したい

と思っています。さらに将来、このシステムを

日本の地域医療連携システムのデファクト

スタンダードへと進化させ、他地域の課題

にも応えていきたいと考えています。

営業担当の声

「さどひまわりネット」を起点に地域の医療課題解決に貢献していきます。

Voice

公共サービス事業部ヘルスケアビジネス部第一グループ主任

田中 孝治

23 Club Unisys + PLUS VOL.38