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  • 加古泰一兵庫医科大学 放射線医学講座 助教放射線医学講座 助教

    兵庫医科大学 放射線医学講座加古泰一助教 放射線医学講座 助教

    加古泰一助教 放射線医学講座 助教

    加古泰一助教 放射線医学講座 助教

    加古泰一助教 放射線医学講座 助教

    加古泰一助教 放射線医学講座 助教

    加古泰一助教 放射線医学講座 助教

    タイトルと縦並びの時は上だけに飾りケイ

    タイトルと横並びの時は上下に飾りケイ

    アキは配置状況で適宜決定

    日本赤十字社和歌山医療センター辻岡博美 第二外来(内視鏡センター) 看護師/消化器内視鏡技師山﨑裕子 看護部 副部長兼第二外来(内視鏡センター)看護師長

    赤松拓司 消化器内科 副部長/医師

    ●内視鏡室における看護では患者の表情や言動から,患者の想いに気づくことがとても大切である。

    ●術前・術後訪問は患者の不安や想いを知り,得た情報を医療チームで共有することで患者の安心や周術期の安全につながる。

    ●担当看護師が術前から術後まで継続してかかわることで,看護師のモチベーション向上にもつながる。

    消化器疾患消化器疾患の消化器疾患消化器疾患の

    検査・治療法検査・治療法検査・治療法検査・治療法

    消化器疾患消化器疾患の消化器疾患消化器疾患の

    検査・治療法検査・治療法検査・治療法検査・治療法

    患者に寄り添う内視鏡看護を目指した胃ESD患者への術前・術後訪問の取り組み患者に寄り添う内視鏡看護を目指した胃ESD患者への術前・術後訪問の取り組み

    特集2 内視鏡室に看護あり! 先輩が伝える内視鏡看護のやりがい

     一般的に,看護師の本来の役割は患者の

    個別性に応じた看護を提供することであり,

    その中で患者の心にも触れ,痛みや苦しみ

    を和らげます。一般病棟ではベッドサイド

    で実際に患者と接し,コミュニケーション

    をとりながら患者に応じた看護実践を行っ

    ていることもあり,大変な半面,やりがい

    を感じることも多いものです。一方で,内

    視鏡室における看護師は検査の介助に携わ

    る場面が多く,患者とコミュニケーション

    を図る機会が少ないことなどから,特に一

    般病棟から内視鏡室へ異動となった場合に

    その業務の大きな違いに戸惑い,看護師と

    してのあり方に悩むことも多いと思われます。

     しかし,内視鏡室での業務に慣れてくる

    と,当然ここでも看護師の本来の役割が存

    在することに気が付きます。特に,内視鏡

    手術などを受ける患者に対しては,術中の

    安全に加えて周術期に患者が安心できるよ

    うな看護を行うことが大切です。手術を受

    ける患者に内視鏡室の看護師が継続的にか

    かわることで,症状や想いの変化に寄り添

    うこともできます。

     当センターでは,内視鏡的粘膜下層剝離

    術(endoscopic submucosal resection:

    以下,ESD)の患者に対して,担当する看

    護師が術前・術後訪問を行っています。患

    者と担当看護師がコミュニケーションをと

    り,継続的にかかわることで患者の安心に

    つながる手応えを得ています。加えて,そ

    のような継続看護を行うことが看護師に

    とってもモチベーションアップにつながっ

    ていると考えています。

     本稿では,その取り組みを紹介します。

    内視鏡センターの概要●内視鏡検査室:6室,リカバリー室7床

    ●メディカルスタッフ:医師18人,看護

    72 消化器看護 Vol.24 No.1

  • 師10人(うち消化器内視鏡技師2人)

    ●コメディカル:看護助手2人(兼務),

    受付事務員1人,検査助手1人,内視

    鏡室委託洗浄員3人

    ●主な検査数(2017年):上部消化管内

    視鏡検査15,155件,下部消化管内視

    鏡検査4,455件

    ●ESD件数(2017年):食道38件,胃

    184件(うち一部は手術室で全身麻

    酔下で施行),大腸43件

    ●特色:通常の保険診療に加え,健診の上

    部消化管内視鏡検査が1日30件前後

    あります。当院は許可病床数873床

    を有する特定機能病院であり,高度救

    命救急センターを有する急性期病院で

    す。吐血・血便・異物誤嚥などに対す

    る緊急内視鏡も24時間対応で行って

    います。

    当院で行っている胃ESD術前・術後訪問

    開始した経緯

     病棟勤務から内視鏡室勤務へと異動し,

    業務にも慣れてきたころ,ESDを受ける患

    者は皆とても緊張していて表情が固く,不

    安を感じていることに気が付きました。ま

    た,ESD担当の看護師も,手術の当日まで

    患者と面識がなく,患者情報もカルテから

    得られる情報のみであり,患者の不安や問

    題点の把握が不十分であるため,十分に対

    応できていないのではないかと感じていま

    した。これらの問題を改善するために何が

    できるかスタッフで相談しました。

     ESDを受ける患者に対して,外来では担

    当医師から病名・ESDの内容・偶発症など

    について,また外来看護師から入院までの

    流れなどが説明され,入院後には病棟看護

    師からパス用紙に沿って病棟での注意点な

    どについて説明がされています。しかし,

    内視鏡室での実際の様子や入室後の流れな

    どの説明はありませんでした。

     この点は,内視鏡担当看護師が術前に病

    棟を訪問して患者に説明すること(術前訪

    問)によって,内視鏡室での実際の患者の

    動きや治療中の状況を具体的にイメージで

    きるようになり,情報不足による不安が軽

    減できるのではないかと考えました。ま

    た,担当看護師が事前に患者とコミュニ

    ケーションを図ることによって,面識を得

    ることに加えて患者が抱く不安や疑問を聴

    き支援することで,緊張の緩和や不安の軽

    減につながるのではないかと考えました。

    さらに,術後に患者を訪問してフィード

    バックを得て看護実践を評価すること(術

    後訪問)も大切ではないかと考え,ESDを

    受ける患者に対して術前および術後訪問に

    取り組むことにしました。

    術前訪問

     術前訪問を行うに当たり,まず患者への説

    明用のスライドを作成しました(資料1)。ESDに関する注意点などに加えて,内視鏡

    室の写真や術中の様子の写真も掲載するこ

    とで,患者がイメージしやすいように工夫

    しています。

     術前訪問はESDの前日に行います。訪問

    前に電子カルテで情報収集を行い,術前・

    73消化器看護 Vol.24 No.1

  • 術後訪問用紙(以下,訪問用紙)(資料2)に患者情報を記載した上で訪問します。訪

    問用紙には,アレルギー・義歯・排尿障害

    などの有無,既往歴,皮膚の状態などを確

    認する項目があり,訪問用紙に沿って情報

    を確認します。また,問題点に対して看護

    計画を立案し記載できるようにしています。

     面談室などで,iPadで資料1のスライドを供覧しながら内視鏡室での流れを説明し

    ます。患者の質問にも答え,コミュニケー

    ションを図ります。最後に,スライドの内

    容を記載したパンフレットを渡し,後で読

    んで再確認ができるようにしています。

     術前訪問で得た不安点や問題点を含む情

    報は,訪問用紙に記載するだけではなく病

    棟看護師や医師にも共有できるよう電子カ

    ルテにも記録し,さらに必要な場合は医師

    に口頭でも連絡し対策をとります。また,

    毎朝の看護師カンファレンスで当日のESD

    患者の情報を共有し,ESD直前のブリー

    フィングでも医師と共有し確認を行うよう

    にしています。

     電子カルテからの情報収集・記録は10

    分程度,訪問は10 ~20分程度で行います。

    内視鏡検査の件数が多い日は術前訪問を行

    うタイミングが難しい時もありますが,で

    きるだけ時間を調整して訪問するようにし

    ています。

    胃ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を受けられる患者様へ

    日本赤十字社和歌山医療センター

    内視鏡センター看護師

    手術当日の服装について

    •病院の術衣で下着のみ着用

    •寒い場合は室温調節や上からタオルケットを使用します。

    麻酔が十分効いていることを確認してから手術を始めます

    •全身麻酔ではありませんので手術中に目が覚めることもありますが,心配ありません。(声が聞こえていても大丈夫です)•万が一,痛みを強く感じた時などは右手を挙げるなど合図をしてください。

    左横向きになります(胃カメラ検査と同じ体勢です)

    手術中に身体が動いてしまわないように身体を固定します。

    横になった時痛みや気持ち悪いところがあれば遠慮なく教えてくださいね

    点滴から麻酔の投与を開始します

    冷たいシールを背中にはります

    医師や看護師が近くにいますので安心してくださいね

    資料1 術前訪問で使用する患者への説明用スライド(一部抜粋)

    74 消化器看護 Vol.24 No.1

  • ESD術前訪問

    担当看護師(    )訪問日時(  年  月  日) 訪問実施時間(   )

    ID(       ) 氏名(      )(  )歳  担当医(      )

    病棟(    ) (   号室)

    開始時間(   ~)  所要時間(   )→医師または指示書から情報収集する

    ESD術後訪問

    訪問日時 (    年   月   日)

    ●痛み

    有 (5で評価)(  1   2   3   4   5   )

    痛みはいつ感じたか

    ●手術中の記憶はあるか

    有 → しんどさ(5で評価)(  1  2  3  4  5  )

    •その時気になったことはなかったか

    ●実際に不安はありましたか

    有 (内容)

    【内視鏡室での対応・パンフレット内容など・その他】

    例:プライバシーの配慮,気になったこと,心配なことなど

    アレルギー歴(アルコール綿)

    排尿障害 ※尿道留置カテーテル

    挿入指示の有無

    義歯・動揺歯

    難聴シャント・乳がん・麻痺

    皮膚脆弱

    長時間の同一体位は可能か

    ESD当日待機する方

    化粧・マニキュア・貴金属類

    ※はカルテから情報収集する

    ※既往歴(普段のバイタルサイン

    などを聴取)

    ※抗コリン薬禁忌

    ※抗血栓薬内服

    ※手術経験(ESDなど)

    ※睡眠薬の内服

    質問・不安・その他

    有 ・ 無

    有 ・ 無

    有 ・ 無 (部位           )

    有 ・ 無

    有 ・ 無

    左 ・ 右

    有 ・ 無

    ( ○ ・ × )

     →なぜ×か(             )

    無 心筋梗塞・狭心症・緑内障・前立腺肥大症・

    心房細動

    ペースメーカー□ペースメーカー手帳

    有 ・ 無

    中止〈 有 ・ 無 〉(  月  日)より

       薬剤名・内服理由 〈       〉

    有 ・ 無

    有 ・ 無

    問題となる項目に番号をつける

    番号

    対応策

    結果

    表面

    裏面

    資料2 ESD術前・術後訪問用紙

    75消化器看護 Vol.24 No.1

  • 術後訪問

     術後訪問は,担当看護師がESDの翌日に行

    います。訪問前に電子カルテで術後経過な

    どの情報を収集した後に訪問します。術前

    訪問に使用した訪問用紙(資料2)を術後訪問でも用いるため,術前に立案した看護

    計画とその評価を並べて記載できるように

    しています。また,訪問用紙の裏面には痛

    みや術中の記憶がどの程度あったのか,不

    安の有無などを記載できるようにしていま

    す(資料2)。 これらにより,痛みをいつどのように感

    じたのか,自分が術中に気づいたり感じた

    りしたことと実際に患者が感じたことにず

    れがあるのかなどを知ることができます。

    術後訪問で得た情報は,術前と同じく電子

    カルテに記録します。

    胃ESD術前・術後訪問を行うことの効果・意義

    患者に対して

     術前・術後訪問を行った患者からは,多

    くのうれしい意見をもらっています。例え

    ば,「iPadの説明によって内視鏡室や治療

    中のイメージができた」「パンフレットが

    手元にあることで不安な点を読み返すこと

    ができた」「意識下鎮静の説明を受けてい

    たので,目が覚めても不安にならなかっ

    た」「事前に顔を合わせていた担当看護師

    が入室時に出迎えてくれたことで緊張や不

    安が和らいだ」「医師に聞きにくいことも

    気軽に質問できた」などの声がありまし

    た。患者の不安を知ることが当初の目的の

    一つだったので,その目的の達成にも貢献

    できていると考えています。

    看護師に対して

     術前訪問を行うことは,事前に患者とコ

    ミュニケーションをとれること,また電子

    カルテだけでは知り得ない情報を得られる

    ことが大きな利点だと考えています。看護

    師からは,「患者の人柄を把握することで

    一人ひとりに応じた看護ができる」「義歯

    や排尿に関する不安や問題点を知り,対応

    できた」「事前に情報を得ていたため当日

    の内視鏡室入室時に慌てて問診をすること

    もなく,また術中のバイタルサインの変化

    なども予測し対応できた」などの声が聞か

    れました。

     術後訪問についても,「術前に立案した

    看護計画の評価には術後訪問は必要であ

    る」「計画や実施した行為を明確にしてか

    ら訪問するので反省点も明確になる」「患

    者さんからのフィードバックを得て評価す

    ることが次につながる」などの意見が得ら

    れました。また,「『手術直後のベッドへの

    移動が一番しんどかった』などの看護師が

    気づけなかった点を知ることができた」と

    いう意見や,「術前・術中・術後と継続し

    てかかわることで患者さんの問題点に深く

    かかわり,考えられる」「継続してかかわ

    ることで,患者さんの想いや症状に寄り添

    える」など,継続して患者にかかわること

    のメリットも看護師は感じています。

     そして,①術前訪問で問題点を抽出して

    看護計画を立案し,②術中に看護の実践を

    76 消化器看護 Vol.24 No.1

  • 行い,③術後訪問で看護計画の評価を行

    う,④その経験を皆で共有し,問題点への

    対応策を評価し次に生かしつなげていく,

    このような看護におけるPDCAサイクルを

    循環させることによって,看護の質の向上

    が期待できるのではないかと考えています

    (図1)。 今後は,ESD術前・術後訪問を通じて得

    られた知見について,共通する問題点とそ

    の対応策を項目別にファイルし参考資料と

    なるよう整理することや,ESDを受ける患

    者の看護基準の作成に取り組んでいきたい

    です。

    胃ESD術前・術後訪問を通じて得られる 内視鏡看護のやりがい 術前・術後訪問を行う看護師に,“満足

    度やモチベーションは上がるか?”という

    アンケートを行ったところ,7人中5人が,

    “上がる”または“どちらかと言えば上が

    る”と答えました(図2)。ESDを受ける患者を担当し,術前から術後まで継続してか

    かわることで,より深く患者に寄り添える

    ことが看護師としての満足度やモチベー

    ション向上につながっていると思われます。

     ESDを受ける患者は,早期がんと医師か

    ら説明を受け,手術日までにさまざまな想

    いを抱いています。ショックを受ける人,

    精神的に混乱してしまう人,大きな不安を

    感じる人もいると思います。また,入院自

    体が初めての人も多く,疾患のみでなく入

    院生活に不安を感じていることもありま

    す。術前訪問では,患者が何に不安を感じ

    ているのか,表情を観察しながら言葉一つ

    ひとつに耳を傾け,患者の想いを理解しよ

    うとする姿勢が大切だと感じています。

     術後訪問では手術が終わったこともあり,

    術前よりも笑顔で話してくれる患者が多い

    です。「不安でいっぱいだったけど○○さん

    が出迎えてくれて安心したよ」などの言葉

    を直接患者から聞けると,担当看護師とし

    て認知されたこともうれしく,とてもやり

    がいを感じます。さらに,数カ月後の上部消

    化管内視鏡検査時などで会った際,元気な

    姿を見るとこちらまでうれしくなり,また

    顔や名前を覚えていてくれたり,感謝の言葉

    をかけてもらったりすることもあります。

    術前訪問

    •コミュニケーション•問題点の抽出•看護計画立案

    •経験の共有•問題への対応策のマニュアル化

    •コミュニケーション•問題点への対応・計画の評価

    •看護の実践

    情報共有

    術中看護

    術後訪問

    図1 術前・術後訪問によるPDCAサイクル

    問い:“術後訪問を実施することで,満足度やモチベーションは上がるか?”

    (人)

    (n=7)

    上がる

    どちらかと

    言えば上がる

    変わらない

    どちらかと

    言えば下がる

    下がる

    図2 看護師に対するアンケート結果

    77消化器看護 Vol.24 No.1

  •  これらの経験を通じて,ESDに限らず,

    内視鏡室で上部・下部消化管内視鏡検査を

    受ける患者に対しても看護師としての役割

    である内視鏡看護を提供することができる

    と考えています。患者は“もしかすると今

    日の検査でがんが見つかるかもしれない”

    “大丈夫であってほしい”といった不安を

    抱えていると思います。短い検査時間の中

    であっても,内視鏡看護師は患者の表情や

    言動から,患者の想いに気づくこと,そし

    てその想いに寄り添うことが重要であると

    考えています。

    * * *

     本稿では,当センターで行っている胃

    ESD術前・術後訪問の取り組みについて述

    べました。日常業務の参考になりましたら

    幸いです。

    PROFILEつじおか・ひろみ●2010年4月,日本赤十字社和歌山医療センターに入職。整形外科病棟勤務を経て2013年4月より第二外来(内視鏡

    センター)勤務。2016年に消化器内視鏡技師資格を取得。患者に安心・安全な内視鏡看護を提供することを目指し,日々取り組んでいる。

    78 消化器看護 Vol.24 No.1