後発企業効果をめぐる経営史的考察 -...

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後発企業効果をめぐる経営史的考察 マクロ分析を中心に中央大学商学部 久保文克 経営史学会50周年記念大会 2014911日(木)文京学院大学

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後発企業効果をめぐる経営史的考察  −マクロ分析を中心に−

中央大学商学部   

久保文克                 

経営史学会50周年記念大会  2014年9月11日(木)文京学院大学

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はじめに

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* 狭義の後発企業効果    後発企業が先発企業を逆転ないしはそれに    準ずるキャッチアップを実現した現象で、発展    途上国の経済発展に影響を及ぼす効果    

* (広義の)後発企業効果    後発企業が先発企業を逆転ないしはそれに    準ずるキャッチアップを実現した現象  

(久保[2003ab])  

そもそもの後発企業効果

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* 宇田川・橘川・新宅編[2000]を機に、経営史学と戦略論・組織論とのコラボに強い関心  * 後発企業との連動にこだわった狭義の後発企業効果から、戦後の企業間競争も包含する広義の後発企業効果を実証的に分析することへ関心が移行  * 後発企業「効果」:後発企業による逆転が市場を活性化させ、さらなる拡大をもたらす効果が期待される →詳細は次なる報告へ  

戦後の企業間競争への関心

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* 後発企業効果:  「後れて市場参入した後発企業がトップ企業をキャッチアップし、ついには逆転を成し遂げることによって、当該市場の企業間競争を活性化させ、さらなる市場の拡大を可能にする効果」    * 「準ずる」キャッチアップを除外し、逆転に限定  * 企業逆転:マーケットシェアで確認* 市場:国内市場に限定  

後発企業効果の概念規定

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【後発性のメリット】

①ただ乗り効果②不確実性の解消③経営環境の変化  ④先発企業の慣性【後発性のデメリット】

⑤技術的リーダーシップ⑥希少資源の先取り:技術者、販路、資金力⑦買い手のスイッチング・コスト  ※Lieberman  and  Montgomery[1988]  中心、先発を重視   

先行研究に見る後発企業

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後発企業効果のマクロ定量分析

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* 田淵[2009]を活用して後発企業効果が発生した約120の市場をピックアップ  * 一次資料に遡り、直近を補いつつ、プレイヤーを絞ったマーケットシェアのグラフを作成し直す  * 市場参入と逆転の時期、参入から逆転までの 期間、後発企業効果の戦略要因を分析  * 時代的背景、マクロの経営環境の変化との関係にも着目  * 戦略的要因:  革新的企業者活動がいかにかかわったかが焦点 →部分的に着手、今後の課題  

分析の手順

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* 後発企業効果=逆転:グラフ上トップに並ぶ直後を元データで確認  *  5年以下、31年以上に多く確認(図6)  * 中長期:  漸進的パターンと停滞期を経るパターンに分かれる

後発企業効果のイメージ

ソニーが8年で逆転

松下が17年で逆転

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後発企業効果の対象63市場

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後発企業効果の業種別分布

* 対象は63市場  * 製薬13を筆頭に家電、食品8の  3業種が特に多い  * 追いつくが逆転しない市場は対象外→トップ企業との激烈な競争    =トップ企業の      踏ん張り

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* 逆転企業の参入  *  1950年代までや安定成長期までに多くは市場参入  * 戦前の参入も  * 高度経済成長期が意外に少ない  * 先発の優位性が大きい?  * 高度経済成長から安定成長への移行期に多い=消費者ニーズ変化  

後発企業参入の年代別分布

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* 食品、レジャー、化学、輸送:  高度経済成長期に多く市場参入  * 製薬:  各年代に分布、(デジタル)家電:  1990年代前半  * 化粧品・トイレタリー、精密・情報機器、機械:  安定成長期  * 産業的な特性と言えるのか? →事例分析で検討  *  2005年以降市場参入した後発企業効果はなし

業種別の参入年代分布

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* 高度経済成長期に少ない  *  「失われた10年」期に多い  * オイルショック、円高不況含め、制約条件の到来期に多い  * 後発企業にはむしろ制約条件は ビジネスチャンス  * 産業特性は?

後発企業効果の年代別分布

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* 表2と異なり、2000-­‐04、1995-­‐99、85-­‐89年に後発企業効果は多い  * 数少ない高度経済成長期が食品、化学に集中  * 高度経済成長期の食の多様化と重化学工業化を象徴  * 耐久費材部門は安定成長期以降に ←買い換え需要  *  「失われた10年」:  モジュール化、コモディティ化が進行

業種別逆転の年代別分布

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*  5年以下が も多い  * 差別化商品を準備して市場参入する後発企業の多さ  *  11-­‐15年以降は参入後の差別化商品の タイミングによる  *  31年以上も多いことをいかに捉えるか?  * 停滞期間の有無が中長期に関係?  * 停滞期間を除くキャッチアップ年数は?  

後発企業効果に要する年数

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* 製薬、家電、化粧品・トイレタリー:  5年以下はじめ短期が多い  * 食品:  5年以下と31年以上の二極化  *  レジャー、機械:  16年以上、21年以上の中長期に多い  * 流通、建築:  31年以上、21年以上の長期に多い

業種別逆転までの年数別分布

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* 停滞後を含む  * 停滞:下位のシェアで横ばい状態  * 停滞時期を除くと、10年以下が85.9%  *  5年以下は46.9%  * 逆転まで短期間  * 中長期との違いは停滞期間の有無  * キャッチアップを開始できたポイントは何か?  

キャッチアップに要する年数

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* 製薬、食品:  5年以下の逆転が7割を占める  * 差別化商品のヒットが後発企業効果を実現させたポイント  * 注目すべきは11年以上の9事例 →ウスターソースを事例研究

業種別のキャッチアップ年数

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中間的考察

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【後発性のメリット】

①模倣・改善、ベンチマーク先とし差別化の可能性②市場拡大の可能性③技術や消費者ニーズの変化④トップシェアの凋落【後発性のデメリット】=4つの壁  ⑤技術の壁      cf.  ③技術の変化⑥リソースの壁:  技術者、販路、資金力・・・⑦消費者の壁      cf.  ③消費者ニーズの変化  ⑧ブランドの壁  

後発性のメリットとデメリット

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後発企業効果のフレームワーク

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*  大のポイント:  リソースの壁をどれだけ克服していけるか?  * 技術の壁を低くできた局面=キャッチアップのスタート  *  ブランドの壁が消費者の壁に直結 ←差別化商品のヒット  

後発性のデメリットの克服� � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � )K� />1������� 8�����

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* 内部リソース活用(7事例):既存の技術者・販路と資金・ブランド力* 製薬:  発売まで長期間のR&Aを要す  →外部提携による販売契約も

短期パターンと内部リソース活用

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                         戦略的要因分析                              −事例研究の手始めに−

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* 同一市場の比較:輸送 (中長期比較)  * 同一業種の比較:食品 (短長期比較)  * 高度経済成長期として風味調味料  * 内部リソース活用:  ダイハツ、味の素、キャノン、コカコーラ  * 経営環境の変化への          対応、むしろ掘り起こし   * サービス:スーパー  

事例研究の手始めに

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長中期・時期の比較:軽四輪車

  スズキが   20年で逆転

ダイハツが 31年で逆転

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【後発性のメリット】  * 模倣・改善:  ホンダN360をベンチマークに  

【後発性のデメリット】  * 先発ホンダの壁:  LC10の 終的な生産準備段階でN360発売  【戦略的要因】(短期:9年逆転、高度経済成長期)*  1967年スズキフロンテ360(LC10型)発売              ←「当社総合力のいわば“結晶”」「社運をかけた仕事」

* 設計変更の柔軟性:  低価格と広い居住性・・・今までない馬力と高速等すべてを調査し、「LC10型が劣ると思われる点は、すべて解消するよう設計変更」

*  スタイルの良さ、デラックスな内装、加速の良さ、室内の広さ、エンジン音の静かさを実現                                  

 (鈴木自動車編[1970]92-­‐96ページ)  

軽四輪車:スズキ(短期)

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【後発性のメリット】  *  スズキをベンチマーク  【後発性のデメリット】  * 四輪車への技術力アップ   * 先発スズキのブランドの壁  【戦略的要因】(長期:停滞後8年)  * 内部リソース:オート三輪(1957年ミゼット発売)の技術力活用  * 小型四輪トラックベスタ発売(58年):  三輪から四輪へ  *  トヨタの技術導入:  業務提携(1967年) →資本提携(98年過半株式取得)により強化  *  ミラ発売(80年)  →フルモデルチェンジ(85年)  

(ダイハツ工業編[1967]16-­‐30ページ)  

軽四輪車:ダイハツ(長期)

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長短期・時期の比較:食品

 味の素が  2年で逆転

オタフクが    53年で逆転

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【後発性のメリット】  * それまでは具に味が届かず、鉄板に流れてしまうウスターソースの代替品に

【後発性のデメリット】

* 消費者の抵抗感 ←お好み焼き専用ソース発売(1950年)* 先発商品の壁:  「ソースはさらっとしたもの」という常識により、どろっとした甘めのソースへの消費者の抵抗   【戦略的要因】(長期53年:停滞後18年)  * 販路開拓:  お好み焼きの普及=スーパーで実演試食販売* お好みソース500gフクボトル発売(82年)  * お好み焼き研修センター(87年):  お好み焼き店開店サポート  * ホットプレートの普及も追い風に                         

      (日刊経済通信社編[2008]184ページ、オタフクソース編[2002]  )

ウスターソース:オタフク

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【後発性のデメリット】  * 先発ブランドの壁:  シマヤだしの素(1964年)  【後発性のメリット】  * 先発の欠点:  吸湿性ゆえ固まる褐変を克服、顆粒で差別化  【戦略的要因】(短期:3年で逆転)  *  「ニューマーケティング」:  「造れば売れる、良いものは必ず 消費者に受容される」との前提に立ったマーケティングから の脱皮=消費者との接触機会の増大

* ほんだし(かつお風味和風だし:70年)  ←短期間での市場拡大目指す:  風味とうま味の強さ、顆粒の解けやすさと使いやすさを訴求し2年のR&D+1万7000人の主婦による味覚テスト              

  (味の素編[1990]394、403-­‐404ページ、味の素編[2009]389ページ)

風味調味料:味の素

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多角化・リソース(自社技術)活用

花王が  11年で逆転

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【後発性のメリット】

* 自社技術を活用した市場拡大の可能性 ←男性需要の増大【後発性のデメリット】

* 先発ブランドの壁、しかし強固なものではない【戦略的要因】

* 花王技術力の三本柱の1つである高分子化学(機能性ポリマー)を活用

* 男性用パーソナルヘアケア商品サクセスシリーズを展開* サクセススカルプケアシャンプー発売(1987年)  

(花王編[1993]729、847ページ、花王編[2012]404-­‐405ページ)

スカルプケア:花王

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環境変化へ自社技術で対応

 キャノンが  7年で逆転

   キャノンが  16年で逆転

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【後発性のメリット】  * 一眼レフと自動露出の技術革新でドイツをリード  【後発性のデメリット】  * 日本光学、旭光学の二大メーカーの壁  *  プロ向け一眼レフカメラ開発の遅れ←ファインダーカメラに重点  【戦略的要因】  *  フレックス(59年):  専用レンズ式露出計との連動は国産初  *  F-­‐1(71年):  初の本格機種を目指し5年余のR&D  →無人自動撮影時代の先駆け  *  AE-­‐1(76年):  世界初電子シャッター(マイコン内蔵)カメラ  

(キャノン編[2012]108-­‐109、173-­‐174、287-­‐288ページ)

一眼レフカメラ:キャノン

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【後発性のメリット】

*  カメラメーカーのブランド力と技術力【後発性のデメリット】

* 普及期ゆえに参入障壁は低い【戦略的要因】

* デジタルカメラ普及期:  初心者向けに焦点を当てた戦略*  ブランド力の活用:  イクシ・デジタル(2000年)  ←世界的にヒットした「イクシ」シリーズのデザインを踏襲、世界 小・ 軽量

* 初心者をセグメントに使いやすさ重視(200百万画素、光学3倍ズーム、視野率100%の液晶モニター搭載)* 一眼レフタイプのEOS・D30など4種類を投入

(キャノン編[2012]652-­‐656ページ)

デジカメ:キャノン

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リソース(販売網・ブランド)活用

コカコーラが10年で逆転

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【後発性のメリット】

* 不確実性を回避:  需要の見極めが可能に【後発性のデメリット】

* 先発上島珈琲のブランド力(1972年万博で成功)  【戦略的要因】  * ジョージア発売(75年)  * リソースの有効活用:  国内初の自動販売機(61年)、缶自販機(67年)、自販機の拡張= 大の販売チャネル  * ジョージアシリーズ(83年)として多様化展開し逆転

(全国清涼飲料工業会編[2011]5-­‐7ページ)

缶コーヒー:コカコーラ

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長期・サービス(非製品)

ジャスコが  33年で逆転

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【後発性のメリット】  * 市場の将来性、合併・提携先の存在、岡田屋時代のノウハウ  【後発性のデメリット】  * 先発の壁、そして「スーパー冬の時代」へ  【戦略的要因】  *  イオン(←ジャスコ)グループへ(1989年):  お客様=経営の原点  *  PBトップバリュ:  94年=「第2次ストアブランド元年」  * 事業の選択と集中(90年代後半):  事業領域の絞り込みと    経営資源の集中 →収益力ある事業構造への変革  * 新生トップバリュ(2000年):  お客様の声重視  →モニター制度  

(ジャスコ編[2000]100-­‐107、534-­‐539、594-­‐595、718-­‐732、746-­‐-­‐755ページ)

スーパー:ジャスコ

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おわりに

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* 後発企業効果:  製薬、家電、食品が多い                   →  技術力と消費者ニーズのマッチングの重要性  * 参入:  安定成長への移行期はじめ消費者ニーズの変化期が多い  * 逆転:  高度成長期の少なさ、「失われた10年」期の多さ     ←  キャッチアップ期間が必要、制約条件到来期の多さ  * 経営環境の変化は参入とキャッチアップのビジネスチャンスに* 停滞期を除いたとき、逆転までのキャッチアップ期間は10年以下  * 短期パターン:  多角化に多い内部リソース(既存市場の技術・  販路・資金とブランド)の活用、それでも壁の克服は不可欠

* 長期パターン:  まず4つの壁の克服→消費者ニーズの掘り起こし、累積的革新による模倣・改善、トップ企業の凋落も  

      ポイントの整理          

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後発企業効果と革新的企業者活動

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事例研究に向けての課題

* なぜ高度経済成長期に後発企業効果が少ないのか?  * 市場参入に際し、リソースの見極めはどこまで重要か?  * 短期逆転には差別化商品の準備は不可欠か?  * 停滞期間はいかなる意味を有するのか?    →  4つの壁、とりわけリソースの壁をいかに低くしていくか?  * 内部リソース活用型、提携型、市場開拓型、環境変化適応型・・・  * 関連して、キャッチアップ期間の違いは何を意味するか?              →  リソースの壁の克服?トップ企業の応酬?  * 差別化商品がヒットしない要因は何か?  *  リソースの壁の克服はキャッチアップの開始を意味するのか?  * 環境変化への対応とともに、ニーズの掘り起こしが重要か?   

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【全般】*  宇田川勝・橘川武郎・新宅純二郎編[2000]『日本の企業間競争』有斐閣*  恩蔵直人[1999]『競争優位のブランド戦略─多元化する成長力の源泉─』日本経済新聞社  

*  久保文克[2003ab]「アジア経営史の方法と課題(Ⅰ)(Ⅱ)」中央大学商学研究会『商学論纂』第44巻第3号、同第6号  

*  S.P.シュナース[1996]『創造的模倣戦略─先発ブランドを超えた後発者たち─』有斐閣  

*  田淵泰男[2009]『日本の主要産業における企業のシェア変動─長期時系列調査─』税務経理協会

*  G.J.テリス、P.N.ゴールダー[2002]『意志とビジョン─マーケットリーダーの条件─』東洋経済新報社

*  由井常彦・橋本寿朗編[1995]『革新の経営史−戦前・戦後における日本企業の革新行動−』有斐閣

*  山田英夫・遠藤真[1998]『先発優位・後発優位の競争戦略─市場トップを勝ち取る条件─』生産性出版

*  山田英夫[1995]  [2004]  [2007]『逆転の競争戦略─競合企業の強みを弱みに変えるフレームワーク─』『同 新版』『同 第3版』生産性出版

*  Lieberman,  Marvin  B.  and  David  B.  Montgomery[1988]  “First-­‐Mover  Advantages,”  Strategic  Management  Journal,  9  

参考文献①

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【企業別】

*  味の素株式会社編[1990]『味をたがやす─味の素八十年史─』財団法人日本経営史研究所  

*  味の素株式会社編[2009]『味の素グループの百年』味の素株式会社  *  一般社団法人  全国清涼飲料工業会編[2011]『戦後の清涼飲料史』*  一般社団法人  日本即席食品工業協会[2014]「誕生と進化のストーリー」:  

http://www.instantramen.or.jp/history/index.html *  オタフクソース株式会社編[2002]『オコノミッション─世界はお好み焼を待っている!─』  

*  花王株式会社社史編纂室、財団法人日本経営史研究所編[1993]『花王史100年』花王株式会社  

*  花王ミュージアム・資料室編[2012]『花王120年史』花王株式会社*  キャノン史編集委員会編[1987]『キャノン史─技術と製品の50年─』キャノン株式会社  

参考文献②

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*  キャノン企画本部社史編纂室編[2012]『挑戦の70年、そして未来へ─キャノン      70年史  1937-­‐2007─』キャノン株式会社  

*  シャープ株式会社編[2012]『シャープ100年史─「誠意と創意」の系譜─』  *  ジャスコ株式会社編[2000]『ジャスコ三十年史』ジャスコ株式会社  *  鈴木自動車工業社史編集委員会編[1970]『50年史』鈴木自動車工業株式会社  *  ダイハツ工業60周年記念社史編集委員会編[1967]『創立60周年』ダイハツ工業株式会社

*  武田二百年史編纂委員会[1983]『武田二百年史(本編)(資料編)』武田薬品工業株式会社  

*  日刊経済通信社調査出版部編[2008]『酒類食品統計月報600号記念増刊号  昭和の30年・平成の20年─拡大、飽和、そして縮小へ─』日刊経済通信社  

*  各調査対象企業HP(詳細省略)  *  事例研究以外の企業については省略  *  マーケットシェアについては各出所参照  

参考文献③