東北大学短期/家族療法研究グループによる...

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―  ― 179 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集・第2号(2008年) 東北大学短期/家族療法研究グループ(以下、「東北大グループ」)では、MRI 短期/家族療法 に基づいて「臨床に役立つ基礎研究」の名の下に、一連のコミュニケーション実験研究を行ってきた。 本論文の目的は、東北大グループの研究を展望し、実践性(「臨床に役立つ」)、科学性(「基礎的な」) という 2 点から、その研究の意義と問題点を明らかにすることである。実践性、科学性という観点 から東北大グループの研究を考察するために、臨床心理学、社会心理学におけるコミュニケーショ ン研究と東北大グループの研究との比較を行った。結果、東北大グループが実践性と科学性を兼ね 備えた新たな研究モデルを提示していることが明らかとなった。しかし、東北大グループの研究モ デルには実践性、科学性、いずれの観点からも問題(実験参加者の問題、および構成概念・指標の 問題)があることも明らかになった。 キーワード:MRI 短期/家族療法、マネジメント行動、対人システム、会話システム 第 1 章 はじめに 東北大学短期/家族療法研究グループ(以下、「東北大グループ」と略記する)では、短期/家 族療法、とりわけ Mental Research Institute(MRI)のアプローチに基づく臨床実践の中で、「臨 床に役立つ基礎研究」を念頭に置きながら、一連のコミュニケーション実験研究を行ってきた。「臨 床に役に立つ基礎研究」、それは 2 つの意味からなる。第一は「臨床に役に立つ」研究であり、第 二は「基礎的な」研究である。つまり、東北大グループのコミュニケーション実験研究は、「臨床 に役立つ」だけでも、「基礎的な」だけでもなく、「臨床に役立ち」かつ「基礎的な」研究を目指し てきたのである。「臨床に役立つ基礎研究」というこのテーマは、臨床心理学においてもっとも議 東北大学大学院教育学研究科博士課程後期 ** 東北大学大学院教育学研究科博士課程前期 東北大学短期/家族療法研究グループによる コミュニケーション研究は「臨床に役に立つ基礎研究」なのか? ―臨床心理学、社会心理学におけるコミュニケーション研究との比較を通じて― 安 達 知 郎 *  佐 藤 恵 子 ** 滝 沢 晋 也 ** 越 道 理 恵 *  板 倉 憲 政 ** 岡   夏 希 ** 福 田   愛 **

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      東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集・第2号(2008年)

     東北大学短期/家族療法研究グループ(以下、「東北大グループ」)では、MRI 短期/家族療法

    に基づいて「臨床に役立つ基礎研究」の名の下に、一連のコミュニケーション実験研究を行ってきた。

    本論文の目的は、東北大グループの研究を展望し、実践性(「臨床に役立つ」)、科学性(「基礎的な」)

    という 2 点から、その研究の意義と問題点を明らかにすることである。実践性、科学性という観点

    から東北大グループの研究を考察するために、臨床心理学、社会心理学におけるコミュニケーショ

    ン研究と東北大グループの研究との比較を行った。結果、東北大グループが実践性と科学性を兼ね

    備えた新たな研究モデルを提示していることが明らかとなった。しかし、東北大グループの研究モ

    デルには実践性、科学性、いずれの観点からも問題(実験参加者の問題、および構成概念・指標の

    問題)があることも明らかになった。

    キーワード:MRI 短期/家族療法、マネジメント行動、対人システム、会話システム

    第1章 はじめに 東北大学短期/家族療法研究グループ(以下、「東北大グループ」と略記する)では、短期/家

    族療法、とりわけ Mental Research Institute(MRI)のアプローチに基づく臨床実践の中で、「臨

    床に役立つ基礎研究」を念頭に置きながら、一連のコミュニケーション実験研究を行ってきた。「臨

    床に役に立つ基礎研究」、それは 2 つの意味からなる。第一は「臨床に役に立つ」研究であり、第

    二は「基礎的な」研究である。つまり、東北大グループのコミュニケーション実験研究は、「臨床

    に役立つ」だけでも、「基礎的な」だけでもなく、「臨床に役立ち」かつ「基礎的な」研究を目指し

    てきたのである。「臨床に役立つ基礎研究」というこのテーマは、臨床心理学においてもっとも議

     * 東北大学大学院教育学研究科博士課程後期** 東北大学大学院教育学研究科博士課程前期

    東北大学短期/家族療法研究グループによる

    コミュニケーション研究は「臨床に役に立つ基礎研究」なのか?―臨床心理学、社会心理学におけるコミュニケーション研究との比較を通じて―

    安 達 知 郎* 

    佐 藤 恵 子**

    滝 沢 晋 也**

    越 道 理 恵* 

    板 倉 憲 政**

    岡   夏 希**

    福 田   愛**

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    東北大学短期/家族療法研究グループによるコミュニケーション研究は「臨床に役に立つ基礎研究」なのか?

    論されているテーマのひとつである臨床心理学研究法と関係している。下山(1991)は、実践性、

    科学性というキーワードから、臨床における実践研究とは何かを考察している。東北大グループの

    ことばでいえば、下山の言う実践性は「臨床に役立つ」という部分にあたり、科学性を追及した先

    にあるのが、「基礎的な」という部分にあたるだろう。よって、下山(1991)とわれわれは、臨床

    心理学研究法に関して、その問題意識を大部分において共有していると考えられる。しかし、この

    単純ではあるが深遠な目標に、東北大グループはどれほど近づくことができたのだろうか。本研究

    の目的は、約 20 年間にわたる東北大グループのコミュニケーション実験研究を展望するとともに、

    「臨床に役立つ」、「基礎的な」という 2 点、あるいは実践性、科学性という 2 点からその研究の意

    義を批判的に考察することである。われわれ東北大グループは、これまでの研究の意義をあえて批

    判的に考察することで、われわれの臨床実践、そして研究を新たな可能性へと開くことができるの

    ではないだろうか。

     本論文では、まず第 2 章、第 3 章、第 4 章で東北大グループのこれまでのコミュニケーション実

    験研究を展望する。具体的には、第 2 章で、東北大グループの理論的基盤である、von Bertalanffy 

    L.(1968/1973)のシステム理論、Watzlawick P.・Bavelas J.B.・Jackson D.D.(1967/1998)のコミュ

    ニケーション理論という 2 つの鍵概念を説明する。第 3 章ではコミュニケーション理論に基づく実

    証研究について、第 4 章ではシステム理論に基づく実証研究について概観する。つぎに、第 5 章で

    「臨床に役立つ」という視点から、臨床心理学におけるコミュニケーション実験研究との比較を通

    じて、東北大グループの問題点を明らかにする。第 6 章では「基礎的な」という視点から、社会心

    理学におけるコミュニケーション実験研究との比較を通じて、東北大グループの問題点を明らかに

    する。そして、最後に第 7 章で、東北大グループの研究成果と問題点を整理し、今後の展望を述べる。

    第2章 理論的背景1.MRI 短期/家族療法の理論的基盤 その 1 ―システム理論―

     家族療法を他の心理療法と分ける鍵概念のひとつとして、一般システム理論(von Bertalanffy L., 

    1968/1973)が挙げられる。システムとは、“ 相互作用の関係のうちにある諸要素の複合体 ”(富永、

    1995)と定義できる。よって、家族がシステムであるように、社会や個人でさえもシステムと考え

    ることができる。家族療法が対象とするのは、家族だけではなく、システム一般である。近年、そ

    の点を強調するために、「家族療法」という呼び名ではなく、「システムズアプローチ」や「システ

    ミックアプローチ」といった呼び名も用いられている。このシステムという概念を説明する際、長

    谷川(1987)はシステムの「全体性」・「自己制御性」・「自己変換性」ということばを用い、システ

    ムの性質について述べている。システムは部分の総和以上のものとして存在するため、部分だけを

    見ても分からないものであり(全体性)、安定を保つためにシステム自身が逸脱を減らそうとする

    作用をもつ(自己制御性)。そして、自己制御を行なうことではバランスが保てなくなると、シス

    テムを維持していくため、システム自体を変化させる(自己変換性)。長谷川(1987)の言う自己

    制御性、自己変換性は、それぞれアシュビー(Ashby W. R.)の述べる第一次変化と第二次変化と

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      東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集・第2号(2008年)

    同様の概念である。

     また、システムの重要な特徴として、システムの階層性が挙げられる(遊佐、1984)。システム

    はその要素として、いくつかの下位システム(サブシステム)を内包する。そして、当該システム

    も、上位システム(スプラシステム)の要素として機能する。つまり、システムはさまざまな階層

    の中で包含関係を保ちながら機能する。

    2.MRI 短期/家族療法の理論的基盤 その 2 ―コミュニケーション理論―

     MRI 短期/家族療法では、ベイトソン(Bateson G.)の認識論を中心に置き、家族の交流に見ら

    れる相互のコミュニケーションの機能に焦点をあてて、家族の行動を理解しようとする。このこと

    から、MRI 短期/家族療法はコミュニケーション派家族療法とも呼ばれている。そして、コミュ

    ニケーションを説明するものとして、『Pragmatics of Human Communication』(Watzlawick P. et 

    al, 1967/1998)(以下、『語用論』と略記する)においてコミュニケーションについての 5 つの試案

    的公理が提案された。その後、ベイトソンの認識論及びコミュニケーションの語用論的側面につい

    ての中心的特徴が抽出され、MRI 短期/家族療法のコミュニケーション理論は次の 4 点に集約さ

    れた(若島・長谷川、2000)。①すべての行動がコミュニケーションになりうる、②コミュニケーショ

    ンは報告的機能(メッセージの内容を伝える)に加え、常に命令的機能(メッセージ内容の理解の

    仕方を伝える)をもつ、③コミュニケーションは人の行動に制限という形で影響を与える、④コミュ

    ニケーションは論理階型の理解によって整然とする。

     以上のコミュニケーション理論から、人間のどのような動作もコミュニケーションとして受け手

    に情報を伝達すると考えられる。このとき、“ 任意のメッセージ(情報)は反応の選択幅を制限する ”

    (長谷川、1991)。これはコミュニケーション理論においては、「拘束(bind)」という言葉で表現さ

    れる。この拘束という概念は、上記の命令的機能に関連している。人々はお互いを拘束しあいなが

    らコミュニケーションを続けていく。つまり、コミュニケーションは「相互拘束過程」と言える(若

    島、2001)。MRI 短期/家族療法では、コミュニケーションをこのような相互拘束のプロセスとし

    て捉える。そして、この相互拘束のプロセスが全体としての家族システムを形作っていると考える。

    このプロセスは円環的につながっているものであり、そこで想定される因果関係はパンクチュエー

    ション(事象の区切り方)の問題にすぎない。つまり、どう区切るかということによって、因果関

    係の説明は変化しうる。

    3.システム理論とコミュニケーション理論の統合

     先に述べた相互作用のプロセスは、持続する関係においては一連のパターンとして固定化してい

    く(若島ら、2000)。家族に危機が訪れたとき、家族システムにおいては、自己制御性によってシ

    ステムを維持しようとする何らかのコミュニケーションが生まれる。このシステムを維持しようと

    するコミュニケーションは、一般に、問題に対する対処行動という形で現れる。人は問題が起きて

    いると認識したとき、その問題に対して必ず何らかの対処行動をとるが、システムを維持する目

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    東北大学短期/家族療法研究グループによるコミュニケーション研究は「臨床に役に立つ基礎研究」なのか?

    的でとられた対処行動(すなわち問題を解決しようとする行動)が今度は問題を維持するという

    形のパターンとなってしまうことがある。このような場合になされている対処行動を MRI 短期/

    家族療法では、「偽解決(attempted solution)」と呼ぶ。つまり、解決のための対処行動が真の解

    決に結びつかず、逆に問題を維持するという悪循環が生じていると考える(Weakland J.H.・Fish 

    R.・Watzlawick P.・Bodin A.M., 1974)。そこで MRI 短期/家族療法では、家族の自己制御機能で

    ある偽解決(第一次変化)を断ち、システムの自己組織性に基づく第二次変化を促し、家族システ

    ムが問題を含んだものから問題を含まないものに変化するように援助していくことを目的とする

    (Watzlawick P.・Fish R.・Weakland J.H., 1974/1992)。

    4.研究の方向性

     以上のような理論的基盤に基づく「臨床に役立つ基礎研究」として、東北大グループでは、コミュ

    ニケーションに関する何らかの指標を用いて偽解決の具体像、つまり問題場面で悪循環を構成して

    いるコミュニケーションパターンを検討するという研究の方向性を採用した。実証的に検討する上

    でまず重要となるのが、コミュニケーションのあり方をとらえる指標である。第 3 章では、東北大

    グループがコミュニケーション理論に基づき採用したコミュニケーション指標について展望する。

    第3章 マネジメント研究1.マネジメント行動の定義

    【事例1】

     中学生男子兄弟の不登校。兄が家庭内で暴力を振るっている。父にはまだ暴力が及んでいないが、口頭での反抗に

    は激しいものがある。父に対して「お前がこうした」と反抗する。母はこのとき、無意識にうなずく。反抗はさらに増

    すように見える。

     母のこの「ノッディング」はほとんど無意識であるが、父子間の対立を大きく支えるように見える。介入はこのノッ

    ディングを阻止することで改善した。

    【事例2】

     今ある家族があり、夕食時、母と娘らがおしゃべりをしているとする。夕刊を読んでいた父がこの会話の中へ入ろ

    うとする。そんな時は決まって「ゴホン」とせき払いをしてからになる。母娘らの会話はおもしろいようにきれいに

    ストップし父の話に耳を傾ける。が、その父の話は大抵、「場違い」の話題となり、父にとっては残酷な否定にあう。

    もしくは軽く聞き流されることになる。ここで父の「せきばらい」はこの家族システムの中では「私がこれから話す」

    意味の記号となり全体の行動を制御する。母娘の会話をストップさせたわけだ。父の不満はこのようにして始まる言

    動がいつも無視され、常に母娘の会話で終始することにある。

     そこで今、母-娘-父のやりとりを細かく見ると、父の「ゴホン」の後に、すぐ母がちらっと娘らの顔を見やるのが

    決まって観察される。その顔は少し笑いを含んでいるのである。この辺りのやりとりは当の本人も気付いていない。が、

    この母の笑いを含んだ「いちべつ」が娘に否定もしくは無視の行動を引き起こす合図の「記号」になっているのである。

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      東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集・第2号(2008年)

    【事例1】は Hasegawa K.・Kodama M.・Ushida Y.(1996)で、【事例2】は長谷川(1998)で紹介された

    ものである。これらの事例の他にも、ほとんど無意識で行われている行動が家族の問題を維持して

    おり、そこに介入することで問題の解決が見られる事例は、臨床現場において多く見られるだろう。

    『語用論』(Watzlawick P. et al, 1967)の第2定理では、会話の中でやり取りされる言語的・非言語的

    メッセージは内容を人に伝える(報告的機能)だけでなく、同時にその内容をどのように理解すべき

    かという情報も持っている(命令的機能)と考えられる。両機能とも受け手に情報を提供するとい

    う点では共通しているが、前者がどちらかといえばより意識的に次の行動を拘束するのに対し、後

    者はほとんど意識されることなく次の行動を拘束する。悪循環に関して言えば、コミュニケーショ

    ンの報告的機能と命令的機能はともにシステムの悪循環を維持するが、後者はほとんど意識されな

    いようなちょっとした行動の中で行われているため、それを変化させるのに小さな介入しか必要と

    しない。よって、命令的機能はシステムの変化を導くのにより重要であると考えられる。そこで、

    Hasegawa K. et al(1996)は命令的機能がコミュニケーションパターンの形成に深く関係している

    ことを強調するため、「命令的機能」という硬い意味合いのあることばを「マネジメント的側面」と

    いう柔らかい意味合いのことばに置き換えた(同様に、「報告的機能」ということばを「トピック的

    側面」ということばに置き換えた)。

     コミュニケーションのマネジメント的側面(命令的機能)の特徴は長谷川(1998)によれば以下

    の 7 点である。①意見や考えそのものではない、②ノンバーバルな形式(手、姿勢、うなずきな

    ど)で発達している、③バーバル(「今度はあなたが話して」など)にも対応するが、多くは言語

    化されない、④フォーマルな集団では言語化されやすい、⑤やりくりをより多くするマネージャー

    が存在する、⑥マネジメントには本人も気づかないことが多い、⑦動詞・名詞・形容詞といった自

    立語ではなく、広義の助辞にあたる機能を持つ。このコミュニケーションのマネジメント的側面を

    言い換えるならば、それは会話の基本的ルールに関わるコミュニケーション行為と言える(若島、

    1997)。コミュニケーションのマネジメント的側面は、どのようなコミュニケーションをしている

    かを規定するもの、つまりメタ・コミュニケーションである。

     東北大グループでは、マネジメント的側面が強く、かつ変化がしやすいコミュニケーション行動

    に着目し、それらを「マネジメント行動」と便宜的に分類した。マネジメント行動は変化しやすい

    ため、コミュニケーションのその場の変化に即座に対応することができる。その結果、これらの行

    動はコミュニケーションの基本的ルールを随時、修正し、コミュニケーションが立ち行かなくなる

    のを阻止する。つまり、マネジメント行動はコミュニケーションの維持という機能を担う。これは

    いわば、マネジメント行動がコミュニケーションの「やりくり」をするということである。コミュ

    ニケーションのマネジメント的側面とマネジメント行動との関係を図 1 に示した。

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    東北大学短期/家族療法研究グループによるコミュニケーション研究は「臨床に役に立つ基礎研究」なのか?

    2.マネジメント研究

     東北大グループの初期の研究はこの「マネジメント行動」の特定が目的となっており、その多く

    は以下のような仮説の下、群間比較を行っている。その仮説とは、「場面 A よりもコミュニケーショ

    ンの要因が多い場面を場面 B とする。このとき、場面 A では、場面 B よりもコミュニケーション

    が複雑になりやすく、コミュニケーションを維持するためにはコミュニケーションのやりくりがよ

    り必要となる。すなわち、場面Bよりも場面Aの方がコミュニケーションのマネジメント行動は増

    える。よって、場面 A においてより多く見られた行動がマネジメント行動である」というもので

    ある。各研究においてどのような場面を設定するかは異なるが、コミュニケーション場面の設定が

    変化することでマネジメント行動の量も変化するという基本的な視座は共通している。各マネジメ

    ント研究の概要を表 1 に、そして、特定されたマネジメント行動の詳細を表 2 に示す。

    一般的にマネジメント的側面がトピック的側面に比べ強いもの

    マネジメント行動(コミュニケーションの

    やりくり)場所

    年齢

    性別

    服装

    ここに挙げた以外のものでも、人がそこに情報価を与えるならば、あらゆるものがマネジメント的側面、そしてトピック的側面を持ちうる(若島・生田,1999)。

    図1 マネジメント的側面とマネジメント行動

    表1 マネジメント行動の特定を目的とした群間比較

    研究場面 A

    (マネジメント行動が多いと想定される場面)

    場面 B(マネジメント行動が

    少ないと想定される場面)特定された

    マネジメント行動

    若島(1996) 二者対話対面場面対話

    独白仕切り対話交互独白

    相互作用ジェスチャー

    長谷川ら(1998) 対面対話 仕切り対話 反応を求める頭の動き反応を示すうなずき相互作用ジェスチャー

    渡部・若島(1998) 手紙文 日記文 対人言語

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      東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集・第2号(2008年)

    3.マネジメントの応用研究

     以上見てきたように、東北大グループではシステムにおいて悪循環を構成するコミュニケーショ

    ンパターン(偽解決)を検討することを目的として、コミュニケーションパターンの形成に大きな

    影響力を持つマネジメント行動の特定を試みてきた。さらに、この一連の研究成果をもとに、東北

    大グループではマネジメントに関して以下の 3 つの流れで応用研究を進めてきた。それが、①機能

    的分類、②コミュニケーションメディアによる相違、③システム研究である。システム研究につい

    ては、東北大グループの研究の主流であるため、次章で詳しく言及する。ここでは①と②について

    述べる。

    ① 機能的分類

     中島・佐藤・生田・佐藤・長谷川(2001)は、非言語的マネジメント行動と分類される、反応を

    求める頭の動き、反応を示すうなずき、相互作用ジェスチャー、話題ジェスチャーの 4 指標につい

    て因子分析を行い、アクティブ因子(反応を示すうなずき・話題ジェスチャー)とパッシブ因子(反

    応を求める頭の動き・相互作用ジェスチャー)の 2 因子を検出した。また、言語的マネジメント行

    動についてはアクティブ因子として反応を求める言語・話題言語、パッシブ因子として反応を示す

    言語・疑問終助詞が確認された (秋元・中島・佐藤・長谷川、2002)。

    ② コミュニケーションメディアによる相違

     メディアを媒介としたコミュニケーションにおいては、何らかのコミュニケーションチャネルの

    限定が起こる。そのような限定的なコミュニケーションの中でどのようにマネジメント行動が生起

    するかということは、メディアの特徴を理解する上で非常に有用である。

     例えば、電話相談場面を想定したコミュニケーション場面では、言語的マネジメント行動が対

    面場面よりも多く、また、相談員は相談者に比べてうなずきが多く見られる(秋元、2003)。また、

    電子メールによるコミュニケーション行動においては、対面コミュニケーションよりも対話の中で

    のあいまい表現が有意に少なくなる (吉田、2006)。つまり、問題と向き合う会話が多く見られる。

    4.マネジメント研究のまとめ

     マネジメント研究を通じて、東北大グループはマネジメント行動という新たな視点を得た。マネ

    表2 群間比較によって特定されたマネジメント行動マネジメント行動 説 明

    反応を求める頭の動き 話し手が発話の最後に示す微妙な頭部の動き(例 :「今日は天気が良いよね。」下線部分と同時に示されるうなずき)

    反応を示すうなずき 対話する相手に対する視線がともなう反応を示すノッディング

    相互作用ジェスチャー 話の内容を示すよりも、対話する相手との関係に関わるもの(例:相手の方へ手の平を向けながら発話する)

    対人言語 話し手の発話したフレーズの最後に使用される終助詞や接続詞(例 :「~だよね?」「そうでしょ?」といった語尾、「それで」「で」等の接続詞)

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    東北大学短期/家族療法研究グループによるコミュニケーション研究は「臨床に役に立つ基礎研究」なのか?

    ジメント行動に注目することで、東北大グループは新たなパンクチュエーションで家族のコミュニ

    ケーションを切り取ることが可能となった。つまり、マネジメント研究で明らかとなったマネジメ

    ント行動に注目して家族のコミュニケーションを観察することで、より効率的に偽解決を探すこと

    が可能となったと言える。

    第4章 システム研究1.対人システムと会話システム

     前章で述べたように、様々なマネジメント研究を経て、マネジメント行動がコミュニケーション

    の鍵となっていることが明らかになった。しかし、そのマネジメント行動が実際に面接に訪れた家

    族において、どのような偽解決を構成しているかは明らかになっていなかった。臨床場面において

    偽解決を明らかにするには、それぞれの家族のコミュニケーションを実際に面接場面で観察するこ

    とが必要であった。そこで、東北大グループは、どの家族にも共通して見られるような偽解決の一

    般像を明らかにすること、つまり、多くのマネジメント行動の中でも、一般的に偽解決に関わりの

    深いマネジメント行動を明らかにすることを次の目的とした。

     東北大グループでは、システム研究を行う上で、“ 日常語で言う「人間関係」や「対人関係」と

    いう言葉の意味するもの ”(若島、1999)、つまり、ある程度の継続性を有する人間関係を「対人

    システム」と、“ 日常語で言う「会話」もしくは「コミュニケーション」等 ”(若島、1999)、つまり、

    日々のコミュニケーションとして観察される直接的な相互作用全般を「会話システム」と便宜的に

    呼び、研究を進めてきた。このとき、「会話システム」は「対人システム」のサブシステムのひと

    つと考えられ、「会話システム」が継時的に存在することで「対人システム」は存在しうる。つまり、

    人間関係を成り立たせるもののひとつとして、「会話システム」(コミュニケーション)が存在する。

    これら「対人システム」「会話システム」という概念を導入することで、対人システムの自己制御性(自

    己制御性の表れのひとつが偽解決である)という考えは、「対人システムに危機的な変化が生じた

    とき、その変化がより大きなものにならないように、会話システムに一定の変化が起こる(ある特

    殊なマネジメント行動が増加する)だろう」という仮説に置き換えられた。結果、東北大グループ

    のシステム研究は、独立変数として対人システムの変化、従属変数として会話システムの変化を取

    り上げ、この仮説を実証するという形で進められてきた。このような概念装置を用いて、明らかに

    なった偽解決の一般像(偽解決に深くかかわるマネジメント行動)を、表 3 に示す。以下、それぞ

    れの研究について展望する。

    2.PIM研究

     若島(1999;2000a;2000b)、若島・生田・長谷川(1999)が注目したのは、会話の中に見られ

    るディスクオリフィケーション反応(の言語的側面)、あるいは脱文脈的コミュニケーションである。

    脱文脈的コミュニケーションは、若島ら(1999)が定義のあいまいなディスクオリフィケーション

    をその言語側面に注目して再定義したものである。そこで、以下、両者を区別せず、単に「ディス

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      東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集・第2号(2008年)

    クオリフィケーション」と呼ぶ。若島は、このディスクオリフィケーションを対人システムの自己

    制御性の表れ(偽解決に関わりの深いマネジメント行動)と仮定した。つまり、「対人システムに

    変化が生じたとき、会話システムの中にディスクオリフィケーション反応という特殊なマネジメン

    ト行動が生じ、その対人システムの変化は抑制される」と考えた。

     若島(1999;2000a)、若島ら(1999)は、ディスクオリフィケーションと対人システムとの関係

    に関する一連の研究を通じて、問題-相互作用モデル(PIM:Problem-Interaction Model)という

    システムの自己制御性に関するモデルを構築した。PIM とは、“ 問題について話し合うことで対人

    システムに生じる遠心的働きを、問題の大きさという内容レベルのコミュニケーションとその場

    でのやりとりの強さである相互作用レベルから捉え、その反作用として生起するディスクオリフィ

    ケーション反応を説明・予測しようとするもの ”(若島、2000a)である。PIM の検証を目的とし

    た若島(1999;2000a)、若島ら(1999)では以下のような共通の変数を採用している(表 4)。

    表3 偽解決に深くかかわるマネジメント行動マネジメント行動 説 明

    ディスクオリフィケーション ・誰の意見かを不明確にすることによって会話の流れを逸脱させる反応・ 誰に対して述べられているのかを不明確にすることによって会話の流れを逸脱さ

    せる反応・ 相手の意見を肯定しているのか否定しているのかを不明確にすることによって会

    話の流れを逸脱させる反応・ 相手の意見に対して肯定と否定の両方を明確に示すことによって会話の流れを逸

    脱させる反応・会話自体を回避することで会話の流れを逸脱させる反応・ 話されている内容と話している文脈を混乱させることで会話の流れを逸脱させる

    反応・ 概念を過度に一般化したり、過剰に制限することによって会話の流れを逸脱させ

    る反応・話されている内容と違う内容について話すことで会話の流れを逸脱させる反応

    笑顔表情 口角があがり、眼筋が収縮しているもの

    言語活動性 発話頻度、発話時間

    間投詞 自立語で活用がなく、主語にも修飾語にもならず、他の文節とは比較的独立して用いられるもの(話し手の感動を表す「ああ」「おお」、呼びかけを表す「おい」「もしもし」や、応答を表す「はい」「いいえ」等)

    疑問終助詞 終助詞の内、疑問の意を添える助詞(「明日の天気はどうかな?」下線部分のように疑問を表すもの)

    表4 PIM研究の概要独立変数 ・会話の葛藤度

    <問題レベル> “ 会話において取り扱われた問題が関係性を危険にさらすという意味において、如何に葛藤的話題であるかというレベル ”(若島、2000c)

    ・�反応を求める行動(視線の方向付け、反応を求めるうなずき、対人言語、相互作用ジェスチャー)の生起数

    <相互作用レベル> “ 葛藤的話題の話し手が受け手に対して求める反応の強さのレベル ”(若島、2000c)

    従属変数 ・ディスオリフィケーション(脱文脈的コミュニケーション)生起数

  • ―  ―188

    東北大学短期/家族療法研究グループによるコミュニケーション研究は「臨床に役に立つ基礎研究」なのか?

     以上、若島による一連の PIM 研究を概観してきた。一連の PIM 研究から、以下の 2 点が明らか

    になった。すなわち、①ディスクオリフィケーションが対人システムの自己制御機能を担っている

    こと(ディスクオリフィケーションが偽解決の一般像であること)、②ディスクオリフィケーショ

    ンが生じるのは、問題レベルが高く、かつ、相互作用レベルが高い場面(葛藤的話題を話すことを

    要求される場面)であること(日常場面では問題レベルの高い話題では相互作用レベルが低くなる)

    の 2 点である。

    3.笑顔表情研究

     生田(1999)、生田・若島・長谷川(1999)は、笑顔表情に注目し、それを対人システムの自己

    制御性の表れ(偽解決に深くかかわるマネジメント行動)と仮定した。つまり、「対人システムに

    危機的な変化が生じたとき、会話システムの中に笑顔表情という特殊なマネジメント行動が生じ、

    その対人システムの変化が抑制される」と考えた。生田(1999)の研究Ⅰ、研究Ⅱでは、以下の変

    数を設定し、群間比較を行っている(表 5)。

     結果、対人システムへ与えられた変化がより危機的なものになるにつれ、つまり、統制課題より

    もロールプレイ課題において、さらに、ロールプレイ課題よりも実際の問題課題において、ポジティ

    ブ表情(笑顔表情)の表出が増加することが示された。このことから、笑顔表情が対人システムに

    おける自己制御機能を担っていること(笑顔表情が偽解決に深くかかわるマネジメント行動である

    こと)が明らかとなった。

    4.その他の偽解決の一般像

     花田(2001;2002)は、若島による PIM 研究から明らかとなった「問題レベルが高い時に、相

    互作用レベルは低下する」という命題に関連する以下の 2 点を検証した。検証した 2 点は、①問題

    レベルが高いとき、相互作用レベルは低くなるのか、②問題レベルが高く、かつ相互作用レベルが

    低いとき、どのようなコミュニケーションが生じるか、である。このとき、葛藤場面は顕在的葛藤

    (話される話題の葛藤度)ではなく、潜在的葛藤(囚人ジレンマゲームにおける裏切り)によって

    設定されている。結果、問題レベルが高まったときには相互作用レベルが低くなることが確認され

    た。また、問題レベルが高く、かつ相互作用レベルが低いときのコミュニケーションの特徴として、

    ①発話時間の増加、②発話頻度の減少、③笑顔の生起率の上昇という 3 点が明らかとなった。

     また、石井(2007)は相互作用レベルについては特に言及せず、問題レベルが高い会話場面にお

    いて、会話内容には触れずに最低限会話を維持するコミュニケーションとして「ミニマル・マネジ

    メント・コミュニケーション」を提案した。これは、対人システムの崩壊に対して自己制御的機能

    表5 笑顔表情研究(生田、1999)の概要独立変数 ・話題(統制課題、ロールプレイによる問題課題、実際の問題課題) <3群>

    従属変数 ・表情(ポジティブ表情(笑顔)、ニュートラル表情、ネガティブ表情)

  • ―  ―189

      東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集・第2号(2008年)

    をもつコミュニケーションであると考えられる。つまり、問題についての会話を回避するが、その

    回避の仕方はダイレクトではなく、対人システムへの影響を緩和させながら問題内容への言及を回

    避しうるコミュニケーションである。石井(2007)は「ミニマル・マネジメント・コミュニケーショ

    ン」として、①反応を示すうなずき、②間投詞、③疑問終助詞を特定した。

     花田(2001;2002)、石井(2007)は、日常場面で見られるような偽解決の一般像を示した研究

    であると考えられる。この点は、笑顔表情研究についても当てはまる。逆に言えば、PIM 研究の

    みが葛藤的話題を話さざるをえないというかなり限定的な場面を対象としていると言えるだろう。

    5.システム研究からの派生的研究

     対人システムが自らを維持しようとするときには、サブシステムである会話システムを変化させ

    る。同様に、会話システムも自らを維持しようとするときには、サブシステムであるさまざまなコ

    ミュニケーションチャネルを変化させる。東北大グループでは、対人システムの自己制御性に関す

    る研究をすすめる中で、偶然、コミュニケーションチャネル間の相互影響関係に関する研究、つま

    り、会話システムの自己制御に関する研究がなされた。会話システムにおけるコミュニケーション

    チャネル間の入り組んだ相互影響関係を明らかにすることで、会話システムへの介入、ひいては対

    人システムへの介入がより有効かつ、適切に行えると考えられる。そこで、以下、会話システムの

    自己制御性に関する(とみなせる)研究を概観する。

     生田(1999)の研究Ⅲ、生田ら(1999)では、会話の中で用いられる言語方略と笑顔表情との関

    係が検討された。結果、生田(1999)では、先行する表情が笑顔表情の時の方が、非笑顔表情の時

    よりもその発話に対応する相手の言語的反応が協調的になることが明らかにされた。そして、生田

    ら(1999)では、回避方略、主張方略、統合方略の順で笑顔表情の表出が多くなることが確認された。

     また、生田(2000)では、会話の中に現れる笑顔表情と言語方略との関係が明らかにされた。具

    体的には、会話者に笑顔の使用を禁止する操作を行ったとき、操作なし課題に比べて、協調方略の

    使用比率が増大した。

    6.システム研究のまとめ

     東北大グループの研究を通じて、上記した仮説(「対人システムに危機的な変化が生じたとき、

    その変化がより大きなものにならないように会話システムに一定の変化が起こる(ある特殊なマネ

    ジメント行動が増加する)だろう」)に基づき、偽解決の一般像が明らかになった。具体的には、

    対人システムに危機的変化が加えられたときに見られる会話システムの変化、つまり偽解決の一般

    像として、以下の 3 つが明らかになった。(表 6 参照)

    表6 偽解決の一般像日常場面 ・笑顔表情が多い会話

    ・核心にあまり触れず、ただその場を保つように作用する会話

    積極的に話をする場面 ・相手の話をはぐらかすような会話

  • ―  ―190

    東北大学短期/家族療法研究グループによるコミュニケーション研究は「臨床に役に立つ基礎研究」なのか?

     このような会話が偽解決の一般像と推測されるので、葛藤的な話題について話をする際に表 6 に

    示したような会話をしないように提案することで、偽解決を絶つことができる。この際、会話を変

    化させるための介入として、会話システムの自己制御性を扱った生田(1999)の研究Ⅲなどの知見

    が役立つと考えられる。具体的には、「お子さんの不登校について家族で話すときは、笑顔を減ら

    してください」と直接的な介入をするのではなく、「お子さんの不登校について家族で話すときは、

    なるべくご自分の意見を言ってください(回避的な言語方略をとらないでください)」と間接的に

    介入する方が、より自然な介入となるだろう。

    第5章 臨床心理学におけるコミュニケーション実験研究との比較 再度繰り返し述べるが、東北大グループの目標は「臨床に役立つ基礎研究」である。本章では、「臨

    床に役立つ」研究という部分に注目して、本邦における臨床心理学的コミュニケーション実験研究

    をいくつか例に引き、東北大グループの研究との比較を行う。そして東北大グループの研究の成果

    とその問題点を明らかにする。

    1.臨床心理学におけるコミュニケーション実験研究の例

     カウンセリング一般におけるコミュニケーション実験研究の例として、玉瀬による一連の研究が

    挙げられる。玉瀬はアイビィ(Ivey A.E.)の開発したマイクロカウンセリングに理論的基盤を置き、

    マイクロカウンセリングで扱われる単一的な技法の効果を検証している。マイクロカウンセリング

    で扱われる単一的な技法は、カウンセリングの基本要素を細かく分割したものであり、コミュニケー

    ションの要素としても理解できる。玉瀬(1998)で報告された研究のうち、コミュニケーション研

    究と見なせるものを表 7 に示した。

     玉瀬の一連の研究は、マイクロカウンセリングに基づき、その単一的な技法の効果を探るという

    ものであった。これに対して、一定のカウンセリング技法に基づかない研究として、カウンセリン

    グ場面のコミュニケーションを探索的に研究した小森・前田・長岡(2007)が挙げられる。小森ら

    (2007)は、模擬カウンセリング場面におけるセラピスト役、クライエント役の身体動作を解析し、

    身体動作の同調傾向がカウンセリングにおいて重要な意味を持つことを明らかにしている。

     個人療法だけでなく家族療法においても、コミュニケーション研究は数多くなされている(たと

    えば、平井・岡本、2001 など)。これらは総じて、家族内のコミュニケーションのあり方を検討し

    たものであるが、そのほとんどが調査研究である。実験研究ではないが、家族内のコミュニケーショ

    ンを実際に観察した研究として、統合失調症家族の家族内コミュニケーションを検討した金子・辻・

    林・古荘(1968)、林(1970)が挙げられる。彼らは統合失調症家族に対して、コンセンサス・ロー

    ルシャッハ法を行い、その時の家族内コミュニケーションを分析している。

  • ―  ―191

      東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集・第2号(2008年)

    2.東北大グループのコミュニケーション実験研究との比較

     東北大グループのコミュニケーション実験研究と臨床心理学におけるコミュニケーション実験研

    究との最大の相違は、どのようなコミュニケーション場面を設定するかである。東北大グループで

    は、家族内の偽解決を構成するコミュニケーションパターンを明らかにすることを目的として、対

    人システム(ある程度の継続性を有する人間関係)を研究対象としている。つまり、東北大グルー

    プは継続性を有する人間関係にある 2 者(具体的には親しい友人、競技ダンスのペア、同室の寮生、

    恋人など)によるコミュニケーション場面を実験的に設定している。これに対して、臨床心理学に

    おけるコミュニケーション実験研究では、面接場面におけるコミュニケーションを明らかにするこ

    とを目的としているため、面接場面そのもの、あるいは模擬面接場面を設定している。臨床心理学

    における研究が面接場面という臨床に近い場面を設定しているのに対し、東北大グループは親しい

    表7 玉瀬による臨床心理学的コミュニケーション実験研究研究Ⅰ 目的

    方法変数

    結果

    印象評定に及ぼすアイコンタクト、腕組み・脚組みの効果条件別に作成した模擬カウンセリングのビデオを見て、参加者に印象評定してもらう<独立変数> アイコンタクトの有無、腕組み・脚組みの有無<従属変数> カウンセラー評定尺度アイコンタクトがあると評定値が高い腕組み・脚組みはとらえ方によって、カウンセラーの印象をよくする事も悪くすることもある

    研究Ⅱ 目的方法変数

    結果

    質問への応答に及ぼすかかわり行動の効果模擬カウンセリングを実施し、参加者の応答を分析する<独立変数> 視線・うなずきの有無、質問の形式(開かれた質問、閉ざされた質問)<従属変数> 応答音節数視線・うなずき、質問形式、ともに応答を促進する

    研究Ⅲ 目的方法変数

    結果

    応答の長さに及ぼす開かれた質問と閉ざされた質問の組み方の効果模擬カウンセリングを実施し、参加者の応答を分析する<独立変数> 開かれた質問と閉ざされた質問の順番(4種類)<従属変数> 応答時間、応答潜時開かれた質問と閉ざされた質問の組み方によって、質問への応答が異なる

    研究Ⅳ 目的方法変数

    結果

    応答の長さに及ぼす開かれた質問の関連性の効果模擬カウンセリングを実施し、参加者の応答を分析する<独立変数> 先行質問の数(1つ、4つ)、質問の関連性の有無<従属変数> 応答時間、応答潜時先行質問の数は応答に影響を与えず、関連性の有無は応答に影響を与える

    研究Ⅵ 目的方法変数

    結果

    応答内容に及ぼす開かれた質問の前置きによる限定性の効果模擬カウンセリングを実施し、参加者の応答を分析する<独立変数> 質問の前置きによる限定(無し、説明的限定、評価的限定)、話題(友人関係、進路)<従属変数> 説明的応答、評価的応答の割合どのように質問の前置きをするかが、応答の仕方に影響を与える

    研究Ⅶ 目的方法変数

    結果

    印象評定に及ぼす最小限の励ましの効果条件別に作成した模擬カウンセリングのビデオを見て、参加者に印象評定してもらう<独立変数> うなずきの量(多い、少ない)、うなずきのタイミング(いい、悪い)<従属変数> カウンセラー評定尺度うなずきが少ない場合には、うなずきのタイミングが重要となるうなずきが多いほうが評定値が高い

    研究Ⅸ 目的方法変数

    結果

    応答に及ぼす聴き手の自己開示の効果模擬カウンセリングを実施し、参加者の応答を分析する<独立変数>  カウンセラー側からの自己開示(なし、家庭に関する開示、性格に関する開示)、

    質問領域(家庭、学校、性格)、質問内容の親密値(高低)<従属変数> 応答時間カウンセラーの自己開示、質問内容の親密値が応答時間に影響を与える

  • ―  ―192

    東北大学短期/家族療法研究グループによるコミュニケーション研究は「臨床に役に立つ基礎研究」なのか?

    関係にある 2 者によるコミュニケーション場面という臨床から遠い場面を設定している点が、両者

    の最大の違いである。この相違については、以下の 2 点から考察する必要があるだろう。第一点は

    面接場面を設定するかどうかの違いである。第二点は対話者同士の関係がどのようなものであるか

    の違いである。

     まず第一点目について考察する。面接場面を設定するかどうかの違いは、個人療法と家族療法

    の治療対象の違いによるものである。個人療法では面接場面で「その場で、そのとき(here & 

    now)」起きていることを第一に考える。そのため、セラピストとクライエントの間で生じている

    その場でのコミュニケーションを重点的に検討する。それに対して、家族療法では家族が日常生活

    の中で行っているコミュニケーションを第一に考える。つまり、家族の中で日常的に行われている

    コミュニケーションが問題を維持していると考える。そのため、日常場面での家族のコミュニケー

    ションに着目した研究が重要となる。金子ら(1968)、林(1970)の研究のように、面接場面での

    家族のコミュニケーションを分析する場合もあるが、それは面接場面に日常場面での家族のコミュ

    ニケーションが投影されていると考えるからである。家族のコミュニケーションそれ自体を研究の

    対象とする場合、個人療法と異なりセラピストとクライエントの間で生じているコミュニケーショ

    ンに着目する必要はないため、必ずしも面接場面を設定する必要はないと考えられる。よって、面

    接場面ではなく、日常のコミュニケーション場面を設定することは、理論的に妥当である。

     つぎに第二点目について考察する。対話者同士の関係がどのようなものであるかの違いについて、

    東北大グループは家族療法の対象はシステム全般であり、家族には限定されないと考える。つまり、

    東北大グループの考えでは、実験参加者はシステムを形成してさえいれば家族である必要はないの

    である。これに対して、臨床心理学におけるコミュニケーション研究の多くは、セラピスト-クラ

    イエント関係を対話者の関係として設定している。理論的に親しい関係にある 2 者と家族がともに

    システムと見なしうることは理解できる。しかし、両者を同じ特徴を持つシステムとして同等に扱

    うことが実証的に妥当であるかどうかは、また別の問題である。この点をこれまでの東北大グルー

    プの研究では実証してこなかった。つまり、親しい関係にある 2 者システムと家族システムにおい

    て、システムの特徴が同等にあらわれるのかを検証してこなかった。したがって、「臨床に役立つ」

    という視点から見たとき、親しい関係にある 2 者(友人、夫婦、恋人同士など)を対象とした面接

    に限定するならば、東北大グループの研究は「臨床に役立つ」研究といえる。しかし、親しい関係

    にある 2 者システムを家族システムと同等の特徴を持ったものと見なし、親しい関係にある 2 者シ

    ステムを対象とした実験研究から得られた結果を家族療法一般の知見と見なすことは、あまりにも

    安直であり、多くの疑問が残るといわざるを得ない。今後、この点を実証的に明らかにしない限り、

    東北大グループのコミュニケーション実験研究は、「親しい関係にある 2 者を対象とした面接に関

    する『臨床に役に立つ』研究」という域を超えることは出来ず、家族療法全般(特に両親と子ども

    といった 3 者以上の構成員からなる家族システム)に適用できる「臨床に役に立つ」研究とは言い

    切れないだろう。

  • ―  ―193

      東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集・第2号(2008年)

    第6章 社会心理学におけるコミュニケーション実験研究との比較 前章では、東北大グループの目標である「臨床に役立つ基礎研究」の内、「臨床に役立つ」とい

    う部分に注目した。本章では「基礎的な」という部分に注目する。以下、本邦における社会心理学

    的コミュニケーション実験研究をいくつか例に引き、東北大グループの研究との比較を行う。そし

    て、東北大グループの研究の成果とその問題点を明らかにする。

    1.社会心理学におけるコミュニケーション実験研究の例

     社会心理学分野では、本邦においても数多くのコミュニケーション実験研究がなされている。対

    象とされる指標は、言語活動性(大坊、1977 など)、発話速度(内田、2002 など)、視線(磯・木村・

    桜木・大坊、2004 など)、うなずき(木村・磯・桜木・大坊、2005 など)、しぐさ・ジェスチャー(荒

    川、2004;藤原、1986 など)、発話スタイル(小川・吉田、1998 など)など、非常に幅広い。ここ

    では、東北大グループが対人システムの指標として採用した話題という変数を取り扱った研究のい

    くつかを紹介する。(表 8 参照)

    2.東北大グループのコミュニケーション実験研究との比較

     東北大グループのコミュニケーション実験研究と社会心理学におけるコミュニケーション実験研

    究との最大の相違は、指標のとらえ方である。両者が対象としている指標は一般的に見られるよう

    なコミュニケーション指標であり、その点、両者は違わない。異なるのは、それらのコミュニケーショ

    ン指標をどのように捉えるかという点である。東北大グループでは、様々なコミュニケーション指

    標のうち、話題を対人システムの指標とし、その他の多くの指標を会話システムの指標としている。

    そして、そのような区別に基づき、システム理論の中心に位置する「システムには自己制御機能が

    ある」という大きな仮説をさまざまな方向から検証してきた。東北大グループがこのような研究ス

    タイルをとってきた理由は、システム理論の実証的検討が「臨床に役立つ」と考えたからである。

    これに対して、社会心理学におけるコミュニケーション実験研究では、様々な指標を同等に扱い、

    表8 話題を指標とした社会心理学的コミュニケーション実験研究大坊(1980) 方法

    変数

    結果

    2者間非対面対話<独立変数> 対話者の親密性3群(相互に高、相互に低、高低)、話題2群(興味高、低)<従属変数> 言語活動性指標興味の高い話題で、言語活動性が大

    磯ら(2004) 方法変数

    結果

    3者間対面対話<独立変数> 視線量2群(高、低)、視線配分ズレ2群(高、低)<従属変数> 印象評定★話題ごと(討論条件、親密条件)に分析討論条件と親密条件では、視線量・視線配分のズレと印象形成との関係が異なる

    木村ら(2005) 方法変数

    結果

    3者間対面対話笑顔生起量、うなずき生起量、笑顔マッチング数、うなずきマッチング数、会話満足度、非言語的表出性得点★話題ごと(討論条件、親密条件)に相関分析親密条件では、笑顔の生起量が多い討論条件と親密条件では、変数間の関係が異なる

  • ―  ―194

    東北大学短期/家族療法研究グループによるコミュニケーション研究は「臨床に役に立つ基礎研究」なのか?

    つまり、ある指標を時に独立変数として、時に従属変数として扱い、それぞれの指標間の関係を探

    索的に、あるいは仮説生成的に検討してきた。その結果、東北大グループは「システムの自己制御

    性」という仮説の下、研究を包括的に行うことができた。それに対して、社会心理学ではコミュニ

    ケーションに関するミニ理論が散在し、統一的な理論構築へとは至らなかった(和田、1987)。こ

    の相違は、コミュニケーション指標を区別するかしないかによる帰結だろう。

     上記したことは裏返せば、もし東北大グループの研究における指標の区別が無意味ならば、それ

    は社会心理学で行われているコミュニケーション実験研究となんら変わらない、つまり、それぞれ

    のコミュニケーション指標間の関係を検討しているにすぎないということである。果たして東北大

    グループの行ったコミュニケーション指標の区別(話題の葛藤度を対人システムの指標と見なし、

    その他のコミュニケーション指標を会話システムの指標と見なすこと)に問題はないのであろうか。

    われわれは、様々なコミュニケーション指標を区別することに関しては、問題はないと考える。例

    えば、様々なコミュニケーション指標を言語的指標と非言語的指標に区別することに問題はない。

    というのも、両者の区別は言語的なものかどうかという明確な基準を持っているからである。ある

    いは、伊藤(1991)、大坊(1977)のように因子分析の結果に基づきコミュニケーション指標をい

    くつかに区別することにも問題はないだろう。両者の区別は因子分析に基づいており、明確な基準

    を持っている。つまり、区別の基準が明確ならば、さまざまな指標を区別することは問題ないと考

    えられる。東北大グループの区別の基準は、それが対人システムの指標であるか、会話システムの

    指標であるかという点にある。しかし、コミュニケーション指標の区別の前に、そもそも対人シス

    テムと会話システムの明瞭な概念的区別がなされておらず、関係が曖昧である。この両者の構成概

    念の曖昧さが、指標の区別の曖昧さを生み出している。事実、東北大グループの研究においては、

    対人システムと会話システムとの対比を前提としながら、話題以外のコミュニケーション指標(マ

    ネジメント行動)を対人システムの指標として理解するということが多々見られる(若島、1999;

    2000a;2000b;2000c;生田、1999;2000;生田ら、1999;花田、2003)。この指標の問題を考慮に

    入れるとき、東北大グループの研究は様々なコミュニケーション指標間の関係を検証するという意

    味では、つまり、社会心理学的コミュニケーション研究としては、「基礎的な」あるいは実証的な

    研究であるといえるだろう。しかし、東北大グループが目標としていたシステム理論を検証すると

    いう意味では、これまでの研究は各コミュニケーション指標の区別が明確な基準に基づかずに行わ

    れているため、「基礎的な」、あるいは科学的な研究とは言えない。対人システムと会話システムの

    概念的区別がなされた上で、つまり、明確な基準に基づくコミュニケーション指標の区別がなされ

    た上で実験研究を行わない限り、東北大グループの研究をシステム理論に関する「基礎的な」、あ

    るいは科学的な研究と言うことはできないだろう。

    第7章 さいごに 以上、東北大グループの行ってきたコミュニケーション実験研究を展望した。そして、臨床心理

    学、社会心理学、それぞれにおけるコミュニケーション実験研究との比較を通じて、「東北大グルー

  • ―  ―195

      東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集・第2号(2008年)

    プの研究は臨床に役立つ研究なのか」「東北大グループの研究は基礎的な研究なのか」という問い、

    あるいは「東北大グループの研究は実践的なのか」「東北大グループの研究は科学的なのか」とい

    う問いに一つの答えを示した。ここまでで明らかになった東北大グループのコミュニケーション実

    験研究の問題点は、以下の 2 点である。第一点は、これまでに行われてきた研究において実験参加

    者として設定されたのが、主に親しい関係にある 2 者であるという点である。親しい関係にある 2

    者を家族と同等の性質を持つ対人システムとして扱うことは、理論的には問題ない。しかし、それ

    らが同等の性質を持つという点が実証されていない以上、東北大グループの研究成果を家族療法一

    般に適用することはいささか安直である。この点を実証しない限り、東北大グループの研究が家族

    療法の観点から、「臨床に役に立つ」、あるいは実践的な研究であるとは言えないだろう。第二点は、

    対人システムと会話システムの概念的区別、そして、指標を区別が明確な基準に基づくものではな

    いという点である。話題の葛藤度を対人システムの指標とし、その他のコミュニケーション指標を

    会話システムの指標とすることで、対人システムの自己制御性、つまり、対人システムの変化に伴

    い会話システムがその変化を抑制するように変化することを、東北大グループは検証することがで

    きた。対人システムの指標と会話システムの指標を区別する明確な基準を示さない限り、東北大グ

    ループの研究がシステム理論の「基礎的な」、つまり科学的な研究であるとは言えないだろう。

     東北大グループはシステム理論、ひいては家族療法の「基礎的な」研究を目指して、実験参加者

    を家族ではなく、親しい関係にある 2 者とした。しかしその結果、東北大グループの研究は家族療

    法という視点から見たとき、部分的にしか「臨床に役立つ」と言えないものになってしまった。ま

    た、東北大グループは「臨床に役立つ」ことを第一に考え、コミュニケーション研究にシステム理

    論という枠組みを与えた。その結果、概念および指標があいまいに定義され、東北大グループの研

    究はシステム研究という枠組みから外れ、単なるコミュニケーション研究となってしまった。「臨

    床に役立つ」(実践性)と「基礎的な」(科学性)という 2 つのテーマの間で、東北大グループの研

    究はうまくバランスを保てなかったのである。

     上記したように、東北大グループのコミュニケーション実験研究は、家族療法の観点で考える「臨

    床に役立つ基礎研究」にはまだ至っていない。ただし、目標には達していないが、その研究が「臨

    床に役立つこと」「基礎的であること」という 2 つの目標に向かっているとは言えるだろう。東北

    大グループが生み出した最大の成果は、家族療法の理論的基盤のひとつであるコミュニケーション

    理論とシステム理論を実証可能な形に翻訳し、不完全な形ではあるが、ひとつの研究モデルを提示

    したことである。具体的には、『語用論』(Watzlawick P. et al, 1967)の第 2 定理から「マネジメ

    ント行動」を、システムの階層性から「対人システム」「会話システム」を操作的に定義したこと

    である。MRI 短期/家族療法に限らず、家族療法の根幹にあるのは、システム論の成熟に伴う認

    識論的転回である(Hoffman L., 1981/2006)。このように、家族療法は非常に豊かな哲学的背景を

    有する。その意味では、家族療法のもつこの醍醐味を活かした形で「臨床に役立つ基礎研究」を行

    うことは、臨床心理学一般の研究よりもはるかに難しいことかもしれない。いわば、実践性、科学

    性に加え、哲学性を備えた研究が家族療法には必要なのかもしれない。本論文で明らかとなった問

  • ―  ―196

    東北大学短期/家族療法研究グループによるコミュニケーション研究は「臨床に役に立つ基礎研究」なのか?

    題点(実験参加者の問題、および「対人システム」「会話システム」の概念的・操作的区別の問題)

    を再検討し、研究モデルを精緻化していく中で、われわれは家族療法に根ざした「臨床に役立つ基

    礎研究」へと今以上に近づくことができるだろう。

    【引用文献】秋元健太郎 2003 日本家族心理学会第20回発表抄録集、67 

    秋元健太郎・中島志保・佐藤宏平・長谷川啓三 2002 機能的側面から見たマネージャー行動特定の試み 日本家族

    心理学会第19回発表抄録集、38

    荒川歩 2004 しぐさの量についての性ステレオタイプに関する検討 パーソナリティ研究、13、106-107

    大坊郁夫 1977 2人間コミュニケーションにおける言語活動性の構造 実験社会心理学研究、17、1-13

    大坊郁夫 1980 2人会話行動における対人的親近性認知の効果 実験社会心理学研究、20、9-21

    花田里欧子 2001 潜在的葛藤状況におけるコミュニケーションに関する研究―発話行為への注目― 学校カウンセ

    リング研究、4、9-18

    花田里欧子 2002 葛藤的意思決定状況におけるコミュニケーションに関する研究 家族心理学研究、16、1-12

    花田里欧子 2003 葛藤的意思決定場面における会話スタイルに関する語用論的研究 家族心理学研究、17、13-24

    長谷川啓三 1987 家族内パラドックス 彩古書房

    長谷川啓三 1991 構成主義とことば、短期療法の関係 現代のエスプリ287構成主義―ことばと短期療法 長谷川

    啓三編 創元社 5-16

    長谷川啓三 1998 コミュニケーションのマネジメント側面について 家族療法研究、15、13-17

    Hasegawa K.・Kodama M.・Ushida Y. 1996 Interactional gesutures. MRI Interactional Conference  in Vienna 

    Manuscript.

    長谷川啓三・児玉真澄・牛田洋一・若島孔文 1996 インタラクティブ・ジェスチャーズ 家族心理学年報、14、

    233-245

    長谷川啓三・若島孔文・渡部敦子・斉藤聡子・佐藤宏平 1998 コミュニケーションのマネージメント的側面に関する

    実験的研究 (Ⅰ) 日本家族心理学会第15回発表抄録集、18

    林正延 1970 精神分裂病家族のコミュニケーション 精神神経学雑誌、72、618-635

    平井滋野・岡本祐子 2001 食事中の会話からみる家族内コミュニケーションと家族の健康性および心理的結合性の

    関連の検討 家族心理学研究、15、125-139

    Hoffman L. 1981 Foundations of Family Therapy: A Conceptual Framework for Systems Change. Basic Books.

     〔亀口憲治訳 2006 家族療法の基礎理論―創始者と主要なアプローチ 朝日出版〕

    藤原武弘 1986 態度変容と印象形成に及ぼすスピーチ速度とハンドジェスチャーの効果 心理学研究、57、200-206

    生田倫子 1999 葛藤場面における表情の自己制御的機能について カウンセリング研究、32、157-162

    生田倫子 2000 対人システムにおける自己制御的機能に関する研究 家族心理学研究、14、29-40

    生田倫子・若島孔文・長谷川啓三 1999 笑顔の自己制御的機能について ―表情と葛藤方略との関連性― 家族心

    理学研究、13、115-122

    石井佳世 2007 問題言及場面におけるコミュニケーションに関する臨床心理学的研究―問題の維持と変化の観点か

    ら― 東北大学大学院教育学研究科平成18年度博士論文(未公刊)

  • ―  ―197

      東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集・第2号(2008年)

    磯友輝子・木村昌紀・桜木亜希子・大坊郁夫 2004 視線行動が印象形成に及ぼす影響-3者間会話場面における非言

    語的行動の果たす役割- 対人社会心理学研究、4、83-91

    伊藤哲司 1991 ノンバーバル行動の基本的な表出次元の検討 実験社会心理学研究、31、1-11

    金子仁郎・辻悟・林正延・吉荘和郎 1968 精神分裂病家族の家族内コミュニケーション 精神医学、10、781-787

    木村昌紀・磯友輝子・桜木亜希子・大坊郁夫 2005 3者間会話場面に視覚メディアが果たす役割-笑顔とうなずきの

    表出、及びそれらの行動マッチングに注目して- 対人社会心理学研究、5、39-47

    小森正嗣・前田恭平・長岡千賀 2007 ビデオ解析による身体動作同調傾向の定量化手法の提案-カウンセリングを

    題材として- 対人社会心理学研究、7、41-48

    中島志保・佐藤明子・生田倫子・佐藤宏平・長谷川啓三 2001 機能的側面から見たマネージメントコミュニケーショ

    ンの分類の試み 日本家族心理学会第18回発表抄録集、26

    小川一美・吉田俊和 発話スタイルがパーソナリティ認知に及ぼす影響―決めつけ型発話と会話場面の観点から― 

    名古屋大学教育学部紀要(心理学)、45、9-15

    佐藤宏平 2006 抑うつの持続メカニズムに関する研究―抑うつの相互作用モデルの精緻化と拡張― 東北大学教育

    学研究科平成17年度博士論文(未公刊)

    下山晴彦 1991 臨床における実践研究 In 心理学研究法入門 南風原朝和・市川伸一・下山晴彦編 東京大学出

    版会 191-218

    玉瀬耕司 1998 カウンセリング技法入門 教育出版

    富永健一 1995 行為と社会システムの理論―構造 - 機能 - 変動理論をめざして 東京大学出版会

    内田照久 2002 音声の発話速度が話者の性格印象に与える影響 心理学研究、73、131-139

    吉田美穂子 2006 電子メールがコミュニケーションに及ぼす影響に関する臨床心理学的研究―悪循環を断つ介入と

    しての視点から― 東北大学教育学研究科平成17年度修士論文(未公刊)

    遊佐安一郎 1984 家族療法入門―システムズ・アプローチの理論と実践 星和書店

    von Bertalanffy L. 1968 General System Theory: Foundations, Development, Applications. Braziller.〔長野敬・

    太田昌邦訳 1973 一般システム理論―その基礎・発展・応用 みすず書房〕

    和田実 1987 Argyle & Dean の親和葛藤理論に関する再検討 実験社会心理学研究、26、181-191

    若島孔文 1996 相互作用的ジェスチャーの確証―相互作用的ジェスチャーと家族療法の関係性について― 家族心

    理学研究、10、91-103

    若島孔文 1997 非言語的マネージメント・コミュニケーションと対話者の関係性の認識の影響―家族システムにお

    ける第二次変化を求めて― カウンセリング研究、30、227-233

    若島孔文 1999 ディスクオリフィケーションを予測する問題―相互作用モデルの提案―夫婦の葛藤的会話分析から

    ― 家族療法研究、16、34

    若島孔文 2000a 脱文脈コミュニケーションの生起を予測する問題―相互作用モデルの確証―MRI コミュニケー

    ション理論の視点から― 学校カウンセリング研究、33、148-155

    若島孔文 2000b 葛藤場面に埋め込まれた矛盾するメッセージの伝達とディスクオリフィケーション―二重拘束理

    論の臨床心理学的研究― カウンセリング研究、3、9-18

    若島孔文 2000c 二重拘束的コミュニケーションが生起する状況について ―問題-相互作用モデルの検討から―

     愛知学院大学大学院文学研究科文研会紀要、11、75-92

    若島孔文 2001 コミュニケーションの臨床心理学―臨床心理言語学への招待 北樹出版

  • ―  ―198

    東北大学短期/家族療法研究グループによるコミュニケーション研究は「臨床に役に立つ基礎研究」なのか?

    若島孔文・長谷川啓三 2000 よくわかる!短期療法ガイドブック 金剛出版

    若島孔文・生田倫子 1999 短期/家族療法の文脈におけるコミュニケーション倫理の展開―「人間コミュニケー

    ションの語用論」の第一定理の修正をめぐる討論とその展開― 学校カウンセリング研究、2、43-50

    若島孔文・松井博史 2004 情報回帰速度モデルの理論的研究(Ⅱ) 日本家族心理学会第21回大会発表抄録集、76

    若島孔文・松井博史 2005 家族の境界とは何か―情報回帰の速度 In 現代のエスプリ454臨床の語用論 長谷川

    啓三編 創元社 185-190

    若島孔文・生田倫子・長谷川啓三 1999 葛藤的会話場面における脱文脈コミュニケーションの研究―問題―相互作

    用モデルの確証とその修正― 家族療法研究、16、187-195

    渡部敦子・長谷川啓三 1998 Interpersonal words!―日記文と手紙文を比較して― 日本家族心理学会第15回発表

    抄録集、4-5

    Watzlawick  P.・Bavelas  J.B.・Jackson D.D. 1967 Pragmatics  of Human Communication: A Study  of 

    Interactional Patterns, Pathologies, and Paradoxes.  W W Norton & Co Inc. 〔尾川丈一訳 1998 人間コミュ

    ニケーションの語用論―相互作用パターン、病理とパラドックスの研究 二瓶社〕

    Watzlawick P.・Fish R.・Weakland J.H. 1974 Change; Principles of Problem Formation and Problem Resolution.

      W W Norton & Co Inc. 〔長谷川啓三訳 1992 変化の原理―問題の形成と解決 法政大学出版会〕

    Weakland J.H.・Fish R.・Watzlawick P.・Bodin A.M. 1974 Brief Therapy: Focused Problem Resolution. Family 

    Process、13、141-168

  • ―  ―199

      東北大学大学院教育学研究科研究年報 第56集・第2号(2008年)

     Tohoku University brief/family  therapy group  (Tohoku University group) has been doing 

    "useful basic  researches  for  therapy" based on Mental Research  Institute  (MRI) brief/family 

    therapy for some twenty years. The purpose of this study is to review a series of communication 

    studies by Tohoku University group, and to clarify their fruits and problems from the viewpoints 

    of practice and evidence. We compare them with the communication studies in clinical psychology 

    from the viewpoint of practice, and with the communication studies in social psychology from the 

    viewpoint of evidence. The results of this study are the followings.

    1.   Tohoku University group propose a new research model  to verify Communication theory 

    and System theory. To put it concretely, Tohoku University group conceives new concepts; 

    "Management behavior", "Interpersonal system" and "Conversation system". 

    2.   The research model proposed by Tohoku University group has  two problems  from the 

    viewpoints of practice and evidence. One is the problem about participants, the other is the 

    problem of concepts and indexes.

     Unless Tohoku University group overcomes above  two problems,  their  studies can not be 

    "useful basic researches for therapy".

    Keywords: Mental Research Institute brief/family therapy, Management behavior, Conversation 

    system, Interpersonal system

    Are the communication studies by Tohoku university brief/

    family therapy group "useful basic researches for therapy" ?― comparison with the communication studies in clinical psychology and social psychology ―

    Tomoo ADACHIKeiko SATO

    Shinya TAKIZAWARie KOSHIMICHI

    Norimasa ITAKURANatsuki OKAAi HUKUDA

    (Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)

    研究年報56集2号 182研究年報56集2号 183研究年報56集2号 184研究年報56集2号 185研究年報56集2号 186研究年報56集2号 187研究年報56集2号 188研究年報56集2号 189研究年報56集2号 190研究年報56集2号 191研究年報56集2号 192研究年報56集2号 193研究年報56集2号 194研究年報56集2号 195研究年報56集2号 196研究年報56集2号 197研究年報56集2号 198研究年報56集2号 199研究年報56集2号 200研究年報56集2号 201研究年報56集2号 202