東京地下鉄 15000系通勤形直流電車 · 2011. 11. 22. · 東京地下鉄...

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東京地下鉄 15000 系通勤形直流電車 93 東京地下鉄 15000 系通勤形直流電車 ※上 かみ むら かず まさ 写真 1 外観 要旨 東京地下鉄株式会社(東京地下鉄)は、2010 年 4 月 1 日現在、東西線用として 05 系の 43 編成及び 07 系の 6 編成の合わせて 49 編成(490 両)を保有している。このうち、2010 年から 2012 年にかけて、05 系 13 編成(130 両)を 15000 系ワイドドア車に更新することにした。 東西線では、沿線人口の増加によって生じているラッシュ時間帯の遅延対策が求められていた。この対策の一 つとしてオールワイドドア新造車両の投入に至った経緯と、さらなる省エネルギー性能向上を目指した 15000 系 車両の設計コンセプト、基本性能、車体、客室及び主要機器について紹介する。 (編集部注:05 系(13 次車)は本誌 229 号-2005 年 3 月、10000 系は 233 号-2007 年 3 月参照) 1 はじめに 東京地下鉄東西線は、1964(昭和 39)年の“高田馬場 駅~九段下駅”の 4.8 ㎞の開通を始めとして、約 5 年間の 歳月を費やして順次延伸開業を行い、1969(昭和 44)年 の“東陽町駅~西船橋駅”の 15.0 ㎞の開通をもって“中 野駅~西船橋駅”の全線 30.8 ㎞が開通し、現在に至って いる。 近年の東西線は、沿線に住宅地域を抱え、朝のラッシュ 時の慢性的な遅延が問題視され、さらに今後も沿線人口は、 微増傾向にあるものと予測されていることから、東京地下 鉄では、全社一丸となって輸送改善に取り組んできた。 これまでに、ホーム整理員及び警備員の増員、一部の駅 での停止位置の変更、朝のラッシュ時の快速運用は浦安駅 から東陽町駅間を各駅停車とする通勤快速運用に変更する などの対応を実施して、遅延防止を図っているが、車両に ついても、駅停車時間の短縮が可能な構造を検討すること となった。 既に、東西線の 05 系車両では、全43 編成中の5 編成(第 14 編成から第 18 編成)で、側引戸の幅を従来の 1 300 ㎜ から 500 ㎜拡大させた 1 800 ㎜幅のワイドドア車両(ただ し、先頭車乗務員室寄りのドアのみ従来の 1 300 ㎜)を導 ※ 東京地下鉄㈱ 車両部設計課 写真 2 室内

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Page 1: 東京地下鉄 15000系通勤形直流電車 · 2011. 11. 22. · 東京地下鉄 15000系通勤形直流電車 95 その他の主要設備空調装置 形式/質量(㎏) cu768a

東京地下鉄 15000 系通勤形直流電車 93

東京地下鉄 15000 系通勤形直流電車※上

かみ

 村むら

 一かず

 正まさ

 

写真 1 外観

要旨東京地下鉄株式会社(東京地下鉄)は、2010 年 4 月 1 日現在、東西線用として 05 系の 43 編成及び 07 系の 6

編成の合わせて 49 編成(490 両)を保有している。このうち、2010 年から 2012 年にかけて、05 系 13 編成(130両)を 15000 系ワイドドア車に更新することにした。東西線では、沿線人口の増加によって生じているラッシュ時間帯の遅延対策が求められていた。この対策の一

つとしてオールワイドドア新造車両の投入に至った経緯と、さらなる省エネルギー性能向上を目指した 15000 系車両の設計コンセプト、基本性能、車体、客室及び主要機器について紹介する。(編集部注:05 系(13 次車)は本誌 229 号-2005 年 3 月、10000 系は 233 号-2007 年 3 月参照)

1 はじめに東京地下鉄東西線は、1964(昭和 39)年の“高田馬場

駅~九段下駅”の 4.8 ㎞の開通を始めとして、約 5年間の歳月を費やして順次延伸開業を行い、1969(昭和 44)年の“東陽町駅~西船橋駅”の 15.0 ㎞の開通をもって“中野駅~西船橋駅”の全線 30.8 ㎞が開通し、現在に至っている。近年の東西線は、沿線に住宅地域を抱え、朝のラッシュ

時の慢性的な遅延が問題視され、さらに今後も沿線人口は、微増傾向にあるものと予測されていることから、東京地下鉄では、全社一丸となって輸送改善に取り組んできた。これまでに、ホーム整理員及び警備員の増員、一部の駅

での停止位置の変更、朝のラッシュ時の快速運用は浦安駅から東陽町駅間を各駅停車とする通勤快速運用に変更するなどの対応を実施して、遅延防止を図っているが、車両についても、駅停車時間の短縮が可能な構造を検討することとなった。既に、東西線の 05 系車両では、全 43 編成中の 5編成(第

14 編成から第 18 編成)で、側引戸の幅を従来の 1 300 ㎜から 500 ㎜拡大させた 1 800 ㎜幅のワイドドア車両(ただし、先頭車乗務員室寄りのドアのみ従来の 1 300 ㎜)を導

※ 東京地下鉄㈱ 車両部設計課

写真 2 室内

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車両性能

最高運転速度(㎞/h) 100加速度(m/s2) 0.92(3.3 ㎞/h/s)減速度(m/s2)

常用 0.97(3.5 ㎞/h/s)非常 1.39(5.0 ㎞/h/s)

ユニット当りの定格(ユニットの構成)

出力(kW) 1 800(M1+M2)、900(Mc1)速度(㎞/h) 40

引張力(kN)200(M1+M2)、100(Mc1)※満車時

動力伝達方式平行カルダン方式(WN継手式)

ブレーキ制御方式ATC 連動電気指令式電空併用(回生ブレーキ付き)、遅込め制御、電気停止ブレーキ

制御回路電圧(V) DC 100抑速制御 なし

運転保安装置CS-ATC(地下鉄)、WS-ATC(東葉高速)、ATS-P(JR東日本)

列車無線

誘導無線装置(地下鉄・東葉高速)ディジタル/アナログ併用空間波無線装置(JR東日本)

非常時運転条件

360 m 以上連続する曲線半径 200 m、35 ‰上りこう配にて同一荷重条件の起動不能列車を連結し、起動可能。また、併合せず上記条件にて 8MM開放にて起動可能。

その他主回路設備の故障時に4MM単位で開放が可能。

電気駆動系主要設備

集電装置

形式/質量(㎏) PT-7136G / 118方式 シングルアーム式

制御装置

形式/質量(㎏)

MAP-238-15 V211 / 4 453(2群制御)MAP-234-15 V212 / 2 159(1群制御)

制御方式2レベル PWM制御 IGBTVVVFインバータ制御

仕様4MM制御×2群×2ユニット4MM制御×1群×1ユニット

主電動機

形式/質量(㎏) MM-HEI5(MB-5051-C)/ 590方式 三相かご形誘導電動機1時間定格(kW) 225回転数(min - 1) 2 310特記事項 PGセンサレス

主回路標準限流値

力行(A)ブレーキ(A)

電気ブレーキの方式 回生ブレーキブレーキ抵抗器

形式/質量(㎏) -

補助電源設備

補助電源装置

形式/質量(㎏) INV-154-G0 / 3 148(変圧器含む)方式 静止形インバータ出力 240 kVA

蓄電池種類/質量(㎏) 焼結式アルカリ蓄電池 / 621容量(Ah) 80 (5 時間率)主な用途 制御用

表 1 東京地下鉄 15000 系 通勤形直流電車 車両諸元

会社・車両形式 東京地下鉄㈱ 15000 系

使用線区東西線、JR東日本中央緩行線・総武緩行線、東葉高速鉄道東葉高速線

軌間(㎜) 1 067

基本編成 CT1-M1'-M2-T-Mc1-Tc-T'-M1-M2'-CT2 使用線区の最急こう配 35 ‰用途 通勤用 電気方式 直流 1 500 V車体製作会社 ㈱日立製作所 製造初年 2010 年台車製作会社 住友金属工業㈱ 1次製作両数 130 両主回路装置製作会社 三菱電機㈱ 車両技術の掲載号 240

凡例  ●;駆動軸 ○;付随軸 VVVF;主制御装置 SIV;補助電源装置 CP;空気圧縮機 BT;蓄電池 <;パンタグラフ ◎;車いすスペース

   連結器 ▽;密着 +;半永久個別の車種形式 15100 15200 15300 15400 15500 15600 15700 15800 15900 15000車種記号(略号) CT1 M1' M2 T Mc1 Tc T' M1 M2' CT2空車質量(t) 26.9 33.6 34.0 24.3 32.5 24.3 24.1 33.8 33.9 26.9定員(人) 143 155 154 154 154 154 154 154 155 143うち座席定員(人) 38 42 44 44 44 44 44 44 42 38特記事項 全車全箇所ワイドドア(開口幅 1 800 ㎜)仕様

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東京地下鉄 15000 系通勤形直流電車 95

その他の主要設備

空調装置

形式/質量(㎏) CU768A / 820

方式ON/OFF制御方式全自動モード付き

容量(kW) 58

暖房装置容量(kW) 0.75形式/質量(㎏) STN99 / 4(1 台当たり)

標識灯前灯 HID尾灯 赤色 LEDその他

その他

空気ブレーキ設備

電動空気圧縮機

形式/質量(㎏) MBU331D / 540圧縮機容量 1 600 ㍑ /min 圧縮機方式 スクロール回転式

空気タンク元空気タンク

第 1タンク 340 ㍑第 2タンク 220 ㍑

供給空気タンク 120 ㍑

ブレーキ装置 形式/質量(㎏)C02CT / 146(T車)C02CM / 164(M車)

台   

形式M台車 FS778MT台車 FS778T、FS778CT(先頭部)

支持装置車体 ボルスタ式軸箱 モノリンク式

けん引装置 ボルスタアンカばね方式 空気ばね、コイルばね軸距(㎜) 2 100

ばね定数

まくらばね265(M)、255(Mc1)、265(CT)230(T)空車時 1個当たり

軸ばね

コイルばね733 ~ 21 58(M)543 ~ 1 454(T)583~1 579(CT) 総

1 160 ~2 585(M)970 ~1 881(T)1 010 ~2 006(CT)

防振ゴム 290

(N/㎜) リンクばね 137

台車最大長さ(㎜) 3 020、3 145(先頭部)車輪径(㎜) 860基礎ブレーキ

M台車 踏面片押し式ユニットブレーキT台車 踏面片押し式ユニットブレーキ

ブレーキ倍率 3.4

制輪子M台車 鋳鉄ブロック入り合成制輪子T台車 鋳鉄ブロック入り合成制輪子

ブレーキシリンダ・個数

M台車 4T台車 4

駆動方式 平行カルダン歯数比(減速比) 7.79(14:109)継手 WN式(歯車形たわみ継手)軸受 密封複式円筒ころ軸受

質量(kg)M台車 6 750T 台車 4 340、4 440(先頭部)

その他

車体の構造・主要寸法

構体材料/構造アルミニウム合金/ダブルスキン・FSW

車両の前面形状 非常用貫通扉付き運転室 全室

長さ(㎜)先頭車 20 100中間車 19 500

連結面間距離(㎜)

先頭車 20 520中間車 20 000

心皿間距離(㎜) 13 800車体幅(㎜) 2 850

高さ(㎜)屋根高さ 4 022屋根取付品上面 4 080(パンタ折りたたみ)

床面高さ(㎜) 1 140

車体特性・構造及び主要設備

相当曲げ剛性(MNm2) 12×103

相当ねじり剛性(MNm2/rad) 30.7×10曲げ固有振動数(㎐) 13.5ねじり固有振動数(㎐) 4.8内装材 メラミン化粧板側窓構造 下降式妻引戸 片引戸

側扉構造 両引戸 1 800 ㎜片側数 4

戸閉め装置形式 Y4R-5A方式 単気筒複動式戸閉め機

腰掛方式 縦形(ロングシート)車体連結装置

先頭車 密着連結器中間車 半永久連結器

空調換気システム

冷房方式 屋根上集中形暖房方式 腰掛下シーズ線ヒータ換気方式 自然換気配風方式 天井ダクト

車内主要設備

照明方式 直接照明 蛍光灯移動制約者設備

車いすスペース

便所 -汚物処理 -

その他 全車ワイドドア仕様

その他の主要設備

主幹制御器形式/質量(㎏) KL-6051 / 60方式 左手操作ワンハンドル

速度計装置直動式指示形(車内信号付き)

車両情報制御システム

モニタ装置 TIS 装置モニタ表示器 液晶カラーモニタ

非常通報装置 通話機能付き非常通報装置行先表示器

前面 フルカラー+白色 LED側面 フルカラー+白色 LED

車内案内表示 液晶 17 インチワイド 2台/扉

放送車内向け スピーカ 5台(自動放送付き)車外向け スピーカ 4台(片側・両側切替可)

車両間連結電気系 ジャンパ連結器空気管系 空気ホース

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をす

図1 編成図

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東京地下鉄 15000 系通勤形直流電車 97

図 2- 1 形式図 15100(CT1)

図 2- 2 形式図 15200(M1’)、15800(M1)

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図 2- 4 形式図 15400(T)、15600(Tc)、15700(T’)

図 2- 3 形式図 15300(M2)、15900(M2’)

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東京地下鉄 15000 系通勤形直流電車 99

図 2- 6 形式図 15000(CT2)

図 2- 5 形式図 15500(Mc1)

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入しており、これらの編成によって乗降時間を実測し、東西線の遅延緩和に適した構造を検討していた。一方、東京地下鉄日比谷線の 03 系車両(8両編成)では、

全 42 編成中の 20 編成で、編成両端の各 2両の計 4両を 5扉車とした編成を導入している。03 系多扉車両方式でも、ホームと連絡する階段位置付近などの乗降客の集中する場所が、5扉車でなく 3扉車付近となった場合は、3扉車両の乗降時間が支配的となるため、5扉車を含む編成でも、階段位置などの駅の構造によっては、停車時間にほとんど差異がないケースがあった。東西線の駅構造は、日比谷線ではホームの階段が編成両

端付近に集中しているのに対して、階段位置が各駅で異なるため、多扉車両を導入して乗降時間短縮を図るには、10両中 7両程度を多扉車両にする必要があることがわかった。しかし、多扉車両を採用した場合、ワイドドア車両と比較して座席定員が減少し、大幅なサービス低下につながることが問題となった。前記の 05 系ワイドドア車両での検討結果では、すべて

の車両がワイドドア(両先頭車の一部を除く)であるため、乗降客の集中する場所の違いに左右されず、ワイドドアでない編成と比較して、停車時間に最大約 4秒の短縮効果が

見られた。そこでワイドドア車両の編成を増して、乗降時間及び駅停車時間の短縮を図ることとした。ワイドドア車両の必要編成数を決定するに当たって、朝のラッシュ時の最混雑時間帯を調査したところ、西船橋駅から中野駅へ向かう車両で、日比谷線との接続駅になっている茅場町駅に午前 7時54 分から 8時 36 分の間に到着する時間帯であることが判明した。この結果、その時間帯を運行する全列車(他社乗入車両を除く)をワイドドア車両で運行させることで、遅延緩和につながると判断し、車両の運用や定期検査などで最混雑時間帯を運行するワイドドア車両が不足しないよう、最終的に 15000 系 13 編成(130 両)を導入し、既存のワイドドア車両と合わせて 18 編成(180 両)とすることに決定した。

2 車両形式車両形式は、当初、05 系 14 次車として計画していたが、東京地下鉄の標準車両としている副都心線 10000 系車両と同等の仕様であることから、今回のワイドドア車両は、10000 系シリーズと位置付けて、15000 系とした。

2800

1140

2495

1660

2230

1810

1850

210

210

265

270

300

387

図 3 車体断面図

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東京地下鉄 15000 系通勤形直流電車 101

3 主要諸元・性能編成形態は、東西線の場合、4M6T と 5M5T の 2種類

の実績があるが、制御装置と主電動機の特性、力行・回生を含めたトータルバランスを考慮した結果、5M5Tとした。起動加速度は、05 系及び 07 系と同様の 0.92 m/s2(3.3

㎞/h/s)とし、減速度も地上保安装置設計値に合わせるため、従来と同様の非常 1.39 m/s2(5.0 ㎞/h/s)、常用0.97 m/s2(3.5 ㎞/h/s)としている。設計最高速度は、10000 系は 120 ㎞/h であったが、15000 系では乗入れ路線の条件から 110 ㎞/h(設計最高速度)とし、モータ特性上の高効率領域を勘案した結果、駆動装置の歯数比を 7.79(14:109)として省エネルギー性能を向上させている。

4 車体車体側面の窓及び側引戸の配置は、05 系ワイドドア車

と同様であるが、05 系ワイドドア車は、先頭車乗務員室寄りの側引戸が 1 300 ㎜であるのに対し、15000 系は、すべての側引戸を 1 800 ㎜のワイドドアとした。車体寸法は、すべてをワイドドアとするために先頭車のみ、車両長を05 系ワイドドア車及び標準ドア車の 19 850 ㎜から 250 ㎜延長して 20 100 ㎜とし、中間車は従来通りの 19 500 ㎜とした。また、床面高さは、ホーム高さの 1 100 ㎜に対して、05 系 13 次車と同様の 1 140 ㎜とすることで段差の解消を図った。構体は、2004 年に導入した 05 系 13 次車(全車開口幅1 300 ㎜の側引戸)の構体を基本にワイドドアとすることで設計した。アルミニウム合金ヘアライン仕上げのオールダブルスキン構体とし、接合は FSW(摩擦攪

かくはん

拌接合)を基本として高精度で、ひずみの少ない構体とした。車体コーナ部の隅柱は、板厚の大きい三角形の断面形状を台枠から屋根構体まで通して側構体のダブルスキンと接合する構造とすることで、オフセット衝突に対する強度を向上させている。また、構体に使用しているダブルスキン部材、柱、はり、けたなどのアルミ合金の種類を 6N01 系に統一し、リサイクル性の向上を図った。構体強度面において、今回のワイドドア車体は、05 系

13 次車の車体と比較して、側出入口の開口部面積が拡大することから、車体剛性の低下が見込まれたため、軒けた部から側構体にかけて、使用する形材の板厚を増して、車体全体の剛性を向上させるとともに、側出入口フレームを

一体曲げ構造として、強度を向上させた。これによって、05 系 13 次車と同等の車体剛性を確保した。

5 デザイン5.1 エクステリアデザイン05 系 13 次車の構体を基本にワイドドアとする以外は、同一仕様としたが、形式を 15000 系として 10000 系シリーズに位置付けたこと及び新しいワイドドア車を導入したことをアピールするため、外観デザインを一新することとした。ラインカラーは、東西線カラーのスカイラインを基調とし、前面のラウンド形状部から軒けたにかけて、流れるようにカラーリングを施した。車体側面の識別帯は、ワイドドアである事をアピールするために、扉部の帯は濃いブルーとし、窓下部のスカイラインの帯と連続感を持たすため、側引戸開口部の横は 4段階のブルーのグラデーションを配したデザインを採用した。先頭部の形状は、従来、エッジ形状となっていた前部標識灯付近の構体形状を丸みをもたせたデザインに変更し、前部標識灯と後部標識灯の配置を、鍵穴を横にしたようなデザインに変更して、05 系 13 次車を基本としながらも、全く違った新鮮味あふれるデザインとした。正面及び側面行先表示器は、従来の 3色 LED方式から、種別表示部をフルカラー LED、駅名表示部をホワイトLEDに変更し、デザイン上のインパクトを与えるとともに視認性を向上させている。5.2 インテリアデザイン車内配色関係は、05 系 13 次車と比較して、次のように変更した。側面に使用するパネル類は、クリーム色の柄模様からライトグレーの単色に変更し、妻面に使用するパネル類は、木目調パネルとした。また、つり手及びカーテンも内装色変更に伴い、それぞれ白色や茶色であったものをライトグレー色とした。腰掛の表地は、一般席がえんじ色、優先席が青色であったものを、一般席を濃紺、優先席をライトブルー色とし、これに合わせて腰掛のそで仕切りを明るめのパープル色として、室内イメージを一新した。腰掛は、片持ち式でシート幅 460 ㎜のバケットシートとし、座り心地を向上させるとともに、表地にアラミド繊維を織り込むことで、耐燃焼性の向上を図っている。座席の割付は、片側 2・6・6・6・2人とし、6人掛けシ

19850250

図 4 15000 系と 05 系ワイドドアの比較 写真 3 ワイドドア

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ートの中間にスタンションポール(立ち席握り棒)を設置することで、定員着席を促すとともに、高齢者、小児及びつり手につかまりにくい方に配慮した構造とした。側窓は、ドア間にユニット窓(開閉式)及び戸袋窓(固

定式)を設け、車両の両端部は、大形戸袋窓(固定式)を採用した。バリアフリー対応として、乗降口端部の床面に黄色の識

別板を配置することで、側出入口端部の識別を明確にした。優先席部の識別は、従来の腰掛及びつり手の色表示に加

え、立ち席握り棒をつり手と同じオレンジ色に配色した。また、身長の低い方に配慮して、つり手及び荷棚の高さを低い位置に変更した。各出入口の側かもい点検ふた部には、ドアの開閉時に連

動して点滅するランプを設け、開閉タイミングを明確にした。点滅条件は、戸開閉操作のほか、乗降促進ブザー操作も加え、事前に閉予告点滅が可能な仕様とした(乗降促進ブザーを使用しない場合は、戸閉め指令によって、点滅を開始する)。また、側かもい点検ふたの正面には、従来のLED式車内表示器の代わりに、17 インチワイド画面の液晶式の車内表示器を 2台搭載し、片側の表示器は、行先、号車、次駅、乗換え案内、ドア開方向及び運行情報などを表示し、もう一方の表示器は、各種映像、広告などを表示する。液晶式としたことで、従来の LED式と比較して表示できる情報量が大幅に増え、サービス向上に貢献している。また、液晶画面の保護板は、火災対策(耐燃焼性及び耐溶融滴下性)としてポリカーボーネートを使用せず、強化ガラスを採用した。

6 搭載機器6.1 制御装置制御装置は、IGBT(素子保護機能付き)を使用した 2レベルVVVFインバータ方式とし、編成形態が 5M5TのMT比 1:1(期待粘着係数約 18%)となっているため、1インバータ当たり 4個モータ制御としている。主回路構成は、M1-M2’及びM1’-M2の各ユニットは、2群構成としてM1及びM1’車にインバータ装置を配置している。Mc1 車は、1群構成としている。ベクトル制御 PGセンサレス方式を採用し、空転再粘着

性能の向上及び回生ブレーキの有効利用を図るとともに、停止まで作用する電気ブレーキ制御を併せて行っている。高速度遮断器及び断流器は、電磁接触器を採用し、エアレス化による保守性の向上も図っている。基本仕様は、副都心線 10000 系車両をはじめ、近年の東

京地下鉄車両の標準品と同等となっているが、15000 系では、さらに省エネルギー性を高めるため、フィルタリアクトルの材質を従来アルミ製であったものを銅製(Cu)へ変更し、電気的損失を約 41%低減させることで、制御装置の効率を向上させた。6.2 主電動機主電動機は、三相かご形誘導電動機を採用している。主

電動機の冷却方式は、自己通風冷却式とし、押込みファンの採用によって、塵

じんあい

埃排出構造としている。この方式では、冷却風に含まれる塵埃が押し込みファンの遠心力で、機内冷却風と分離され、排出口から排出されることで、主電動機内への塵埃侵入量を低減するため、フィルタレス化が可

能になり、メンテナンス性が向上している。主電動機の 1時間定格は、従来 165 kWであった出力を15000 系では 225 kWと大きくしている。これは定格値で使用するのではなく、効率の良い領域を積極的に利用するためである。また、絶縁被覆を薄いものに変更して導体(銅)の断面積を大きくし、電気抵抗を減らすこと及び内部の鉄心材の材質を変更することによって、効率を従来の 92%から 95%に向上した。WN駆動装置の歯数比は、従来の 5M5T 編成の場合6.21(87:14)であったが、7.79(109:14)を採用した。これは、省エネルギー化の一環として、通勤車両で主に使用する速度領域に主電動機のトルク特性が合致するように

写真 4 腰掛

写真 5 液晶式車内表示器

写真 6 側面行先表示器

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(CT2車のみ)

(CT2車のみ)

かばん

補助いす

非常はしご

(CT2車のみ)

踏み台

パンタ下げスイッチ

運転士知らせ灯

パンタ上げスイッチ

写真7 運転台

図5 運転室器機配置

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速度発電機つなぎ箱

低圧連結つなぎ箱二室空気タンク(戸閉め・保安)

供給空気タンク

タンク戸閉め弱め制御装置

図 6- 1 床下機器配置 15100(CT1)

低圧連結つなぎ箱二室空気タンク(戸閉め・保安)

供給空気タンク

戸閉め弱め制御装置

低圧連結つなぎ箱

図 6- 2 床下機器配置 15200(M1’)、15800(M1)

主電動機つなぎ箱

低圧連結つなぎ箱

第一元空気タンク

二室空気タンク(戸閉め・保安)

供給空気タンク戸閉め弱め制御装置

低圧連結つなぎ箱

図 6- 3 床下機器配置 15300(M2)、15900(M2’)

低圧連結つなぎ箱(T車のみ) (T’車の場合)

二室空気タンク(戸閉め・保安)

供給空気タンク

戸閉め弱め制御装置

低圧連結つなぎ箱(T車のみ)

(Tc車のみ)

(T車のみ)

(T車のみ) (T車のみ)

(T車のみ)(T車のみ) (T’車の場合)

(Tc車のみ)

(T、Tc車の場合)

(T、Tc車の場合)

図 6- 4 床下機器配置 15400(T)、15600(Tc)、15700(T’)

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考慮したものである。6.3 台車台車は、モノリンク式ボルスタ付き台車を採用した。“走

行安定性の向上”及び“メンテナンス性の向上”を目標に、地下鉄特有の低速・急曲線区間での曲線通過性能の向上を図りつつ、地上部の比較的高速となる区間でも直進安定性が図れるよう配慮した台車である。東西線内の地下区間は、最小半径が 200 m であり、東西線の全軌道延長距離中で半径 600 m以下の曲線距離が 30 %超を占めるため、曲線区間走行への配慮は、非常に重要である。急曲線の入口及び出口のカント低減区間では、軌道ねじれによる輪重抜け

が発生する。このため、非線形コイルばね、微小不感帯流量領域を持つ自動高さ調整装置(LV)及び応荷重差圧弁を採用して対策を実施した。また、空気ばねがパンクした場合などの異常時にも安全に走行ができるように、空気ばね内部にせん断ゴムを内蔵した空気ばねパンクストッパを採用した。さらに、メンテナンス性向上の観点から、静止輪重調整の容易化を目的として、従来は、台車分解によって、実施していた軸ばね及び空気ばねライナの抜き差し作業を、可搬形の小形油圧ジャッキを用いて、ピット線で容易に行える構造とした。また、ボルスタ付き台車を採用したことで、従来のボルスタレス台車に比較して、静止輪重のばらつきが小さくなり、輪重調整作業も容易となっている。

低圧連結つなぎ箱 低圧連結つなぎ箱二室空気タンク(戸閉め・保安)

供給空気タンク

戸閉め弱め制御装置

第一元空気タンク

図 6- 5 床下機器配置 15500(Mc1)

低圧連結つなぎ箱

速度発電機つなぎ箱供給空気タンク

二室空気タンク(戸閉め・保安)

供給空気タンク

戸閉め弱め制御装置 第二元空気タンク

図 6- 6 床下機器配置 15000(CT2)

写真 8 フィルターリアクトル(銅製)

写真 9 スクロール式電動空気圧縮機

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図7 動台車(FS778M)

空気ばね断面

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図8 付随台車(FS778CT)

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図9 主回路つなぎ(8MM)

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図10 主回路つなぎ(4MM)

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図11 力行性能曲線

図12 ブレーキ性能曲線

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6.4 集電装置パンタグラフは、05 系 11 次車以降と同仕様のシングル

アーム式を採用し、M1及びM1’車に 2基、Mc1 車に 1基、編成合計で 5基を搭載した。ひし形パンタグラフと比較して、構造の簡素化、部品点数の減少などによって、軽量化と保守性の向上を図った。また、今回新たにパンタ上昇検知装置を設け、運転台のTIS(車両制御情報管理装置)モニタ画面上に上昇状態を表示し、上昇確認作業の作業性向上を図った。6.5 ブレーキ装置ブレーキ装置は、回生ブレーキ(電気停止機能付き)併

用電気指令式空気ブレーキ装置(ATC・ATS 連動)で、ブレーキ受信装置(M車のみ内蔵)、電空変換弁、中継弁、非常弁、応荷重装置及び保安ブレーキ装置などを各車に 1台配置したブレーキ作用装置箱に集約し、省メンテナンス化を図った。空気ブレーキの制御は、M-T ユニット単位で行い、M車のブレーキ作用装置に内蔵したブレーキ受信装置で、T車の弁類も駆動する。電空変換弁は、ON/OFF 方式とし、中継弁作用室の圧力をフィードバック制御することで正確な圧力制御が可能となっている。また、ブレーキ受信装置は、回生ブレーキと空気ブレーキとの電空演算機能をもち、T車優先おくれ込め制御で空気ブレーキを制御している。故障検知は、ブレーキ不足及びブレーキ不緩解を各車ご

とに監視し、TIS で監視及び記録するとともに警報を鳴動させ、不緩解車両は、乗務員室で当該車両を開放できる機能をもたせている。6.6 空気圧縮装置空気圧縮装置は、空調用圧縮装置の技術を応用したスク

ロール式電動空気圧縮装置(1 600 ㍑ /min)を編成で 3台搭載した。1つの箱に、スクロールコンプレッサ 3台、アフタクーラ、除湿装置、制御装置及び接触器類をまとめることで、コンパクト化とメンテナンス性の向上を図っている。従来、当社で採用していたレシプロタイプのコンプレッサは、駅停車時に動作を抑制する制御を行っていたが、スクロール式は、低振動及び低騒音となっているため、複雑な起動制御は行わず、圧力設定のみで起動及び停止をオン・オフ制御で行う(同期機能付き)。

6.7 車両制御情報管理装置(TIS)TIS は、主幹制御器及びATC/ATS からの運転制御指令を制御装置やブレーキ装置に伝送する制御系と、各機器の動作状況を常時監視して異常時に運転台のモニタに表示並びに故障データ収集及び記録を行うモニタ系をもち、これらを同時に並列伝送する。伝送路は 2重系となっており、途中で伝送不良があった場合にも各機器間の伝送が途切れない構成としている。TIS の機能は、行先表示及び運行番号などの各種設定機能並びに乗務員への運転支援機能としてドア情報や各種機器故障時の情報とその処置ガイダンスをモニタに表示するとともに、モニタ系の情報を 24 時間以上記憶する機能を持っている。また、15000 系では、定期検査などの省力化・簡略化を図るために、試験データや動作データの自動収集や集計機能を持たせ、収集したデータを車庫内の機器に伝送する機能も準備している。このように、TIS は、運転指令系の信頼性や異常時の安全性を向上するとともに、車両搭載機器の情報を集中管理することで故障時の機器のモニタリング、検査機能、乗務員への運転支援機能をもち、車両の運転制御システムに大きな役割を持つとともに、運転制御指令の伝送化によって、引通し線の削減を実現している。6.8 補助電源装置、非常電源装置補助電源装置は、05 系 11 次車以降と同仕様の高耐圧・大電流容量の IGBT を用いた容量 240 kVAの静止形インバータ(SIV)を編成で 2台搭載している。出力電圧はAC 440 V、出力周波数は 60 ㎐で、空調装置及び電動空気圧縮装置の電源として供給するとともに、このAC 440 Vを SIV 装置内部のトランスや整流装置で変換し、室内灯、送風機などの電源であるAC 200 V 60 ㎐、空調制御器、ブレーキヒータなどの電源であるAC 100 V 60 ㎐、制御装置、ブレーキ装置及びその他の電源であるDC 100 V、放送・無線などの電源であるDC 24 V を供給している。また、2台の SIV 装置のうち、1台が故障した場合は、健全に動作している SIV装置のAC 440 V 出力を、故障停止している SIV へ自動的に受給電し、AC 200 V、AC 100 V、DC 100 V、DC 24 V は、全車で支障なく使用できるシステムとしている。地下鉄という特殊性から、トンネル内で長時間停電となり、車上側の蓄電池残存容量が低下した場合に備え、地上設備電源(AC 200 V)から DC 100 V を発生し、パンタグラフ上昇と SIV 起動が可能な非常電源装置を CT1 車に搭載している。6.9 空調装置冷房装置は、05 系 10 次車以降と同仕様の屋根上集中形で、容量は、58.0 kW(50 000 kcal/h)とし、冷房能力の向上を図っている。制御方法は、設定温度と各種センサ(車内温度、車外温度、湿度など)及び乗車率(空気ばね内圧)などの情報によって、4台のコンプレッサを各車個別のマイクロコンピュータで制御し、台数制御及び容量制御を行うオン・オフ方式とした。運転モードは、従来の“冷房”、“除湿”、“暖房”、“送風”に加え、“全自動”を追加した。このうち、“送風”モード

写真 10 パンタグラフ

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では、マイコンによって、強・弱の 2段階を自動制御し、“全自動”モードでは、各センサと空気ばね内圧などの諸情報によって、冷房、除湿、暖房、送風を自動選択し、運転を行う機能となっている。また、冷媒には、環境に考慮してオゾン層を破壊しないR-407C を採用している。暖房器は、客室の座席下につり下げ形シーズ線式ヒータ

を取付け、マイコンによる自動制御とした。乗務員室には、運転席付近に遠赤外線及び温風暖房器(強弱切替え機能付き)を配置した。また、新たに車掌台側にシーズ線ヒータを配置している。このほか、TIS モニタによって乗車率や車内温度の変化

が確認でき、タッチパネル操作によって、± 3℃の範囲で設定温度を変更する機能も付加してある。6.10 ATC及び ATS東京地下鉄線内用として車内信号による高周波連続誘導

式の CS-ATC 装置、相互直通の東葉高速鉄道用としてWS-ATC 装置、JR 東日本線用としてATS-P 装置を、それぞれ両先頭車に搭載している。CS-ATCの機能は、多現示式車内信号のほかに、前方の

閉そく区間が下位現示コードの場合、前方予告を表示するとともに、下位現示区間に停止可能なパターンを作り、パターン速度よりも低い速度で当該区間に進入した場合は緩和ブレーキを作用させる機能を持っている。また、終端駅部では、過走防護信号を受信すると、過走

防護パターンを作り、走行速度によって、非常ブレーキを作用させる機能もある。6.11 無線装置東京地下鉄線及び東葉高速鉄道線用として、沿い線式誘導無線装置、JR 東日本線用としてディジタル空間波無線装置を搭載している。誘導無線装置は、第 4車両(T車)に集中形送受信装置及びアンテナを搭載し、両先頭車に搭載する送受話器を通して、車両と指令所間の相互通話(複信式)を実現している。また、緊急時に走行区間及び前後区間を停電させる非常発報機能をもっている。JR形ディジタル空間波無線装置は、両先頭車に搭載し、ディジタル波を利用した各種アプリケーション機能を実現する簡易モニタ装置も併せて搭載している。

7 おわりに15000 系車両は、2010 年 2 月に車両搬入後、各種性能試験、乗務員訓練などを経て、5月中旬から 2編成が営業運転を開始しており、2012 年度にかけて 13 編成(130 両)を投入する計画である。本車両の投入により、ラッシュ時における遅延の抑制や省エネルギーに貢献することはもとより、利便性、快適性が向上した 15000 系車両が多くのお客様に愛していただけることを期待している。