地学概論 3...

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環境地質学 鹿児島大学理学部地球環境科学科 岩松 地学概論

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環境地質学

鹿児島大学理学部地球環境科学科 岩松 暉

地学概論 3

こどもと地学 小学校

こどもは身の回りの森羅万象に興味を持つ 自然に関する疑問の6割地学関係、4割生物

総合的学習の時間創設 地学的テーマ多いが教える先生がいない

中学 第2分野(生物・地学分野)

その中に「自然と人間」の章

高校 地学は文系の暗記科目?

しかも人間に関わる章なし

中学校理科

「自然と人間」の章 中学理科第2分野の1/7を占める

東京書籍「新しい科学2分野」

高校地学ⅠB 1. 固体地球とその変動

1. 固体地球の概観 2. 固体地球の構造 3. 地震 4. 火山と火成活動 5. 地殻の変動

2. 地球の歴史 1. 地表の変化と地層の形成 2. 地層中の記録と地質時代

の区分 3. 地球の進化

3. 大気と海水の運動 1. 地球の大気と水 2. 地球をめぐる大気の運動 3. 海洋と気候

4. 地球とそのまわりの宇宙 1. 宇宙の観測 2. 地球とそのなかまの天体 3. 太陽 4. 恒星の世界

「自然と人間」の章がない!!

啓林館「地学ⅠB」改訂版

自然と人間との関係 統計数理研

究所調査(1999)

戦後復興期 自然征服

高度成長期 自然利用

現代 自然に従え

発達を期待する科学技術分野

0.1

1.4

4.1

20.9

31.7

37

37.9

38.4

44.1

44.3

56.8

59.0

63.0

10 20 30 40 50 60 70

高齢者や身体障害者の生活の補助

土木・建築、交通・輸送、情報・通信

0 その他

特にない わからない

家事の支援や衣食住の充実 食料(農林水産物)の生産

工場での生産活動 健康の維持・増進

防災や安全対策

廃棄物の処理・処分 資源の開発やリサイクル

エネルギーの開発や有効利用 地球環境や自然環境の保全 65.1

複数回答(%)

総理府世論調査(1998.10)

1位~6位地学関係!!

経団連「環境立国」宣言

(2003.1.1)

21世紀の地質科学

資源地質学 土木地質学

地 球 工 学

環境地質学

富国強兵時代 列島改造時代 地球時代

「持続可能な開発」を支える地質学に 自然の摂理をわきまえた地球にも人間にも 優しい環境の創造にとって地質学は不可欠

sustainable development

環境地質学における環境とは

広義の「環境」 あるもののとりまきの全ての事象 鉱床生成時の環境→conditions

環境地質学の「環境」 人間生活と環境とが相互作用している環境 人間生活が環境に影響を与えるといった環境

したがって、白亜紀の恐竜の時代の地質環境の研究は環境地質学のテーマとはならない。もちろん地質学のテーマにはなり得る。

(高須・田崎、1993)

人間の寿命のオーダーの時間尺度が必要

自然保護と持続可能な開発 Protection(防御的自然保護)

自然を神聖視、何が何でも手をつけるな 絶滅の恐れのある貴重種などは別

自然とのつき合い方を知らない都会人のやり方 従来、地質学会もこの陣営と見られてきた

Conservation(保全的自然保護) 元金に手をつけてはいけないが、利息は利用 100億の人口を養うにはやむを得ない まやかしのサンクチュアリでも困る 地質学は共生の具体的方策を提示する義務

21世紀の社会的ニーズ=環境設計

来るべき21世紀には、環境と調和しながらいかに自然を利用していくか、環境設計が重要な課題となる。 工学:現在という一時点での最適適応 地質学の長所:ロングレンジの発想・グローバルな視野

このような地質学の武器を生かしつつ、環境設計という課題に具体的に対応できるだけの学問内容を創造し、技術革新していかなければならない。それも、残されたこの10年の間に。 そうしてこそ存在意義が社会的に高く評価されるだろう。

「実学のすすめ」(岩松, 1988)

環境デザインとは

単なる自然保護運動でもなく、また、公害たれ流しの後始末としての「ppmの環境問題」でもなく、人間が主体的に環境に関わっていくといった視点が重要になってくる。「環境設計」というと、若干、神をも畏れぬ不遜の響きがするが、自然との共存共栄*を念頭においた開発が求められている。 * 共生symbiosis (生態学用語) * 調和的共存harmonious coexistence (環境庁の“共生”の英訳)

「生産と生活の場に立つ地学」の新たな創造を!(岩松、1990)

平安遷都の理由 奈良盆地の地質

南北の活断層系 周辺部は花崗岩

深層風化が激しい 植生疎で禿山

保水力乏しい 渇水比流量>0.2m3/s/100km2

盆地で閉鎖水系 汚染水大和川に集中

平安京

平城京

紫尾山→

平城京の水文地質 人口10~20万人(うち公務員1万人) 東西4.3km,南北4.8km,傾斜3度未満 大きな川がない

飲用水・雑用水は浅井戸に頼る 北半分は砂層,南半分は泥層

水はけ悪い→下水道不備→不衛生 周辺の禿山(都城建築材の伐採も原因)

土砂災害激化→河川流況悪化

平安京の地下水盆

琵琶湖クラスの地下水

砂礫層の分布と地下水

廃棄物処分場と地質

集団生活をするからには処分場は不可欠 トイレのない家はない 貝塚=元祖

産廃問題の原点,ボタ山 九州の古くて新し

い問題 鉱害=元祖産廃問

題 地すべり 酸性浸出水など

石炭産業の衰退 ほぼ解決済み? いや,まだある?

ゴミが降る島,豊島

不法投棄(1983-1990) 自動車・家電製品の粉砕物,廃油など50万t以上 PCB・水銀などの有害物質検出→業者摘発 産廃残る→公害調停→香川県が処理(1997)

豊島

青森岩手県境不法投棄(1)

全国一の規模(27ha, 820,000m3) 対策費数100億円超す(処理業者自殺)

青森岩手県境不法投棄(2)

遮水壁で拡散防止→撤去

処分場の立地適正 政治的経済的理由最優先は問題

人里離れ(住民の反対少ない),地価が安く,運搬に便利で,造成しやすい

結局,都市近郊丘陵地(軟岩)の谷埋め

何よりも先ず環境汚染リスクアセスメント 地質・土質・地形・土地利用・利水・地下水・

自然環境などすべてを考慮 環境地質図の整備が先決

土砂災害の危険多い 地下水涵養源

ドイツの回避地図 地下水が水源 循環経済・廃棄物法 ネガティブエリア

住宅地・水質保全地域など回避地

ポジティブエリア 地質条件からの適地

候補エリア 適地の中で回避地を

除く

九州地域の管理型最終処分場

11→12

6→4

8→6 8→5

1→2

1→3

0 → 0 5 → 5

1997年→2001年

管理型処分場がないのは鹿児島県だけ

鹿県産廃種類別移動量 種 類 搬入(t) 割合(%) 搬出(t) 割合(%)

汚 泥 5,890 22.3 8,091 24.8 動植物性残滓 1,617 6.1 動物の糞尿 1,122 4.3 7,439 22.9 廃酸・廃アルカリ 4,321 16.4 3,633 11.1 廃プラスティック類 12,918 49.0 368 1.1 廃 油 492 1.9 1,287 3.9 ガラスくず等 4 0.0 11,669 35.8 その他 10 0.0 128 0.4 合 計 26,374 100.0 32,615 100.0

(1991)

鹿児島市営横井処分場

市営新処分場

横井処分場第二工区工事中(2001.1) 排水溝,グラベルドレイン,遮水工施工中 寿命27年と予想 (遠方煙突は北部清掃工場)

自然界との遮断

物理的バリアー コンクリート

劣化(セメントの方解石化など)

ゴムシート 破損・変質(温度上昇・酸

などによる化学変化)

地質学的バリアー 不透水層(粘土層) ベントナイトの性質

膨潤性・吸着性

元来自然界に存在

離島におけるずさんなゴミ処理

往年の生活習慣 海岸投棄 素掘り・野焼き

近年プラスティック製品や化学物質多い 浸出水・環境汚染 琉球石灰岩・閉鎖水系 命の水=屋川(ヤゴー) 致命的被害の恐れ

野焼き現場と黒い滲出水

宮古島処分場火災

朝日新聞(2002.3.27)

生命の水を守ろう

ゴミを出さないライフスタイル

出たゴミはなるべくリサイクルし,最小限に抑える

が,処分場は不可欠 環境を汚染しない安

全な処分場の選定は地質屋の責務

与論島の屋川(ヤゴー)

社会問題化する地質汚染

土地売買で問題 汚染土地全国で約

32万個所 東京都汚染土地を

和解金85億円で買い戻し(1998)

大阪USJ用地で六価クロム、セレン、砒素(1999)

江東区でベンゼン・砒素(2001) 讀賣新聞

(2001.1.24)

土壌汚染対策法 土壌汚染対策法

2002.5.29公布 汚染状況の把握 健康被害の防止

資格も登場 地質汚染診断士 土壌環境監理士 土壌環境保全士

地質汚染とは

地層汚染・地下水汚染・地下空気汚染の総称 鈴木・他(1992)

地層汚染 法律用語は土壌汚染

昔は農業に伴う最表層部の汚染が問題 土壌には生物作用

現在は土壌とは言えない深部の地層まで汚染

重金属汚染 六価クロム・砒素など メッキ工場・クロム鉱精

錬場・鉱滓処分場

有機塩素化合物汚染 テトラクロロエチレン

(PCE)・トリクロロエチレン(TCE)など

半導体工場・機械金属加工工場・ドライクリーニング工場

農薬汚染 硝酸態窒素など 農耕地・ゴルフ場

粒子吸着・粒子間貯留

有機溶剤による地質汚染機構

TCE

君津市内箕輪の地質汚染

内箕輪地質汚染断面図

地下水流動方向に汚染拡大 難透水層(シルト層)の切れ

目から下位に浸透 井戸の存在も影響

シラス台地茶畑の硝酸態窒素

茶の生産全国第2位 気候風土が適す

シラス台地は山地と異なり機械化容易 農薬づけ近代農業

茶畑に硫安施肥 アンモニア態窒素

(NH4+-N)・硝酸態窒素

(NO3-N)生成 土壌の脱窒作用

しかし,シラス中では分解されない シラス中NO3-N高濃

度(80mg/l) そのまま地下浸透 台地下では利用

和田修論(1992)

シラス台地水文地質構造

和田修論(1992)

シラス台地下の湧水の汚染

和田修論(1992)

バングラの砒素汚染 Asia Arsenic Network(AAN)&応地研(1999)

地表水の汚染も問題 水の安全保障7つの挑戦

1.生活に必要な最低限の水の確保

2.持続可能な管理で生態系の保護

3.食糧供給の確保 4.水資源の共有 5.リスク管理 6.水を価格評価 7.水資源の適正管理

第2回世界水フォーラム(2000、 ハーグ)

The Role of the Earth Sciences in a Sustainable World

Geology in the service of society Monitoring of the Earth System’s processes Exploration, management and supply of mineral

resources Exploration, management and supply of energy

resources Conservation and management of water resources Conservation and management of agricultural soils Natural disasters reduction

Interdisciplinary approach 必然 (U.G.Cordani,2000) [元IUGS会長]

変わりつつあるアメリカ

アメリカで成長しつつある若い学問分野 水文学,水理地質学,ネオテクトニクス/地形学,

大陸縁海洋学,応用地質学,地質災害,環境科学,表面化学/水の地球化学,物質科学

縮小傾向にある成熟した学問分野 構造地質学,岩石学,鉱物学,古生物学,地域

地質学,層序学 W.G.Ernst (Prof. Dept. Geol. Environment.

Sci., Sch. Earth Sci., Stanford Univ.) (1997)

Stanford大学の地質学教育 INTRODUCTION

THE EARTH AS A SYSTEM

NATURAL PROCESSES THE GEOSPHERE, THE HYDROSPHERE, THE ATOMOSPHERE, THE BIOSPHERE

SOCIETAL AND POLICY IMPLICATIONS RESOURCE USE AND ENVIRONMENTAL TECHNOLOGY SOCIETY, THE ENVIRONMENT, AND PUBLIC POLICY

SUMMARY ERNST, W.G. ed. (2000): Earth Systems -- Processes and Issues --. Cambridge Univ. Press, 566pp.

The End

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小論文テーマ

鹿大理学部地球環境科学科について

1. 入学前に抱いていたイメージ 2. 入学後のイメージ 3. 何を期待するか,今後どうあるべきか