「鉄 拳」の世界を具現化する、複雑な 崩壊と再生 …「鉄...

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「鉄拳」の世界を具現化する、複雑な 崩壊と再生のエフェクトへの挑戦 「鉄拳 ブラッド・ベンジェンス」は、販売累計 4,000 万本の大人気格闘ゲームの 「鉄拳」の長編フル CG の 3D 映画化作品。ゲームにも登場するシャオユウやアリ サ、風間仁、三島一八など、シリーズが誇るお馴染み のキャラクターたちとオリジナルキャラクターの神谷真 が登場する格闘アクション。格闘アクションだけにとど まらないエフェクト満載の映像は業界でも注目を浴びて いる。本作品は、株式会社デジタル・フロンティアの制作。 同社が手がけたフル CG 映画としては 6 作目だが、フル CG の立体視映画としては初作品になる。この作品では、 制作スタッフとして 110 名程が関わっているが、今回そ の中からエフェクトを務めたシニア・デザイナーの小宮 桂陽氏とデザイナーの伊藤源氏にお話を伺った。 エフェクトツールとしての 3ds Max デジタル・フロンティアでは、CG のメインツールとし て Maya を使っているが、エフェクトに関しては、使い やすいということで、最近では 3ds max も増えている と小宮氏は語る。 「エフェクトチームでは、3ds Max も ドンドン使っていて、使用の割合も 50:50 の割合に増え てます。その中でプラグインの thinkingParticles は、ずっ と存在は知っていたんですが、使うきっかけはありませ んでした。ただ、テストしてみた結果、鉄拳のエフェク トで使ってみようという流れになりました」 今回、thinkingParticles が使われたところは、 ラストで登場するキャラクターの崩壊や再生が行わ れるシーン。 「小さいオブジェクトの集合体で構成されているこの キャラクターが、徐々に崩壊されていくのですが、試し てみると Maya で作るのは難しいことがわかりました。 Maya でもキャラクターオブジェクトのサーフェイス上に 物体を配置するのは簡単なのですが、内部までオブジェ クトが詰まったボリュームを持たせた集合体である必要 があったんです」(小宮氏) キャラクターが普通に動くシーンは、Maya で作られ ているという。しかし、内部までオブジェクトが詰まっ たキャラクターの腕などが崩壊するシーンは、オブジェ クトをサーフェイスに配置する手法だけでは対応できな いので、別のツールを探すことになった。 「Softimage の ICE、Houdini など色々なエフェクトツー ルを検討しました。ただ、それらのツールを使えるデザ イナーが社内にいてもエフェクトに強くなかったりで実 現するのは難しかったのです。そこで使い慣れた 3ds max のプラグインである thinkingParticles が候補にあ がりました」(小宮氏) リサーチ時にさまざまなリファレンスを探していた小 宮氏は、thinkingParticles で作成されている作品とし て、デュラセルの CM の Bunny Fusion(※注1)という 作品をネット上で見つけた。小さなうさぎが大量に集まっ て、色々な形に変形するエフェクトは、鉄拳で行おうと していたものと似ていることもあり、thinkingParticles で行けるのではないかと考え、導入が決定した。 1 週間でテストカットが完成 導入してから、まずチュートリアルやサンプルを大量 に見ていったという小宮氏。cebas のサイトにチュート リアルが大量にあり、それは無料で見ることができる。 また、海外のサイトでは、チュートリアルが多数ありそ 株式会社デジタル・フロンティア http://www.dfx.co.jp/ 2000 年に設立され、劇場用映画や TV、 ゲームなどの映像を手がける大規模 CG プロダクション機能をもった映像制作会 社。アジア最大級のモーションキャプ チャースタジオ 「オパキス」を所有し、台 湾やマレーシアにも関連会社を持つ。 現在、同社には約 230 名が在籍しており、 内 160 名程が CG の部署で働いており、 CG スタッフも多数募集している。 シニア・デザイナー 小宮桂陽氏 デザイナー 伊藤源氏 ユーザー事例 © 2011 NAMCO BANDAI Games Inc.

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Page 1: 「鉄 拳」の世界を具現化する、複雑な 崩壊と再生 …「鉄 拳」の世界を具現化する、複雑な 崩壊と再生のエフェクトへの挑戦 「鉄拳

「鉄拳」の世界を具現化する、複雑な崩壊と再生のエフェクトへの挑戦

  「鉄拳 ブラッド・ベンジェンス」は、販売累計 4,000

万本の大人気格闘ゲームの 「鉄拳」の長編フル CG の

3D 映画化作品。ゲームにも登場するシャオユウやアリ

サ、風間仁、三島一八など、シリーズが誇るお馴染み

のキャラクターたちとオリジナルキャラクターの神谷真

が登場する格闘アクション。格闘アクションだけにとど

まらないエフェクト満載の映像は業界でも注目を浴びて

いる。本作品は、株式会社デジタル・フロンティアの制作。

同社が手がけたフル CG 映画としては 6 作目だが、フル

CG の立体視映画としては初作品になる。この作品では、

制作スタッフとして 110 名程が関わっているが、今回そ

の中からエフェクトを務めたシニア・デザイナーの小宮

桂陽氏とデザイナーの伊藤源氏にお話を伺った。

エフェクトツールとしての 3ds Max

 デジタル・フロンティアでは、CG のメインツールとし

て Maya を使っているが、エフェクトに関しては、使い

やすいということで、最近では 3ds max も増えている

と小宮氏は語る。 「エフェクトチームでは、3ds Max も

ドンドン使っていて、使用の割合も 50:50 の割合に増え

てます。その中でプラグインの thinkingParticles は、ずっ

と存在は知っていたんですが、使うきっかけはありませ

んでした。ただ、テストしてみた結果、鉄拳のエフェク

トで使ってみようという流れになりました」

 今回、thinkingParticles が使われたところは、

ラストで登場するキャラクターの崩壊や再生が行わ

れるシーン。

「小さいオブジェクトの集合体で構成されているこの

キャラクターが、徐々に崩壊されていくのですが、試し

てみると Maya で作るのは難しいことがわかりました。

Maya でもキャラクターオブジェクトのサーフェイス上に

物体を配置するのは簡単なのですが、内部までオブジェ

クトが詰まったボリュームを持たせた集合体である必要

があったんです」(小宮氏)

 キャラクターが普通に動くシーンは、Maya で作られ

ているという。しかし、内部までオブジェクトが詰まっ

たキャラクターの腕などが崩壊するシーンは、オブジェ

クトをサーフェイスに配置する手法だけでは対応できな

いので、別のツールを探すことになった。

「Softimage の ICE、Houdini など色々なエフェクトツー

ルを検討しました。ただ、それらのツールを使えるデザ

イナーが社内にいてもエフェクトに強くなかったりで実

現するのは難しかったのです。そこで使い慣れた 3ds

max のプラグインである thinkingParticles が候補にあ

がりました」(小宮氏)

 リサーチ時にさまざまなリファレンスを探していた小

宮氏は、thinkingParticles で作成されている作品とし

て、デュラセルの CM の Bunny Fusion(※注1)という

作品をネット上で見つけた。小さなうさぎが大量に集まっ

て、色々な形に変形するエフェクトは、鉄拳で行おうと

していたものと似ていることもあり、thinkingParticles

で行けるのではないかと考え、導入が決定した。

1 週間でテストカットが完成

 導入してから、まずチュートリアルやサンプルを大量

に見ていったという小宮氏。cebas のサイトにチュート

リアルが大量にあり、それは無料で見ることができる。

また、海外のサイトでは、チュートリアルが多数ありそ

株式会社デジタル・フロンティアhttp://www.dfx.co.jp/

2000 年に設立され、劇場用映画や TV、

ゲームなどの映像を手がける大規模 CG

プロダクション機能をもった映像制作会

社。アジア最 大 級のモーションキャプ

チャースタジオ 「オパキス」を所有し、台

湾やマレーシアにも関連会社を持つ。

現在、同社には約 230 名が在籍しており、

内 160 名程が CG の部署で働いており、

CG スタッフも多数募集している。

シニア・デザイナー

小宮桂陽氏

デザイナー

伊藤源氏

ユーザー事例

© 2011 NAMCO BANDAI Games Inc.

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thinkingParticles™ for 3dsmax開発元:cebas Visual Technology Inc.

れも役立ったそうだ。

「偶然、サンプルファイルに似ているシーンがあったの

で、それを参考に 1 万体の木人の集合体で作った手が

崩壊するテストシーンを 1 週間ほど作り、監督から方向

性の OK をもらいました」

1 万オブジェクトをキャラクターの腕に配置するテスト

白いパーティクルグループは、ダミーの非表示オ ブジェクトの移動によって別のパーティクルグループに変更され、ダイナミクスで崩落していく

リアルな破壊エフェクトとしての二次破壊の表現

「たとえば、腕が崩壊するカットは、腕のオブジェクト

のボリュームに木人をパーティクルで発生させて、腕の

形にします。そこに、ダミーの球体がぶつかると、木人

一体一体が崩れていくようにしています。パーティクル

数は、足で 7,000、腕はその倍くらい使用していますが、

とても軽くシミュレーションできました。足のカットで

は、リジットボディのダイナミクスも加えて、さらに小さ

な木人も壊れるようにしています。その結果、シミュレー

ションは重くなりましたが、木人が崩れるだけのエフェ

クトよりも、よりリアルに見えるようになりました。また、

監督からはスケール感を大事にして欲しいということで、

バラバラと崩れるのではなく、最初に大きな塊として崩

れたものが、さらに壊れるような二次破壊の表現も入

れています」(小宮氏)

  こう し た 二 次 破 壊 の 表 現 が で き る 点 も

thinkingParticles の強みだという。

アセット化によるエフェクトの流用

「thinkingParticles は、難しいと思っていましたが、一

度アセットを作るとそれを流用できる点がとても便利で

す。

FX テクニカル・ディレクターが、 複雑なノードの組み合

わせのアセットを作成すれば、あとはデザイナーがオブ

ジェクトの差し替えやパラメータをいじるだけで、複雑

なエフェクトが作成できます。」(小宮氏)

 アセット化することによってデザイナーの負担が減っ

たと伊藤氏は語る。

「腕の再生は、腕の内部にエミッタを仕込み、それが徐々

に腕の形になって行くように見せるため、非表示のダ

ミーオブジェクトで、再生されるタイミングを調整して

います。また、腕のパーツが、崩壊した足の再生パーツ

になるようなシーンでは、特定の条件で木人を腕のパー

ティクルグループから足のパーティクルグループに切り替

わり、足のボリュームへ移動するアセットを組んでいま

す。

 鉄拳で構築したアセットやノウハウは今後も資産とし

て別のプロジェクトにも活かせると思います。」(伊藤氏)

「ルールベースなので、たとえばキャラクターが走って、

地面に足が着いたときに葉っぱが舞ったり、砂煙を出し

たりするエフェクトも、ルールを設定したアセットがあ

れば、キャラクターの動きが変わってもエフェクトはそ

れに合わせて自動的に変更してくれます。」(小宮氏)

今後について

 デジタル・フロンティアにとって、本来メインツール

である Maya で はなく、3ds Max と thinkingParticles

によるエフェクトは、 レンダリングの 質 感 や、 カメ

ラの違いを合わせる必要があるため、決して簡単な

ワークフローではないが、使 用頻 度は増えていると

いう。現在制作中のプロジェクトでも使 用しており、

thinkingParticles のライセンスも増やす予定だ。

 最近、レンダラーとして finalRender にも興味がある

という。

「テストしてみましたが、FumeFX との相性がいいです

ね。FumeFX の炎などが finalRender だときれいに反

射されるので、現在体験版でテストしています」(小宮氏)

 現在、デジタル・フロンティアでは、CG デザイナー、

プロダクションマネージャー、テクニカルディレクター、

キャプチャースタッフなど様々な業種でスタッフを募集し

ている。興味のある方は、デジタル・フロンティアのサ

イトを確認の上、応募してほしい。

デジタル・フロンティアのウェブサイトhttp://www.dfx.co.jp/

注 1: デュラセルの CM

http://www.youtube.com/watch?v=eVclh_gjzJo

国内輸入元代理店株式会社ティーエムエス 〒141-0021 東京都品川区上大崎4-5-37 山京目黒ビル409 Tel. 03-5759-0320 Fax. 03-5759-0327https://www.tmsmedia.co.jp/

thinkingParticles に関する詳しい情報は、www.tmsmedia.co.jp をご覧ください。

作  品:鉄拳 ブラッド・ベンジェンス

監  督:毛利陽一

脚  本:佐藤 大

映像制作:株式会社デジタル・フロンティア

© 2011 NAMCO BANDAI Games Inc.

右のノードが実際に使用したエフェクトのアセット。

© 2011 NAMCO BANDAI Games Inc.