今月の実験 「はっぱのかがく」 - csj.jp · 1 .はっぱを ......

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6 1.はっぱを白くしてみよう ―エタノールによるクロロフィルの抽出― 今月の実験 「はっぱのかがく」 ―エタノールによるクロロフィルの抽出と観察― 群馬大学  奥 浩之 注意 眼や口に入らないようにしよう。間違って眼に入った場合には水でよく洗い流しましょう。火事 や酔いを防ぐために、火の気のないことを確認して、窓を開けるか換気扇をまわして実験しまし ょう。お湯はガスコンロを使わずに電気ポットで沸かしましょう。 用意するもの (a) 植物の葉:サクラのように適度に柔らかく葉脈の細かいものが適しています。ススキやイネで もできます。ツバキのように硬い葉は小さく切れば良いでしょう。また刻んだほうれん草を使 うと簡単に濃い溶液ができます。 (b) エタノール:薬局で消毒用を購入します。 (c) お湯:電気ポットでわかしましょう。 (d) ふた付きガラスびん:例えばジャムや佃煮 つくだに のびん、小さいインスタントコーヒーのびん。 (e) 保温容器:お湯の保温をします。発泡スチロール製容器が適しています。無ければ洗面器にア ルミ箔でふたをしましょう。 ( f ) 割りばし:エタノール溶液から葉を取り出すときに使います。 (g) 太陽光または懐中電灯:懐中電灯は光が細く強いものが適しています。 (h) 白い紙:クロロフィルの色を観察するのに用います。 操作1:同じ種類の葉を4~5枚(約5g) を80~90℃のお湯に約1分浸す。この葉を布 にはさんで水をとる。 操作2:操作1の葉をガラスびんに入れ、そ こに消毒用エタノールを葉が浸るまで加える。 ガラスびんにふたをする。 楽しく実験・自由研究 きざ

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Page 1: 今月の実験 「はっぱのかがく」 - csj.jp · 1 .はっぱを ... 操作4:5分~10分で色が抜け始めます。 お湯が冷めないように電気ポットで沸かした

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1.はっぱを白くしてみよう ―エタノールによるクロロフィルの抽出―

今月の実験「はっぱのかがく」

―エタノールによるクロロフィルの抽出と観察―

群馬大学  奥 浩之

注意眼や口に入らないようにしよう。間違って眼に入った場合には水でよく洗い流しましょう。火事や酔いを防ぐために、火の気のないことを確認して、窓を開けるか換気扇をまわして実験しましょう。お湯はガスコンロを使わずに電気ポットで沸かしましょう。

用意するもの(a) 植物の葉:サクラのように適度に柔らかく葉脈の細かいものが適しています。ススキやイネでもできます。ツバキのように硬い葉は小さく切れば良いでしょう。また刻んだほうれん草を使うと簡単に濃い溶液ができます。

(b) エタノール:薬局で消毒用を購入します。

(c) お湯:電気ポットでわかしましょう。

(d) ふた付きガラスびん:例えばジャムや佃煮つくだに

のびん、小さいインスタントコーヒーのびん。

(e) 保温容器:お湯の保温をします。発泡スチロール製容器が適しています。無ければ洗面器にアルミ箔でふたをしましょう。

( f ) 割りばし:エタノール溶液から葉を取り出すときに使います。

(g) 太陽光または懐中電灯:懐中電灯は光が細く強いものが適しています。

(h) 白い紙:クロロフィルの色を観察するのに用います。

操作1:同じ種類の葉を4~5枚(約5g)を80~90℃のお湯に約1分浸す。この葉を布にはさんで水をとる。

操作2:操作1の葉をガラスびんに入れ、そこに消毒用エタノールを葉が浸るまで加える。ガラスびんにふたをする。

楽しく実験・自由研究

きざ

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左の写真がもとの葉。右の写真が1枚づつの葉から得られた抽出液。葉によって色が少しずつ違うのに気がつきましたか? これは高等植物のクロロフィルにはaとbの二種類があり、植物によって成分比が違うためです。

操作3:保温容器に 操作2のガラスびんと80~90℃のお湯を入れ、熱が逃げないようにふたをする。

操作5:色素が抽出されたガラスびんを湯から出す。ふたを開けて割りばしで葉を取り出します。このとき葉は破れやすいので、すぐにお湯につけて吸水させて下さい。

操作4:5分~10分で色が抜け始めます。お湯が冷めないように電気ポットで沸かしたお湯を用意して、20分おきに交換するのも良いでしょう。だんだん葉の色がエタノールに移ってゆくのがわかります。真っ白になった葉を見たい場合は数時間から一晩そのままにしましょう。

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操作6:透過光の観察白い紙をあてて太陽光や懐中電灯(夜の暗い室内)を当ててみましょう。後ろにできる影に注目してください。緑色の影が見えませんか?もともと白色の光には紫・青・緑・黄・だいだい・赤のようにいろいろな色の光が混ざっています。影が緑色なのはクロロフィルが吸収できなかった光が緑色に見えているためです。もっとくわしく調べてみると、クロロフィルは太陽の光のうち、紫色、青色、赤色を吸収していることがわかります。

操作7:蛍光の観察今度はクロロフィル抽出液に光をあてて、抽出液を横から見てみましょう。角度によって暗い赤色が見えてくるのに気づきませんか?これはクロロフィルが吸収した光を再び放出しているのです。これを蛍光といいます。青い光を吸収して赤い蛍光を出しています。実際の植物では、赤い蛍光を目で見ることはありません。ほとんどの光のエネルギーは逃がすことなく光合成に有効に利用されているからです。

2.白くなったはっぱを見てみよう。 ―白い葉の観察とその他の植物色素―

操作1~5によって、白いはっぱができました。でもよく見ると赤い色が残っています。なぜでしょう? これは赤い色素(アントシアンといいます)がエタノールに溶けないために葉の上に残っているのです。白くなったはっぱにはたくさんのすじが見られます。そのパターン(網目や平行)は種類によって違います。

これらを葉脈といいます。はっぱは光を吸収してそのエネルギーと水と二酸化炭素でデンプンを作ります。これを光合成といいます。光合成で必要な水や養分をはっぱに運ぶため、光合成で作られたデンプンを他に運ぶために葉脈が働いています。葉脈は植物の血管にあたるものです。

3.はっぱはどうして緑色なの? ―クロロフィルによる光の吸収と蛍光―

操作5でできた緑色のクロロフィル抽出液に光をあててみましょう。抽出液は少し濃く作るのも良いでしょう。例えば1gの葉に15mLのエタノールで抽出した溶液を使います。見る角度によって緑色だったり赤色だったりします。これはなぜでしょう?

参考文献(1)光合成、クロロフィル、蛍光に関して

小学生向き 『新版岩波ジュニア科学講座第4巻・生物の世界をさぐる』、岩波書店、1994.

中学~高校生向き 『新ロウソクの科学―化学変化はどのようにおこるか―』、東京化学同人、1994.

(2)クロロフィルの抽出について

中学~高校生向き 『楽しい化学の実験室』、東京化学同人、1993.

専門的に知りたい場合 『植物色素』、養賢堂、1980.

(3)蛍光について

専門的に知りたい場合 『生物発光と化学発光―基礎と実験―』、廣川書店、1989.