ほたてがい養殖管理効率化促進事業 伊藤良博・吉田 達1・森 恭 … ·...

7
392 ほたてがい養殖管理効率化促進事業 伊藤良博・吉田 1 ・森 恭子・小谷健二・川村 ネンエキボヤ(群体ボヤ)、ユウレイボヤ、オベリア類(通称「クサ」)、キヌマトイガイがホタテガイ 養殖施設に付着する時期や、その生態を明らかにし、付着軽減技術を開発する。 材料と方法 1. 情報収集 平成 25 5 月に久栗坂沖養殖施設(図 1 )の水深 15m の幹綱に垂下したパールネットに付着していた 群体ボヤと通称「クサ」という生物を採取した。群体ボヤの同定及び生態に関する情報提供を弘前大学農 学生命科学部西野准教授に依頼した。また、「クサ」と称する生物の同定及び生態に関する情報提供を東 北大学浅虫海洋生物学教育研究センター竹田助教に依頼した。 2. 室内飼育試験 付着生物の生態を明らかにするため、平成 25 5 月から平成 26 3 月までの各月 1 回、久栗坂沖養殖 施設(図 1 )水深 15m の幹綱に垂下したパールネット及びパームロープに付着していた群体ボヤ、通称 「クサ」という生物及びキヌマトイガイを採取して、当研究所の室内水槽に収容し飼育観察した。飼育方 法は、無調温の室内で、無調温のろ過海水約 3 リットルの入った円柱形の容器に、各々の生物を収容し、 換水せずにエアレーションを行い、約 1 か月飼育した。 3. フィールド調査 (1) 付着生物の浮遊幼生調査 久栗坂沖と川内沖の調査地点(図 1 )において平成 25 7 月から平成 26 3 月まで各月 1 2 回、蟹田沖、 奥内沖、小湊沖及び野辺地沖の調査地点(図 1 )におい て平成 25 10 月から平成 26 3 月までの各月 1 回、 北原式定量プランクトンネット(網地 NXX13 、口径 225mm )を用いて海底 2m 上方から海面までの鉛直曳き により生物を採集し、 10 %ホルマリンで固定した。得 られた生物標本を万能投影機で観察し、オベリア類の クラゲ、ネンエキボヤのラーバ、ユウレイボヤのラー バ及びキヌマトイガイのラーバを選別して計数した。 プランクトンネットの濾水率を 1 とし、海水 1 ㎥あた りの個体数を求め、これを出現数として扱った。 (2) パールネットへの付着状況調査 1 6 地点に位置する養殖施設において、平成 25 10 月から平成 26 3 月までの各月に、 3 分目 のパールネット 1 連を幹綱に垂下し、これらを平成 26 4 6 月に回収し、それに付着する生物をネンエ キボヤ、ユウレイボヤ、オベリア類、キヌマトイガイ、その他に分類して湿重量を測定した。これと同時 に、久栗坂沖と川内沖では、マボヤ採苗用の長さ 3m のパームロープを各月 1 ヶ月間ずつ垂下し、付着生 1. 調査地点図(黒丸) . 1 青森県農林水産部水産局水産振興課 久栗坂、川内沖:当研究所実験漁場 蟹田、奥内、小湊、野辺地沖:漁業者養殖場

Upload: others

Post on 17-Oct-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: ほたてがい養殖管理効率化促進事業 伊藤良博・吉田 達1・森 恭 … · ヤ科オベリア属動物と同定された。なお、陸奥湾には3 種のオベリア属が生息している2)。オベリア属は、基質

392

ほたてがい養殖管理効率化促進事業

伊藤良博・吉田 達1・森 恭子・小谷健二・川村 要

目 的

ネンエキボヤ(群体ボヤ)、ユウレイボヤ、オベリア類(通称「クサ」)、キヌマトイガイがホタテガイ

養殖施設に付着する時期や、その生態を明らかにし、付着軽減技術を開発する。

材料と方法

1. 情報収集

平成 25 年 5 月に久栗坂沖養殖施設(図 1)の水深 15m の幹綱に垂下したパールネットに付着していた

群体ボヤと通称「クサ」という生物を採取した。群体ボヤの同定及び生態に関する情報提供を弘前大学農

学生命科学部西野准教授に依頼した。また、「クサ」と称する生物の同定及び生態に関する情報提供を東

北大学浅虫海洋生物学教育研究センター竹田助教に依頼した。

2. 室内飼育試験

付着生物の生態を明らかにするため、平成 25 年 5 月から平成 26 年 3 月までの各月 1 回、久栗坂沖養殖

施設(図 1)水深 15m の幹綱に垂下したパールネット及びパームロープに付着していた群体ボヤ、通称

「クサ」という生物及びキヌマトイガイを採取して、当研究所の室内水槽に収容し飼育観察した。飼育方

法は、無調温の室内で、無調温のろ過海水約 3 リットルの入った円柱形の容器に、各々の生物を収容し、

換水せずにエアレーションを行い、約 1 か月飼育した。

3. フィールド調査

(1)付着生物の浮遊幼生調査

久栗坂沖と川内沖の調査地点(図 1)において平成

25 年 7 月から平成 26 年 3 月まで各月 1~2 回、蟹田沖、

奥内沖、小湊沖及び野辺地沖の調査地点(図 1)におい

て平成 25 年 10 月から平成 26 年 3 月までの各月 1 回、

北 原式 定量 プラ ンク トン ネッ ト( 網地 NXX13、口 径

225mm)を用いて海底 2m 上方から海面までの鉛直曳き

により生物を採集し、 10%ホルマリンで固定した。得

られた生物標本を万能投影機で観察し、オベリア類の

クラゲ、ネンエキボヤのラーバ、ユウレイボヤのラー

バ及びキヌマトイガイのラーバを選別して計数した。

プランクトンネットの濾水率を 1 とし、海水 1 ㎥あた

りの個体数を求め、これを出現数として扱った。

(2)パールネットへの付着状況調査

図 1 の 6 地点に位置する養殖施設において、平成 25 年 10 月から平成 26 年 3 月までの各月に、3 分目

のパールネット 1 連を幹綱に垂下し、これらを平成 26 年 4~6 月に回収し、それに付着する生物をネンエ

キボヤ、ユウレイボヤ、オベリア類、キヌマトイガイ、その他に分類して湿重量を測定した。これと同時

に、久栗坂沖と川内沖では、マボヤ採苗用の長さ 3m のパームロープを各月 1 ヶ月間ずつ垂下し、付着生

図 1. 調査地点図(黒丸).

1 青森県農林水産部水産局水産振興課

久栗坂、川内沖:当研究所実験漁場

蟹田、奥内、小湊、野辺地沖:漁業者養殖場

Page 2: ほたてがい養殖管理効率化促進事業 伊藤良博・吉田 達1・森 恭 … · ヤ科オベリア属動物と同定された。なお、陸奥湾には3 種のオベリア属が生息している2)。オベリア属は、基質

393

(2)1ブイ4層による解析

それぞれの自己回帰モデルは、AICより平舘ブイでは次数8、青森ブイでは次数5、東湾ブイでは次数3をとり、自己回帰

モデルは、

TAt=0.82TAt-1-0.05TAt-2+0.10TAt-3-0.04TAt-4+0.06TAt-5-0.01TAt-6-0.06TAt-7+0.06TAt-8

AOt=1.03AOt-1-0.19AOt-2+0.06AOt-3-0.04AOt-4+0.05AOt-5

TOt=0.95TOt-1-0.08TOt-2+0.05TOt-3

(半旬tの主成分スコア)となった。

主成分スコアの実測値とモデルによる予測値の比較を図5に示した。また、TAt、AOt、TOtに各固有ベクトルを乗した予

測偏差から予測水温を得た(図7、8)。

図7.第1主成分スコアと自己回帰予測値. 図8.各ブイ15m層の実測値と予測値.

(3)予測水温の頂点の補正

X軸に主成分スコア、Y軸に自己回帰モデル値の傾きを1になるように自己回帰モデル値を修正し、各固有ベクトルから水

温予測値を算出することにより、若干ではあるが最高水温地点への追随性に若干の改善が見られた(図9)。

TA-自己回帰予測値

TA-1主成分スコア0半旬移動平均値8

6

4

2

0

0

500

1000

1500

2000

-10

-8

-6

-4

-2

10TA15 TA15a TA15b TA15c TA15d TA15e TA15f

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

Y201001 Y201101 Y201201 Y201301

水温℃

固有ベクトル平舘 1m 0.529平舘 15m 0.513平舘 30m 0.501平舘 底層 0.453

0

500

1000

1500

2000

AO-自己回帰予測値

AO-1主成分スコア0半旬移動平均値

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

10 AO15 AO15a AO15b AO15c AO15d AO15e AO15f

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

Y201001 Y201101 Y201201 Y201301

水温℃

固有ベクトル平舘 1m 0.522平舘 15m 0.512平舘 30m 0.516平舘 底層 0.447

0

500

1000

1500

2000

TO-自己回帰予測値

TO-1主成分スコア0半旬移動平均値

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

10

TO15 TO15a TO15b TO15c TO15d TO15e TO15f

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

Y201001 Y201101 Y201201 Y201301

水温℃

固有ベクトル平舘 1m 0.487平舘 15m 0.504平舘 30m 0.522平舘 底層 0.486

物の付着開始時期を調査した。久栗坂沖と川内沖では、各養殖施設の幹綱水深は、蟹田沖が 6m、奥内沖

が 15m、久栗坂沖が 15m、小湊沖が 6m、野辺地沖が 12m、川内沖が 15m であった。

また、久栗坂沖の養殖施設において、平成 24 年 11 月 27 日に 3 分目のパールネットを水深 15m の幹綱

に垂下し、これを平成 25 年 6 月から平成 26 年 2 月までの各月に 1 連ずつ回収し、付着生物の湿重量を測

定した。

(3)付着軽減技術開発

川内沖の養殖施設において、平成 25 年 10 月にポリエチレン製のラッセル編み 2 分目、3 分目、4 分目

及びポリエチレン製の蛙又編み 4 分目の計 4 種類のパールネットを水深 15m の幹綱に垂下し、久栗坂沖の

養殖施設ではこれらに加えポリエチレン製ラッセル編み 3 分目のパールネットを 10m、20m、30m の 3 水深

になるよう幹綱に各 1 連を垂下し、これらを平成 26 年 4 月に回収後、ネンエキボヤ、ユウレイボヤ、オ

ベリア類、キヌマトイガイ、その他に分類して湿重量を測定した。

結果と考察

1. 情報収集

パールネットに付着した群体ボヤ(図 2)は、弘前大

学西野准教授によりホヤ綱無管目シデニム(ウスボヤ)

科に属するネンエキボヤ Diplosoma mitsukurii と同定さ

れた。ネンエキボヤの生活史を図 3 に示す。ネンエキボ

ヤは、沿岸部の比較的浅い海域(水深 40m以浅)に生息

し、群体性をもち、雌雄同体で他家受精をする。受精卵

は群体の被嚢中で発生し幼生となって放出され、幼生は

数時間遊泳した後に着底する。着底した幼生は、個虫と

呼ばれ、無性生殖で増殖して群体を構成する。

図 3. ネンエキボヤの生活史(Brunetti et al.1)を基に西野が一部改変).

図 2. パールネットに付着した群体ボヤ

(青丸で囲った部分).

Page 3: ほたてがい養殖管理効率化促進事業 伊藤良博・吉田 達1・森 恭 … · ヤ科オベリア属動物と同定された。なお、陸奥湾には3 種のオベリア属が生息している2)。オベリア属は、基質

394

パールネットに付着した通称「クサ」という生物(図

4)は東北大学浅虫海洋生物学教育研究センター竹田助教

により刺胞動物門ヒドロ虫綱軟クラゲ目ウミサカズキガ

ヤ科オベリア属動物と同定された。なお、陸奥湾には 3

種のオベリア属が生息している 2)。オベリア属は、基質

上にヒドロ根、ヒドロ茎、ヒドロ花と称される樹枝状群

体をつくり、ヒドロ花上端の触手で動物プランクトンを

捕まえて食する 3)。生殖腺をもつクラゲは、ヒドロ茎か

ら突出したクラゲ芽に包まれており、成熟すると放出さ

れる。クラゲは雌雄異体であり、雄は放精し、精子は雌

の生殖腺に達して受精する。受精卵は、プラヌラ幼生に

発育し、基質に付着後、樹枝状群体へと増殖する。

2. 室内飼育試験

(1)ネンエキボヤ

平成 25 年 10 月及び 12 月~平成 26 年 3 月に採取して飼育観察したネンエキボヤ群体からラーバ(浮遊

幼生)の放出を確認した。ラーバの放出は、飼育水温が 6℃以上で観察され、15℃前後ではほとんどのラ

ーバが放出された。本種のラーバ(図 5)は、ユウレイボヤのラーバ(図 5)よりも頭部が大きい特徴が

あった。また、発生したラーバは、数時間で着底し、1 日程度でコロニー(群体)を形成した。

(2)オベリア類

成熟した成体が平成 25 年春期(5~6 月)及び平成 26

年冬期(1~3 月)に得られ、これを飼育し、生活史の一

部であるクラゲの発生を確認した(図 6)。このクラゲ

が有性生殖を行うことによりラーバが発生するが、ラー

バは観察されなかった。春期の成体は、水温 20℃前後で

ヒドロ花及びクラゲ芽が無くなり、全長 10cm 以下のまま

枯死・脱落した。これに対し、冬期の個体は 10~数十 cm

に成長し、水温 15℃前後でヒドロ花及びクラゲ芽が無く

なり枯死・脱落した。この冬期に見られるオベリア類が、

ホタテガイ養殖施設に大量に付着し被害を与えると考え

られた。

(3)キヌマトイガイ

平成 25 年 12 月下旬に採取した成体を飼育し、平成 26 年 1 月上旬に生殖巣中に卵を確認した。

図 6.オベリア類クラゲ(カサの直径 1.0mm).

図 4. パールネットに付着した通称「クサ」.

図 5. ネンエキボヤのラーバ(左図:全長 1.5mm)とユウレイボヤラーバ(右図:全長 1.3mm).

個人受講実施状況

団体受講実施状況(出前講座)

水産知識(簿記・漁業経営)

ロープワーク(三打ちロープさつま加工)

さし網漁業実習

小型船舶操縦士資格取得講習(実技)

基本的な結び方

(車力漁協しじみ生産部会)

ロープワーク(クロスロープさつま加工)

釣り実習

石・玉からめ

(小川原湖漁協青年部)

Page 4: ほたてがい養殖管理効率化促進事業 伊藤良博・吉田 達1・森 恭 … · ヤ科オベリア属動物と同定された。なお、陸奥湾には3 種のオベリア属が生息している2)。オベリア属は、基質

395

ほたてがい養殖管理効率化促進事業

伊藤良博・吉田 達1・森 恭子・小谷健二・川村 要

目 的

ネンエキボヤ(群体ボヤ)、ユウレイボヤ、オベリア類(通称「クサ」)、キヌマトイガイがホタテガイ

養殖施設に付着する時期や、その生態を明らかにし、付着軽減技術を開発する。

材料と方法

1. 情報収集

平成 25 年 5 月に久栗坂沖養殖施設(図 1)の水深 15m の幹綱に垂下したパールネットに付着していた

群体ボヤと通称「クサ」という生物を採取した。群体ボヤの同定及び生態に関する情報提供を弘前大学農

学生命科学部西野准教授に依頼した。また、「クサ」と称する生物の同定及び生態に関する情報提供を東

北大学浅虫海洋生物学教育研究センター竹田助教に依頼した。

2. 室内飼育試験

付着生物の生態を明らかにするため、平成 25 年 5 月から平成 26 年 3 月までの各月 1 回、久栗坂沖養殖

施設(図 1)水深 15m の幹綱に垂下したパールネット及びパームロープに付着していた群体ボヤ、通称

「クサ」という生物及びキヌマトイガイを採取して、当研究所の室内水槽に収容し飼育観察した。飼育方

法は、無調温の室内で、無調温のろ過海水約 3 リットルの入った円柱形の容器に、各々の生物を収容し、

換水せずにエアレーションを行い、約 1 か月飼育した。

3. フィールド調査

(1)付着生物の浮遊幼生調査

久栗坂沖と川内沖の調査地点(図 1)において平成

25 年 7 月から平成 26 年 3 月まで各月 1~2 回、蟹田沖、

奥内沖、小湊沖及び野辺地沖の調査地点(図 1)におい

て平成 25 年 10 月から平成 26 年 3 月までの各月 1 回、

北 原式 定量 プラ ンク トン ネッ ト( 網地 NXX13、口 径

225mm)を用いて海底 2m 上方から海面までの鉛直曳き

により生物を採集し、 10%ホルマリンで固定した。得

られた生物標本を万能投影機で観察し、オベリア類の

クラゲ、ネンエキボヤのラーバ、ユウレイボヤのラー

バ及びキヌマトイガイのラーバを選別して計数した。

プランクトンネットの濾水率を 1 とし、海水 1 ㎥あた

りの個体数を求め、これを出現数として扱った。

(2)パールネットへの付着状況調査

図 1 の 6 地点に位置する養殖施設において、平成 25 年 10 月から平成 26 年 3 月までの各月に、3 分目

のパールネット 1 連を幹綱に垂下し、これらを平成 26 年 4~6 月に回収し、それに付着する生物をネンエ

キボヤ、ユウレイボヤ、オベリア類、キヌマトイガイ、その他に分類して湿重量を測定した。これと同時

に、久栗坂沖と川内沖では、マボヤ採苗用の長さ 3m のパームロープを各月 1 ヶ月間ずつ垂下し、付着生

図 1. 調査地点図(黒丸).

1 青森県農林水産部水産局水産振興課

久栗坂、川内沖:当研究所実験漁場

蟹田、奥内、小湊、野辺地沖:漁業者養殖場

3.フィールド調査

(1)付着生物の浮遊幼生調査

オベリアのクラゲは、蟹田沖を除く 5 地点で採集され、川内沖では 12 月中旬に 35.9 個/㎥、野辺地沖

では 3 月上旬に 27.2 個/㎥、小湊沖では 3 月中旬に 25.0 個/㎥と増加した(図 7)。ユウレイボヤのラー

バは、川内沖を除く 5 地点で 10 月中旬から 1 月中旬にかけて採集され、0.6~3.9 個/㎥の出現数であっ

た(図 8)。キヌマトイガイのラーバは野辺地沖を除く 5 地点で採集され、その出現数は、西湾では蟹田

沖で 3 月 18 日の 68.1 個/㎥、東湾では川内沖で 3 月 19 日の 629.7 個/㎥が最大であった(図 9)。なお、

ネンエキボヤのラーバは採集されなかった。ネンエキボヤのラーバは、浮遊期間が数時間 1)と短いために

プランクトンネットによる採集が難しいと思われた。

これらの結果を「付着生物(ユウレイボヤ等)ラーバ情報」としてとりまとめ、平成 25 年 10 月から平

成 26 年 3 月までに延べ 12 回発行し、漁業者等に情報提供した。

図 7. オベリア類クラゲ出現数の推移.

図 9. キヌマトイガイラーバ出現数の推移.

図 8. ユウレイボヤラーバ出現数の推移.

0

1

2

3

4

5

7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 4/1

ラーバ

出現

数(個

体/㎥

時期

蟹田沖

奥内沖

久栗坂沖

0

1

2

3

4

5

7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 4/1

ラーバ

出現

数(個

体/㎥

時期

小湊沖

野辺地沖

川内沖

0

10

20

30

40

50

7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 4/1

クラゲ出

現数

(個

体/㎥

時期

蟹田沖

奥内沖

久栗坂沖

0

10

20

30

40

50

7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 4/1

クラゲ出

現数

(個

体/㎥

時期

小湊沖

野辺地沖

川内沖

0

100

200

300

400

500

600

700

7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 4/1

ラーバ出現数(個体

/㎥)

時期

蟹田沖

奥内沖

久栗坂沖

0

100

200

300

400

500

600

700

7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 4/1

ラーバ出現数(個体

/㎥)

時期

小湊沖

野辺地沖

川内沖

Page 5: ほたてがい養殖管理効率化促進事業 伊藤良博・吉田 達1・森 恭 … · ヤ科オベリア属動物と同定された。なお、陸奥湾には3 種のオベリア属が生息している2)。オベリア属は、基質

396

(2) パールネットへの付着状況調査

垂下開始時期別のパールネット1連あたりの付着生物湿重量を図 10 に示した。付着生物は、キヌマト

イガイとオベリア類が主体で、ネンエキボヤとユウレイボヤは奥内沖で 10 月に垂下したパールネットに

比較的多く付着した。なお、その他の付着生物は、通称「ドロクサ」というヨコエビ類の巣や浮泥であっ

た。付着量は、東湾と蟹田沖で多く、垂下時期が遅くなるほど減少し、奥内沖、川内沖及び野辺地沖では

2 月以降に大きく減少、蟹田沖、久栗坂沖及び小湊沖では 3 月に大きく減少した。このことから、付着量

が大きく減少する 2 月もしくは 3 月に篭替え、篭洗浄を行うことで、その後の付着量は軽減できると考え

られた。

パームロープを各月 1 ヶ月間ずつ垂下し付着生物を観察した結果、川内沖で 1 月 15 日と 2 月 12 日に垂

下したものに各々0.6kg、0.1kg のオベリア類の付着があり、それ以外にはオベリア類の付着は無かった。

このことから、川内沖におけるオベリア類の付着は、1 月 15 日~2 月 12 日の期間であり、オベリア類の

クラゲの出現ピークから約 1 ヵ月後であったと推測された。

蟹田沖 5/22 回収 川内沖 4/23 回収

奥内沖 5/29 回収 野辺地沖 5/28 回収

久栗坂沖4/17回収 小湊沖6/11回収

図 10. 垂下開始時期別のパールネット1連あたりの付着生物湿重量.

0

2

4

6

8

10

12

14

10/19 11/19 12/18 1/17 2/21 3/18

湿重量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

10/25 11/18 12/18 1/16 2/21 3/20

湿重量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

10/15 11/14 12/8 1/15 2/11 3/17

湿重

量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

10/14 11/14 12/10 1/7 2/8 3/5

湿重

量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

10/10 12/4 12/26 1/17 2/12 3/12

湿重

量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

10/10 1/15 2/12 3/12

湿重

量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

欠測 欠測

Page 6: ほたてがい養殖管理効率化促進事業 伊藤良博・吉田 達1・森 恭 … · ヤ科オベリア属動物と同定された。なお、陸奥湾には3 種のオベリア属が生息している2)。オベリア属は、基質

397

(2) パールネットへの付着状況調査

垂下開始時期別のパールネット1連あたりの付着生物湿重量を図 10 に示した。付着生物は、キヌマト

イガイとオベリア類が主体で、ネンエキボヤとユウレイボヤは奥内沖で 10 月に垂下したパールネットに

比較的多く付着した。なお、その他の付着生物は、通称「ドロクサ」というヨコエビ類の巣や浮泥であっ

た。付着量は、東湾と蟹田沖で多く、垂下時期が遅くなるほど減少し、奥内沖、川内沖及び野辺地沖では

2 月以降に大きく減少、蟹田沖、久栗坂沖及び小湊沖では 3 月に大きく減少した。このことから、付着量

が大きく減少する 2 月もしくは 3 月に篭替え、篭洗浄を行うことで、その後の付着量は軽減できると考え

られた。

パームロープを各月 1 ヶ月間ずつ垂下し付着生物を観察した結果、川内沖で 1 月 15 日と 2 月 12 日に垂

下したものに各々0.6kg、0.1kg のオベリア類の付着があり、それ以外にはオベリア類の付着は無かった。

このことから、川内沖におけるオベリア類の付着は、1 月 15 日~2 月 12 日の期間であり、オベリア類の

クラゲの出現ピークから約 1 ヵ月後であったと推測された。

蟹田沖 5/22 回収 川内沖 4/23 回収

奥内沖 5/29 回収 野辺地沖 5/28 回収

久栗坂沖4/17回収 小湊沖6/11回収

図 10. 垂下開始時期別のパールネット1連あたりの付着生物湿重量.

0

2

4

6

8

10

12

14

10/19 11/19 12/18 1/17 2/21 3/18

湿重量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

10/25 11/18 12/18 1/16 2/21 3/20

湿重量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

10/15 11/14 12/8 1/15 2/11 3/17

湿重

量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

10/14 11/14 12/10 1/7 2/8 3/5

湿重

量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

10/10 12/4 12/26 1/17 2/12 3/12

湿重

量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

10/10 1/15 2/12 3/12

湿重

量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

欠測 欠測

また、久栗坂沖の養殖施設において平成 24 年 11 月 27 日に垂下したパールネットを平成 25 年 6 月から

平成 26 年 2 月までの各月に 1 連ずつ回収し付着生物の湿重量を測定した結果、付着量は 6 月から翌年 1

月にかけて増加傾向を示し、付着の主体であったキヌマトイガイは 6 月 18 日の 9.3kg から 8 月 20 日の

14.3kg に増加した(図 11)。

(3) 付着軽減技術開発

パールネットの網目の大きさと材質別の付着状況を見ると、久栗坂沖の 2 分目ネットが他のネットに比

べてネンエキボヤとユウレイボヤが多く見られたが、その他は大きな差は見られなかった(図 12)。垂下

水深別の付着状況を見ると、水深 10m に比べて 20m ではキヌマトイガイが多く、30m ではネンエキボヤ、

ユウレイボヤが多く見られた(図 13)。なお、久栗坂沖の 4 分目ネットは流失し調査できなかった。

図 11. 6 月以降における回収時期別付着生物湿重量.

図 12. パールネットの目合別・材質別の付着生物湿重量(右:久栗坂沖、左:川内沖).

図 13. パールネットの水深別の付着生物湿重量(久栗坂沖).

0

2

4

6

8

10

12

14

2分目 3分目 4分目 蛙又

4分目

湿重

量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

2分目 3分目 蛙又

4分目

湿重量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

10m 20m 30m

湿重量(

kg)

ユウレイボヤ キヌマトイガイ オベリア類

ネンエキボヤ その他

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

25.6

/18

7/22

8/20

9/27

10/10

12/4

12/26

26.1

/17

2/12

湿重量(kg)

Page 7: ほたてがい養殖管理効率化促進事業 伊藤良博・吉田 達1・森 恭 … · ヤ科オベリア属動物と同定された。なお、陸奥湾には3 種のオベリア属が生息している2)。オベリア属は、基質

398

4. 今後の課題

今後は、同様の調査を継続して付着生物の付着時期を推定するとともに、付着時期を回避して付着を軽

減する養殖技術を開発する。さらに、付着生物によるホタテガイへの影響を明らかにするため、付着量と

ホタテガイの成長との関係を調べる必要がある。

謝 辞

文献情報及び研究情報の提供と飼育試験方法をご指導頂いた弘前大学農学生命科学部西野敦雄准教授及

び東北大学浅虫海洋生物学教育研究センター竹田典代助教、フィールド調査にご協力頂いた高森優氏、中

村拓也氏、工藤勝友氏、柴崎秀生氏にお礼申し上げます。

文 献

1) Brunetti R., Bressan M., Marin M. and Libralato M. (1988) On the ecology and biology of

Diplosoma listerianum (Milne Edwards, 1841) (Ascidiacea, Didemnidae). Vie Milieu 38(2),

123-131.

2) 柿沼好子(1988)海産無脊椎動物の発生実験(石川優・沼宮内隆晴共編), 培風館,東京,50.

3) 椎野季雄(1969)Obelia. 水産無脊椎動物学, 培風館,東京,55-57.