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2015.1 金属資源レポート 23 502最新鉱山環境技術事情(2) —水処理技術<操業編>— 1. はじめに 前号では、鉱山の開発時に必要な環境技術の1つとして、シミュレーションを取り上げ、現在使用されているソフ トウェアや用途を紹介した。今回は、操業中に必要な環境技術として、水処理を取り上げることとしたい。水処理に 係る費用は利益に結びつかない支出であるため、なるべく処理費用を抑えたいところであるが、排水基準を満たすよ うに処理しなければならないため、鉱山を運営する会社は適切な(その鉱山に合致した低コストで効果的な)処理技術 を選択する必要がある。このレポートがその一助となれば幸いである。 操業中の廃水の発生は大きく分けて2つあり、1つは採掘現場からの発生、もう1つは選鉱・製錬後での発生である。 前者の廃水は、鉱石を採掘することでこれまで空気に触れることがなかった鉱石が露出し、空気中の酸素による酸化 が生じる。これが水に触れ、酸化した金属が水に溶解することで廃水が生じる。後者の廃水は、例えば浮選工程のあ る現場では、鉱石中からの金属の溶解に加え、有害な薬品を浮選剤として使用することで、環境に悪影響を与える廃 水が生じる。これらの水を適切に処理することなく近くの河川に放流すると、下流で河川水を利用する人々に影響を 与え、また河川に棲む生物にも悪影響を及ぼすことになる。 水処理自体はかなり古くから行われており、その技術はある程度確立されている。ここでは、その一般的な方法に 加えて、近年になって開発された技術(微生物の利用等)も交えて記述したい。 金属資源技術部生産技術課 髙橋 達 2. 水処理法概論 水中の重金属は主にアルカリ剤の添加によりpH上げることで水酸化物として沈澱または共沈により除 去される。 アルカリ剤には水酸化カルシウム(消石灰、 Ca OH2)、 酸化カルシウム(生石灰、CaO)、炭酸カルシウム CaCO3)、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ、NaOH)、 水酸化マグネシウム(Mg OH2)、酸化マグネシウム MgO)などが使用されるが、これらはそれぞれコス トや中和能力、溶解性などに違いがあり、廃水に適合 したアルカリ剤を選定することになる(表1参照)。カ ルシウム系のアルカリ剤は比較的安価であるため使用 されることが多いが、石膏を生成するため、沈澱物の 増加やスケールの付着により、水処理に悪影響を与え ることもあるため、注意する必要がある。 表1. 各種中和剤の特性比較(JOGMEC「坑廃水処理の原理」より) ◎:極めて良好、○:使用に耐える程度に良好、△:中位、×:悪い 中和剤 溶解性 沈降・脱水性 反応の速さ 中和能力 コストの安さ Ca(OH) 2 CaO CaCO3 NaOH × × Mg(OH) 2 △〜○ △〜○ △〜○ △〜○ MgO △〜○ △〜○ △〜○ △〜○ 2

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  • 2015.1 金属資源レポート 23(502)

    最新鉱山環境技術事情(2)—水処理技術<操業編>—

    1. はじめに 前号では、鉱山の開発時に必要な環境技術の1つとして、シミュレーションを取り上げ、現在使用されているソフトウェアや用途を紹介した。今回は、操業中に必要な環境技術として、水処理を取り上げることとしたい。水処理に係る費用は利益に結びつかない支出であるため、なるべく処理費用を抑えたいところであるが、排水基準を満たすように処理しなければならないため、鉱山を運営する会社は適切な(その鉱山に合致した低コストで効果的な)処理技術を選択する必要がある。このレポートがその一助となれば幸いである。 操業中の廃水の発生は大きく分けて2つあり、1つは採掘現場からの発生、もう1つは選鉱・製錬後での発生である。前者の廃水は、鉱石を採掘することでこれまで空気に触れることがなかった鉱石が露出し、空気中の酸素による酸化が生じる。これが水に触れ、酸化した金属が水に溶解することで廃水が生じる。後者の廃水は、例えば浮選工程のある現場では、鉱石中からの金属の溶解に加え、有害な薬品を浮選剤として使用することで、環境に悪影響を与える廃水が生じる。これらの水を適切に処理することなく近くの河川に放流すると、下流で河川水を利用する人々に影響を与え、また河川に棲む生物にも悪影響を及ぼすことになる。 水処理自体はかなり古くから行われており、その技術はある程度確立されている。ここでは、その一般的な方法に加えて、近年になって開発された技術(微生物の利用等)も交えて記述したい。

    金属資源技術部生産技術課 髙橋 達

    2. 水処理法概論 水中の重金属は主にアルカリ剤の添加によりpHを上げることで水酸化物として沈澱または共沈により除去される。 アルカリ剤には水酸化カルシウム(消石灰、Ca(OH)2)、酸化カルシウム(生石灰、CaO)、炭酸カルシウム(CaCO3)、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ、NaOH)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、酸化マグネシウム

    (MgO)などが使用されるが、これらはそれぞれコストや中和能力、溶解性などに違いがあり、廃水に適合したアルカリ剤を選定することになる(表1参照)。カルシウム系のアルカリ剤は比較的安価であるため使用されることが多いが、石膏を生成するため、沈澱物の増加やスケールの付着により、水処理に悪影響を与えることもあるため、注意する必要がある。

    表1. 各種中和剤の特性比較(JOGMEC「坑廃水処理の原理」より)

    ◎:極めて良好、○:使用に耐える程度に良好、△:中位、×:悪い

    中和剤 溶解性 沈降・脱水性 反応の速さ 中和能力 コストの安さCa(OH)2 ○ △ ○ ○ △

    CaO ○ △ ○ ○ ○CaCO3 △ ◎ △ △ ◎NaOH ◎ × ◎ ◎ ×

    Mg(OH)2 △〜○ △〜○ △〜○ ○ △〜○MgO △〜○ △〜○ △〜○ ○ △〜○

    最新鉱山環境技術事情(2) ─

    水処理技術≪操業編≫

    連載

  • 2015.1 金属資源レポート24(503)

     中和澱物の処理は水処理の中でも比較的コストが高いプロセスであるため、中和澱物を減容化する技術も重要である。その代表例の1つに、澱物繰り返し法がある。これはシックナで分離された沈澱物の一部をスラリーの状態のまま再び中和撹拌槽に添加する方法で、大きく2つのメリットがある。 1つは、繰り返された中和澱物が新たに生成される水酸化物の核となり、密度が高く粒径の大きい中和澱物を生成することである。そのため、沈降性が高くなり固液分離が促進され、さらに脱水性の向上に伴い含水率が低下し体積が小さくなる。 もう1つは、中和澱物には未反応のアルカリ剤が一部含まれることから、これを中和槽に繰り返すことで中和剤の節約になることである。 以上のことから、大量の中和澱物が発生する廃水処理において澱物繰り返し法は非常に有効なコスト低減策である。

    3. 含有元素別処理法 以下、鉱山廃水に主に含まれる元素・化合物について、それぞれ代表的な除去法を記す。

    3-1.鉄 鉄は2価のイオンと3価のイオンで水中の安定性が異なることを利用して除去する。図2によると、2価の鉄はpHが中性まで安定に存在するが、3価の鉄はpHが4を超えるとイオンで安定に存在できなくなり、水酸化

    物として沈澱する。 そのため、鉄が2価で存在している場合は、曝気や鉄酸化バクテリアなどにより水中の鉄イオンを3価に酸化し、そのあとにアルカリ剤の添加によりpHを中性にし、鉄を水酸化物として沈澱させる。(曝気による反応)4Fe2+ + 4H+ + O2 → 4Fe3+ + 2H2O(水酸化物沈澱) Fe3+ + 3OH- → Fe(OH)3↓

    図1. 代表的な廃水処理フロー

    図2. 鉄のEh-pHダイヤグラム([SO42-]=10-3M, [Fe2+]=10-4M,

    25℃。After Brown, 1985)

    1475

    1180

    885

    590

    295

    -295

    H2

    FeS2

    O2

    Fe(OH)3Fe2+

    Fe3+

    -590

    -885

    0

    0 5 10pH

    14

    Eh(mvolts)

    最新鉱山環境技術事情(2) ─

    水処理技術≪操業編≫

    連載

  • 2015.1 金属資源レポート 25(504)

     ドイツの電力会社RWE Power AGが操業するGarzweiler石炭鉱山では、露天掘りのピット内に鉄が数mg/L含有するpH5程度の廃水が発生している。ここでは、コン

    プレッサーによるエアレーションによって水中の2価鉄を酸化させ、生じた水酸化鉄を砂ろ過で除去という方法で廃水処理を行っており、薬剤の添加はない。

    3-2.銅 銅は廃水中に2価で存在することが多く、pHを7程度にすることで水酸化物沈澱が生じるため、消石灰などによってpHを上げて処理する。

    Cu2+ + 2OH- → Cu(OH)2↓

    3-3.亜鉛、鉛、カドミウム、マンガン これらの元素はpHを8以上にしなければ水酸化物沈澱を生じない。そのため、アルカリ剤を多く添加して重金属を沈澱させたのち、硫酸等の酸を添加することで処理水を中性に戻す必要がある(逆中和)。カドミウムやマンガンの処理では、高い反応性が必要なためアルカリ剤として苛性ソーダを用いて処理するところもある。 最近の国内の事情としては、亜鉛の排水基準が2006年に5mg/Lから2mg/Lに厳しくなったことに続き、カドミウムの排水基準も2014年12月に0.1mg/Lから0.03mg/Lに変更になった(金属鉱業については2年間の暫定排水基準0.08mg/L、非鉄金属第1、2次製錬・精製業で亜鉛に係るものについては3年間の暫定排水基準0.09mg/Lが設定された)。そのため、これら金属を含有する廃水処理の現場では一層厳しい管理が求められている。

    3-4.ヒ素 ヒ素は高pH領域でも溶存体として安定に存在することができるため、アルカリ剤でヒ素単独の沈澱物を生成することは困難である。そのため、ヒ素含有廃水は鉄共沈により処理することになる。この鉄共沈とは鉄が水酸化物沈澱する際にヒ素などのイオンも取り込んで沈澱することであり、ヒ素以外にも上記のカドミウムなど高pHで水酸化物沈澱するものに対しても有効な処理方法である。処理原水中の鉄濃度が高い場合は鉄を処理する際に除去されるが、鉄濃度が低い場合は硫酸鉄や塩化鉄を添加して鉄沈澱を生じさせて処理することになる。 閉山した鉱山であるが、旧松尾鉱山(岩手県)の坑廃水処理場では毎分17~18㎥の酸性坑廃水が処理されている。この処理原水には全鉄が約200mg/L、ヒ素が約1mg/L含有しており、pHは約2.2である。この処理場では鉄を酸化させるため、鉄酸化バクテリアと原水を反応させる酸化槽を設けている。水中の2価の鉄はバクテリアの作用により3価に酸化され、その後中和槽にて炭酸カルシウムによりpHを上昇させて鉄とヒ素を沈澱物として除去している(図4参照)。

    図3. Garzweiler石炭鉱山の廃水処理場(緑色タンクはろ過装置)

    最新鉱山環境技術事情(2) ─

    水処理技術≪操業編≫

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  • 2015.1 金属資源レポート26(505)

    3-5.ホウ素、フッ素 ホウ素やフッ素はアルミニウムとの共沈により処理可能である。硫酸アルミニウムと消石灰を水に添加すると、鉱物の一種であるエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)が生成され、その結晶構造中に取り込まれることで除去される。ただし、この方法では高度な処理をする際に大量のアルミニウムの添加が必要であり、さらに澱物の脱水性も悪いため澱物発生量が多くなり処理コストが高くなるという欠点がある。 これに代わる処理法として、様々なメーカーが開発した吸着剤があり、高度な水処理が可能である。これら吸着剤は比較的高価であるため、安価な吸着剤の開発が求められている。 また、新たなホウ素・フッ素除去としてメタエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・7-8H2O)を利用した方法を東北大学・飯塚らが報告しており、従来のエトリンガイト生成による方法に比して高い除去効果があるとのことである。

    3-6.シアン シアンは鉱石中には存在せず、浮選の抑制剤として、また金のリーチングで使用される。シアンの用途の詳細については「最新選鉱技術事情 鉱種別代表的プロセス編(3)‐金‐」(http://mric.jogmec.go.jp/public/kogyojoho/2013-09/MRv43n3-04.pdf)を参照されたい。毒性が強いため、その廃水に対しては確実な無害化が必要であるが、その技術はすでに確立されているため、適切な処理を選択することで安全に使用することができる。 水中に存在するシアン化物は大きく分けて3つに分類されており、(1)全シアン(total cyanide)、(2)弱酸解離シアン(weak acid dissociable; WAD)、(3)遊離シアン(free cyanide)がある(図5参照)。これは、鉄シアン錯体などは難分解性錯体であるが、これ自体は毒性が低いためであり、基準を分けた方が合理的であるという考えから作られたものである。世界銀行グループが2007年に定めた「鉱業のための環境、健康及び安全ガイドライン(EHS Guideline)」(表2参照)やアメリカ合衆国環境保護庁(EPA)が定めた飲料水の基準などでは(1)~(3)がそれぞれ考慮されているが、日本では全シアンのみが環境基準・排水基準で定められている(なお、日本ではフェロシアン化物(M[Fe(CN)6]4-))は食品添加物としての使用が認可されている。http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/07/s0726-6.html)。

    図4. 旧松尾鉱山坑廃水処理場の処理フロー(「旧松尾鉱山坑廃水処理事業の概要」抜粋)

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    水処理技術≪操業編≫

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  • 2015.1 金属資源レポート 27(506)

    3-6-1. INCO法 現在、鉱山の現場で多く用いられているシアン処理法がこのINCO法である。INCO法は、シアンを含有する廃水に亜硫酸ガス(SO2)及び空気を吹き込み、さらに触媒として硫酸銅を添加後、消石灰を添加し撹拌することで、溶液中のCNはOCN-に変化する(図6参照)。このOCN-は不安定であり、加水分解して炭酸水素アンモニウムに変化する。SO2の供給は液体SO2またはピロ亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)でも可能である。

     この方法は遊離シアンとWADの処理に適しており、鉄シアノ錯体は銅と結合し難溶性の銅鉄シアノ錯体となる。 INCO法は、処理対象はシアン濃度が低~中程度含有しているスラリーで、処理水のシアン濃度を1~5mg/L未満としたいときに適している。

    図5. シアン化物の分類

    表2. EHS Guidelineと日本の排水基準の比較

    (http://mric.jogmec.go.jp/kouenkai_index/2008/briefing_080328_4.pdf、一部改)

    汚染物質 単位 基準値 日本 汚染物質 単位 基準値 日本SS(Total) mg/L 50 150 フリーシアン mg/L 0.1

    pH S.U. 6-9 5.8-8.6 弱酸解離性シアン(WAD) mg/L 0.5

    COD mg/L 150 120 鉄(Total) mg/L 2.0 10BOD mg/L 50 120 鉛 mg/L 0.2 0.1

    油及び油脂 mg/L 10 30 水銀 mg/L 0.002 0.005砒素 mg/L 0.1 0.1 ニッケル mg/L 0.5

    カドミウム mg/L 0.05 0.03 フェノール mg/L 0.5 5クロム(六価) mg/L 0.1 0.5 亜鉛 mg/L 0.5 2

    銅 mg/L 0.3 3 温度 ℃ <3度差シアン mg/L 1 1

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    水処理技術≪操業編≫

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  • 2015.1 金属資源レポート28(507)

    3-6-2.過酸化水素 シアン含有溶液に過酸化水素を添加することで分解する方法である。

     この方法は遊離シアンとWADの処理に適しており、鉄シアノ錯体は銅と結合し難溶性の銅鉄シアノ錯体となる。 処理対象はシアン濃度が低い溶液で、処理水のシアン濃度を1mg/L未満としたいときに適している。なお、スラリーに対し過酸化水素を適用すると、多く消費されるため適さない。

    3-6-3.カロ酸 過酸化水素と硫酸との反応により生成するカロ酸もシアンを分解する。

    H2SO5 + CN- → OCN- + SO42- + 2H+

     カロ酸は不安定であるため、現場にて生成して処理に用いる。スラリー中のシアンの処理に適し、触媒の銅も不要であるが、INCO法が使えない時に適用される技術であり、固体を含まない場合は過酸化水素による分解の方が好まれる。

    3-6-4.アルカリ塩素法 かつて多く用いられていたシアン分解法であるが、薬剤費が高いため他の方法に代替され、現在では一部で適用されるに留まっている。 この方法では、まずpHを10程度にした後、塩素または次亜塩素酸ソーダを添加してCNClを生成し、その後加水分解によりOCN-を生成する。

       Cl2 + CN- → CNCl + Cl-   CNCl + H2O → OCN- + Cl- + 2H+

     その後塩酸を添加してpHを中性付近にすることで、OCN-の分解を促進する。   CNO- + H2O + 2H+ → CO2 + NH4+ 3-6-5.微生物 微生物によるシアン分解はアメリカのHomestake金鉱山で1980年代に導入されて以来、各地に広まっている。好気的環境の下、下記の反応により分解が生じる。

       CN- + 2H2O + 0.5O2 + Bac → HCO3- + NH3   SCN- + 2H2O + OH- + 2.5O2 + Bac           →HSO4- +HCO3- + NH3   NH4+ + 1.5O2 → 2H+ + 2H2O + NO2-   NO2- + 0.5O2 → NO3-

     北米最大級の立坑(深さ2,250m)を有するカナダのLaRonde金鉱山でもこの微生物によるシアン分解

    図6. INCO法の概要図(「Cyanide and removal options from effluents in gold mining and metallurgical processes」Kuyucakら、2013)

    最新鉱山環境技術事情(2) ─

    水処理技術≪操業編≫

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  • 2015.1 金属資源レポート 29(508)

    が行われている(図7、8参照)。処理原水にはSCN-が700mg/L含有しているが、これをカナダの基準値である1.0mg/L未満まで処理している。また、微生

    物処理により生じたアンモニアを硫酸アンモニウムとして回収する試みも行われている。

    3-7.硬水 硬水とは硬度の高い水のことであり、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを多量に含有している。廃水処理の際にアルカリ剤として消石灰などを使用すると、処理水中にカルシウムイオンが多量に残留する。

    排水基準や環境基準にカルシウムやマグネシウムは規定されていないが、世界保健機関(WHO)では硬度は苦情が挙がりうる項目としており、地域によっては硬度を低減する必要がある。 硬度の計算方法はいくつか存在するが、WHOでは

    図7. LaRonde金鉱山のシアン分解処理施設

    図8. LaRonde金鉱山のシアン分解処理フロー(Agnico-Eagle Mines Ltd., “LaRonde Division”)

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    水処理技術≪操業編≫

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  • 2015.1 金属資源レポート30(509)

    アメリカ硬度が使用されており、これは水中のカルシウム塩とマグネシウム塩の濃度を炭酸カルシウムに換算し、mg/Lで表したものである。表3にthe American Society of Agricultural Engineers及びWater Quality Associationが作った硬度の基準を示す。

     硬度の低減方法としては、二酸化炭素(CO2)を吹き込む、または炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加することにより、水中のカルシウムを炭酸カルシウムとして沈殿除去する。

    Ca2+ + CO2 + H2O → CaCO3↓ + 2H+

    4.おわりに 様々な水処理法を紹介したが、究極の水処理方法としては廃水そのものを低減することであり、水の再利用を積極的に行うプロセスを構築することにより廃水処理にかかるコストを低減できる。例えば、「最新選鉱技術事情 番外編(3)̶ 環境̶」で述べているWatershedタングステン鉱山の開発プロジェクトでは、従来、用水の繰り返しが困難とされていた逆浮選系に

    おいて、それぞれのプロセスで脱水を行うことにより高価な廃水処理(フッ素除去)プロセスを省くことができた。安価な廃水処理技術の開発と同時に廃水を発生させない技術開発は操業コスト低減のためにも重要なことである。 また、廃水処理において重要なことはコスト低減や排水基準の遵守だけではない。処理水を放流する河川の下流域の人々に不安を抱かせないことも大切である。鉱山開発=環境破壊というように考える人は少なからずいるため、例えば河川を常時モニタリングし、その情報も常時公開するなどにより、関係者に対して丁寧に河川の環境が保全されていることを説明すべきと考える。そうすることで、周辺地域の環境だけではなく、鉱山開発前と変わらない平穏な環境を求める地域住民の「心の環境」も保全することにつながるのではないだろうか。 日本企業はかつての鉱害問題の経験から環境に対する意識が非常に高いと思うが、残念ながら今でも環境に対して意識が低いと思われる鉱山会社が海外にあり、環境汚染が発生している地域がある(Jungie Mining Industry社によるピルコマヨ川の汚染 http://www.elpotosi.net/2014/08/04/1.php、Grupo Mexico社 によるソノラ川の汚染 http://www.bbc.com/news/world-latin-america-29306026)。このような現場が少しでも減っていくことを切に願う。 次回(3月号)は閉山後の鉱害対策として、尾鉱の水封やパッシブトリートメント(自然力活用型坑廃水処理)について紹介する。

    (2015.1.7)

    表3. 硬度の基準

    基準 硬度[mg/L]Soft 180

    最新鉱山環境技術事情(2) ─

    水処理技術≪操業編≫

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